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忠犬ポチエナ?

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忠犬ポチエナ? 

ちょっと前の短編を書く前に考えてたネタですがこっちが後になってしまいました。
短編書くの楽し~。青浪




主従関係とは主が従を従属的な関係においているが、はたして精神まで従属するのか・・・それはわからない。

この話はもう5年くらい前の話かな・・・
僕の両親は研究家で僕のうちはグラエナ夫婦と一緒に生活をしていたんだ。その時、僕は12歳だった。

「おい、リョウ。ローにご飯をあげに行くぞ。」
玄関にいた父さんが僕に声をかける。そのとき居間にいた僕はいやいや返事をした。
「え~っ、やだよ。最近ローは遊んでくれないし。」
ローっていうのはウチで生活してるグラエナの♂の名前。♀のほうはサナっていう。ローと僕はよく遊んでた。つい5カ月くらい前まで。
でも遊んでくれなくなったんだよね。理由は単純だった。
「仕方ないだろう。サナは身重なんだぞ。お前のときだって俺はローと遊べなかったんだぞ。かれこれ12年前だけど。」
僕の話を持ち出すかな・・・僕は重い腰をあげて玄関に向かう。
「それは・・・えっと・・・わかった、行く。サナがどうなってるか気になるし。」
ローとサナはさっきも言った通り夫婦だ。僕としても子供くらい・・・っていう感じかな。あそんでもらえなくなるのは寂しいけどね。
ローもサナも僕とよく遊んでくれて、タマゴを産んでからすこし僕に申し訳なさそうな態度を取るけど・・・まぁローも♂だからね。家族くらいは作って守ってほしいな。
玄関に着くとサンダルをはいた父さんが手にローたちのご飯の入ったお皿を持って待ってた。僕も腰をおろして靴を履いて父さんが両手で持ってたご飯を片方持つ。
「サナもタマゴを熱心に見守ってるけど、そろそろ産まれてもおかしくないんだよなぁ・・・」
ズリズリとサンダルを地面に擦って歩く父さんは不安そうに言う。僕はうつむいて手に持ったご飯をじっと見る。
僕の家は玄関を出たところに小さな庭があって、そこにローたちは暮らしてる。ロー曰く、ここが一番安心できるって。
父さんはローが頑なに守るサナのいる小さな洞の前に着くと、トントンと洞の出口を2回ノックする。これが今の僕たちがローと意思疎通を図る最初の手段。
一匹のグラエナがゆっくりと洞の暗がりから出てくる。♂のローだ。
「はいはい・・・おぉ・・・ごしゅじん。リョウまで・・・ありがとう。」
少しまぶしいのか、ローは目をつぶって言う。ローは父さんをご主人と呼び、僕は呼び捨て。僕より年長者だしね。仕方ないや。
「サナはどうだい?」
「・・・それがもうすぐタマゴが孵りそうなんだよね。」
父さんと話すローは照れてるのか顔がほころんだままだ。
「きゃっ!」
洞の奥から♀の甲高い声が聞こえた。
「なになにどうした?」
ローはあわてて洞の奥に戻って行った。
「どうしたんだろうね・・・」
生まれたのかな?・・・心配な僕は父さんに聞いた。
「生まれたかもしれないね。」
父さんは少し安堵したような表情で僕を見る。僕たちは洞の外でずっと待ったままだ。洞の奥からキャッキャと歓喜の声が聞こえてきたる。
「ごしゅじん!リョウ!生まれたぞ!今行くから待ってて。」
ローは気にしていた僕たちを気づかったのか、声を張って僕たちを引きとめる。父さんの顔を見ると笑顔ですごくうれしそう。父さんも僕も手に持っていたご飯を芝の地面に置いた。
「リョウが生まれて、病院から帰って来た時も、最初にローたちに会わせたな。ローはすごく喜んでたぞ。」
笑顔でこんなこと言う父さんって・・・ローたちはウチに来て長いからなぁ・・・でもいつも遊んでもらってるだけに嬉しいな。
「そんな・・・恥ずかしいよ。」
洞の暗がりから2匹のグラエナが出てくる。片方は口に小さな、といってもグラエナの4分の1か5分の1くらいの・・・そんなに小さくないかな?影を・・・咥えてる。
すごくうれしそうにローが先に外に出てきた。遅れて口にグレーの体毛をもつ小さなポチエナを咥えたサナが出てくる。その咥えられたポチエナはすごくおとなしそうに・・・寝てるのかな?
「ほひゃ~!」
サナは口にポチエナを咥えた状態で僕たちに歓喜の報告をする。疲れからか、サナは少しやせてるように見えた。
「リョウ。どうだ!」
ローは僕に自慢してくる。ローもよっぽどうれしいんだな。
「おめでとう!ロー、サナ!」
素直に僕は祝福する。僕の言葉を受けて、ローもサナも少しもじもじしてる。
「ふにゃ・・・ふぇぇぇっ・・・」
サナが咥えているポチエナの目が覚めたみたい。鳴いてる。
「あの~・・・リョウ?」
ローが僕に遠慮がちに声をかけてくる。
「なに?」
「その~・・・俺の仔に名前を付けてほしいんだけど・・・」
え?名前?僕が?僕は緊張で少しパニックになる。うまく何て言ったらいいか・・・
「えええ?いいの?僕で。」
「そうだぞ。自分でつけるっていうのもいいもんだぞ。」
さすがに遠慮する僕を父さんが援護射撃する。
「決めてたんだよ。リョウに名前を決めてもらおうって。付き合いが長いからな。いいよな?」
ロー・・・僕のことそんなに信頼してくれてたんだ・・・照れるなぁ・・・
「ふぇぇぇぇっ・・・ぅぅ・・・」
元気そうに鳴いてるポチエナを目にして僕は決心した。
「わかった。ロー。」
「まともなのつけてね。」
決心した僕にローが釘をさす。
「わかってるって。・・・そうだな・・・ローだからコウってのは?ロー、LOWだから逆に高いっていう意味でコウ。」
僕は自信ありげに答えるけどダメかな・・・ローはサナをちらっと見るとすぐ決めたみたい。
「いい名前だよ。コウって。俺の目は確かだったな。この仔の名前はコウだ。」
ローはあっさり受け入れてくれた。ローがそう言うとしゃがんだ父さんに仔のポチエナを預けたサナはにっこり笑顔で僕を見た。
「リョウ、ありがとう。コウ・・・いい名前。たぶんリョウのことを慕ってくれると思うよ。♂だけどね。」
「♂なんだ・・・」
「何?残念?」
「ちち、違うよ。いい友達になれるかなって。」
僕は何を考えてたんだろう・・・素直にうれしいのに。
「なれるわよ、絶対にね。」
サナは満面の笑みを浮かべて僕に言った。

あれ以来僕はロー夫婦の住む洞に毎日顔を出した。コウと名付けたポチエナの成長具合が気になって仕方なかったからだ。
でも、コウは顔をたまに見せるくらいでなかなかなついてくれない。でも僕もしつこく毎日通い続ける。そのまま2年経った。

