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ロケット団のゆううつ 上

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ロケット団のゆううつ 

作者:COM

 年に一度、たった数ヶ月の間だけ世界を熱狂させる瞬間が訪れる。

 "ポケモンチャンピオンシップトーナメントリーグ"__

 チャンピオンリーグと言えばいつも開催されているポケモンリーグとは打って変わり、誰にとっても憧れの的であり、誰もが目指す夢の舞台。
 チャンピオンの座を揺るがす最強のポケモントレーナーは新たに現れるのか。
 それとも現最強のポケモントレーナーの名を欲しいままにするチャンピオンの防衛となるのか……。

 『挑め!! 次のチャンピオンは君だ!!』

 両腕を組み、どっしりと構えて待つ現チャンピオンとその相棒であるポケモン、そしてまだ見ぬチャレンジャー達とパートナーであるポケモン達がチャンピオン目掛けて飛び込むような熱いデザインのポスターが張られており、キャッチフレーズと共にチャンピオンリーグの開催を告知している。
 街は誰もが浮足立っており、あちらこちらにチャンピオンリーグのシーズンが到来したことを知らせるのぼりや垂れ幕、風船に時期限定の出店等が次々と設置されてゆく。
 チャンピオンリーグは何もポケモントレーナー達だけを賑わせるような行事ではない。
 地方全体がまるで新たなる王を出迎える時を刻一刻と待つ宮殿の前のように、抑えきれぬ喧騒で満たされるのだ。
 少年少女は未来のポケモンマスターを目指して共に腕を磨きあい、大人は叶わなかった夢をその舞台に立つ者達に馳せているのか、はたまたただその雄姿を応援しているのか、スタジアムへ足を運んだり中継を見つめたりと老若男女問わず楽しんでいる。
 母親の手を引いてスタジアムへの道を急いていた少年は結局走り出さない母親に痺れを切らしたのか、一人だけ道を走って行き、それに合わせて少年のパートナーであろうポケモンも跳ねるようにその後を追っていき、母親は嬉しそうに微笑みながらその後姿を眺めている。
 そんな街一番の大通りを一人、まるで街の喧騒から身を隠すように逆の方向へと歩いていく青年の姿があった。
 スラリと背が高く痩せ型で、少しよれたワイシャツとズボンを身に付けており、纏まりも無く雑草のように伸び散らかした黒い長髪が特徴的だが、それよりももっと特徴的だったのはそのお祭り状態の街の雰囲気に似ても似つかない疲れ切った表情だろう。
 青年特有の若々しさを感じさせるオーラは微塵もなく、への字に曲がった口角はまるでそんな浮かれた姿を恨めしいとでも言わんばかりに隠すことなく表現している。
 ズボンのポケットに軽く手を入れて前屈み気味に歩く姿は、世間に疲れた中年の男性のようにも見えてしまう。

「馬鹿馬鹿しい……」

 誰に言うでもなく吐き捨てられた言葉は空に消え、祭りの雰囲気に溶けていったが、彼の纏う負のオーラだけはそんな楽しげな空気でも中和することが出来ない。
 道の両端にある店に人々が集まる中、青年は道の真ん中を無感情に歩いてゆく。
 お祭りの楽しげな雰囲気も薄れた工場地帯までやってくると彼はそのままその建物の一室へと消えていった。
 そこはポケモン関連の道具を製造、梱包し全国へと配送する工場だ。
 そこが彼のバイト先であり、彼の日常の風景でもある。

「おはようございます」
「あらおはようユウイチ君。ごめんねぇ急に出てもらっちゃって」

 ユウイチと呼ばれたその青年の挨拶に返したのは同じくその会社で働く中年の女性。
 所謂パートのおばちゃんなのだが、例に漏れずその女性も手をニャースのように空を掻いて膝を叩き、ユウイチに笑顔と申し訳ないという謝罪の意思が混ざり合って見える表情で話し掛けた。

「別にいいっすよ。家で寝てただけなんで」

 自らの作業着を手に取り、そのまま更衣室へと移動しながら言葉を返す。
 その日は本来、ユウイチは休みだった。
 出勤するはずだった学生の一人がチャンピオンリーグの観戦チケットに当選したとかで、ほぼドタキャンに近い形での欠勤連絡が入り、代わりに出勤できる者がいないかと電話を掛けられ、今に至るというわけだ。
 どちらかと言えば元からなのだが、別に休日出勤になった事が不機嫌でこんな若々しさの無い表情をしているわけではなく、チケット如きで仕事をドタキャンした奴にはそれなりに憤りは感じてはいるが、それも原因ではない。
 寧ろ彼が不機嫌な理由はそう言ったところにあるわけではなく、

「あら、だめじゃない! あなた位の歳だったら私の息子と同じぐらいなんだから! ちゃんとチャンピオンリーグの様子を見ておかなきゃ! 何処から次のチャンピオンが生まれるか分からないでしょ?」

 世間の常識という名の偏見で向けられる、その言葉に嫌気が差していた。

「だから、前にも言ったじゃないっすか。俺はポケモントレーナーにはならないって」

 深い溜め息を吐き、バリバリと音が聞こえそうなほど、目に見えて苛立っている素振りを見せながらユウイチは言葉を返した。
 その度に向けられる小さな奇異の目が、ユウイチは心底嫌だった。
 十二歳にでもなれば、大抵の少年少女はポケモントレーナーを目指して旅に出る。
 そして二十歳になる頃に自分がそのままポケモントレーナーになるのか、はたまた別の仕事に就くのかが決まるのが一般的。
 齢十八の彼はそんな一般常識よりもとても早い段階でポケモントレーナーを辞めて、町外れの工場で働いている。
 いや、それどころか彼は生まれてから一度もポケモンバトルをした事が無かった。
 工場の制服でもある作業着に着替え終わると鞄と元々着ていた服を自らのロッカーに投げ込み、さっさと休憩室を出て自分の仕事を始める。
 仕事を始めると言っても、やることは製造ラインの異常点検と梱包物の最終チェック程度。
 非常に高度な機械化の進んだこの世界ではロボットアームが商品の製造から梱包、出荷先まで自動で切り分けてくれる。
 当然給料も安いが、ユウイチにはこの仕事以外に選択肢は無かった。
 他の仕事は大抵の場合、ポケモンを必要とすることが殆どだ。
 人間の良きパートナーであり、この世界の一端を担う存在であるポケモンは、既に世界とは切っても切り離せない存在である。
 煌々と燃え盛るポケモンならば火を噴いて湯を沸かしたり金属の鋳造を手伝ったりすることができ、水棲のポケモンならば漁の手伝いや火事の現場で活躍することができ、たっぷりと陽の光を浴びて青い葉と栄養を蓄えたポケモンならば他の植物の育成を行ったり、強靭な鞭で高所へ重い物を送ることもできる。
 当然それだけではない。
 引っ越し業者ならば怪力を持つポケモンが必要になり、郵便屋をするなら空を飛べるポケモンか走りの速いポケモンが必須になり、清掃業ですら奇麗好きのポケモンや毒物を検知、無力化できるようなポケモンが必要になる。
 さもなくばユウイチのように人間でなければできない確認作業か、精密部品の製造業のような少しの埃も舞ってはならないような専門職しか道はない。
 当然彼は専門職に就くために勉学に励んでいたわけでもなく、手持ちのポケモンなど持っていないため選択肢は初めからユウイチには存在しない。
 ただ毎日何の起伏もない人生を歩み、毎日皮肉にもポケモンともその道具とも一生関わらないであろう人生を送る彼が流れる荷物を見つめ続ける。
 だがそれでユウイチは半ば諦めも入っていたかもしれないが、一応は満足していた。

「あらユウイチちゃんお疲れ様」
「お、お疲れ様です……」

 昼休憩の時間になり、休憩室へと戻ってきたユウイチの視線の先にはこの工場の工場長の奥さんである女性がおり、ニコニコとキマワリのような笑顔を見せている。
 そんな姿を見てユウイチは一瞬笑顔がひきつった。

「お仕事いつもお疲れ様。あなたもたまちゃん撫でる?」
「遠慮しておきます」

 その理由は工場長の奥さんの化粧が驚くほど派手だからではなく、その人が好意を持っている男性の前でだけ態度を変える嫌味な性格の人間だからでもなく、その膝の上に居るたまちゃんと呼ばれた一匹のふてぶてしい表情のポケモンが原因だった。
 表情こそユウイチ同様不満そうな顔をしているが、工場長の奥さんに頭を撫でられてゴロゴロと喉を鳴らしている様子から見ても、そのブニャットは随分と上機嫌のようだ。
 今まで一切表情の無かったユウイチは、先程までとうって変わってひきつった笑顔を見せたまま、壁に沿って進んでゆき、鞄を手に取って休憩室をサッと出ていった。

「ホントにあの人は……一応休憩室もポケモン禁止だろうに……!」

 連絡通路に腰を置き、ブツブツと愚痴を漏らしたユウイチは暫くそこで休憩していた。
 彼がポケモントレーナーにならなかった理由、それはこんな世界で大のポケモン嫌いだからだ。
 虫ポケモンが苦手な人や、犬型のポケモンが苦手という特定の特徴を持つポケモンが苦手という人は間々存在するが、ポケモンそのものが苦手なのはユウイチぐらいだろう。
 だからこそユウイチにとってその工場はとても働きやすい職場であり、ポケモンの事を一切考えなくていい場所なのだが、残念ながら稀に工場長の奥さんがたまちゃんことブニャットを撫でさせるために連れて来ることがある。
 工場内で生産されている道具には虫よけスプレーのようなポケモンの嫌がる品もあるため、余計な混乱を防ぐための措置だ。
 本人的にはポケモン自慢と癒しの提供を兼ね備えているつもりなのだろうが、ユウイチからすればいい迷惑でしかない。
 相手がパートのおばちゃんならば一言文句も言えるだろうが、相手は工場長の奥さん。
 たまちゃんがやって来た時は、いつも生産ラインと休憩室の間にある連絡通路まで逃げてきてここで休憩するのだが……その日だけは避けておくべきだったかもしれない。
 そうすれば彼の日常は少々変わるだけで済んだだろう。

「な、なんだ!? 地震か?」

 突然の轟音と共に地響きが鳴り、建物全体が音を立てて揺れ動く。
 ぐわりぐわりと地面がうねるような感覚からユウイチは思わずそう口にしながら立ち上がって周囲を見渡したが、どうにも様子がおかしい。
 一度大きな衝撃の波が訪れたかと思うと急に静まり、もう一度強い衝撃が来たかと思うと後ろからいきなり重い物でガツンと殴られたような衝撃を受けた。

「痛っつ……! 何が起こったんだ?」

 次にユウイチが目を覚ましたのはけたたましいサイレンの音が鳴り響く中だった。
 どうも気を失っていたらしく、後頭部に走った痛みで徐に手で押さえたが、かなり時間も経っているらしく手には少々血が付いた程度で傷口も塞がっている。
 痛む身体を引き起こして周囲を確認すると爆撃でも受けたかのようにあちこちが崩れており、元の通路らしさは形も残っていない。
 そんな中で彼が軽傷で済んだのは奇跡としか言いようがないだろう。
 偶々太い柱に背中を預けていたおかげで衝撃で吹き飛ばされた破片が当たっただけで済んだらしい。
 とはいえ無事でもないため体中が痛みを発して動くなと警鐘を鳴らしているが、幸い歩くのにはあまり支障も無いため急いで休憩室へと向かった。

「皆さん!! 大丈夫ですか!?」

 非常事態であるにも拘らず、ユウイチが真っ先にとった行動は休憩室にいるであろう他の従業員達の安否の確認だった。
 休憩室の扉は崩れ落ちていたため少々心配だったが、どうやら中の様子を見る限り無事に逃げ出せているようだ。
 工場の倒壊が起きたのが休憩時間だったことが幸いし、他の従業員もここに集まっていたため後はユウイチを残すのみだろう。

『そうだ、鞄!』

 心労が無くなったこともあってかユウイチは冷静さを取り戻したが、それでも真っ先に行ったのは自分の私服と鞄を回収することだった。
 いつ崩れるかも分からない状況でさっさと逃げればいいものを、一人暮らしに安い手取りが故に手持ちの少々の金すら無くなると困るため急いで財布を取りに行く。
 ロッカーも横倒しになっている程度で特に問題なく開けられたため、鞄と服を回収してそのまま休憩室を出ようとしたが、ユウイチの視界の端に見慣れない物が移り込んだことで歩みを止めた。

「なんだあれ? ポケモンか?」

 休憩室にある長椅子の上に薄汚れたピンク色らしき物体が落ちている。
 その物体は粉塵に巻き込まれたのか薄く灰色になっているが、同様にあちこちに赤い斑点が出来ていたため服や荷物の類ではないことが判断できた。

