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新緑の結晶.Ⅲ

/新緑の結晶.Ⅲ

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前回:新緑の結晶.Ⅱ



・新緑の結晶Ⅲ


ー1ー  雲

「此処か……」
俺とホゥカは森の木々の中に建てられたそれなりの大きさを持っている研究所の前に居た。
随分と古びた建物らしく壁は所々ヒビが見え、苔が生えている……
捕えたザングースの話によるとザングースとジュカインは
此処をアジトにしている例の組織のリーダーに雇われたらしい……
「此処で間違い無いな?」
「ああ、此処だ……」
俺達に捕らえられ、手首を縄で縛られたザングースはボソッと返事をする。
研究所の重く、錆びた鉄の門を開けると鉄が擦り合う音が鳴り響く……
ザングースの縄を俺は解いてやる。
「頼む」
俺の言葉にザングースは反応して研究所の玄関口に向かって歩き始める。
俺達が傍に身を潜めたのを確認してザングースは古びたインターホンのカバーを外して
パスワードと思われる言葉を発する。
すると、カチッと音がして鉄の扉の鍵が開いた。
分厚く重い扉を開きザングースは中の様子を伺う……
様子を伺ったザングースは連いて来いとサインを送ってくる。
こうして俺達は古びた研究所の中へと侵入した。
ザングースを先頭にホゥカと俺は後に続く……
壁は古びてヒビや草が視界に入るが草が踏まれた跡があり、確かに此処は使われているのを確認出来た。
階段を下り、地下へと向かう……
途中何人か白衣を来た組織の者とすれ違うがどうにか隠れてやり過ごした。
「……地下牢屋に着いたぞ」
ザングースが紅い扉の前でそう告げる。
「此処にリミュウが?」
「恐らくな」
扉の隙間から中を覗くと番をしていると思われる奴が居たが眠っていた。
「チャンスだ見張りが眠っている」
俺達は扉を開けて中に入る……
部屋は薄暗く、灯りは天井の小さな電球一つのみ……
左右に2つずつ牢屋があり右奥の牢屋にリミュウが蹲る様にジッとしていた。
「リミュウ」
「シャウラさん……!」
俺の姿を見るなりリミュウは立ち上がり、牢屋の鉄柵に近づく。
「大丈夫か?怪我は無いか……?」
「はい、大丈夫ですが……その……後ろの方は」
リミュウは自分を襲った一人、ザングースの姿を見て怯える様にそう尋ねる。
「心配しなくて良い……私はもう彼方の側に就いているつもりは無い」
そう言いながらザングースは見張りが腰に付けていた鍵を牢屋の鍵穴に通す。
カチッと軽い金属音が鳴り、リミュウは牢屋から出た。
「有り難うございます……」
リミュウは解放された。後は此処から抜け出さないと……
俺達がドアノブに手を掛けて、この部屋から出ようとしたが
まさにその瞬間に扉が何者かによって開かれた……!