「はぁぁ・・・」
何がむなしいのか知らないけど・・・ため息をつくようになった僕。
「どうした?コウのところに行かないのか?」
そばを通った父さんは僕のため息に気付いたみたいで、コウのところにいくように催促してくる。毎日行ってるのに。
「行くけど・・・そろそろ行こうかな・・・」
僕ももう14歳になる。コウはすくすく育ってて、前見たときは普通のポチエナよりも少し小さいけど年齢相応っていうくらいのサイズになってた。
居間のテーブルに肘をついて座ってた僕は、あたりを見回す。2年前もこの時もほとんど変わってないなと思ったな。
「よし。今日も行くかなぁ・・・」
椅子から立ち上がるとスタスタと玄関に向かう僕。父さんは少し心配そうに見てる。玄関までの足取りが少し重く感じた。
玄関でサンダルを履くと、庭の洞に向かう。
「リョウ!今日も来てくれたんだ!」
ローは相変わらずの元気さで僕を迎える。自信なさげに僕はローに質問する。
「コウは?」
「いるよ。洞を覗いてごらん。あれでも結構リョウのこと楽しみにしてるみたいだよ。」
その言葉を聞いて僕は心躍った。毎日行ってるのも無駄骨じゃなかったなぁっていう思いと同時に、どんな反応を今日は見せてくれるかなっていう期待もある。
こんこんと洞の入り口を叩く。
「あ、コウ!リョウが来てくれたよ・・・リョウ!入って。」
母親になったサナの元気な声が洞から響いた。僕はさっきのローの言葉にドキドキして少しおっかなびっくりで洞に入っていく。
「やぁ・・・サナ。」
元気なグラエナは僕をじっと見つめる。後ろ脚のほうにはポチエナっぽい影が見える。
「おはよう。リョウ。コウ、挨拶しなさい。ほら!」
サナはコウを急かした。コウは少し身体を震わしてサナの影から出てくる。僕はその様子を楽しそうに見つめる。
「こんちは・・・」
弱い声ながらコウは挨拶をしてくれた。僕はしゃがんで少し嬉しそうな顔をしたコウにあいさつする。
「こんにちは・・・コウ。」
そう言って僕はコウに右手を差し出した。噛まれるかな、っていう恐怖と何してくるかな?っていう期待で手はわずかに震える。
「・・・」
すこし沈黙が流れるが、コウは僕の差し出した右手に近づいてくる。つぶらな瞳に興味津津な顔をして右手のにおいをかぐそぶりをする。
かぷっ!
「ひゃっ!」
コウは僕の右手を優しく噛んだ。しゃぶったという表現のほうが妥当かもしれない。
「こら!コウ!やめなさい。」
サナはすぐにコウを僕から引き離す。
「サナ、大丈夫だよ。」
サナを安心させるために噛まれた右手を見せる。噛み痕も何もない涎のついた右手を。
「あれ?痛くないの?」
「全然ね。本気で噛んだら2歳とはいえ相当痛いよ。」
僕がそう言うとサナは不思議そうに首をかしげる。僕はちょっと怖がってるコウにそっと両手を差し出して抱き上げた。
「わぅっ・・・わぅぅ・・・」
少し驚いたような声を出したコウだったけど、すぐに落ち着いた。僕はそのままコウを右腕で向かい合う形に抱いて左手で頭と体を撫でた。綺麗にしてるのか、させられてるのか、獣のようなにおいは全くしなかった。
「コウも立派なポチエナだね。」
「・・・うん。」
それがコウと僕の交わした挨拶以外の初めての会話らしい会話だった。安堵した僕の背中と首筋を冷たい感覚が襲う。
「ひゃっ・・・コウ・・・もう。」
コウは僕の背中をぺろぺろと息を荒くしてうれしそうに舐めてる。尻尾もぶんぶん振ってるのに僕は気がついた。
「リョウ・・・よかったじゃん。コウはあなたをパートナーとして認めたみたいよ。」
サナの一言はさらに僕を嬉しくさせた。ギュッとコウを抱くとふさふさのグレーの毛が首と顔に当たりくすぐったくなる。でも不快さはなく、コウが僕を信頼してくれてるといううれしさだけを感じた。
「コ~ウ~~・・・」
両手でコウを撫でながら僕はコウの名前を呼ぶ。
「リョ~~~。」
コウは僕が名前を呼んだのに反応して僕の名前も呼んでくれた。少しつたない感じがしたけど、僕にはそれで十分だった。サナが僕たちを・・・僕までも自分の子供みたいな目で見てる。
それ以来僕たちは毎日のように・・・いやあそばない日はなかった。コウはかなり頭がいいのか、僕が父さんから貰って勉強してた植物の本の読み聞かせや、父親のローの話をよく理解してた。
僕が父さんから聞いてたポチエナっていう生き物と実際のコウとではかなり違いがあった。人懐っこくて・・・僕に優しくて・・・でも賢い。
最後の賢いっていうところだけはポチエナそのもの・・・いや、それ以上だった。獰猛さがないのか、その分は頭の良さに回ったみたい。

