ポケモン小説wiki
最高だった奏でる楽しさ

/最高だった奏でる楽しさ

赤いツバメ ?の二作目です。




ここはポケモンと人間が協力して暮らす世界。だが人間と離れて暮らすポケモンも少なくは無い。
そういったポケモンを人間は「野生のポケモン」と言う・・・。


1 毎日の部活が楽しかった 


―シュティンメシティ― 「声の街」
もう12月に入ったせいか既に木のは葉少しずつ落ち、日が暮れたレグルス中学校にはもう秋が終わったイメージがしているが
まだ各部活動が活動していて、今日も3階の音楽室からは吹奏楽部の奏でる曲が何時ものように校門にもよく響いている。
学校内なら余程騒がしくなければその音色はどこにでも聞こえてくる。体育館ならバレー部の掛け声やバスケ部のドリブルの合間に・・・
音楽室とは同じ3階だが距離はかなり遠い3年生の教室にも、生徒が静かになった時に演奏が小さい音ながらも聞こえてくるだろう。
校外なら野球部が肌寒い中で学校の周囲ランニング中に少々荒い自分達の呼吸と共に冷たくなった耳に届いてくる。

しかし今日は一つだけ何時もとは違い、吹奏楽部の演奏に自信の無さが現れていて今日の合奏は一人一人が間違えまくっている。絶対に・・・

ジャン♪!!・・・≫
まだ最後の音が耳に響いている感じがする。やっぱり思いっきりズレてる・・・。
その響きが無くなると部室の黒板の前にいる牡の吹奏楽部の顧問らしいコロトックが腕を下げると部員全員が楽器の構えを解き
次には部員のほとんどが脱力して友達同士や先輩と後輩のおしゃべりなど冗談交じりの会話が一斉に始まってしまう。それは何時もと変わらぬ事だ。
「うは~わかんなぁ~いココ」 「え~こんな高い音が続くの~?」 「ブライアンって誰だよw」
など合奏練習の終わった後は賑やかなものである。こういう雰囲気はそんなに喋らない自分でも好きだった。
今回の合奏はグダグダで当然だった。毎年出場する夏のコンクールの課題曲を今日さっき配られていきなり基礎練習の合奏の終わりに合わせたのだから・・・

「ね・・ねぇローゼ、まさかとは思うけどノーミスだったんじゃない?」
不意に背後から話しかけられた。
「え?・・・ああ、いや一回くらい間違えたところあったけど。」
俺は話しかけてきた同じパートの同級生のロートに何気なく答えた。ロートは牝子(じょし)のマグマラシ、とにかく明るい性格でコイツの特徴といえば毛並みだろう。
目の上から腰まで、背中側の色が紺色の毛は頭髪だけ毛量が多く一箇所に縛って「ポニーテール」ってやつにしている。
「ええっ!ウソ!たった一回!?」
目を丸くしてそう言ったかと思うと否やロートは楽器を置きトランペットのパートのところへ行ってしまった。
気にせず俺は楽器用のクリーニングクロスで自分のフルートを磨きながら今日使った「TIPPS for BANDS」などという各楽器に分かれた基礎練習のバンドブックをファイルに片付けていく。

俺か?俺はレグルス中学校2年3組でこの通り吹奏楽部のフルート・パートリーダー(無理矢理ロートに押し付けられた)のローゼ。あっ、ちなみに種族はエーフィ。
特徴というか個人的に変わったところがあって、それは両眼の色が普通では無いこと。
しかも左右で色が違い、病気だか何だか分からないが生まれつきで右眼がオレンジ色で左眼が空色という訳ありなのか別に変わった意味などないのか分からないが
そのことについては自分でもずっと今でも知らずにいた、というかあまり気にしなかったのだ。

話を変えて・・・
学校にポケモンの生徒がいるということは人間のパートナーが同じ学校の生徒や卒業生にいるということが殆どで、勿論俺もパートナーがいないハズがない。
後方のトロンボーンパートの場所でテナーバス・トロンボーンのスライドロックを掛けて立ち上がった俺と同じ2年生の名前は「トモカズ」という男子が俺のパートナーだ。
周りからは「カズ」と呼ばれていて人柄は・・・皆からはよく俺と同じ性格をしていると言われているから少々無口気味だけど活発らしい。(らしいって自分のことでもあるからおかしいか?)

カズ、いや家族との出会いは不思議なもので、
え~と・・・カズが母と父の間に生まれて数週間あたりが過ぎたある日の朝に両親が、ごく何時もどうりにベビーベッドを覗いたら、ごく何時もどうりに我が子の友和が眠っていていたのだが
その日に・・・・突如カズの姿の隣に見ず知らずの明らかに生まれたばかりのとても小さなイーブイが寄り添うように弱々しく寝ていたらしくて、まぁ・・そのイーブイが今の俺ということで・・・。
過去に何度かそのときの事について親に聞いてみたら、
突然の事に眠ったまま瀕死の状態になっている俺を見て「何処から来たのか」とか疑問など沸く余裕は無かったらしく急いで病院に連れて、・・・その後に俺のことをどうするかそのときになってやっと考えたらしい。
結果的に本当に何処から来たのかもわからない上に、まだ生まれたばかりのポケモンでどうしようもなかったので飼い主が現れるまで家族として一緒に暮らすこととなっていた。
結局本当の親は見つからず俺は14年前に家族として迎えられたのだった。
(俺ホント説明ヘタみたいだな・・・)


「(後は個人パート練習を20分くらいしてミーティングで終了か・・・)」
今年は3年生が引退して2年生と1年生、合計45人程度の部活動でフルートパートは5人いて正しく言えば3匹と2人となる。
吹奏楽部は個人練習やパート練習などの日常練習は放課後や休日の活動に2年生の教室を借りて練習に励んでいた。
フルートは2年3組の教室を借りていた。どこの教室も同じで、違うところで言えば廊下に3組の教室だけ何故か窓が無い事くらいである。
俺は自分の教室が自分のパートなので平日の放課後は部活に行ったらまた戻ってくることになっていた。

