「さて…どうしましょうか……。」
リーは何か考えています。
と、どこからか小さな音が聞こえてきました。
「ん…?」
「あ、いや…その……。」
イヴは何やら慌てていました。
リーは何かに気が付いたようです。
「はは…お昼にしましょうか。」
「うぅ……はい…。」
イヴは耳を垂らして小さく頷きました。
小さな音はイヴのお腹の音だったみたいです。
二人は実のなる木のある場所へ向かいました。
ここにはズリやナナシ、ノメルの木がたくさん生えていました。
「ここは私の家から一番近い果樹の集まりなんです。」
「すごい…。」
イヴはしばらく上を見上げていました。
それもそのはず。木には多くの花が咲き誇り、うっすらと甘い香りが漂っていたからです。
「ほっ…。」
リーは近くの木にスルスルと登り、幾つかの実をもぎ取ります。
途中、はっとしたように下にいたイヴに声を掛けました。
「イヴさん、嫌いな味ってありますか?」
「えっ…と、『すっぱい』のはあんまり……。」
「おっと…そうするとズリぐらいしかありませんね……。」
リーは独り言のように呟き、木から飛び降りてイヴに言いました。
「すいませんイヴさん…、もう少し歩いてもらって良いですか?」
「え?…はい、構いませんけど……。」
「ここだと酸っぱいのが多いのでもう少し先まで行きますね。」
「えっ、そんな気を使わなくても……。」
イヴは驚いて首を振りました。
リーに気を使わせるのが悪いという思いがあったからです。
「いえいえ、どうせなら好きな物を食べたいじゃないですか。…私も久しぶりに苦いのが食べたいのでちょうど良いと思いまして。」
「まぁ…そうですね。」
イヴはしぶしぶ納得したようです。
「あれ?リー?」
「あっ、ミミ?」
イヴとリーが歩いていると、前からミミロップが歩いてきました。
ミミロップはリーを見つけると声を掛けてきました。
「久しぶりー。戻ってたんだ。」
「今帰って来たんですよ。」
「そっか。飯は?」
「あー…今からですけど。」
「ふーん。ま、こっちは食べたけど。」
「ははっ。なら何で聞いたんですか。」
どうやらリーと『ミミ』と呼ばれたミミロップは知り合いのようです。
二人が話し合っていると、ミミの足元に何かがぶつかりました。
「ふみゅー……。」
「ん?この子誰?」
イヴはフラフラとした足取りでウロウロとしていました。
ミミはイヴを抱え上げ、頭を優しくポンポンと叩きます。
「この子『こんらん』してるよ?」
「えっ?」
ミミは辺りを見回して、落ちていた食べかけの『イアの実』を拾いました。
リーは暇を持て余したイヴが落ちていたイアのみを食べてしまったのだとすぐに理解したようです。
「コレみたいだね。」
「『キーのみ』ってどこにありましたっけ…」
「あ、ちょうど持ってるよ。」
ミミは持っていた小さいカゴを漁り、『キーのみ』を取り出しました。
「悪いけどそれ食べさせてあげてくれませんか?」
「ん?当ったり前じゃん。そんなに意地悪くないよー?」
ミミはイヴに小さく分けたキーのみを食べさせながら笑っていました。
「いえいえ、そういうわけではなくて……。」
「アハハ、わかってるよ。冗談冗談。」
「………。」
リーは心なしかミミを睨んでいるようでしたが、ミミは気がついていません。
キーのみを食べ終えたイヴはしばらくぼーっとしていましたが、はっとして辺りを見回しました。
「あれ…?」
「イヴさん、大丈夫ですか?」
「えっ…あ、リーさん。あの…私……?」
イヴはキョロキョロと辺りを見回しました。
「混乱していたんですよ。 そちらのミミロップさんが助けてくれたんです。」
「大したことはしてないよー。イヴ…くん?よろしくね。」
ミミはイヴの頭を撫でます。
イヴは少しむっとしたような表情をしていました。
「ミミ、イヴさんは女の子ですよ。」
「えっ?本当?」
「はい…。」
「…ごめん!」
少し不機嫌になったイヴを見て、ミミは「助けて」と言いたげにリーを見ます。
リーはそれに気がつくとイヴとミミの間に割って入りました。
「まあまあ、お腹が空いてるとイライラしてしまいますから。何か食べましょうよ。」
「あっ、それならほら。これとか美味しいよ!」
ミミが慌てて取り出したのは『ゴスのみ』でした。
イヴは初めて見たようで、少し興味があるようでした。
イヴはミミから受けとったゴスのみを少し食べると甘いのにどこかほろ苦い、不思議な味がしました。
「……美味しい…。」
「本当?良かったー…。」
イヴは気に入ったようで一口、また一口と食べていきました。
ミミはそれを見て安心したようです。
「そういえばリー、なんでこの子と一緒なの?」
「あー…それはですね……。」
リーは簡単に今までのいきさつを話しました。
「へぇ…。ならイヴちゃんはココに住むの?」
「えっ…?あっ…うーん……。」
「住まなくてもとりあえず何か当てが付くまでは居たほうが良いかな、と……。」
「うーん…それは良いと思うけど……リーの所で?」
「そのつもりですけど……。」
ミミはため息をついてリーの肩に腕を回しました。
そのままイヴから少し離れた所まで歩いてから言いました。
「リー、自分が男って事わかってる?」
「? 当たり前じゃないですか。」
「じゃあ…イヴちゃんは女の子なんだよね?」
「そうですよ?」
「………あのさ、変な噂たつよ?」
リーはミミの言いたい事がわかったらしく、急に顔をしかめました。
「私ってそんな人に見えますかね…。というか幼過ぎません?」