そんなある日だった。コウと僕の間にパートナー以上の関係が出来たのは。
その日僕は朝からコウに日課になっていた植物の本を読み聞かせをしていた。
「この木の実はね・・・毒があるんだよ。」
「これ何て読むの?」
コウはあたりまえだけど字が読めなかったから、僕が本を読み聞かせて教えていた。
「これはね、どくっていう字だよ。」
「どく?危ないほうの?」
「そうそう。よくできました。」
僕はコウの頭をなでる。黒い毛におおわれた顔はグレーの身体にはいいアクセントになっている。コウは頭をなでようとすると自分から頭を擦り寄せてくる。かわいい。
ん・・・ん・・・という声にならない声を出してコウは首を気持ちよさそうに振る。
コウは僕と生活していくうえで、僕と同じような生活を送っていた。風呂に入れたり、一緒に本を読んだり。だいたい僕が催促されて読むんだけど。
「がるるるる・・・」
いきなり低い唸り声をあげたコウ。僕は突然のことに驚いた。
「コウ!どしたの?なんか来る?」
「来た。」
僕が庭の門のほうを見ると野生のコラッタが門扉を乗り越えようとしていた。僕はコウを抑える。
「ダメだよ。」
「がるるるる・・・」
コウはおさまる気配がない。僕に見せたことのないような獰猛な唸り声、目つきをコラッタにしていた。コラッタは門扉を飛び越えてウチに入ってくる。
「がぅ!」
吠えるとともにコウはコラッタに突進していく。コラッタは驚いて逃げようとするけど、コウのほうが反応が早かった。すぐさま頭に噛みつき、コラッタにすさまじいダメージを与えたみたいだ。
「コウ!離れろ!」
僕も今までコウに出したことのない声を発して、コウをコラッタから離させる。そのコラッタは頭を痛がったまま再び門扉を乗り越えていった。コウは不満げに僕に向かってくる。
「なんでじゃまするの!」
拗ねた声で僕を責めるコウ。僕はポチエナだから仕方ないという考えが少しはあったが、そこは抑えることにした。
「僕の前だったら、僕が言うまで戦ったらダメ!」
コウを叱る声が庭に響く。本気で喧嘩したら絶対僕はコウに勝てない・・・はず。でもコウはおとなしくしょんぼりとして僕の話を聞いてくれる。
「どした?」
声を聞いたローがゆっくりと洞から出てきた。ローはグラエナだ。たぶんコウの気持ちをよく理解してるだろう。ローに怒られるのを覚悟で僕は経緯を説明した。
「そうか・・・コウがねぇ・・・多分コウはリョウが好きなんだよ。だから守りたくてコラッタを攻撃した。だよね、コウ?」
「・・・うん・・・」
コウは少しおびえて、それでも少し照れた声でローの推測に答える。でも、僕はそのコウの気持ちがうれしくて仕方なった。
そしてコウを怒ったことに対する反省もあったし、コウの気持ちが理解できなかった悔しさも僕にはあった。
「コウ・・・後で川行こうよ。僕も怒りすぎた。」
「うん!」
コウはうれしそうに答えた。ローはやれやれ、といった表情で僕を見た。
「コウ、リョウは戦うのが嫌いなんだよ。研究家の親御さんの影響もあるだろう。リョウが好きなら、リョウのピンチまで力を温存しときな。頭を使え頭を。」
そう言うとローは洞に向かってゆっくりと引き返していった。
「あたま・・・」
うつむいたコウはローの言葉をかみしめるように呟いた。落ち着いた僕はしゃがんでコウに話しかける。
「そう。頭っていうのはコウの得意な賢さのことだよ。」
「かしこい?おれ?」
よく考えるとこのとき始めてコウは自分のことを俺、って言ったんだな。そしてコウはその視線を僕に向けて首をかしげた。
「そう。コウは賢いから・・・戦わないでも相手を抑える方法を知ってるんじゃないかな?」
「う~ん・・・おれがねぇ・・・知らないかも。」
「じゃあ、そこは勉強しないと。」
少しおだてて、釘をさす。コウは僕の話術にハマった。目を閉じて頭を左の前肢で少し掻くと、また僕を見た。お腹がすいてそうで、目が僕にそれを訴えてる。
「ご飯食べよっか?」
「うん。」
口元を締めてコウは心機一転、といった感じだ。コラッタに見せていた獰猛な目つきは影を潜め、またいつものつぶらな瞳にいたずら好きの子供みたいな顔をしてる。
庭の芝を踏みしめて、僕たちは玄関へ向った。玄関にいた母さんは僕を迎える。
「あっ、どうしたの?大きな声出してたけど。」
「まぁいろいろあってね。」
ぼかして言った僕をコウは上目遣いで見た。苦情を訴えるというよりは、感心してる、といったような表情だった。
「ご飯だよ。」
「僕、ここでコウと食べるから。」
「い、」
「いいの?」
母さんが言うより早くコウが僕に言った。笑顔でコウに視線を振る。
「うん。コウと食べたいから。」
「リョ~ウ~~。」
コウはうれしかったのか、僕の右脚に飛びついてきた。笑顔の僕を母さんはクスッと笑うとキッチンのほうに行った。疲れたのか飛びつくのをやめたコウは僕の脚にすり寄っておとなしくしている。
「ご飯だよ。はい、コウ。はい、リョウ。」
母さんはコウの前にご飯の入った赤いお皿を置く。そして僕に、ご飯の入ったお皿を手渡す。
「ありがと。」
「ありがとござます・・・」
「ふふっ。コウ、どういたしまして。」
照れたのか片言の返事ながらそれを聞いた母さんはうれしそうにコウの頭を撫でた。
「むしゃむしゃ、おいしい・・・」
「ありがと。じゃあ食べたら持ってきてね。」
「うん。」
母さんは居間に向かって行った。寝転がるのかな?僕たちはがつがつとご飯を食べた。
「ごちそさま。」
「コウ、ごちそうさま。じゃあ食器持っていったら川行こうか。多分父さんもいるはず。」
「うん。」
コウを待たせないように僕は出来るだけ急いで食器をキッチンの流しに持って行った。
「母さん置いて・・・って寝てるし・・・」
母さんに声を掛けたけど、居間で母さんは昼寝をしていた。僕は仕方ないな、と頭をポリポリと掻いて、コウの待つ玄関に急いだ。
「じゃあ川行こうか。」
「うん。」
僕はいつもの靴じゃなく、サンダルを履いて家を出た。コウはうれしそうに僕の後をついてくる。
「暖かいね、暑いくらいだよね。」
「そだね。」
「コウも・・・わっ・・・」
僕はいつの間にかコウに追いつかれていた。すりすりとコウは歩く僕の脚に身体を擦りつけてくる。川までの低い草の生えるあぜ道をゆっくりコウと進んでいく。
「川見えてきた!」
「そうだね。」
川が見えるとコウは低い土手を下って川岸まで走る。それを僕はなれないサンダルで必死に追いかけた。小石の感触がサンダルを履いた足には心地がいい。
「早いよコウ・・・」
「ごめん。ちょと楽しくて。えへへ・・・」
コウは人懐っこい笑顔で僕の体に温かいグレーの身体をくっつける。この時間がずっと続いたらいいのに・・・僕はずっとそんなことを考えていた。
この川の流れはゆるやかで、誰かが釣りに来るけど、転落事故が多いんだよね。深い沢があちこちにあるらしくて・・・死亡事故はないんだけど、僕は入ったことない。
「うーん・・・眠いな・・・」
「おれもねみゅい・・・」
意気投合というか阿吽の呼吸というか・・・行動がここまで一致するのも珍しいよね。コウは本当にねむそうだし。黒い毛に覆われた顔をうとうととさせてる。
うつ伏せにならないのは眠気への必死の抵抗かな・・・ふと川を見た・・・穏やかだな・・・