さて、おそらくトロンボーンパートは教室に戻るのだろう。他にもクラ(クラリネット)とかサックスなどがもう戻り始めていたから俺たちも・・・

「じゃあフルートも教室に戻って個人練習初めて下さーい。」《ハイ。》
と、まあパートリーダーの仕事といえば名前のとおりこういう日常の指示とかパート練習の進行を決めるなどのことが基本で

『あーハイこの後各パートリーダーだけ準備室に集まって下さいね~。』
いろんな楽器の音が鳴り響くこの音楽室だから、ここにいる全員に声が聞こえるようにするのは意外と簡単な事ではない時もあるから顧問のコロトックのグリレ先生が両手を振って大きめの声で呼び掛けた。
・・・そう、こんな感じに先生と各リーダーが集まって今後の方針を決めることも役割である。
持ち物の整理が終わって、まだロートがトランペットのパートでブラッキーのキィと話していて戻ってくる気配が無い・・・。

キィの事についてか?
・・・俺とキィは小学校の頃は親友として家も近く、毎日遊びに行ったり来たりすることがあったものだった。
俺たちにとっては親友の関係だったが、周りから見ればもうアツアツのカップルに見えたところもあったかもしれない。
でもその頃の俺たちはそう思われているのが分かっていても気にしなかったほどだったからずっと一緒だった。
しかし、仲の良さが低学年の頃から学年で有名だったがのだが中学生になってクラスの数も増え1年・2年ともクラスが同じになることはなかった。
中学校入学前の1年生クラス発表のときはキィと別の組と聞いて小学生の頃は6年間ずっと同じクラスということもあって結構落ち込んだことなんかを覚えている。
今の2年生のクラスが発表されたときはあまりクラス変えに関心が無かったが、今思い返すと心のどこかでキィと一緒になりたいと望んでいたのだろう。
キィは・・・う、ん・・・・言いにくいが俺の親友から初恋の相手になったヤツなんだ。今の学年になってからそう思うようになった・・・。
同じ部活ということが俺とキィの友達という関係を支えていたのか、会話が無くなることはなかったが小学生時代のときと比べると極端に減っている上に
話の内容の殆どが「部活の話」と凄く範囲が狭くなっているのが自分でも分かる。


俺はロートを連れ戻しにそこへ行く。
「(あれ・・トランペットのとこ残ってるのキィだけか?)」
三年生が引退して合奏時の音楽室が広く感じるようになったがそれでも歩き回るとなれば、やはり床に置いてある楽器もあって注意しないと蹴ってしまう恐れもあるから下手に歩けないのだ。
「おいロート、早く1年連れて教室行けって。ほら俺少し集まりあるからさ」
「はぁいはい分かりました。優秀なローゼ君に遅れをとらないように頑張らなきゃね~。」
「なんだよそれ・・・。」
別に馬鹿にされてはいないと思うがそんな言い方には少し変な感じがした。
「ローゼが上手すぎてロートも苦労するってことでしょ?」
と言ったのはキィで俺に向かって微妙に笑ったように見えた。その表情を見るとドキッとして自分の顔が赤くなるような気がしたので・・・思わず下を向いてしまう。
「まっ、そーゆーことで、また後でねキィちゃん♪。」
「あ・・うん、また後で」
別にロートが下手という訳ではなくローゼがこの吹奏楽部でズバ抜けて才能があって実力が並みじゃない。だからロートが同じパートの同級生に毎回おいていかれそうになってしまい
そこを後輩にも下手にローゼとの差を感じさせないように頑張るのも大変なのだ。まあ・・そのお蔭で彼女も随分と実力は上位の方なのであろう。
そのロートがあっという間に自分の荷物をまとめて1年生と音楽室からもう出ようとしていた。
ちなみにフルートの1年は「ハルミ」、「カナ」、そしてブイゼルの「ルル」で、まあハルミを抜けて二人はおとなしいな。

それはさて置きこうなってしまうとキィと二人になる。二人で居ると昔なら逆だったと思うが、なんか気まずくなる・・・。
「・・・・・じゃそういうことで俺も行ってくるか」
「あ、まって。」
「?」
俺は自分の場所に戻ろうと振り向いたのに、またキィに背後から呼び戻されて振り返る。俺の視界が一周して来たことになった・・・。
「何?」
今度はキィが俺と目を合わせず下を向いている。
「え・・と・・・・やっぱりなんでもないよ」
「あ、そお?」
何か言いたそうな感じのキィだったが俺は気にはなるが少し気持ちがヘンにもなりがちだったので今から準備室に行くことにした。



静かな部屋に聞こえるのはグリレ先生の穏やかな声と真上の蛍光灯の「ジーーー・・」という音だけ。この音は鬱陶しくてしかたないものだ。
だが今の俺はそんなことなんて気になっていない。そりゃあ勿論耳には入ってくるが深い考え事などをしているのでこういうときは聞こえてこないものでもある。
俺は今悩んでいる。それは今だけじゃなくてココのところずっと考え込んでいたことで・・・そうなると先生の話なんてもう全然聞いていない。
「(何故・・・昔なんてずっとあんなに親友以上の仲だったのに今はどうして二人になるとあんなにも気まずくなるんだろう・・・
  あっちは・・・キィは今の俺のことをどう思っているんだ?)」
気付けばその疑問の答えはキィしだいで、今は考えても出るはずのないその答えを予想で自問自答していた。
今のローゼには周りから見るとボーっとしているように見える。もはや自分の世界に入っていて何も聞こえていない・・・。
考えて出た答えは・・・
「そーいうわけで各パートでしっかりやっておいて下さいねー。・・・・・聞いてますか??ローゼ君?」
「・・・・・」
「(ねぇ!ちょ、ローゼ)」
不意に隣に立っていたクラリネットパートリーダーのリーフィア「ヴィーゼ」に腕で軽く突かれた。
「(え?何)」

