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天空の虹の神

/天空の虹の神

SOSIA.Ⅶ

天空の虹の神 

Written by March Hare


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◇キャラ紹介◇ 

○シオン:エーフィ
 主人公。北凰騎士団の小隊長。

○フィオーナ:エネコロロ
 ヴァンジェスティ家の一匹(ひとり)娘。シオンの婚約者。

○リカルディ:エネコロロ
 ヴァンジェスティ家当主にしてランナベールを統べる王。

○セルネーゼ:グレイシア
 ミルディフレイン家の長女で、シオンの学生時代の先輩。


00 


 世界の理の外に身を置く者達。永遠に近い生を得た魂は何を思い、何を求めるのか。
 時の神ディアルガの下、世界の歪みを正すために奔走するボクは、そこに意味を求めることはない。
 けれど、ボクにだって心がある。小さな村で、小さな奇跡を与えてあげた気持ちに嘘はない。
 歪みを正すために多くの魂を天に帰さなくてはならないときは躊躇だってするし、心が痛む。
 それでもこの世界を愛し、護りたいと思えばこそ。
 だが、大きな力と役割を持っていても、地上のポケモンたちと同じように、ボクらも魂と肉体を与えられたポケモンなのだ。
 
 歓喜も落胆も、愛も憎しみもある。ボクだっていつか、誰かを好きになるかもしれない。
 世界を愛する前に、そこに暮らすポケモンを、一匹のポケモンとして愛してみたい。

 はるか昔、天空の虹の神に恋をした、深海の影の女神がいた。

 ところが天空の神の目に映っていたのは、ある小さな島国の姫君だった。
 閃光のように強く、けれど儚く消え行く一瞬の命の輝きは、ボクらの目にはかけがえのない魅力を与えてくれる。
 愛と嫉妬の争いの中――ボクらでさえ操ることのできない運命の悪戯で、それは起こった。

 深海の影の女神は世界を憎む破壊神へと堕ちたが故、海底に封印された。
 天空の虹の神は自らのつまらぬ情が招いた災厄を恥じ、姿を消した。

 その日、彼の国に八枚の光る虹色の羽と、金色の(とさか)が舞い落ちたという。

 あれからどれほどの年月が経っただろう。

 いかなる運命の悪戯か。
 天空の神が落とした羽は、海の女神の下へ吸い寄せられるかのように――

01 


 月日は流れ。身を置く時が長くなれば、非日常も日常に変わる。
 保安庁が私兵団の傘下組織として再編成され一体化し、今では街の治安を守る一つの国家組織となった。
 ハンターたちは相変わらず活動してはいるが、この連携強化であまり大っぴらに駆け回ることはできなくなった。グラティス・アレンザが私兵団に潰されてしまったことも一因だろう。私兵団の関与は表沙汰にはなっていないが、噂はすでにランナベール中に広がっている。
 それから僕、シオンはとうとう、というか、ようやくというか。
「シオンさま、おめでとうございます」
「悲しきかな、華の十代にさようなら。そしてようこそオ・ト・ナの世界へ!」
「ちょっ、孔雀さんやめ――」
 色々なことがありすぎて実感も持たないまま、気がついたら二十歳を迎えていた。
 これからこの館で、フィオーナ主催のパーティが開かれることになっている。
 ついでにフィオーナとの婚約が正式に発表されるのは、対外的にはこれが初めてとなる。というより、名目上は生誕祝いの宴ということになっているが、そちらが本来の目的だ。
「孔雀、いい加減になさい。じきにお客様もみえるというのに……」
 そう、いつもみたいにふざけ合っている場合ではないのだ。
「シオンも私の婚約者として恥ずかしくない立ち居振る舞いを心掛けなさい。この二年、私がしっかりと叩き込んだのだから安心していいわね?」
「うん……さすがに慣れたし」
「それと、今日はお父様が帰ってこられるわ」
 御義父様が、この家に帰ってくる。
 ヴァンジェスティ家の現当主にして、ランナベールの最高権力者。あのクーデター未遂事件で妻と娘が襲撃された時でさえ動かなかったこの家の主が。
 シオンがリカルディに会ったのは二年前だ。直接会ったのはそれが最初で最後。フィオーナがいきなり、自分の婚約相手として僕を紹介した。
 あのときは本当に心臓が止まるかと思ったが、当のリカルディはそうか、と頷いただけ。リカルディが娘のフィオーナをいたく信頼している証なのだろう。それから僕は家族として認められ、今もこうしてここにいる。
「いいこと? 歩くときは音を立てずに、お客様へのご挨拶はまず――」
「何度も言わなくたって、わかったよもう……昨日散々聞かされたし」
「わかっているならいいのだけど……今日は貴方が主役なのですから、いつも以上に立ち居振る舞いには気を配ってもらわないと。お父様もお見えになるというのに」
「はは。相変わらず婿殿に手厳しいな、お前は」
 隣から突然、低く深みのある声がした。いつからそこに立っていたのかわからない。しかしその姿を一目見ただけで深く記憶に刻み込まれるような、圧倒的存在感。フィオーナに諭されるまでもなく、この方の前では自ずと身が引き締まる思いがする。
「お父様!? 一体いつから……」
「なに、たった今到着したところだよ。(ポケ)目につかない裏口からね」
 この国を統べるエネコロロ、リカルディ・ヴァンジェスティ。力強い目元がフィオーナとよく似ている。歳はハリーさんより上のはずだが、まだまだ美丈夫という言葉が似つかわしい。若い頃はさぞ美男子だったことだろう。
「ご無沙汰しておりますっ、お、お義父さま……」
「そう堅い挨拶はいらんぞ婿殿。こうして早くに帰ったのも、久方ぶりに家族と話がしたくてな」
「……お父様がこの本宅に帰られたのも随分と久しぶりですものね。最後にお会いしたのは一年も前ですわ」
 フィオーナの言葉はどこか冷たい。ついさっきまで、どう見たって父親との再会を心待ちにしていたのに、素直じゃないんだから。
「お前やマフィナにはいつもすまないと思っている……なに、お前がヴァンジュシータの黒搭で働くようになれば嫌でも毎日会えるさ」
「そのような問題ではっ……!」
「まあまあフィオーナさま。感動の父娘再会シーンなのですから穏やかにいたしましょう?」
 不穏なムードが漂い始めたところで、すかさず孔雀さんが止めに入った。あのフィオーナと、その更に上を行く威圧感を放つリカルディの間に割って入るなんて、さすがは孔雀さんだ。どこまでも図太い神経をしている。
「仕方ないわね。貴女に免じて許しておきましょう」
 フィオーナはまだ不満そうだったが、諌められてなお駄々をこねるほど仔共でもない。
「孔雀に橄欖、だったか。相も変わらず麗しい姉妹だね」
 リカルディはフィオーナとシオンの後ろに控える姉妹に微笑みかけた。
「ヴァンジェスティの使用人たるもの、それは当然の――」
「そんな、滅相もございません……姉さんっ」
 孔雀のふざけた答えにも怒るどころか、リカルディはハハ、と楽しげに笑う。
「先の反乱では我がヴァンジェスティの窮地を救ってくれたと聞いている……君達には私からも感謝しているよ。ユーモアを備えているというのは大事なことだよ。私の護衛にも見習ってもらわねばならんな?」
 リカルディの存在感が強すぎて、背後に隠れるように佇むそのポケモンに誰も目を向けていなかった。が、リカルディがちらと目をやって進み出てきたそのグレイシアは、フィオーナに負けず劣らずの美人で、育ちの良さを伺わせる気品と芯の強い瞳を兼ね備えていた。どこかで会ったことがあるような――
「セルネーゼと申します。以後お見知りおきを」
 ――会ったことがあるどころの話ではない。二年間、学園の自治会で活動を共にしたあのセルネーゼだった。ちらちらとこちらを伺う視線が気まずい。
「彼女と会うのは初めてだったかね。私の身辺警護をしているミルディフレイン家のご令嬢だ」
 学生時代に聞いたことがある。セルネーゼさんの家はジルベール王家の分家で、代々優秀な騎士として武勲を上げてきたのだという。セルネーゼさんはそのミルディフレイン家の長女として、一族の期待を背負って立っているのだと。
「お前とは年も近いし、境遇も似ているやもしれんな。フィオーナ。ぜひ仲良くしてやってくれ」
「ええ、もちろんですわお父様。セルネーゼさん、こちらこそよろしくお願いね」
 フィオーナはセルネーゼさんに微笑みかけながら、尻尾でつついてきた。
 シオンもほら、ご挨拶なさい、と小声で囁かれる。
「えっ、と……は、はじめまし――」
 言いかけた瞬間、セルネーゼさんが一瞬ものすごい形相で睨んできた。やばい。はじめましてじゃないだろ僕。こんなときは、そうだ。
「あー……おひさしぶり……です、ね?」
「貴方ね――」
 セルネーゼさんがずいっと顔を近づけてきた。
「風紀委員のお仕事を手取り足取り教えてあげたこのわたくしを忘れたとでもいうのかしら? その余所余所しさはどういうつもりなのです。頭にきますわ!」
 フィオーナが固まった。あの孔雀さんでさえきょとんとしてシオンとセルネーゼを交互に見ている。
「や、その……ご、ごめんなさい」
「ふむ。お前達は養成学校(リュート)の先輩と後輩だったな。そうか、旧知の仲であったか」
 リカルディだけが全く動じず、変わらぬ微笑みを浮かべていた。
 セルネーゼは感情的になりやすい性格で、風紀委員になりたての頃はよく怒られたものだ。そんなところもあの頃から変わっていない。
「覚えてはいたんですけど、あまりに長いこと会ってなかったから緊張しちゃって」
「そう……ま、良いですわ。言い出せなかったのは私も同じですし……それにしても、シオンちゃんがあのままフィオーナ嬢と結婚だなんて。その美貌を武器に玉の輿ですか。わたくしの血の滲むような努力を嘲笑うかのような出世ぶりですわね」
 フィオーナとリカルディの前で言いたい放題。これにはさすがにシオンも神経をすり減らした。フィオーナは口を開かないし、リカルディもため息をついている。
「ぼ、僕はほんとに何もしてなくて! フィオーナのおかげで……じ、自分の力だけでこうして御義父様の横に立っているセルネーゼさんの方がずっとすごいと思いますよ!」
「わたくしそういうことを言っているのではなくて――」
「これ、セルネーゼよ。婿殿が困っているではないか」
「――はっ!? も、申し訳ございません……! わたくしとしたことが旧友との再会に舞い上がっ――いえ、怒りに我を忘れてしまうとはなんたる失策っ」
 リカルディに注意されて慌てるセルネーゼを見て、孔雀の目が何かを悟ったようにキラリと光ったのをシオンは見逃さなかった。また何か良からぬことを考えついたに違いない。あとで釘を刺しておかないと。
「姉さんにはわたしが言っておきます」
 すぐに橄欖に耳打ちされた。相変わらずの読心術で。
「では、パーティが始まるまで一度部屋で休ませてもらおうかね。マフィナにも会っておかねば機嫌を損ねるからな」
「お母様は北館の自室にいらっしゃると思いますわ。三太、ご案内して差し上げて」
 フィオーナの言葉に反応して、花瓶の影から黒いガスが吹き出して実体化した。
「あちゃー、バレてたかぁ。わっかりました! ぼくに任せてください!」
「ほう。話に聞く新しい使用人か。威勢のいい子だね」
「いいえ、この子供は言葉遣いも態度もまったくなってませんわ! それに、この国の王たる貴方様がそのような甘いことを仰有っていては――」
「まあそう言うなセルネーゼよ。王である前に私は一家の主だ。自分の家でくらい力を抜かせてくれまいか?」
「それは……はい。出過ぎたことを申し上げました」
「というわけで、行きましょうか、王さま! ――と、怖いお姉ちゃん」
「なっ、こ――!?」
 セルネーゼさんは歯噛みしながら三太を睨みつけた。たった今リカルディにああ言われた手前、怒るに怒れないやり場のない気持ちが伝わってくる。
 北館の方へと歩き出す間際、目があったので精一杯の同情の微笑みを返してあげた。しかしどうしてか、セルネーゼさんはいっそう不機嫌になってしまったみたいだった。

