ポケモン小説wiki
悲しき絆 中編【輪廻転生の絆】

/悲しき絆 中編【輪廻転生の絆】

《注意》
この作品は悲しき絆シリーズの中編です。
上篇が執筆中ですので、今暫くお待ち下さい…。

最終リメイク:2015年12/17日

〜悲しき絆 中編【輪廻転生の絆】〜
Write by




残酷な世界を憂う青年 


「僕はもう、疲れた。  生きている意味が解らなくなってしまった…。」

朽ち果てた公園のベンチで小さな溜息を吐く。

日々繰り返される人間やポケモンの死。  ロケット団等によるポケモンに対する虐待や惨殺。
そして、人間の配慮の欠如。
テレビニュースやラジオ情報から見る映像には、ポケモン達の哀しい鳴き声が聴こえる。

普通の人ならば、"かわいそうに"と思うだけでそれ以上の行動は起こさない。
でも僕は違った。
その悲壮の叫びが言葉になって聴こえて来るのだ。

『苦しい…』 『痛い…』 『生きたい…』

そんな声に耳を固く塞ぐ。 意味はないのに。

「また、何も出来なかった…。」
産まれながら持ったこの
"ポケモンの声が聴こえる力"
にどう対処したら良いかも分からずに、自分から溢れた言葉にさえ、僕の心を残酷に傷めつける。

初めは、周りに話して助けてあげようとした。
でも、返ってきたのは、
「他に構う暇はない」だとか、「これが自然の摂理だ」
などというあまりにも冷淡な言葉ばかり。

さながら、この公園のように。
そうだ。 何処か孤立している此処は、街から隠れている様に存在している為に、全くと言っていい程人気がない。

錆び付いたまま、動き続ける時計の針や
夕方5時の眩しい日光を遮るかの様に覆う樹々の葉。
周りも避けている様で、全く寄りつかない。 僕の様に。

今まで見てきた光景も、どれも同じだった。
………まだ大人を知らない無知だった僕にとって、
極悪な取引先で見た 必要の無いポケモンを"邪魔だ"と吐き捨てながら殺して、
ゴミ箱に無雑作に投げ捨る光景は辛すぎた。
殴りかかる僕を止めた上司はさも当たり前のように、
「これが、大人の世界だ。相手が何をしようがこっちは黙って観ていればいい。」
そう言われた僕は 気がついたら上司を殴っていた、「あんたもあいつらと同類だ!」と叫びながら。

……それから暫くして、ポケモンセンター関係に就職できたから
此処ならあの悲惨な光景を見なくて済むと安心しながら業務に励んでいた時にポケモンの声を聴いて、
見つけた重症のポケモンを運ぼうとしたらジョーイさんに
「何をやっているんですか、あなたは今、ポケモンの食事を作っている最中でしょう? センター内のポケモンを優先しなさい!!」
って言われた僕の頭は真っ白になって…それから先は覚えていない。


「……どうやら、いつの間にか消せない忌々しき記憶にふけっていたみたい。
…どうして、この世界はこんなにも残酷なのか?
どうして、疎まれ除けにされるだけの僕は存在するのか? 」

掠れた声で問えど問えど、答えは見つからない。
そう、見つからない答えを探す今の僕は
《絶望》
しか感じない。

「…もう嫌だ! このまま自分が生きていても……
……悲しみに耐えられない。」

歩く事を止めた僕が立ち去る瞬間の公園の時計をみると、針がゆっくりと止まっていったのが見えた。

無意識の出逢いー再びー 


【危険!此処は"自殺の森"です。
LV90台のポケモンが出現します】

「この看板は…自殺の森か。 ひっそりと死ぬにはちょうどいい場所。
それに、此処にはレベルが低いポケモンは本能で決して入らないみたいだし…
そうだ、ここのポケモン達に殺して貰おう。
それが、見るだけで何も出来なかった僕のせめてもの償いだ。」


そのまま大きな看板を背に、死に場所を求めて行くけど……


「おかしい、これだけ歩き回っているのにポケモンが一匹も姿を見せない。  それどころか、ポケモンの声すら聴こえ無い。
もしかして、隠れている?
頼むから眠らせてよ!
もう、あの惨劇をみたくないよ!」