「いやもう勘弁してくれよ……。何のためのポケモン禁止だよ! しかもどう見ても怪我してるのに置いてくのかよ! パートナーじゃねーのかよ! それじゃパートナー∋(笑)じゃねーか!!」

 一人虚空に向かって怒涛のつっこみを入れていくが、当然その言葉を聞いている者はいない。
 更に付け加えるなら突っ込みを入れながら避難しているのならよかったのだが、ポケモン嫌いを自負しておきながらその場からは一歩たりとも移動していない。
 他にもまだ色々と言いたい言葉や思いがあったのだろうが、それらは全て言葉としては発せられず、深い溜め息と頭を掻こうとして痛みが走った事で止めた行動に全て集約された。
 手で触りたくはないがかといって自分の私服で包みたくもないユウイチは、わざわざ服を着替えて作業着でその怪我をしたポケモンを包み上げ、一緒に避難しようと考えたのだ。
 嫌ならば放っておけばいいものをそうはせず、しかし自身の考えとは裏腹にまるで磁力でも発生しているかのように作業着を持った手と反対方向へ引っ張られるように全力で体を反らしながらそのポケモンを包み込む。

「頼むから暴れてくれるなよ……?」

 そう小声で言ってからそのポケモンを持ち上げ、出口を目指して歩いてゆく。
 休憩室を出て左に曲がり、階段を一つ下れば従業員用の出入り口があるはずなのだが、代わりにユウイチを出迎えたのは天井が崩落して完全に道が塞がれた通路だった。
 仕事以外に一切興味のなかったユウイチはその工場の構造など知る由もなく、そこ以外の出口が存在するのかさえ知らない。
 今居る場所が二階のため、窓から飛び降りるのも一つの手だが、今の万全ではない状態のユウイチでは下手をすれば軽傷から重症になってしまう。
 その上手元には正体不明の誰かのよく知らない怪我をしたポケモン。

「大人しく救助が来るのを待つしかないか……」

 そう考えて窓際の通路で腰を下ろして救助が来るのを待つことにしたが、そこで手元のポケモンの様子を窺う。
 作業着の中で小さく丸まったままのポケモンは未だピクリとも動かない。
 流石にまずいのではと考え、恐る恐るそのポケモンに手を伸ばし、震える指先でそっと直に触れた。
 繊細な柔毛が生え揃うそのポケモンの触り心地は高級なタオルを思わせるほどで、思わず表情が変わってしまう程心地良く、それと同時に自身と同じぐらいの温度が保たれている事も感じ取れた。
 一先ず生きてはいるようだが、呼吸をしているのか今はどんな容体なのかも把握できてない以上、まだ安心は出来ない。
 そのまま指先だけを添わせて口元へと滑らせて行くと、指先に風が当たる感覚がしたため呼吸に関しても問題なさそうだ。
 しかし問題はその出血だろう。
 傷そのものは小さそうだが出血の方は治まっていないのか、作業着にうっすらと赤い汚れが移るほどだ。
 このまま放置し続ければ間違いなく命を落とすことになるだろう。

「確か……今日の出荷商品の中にきずぐすりがあったよな? ……いや、非常事態だ。使ってもバレんだろ」

 少々罪悪感に後ろ髪を引かれたが、使い物にならなくなった商品と一匹の命ならば天秤に掛けるまでもないだろうと判断し、また工場内へと戻っていった。
 崩れた天井や飛散した荷物がその衝撃がどれほどの規模だったかを物語っている。
 しかしどういうわけだか地震によってそれだけの倒壊が起こっているにも拘らず、黒煙は何処にも立ち昇っておらず消火装置が正常に作動したのか火の手も今の所見ていない。
 その不自然さに多少の違和感を覚えながらもユウイチは荷物の中からきずぐすりを取り出し、裏面の使い方を熟読してからそのポケモンに噴射口を向ける。
 霧状になった薬剤がポケモンの傷口に触れるとみるみるうちに傷が塞がってゆき、あっという間にあったはずの傷は元通り消え去った。

「なんだこれ!? 俺の傷にも使えりゃ万能なのになぁ……」

 目を見開くほどの傷の修復能力を目の当たりにし、使用用途がポケモンに限られている事を愚痴りながらも何本か消費してそのポケモンの傷を全て癒した。
 その間、当然ながらひっくり返したり怪我が残っていないか隅々まで調べたわけだが、気絶していればぬいぐるみ同然だからか、その頃には直接触ることも特に何とも思わなくなっていたようだ。
 すっかり傷も治ったのだが、未だ目を覚ます様子が無くユウイチは少々ホッとしていたが、このままならこのポケモンが目を覚ますのも時間の問題だろう。
 最悪の場合パニックに陥る心配もあったため、瓦礫まみれで危険な状態の工場内ではなく廊下の方へと戻ることにしたのだが、彼にポケモントレーナーとしての知識がほんの少しでもあればそこにあなぬけのひもが無いか探すこともできただろう。
 どんな場所からでも入ってきた場所まで戻れる優れ物なのだが、そうとは知らずに一人と一匹で静かに救助を待っていた。
 周囲のサイレンの音もけたたましく鳴り始めていたため、もう助かるのも時間の問題だろう。

「ミュ……」
「ひっ、遂に目を覚ました……!」

 手元にいたポケモンから猫のような鳴き声が聞こえ、ユウイチは戦慄したが、モゾモゾと手元で動いているポケモンも大怪我をしていた以上放り出さないように倫理観と本能が鬩ぎ合い、熱した鉄の棒でも持たされているかのような苦悶の表情を浮かべながら顔だけを必死に離す。
 しかしそのポケモンはそんな必死の抵抗を見せるユウイチの考えとは裏腹に身体を伸ばし、必死に顔を逸らすユウイチの身体へと昇ってくる。
 遂には耐え切れなくなり、手を放り出して遠くへ転げるように逃げ出したが、振り返るとそこには当然のように宙に浮かぶそのポケモンの姿があった。

「ひっ! どうなってんだお前!? どうやって飛んでるんだよ!?」

 文字通りモンスターでも見たかのような怯え方をしながらユウイチはそのポケモンを指差しながら叫ぶ。
 猫のような小柄な身体にサファイアのような美しい青の瞳、そして体よりも長い尻尾を持つそのピンク色のポケモンは怯えるユウイチを見て小首を傾げながら小さく猫のような声で鳴く。
 ゆっくりと近寄ってくる様子のそのポケモンから必死に逃げようとユウイチは立ち上がろうとしたが、どうやら先程飛び退いた反動で折角止まっていた頭部の怪我がまた開いてしまったようだ。
 流血とパニックとで訳が分からなくなり、思考が追いつかなくなった果てにユウイチはその場に気を失ってしまった。

「ミュ!」

 急に倒れて動かなくなったため、そのポケモンはユウイチの傍へ一気に近寄って様子を窺うが、当然何の反応もない。
 今度はユウイチがこのまま放置されれば危険な状態となったが、そのポケモンではどうすることもできないだろう。
 そう思われた次の瞬間、そのポケモンの青い瞳がより一層青く輝きを放ち、その光が身体の輪郭を包んでゆく。
 するとその光は周囲の物質にまで干渉してゆき、次々と青い光に包まれた状態となり、最後にはユウイチの身体をも包み込んだ。
 光に包まれた物質が全て宙へと浮かび上がり、そのポケモンの周囲に引き寄せられて同じように宙で完全に静止する。
 そして青い光に包まれていた瓦礫が窓へ弾丸のような速度で動き出して叩き割ると、ユウイチとそのポケモンだけがその穴を通って外へとこれまた弾丸のような速度で滑り出した。




 次にユウイチが目を覚ましたのは見知らぬ屋内のベッドの上だった。
 周囲を見渡しても白一色、自分の私服も見慣れない服に着替えさせられており、そこが病室だと気付くのには少々時間を要した。

「なんで俺、病院にいるんだ?」
「あ、目を覚ましたようですねユウイチさん」

 状況が呑み込めずにユウイチが独り言を零した時、丁度ジョーイさんが病室の扉を開けて入ってきた。
 どうやらユウイチはポケモンセンターの前で倒れていたらしく、出血が確認できたためすぐに病室へと運び込まれたようだ。

「全身の軽い打撲と頭部の怪我ですが、どれも幸い軽傷だったので激しい運動と入浴は控えてくださいね。検査入院も退院もどちらも可能ですがどうされますか?」

 目覚めるとすぐに医者からの問診を受け、手持ち金の問題ですぐに退院を選んだが、ユウイチとしてはどうしても納得がいかない。
 医者の判断にではなく、確かに工場で気を失ったはずなのにポケモンセンターの前で発見されたことが、である。
 その上助けたポケモンについてユウイチはジョーイさんにも医者にも訊ねたが、どうも発見時点でユウイチしか居なかったようで、わざわざ無理して助けてやったのにその恩を仇で返されたような気分だ。

『こういうのなんて言うんだっけ? ポチエナに手を噛まれる? 諺だとしても想像もしたくないな』

 辻褄の合わない出来事の数々に首を傾げながら帰路に就いたが、ただでさえ少ない手持ちの金が病院代で絶対零度からの一撃必殺となったわけだが、背に腹は代えられない。
 色々と考えてはいたものの、あまりにもいっぺんに色々と起き過ぎたため考えるのも億劫になり、家に着く頃には考えるのを止めた。
 鞄をベッドの横へと放り投げてから頭にかからないようにシャワーを浴び、出勤前に作った炒め物の残りをぼーっとしながら食べてゆく。
 本当は倒壊した工場のことやその後の不可思議な出来事、これからどうするか等考えなければならない事が山積みなのだが、それすら考えるのが嫌になった。
 否、次など無いからこそ現実逃避するしかなかった。
 現場に居たからこそ今日明日に復旧するような事故ではなかったこともよく分かる。
 そうなれば明日からの働き口が無い。
 両親は既に他界しており身寄りもない。
 だからこそ真っ先に考えるのは『明日からどうするか?』という、とても現実的な問題だった。
 両親の遺してくれた遺産もあるにはあるが、湯水の如く使えるようなものではない。
 工場が無くなればまたポケモンと関わらずに働ける仕事を探さなければならない。

「まあ、こんなもんだよな」

 感情の読み取れない表情で、ぽつりと呟いた。
 残りの炒め物を空にし、食器を全て流しに放り込む。
 絶望と諦めと、訳の分からない妄想が頭を支配し、全てを忘れるようにベッドに身体を投げ捨てる。

『明日になれば全部が夢になる』

 そう言い聞かせて眠ったが、当然そうなるはずもない。
 仕事の時間になると目覚ましが鳴っていなくても自動的に目が覚め、機械的に服を着替えて鞄を手に取り、部屋を出てゆく。
 その日常が変わるとは思っていなかったからこそ、目の前に立ち入り禁止のテープで封鎖された工場と沢山の警察官や消防士が倒壊した工場を囲んでいる様子を見るまではどうにも現実感が無かった。

「君、ここで働いていたのかい?」
「ええ、まあ」
「昨日のニュースは見なかったのか?」
「テレビ無いんで」

 工場へ向かって歩いてきたユウイチに気付いた警察官が事情聴取のためにユウイチへ質問を投げかける。
 そうしてゆく内に少しずつ、昨日の出来事をゆっくりと思い出していった。
 工場が倒壊したことも、そしてその際に助けた謎のポケモンに驚き、気を失った事。
 次に目を覚ましたのは病院の前だった、ということは気を利かせてあのポケモンが助けを呼んでくれたのだろうと解釈することにした事。

「まあ、無事なようでなによりだ。君はまだ若いんだ。折角だから今からでもポケモンリーグに出るようなエリートトレーナーを目指してみればいいさ」
「そうっすね」

 警察官の的外れな励ましの言葉に適当な言葉を返し、ユウイチの日常は消え去った事をしっかりと理解した。
 だが警察官の言う通り、本来ならユウイチの日常はポケモンと共にライバル達と切磋琢磨し、ポケモンリーグの舞台を目指すようなものだろう。
 そのまま警察官と別れて賑わいを見せる街道へと戻る。
 しかしその賑わいはこの時期特有の物ではなく、どうにも物騒な話題のようだ。

『先日未明、町外れの工場で大規模な爆発事故が発生しました。警察の発表によりますとこの爆発事故は未確認のポケモンにより引き起こされた物であり、現在も調査中とのことです』

 電気屋の店頭に並ぶテレビから流れる映像にはユウイチの働いていた工場が映っており、その衝撃の凄まじさを物語っていた。
 上空からの映像では工場のど真ん中が奇麗に球形に抉られており、その影響で工場が倒壊したのだと理解できる。
 あからさまに不自然な爆発事故だった理由はその怪現象を起こしたポケモンによる仕業であるとテレビは語った。
 まさか地震だと思っていたものが全てたった一匹のポケモンによって引き起こされた事件だとは夢にも思っていなかったため、そこでユウイチは初めて驚愕の表情を浮かべた。