         ◇

「うふふふふふ。セルネーゼさんって面白い方ですねー」
「そう?」
「彼女とはどういった関係だったのかしら?」
 フィオーナはあからさまに疑いの目を向けてくる。なんでよりによってこんな日に。
「僕が風紀委員をやってたのは知ってるでしょ。その先輩だよ。最後はなぜか、僕が委員長でセルネーゼさんが副委員長だったけど……」
 能力は絶対に彼女の方が上だった。僕はただちょっと人気があっただけだ。卒業からたった二年でリカルディの信頼する護衛の一匹になっていることからもわかる。彼女は皆が思っていた以上に優秀なポケモンだ。
「それで、"シオンちゃん"ね……随分と可愛がられていたようね」
「や。昔はそんな呼ばれ方してなかったと思うんだけど……」
「きっと心の中で密かにそう呼んでいたのが久方振りの再会でポロッと出てしまったのでしょう! わたしはてっきり、元カノ――」
「姉さんっ」
「まったく、貴女の頭の中はどうしてそういつも春めいているのかしら。あのとき彼女の誘いを断って私と踊ってくれたのだから、あり得ないわ。そうよね、シオン」
 フィオーナはそう言ってにっこりと微笑んだ。笑顔が怖いとはまさにこのことだった。
「僕とセルネーゼさんの間にそんな関係はないからっ。孔雀さんが変なこと言うから……」
「でも、あの方絶対シオンさまのこと好きですよね! 新たな波乱の予感がいたします」
 孔雀は手をバタバタさせて子供みたいにはしゃいでいる。こうなったらもう手に負えない。なんとかしてよ橄欖。
「や、どうしてそんなに嬉しそうなの? ていうか、どっちかっていうと嫌われてたし……」
 たしかにセルネーゼさんにはダンスに誘われた。しかし、後でローレルから聞いたところによるとロスティリー率いるアンチクラブに唆されて僕を罠にはめるための作戦だったという。セルネーゼさんが僕に対してあまり良い感情を持っていたとは思えないのだ。
「シオンさま、それはあまりに鈍感なのではありませんか?」
「橄欖まで……や、でも橄欖が言うならほんとに……?」
「余計なことは気にしなくて結構よ、シオン。貴方は私のものなのだから、彼女がどれだけ貴方に想いを寄せようと、それは届かぬ夢だわ」
 フィオーナは知ってか知らずか、橄欖の前で冷たく言い放った。でも、紛れもない事実だ。どれだけ橄欖が僕を好きだと言ってくれても、セルネーゼさんが本当にそうだったとしても、応えてあげることはできないのだから。
「しかし……最期の瞬間まで叶わぬ夢に焦がれ続け、夢と心中する……そんな一生も素敵かもしれませんね」
 橄欖の真摯な想いが伝わってくる言葉だった。そんなこと言っちゃったら、フィオーナが気づいてしまうかもしれないのに。
「悲しい生き方だと思うけれど。でも、諦めてしまって、くすぶり続ける夢を胸の裡に抱えたまま生きるよりはずっと美しいわね。ねえシオン。私はきっと、間違った愛し方をしていたこともあったと思うのです。けれど、今はわかるわ。貴方の気持ちが私に向いているかどうかは関係ありません。相手の心を歪めてまで自分を見ていてほしいなんて願うのは、ただの自己愛ですもの」
「フィオーナ……」
 きっとフィオーナも不慣れだったんだ。独占欲が強かったり、支配的だったりしたこともあった。そんなフィオーナが、今はこんなにまっすぐな気持ちを告白してくれた。
 橄欖の気持ちにも気づいているのかもしれない。もしも為るに任せて僕が橄欖を好きになってしまっても、それが僕の気持ちなら受け入れると。
 昔のフィオーナも好きだったけど。あの頃の僕には頼る相手もいなくて、何でも一人で抱え込んで。ただ甘える相手が欲しかったのかもしれない。
「……僕も今は、同じ気持ちだよ」
 多くは語らなくてもいい。僕たちがこうしてここにいることが何よりの答えだから。
 しばしの間、見つめ合った。それだけで伝わる気持ちがある。
「あはは、これは敵いませんねー……ねえ、橄欖ちゃん?」
「わ、わたしではなくてセルネーゼさまのお話でしょう……?」
 隣ではちょっと危ない会話が繰り広げられていた。孔雀さんのことだから十中八九わざとだろう。
 フィオーナもその様子を怪訝そうに見つめている。他人のことは言えないけど、フィオーナの鈍感も相当なものだと思う。そのおかげで助かってはいるのだが。
「どういうことかしら?」
「いえいえー。フィオーナさまとシオンさまってホント、似たもの同士だなー、なんて」
「答えになっていないわ。橄欖が何か――」
 これ以上問い質されるとまずいことになりそうだ。
 が、絶妙のタイミングでセルネーゼさんが戻ってきた。
「何かあったのですか? 何やらわたくしの名を口にされていたような……」
「な、なんでもないです! それよりセルネーゼさん、お義父様は放っておいていいんですか?」
「奥方様と二匹でお話がしたいそうですわ。それに、この屋敷にいる限りは安全だと仰っていましたし……問題はありませんわね、フィオーナ様?」
「ええ」
 孔雀がさっきあんなことを言い出したせいか、フィオーナの返事がいつになくそっけない。シオンが誰を好きになろうと関係ないみたいなことを言ってはいたが、やっぱり複雑な気持ちがあるのだろうか。そしてセルネーゼさんのフィオーナに向ける視線がどこか刺々しいのも、どうか気のせいであってほしい。
「何なのです、シオンさん。言いたいことがお有りならはっきりとお言いなさい」
「や、べつに……」
「ズバリ! わたしが代わってお聞きしましょう!」
 言葉を濁していると、孔雀さんが滑るようにセルネーゼの目前まで移動した。一瞬のことで、さすがのセルネーゼさんも驚いて身を引いている。
「セルネーゼさまはシオンさ――ぶへっ」
 孔雀さんがとんでもないことを言いかけたところで、橄欖が念力で孔雀をぶっ飛ばした。セルネーゼさんは目を丸くして、突然の暴力に呆気にとられていた。
「な、なんですの……? 思えばわたくしはまだ貴女がたのお名前も伺っていませんでしたわ。随分とはっちゃけた使用人ですわね」
「使用人の教育不行届は私の責任ね……謝罪するわ。そこに倒れている莫迦サーナイトは孔雀、こちらの暴力キルリアは橄欖。これでも私とシオンの護衛を務めている側近中の側近なのよ。悲しいことに」
「は、はあ」
「いたたた……橄欖ちゃんったら容赦ないんだから」
「ぼ、暴力きるりあ……わたしが……ぼうりょく……」
 秀でた能力を持っているだけに欠点が目立ってしまう――なんて、孔雀さんや橄欖の場合、良いところも悪いところも両極端で、そんな一般論で片づけられるものではない。真面目なセルネーゼさんがカルチャーショックを受けるのも無理はない。
「で、セルネーゼさまとシオンさまはもしかして元恋人同士だったり?」
 橄欖の念力などまるで堪えていない孔雀さんが起き上がるなり爆弾発言をして、シオンとセルネーゼが全力で否定し、パーティの開始まで気まずい空気の中で待機するはめになったのだった。

02 


「きょ……本日は、僕……わ、私などのためにお集まりいただいて本当にありがとうございます」
 傍らのフィオーナの視線が痛い。
 練習もしたし、人前に出るのに慣れていないわけでもない。落ち着け。大丈夫だ。
 ここにいるのは偉い人達ばかりだけど、僕だって一隊を任せられる騎士の端くれだ。身分だって、陽州の皇家の正当な後継者なんだから負けちゃいないはずだ。
「――既にご存じの方がほとんどだと思いますが、私、シオン・ラヴェリアはランナベール王位第一継承者のフィオーナ様と、来年、婚姻を結ぶ運びとなっております。他国の流れ者である私が、騎士として一隊をこの身に預けられるばかりか、フィオーナ様の隣に立たせていただくなど、これほどの名誉はありません。私を選んでくださったフィオーナ様にも、お許し下さった王様にも、そしてそれを受け入れてくれるランナベールのお国柄――全てに深く感謝しております。この地で、こんなに大勢の方々の前で記念すべき二十回目の生誕の日を迎えられたことを嬉しく思います」
 言葉を結ぶと、今までに経験したことがないほどの歓声と拍手がホールを包み込んだ。改めて、自分が結ばれた相手が、とてつもなく大きな存在なんだってことを実感した。
 そしてリカルディが一歩前に出ると、耳に痛いほどの歓声が嘘だったみたいに、しんと静まり返る。
「ランナベールを建国した曽祖父の代から、我々ヴァンジェスティ王家は、生まれ持った身分や階級などより、その者の能力、感性、そして人間(ポケモン)性によって評価すべきだと考えておる」
 リカルディの言葉には説得力がある。ランナベールが小国ながらこれだけ発展し、歴史深い隣国ジルベールと対等な関係を築くに至ったのは、古い形式にとらわれない統治をしてきたからだ。そこには失敗も危険もあっただろう。クーデターが起こり、フィオーナとお義母様が危機に晒されたことは記憶に新しい。だが、この人はそれすら利用してしまったのだ。国内の不穏分子と囁かれていたハンター業は、あの事件を機に衰退へと転じた。治安が強化され、ハンターに仕事を依頼することすら難しくなった。
「諸公の尽力には常々感謝している。今宵は無礼講だ。存分に楽しんでくれたまえ」
 政治の重役を担う大臣家の人々(ポケモン)や各騎士団長と配下の騎士、それからジルベールの貴族も呼ばれているのだという。
 僕なんてこんな錚々(そうそう)たるメンバーに見上げられるような器じゃない。そう思ってしまうのは簡単だが、逆だ。肩身の狭い思いをせずに済むくらいのポケモンにならなきゃ。
「こうしていると講堂の舞台の上から全校生徒を見下ろしていた景色を思い出しますわね、シオンちゃ……さん」
「あの頃とはまるで比べ物にならないくらい大きな舞台ですけどね。セルネーゼさんと一緒にここに立っていると、やっぱり学生時代を思い出します」
「本当に……」
 セルネーゼは寂しげな瞳をシオンに向けて、そう呟いた。昔は見なかった表情だ。彼女はこの三年で何を経験し何を思ったのか。
 彼女の瞳は時を越えて、あの頃の僕を見ているような、そんな気がした。

         ◇

 入れ替わり立ち代わり、来賓者に挨拶をして、落ち着いた頃に北凰騎士団の面々と落ち合った。
「いっぺんにシオンが(とお)なってしまったみたいやわ。俺らとはちゃう世界に住んでるんやなぁホンマ」
「あはは……僕も全然慣れないです、こういうの」
 一隊を任されるポケモンは、一応この国では騎士ということになる。生まれに関係なく貴族になれると言えば聞こえはいいが、騎士であるからといってとくに恩恵が受けられるわけでもないし、生活も市民と変わらない。こんなパーティが開かれる機会も滅多にあるものではない。
「まったく君がそのような調子でどうするのですか。団長に失礼かもしれませんが、シオン君は今や私達北凰騎士団の顔と言っても良い存在なのですよ。胸を張ってください」
「さすがに買いかぶりすぎですよ」
 でも、フィオーナの婚約者という立場がどれだけ大きいものなのか、今ならよくわかる。
「自信を持て。今のお前なら、どこかの国の王子様だと言われれば信じられるくらいには貴族らしいと思うぞ。少なくとも私のような戦うことしか能のない粗暴な牝よりはな」
「シャロンさんだって立派な騎士様にしか見えませんよ?」
「私が騎士、か。私にはこんな場所は似合わないと思うがな。大軍を前にするより息苦しい」
「同感やわ」
 四匹の団長は流石に慣れているみたいだけれど、各騎士団の隊長達はさすがに落ち付かない様子だ。アスペルのように奔放なポケモンはともかく、シャロンさんやキールさんなら真面目な顔をして立っていればジルベールの貴族にも引けをとらない風格はある。
「あなた達のような騎士がいるから紛い物だと莫迦にされるのです。一朝一夕に身につくものではありませんが、心がけだけでも幾分違いますよ」
 そう言ってワイングラスを傾けるキールさんは気取っている風でもなく、確かに貴族然とした振る舞いをしていた。
「……私としたことが似合わないなどと言い訳をし、努力を放棄していた。キールの言う通りだ」
「真面目やなあ」
「アスペル君」
「わかったわかった、俺もシャンとしとけばええんやろ! そんな怒らんとってーな」
 実力至上主義とはいうものの、立ち居振る舞いも含まれているということだろう。こう言うと大げさかもしれないが、印象が国と国の駆け引きに影響することだってあるかもしれないのだ。シャロンさんやアスペルさんは上品ではなくとも、その点では相手に悪印象を与える心配はないか。
「王女の婚約者、か……」
 そんなシャロンさんの視線はどこか遠くを見ているみたいだった。彼女と会ってそう短くもないのに、距離感は未だに掴めない。新兵の頃はよく助けてもらったものだが、隊長として肩を並べるようになると接し方が今一つ良くわからないままだ。
「私には見ていることしかできなかったな」
 ふっと悲しげな微笑みを浮かべた彼女にいつもの凛々しさはなかった。一瞬だけど、まるで王子様に憧れる少女のように見えたのは気のせいではないだろう。彼女は一体どんな感情を抱いていたのか。
「そんな貴女を見ている者がいるということにも目を向けた方が良いのではないですか。貴女も十分に魅力的な女性ではありませんか」
「私が? 憧憬はされても、そんな甘い感情など向けられはしない……と思うが」
 キールさんとシャロンさんは目を合わせてすぐに背けた。どうにも歯切れが悪い。
 近頃シャロンさん率いる隊の面々が噂話をしているのを聞いたことがある。なんでも、キールさんが密かにシャロンさんを思慕しているとか、何とか。
 そういうこと? あの知的な眼鏡の奥で何を考えているのかわからないキールさんも、戦うこと以外に興味のなさそうなシャロンさんも、つまるところ二匹の若い牝牡なわけで。
「何ですかシオン君。その疑うような目は」
「や。キールさんってシャロンさんのことよく見てるなって思って」
「私は軍師ですから、(ポケ)柄も含めてしっかりと把握している必要があるのです。決して私が個人的感情を抱いているなどというわけでは――」
 キールは早口でまくしたてながら横目にシャロンさんを見て言葉を止めた。
「そうだろうな。私の方ではお前に憧れるところもあるのだが」
 やはり悲しそうにつぶやく彼女は果たしてキールさんのことをどう思っているのか。キールさんの可愛らしい容姿はやはり牝であるシャロンさんの目には少し羨ましく思うところもあるのかも知れない。
「……いえ、私とてポケモンですからね。貴女は女性でありながら私が欲しいものを持っています。自分で手に入れることができないなら、せめて自分の側にいる誰かはそうであってほしいと願う気持ちも確かにあるのでしょう」
「キール……」
 彼らしい遠回しな表現だけれど、これは間違いなくシャロンさんへの好意を仄めかす告白だ。
 二匹はそれきり口を噤んでしまい、キールさんに至っては東西の騎士団の会話に逃げてしまった。
 こういうことに疎そうなアスペルさんだけが呆けた方ように首を捻っていた。

