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悪の饗宴 1

/悪の饗宴 1

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悪の饗宴 


作者:COM

悪の饗宴 2

一話 


「号外号外~!! ラインハルト卿が病により逝去されたよ~! それと当代当主がハインリッヒ伯の御子息、ガウナ様が跡を継がれたよ~!」

 一人のホルビーが大声で周囲に呼び掛けながら、器用に動く耳で高々と持ち上げた号外を周囲に見せつけながら街道を歩いてゆく。
 『ハインリッヒ・デューク・フォン・ラインハルト』
 その町の領主であり、聖十字騎士団(ロイヤルナイツ)の団長をも務める知らぬ者のいない盟主だった。
 文武両道を地でゆく英傑であり、領民からの信頼も厚かった彼が病により死んだ事は多くの者を悲しませた。
 しかしながら、それほどの傑物が逝去したことへの悲しみの声は有れど、誰も不安を抱く者は現れない。
 何故ならばそのハインリッヒの息子、ガウナもまた傑物だったからだ。
 リオルの頃よりありとあらゆる技術と知識を叩きこまれ、同じく傑物として育ったガウナはまだルカリオへと進化したばかりだというのに既に数々の武勲や逸話を残していたため、誰もが心配する方がおこがましいとまで思っていたほどだ。
 故に皆が抱いたのは不安ではなく哀悼の意。
 高齢ではあったものの、亡くすには惜しい人であったため、多くの者がその号外を手にした瞬間がくりと首を落とし、胸元で十字を切って故人に祈りを捧げた。
 だが街を駆け抜けたのは何も悲しい話題ばかりではなく、今一度号外を隅から隅まで読み直した者から驚嘆の声を上げる。
 ハインリッヒの葬儀の後に間を空け、当代当主となったガウナが父ハインリッヒの追悼式を行うが、ただ暗い話題ばかりではならないと自身の妻を娶るための一般人を交えた晩餐会も開くことが記されている。
 これには領民達の意見も賛否両論で、父君の死をあまりにも軽視し過ぎているとガウナの計らいを避難する者もいれば、最も悲しいのはガウナ候であるにも拘らず、先行きは暗くは無いのだと知らしめるために明るい話題も提供してくれたその心の広さに感服する者と様々な意見を交わし始めた。
 お陰で確かにただただ悲しむだけの町ではなく、喧々諤々とした様になったことで町は普段と違う形で賑わいを見せる事となったが、同時に若い女性達からは黄色い声が上がり始めた。
 普通ならば領主ともなればその妻も同じく貴族位の者。
 しかしガウナの計らいによって生まれた玉の輿となるこのまたとない機会に町娘達は(こぞ)ってめかし込み始めた。
 当然娘を持つ家の両親も、上手くゆけば貴族身分へと取り立ててもらえるかもしれぬという淡い希望から貯めた金をはたいて娘を美しく仕上げてゆく。
 そんな事もあって数週間もする内に先代の埋葬も終わり、偉大なる英雄を忘れぬためにガウナきっての願いで石碑と石像を作ることになって一足先に石切り達が張り切っていたが、来る晩餐会に備えて町娘達も随分と張り切り始めていた。
 この頃には否定的な意見も消え、町を悲しませないように計らってくれたのだという声で埋まっていたこともあって周囲の町々や国々にまでこの話が広がってゆく。
 それそのものは悪くは無かったのだが、何も誰しもが故人への想いやガウナの計らいを好意的に受け取っていたわけではない。
 若き領主であり聖十字騎士団(ロイヤルナイツ)の団長の座まで受け継ぎ、容姿端麗にして博識洽聞。
 これだけの材料が揃っていれば動くのは何も町娘だけではなくなる。
 遠く離れた土地に居る、悪名高い女性達までにもその声が届いてしまったのだ。
 そうとは知らずにガウナが主催する晩餐会は彼の屋敷で催され、入りきらぬ来賓のために一週間もの間開催され続けた。

「本日は私、ガウナ・フォン・ラインハルトのため、そして父上ハインリッヒのためにお集まりいただき恐悦の到りです。私にとっても掛け替えのない存在であった父上の死を涙で埋めたくはない。その想いで開いた晩餐会です。是非、最後まで心ゆくまでお楽しみください」

 タキシードに身を包み、そのスーツがしっくりと来る端正な顔立ちのガウナは手に持つワイングラスを軽く掲げる。
 ガウナの音頭に合わせて追悼の意を込めた静かな乾杯の後、各々その晩餐会に思い思いを語りながら楽しんでいた。
 集まった客の内、男性は皆ハインリッヒやガウナの思い出話を語り、ガウナへ哀悼の意を伝えつつ、同時に当代当主となったことへの祝いの言葉を投げかけてゆく。
 主催であり主役であるガウナは当然多くの人々に話し掛けられるため、数分話してはまた別の人物の元へ移動し続けていたため、町娘達はその短い時間の間に如何に自分をアピールするかに必死になっていたようだが、慣れない事をしたがために上手く出来ていない者が大半だった。
 それでもガウナは誰にでも好意的に接し、必死に自身をアピールしようとしている女性達全員の想いに真摯に応えてゆく。

「今晩はガウナ伯爵様。本日はこんな素敵な晩餐会を催していただき、こうしてお話しさせていただく機会まで与えて下さったことに感謝しかありませんわ」

 そんな町娘達の中に一人、明らかにその立ち振る舞いの違いを見せる女性の姿があった。
 月明かりの無い闇夜に似た吸い込まれそうな黒の体毛と、それを一際映えさせるワインレッドのドレスを身に纏い、他の娘達のような浮いた雰囲気とは違う妖艶で落ち着き払った笑みと言葉をガウナへと投げかける。
 誰の目から見てもその場に相応しい美貌を持っており、普段からきちんと整えられているのであろうそのゾロアークの髪は、他の町娘のようにバレッタやコーム、ファシネーター等を飾らぬとも十分な美しさを見せつける。

「こちらこそお越しいただきありがとうございます」
「リオーニと申します。以後お見知りおきを」

 爽やかな笑顔を見せて軽く会釈をするガウナにリオーニはスッと右手を差し出し、名を聞かれる前にそう自ら名乗った。
 ガウナもその手を取り、手の甲へ軽く唇を触れさせる。

「ハインリッヒ様の事は本当に残念ですね。ですがこうしてガウナ様が晩餐会を開かれた事、父君もお喜びの事でしょう」
「そう言っていただけると私も開いた甲斐がありました。よろしければ少々お話をしませんか?」
「ええ、喜んで」

 リオーニはそう言って微笑んでみせ、場所を移しながら色々と話をし始めた。
 ただ自己紹介をしただけではなく、自然と会話にまでこぎつけた事に格の違いを見せつけられた町娘達は自ずと自身の負けを認めていたのか、悔しそうな表情を浮かべてその場を離れていった。
 それほどの美しさと自然な会話をできる彼女はすぐにガウナに気に入られて十分以上も話していたのだが、そのリオーニこそガウナが気を付けなければならない存在だった。
 彼女は既に各地に旦那が三人おり、彼氏が四人もいるなんとも爛れた関係を持っている女性なのだが、恐ろしいのはそれだけではない。
 既にこれまでに何人もの男と夫婦の関係になり、何人もの男から金を騙し取っては煙のように消える結婚詐欺師だった。
 彼女がここへ来た理由はただ一つ。
 そろそろ女を武器にするには厳しい年齢に差し掛かっていたため、ここらで早めに足を洗って良い寄生先を探していたところにこの縁談話を聞いたからだ。
 上手く取り入れば文句のつけようもない贅沢暮らしができる以上、もう結婚詐欺などする必要が無いため彼女は自分の持てるこれまでの知識と技術を活かし、ガウナを篭絡するつもりだ。
 だが相手はルカリオ。
 その気配の変化を悟られぬよう本心を交えつつ話す事で彼女の思惑が見破られぬように、しかし円滑に話を進めてゆく。

「おや、ついつい話し込んでしまいましたね。まだ挨拶をせねばならない人がいますので、後程またお会いいたしましょう」
「それは是非。私も楽しい時間を過ごせました。また後程お会いしましょう」

 三十分も話し込んだ後にガウナはリオーニへ一通の封筒入りの手紙を渡し、その場を去っていった。
 その手紙はガウナが事前にこの晩餐会を開くに当たって謳っていた、嫁候補へと渡す招待状。
 まんまとリオーニはガウナに取り入り、玉の輿となる権利を得たのだ。