「ローゼ君~。聞いてましたか~?」
「!え・・・いえ、あの・・・」
正直今まで先生が何を話していたかなんて聞いていなかったから分からない。今年の自由曲の選択がどーのこーの・・・CDがどーのこーの・・・
「(えっと・・・CD?CDとなると夏のコンクールの曲?CDの話だと廻し聞きの事になる?)」
いつの間にかキィのことを考えていて・・・・。
「聞いてなかったんですか~。とにかく明日からの連休は顧問の私が遠に出張に行くんでハイ、あなたもしっかりして下さい~。そうそう、課題曲のCDはフルートから順番に廻すんで先にローゼ君に渡しておきますからね
 あぁ、もう時間ですね。じゃあ5分後にミーティングするんで今から戻って片付け始めて下さい。」
《ハイ》「あぃ・・。」
ああ恥ずかしい。こんなときまでキィの事を考えてしまうようになってるなんて・・・。あ~~もう自分で自分を呆れるわ

片手で頭を掻いているとヴィーゼが話しかけてきた。
コイツは・・・同じクラスのアイドル的(?)牝子生徒なんだけど・・・それはそれはお気の強いお人で、恐れるものはない!
みたいな?感じもあって(おとこ)友達が意外と結構いるんだよな。(本人にこんなこといったら殺されるよ確実に)
何故か俺に最近くっついて来る奴なんだ。気でもあるのか?なーんてねw。
そうそうちなみにポケモンのパートリーダーは俺とヴィーゼの二人だけだ
「なんでボーっとしてたの?」
「その逆。」
「ぇ?」
逆と言われて意味が分からなかったのか頭の上に疑問符を浮かんだヴィーゼ。
「逆って?」
「いや、なんでもねーよ。それより自由曲の事が・・・なんだ?なんも聞いてなかった」
「はーー・・・・今の話のメインがそれでしょ!?なんでそこまで聞いてなかったの?だから自由曲決めるから明日から全員で聴いて候補を決めるの!」
「ふ~ん何でもいいんじゃね?」
「あたしは楽しい曲がいいn
『時間無いですから行動は早く!』
俺たち以外居なくなってたので、準備室の出口にいた先生がヴィーゼに言ったのだ。
「はぁ~い」
「(げ!先生もまだ居たのか!?じゃあ今の俺の喋ったこと・・・・)」
むむむ・・・


俺は自分の片付けが終わっていたので今ならパートの引き払いに間に合いそうだ、行ってみるか・・・やめとこ、音楽室で待ってればすぐミーティングはじまるだろう。
そーいう訳でここでまだ片付けてるやつも結構いるし別にそのくらいいいか。
今日配らた例の課題曲「ブライアンの休日」の楽譜を出して一通り眺めていると間もなく部員が集まってきた。あ、春美・・ということはフルートも来たか。
「ハーイ早くミーティング始めましょ~。」
相変わらず何時だって力のない声のグリレ先生に最近なんというか・・・インテリ教師っぽくて少し萎えると感じるときがあるようになった。
しかもそれに加え先生のミーティングでの話ホント長くて毎日ミーティング中で眠くなってしまう。どうせ今日も出張とか自由曲とか他にも色々話すに違いない。

音楽室のイスは合奏の体系から普段の横に長い列の席に並び替えされ、前列が木管、真ん中が金管、後列は席が少なく打楽器(パーカッション)のパート毎に並んで終わりのミーティングが始まった。
ちなみにローゼはフルートなので前列に座っている。話が長いと前列にもかからずたまに彼は居眠りを・・・












「(・・・・・・・・・・・・・・・・)」
「ローゼ、ねぇ・・」
「・・・フィ?」(・・お!)

どうやらまた今日も居眠りをしてしまったようで、そしてまた今日もロートに起こされた。いつもは怒っているような顔をするロートだが今日は何故かクスクス笑っていた。
「・・・あれ、何?」
「なんでもない♪」
二人は会話ができるくらいの小さな声で話していた。皆はあまり気付かないものらしいがその様子を後列に座っているキィはずっと見つめていた・・・。
彼女は何を思っていたのか・・・・。




いやー、今日は一段とミーティングが長く思えたな。先生のあの長い話が短くなれば大分早く終わるよ絶対。
もう部員が自分達の学生カバンや荷物をもって音楽室を出るかと思いきや、おしゃべりの時間になる。ってまあ女子の多いこの部活にはアタリマエなことだからそう今になっていう事じゃないんだけどね。
隣にいるロートはカズを呼んでいて
「・・・・・」
・・・何かさっきから誰かの視線を感じるのだが・・・・。

「カズ!今日も乗せてってよ♪」
「ま・・・またか!?ロート乗せると重くて自転車乗りにくいんだけど」
「あーー!そんな事言う?だめ!絶対乗るから」


ロートも昔からずっと俺達の友達グループで妙にカズに懐いている。
まあ彼女の家は登下校中に通るから遠回りにはならないが、これから最近はずっとあんな感じになりそうなのは目に見えているから・・・・・って?
「・・・キィ?」
「・・・・」
いやそんな怒ったような目で見られても、てゆうか睨まれているよ俺・・・・俺!?俺が何?
遠くからキィがずっと今も「じぃーー」っと睨んできてる。今まで感じていた視線はキィだったのか・・・

「(怖いって、ブラッキーがあんな目で睨むなんて余計に・・・)」
とは思うものの、本当は怖くは見えてなんかいない。
何故ならキィの目の色はのブラッキーとは思えないほどで、むしろ怒った表情も可・・・・いやなんでもない。

「早く行こうよカズ、ほらローゼも!」
ん、俺も?ということは久々にカズと帰ることになるのか。
「あ、ああ分かったって分かったから、ちょ・・・・引きずるなぁ!!」
俺がロートに引っ張られていくその様子を見て、キィが怒っていた訳か立っていた両耳が今度は力なく垂れ下がって悲しそうな目になる。・・・いったい何があった?
今のキィが気になったけどその気持ちとは裏腹に段々と俺はキィのいる場所から離れていく。決して俺の意思での行動ではないが。
「だ・か・らロート引っ張るのも痛いって!」


そんな俺の声もロートはお構い無しに俺の手を握ったまま走り出し階段も駆け下り生徒の間を避け、結局玄関まで引っ張り続けられてしまった。
お陰で手が少し痛い。

それよりロートに手を引っ張られているときにまた妙な感じがしたな。それは今日に二回も感じたことで、なんか・・・・言いにくいけど「ドキドキ」してた?って言うのか
・・・とにかく今思うと少し恥ずかしかったな、あんな大勢の人の間で。

吹奏楽部の部活動が終わるころには既に他の部活動は大抵終了していて部活が終わればすぐ帰っている生徒もいれば
玄関に屯している生徒もいれば様々で賑やかといえば賑やかな光景である。
カズがまだ来ないな、・・・だったら俺を連れてはしってこんなに早く来る必要なんてなかったんじゃないか?

