幸せと言ふもの 作者涼風
涼風の処女作です。
ちなみに私はサーナイト大好きですよ。……単に言いたかっただけです。
人は幸せをどんな時に感じるだろうか?好きなゲームが手に入った時、宝くじが当たった時、美味しいものを食べている時……。感じる時は人によって異なるだろう。
俺は……。
「サーナイト、チャージビーム!」
若草で一面緑の地面の上に、鮮やかな黄色が現れて一直線に伸びていく。
「遅いぞ。ピジョット、つばさでうつだ」
光線は素早い目標には当たらず、逆にサーナイトに隙が出来てしまう。
「ねんりきだ!」
トレーナーである俺がサーナイトに指示をするが、時既に遅し。サーナイトは、ピジョットの大きな翼を受けてしまった。
サーナイトに突き付けられる羽の刃。
「くそっ……」
これ以上戦闘をするとサーナイトの命が危ないので、悔しいが素直に負けを認めるしかなかった。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です……」
サーナイトを気遣っておく。戦闘不能といっても動けるくらいの元気はあるので、ボールに入れずに帰ろうとした。
まさかこの判断が、俺たちにとっての大事件を引き起こすとは思わなかった。
「おい、そこのサーナイトを連れた奴」
「俺?」
「おまえ以外にいるか。勝負しろ」
突然、一人のトレーナーが現れた。見た感じでは短パン小僧そのもので、ファッションセンスが問われる。
話によると、短パン大好きクラブなる組織があるらしい。あぁ、想像するだけで気持ち悪い。
「すまん、今は無理だ」
「嘘つけ、ポケモンはいるだろ」
「こいつは今疲れてるんだ」
「俺が怖いんだな、情けない」
お前は何でそんな上からなんだよ。性格は“なまいき”ってトレーナーカードに書いてあるな。
「マスター、やりましょうよ。そうしないと早く帰れませんよ」
「サーナイトがそこまで言うなら……。分かった、全力でやろう」
「やる気になったか」
やっぱり生意気だ。俺より年上ならまだしも、明らかに年下のはなたれ小僧になめられてる。
それとも、顔が童顔であって実は三十代とか?それはそれでなんだかムカつくな。
「行ってこいエーフィ」
相手が繰り出したのは、サーナイトと同じエスパータイプのエーフィだった。
「サーナイト頼んだぞ」
「エーフィ、スピードスター」
「マジカルリーフで撃ち落とせ」
スピードスターをマジカルリーフで迎撃している間に、エーフィはサーナイトの右側へ回り込む。
「サーナイト、右だ!!」
「今更遅い」
サーナイトの目の前にシャドーボールが迫る。
「マジカルリーフです」
だが、暗黒の弾はサーナイトに当たることはなく、逆にエーフィに緑葉の波が押し寄せた。
「痛いわね……もう許さないから!!」
これまで手を抜いていたのであろうが、エーフィがついに怒った。すると、さっきの二倍はあろうかというシャドーボールが現れた。
「スーパーシャドーボール!!」
しかも先程のシャドーボールより素早かったため、サーナイトは避けきれずに当たってしまった。
「キャー!!」
「サーナイト!!」
悲鳴を上げて倒れるサーナイト。到底試合を続行できる状況ではなかった。
「終わりか、呆気ない。勝ったから金よこせ」
「ぐっ」
短パン小僧は、所持金の四分の三の金額を要求してきた。
ふざけるなと言いたかったが、勝負で負けたのは事実なので仕方なく払う。
「行くぞ、エーフィ」
「待ってよ〜」
喜んで走り去っていく短パン野郎とエーフィ。その姿を見ていたらなんとも腹が立ってきた。
「サーナイト、おまえ使えないな」
「え?」
「弱いから、もういらない」
「マスター……?」
俺の指示は正しかった。だが、サーナイトが弱いから負けた。そんなことが頭の中を渦巻いていた。
弱いやつは要らない。それが俺の結論だった。
「じゃあな」
