written by cotton
漆黒の満月 四,
昨日までの雨天とはうってかわって、空は鮮やかな蒼を映す。小川は清らかに、鳥たちは軽やかに、ハーモニーを重ねる。水溜まりは、木々の碧に染まる。
ー助け合わずに生きてゆくと、そう決めたはずなのにー
少し、早く目覚めたアブソルは、寝息を立てて眠るイーブイを見て、呟く。
悪は、世間には決して、認められる事はない。このままでは、イーブイにも同じ思いをさせてしまう。
ー見捨ててはおけないだろ…ー
結局、「仕方なく」という口実を作り出した。しかし、それでも彼の気持ちとは噛み合わない。その口実と、「育てる」と決意した心が矛盾する。
素直になれない自分の気持ちに、また一つ、苛立ちを覚える。
「木の実でも、拾いに行かないか?」
丁度、木の実を切らしていたことを思い出した。
「うん!」
目を覚ましたばかりだが、イーブイは嬉しそうに答える。それを見、「フフッ」と、笑みをもらす。
小川の近くの道を抜けたところに、その場所はある。
「ここだ」
それは、一つのオアシスだった。
「わぁ…」
色とりどりの木の実は、日の光を受けて七色に輝く。
森に住む数多くのポケモンがここに木の実や種を落としていくため、次々と新しい命は生まれてゆく。更に、日当たりも良く、土も水を多く含むことから、植物は豊かに育つ。
イーブイは見たこともない光景に、心を踊らせる。
「採りすぎるなよ。持って帰れなくなるから」
そんな注意も聞こうとはせず、遊園地にでも遊びに来たかのように、はしゃいでいる。
そんなイーブイを見て、また笑みをこぼす。だが、それと同時に、先程の考えが蘇る。
見捨てられないだけなのかもしれない。捨てられる思いは、もう二度とさせたくないだけなのかもしれない。そう考えてみても、自分の心はその考えに疑問を抱く。
いつまで経っても、その疑問は消えない。そのうちに、深刻な顔をしているのに気づき、考えるのをやめる。また余計な心配をさせてしまうのを恐れて。
「ねえ」
イーブイは駆け寄ってきて、呼び掛ける。
「どうした?」
また、心配させてしまったか…?
「あれ、採りたいんだ。取ろうとしても、届かないから」
良かった。悟られてはいないみたいだ。
「モモンの実か」
確かに、高いところに実るそれは、小さいイーブイには届きそうもない。
「お前の治療にも使った木の実だ。…気に入ったみたいだな」
背を低くし、台になってやる。イーブイは、うまくその実をもぎ取ることができた。
「ありがとう」
そう言って、もぎ取った実を袋に入れに行く。
また、蘇ろうとする疑問。首を振って、その疑問をかき消す。
その答えは、そう簡単には見つからない。だから、こいつの前では、もう考えないようにした。
蒼く染まっていた空は、いつの間にか朱に変わろうとしていた。二つの影は木々の中を、帰っていった。
イーブイと出会った夜の満月は日を重ねるごとに、少しずつ痩せてゆく。
月の光は、木の中の二匹を優しく照らしている。二匹の寝息は、重なり合うことと、離れることを繰り返す。丘には、いつまでもそれだけが聞こえていた。
漆黒の満月 五話へ。
気になった点などあれば。
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