「流石はお堅い事で有名なラインハルト家のお貴族様。女性慣れしていないようで助かったわぁ」

 先程までガウナが居た時は決して見せなかったような歯が見えるほどの笑みを浮かべてリオーニは呟いた。
 もっと苦戦することも予想していたため、簡単なボディタッチと囁くような甘い言葉、そして性を意識させる所作を交えただけでガウナは簡単に目を泳がせる。
 最後には招待状を渡してきたためリオーニは既に勝利を確信していた。
 封の中の手紙にはこの晩餐会の後に屋敷の裏手から訪問してほしいという旨が書きしたためられており、あとはただその時を待つばかりとなる。
 後程の話は今後縁談を進めてゆくにあたっての話だろうが、既に彼女は二人きりになった時点でガウナを誘惑し、既成事実を作る事で取り入る算段を建てていた。
 絢爛豪華な宴会も数時間も経つ頃には夜の静けさを取り戻し、一人その場に残り続けていたリオーニは手紙に書かれていた通り裏手の方へと回って、改めて屋敷を訪れた。

「止まれ! ここはラインハルト様の屋敷だ。用があるなら明日の朝に表から来い」

 ランタンの明かりが照らす暗い夜闇の中、裏手側の門を見張っていたガオガエンがリオーニへそう言い放った。

「あら、すみません。招待状でこの時間にこちらから来ていただくように書かれていましたので」

 そう言ってリオーニは招待状をそのガオガエンに見せた。

「……確かにガウナ様の字だ。だが少しその場で待て。念のために確認を取ってくる」

 手紙の内容に目を通したそのガオガエンは随分とリオーニの事を訝しんでおり、間違いなくガウナが渡した物だと分かってもなおその場で待つように指示し、一人屋敷へと戻ってゆく。
 リオーニもその背中をただ静かに見送っていたが、内心ガオガエンの対応に苛立っていたため顔に出さないようにだけ気を配り、折角掴んだまたとないチャンスを物にしようと腹の中で謀を巡らせて行く。

「申し訳ありませんリオーニさん。急な事だったのでクシェルに伝えるのを忘れていました」

 数分の後、クシェルと呼ばれた先程のガオガエンと共に慌てた様子のガウナがリオーニを出迎えた。

「気にしていませんよ。寧ろクシェル様が手紙だけで判断しない、とても頼もしい騎士であることがよく分かりましたので、ガウナ様やハインリッヒ様の教育がきちんと行き届いていることに感心したほどです」

 口ではそう言ったものの、無論リオーニはそんなこと心にも思っていない。
 だがこのままではリオーニの算段がガウナの波動を読み取る能力で勘付かれてしまう可能性があるため、すぐに意識を切り替えてゆく。
 屋敷の中へはガウナとリオーニだけが入ってゆき、クシェルはそのまま門番の仕事に戻ったようだ。
 ランタンを片手に長い廊下を移動してそのまま客間へと通されるのかと思いきや、そのままガウナの寝室へと移動した。
 小さな丸テーブルにランタンを置き、そこから少し離れた位置に椅子だけを向かい合わせに並べてリオーニにそこへ座るように促すとガウナ自身も席に着き、一呼吸置いてから話し出す。

「私室で申し訳ありません。あまり大っぴらに話せる内容ではないので、イエッサン達にも知らせていませんでしたから客間の方の片付けがまだ済んでいないのです」
「いえお気になさらずに。確かにガウナ様のようなお方が町娘を嫁にというのはあまり良い話ではないでしょうから」

 ガウナは対応の殆どを自分自身が行い、碌にもてなしも出来なかったことを素直に謝ったが、リオーニとしてはこの状況は嬉しい誤算だった。
 リオーニから誘うまでもなく寝室に行くことができたのは、一つ障害を飛ばせたような状況であるため後は単純に肉体の関係を持ち掛けるだけでよくなる。
 しかしあまり強引に話を進めても好印象は持たれないであろうことを考え、ガウナの話に合わせつつ少しずつ話を逸らす作戦でゆくことに決めた。
 予想通り大まかな話の内容は会話した女性達の中でも特に話しやすく、相手をしていてあまり気を遣う必要が無かったことから気に入ったとのことだった。
 そのため、今後六日間ある晩餐会の中で他にもいいと思える女性がいるかをしっかりと考えた上で、今一度答えを出したいというものだ。
 当然そんなことになってしまえばリオーニとしては非常に困る。
 ライバルの居ない今の内であれば、肉体関係を持つことが出来ればもはや勝利と同義である。
 見れば見るほど女性慣れをしていない上、自身が貴族位であるためどれほど女性を侍らせようと文句の一つも言われないというのにも拘らず、一人一人と誠実に話をしたいという初心さを如何なく発揮している。
 だが当然狙うのは妾の侍女や側室ではなく正妻。
 ガウナのお堅さを逆手に取り、自分以外の女性が取り入る隙が無くなるよう吹き込めば彼女の今後は安泰となる。

「ですので折角最初にお声をお掛けしたリオーニさんには申し訳ありませんが、もう暫くお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「そうですね。確かに相性というものは夫婦の関係ではとても大事な物ですから、じっくりと時間を掛けて考えるべきです。ですが、もう一つとても大切な相性があると私は思っているのです」
「もう一つ……ですか? それは一体何でしょうか?」

 ガウナの純真さを利用して言葉を誘導してゆき、彼がリオーニへもう一つの重要な物を聞き直した時、思わず心の中でにやけてしまう。

「夜ですよ。性格や考え方のような精神的な相性もとても大事ですが、それと同じぐらいに大切なのは身体の関係ですよ」

 リオーニは妖艶な笑みを浮かべ、赤い爪の先を二人の視線の間で揺らした後、ゆっくりと自らの唇からゆっくりと辿ってゆき、胸の谷間を下って腹の上を滑り抜け、股間の付近で止まり、トントンと指し示す。
 言葉の意味を理解できずとも、そのリオーニの行動が何を指し示しているのかはガウナにも理解できたらしく、途端に視線が彼女の指の先に集中したあと、赤面して顔を逸らした。

「どうです? 確かめてみたくありません? 私との相性を……」

 顔を逸らしたガウナへ息がかかるほど顔を近づけ、彼の耳へ向けて囁くように誘う。
 ガウナの側頭部にリオーニの長いマズルが触れ合い、互いの毛の感触を感じさせながら、耳へ甘い吐息を流し込んでゆく。

「い、いや。そういうのは……」

 口では断ろうとしているが、ガウナは決してその場から動こうとはしない。
 期待しているガウナに応えるようにリオーニはそっと自らの手をガウナの手に沿わせ、自身の爪とガウナの手の甲に生えた棘を合わせるように挟み込み、ゆっくりとガウナの手を引いてリオーニの身体の方へと引き寄せてゆく。
 まるで人形のように動かなくなったガウナの手をリオーニはそのまま自身の胸に当てた。
 ドレス越しでも分かる体毛とも違う柔らかな感触にガウナは感嘆の息を漏らし、返すようにリオーニは湿った吐息をガウナの耳元へと届ける。
 本能とでも言うべきか、ガウナの引き寄せられた手は既にリオーニの誘導ではなく、かといってガウナの意志にも従わずに自然とその形状を確かめるようにゆっくりと円を描くように、一際黒く極上のキルトのような体毛の下にあるさらに柔らかな膨らみを確かめる。
 それに呼応するようにリオーニの吐息は次第に熱を増してゆき、さらに熱を加速させるが如くガウナの側頭部から耳へと舌を這わせ、耳の縁から軽く舐め上げて彼に淫靡な水音を聞かせる。
 それだけでガウナは全身の毛を逆立て、初めての性の快楽を存分に堪能していたようだが、彼女もそこで手を抜くつもりは無い。
 リオーニは硬い爪で萎えさせてしまわぬように存在感を示そうと布地の下から熱を発するガウナの股間へとするりと手を滑り込ませ、柔肌を撫でるように優しく触れる。

「ガウナ様ももう辛抱ならないご様子ですね。さあ、私めにもラインハルト流の手ほどき、していただけませんか?」

 もう既に堕ちるのも時間の問題だが、それでもリオーニは決して手を抜かない。
 椅子に貼り付けられたままになっているガウナの身体を軽き引き寄せるように動かし、自然と立つように促す。
 スリーパーの催眠術にでも掛けられたようにガウナも自然と立ちあがるが、それ以上は動かない。

「そ、その……申し上げにくいのですが私は女性との……そういった経験がありませんので」

 気恥ずかしそうに顔を赤らめながらガウナはそう言ったが、リオーニにはとうの昔に分かっていた。

「でしたら今宵は私がガウナ様にご指導致しても宜しいのでしょうか?」

 艶やかな表情の中に何処か嗜虐心を含んだ笑みを零して、リオーニは冗談を交えながら彼の返事を待つ。
 こちらにまで聞こえそうなほどしっかりと生唾を呑み込み、ガウナは恐る恐る首を縦に振った。
 それを見るとリオーニはガウナの使っているベッドへと導くのではなく、先に唇を重ね合った。
 柔らかな感触と互いの鼻息が間近に感じられ、リオーニが先にゆっくりと口を軽く開いて舌をガウナの唇へと当てる。
 開けてほしいとでも言うように舌を動かしてガウナの歯を嘗めると、答えるように彼の舌が恐々と伸びてくる。
 辿るように彼女の舌がガウナの口内へと滑り込み、舌を絡め合わせる。
 二人の唾液が混ざり合うとその吐息は更に激しさを増し、次第に互いの舌を求めるように顔を斜めに交差させてゆく。
 より深く互いを求め合い、舌と舌が牙と牙が交じり合うまで舌を絡め合う頃にはどちらからするでもなく自然と互いの頭を引き寄せていた。
 肩で息をしなければならない程夢中で互いを求め合い、絡み合った舌を解くと混ざり合った二人の透明な液体が無数の泡と共に薄く伸び、そして静かに消えてゆく。

