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前途多難かもしれない行き倒れな出会い

/前途多難かもしれない行き倒れな出会い

空蝉

通販彼女」のまさかの続編……相変わらずヘタレな主人公に刺激を与えようとして某バカップルを絡ませてみたんですが、ただの不発に終わりました。
ほんのりBL要素あり。






 寒い……寒気がする。ものすごく。
 寝袋の中で毛布にくるまってても、歯の根が合わなくてガチガチ言ってる。
「まる子……寒いよ、あっためて」
 俺の枕元でオロオロしてるダルマッカに暖を頼むと、すぐに熱い手が毛布の中に入ってきて体をさすってくれる。残念だな……もう少し細身のコだったら一緒に添い寝してもらえたのに。そんなアホなことを意識朦朧としながら考えて。
「うえ……吐く」
 さすがにテントの中で嘔吐すると後がヤバいので、死にそうになりながら這いずり出て、木の根元で上げてしまった。
「まる子、水……」
 聞こえるかどうかの声にも、まる子はちゃんと反応して、水筒の水を不器用な手つきで持ってきてくれた。
 その場で口をすすいで、また這いずり戻る。
 寒い。頭がガンガンする。もう駄目かもしれない。
「あれ」
 どういうわけか、頭の下に草の感触。俺はテントの前で倒れたらしい。
「毛布……寒い」
 もう何を言ってるのか判らなかった。
 まる子が慌てて毛布を持ってきてくれる。あったかい体でぎゅうぅっと抱きしめてくれる。
 ああ、やっぱりまる子はあったかいなぁ……
「死ぬ……母ちゃん……」
 死に際に母を呼ぶってのはホントらしい。
 まる子がボロボロ泣いてる。ゴメンな、せっかく俺なんかに付いてきてくれたのに、こんな所で倒れちゃうなんてな……
 意識が途切れる寸前に見たのは、満天の星空と、まる子のまんまるな両目だった。








 ふわふわ。
 あったかい……なんだここ。天国?
 それにしては、何だか騒がしいな。
「ん、起きたかな」
 男の人の声。ゆっくりと目を開けようとするが、目がしばしばしてうまく開かない。
「良かったねぇ、ダルマッカ。ご主人お目覚めみたいだよ」
 そんな言葉のすぐ後に、何かずっしりとした熱い塊が布団の上に乗ってきた。
「こらこら、まだ駄目だよ。そっとね」
 塊がずれて腹の上が軽くなる。
「まる子……」
 おそらくその塊であろう名を呼ぼうとしたが、辛うじて出たのは、自分の声じゃないみたいなイガイガの声だった。
 それと同時に、目がだんだんと開いてくる。ぼやけた視界に、まる子の大きなまんまるな目と、結構イケメンな白衣のお兄さんと、それから初めて見る何だか怖そうな緑色のポケモンが映った。
「あの……ここは?」
 病院、かな。どうやら俺は助けられたらしい。
「うちの研究所だよ。君、森で倒れてたんだって? このダルマッカが必死に助けを求めて走り回ってくれたんだよ。主人思いのポケモンに感謝しなきゃね」
「あなたが助けてくれたんですか?」
「いや、僕じゃない。このジュカインだよ。君を抱えて駆け込んできたから、僕はてっきり新しい彼氏でも拾ってきたのかと……いてっ」
 お兄さんのセリフの最後は、うしろのポケモンにどつかれて途切れた。何なんだ、この人。
「あの……先生?」
「ああ、僕お医者さんじゃないから、先生ってやめてね」
「先生だろうが」
 うわ、いきなり喋った。ジュカイン……だっけ。喋れるポケモンって初めて見た。
「うーん、まあそう呼ばれる事もあるけど、まだ独立したてだからねぇ、なんか照れ臭いよ。ああ、自己紹介してなかったね。僕はヒロ。一応ポケモンの研究者だ。それからこれが僕のパートナーのジュカイン。名前はブリッジだよ」
「あ、よろしくお願いします。ユウキって言います。この子はダルマッカのまる子。助けていただいて、ありがとうございました」
 寝たままぺこりと頭を下げると、まる子も同じように頭を下げる。それを楽しそうに眺めて、ヒロ……先生は、まる子の頭をぺたぺたと撫でた。
「ダルマッカかぁ、かーわいいなぁ! この辺では珍しいね、君遠くから来たの?」
「ええ、まあ……」
「それで路銀が尽きて体力消耗してる所を、何か変な病原菌にやられたって訳か。ははは」
 ……うっ、その通り。って、笑うなそこで。
「若いって良いね、そんな無謀さも若者の特権さ。でも、体は大事にしなきゃね。君が寝てる間、可哀想なぐらいオロオロしてたよ、まる子ちゃん」
 先生の言葉に、はっとして目の前のまる子を見る。まる子は俺の枕元にちょこんと座って、目をうるうるさせていた。
「まる子……ごめんな」
 抱きしめようとしたけど、片腕に点滴が繋がってて動かなかったから、残った片手だけでまる子を撫でた。まんまるなラインを撫でているうちに、助かったんだなあとか、馬鹿なことしたなあとか、幸せだなあとか、いろんな感情が溢れてきた。
「ホント、ごめんな」
 まる子がふるふると首を振りながら、手を握り返してくれる。優しい、暖かさだった。
「うんうん、良いねえ、羨ましいねえ。気に入ったよ、君、しばらくうちに居なさい」
「えっ?」
「何ッ?」
 先生の思いつきのようなセリフに驚きの声を上げたのは、俺と、先生のブリッジだった。
「どうせお金ないんだろ? うちも立ち上げたばっかりでスタッフ居ないしさ、元気になったらここで働いてよ。給料はちょっとしか出せないけどね、ははっ」
「おい、ヒロ」
「いいじゃん、この寒空に放り出すわけいかないだろ」
 先生の言葉に、ブリッジはむっと黙り込む。ただでさえ怖そうな顔なのに、何だか近寄りづらい……先生とは随分性格もノリも違うようだけど、でもきっと、信頼しあってはいるんだろうな。
「まあ、今すぐにって訳じゃないから。考えといて」
 そう言って、先生はブリッジを伴って部屋から出て行った。
 まる子は不思議そうに首を傾げている。どうしたもんかな……でもお金が無いのは事実だし。先生も変な人だけど悪い人じゃないみたいだし。それにポケモン研究者の側に居たらいろんな知識が拾えるかもしれない。
 修行は少し滞るかもしれないけど、悪い話じゃ無さそうだ。








