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守護の力 五、六話

/守護の力 五、六話

written by cotton

五, 窮牙猫を噛む

クチートが前へ出る。先程までただ恐怖に震えていた筈なのに。負傷して、傷だらけの筈なのに。それほど自分に"リーダー"の面影があるのだろうか。そこまで尊敬するリーダーとは誰なのだろうか。
「…何するつもりだ?」
「さあ?大人しく負けを認めたんじゃない?」
彼女はゆっくりと二匹の方へ歩く。二匹は戦闘の体勢を解いた。
「悪く思わないでね~。こっちも任務だから」
「行くぞ、破壊者」
「…鉄牙:アイアンヘッドッ!」
振り向く、と同時に背の牙がニューラにヒットする。
「わッ!?」
「な、何だ!?」
勢いよく振られた牙は彼女を吹き飛ばした。もう一度牙を振り、怯んだコドラに、鉄牙を叩き込んだ。
「クッ…!」
「作戦通りやったけど、これでいいの?」
「ああ、上出来だ…!」
時間稼ぎ、うまくいった。全身に力を込め、体勢を低くする。
「クチート、右に避けろ。…決める」
外の光に向かって突進する。少女の姿が近づき、瞬間に消えた。
「勇翼:ブレイブバード…ッ!!」

ー洞窟を後にし、近くの大樹へ向かった。向かった、と言うよりは避難した、と言った方が正しいか。
翔ぼうとすると、翼に激痛が走る。高原の集会所へ帰還することも、巣へ帰ることもできなかった。とりあえず、今日は此処で羽を休めるしかなかった。
月に照らされ、寄り添った影が作られる。いつも背景にしか見えなかった星々が、今日は一段と明るく見えた。
「そうだ、」
口を開いたのはクチート。
「名前、教えてくれる?」
緊張しているのか恐れがあるのか、少しぎこちないが、少女は笑顔で問う。
「名前?…ああ、俺はディフ。お前は?」
「あたしはロヴィン。破壊者の"覇女"」
破壊者…。
「…そうだった。何故、破壊者が此処に?」
そう聞くと、少女の顔から笑みが消えた。
「あ、いや…答えたくないなら別にいいんだが…」
「…あ、ううん。…任務で怪我したの。逃げたとこに洞窟があったから、隠れてただけ」
「…そうか。」
さっき言ってた"リーダー"とは、その任務の時のリーダーだろうか。憧れているのだろうか、尊敬しているのだろうか。此処に来るまで、ずっと誰かのことを想ってたような気がする。
…考えても分からない。どうせ、明日になれば任務を終える。いつもより遅れる結果となったが、今回も無事…ではないが、守護の役目を果たせた。
フタリの影は、森の深い闇へと伸びていったー


六, 帰還

生憎の曇り空。冷たい風が、昨日受けた傷に染みる。深緑の木々の中からは、誰の鳴き声も聞こえない。

集会所まで戻れば、専属の創造者を雇っているため治療もしてくれる。傷は完治したとはいえず、ちゃんと戻れるか心配ではあった。しかし、疲れきったこいつのためには、その方が良いと思い、帰還することにした。

「しっかり掴まってろ…!」
ロヴィンを背中に乗せ、上昇を始める。そういえば、今まで背中に乗せて翔んだのは、レーシャだけだったと思う。イーブイだった頃、グレイシアに進化するために出かけたあの日、そして"事件"の日。
レーシャの時もそうだったが、誰かを乗せて翔ぶのはいつも以上に疲れてしょうがない。ある程度の高さまで上がればだいぶ楽にはなるが。
「うわぁ…高ぁい…」
ついさっきまで寄り添って寝ていた大樹は、上空からでは森の中のただ一つの点でしかなかった。
「風が気持ち良いね」
高原へ向けて空を滑る。ロヴィンが、好奇心に満ち溢れた顔で呟く。
レーシャも度々、そんなことを言ってた気がする。空を翔ぶ機会など無いのだから、風の快さに感動するのも当然なのかもしれない。
ただ、透き通った蒼空なら、もっと清々しかっただろうに。
「…見えてきた。あれが俺達"聖天"の集会所だ」
目印の空色の旗。流れる風に棚引いている。
「ん…?何、あれ?」
「あいつら…何してんだ?」
崖には淡い茶色の羽根、ピジョン達が立っている。士官と同じ種族ということで、精兵として鍛えられている彼ら。普段なら、既に任務に向かっている時間だが…?
一匹が合図を出す、と同時に全体が地を発った。彼らは羽撃き、こちらへ向かってくる。後には土煙が舞い上がった。
「ねぇ…なんだか、おかしくない?」
そう思うのも無理はない。全員の眼は、獲物を捉えたように、鋭い。
「…ッ!?」
空を切り、先頭の一匹が突っ込んでくる。擦れ違う、刹那…

「ぐあぁぁぁぁッ!!」

気付けば、点の集まりだった筈の森はすぐそこまで迫っていた。擦れ違い様に電光石火を受けた右肩から放たれた鮮血は、垂り尾の如く宙に伸び広がった。
激痛が走った。が、次第に薄れ、感じなくなってしまった。ロヴィンの叫ぶ声が聞こえ、風の音の中に消えた。
一筋の白光は、音もなく堕ちゆくー

守護の力 七、八話へ。

気になった点などあれば。




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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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