「折角の素敵なお召し物が汚れてしまいますわ。続きは肌と肌を重ね合わせてから……」

 既に小さなシミを作っているガウナの股間を見て、リオーニはそう呟き、少々力強くリオーニの腰を掴んだガウナの手を掴みながら悪戯な笑顔を浮かべてそう言う。
 焦るようにガウナは自らのタキシードを脱ぎ捨ててゆき、ベルトを外そうとしたところでリオーニの手がそれを遮り、代わりに下を脱がせてゆく。
 ズボンを下ろすと既に熱を帯びて湿り気を纏ったペニスが現れ、青い体色と対を成す淡い赤色が自己を主張する。
 鼻腔をくすぐる若々しい雄の匂いに思わずリオーニの表情にも雌の本能が現れるが、がっつくような真似はしない。
 ズボンをゆっくりと下ろし、そしてしゃがんだまま彼のペニスへゆっくりと口付けをする。
 鈴口とリオーニの唇が触れただけでガウナには稲妻にでも打たれたかのような衝撃が腰から全身を駆け巡り、例えようの無い多幸感を味わって今にも腰が砕けそうになっていた。
 リオーニの鼻息がペニスを撫でる度に痺れが全身を襲い、彼女が触れさせていた唇を開いてペニスを口の中へと受け入れると途端に腰が砕け落ち、掛けていた椅子に投げ出されるように座り込んだ。

「ま、待ってくれ。もう限界が……」
「そのようですね。雄の匂いが濃くなりました。ですが伯爵様はまだまだお若いですから一度口で果てていただいても丁度良いでしょう」

 懇願するような情けない声が荒い息遣いと共に絞り出されたが、リオーニはその要求を呑むことは無かった。
 ゆっくりと股間へと顔を近づけてゆくリオーニをわざわざ逃げ場のない背もたれへと身体を逃がし、手で必死にリオーニを制止しながらも決して触れることは無い。
 理性と本能の鬩ぎ合いが垣間見えるガウナの初々しい反応を楽しみながら、嗜虐心に軽く火の点いたリオーニはペニスへと舌を這わせながら彼の力強いイチモツ牙を当てないようにしながらゆっくり口へと含んでゆく。
 全身の熱と快楽が噴き出すような吐息を漏らしながらガウナは全身を硬直させ、全ての神経をペニスへと集中させていた。
 絡め取るような舌の動きとモノ全体を扱きあげるような前後の運動、それに加えて敢えてリオーニは彼のペニスを舐る音を立てていたため経験豊富な男性でも十分に楽しめるような口淫だっただろう。
 そんなものを初めての経験であるガウナがそう長時間耐えられるわけも無く、数分としない内に全身を大きく仰け反らせながらリオーニの口の中へ精液を放った。
 ドクンドクンと大きく脈打ちながらリオーニの口内へと溢れてゆく精液は、若さゆえか彼女の口から溢れそうなほどに止めどなく放出され続けてゆく。
 それを彼女は喉を鳴らしながら飲み込んでゆき、さらに欲しいとでも言わんばかりに舌で彼のペニスを刺激して射精を促すほどだ。
 脈動も弱まり、ガウナもぐったりと脱力しながら背もたれに体を預けたのを見るとリオーニは彼のペニスから口を離し、また少しだけ意地悪そうな表情を浮かべて微笑んでみせる。

「流石は伯爵様。若々しくてとても濃い味です。さあ、続きはベッドの上で……」

 そう言って妖しげに微笑みを投げかけて誘うように、しかし力強く手を引くような真似はせずに手を離し、一人歩きながらゆっくりと自らのドレスを脱ぎ始めた。
 ゾロアークの長い髪に隠れて分からないが、背中のファスナーを下ろし、ドレスのラインのままの美しいフォルムが姿を現す。
 そのままベッドへと腰掛けるように移動し、指で糸を手繰り寄せるようにガウナを手招く。
 操られるままに動く人形のようにガウナは立ち上がり、そのままリオーニの内腿に手を乗せた。
 女性の軟らかな質感と共に程良く引き締まった筋肉が熱と共に感じられ、毛を逆立てるように撫で上げてゆく。
 僅かに膨らみを持った秘部へと指先を伸ばしてゆくほどに、その場所が燃え上がりそうなほどに熱くなっているのをガウナは感じ取った。
 黒い体毛の滑らかな丘の上、僅かに入った切れ間には美しい桃色の筋が垣間見える。
 そっとその筋の左右に指を置き、軽く力を入れて左右へ広げると筋はふわりと割れ拡がり、熱と湿り気を芳醇な雌の香りと共に広げてゆく。

「美しい……」
「そんなにまじまじと見られては恥ずかしいですよ」

 自然と零れたガウナの言葉にリオーニは恥じらいからか算段からかは分からぬものの言葉を返したが、当のガウナの耳には届いてはいなかったようだ。
 鼻腔へと届く匂いにつられ、蜜を求めるミツハニーのように本能でガウナは顔を近付けてゆき、舌先を花弁へと触れさせる。

「あっ……んっ。いけませんガウナ様。汚いですから」

 鼻先から撫でる空気と触れた舌の感触に思わず艶のある声が漏れる。
 しかしリオーニはそれを言葉でやんわりと止めたが、ガウナはそのまま触れた舌先を舐め上げて一度顔を離す。

「汚くなどない。とても美しい色をしている。それに君がしてくれたように私もしたいのだ」

 その眼差しは真剣そのもの。
 今この瞬間、ガウナは本気でリオーニを欲しているのだろう。
 次の言葉を聞くよりも早くガウナは顔をリオーニの股へと近づけ、二度、三度と蜜を舐めとるように花弁を舐めた。
 舌先と彼女の花弁が触れる度、押し殺した嬌声が僅かに聞こえてくる。
 夢中で舐める内にガウナの一度は力を失ったペニスも今一度しっかりと硬さを取り戻し、その出番が今か今かと待つかのように跳ね、透明な液で竿を湿らせてゆく。
 次第に花弁の蜜を舐めとるような舌遣いから掻き出すような動きへと変わり、花弁の奥深くへと舌が滑り込んでゆく。
 途端にリオーニの全身が僅かに強張り、溢れる声が我慢しきれないのか自らの手で思わず抑えていた。

「ガウナ様、でしたら私ばかりではなく、私にも貴方様のそのイチモツを下さい」
「ど、どうすれば……?」

 突然の申し出にガウナは戸惑っていたが、自らのペースを取り戻したからか、リオーニの恍惚としていた顔に嗜虐心の見える微笑みが戻ってきた。
 一度ベッドから立ち上がり、ガウナを導くように体を引き寄せてゆっくりとベッドへ今一度身体を預ける。

「顔の上から私の上に覆い被さってください。そうすればガウナ様のイチモツは私の目の前に、私のアソコはガウナ様の前へと自然と来ますので」

 言われるままに椋鳥の体位になり、そのままリオーニの上から今度は逆さまの状態で花弁を舐める。

「あっ……! そ、そこは……」
「す、すまない。痛かっただろうか?」
「いえ、敏感なところですので少々抑えが効かなかっただけです」

 逆になったことでガウナが真っ先に下先を触れさせたのは花弁の頂点にあるクリトリス。
 既にぷっくりと膨れ上がり十分な感度を持っていたリオーニには少々刺激が強すぎた。
 ガウナは感心するように何度か頷き、ゆっくりとその小さな豆を優しく舐め、そのまま下へと舌を滑らせてゆく。
 リオーニの湿った吐息が自らの怒張したペニスへと掛かり、思わず身体が跳ねそうになるが、ガウナはそのまま同じようにして舐め続けた。
 しかしこの姿勢になったからはいつまでもガウナばかりが相手を攻める訳にはいかない。
 敏感になったガウナのペニスに絡みつくように長い舌が触れ、それを辿ってペニスが一気に飲み込まれてゆく。
 先程とはまた違った口淫による刺激に、ガウナは金縛りにあったように身体を動かすことができなくなってしまった。
 快感の刺激に支配されたまま全体が飲み込まれては、先端だけが熱い口内に残ったままとなるような激しい口淫にただ人形のように全身を強張らせるしかなかったが、何度かそれを続けられる内に刺激が収まった。