03 


 学生の頃から予感はあった。きっとこの子は強大な力を持っていると。単なる闘いの強さではなく。生まれ持ったものの大きさが違う。あの仔の素性は未だ知らないが、何か大きなものを背負っていることは感じていた。身分や階級では計ることのできない何かを。
 あのサーナイトもシオンほどではないにしろ、只者ではないことは間違いない。ミルディフレイン家の嫡女であるセルネーゼの、武人の勘は誤魔化せない。
 そしてこの星空の下、バルコニーから眺める庭園にもひとつ。大きな力を秘めた何かがいる。リカルディ様がこの屋敷にいる限りは安全だと仰有ったのも頷ける。敵意を持って敷地に踏み入れようものなら、(たちま)ちその浅はかな所業を悔やむこととなるだろう。
 目に見えないものほど恐ろしい。
 いや。
 目を凝らして見れば、水路の一画で、水面の揺らぎではない、陽炎のような視界のブレ(・・)が。
「あれは……?」
 呟いた刹那。
 陽炎は消えてしまった。否。セルネーゼの目は、高速で飛び回るそれを捉えていた。夜空を高速旋回した後、一直線にバルコニーの――こっちへ向かってくる。
「っ……!」
 咄嗟に身構えたが、陽炎は目前で急停止し、悪戯っぽい笑い声を上げた。
「すごいね! キミ、アタシがちゃんと視えてたんだ?」
 テレビを点けたときみたいな、一瞬の映像の乱れの後、そこに赤と白の丸みを帯びた体が出現していた。
「ラティアス……? 本当に(・・・)ここにいるとは……」
 べール半島の護神がヴァンジェスティの味方についたとは聞いていた。だが、まさか館の庭に住み着いているなどとは。
「ここの子たちにはひどいことをしちゃったから……その罪滅ぼし、かな? それに、アタシのことをちゃんと知ってる子たちの側にいたほうが楽しいの!」
「要するに、護神様も寂しがり屋なのですね」
 あの反乱の敵側の切り札として、別宅を突き止め襲撃したのも彼女の力が大きかったのだという。騙されていたとはいえ、簡単に許されることではない。それで、罪滅ぼし。
 少々のことでは驚かないリカルディ様が取り乱し、すぐにでも家族の下へ向かおうとしたのを止めるのが大変だった。あの程度のことで国が揺らぐわけにはいかないのだ。そんな重みを誰よりもよくわかっているから、リカルディ様は家族をあまり深く国に関わらせようとしない。あまり家族に理解を得られていないようで、その心中は察するに余りある。
「んー、そうかもしれない! アタシには弟がいるけど、あの子はあの子でジルベールを離れられないし――そうだ、キミとは同じ国の守護者どうし、仲良くなれるかもしれないね!」
「わたくしなどを土地神の貴女と同じ守護者と呼ぶのは少々大袈裟なのではなくて?」
「土地を護るアタシと、王を護るキミ。どっちも大切な役目だよ。それに、アタシは神様(・・)でも精霊(・・)でもないよ?」
「神様でも精霊でもない、ですって? ラティ族といえば――」
 水の都の護神と呼ばれる彼らは、港町に密かに住み着き、守護者として悪を退ける。そのための強大な力と、純粋無垢な正義の心を持つと言われている。普段人前に姿を見せることはほとんどなく、普通のポケモンとは一線を画した存在だというのが一般的な認識だ。
「精霊も神様も、この世界では死ねない存在なんだよ。アタシ達ラティ族は普通のポケモンよりはずっと長生きだけど、年は取るし、食べないと死んじゃう。いつか相手を見つけて子孫を残さなきゃ、アタシ達の血はそこで途絶えてしまう。アタシ達はただ、精霊から力と心を与えられた種族ってだけ。そういう意味では、精霊よりもシオンくんの方が近いかもしれない」
 わたくしは――いや、この世界のポケモンたちは、知っているようでいて実は何も知らないのではないか。崇める対象の神様が何者なのかさえ。護神と呼ばれるラティ族は、実は神様でも精霊でもない。では、ベール半島で信仰されている海の神ルギアは? そもそも精霊や神様は本当に存在するのか。
「シオンさんが貴女に近い……?」
「そう、きっとシオン君の持つ力の起源はアタシ達と――」
 前触れはなかった。
 下から突き上げてくるような衝撃。脚をぐっと開いて踏ん張ったが、立っていられない。倒れそうになったところをラティアスに支えられた。
「な、何ですの?」
 辟易したのは一瞬。すぐに冷静に思案する。ランナベールで自然の地震はほとんどない。考えられることは、地面タイプの攻撃。狙いはリカルディ様か。
 自分の勘が正しいのかどうか、その答えを彼女は知っている風だったが、今はそれどころではない。
「わたくしはリカルディ様の御所へ、貴女は外を!」
「あ、うん……」
 ラティアスがやけに悠長だったのが気になったが、セルネーゼの役目は国の最高権力者リカルディ・ヴァンジェスティの護衛だ。余計な心配をしている場合ではない。すぐさま室内に飛び込み、階段を下るのも惜しんで踊り場からホールへ飛び降りた。ホールに残っていた宿泊客が驚いているが、構っていられない。リカルディ様がいらっしゃる奥方様の部屋は北館の一番奥の階段を上らないと辿り着けないようになっている。
 全速力で長い廊下を走り抜け、階段を駆け上がった。
 扉は開いており、その前でトゲチックと奥方様が何やら話しているようだった。
「おやぁ。セルネーゼさんですかぁ」
「リカルディ様はご無事で?」
「はいー、奥方様共々、怪我もされていないようですよぉ」
 奥方様の執事兼護衛役、たしか名はラクートといったか。パーティで挨拶を交わしたきりで、話すのはこれが初めてだ。なんというか、逼迫した状況でこの間延びした口調には腹が立たないといえば嘘になる。
「おお、セルネーゼよ。私なら問題ないぞ」
 リカルディ様が部屋の中から姿を見せた。部屋はいくつかの調度品が倒れている程度で、心配していたほどの被害はなかったようだ。
「リカルディ様! ご無事で何よりでしたわ……!」
 一先ずはこれで安心だ。しかし、これが敵の襲撃であるとするなら本番はこれからということになる。だいいち、地震やマグニチュードといった地面タイプの技の射程はそう長くない。侵入を許してしまっている可能性が高いが、外敵の侵入にあのラティアスが気づかないはずはない。となれば、招待客の中に刺客が紛れていた考えるのが自然だ。
「ですが、招待客の中に敵が潜んでいるかもしれませんわ。しばらくはこの部屋を動かぬのが得策かと」
「うーん、それはないんじゃないかなぁ」
 この朴念仁は何を悠長なことを。
 思わず口をついて出そうになった言葉を押し留めた。
「橄欖さんや孔雀さんがいますし……特に橄欖さんの心を読む力は本物ですからぁ、騙し通してお客さんのふりをするのはちょっと無理があるかなぁ、と」
 サーナイトとキルリアの角は他人の感情を受信できるのだという。悪意を抱えた侵入者を見つけることなど朝飯前というわけか。
「それでも、警戒するに越したことはありませんわ」
「ですねぇ。奥方様、お部屋にお戻りになってくださいー。セルネーゼさんは入り口をお願いしますぅ。ぼくは窓からの襲撃に備えるのと、お片づけもしなくてはいけないので部屋の中を」
 相変わらずの口調で、しかも指示されるのは気に障って仕方がないが、奥方様の護衛だけのことはあって、優秀ではあるようだ。間違ったことは言っていないし、いちいち目くじらを立てるのも大人げない。
「承知いたしましたわ」
 けれど機会が訪れたら、後で絶対に文句を言ってやりますわ。
 そう誓って心を落ち着け、前脚に氷の色彩板石(カラープレート)を装着して部屋の前に立つのだった。

04 


 あの地震は自然現象だったということで片はついた。ジルベール含む半島全体で激しい揺れが確認され、ポケモンの技ではあり得ない広範囲に及んだ。揺れがごく短時間だったことが幸いし、大きな建物は倒壊したりしていないようだが、住宅街や市場の被害状況は見当がつかない。
 翌朝にはリカルディはセルネーゼを引き連れてヴァンジュシータ高層中央宮殿、通称黒塔に戻り、宿泊客も早々に皆引き上げてしまった。
 シオン達騎士団は被害対応のために招集された。
 実は本日は新兵の入団式が予定されていたのだが延期の運びとなり、巡回任務に同行させることとなった。
 もとより新兵の大半がセーラリュートで兵士としての教育を受けているし、そうでない者も厳しい試験に合格した者ばかりだから、振り分けもそこそこに実務について、仕事を覚えるのが習わしだ。入団早々に国境付近でコーネリアスとの小衝突があったシオン達の代のことを考えると、まだ生温い方だ。
「えっと、九番隊に配属が決まった新兵諸君……なんて、偉そうなことはまだまだ言えないかな。隊長のシオンです」
 緊張した面持ちで整列する新兵達。その前に立ったはいいものの。
 セーラリュートへの同期入学生では、今年が一番多いはずだ。
 中等科や高等科でクラスを共にした顔がちらほら見受けられる。昨年度はシオンを一方的に知る者が数名いたくらいだったが、今年度は違う。何せ風紀委員長を務め、学園祭ではヴァンジェスティの令嬢とダンスを踊り、挙句ベストパートナー賞に輝き、その上最年少で卒業してしまったシオンは同学年では注目の的だった。知らないポケモンのほうが少ないかもしれない。逆も然りで、クラスメイトの顔くらいシオンだって覚えている。
「初めましてじゃないひとも多いけど、僕の隊に配属されたからには命令には従ってもらうよ。あ、呼び方は何でもいいし、わかんないことがあったら気軽に質問してね」
 つい一昨日セルネーゼさんと会って、少し前にはウェルトジェレンクで古い知り合いとも再会した。追い詰められて突っ走っていた僕に、あの頃の皆が追いついてきた。
 演習場の広場に集められた他の部隊の新兵達の中にも知った顔があった。
 二十八番隊。街の警邏や事件の処理を主な任務とする旧保安庁に所属していた部隊の中に、見知った顔のプクリンがいる。隊長の声に熱心に耳を傾けていて、シオンには気づいていないようだ。
 テリーアは学生時代の数少ない友達の一人だった。保安隊に入隊したのか。正義感の強い彼女らしい。
「今回は被害状況の確認が目的だから戦闘は発生しないと思うけど、火事場ドロボウってやつもいるからね。気を引き締めて」
 ともあれ今は感傷に浸っている暇はない。任務にあたるからには、隊長が若くて頼りのない奴だなんて思われるわけにはいかないのだ。
 身を持って部下に示すのも隊長のつとめ。フィオーナと婚約してただの騎士ではいられなくなったけど、一隊を任せられるこの立場は僕が僕の力で手に入れたものだ。
「それじゃ、新兵は僕と副隊長のドルリの班に分かれて、残りは――」
 かの反乱でが国内の不穏分子(ハンターたち)の力も侮れないことを思い知らされた。万一に備えてきっちり小隊を組んで行動することが義務付けられた。四、五匹では心許ないがあまり大勢だと街中での行動に支障をきたすため、十匹前後。構成も各隊からタイプや前衛後衛のバランスを考えて組み直すことになっていた。
 ただ今回は、キールさん率いる十三番隊だけは極秘任務が上から下っているらしい。十三番隊所属の新兵は総長直属隊に預けられる格好となっている。
 隠密行動を得意とする彼の部隊に上から命令が下っているということは、やはり上層部では先の地震が人為的なものである可能性を捨てきれていないのかもしれない。
 ふと胸の奥が騒がしくなった。
 それは小さな違和感だったけれど。
 忘れかけていた力。記憶が戻り自分の力について理解した今、意図的に解放しなければ大丈夫なはずだ。
 でもこれは――

 誰かが、僕を呼んでいる?

05 


 ランナベール中央の都市部、ヴァンジュシータにおいて最も高く、最も大きな威圧感を放つ黒い高層建築。前衛的な尖塔といった感じのそれは、ジルベールの伝統的な宮殿とは似ても似つかない。物語の中の魔王城というのがそのイメージに近いだろうか。
 ランナベールを治める政府機関であり、企業としてのヴァンジェスティの事務所であり、王とその側近の住居でもある。俗に黒塔や本社などと呼ばれているが、その実態を知る者はごく僅かだ。
「国境防衛隊からの報告によりますと、コーネリアス帝国側に動きはなかったと」
「ふむ。やはり自然現象か?」
「その線が強いかと私は考えますが……ひとつ、気になる報告もございます」
 秘書官のドーブル、ハイアットは片眼鏡(モノクル)の老爺で、先代からヴァンジェスティに仕えているのだという。セルネーゼが王の身辺警護に抜擢されるまでは、この老体で護衛の役割もこなしていたというから実力は計り知れない。
「かの地震の起こる少し前に東の門より入国した一行がありましてな。奇妙な道具(・・)を身に着けた五匹の若い牝牡とのこと……現在は東桜騎士団と北凰騎士団の隠密部隊に行方を追わせております」
 ランナベールは基本的には来る者拒まず、去る者追わずの体制だが、上層部にはそれなりの情報は集められている。かの反乱を機に警戒が強化されてからは時折ハイアットがそれらの情報をリカルディの耳に入れることがあった。
「道具、とな?」
「私は直接見てはおらんので断定はできませんが、恐らくは東国の武器でしょうな。特に陽州の武人は不思議な術をも操ると言われております。今回のような大規模な地震を起こせる者がいないとも限りますまい」
 陽州は天の神ホウオウを信仰する極東の島国で、噂には昔、そのホウオウが降り立ったこともあると言われている。海の神ルギアを信仰するランナベールとは地理的に遠く離れていながら、何かと縁があるのかもしれない。
「確か奥様の居られる屋敷にも陽州の出の者がおりましたな?」
「ああ。陽州は旧政権の側近であった者達が国を追われ各地に散っていると聞くが……一度話を聞いておくべきかもしれんな。とはいえ、娘と婿の護衛役である彼女らを呼びつけるわけにもいかぬな」
「僭越ながら私めが参りましょう」
 ハイアットはセルネーゼに目配せをして、にっこりと微笑んだ。
「リカルディ様には貴女がおりますからな。ほっほっほ」
「……何もそのご老体で自ら赴くことはないのではありませんか?」
「おおセルネーゼよ。私が離れるのは寂しいと申しますか。嬉しい限りですな」
 優秀であることは間違いないのだが、なんというか。若い頃は相当の女好きだったと噂されているが、今に至ってもただのエロジジイではないか。
「誰が貴方など……わたくしが言いたいのはそういうことではありませんわ」
 おおかたフィオーナの護衛の陽州(ポケ)が美人姉妹だと聞いて、仕事にかこつけて彼女達に会うのが目的に違いない。
「心配めさるな。これでも私は淑女の扱いには慣れておる。非礼のなきように取り計らいますぞ。いかがですかな、リカルディ様」
 セルネーゼの意図は伝わったと見えるが、ハイアットは笑顔を崩さないまましれっとリカルディ様に話を振った。リカルディ様が彼を信頼しているのは一目瞭然で、首を横に振る理由がない。
「間に余計な者を挟むとどうしても事実が歪められるからな。任せよう」
「御意」
 そもそも、リカルディ様専属の護衛とはいえ大した権力も持っていないセルネーゼが口を差し挟む余地などなかったのだ。
「そう拗ねるなセルネーゼよ。貴女が会いたがっていたとシオンの君に伝えておきましょう」
「なっ……わたくしがいつそのようなことを口にしましたか!」
「おや。これは失礼しましたな。ではやめておきますぞ」
「い、いえそれは……わたくしとしては、べつにどちらでも良いのですわ。どちらでも良いのですが! わたくしもシオンさんも周りに同窓の友人がおりませんし、ときにかつてを振り返る機会など設けられれば、わたくしにとってもあの子にとっても有意義であると考えているだけですわ。そう、決してわたくしが個人的にあの子に会いたいなどという安直な思考ではありませんのよ」
「ほっほ。よかろうて。ではそのように伝えておきますかな」
「セルネーゼ。休みにシオンに会うのは構わんが、我がヴァンジェスティの娘婿だ。くれぐれも変な気を起こさぬようにな?」
 このときばかりは少しリカルディ様の目が怖かった。エロジジイはともかく、彼にまでそのように思われているというのは心外だ。
「もちろん、心得ておりますわ。そのような不純な交友をする気は決してありませんから」
 強く言い返せないところが悔しいけれど。