「あの工場、確か噂だとロケット団の基地だって話もあったし、その生物実験とかなのかしら? 怖いわねぇ」
「その話本当ですか?」

 いつもなら井戸端会議をする主婦にユウイチから話しかけるような事はしないだろう。
 だがその噂が事実ならユウイチにもかなり重大な問題となる。

「やあねぇただの噂よ? でも、あの工場、夜になると見慣れない恰好の人達がよく出入りしてたらしいから、あんな爆発の仕方を見る限り、本当の事なのかもしれないわねぇ」

 爆発事故の原因が謎のポケモンにより引き起こされたものであるという事実と、異様なまでの厳戒態勢。
 普段なら噂話など信用しないが、警察が血眼になって探していたような気さえしてしまう。

『てことは俺もロケット団の活動の片棒を担がされてたってことじゃねーか!』

 突飛な発想は何も知らずに普通に働いていた自分もロケット団を構成するメンバーの一員であると思いこむほどにまで発展し、思わず口を噤んでその場を去っていった。

「やべぇ。やべぇ! 警察にあの工場で働いてたって言っちまった!」

 警察官と会話している間、ユウイチはあくまで地震によって工場が倒壊したと思い込んでいたためそのまま話していたが、警察官からはあからさまに工場の爆発事故に関する詳しい理由は知らされていなかったことを思い出し、暗に言葉を選んでいるように思えてしまう。
 ただ食い扶持が無くなっただけならまだしも、急に悪の組織と名高いロケット団の活動を知らず知らずの内に支援していたとなればただの無職から犯罪者へと成り果ててしまう。
 もし本当にロケット団の構成員だと睨まれているのならば事情聴取だけで済んでいなかったとは少々パニックに陥っていた頭では判断がすることができるはずもなく、周囲の人間から変なものを見るような目で見られることに慣れていたはずなのにも拘らず、その日は周囲の目がまるで自らを犯罪者だと知っていて視線が注がれているように感じられてしまい、逃げるように自宅へと急いだ。
 大通りを離れて自分の家の目の前まで戻ってきた時、不意に頭に何かが乗せられたような感覚に襲われた。
 まさか警察に動きを探られていたのかと恐る恐る後ろを振り返ると、そこには特に誰も居なかった。
 杞憂だった、とホッと胸を撫で下ろしたが、頭の上に何かが載っている感覚は未だに残っている。

「あれ? じゃあ何が頭の上に乗ったんだ?」
「ミュー」

 頭の上に未だ残っている謎の重さの正体を両手で掴み、するりと頭から下ろして顔の前に持ってくるとその物体は聞いた事のある声で一つ鳴いてみせた。
 と同時にまるで吹き飛ばされるかのようにユウイチはその場からこけながら飛び退き、アパートの廊下の端まで逃げた。
 胸を突き抜けそうなほど心臓が暴れまわっており、とてもではないが声すら出せない程驚いていた。
 深呼吸をしながら心臓を落ち着けてゆき、先程ユウイチが手に持った位置からゆっくりと宙を漂って近寄ってきていたそのポケモンがそれ以上近付かないように、手で待てと伝わるようにジェスチャーをするのが精一杯だ。
 伝わったのかどうなのか、ポケモンは小首を傾げながら手の前で止まってジッとユウイチを見つめる。
 そして結局ユウイチの手に自分の手を重ねた。

「違ぁう!! それ以上近寄るな!!」

 ハイタッチのように手を重ねたポケモンに大声でユウイチが伝えたからか、一瞬ビクッと硬直し、そのまま少し後ろに戻る。
 結局そのまま五分程呼吸を整え続け、ようやく落ち着いたところでユウイチはそのポケモンを真っ直ぐ睨んだ。

「恨むんなら俺じゃなくて工場を恨めよ!? というかお前なんで俺の所に来てんだよ! つーかどうやって飛んでんだ!? お前のパートナーはどうしたんだよ!! 食っても旨くないからな!?」

 思い付いた順に質問を投げかけていくが、相手はポケモン。
 人間の言葉を理解はしていても残念ながら返事は出来ない。
 だが一つだけ共通の意志の伝え方がある。

「ミュ!」

 きみ。とでも言いたげにそのポケモンはユウイチを指差し、一声鳴いた。

「勘弁して下さい」
「ミュ!?」

 何となくユウイチにもそのポケモンが伝えんとする意志はジェスチャーのおかげで伝わったが、寧ろ分からない方が彼としては嬉しかった。
 初志貫徹してポケモン嫌いのユウイチは、彼の歳ならば知っていて当たり前のポケモンの知識すらない。
 故にポケモンに関わった事も殆ど無く、ポケモンから関わってきた事も無いのだが、鶴の恩返しよろしく助けられたそのポケモンは既にユウイチの事を気に入っているようだ。
 だからこそポケモンの方も喜んでもらえるだろうと確信していたのか、断られたのはかなりショックだったようだ。
 途端に伸ばしていた手に吸い付くように抱きつき、腕に尻尾を絡めてゆく。

「ギャァァア!! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 止めろ馬鹿!!」

 腕を全力で振って引っぺがそうとするが全然剥がれない。
 触れたくも無かったがそれどころではないためもう一方の手で剥がそうとすると今度はそちらの手に張り付く。

「餅かこの野郎!! 離れろ!!」
「ミュー!」

 手に張り付いて取れないポケモンを必死に剥がそうとしながらユウイチは叫んだが、嫌だとでも言うように一つ鳴き声を返すとグリグリと手に頭を擦りつける。
 これが案外効いたらしく、存外にそのグリグリが心地よかったためか一瞬ユウイチの動きが止まった。
 気持ちいいと怖いとで感情が鬩ぎ合っているらしく、何とも微妙な表情を浮かべているが、ポケモンの方もその様子に気が付き更にユウイチの手に身体を擦り付けてゆく。

「う……ん? いやまあ、噛まないなら……考えてやらんこともないけど?」

 ポケモンの必死のアタックもあってか、ようやくユウイチが心を開いたが、ポケモン嫌いで通してきていたこともあってあまり素直ではない。
 と言ってももう既にユウイチはそのポケモンの魅惑の柔毛の虜になっている以上、完全に堕ちているのだが、ユウイチとしてはまだ認めてはいないらしい。
 トドメとでも言わんばかりにポケモンはユウイチの手に掴まり、人差し指の先をちろりと優しく舐めた。
 噛まないなら。と言ったユウイチへの当てつけだろうが、一度だけ舐めてユウイチの手に頭を乗せて見つめてくる様子には全く敵意が無い。
 最終的にはユウイチが折れたのか、深く溜め息を吐きながら髪が抜け落ちそうなほど頭を掻きむしってポケモンから目を逸らす。

「勝手にしろ。言っとくが俺はボールも持ってなけりゃ知識も持ってない。嫌になったらさっさと何処へでも消えな」
「ミュー!」

 今までとは違う良い方での諦めの言葉を吐き、ユウイチが根負けしたのを見てそのポケモンは嬉しそうに一声鳴いた後、宙を何度もぐるぐると縦回転して喜びを表現してみせた。
 ユウイチはこんな世界で大のポケモン嫌いだ。
 虫ポケモンも、大型のポケモンも漏れなく嫌いだ。
 理由はただ一つ。
 ポケモンが恐ろしいからだ。
 鍛え合い、競わせ、技と心を磨くポケモンバトルのその全てがユウイチには恐ろしくて仕方がなかった。
 どれほど可愛らしいポケモンでもひとたびバトルとなればトレーナーの指示に従い技を繰り出す。
 その威力こそ千差万別だが、どんな技でも簡単に人を傷付けられる。
 だから彼はポケモンと、それが出来うる力を持つポケモントレーナーが嫌いだった。
 一先ず、ポケモンへの無差別な恐怖感情はこのユウイチを慕った謎のポケモンのおかげで多少なりは中和できたが、かといって恐怖心は克服できたわけではない。
 口では諦めのような憎まれ口を叩いたが、ユウイチはそのポケモンを通して一度だけ賭けてみようと思ったのだ。

『もしも一度でも危害を加えるような事をすれば、もう二度とポケモンには関わらない』

 最初で最後のパートナーだろうと心の中で考えながら、するりと宙に浮かび上がりユウイチの頭の上にペタリと乗ったポケモンを見ながら祈る。
 そうしてそのポケモンと共に部屋へと戻った。
 部屋の中は多少散らかったよくある一人暮らしのワンルーム。
 しかしそのポケモンにとってその光景は新鮮な物なのだろう。

「ミュー」
「そこは俺のベッドな。あー……ソファなんて上等なもんはないからお前もそこで寝るしかないか」

 ふわりふわりとユウイチのベッドの枕へと着地したそのポケモンを見て、ユウイチはそんな事を言ってみせたが、既にポケモンの方は瞼を閉じ、耳も寝かせて寝る体勢に入っている。

「警戒心解くの早ぇーよ。他人の家で初っ端から寝落ちかまそうとしてんじゃねぇ!」

 眠ろうとしているポケモンを両手で持ち上げてつっこみを入れたが、そこでふと気になっていたことを思い出した。
 このポケモンがあの工場へ出入りしていた誰かのポケモンならば、パートナーを聞いた時にユウイチを指すような真似はしなかっただろう。
 だが、逆に野生のポケモンならば何故工場の、しかも休憩室で怪我をした状態で居たのかが説明がつかない。

「まさかお前……あの工場を破壊した張本人……なわけないか」

 そう独り言を言いながら持ち上げても尚眠ろうとするポケモンを片手で抱き、もう片方の手で優しく頭を撫でながら呟いた。
 ユウイチの言う通り工場を破壊したポケモンである可能性は限りなく低い。
 そうでなければ怪我をしていた説明がつかなくなる。
 だがもし、暴走して怪我をしていたのだとすれば、より一層あの主婦達が口々に語っていた噂が現実味を増す。

「もしかすると、お前も俺と同じなのかもな」

 そう言って軽く頭を撫でてあげた後、そっとベッドの隅に置き直した。
 ユウイチはそのまま特に汗もかいていないためシャワーの準備はせずに食事として軽い炒め物を作り、これからどうするかを改めて考え直しながら口へ運んで行く。
 とりあえず現状はロケット団の下っ端構成員というところだ。
 それだけは避けなければならないが、今朝方既に警察官と話しているためユウイチに声が掛かるのも時間の問題だろう。
 噂だけならば特に気にする必要も無いが、それならそれで次の仕事を探さなければならない。

「なんも思い浮かばねぇなぁ……」

 このまま死ぬまで続くと思っていた日常が急に破綻すると、案外人はどうすればいいのか分からなくなる。
 結局考えても仕方がないとユウイチも早めにベッドに潜ったが、一つだけ確かな変化はある。
 謎のポケモンがどういうわけだかユウイチから受けた恩を感じたのか、今は横でスヤスヤと眠っている。
 人よりも多少は警戒心が強いものだろうと考えていたが、ピスピスと鼻息を立てて眠っているところを見るとそうでもないらしい。
 今の所、このポケモンとならうまくやれそうだとユウイチ自身も思い始めていたため、明日このポケモンが起きている間にもう一度聞き直そうと考え、ゆっくりとまどろみの中に沈んでいった。

『あぁ、そういえばこいつの種族が何なのかも知らないし、いつまでも"お前"ってのも味気ないな。名前ぐらい付けてやるか……』

 そう考えて色々と名前を思い浮かべてゆく内に、気が付けば翌朝となっていた。

「ミュ」
「うおっ!? ……そうだった。お前がいたんだったな。お陰で目が覚めたわ。ただし!! 急に近付くな!! 俺はまだポケモンに慣れてないんだよ!!」

 体を起こすとユウイチの腹の上にはユウイチが起きるのを待っていたポケモンの姿があった。
 いつも通り目を覚まし、仕事の準備をしようと寝ぼけた頭で考えていたユウイチも一瞬で覚醒し、思わず手で払い落とそうとしたが、代わりに羽のように手を避けてふわりと宙に浮き、腹の上から転げ落ちる代わりに宙でくるくると舞ってみせたことで先日までと今日からが違うことを思い出す。
 軽く頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細め、ポケモンはユウイチの腹の上にゆっくりと降りて行き、心地よいと言わんばかりに溶けて伸びてゆく。