「伯爵様には少々刺激が強すぎましたね。私の方は加減しますのでどうぞ私の蜜、お楽しみください」

 股下から視線と声だけでリオーニはそう伝え、ガウナにも前戯を楽しむ余裕を与えた。
 声に従ってガウナは今一度リオーニの股へと舌を伸ばしてゆく。
 クリトリスを舌の根元から先端まで舐めあげるように舌を動かしながら、クリトリスを過ぎた舌は奥深くへと滑り込んでゆくように動かし、その味を堪能した。
 しかし彼のペニスにも刺激がないわけではなく、鈴口にキスをするように彼女の口の先端が宛てがわれており、時折先端を舌が舐めてくる。
 宣言通りにリオーニが手加減をしていることが分かり、自分も彼女を満足させられるようにと更に舌を使って全体を味わうように舐めてゆく。
 少しずつその行為に夢中になっていたガウナだったが、不意にリオーニの腕が彼の身体を押し上げてきた。

「ガウナ様、私の身体に夢中になっていただけるのは嬉しいですが、私の身体は鋼ではありませんので貴方の棘で怪我をしてしまいます。ご容赦していただけるでしょうか?」

 そう言ってリオーニはいつの間にか距離が近くなっていたガウナの身体を押しつつ、胸にある棘の周囲を爪で撫でていた。

「す、すまない! いつもは気を付けているのだが、まさかこんなことでご婦人の肌を傷つけるような真似をしてしまうとは……」

 飛び退くように身体を起こしたガウナはすぐに足元から見上げるリオーニに謝ったが、リオーニはその様子も嬉しそうに笑いながら眺めていた。
 それもそうだろう。
 既にガウナは我を忘れるほどリオーニとの情事に夢中になっており、このまま最後までゆけばそれはもう篭絡できたも同然である。
 邪心が思わず表情からも溢れ出そうになってしまうが、必死に抑えて今はただ恋人のように夜伽を楽しむことにだけ集中した。

「気にしてはおりませんよ。でももう前戯は十分でしょう。さあ、私の身体を堪能してください。そしてしっかりとお互いの身体を確かめましょう」

 リオーニは一度身体を起こし、最初に腰掛けた時と同じ位置へ座り直してガウナにこちらへ来るように促すよう手を差し出した。
 まるでダンスの相手に差し伸べるように出された手をガウナはそっと手を重ねて取り、引き寄せられるままにリオーニの前へと歩み出た。
 蒼の毛並みからそそり勃つ赤い肉棒は彼女の唾液と自らの分泌液で透明な皮膜を作っており、その粘液と彼女の粘液が絡み合うようにそっと添えられる。
 黒灰色の毛並みから覗く美しい桃色の恥丘に軽く触れ、滑らかにその上を謎って彼女の腹の毛を少し湿らせた。
 今すぐにでも彼女の身体を堪能したいという衝動に駆られながらも、ガウナは彼女の唇に自らの唇を触れさせ、顔を少しずつ斜めにしてゆきながら今一度舌を絡めあった。
 何度か二人の唾液を交わらせて存分に唇を堪能した後、耐え切れないと言うように彼女の恥丘の上で小刻みに跳ねていたペニスを掴み、少しずつ力を加えて彼女の花弁の中へと先端を押し当ててゆく。
 既に十分に滑らかになった彼女の膣は一切抵抗することもなくガウナのペニスを受け入れ、寧ろ待ち望んでいたとでも言うかのように呑み込んでゆく。
 感嘆にも似た細い息を吐きながらガウナの身体が意志と関係なく硬直してゆく。
 軟らかな秘肉の感触と自らの体温とは違う刺激、そして敏感になった肉棒から伝わる熱は溶けてしまうと錯覚するほどに熱い。
 本当に溶け合ったかのような一体感。
 そんな心地良い幸福感とペニスから伝わる快感が全身を駆け巡り、筋肉が緊張しているのか弛緩しているのか分からなくなる。
 倒れこむように彼女の上に覆い被さり、それでも二度も理性を忘れて婦女子の身体に刺を当てるような真似は出来ぬと耐えたのか、しっかりと両の腕で体を支えた。

「嬉しいですね。私の身体、それほどまでに心地よかったですか?」
「あ、ああ……。これほどまでに心地よいものだったとは……」
「フフ……相性は言葉にするまでもないようですね。是非堪能してください」

 そう言いながらリオーニはガウナの背中へ包み込むように手を回し、うっすらと紅潮した顔で微笑んでみせる。
 お互いの秘部を結合させたままガウナは生唾を飲み、今一度美しいリオーニの上半身を舐めるように見た。
 リオーニの身体はそれこそ男の欲望を体現したような美しいフォルムだっただろう。
 その肉体を欲しいままにできるのは、今この瞬間はガウナただ一人だ。
 それを確かめるかのようにしっかりと力を加え、深々と挿入したままだったペニスをゆっくりと引き抜く。
 ジリジリと焼き焦がすような快感が身体を突き抜け、本能に後押しされるように体を支えていた腕をリオーニの腰へと添えて今一度深く彼女の中へと突き入れる。
 グチュリという水音と腰と腰とがぶつかり合う乾いた音が響き渡り、二人の嬌声が小さく押し殺したように響く。
 一度腰を動かし始めればもう後は本能に身を委ねるのみ。
 卑猥な水音が二人の耳元まで届き、そしてその音すらも聞こえなくなるほど甘美な矯正を押し殺すこともできずに上げる。
 だがその至福の一時もリオーニからすれば両の手で数えられない内の一度でしかないためほんの短い間でしかないが、ガウナにとっては初めての経験。
 あっという間に限界を迎えたことを知らせるような高揚感と浮遊感に足腰が勝手に浮かび上がっていた。

「す、すまない……! もう限界だ」

 ガウナが苦しそうに快感に顔を歪めるとリオーニはその妖艶な瞳を一際妖しく輝かせ、放り出していた脚でしっかりとガウナの腰を挟み込んだ。

「な、何を!」
「構いませんよ。私の中で果ててください」

 そう言ってリオーニは動きを止めていたガウナの腰を慣れた仕草でグイグイと器用に動かし、彼女の中にあるガウナのペニスをくねらせるように蠢かせ射精へと導く。
 悲鳴にも思える嬌声を上げながらガウナはただ成す術もなくその強制的な快楽を味わわされ、抵抗することもなく、しかし彼女の柔肌を傷付けまいと最後の理性で突っ張った腕の力を抜かないことしかできないまま、呆気なく彼女の中へ自らの子種を解き放っていった。
 体の中に充電され続けていた痺れが一気に解き放たれるような、頭の中を白一色に染めてしまうような快感と雄としての達成感と支配感が満たしてゆき、自らの肉棒の脈動だけが感じ取れるほどに全ての意識がその一点に集中していた。
 性交に全てを支配されたかのようにただ放ち続ける精液を止めることもなく、理性がある程度働くようになっても最後の一滴までもが放たれるまでしっかりと身体を繋ぎ合わせたままだった。
 今までどんな訓練でもこれほどまでに疲弊したことがないと思える程にガウナは大きく息を荒げ、全身の疲労感と共に充足感を味わいながらゆっくりと視線を自分の下にいるリオーニの方へと向ける。

「どうやら私達の身体の相性はとてもよいみたいですね……。これならば婚姻を結んでいただいても大丈夫でしょう。私も安心できましたわ」
「す、すまない。身篭らせるつもりはなかったのだ」
「大丈夫でしょう。たった一度の行為で何も必ず孕むわけではありません。それにガウナ様ほどのお方ならば、いくらでも誤魔化しが効くでしょう。その時はまあ……ご協力させていただきますわ」

 初めての性行為を終えてガウナはただただ謝っていたが、リオーニとしては目論見通り事が進んだこともあり、全く意に介していない様子でクスクスと余裕のある顔で笑みを浮かべた。
 とはいえ、このまま事を終えてはガウナにその目論見がバレてしまう可能性もあるため、腰に回していた手を離し、そっとガウナの顔の輪郭を撫でながら口にした。
 その後は軽く口付けを交わし、行為で汚れてしまった部分を拭ってから少しだけピロートーク基、この婚約者探しの晩餐会の後の事を話し合った。

「申し訳ないが、やはり今日一日限りの出会いで決めるのは余りにも今後も私との出会いを求めてやってくる者達に対して不公平だと私は思う。だからこそもう暫く返事に関しては待ってもらう事になるが、それは構わないだろうか?」
「構いませんよ。ですが私は確信しています。私こそがガウナ様の運命の人だと」

 そう言い、ガウナから渡されたグラスを二人で軽く鳴らした後、一気に飲み干してその日の夜会は終わりを迎えた。
 ガウナに今一度裏手まで送り届けられ、静かに手を振り合って別れた後、暫く歩いた道の途中でリオーニは今まで堪え続けていた笑いを遂に耐えることができなくなり、勝利を確信した笑顔を浮かべ笑った。
 一頻り笑った後、リオーニはまだガウナの催した催事で湧いている街へと消えていったが、その光景を見逃していない者が一人そこにいた。