         ◇

 日の傾くのが早くなってきたこの頃、カーテン越しに差し込む夕陽が瀟洒な応接間を一層優雅な空間に魅せていた。
 リカルディさまの側近中の側近で、ある意味で王に匹敵する実権を握っているとされる。そんなお客様を迎えるのだから決して失礼のないようにと、シオン様にお出しするときくらいの気持ちを込めてお茶を淹れて、所作にも細心の注意を払って応対していたのに。
「ときに橄欖と申しましたか、そう堅っ苦しく突っ立っとらんと、ほれ、横に座ってくれても良いのですぞ?」
 こんな自由奔放な老人だったとは。考えてみればリカルディさまも一国の主というにはノリが軽いし、お国柄というやつか。
「わたしは使用人の身分ですからそのようなわけには参りません」
 フィオーナさまだって立ち居振る舞いこそ優雅だけれども、一目惚れの相手を半ば強引に攫ってくる破天荒っぷりだ。使用人としての姿勢を貫く橄欖よりも、孔雀のような性格の方が実は一番ヴァンジェスティ家に馴染んでいるのかもしれない。
「私は構いませんぞ。何、私なんぞが重鎮と呼ばれたのは昔の話、今やただの使い走りの老人ですからな」
「ご冗談を。現在でもハイアットさまがおられなくなると三日で国が傾くと聞いております」
「随分と買いかぶられたものですな。ではその要人を労ると思って――む?」
 ハイアットが突然、扉の方へと視線を向けた。途端、音もなく扉を開けて滑り込んできたのは孔雀だった。
「おお。貴女が姉の孔雀殿ですかな」
「あやや……なかなかできる方のようで。気配は完全に消しているつもりだったのですが」
「私の美人センサーの前には無意味ですぞ」
「これも美しく生まれてしまった者の運命(さだめ)というものでしょうか」
「姉さん。気配を消して一体何をするつもりだったのですか」
 孔雀は橄欖の質問には答えず、にこにこと愛想笑いを浮かべている。しかし笑顔の裏でかなり動揺しているみたいだった。
「私の魔の手から貴女を救いにいらっしゃったのでしょうな。そのような怖い顔をするでないぞ。妹想いの姉御ではないか」
「それは……そうかもしれませんが」
 正直驚いていた。孔雀の神出鬼没も蓋を開けてみれば、彼女の相手の隙をつく能力がずば抜けているということに過ぎないのだが、見咎められたところなんて見るのは初めてだ。この飄々とした老人は橄欖の想像以上に恐ろしい牡なのかもしれない。初対面である孔雀や橄欖の心を見通しているかのような発言の数々からも只者ではないことが伺える。
「ま、力や速さでは敵いませんがな。腹の探り合いでは若いモンに遅れは取りませんぞ」
 感情を受信しても、彼はあまりに自分の心に正直だということがわかるだけだ。ハイアットの言っているのはそのような安い騙し合いではない。
「それはそれは。一度お手合わせ願いたいものです」
「ほっほ。私が勝てば妹御をいただくということでよろしいですかな?」
「良いでしょう! ではわたしが勝ったらハイアットさまの権限で領土の半分をわたしに――」
 もはや突っ込みを入れるのも馬鹿馬鹿しい。いかにして二匹を黙らせようかと思案しているところに、救いの手が差し伸べられた。
「お待たせしてごめんなさい。相変わらずね、(じい)
 満を持して現れたフィオーナは、彼女にしては珍しい、子供みたいな屈託のない笑顔をハイアットに向けた。
「これはこれは御嬢様。また一段と麗しゅうなられましたな」
「爺は変わらないわね。うちの使用人をあまり困らせないであげて」
「御孃様の頼みなら仕方ありませんな。孔雀殿、この勝負はまたの機会に預けましょうぞ」
「残念です」
 ハイアットさまのご来訪が伝えられたとき、そんなに気を使わなくとも構わない、とフィオーナさまは仰っていた。本人を前にしてその意味がよくわかる。孔雀と同類のポケモンなのだと。
「さて。爺は陽州の話が聞きたいそうね?」
「先の地震が起こる少し前に陽州の者達がランナベールに入ったとの噂がありましてな」
 ハイアットはそれまでの軽口が嘘のようなしたり顔になって、孔雀と橄欖を見た。
「聞けば貴女がたは不思議な力を持つというではありませんか。普通のポケモンにはできない技の使い方が可能であるとか。その力について詳しくお聞きしたいと思いましてな。もちろんタダでとは言いませんぞ」
 わたしと姉さんがシオンさまを見つけてから、黒夢、それから一子ちゃん達が来るまでの間隔が短くなっている。考えてみれば自然なことだ。ポケモンの出入りが激しい国だから情報はいくらでも外へ出ていくし、姫女苑の一件から先、大きな事件には何らかの形で陽州の者が関わっていた。橄欖と孔雀がランナベールへやってきたのも、姫女苑の事件を知る旅芸人に話を聞いたのがきっかけなのだ。
「なるほど。あの地震が彼らによるものだと疑っているのね」
「端的に言えばそうなりますな。入国した五匹の中にそのような能力を持つ者がいても不思議ではない」
「五匹、ですか……確かにわたしたちの仲間である可能性は高いですが」
 シオンさまと孔雀、一子、黒夢。残りの五匹が情報を得て合流し、ランナベールに向かったというのは十分に考えられる話だ。ただ、ハイアットの説には無理がある。
「大地震を起こせるような能力を持つ者は残念ながらいません。橄欖ちゃん、覚えてる?」
「泡、竜の怒り、癒しの願い、サイコキネシス、怒りの前歯、夢喰い、そして鎌鼬(かまいたち)。シオンさまと黒夢くんの能力を除けば残りはこの七つですね」
「彼らと直接の関わりはないということですか……さりとて、その異能とやらを知り得ただけでも情報としては十分に価値がありますぞ。詳しく聞かせていただきましょうかな?」
 地震と何の関係もなかったとしても、彼ら五匹がランナベールに集ったのが事実なら警戒すべき相手には違いない。何せ普通のポケモンの常識が通用しないし、どの能力も使い方によっては非常に危険だ。五匹揃っているとなると、単純計算でも黒薔薇事件の五倍は大規模な破壊活動ができてしまう。まさかそんな軽率な行動を取るとも思えないが、彼らに情報がどう伝わっているのか。この国で最も多くを知るはずのハイアットでさえ陽州の事情までは把握していないのだ。彼らが事を起こす前にこちらから接触して対話するべきだ。対話が成立したところで一子のように理解してもらえるかどうかはわからないけれど。
 それよりも今すぐにやらなければならないことがある。
 孔雀が陽州の旧政権の崩壊、革命、内乱、仇討ちのため各地に散った者達の事情を語るに従い、ハイアットも同じ考えに到達したようだ。
「御事情は把握いたしましたぞ。しかしそうなると婿様の御身が危機に晒されているということになりますな。婿殿は何処に?」
「そろそろ帰ってくる頃だと思うわ」
 国軍を率いる将軍が王女の婚約者として次期国王に、というのはよくある話だし、婚約の正式発表に合わせて北凰騎士団ではシオンさまの身を守るための方策、というか密命が下っているらしい。彼自身も自分の身を守る力は十分にあるし、滅多なことはないと思いたいが、今回はあまりに相手が悪い。
 噂をすれば、玄関の扉を開く鈴の音がした。おかえりー、と三太の元気な声が聞こえる。来客のために仕方なかったとはいえ、一番にお迎えできなかったのは少し悔しい。
 少しして、シオンさまが応接間に現れた。
「えと、は、初めまして。フィオーナの婚約者のシオンです……」
「おお。噂に聞く美男子ぶりですな。フィオーナさまが心奪われるのも納得ですぞ。私はただの爺のハイアットと申しますな。そう堅くなる必要はありませんぞ」
「爺ったらまたそんなこと言って。でも、私にとってはおじいちゃんみたいなものだから気を遣わなくていいというのは本当よ」
「うむ。私が思うに、黒塔には堅苦しい者が多すぎますな。形式にとらわれないのがこの国の流儀であったはずなのだが……まあここで愚痴っていても仕方がありませんな。婿殿、早速ですが貴方を一時的に保護させて頂きますぞ」
「へ?」
 いきなり言われたのでは意味がわからないののも当然だ。
 首を傾げるシオンさまに、ハイアットとフィオーナさま、それから孔雀がざっくりと事情を説明した。
「わたしと一子ちゃんで接触して説得します。それまで安全な場所にいてください」
「孔雀さんや一子さんみたいなポケモンが五匹もいるんじゃ確かに僕じゃどうにもできないけど、一匹だけ隠れているなんて」
「わたしたちは幼少期を支え合って生きてきた者同士ですから、問答無用で殺されたりはしないはずです」
 孔雀が珍しく真面目な顔で、跪いてシオンさまの前足を取った。
「ですから、ここはどうかわたしたちに任せてください」
「……わかったよ」
 フィオーナさまを守る騎士でありたいと願うシオンさまの気持ちもわかる。けれど、シオンさまはこの国では実質王族の一匹だ。フィオーナさまの彼への執心ぶりや彼女の性格からしても、もしもシオンさまを失われるようなことがあれば生涯独身を貫くだろう。世継ぎも生まれていない今、国にとっても、シオンさまは失うわけにはいかない存在なのだ。
「孔雀殿と一子殿の二匹がここを離れるとなるとこの館の戦力も半減しますからな。シオン様には護衛の橄欖殿と共に黒塔に来ていただきますぞ。御孃様も来られた方がよろしいかと思われますな」
「別宅もあるけれど……異能者五匹が相手ではどのように探知されるかわからないし、それが安全でしょうね」
 フィオーナさまに仕えて数年が経つが、黒塔には未だ訪れたことはない。正確に言えば、塔の内部への立ち入りを認められたことばないのだ。過去に何度かフィオーナさまが塔に向かわれたときも、護衛は門の前で待機させられた。だから橄欖と共に、というのは意外な提案だった。
「おや、橄欖殿。いかがなさいましたかな?」
「いえ……シオンさまとフィオーナさまはともかく、わたしが黒塔に立ち入ってもよろしいのですか」
「そういうことでしたら心配は要りませんぞ。私が許可した以上、それを否定できる者などリカルディ様しかおりませぬ。その当人が橄欖殿を高く評価しておりましたからな。命に代えてでも主人を護る、強い意志を感じたと」
「……滅相もございません」
 気持ちが評価されていることは嬉しいけれど、その実わたしが彼に個人的な好意を抱いているだけにすぎない。護衛という仕事に対する責任感や誇りなどという高尚なものではなく、つまるところ下心なのだ。罪悪感を覚えずにはいられない。
「橄欖は本当に命懸けで僕を護ってくれたこともあるんです。二度とあんなことはしてほしくないけど、信用に足る護衛です。黒塔がどれだけ安全な場所だって聞いても、橄欖がいないとやっぱり安心できません」
 それなのにあなたはどうして。
 知っているはずなのに。
 わかっている。好意を向けてくる相手を嫌いにはなれない。冷たくすることなんてできやしない。ましてこんなに近しい関係になってしまったら。
「んんー、妬けますねー。シオンさまにここまで言わせるなんて、羨ましいです」
「良い主人を持ちましたな」
「献身的なのは良いことですが、橄欖。くれぐれも貴女の立場だけは理解しておきなさいね。貴女、シオンのためとあらば本当に何でもするところがあるでしょう」
「決して侍女の領域を越えたことまではいたしません」
 ときどき、フィオーナさまは全てを見通した上で黙認してくれているのではないかと思うことがある。宴の折にも、シオンさまを意図的に縛りはしないと言っていた。それでもわたしが第一に考えるのは彼の幸せだから、壊すわけにはいかない。
「大丈夫だよ……フィオーナはもっと橄欖を信用してあげて?」
「シオンは私にどうあってもヤキモチを焼かせたいみたいね。別に、本気で疑ったりなどしていないわ。橄欖とは貴方よりも長い付き合いなのだから」
 フィオーナさまもシオンさまも、誰かを信じることしか知らないのだから。本当に似た者同士だ。
 仇としてシオンさまを憎んでいた頃のわたしでさえも、フィオーナさまは信じてくれていた。姉さんでなく自分をシオンさま付きにすると言い出したときは、(ポケモン)を見る目がないんじゃないかと疑った。まさかこんなに関係になるなんて思いもしなかった。彼女はあのときから未来を見据えていたのだろうか。
「善は急げと言いますぞ。早速黒塔へ向かいますかな」
「え、こんな時間からですか?」
「目立たぬ時間のほうが都合が良いと思いますぞ。なに、生活のことなら心配めさるな。黒塔にはすべて揃っております」
 ドーブルは自分の見たあらゆる技を身につけられるというので驚きはしなかったものの、ハイアットは当然のように空を飛ぶこともできるという。ただ、橄欖を連れて行く役を買って出ようとしたのは丁重にお断りしておいた。先程のやり取りからしても何をされるかわかったものではない。
 結局孔雀がシオンさまを、二郎がフィオーナさまと橄欖を連れて黒塔まで送ることになったが、ハイアットは大層残念そうに橄欖を見つめていて、さすがに腹が立ってきた。黒塔でもこの老人には注意しなければならないと強く心に念じておいた。

