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守護の力 七、八話

/守護の力 七、八話

七, 創造の少女


ー死んだのか…?
感じる世界は、辺りを見回しても真っ暗で、自分の存在すら確かではない。音もない。風もない。ただ、空虚を感じるだけ。
これが冥界なのだろうか。思っていたより寂しいところなんだな。誰もいない、物静かな場所。此処をずっと、彷徨うのだろうか…。
ー天癒:日本晴れ…!
何も無い筈の空間に、何処からか声が聞こえた。そして、世界は光に包まれー



「…眩しい…?」
微かに開いた眼でも判る。これは、太陽のヒカリ。
ぼやけて見える世界。…死んでない、生きてる。
「気がつきました?」
陽の光は、こちらを覗き込む顔に遮られた。心配そうな、安心したような笑顔。
「…此処は、何処だ…?」
起きあがろうとするが、
「…ヴッ!?」
全身が痺れたように動かない。覗き込む少女は慌てて制す。
「動いちゃ駄目ですよぅ…。まだ治療終わってないんですから…」
この声…闇の中で聞こえた声は、この少女のだったのか…
少女:リーフィアは、ポーチを開け、何やらごそごそやっている。
「少し、じっとしてて下さいね」
彼女は小振りの木の実を取り出す。それを一口かじって口に含み、
「果癒:自然の恵み…」
「…!?」
ーそっと、右肩の傷口に口づけをする。
…不思議だ。さっきまでの痺れが消え、だいぶ楽になった。彼女が口にした木の実、
「ラムの実…?」
小さく、鮮やかな緑のそれは、ラムに間違いなかった。
「いいのか…?ラムって高級なんだろ…?」
「そんなこと言ってる場合じゃないですから。それに、私達の森でなら、すぐ手に入ります」



彼女の治療はその後も続いた。流石は創造者。手際よく進めてゆく。
今頃気づいたのだが、ロヴィンは隣に眠っていた。既に治療は終わったらしく、あれほど傷ついていた体は、ほとんど癒えていた。
「そうだ…創造者が何故此処に?」
「"聖天"さんからの依頼です。今の方と交代で、3日間。…それはそうと、驚きましたよ」
あれこれ木の実を取り出し、前に並べる。日の光に照らされ、それらは輝いて見えた。
「…何を?」
「向かっている途中に、いきなりあなた方が降ってきたんです。それはもう、酷い怪我で…」
…降ってきた…?…そうだった。
「襲われたんだ。ピジョン達に…」
「ピジョン…?ああ、彼らなら、さっき会いましたよ」
「…!何か言ってたか?教えてくれッ!」
彼らが俺を襲った理由。何か知っている筈…!
「まあまあ…。少し落ち着きましょう…。傷も完全に治ってはいないんですから」
彼女は木の実を選びながら、苦笑いを浮かべた。



八, 真相


だいぶ意識がはっきりしてきた。
治療を行っていたのは、崖近くの岩陰。近くに葉や枝が散らばっていることから、途中で木に当たったと考えられる。
「…さて、これでだいぶ良くなったと思いますけど…」
リーフィアは木の実や道具類を片付ける。胸の傷も翼の怪我も、ほぼ無くなっていた。
「…ありがとな。感謝する」
「フフッ。どういたしまして」
優しく微笑み、ポーチを閉じた。
「…では、話しましょうか。さっきのこと」
「…時間は大丈夫なのか?」
「構いませんよ。交代は明日からで、今日は準備だけですから」
一つ息を吸い、話を始めた。



ー薄暗い森の中、依頼先の集会所目指して歩く。
「…えーっと…。あ、あったあった」
木々の隙間から、目印の空色の旗が靡くのが見える。
今までに行ったことのない今回の依頼先。どんな所なんだろう。空は、どれだけ近く見えるのだろう。期待で心が弾む。
ふと、
「ん…!?」
誰かの叫ぶ声がした。その声が上空から聞こえたものだと判った瞬間…。
「うわッ…!!」
ズザッ、ズザッと、葉が音をたてて、折れた枝と共に誰かが放り落とされた。
「フタリとも、酷い怪我…!」
右肩から血を流すエアームドと、全身に傷を負ったクチート。二匹とも、意識を失っている。
「大丈夫ですか!?」
右肩の傷口は、戦いでできたものらしい。一本の紅い筋が鋭く引かれている。
戦い…、…急がないと。早くしないと、追っ手が来る。また、清らかな血が汚れに染まってしまう…。



「…?この辺りに落ちたよな?」
「…あ。そこのリーフィア、聞きたいことがあるんだが…」
話しかけてきたのは二匹のピジョン。
「なんでしょうか?」
「この辺りに、エアームドとクチートが落ちてきた筈なんだが…何か知らないか?」
気付かれないように、二匹をその陰に隠した岩をチラリと見た。良かった、間にあって。
そのピジョンが丁度今立っているところ、そこはフタリがさっき落ちてきた場所。その場所と彼らを連れていった道の血の跡は、地癒:ギガドレインで吸収して無くした。彼らの姿を見つかりにくい場所にも隠した。
…そう。これで戦いが起こることはない。彼らがこれ以上汚れに染まることはない。
自分の貫く正義。守ることができた。視線を戻し、誇らしく答えた。
「いいえ、知りません」と。



「ーそれで、書類をもらったんです。何か分かったら連絡してくれ、って」
ポーチから、二枚折りにされた紙を取り出し、こちらに渡した。
「その書類、読んだんですけど、目を覆いたくなるような内容ですね」
「そうか?こんな依頼は結構多いが…」



「戦いって、何がおもしろいんでしょうか…?」
彼女は、真摯な表情で問う。
「え…?」
「血って、生き物が生きてるって証ですよね。その"生きる証"を奪って、何が楽しいんでしょうか」
時々俯きながら、訴えを続ける。
「血の味って苦くて、血の色って暗くて。だから戦いは嫌いなんです。だから、」
顔を上げ、じっとこちらを見つめる。鋭さはない、でも、どこか力強い眼。
「清い血を奪い合う戦いは、もうやめてください…」
彼女の唱えた天癒は、森の木々を強く照らしつけた。



依頼:聖地。
内容:同勢力への攻撃を行った守護者、ディフ及び破壊者の



"捕縛若しくは撃破"。



守護の力 九、十話へ。



読んでくださってありがたやーありがたや。

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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