「ガウナ様。やはりあのリオーニという女、とてもではないですが危険すぎます。一人になった途端あれほどの邪気を孕んだ声で笑う者は、男女問わずあまり見かけるものではありませんし、間違いなく何か企んでいます」

 初めからリオーニの事を訝しんでいたクシェルは屋敷から離れたリオーニの後を夜目の利く目で遠くから追いかけており、きっちりとその終始を見ていた。
 会話の内容や目論見こそ分からなかったものの、何の考えも持たない者が道の真ん中で急に人目も憚らないような笑い声を上げることは間違いなく異常だと考え、ガウナにそのことを報告しに戻っていた。

「クシェル。君の仕事は門番であって仲人ではない。私の目に狂いはない事は君だって知っているだろう? 私を信じてくれ」
「いやまあ……ガウナ様は幼少の頃からよくご存知ですが、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だ。安心してくれ」

 クシェルの忠告を聞いてもガウナの意思は変わらなかった。
 まさかそんな怪しさしかない女性と既に身体を重ね合わせているとはクシェルも夢にも思っていなかっただろうが、その事実をガウナは決して打ち明けず、ただ信じてくれとだけクシェルの目をまっすぐに見て答える。
 それを見てクシェルは何度か頭をあっちへこっちへ捻りながら悩んだ後、深い溜息を吐いて諦めるようにガウナの言葉を信じた。
 こうして波瀾に満ちた晩餐会の一日目の夜は鮮烈に、しかし誰にも知られることなく終わりを迎えてゆくのだった。
 これから更に大きくうねりだすとも知らずに……。

二話 [#1piBnLO] 


 密やかな一日目が終わりを迎え、町娘達が今度こそはと奮起する中、リオーニは昨日の熱い夜の事を思い出しながら自らの下腹部を擦り妖しく微笑んだ。
 普段の彼女は決して男性との夜伽を行っても中に出させることなどしない。
 相手の好みに合わせて自らを幻影の能力を用いて化けて接触し、好感を持たせて恋仲となったように見せかけ、高価な品を贈らせながら距離を縮めてゆき、結婚すると財源が尽きるまでは妻のままでいる。
 それが普段の彼女のやり方だ。
 故に子供が生まれることだけは避けなければ、自分がゾロアークであることがバレてしまうため、子供が欲しくない等と適当な事を言って避け続けていた。
 その甲斐もあり、今まで彼女の悪名は知れてはいるがその正体がゾロアークだと知る者はほとんどいない状態だった。
 おかげで彼女は今回の晩餐会にも悟られずに侵入することができ、更に目的であったガウナとの接触どころか既成事実の獲得まで成し遂げることができたのだ。
 例え嫁候補に選ばれなかったとしても、このことをネタに揺さぶりをかければ最悪でも側室にはなれるだろう。
 だからこそ先に素性を明かして不信感を抱かれないようにし、後はこれまでに積み重ねてきた男性に好かれる為の仕草や話し方、作法をもってすれば尽きることのない財源を手に入れることとなる。
 そうなればもう彼女の今後は安泰となる。
 だが狙うならば正妻。
 側室止まりでは得られる権限など僅かなものとなってしまうだろう。
 だからこそリオーニは自らが正妻となるための外堀を埋める手段として次のステップへと歩を進めた。
 一方のガウナの領地内は一日目の盛大な晩餐会に関する話題で持ちきりとなっていた。
 それどころか話は周囲にまで拡がっており、別の領地の娘たちまでもがこの機会を逃すまいと噂をしてはめかしこみ、その噂がどんどん伝わってゆく……といった具合に晩餐会へと訪れるポケモンの数は倍々算で増えてゆく。
 一日目が駄目だった娘達は二日目こそはと躍起になり、そしてこんどこそはと更に三日目に訪れるため来訪者が減ることはない。
 ただただ接触の機会が減ってゆくだけだとしても誰もが自分こそはと信じて集まってゆき、ついには屋敷内に収まりきらないほどの客で溢れかえるほどの始末になり、周辺の警備に聖十字騎士団(ロイヤルナイツ)をほぼ総動員しての対応となるほどにまで発展してしまったが、晩餐会そのものは止めるつもりはないようだ。
 広がる噂を聞きつけてきたのは当然ガウナ伯の正妻になりたい者達だが、それだけではない。
 それだけの私財を気前よくばらまける程の財力に、別の意味で惹かれてくる者もいる。
 夕闇が濃くなってゆく中、その夕闇と夜闇が溶け合う空色と同じような色合いのポケモンが鼻歌混じりに上機嫌で道を歩いてゆく。
 そのポケモンはフォクスライのミア。
 婚姻話に興味をそそられてやってきた者ではなく、尽きぬ財源を少しばかり拝借しようとやってきた所謂盗賊だ。
 特にガウナに気に入られる必要もないが為に特に衣服や装飾品を身に付けているわけではなく、きちんと手入れの行き届いた毛並みが美しいと感じる程度の装いだ。
 しかし群れを成すわけでもなく一人で動き回り、あちこちとフラフラと移動してはそういった富豪の家へと侵入して金品を奪い取る自称"怪盗"なのだが、お世辞にも徒党を組まないこと以外はそこらの盗賊と大差がない。
 とはいえ自称しているだけあって実力はあり、盗る物を盗ればさっさと消える手際の良さと華麗な立ち回りでいとも容易く堅牢な警護の隙を突き、逃げ出す柔軟さも併せ持っている。
 そのためミアも本当の名前はバレてはいないものの『怪盗フォックスアイ』の名では知れており、様々な領地を転々としては盗みを続け、活動が難しくなれば新たな地へと移るを繰り返していた。
 そんな彼女の耳にガウナ伯の盛大な晩餐会の噂が届かぬはずもなく、人の数が多くなり出した頃を狙ってミアも訪れた。
 だが当然そのような考えを持つ輩はミアに限らず、時を同じくしてもう二名の不遜な者がガウナの領地を目指して集い始めていた。

「皆様、楽しい時というものは過ぎるのが早いもので、今日で晩餐会も三日目となります。しかし父上を偲んで集まっていただける方々とも、私との出会いを求めて訪れるご婦人の方々も是非最後までお楽しみいただけたらと思っております。では皆様グラスを」

 三日目の夜も始まり、近くはもとよりはるばる遠方からラインハルト家と縁のある者達が続々と訪れてくる。
 方やラインハルト家と古くから騎士団として共に戦ってきた各地の騎士団の首領や兵士長、そして当主が変わったことで今の内に取り入っておこうとあまり縁の無い領主達までもが押しかけ、より町娘のような一般の人々が入りにくい状況へとなってゆく。
 そんな中でも健気に町娘達はガウナに一声掛けようと奮戦し、今日こそは話せた駄目だったと一喜一憂しながら去ってゆくため一応屋敷内の人数が増えすぎるような状況には至らないようになっていた。
 場内も場外も人で溢れかえっているためこの状況はミアにとっては非常に都合が良い。
 堂々と来賓客を装って屋敷内へと侵入し、場内を目指す娘達の列から逸れて裏手へと回るように移動しながら警備が手薄な箇所を探してゆく。

「おい、そこのお前。こっちは来賓客の来る方ではない。用があるなら正面に行け」
「あらすみません。なにせこの辺りには初めて来たもので……」

 ミアが歩いてゆく先にいた一人のヘルガーが睨みを効かせながらミアへとそう言葉を投げかけた。
 彼は聖十字騎士団(ロイヤルナイツ)で一隊長を務める一人であるアドルフ。
 強面で口数が少ないためよく恐ろしい人だと勘違いされているが、本人は優しい性格の持ち主である。
 だが今は絶賛ガウナの指示によって屋敷の警備を任されているためかなり不機嫌になっていた。
 元々お祭り事があまり好きではなく、更に忙しいだけで対して彼にとって楽しくもない仕事を命令とはいえ任されているため語気も少々荒くなっている。
 普通ならばそんなアドルフに声を掛けられれば誰でも一瞬竦むものだが、普段からそういった輩とも対峙する機会の多いミアは自分の行っていることを悟られまいと笑顔で答えるがそれが裏目に出る。
 アドルフは普段ならばそういった犯罪者を相手取って戦う事が多いため犯罪者が咄嗟に取る怪しまれまいとする行動の方がよく分かる。

「待ちな。お前の目的はなんだ?」
「何を言っているんですか。私も他の人達と同じで一目ガウナ様に会わせていただきたいだけですよ」

 ただ苛立っていただけのアドルフの表情が一瞬にして真剣なものに変わる。
 まだ確証はないものの、今までの経験と直感からミアのその答え方は場慣れしている者の返答であると結論付け、アドルフは最悪の場合暗殺者であることを想定して戦えるように身構えながらミアの出方を待つ。
 同じようにミアの方もアドルフが戦闘態勢に入ったことを気取り、この場で事を荒げてもなんの得にもならないと考えて町娘達がこの場へと向かっていた噂話と同じことを話してみせる。
 暫しの沈黙がその場を支配し、長い睨み合いが続く。

