満月。優しい月明かりが体を包む。
風が通り抜ける、心地良い草原なのかもしれない。
美しい景色が一望できる、見晴らしの良い草原なのかもしれない。
虫たちの声が聞こえる、心地よい草原なのかもしれない。
でも、私が感じているのは一つだけ。隣の彼の温かさ。
私が見ているのは一つだけ。月夜に映える黒の体躯。
私が聞いているのは一つだけ。彼の小さな息遣い。
ここは私たちだけの世界。
月影が祝福さえしてくれる、幸せの世界。
彼の逞しい腕がすっと伸びる。それは、優しく私の肩へ――
そっと肩を撫でられるだけで、私は身も心も蕩けてしまいそうになる。
首の後ろに腕が回され、そして私の身体は優しく引かれる。
彼の顔がゆっくりと近づく。その真っ直ぐな瞳、穏やかな笑みを浮かべるその口、私には拒む必要も理由もない。
私は体が宙に浮くような感覚を覚えた。宙ではない、それは幸せ。
私の唇を、そっと月明かりのベールが覆った。
温かい、もう何も見えない。
長い口付けで、心に満ちてくるこの幸せに身を任せるだけ。
あぁ、どうしてあなたはそんなに魅力的なの――
エーフィは長い長い口付けの終わりに、一瞬寂しそうな表情をした。
それでも、まだ目の前にあるブラッキーに向かって笑顔を向ける。
それは、月光の下で開いた一輪の花のようだった。
ブラッキーもそれに応じて微笑む。
一旦身体を離し、エーフィの隣に。
輝く月を背に、二人は肩を並べた。
ブラッキーの身体が触れる。エーフィは彼の瞳に、否、彼の全ての虜になっていた。
心をしっかりと掴まれ、逃れることができない。
ブラッキーの鼓動が伝わってくる。それとともに感じる幸せ。
エーフィは熱に侵されたように体が火照る。自然と、息が荒くなってゆく――
「月が綺麗ですね」
エーフィは胸を貫かれた。それは痛みを伴うものではない。最高の、この世のすべての幸福感。
心を奪われ、彼女は抜け殻のようにただ彼を見つめていた。
ブラッキーがエーフィの手をとる。二人の視線が交叉する。そこに行き交う愛情が、時間を止めた。
「僕は一人では駄目なんです」
そっと耳に囁かれる言葉。
永遠に感じられる月夜の世界。幸福に酔いしれているエーフィは、何も言うことが出来なかった。
ただブラッキーに向かってゆっくりと手を伸ばす――
「これからも僕を照らしてくれますか?」
ブラッキーもエーフィに手を回し、その美しい毛並みを持つ体を優しく抱き締めた。
お互いの息遣いも、鼓動も、すべてが通い合っている。
エーフィはそっと頷き、ブラッキーの身体を肌で感じていた。
身動きが出来なくなる。そんなことはどうでもいい。そんな必要なんてない。ただ彼を感じていたい――
私も一人では駄目。姿を見せない夜の世界を優しく照らし、見守る月がなくてはならない。
私は彼に魅了され、彼も私が魅了したい。
ずっと、一緒にいたい――
「私、死んでもいいわ」
満月が穏やかに照らしている草原を、柔らかな風が愛し合う二人を囲んでゆっくりと巡った。
エロを期待してしまった皆さん、すみませんでした。
避難所の避難所で、昔にたてておいて放置状態だったスレを思い出しました。
スレ主が忘れてて申し訳ない、と思いつつ見ていると、素敵な言葉に心惹かれて。
稚拙ながら、ショートショートとして投下させていただきました。1200文字程度。少なし。
かなり短めに、ゆったりと書いたつもりです。
避難所の避難所の名無しさんたち、どうもありがとうございました。
そして、低クオリティ化してしまい申し訳ありません。
せっかくなので、「I love you」の有名な訳を2つとも使ってみました。
コメントがあればよろしくお願いいたします。
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