「いやいや、そういうわけじゃないけどさ、女の子って噂好きだから。それに、リーって人気あるのにそういう女の子には興味なさそうだから…ね?」
「それは……困りますね…。」
「まあその時は僕のトコでも良いけどさ…一応同性だし。」
「ミミもなんとも言えませんけど…。」
ミミが「だろうね。」と笑ってイヴの方に向き直ると、イヴはまだ何か考えていました。
リーはイヴに声を掛けて、また果樹の木まで歩きだしました。
イヴは二人に駆け寄ってこう言いました。
「あの、私…しばらくここに居たいです……居させてください。」
リーは「そのつもりですよ」と言い、ミミはイヴを抱き抱えて言いました。
「ま、そういう話もとりあえず食べてからしようよ。僕も着いてくからさ。」
「ですね。」
「あの…ミミさん…?私、歩けますよ…?」
「でも、また何か危ない実食べちゃうでしょー?」
「そ…それは……。」
イヴはさっきの事を思い出したのか、顔を赤くして俯きました。
「人が悪いですよミミ…。皆一度はなってしまいますから仕方ないんですよ。気にする必要はありません。」
「…はい……。」
「そういうのもちゃんと教えてあげるよ。ね、リー。」
「まぁ…まだ旅をするなら必須ですしね。」
そんなことを話しながら三人は森の奥へと歩いて行きました。
三人は木の陰に座って、ここの森のルールや、きのみの効用などについて話し合っていました。
「…これぐらいかな?覚えられた?」
「いえ…まだあまり……。」
「そっか。ま、多いから仕方ないけどね。」
「でも、きのみの知識はたくさん知ってたんですね。」
「それは…お父さんが……。」
と、イヴの言葉が途切れました。
最後にイビを『お父さん』と呼んだのが遠い昔のように思えたのです。。
「……お父さん…。」
小さく零れた言葉は、とても悲しそうな響きをしていました。
いくら我慢していても、イヴはまだ子供です。親だったイビの元を離れるのは本当は辛かったのでしょう。
リーは静かにイヴの背中をさすりました。
ミミも何故か悲しそうな顔をしていました。
「っ…。すいません…私……。」
「それくらい構いませんよ…。
ほら、ミミまで暗い顔しないでくださいよ。」
「ごめん。僕もちょっと思い出しちゃった。」
イヴは気持ちを切り替えようと頭を振り、
ミミはスッと立ち上がってお尻の土を払い落としました。
リーはそれを確認すると、明るい声を出して言いました。
「さ、リーダーに会いに行きましょうか。」
「だね。」
「……はい!」
三人は食べ終わったきのみの種やヘタなどを地面に埋めて立ち上がりました。
三人はこれから『四季森の主』に会いに行くようです。
「ニドさん、居ますか?」
リーは洞窟の壁を叩き、声を掛けます。
洞窟の中で音が響き渡り、やがて静かになると今度は足音が響いてきました。
イヴが目を凝らすと、奥から誰かが歩いてくるのが見えます。
「お?リーか!戻って来たのか?」
「ええ、今日のお昼頃には。」
紫色の体をした、大きな人でした。
「ん…?おっと、見かけない顔だな。ミミ、このお嬢ちゃんは?」
「この子はイヴちゃん。あんまり詳しい事は聞いてないけど、しばらくこの森に居たいって子。」
「はー、なるほどな。」
「こ、こんにちは…。」
ニドは腰を下ろし、イヴを見ました。
イヴは少し緊張したように頭を下げました。
「えーと…この人がニドキングのニドさん。僕達のリーダー。」
「一応な、一応。」
ニドは少し面倒そうに付け足すと、イヴに向き直ります。
「さ、お嬢ちゃん。いくつか確認したいが良いか?」
「はい……?」
「あぁ、驚かなくて良い。大したことじゃあない。」
「まず、お嬢ちゃんはどこから来た?曖昧で良いから教えてくれ。」
「…ずっと北の、雪山からです。」
「……テンソウ山か。」
それを聞いたリーは、驚いたような顔をしました。
イヴはそれに気がつかなかったようです。
「次は…そうだな。ここに来た理由は?」
「それは……。」
イヴは黙り込みました。
あの時の事をどうやって説明すれば良いのかわからなかったからです。
「進化のため、とかじゃないのか?」
ニドはそう言いました。
《お前は自分の可能性を無駄にしちゃいけない。
遠くに行って、自分の可能性を広げるんだ。》
「…それも、一つの理由かも知れません。
だけど、私があそこを離れたのは…お父さんが、私達を守るためにそう言ったんです。」
ニドとミミは何を言っているのかわからないと言いたげな顔をしていました。
リーだけは意味がわかったようで、二人に話し始めました。
「テンソウ山…あそこは治安が悪いんです。
たぶん、イヴさんのお父さんは、イヴさん達を守るために…それと、彼女達の進化のためにあの山から出させた……違いますか?」
「いえ…合ってます。」
二人は納得したように頷きましたが、ミミがふと言いました。
「でも、さっきからイヴちゃん『達』って言ってるけど…他に誰か居るの?」
「おお、だからか。俺も何か変だと思ったんだ。」
イヴとリーは、はっとして付け足しました。
「イヴさんの弟さん…か、妹さんがいるんです。
まだタマゴなのでどちらかはわかりませんが…。」
「今は…リーさんの家で待たせてます。」
二人はタマゴにお留守番をさせて来たのです。
「…なるほど。事情はわかった。
しばらくここに居な。もう少しすると冬になるから…少なくとも、冬が終わるまでな。なんならそのまま住めば良いしな。」
「…ありがとうございます!」
「オイオイ…、元々『ダメだ』なんて言うつもりは無いぞ?