「あ、そうだ。お前も名前ぐらい必要だろ?」
「ミュ?」

 溶けきっていたポケモンがシュッと元に戻ってユウイチの方へ視線を向けた。
 ユウイチの問いかけの意味が分かっていないのか不思議そうな顔を浮かべて一声だけ鳴く。

「名前だよ。いつまでもお前じゃあんまりだろ? 熟年夫婦じゃあるまいし」
「ミュ!」

 ユウイチの言葉の意味を理解したのか嬉しそうに一声鳴いてみせた。
 既に鳴き声のイントネーションだけでどんなことを言おうとしているのか理解できている時点で熟年夫婦のそれなのだが、起き上がりつつそのポケモンの名前を考えてゆく。
 といっても名前を付けるなどユウイチにとって初めての出来事。

「うーん……ミューミュー鳴いてるからミューでいいか」

 残念ながら第一印象でしか名前を付けられない。
 しかし当のポケモンの方はそんな適当な付け方の名前でも大層気に入ったらしく、嬉しそうに鳴きながらくるくるとゆっくり宙を回転しながら喜んでいる。
 もう少し悩むかとも思われたが、案外すぐに決まってしまったため一つ目の問題は解決した。
 寧ろ問題はここからで、現状ユウイチは暫定的にロケット団の下っ端として追われている状態だ。
 速く次を探さなければお金と時間だけを浪費してゆくこととなる。
 次の仕事を探すためにもその日は早めに動きだし、昨日の残りの炒め物を食べてゆく。

「ミュー……」
「ん? お前も食うか? というか人間と同じ物食わせて大丈夫なのかね?」
「ミュ!」

 ミューと名付けられたそのポケモンの方も流石にお腹が空いたのか、ユウイチのお誘いを受けて嬉しそうに炒め物のフライパンへと手を伸ばした。
 手掴みで炒め物の少しを手に取り、ユウイチを真似するように口元へと運ぶ。
 どんなものかとユウイチも様子を眺めていたが、ミューもその味を大層気に入ったらしくモグモグと美味しそうに頬張っていった。
 一人と一匹で食べてゆくには少々物足りない量だったかフライパンはあっという間に空になり、すぐに出掛ける準備を整える。

「ん? あーそうか。手掴みで食えばそりゃそうなるわな」
「ミュ?」

 ミューの方をチラッと見たユウイチが、手元と口元が油で汚れている事に気が付いてそう呟いた。
 手の汚れは舐め取ろうとしていたが、流石にそれだけでは取りきれそうもない。
 ということでユウイチはミューを捕まえて風呂場まで連れて行き、 シャンプーも使って奇麗に洗うとそれまでのピンク色とは比較にならない程鮮やかな色になってゆく。
 どうも工場で付いた粉塵も今ようやく洗い流すことができたようで、その色が本来のミューの色なのだろうと考えるとユウイチは思わず感心するほどだ。
 ミューは体をプルプルと振るわせて身体に付いた水気を振りほどこうとしているが、タオルとドライヤーを使って奇麗に乾かしてやるとタオル以上としか例えようの無い元々の極上の肌触りが復活した。
 ある意味でミューもお出かけの準備が出来たため、ユウイチの頭の上にペタリと張り付いて一緒に部屋を出てゆく。
 と言っても明確な目的地があるわけではなく、次のユウイチにとって働きやすい環境でかつバイトの募集をしている場所を只管探す事となる。
 しかしそうやって歩いている内、あることに気が付く。
 ユウイチと二人きりの時はほぼ常に頭の上にミューが張り付いているのに、他に一人でも別の人間の姿があるとその瞬間にフッとミューが張り付いている感覚が無くなり、実際に頭の上から消えている。
 何処に行ったのかと探す内にまた一人になるといつの間にかまた傍に浮いている、といった具合だ。
 ミューのその不思議な行動に少々戸惑いつつもユウイチには西へ東へと町の中を長い事フラフラとしていた。
 そんな中、もう一度電気屋のテレビから飛び込んできたニュースがユウイチの目に留まった。

『先日発生した工場の爆発事故の続報が入りました。警察の調査によりますと工場はロケット団関係者が使用していた研究施設であり、今回の爆発事故はそこから逃げ出した実験体のポケモンによる暴走が原因であると推測されています。現在もそのポケモンは発見、捕獲されておらず、エリートトレーナーや各地ジムリーダーによって捜索が続けられております』
「おいおい……洒落になんねーよ」

 泣きっ面にスピアーとはまさにこの事。
 ただでさえ無職でこの先が危ぶまれるというのに、よりにもよって奥様方の噂が現実のものとなってしまった。
 これで晴れてユウイチはロケット弾関係者となってしまい、最悪の場合逮捕される可能性も出てくるだろう。
 普通に考えれば偽装のために上に建てられていた工場でたかだかバイトをしていた人物に指名手配など付くはずも無いのだが、当のユウイチにはそんな事を考える余裕は無かった。

「街を出るしかない……かねぇ」

 ぽつりと口から漏らした言葉は、いつものユウイチが語っていた諦めの言葉だった。

『変えようと願ってもどうにもならない現実がある』

 そう自分に言い聞かせるような悲しい言葉。
 町を出てどうするのか。
 そもそもその程度で逃げ切れるのか。
 フッと湧いては飛沫のように消えてゆく諦めの言葉達を、また何処か他人事のように考えていた。
 気が付けば次の仕事を探すために進めていた脚は踵を返し、自分の部屋へと辿り着く。

「ミュー……」

 ベッドへうつ伏せに眠ったままのユウイチからミューへと数え切れぬほどの不安の感情が伝染してしまったのか、耳をペタリと畳んだまま切ない鳴き声を上げる。

「どうすりゃいいんだろうな」

 誰に言ったわけでもない言葉が空に溶けてゆく。
 本当は、その言葉を誰かに投げかけたかったのだろう。
 どうすれば自分は幸せになれるのか。
 伝説のポケモンでも探すような問答を誰かに投げかけたかった。

「ミュ!」

 ミューが決意したように一つ力強く鳴き、もう一度瞳を青く輝かせる。
 その光が自身とユウイチの身体を包み込み、ふわりと身体を宙へと浮かせた。

「ん? うぇ!? どうなってんだこれ!?」

 急に開けた視界に何事かとユウイチは驚いていたが、それ以上にどれほど藻掻こうと宙に固定されたように動かない身体に半分パニックに陥っていた。
 必死に届かない距離になった枕に手を伸ばしていたが届くはずもなく、そのまま遂に浮いていただけのユウイチの身体は勝手に空を動き始める。
 玄関を抜けて屋根の上、あっという間にユウイチの身体は街が小さく見えるほどの高さにまで浮かびあがり、今までにユウイチが一度も見た事が無いような景色を目の前に広げる。
 雄大な自然がちっぽけな町の数倍も広がっており、その向こうには高く聳える峰が霞みにけぶって見えている。
 また空を飛んで行くと今度は見渡す限り続く水平線と、うすぼんやりと見える何処かの島が遠く小さく海の上に浮かんでいる。
 最初は恐怖で声を出せなくなっていたが、その景色はそれすらも忘れられるほど壮大で、美しかった。

「ミュー。ミュ!」
「これ……全部本物の景色、なんだよな。お前が見せてるのか?」
「ミュウ」
「スゲェな、世界って。こんなに広くて、見た事の無い世界が広がってるのか」
「ミュ! ミュミュ」

 ミューの鳴き声は相も変わらず猫のようなただの可愛らしい鳴き声だ。
 だが確かに、ミューがユウイチをパートナーだと言った時と同じように、最後の鳴き声はまるでユウイチには一緒に行こう。と言ったように聞こえた。
 宙に腰掛けるように足を組み直し、ユウイチはミューの顔を少し眺めた後、その景色の先を見てほんの少しだけ考えてしまった。

『俺がミューと旅をしても、こいつには何の得にもならない』

 ポケモンと人間、共に旅をして絆を深め合い、最強のポケモントレーナーを目指して高め合う存在。
 その程度の知識はユウイチにもあった。

『これだけの事を呼吸をするようにできるミューに対して、全くの無知の自分がいても何もしてやれないだろう』

 だからこそそう考えてしまう。
 自分では不釣り合いだと。

「ごめん。俺にはまだどうするべきか分からない。俺にとって今までずっとポケモンってのは恐怖の対象でしかなかったんだ。とてつもない力を持っていて、その力で好き勝手に暴れる存在。俺にとってはお前もそうだった。けど多分、お前にとっての人間ってのも同じなんだろ?」
「ミュ?」
「いちいち消えたり出たりしてさ、本当は人間が恐ろしくて仕方がないんだろ? なのにたかだか成り行きで助けただけの俺に懐いてみたりさ……。変わりたいって考えてるんだろうなってのは分かる。でも、俺はお前みたいになんでもできる力も無けりゃ、変えようとする勇気も無い奴なんだ」
「ミュー……」
「ごめんな。変な期待させてさ」

 ユウイチの横で悲しそうな表情を見せるミューを見て、ユウイチは自然と慰めるように頭を撫でていた。
 丁度その時は日が沈もうと次第に空を黒く染めていた時。
 それ以上はミューも無理にユウイチを説得するような真似はせず、静かに元居た部屋まで下りて行った。

「まあ、お前のお陰で少しはポケモンも怖くはない奴もいるって思えたよ。どちらにしろ俺もこの町を出なきゃならんし、そん時までは俺と一緒に居ればいい」

 今にも泣きそうな表情を浮かべているミューにユウイチはそう言い、もう一度優しく頭を撫でた。
 きっとミューもユウイチと旅をする事を望んでいただろう。
 だとしても、ユウイチでは決してミューの望みを叶えてやることは出来ない。
 そう考えての言葉だった。
 もはやユウイチはミューの事を恐れてもいなかったからか、その日はミューを優しく抱いて眠った。
 少しでもミューの悲しみを紛らわせてやりたいと考えてそうしたのだろうが、それはただただ逆効果だっただろう。
 眠るユウイチの腕の中で静かに、ミューは涙を流していた。




 翌日にはすぐさまアパートの管理人や水道局等の公共系に電話をし、明日一杯で出てゆく旨を伝えた。
 荷物を纏めて中古屋へと持って行き、売って少しは金に換えようと纏めたのだが、これが案外重くなる。

「どうやって運ぶかね。引き取りに来てもらうか?」
「ミュー!」

 ユウイチの独り言を聞いてか、ミューの身体が今一度青く輝き、重い荷物が全て風船のようにふわりと浮かび上がる。

「ほー、便利だな。是非一家に一台、いや一匹欲しい所だ」
「ミュ!?」
「冗談だよ」

 軽口を叩いたユウイチにミューは少々ムッとした表情を見せていたが、当然冗談なのですぐに謝った。
 玄関から次々と抜け出てゆく家財の一切と共に、ユウイチとミューもふわりふわりと飛んで行き、ユウイチのガイドに沿って中古屋へと向かう。

「すみません。買い取ってもらえますか?」
「はいはーい。おっ? おっ!? ユウイチ君? もしかして……遂に旅立つ日が来たのかい!?」
「あー……いやまあ、流れでというかなんというか」

 ユウイチが向かったのは贔屓にしていた中古屋。
 一人暮らしのユウイチにとってこの店より心強い味方はいなかったのだが、ここの店主がユウイチが家財を揃えに来る度にいつ旅に出るのか聞いてくるためあまり店主は好きではなかった。
 しかし悪い人ではないためずっと贔屓にしていたのだが、まさかどんな形であれ店主の言った通りになる日が来るとは思いもよらなかった。

「いいねぇ! 遅咲きのポケモントレーナーが旅に出て、リーグで喝采を一身に浴びる! おじちゃんそういうの大好きだから、大サービスしちゃう!」
「いやいや、そうはなりませんよ。知識ゼロのまんまですから」

 少々夢物語をユウイチに重ね合わせて妄想しているようだが、残念ながらユウイチはそういった目的で旅に出るわけではない。
 もっと卑屈なただの逃避行なのだが、既に聞く耳は持ち合わせていなさそうだ。
 結局その後も店主のパワーに圧倒され、格安で一人旅に必要な道具一式を纏めて売りつけられた。

「頑張ってね! 応援してるよ! おじちゃんがファン第一号だからね!」
「ハハハ……期待しないで待っておいてください」

 ルンパッパのように陽気な店主に見送られ、苦笑いと共に会釈を返して店を後にする。
 一生出ることもないと思っていた町から遂に一歩外へと踏み出し、目の前に広がる鬱蒼とした山林を見据える。

「ミュ」
「んじゃ、ここでお別れだな」

 またいつの間にか出てきていたミューの頭を撫でてやろうと自分の頭と同じぐらいの高さを飛んでいたミューに手を伸ばすと、ミューはその手に吸い付いてきた。
 掌に顎を乗せてまたしても餅のように張り付き、長い尻尾を腕に絡める。