06 


 店が繁盛するようになって、あらためてこの国には変人しかいないのだと実感する。
「お待たせしました。アイスコーヒーのお客様……はい、ミルクティーのお客様――」
 その日の昼下がりに訪れた五匹の若者はそんなランナベールにおいてもまた一風変わっていた。
「ありがと」
 まずこのミミロップの牝。エリオットが給仕する間、やたらと熱っぽい視線で見つめてくるし、何のつもりか知らないがいきなりほっぺをつついてきた。
「キミ、可愛いね」
「……はあ。ありがとうございます」
「もう、店員さんなのに愛想悪いよ? 照れ屋さんなのかな。ま、ボクはそういう子も好きだけどねえ」
 口説いているつもりなのか。ていうか、ボク? 見た目も声も明らかに牝のそれだが、シオンのような奴もいるし。あれか。いわゆるほもってやつか。
「あ、ボクは普通の優しいお姉さんだよ? たまに口調のせいで間違われるけど。そういうことでさ、キミ、仕事が終わったらボクといいコト――へぶっ」
 あまりに無茶苦茶な物言いに辟易していたところへ、隣に座っていたエンペルトが頭をぶっ叩くという至極シンプルな物理的突っ込みを入れた。
(りん)、いいかげんにしろ」
 さすがに加減はしていただろうが、結構いい音がした。
「済まない、リーフィアの少年。美少年とみれば片端から声を掛けるどうしようもない牝でな」
「鈴姉の悪い癖だよね、ほんと」
 エンペルトとミミロップは二十代半ば、無邪気に笑うオノノクスはまだ十代で、おそらくエリオット同じか少し下くらいだろう。残りの二匹、ラッタの牡とケンホロウの牝は意に介さずすでに飲み物に口をつけている。
「イタイ……真珠(しず)、キミは鋼タイプでしょ! それ凶器! わかる? ボクの頭はそんなに頑丈にできてないんだからね!」
「いちいちお前の頭の心配をしていたら埒が明かん。真面目に情報収集をする気があるのかお前は」
「それはほら、この子が何か知ってるかもしれないでしょ? ついでにいい情報が手に入るかも……」
「何がついでだ。やはり最初からそれが目的だったのだな?」
 昼時を過ぎて客足が少し途絶えた頃、店の前で掃除がてら客引きをしていたところ、この五匹が通り掛かった。せっかくだし入ろう、と提案したのはこのいい年してボクっ娘気取りのリンとかいうミミロップだった。エリオットが目当てだったというのも頷ける。この店で仕事をして長いから、流石に否定しようもなくなってきた。自惚れでもなく、どうやらエリオットがそれなりに人受けのする見目形をしているらしいことは事実らしい。女装などする必要は始めからなかったのではないか。
「情報ねえ。何かお探し物でも?」
 今やウェルトジェレンクは探偵のハリーをはじめ、歓楽街のトップやハンター、騎士達や果ては王家の者までお忍びで訪れるカフェとなっていて、近頃は情報の集まる場所としても認知されつつある。また、店内の雰囲気、立地の場所柄とも相まって不文律ながら争いを起こしづらい空気が流れている。異なる信条や派閥の者達が相(まみ)えることがあっても、ここで事を起こすことはない。少なくともこれまでのところは。
「ほらやっぱりボクの思ったとおりでしょ?」
 ミミロップは嬉しそうにエリオットの首に手を回してきた。その独特の足運びと妙なタイミングで、なぜか全く反応できなかった。どこかに同じような奴がいたような。
「や、やめてください」
 クソ。何なんだこの女。トチ狂ってるくせに体だけはなんというか。吸いつくような柔らかさとふわふわした毛並み。それから蠱惑的な香りがして、拒絶する気がなくなってくる。
「あ、ボクのこと気に入ってくれた? いいよ、キミに情報を貰う代わりに、いろいろ教えてあげる」
 ミミロップやエネコロロは異性を虜にする体をしているというが、これはやばい。このまま身を任せたくなってしまう。
「おい鈴――」
「お客様」
「へ?」
 一瞬目の前が真っ白になりかけたところで、視界の隅に姉貴が見えた。
「あぢいいいいいぁううあうあ」
 リンが文字通り跳び上がって天井に頭をぶつけ、太腿の辺りを押さえてぺたんと座り込んだ。
「困りますお客様。当店では店員のお持ち帰りはできませんので」
 イレーネがとびきりの営業スマイルでリンを見下ろしていた。これは相当怒っているとみえる。
 リンが脚に当てていた手を離すと、毛が焦げてその下の肌が赤く腫れ上がっていた。
「ちょっと、ひどくない?」
「どう考えても自業自得だ」
 エンペルトはイレーネの行為を咎める気はないみたいだが、ちょっとまずいんじゃないか。一応相手は客だし。
「おい姉貴、いくらなんでもやりすぎだっつの」
「この国じゃこれぐらいしないといけないってことを教えてあげたのよ」
 確かに、ランナベールに限らず客だから何でもしていいわけじゃないし、この国で相手のモラルに任せていたらどこまで調子に乗るかわかったものではない。
 かといっていきなりの火の粉はどうかと思う。
「姉弟だったんだ。あまりに怒るもんだから恋人かと思ったよ……それともそういう関係? 禁断の姉弟愛、みたいな!」
「私たちがどんな関係でもやっていいことと悪いことがあります。ここは健全な喫茶店なんですから!」
「いや関係のところは否定しろよ」
 ともあれ、客に怪我をさせてしまったのは失態だ。マスターが裏で仕込みをしているが、あれだけ大きな悲鳴をあげたらバレるのも時間の問題だ。
「なんというか……大丈夫ですか?」
「ボクのことなら心配いらないよ。ほら」
 リンは腿にあてていた手を離してみせた。驚いたことに、いつの間に治療したのか、火の粉の傷跡がすっかり消えていた。エリオットが目を丸くしていると、リンは悪戯っぽい笑みを見せた。
「ボクはちょっと特殊な体質でね。これくらいの傷ならなんともないんだ」
「ほんと、あんたが持ってはいけない能力だわ。そんなだから懲りないのよ」
 ケンホロウが初めて口を開いた。鳥ポケモン特有の甲高い声ながら落ち着いていて、低く中性的な声をしているくせに無駄にテンションの高いリンとは対照的だ。
「とにかく、だ」
 鶴ならぬペンギンの一声。エンペルトのシズの一言で、全員の視線が彼に集められた。
「まずは重ね重ね、非礼を詫びたい。その上で我々には恥を忍んでお尋ねしたいことがあるのだ」
 リンのインパクトが強すぎたためにまともなポケモンというだけで立派に見えてしまうが、それを差し置いてもシズの声には威厳があった。実は外国の身分の高いポケモンだったりするのかもしれない。会話もそっちのけでパンケーキにがっついているラッタを見るとそうは思えないが、どうにも統一感のない集団だ。
「我々はある者達を探して旅をしていてな。その者達がここランナベールにいるとの噂を聞きつけたのだ」
「探し人、ですか。ランナベールはいろんな事情で故郷の国にいられなくなったポケモンが逃げ込む場所でもありますからね。どんな方をお探しで?」
「何を隠そう、我々は極東の国の出でな。探し人も同じ陽州人なのだ。こちらでは見た目に特徴のあるのはサーナイトの牝……お偉い方の屋敷で使用人をしていると聞いたのだが」
 まさか、孔雀とかいうあの女か。そして、ふと思い出した。リンのあの動きは、孔雀のそれに近いものだった。傍迷惑な調子の乗り方も、あの女の知り合いということなら頷ける。
「孔雀さんのことですかね?」
 名を口にした途端、食い意地の張っているらしいラッタを除く四匹の顔色が変わった。表情は複雑で、仲間との再会をただ楽しみにしているようには見えない。
「知っているのか」
「まさか本当に鈴の勘が当たるなんて」
「紗織、その言い方はひどくない?」
 ケンホロウの名はサオリというらしい。なるほど、皆こっちのポケモンらしくない名の響きをしているのも頷ける。
「孔雀さんなら何度かご来店されたことがありますよ。まあオレなんかじゃ直接取り次いだりとか、そういうのは無理っすけど。なんたって王女の付き人ですからね」
「あの孔雀が王女の付き人?」
「すごいじゃない。異郷の地でそこまでのし上がるなんて」
 エリオットも詳しくは知らないが、この国では普通、要人の警護につくのはヴァンジェスティの息の掛かった教育機関兼兵士養成施設のセーラリュートの出の者が多い。もちろん個人的な信頼関係を築くことも必要ではあるが、外国のポケモンが信頼だけでその地位につくなんて並大抵のことではない。それを言ってしまえば一目惚れしたシオンと婚約なんてのも普通はあり得ない話だ。つまるところフィオーナが自分のひとを見る目に絶対の自信を持っているということか。
「問題はそこではない。どうすれば会えるのかということだ」
「妹の橄欖も一緒に屋敷で働いてるんだよね? あとは午内の三姉弟もこの国にいるはずなんだけど……リーフィア君、何か知らない?」
「そのゴダイとかいうのは知りませんが、橄欖って子なら王女の婚約者の侍女だったかな。一度しか会ったことはないですけど、妙に大人っぽいキルリアの少女ですよね」
「まだキルリアなんだ? たしか橄欖って瑪瑙(めのう)と同い年だったよね」
「俺も去年進化したばっかりだよ?」
 オノノクスの名がメノウ、と。職業柄、一度聞いた客の名前を覚えるのは得意だったりする。
「キミは進化の遅いオノンドだから二十歳で進化するのもべつに珍しくないんじゃない? キルリアからサーナイトだったら十六から十八くらい……早いひとだと十五で進化することもあるみたい」
 去年進化したときに二十歳。てことは今二十一歳。少年らしさの僅かに残る風貌もノリの若さも妥当なところか。いや待て。
 あの橄欖が同い年? てことはだ。オレの二つも年上じゃねえか!
「我々が考えていたよりも事情が込み入っているようだな」
「あくまで私達が外から聞いた噂……実情はそう単純ではないはずよ」
 ケンホロウのサオリは見たところ二十代前半だろうが、落ち着き払った雰囲気からはもう少し上にも感じられる。これもうわかんねえな。
 思考を放棄しかけたところで、カラン、と扉の鈴が鳴った。
 慌てて入り口へと向き直って一礼する。
「いらっしゃいませ――って」
 噂をすればというやつだ。にこにこと微笑む孔雀が、見慣れないゲンガーの女性を引き連れて来店したのだった。
「お久しぶりです、エリオットくん、イレーネさん。そして皆さん」
 五匹の視線が釘付けになった。シズとリンが立ち上がって外を警戒する。それもそうだ。いくらなんでもできすぎている。リン達五匹は随分前から動向を探られていて、孔雀の方から会いに来たと考えるのが自然だ。
「孔雀、それに一子……再会できたことは嬉しいけど、いつからボクたちを見張ってたんだい?」
「あいや、わたしたちは国軍から情報を頂いて……どうも皆さんの入国のタイミングが悪かったみたいでして、何かを仕出かすのではと疑われているようです」
「その疑いを晴らすために私らが来たってわけさ。カフェなら穏やかな話し合いの場には相応しいだろうと思ってね」
 一瞬は色めきだったものの、争うつもりではないらしい。もともと四匹席を二つくっつける格好になっていたので、空いた席に孔雀と一子が座った。
「わたしはミルクティーを……一子ちゃんはどうする?」
「同じでいい」
「かしこまりました」
 あまり良い雰囲気とは言えないが、そこを作るのがカフェの役目でもある。気圧されそうになるのを堪えてできるだけ明るい声で答えた。調理場へ入るときは振り返らずにはいられなかったが。