「・・・・クスッ。フフ♪」
突然ロートが静かに笑い出した。
「ん、どうした何かあったのか?」
「フフーン。可笑しいことが今日あったんだけど言っちゃっていいの?」
言っちゃっていいの・・・、なんて問うということはどうせ俺に関係あることだろうと思った。
でも今日は何かしたかな俺、何もしてないよな。
「まさかそれって俺のことか?」
「あったり~♪そうだよ」
ぅぅやっぱり、・・・・心当たりがないから凄く気になってきたんですけど
「教えろ」
「何その言い方つまんないな。ホントに教えてほしいの~?」
焦らされた。
「教えろよ・・・」
「そんな言い方じゃね~」
焦らされている。
「いいから教えてくれよ」
「ふ~~~ん?」
焦らしに焦らされている。
「・・・教えて下さい」
「じゃあ言う」
俺は「おせーよ」とでも言おうとしたが、それを口にしてしまうとまた何か会話が長引いてしまいそうな予感がしたのであえて
そこは黙っておいた。

「さっきのミーティングの途中でローゼまた居眠りしててあたしが起こしたじゃん?その時さ、ローゼなんて言ったと思う?♪」
クスクス笑いながら逆にロートが俺に問いかけてきたのだが・・・、そんなこと言われても意識なんて朦朧としてたから分かるハズないじゃないか

「・・・・・・」
「やっぱり覚えてないよね♪フフ。あのね、起こしたときローゼこう言ったの・・」
その彼女がやっと言い出したと思ったその時に

「あ、カズ!おそーい!もー早く来てよー!」
「マジでまた乗るのかよ」
「ダメ?・・・・っていっても絶対乗るってさっき言った~」

タイミングが良いのか悪いのか大事なところでカズが来た・・・まったく溜息が出てしまう。
「ちょロート・・俺がなんて言ったんだよ、まだ話の途中なん」
「さあね♪早く来ないとローゼおいてくよー。」

あ~あ、今は何を言ってもダメか。今度は絶対聞くからな・・・。

「なあ頼むからまた来週からにしてくれよ」

諦めろカズ、こういうコトでのロートの意思は堅くて誰にも曲げられないのさ。
どういうことかって?えっと、ちょっとした遊び心とかの面でのこととか・・・
まあそんな面があったりしてるからこそ、彼女が色々な友達との付き合いをこんなにも良くやっていけるという事も一理あるかもしれない。

そんな性格は俺とは正反対だ。
俺はイーブイの頃からイタズラとかそういう小さな遊び心などの好奇心は無く、つまらないというか・・・もはやめんどくさいとまでも思っていた。
そんな思ったことを口に出さないこともあって目立っていなかった俺を周は俺こそがつまらないと思っていたに違いない
・・・まあ、あの事だけは有名だったけどな・・・。
でも今は自分でもあの頃のときより友達関係を随分上手くやっていけてると自分でも確信している。彼女ほどではないが・・・


そんなことを考えているうちに玄関を出てカズたちの自転車置き場にたどり着いた。
そしてカズと今日の合奏について話していると、いつの間に先に行ったのか彼女はカズの自転車の隣で待っている。

「遅いよ二人とも、・・ぅ・・・・・はぁ~~」
(あれ、ロートいきなりゲッソリして・・・いやどうした!?)

「どうした?急に元気なくして」
俺が気付いたときにはカズが声をかけていた

「いいな~仲良くて・・・」
「仲が良い?ローゼと?当たり前じゃん、しかも家族なんだしさ・・・なんでそんな事?」

カズが言う。今の二人の会話に対しては黙っていようと思うが俺も確かにカズと同じ意見だ。
ロートがそんな事を何故言ってきたかは考えれば大体分かる・・・カズもそうだろう

「あ、まさかまたユウトと喧嘩したのか?」
「・・・ぅん」
「どうせまたお前が下手にチョッカイばかり出し続けてるからじゃないのか?俺は毎日がそうならお前の悪戯には耐えられないぞ」
「そんな毎日じゃないもん」
「やっぱそれが原因かよ・・・子供みたいなことばかりするからユウトも我慢できないんじゃないのか」
「分かってるけどー。ぅぅ~(だって最近冷たいんだもん)」

彼女のパートナーのユウトは俺達と同じく吹奏楽部員で彼はサックス担当をしていて、学校の男子の中では顔は見る感じイケメンだと思う。
だが、かなり無口な人の上に勉強も良くできる。だからこそこの通り凄く明るい性格のロートとは正反対ということで最近また二人の仲が悪くなっているらしい
まあ過去にこういうこと何度かあったような気がするから心配ないだろう、正直にいうと彼とは俺もあまり会話したことがないから部活のとき以外でのあの人のことは良く知らない。
部活のときと聞かれれば・・・・見かけるときは一人で黙々といろんな自分独自の練習をしている。くらいかな・・・
自分で言うのもなんだけど周りは音楽のことでローゼローゼと俺のことばかり注目してくるが、俺は彼の方こそ音楽の感じ方が個性的で非凡な才能だと思う。

「・・・・・・まあいいや、帰ろうぜ」
カズが自転車に乗っている。
「うん」

・・・ロートがカズの背中に手を置いて彼の後ろに立って乗っている。
非常に危なっかしそうに見えるが意外と安定してるものである。と、ロートは言っているが・・・やっぱり危く見えるな・・・
この状況のカズが先生になんかに見つかったらマジやばいかもな。
ちなみに俺は毎日走って登下校してるから走ってもそれなりに疲れはしないから別に走りでいいけど・・・