「ん?」
川に何か茶色と白のツートンのカプセル状の物が流れてきた。
「リョウ、どしたの?」
「あれ・・・タマゴかな?」
コウは覚醒したようで身体をタマゴのようなものが流れてくる川に向ける。
「どうだろ?」
僕はタマゴだと思って駆け出す。助けないと・・・
「りょ、リョー!」
叫ぶコウを横目に走っていくがサンダルに食い込んだ石が痛い。
ばしゃばしゃと川に入るがサンダルのせいでなかなかうまく走れない。それでも水をかいて進んでいく。
「もうすぐでタマゴだっ・・・待ってて・・・よし・・・」
腰まで水につかりながらタマゴだと確信したら僕は川をさらに進みながら手をタマゴに伸ばす。
「うわっ!」
タマゴを手に取った瞬間僕は足を取られて身体を川に沈める。その瞬間にサンダルが脱げて流されていく。
「ぜったいはなしちゃダメなんだ・・・ぷはっ!」
どうにか水面に出てる顔に水が容赦なく打ちつける。必死に態勢を立て直そうとするも、川にもてあそばれるだけだ。ここで死ぬのかな・・・
「ごぼごぼ・・・ぷはっ!」
どうあがいても助からない・・・ん?誰かが僕の服をつかんでる。必死に後ろを見る。コウ?
「リョウ・・・絶対助ける・・・ぷはっ・・・」
コウ!来たらダメだって・・・一緒に死ぬって。溺れてるから助けてくれる人に全力でつかまってしまう。そうすると助けてくれた人も死んでしまう。
僕はコウに力をかけないようにさっきよりも難しい姿勢を取らなきゃならなくなった。
「りょ・・・ぷはっ・・・ごぼごぼ・・・」
コウ!僕は必死にコウを水から掬いあげる。コウも溺れる寸前みたいで元気がない。
「ぜ・・・ぜったい・・・離すな・・・よ・・・」
コウに呼びかける。ん?目の前にオレンジの浮き具が・・・一か八かで必死に手繰り寄せて捕まる。
しばらくして川の浅い所に引き上げられた。
「おい!リョウ!コウ!大丈夫か!?」
と、父さん?そ、そういえば川に来てるんだっけ・・・岸にあげられた僕は必死にコウを叩いて意識を確かめる。
「コウ!コウ!」
「ん・・・けほけほっ・・・りょ、りょう・・・助かったんだね・・・けほけほ・・・」
全身びしょ濡れのコウは意識はあるけど元気がない・・・水を飲んだみたいだ・・・
「お前ら危ないだろ!なんで服着て川に入ってんだ!」
父さんが僕に怒る。僕はかろうじて持ってたタマゴを差し出す。
「リョウ。こんなもののために命かけなくても・・・お前らが命落としたら俺は?ローはどうすりゃいいんだよ・・・」
さっきの怒った声から一変して急に泣きそうな声になった。僕は起きて元気のないコウを抱く。
「リョウ・・・寒い。」
「僕も寒いよ。帰ったらお風呂入ろうか。なんで僕を助けようとしたの?死ぬかもしれないのに・・・」
「ぱ、パートナーでしょ・・・だったら助けあわないと・・・」
「コウ・・・」
びしょ濡れの僕たちはギュッと抱き合った。
「帰れるか?」
父さんは安堵したのかあきれ顔で僕を見た。
「うん。」
「帰るぞ。」
サンダルを川に持って行かれた僕は水にぬれて重くなったコウを抱いたまま裸足で痛みをこらえながらあぜ道を帰って行った。
家の門をくぐるとローが僕たちを不思議な目で見た。
「おい・・・なんで濡れてるの?溺れた?」
「まぁね・・・僕のせいだ・・・」
「リョウのおかげでタマゴ助かったじゃん・・・」
「コウ・・・ありがとう。」
一度うつむいて再びローは不思議な目をしたまま僕たちを見た。裸足で服びしょびしょだったらそりゃね・・・。僕は震えるコウを両手で深く抱きしめる。
母さんは父さんから説明を受けたのか、心配そうに風呂に向かう僕に声をかけてくれた。
「服持ってくるから早く風呂に入りなさい。」
「ありがと。」
脱衣所でコウを放して服を脱ぐけど水を吸った服がまとわりついて気持ち悪い。腕をあげてシャツを脱ごうとするけどなかなか脱げない。
「重いっ!」
「リョウ、どしたの?」
少し元気になったコウは僕が奇行を繰り返してるように見えるのか、声を掛けてきた。
「水で服が重いの。」
身体の動きを止めて答えて、服をどうにか脱ぐと風呂場に入った。
シャワーの温度が良くなるとコウにシャワーを掛ける。
「わぅぅ・・・ぬるい・・・」
「ぬるい?熱くする?」
「今のままでいい。」
一通り温かい水がコウにかかるとシャンプーを手にとって身体に擦りつけていく。くすぐったいのかコウは身体をふるふる震わせる。
「んっ・・・んんっ・・・」
シャンプーが泡立つと丁寧に身体と体毛をもんでいく。気持ちよさそうにコウはうつ伏せになる。
「ふぁぁ・・・」
頭まで泡をつけると、黒い毛の覆う顔も素早く洗いを済ませて流す。
「じゃあ仰向けになって。」
「ふぁい・・・」
ごろっと仰向けになるコウにさっきと同じように泡を立ててマッサージの要領で洗っていく。これだけで結構な運動になる。
「んぁっ・・・」
敏感なところに触ったみたい。
「ごめん。コウも♂なんだよね~。」
僕は謝るついでに茶化した。コウは少し不機嫌になった。
「リョウだって立派なのついてんじゃんかぁ!」
見事にカウンターを食らった。グレーの身体が泡だらけで白くなるとシャワーで白を流す。尻尾からゆっくりと泡が完全に流れ切るまで時間を掛ける。
シャンプーが完全に流れ落ちると、僕はコウを抱える。
「さて、浴槽につかる?」
「いやだ。」
「じゃあつかろうか・・・」
僕の嫌なところ出たな・・・っていっても直すつもりもないけどね。
「やだって!」
コウの抵抗・・・といってもいつもみたいに冗談っぽく手足をちょっと動かすだけ。
「ふぃぃ~。」
僕が先にお湯につかる。
「わぅっ・・・・・・はぁ~~・・・」
コウもおっさんみたいな声を出して湯船につかった。コウは浴槽でおぼれるかもしれないからずっと僕は抱いてる。
「嫌いじゃないでしょ?」
「うん・・・まぁね・・・」
「今日はごめんね。怒ったりおぼれたりして。」
「リョウが生きててよかった。なんかあったらおれは後悔してもし足りないから。」
真面目な顔でコウは言う。
「でもね・・・リョウがパートナーでホントによかった。おれは・・・リョウとなら、一緒にいられる。」
「コウ・・・」
暑いのか、コウは少し息が荒くなった。
「お風呂暑い・・・」
「ごめんコウ。早く出よう。」
コウを抱いたまま風呂場を出る。母さんが着替えを持ってきたみたいで、コウの毛を完全に乾かしてから、僕は服を着た。
居間でコウを撫でてると、父さんが何やらうれしそうにやってきた。
「おい、リョウ・・・おまえの助けたタマゴ・・・イーブイだった。」
「え?ほんと?」
「ああ・・・もうちょっと温めたら孵ると思う。結構育った段階で川に流れたみたい。」
僕はタマゴが孵るって知ると、うれしくなって、溺れたのも無駄じゃなかったな、なんて思える。
「溺れてよかったじゃん。」
コウもうれしそうに僕を茶化す。同じこと考えてたのでかなりびっくりした。
「なんで同じこと思ったの?」
「え?」
びっくりしたような表情で僕を見るコウ。
「これが・・・リョウとおれとのパートナーシップってことじゃぁないの?」
「そうだね。そうに違いないよ。」
すごく納得できる答えを聞いてコウも僕のことを考えてるし、僕もコウのことを考えてる、なんてうれしい事実を僕に無理やり信じさせた。