         ◇

「まさかまた七匹でこうしてテーブルを囲む日が来るとはな……あの頃は黒夢と華赤(かせき)殿もいたか」
 過激派の筆頭だった艮藤家にはあの反乱の時、まだ仔はなかった。当主が死に、辛うじて生き残った弟である華赤が血を継承した。未亡人となった当主の妻との間に生まれたのが黒夢だ。その両親も雷の後遺症で体が不自由だった。それが元で早くに亡くなって、黒夢の心には良心が芽生える暇など無きに等しかった。ランナベールで孔雀の記憶を覗いたときには彼女を非難したが、今となっては一番大変な役を買って出てくれた孔雀には感謝さえしている。
「私達は昔を懐かしむために合流したわけじゃないわ」
「紗織ってばほんとドライなんだから。せっかく集まったんだからさ。そんなに話を急がなくてもいいじゃない。ね、孔雀」
 鈴は同意を求めるように孔雀にウィンクする。反応に困る様子ではにかむ孔雀は、また昔の大人しかった頃に戻ったかのようだった。
 それでも、子供の頃孔雀と仲の良かった鈴の目は誤魔化せなかったらしい。
「てか孔雀さ、雰囲気変わったよね? なんていうかこう垢抜けた……っていうよりはっちゃけたみたいな?」
「はあ。変わったといえばそうかもしれませんねー」
 まさに鈴の推察は的を射ているのだが、対する孔雀はどうも歯切れが悪い。いつもの軽い調子で話を進めることを期待していたのだが。
 そこでピンときた。そうか。はっちゃけている孔雀の姿が誰かに重なるとずっと思っていた。
「こう言っちゃなんだけど昔はキミ暗かったよね? 今の方がずっといいよ」
「鈴姉さんに言われると恥ずかしいです……あの頃のわたしにとっては届かない目標でしたから」
 孔雀が自分を変えようと思い、理想の自分のモデルとしたのが鈴の姿だったのだ。
 ミミロップの鈴とエンペルトの真珠が一子の三つ年上で最年長。紗織が一つ上で、孔雀、一子、それから幾つになっても食いしん坊で無口なラッタの開斗が同い年。瑪瑙は二つ下で、黒夢がいなくなった今、血の力を持つ当主では一番年下ということになる。
「ボクを目標に? それは嬉しいなあ」
「お待たせしました」
 そこへリーフィアのウェイターが蔓に盆を載せた紅茶を運んできた。
 紅茶がポットからカップに注がれ、ミルク挿しと角砂糖が手際良く置かれる。第一印象ではあまり上品なイメージではなかったのだが、若いわりには手馴れていてなかなか様になっていた。
「ミルクティーになります。ごゆっくりどうぞ」
 入店の際にひと目見ただけではわからなかったが、いかにも鈴や孔雀の好みそうな美少年だ。
「ああ、やっぱり可愛いなあキミ。一回でいいからボクと試してみない?」
「おや。そういうコトでしたらわたしも交ぜていただきたく」
 ウェイターを口説きにかかる鈴を見て、孔雀も調子が戻ってきたらしい。
「話がわかるようになったじゃない孔雀。でもこのコは先にボクが口説いてたんだからね」
「わたし、このカフェには何度か来ていますし、当然エリオットくんとお話もしていますよ?」
「エリオット……へえ、思ったよりかっこいい名前」
「あら、名前も知らなかったのですね。いかに鈴姉さんといえどさすがにここはわたしに権利が」
 もとより周囲の空気などどこ吹く風の鈴と孔雀の二匹と、今の孔雀を知っている一子を覗いて、一同が口を開いたまま動かなくなった。食事以外に反応の極端に薄い開斗でさえ驚いている。
「オレの権利は無視かよ」
 二匹のあまりの自分勝手さに呆れて素が出てしまったのだろう、ぼそりと呟いたエリオットの口調はえらくぶっきらぼうだった。
「鈴。それから孔雀、お前もか。お前らに好き勝手させていては話がいつまで経っても始まらん」
 話が進まないどころか、始まってすらいない。孔雀と鈴の二匹が合わさるとここまでたちが悪いとは。
「私らがどうしてこの国に住むことになったのか、あんたらはそれが聞きたいんだろ?」
 孔雀と二匹で話し合いに臨むと決まったときから、舵取りは自分がしなければならないという覚悟はしていた。あまり柄ではないが、相方が相方なだけに仕方ない。
「そうだな。孔雀は王女の付き人だと聞いたが、お前は何を?」
「色々あって、孔雀と橄欖、それから私と弟妹……皆ヴァンジェスティの家で住み込みの使用人をしてる」
「使用人、か……いかな武士でも異国の地では致し方あるまいな」
「身の上話なんかどっちでもいいわよ。一子、あんた達に聞きたいのはね、にっくき姫女苑とその息子のことよ。それから黒夢の死の真相」
 真珠が紅茶を片手に相槌を打っていたところで、紗織がいきなり核心をついてきた。場の空気が一変するが、こちらとしてもその方がやりやすい。孔雀や鈴がまた好き勝手し始める前に本題に入るべきだ。
「そうさね。まずは最近ここへ来たばかりの私よりも、孔雀に――」
 ちらりと横目で孔雀の様子を――ん?
 横に座っていたはずの孔雀がいない。
「さあさあ鈴姉さん! このウェイトレスさんをわたしが抑えている間に!」
「エリオットーっ!」
 ブースターのウェイトレスを組み伏せる孔雀と、エリオットを抱き締める鈴の姿。
「ありがとう孔雀。ボクに先手を譲ってくれるなんて……後でたっぷりキミにも楽しませてあげるからね」
「ぐっ、てめ、なに勝手なこと言ってやがる!」
 一子がシャドーボールを撃ち込んでやろうと手を翳したところで、先んじて真珠が立ち上がった。
「お前ら」
 吐き出された無数の泡が鈴と孔雀に襲いかかる。エリオットに夢中だった二匹は反応できず、小さな泡が合体してその体を包み込んだ。
 (いぬい)真珠(しず)の能力だ。ああして相手を閉じ込めたり、小さな泡をばら撒いて制空権を奪ったり、その用途は多岐に渡り、一子も詳しいところまでは知らない。
「あややー」
「ちょ、真珠、ゴメンって! ほんの出来心で……」
 真珠の答えは無言だった。二つの泡は真珠のもとへ引き寄せられ――
「ぎょえへー」
「あたっ」
 ――二匹仲良く鋼鉄の翼で頭をぶっ叩かれた。同時に泡が爆散して、細かな水滴が飛び散った。
「イタタタ……真珠兄さんに怒られたことなんて初めてです」
「あはは、キミは昔は大人しかったからね」
「何を嬉しそうにしている。もう一発殴られたいか?」
「ごめんなさい」
 さしもの孔雀も素直に謝るしかなかった。真珠は静かなだけに、傍目には怒っているのかどうかはわかりづらい。あまり調子に乗り過ぎるといきなり爆発しかねない。子供の頃荒っぽい性格で皆に恐れられていた鬼の真珠兄さんが復活してしまう。
「ボクはちゃんと聞いてたよ。この長い耳でね。死んだ姫女苑の息子のお話だよね?」
 いつの間にか、鈴は何食わぬ顔で元の席に座って紅茶を飲んでいる。
「ああ。その息子、両院の当主紫苑は今、王女様のフィアンセさ」
「わーお」
「それはまた」
「なんですって……?」
「両院めぇ……」
「ぐむむ」
 反応は五者五様であったが、皆驚きを隠せない様子だった。陽州を治めていた両院が都を追われ、遥か遠く西の地に落ち延びてなお、一つの国を手にしようとしているのだ。血の運命なのかどうかは定かではないが、やはり自分の国を手にするような者には(ポケ)智の及ばぬ何かが味方をしているのではないか。
「両院が結局また国の頂点に立つというの? そんなこと、許せない……ちょっと待って一子。それじゃあんたと孔雀は両院の下で働いてるってこと?」
 紗織が語気を強めて睨みつけてきた。それに釣られるよう皆の視線も一子に集まる格好となって、さすがに身が竦む思いをした。ちらりと横目に孔雀を見ると、いつもの調子でにこにこと笑っていて、さすがに怒りが込み上げてきた。
「孔雀、あんたの方が長いんだ。説明してやってくれ」
「はい。ここで真打ち登場、というわけですねー」
 この女。
 言いづらいことを嫌々言ってやったというのにひとを前座みたいに。皆の前でなければ顔面にシャドーパンチを食らわせていたところだ。
「正しく言えば、わたしと橄欖ちゃんが王女さまの側近となった後に、王女さまが見初めた相手がたまたま両院の当主そのひとだったのです」
「なるほど。それで手を出せなくなったというわけか」
「簡単に納得してんじゃないわよ真珠。手を出せないって……臆したの孔雀? 努力一本でそこまで鍛え上げたあんたが? 刺し違えてでも仇を討つとまで言っていたあんたが」
 紗織が褐色の翼を広げ、バサバサと激しい手振りで孔雀に詰め寄った。
「私は全く意味がわからないわ。皆もそうでしょう? 居場所がわかっているなら今からでも行きましょう。七匹いれば国軍なんて怖くないわ」
「紗織……待ちなよ。ボクには孔雀がそんな理由で仇討ちを諦めたとは思えないし、一子だってそうだ。ここまで来て皆も揃ったんだし、事を急ぐ必要はないだろう?」
「……それもそうね」
 紗織は鳥ポケモン用の丸椅子に戻り、ストローでアイスコーヒーを口にした。
「あんたの話を聞くことにするわ。その王女様の側近になってから今に至るまでの話をね。詳しく聞かせてもらおうじゃない」
 一子は一度、孔雀の記憶を覗いている。断片的ながら彼女の記憶に残るフィオーナとのエピソードに触れ、彼女の歩いてきた道を理解するに至ったわけだが、果たして彼らがそれで納得するのかどうか。
「それと孔雀ちゃん。黒夢のことも知ってるんでしょ? 噂ではあいつ、罪のない大勢のポケモンを巻き込んで、最後には恨みを買って殺されたっていうけど……俺はその真相も知りたいよ」
 幼少の頃、瑪瑙だけは黒夢に理解を示そうとしていた。艮藤の教育のせいか危険な思想を持つ子供として避けられ気味だった黒夢と一番仲が良かったのは瑪瑙だ。スボミーとキバゴが河原で遊んでいた光景が今でも一子の記憶の片隅にある。黒夢を手にかけた孔雀を非難した一子であるが、何を隠そう、黒夢と同い年の三太に「あの子はちょっと危ない子だから気をつけなさい」などと注意していたものだ。
「わかりました。長くなりますが、順を追ってお話します。わたしと一子ちゃんがこうしている理由もきっとわかってもらえると思います」
 孔雀がようやく真剣な顔つきになった。根拠のない自信はあるみたいだが、果たして本当に理解してもらえるのか。全ては彼女の語りにかかっている。
 そしておそらく、孔雀自身の口から語られるのはこれが初めてだ。

07 


 ――西の国には雷の悪魔がいる。
 先陣を切って陽州を出た姉妹は、様々な国のポケモンでごった返す華州の港町で情報を集めていた。そこで耳にした噂が、西の国の港町で、三十匹かそこらを一瞬で灰にするほどの雷の使い手がいるという話だった。様々な事件がポケモンからポケモンへと伝わり世界を回るうち、尾ひれがついてとんでもない武勇伝に化けることなどよくあることだ。孔雀たち姉妹の耳に入らなければ、数あるそんな都市伝説の一つとして捨て置かれただろう。その使い手がサンダースの牝だと聞いたとき、確信した。我らが両親の仇、姫女苑に違いないと。
 サイコキネシスを操って飛行する術を身につけていた孔雀には、陸路の障害を気にする必要がなかった。橄欖を連れて飛ぶうち、効率の良いスピードの出し方も他人を安全に運ぶコツも掴むことができた。何度か橄欖を落としてしまったのは申し訳なかったと今でも思っている。落とした、といっても幸いながら橄欖のESP展開の瞬発力は巽家の歴史でも類を見ないほど天才的と言わしめるほどだったから、自らのサイコキネシスの糸で孔雀にぶら下がることで落下は免れている。
 ベール半島にたどり着き、まずは歴史あるジルベールで情報を集めた。大陸縦断山脈の東西で見た目の形質が異なる種族*1ゆえか物珍しげな視線に晒されたが、お陰で異国人だとわかりやすく、現地人がいろいろと気を使って協力してくれた。政情を把握するのにそう時間はかからなかった。
 雷の悪魔の噂はジルベールではよく知られており、三年前に隣国ランナベールで起こった事件のニュースはジルベールをも騒がせた。だが、そのサンダースのその後については曖昧で、死んだとか、今もランナベールのどこかにいるとか、子供がいたとか、はたまた今もランナベールのどこかに暮らしているとか、聞く人みな口にすることが違った。
 ランナベールに入っても同じだった。長期に滞在して情報を集める必要があると思い、旅の資金も底をつきかけていたので仕事を探すことにした。そんなある日の夕暮れだった。
 市場近くの路地の両側に、見るからに品のないポケモン達がたむろっていた。ランナベールでは珍しくもない、幾度となく目にした光景だった。
「おう?」
 違ったのは、そのうちの一匹が孔雀たちに目を留めて立ち上がったことだ。
「ちょっと待てよネエチャン」
 首に趣味の悪いドクロのネックレスをしたワルビアルの男が橄欖の肩に手をかけた。たむろっていた者達が後ろでニヤニヤ笑っている。種族はドラピオンにハガネール、ヨノワール、シビルドン。数の上でも相性の上でも有利だと見たか。
「何か……ご用でしょうか……?」
 橄欖が首を傾けてワルビアルに冷たい視線を向けた。
「あァん? 声小っちぇえんだよ。まァいいや。お前らこの国のモンじゃねえんだろ。ちっとオレらがこの国のリュウギってやつを教えてやろうってんだよ」
 ランナベールはかつて色彩板石(プレート)の産出から加工、他に戦闘員の養成などを行っていた軍事企業ヴァンジェスティが独立し、ジルベールとコーネリアスの間で空白となっていたこの土地を占領したことに由来する国家だ。明文化された法律のない社会で、このような悪党の溜まり場、あるいはワケありで他の国に住めなくなった者が流れ着く場所だと言われている。この国の流儀とやらがどういうものか、少し街を見て回っただけでも理解していた。
 即ち、弱肉強食。他国のように、政府が弱者を救済してはくれない。治安を維持するための機関はあるが、国民性が国民性だけにまともに機能しているとは言い難いようだ。
「姉さん……やるしかないようですね……」
「そのようね」
「あ? お前ら、こいつは傑作だぜ! 気の強いネエチャン達だなあオイ! じっくりと――」
 ワルビアルが高笑いしながら何か言おうとしたが、仲間にその言葉が伝えられることはなかった。橄欖の肩から手が滑り落ち、ワルビアルの巨体はドサリとその場に崩れた。
「なっ……何だ?」
 後ろで見ていたポケモン達が息を呑む。何が起こったのかわからないのも無理はない。我が妹ながら橄欖の催眠術は一級品だ。相手の意識を一瞬で飛ばしてしまうほどの使い手など彼女の他にはいないだろう。
「この国の流儀とは……こういうことですよね……?」
「コケにしやがって。俺達を舐めるなよ?」
 ヨノワールが身構えて、それまでの緩んだ表情を一点させ、引き締まった顔に変わった。
「頼む、シェードロ! こいつらなんかやべえ!」
 ドラピオンがヨノワールの名を呼ぶ。他のチンピラとは明らかに違う。それなりに死線を潜り抜けた経験のある者の目だ。
「貴方がたはそこで何をしているのです」
 突如、こんな場所には似つかわしくない凛とした声が響いた。
 振り返ると、鬣や首周りの飾り毛をずいぶんと長く伸ばしたエネコロロが、芯の強い眼差しを悪党共に向けていた。年齢は孔雀達と同年代に見えるが、護衛と思しき屈強そうなジュペッタとエビワラーを引き連れており、またそのポケモン達に護られるに相応しい風格を備えている。陽州で言うところのやくざの娘みたいなものかとも思ったが、それにしては高貴な雰囲気を纏っており、いったい何者なのか、一目には見当がつかない。
「おい……さすがにやばくねえか?」
 途端に不利な状況に追い込まれ、シビルドンが神妙な面持ちでヨノワールのシェードロに囁くが、時既に遅しというやつだろう。見るからにこの国に慣れていないよそ者を食い物にしようとしていた者達に同情する余地などないが。
「落ち着け。まずはこいつらを――」
 シェードロが指示を飛ばす前に、エビワラーとジュペッタが孔雀達の前に出た。反応の鈍かったシビルドンはエビワラーのメガトンパンチ一発で沈められたが、シェードロは間一髪、ジュペッタのシャドークローを躱して飛び下がった。五匹のうち二匹が倒れ、ハガネール、ドラピオン、ヨノワールの三匹が一箇所にかたまる格好となった。
「ちっ……」
「お嬢様、どうしますか」
 エビワラーが油断なく構えた姿勢のまま、エネコロロに尋ねた。
「彼らとてランナベールの民です。これ以上抵抗せず、大人しく去るというのなら良しとしましょう」
 正直、甘いと思った。ここで逃せば彼らはまた同じことを繰り返す。一度痛い目に遭わせておかなければ心を改めることなどないだろう。それに――
「ふん。誰だか知らんが――ゼーメル、グラップ! 今だ!」
 ――気づいていないのか。路地の裏にまだ二つ気配があった。
 フライゴンとナゲキが一直線にエネコロロを狙って飛び出した。
「っ――!?」
「お嬢様!」
 ジュペッタとエビワラーが彼女のもとへ戻ろうとするが、遅い。このままではエネコロロを人質に取られて形勢逆転だ。その場の誰もがそう思った。だが、エネコロロが人質になることも――フライゴンとナゲキが彼女のところにたどり着くこともなかった。
「へへ、油断し――何!?」
 急接近した孔雀がフライゴンの尻尾を掴み、ナゲキは声を発する間もなく背後から橄欖のサイコキネシスで吹き飛ばされていた。
「その通り、油断はいけませんねー」
 腰を捻って後ろに投げ飛ばすと、フライゴンはハガネールの巨体に突っ込んだ。そこからのエビワラーとジュペッタの判断はさすがに早く、ハガネールに追撃のマッハパンチが叩き込まれ、ヨノワールとドラピオンは倒れる味方を放り出して逃げてしまった。
 終わってみればこちらは無傷、相手はワルビアル、シビルドン、ナゲキ、フライゴン、ハガネールと五匹のポケモンが瞬く間に戦闘不能。エネコロロ達の介入がなければもっとひどい結果になっていたかもしれない。
「お嬢様! お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫よ。それより彼女たちにお礼を……助けるつもりが助けられてしまったわね」
 エネコロロは背筋を伸ばして座り、孔雀達に向かって優雅に一礼した。
「危ないところをどうもありがとうございます。私はフィオーナと申します。お若い女性二匹がここまで強いとは思わず、驚きましたわ。しかしながら、貴女がたはあまりこの国には慣れていないご様子ですね」
 孔雀や橄欖とあまり年も変わらなく見えるが、堂々たる物言いからは年齢は推し測りがたい。
「元はと言えばわたしたちを助けようとしてくださったのですから、当然のことをしたまでです。わたしは孔雀、こちらは妹の橄欖。お察しの通り、ランナベールへはつい先日来たばかりでして」
「この国へ来たからには何かご事情がお有りなのでしょう。何か私に助けられることはあるかしら?」
 事情については訊かれなかった。仇を追ってやってきたなんて話すわけにもいかないから、一つや二つは国を出たもっともらしい理由を考えてはいたのだが。
 ともあれ、見るからに只者ではない彼女がお礼をしてくれるという。当然ながら知り合いなど一匹もいない孔雀たちにとってはこれ以上ない申し出だった。
「そうですね……不躾なお願いになってしまうかもしれませんが、何か良い仕事があれば紹介していただけないでしょうか?」
 この出会いが、孔雀たちの人生の大きな転機となろうとは当時は考えもしなかった。