夜の静寂は僕の心情を掻き回し、何より苦痛でしかない。
早くこの絶望から、楽にしてよ

『僕は死にたいんだ!!』

でも、大声で叫んでも答える者は居ない。
虚しく響いては、静かに消えて行った。
僕の死にたいと思う願望を嘲笑うかの様に。

「…もう少し、歩こう。 何かが待ってる気がする。」 
導かれる様に森の奥へと向かっていく。

其れからどのくらい経ったのだろうか、

「……どれ位歩いただろう もう、歩けない。
最後は餓死、か。  この身体がポケモン達の生きる糧になれば良いな…」

『…けて…すけて…たすけて……』

数時間の歩きに疲れ果て、永い眠りに着こうとするのに、何処からか声が聴こえる。

「声が、聴こえる… 誰かが呼んでいる。
あれ? こんな事前にもあったような……?
……行かなきゃ!」

意識が朦朧とする。
でも諦めない。
せめて、声の主を探し出す迄は…!
どこか懐かしき声を聴きながら、気力を振り絞りながら声のする方へとゆっくり歩いて行く。
そして辿り着いて見たものはーー


「これは…! なぜ、こんな処にイーブイが? 
それにしても傷が酷い。
もう、助からないかもしれない …でも!
もし、もし助かる可能性が少しでも有るとすれば… いや、この子は他でもない、僕に助けを求めて来たんだ。
この子だけは死なせてはいけない!」

今にも消えそうな小さな灯火。
今まで助てあげられなかった消えていった灯火。
でも、この子…わからないけど知っている。 愛おしくもある。
兎に角今は! この子だけは決して死なせてたまるものか!

「助けようとおもったらなぜか力が湧いてくる。
でも、何処に向かったらいい? 周りは真っ暗で見渡す限り雑木ばかり…ん? あの光は、もしかして、呼んでいる?
もしかしたら、ここから出られるかもしれない。死なないで!」

今にも消え入りそうな声で「ブィ...」と答えるキズだらけのイーブイに、どこか特別な感情を覚えながら、僕は決意する。
そして、前を行く小さな"ヒカリ"を追ってゆく。

風で揺れた樹々が、二人の出会いを祝福しているかの様に見えた。

認めたくない『死』と『ギラティナ』 


ー至 ミナモシテイにてー

「お疲れ様です。 ポケモンセンターです。どうなされました?」
「ハァハァ… は、早くこの子を助け…」
「お客様? 大丈夫ですか!?  このイーブイ、酷い傷が…!
皆さん! 大至急、緊急手術をお願いします!!」
バタンと前のめりに倒れながら薄れゆく視界と同時に、センター内が慌ただしくなってゆくのが途切れていく意識の中に響いていた。


➖➖➖➖

『ここは、何処だろう。  真っ暗であっちに小さな光が視えるだけ。
あれ? 遠ざかっていく⁉︎ 待ってー!』

➖➖➖➖


「………ここは確か、森で見つけたイーブイをポケモンセンターに連れ込んで… は! イーブイはどうなった?」

「ようやく起きましたね。 おはようございます、ポケモンセンターです。」
「なぁ、教えてくれ、あのイーブイはどうなった?」
「それがですね… 「儂が教えよう。」
「院長! …分かりました、お願いします。」
ジョーイはそう言うと、悲しい顔で僕を見ると、静かに去っていく。

「まずは、君の状態からじゃ。 此処に運ばれて来た時、びっくりしたよ、なんせ、血塗れじゃったからのぅ。」

本当だ。 初めて自分の服装が変わっている事に気付いた。
それに、どこか懐かしい香りの代わりの服は、銀色のイーブイ(懐かしい香り)を、しかし哀しげな匂いを想わせる。
……何故だろう?

「着ていた服は、洗ってそこの籠に入っておる。 話を続けるぞ、それから君は、丸3日寝ていたんじゃ、原因は、極度の疲労からじゃ。」

「丸3日も …どうりで頭か回らない訳だ。 それで、今あのイーブイは何処にいる?」
「そう急かすでない。 あまり見ない方が良いと思うんじゃが …それでもいいか?」

僕に迷いはなかった。
僕が深く頷くのを見ると
「ならばついて来い」
と言いながら院長は先に病室を出て行く。
それを僕は慌てて追っていった。


➖➖➖➖
「ハァハァ、全然追いつけないや」

「はぁ、もう無理、走れないよ。
なんだかボク、眠くなってきちゃったよ…」
➖➖➖➖


「着いたぞ、此処じゃ。」

「あ、院長。 お疲れ様です。」
「はい、お疲れ様。 イーブイの様子はどうじゃ?」
「正直、よくもった方だとおもいます。 ですが、もう体力的に後10分程が限界かと。」