言っただろ?ただ『確認』したかっただけだ。」
ニドは言い終えてため息をつくと、洞窟の壁に寄り掛かりました。
「そういえばお嬢ちゃん。この森の『ルール』は聞いてるか?」
「はい、リーさんとミミさんから聞きました。」
「…で、イヴちゃんはどこに住ませるのか決めてるの?
まさかそのままリーの所に居るわけにもいかないでしょ?」
ミミがニドに言いました。
「んー、とりあえずお前の所はダメだろうから……
ローラさんの所にまだ住める茂みがあるはずだし、そこにしようと思ってるんだが…ほら、あそこにはルゥも居るからな。」
「なんだ…しっかり考えてるんだね。」
「これでも一応『リーダー』だしな。やれる事はやるさ。」
「やれる事をしっかりやるから私達の『リーダー』なんですよ、ニドさん。」
と、リーは何故か洞窟の外を見つめました。
彼は急にスッと立ち上がり、外に出るとこう言いました。
「皆さん、隠れていないで来たらどうですか?」
イヴは首を傾げて外に出ると、木の陰からたくさんの人が出てきました。
パチリス・エモンガ・ブイゼル・フローゼル・ペラップ・モンメン・ソーナノ……皆、イヴを見ていました。
「イーブイかぁ…。」
「女の子…かな……。」
「可愛い人だね…。」
「…そうだな。」
「どこに住むんだろう…?」
「本当だったんだ…。さすがナノ。」
「今回はたまたま見かけただけなんだけどね。」
皆口々に話し合っていました。
イヴはどうして良いのかわからず、七人を見回しています。
と、モンメンがイヴを見て言いました。
「えっと、初めまして。僕はコットって言います。種族はモンメンです。」
「あ…は、初めまして。私はイヴです。えっと…イーブイです。」
そのやりとりを見た残りの六人は、順番に挨拶をしました。
「初めまして!私はパチリスのパチです!」
「エモンガのモモン…です…。」
「私はブイゼルのロゼ。こっちは私の兄さんの…」
「フローゼルのフロウだ。よろしく。」
「ペラップのペラです。私にもお兄ちゃんがいるよー。」
「僕はナノ。物知りソーナノって呼ばれてるよ。」
それからイヴは皆からの質問攻めにあいました。
住んでいた場所やここに来た理由はもちろん、好きな木のみや何に進化したいか、などなど。
イヴはその質問にひとつひとつ丁寧に答えていきました。
七人はイヴが答える度にそれぞれの反応を示し、また新しい質問をします。
イヴのその顔は、とても楽しそうにしていました。
「友達作るの早いねー……。」
「子供なんてそんなもんだろ。
俺んとこのチビもいつの間にか輪の中心に居たぜ?」
「それはニドさんの血を引いてますから、ニドさんに似たのでしょう。」
洞窟の入り口に立っている三人も、穏やかに笑っていました。
「じゃ、後は頼んで良いか?」
「はい。もちろんです。」
「僕もそろそろ行って良いよね?」
「ええ、助かりましたよ。ミミ。」
そう言葉を交わすとニドは洞窟の奥に、ミミは森の中に帰っていきました。
(しばらくは声をかけられませんね……。)
リーは心の中でそう呟き、まだ楽しそうに話しているイヴ達を見守っていました。
「…この辺りがイヴさんの住む場所ですね。」
「あ、ここなら私の住んでる湖と近いよ!」
「本当?なら、遊びに行っても良い?」
「とーぜん!いつでも来て良いよ。
じゃあ…ここからは道が違うからお別れだね。」
「またね!ロゼちゃん!」
ロゼは手を、イヴは尻尾を振って別れました。
ロゼの姿が見えなくなると、イヴは後ろを振り返りました。
リーの後ろで、コロトックの男性とハハコモリの女性がこちらを見ています。
コロトックがリーに聞きました。
「リーさん、新しく来た子ですか?」
「そうですよ。しばらくこの森にいる事になってます。」
「初めまして!」
イヴは二人に頭を下げました。
コロトックとハハコモリは顔を見合わせ、微笑みました。
「初めまして、イーブイちゃん。」
「困った事があったら私達に何でも言ってね?」
「…ありがとうございます!」
「礼儀正しいのね。」とハハコモリは頭を撫で、コロトックはハハコモリの後ろで、「そろそろ帰るぞ。」と言いました。