タマゴも順調に孵化の時を迎えているみたいだった。父さんが僕たちが持ってきたタマゴを孵化機に入れて数日がたった。
僕たちはタマゴの前で産まれてくるのをじっと待っている。孵化機の前で僕はずっとしゃがんでて、コウも四肢を伸ばしてずっと見てる。
ぴきっ・・・ぱきっ・・・
「コウ、タマゴにヒビ入ったよ。」
「ほんとだ・・・」
ヒビの入ったタマゴにじっと見入っている僕とコウ。
パキパキ・・・
「みゃぁ・・・」
急にタマゴが割れた。元気そうなイーブイが出てきたけど・・・ずっとこっちを見てる。
「リョウ・・・これって・・・」
「僕たちは親じゃないよ・・・」
僕たちはこの後の展開に戦々恐々としながら・・・結局この場を離れることができない。イーブイも見るのをやめない。うれしそうにずっとこっちを見てる。
生まれたのを知った父さんはさっきからミルクの準備をしてる。
「父さんがミルク持ってくるって。」
居間からミルクを作った父さんがゆっくりと哺乳瓶をもってきた。そしてあげてみたら、と僕に渡す。
「リョ、リョウ・・・あげてみなよ・・・」
コウが僕に催促してきた。
「わ、わかってるよ・・・焦るって・・・」
相変わらずのビビりながらイーブイに接しているが、僕はゆっくりとイーブイに哺乳瓶の口を飲みやすいように差し出す。気付いたイーブイもチュウチュウと吸いついてくる。
とりあえず元気にミルクを飲んでるので僕たちはひと安心出来たけど、すぐに次の問題が浮かんできた。
「ふぅ・・・名前どうしよう・・・」
「おれの母ちゃんに決めてもらおうかな?」
「サナに?」
「うん。」
「そうしよっか。コウの名前決めたの俺だから・・・サナならなんかいいアイデアくれるかも・・・とりあえずイーブイが寝るまで待つか。」
「そだね。」
どうするか決まったけど・・・僕たちはイーブイが落ち着いて寝るまでずっとその場から離れられない。僕が抱えてもいいんだけど泣いたら困るし。
「ふぇぇっ・・・ふぇぇぇぇっ・・・」
孵化機からベッドに移したけどイーブイは寝るどころか泣きそうだ・・・
「泣きそうだけど・・・」
「うーん・・・よし・・・古典的だけど・・・」
僕はイーブイを持ち上げるとゆらゆらと揺らす。イーブイの泣きは少しおさまってきた。
「ぇぇっ・・・ぇっ・・・ぇっ・・・」
「リョウ、もう一息だぞ。」
「焦るなコウ。ここからが大事なのだ!」
そう宣言すると僕はゆっくりとゆりかごのように揺らす。気持ちよかったのか、イーブイの泣きは少しおさまってきた。
「くぅくぅ・・・」
「ねたぞぉぉ・・・」
「そだね・・・」
起こさないように僕たちはヒソヒソ声で会話をする。抱いたままゆっくりその場を離れて洞にいるサナに名前を決めてもらいに行く。
足音を出来るだけ立てず、出来るだけ衝撃が加わらないようにこっそりひっそりと玄関を出る。
「あっ!リョウ~!」
玄関を出てすぐにサナは僕たちに気付いてダッシュで駆け寄ってきた。
「しーっ!」
騒ぐサナを必死で落ち着かせる。泣きだしたらあやすのが大変だからだ。サナに事情を説明すると簡単にOKをくれた。
「名前ねぇ・・・うーん・・・リョウみたいに簡単にアイデアが出たらいいんだけどね・・・」
いい名前を付けるのに苦戦してるようで、サナは少し悩んでいる。グラエナの悩んでる顔なんて普通なら絶対に見れないよね。
「そだ。ハナっていうのは?」
「ハナ?」
「おはなばたけの?」
コウがサナに質問する。
「そうだよ。いい名前でしょ。♀だしね。」
「♀なんだ・・・ありがとう。これで名前も決まったし・・・」
安堵する僕たちに、サナは少し不安になるようなことを言う。
「イーブイって成長早いよ。1か月もしたらミルクいらないし・・・っていうかその哺乳瓶、リョウが赤ちゃんの時使ってたやつじゃん!懐かし~。」
「え?」
サナの唐突な思い出話に顔から火が出るほど恥ずかしくなる僕。うつむくとコウもじっと僕を見上げてる。
「コウ、見るんじゃない。」
「恥ずかしい?」
少しニタニタして僕に聞いてくる。わざとか・・・
「当たり前。」
コウまでも僕を攻め立てる。抱いてるイーブイ・・・いやハナを見ると起きたらしくうっすらと目を開け、その瞳を潤ませて四肢を動かしている。
「ふぇぇぇっ・・・ぇっ・・・」
また泣きそうだ・・・どうしよう・・・」
「ちょっと貸してみなさい。」 
サナが僕にハナを預けるように言う。僕はしゃがんでサナ慎重にハナを渡そうとする。サナは横にゴロンと寝ると、身体をまげてお腹でハナを包むような姿勢を取った。僕はその姿勢になったサナのお腹の上にハナを置いた。
落ち着いたのかハナはサナのお腹の上ですやすやと寝始めた。僕もコウもサナもほっと一息つく。
「私も・・・このままずっとしていられないからリョウ、あなたも責任持って育てなさい。できるだけ協力はするけどね。」
ありがたいことに、サナは協力してくれるみたいだ。
「ふにゃ・・・」
眠ってたハナが目を覚ましたみたいでサナは優しく語りかける。その様子を僕も固唾を飲んで見守った。
「いい?あなたの名前はハナよ。ハナ。」
「はにゃ?」
「は・な。」
「は・・・な・・・」
「そう。」
サナはハナに名前を教えてる。
「でこの人がご主人。ごしゅじん。」
「ごしゅじん・・・」
僕を指してる・・・え?僕が主人?
「ちょっと、なに吹き込んでるんだよ!」
「いいじゃない。で、このポチエナ、コウだよ。コ、ウ。おにいちゃんって呼んであげてね。」
「変なこと教えないでよ!」
「おにいちゃん・・・?」
ハナはサナに言われた通りに僕たちを呼ぶが、コウも僕もサナに憤慨してる。この変な呼びかたがこの後の僕たちの関係にどう影響及ぼすのか・・・見ものだ。
でもおにいちゃんって・・・コウを見てその言葉の意味を考えると・・・笑える・・・おにいちゃんっぽいんだな確かに。
「なに?なんかおれのこと考えた?」
「なんでもないよ。コウ。」
「おにいちゃん・・・ごしゅじん・・・」
コウと会話してると、ハナが僕たちを呼んだ。コウもいやいやながら、その呼び名を受け入れたみたいだ。僕はもう受け入れた。