シュティンメシティは緑も多く自然も豊かであるが、やっぱり人口が多いだけあって夜も明るい。
他の都市とは少し違い民家と民家の間も広く住居が集中して集まっていないところがこの街の特徴だ。
そんなことができたのも、この街自体が大きいからこそである
なによりも便利なのは道路が少し広くできていて、事故などを少なくさせるなど他にも通学もしやすくできるように考えてあるのはとても有難いが
こんな広々とした街は本当に珍しく滅多に見られないだろう。

ポケモンと人間が協力する生活は何処でも見受けられるようになっているが
野生のポケモンも野生のポケモンとして自分たちの力を拡大しようとしているというこの世の中だ
しかもシュティンメシティの隣は野生のポケモンの住む自然豊かな山があるからいつ市民に被害が出るか普通は心配になるであろう。
しかしこの街のことは国が計画したのだから野生のポケモンに対して何も考えていないハズはないだろうから心配はしなくて良いと思うが・・・

「(走ると寒っ!けどマフラーしておいて良かったな)」

カズは結構フリースとか着込んでいるしロートは全然寒くなさそうだ。炎タイプだからか?



ーロートの家の前ー


ふぅ、意外と早くロートの家の前についたな。
「よいしょっと、ありがと。また明日部活でねー」

そう言い玄関へ向かっていった彼女は何時もと変わらぬ笑顔だったが、どこか明るさというか元気がなかったように見えた。
彼女が家に入っても玄関を見ていた俺だがカズは彼女の様子に気付いていたのかどうか・・・

「カズ・・・」
「あー、ロートにしては結構落ち込んでいた様だけどアイツならすぐ吹っ切れるさ。多分。問題はユウトしだいだけどな」
「今回は何したんだろ」
「さぁな?ほら行くぞ」

彼の言うとおりだ。前だってすぐ吹っ切れたんだから余計な心配なんてしなくてもいいか。
走り出しながらそう思った。

そういえば最近は汗掻かなくなったな。もう冬の季節だし気温も下がって吐息も白くなってきているし、走っても汗なんてでないのだろうけど
・・・・・走ってもそれなりに疲れないということは随分体力上がった事なんじゃね!?

そんなこと思っているうちに赤信号で止まる。
信号に止まるときは隣にキィの家が見える・・・

「(・・・あれ?キィだ。暗くてよく分かんないけど黄色い輪の模様が薄く光っているからキィがいる)」
そこの倉庫から出て来たから何かの用事でもあったのか・・・、あれ止まった。
カズは気付いてないなキィに・・・

俺は自分でも気付かないで黄色く綺麗に光るブラッキーの模様をじっと見つめていた。
やがて信号は青になりそしてまたカズに続いて走り出す・・・再び冷たい風が肌を通り抜けていくのを感じる。


今考えると何かほんの少し悲しくなる。昔ならすぐにキィだと分かったなら彼女の所に駆けつけるところだったが今は・・・信号になんかに導かれて・・・
自分がとった行動なのに彼女が段々離れていく気がして只、走り続ける自分自身に問いかける。「自分は今、彼女をどう思っているか」と・・・
そう。それは今日既に出した答え。彼女のほうはどうか分からなかったが自分はどう思っているかは

「思いは昔と変わらない」

案外スンナリと正直にでた答えだ。大体初めから彼女のことをこんなにも考えている事時点で答えは出ていたのかも知れない

「何?なんか言ったか?」
「別に」



冷たい風がそよそよと吹く夜に黄色に光る模様が動き出した。
模様が通ったところに「ポツッ」と一粒の水滴が垂れて地面にしみ込む・・・

「どうして・・・・・」

その模様の正体は玄関に向かって歩き出しその明かりによって照らされた。
勿論さっきのブラッキー・・・濡れた目を前の片足で擦って家の中へと戻っていく。





はー、我が家は暖かい。帰ったらすぐにカズのベッドに直行だった。
学校からずっと走ってくると外では感じられなかった暖かさが感じられて逆に暑くさえも感じてしまう。
あっそうだスコアスコアと。PLとして楽譜の要点メモしなければな。
今日初めて聴いた自分たちが大会で演奏する課題曲。その一音一音を思い出してメモにはしる。

・・・どのくらいたったかな。30分はたったかな?部屋に着てないけどカズは何してるんだろう?

「おーいローゼェ体洗ってやるから風呂場に来ーい!。」
「はいはい今行くよ」

今日は走りっぱなしで汗かいてしまっているから確かに体を洗ってほしいな、汗そのままにしておくと体毛がややこしくなるからな。
ここは二階の部屋で俺とカズの共同に使っている部屋だ。所有権は一応彼の部屋なのだから掃除とかは殆どカズがやっている、だから俺はそういうことには・・・まあいいやその話は。

俺は部屋を出て床がとても冷たい階段を下りてリビングへ行くと母さんが夕飯の支度をしていて、そしてこのリビングの隣にある風呂場に行くとカズがシャワーの温度を調節してくれていたところだった。
風呂場に足を踏み入れた瞬間からカズの着ている紺色の体操着も白っぽく薄くなった
「おっ来たか、早く済ますぞ」
「あーい」
俺が返事をした瞬間からシャワーが頭からかかってきて目を瞑る
「おっ、今日から石鹸新しくなったのか」
なんていう彼の声はシャワーから出る水の音でかき消されるから良く聞こえない・・・
今の俺は真っ白の泡だらけになっているだろう。俺の体を洗う彼の手はとても気持ち良いもので、毎日洗い終わるまでは彼の手の温もりを体中に感じ続けているのだ。



・・・・シャワーが止まった。
その瞬間から今まで耳に聞こえ続けた水の流れる騒音が止み、周りが静かになった。

「・・・ほら終わったぞ」
彼のその声が妙に響いたように聞こえる。

「あ!まて今タオルで拭いt!!」

あ・・・今日もやってしまった・・・・
俺はビショビショの体をほんの少しの時間でもほおっておく事が不快に思えて無意識のうちに本能で
頭から尻尾まのでの体全体ををプルプルと激しく振ってしまったのだ。
そうなるとお陰でカズの体操着も大分濡れてしまうことになる・・・ああ今日も許してくれるかカズ・・・
「ローーゼ~~~!」
やや、これは一歩身を引いていたほうが安全なのでは・・・