二人はイヴとリーに別れを告げると、イヴが来た方向に帰っていきました。
「じゃあ、行きますよ。」
「あっ、はい。」
リーは隣に並んで歩いているイヴの顔が笑顔になっているのに気が付きました。
(イヴさんはうまくやっていけそうですね…。)
リーは少し安心したのか小さく息をつき、前を向きました。
「ローラさん、いらっしゃいますか?」
リーはニドの時と同じように、洞窟の壁を叩いて声を掛けました。
が、今回は何も反応がありませんでした。
「困りましたね…。」
「何が困ったんだい?」
二人の後ろから、急に声が聞こえました。
イヴは驚いてリーの後ろに隠れます。
リーも驚いたようで、呼吸が乱れていました。
「ロ、ローラさん…驚かせないでくださいよ……。」
「あっはっは!ごめんねリー君。
まさかリー君まで驚くなんて思わなくてね。」
リー目の前にいたのはガルーラのおばさんでした。
ガルーラはまだ愉快そうに笑っていました。
「えーっと?この子がイヴちゃんだね?」
「…情報早いですね。」
「噂なんてそんなもんさ。
驚かせて悪かったね、イヴちゃん。」
「い、いえ…。」
イヴはまだ少し恐がっているようです。
と、ローラと呼ばれたガルーラのお腹で何かがもぞもぞと動いているのに気がつきました。
「あれ……?」
「ん?あぁ、ルゥ。出てきなさい。」
「……………。」
ローラのお腹の袋から顔を覗かせたのは、小さなガルーラの子供でした。
が、その小さなガルーラ――ルゥはイヴを見るとすぐに顔を袋の中に隠しました。
「まったく、この子の人見知りはどうにかならないのかねえ…。」
「大丈夫ですよ。ルゥちゃんも大きくなればしっかりしますって。」
「だと良いね。で、リー君が来たって事はココに住むのかい?」
「はい。ニドさんが『まだどこかの茂みが空いてるはずだから』と。」
「あぁ、確か湖の近くにまだあったね。」
「イヴさんの『きょうだい』もいるのでそれなりに広いと助かるのですが…。」
「だからタマゴを持ってるのんだね。わかった。確か場所は…………」
リーとローラが話し合っている間、イヴはじっとローラの袋を見ていました。
ルゥは袋の中から少し顔を覗かせてはすぐに隠れ、何やら恥ずかしそうにしています。
と、話を終えたローラがお腹の袋からルゥを抱き抱えてイヴの前に立たせました。
ルゥはローラとイヴを交互に見て、小さな声で言いました。
「……こんにちは…。」
「初めまして、ルゥちゃん。」
イヴは笑顔で返すと、ルゥははにかんだように笑い返してくれました。
「じゃ、これからイヴちゃんの新しい住家に行くよ。」
「ローラさん、ありがとうございます!」
「いやいや、アタシじゃなくてリー君とニドさんにお礼を言いなよ。」
ローラはリーを見て言いました。
「私だって別にお礼を言われるような事はしてませんよ。」
「まったく。これだから」と、けれどローラは楽しそうに言いました。
「リー君、あんたもこのまま来るよね?」
「ええ、もちろん。」
「ルゥもイヴちゃんとついてきな。」
「…うん。」
四人はイヴの住家まで歩き出しました。
「よっと…。」
ローラは背の高い草をかき分け、大きな茂みの前で足を止めます。
イヴとルゥはローラの踏み締めた草の上を通っていました。
「ほら、イヴちゃん。ここがあんたの新しい家だよ。」
「ここ…?」
目の前の茂みを見て、イヴは首を傾げます。
イヴの知っている『家』と違っていたからです。
「近くにいると危ないよ?」
「ルゥさん、イヴさん。こっちですよ。」
「?」
イヴとルゥはリーの後ろに隠れました。
けれど、イヴは少しだけ顔を出して見ています。
「ふぅ…やっ!!」
ローラは『ひみつのちから』を使い、茂みに手を翳しました。
パキッ…と小さな音がしたかと思うと、次々に茂みの中の枝が折れ始めました。
音が止むと、残った茂みの外側に蔦が絡み付きました。
「……はー…。」
「お疲れ様です、ローラさん。」
「んー、アタシもまだ若いつもりだったんだけどねえ……やっぱり疲れるよ。」
「ローラさんはまだまだお若いですよ。」
「ははっ…世辞言ったって何も出ないよ?