長い渡り廊下を抜けた先にある"集中治療室"と書かれた病室のなかで、白いカーテンで仕切られたベッドが一つ。
ジョーイは、その白いカーテンで囲まれたベッドに目を向けると目を閉じる。

「そうか、しかし良くもった方じゃ。 もしかしたら、君を待っていたのかもな」
「イーブイ、そこにいるの?」

院長達には目もくれず、僕は真偽を確かめる。
「…っ!」

でもカーテンを開けた僕がが見たイーブイは、無数のカルーテルで繋がれた見るに耐えない姿。

「………」
「………」

静かな部屋でただ、無機質な機械の音と、死への足音にも思える時計の針音だげが、僕の脳内に強く木霊している。

でもそんな悲劇もやがて………

「脈拍、心拍数低下。 臨終まで後1分です!」
「とうとう終わりの時がきた様じゃの… 君、しっかりと見届けてやれよ。」
「何でそんな事を言うんだ! あんたら医者だろ? 見守ってないで助けてくれよ!」
「最善の手は尽くした。 後は静かに最期を看取った方がこの仔にとっても幸せじゃろう。」
「い、嫌だ! 僕はもう、ポケモンが死ぬのを見たくないんだ!
アリスの様なイーブイを見たくないんだ!!」
あれ? "アリス"って…何故か愛おしい名前…

そう。 いつもは、ただ見ているだけで何もできなかった消えゆく命
初めて拾った命を目の前で喪うというのかーー

「頼む、生きてくれ!!」
僕は、涙を流しながらイーブイの小さな身体を揺する。
あれ… 意識が……




「…ここは何処?  周りは真っ暗でなにも見えない。  ? なんだあの光は、兎に角行ってみよう。」

小さな光を追っても追っても、一定の距離を保ちながら光は進む。
でも、僕が止まれば光も止まる。
まるで、僕と鬼ごっこをしている様だ。

「…もしかして、僕を導いている?
 あの森のひかりのように。」

そんな"光の鬼ごっこ"をしていたら、
光は在る場所で止まり、小さな光は大きくなりだした。 そして、光と言う存在は、"空間"という存在になった。

「っ!  ……イーブイ!!」
「…イーブイの身体が透けている。  僕の体も透けている!?」

「其れは、お前たちがあの世に向かう前触れだ。」
「誰だ、隠れてないで出てこい。」
「姿が視えなかったか、すまないな。  これでどうだ?」
「自己紹介がまだだったな。  私の名前は"ギラティナ"、人間からはそう呼ばれているよ。

影の様に姿を現したギラティナに、僕は問い質す。
「ギラティナ、此処は何処だ! もしかしてあの世なのか?」
「此処は戻りの洞窟で、あの世とこの世の境、言うなれば死の一歩手前だ。」
「僕の事はいい、でもイーブイだけは助けてやってくれ!」
「ある人間からの頼みだ。
精神だけ来たお前達なら戻れるだろう、道を開けてやる。 」

ギラティナはそう言って、僕の前にあの小さな光が出現させる。
僕は何も言わずにイーブイを抱きかかえると小さな光に触れると、眩しい光に包み込まれてしまう。
ダメだ、意識が……
眩い光の中、「この世界を救ってくれ」と声が聴こえた気がした。



愛しき記憶ー再生ー 


「此処は…確かイーブイに出会って、ちゃんとこの世に戻てこれたんだな… はっ! イーブイはどうなった?」

「おう起きたか。  イーブイは無事じゃよ、君が気絶した後に信じられない事が起こってな。 イーブイは隣の病室におるよ。」

慌てて、僕は隣の病室へ移動する。
「イーブイ、無事か?」
「大丈夫じゃ、ただ眠っているだけじゃよ。」

後からやって来た院長の言葉聞いて、僕はやっと胸を撫で下ろす。
「キュウ」
「お、イーブイが起きたか。 じゃあ、わしはこれから回診があるからこれで失礼するよ。」

「よかった、イーブイが無事で居てくれて。」

僕から一雫の涙が溢れて溢れる。
その溢れ落ちた涙をイーブイが舐めたのが分かった。
何度も何度もイーブイは、僕の頬を舐める。
「あはは、くすぐったいって。」
「貴方が助けてくださったのですか?」