その日からハナとコウと僕の生活は始まった。コウは成長したのかずっと面倒見ないと・・・っていうことはないんだけど、ハナはずっと甘えてくる。
2か月くらいするとずっと成長したハナを抱いて、コウと遊ぶようになった。
「リョウ、遊ぼうよ。」
コウは退屈なのか僕に遊びを誘ってくる。この頃には本の読み聞かせよりも、判断力を重視するような遊びを良くするようになっていた。
「うい・・・ちょっと待ってね・・・トランプ探すから・・・あ、あったあった。」
ハナを抱っこしたまま僕はコウと遊ぶためにトランプを探した。
その頃の僕たちはよくトランプをして遊んでた。並べて遊べるような神経衰弱みたいなのばっかりだったけどね。
最初は僕が強かったんだよ・・・最初のころは・・・最近はね・・・ちょっと負けがこんでるっていうか・・・弱い。
「これとこれじゃぁっ!」
そう叫ぶとトランプを2枚めくる。コウは少しニヤニヤしてる。外したかな・・・
「はずれだね・・・ごしゅじん弱い・・・おにいちゃんがほとんどとってるじゃん・・・」
「最初は強かったんだよ、最初は・・・」
ハナまで僕にツッコむ。反論しても言い訳にしか聞こえないのかハナは冷たい目でしか見てこない。コウもおにいちゃんと呼ばれるのに完全に抵抗がなくなったみたいだ。
「じゃあおれは・・・これとそのみぎのとなりのやつ。」
コウは前肢でカードを指す。コウはカードをめくれないので僕がコウが言ったカードをめくる。当たりだった。
「あたり・・・くそぅ・・・」
「リョウ、おれ、半分以上とったけど・・・続ける?」
コウはすでに全体のカードの半分を取ってた。尻尾をぶんぶん振ってうれしそうに僕を見る。
「まいりました。」
素直に僕は負け宣言をした。なんでこんなに強いんだろ・・・コウは記憶力がそんなに強いわけじゃないのに・・・
「なんでそんなに強いの?」
「ひみつ。別に憶えてるわけじゃないんだよ。コツをね・・・少し。じゃ、ちょっと庭行ってくるね・・・」
そう言い残すとコウは玄関に走っていって外に出てった。コツ?なんなんだろ・・・気になるな・・・ハナが少し退屈そうだ。
「ハナは外に行きたくないの?」
「わたし?私は・・・行きたい。」
「じゃ、僕たちも外行こうか。」
僕もコウの後を追うようにハナを抱いていつもの洞の近くに行く。
「ハナ。こんにちは。」
「こんにちはサナさん!」
サナが挨拶をするとハナは元気に応える。
「ちょっとハナのこと見てもらってていい?コウどこ行ったのかなって・・・」
「わかった。コウなら門の近くにいたよ。外にはいかないみたいな感じだったけど。」
ハナをサナに預けると僕は門扉の近くまで走る。
「リョウ!」
「コウ?」
庭の隅のほうからコウの声が聞こえた。僕もあわててコウの声の元へ走った。そうするとおとなしく座ってるコウの前に何やら生き物がいる。
「コウ、どうしたの?」
「リョウ・・・これ見てよ。」
そうするとその生き物のほうに視線を振った。その生き物は4足の白い毛むくじゃらだけどスタイルは良く・・・顔は蒼く何やら半月上の蒼い何かが頭の側面から飛び出ている。
「話しかける?逃げる?」
コウに聞いた。コウが警戒してないから大丈夫かなって思ったから。
「逃げるって言ってもこの距離じゃ逃げれないよ・・・」
「何のポケモンなんだろうね・・・」
興味津津に目の前のポケモンをじーっと見る僕たち。さすがにその目の前のポケモンも照れたのか顔を赤くして少しうつむいてる。
「逃げないの?私から・・・」
「へ?」
そのポケモンは唐突に話した。ちょっとびっくりしたけどさらに興味がわいたのかコウはさらに近づいて見てる。
「逃げれないって言ったじゃん。」
僕はそういうと少しして近づいてくる足音が聞こえてきた。
「コウ!リョウ!そいつから離れろ!」
ローの叫ぶ声が聞こえてきた。でもコウも僕もそのポケモンから離れない。
「無駄だって言ってんじゃん。何かあっても逃げれないって・・・」
コウは少し諦め気味につぶやいた。
「なんか交渉してよ、コウ。」
話をコウにさせてみる。我ながらひどいなと思ったけど・・・まぁいいや。
「え?ん~・・・何言ったらいいかな・・・僕はコウ。君は?」
「私・・・私は・・・名前・・・無い・・・」
「ええーっとその~・・・好きな食べ物は?」
「・・・米。」
「うーん・・・えーっと好きなケモノポケモンは?」
「・・・グラエナ・・・」
「え~う~ん・・・君の種族は?」
「・・・アブソル。」
コウもかなり苦戦してる。初対面で見たことないポケモンと話をしようとするとどうしてもこうなるみたい。
「コウ、コンパじゃないんだから・・・」
「おい・・・離れろっつったじゃん・・・こいつが誰か知らないのか?」
ローがようやく僕たちの近くに来た。ローはやってきたお客を警戒してるようには感じないけど・・・でも態度悪いなあ・・・
「知らないからいろいろ聞いてるんだって。」
「なんだよ・・・こいつアブソルだぞ。知らないの?」
「うん。」
「災いポケモンって言われてるんだぞ?何か起きたらどうする?」
「じゃあもう手遅れじゃん。」
「あのなぁ・・・」
僕の反応にあきれたのかローはため息をついた。僕はコウをちらっと見るとまだなんか話をしてる。
「えーっと君の長所は?」
「・・・・優しいところ?」
「短所は?」
「・・・・かわいいところかな?きゃはっ」
アブソルもキャハッ、じゃないよ。いつまでやってんだか。ローは警戒を深めてるけど・・・僕はアブソルから離そうとしてコウの背後から両手でコウをつかむ。
「わっ・・・リョウ・・・なに話したらいいかわかんないよ・・・」
「僕も・・・明るいんだか暗いんだか、性格がさっぱりつかめない。」
腕を曲げてコウを僕の胸に近づける。コウはけっこう悩んで話してたみたいだ。
「じゃあ、こいつ追っ払うぞ。」
ローはめんどくさそうに言った。アブソルも仕方ないか、といった表情をしている。
「待って。」
僕に抱かれたままのコウは追っ払おうとするローを制止した。
「なんだよ・・・いいじゃん・・・わざわいだって言ってるだろう?」
「でもそれだけで無理やり追っ払うのはダメでしょ・・・」
「仕方ない・・・好きにしな・・・ご主人呼んでくるわ・・・リョウじゃ話にならなさそうだし。」
あきれてローは僕にチクリと痛い言葉を言い残して離れていった。父さんを呼びに行ったみたい。アブソルは明るい表情になってコウを見た。
「はぁ・・・どうしよう・・・ハナもいるし・・・コウもいるしなぁ・・・アブソルって何なんだよ・・・」
もし家に居座ることになったら面倒だな、と思って少し悩んだ。
「ねぇねぇ・・・そこの人?」
アブソルが僕を呼んでるみたいだ。なに言われるんだろう・・・
「はい?僕?」
「そう。ポケモンの知識全然ないの?」
「ない。コウとかのことは好きだけどカテゴリーとしては全く興味ない。種類としては植物のほうが好きだからね。」
アブソルはだめだなぁって感じで苦笑いで首を横に振った。さっきから僕は馬鹿にされすぎだろ、ちょっとむっとするなぁ。
「でも優しいよ。おれはリョウを知ってるから言えるんだけどね。」
憤慨してる僕にコウがうれしい反応をしてくれた。コウの言葉を信用したみたいで、アブソルのほうから僕に近づいてきた。
「リョウっていうの、あなた?」
「そう。で、このポチエナがコウっていうの。」
僕は両手を動かして抱いてるコウを揺らした。コウもまんざらでもない顔でよろこんでる。
「図鑑持ってない人と初めて会ったの。図鑑持ってる人はすぐ私を捕まえようとしたけどね。その・・・リョウはそんなことないなって。この世界でポケモンに興味ないって人も始めてみたけど。」
恥ずかしそうにアブソルは言う。コウも照れてるのか目を閉じてうれしそうに尻尾を振ってる。
どたばたと音がしてローが父さんを連れて走ってきた。父さんは相当あわててる。
「なんだなんだ・・・うわっ!本当にアブソルだ!・・・ってなんでみんな逃げてないの?アブソルも・・・」
「いやぁさっきからみんなこうなんだよ。」
ローは一応父さんに説明するけど父さんは納得いかなさそうだ。父さんは興味津津でアブソルをじっと見てる。父さんにはアブソルはかなり警戒してる。
「父さん、警戒されてるよ。」
「うん、それが普通なんだよ。もしかして警戒されてないの?」
「まぁねぇ。ほら。」
僕はアブソルの眼前ににしゃがみ、腕を伸ばしてコウを差し出す。アブソルはコウの顔を嬉しそうにじろじろ見た後、顔を近づけてきた。
「りょ、んぐっ・・・」
いきなりアブソルはコウの唇を奪った。予想外の行動に僕はコウをアブソルから離す。
「ぷはっ・・・はぁっ・・・このアブソル変だよ・・・」
コウは嫌そうな顔をして僕に苦情を訴えた。でもアブソルはすごくうれしそうにしてる。
「ねぇ、アブソル。家で暮らす気ない?」
父さんがアブソルに提案をした。僕は少し嫌な顔をしてコウを見たけど、コウも僕以上に嫌な顔をしてる。
「いいの?住んでも。」
「もちろん。ただちょっと生活を邪魔にならない範囲で調べさせてね。」
「うん。いいよ。」
父さんの返事を受け入れ、一緒に生活することを快諾したアブソルは笑顔だ。
「リョウ・・・助けて・・・」
さっきので参ったのかコウは僕に助けを求める。不安を感じた僕はコウを出来るだけ安心させようとする。
「この家の家主は父さんだから・・・まぁコウに何もないようにはするけどさ。」
「うん・・・」
僕は安心させようとしたけどコウはため息をついてガクッと力を抜いて身体を僕の胸に預けた。
「コウ・・・大丈夫だよ・・・」
ぽんぽんとコウの身体をやさしく叩くとコウは前肢を僕の首にまわして僕の耳にその横顔ををくっつけた。ふさふさのグレーの毛が顔に当たってくすぐったい。左手でコウの頭を数回撫でた。
「リョウ、このアブソルに名前を決めてあげなさい。」
父さんが僕にアブソルの名前を決めるよう行ってきた。
「え?僕が?アブソルでいいじゃん。」
そういうとアブソルは僕をすごく睨んだ。その顔怖いんだって。
「わかったよ。じゃあソラでいいじゃん。」
もう適当に決めてやった。アブソルだからソル・・・でソラだ。
「すご~い。いい名前じゃん!・・・ありがとう、リョウ。」
アブソルは名前が決まってほっとしたのか僕に感謝するけど・・・適当に決めて少し後悔した。
「でも主人は父さんだからね。僕はハナとコウで手いっぱいだよ。」
コウが嫌がってるうちはソラからコウを離しとかないと危ないと思ったので、僕は父さんに押し付ける形で逃げた。
「わかってる。コウが危ないみたいだからね。」
こうして僕たちの前に悪魔・・・の顔した可愛い女の子がやってきた。
ソラは最初の印象よりもかなりおとなしいみたいで、父さんと常に勉強をしている。コウも最初は避けていたソラに次第に近づいていき、ソラからいろいろと教わっているみたいだ。
「わぅぅっ・・リョウ~~助けて・・・」
「コウ?今行く。ハナ、ちょっと待っててね。」
「まだ絵本よみおわってない~・・・」
絵本の読み聞かせをしていたハナはすごく不満そう。
「すぐ戻ってくるから。」
「ほんと?じゃあすぐに戻ってきてね。」
ハナはコウ言う場合、すぐに戻ってるというとすぐご機嫌になる。僕は庭にいたコウのもとへ急ぐ。庭に出るとソラはコウに上から抱きつく形を取っていた。白いもじゃ毛が灰色のふさふさを覆っている。
「こら!ソラ。離れなさい。」
僕はそう言ったけど、ソラは特に不満そうな顔をせず、むしろ喜んで離れる。ソラはコウで遊んでるみたいに見えるんだけど、ソラはそんなつもりはないって言ってるみたい。
「どうしたの、ソラ、コウ?」
「ソラは何か教えてくれる間はずっと真面目なのに、それが終わると急に抱きついてくる・・・」
「いいじゃん。授業料だって。身体で払って。」
「身体って・・・ソラ、そういうことは言うもんじゃないよ。」
ソラをたしなめるが、ソラの顔を見る限りどうも本気みたいだ。意味を知ってるのかな・・・うらやましくは・・・無いけど。逆レ・・・まぁいいや。