さ、イヴちゃん。あとは中の枝を掃除しておしまいだよ。アタシ達も手伝うからパッパと終わらせちゃいな。」
イヴは、はっとして「はい」と頷きました。
日が沈かけ、半月が空に昇り始めています。
イヴ達は、彼女の新しい家で食事をしていました。
そこには木のみだけでなく、野草が並べられています。
「ん…おいしい、です。」
「ほらね、美味しいからルゥも好き嫌いしないで食べな。」
「……嫌だ。」
「そんなこと言ってたらちっちゃいまんまだよ?」
ルゥは頬を膨らませました。
ローラはそれに気がついていないのか、別な話をしました。
「しっかし、リーさんも遠慮しなくてよかったのにねえ…。ま、ありゃ遠慮というより恥ずかしかったのかね。」
「恥ずかしい?」
「リー君ぐらい若いと、周りが女の子ばっかりになるのに抵抗があるのさ。」
ローラは懐かしそうに呟きました。
イヴは少し考えると、不思議そうに言いました。
「でも、ミミさんの時はそんなことありませんでしたよ?」
「ミミさん?あぁ、ミミロップのあの子かい?」
「はい。」
「…リー君とミミちゃんは小さい頃から一緒だったらしいからね。そういうのは無いんじゃない?」
「そうだったんですか?」
「アタシも詳しくは知らないけどね。ここに来た時も一緒だったよ。」
「そうなんだ……。」
イヴはローラが食べられると教えてくれた植物の芽をかじりました。
木のみとは違った美味しさを感じます。
「……美味しくない…。」
ルゥは顔をしかめて言いましたが、さっきまでルゥの前にあった野草はしっかり食べられていました。
「ルゥちゃんスゴイ!私は酸っぱいのが嫌いで食べられないのに……。」
「ホント?」
「本当だよー。」
ルゥは嬉しそうに笑いました。
たしかにイヴの前にある酸っぱい木のみにはほとんど手がついていません。
イヴは「私も頑張る」と、ノメルの先を少しだけかじります。
が、すぐにイヴの顔がすっぱそうに歪み、近くにあったモモンを半分ほど口に含みました。
それを見ていたローラは大きく口を開けて笑いました。
「嫌い、って言いながら一番酸っぱいのを食べるなんて面白いねえ。
ナナシの方があんまり酸っぱくないからこっちを食べな。」
「は…はい。」
イヴはナナシを受け取ってかじると、やっぱり嫌そうな顔をしましたが、それでも少しずつ食べ始めました。
ルゥはそれをじっと見て、「頑張って」と応援します。
「うん、偉い偉い。二人とも嫌いなのは仕方ないけど、何でも食べれるようにはなってないとね。
いつも自分が好きな食べ物があるとは限らないんだよ?」
二人が頷くと、ローラは笑って二人の頭を撫でました。
「さっ、アタシ達はそろそろ帰るかね。」
「えー…。私もっとイヴちゃんと居たい!」
「ダーメ。お母さん明日は用事があるんだから。」
「ローラさんが忙しいから仕方ないよ。でも、また一緒に遊ぼうね?ルゥちゃん。」
「…うん……。」
ローラは「行くよ」とルゥを抱き上げお腹の袋に入れると、言いました。
「じゃ、またね。イヴちゃん。
さっきも言ったけど、この辺りは一応アタシがリーダーだから何かあったら言ってね。」
「はい。ローラさん、ありがとうございました!
ルゥちゃん、また遊ぼうね!」
「…うん。」
道を歩く頼りになるのは太陽から月明かりになって、どこからか歌が聴こえてきます。
「トックさんの声だね。」
「トックさん?」
「コロトックの男の人さ。たまにああやって歌ってるんだよ。」
イヴは昼間にあったコロトックの男の人を思い出しました。
たしかに、この綺麗な声はあの声と似ています。
「ま、もう少し大きくなったら聴きに行ってみたら良いんじゃないかい?
今はまだ一人は危ないから行かない方が良いよ?」
「……はい。」
ローラはイヴの返事を確認すると、自分の家へと歩きだしました。
イヴはその背中を見ていましたが、すぐに背の高い草と暗闇の中に紛れて見えなくなりました。
「お母さん、かぁ…。」
自分の、一度も会ったことのない『お母さん』のことを考えます。
どんな進化をしたのか、どんな性格だったのか…。
けれど、イヴには想像が出来ませんでした。イヴにとっての親はイビだけだったからです。
「寝ようかな……。」
イヴは振り返り、月明かりを反射しているタマゴに寄り添いました。
「おやすみ…。」
タマゴにそう言葉を掛けると、イヴの意識はゆっくりと沈んでいきました。
「んーっ…はぁ。」
イヴは体を伸ばすと頭を振って目を覚ましました。
太陽はまだ顔を出したばかりです。
「そっか、もう歩く必要無いんだ。」
イヴはそう言うと、タマゴに話し掛けました。
「おはよう。お姉ちゃん、ちょっと出かけてくるね。」
もちろんタマゴは返事をしません。
けれど、イヴは「いってらっしゃい」と言われている気がしました。
外に出るとまだ薄暗く、辺りはしんとしています。それに、薄く靄もかかっていました。
喉の渇きを感じていたイヴは、ローラに教えてもらった湖に向かいました。
「ん…何人かいるみたい……。」
靄のせいで誰かはわかりませんが、広い湖には四つの人影がありました。
イヴはしばらくその人影を眺めていました。
一人は湖に浸かっていて、まだ星が見える空を見ていました。