「ぅぅ、そう!癖だからね。早く拭いてもらわないとね。つい・・・ヤッチャウンダ」(うわ結構濡れてるなカズの体操着・・・やば)

「ヤッチャウンダじゃねーよ全く。ほらまだビショビショだろ、ホラ拭くから早く来い」
意外なことに彼はあまり怒ってないように見えてホッとした。


もふもふのタオルに身を包まれ
次にドライヤーで暖かい風に吹かれながら櫛でとかされ・・・
俺たちみたいなポケモンは人間のもとに暮らすとなれば、いろいろと性格を問わずに主人に自然と依存してしまいやすい種族だと度々そう思う。
ましてやブイズとか特に・・・て俺もなんだけどね。
まだ大人にならないまでは仲が良くて結構な事なのだが・・・

「そうそう、お前リーダー会議で何話し合ったんだ?」
これまたドライヤーの騒音で声が聞きとりにくいが会話ができないほどではないくらいの音だ

「別に、リーダーが今後の方針をどれだけ考えているか聞かれたことと連休中の部活動の内容だけ」
「フルートリーダーはどれだけ考えているのでしょーか?」
「(・・・ほっとけ)
  トロンボーンパートには関係ありませんー。」

今後のことなんて今まで通りでいいじゃないか。くそ、何をしろというんだあのインテリ顧問め。
なんて思っている時間で俺の体は十分なほどに乾いていた。


・・・・あれ?何だこの妙に甘い匂いは・・・どこから

「・・・?ローゼ、まさかお前・・・ちょっといいか?」
「何だよカズ?」
彼がいきなり俺の乾いたばかりのサラサラの体の匂いを嗅いできた
「ん!?、ローゼ!お前の匂いだよこれ!」

「はぁ?・・・・」
変な声が出てしまった。
ありえないと思っているが少々焦りつつも自分の体の匂いを嗅いで見る。その結果
「・・・ぅ~ん」
とてつもなくとも言って良いほど甘~い香水の香りがして、目の前の感覚が一瞬だけ揺れた感じがした。
変な感じから抜け出そうと俺は首を激しく振ってから
「何だよこれ!?」
「いや何だって言われても・・・・あ!!あの石鹸だ・・・」

そ・れ・し・か・な・い
「何してくれるんだよカズゥ!!どうするんだ!?凄い匂いするんだけど!」

うわぁーーホントどうしてくれるんだよ!。これほど匂い強いと消えないんじゃないのか!?
しかも明日も朝の8時から部活だし・・・わわわ消えるのか!?こんな香水みたいなこの匂い!でもあんな石鹸あったっけ?
えーと・・・

 [『おっ、今日から・・・鹸・・しく・・・たのか』]

ふと、たったさっき耳に入ってきたカズの言葉がアタマに過ぎる。
シャワーの音でよく聞こえなかったが、今考えるとは何を言っていたのか分かった。
ちゃんと確認しないで不用意に変な石鹸使うからこんなことに!ぅぅ、匂いが強くなってきた・・・

俺が彼を睨みながら近づくと、今度はそれに合わせて彼が一歩一歩ここから後退していき
「いやいやそれほど匂いしないって、それにこれはワザとした訳じゃないし仕方ないのでは・・・ちょ、落ち着けローゼ、ローーゼ!」
しまいには
「・・・これはちょっとマズい」
「ちょ、逃げた!まて!」


彼はドタドタと冷たい階段を急いで登り自分の部屋へ直行。そして俺も・・・までとはいかず1秒くらいの差で鍵を閉められてしまった。
「コラ開けろカズ~!どうすんだこれ~!」
バンバンと部屋のドアを叩くが手が少々痛くなっただけ。今の俺に対して開けるはずがない。
「(ぬ~、こうなったら【念力】で・・・)」
エーフィである俺は、技の【念力】で鍵を外すことにした
両眼の色が違うから超能力を使うときの眼の輝きも片方とも違っているけどな。


一方カズの方はと言うと

やはり二人とも扉ごしで妙な戦いを繰り広げていた。


「あっローゼ超能力使いやがったな!クソ、入~れ~る~か~よ~~」

卑怯だぞ技使うなんて!落ち着けってホントにさぁ
エーフィなんかに進化するのだったら、どっちにしろ予想外の事だったのならブラッキーの方に進化してくれれば良かったとつくづくそう思うぜ。
あいつブースターかサンダースに進化したいって迷っていたら、結局迷っているうちにのエーフィに進化しやがって・・・
しかも本人はエーフィとブラッキーだったらどちらかというとブラッキー希望だったらしいしさ・・・・ヤバ、なんか開きそう何ですけど!うぉあいつ強ぇ・・・

「二人とも何騒いでるの?ほらご飯だよ、ってローゼなにやってるの?」
母さん声だ・・・いやいやご飯って言われてもヤツを何とかしてくれないとここから出られないんですけど!
あ、ドアノブの下がる感覚なくなった・・・ローゼは母さんに話しかけられ超能力を止めたらしい。

「母さん、だってカズが・・・」
「いいから早く来なさい。こんな寒いところにいないで降りてらっしゃい」
「・・・」

部屋の外の廊下から小さく響く会話がなくなり母さんが階段を下りていく音が聞こえる
さっきまでガチャガチャうるさかったここも静かになった。

「・・・・・バカ・・」
そして小さくそう吐き捨てられた・・・なんちゅーヤツだ、いくらなんでも言いすぎだろ。
ローゼの階段を下りる不規則な小さな足音が聞こえたからもうそこには居ないと思う。
「はぁ~~」
いろんな意味で溜息がでた。
「カチャリ」
俺はドアを開け部屋を出て冷たい階段をゆっくりと下りていくローゼがいつ跳びついてくるか分からないと思いながら・・・