こんな日々が3カ月ほど続いたある日だった。僕はその日の夕食、ある思いを打ち明けようと思った。植物学のフィールドワークをしたい・・・つまり独り暮らしをしたいってこと。
コウにも相談したけど、コウは賛成って言ってくれた。ソラから教わることはなくなった、と。ハナは置いていこうか迷ったけど、僕の両親に打ち明けてから相談して決めることにした。
父さんもうすうす気づいてる。外出すればその距離が次第に長くなっていること、寝袋を持っていって夜を明かすこともあることとか気付かれる要素は多分にあった。
「なかなか言えないんだよな・・・弱気だから・・・」
「リョウ、意志の強さを通したらいいんだよ。」
コウも少し口調が大人びてきた。でもすぐ元の子供っぽい口調に戻るけどね。僕は今までためた植物のデータをせっせとノートに写したり、デジタルデータとして残したりしていた。
データを整理していけば気が変わるかな、という思いと、整理して、いつでも出れるように、という相反する思いがあった。
「ごはんだよ~。」
ソラが勢いよく僕の部屋に入ってくると途端にコウに覆いかぶさった。この光景をみるのも久しぶりな気がする。
「うぎゃあっ・・・リョウ~~!」
「んぁっ!こら!ソラ離れなさいって。」
「はいはい。」
ソラは僕の指示に素直に従うと居間まで僕たちを誘導して連れて行ってくれた。居間には父さんがいた何やらせっせとチラシを見ている。僕に気がつくとチラシを隠した。
「リョウ、ご飯だよ。」
「父さん・・・」
「どうした?何か言いたげだな?」
「なんでもない。」
キッチンのそばでは先にいたコウとソラが仲良くご飯を食べている。
ご飯のテーブルに着くと僕は重い口を開けた。
「あの・・・父さん・・・母さん・・・これは僕の気持ちなんだけど・・・」
「え?」
探りを入れてみると母さんはなにを言うのかなっていう感じの反応をして父さんずっとは黙ってる。僕はもう切り出すことにした。
「あの・・・僕は・・・植物のフィールドワークを・・・したい・・・要はその・・・独り暮らしを認めてほしいんだ。」
「え?そんなのいきなり・・・ねぇお父さん・・・お父さん?」
母さんはやんわりと断るような返事をして父さんに振った。父さんは少し考えて何やらテーブルの下をごそごそと探っている。
「リョウが独り暮らししたいなんて言うかな・・・ってずっと待ってたけど、待ってた甲斐があった。」
笑顔で僕を見つめる父さん。その目は本気だ。
「お前の外出の帰りが遅かったり、今までせっせとためたデータを整理してたり、いつ言うのかなって思って、独り暮らし用の家探してたんだよ?」
「父さん・・・」
父さんはちゃんと気付いてたんだ・・・うれしくなって目がうるんでくる。
「じゃあ明日早速、決めに行くか?」
「うん。」
母さんは困惑してたけどどうにか受け入れてくれたみたい。父さんの説得もあったんだろうと思う。
その日からせっせと父さんと独り暮らしの準備をした。新しい家は僕と父さんが相談してポケモンを6匹くらいまでならモンスターボールに入れなくても住めるくらいの広さのある家にした。
森に囲まれてるけど、駅に近くていい場所だった。
使ってた寝袋も新調したし・・・ハナも賛成してくれたし・・・でも大きな問題があった。
「リョウ・・・助けて・・・ソラが・・・あたってくる・・・」
ローもサナも僕がコウを連れて家を出ることを快諾したのに、父さんを主人にするソラはすごく不機嫌だ。
「ソラ!やめなさい!」
僕は必死でソラを止めるけど、ソラはずっと何度もコウをぺろぺろと舐めたり、甘く噛んだり・・・コウの綺麗な身体はその頃には1日でソラの涎まみれでネチャネチャになるくらいだった。
父さんもソラの説得に思った以上の壁にぶち当たったみたいだ。それでも家を出る日は近づいてくる。僕はコウの身体を綺麗にすることしか出来ることはなかった。
コウが僕を守るために嫌な思いをしてる、そう思うたびにコウはこれがおれとリョウの意志だ、って僕に思いとどまらないように説得してくれた。
とうとう家を出る前の日になった。その日、1日中僕は新しい家でコウと父さんと使えるように準備をしていた。
その晩僕はコウと早めに寝ることにした。
「じゃ、お休み。コウ。」
「明日、楽しみだね。リョウもおやすみ。」
布団をかぶってると今日の疲れがたまったのかすぐに眠れた。でも何かの音に気付いて目が覚めた。
「ふぁぁっ・・・まだ明るくないじゃん・・・3時か。」
布団にくるまってると、閉めたはずの自分の部屋のドアが開いてることに気付いた。泥棒かな、と思ったけどすぐに違うとわかった。
そいつは4足だったみたいで僕の近くで寝ていたるコウに近づいていた。
「ソラ?」
シルエットをよく見るとソラだった。僕は気付かれないように、でもすぐ動けるようにだけ寝る姿勢を取った。
ゆさゆさと何かが揺さぶられる音が聞こえた。
「ふぁ?・・・だれ?リョウ?・・・」
コウの声だ。
「ソr・・・うぐぅっ・・・んーんー・・・」
ソラだっていうのに気付いたのかコウは暴れようとするけど抑えられたみたいだった。僕はもうすこし様子を見守ることにした。
「静かにしなさい・・・起しちゃうでしょ?」
「なにするの?」
「コウに話があってね・・・」
「何の?」
「コウ今までごめん・・・いろいろちょっかい出しちゃって・・・大したことも教えれなかったかもしれないけど・・・」
ソラが急にしんみりと喋り始めた。
「私と遭って、初めて逃げなかった・・・それがリョウとコウだった・・・最初はなんで逃げないのかとか、何かされるんじゃないかとか思ってたけど・・・」
「ふぁぁ・・・痛っ・・・」
ばし!という音とともにあくびをしていたコウは叩かれたみたいだ。
「ちょっと!聞く気ある?」
「ごめんごめん誰でも急に起こされるとこうなるの。」
「はぁ・・・それでもリョウが最初私に対してポケモンは興味ないって言ってたけど・・・それは今は少し違うんじゃないかなって思う・・・」
「へ?」
僕の疑問をコウが代弁してる。
「リョウのコウに対する接し方を見ると・・・興味無いんじゃなくて、パートナーとお互い求めてるものをやり取りするには他には興味ないっていうしかないんじゃないかな・・・」
「どういうこと?」
「リョウはコウのことを自分と対等かそれ以上に見てるってこと。パートナーとして、お互いがつくしあう関係として、ね。」
「うーん・・・おれはリョウのことが死ぬほど好きだけど・・・リョウも・・・ってこと?」
「そうだと思う。」
「私は最初リョウに主人になってもらいたかった。でもそれをリョウは拒んだ。私はそれがずっと気になって・・・コウを知ろうとした。」
ソラは僕を主人にしたかった???僕の頭には遭遇した時の記憶がよみがえる。父さんに押し付けたことが・・・
「でも、なにもわからなかった。リョウのお父さんはすごくいい人でいろいろ教えてもらったし・・・それでコウにもいろいろ教えたんだけどね。」
「どうだった?見損なった?おれとリョウのこと。」
「全然。むしろこの関係には割って入れないなって。リョウは好きだってきめたこと、ものには一途みたいだから。ハナっていうイーブイも同じだけど。」
「・・・」
黙るコウに対してソラは話を続ける。
「だから・・・独り暮らししたいって決めたリョウの気持ちを揺さぶるにはどうやったいいかなって・・・」
「おれにめちゃくちゃしたのも?」
「あれは・・・その気持ち以上にコウに対する好意もあったんだけどね・・・どうも空回りみたい。」
「諦めた?」
「そうね。後押ししてあげたいっていう気持ちがすっごく強くなった。」
ソラまで・・・ありがとう・・・
「でもコウに対する気持ちは強くなったかな。」
「おれのこと?」
「もうちょっと立派になったら考えてね。たとえば進化するとか・・・まあ進化しても今より賢くないと意味ないけどね。」
「へ?」
「戦うだけが能じゃないって、教えたでしょ?コウがしきりにリョウが戦わせるのが嫌だって言ったから。戦わないで、相手の戦意を失わせるのも大事だって。」
そんなことも教えてたんだな・・・布団にくるまった僕は少し恥ずかしくなる。
「襲いかかってくる相手に毒を使って動けなくしてリョウの指示を待つとか。諭して仲間にしたりとか。方法はあるよ。」
「ん~・・・」
「立派なグラエナになって、私と頭で勝負してね?」
「うん・・・わかった。」
「じゃ、明日早いんでしょおやすみ・・・んふぅ・・・」
「んふぁ・・・んっ・・・」
なにやら音が聞こえるが聞こえないふりをした。すぐに音がおさまり、僕の部屋のドアが閉まる音がする。すっかり眠くなった僕はまた眠りに落ちた。
「おはようさん・・・」
「父さん・・・」
目を覚ますと父さんが僕の布団を揺さぶっていた。
「今日だぞ。準備出来た?」
「もちろん。」
身支度を済ませると父さんは俺を庭に連れて行った。
「コウとハナをそのまま連れているといろいろ問題も起きる。かといって留守番をさせるのはかわいそうだろ、電車に乗るときとか・・・だからこれを使え。」
父さんは僕にモンスターボールを6つ渡した。
「それからこれ。」
モンスターボールをリュックに詰めると父さんは分厚い大きな植物図鑑を渡した。
「これは・・・」
「そう、最新版の植物分類表と図鑑。」
「ありがとう・・・」
図鑑を同じくリュックに詰める。コウも起きたのか玄関からどたばたと音をさせて僕のところ来た。
「おは・・・ふぁぁ・・・」
「寝ててよかったのに・・・まだ早いし。」
「ずっと一緒じゃないと意味ないじゃん!」
「ごめん、ありがとう・・・」
屈んでコウの頭をなでる。コウは少し誇らしい顔をしてる気がした。
「コウ?顔洗ったら?」
「へ?なんかついてる?」
「口元になんか付いてるよ。」
「じゃ、洗ってくるから!」
微笑んでコウを見ていた父さんが思い出したように切り出す。
「あ、そうそう。これこれ。これが一番大事。森に出ると思わぬ生物に出くわすだろ?だからこれだよ。ってあれ?」
そういうと父さんは玄関に引き返していった。コウは顔を洗ってもらったのか顔をびしょ濡れにして走って戻ってきた。そのあとを追うかのようにすぐ父さんもやってくる。
「これな。」
父さんの手にはポケモン図鑑が握られていた。
「これ・・・」
「ちゃんとデータをアップロードしろよ。俺が作ったデータも入ってるんだから。」
僕は父さんから図鑑を手渡されるとコウに向けてボタンを押してみた。
ピッ!ポチエナ・・・
という音とともに説明文がタラタラと流れる。
ピッ!ポチエナ・・・ピッ!ポチエナ・・・ピッ!ポチエナ・・・
面白くて何度も押してると。頭を父さんに小突かれた。
「面白がるんじゃないよ。ちゃんと使えよ。じゃないと誰かが大けがすることもあるよ。」
「わかった。」
図鑑をリュックにしまって今日持っていく荷物はすべて玄関にまとめて置いていた。それをリュックの中に整理して入れていく。
「ご飯だよ。」
ご飯ができたようで母さんが僕たちを呼んだ。
「今行く。」
そう言うとコウとキッチン近くのテーブルに向かい、僕は座った。ポチエナもお座りの態勢を取ってる。
「いただきます。」
そういうと僕はこのご飯もしばらく食べれないんだな、そう思ってかみしめる。料理は独り暮らしを打ち明けてからかなり練習したし、コウにもソラにも食べてもらった。なかなか悪くはないみたい。
「ふぁぁ・・・ごしゅじんおはよう・・・」
別室で寝てたソラとハナがやってきた。
「ハナ、おはよう。」
「んふふ~。」
ご機嫌なハナは尻尾を振ってご飯を食べてる。僕はいつのまにかご飯を食べ終わってたみたい。
「ごちそうさま。」
「食器そのままでいいよ。もうすぐ出るんでしょ?」
母さんはいつも食器をキッチンの流しに持ってこさせるが今日は母さんが引きとめた。
「うん。」
僕は出るまでの時間、荷物を確認して、コウとハナ、ソラと遊んだ。ローとサナは僕に祝辞をくれた。ローは少しサナとソラが仲がいいのが心配みたいだったけど。
「もう行く時間だ。」
リュックを背負うと門で父さんと母さん、ロー、サナ、ソラが僕を見送る。僕のそばにはコウとハナがいる。
「怪我とか風邪とかになったらすぐ飛んでいくから。」
「父さん・・・」
「ちゃんとご飯食べないとダメよ。って私が言うセリフじゃないな・・・」
サナは母さんを差し置いて僕にそういう。すぐに気付いたみたいだけど。
「サナ・・・ありがと・・」
「サナにおいしいところ持っていかれたけど・・・コウも、ハナも元気で暮らすのよ。」
「ありがとう・・・って母さん、僕にじゃないのか。」
「そりゃねぇ・・・人の子のこと心配してもらってるから、お返しに。」
そう母さんは言うとサナの頭を撫でる。
「リョウ、コウも仲いいから喧嘩することもあるかもしれないけど、喧嘩したらお互いさっさと謝るんだぞ。リョウも出来たらハグしてあげて。コウも言葉だけだと寂しいと思うから。」
「ロー・・・いつも遊んでくれてありがとう。うれしい。」
ローは笑顔で僕を見た。
「リョウ・・・って呼ぶの久しぶりかな?コウも迷惑かけてごめんね。コウは強くなって帰ってきてね。リョウも・・・私みたいに珍しいポケモンには興味持ってよ?」
「ソラ・・・性格直して。」
「るさいっ!」
ソラは照れながら言ってる。
「じゃあそろそろ行くね。」
「あ、リョウ。ちょっと待って。」
サナが僕を引きとめる。そして僕だけにサナのそばに来るように言った。僕はコウとハナに待つように言って、サナのそばにいった。
「その、コウだけど。ちょっと不器用だけど、案外かわいいとこあるから・・・グラエナになってもそんなに心配しなくていいよ。」
「サナ・・・コウは賢いから・・・不器用でもグラエナになって強く大きくなっても、心配はしないよ。」
「そう・・・ならコウはほんとうにいいパートナーを持ったと思ってるから。なにか喧嘩してもあの仔はなかなかいいわけ出来ないから素直になってあげてね。」
「サナ、ありがとう。その言葉は忘れないよ。コウに怒ることなんてもうめったにないけどね。」
僕がそう言うとサナは笑顔で僕を見て、大丈夫だ、と言ってくれた。