もう二人は岸に座って何やら楽しそうに話し合っているように見えます。
残りの一人はイヴと同じように水を飲みに来たようで、水面から口を離すとすぐに近くの木に登って行ってしまいました。
「そういえば…ロゼちゃんってここの近くに住んでるんだったっけ……。」
イヴは少し辺りを見回しましたが、それらしい家は見つかりませんでした。
イヴも体を屈めて水を飲んでいると、こちらに近づいてくる足音がします。
イヴは水面から口を離し、サッと後ろを振り返りました。
「おっと…驚かせてしましたか?」
「リーさん?」
イヴの後ろにいたのは少し眠そうな目をしたリーでした。
「イヴさん、朝早いんですね。」
「リーさんは眠そうですよ?」
クスリとイヴが笑うと、リーは照れたように後ろ頭を掻きました。
「ハハ…さすがに疲れが溜まってたみたいです。
でも、イヴさんが元気なんですからそんなことは言ってられませんね。」
「少し失礼しますね」と言ってリーは湖から水を掬い、顔を洗います。
すると、リーは昨日と変わらないしっかりとした顔つきになりました。
「……これで戻りました?」
「はい、昨日までのリーさんみたいです。」
リーはそれを聞いて「そうですか。」と苦笑いをすると、「では、また。」と言って森の中に帰っていきました。
昨日ロゼと遊ぶ約束はしましたが、時間が早過ぎると思い、イヴも一度家に戻ることにしました。
「どこにあるかな……。」
帰り道、辺りを歩きまわりながらイヴはそう呟きました。
帰り道に朝ご飯の野草を幾つか摘んで帰ろうと思ったからです。
イヴはすぐに食べられる野草を見つけ、ひとつひとつ摘み始めました。
「んっ…と。ちょっと多かったかな……。」
家に帰ったイヴはくわえていたハルジオンと呼ばれる花の蕾をタマゴの傍に置きました。
タマゴにそっと触れると、中で何か動いているような気がします。
「……頑張って。」
イヴはそう呟くと外を見ました。
日は昇り始め、外は明るくなっています。
「イーヴーちゃん!」
「?」
外から明るい声が聴こえてきました。
イヴは外に出て、声の聴こえた方をキョロキョロと見回します。
「ここ、ここ!」
「あっ、ペラちゃん!」
「おはよー♪」
「おはよう!」
ペラが木の上で両羽を振っていました。
ペラの隣にもう一人、ペラより少し大きなペラップがいました。
二人はイヴの前まで降りると、ペラが言いました。
「この子が昨日来たイヴちゃん。…で、こっちが私のお兄ちゃんのパロ。」
「よろしくお願いします!」
「よろしく。」
イヴには兄妹の二人が同じくらいの歳に見えました。
「パロさんって…本当にお兄さんなんですか……?」
「ん、そうだけど。まぁ、兄妹っても僕達はまた特殊なんだよ。」
「産まれた時間が殆ど一緒だったんだって。」
「へー…。」
「詳しいことはわからないけどね。」と、ペラは言いました。
「私達も一緒だったらなぁ……。」
「それは仕方ないよー。
でも、早く出てきてほしいよね。」
「うん!」
イヴは家の中のタマゴを見ました。
イビの言っていた時期はまだ先ですが、それでもイヴは自分の『きょうだい』がいると感じていました。
「ペラ、寄り道はもう良いか?」
「あ、うん!ありがとうお兄ちゃん!
じゃあ、またね。イヴちゃん。」
「うん。じゃあね。」
イヴは二人を見送ると、日が高くなっているのに気がつきました。
「…そろそろ行こう。」
家に戻り、採ってきた花の蕾を食べたイヴはロゼと約束した湖を目指して歩きだしました。
「ロゼちゃーん?」
イヴは今朝来た湖の前にいました。
朝にかかっていた靄は晴れ、遠い向こう岸まで見えます。
「どこにいるんだろう……?」
イヴは湖を回ってみる事にしました。
「綺麗な人……。」
イヴのかなり前の方に、とても綺麗なキュウコンがいました。
キュウコンは水を飲み終えると顔を上げ、振り返る時にたまたまイヴと目が合いました。
イヴは軽く頭を下げましたが、キュウコンは何も見えなかったかのように去って行きました。
「……?」
キュウコンが全く反応をしてくれなかった事にイヴは首を傾げます。
そうしていると、近くから声がしました。
「イヴちゃん?」
「あ、ロゼちゃん!」
「首なんかひねってどうしたの?」
「…よくわかんない。」
イヴが言うと、ロゼも首を傾げます。
「…………。」
「…………。」
二人はしばらくお互いを見ていましたが、どちらからともなく笑いだしました。
何がおかしいのか二人にもわかりませんが、何故か笑ってしまいます。
「ふふっ…イヴちゃん面白いねー。」
「そんなことないよー。」
「んーん、面白いって。」
しばらくは笑いながらそんな話をしていましたが、落ち着くとロゼはこんな事を言いました。
「そうだ!イヴちゃん、
「えっ?」
「ほら、シャワーズに進化したら泳げるけど、それ以外だと水の中って見れないでしょ?」
ロゼの提案は、イヴにとってとても素敵なものでした。
『水中の世界を見る。』
それはイヴが今まで考えたこともなかったからです。
イヴは嬉しそうに「良いの?」と聞くと、ロゼは胸を張って「もちろん!」と答えます。
イヴはロゼに言われて湖に入ると、冷たい水が染み込むのを感じました。
「ひゃあっ…冷たいね。」
「まだこれからどんどん冷たくなるんだよー?