「おいこら何やってんだ」
「ミュウー!」
「やだー! じゃねぇよ! ついてきても碌な事無いって言ってんだろ!」

 ブンブンと振りほどくために腕を振るが当然取れる気配が無い。
 逆の手で引き離そうとするとそちらの手も巻き込んでぺったりと張り付く。
 森の前で小一時間ほど格闘し続け、結局またしてもユウイチの方が先に折れた。
 というより体力の限界でユウイチが負けた。

「はぁ、はぁ……。後悔しても知らねぇからな!」
「ミューウ!」

 ユウイチの精一杯の強がりを聞くと、ミューは一際嬉しそうな笑顔を見せてバターにでもなりそうな勢いでユウイチの周囲をぐるぐると旋回した。
 深い溜め息を吐きながらその様子をユウイチは何処か他人事のように見ていたが、満更でもないようだ。
 そうしてポケモン嫌いの青年ユウイチと、謎のポケモンミューの奇妙な旅は幕を開けた。



続・ロケット団のゆううつ 


「もうちょい街道整備してくれてもいいんじゃないですかねぇ~~……。未舗装の道が多すぎんだろ……」

 旅を始めてから数週間、ユウイチは盛大に迷っていた。
 土地勘も無く、旅も未経験ということもあり冒険に必要な道具は中古屋で押し付けられるようにして手に入れた物しかないため、使い方もよく分かっていない。
 その上トレーナーやポケモンがいる度に迂回したり過ぎ去るのを待ったりとしていたせいで、未だ深い山と山の間を彷徨っている次第だ。
 道中に食べれる木の実が幾つも実っていたが、知識の無いユウイチは奇麗にこれをスルーしており、既に食料が尽きかけていた。
 念のためお金は大目に持って来てはいたが、店が無ければお金でお腹を満たすことは出来ない。

「ん~~……。これは完全に想定外だな。どうしたもんか……」
「ミュ~……」

 食料はない、地図も読めない、時折ミューに高い所から周囲を見てもらうものの土地勘の無い者同士、そこから次の目的地がどちらにあるのかなど把握することすらできない。
 正に万事休すといった所である。

「ん? この匂いは……近くに他のトレーナーがいるのか。……ゴメン! ミュー! 背に腹は代えられん! トレーナーに頼ってこの森から抜けよう!」
「ミュ!?」

 近くから漂ってきた料理の匂いに気が付き、ユウイチはミューに手を合わせて謝るとすぐにそちらの方へと向かっていった。
 今までミューに気を遣ってトレーナーに関わらないようにしていたが、このままでは下手を打てば間違いなく山中で行き倒れるだろう。
 流石にそういうわけにはいかないため、念のためミューに謝りを入れてからユウイチはその匂いを辿って山道を進んでゆく。

「いたー……思った以上に距離があったけど、人がいたー」
「だ、大丈夫かい!?」

 近い場所を右往左往と歩く事数十分、起伏の激しい道が続いていたこともあり、ユウイチは人の姿を見つけるなりその場に崩れ落ちた。
 ユウイチの声が聞こえたためか、心配そうな声を出して料理をしていたトレーナーがユウイチの元へと駆け寄ってきた。
 が、その顔を見るなり二人共驚いたような表情を浮かべる。

「もしかして……ユウイチか?」
「トオル……トオルだよな? すげぇ偶然じゃねーか!! 何年振りだ?」

 ユウイチが見つけたトレーナーはかつての友人、トオルだった。
 先程までの疲れは何処へやら、ユウイチとトオルは久し振りの再開が嬉しくなり、お互いに色々と近況を話し合いながらトオルの作った料理を皆で食べる事となった。
 皆とは勿論トオルのポケモン達の事であり、ユウイチがポケモンが今も苦手なままな事を聞いていつもよりも少し離れた位置で食べてもらうことにはしたが、それでもユウイチとしては十分有難かった。

「そっか……今やトオルもエリートトレーナーの仲間入りか。自分のジムを持つ日も近いんじゃないのか?」
「無茶言わないでくれよ。ジムリーダーはトレーナーの中でも指折りの腕を持つ奴しかなれないんだぞ?」
「でも、エリートトレーナーになったってことは今も目指してるんだろ? ポケモントレーナーの先生」
「ああ、ジムリーダーよりも俺はトレーナーズスクールを開きたい。少しでも多くの人達に、あるべきポケモントレーナーの姿を教えられたら……って今も考えてるよ」
「本当に変わんないな。お前は」

 トオルは元々かなり腕の立つトレーナーだった。
 今はエリートトレーナーと呼ばれるまでの腕になっており、多くの大会で好成績を残している本物の実力者だ。
 ポケモンとの絆を大切にし、ポケモンと共に歩んできたと言っても過言ではないトオルの生き方は、正にユウイチの生き方とは正反対だ。
 何故、そんな二人が今も友人でいるのか、それは彼等の子供の頃に遡る__。




 まだ二人が六歳だった頃、この位の歳になれば男の子なら自分で草むらに入ってポケモンを探すようになる。
 当時のユウイチとトオルも例に漏れず、わんぱくで好奇心旺盛な少年達だった。
 コラッタやポッポのような草むらにいる色んなポケモンを探しては、親から初めて買ってもらったモンスターボールを大事そうに持ってポケモンを追いかけ回す日々。
 そうして二人共初めてのパートナーを手に入れ、同じ位の歳の子供達でポケモンバトルをしだすようになった頃、二人の人生を大きく変える出来事が起きた。
 日がな少年達はパートナーとなったポケモン達と楽しく遊んだり、時々バトルをしたりと楽しく過ごしていた。
 だがそんなある日、町で一番の裕福な家庭で育っていたゲンという少年がその場に混ざった事により、楽しかっただけのポケモンや少年達の交流は激変する。
 皆が初めて手に入れたポケモンは近くの草むらや川で出合った謂わば野生のポケモンだったのに対し、ゲンのポケモンは親が買い与えた元々腕利きのトレーナーによって育てられたポケモンだった。
 バトルでもしようものならその差は歴然。
 とてもではないが少年達のパートナーでは太刀打ちできない。
 だが勿論凄腕のトレーナーに育てられたポケモンが、そんなただの子供の言うことにきちんと従うわけもなく、よく命令を聞かずにサボってばかりいたため、ユウイチとトオルは二人でゲンのポケモンをぎゃふんと言わせる方法を考えた。
 と言っても大したものではなく、二人でおこずかいを出し合って「どくどく」の技マシーンを購入し、猛毒に犯した状態で後はひたすら逃げ回るというものだ。
 しかしこの作戦が面白いほど上手くいってしまった。
 どくどくでどんどん体力を消耗しているのにポケモンはゲンの言うことを聞かず、そっぽを向いたり昼寝をしたりと気ままにしていたため、自分が毒で動けないほど体力が減ったと気付き、本気を出そうとした時にはもう手遅れだった。
 機転を利かせて勝利したユウイチとトオルは一躍町の英雄扱いとなり、また少年達が楽しくバトルを続けられるようになったのだが、それがゲンのプライドを傷付け、ユウイチがポケモン嫌いとなる原因となった。
 勝利の日から数週間後、ゲンはユウイチにリターンマッチを挑んできた。
 一度の勝利で自信過剰になっていたユウイチはこれを受けてしまい、結果は惨敗となる。
 それもそのはず、ゲンはこともあろうに更にポケモンを買い与えてもらった上に、ポケモンが自然ということを聞くようになるジムバッチまで全部揃えてもらっているのだから勝てて当然である。
 だがそれだけなら決してユウイチはポケモン嫌いにならなかっただろう。
 ゲンは、そのポケモン達を使って目の前でユウイチのポケモンをボロ雑巾のようにし、こともあろうにユウイチ自身も襲わせた。
 情け容赦無く降り注ぐ力に少年のユウイチが抗う術は無く、ただ人形のように弄ばれるしかなかった。
 これは町中の大問題となり、結果ゲンはバッチとポケモンを取り上げられることとなったが、何の解決にもなっていない。
 ユウイチとポケモンは一命こそ取り留めたが、その恐怖は一人と一匹の心に深い傷を残した。
 ポケモンは全くユウイチの事を聞かなくなり、ユウイチに対して噛みついて逃げてゆき、同様にユウイチもポケモンを見るとその時の光景がフラッシュバックするようになり自然とポケモンと距離を置くようになっていった。
 これだけで済めば、まだ良かった。
 少年達は青年となり、トオルはユウイチをそんな目に遭わせたトオルと、その場に自分が居合わせなかったことの負い目から、正しいトレーナー像というものに固執するようになっていた。
 ゲンの方もそのまま傍若無人な青年となり、金だけで手に入れたポケモンによる強引な強さを手に入れ、町一番のトレーナーとして再度君臨する。
 当然トオルとゲンは何度もぶつかり合うことになるが、次第にトオルの鍛え上げたポケモン達は強さこそゲンのポケモンを下回っていたが、真面目に努力を積み重ね、長年の経験とポケモン達との絆、そして戦略立てた技選びにより次第に勝ち星の方が増え始めた。
 こうなればただ金の力だけでより強いポケモンを手に入れ続けていたゲンとしては気に喰わない。
 手に入れたポケモンを虐待するようになり、同時に自分よりも弱いトレーナーを見つけては一方的に嬲る試合をするせいで次第に誰も対戦をしなくなっていった。
 そこで次のターゲットになったのがユウイチだった。
 ポケモンと触れ合うことが怖くなり、ポケモンがいないせいで交友が少なかったユウイチは、ゲンにとって自分が惨めな思いをする引き金になった奴だから復讐するという無茶苦茶な理論と、例え襲った所で誰にもバレないというあくどい打算からまたポケモンをけしかけるようになった。
 再び始まる理不尽な暴力と、圧倒的な身体能力を見せつけるポケモンに成す術無くボコボコにされ、ユウイチはポケモンもトレーナーもポケモンバトルも嫌になり、ほとんど家から出なくなっていた。
 稀に外で出会えばポケモンに襲われ、口数が少なくなったユウイチを見れば大人はポケモンを連れていないからと口々に言い、ポケモンのいる世界そのものが嫌いになっていった。
 そんな日々も数年続き、ポケモントレーナー達は旅立っていった。
 ユウイチはそのまま家にいるつもりだったが、周囲の黒い噂が絶えず、親をそれ以上自分のせいで恥ずかしい目に遭わせたくないと独り立ちし、親の訃報を手紙で知りつつも過去のトラウマから生まれ故郷へと帰る勇気は出ず、そのまま現在に至る。




 周囲の人間が、ユウイチにポケモンを進めてくることに悪意がない事は分かっていても、そのポケモンとその好意がどうしても自分を陥れるための行動にしか見えない。
 そのためフラフラと職を変え続け、ようやくフリーターではあったもののまともに働ける場所を見つけたと思ったら、何の因果か今はミューと共に旅をしている。

「驚いた……。ユウイチがポケモンと一緒に旅をしているなんて」
「だろ? 俺も驚いてる。いっつもは大体この辺りにいるんだけど、人と話す時はどっかに消えちまうんだ」
「もしかして……もしかしてだけど、あのポケモンの事?」

 ユウイチが笑いながらミューの事をそう説明していたが、トオルの指差した先にはいつの間にかトオルのポケモンに混ざってご飯を食べているミューの姿があった。

「あれぇ? なんで今回は普通にいるんだ? 相当腹減ってたのか?」
「ミュウだ……。あれ、『幻のポケモン』って呼ばれてるミュウだよ! 凄いじゃないか! 滅多に人前に姿を現さないし、決して心許さないポケモンだって言われてるのに! そんなポケモンに懐かれるなんて凄い才能だよ!」
「あー……やっぱり、幻とかの類か。なあトオル。ミュー、あいつの事なんだが、もしも俺がまだあいつの事、ゲットしてないって言ったらどうする?」

 ミューの姿を見ると、トオルの目はやはりキラキラと輝きだした。
 伝説とも呼べるポケモンが目の前にいる。
 トレーナーならば誰もが心躍る瞬間であることは間違いない。
 だからこそユウイチはトオルに聞いた。

「どうもしないさ。ミューだったっけ? あの子が好きなのはユウイチで、俺じゃない。あの子のトレーナーになるんならユウイチ以外にはあり得ないよ」
「……そっか。ありがとな」
「ミュ?」

 トオルは軽く笑ってからユウイチの質問に答えた。
 その答えはユウイチにとってとても嬉しいものだった。
 自分がミューのトレーナーとして相応しいと言ってもらえたことがではなく、トオルがエリートトレーナーとなった今も昔と変わっていない事がとても嬉しかったのだ。
 だからこそ普通は人前に姿を現さないミューが、トオルの前では普通に姿を見せていたのだろう。

「ミュー。飯を食うんならトオルにちゃんとお礼を言いな。作ってくれたのはこいつなんだ」
「ミュ。ミュミュ」
「ははは。こちらこそ美味しそうに食べてくれてありがとう」
「ミュー!」