何処からか、しかし聞き覚えのある声が頭に響く。
あぁ、イーブイからのメッセージだね。

「あぁそうだ、今はなんともないか?」
「もしかして、ボクの言葉がわかるの?」

どうやら、僕が言葉を返した事に驚いている様。
…今はこの力を少し誇りに思うよ。

「分かるよ。 昔からポケモンの言葉が理解出来たから。
まぁ、ここまではっきり聴こえるのは、初めてだけどね。」

「とりあえず、助けてくれてありがとうございます。  
でも、どうしてあの輪廻の森に入ってまでボクを助けようとしたんですか?」

「実は、あの森に入った理由は…」
僕は、自殺の森に入るまでの経緯を説明する。
自分の生い立ちと疎まれ続けた悲しみも踏まえて。

「そうだったんですか。 もしかして貴方は…いえ。
ゴメンなさい、話したくないのに無理矢理。」

「いいんだ、なんかわからないけど君には話しておいた方が良い気がしてさ。」

暫くの沈黙が流れる。
そんな雰囲気を壊す様にお腹の音が鳴る。

「お腹空いちゃった…」

やばい、真っ赤な顔のイーブイが可愛すぎる
あれ? こんな事も前にあった様な…

「そ、そうだね。 ご飯食べに行こう。」
興奮する思いをなんとか抑えて、僕は、イーブイと一緒に病院内にある食堂に向かった。


そして夜が来て………


此処は…夢、だね。 あんな暗い世界じゃない。
あれ? あっちに二匹のポケモンが居る。
此処からは良く見えるし、良く聞こえる。

「はい、お花で作った花冠だよ。」
「あ、ありがとう…」
なんでだろう、あの仔達。 知らないはずなのに知っている。
そして、とても懐かしい…
「どういたしまして。
これからもずっと一緒に居ようね、ソラト♪」

どうしてその名前を…!
駄目だ、意識が…。
キスをしているのが僕の脳裏に焼き付きながら僕の意識は薄れていく…

繋がる違和感の正体、転生の記憶 



「丑三つ時…。  それにしても、あの夢は何だったんだろう。
あの二匹のイーブイ、僕は知っている。 でも思い出せない。
…何か、大切な事を忘れている気がする。」

僕は、静かにベッドの横に目を向ける。
そこにはイーブイが、スヤスヤと寝息を立てて眠っている。
夢に出てきた銀色のイーブイが何故ここに…?
もしかして、この子はアリスなんじゃ?
……知らない筈のアリスと言う名前なのに、やっぱり愛おしい。

「ふあぁ、眠れないんですか?」

「ごめん、起こしちゃったね。 …ちょっといいかい?」
思う所があった僕は、イーブイを真夜中の公園に連れ出す。

「ねぇ、なんであの森に倒れていたの? そもそもイーブイはこのホウエンにはいないはずだし、銀色のイーブイはかなり珍しいし。
いや、話したく無かったら話さなくていいから。」

「…実は、ボクはあるポケモン、ううん、人間を探して旅を続けていたんた。
それで、輪廻の森…じゃ無くて自殺の森で場所にそれらしき人を見たって言う人がいたから危険を覚悟して入ったんだけど…
探している最中にエルレイドに襲われて…」
「そうだったんだ。 辛かったね…」
「うん…」

やばい、また気まずい雰囲気が流れてるよ。

「そ、そろそろ戻ろうか。」
聞きたい事がまだあったけど、この間をなんとかしよう
そう思っていたとき、

「少し待ってください。」
誰かの声が夜の真夜中の静寂に木霊する。
この声、何処かで聞いたような…?
「誰だ、どこに居る!」
「此処ですよ。 きみたちに渡したいものがありましてね。」

僕が声の先を見ると、公園のシンボルだと思うひときわ大きな樹の幹に二つの影がみえ、
その上に男とエーフィが立っているのが見えた。
そして、静かに降りて来る。

「まずは貴方に。 それと、これはイーブイちゃんに」
「なんだこれ?」

「時期にわかります。 それに、君はもう気付き始めている。」

気付き始めているってどうゆう事だろう? 確かに不思議な懐かしさはこの子に出会ってから感じているけど…

そんなこと思っている内に男は、僕の横を通り過ぎて消えていった、
すれ違い際に
「期待していますよ、神 空兎(ジン ソラト)君」
そう言われて。

「とりあえずポケモンセンターに戻ろ?」

モヤモヤとする僕をイーブイに止める様に言われたから、考えるのを一旦止めてセンターの中に戻っていった。


ーーーーーー

「輪廻の森の統括御苦労様です。
あなた自ら名乗り出てくれて助かりましたよ。」

「構わないさ。 優の様な悲劇を繰り返さない為にな。
それに、今はポケモンセンターの院長だ。 与えられた使命を果たすだけだ。
でも、いいのか? 記憶を失っているといえど、一度世界を滅ぼそうとしたらしいじゃないか。」