「あの……お名前をお伺してもよろしいですか?」
「アドルフだが、それがどうかしたのか?」
「アドルフさんというのですね。私はミアと言います。遠方から来たのでこの辺りに詳しくありませんので、もしよろしければお屋敷の入口の方を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「……っはぁ~。すまん。昨日から慣れん仕事をしているせいで気が立っていた。案内するからついて来い」

 気まずい空気が流れたが、先にミアが入口へと向かいたいことを伝えると溜息を吐いてからミアを横切り、向いていた方向と逆へと歩き出す。
 ミアに感じた違和感も自らが気を張り過ぎていたせいだとアドルフは考え、ミアを先導した。

「まったく、ガウナ様は何を考えているのか分からん」
「どうされたんですか?」
「自らの父君が亡くなったというのにそれを祭り事にしてしまう気が知れん。それどころか自分の嫁探しにしたうえ、俺達まで警備に当てる始末だ。器量も度胸もあるがどうにもハインリッヒ殿のように素直に好きになることができん」
「弔い方は様々な感性があると思いますよ。所によれば死者が悲しまないように笑顔で送り出す地方もあるとのことなので」

 入口へと向かう間、アドルフはそう言い、少々愚痴を零していたが、それをミアはただクスクスと微笑みながら聞く。
 そうする内に入口へと戻ってきたミアとアドルフだったのだが、入口の混み具合はミアが訪れた頃よりも遥かに酷いものになっていた。
 場内へ向かおうとする者達と帰ろうとする者達で混沌としており、各地の貴族等がその波に呑まれぬように警備するので手一杯といった様子だ。

「ここが入口だ。見ての通りの混雑具合だから……まあ、頑張れ」
「入口だったのですね……」

 念のためこちらから裏手の方へと回っていたためミアはそう言葉を漏らしてからアドルフに礼を言ってその人混みの横に付いた。
 場内に入るだけならばその列に混ざり込めば不可能ではないだろうが、入ったところで場内も同じ様相ならばとてもではないが物色などできるような状況ではないだろう。

「どうするかしらねぇ……」

 既に一度こちらへ戻されている以上、また警備の薄い場所を周囲を探索しながら探すわけにも行かず、かといってその人混みに巻き込まれるのも嫌なため本来の目的をどうやって果たすか途方に暮れていた。

「あらぁ? これはこれは有名な"髭男爵様"じゃありませんこと」
「そのムカつく呼び方をやめて頂けませんか?」

 ミアへと声を掛けてきたのはリオーニだった。
 いかにも相手の神経を逆撫でするような笑いの混じった声で話し掛けると、ミアも明らかに苛立ちを見せてリオーニを睨み返した。
 お互いに名の通った悪党であるためか、こういう場で出くわすことは少ないが多少なりは面識のある者同士だったためか、わざわざリオーニの方から寄ってきたようだ。

「貴女がこんな社交界の場に何の用なのかしら? それとも結婚でもお考えで?」
「まさか。社交界にも結婚にも興味ありませんよ。何処かのアバズレと違いますからね」
「なんですって?」
「あらあら、御歳を召されて耳も遠くなったのかしら?」

 出会うなりミアとリオーニはバチバチと火花でも散りそうなほどお互いに皮肉を飛ばし合う。
 あくまでお互い領分は違えども犯罪者同士であるため時折標的が被ることもある。
 そういった場合は喧嘩にもなるため、リオーニはこういった輩が晩餐会の噂を聞きつけてやってくる前に動いていた。
 他の町娘がガウナに気に入られるのを防ぐために残りの晩餐会にも参加する予定だったが、もう一つの大きな目的はミア達のような面倒事が訪れてこの結婚話自体がご破算となることを避けるためでもある。

「見つけたわよリオーニ! ふざけた真似をしてくれたわね!」
「あ~ら何の事かしら♪」

 腹の立つ笑顔を見せながらクスクスと笑うリオーニにドカドカと近寄ってきたのは一人のマニューラだった。
 どうもこのマニューラもミアに会う以前に何かをリオーニからされたようで随分とご立腹の様子だ。

「イゾルダじゃない。貴女までこんな場所に何の用なの? 婚活?」
「あ? お前ミアか。お前の方こそ何の用だ。言っておくけれど私はお前達みたいに目的もなくフラフラしているわけじゃないからな」

 そのイゾルダと呼ばれたマニューラはミアの声を聞くと随分とドスの効いた声で聞き返す。

「あら、まるで貴女は目的があって来たみたいな言い方ね。見ての通り商人紛いの事なんかできる様子じゃないわよ」
「五月蝿い髭女」
「あ? 群れなきゃおままごとしかできないチビ女とは違うのよ」
「あらあら助かるわ。それじゃ二人共そのまま潰し合ってて頂戴」
「お前はもっと待て!」

 リオーニとミアにイゾルダまで加わり、三者三様に汚い言葉を投げつけ合っていたが、この二人を会わせることまでは計画の内だったリオーニはその場を離れようとしたところをきっちりと腕を掴まれて止められてしまう。
 当然ながらイゾルダもミアやリオーニと同じく真っ当に生きている人物ではない。
 彼女も普段は詐欺師として生きており、主に商人を相手にありもしない儲け話に乗せて金だけを受け取って消えている常習犯だ。
 普通ならば盗賊等をするにしてもマニューラという種族上、群れを形成して活動することを得意とするのだが、イゾルダは決して徒党を組まず一人で活動していた。

「悪いけれど、ガウナ様にはもう私が唾付けてるの。幻影にも気付かないおバカさん達は醜態を晒す前にお帰りなさいな」

 リオーニがそう言って微笑むとイゾルダが捕まえていたと思っていたリオーニの腕がふわりと消え、遠くの人混みから手を振って消えていった。

「あのアマ! 人を二度もおちょくりやがって!」
「ゾロアークの幻影なんて普通気付けないに決まってるでしょうに……。まあ仕方ないわね。貴女はあの化け狐にどんな恥を晒させられたの? 愚痴ぐらいは聞くわよ」
「愚痴もクソも、リオーニがあの新当主になったガウナに商談を持ちかけたら飲み物をわざと零されたんだよ。おかげで慌てて場内から出る羽目になったんだ」

 その場に残されたイゾルダとミアはやれやれといった調子でリオーニにされた事を話しだしたのだが、それはガウナへ近寄らせないための分かりやすい妨害だった。
 だがどうも妨害した上でさりげなく自分は気遣いのできる女性であるとガウナにアピールでもするかのように言葉を選び、イゾルダを連れて外に出ていったのだから質が悪い。

「ラインハルト家と言えば貴族の中でも有名だ。先代当主のハインリッヒ伯は取り入る隙が無かったから諦めてたが、まだ若いガウナ伯なら十分に取り入る隙がある。……ってのにあのアマは何が『私がもう先に目を付けたから』だ! またとないチャンスを手にするのは一番優れている奴だ。アンタも狙ってるんだろうから当然負けるつもりはない。元より、小汚い物盗り風情に負けるつもりはないけれどね」
「なるほどねぇ……。大体先に引くリオーニがわざわざ喧嘩を売ってくるなんて珍しいじゃない。いいわねぇ。私も今回盗む物、決まったわ」

 イゾルダの言葉が聞こえているのかも分からない様子でミアは一つ笑顔を見せながらそう呟き、挨拶もそこそこに人混みの中へと消えていった。
 込み入った場内を持ち前のしなやかな身体でするりするりと抜けてゆき、多少は身動きが取れるようになった中央のホールまで滑り込むと周囲を見渡してガウナの姿を探す。
 といっても彼女はガウナの姿は知らないのだが、この歩ける程度にはゆとりのある場内で唯一人だかりができている場所があるためそれを見れば多少勘のいい者ならば気が付くだろう。
 人だかりの後ろに付いてさも自分の番が回ってくるのを待っている人のふりをしながらガウナが何者なのかをその場で把握してゆく。
 彼女が事前に把握しているガウナはただのラインハルト家の御曹司であり、聖十字騎士団(ロイヤルナイツ)の騎士団長に親の七光りで就任した程度にしか把握していない、怪盗を名乗るにはなんとも杜撰な事前調査だが、それが彼女なりの流儀という名の手抜きなのだ。
 次第に中央にいる人物が歳若いルカリオであることが把握できるようになり、周囲の女性達に声を掛けながら笑顔を返していることでその人物こそがガウナであることを確信した。