 ユウイチがミューにお礼を言うように伝えると、ミューは食べるのを一旦止めてトオルの前までふよふよと移動し、ぺこりと頭を下げる。
 それを見てトオルも嬉しそうに笑い、ミューの頭を撫でてやった。

「どうよ? ミューの毛並み、柔らかくないか?」
「いいね。俺のポケモンは長毛種が多いから短い毛もいいもんだ」
「えっ!? その程度の反応!? ってことは……ポケモンって全部あんなに気持ちいいのか……」
「え? ああ、そっか。ポケモン触るのなんて子供の時以来だろ? きちんと手入れしてもらってるポケモンは触り心地も抜群だぞ。なんなら俺のポケモン、触ってみるか?」

 自慢できると思ってユウイチはミューの触り心地の感想を聞いたつもりだったが、そもそもポケモン自体がそれほどの気持ち良さを誇っていることを逆に教えられてしまった。
 その上、トオルのポケモンを触ってみる機会が訪れたが、ミューと一緒にご飯を食べているポケモンはどれもこれも体が大きく、思わず何とも言えない表情になる。
 トオルの事は信用している。
 だからこそトオルのポケモンも大丈夫だと分かっているのだが、頭では理解していても心がその自分よりも大きいポケモン達を拒絶している。
 克服する切欠となり得るならばここしかないだろう。
 そう思いユウイチは恐る恐るミューの横にいたピジョットに近づいてゆく。
 ピジョットの方もユウイチが凄くゆっくり近寄ってきていることに気が付き、不審な動きをしているユウイチが近寄ってきてもいい存在なのかトオルの方を見て確かめるが、トオルの方も小さく頷いたためそのままじっとしていてくれたようだ。
 ゆっくりと伸びてゆく手に反比例するように体が大きく反り返り、今にも後ろに倒れそうなほど身体が前後に伸び切っている。
 あまりにも近付く速度が遅い上に、目もギュッと閉じている様子だったため、ピジョットの方が気を利かせてユウイチの方に少し近寄ってやると、指先が漸くピジョットの羽に触れた。
 フワッとした感触に気付いて指が一度引っ込むが、何度かちょんちょんと突いて確かめると、ゆっくりと手の平でピジョットの羽を撫で始める。
 空気のように軽い羽根はふんわりとした見た目通りに柔らかく、滑らかな肌触りは確かにミューのものとは違った気持ち良さがある。
 それを確かめられたことも嬉しかったが、何よりユウイチが嬉しかったのは、自分からポケモンを少しでも触ろうとしたことだった。
 トオルの後押しはあったものの、それでもポケモンは縁遠い存在だとばかりに考えていた。
 触れたことでユウイチはようやく目を開いたが、触れている手の傍でジッとユウイチの方を見つめていたピジョットと目が合い、その目の中に優しさを感じたような気がしたことが嬉しかった。
 数分ほど経ってようやく腕全体を使ってピジョットを撫でられるようになったことを見たからか、ピジョットはその大きくもふんわりとした身体をユウイチの目線よりも下げて伸ばす。
 そしてゆっくりと身体全体を触れるように近付けてくれた。
 ユウイチはそこにピジョットの優しさと、トオルのポケモンに対する思いというものを感じた。
 トオルの事は昔から知っていたが、今目の前にいるピジョットもそんなトオルと同じようにユウイチに細心の注意を払いながら触れ合ってくれる。
 そうして気を遣ってくれていることが分かるのが、トオルとピジョットが同じ思いを共有してくれていることが嬉しかった。
 そんな風に考えている内に、心の中にあった恐怖心が随分と薄れてゆき、そしてポケモンとトレーナーというものが少しだけ分かったような気がする。
 ポケモンと対等に接し、大切にしているトレーナーは同じようにポケモンも人間に対して対等に接し、十分に相手に敬意を払ってくれるのだと。
 漸く肩の力が抜けたからか、周囲を見てみるとうずうずとした様子のトオルのポケモン達が目を輝かせながらユウイチを見守っていた。

「ありがとな。トオルの仲間達まで俺に気を遣ってくれて」

 そう言って一匹ずつ優しく頭を撫でてゆく。
 伸ばす手には震えも躊躇も一切無く、触ることよりも、その伸ばしたユウイチの手を静かに受け止めるポケモン達がほんの少しだけ愛おしく感じた。

「ミュ」
「ははっ。なんだ? 俺がミュー以外のポケモンに触ってるのはそんなに嫌か?」

 気が付くとユウイチに静かに撫でられ続けるポケモン達の傍にいたミューが、ユウイチの伸ばした腕の上に移動してきた。
 何となくその表情は怒っているようにも見え、ちょっとだけ他のポケモンを構っているユウイチにジェラシーを感じているのが分かる。
 ユウイチはそれに気付くと腕を引っ込めてミューを優しく撫でてやった。

「……すごいな。まだ出会ってそれほど経ってないんだろう?」
「ん? まあまだ一ヶ月も経ってないな。俺もよくは知らんがコイツすごいんだよ。高い所にあるきのみを触れずに採ったり、俺ごと宙に浮いたりできるんだぜ?」

 そう言ってユウイチは腕に絡みつくミューの頭を撫でて溶かしながら如何に凄まじい能力を持っているのかを説明したが、トオルはそれを見て小さく首を横に振った。

「それも確かに凄いのかもしれない。でも、それ以上に君とミューとがそんなに短い間に信頼を築けていることが凄いんだよ」
「そんなものなのかねぇ……」
「ポケモンは感情豊かだろ? 人間と同じぐらい色んな性格の奴がいる。そんな中でも伝説とか幻とか言われるポケモンってのは人前に全く姿をさらさない……要はそれだけ相手を見定めているんだ」

 そう言いながらトオルも少しだけミューの頭を撫でてから、自分のポケモン達を一匹ずつ優しく頭を撫でてゆく。
 トオルのポケモン達は皆、トオルに撫でられるとそれぞれ違う反応を見せてはいるものの、とても嬉しそうだ。

「普通のポケモンとだってしっかりと心を通わせて、本当に嬉しがっているのか、バトルが好きな子なのか、褒めた方が伸びる子なのか厳しくした方が伸びる子なのか見定めないといけない。俺のパートナー達だって今みたいに付き合えるようになったのは随分と時間が経ってからだったよ」
「そりゃあ……ただ仲良くなるってのと育てるってのは勝手が違うだろ? 俺はポケモンバトルとかはからっきしだからな」
「案外そうとも言えないよ。何事もまずは相手を知ることから始まる。そういう意味では、たったそれだけの時間でミューが伝えようとしていることを読み取れたり、逆に幻のポケモンがそれほどまでに心を開いてくれるっていうのは一種の才能だよ」
「う~ん……そんなものなのかねぇ……」

 トオルは謂わば現役のプロとも呼べる。
 そのトオルをもってしてもユウイチには凄腕のトレーナーになれる素質があると判断できるほどなのだが、当の本人とミューは眉を顰めて首を傾げている。
 ある意味似た物同士、気が合っただけなのかも知れないが、トオルはそんな様子のユウイチ達を見てただ笑っていた。

「まあ、なるならないはともかく、今はミューがいるんだ。その子を通してもう一度世界を見つめてみたらいいさ。ミューとは仲良くなれたんだ。他の子達だって時間を掛ければゆっくりと打ち解けてゆけるさ」

 そうして旧友との再会を楽しんだ時間はあっという間に過ぎてゆき、翌朝を迎えた。
 トオルはそのまま森でもう暫くはトレーニングを続けるとのことだったため、一番近い町の方角と地図上での位置を教えてもらい、トレーニングが終わった頃に今一度合流して食事でもしようという事になった。
 地元に顔を出すことも考えたが、ユウイチにとってもあまりいい思い出がある土地ではなかったため、一番近い町でいいだろうとの考えだった。
 スマホロトム全盛期の時代にユウイチが持っていたのは一世代昔の、しかもその中でも一番機能の少ない携帯電話であったため、既に契約を解除した現在は文鎮と化していたため連絡手段が無かった。
 一所に留まり続けないトレーナーが最新デバイスを何故持っているのか不思議でたまらなかったが、そういったトレーナーのライフスタイルに合わせて何処にいても問題なく使えるように技術の方も進歩しているというのを目の当たりにしたことで、ちょっとだけスマホロトムが欲しくなったが、あまり高価な物を買う余裕もないため当分は見送りになりそうだ。
 そうこうする内に久し振りの町。
 ユウイチが住んでいた町よりは閑散としているが、かと言って人気が無いわけでもない。
 ここ最近はミューが頭の上に居る事に慣れていたため、逆に頭が軽くなった事に少々の違和感を覚えながら街道沿いに歩いてゆくと、やはり人とポケモンの姿が散見される。
 ミューとの関わり合いでそこそこポケモンにも慣れたつもりでいたが、他人のポケモンの視線には未だ敏感で、視線を感じると思わず表情が歪んでいるのが自分でも分かった。
 決してそんなことはないと分かっているのだが、急に飛び掛られそうで視線を自分から離すまでは安心して歩くことができない。
 泊まれる場所を探し、荷物を預けて久し振りに軽くなった体に思わず飛び跳ねそうになったが、それよりも何よりも先に久し振りにシャワーを浴びたくなり、個室のシャワーを使っておよそ一月振りのお湯を楽しむ。
 身も心もさっぱりした所で真っ先に向かったのは近くの商店。
 ホテルでの食事は出るが、あくまでホテルを利用するのはその日だけで、基本は街に来てもテントで寝泊まりするのは変わりない。
 そのため缶詰やドライフードのような保存の利く食品を持てる分だけ買い溜める。
 結構な重量になるためあまり持たないようにするつもりだったが、ユウイチの中ではまだ腰を落ち着けられるかどうかが分かっていない状況であるため、まだ暫く移動は続ける予定だったからだ。
 買い込んだ物もホテルに置き、その中から昼食用の食材と調理器具だけを取り出して一度街の外まで行く。
 周囲の人気が無くなればミューが出てくるため、ミューのためにも食事は外で食べ、ホテルの部屋には勝手に人が入ってくることも考えられないため、食事を終えるとそのホテルへと呼ぶ事にした。
 いつもどのようにして煙のようにたち消えているのか不思議で仕方が無かったが、何もない空間に瞬時に現れた事で腰を軽く地面に打ち付けながらも理解した。
 ミューの身体も洗剤で綺麗に洗ってやり、久し振りにベッドで極上の眠りを味わったが、翌日からはすぐに仕事探しに切り替える。
 現状のユウイチなら多少ポケモンの絡む仕事でも大丈夫だろうと割り切り、そういったトレーナーでも募集している立ち売り等の店員の仕事を探す事にしたが、これも時代。
 今やポケモンが店番をしているような場所まであるので驚きだ。
 また日給制の仕事もトレーナーの場合は適性のあるポケモンを連れている事が前提だったりすることが多く、実質的に手持ちのポケモンがいないユウイチでは門前払いの状況が続いていた。
 しかしこれまでの経験からその程度のことでめげることもなく、次々と飛び込みで仕事を探す事数日、漸くトレーナーだけでも問題なしの仕事にありつけた。

「今日からここの売り場を任せるユウイチくん。商品と売り方だけ教えてあげて」
「うっす。おなしゃーす」
「客商売だからお客さんには丁寧にね」
「大丈夫っす。昔レジ打ちのバイトはしたことあるっす」

 掘立小屋のような家の前に行き、先輩と思しき人物から売り物の商品を見せてもらう。

「在庫はここにあるから。じゃんじゃん売っちゃって」
「コレ……なんすか?」
「ヤドンの尻尾。知らない? 珍味だよ」
「初めて見ました……」
「あー、加工前の食肉とか見た事無い子か。食肉用のポケモンとかって今の子は大分馴染み無いよね」

 今の子あるあるネタとひとまとめに捉えられて笑われたが、ユウイチからすれば食肉となったポケモンは急に襲ってくることもないためまだ安心できる。
 元々一人暮らしで自炊しているユウイチからすれば、残念ながらポケモンが食肉用に加工されている事実は知っているため今時の子供というわけでもない。
 だがそれで特に気分を害しているわけでもないためそれを口にするのは止めた。
 とはいえまさかあのぬぼーっとして何を考えているか分からないヤドンの尻尾を食べているとは思わず、袋詰めされて売られている商品もそのままの尻尾が入っていてかなりワイルドな見た目だ。
 お値段は一万円。