 夕方、町のお医者さんが往診に来てくれて、とりあえず大丈夫と診断してくれた。
 そっか、この治療代も先生が立て替えてくれてるんだ。やっぱ働いて返さなきゃ。




 夕食に軽く木の実のジュースを貰って少し体力も回復したようだ。起き上がってみても頭痛は来なかった。数日ぶりに歩くような気がする。
「トイレ、どこかな……」
 暗い廊下をひたひた歩く。勝手にドアを開けまくったら失礼だし、かといって先生がどこにいるのかも判らない。
 階段を降りたところで、明かりの漏れている部屋を見つけた。


 そっと覗いてみると、やっぱり先生とブリッジが居た。こちらに背を向けたソファに並んで座ってる。なんか変な光景だな、ポケモンが人間と同じようにソファに座ってるって。……と、自分とまる子で同じ状況を想像してみた。ソファに仲良く並んでる人間とダルマッカ、やっぱり変だよな。ジュカインは体格的にも人間に近いからそんな事ができるのかもしれない。


「まる子ちゃん、可愛かったなぁ。あの子喋れないんだね、声もほとんど出せないみたいだ。お前とも喋ってないんだろ?」
「……ああ」
 先生とブリッジがまる子の話をしてるらしい。悪い事とは思ったけど、気になって聞き耳を立てた。
「感情リーダーの研究、再開してみよっかなぁ」
「ヒロ」
 ブリッジの少し苛ついたような声が先生の言葉を遮る。何なんだ? カンジョーリーダーって。
 先生は少しの間黙っていた。
「判ってるって。ミンのこととは別。ただ研究しようかなって思っただけ」
「……ほんとか?」
 ミン? 誰だろ。先生のポケモンかな。
「ほんと」
「……嘘つくな。お前あいつ撫でててちょっとおかしかったぞ」
「意地悪だな、ブリッジ」
 先生の声の調子が、少し変わった。何か、硬い……冷たい声。
 ブリッジが大袈裟な溜息をつくのが聞こえた。
「やっぱりあいつら、追い出そう」
「ブリッジ」
「炎の奴と一緒に居て、お前正気でいられるか? 熱いぞ? あったかいぞ? お前は……」
「ブリッジ!」
 きつい声にびくっとした。なんか、やばそう。ここは退散するほうがいいのかな。
「もういい。言うな、それ以上」
「すまん、俺はお前が心配で……」
「ああ、判ってる、わかってる……けど。駄目だ、ごめん、あいつの暖かさ、思い出しちまって……」
 先生の声が震えてる。ひょっとして、泣いてるのか?
 って、えええぇッ!? ───今、ブリッジ、先生にキスした!?