「さてと、コウ、準備いい?」
「もちろんだよ。リョウがいいって言ったらいつでも。」
さてと、じゃあ行くかな。
「じゃあいくね。」
「行ってらっしゃい。」
母さんと父さんが笑顔で僕を見送る。ソラは少し心配そうだ。ローとサナはいつも僕と遊んでくれた時の懐かしい顔をしてくれた。
家が見えなくなると、少し寂しい気もする・・・でも、それも乗り越えれるだろう・・・
僕は希望に胸を躍らせて、ハナを抱いた。コウは少しハナをうらやましそうに見たから、ハナを片手で抱いて開いた片方の手でコウを抱いた。
コウは終始頬を赤らめて恥ずかしそうにしてたけど、それはハナが見てるからなんだよね。
コウとだけだといつも抱いたときはうれしそうに尻尾を振って、舌で僕の顔をぺろぺろ舐めてくれるから。
ハナはずっとうれしそうに尻尾を振ってる。
僕はこれから不安もあるかもしれないでも、コウたちがいればきっとどうにかなる、そう思って新たな一歩を踏み出した。


終わり



うう・・・なんとか終わりました。最後まで読んでいただいてありがとうございます。
もともとこれは前書いたエロい?短編の前にアイデアを出していたんだけど、なかなかまとまらず結局まとまりきらないままここまで来てしまいまして・・・
本当はこのコウがグラエナになってからの話を書いてたんですけど・・・その説明のための文章をつらつらと書いてるうちにこれだけ長くなってしまいました。
グラエナになってからの話も書いてるんですが、キャラの登場の時期の判断を迷ってまして、7月の中旬くらいには出来るかな~っていう次第です。すいません。


@10/06/26誤字、脱字等変なところありましたらコメ欄におねがいします。

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  • おもしろかったです!続きがあるのでしたら頑張ってください!
    ――GL ? 2010-06-24 (木) 00:37:54
  • このコンビ、なんだかほのぼのしてすごくいいですね! 続き待ってます!
    ――NaO ? 2010-06-26 (土) 01:53:15
  • GLさんNaoさん読んでいただいてありがとうございます。続きはすこし登場キャラが増えそうなのでこのコンビの影が少し薄くなるかも・・・
    ほの系書いてるとこっちもほのぼのしてくるんで楽しく書けるんですね。
    ただ、そうしてると作品の軸がぶれることもあるので気をつけてるんですが・・・
    ――青浪 2010-06-26 (土) 14:22:36
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Last-modified: 2010-06-26 (土) 00:00:00
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