俺の部屋と母さんのいるリビングだけは暖かい。それと風呂場だな。
そのリビングのテーブルには母さんとそっぽを向いて耳を寝かせたテーブルに突っ伏すローゼが居た。何かローゼが何時もより女々しく見えるのは気のせい・・・
「母さん、風呂を先に入ってくるよ」
「はいはい」
今のこの空気は気ずくこの選択肢しかない。ローゼが一旦どっか行くまでのいい時間稼ぎだ。

ドアを開けると、さっき使った出しっぱなしのドライヤーが床にあったので洗面所の棚にコードを巻いてそのドライヤーを片付けてから、体操着を脱ぎ洗濯機にいれる。
そして風呂場へ行くと風呂のフタは開けっ放しだった。そういえば俺はローゼを洗った後、すぐに風呂に入ろうとしていたからフタは閉めていなかったのだ。
そこには今回の元凶の石鹸が落ちている。今見るとこの石鹸は妙にピンクがかっているような気がしなくもなく、鼻を近づけて匂いを嗅いで見ると
「・・・・・ローゼ。」
それがこの匂いの感想だった。

そして俺は見てしまった・・・
鏡の隣にある普段何も置いていない一番上の棚には毎日使っている白い馴染み深い石鹸があることを
「・・・・・ローゼ。」

・・・まあ、ひとまず体にかけ湯をして白い湯気が立つ湯船に浸かることにした。



一方こちら戻ってローゼ

「さぁ、何があったのローゼ。言いなさい」
カズがいなくなって少し顔を上げたら母さんが優しみのある声で問いてきた。
何があったかは説明の下手な俺でも全て普通に話せる内容だから、すぐに俺は話し出すことにした。
声は小さいけど・・・
「カズがヘンな石鹸俺に使った」
「石鹸?石鹸ーーあっ、・・・アレ使っちゃったの!?」

俺は無言で母さんの言葉に頷く。(やっぱりアレはおかしかったんだ)
「ローゼ、それでこの香水の匂いは?」
「俺からするものだよ。ひどい匂い・・・こんな変な匂いのままで明日の部活行けないよ。匂いの消す方法はないの?」
母さんに必死に訴える俺だがその母さんから帰ってきた答えは

「ええと・・・アレ石鹸じゃなくて香水の固体にした奴なの。最近会社でちょっと作ってる微量香水の石鹸を開発しててね
 多分それは試作品だから匂いの強めの物で・・・明日の今頃までには消えないと思うわ」

絶望的な母君のお答え・・・

「!!!・・・明日まで消えないの!?あああどうしよう!」
寝ていた俺の耳が「クイッ」と起きた。

「・・・って、そもそも何でそんなものが風呂場にあったの?」
「さ、さぁ誰かが石鹸と間違えてもっていったんじゃないの・・・?」

・・カズはそんなことはしないから母さんしかいない。絶対に

「だ、大丈夫だって。あまり匂いしないから気にしなくてもいいじゃない・・・」
「いや、思いっきり匂いに気付いてたじゃん!カズも母さんも!・・・・もういい!二人とも何さ、誰のせいだと思ってるんだよ!」

急にこの匂いに対して怒りがこみ上げてきて何故か気付いたらリビングを出て階段をまた上っていた。
自分についてくる者がいる。その正体は勿論「香水の匂い」
とても腹立たしい!それでもしつこくまとわり付いてきてくる。
超能力でドアノブを動かし乱暴に開けて部屋に入ってベッドに飛び込んでからドアをまた乱暴に閉める。

俺は部屋の明かりを消しベッドの上で布団に潜り、早くも寝ようとしていた・・・ご飯も食べずに。
潜っていることが自殺行為のようなものだったらしく匂いが鼻に直接きてしまう
布団の中では特上なほどに激臭な訳ね・・・

耐えられなくなるのはアタリマエで勢い良く布団から顔を出す、そうすると無臭である普通の空気というものがシャバに思えた。

「(あ~もう!どうにか・・・この匂いウンザリ・・・明日のこと考えると泣きたい限りだよ・・・
  それにあと丸一日この匂いが消えないとなると鼻がおかしくなりそうだ)」

こんな中でも落ち着いて無理矢理でも寝るようにした。

・・・今日はかなりの早寝の方で隣にある目覚まし時計はまだAM8時過ぎだった。
まあ今日のことは置いといて
エーフィの俺はそんなに夜遅くまで起きていられない種族で長起きなんて滅多にしない。というかできない。
そういえば最後の長起きといえば去年の皆で果てしなくワイワイやったキィの家での年越し・・・それ以来したことがないな。

今日はキィの話ばかり出て。「中学校でも彼女と上手くいってたんじゃん」みたいなこと思われそうだが
あれはたまたまキィの家で年越しするロートに誘われて俺もそうすることにした訳で・・・それに結構人数多かったし牡子のファル達も誘われてたから俺も誘われたようなもので。
そんな感じのいきなりの展開だった訳で俺もあまりノリ気じゃなかったし、しかも皆が「年越しだ!」とか盛り上がっちゃって俺を寝かせてくれなかったし・・・
まあ今言うとあの日は疲れててあまり楽しくなかったかな・・・キィともあまり話す機会無かったしさ

その日の朝は全員で初詣に出かけてそのとき俺だけ死ぬ思いだったな、そもそも年越しのときに起きていたことなんてあの日が初めてだったから・・・
・・・もうあれからもう一年経ちそうなのか。と言うのもクリスマスも終わってないのに気が早いか?