「ブリッジ、よせ」
「生憎俺は冷血だがな」
「ん……っ、誰もそんな事言ってな、ッ」
「泣いて良い、ヒロ。思い出して悲しいのは……まだ悲しんでていい時期って事だ。忘れなくていい、我慢しなくていい。泣きたきゃ泣けばいい」
「あ、うっ」
「俺が守ってやる。側に居てやるから」
「なんでそんなに……甘やかす、ッあぁ」
「……知るか」








 鼻息荒く部屋に戻った。
 途中奇跡的にトイレを見つけ、しかし尿意もどっかスッ飛んでなんだか(ryな状態だったが無事に用も足せた。


 先生とブリッジ……そんな関係だったとは。
 途中から、ブリッジが先生を押し倒しちゃったみたいで、ソファの背に隠れて見えなかったけど、あれは確かにヤってる気配だった。
 男同士……なのかな? ブリッジの性別って判らないままだけど、それにしてもポケモンと人間とが……その、セックスってやつ、できるなんて。
 ああ、でも。まる子もそう言えば、そんな目的のポケモンだったな、と久々に彼女が来た経緯を思い出した。
 ラブポケモン。そんな名前で俺のところに来た。
 ひょっとしたら、俺の所に来る前に、そんなことも経験してるのかもしれないけど……。

 もし、俺がソノ気になったら……まる子を、ええと、押し倒して、ヤっちゃうんだろうか。

 眠っているまる子に、そっと触ってみる。
 ダルマッカだから当たり前なんだけど、まる子は……起き上がったままゆらゆらして眠ってる。押しても引いても倒れてくれそうにない。
 ……無理だろ、これじゃ。
 がっくりうなだれる。前もこんな場面があったような気がするな。

 しかし大体どうやってダルマッカとヤればいいんだ? どこに入れるんだ? それらしいトコ見当たんないし。
 つーか、こんなつんつるてんの体で、どこからウンコしてんだろ?
 可愛いしっぽみたいな出っ張りの下を、床に這いつくばって覗いてみる。って、俺は変態か!?


 いや、もういい。寝よう。眠れそうにはないけど。
 ああ……せめてまる子が普通に横になって眠ってくれるポケモンだったら、添い寝ぐらいしてもらえただろうに……がっくり。








「おはようっ! ユウキくん。よく眠れた?」
 いえ、全然。朝日が眩しいです。
 先生はゆうべの事がまるで夢だったかのようにケロっとして、軽いノリで話しかけてくる。
「今日からおかゆぐらいは食べられるかな。吐き気ない?」
「え、はい。大丈夫です」
「じゃ、待ってて」
 そう言って出て行った先生と入れ違いに、ブリッジがお椀を持って入ってきた。
「ほれ、喰え」
 ぶっきらぼうに言った相手はまる子だった。まる子は床に置かれたポケモンフーズにさっそくがっつき始める。
 見てる方が満腹になりそうなほど幸せそうに食べているまる子を、ブリッジはしゃがんだまま眺めている。
 そういえば、ブリッジゆうべ「追い出す」とか「炎の奴と一緒に」とか、言ってたっけ。何か訳有りなんだろうけど……何考えてんのかな。うーん、怖そうなのは相変わらずだ。
 そのブリッジが、そっとまる子に手を伸ばした。一瞬、何するんだ、と思ったけど、その手は驚くほど優しくまる子の頭を撫でてくれた。
 まる子が顔を上げて満面の笑みをブリッジに見せる。
「……」
 小さくブリッジが何か呟いたが、俺には聞き取れなかった。まる子も不思議そうな顔をしている。
 そのままブリッジは立ち上がって、何も言わずに部屋を出てしまった。何だか、寂しそうな背中だった。




 それからしばらくして、先生がお粥の朝食を持ってきてくれた。
「えっとね、ユウキくん。昨日の今日で申し訳ないんだけど、うちで働くっての、ちょっと無理っぽいんだ。ええと、財政難ってか。あはは。でね、うちの実家、農場なんだけど、そっちで人手が欲しいらしいんで、悪いけどそれ頼まれてくんないかなぁ」
 しどろもどろで言う台詞は、とっても苦しそうだ。先生、嘘が下手だな。
 でも、やっぱりゆうべの会話は本当だったんだ。たぶん、俺たち───いや、まる子が、ここに居ちゃいけないんだ。
「もちろん良いですよ。ご実家のお手伝いさせて下さい。俺の方こそ行き倒れの上に仕事まで紹介してもらって、申し訳ないです」
 俺が快諾したので、先生はホッとしたような顔をした。その後ろに、いつの間に来たのかブリッジも立っていて、苦笑いしてる。
 まあ、良かったよ。俺にしても、毎晩あんなの見せつけられちゃ、気になって眠ってらんないし。いつかまる子だって気付くだろう、そうなったらやっぱりお互い気まずいだろうし。うん、これでいいんだ。お払い箱万歳だ。




 ……と、終わり良ければ全て良し、と喜んだのも束の間。
 俺が農場へ行けるまで体力が回復するまでの数日間、実にいろんな事で思い悩む羽目になるとは。
 やっぱりくせ者だ、あの先生。





結局何も進展しとらんです。反省……
いや、ダルマッカを口実に久々バカップルを書きたくなっただけです。すみませんorz

空蝉



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    ――空蝉 2011-01-31 (月) 03:11:24
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Last-modified: 2011-01-30 (日) 00:00:00
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