「お初にお目にかかります。私、遠くの街からやって来ましたミアと申します。以後お見知りおきを」
「遠路遥々ありがとうございます。今宵は是非この晩餐会を楽しんでいってください」
「楽しむなどとんでもございません。ハインリッヒ伯爵様の弔いがこの会の主題。まずはお悔やみを申し上げさせてください」

 他の人々の噂で事前にこの晩餐会がただの嫁探しではないことは知っていたため、あくまで自らの目的は嫁候補としてやってきたわけではないことを匂わせる。
 毛頭そのつもりはなかったのだが、この弔う気持ちがあることを伝えるとガウナは少しだけ悲しそうな表情を見せた。

「止めてください。父の死を想うその心遣いは有難いです。ですが私自身父上の死は辛いのです。明るく気丈だった父上を想うからこそ私は自分自身も含め、父上の死で悲しんでほしくはない。その計らいがこの晩餐会なのです。どうかご理解ください」

 ガウナのその言葉を聞いたミアは表情には出さなかったものの言葉選びを間違った事を内心後悔していたが、すぐさま深く頭を下げた。

「これは大変失礼な真似を。申し訳ございません」
「いえ、私も言い過ぎました。顔を上げてください」

 そう言ってガウナはミアの前足へと手を伸ばしてその手に取り自らの手で包み込む。

「そうですね。ガウナ様のご高配、是非楽しむべきでしょう。もしよろしければガウナ様にエスコートしていただいてもよろしいでしょうか?」
「なるほどそうきましたか。いいでしょう」

 ごく自然な流れでミアがそう切り出すとガウナは軽く笑ってからその申し出を快く受け入れた。
 その様は周囲の女性達にもミアが一枚上手であることを思い知らせるには十分だっただろう。
 もう同じ日にチャンスは訪れないだろうと他の町娘達は次第に散り始め、彼女の思惑通り二人きりで話す時間ができた。

「そうなのですね。ガウナ様が何故私達のような下賤の者にこれほど親しくしてくれるのか不思議でたまりませんでした」
「やはり私のような身分の者が民と近いのはおかしなことなのでしょうか?」
「そんなことはありませんよ。身近な君主とはとても親しみ深く、そしてとても有り難い存在ですよ」

 ミアはガウナの志や今回の晩餐会を開いた理由などを理解を示すように聞き、そして共感しながらそっとガウナの体へ自らの体を寄せてゆく。
 ふわりと軟らかなミアの尻尾がガウナの短いしっぽに触れ、好感を持っている事を示すように体へと沿わせる。

「私のような謂わば部外者のような者にまで貴方様の優しさを分けていただける。そのお気持ち、とても感服致しました。もしできることならば……もっとガウナ様と近しい存在になりたいものです」
「そ、それでしたら……もし貴女さえ差し支えなければこちらをお渡ししたいです」

 ミアの尻尾が身体に触れる度に少しずつ顔を赤色させてゆきながら、ガウナは一通の封筒を手渡した。
 それは当然この晩餐会の後、ガウナと直接会うための招待状。
 リオーニの及び知らぬ場所でミアは彼女が最も恐れていたガウナに害をもたらす者が堂々と屋敷内へと侵入することのできる権利を手に入れてしまう。
 そうとも知らずに悪女達の煌びやかな晩餐会の三日目は終わりを迎え、ガウナと招待されたものだけが迎える密会の時間となる。
 手に入れた招待状を口に咥え、小躍りでもするような足取りで裏口へと向かう。

「止まれ。お前は……ミアだったか? 何の用だ?」
「あら、先程振りですねアドルフさん。今度はこちらに呼ばれたので参った次第です」

 裏手口にはアドルフの姿が有り、今一度訪れたミアの姿を見て質問を投げかけたが、今度は正式な理由があるため特に物怖じもせずにアドルフの質問に答えた。
 だが案の定アドルフにもこの密会のことは伝えられておらず、同じように裏口の前で少々待たされてしまうわけだが、リオーニ同様ガウナが直々に出迎えることとなる。

「申し訳ありません。このことは可能な限り誰にも知らせないようにしているので」
「構いませんよ。選考方法がバレてしまうと皆同じ真似をしだすでしょうから」

 そんな会話をしながら二人はガウナの寝室へと移動し、部屋の隅にある椅子に腰掛けてリオーニと話したような内容をミアにも話してゆく。
 この場に呼ばれた者が嫁候補としてガウナが選定した人物であること。
 最終日まで誰か一人に決めるつもりはなく、あくまで最終日の翌日に今一度集まっていただき、そこでしっかりとした返答を行うこと。
 重ねて今日この場に招いたミアには最終日まで答えを待ってもらうことに関する謝罪を行った。

「つまり、あと最低でも四日はお預けということでしょうか?」
「ええ。申し訳ありませんが公平さを保つために最終日が終わるまで待っていただきます」

 ガウナの言葉を聞くと急にミアは艶めかしい表情を見せ、潤んだ瞳でガウナの方へ視線を流す。

「ご返事のことではありませんよ。ガウナ様との逢瀬の事です。私、てっきり私室へ内密に呼んでくださった理由はそういうことだと期待していたのに……」

 そう言ってミアは自らの前足を鼻先に持ち上げ、たっぷりと涎を含んだ舌で舐め上げる。
 自らの前足を男根に見立て、舐め上げるジェスチャーであることを示すとガウナの表情は途端に赤面してゆく。

「そ、そんなつもりはありません!」
「本当ですか? こちらの方はどうにもそのつもりはないと言っているようには思えませんが……」

 反論するガウナの股間へその前足を伸ばしてそっと布越しに擦りつけると、そこには確かに僅かに熱ぼったくなった膨らみが感じられる。
 理性とは裏腹にガウナの本能は目の前のミアの身体を求めていたとでも言うべきか、それともただ口ではそう言ってみただけで実のところは期待していたのか、触れられるミアの手を払いのけるような事はしない。

「そ……それは……」
「私も旦那を早くに亡くして長く女としての悦びを感じていないのです。一夜限りになっても構いません。私と愛し合って頂けないでしょうか……?」

 四足故の低い姿勢を巧く利用し、差し込む月明かりで照らされるミアの瞳は懇願するようにガウナの顔を見上げていたことだろう。
 非常に劣情を掻き立てられるような悩ましげな上目遣いでガウナを見つめるミアの姿を見て、ガウナはただ言葉を失っていた。
 暫しの沈黙の後、ガウナは返事の代わりにそっと腰を落としてミアと視線を同じにし、そっと彼女の物欲しそうな唇に自らの唇を重ね合わせた。
 どちらからともなく相手の唇を舐めるように伸ばされた舌が重なり合い、混じり合い、二人の長い舌が互いの唾液を混ぜ合わせながら絡み合う。
 湿った吐息と共に響く僅かな水音がその口付けがどれほど情熱的なものかを語っている。

「そ、その……これで許していただけないでしょうか?」
「これだけなのですか? 生殺しよりも酷い所業ですよ」

 ガウナもミアからの返事が分かっていながらそう言った事を分かっていたのか、ガウナの言葉に返すミアの不満に満ちた表情を見て顔を逸らしながら今一度顔を赤らめ、ゆっくりと自らの服を脱ぎ捨ててゆく。
 正装に身を包んでいたガウナもポケモンのあるべき姿へと戻り、その股間からは欲望を剥き出しにしたような赤い棘が雄々しく勃っている。

「フフ……やはり口ではそんなことを言っていますが、寧ろガウナ様の方がこの所業に耐えられないといったご様子ではないですか」
「本当は見ず知らずの女性とこのようなことをしてはいけないと分かっているのですが……」
「なら見ず知らずでなくなってしまえばよろしいのでしょう? 一晩経ってしまえば、もう恋仲なのですから」

 言動と行動が矛盾するガウナの言葉に重ねるようにミアが瞳を妖しく輝かせながら舌舐りし、ガウナの雄々しい肉棒に舌を這わせるとガウナは小刻みに体を震わせて熱い息を漏らす。
 舌に絡め取られ、ペニスの全体を包み込むように舐め回し、そのままミアは自らの口の中へとガウナのペニスを誘い入れ、卑猥な水音を立てながら執拗に舐め上げてゆく。
 その度にガウナの口から熱い吐息が悲鳴のような短い押し殺した声と共に溢れだし、思わず夢中でしゃぶり続けるミアの頭へとガウナの手が添えられた。
 欲望のままにミアの頭を掴み、喉の奥まで自らの一物を押し込みたいという衝動に駆られつつ、しかし女性にそのようなことをしてはならぬと最後の理性が訴えかけ、ただ快楽に身を委ね続けるしかないままミアのフェラチオを堪能するが、そんなことはお構いなしにミアはしゃぶり続ける。