エルレイドで有る君にも分かりませんか…。 まぁいいでしょう。
だからこそ、人間に転成させたんです。 これから面白くなりますよ、
残虐な紅夜『ブレイブ』君。」

「はぁ。 貴方の考える事は理解出来んよ、ポケモンマスター。」

ーーーーーー


静かに、夜が更けていった。
其れから数日たったある日の朝。

僕は、未だスヤスヤと眠っているイーブイを起こさないように、このポケモンセンター内にある広場に来ていた。
あの子に会ってから今まで感じている不思議な感情と愛しさを自分なりに整理する為に。

そこへ、この時を待っていたかのようにあの男とエーフィが姿をみせる。

「待っていましたよ、ソラト君。」
「あぁ、あんたか。 この珠の事、数日間考え、調べても俺とイーブイとの関係はわからなかった。
分かったのはこの二つの珠の名前とグラードン,カイオーガを封印している事ぐらいだ。 教えてくれ、この珠と俺達の関係を。」

「…ふむ、そうですね。 ではお教えいたましょう。」
男は暫く考えた後、語り出した。

「これは、三千年もの昔…。
君が死んだ後、イーブイちゃんはわざとその二つの珠を壊したんです。
その二つの珠に籠るはこのホウエン地方に住むポケモン達の亡き魂。
器が無くなった魂達は暴走しました。
しかし、それだけなら私とエーフィでなんとか出来ます。
ですが、最悪の事態が起こってしまったのです。」

「グラードンとカイオーガの目覚めだな。」

「その通りです。元々グラードンとカイオーガは敵対関係にある。 
自我を失った彼等は無意識に対峙し、
彼等の特性によりよって世界全体に大雨と日照りが起こってしまい、人々やポケモン達は世界の終わりだと嘆きました。
確かに、私達ならば彼らを"たおす"事は容易です。
ですが、それでは根本的な解決策には至りません。
そこで私は、仮の珠を創り、その中にグラードンとカイオーガ、
そしてホウエンのポケモン達の魂を封印したのです。」

「ちょっと待て。 "レックウザ"はどうした? 本に書いてあった話では、こういう時に現れるんでしょ?」

「…残念ながら、レックウザは姿を現そうとしませんでした。
近年高まりつつある人間の欲望に目を背けたのです。
そして、現わしたとしても無駄だと悟ったのです。
彼が沈静化を図ったところで器が無ければ意味がないんですよ。」

「それがあの二つの珠なのか。 だが、それなら何故俺たちに渡す?
封印は、成功したんだろ?」

「確かに封印は成功しました。 ですがそれは一時的。  ここ最近、封印が弱まっています。
封印が解けるのも時間の問題でしょう。
完全に封印するには、壊した者とその愛する者が同時おくりびやまに在る台座に
置かなければならないのです。」