冬になると氷が張るぐらいなんだから!」
イヴは氷の張った湖を想像してブルッと震えました。
「そんなに冷たい水に入ってるの?」
「慣れれば全然冷たくないんだよ?」
ロゼは「慣れるまでが大変だけどね。」と笑って付け足します。
イヴは『シャワーズになった時は、私も慣れなきゃいけないんだ』と考えました。
「じゃ、ここでちょっと練習しよ?」
「練習?」
「ほら、私と潜っても水の中で目を開けなきゃ見れないでしょ?」
「あっ、そっか。 …でも、どうやって?」
「どう…って……普通に顔を水に浸けたまま目を開ければ良いの。」
イヴは息を止め、言われた通りに水の中で目を開きました。
目がひんやりとして、痛くはないけれど変な感じがしました。
「ぷはっ……ロゼちゃん、目が変な感じがするよぉ…。」
「擦らないでまばたきした方が良いよ?」
イヴはまばたきを繰り返し、ようやく目の中の違和感がなくなるという頃にロゼが言いました。
「繰り返してると『変な感じ』はしなくなるよ?私もそうだったから。」
「…うん。」
イヴはまた水に顔を浸け始めました。
顔を上げてはまばたきをし、また水に顔を浸け……いつしかイヴは、水の中でも普通に目を開けられるようになっていました。
「もう大丈夫?」
「うん!」
「よし!じゃあ私に掴まって?」
イヴはしゃがんだロゼに背負われました。
ロゼはイヴをしっかりと掴み、少し歩くと言いました。
「私が潜ってる間に息が苦しくなったら……抓ったりして良いから教えてね?」
「ロゼちゃんは抓られないよー。」
「でも私が気付かないと危ないもん。じゃあ、潜るから息を止めててね?」
「あっ、うん。」
イヴは前を見ると、湖が急に深くなっているのがわかりました。
それに、いつの間にかロゼが胸の辺りまで水に浸かっています。
「それじゃ…いくよー。」
「………。」
イヴは息を止め、ロゼと湖の中に沈んで行きました。
ロゼに掴まって水に潜ったイヴは、水の上から見えなかった水中の様子がだんだんわかってきました。
崖のような所に生えた豊富な水草や、優雅に泳ぐたくさんの人が行きかっていてとても賑やかです。
そしてイヴは、自分達が注目されているのにも気がつきました。
水草からチョンチーやパールル・ラブカスなどたくさんの人が顔を覗かせています。
そこまで見てイヴは少し息が苦しく感じ、ロゼの頬をツンツンと突きます。
するとロゼは急に泳ぐ向きを横に変え、壁にある穴……水草が多く絡み合っている円形の入口に入り、すぐ上の水面から顔を出しました。
「ぷはっ……けほっ。」
「ふうっ…イヴちゃん、大丈夫?」
「う、うん。たぶん大丈夫……。」
イヴは身体を振るい、水気と絡まった水草を飛ばします。
ロゼは「ちょっと待ってて、すぐ戻るね」と言い、またチャポンと水に潜って行ってしまいました。
イヴは辺りを見回します。
水のある方は太陽の光が届いていて明るいですが、奥は暗くて何も見えません。
しばらくすると、水のある方がさらに明るくなってきました。
「お待たせ!」
ロゼと一緒に来たのは、ついさっきイヴ達を見ていたチョンチーでした。
そのチョンチーの触角の先が光り、この洞窟の中を照らしていました。
チョンチーはロゼが水から上がったのを見て言いました。
「ここに連れてくるのは良いけどさ…外の子は危ないからあんまりしないほうが良いよ?
息が続かなかったら本当に笑い事じゃなくなるんだから。」
「そんなにカタイとモテないよー?」
ロゼはクスクスと笑いながら言うと、チョンチーの男の子はため息をついて言いました。
「俺は別にモテなくても良いっての。
それより結構真面目に話してるんだけど?」
「でも、だからこういう横穴を皆で作ったんでしょ?」
「……とりあえず、もう次からは連れて来るなよ?
本当に危ないんだから。」
ロゼは「はーい」とつまらなそうに返事をしました。
イヴは自分がここに来た事を怒られたようでしょんぼりしています。
それに気付いたチョンチーは慌てて言いました。
「あ…い、いや!君を責めてるワケじゃないよ!?
た、ただ溺れるかもしれないからもうちょっと考えてほしいなって。」
「ごめんなさい……。」
「あ、謝らないでいいよ!別に君が悪い事をしたんじゃないんだからさ!」
二人のやりとりを見てロゼはクスリと笑います。
「ランって本当に私以外の女の子は苦手よね。」
「う、うるさい。そもそもお前が考えなかったのがいけないんだろ…。」
「私だって考えたわよー?