なんて事を考えているうちに早くも眠気がでてきたから瞼を閉じる。
夜に寝ようと思えばすぐ寝れる。それが俺なわけ・・・・





瞼を閉じているはずだが妙に視界が白く明るい。ということはもう朝か。
朝の日差しは気持ち良いが疲れているらしく体が重い。その体をゆっくりと起こす。
しかしそこは毎日自分の寝てる見慣れた場所と違うところの風景で、寝ていた場所は
・・・コタツ!?
視界を見渡してからなんとなくこ此処が何処だか分かった気がした。
あっそうか、ここはよく遊びに来る・・・・ファルの家?
まだ眠いから寝てようと思い再び目を閉じた瞬間・・・
「あー!!ほらほらやっとローゼが起きたよー!」
・・・不意に聞き慣れた大きな声が耳に響く。それは朝に聞くとやかましいと思えるくらいだ。
この声はロートだな。朝からうるさい奴だ

・・・え!?ロート!?
「キィの寝坊は分かるけどエーフィとあろうローゼが寝坊とは珍しいんじゃないか?・・・まあそのキィはまだ寝てるんだけどな」

そう言ったのはブイゼルのファルでコタツに腰をかけた。そしてそのパートナーのシンヤも後に続いて此処にやってきた。

「エーフィーに年越しはキツかったんじゃないの?でもギリギリ年越しまで起きていて一番早く寝たのローゼなんだけど
 ほらローゼ、いい加減起きろ!キィも起こすから!まったくどうして太陽と月はこうも手間がかかるのやら・・・」

ファル?シンヤ?これは・・・夢?
そんなことを思いながら目を擦り顔を上げるとロートが・・・ロート?

「え・・・なんだそれ」
ロートの姿を見て俺の口から出た言葉はそれだけ
「なんだそれって何よ!もう!もういいローゼ。ファル達は褒めてくれたのに!」

彼女は右の前足を振り上げた。多分それはこのままだと俺の頭上に降ってくると思うな、うん。

「まあまあロート、奴は寝起きなんだから」

ファルと信也がロートを素早く、そして上手く諌めてくれてくれているからその振り上げた前足は振り下ろされることは無かった。

あ。これは去年の元旦の出来事だ。・・・あれ、でもここはファルの家なんだけど・・・??
何かヘンな感覚・・・・・

「ローゼ!おいローゼ!」
なんだよカズ。お前このとき誘われて無くてここにはいねーだろ!ってどこだよ・・・見渡してもカズの姿が無いけど
「おい起きろ!」
俺はもう起きて・・・

・・・
・・




・・・・ぼんやりとした視界がまた別な風景を映し出したように思えた。今度は何時も見慣れた風景・・・てあれ?

「まったくお前何時から寝てると思ってるんだよ!さっさと支度しろよネボスケ。遅れるぞ」
俺にそう言い残し黒いマフラーとフリースを着たカズはこの部屋を出て行った。

「・・・あ。やっぱり夢だった・・・・・ってもうこんな時間!急がなくちゃ!」

昨日はとても早く8時半くらいに布団に潜ったと思うから・・・ええええ!!!ドンだけ寝てたの俺!

時計を見れば7時40分を指していた。家から学校までの距離は軽く走って20分、急いでも10~15分はかかる。
あ~朝っぱらからこんな匂いは気分悪くなる・・・布団に匂いが滲みついてるかも。あ、でも香水の香りのする毛布っていうのあるよな?

「おっとこうしちゃいられない!」
昨日の夜にパートでどんな練習をするか目を通しながら考えようと思って持ってきた楽譜などを急いで準備して階段を駆け下りる。



勿論今の時間では朝食なんて食べてられない。リビングのテーブルにはトーストなどサラダの軽い朝食が二人分が置いてあったが、一方は完食してあるらしく綺麗に皿が三枚くらい重ねてある。
「(あれ・・・カズはちゃっかり食べてたし!!くそー!何故もっと早く起こさなかったんだよ!)」

「遅れるわよー。」
「(だから急いでるんだよ!母さんも何故起こしてくれなかったんだ!ってゆうか何故あんなに寝れてたんだ俺は・・・)」

まったく。この匂いに睡眠効果でもあるのか!?
慌てながらも支度を終えて、毎日外に出るとき必ずしてる白いマフラーを首に巻き玄関のドアを念力で開ける。ホント念力って生活で便利だよな♪
学校だと技は禁止されてるけど・・・

今日の朝はとても冷え込んでいて家の中でも白い吐息が出ていたから外なんてかなり気温低いだろう、などと思いながら外に出れば肌寒い冷気が体を包んだ。
「寒っ!てか雪降ってるし!!」
昨日の気温と比べるとかなり下がっていて冬に入って始めての雪だった。雪はあまり好きじゃないんだけど・・・

あまりにもの寒さに180度ターンして家の中へ戻り、俺もリビングにある上着を着ることにした。フードがあってその部分にふわうわの毛がついてる4足歩行のポケモン専用の真っ黒のフリースだ。
それは俺には少し届かない高さに掛けてあるが、これも念力でなら取れる
イーブイの頃は届かないところにあるものはカズや母さんにまかせっきりだったがエーフィに進化してからそんなことは無くなり
この超能力だけで随分と生活が快適になったと思う
学校だと技は禁止されてるけど・・・

「うわっ、早く行かないとマジ遅刻しちゃう!」

今度こそ防寒着も来て支度が終わり玄関を飛び出し急いで走る。
勿論走ると雪風があたって凍えるように寒いが遅刻はする訳にはいかない。

昨日ロートに優斗と上手くやれなどと言ったばかりの俺達だが
もうその日にカズと喧嘩してしまった・・・・・そんな事とてもロートには恥ずかしくて言えないし、その事に関しては今のところ誰にも触れられたくない。

・・・でもこの匂いに関しては問われるだろう。
そうなるとこれはカズの仕業ということを話し兼ねないし、仕舞いにはカズとの喧嘩をしていることを見破られる気がして仕方ない。
俺は今日も何かしら考えながらこの道を走る。

そういえば夜のうちに結構雪が降ったらしく街の木などが少しだけ雪をかぶってるな、雪が積もる日は近いかも・・・
しばらく走っていると学校の校門が見えてきて間もなくそこを駆け抜ける
「時間は何とか間に合う。まあ、何時も通り普通に頑張りますか。」

普通に頑張る・・・それは最近の俺の口癖だ。

ローゼの姿を校門から見ると
白いマフラーと黒いフリースを着た桃色の猫又はとても小さく見え、大きな学校の玄関に吸い込まれていくような光景だった。



今のところはちょっとした部活のお話にします
何かコメントを頂けたら嬉しいです。





トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2010-07-06 (火) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.