「だから、あの時ギラティナは世界を救ってくれと言ったのか。 だが、
俺が死んだ後ってどういう事だ!
それに、イーブイの愛する者って?」

「それにはお答えすることは出来ません。」

「なら、もう一つ教えてくれ。 あんたは何者だ?」
「私はポケモンマスター《sky》で有り、世界を管轄する者。
後、この事は、イーブイちゃんには秘密ですよ。」

「…解った。」

話を終えると、男は「では」と言う短い言葉を残し、エーフィと共に消えた。

そして、僕は眠そうな目をこするイーブイを連れて、おくりびやまへと向かう。

悲しき決断、『嘆きの国のアリス』 


「待って居たわよ、ソラト君。
そしてアリスちゃん。」

「…三千年振りだね、アザレアさん。」

「もうそこまで知っているのね。
マスターは野暮用で居ないから、私が導くわ。
といっても、もう後は確信だけかしら?」

「うん、物心ついた時から感じていた違和感とこのポケモンの声を聴く力。
それが、君たちが関わっている事も分かるよ。
そして、これから起こる事も…何故だかね。」

「そう。…台座はすぐそこよ。 本当に、良いのね?」

アリスと僕は、顔を見合わせると、彼女の問いに深く頷き、台座の前に立った。

「アリス、準備はいい?」
「ソラト…? ……うん、準備いいよ。」

僕たちが二対の珠を台座においた時、周りが不思議な空間に包まれる。



『待って、何処に行くの?』
『アリス!?  寝てないと駄目じゃないか!』
『ボクの病気を治す為にあそこに行くの? ソラトも死んじゃうかもしれないんだよ?』
『…じゃあね、僕の最愛のアリス。』
『あっ 待ってぇ 』

『……此処が願いの丘だね。 居るんでしょ、ジラーチ!』
『やぁ、可愛らしいイーブイくん。 君の願いはなんだい?』
『アリスを、僕の最愛の彼女の病気を治してくれ。』
『分かったよ。 でも、君は重い罪を犯している。 代償として君の命を貰うよ。』
『うん… いいよ…』



不思議な空間が消えた時には僕は激しい悲しみと後悔に苛まれてしまって、
「やっぱり、こうなるんだ…」
そう、ぼそりと溢れた。


「やっぱり君は、アリスなんだね…」

「やっぱりソラトなんだね? ずっと、会いたかった。」

涙目で喜ぶ彼女を後目に、僕は、これからの事を考えてしまう。
最後の記憶を通して確信してしまった。 最愛の彼女であるアリスの為に死んだ事を。

「ボク、ずっと待っていたんだよ?でも、これからはずっと一緒だね!」

「……ゴメンね、アリス。 それは出来ないんだ。」

「どうして? やっと逢えたのに、また、何処かに行っちゃうの?
ソラトの罪ならボクも被るから、もう、何処にも行かないで!!」

泣きながら必死にしがみつくイーブイを僕は優しく抱き上げーー

「ありがとう。 でもアリス、もう分かっているから嘘つくの、止めようよ…。」

「なーんだ、バレちやってたんだ。」

「教えてよ、僕が死んだ後に何があったのかを。」

「うん。
………ソラトが死んだ後、ボク此処、おくりびやまに行って二つの珠を壊した。
理由は単純、ソラトの魂がそこに眠っていたから。

でも、ソラトは戻って来なかった…。
ジラーチに頼んでも、「ダメ!」 の一点張り。

どうしたらいいのかも分からずに泣き続けるボクに、マスターskyが言ったんだ、
「ソラト君は、返しましょう。
但し、重い罪を負っているので人間に転生させます。
そして彼は、必ず輪廻の森へと赴きます。
捜しなさい、彼を。」 って。

絶望したままのソラトを生きさせる為にはこれしか思いつかなかったんだ。」

「でもどうして? 僕はアリスを疵付けてまで離れようと…」

「そんなの自分勝手じゃん!!
本当に嬉しかったんだ。 眠り姫だったボクを闇から光へと導いてくれて。」


「そっか………」

それ以上何も言えなかった。
本当は彼女と一緒にいたい。 でも、今の僕ではまた、彼女を疵付けてしまうから…離れよう。
これで、いいんだ。
たとえそれがアリスと自分にとって、辛い事になっても…

「さようなら、アリス。」

そう言うと、僕はアリスにあの頃と同じ、優しいキスをした。

「さようなら、ソラト。 …また、逢えるよね?」

「……」

「ボク、ずっと待ってるから!」

「……」

本当にまた逢えるのかも判らない曖昧に答えることが出来ない。
そして、絆の証である進化の輝石も、もう僕の手にはない。
耐えきれなくなった僕は、返事をせずにその場を離れた。

願いは美しく、残酷に 



「これで良かったんだよね? マスターsky…」

「ええ、今はこれで。 彼の自分探しが終われば此処に戻って来ますよ、必ず。
それに、君は眠り姫であると共に闇を創造する妖精でも有ります。
光の妖精である彼とは、居てはいけないんですよ。 …今はね。」