         ◇

 ヴァンジェスティの王位第一継承者ながら素性を隠して街を歩くのは、民をよく知るためなのだという。孔雀たちも陽州では支配階級であったが、農民や町民の生活の実態はあまり知らなかった。支配者としてのそういった姿勢には素直に感心した。
 そんなフィオーナに仕えて数ヶ月の後。孔雀と橄欖は早くも側近として、身辺警護の要となっていた。
「本日はどちらへ?」
「今日は兵士養成学校、セーラリュートで学園祭があるのよ」
 まだ若い二匹は外の出身ということもあり、護衛兵らしくないので引き連れて歩いても物々しい目立ち方をしない、というのが離れて見守る他の護衛兵への口実となっていたが、実際に孔雀たち以上に腕の立つ護衛はいなかった。旅の道中でも感じたことだが、個人の戦闘能力という点では陽州の武士は大陸の騎士クラスの武人と比べても、はるかに凌駕しているようだ。孔雀たちの代は特に、幼少時からの鍛錬に対する気の持ちようが違っていたこともあるが、倍化器(ブースター)もなく、血の継承による一子相伝の特殊能力が存在する世界で、強くならなければならなかったというのが正しい。一族の後継者であれば当主としての責任を背負うために、そうでない者は特殊能力を持つ当主にも引けを取らぬために。
「学園祭ですか」
「リュートが一般市民に開かれる数少ない機会なのよ。警備は厳重だけれど、もともと戦闘のプロとその卵ばかりの場所だから何か事を起こそうなんて者はいないわ」
「なるほど。この国の将来を担う方々の様子をご覧になるというわけですね」
「そうね……というのは口実で、私も一学生としてそのようなイベントを楽しんでみたいという気持ちはあるわ。ジルベールの学院では素性が知られているから」
「ははあ。承知いたしました。この不肖の姉妹がフィオーナさまに楽しんでいただくために尽くします!」
「はい……お任せください……」
 せっかくやる気になっているのに、橄欖を見ている気分が沈んでしまいそうだ。フィオーナも苦笑しているし。
 橄欖がこうなってしまったのは両親の死がきっかけで、以来感情を表に出さなくなった。フィオーナと会話するのはほとんど孔雀の役目だったから、お陰で会話のスキルや貴族に仕える使用人としての言葉遣いが身についた。
 ともあれ、これが仇を探す絶好の機会であることにさすがの橄欖も内に秘めた昂揚を隠せないようだ。互いに感情を受信し合っていれば手に取るようにわかる。
 姫女苑は例の事件の当事者、もっと言えば被疑者で、三十余名のハンターを道連れにして死亡したことが確認された。ヴァンジェスティの書庫には過去の事件ファイルなども残っており、事件の概要はあっさりと知ることができた。そこに入り込めるほどの信用を得るのに苦労するかと思ったが、生来のお人好しらしいフィオーナは一ヶ月も経たないうちに姉妹を信用してしまった。
 姫女苑がすでに死んでいるとあっても、問題はその先だ。敵を道連れにしたのは二匹の子を庇うためで、親を失った二匹は国の兵士養成学校であるセーラリュートの理事長に預けられたのだという。命名の儀式を経ていれば、第一子に継承されているはずだ。父と母の命を奪った両院の血と力が。そしてその二匹はセーラリュートにいる可能性が限りなく高い。一般人の立ち入れぬ養成学校にいかにして侵入するかと思案していたところに、思わぬチャンスが訪れたのだ。この機を逃す手はない。

         ◇

 フィオーナについて歩く間も、記憶の中にある姫女苑の姿を頼りに学生たちに目を配っていた。ときにはフィオーナから離れる口実を作るため、祭りにはしゃぐ子供のように露店の間を回った。種族はイーブイの進化形かロコン、キュウコンのいずれかだが、なかなか見つかるものでもないし、一匹二匹いたとしても姫女苑とは似ても似つかない。そんな中で耳に飛び込んできたのが、エーフィの美少女が主役を張るという劇の宣伝だった。姫女苑は憎き仇だが、私的感情を抜きにして見ればなかなかの美人だった。ローラスもローラスで、美形とは言わないまでも中性的な顔立ちをしていた。その二匹の娘だとすれば、整った見目形をしていると考えるのが自然だ。種族もエーフィだし、何より開演の直前で情報をキャッチできたことは運命のようにも感じられた。
「――私はこれでも貴女の主人なのよ?」
「申し訳ありません……それでは劇でも観に行かれますか?」
「……そうですね」
 逸る気持ちを抑えてできるだけ自然にフィオーナを誘った。彼女もそれなりに興味はあったようで、すんなりと承諾してくれた。
 寸劇『ルミアとタルジェット』でヒロインのルミア役を演じるエーフィを見たとき、その存在感の強さに強烈なデジャヴを感じた。視力の良い孔雀には、後列の席からも確認できた。姫女苑と同じ琥珀色の瞳だ。ヒーローとヒロインの配役を性別逆転で演じていたらしいが、女として見てもあのフィオーナが我を忘れて見惚れるほどの美しさだった。それが異性であると知らされると、フィオーナはその感情を恋だと直感した。すぐさま講堂の裏口に回って出待ちし、ダンスの相手を申し込む大胆な行動には少し驚いたが、孔雀たちの拾われた経緯も似たようなものだ。フィオーナとはこういう女なのだ。
 だが、彼女のそんな大胆さのお陰で、件のエーフィと話し、名前を知ることができた。シオン、という響き。両院家は代々、世継ぎの名は花の名から取っていた。彼の名の由来が紫苑の花だとしたら間違いない。そしてあの琥珀色の瞳の中に宿っているはずだ。国の秩序を護るための力、黄金の冠が。
 フィオーナさまの前であまり不審な行動は取れないので、はぐれたふりをして改めて接触することにした。
 夕刻、ダンスパーティの会場となるホールで準備に勤しんでいたシオンに何気ない風を装って声をかけた。フィオーナさまとはぐれた、と伝えると案内してくれるというので、二匹きりになることができた。折を見て、宝石みたいな彼の琥珀色の瞳を覗き込んだ。実際には目に見えないが、同じ力を持つ()()なら感じられる。当たりだった。姫女苑の息子にしては随分と力が弱い、あるいは隠しているだけなのかもしれないが、彼は間違いなく両院の血の継承者だ。孔雀の正体に気づいていない今なら――
「孔雀、そこで何をしているの」
 ――やれる、と思ったのに。
「フィオーナさまではありませんか! 探しましたよー」
 彼女に見つかってしまっては事を起こすわけにはいかない。孔雀の後ろにシオンの姿を認めると、フィオーナはぱあっと明るい笑顔を浮かべて、それまでに見たことがないくらい嬉しそうだった。
 一目見ただけで相手の何がわかるというのか。たしかに見目麗しいエーフィだけれど、彼の心には翳りがある。両院の血だけじゃない、後ろめたいことを隠しているような。孔雀たちのことだって、親の仇を討つために今の地位を利用しているような人間(ポケモン)をどうやったら信じられるというのか。お人好しも過ぎればただの莫迦だ。こんな娘が王位を継ぐなんて、この国の将来が危ぶまれる。
「それであの子に何をしていたの? 貴女を怖がっていたわ」
 シオンと別れると、フィオーナは厳しい顔つきになって再び追求してきた。彼女がいくらお人好しでもさすがに本当のことを言うわけにはいかない。
「いやー、恥ずかしながらわたしもあの子の美貌に見とれてしまいまして。もちろんご主人さまであるあなたのお相手ですから手は出しませんが」
「まだ私が受け入れられると決まったわけではないわ。こんなこと……初めてなのだから」
 軽口を糾弾されるかと思いきや、フィオーナは小さな声で不安を口にするだけだった。あれだけ大胆な告白をしておきながら、初心な乙女みたいな反応だ。彼女の生まれや育ちを考えれば、これまで恋愛経験がないのは事実らしい。
「ははあ。落ち着いているように見受けられましたが、本当はどうして良いものかわからずにあのような行動に出られたと」
「だ、黙りなさい。ヴァンジェスティの娘である私がこの程度で取り乱すわけにはいかないでしょう」
 フィオーナとて一国の王女である前に十九の少女なのだ。重圧を背負って生まれてしまった者の気持ちは孔雀にもわかる。誰も縛られたくて縛られているわけじゃない。
 だからこそ歯痒い。仇をついに見つけたこと。フィオーナの恋路。どちらも素直に喜ぶことができたなら良かったのに。心を凍てつかせた、少なくともそのように振舞っている橄欖はどうだかわからないが、少なくとも孔雀は彼女の恋が成就してほしいと願う。仇を討つことがそこまで大事なのか。
 親を殺されて黙っているなんて武士の風上にもおけない。同胞たちと誓いも立てた。だが、恩には恩を、情けには情けを以って応えるのが武士道ではなかったのか。
 否、理由を外に求めるのは間違っている。
 武士でも使用人でもない、孔雀というサーナイトの、わたし自身の心に問う。
 わたしはが本当にしたいことは何?