ー2ー  鋭爪

その場に居る皆が凍り付いた様に固まる。
地下牢屋の扉を開けて中に入って来たのは昨日のジュカインと白衣を着たユンゲラーだった。
「ほう……勢揃いの様だな。君達が私の計画を邪魔している存在か……
ん?グス、お前は此方が雇った殺し屋のはず」
「私は降りさせて貰う……」
「裏切る気か?ならば、お前も消し去るに限るな!」
ユンゲラーはそう言って突然攻撃を仕掛けてくる!
グスと呼ばれたザングースは守るを発動させて攻撃を防ぐ。
ジュカインがリーフブレードを発動させて突っ込んで来るが空かさず
グスがシャドーボールで返り討ちにする!
「私は彼奴をやる……!」
「分かったジュカインは任せる。ユンゲラーをやるぞホゥカ!」
「任せて!」
グスは俺達の言葉を確認し、場所を変えるため部屋から走って出て行く。
去り際にジュカインを挑発してそれに乗ったジュカインは後を追いかける。
「リミュウ此処は危険だ。外で待機するんだ」
「あ、はい……」
俺とホゥカはユンゲラーに集中し、身構える。
ユンゲラーが口元をニヤリと歪めたのを切っ掛けに戦闘は始まり
素早くユンゲラーはサイコキネシスで牢屋の鉄柵を壊して投げつけてくる!
鉄柵を俺とホゥカが避けるとユンゲラーは続いてエナジーボールを連続的に放ち
影分身を発動させて分身を作り出す!
ホゥカは火炎放射、俺は放電でエナジーボールを幾つか相殺するが此処は差程広く無い地下牢屋。
爆煙が立ち込めてユンゲラーの姿を見失う……
と、空気を切り裂く音がしてサイコパワーで形成された鋭い刃、
サイコカッターが爆煙の中から突如現れて俺の左肩に直撃して切り傷が出来る……!
「くっ……」
「シャウラ大丈夫?!」
「……まぁな」
再び体勢を直し、身構える……
間髪入れずに爆煙の中から再び二方向からサイコカッターが飛び出して来て
俺とホゥカは身を捩って避けて攻撃が飛んで来た方向へ十万ボルトと火炎放射を放つ!
が、分身だったらしく手応えが無い。ホゥカも同様の様だ。
爆煙を消し去る事を考えたらしくホゥカは熱風を発動して
部屋中を熱風でなぎ払い、爆煙を吹き飛ばす。
すると視界は回復して三体のユンゲラーが姿を現した。
三体共も熱風を浴びて軽い火傷が出来ている。
ユンゲラーは其々シャドーボール、エナジーボール、サイコカッターを発動して攻撃してくる!
攻撃を避けつつ俺は充電を発動させ、電流を溜める。
ホゥカは口に溢れんばかりの蒼白い炎を溜める。
ユンゲラーの攻撃で爆煙が立ち込め始めるが姿が見えなくなる前に
ホゥカが隙を付いて怪しい光を発動させる!
攻撃が来ると身構えていたユンゲラーは俺達に集中していた為に
怪しい光という予想外の攻撃に対応出来ずに混乱状態になる。
影分身は消えて本体が明らかになった……!
混乱状態になって隙だらけのユンゲラーに充電を積んだチャージビームと
蒼白い炎を撒き散らす大文字が放たれる!
勝敗は決まった……ユンゲラーは力無く倒れた。
俺はユンゲラーに近寄り、爪を突き立てユンゲラーの喉元に突きつける。
「私の負けか……」
「答えろ、何故新緑の結晶に其処までこだわる?」
「私は組織の幹部の一人、同時に鉱石研究員でもある……
だがそれはもう昔の話だ優秀な新人が現れた……
私の部下になったそいつは忠実で優秀な部下だったが
ある時彼奴は裏切り、私の新種鉱石の研究報告書を偽物とすり替えて
本物を自分の物として提出した……もう分かるだろう……?」
ユンゲラーは不気味な笑みを浮かべて立ち上がる。
「新人は出世して私は上級幹部から下級幹部に成り下がった……奴はその後も昇進して行った。
私は奴を見返してやると決めた……その為には新種の鉱石が必要だ。
それに当てはまったのが新緑の結晶だ!
あの鉱石は珍しい上に膨大なエネルギーを蓄積している!
あれを研究し、公表すれば私は奴を見返せる上に元の上級幹部……
いや、それ以上に昇級出来る!」
「結晶を使った結果、何が起こるか分かってて言っているのか?」
「そんなの知った事か!私は何てしてもあの結晶を……
だから、あの小娘を渡せ!」
ユンゲラーは額から汗を流し、両手を……
いや、体中震えながら俺達にジリジリと近づく。
明らかにこのユンゲラーは正気では無い。
俺達が後ろへ引こうとした時、一人でにユンゲラーは倒れた……
「こいつはもう頭が逝っている……何を言っても無駄だ」
声の聞こえた方へ視線を向けると部屋の出入り口にグスが立っていて爪の血を払っていた。
ジュカインを倒していつの間にか部屋に入って来たグスがユンゲラーを処理したらしい……
「結晶については私にとっては何の価値も無いから安心しろ、黙っておく……」
「……助かる」
「此処に居る者しか結晶の事は知らないからな……これで今回の件は終わりだな」
そう言うとグスは背を向けて出て行った……
「終わったみたいだな……」
「そ、そうね……」
俺とホゥカはそう会話して此処から去るべく部屋から出た。
「御怪我は無いですかシャウラさん、ホゥカさん?」
「大丈夫だ。心配はいらない……」
「私もよ」
心配そうに尋ねて来たリミュウに俺達はそう返す。