「うん。 解ってるし、ボクもそう信じてる…」

静かに、彼女の姿が小さな淡い光に包まれてゆく

「…そろそろ逝くのですね。」

「うん… こんな姿、ソラトには見せられないから…」

「うーん、それは無理みたいですね。」

「…アリス。」

「ソラト!? どうして…」

「言ったでしょ? 全部分かってるって。
全く、嘘が下手なんだから。」

「そっか…」

「僕のワガママ、聞いて?」

「ダメ!…って言っても聞かないくせに。」

「アリスの行く末、看取らせてよ。 必ず、迎えに行くからさ、その目標にね。」

徐々に大きくなる光。
だけど、何処か安心する。

「また、逢う日まで、アリス。」
「また、逢う日まで、ソラト。」

ソラト…。
闇を観ていたボクを光へと導いてくれたウサギさん。
ずっと、待っているから……。



そして、銀色イーブイの少女アリスは、登る朝日に照らされながら消えていった。
大好きなソラトに見守られて。




「おかえりなさい、アザレア。
結界の捕縛、ありがとうございます。」

「…ねぇ、空無(くうむ)。 これで本当に良かったの? わざわざアリスちゃんを消さなくても、貴方の力なら出来たんじゃない?」

「…アザレア。 この世界は様々な物語によって成り立っているんだ。
それがどんなに残酷な物語になってもね。
その喜怒哀楽を乗り越えてこそ、大切な何かに気付くんだよ。
それをより強く感じるのが
"人間"なんだよ。

だから、彼らが導びく"悲しき絆"も、いつかきっと喜びに変わる筈なんだよ。
そして、喜びに、ね?
そう、かつて、僕達が廻る戦争の中で産まれた君との愛の様にね。」

「貴方が他のポケモンではなくて人間に転生させたのか、やっと分かったわ。」

「見守ろうよ。 彼らは"今"を生きているからさ。」

「……そうね!」

「…さてソラト君、君はいつまでここに居るのですか?」

「やっぱりばれてたか、マスターsky。」

「何をすればいいのか分かないのでしょう?
でしたら、貴方に課題を与えましょう。
《強いという事は弱いという事 弱いという事は強いという事》
この意味と真理を解き明かしなさい。」

「……? …わかった。
じゃあ、僕も行くよ、自分探しの旅に。」

「また、会う日まで、神 空兎君。」
「私も待っているわよ、ソラト君。」

「じゃあね、skyさん アザレアさん。」

こうして僕は、終わりの見えない旅路へと再び歩き出した。
止まっていた錆び付いた時計の針が今、再び動き始めた。


〜Fin〜


ー後書きー
これにて《悲しき絆 中編【輪廻転生の絆】の幕閉じです。

何故最初に完結したのに中編なのかは、
〈そうだ、せっかくだから彼(ソラト)がイーブイとして彼女(アリス)に出逢う事を書こう〉
と、完結した後に思いついたからです(笑)
なので、前編は彼のイーブイとしての物語になります。

最後に、
この作品を見てくれて、ありがとうございます。

悲しき絆 後編【絆-永遠の願い】 ?
へと続きます。


最新の5件を表示しています。 コメントページを参照

  • 少しばかり「…」の使い方が気になりました。
    ―― 2013-08-13 (火) 22:55:09
  • 196さん、コメント&指摘ありがとうございます。
    確かに薄暗いと言っても、いろんな状況がありますもんね。
    単に、私の時間描写ミスです。すみません。
    名無しさん
    コメントありがとうございます。
    ‘…’ の使い方が少しおかしいですね。
    要らない ‘…’は、削除します。
    ―― 2013-08-14 (水) 13:19:35
  • お久しぶりです。慶さん、最近することがなく時間をもてあましぎみの196
    ――196 ? 2014-03-09 (日) 02:36:04
  • すみません間違えてしまいました。ごめんなさい。
    では改めて、お久しぶりです。慶さん、最近することがなく時間をもてあましぎみの196です。
    早速ですが一部の「・・・」は「・・・」または「...」(三点リーダー)でもよろしいのでは?
    もうひとつ、?(疑問符)や!(驚嘆符)などを使う際にいくつか空白の空いてない箇所がありました。
    以上誤字報告でした。今回更新なされたところもおもしろかったです。続き頑張ってください。応援してます!
    ――196 ? 2014-03-09 (日) 02:45:47
  • 196様。
    お久しぶりです。 そして指摘ありがとうございます。
    指摘があった場所は、全て"…(三点リーダー)"に統一することにしました。
    応援してくださってとても嬉しいです。
    まだまだ未熟者ですが、精一杯頑張って行こうと思います。
    ―― 2014-03-10 (月) 12:20:50
お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-12-17 (木) 15:34:19
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.