そう言って俺はその場を立ち去り、一人で家に帰った。
サーナイトは自分の目の前で起こった現実を飲み込めないでいた。しかし、目の前にあるサーナイトが入っていたモンスターボール。
それがここにあるということによって、一つの結論が導かれた。幾ら考えても、それしか出てこなかった。
「捨てられた……?」
一生懸命にやっていたのに、主人を信頼していたのに……。
「うぅ……」
裏切られた。そんな自分が嫌で、主人との思い出が楽しすぎて、心の底から泣いていた。
「腹減ったな……」
時計を見ると、既に六時前だった。外は雨が降っていた。
「サーナイト、料理は……」
いつもならこの時間に食事は出来ているのだが、担当のサーナイトがいないので出来ているわけがなかった。
「あいつはもう居ないんだ」
そういってキッチンへ行き、側にあったカップラーメンを作って食べた。
いつもと違う食事、いつもと違う空気。一人で食べることが、こんなに辛いとは思わなかった。
先程から感じる孤独。サーナイトと言う心の支えを捨ててしまったという後悔感で、食欲はすっかりなくなってしまった。
捨て子であった彼女を、両親と共に十五年前に拾ったのだった。それからずっと一緒だった。独り立ちした後も、サーナイトが親代わりとして、家事全般をこなしていた。
サーナイトは俺を信頼してくれていた。だが、俺はその信頼を壊してしまった。
このまま永遠に会えなくなっていいのだろうか?
おやつの取り合いで喧嘩した時、俺が財布を落として晩飯が水だけになった時、進化して二人で喜んだ時……。二人で歩んだ道のりを思い出したら、自然と涙が溢れてきた。
「行こう!!」
裏切り者と呼ばれても構わない、実際そうなのだから。だが、たとえ戻って来てくれなくてもこの気持ちだけは伝えたい。そんな思いで家を飛び出した。
先程より少し小降りにはなっているが、まだまだ止む気配がないようだ。
そして、今はさっきサーナイトを捨てた草原にいるが、
「どこにもいない」
このまま彼女に会えないのか。それだけは避けたかったので、彼女が行きそうな場所を考えてみた。
「サーナイトとの思い出の場所って言うのは……あそこしかない」
その思い当たる場所、サーナイト――当時はラルトスだったか――と初めて出会った街の外れへ全力で向かった。
「いた」
予想通りそこにはサーナイトがいた。
「ぐず……」
当然というか、やはりサーナイトは泣いていた。このまま話しかけるのはかなり気まずいので、何かアクションを起こすしかない。だが、恥ずかしいことしか浮かばない。仕方ないので、そのことを実行に移す。動くは一瞬の恥、動かぬは末代の恥だ。
「ひゃっ!!」
サーナイトの温もりを感じる。再び会えた喜びと同時に恥ずかしさが込み上げる。
「マスター!?」
「ごめんな。……あの坊主に金ぶん取られて、少しイライラしてたんだ。許してくれとは言わない。むしろ気が済むなら攻撃してくれ」
「分かりました……」
そうサーナイトが言うと、手を肩の高さまで持ってきてサイコパワーを溜め始める。サイコキネシスがくると確信した。
そう思ったが、サーナイトはサイコパワーを溜めるのを止め、笑顔になった。
「……って言うと思いましたか?出来るわけないですよ。大切なマスターですから」
「おまえは弱くないよ。むしろ強い。なのに俺がセンス無いから、お前を傷つけてしまう。それなのに俺は、お前が弱いと思ったから……。
それに、お前を置いて帰った後、一人では生活できないと気づいた。様々な事でサーナイトに助けてもらっている事を知った。一人で生活していたと思った俺が馬鹿だったんだ。俺は……」
「マスター」
呼ばれて顔を上げると、静かに微笑んでいるサーナイトがいた。
「家に帰りましょうよ。お腹が減りました」
「サーn…」
次の瞬間、唇に生暖かいものが触れた。と言っても、サーナイトが口づけをしているとしか考えられないが。よくキスは甘酸っぱいとか言うが……。何味がしたかは秘密だ。俺は目を閉じた。