ー3ー  継承

「今回の件はこれで終わった訳ですね……」
大水晶木の根本に着いた俺とホゥカは後ろから話し掛けて来たリミュウの方に振り返った。
「シャウラさん達はこれで元の生活に戻る訳ですよね……」
「まぁ……短い間だったけどな」
「……」
リミュウは何処か寂しそうな表情をしていた。
だが、それもすぐに消えて笑顔になる。
気のせいでは無ければリミュウは作り笑いをしている……
「私、見送ります。良いでしょうか?」
帰り支度が終わった頃、リミュウはそう尋ねて来た。
「ああ、構わない」
俺の許可を貰ったリミュウはひし形の新緑の結晶が埋め込まれた小さな首輪を自らの首に付ける。
夕日の光が窓から差し込んでいる……
「シャウラ、リミュウちゃん行きましょ」

ホゥカの言葉で大水晶木を後にした俺達は現に至る。
俺達は此処に戻って来たのだ。
目の前にはもう二度と見る事が無いかもしれないと思っていた我が家が建っていた……
「戻って来れたわね……」
「そうだな……」
「ふぁ~あ」
ホゥカは大きな欠伸をする。
「疲れが出て来たみたい……眠いわ。私はお先に……おやすみ」
手を振りながらホゥカは自分の家に向けて歩き始めた。
その背を見えなくなるまで俺達は見つめた……
そして、俺とリミュウだけがその場に残った。
「シャウラさん、今回の件有り難うございました……」
リミュウは頭を下げる。
「当然の事をしただけさ」
「私、一人では何も出来なかったでしょう……」
「……」
一度間を開け、
「お別れですねシャウラさん」
「そうだな……」
「本当に有り難うございました!そして……さようなら……」
「ああ、また会う機会があれば……」
リミュウと別れの言葉を交わして俺はドアノブに手を掛ける。
背後ではリミュウが去って行くのを感じる……
ガチャリと音を立てて玄関の扉が閉まった……

だが俺の気持ちは穏やかでは無かった。
何かがもやもやしている……スッキリしない 。
俺は歩を進めてベットに倒れるように寝転がる。
これで良い……これで良い筈なのに……平穏が戻って来たのに……
瞼を閉じて眠ろうとするがやはり……
胸の中が煙で一杯になっているみたいだ。

落ち着け……落ち着け……!

気が付けば俺は家を飛び出していた。
そう、あの娘を探す為に……
俺は全力で走っていた。夕日が森の木々をオレンジに染める中。
探して、探し続け、探し廻った。
息は切れて体力も限界を迎えた……
疲れはてて俺は地面に伏せる。
荒い息を上げて心臓は跳ね上がる様に動いていた……
「シャウラ、さん……?」
「!!」
俺が視線を上げるとベンチに座ったリミュウが振り返り、此方を見つめていた……
「隣、座りますか?」
差し伸べて来たリミュウの手を俺は握る。
するとリミュウは頬を赤くしながらも引っぱり上げてくれた。
俺はリミュウと一緒にベンチに座る。
眼前に広がる湖が夕日でオレンジに輝く……
湖から風が吹き抜け、辺りの木々をそよそよと揺らすのを俺が見つめていると……
「シャウラさんは私を探して……?」
隣で涙を手で拭いながらリミュウがそう尋ねる。
俺は頷き、リミュウの濡れた瞳を見つめるとリミュウは頬をボッと赤くした。
「でも、どうして……?」
「君を探すのに理由はいらない」
「それって……こ、ここ告は……」
リミュウは其処まで言ってカァッと顔中赤くして詰まる。
「君を探している内に気がついたんだ……」
もやもやしていたのは……
「す、好きです……私もシャウラさんの事」
そう言って微笑んだリミュウに俺も笑顔で返す。
「シャウラさん……」
「……リミュウ」
自然に俺達の唇と唇が重なっていた……
長い長いキス、お互いにファーストで……
……やがて
「……リミュウ」
「はい」
「我が家に帰ろうか……一人で住むにしては大きいからな」
と、俺の家の方向を指差す。
「はい……!」
リミュウは満面の笑みを浮かべる。

そして俺達は新しい我が家に向けて歩み始めたのであった……


新緑の結晶.完結


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Last-modified: 2012-10-08 (月) 00:00:00
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