「じゃ、売り場はあそこだからよろしくね!」
「え? 俺一人で売るんですか!?」
「大丈夫大丈夫。問題起きた時は近くにいるから声を掛けて」

 そうとだけ言い残すとユウイチを連れてきた人も、先輩らしき人物もにこやかに手を振って売り場まで送り出した。
 ユウイチが戸惑ったのはいきなり一人で売り場を任されたことではなく、一万円というかなり高額な商品を今日入ったばかりの人間に任せるのが信じられなかった。
 近くにいると言っていたため、商品を盗んだりしないようには見張っているのかもしれないが、死角になる位置を探せば普通に誤魔化せそうなのが逆に心配になってしまう。
 とりあえず気を取り直して仕事に取り掛かった。
 元々そんなに一通りが多いわけではないためお客自体が少なかったが、一応売れてはいるようだ。
 商品に関してあまり知識がなかったが、どうも天然物はあまり手に入らないらしく、一万円もするが知っている人からすると相当安いらしく嬉しそうに買ってゆく。

「お疲れ様。はい。これ今日の給料」
「あ、ありがとうございます」

 そうして特にトラブルもなく初日のバイトが終わり給料を貰ったが、以前の工場での給料がバカらしくなるほど給料がいい。
 それに気を良くしてちょっとだけその日の夕食は奮発することにした。
 が、この時点で怪しいと気付いておくべきなのだったが、販売のアルバイトを続けること三日、その日も少しでも見栄え良くなるようにと商品を並べていた。

「きみ。ちょっとお話いいかな?」

 話しかけてきたのは警察。
 思わずこの場から逃げ出したかったが、それでは自分から捕まえてくれと言っているようなもの。
 まさか隣の地方まで逃げてきたのにもうこちらまで捜査の手が回ったのかなどと考えていたが、そんなわけがない。

「この商品。何処で仕入れたのか分かるかな?」
「え? ……あー、すみません。自分は商品の仕入れ先については分からないですね」

 てっきり自身の事について尋ねられるとばかりに身構えていたため、警察の質問内容に少々肩透かしを食らってしまったが、知らないのは事実であるためそのまま伝える。

「ならこの商品の在庫を管理している人とかは?」
「あ、それなら分かりますよ」

 そう答えて先輩の元へと戻ったが、倉庫はもぬけの殻。
 在庫もあったはずなのだが、どういうわけだか一つ残らず消えている。

「あれ? どこ行ったんだ?」
「あー……きみ、多分この辺りに来たばかりでしょ?」
「え!? まー……まあ……」
「で、バトルでの負けが込んでて、手持ちのお金が心許無くなってきたって時に、いいバイトの紹介とかで声掛けられなかった?」
「ま、まあそんなところですね……」

 思わず何処から来たのか聞かれたのかと思ってまた心臓が止まるかと思ったが、どうもまた事情が違いそうだ。
 すると警察はまるで同情するような表情を浮かべて深く溜め息を吐いた。

「実はね、この辺で似たような手口で無許可で捕獲したポケモンを食品用に加工した品物の販売が相次いでいてね」
「え? ポケモンの捕獲って許可が要るんですか?」
「普通にゲットする分には何も必要ないよ。食品として加工する場合は許可と申請が必要なんだ」

 まさかユウイチの知らない間にポケモンの捕獲自体が認可制になったのかと勘違いしたが、どうも聞く所によると、過去にポケモンの乱獲等が原因で数が激減したことがあったため、ポケモンの狩猟、所謂ハンター業をするためには活動する地域への申請が義務付けられているそうだ。
 そういった申請が無い場合は、ポケモンの密猟に当たり、罰則金の支払いや悪質な場合刑務所のお世話にならなければならないこともある。
 食品用のポケモンは所謂養殖が殆どであり、徹底的に管理された空間で育てられているため、必ず出荷元が分かるようになっている一方、天然物は現在では殆ど存在しない。
 単純に現代においてポケモンの狩猟そのものが可哀想だ、という観念が強いため自ら望んでハンターになる人間はかなり少なくなってしまった。
 故に天然物の食料品はそれだけで有名レストラン等がハンターと契約するほど珍しい商品になってしまったらしい。

「で、案の定君が売らされていた商品。生産元に問い合わせようとしてもそんな住所は存在しなかった。要は君は嵌められたわけだ」
「天然物と養殖物って全くの別物だったんだ……」

 すっかり食品事情に詳しいつもりでいたため、知識が仇となって足元を掬われたような気分だったが、この手の事情を知らない若者に店員をさせてボロ儲けをし、警察に見つかるとゴーストタイプのポケモンのように消えてしまう闇商売は多いらしく、今回の一件もロケット団の資金源となってしまっている事も教えてもらった。

「すみません! 俺本当に知らなくて……!」
「大丈夫大丈夫。素直に言ってきた時点でなんとなく察してたから。まあこの辺りじゃあんまり有名じゃないけど、隣の地方じゃ結構有名なあくどい組織なんだよ? ま、君も変なのに引っ掛からないように十分注意することだね」

 そう言うと警察は一応の厳重注意ということでユウイチを開放した。
 聞かなければいいものの、どうしても警察的に自分がどういう立ち位置なのか確認すると、単に騙されて悪事の片棒を担がされた青年という認識でしかないらしい。
 警察としてはユウイチはそれ以上言及するつもりもなく、その売り場と商品が保管されていたという倉庫の方が気になるようで、鑑識に情報を送っているようだった。
 それで無罪放免となったが、そうなると尚更何のために自分がわざわざポケモントレーナーの真似事までして地方一つを跨いで来たのか分からなくなるが、とりあえずまあただの下っ端よりも更にしたの使いっぱしりには見向きもしていないと分かり、心労が取れたのは事実だ。
 それを後にテントでミューにグチグチと言い続け、呆れられた表情を浮かべていたのは言うまでもない。
 ミューが愚痴を聞くのにうんざりして消えた頃、特にやることも無くなったがかと言って違法ではあったがかなり実入りのいいバイトでもあったおかげで暫くお金には困りそうもない。
 その上別にロケット団構成員として特に指名手配されていなさそうということまで分かったせいで、本当にやることがない。
 とはいえ今更元々自分が住んでいた町に戻ってももう働き口がないため、戻った所でどうしようもない。
 とりあえず働き口を探してまた各地を転々とする可能性もあるが、とりあえず今はトオルと合流するためにも動くことができないため、適当に散歩することにした。
 というのも、今ならミューとの出会いがあって、多少はポケモン慣れしてきたため、飛び掛ってきたりしない限りは避けようとしないように克服したいと考えていたからだ。
 そうなれば行く場所は一つ。
 最もポケモントレーナーとポケモンが集まる中央広場だ。
 今日も今日とて近所から老若男女問わず、ポケモン好きが集まって互いのポケモン自慢をしたりバトルに勤しんだりしている。
 分かってはいたが、この場所はユウイチにとって全く気が休まらないが、とはいえ心持ち昔よりも余裕があった。
 そうして少し遠くから公園の様子を見ていると、ユウイチでもふと懐かしい気持ちにはなる。
 あまりいい思い出ではないが、自分にもポケモンが好きだった時代があるのだと思い出せる。

「また……そうなれたら……」
「ガウ!」

 遠くを眺めながらそんなことを呟いていると、ふと足元からそんな鳴き声が聞こえてきた。
 ちらとそちらへ視線を送ると、キラキラと瞳を輝かせたポチエナが腰ごと持っていかれる勢いで尻尾を振っている。 

「ばぁぁあ!?」

 変な悲鳴と共にポチエナから斥力でも発生しているのかと言うように転げ落ち、そのまま急いで逃げ出す。
 だが、ポチエナは相当ユウイチが気になっているのかキラキラとした瞳のまま楽しそうにユウイチを追いかけていく。

『ああ、そういえば小さい頃もこうやってよく追いかけられたなぁ』

 等と訳の分からないことを不意に思い出しながらとりあえず曲がり角まで逃げ、一度呼吸を整えてから振り返ると、やはりまだいる。
 逃げると更に追ってしまうのがポチエナの性分である事を知らないユウイチはそのまま息が上がるまで無我夢中で走り続けた。
 漸く逃げ切れたユウイチはそこで少し休む事にしたが、妙に懐かしい経験を繰り返したせいか、河川敷に腰を下ろすととても懐かしい風景に感じる。
 昔はゲンにポケモンをけしかけられた後は大体河川敷に来ていた。
 人もポケモンもあまりいない河川敷は少年だったユウイチが一人で泣くのには丁度いい場所だったからだ。
 ふと落ち着いて周りを見渡してみると、近くに泣きべそをかいている少年の姿があった。

『おいおい……穏やかじゃねぇなぁ。昔の事を思い出してる時に限って泣いてる少年を見かけるなんて……』

 そんなことを考えているといてもたってもいられず、思わず少年の元へと歩み寄った。
 見るにどうも喧嘩でもしたのか、あちこち怪我をしている。

「どうした? ボウズ。喧嘩でもしたのか?」

 声を掛けると少年は振り返らずにただ首を横に振る。

「やせ我慢するな。どう見ても怪我してるじゃねぇか。何があったんだ? 言ってみな」
「……ポケモンにやられた」

 詳しく話を聞くと、どうも近所の悪ガキの標的にされているらしく、毎日のように虐められているそうだ。
 とても他人事には聞こえず、親身に話を聞いている内にユウイチの心にふつふつと怒りが沸いてくる。

「よっしゃ! ならポケモンの撃退方法を教えてやる!」
「で、できるの?」
「ああ! いいか? ポケモンだって生き物だ。例え人間の力でも急所を攻撃されれば怯むもんだ」

 そう言ってユウイチはその少年にポケモンの撃退方法を教え始めた。

「俺も聞いた話なんだが、どんな生き物も弱点ってのは一直線に並んでるらしい。頭、特に目と鼻。腹、股間。これが急所だ」
「うん」
「んで、噛み付いてくるような奴なら、ビビらずに腕とかを構えて待って、鼻っ面をぶん殴る。これで大体の場合は怯む」
「痛くないの?」
「そりゃあ痛いさ。でもそこで耐えればもうそれ以上痛い思いはしなくて済む」

 少年に次々と対ポケモン用の撃退方法を伝授してゆき、対策を教えてゆく内にふとユウイチも昔、ふらりと現れたお兄さんに同じ事を教えてもらった事を思い出した。
 その時教えてもらったようにその少年にも教えてゆく内に元気を取り戻してきたのか、少年の表情は少しだけ明るくなったような気がした。

「これでもう大丈夫だな」
「うん! ありがとうお兄ちゃん!」

 そう言ってすっかりと元気になった少年は手を振りながら走り去ってゆく。
 が、そこで自分の経験上、一つ大切な事を伝え忘れていることに気が付いた。

「そうだった……! ってもういねぇ……。あんまり調子に乗ってやってると、逆に周りに乱暴者のレッテル貼られるから程々にな~って言うべきだったんだが」

 ユウイチも以前、教わった通りにやったら上手い具合にポケモンを撃退することができた。
 それで調子に乗って毎度同じように撃退していたのだが、一部始終だけを見られていたのが原因で『ポケモンに暴力を振るう野蛮な子供』という認識になり、親経由で随分と叱られたのを今でもよく覚えている。
 自分がポケモンにやられた時は悔しくて恥ずかしくて誰にも言わないようにしていたのが災いし、その時になって先に向こうがポケモンをけしかけてきた、と訴えても相手側の親が「こちらを見るなり腹いせで急にポケモンを虐めてきた」と主張してきたのが原因で信じてもらえなかったのだ。
 せめて結末までそっくりユウイチと同じ目に遭ってほしくはないが、名前も聞いていない少年を探し出してそんな事を伝える術もない。
 諦めて自分も公園の方へ戻ろうと来た道を帰ってゆく。

「ルビィ」

 角を曲がるとそんな声が何処からか聞こえてきた。
 近くを見回すと視界の端を何かが通ったため、そちらをチラリと確認する。

「なんだあれ? 玉ねぎが空を飛んでるのか?」
「ルビィ!!」
「おわぁ!? アレもポケモンかよ……」

 振り返った先には玉ねぎらしき物体が羽を生やして飛んでいたため、思わず思ったことを口にしたがしっかりと聞こえていたらしく、その玉ねぎは随分と怒った様子で一つ鳴き、そのままプイと向きを変えて何処かへと飛んでいってしまった。

「玉ねぎじゃないんなら何なんだよ……」

 なんと呼ぶべきだったか一人でぼやき、道を進んでゆくと、結構公園の位置から離れていた気がしたがあっという間に公園まで戻ってこれた。
 が、その間に随分と公園の様子は様変わりしてしまっていた。
 和気藹々とした様子が一転、一つのバトルエリアだけに人が集中しており、それ以外の場所に居た人間は皆帰ってしまったようだ。
 そしてその場所へと足を運ぶと、どよめきのような声とバトル中なのか、技の応酬と乾いた打撃音のようなものが聞こえる。

