ポケモン小説wiki
漆黒の満月 八話

/漆黒の満月 八話

written by cotton



漆黒の満月 八,



…pー、pー、pー…
治療室には、森とは違う厳かな空気が流れていた。イーブイはベッドの上で、ずっと眠っている。治療の後で、疲れたようだ。
彼は、まるで死んだように動かない。ただ、規則的に鳴る電子音だけが、彼が生きていることを証明する。ポケモンセンターには、その音だけが響いている。
アブソルは、ベッドの上の彼を見つめていた。一昨日から一睡もしていないが、彼はそこを離れようとしなかった。何も言わず、ずっとー



イーブイが最後に放った技「切り札」。使用者が衰弱しているほど、威力の上がる大技。しかし、まだ未完成のその技の衝撃に、小さいイーブイは耐えられる筈もなかった。
「イーブイッ!イーブイッ…!」
「そいつを背負え。行くぞ」
「…え…?」
「街に戻る。テレポートは使えそうにないな」
イーブイの一撃は、通訳をしていたフーディンをも吹き飛ばしていた。
「…走るぞ」
ロンはシャワーズを抱え、街の方向へ走り出した。
「…イーブイ…」
イーブイを背負い、アブソルもその後を追った。



イーブイを背負い、木々の中を走る。よく見ると、彼の体は傷だらけだ。
「…イーブイ…」
掠れた声で、彼の名を呼ぶ。
「…頼む…目を…覚ましてくれ…」
返事は無い。
「…お前が進化したいって言うなら、どんな石だって探してくる…。雪山だって、遠い森にだって、連れていく…。…お前が望むなら、エーフィにだって、ブラッキーにだってなればいい…。だからー」
涙が、頬を伝う。
「ーお前の笑顔を…もう一度…見せてくれよ…!」
イーブイの笑顔を見ると、自然と俺も笑顔になれた。時には心を締め付けられた。
そして、気付いた。イーブイの笑顔に、ずっと支えられてきたことを。
「…お前がいなくなったら…誰が…俺を励ましてくれる…?誰が…俺を支えてくれる…?」
涙は止まらない。止めようとしても、ただ溢れ出てくる。
誰とも支え合わずに生きてゆくと決めた彼はもういない。ただ孤独に生きると決めた彼はもういない。
「…。」
「…?」
「…ちゃ…ん。」
「…イー…ブイ…?」



いつの間にか、月は高く昇っていたー




「…よう。…どうだ?イーブイは」
「ロン…」
シャワーズとフーディンの治療を終えたロンが、こちらの治療室に入ってきた。
「…まだ目を覚まさねえ。…苦しそうにしてる」
「…そうか」
相変わらずロンは、鋭い目でこちらを見る。だが、その目にいつもの冷たさはない。
「ロン」
「…なんだ?」
その鋭い目を見て話す。
「イーブイを…連れていってやってくれないか…?」
「…俺はいいが、イーブイが許してくれるか…」
イーブイを見る。
「こいつは…ずっとお前のことを想い続けてきた。許してくれるさ」
「…分かった。…俺からも頼みたいことがあるんだが…いいか?」
治療室を、更に静かな空気が包んだー



漆黒の満月 九話へ。



気になった点などあれば。

コメントはありません。 Comments/漆黒の満月 八話 ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.