「も、もう……出る……!!」

 言うが早いか、ほとんど暴発するようにガウナの肉棒はドクンと一つ大きく跳ねてから脈動し始め、彼女の口内へ肉欲を放ってゆく。
 あまりの心地よさに最後の理性も消し飛び、気が付けばガウナは彼女の頭を抱え込むように掴み、ミアの鼻がガウナの腹部に当たって曲がるほど抱き寄せて残りの精液を彼女の喉の奥へと放ち続けた。
 喉を鳴らしながらガウナの次々と放たれ続ける精液を飲み込んでゆき、力を失ってゆく肉棒と共に腰を落とすガウナに合わせて彼女の口からペニスが逃げてゆくまで舌を使って丁寧に受けとり続けていた。

「酷いじゃないですか。いきなり女性の頭を掴むだなんて……」
「ご、ごめんなさい。あまりにも気持ちよすぎて……抑えが効きませんでした」

 咳をしながらミアはガウナにそう伝えると、息も絶え絶えになりながらガウナは必死に彼女へ謝罪する。
 すると今一度ミアの瞳が怪しく輝く。

「そんなに良かったですか? でしたら是非、他の女性には真似できないことをしてあげましょう」

 そう言うとミアは力無く床に座っているガウナの横まで移動し、そこで顔を見合わせたまま自らの鬼灯のような尻尾をガウナの股ぐらにふわりと沿わせた。
 するとどうだろう。
 ガウナの力を失ったペニスに触れ合ったミアの尻尾がすっぽりと包み込むと、リズミカルに蠢き始める。
 突然の出来事にガウナはまた言葉を失いながらただ声を漏らすばかりだったが、ペニスを包み込んだミアの尻尾はまるで別の生き物のようにくすぐり、ぎゅうと包み込み、揉みしだくように動く。
 上下左右、とても尻尾の動きとは思えないような刺激がガウナの敏感な状態のペニスへ伝わってゆき、あっという間に力を取り戻させた。

「ど、どうなっているんだ!?」
「フフ……不思議でしょう? 他のポケモンでは決してできない芸当、今後も独り占めしたくありませんこと?」

 くすぐるような刺激がこそばゆくも心地よい感覚を送り続け、重ね合わせるようにミアがガウナの耳を舐めてゆく。
 体験したことのない刺激にガウナはただなすすべなく声を漏らすだけであり、白黒する視界でただ快感の虜になるしかなかった。

「うあっ……!? も、もう……出る!」

 激しい尻尾の蠕動に耐えられるはずもなく、ガウナはあっという間に彼女の不可思議な尻尾の中へと二度目の精液を放った。

「どうでした? クスネやフォクスライにしかできない究極の尻尾による愛撫。心地よいでしょう?」

 あまりにも刺激が強すぎたからか、ガウナは自らの腕で顔を隠しながら、ただ息を荒げて頷くしかなかった。
 ずるりとガウナのペニスから離れたミアの尻尾は受けた精液をで濡れており、毛繕いでもするかのようにミアはガウナに見せつけながら自らの舌でその精液までもを舐め取ってゆく。

「さあガウナ様。まだお若いのですからメインディッシュまでもちろん戴いてくれますよね?」

 そう言って自らの尻尾を綺麗にし終わるとミアはくるりと身体を反転させ、ガウナの前に自らの蕩けた秘部が露わになるように尻尾を持ち上げて尻を向ける。
 物欲しそうに軽く動くミアの膣からは既に透明な液が溢れているのか、月明かりを受けて煌めいている。
 まだ何かにつけてガウナはミアの誘いを断るかと思っていたが、ただ荒い息を整えながらミアの腰に自らの手を回しただけで、既にヤル気に満ちていた。
 にゅるりと滑らかな愛液がガウナのペニスを導き、何の抵抗もなく受け入れてゆく。
 先程までの遠慮の無い愛撫のお返しとでも言わんばかりにガウナは自らの一物を一気に腰と腰が打ち付ける乾いた音が聞こえるまで挿入し、今まで声を漏らさなかったミアに湿った声を上げさせる。
 そこからはまるで別人のようにガウナはただ腰を必死に打ち付け、水音と乾いた音を響かせ、それを掻き消すようなミアの嬌声を上げさせながらただ欲望に身を委ねていた。
 もはやガウナの劣情を止められる者はただの一人もおらず、好きなだけ肉欲を貪るその姿に、先程までの優しい顔は見受けられない。
 そして獣のような腰振りに任せ、彼女の中へガウナの中に残っていた性欲を全て放り出すように、痛いほどに怒張した男根からどくんどくんと放っていった。
 全て出し終わるとガウナは力無く後ろへと崩れるように座り込み、荒いままの呼吸をゆっくりと整えてゆく。

「フフフ……如何です? 私を貴方の妻に選んでいただければこの妙技、いつでも気の向くままにお使いいただけますよ」
「すみません。一時の劣情に身を任せたことに関しても、君のその提案についても今すぐに答えることはできません。その代わりですが、もう少しだけこういった事以外も話し合いましょう」
「見かけによらず強情なお方のようですね。それでこそ私も貴方に尽くし甲斐があるというものです」

 ミアの妖しい笑みを前にしてもガウナは決して意見を変えることはなかった。
 その後はガウナの提案した通り、軽く飲み物でも飲みながら話し合ったのだが、この話そのものにはミアは微塵も興味はなかった。
 適当に話を合わせて答えてゆき、数十分もしない内にその密会も終わりを告げて彼女もリオーニと同じようにガウナに付き添ってもらい屋敷を後にする。

「ガウナ様。お言葉かもしれませんがあの女、間違いなく何か裏があります」
「大丈夫ですよ。信じてください」
「しかし……」
「私が間違ったことはないでしょう? 大丈夫ですから安心してください」

 見送るミアの姿が見えなくなるとアドルフはガウナにそう忠告した。
 晩餐会の時に出会った際の不信感も含めての警告だったのだが、ガウナは絶対の自信を持ってそう言いきる。
 アドルフもガウナの言葉に一抹の不安感は抱きつつも、確かにこれまでに一度たりとも過ちを犯したことのない実績がある以上、ガウナの言葉を信用せざるを得なかった。
 一方のミアの方は来た時と同様、鼻唄混じりで帰路を進んでいた。
 先述した通り、ミアの目的は既に金品の奪取ではない。
 以外にも彼女の目的もこの嫁探しの嫁に選ばれることだった。
 しかし彼女は結婚そのものには特に興味はない。
 これではどうにも話が矛盾しているが、彼女が嫁に選ばれたい理由はガウナにあるわけではなく、リオーニの方にあった。
 嫌でも互いに領分が違い、よく愚痴を聞いていたがためにミアはリオーニの性格をよく知っている。
 他人をからかうことはあれど、自らの仕事にちょっかいを加えられることを心底嫌がる人物であり、同時に『金と男は天下の回りもの』を信条にしているリオーニは決して一人の男に肩入れすることはない。
 そんな彼女がわざわざ先手を打ってまでガウナにミアどころか、イゾルダにも近寄らせないようにしてきたことに対して目敏く彼女は反応していたのだ。
 多少金が目減りしようと気にしない彼女がその一切合切を欲しいと言ったということは、それだけこの仕事はリオーニにとって重要だということの裏返しでもある。
 だからこそミアはそんな必死になっているリオーニの邪魔をしたくて仕方がなくなった。
 彼女の目を付けた”盗みたいもの”とはこの結婚相手の事であり、それさえ自分が手に入れてしまえば後はどうでもいいのだ。
 とはいえこういった婚姻に関する事柄は専門外であるミアは当然リオーニに遅れを取る。
 だからこそ彼女なりの流儀として使えるものは全て使う精神で当たり、リオーニの得意とする分野で戦う以上、彼女の普段の愚痴から得意とする部分を巧く真似ていった。
 勝利を確信したような笑みにはまず間違いなく、それだけの何かを掴んだということであり、弱味を握ったのであれば真っ先に自慢するリオーニが口に出さなかったということは、他の者にもやろうと思えば容易に真似が可能な時であることを知っているミアは真っ先に色仕掛けを疑った。
 テクニック云々や旦那達との性生活に関する愚痴を普段からよく言っていたことが仇となり、見事なまでにその技の悉くをミアに真似され、同意にミアにしかできない尻尾を使った特殊なテクニックまで使ってガウナの理性を消し去るほどにまで魅了させてしまったのだ。
 そうとは露知らず上機嫌で帰ってゆくミアだったが、今日はまだ三日目。
 後の四日に更なる波乱があるとも知らずに彼女も勝ちを確信しながら夜闇の中へと消えていった。


悪の饗宴 2


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  • 思わず一気読みしました。
    生き生きとしたキャラクター達やラストの展開など、見どころが多く非常に読み応えのある作品でした。
    これは(自分みたいな)悪タイプ好きにはたまらない作品です -- 慧斗
  • >>慧斗さん
    コメントありがとうございます!
    自分も悪タイプが大好きなので、生き生きとしていると言っていただけるとありがたい限りです。
    読んでいただきありがとうございました。 -- COM

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Last-modified: 2020-05-16 (土) 20:24:03
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