唇の感覚が消えてから、五秒くらいかけて再び目を開ける。すると目の前には顔を赤らめたサーナイトがいた。
「ね?」
「そそ、そうだな。か、帰って飯作るぞ」
急に恥ずかしくなってしまい、その一言で噛みに噛んでしまった。
「あ、そうだ」
「ん?」
「これ、持っててくださいよ。大事な物ですから、私が持ってちゃダメです」
そういって差し出したのは、サーナイトが入っているモンスターボールだった。
「サーナイトは良いのか、一回捨てようと……いや、捨てたんだぞ」
「良いんです。帰ってきて謝ってくれたじゃないですか」
これ以上は無いぐらいの笑顔だった。例えるとするならば、夏に立派に花を咲かせた向日葵のようだ。
「サーナイト」
「何ですか?」
「手を繋ぐの止めないか?」
家に帰るために、坂道を下る。空を見上げると沢山の星がキラキラと輝いている。気付かなかったが、いつの間にか雨が止んでいた。
「いいじゃないですか、別に誰に見られようと困る訳でも無いですし」
「お前と手を繋ぐこと自体がとても緊張するんだ」
「フフ、マスターって可愛いですね」
「世界一可愛くて俺が一番愛しているお前に言われても、説得力が全く無いぞ」
すると、サーナイトが繋いでいた手を離した。何かまずいことを言ったか。慌てて後ろを振り返ると、サーナイトは唖然としてその場に案山子のように立っていた。
「マスタ〜!!」
そして、電池が入れられて動き出したみたいに、急に俺の胸に飛び込んできた。
「へ?」
「……私、今すごく幸せです」
「もうお前を離さないからな。死ぬまで永遠に一緒だ」
全力でサーナイトを抱きしめた。もう二度と離してしまわないようにしっかりと……。
「ダゲキ、かわらわり!」
「かわしてサイコキネシスだ!」
サイコキネシスが当たったが、しぶとくダゲキは生き残っていた。
「ちっ、しつこい奴だぜ。止めのマジカルリーフだ」
外れることの無い不思議な葉は、ダゲキの残り僅かの体力を完全に奪った。
「これで50連勝だぜ!!」
「どうした?」
長年一緒にいるからか、サーナイトがいつもと異なり何か言いたそうにしていたのを見逃さなかった。 少し経って、ゆっくりとサーナイトの口が開いた。
「今日が何の日か知ってますか?」
「……ああ。あの日から一年経ったな」
あの日――俺がサーナイトを捨てた日――の出来事は、二人にとって忘れることが出来ない。悪い意味でも、良い意味でも。
「今度、記念にどっか行きません?」
「ろくな記念じゃないな」
「気にしない気にしない。じゃあ、50連勝記念ということで」
「仕方ないな、そこまで言うなら行くか」
最近は賞金を受け取ることが多くなったので、十分に旅行費はある。サーナイトの願いを叶えるついでに、これまでの慰安旅行ということにしておこう。
「どこに行きたい?」
「遊園地でお願いします」
「分かった。来週くらいに行こうか」
ふと、俺は一年前の事について考えた。もしもあの時サーナイトと会っていなければ、俺は今頃何をやっていたのだろうか?下手をすればこの世には存在していないかもしれない。
そう考えると、今の生活はとても幸せなんだろう。
「マスター大好きです」
「俺もだよ、サーナイト」
愛する人と平和に暮らせることが一番幸せなんだと思うから。
〜あとがき〜
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
処女作であるこの作品はいかがだったでしょうか。下手過ぎて読むのが大変だった・この部分はおかしい、などの苦情や感想がございましたら、コメント欄に書いていただけたら幸いです。
またアドバイスがありましたら、作者の進化のためよろしくお願いします。
コメント欄
最新の10件を表示しています。 コメントページを参照