         ◇

「あの子に感じていた翳りの正体がわかったわ」
 学園祭が終わったあと、フィオーナは彼の素性を調べはじめた。孔雀たちにとっては願ったり叶ったりの展開だと言える。孔雀たちでは入ることすら許されない黒塔から情報を引き出せるのだから。姫女苑の事件、そのサンダースの息子がシオンであること、両親の死後、弟と共にセーラリュートに入ったこと。全ては明らかになった。
「フィオーナさまも何か思うところがお有りだったのですか」
「私が気づいていないとでも思ったの?」
 そして現在の彼について。フィオーナの口から語られたのは衝撃の事実だった。
「ケンティフォリア歓楽街の娼館に男娼として登録されていたわ。名前は違ったけれど、年齢も外見の特徴も一致しているし、間違いないわね」
「男娼? リュートの学生が、ですか」
「やはり……そのような隠し事を……」
 橄欖はあからさまに嫌悪感を示していた。もともと仇の息子で心象が悪いのだから当たり前だ。そんな橄欖の様子を見て、自分も心の靄が少し晴れた心地がしていることに気づく。シオンの不思議な魅力を認めたくない。それを否定する要素があれば、彼が悪人なら何も躊躇うことはなくなるのだ。
「学費が払えなくなっていたみたいね……彼らから理事長のリドに預けられた金額を考えると辻褄が合わないのだけれど」
 フィオーナはシオンを嫌悪するどころか、同情していた。こんなことで彼女の気持ちが変わりはしないだろうとは思っていた。ダンスパーティの夜、二匹の様子を見て誰もがあれだけお似合いの組み合わせはないと言った。彼女たちが互いに強く心惹かれ、運命を感じているのは明白だった。
「どちらにしても、知った以上は放ってはおけないわ。私なら彼を救える」
「どうなさるおつもりです?」
「ケンティフォリアで営業している娼館は全てヴァンジェスティの管理下にあるの。上の意向には逆らえないわ。もちろん手切れ金は支払うことになるけれど」
「彼の学費はどうなるのですか? まさか肩代わりされるつもりで――」
「当然よ。愛する者を助けるのにまさかも何もありますか」
 フィオーナの目に迷いはない。シオンが自分を受け入れてくれるかどうかわからないなどと不安を口にしながら、実のところ自信満々なのか。それとも、相手の気持ちに関わらず純粋にただ助けたいだけなのか。
「何も……フィオーナさまがそこまで……」
 橄欖は普段は徹底して使用人の立場を貫いていて、主人に意見などしないのだが、さすがに黙っていられなかったらしい。
「貴女にはわからないかもしれないけれど、愛に上限なんてないわ。私にできることがありながら黙って見ているなんてこと、できるわけがないでしょう」
「しかし……彼のようなポケモンになど」
「それはどういう意味かしら」
 いよいよフィオーナの言葉が怒気を孕んだ。孔雀から見ていても、橄欖の物言いはあまりにも感情的に過ぎる。
「いくら貴女でもそれ以上の侮辱は許さないわ。彼の何がそんなに気に入らないのか知らないけれど、これは私と彼の問題よ。邪魔をするというのなら今すぐここから出て行くことね」
「……立場を弁えず……出過ぎたことを申し上げました」
 事情を知らないからこそ言える厳しい言葉なのかもしれない。しかしシオンが親の仇の息子であると伝えたところで、フィオーナは何も変わりはしないだろう。彼女はシオンというエーフィを愛すると決めてしまったのだから。
「フィオーナさま。あなたのお気持ちはよくわかりますが、それでも少しやり方を考えたほうが良いかもしれませんよ」
「やり方、とは?」
 孔雀とて割り切れない気持ちがある。仇を討つために鍛え上げ、生きてきた自分を否定したくない。けれど、フィオーナの恩には応えたい。彼女の幸せを壊すようなことはしたくない。
「あまり一方的に助けるというのも、彼に気を遣わせてしまうかもしれません。もしフィオーナさまが、お気持ちの上で彼と対等でありたいと望むのなら、助けるのではなくあなた自身のために――」
 迷いながらもフィオーナのために行動している自分がいて、この気持ちに嘘はなくて、戻れなくなっている。必ず仇を討つと誓いを立てたあの頃の自分に。
「――買い取ってしまえば良いのです。男娼である彼を、男妾として」

08 


「それから何度も迷いました。彼を討つ機会は数えきれないほど訪れました。それでもわたしにはできなかった。月日を重ねるほどに、殺す理由よりも殺せない理由の方が大きくなって……」
 皆の面持ちは様々だった。かつて仇を討つ誓いを立てたとは言っても、やはりポケモンなのだ。復讐の鬼にはなれない。フィオーナとシオンはあれだけ心を凍てつかせていた橄欖も変えてしまった。命を投げ出してでもシオンを救う覚悟を持っているのだから、今となっては驚きの変化だ。
「私だってすぐには受け入れられなかったさ。今だから孔雀が正しかったと……いや、孔雀を信じて良かったと言えるよ。仇討ちをやめたって生き方はいくらでも探せるもんさ」
 語りの途中でも度々一子がフォローしてくれて、特に何か言いたそうだった紗織も孔雀の話を遮ることはしなかった。しかし、こうして一段落するとそうはいかないらしい。
「今更そんな綺麗事で納得できるわけないでしょ? だいたい孔雀、あんたみたいな冷たい奴が情けだ恩だと似合わない言葉並べて……一子、あんたもどうかしてるわ!」
「逆だよ。そんな孔雀が心動かされるほどフィオーナがいい奴だってことさ。それと……シオンの奴もな」
 このいつもは心の裡を口にしない一子の本音を聞くことができるとは思わなかった。誇りにしているポケモン達を褒められるのは嬉しいものだ。そして一子が彼らを好いていてくれているということは、フィオーナやシオンに対する評価が孔雀の個人的感情ではないと示すことにもなる。
「話にならないわ。これは立派な裏切りよ。孔雀、一子。あんたたちが両院の息子を護るというのなら、この瞬間から私たちとは敵同士ね」
 紗織の目に、孔雀たちに対する明らかな敵意の炎が灯った。やはり簡単には納得してもらえないか。
「待ちなよ紗織。それはキミ一羽の気持ちであって、ボクたち全員がそうだと決まったわけじゃない」
「鈴……あんたまで孔雀の肩を持つというの?」
「キミは今の話を聞いてもまだ仇を討ちたいと思うのかい?」
「急に何を言い出すのよ? 私達が何のために生きてきたか……あんただって誓ったでしょう?」
「誓ったよ。あのときはボクも……孔雀も、一子も、皆仇を討ちたいと思ってたさ。でもね、紗織。今のこの状況を誰が予想したっていうのさ。姫女苑は死んだ。ただその息子だからというだけで、両院の血を受け継いでいるというだけで、ボクは孔雀の大切なひとを殺したいなんて思えない」
「ふざけないで! あの誓いはそんなに安いものじゃないわ! 私達は何のためにここまで……」
「無理をするな、紗織」
 鈴と紗織のやり取りを黙って見ていた真珠が重い口を開いた。
「仇を討たねばならない、誓いは果たさねばならない、両院の血を途絶えさせねばならない――そうやって"ねばならない"だけで心を動かしていると自分のことすら見えなくなる」
「何が言いたいの? 私が無理をしてるって?」
「誰に強制されたわけでもない。親の仇を討ちたいと願ったのは我ら自身だ。お前が本当にそうしたいのなら構わない。だが、討たなければならないと考えているのなら、それは違うと私からも言わせてもらう」
「……真珠兄さんも鈴と同じだというの」
「鈴はもう少し自分のやりたいことを我慢することを覚えてほしいものだが……生き方としては見習うべきかもしれんな。特に紗織、お前にとっては」
「お。真珠がボクを褒めるなんて珍しい」
 皆が神妙な面持ちの中、鈴だけは普段と変わらないおどけた調子で笑う。
「瑪瑙と開斗はどうなのよ」
「俺にはわからないよ……でも、こんな気持ちのままじゃ仇討ちなんてできないよね」
「オレは……紗織の気持ちがわかる……姫女苑の息子……ひいては姫女苑が、悪いやつじゃなかったかもしれないなんて……認めたくないから」
 開斗はこう見えて思慮深いポケモンだ。無口な分だけ多くを観て、多くを考えているのかもしれない。
「っ……」
 紗織は言葉にならない思いを鋭い眼差しに乗せて、孔雀へと飛ばしてきた。こうなったのはお前のせいだとでも言わんばかりに。
 真珠がその紗織を制するように、孔雀に向き直った。
「孔雀。お前の話はよくわかった。我々がその紫苑を討ったところで何かを取り戻せるわけでもなく、お前と一子を……あるいはもっと大きな、自分の心の中の"何か"を失うことになるだろう。思えば我々はただ、縛られていたのかも知れんな。あの誓いという名の鎖に」
「ボクは最初から縛られるつもりもなかったけどね?」
「真珠兄さん、鈴姉さん……ありがとう、ございます」
 紗織や開斗をはじめ、他の面々はまだ自分の心を整理しきれていない。それでも真珠と鈴の二匹がわかってくれたのなら、シオンさまの身に危険が及ぶことはないだろう。
「孔雀ちゃん……黒夢のことは? まだ聞いていないよ」
 瑪瑙が気にしていた黒夢の死の真相。シオンさまの命が狙われることは防いだのだから、あとは事実を伝えれば良いだけ。怒りの矛先が自身に向けられるだけならどうということはない。
「黒夢は両院をおびき出すためにこの国と隣国で無差別の猟奇殺人事件を起こして……最後には、わたしが――」
「あいつは子供の頃から大きな力を持ちすぎたせいで完全にバカになっちまってたのさ」
 一子が割り込んでくるとは予想外だった。彼の一件に関しては孔雀がすべてを受け止めようと思っていたのに、この言いようでは一子だって恨まれかねない。瑪瑙が目を見開いて一子を見つめる。
「私らは確かに普通のポケモンよりは強いさ。だからって神に選ばれた者みたいな気分になって、この国のポケモンを舐めてかかったせいであいつはやられちまったんだよ。孔雀は瀕死の黒夢を苦しみから解放しただけさ」
「それじゃ、孔雀ちゃんは介錯したってこと……?」
「言い訳はしません。一子ちゃんも含めて、あなたたち全員を敵に回すかもしれない、その覚悟でわたしは黒夢くんを斬りました。同胞殺しの罪はわたしにあります。この場で殺されても文句は言えません」
「最後まで……変われなかったんだね。無邪気で純粋なところもあったのに、やっぱり……そう。三つ子の魂百までってことなのかな」
 一子のフォローも利いたのか、瑪瑙は意外にも孔雀を糾弾しなかった。むしろ孔雀が最期を看取ったことを喜んでいる風でもあった――なんてのは、さすがに好意的にすぎる解釈かもしれないが。
「残念だけど、今ここにあいつがいてもきっと……一緒に笑えてはいなかったと思う。話してくれてありがとう、孔雀ちゃん」
 おそらく瑪瑙だけでなく皆、黒夢に対して複雑な感情を抱いている。口にはできないだけで。仇討ちの誓い。そのずっと前から。ローラスに対し、守旧派の筆頭だった艮籐家の起こした事件が反乱の発端で。自分と愛する夫を護るために力を解放した姫女苑に罪はないのではないか。異国から流れ着いたローラスを受け入れる選択肢はなかったのか。少なくとも孔雀の両親は、周囲のローラスへの風当たりの強さには苦言を呈していた。だから、そう。直接手を下したのが姫女苑でも、本当は――
「仕方あるまい。では、そうだな。遺恨を残さぬよう、ここにもう一度約束しようではないか」
「改まってどうしたのさ、真珠?」
 ――とっくの昔に。
「あの日の誓いは姫女苑の死を以って果たされたこととする。今後は皆、己が道を歩もう。我々はまだ若いのだからな」
 孔雀たちの仇討ちは、終わっていたんだ。



天空の虹の神:2に続く


コメント 

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 更新キター!!
    今回も楽しく読ませていただきました。それぞれのキャラの個性が強くて名前も覚えやすかったです。
    その文章力羨ましいです…
    次回の更新も楽しみに待ってます。
    執筆頑張ってください! 応援してます!
    ――196 ? 2014-07-29 (火) 02:45:57
  • VS陽州・・・?
    何がともあれ頑張ってください!!
    三月兎さんの執筆を毎回楽しみにしております
    ――初めまして ? 2014-07-30 (水) 22:05:48
  • 毎度確認が遅れてしまう…
    ついに対陽州編ですかね?孔雀さんの活躍が見れるといいなぁ!
    次回更新まで全裸待機しときます
    ――ナナシの下の方 ? 2014-08-04 (月) 15:20:52
  • >196さん
    ありがとうございます!
    またたくさんキャラが増えてしまいましたけど。。。(

    >初めましてさん
    ついに全員登場させることができました(*^^)
    初コメントありがとうございます!

    >ナナシの下の方さん
    いつもありがとうございます!
    これから孔雀が(また)活躍します(*゚∀゚)
    ――三月兎 2014-08-11 (月) 05:14:28
  • 更新お疲れ様です。
    最近ラノベが溜まりすぎて読みきれていない196です。
    面白かったです。特にエリオット姉弟と孔雀さん、鈴さんとの絡みが。(個人的にエリオット姉弟は好きなキャラです)
    次回の更新も楽しみに待ってます。
    ――196 ? 2014-08-11 (月) 09:54:45
  • やっと更新日に発見できた!
    陽州組勢ぞろい、7匹で国軍より強いってとんでもねえですね
    このままの勢いで三月兎さんがこの話をかけ上げるのが先か
    私が全話読み返し終るのが先か……次回も楽しみにしてます!
    ――ナナシの下の方 ? 2014-08-11 (月) 21:31:10
  • おおー!!キタキター!!続き楽しみにしています!!
    さて…どう和解するのか…なんだか不安と、このあとの続きが気になる所です。
  • >196さん
    ありがとうございます!
    キャラクターを好きだなんて言ってもらえると自分のことみたいに嬉しいです(*^_^*)

    >ナナシの下の方さん
    まともに戦ったら勝てないですけど、邪魔されずに仇を討って逃げるだけなら(・_・;)
    ヘタな昔の文章見られるのこわい*2
    でもわざわざ読み返してもらえるなんて嬉しすぎます(;_;)
    ありがとうございます。

    >名無しさん
    終盤に入ってきたので伏線の回収をじっくり書いていきたいと思います!

    皆様コメントありがとうございました。
    ――三月兎 2014-08-29 (金) 23:21:51
  • 更新お疲れ様です
    最近昔の友達会ったのですがポケモンの話をしていると流石、ブイズオタクと言われてしまいました(苦笑)
    さて、今回も楽しく読ませていただきました。孔雀さんから見た過去の話ですね。自分はまだ二人の視点を切り替えて書くことができないのですごいと思ってしまいます。これでも小説を書き溜めているんですがね(苦笑)
    それと、一応誤字報告です。
    『今もランナベールのとこかにいるとか』のとこかにの部分なんですが、どこかにではないですか? もし違っていたならすみません。
    次回の更新も楽しみにしています! 執筆頑張ってください! 応援してます!
    ――196 ? 2014-08-31 (日) 02:41:16
  • >196さん
    毎度感想ありがとうございます!
    ご指摘も感謝します、修正しておきました(^O^)
    196さんが作品を上げられたら是非読みにいきたいと思います(*^_^*)
    ――三月兎 2014-09-20 (土) 05:32:14
お名前:

*1 この世界ではトリトドンだけでなく、サーナイト、ユキメノコ、ムウマージなど服を着た人間をモチーフにしたポケモンは東西で洋服風、和服風とフォルムが変わることになっています。いまさらですが(
*2 *3
*3 ;゚Д゚

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Last-modified: 2014-09-20 (土) 04:55:55
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