イヴちゃんがもしシャワーズになったらここに住むかもしれないじゃない?」
「もしそうなってもこの子の子供はイーブイなんだから陸じゃないと生きられないだろ……。」
「あ……。」
チョンチーはやれやれと頭を振り、イヴに言いました。
「で、さっきロゼが言った『イヴちゃん』ってのが君だよね?」
「えっ?あ、はい。」
「そっか、わかった。…初めまして。俺は『ラン』って言うんだ。 母さんがこの湖のリーダーをやってる。」
「リーダーなのはステラさんでランじゃないけどね。」
「なんだその俺がリーダー面してるみたいな言い方。」
ランはロゼを睨みましたが、ロゼは「違うの?」と冗談めかして言いました。
イヴがそれを見て笑うと、ランは恥ずかしかったのか水中に顔を隠しました。
「ラン、イヴちゃんと『あそこ』に行きたいんだけどついて来てくれない?」
「えー…。」
「良いじゃない。用事とか無いんでしょ?」
「まぁなー…。……オッケー。お前だけだとイヴちゃんが危なさそうだしな。」
「やったね。」
ランはそう言うと水からあがり、触角を光らせたまま洞窟の奥に進んで行きます。
ロゼはイヴに「行こうよ」と呼びかけます。
イヴは頷き、ロゼと並んで洞窟の奥へと進んで行きました。
「また水に入るけど…大丈夫?」
「…はい。大丈夫だと思います。」
「…やっぱり、敬語使われるとすごく違和感があるから止めてくれ……。」
「ほらね、ランなんかに敬語はいらないって。」
「お前は遠慮なさすぎてイラッとくるけどな。」
ランはそう言いましたが、その顔は笑っていました。
イヴもつられて笑うと、ロゼは不満そうに口を尖らせます。
「何よー、私だけ差別するの?」
「…別に差別じゃねえだろ。」
ランの顔は苦笑いに変わり、足を止めました。
ランの前にはまた水溜まりがあります。
「こっちは俺らの遊び場。息が続かなくなると困るからちょっと待っててな。」
そう言ってランは自分だけ水に潜って行きました。
イヴはランが何をしに行ったのかをロゼに聞きましたが、ロゼも首を傾げました。
「…わかんない。何しに言ったんだろうね?
とりあえず座らない?私ちょっと疲れちゃった。」
「さっき私が掴まってたからかな?」
「うーん……私よく今みたいに友達をここに連れて来てるからそうじゃないと思うけど…。」
二人は水溜まりの淵に座り込みます。
「ただの運動不足かも。もっと泳がないと太っちゃう。」
「ロゼちゃんは痩せてるよー。」
二人はクスクスと笑い、そんな会話をしていました。
「体型なんてどうでもいいだろ…。」
「私もそう思うよ。でも、女の子らしくて良いじゃないか。」
近くに戻って来ていたランは、自分が連れてきた人とそう話しました。
二人はそのまま水から顔を出すと、ロゼとイヴは驚いたような声をあげました。
「おっと、悪かった。」
「ラン何すんのよ…って、スター?」
「おう。ランに呼ばれたんだ。」
「何でも俺のせいにすんなっての。」
イヴはスターと呼ばれた人を見ました。
顔……のような所に赤い宝石があり、ランの光を受けて輝いていました。
「ん?その子は?」
「あっ…、初めまして。イヴって言います。」
「イヴちゃんね、わかった。私はスター。そんな不思議そうに見なくてもちゃんと生きてるよ。」
「ご、ごめんなさい…。」
「まぁ初めてスターミーを見たなら無理もないさ。ランは私を人間の造ったオブジェだと思ってたしな。」
スターはハハハと笑い、ランの頭に手を乗せます。
ランは「昔の話だろ…」と、顔を水の中に隠れてしまいました。
「さっ、私が手助けするから行こうか。ロゼ、イヴちゃんを背負って。」
「ん、はーい。イヴちゃん、行こ。」
「うん!」
イヴがロゼに掴まって水に入ると、イヴの顔のが大きな気泡に包まれました。
「これで水の中でも溺れないだろう?」
「すっごい!スター、そんな事出来たの!?」
「いやいや、進化したからさ。前のままじゃ出来なかったよ。
それに、これを考えたのはランさ。」
「ラン、すごいじゃない!」
「別に…出来るかって聞いただけだよ。」
ランはそっぽを向いて言います。ランが照れているとわかったスターは笑いました。
「はっはっは。やっぱり君達といると面白いな。な?イヴちゃん。」
「えっ?……はい!」
言葉の裏を考えず、イヴはいたって純粋に、二人といる事が面白いと感じて返事をしました。
二人を見てランは大きなため息をつき、洞窟の外に泳いで行ってしまいました。
「あっ…。」
「おや、少しからかい過ぎたかな?」
「でも、別に怒ってなんかないとは思うよ?」
三人はいたってノンビリと洞窟の出口に向かって泳ぎました。
後から登場させようとしたキャラ(スター)を出してしまいました…orz
早めにページ作らないとごちゃごちゃしそうですね。
ちなみに、途中に出てきたキュウコンはアイリだったりします。
感想、意見、批判などがあればコメントに…。
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