『まさか……さっきの少年じゃないよな?』

 観衆を分け入り、バトル場が見える場所まで入るとそこには先程の少年の姿は無く、代わりに短パンのよく似合うまだ若い少年とそのポケモンが正にバトルの真っ最中だった。
 いや、それはバトルと呼ぶには相応しくなかっただろう。
 相手のトレーナーが一方的に蹂躙し、少年はポケモンを引っ込めると泣きながらその場所から駆け出してしまった。

「おいおい。お前が言い出したんだろ? 逃げんじゃねぇよ雑魚!」
「あいつは……!」

 対戦相手のトレーナーが余裕の表情を浮かべて逃げ出したトレーナーの背中に言葉を浴びせていた。
 しかし、そのトレーナーの顔をよく見た瞬間、ユウイチはすぐにそれが誰だか分かった。
 有名なトレーナーなど一人も覚えてなどいない。
 だが毎日のように聞き続けていたあの癇に障るしたり声と憎たらしい表情は忘れろと言っても忘れられないだろう。

「ゲン!! テメェまだこんなくだらねぇことやってやがるのか!!」
「あ? 誰だお前?」
「ユウイチだ。忘れたとは言わせねぇぞ」
「あぁ~wあのポケモンも持ってない雑魚か! よくこんな場所に顔を出せたもんだな?」

 ゲンの方は言われるまでユウイチの事を忘れていたらしく、鼻で笑いながら見下している。
 久しく忘れていた顔を見て一気に頭に血が昇り、思わず奥歯を噛み締める。

「懲りてねぇならもう一回分からせてやろうか? あ?」
「なんだお前。人に文句付けてるくせにお前も暴力少年のままかよ。言っとくがな! 俺はお前と違ってここらで一番のトレーナーになってんだよ!」
「親の脛を齧ってなきゃ何もできないボンクラが何偉そうに一番気取ってんだよ!!」
「ほざけ! ポケモン一匹すらまともに手懐けられてない社会のゴミがエリートトレーナーの俺様に何言っても効きやしないんだよ!!」

 あいも変わらず憎まれ口の減らないゲンを前にしてそうそう長くユウイチの堪忍袋が持つはずもなく、思わずバトル場の中へと駆け出したが、すぐさまゲンはモンスターボールを投げてヘルガーを繰り出してきた。
 普段のユウイチならばあくタイプのポケモンを目にすればすぐにでも恐怖で逃げ出していたところだろう。
 だが、怒りと昔の記憶が鮮明に思い出されていたことでそのまま怯むことなくゲンの方へと走ってゆく。

「バカが! そう来ると思ったよ! ヘルガー! 噛みつけ!」
「ガウ!」

 命令と共にヘルガーはユウイチの前へと立ちはだかり、牙を剥き出して飛び掛ってきた。

「バカはどっちだ!!」

 しかしユウイチは冷静だった。
 昔同じように駆け寄り、ゲンが何かをする前にゲンをボコボコにしたことがあった。
 少年の時に教えてもらったのはポケモンの撃退方法だけではない。
 ポケモンはあくまでトレーナーの命令に従っているだけだ。
 そのため手っ取り早い話、わざわざポケモンを出してくるのを待つよりも、さっさとトレーナーの方を叩きのめした方が早い。
 それが原因でユウイチはゲンがポケモンをけしかけてくると毎度の如く、ポケモンをさっさと撃退して慌てふためくゲンの方を殴り倒していたが、その戦法が仇となって暫く家に引き篭る原因となったのだが。
 今回はそれを逆手に取り、敢えてゲンを直接叩きに行くように見せかけてヘルガーへ指示を出させた。
 お互いに大きくなっている以上、殴られたところですぐさまポケモンに指示を出されるのが分かっている。
 そのためまずは今出ているヘルガーの戦意を喪失させなければ大怪我では済まないだろう。
 事前に上着を巻き付けた右腕をヘルガーに向けて差し出し、噛み付きをそれで受け止める。
 そして間髪入れずに鼻っ面を思い切り殴り飛ばした。

「キャイン!」

 悲痛な鳴き声を上げてヘルガーが離れたが、容赦無く腹部に蹴りを叩き込む。
 逃げ出す前にもう一度右腕で押さえつけて何度かヘルガーの顔へ向けて拳を振り下ろし続けると、流石に我慢ができなくなったのか全力でユウイチの身体を押しのけて何処かへと走り去ってしまった。

「おい! バカ! 何人間相手にビビってんだ! 戻ってこい!!」

 逃げ出したヘルガーを呼び戻そうとしているが、急に人間に殴られた経験が無いせいか完全に戦意を喪失しており、戻ってくる気配がない。
 それを見てすぐさまユウイチはゲンの方へ走り出したが、ゲンもそれにすぐに気が付き、舌打ちをしながらすぐに別のボールを取り出した。
 あともう少しで殴りかかれる位置だったが、すんでのところでポケモンを出されてしまったため、すぐにユウイチはそちらの方を向き直したが、出てきたのは想像よりも遥かに大きなポケモンだった。
 身の丈は人間を優に越えており、急に山でもできたのかと疑う程の大きなポケモンの影にユウイチは立っていた。

「バンギラス! そいつを追っ払え!!」
「バギュア!!」

 その山のようなポケモン、バンギラスは指示の通りに巨大な体躯を活かしたテイルスイングを繰り出し、反応の遅れたユウイチの身体をバトル場の方へと吹き飛ばした。

「な、なんだよ……そんなクソでかいのもいんのかよ……」
「止めだ! バンギラス! 破壊光線!」
「は? ちょっと待」

 痛みで身動きの取れない状態のユウイチに対し、ゲンは無慈悲にも追撃の指示を出した。
 大きく開かれた口に膨大なエネルギーが集まり、巨大な光線としてユウイチへと放たれる。

『あ、無理だこれ。死んだ』

 爆音と共に凄まじい土煙が巻き起こる。

「へっ。雑魚が調子に乗んじゃねぇよ! ……あ?」

 土煙が晴れると、そこにいたのは地に伏せたユウイチと、巨大なバリアでそのユウイチごと包み込んだミューの姿だった。

「な、なんでミュウがこんなところに!?」
「ミュー!? お前、なんでここに!? まさか……ずっと近くで見守っててくれたのか……」
「ミュ」

 自らが何故か無傷だったことに驚き、そして更に絶対に人前に姿を晒さないと思っていたミューが自分のために間に割って入ってくれていた事に更に驚かされた。
 ミューは誇らしげな表情を浮かべてふふんと鼻を鳴らしてみせ、すぐにゲンとバンギラスの方へと向き直した。

「なんで手前ぇみてぇな雑魚が幻のポケモンなんか持ってんだ!!」
「ミューは俺のポケモンじゃ……!? そ、そうだよ! テメェみたいな井の中のニョロトノと一緒にしてもらっちゃ困るぜ!」

 ゲンの言葉に思わずミューが自分のポケモンではないことを言いそうになったが、ミューの登場で頭に昇っていた血が引いたユウイチはすぐさま自分の言葉を訂正した。
 ミューは本来こういう場には決して姿を晒したくない。
 ここで更にミューがユウイチのポケモンではない等と言えば、一瞬で標的はユウイチからミューの方になるだろう。
 挑発することでなんとか誤魔化したが、かと言って状況は好転していない。

「ミュー! 出てきてもらって悪いが、俺はバトルなんてまともにやってない。まともに指示が出せないと思うが、自分である程度は何とかできるか!?」
「ミュッ!」

 ミューはユウイチの言葉に対して任せろとでも言うように一つ、強く鳴いて答えたが、口にした通りユウイチはまともにバトルなどしたことがない。
 当然ポケモンの事など調べてすらいないため技もどんなものがあるのか知らないため、ミュウに自分でユウイチが言っていることをなんとなく理解して技を使ってもらうしかない。

「糞が! だったらバトルの腕で分からせるまでだ! バンギラス! 破壊光線!」

 ゲンの指示でバンギラスは今一度口にエネルギーを溜めてゆく。

「まずいまずい! ミュー! もう一回さっきのやつだ!」
「ミュ!」

 バンギラスの光線が放たれ、着弾するよりも早くミューはバリアを張って攻撃を防いだ。

「ミュ!」
「え? え、あ……ええと……」

 早くとでも言うようにミューはユウイチに鳴いたが、ユウイチはそれどころではない。
 まさか自分がまたバトルをすることになるとは思っていなかったため、興奮と恐怖の二つの感情が入り混じってまともに頭が回っていなかった。
 それっぽい技名も出てこないため、必死に何か指示を出さなければならないと考えを巡らせ、一つ閃いたように手を叩く。

「ミュー! あいつが撃ってきたみたいにお前もなんか得意そうな技!」
「ミュ~……」
「仕方ねぇだろ! トオルと違ってこちとら知ってる技のレパートリーなんて鳴き声、尻尾を振る、体当たりみたいなので止まってんだよ!」

 あんまりにもあんまりなふわっとした指示にミューは呆れた表情を浮かべているが、言った所で仕方が無い。
 少しミューは考えた後、いつもの青い光ではなく紫色の光を纏い、それをバンギラスへ向けて放つ。
 バンギラスの方は少しだけ周囲の様子に戸惑っていたが、特に何も起きなかったことで先程放った破壊光線の熱を体外へ放出し続けた。

「何かと思えばサイコキネシスじゃねぇか! タイプ相性も知らないアホにミュウなんて使いこなせるわけねえだろ!! バンギラス! もう一回破壊光線だ!」
「タイプ相性ってなんだよ!! 知るかよ!! 仕方ねぇ、ミュー! もう一回さっきのやつ!」

 排気が終わると同時にバンギラスは再度エネルギーを溜めて放ち、同じようにミューも攻撃をバリアで防ぐ。

「ミュー! こう……なんかこう、ビャーってあいつみたいに飛ばせる技無いのか?」
「ミュ!?」

 折角の攻撃のチャンスも余りにも抽象的すぎるユウイチの指示で全くもって意味が通じておらず、ミューの方が困惑しっぱなしだった。
 なんとかユウイチの言うような技がないか自分で思考を巡らせるミューだが、当然相手はそう長くは待ってくれない。

「しゃらくせぇ! 地均しだ!」

 聞き慣れない言葉を聞いてユウイチは動きが止まる。
 先程までと違う攻撃ならもしかすると防げないかもしれない。
 そう考えて技が発動するまでユウイチはじっと見ていたが、バンギラスが地面を踏みしだくと周囲に衝撃波が広がってゆく。

「やっべ……うおぉ!?」
「ミュ」
「わ、悪い。助かった」

 本来ならばトレーナーの位置まで衝撃波は届かないが、ユウイチはバトルエリアにそのままいたため危うく衝撃波に巻き込まれるところだった。
 しかしミューがユウイチごと素早く空へと飛び上がってその衝撃波を躱した。

「舐めやがって……! バンギラス! ロックブラストで撃ち落とせ!」

 空に浮いて躱したのも束の間、すぐさまバンギラスは岩を撃ちだしてきた。
 先程までと攻撃のテンポの早やが違うせいでユウイチもミューも慌てていたが、すぐにそのまま空を飛び回って上手く飛んでくる岩を全て躱して地面へと着地した。

「あ、あんな技もあるのか……。そうだ! ミュー、お前もあんなふうに弾を打ち出せる技はないのか?」
「ミュッ!」

 岩が撃ちだされたのを見てユウイチはまた別の閃きを得て、同じような技を出すように指示を出すと、ミューも思い当たる技があるのか閃いたような顔をして身体の横に腕を構える。

「ミュ~~……ミュ!!」

 そこへ青い光が集まってゆき、一際輝くと大きな青い光弾となって放たれた。
 バンギラスは避ける間もなくその光弾が直撃し、大きくよろめく。

「波動弾だと!? クッソがぁぁ!! そう何度も何度もまぐれを引き当てられてたまるか! バンギラス! トレーナーの方に悪の波動だ!!」
「なっ!?」

 ゲンの指示に合わせてバンギラスは全身から黒いオーラを纏い、それを波のように解き放つ。
 知らない攻撃にユウイチはまたしても身動き出来なかったが、ミューがすぐにまた間に割り込んでバリアを張ったが、今度の攻撃はそのバリアでは防ぐことができず、ミュー諸共に黒い波で吹き飛ばした。
 強力なエネルギー波の攻撃でユウイチもミューも吹き飛ばされたが、外傷はそれほどでもない。

「ミュー!? ミュー! 大丈夫か!?」

 急いでユウイチがミューの方に駆け寄るが、ミューは苦しそうな表情を浮かべて起き上がる気配がない。
 波動の影響で身体的には影響が一切無いが、確かにユウイチも身体は先程よりも気怠くなっている。
 ミューにとってはそれがかなり堪えたのがすぐに分かり、苦しそうに息を荒げているミューの身体を引き上げてただ名前を呼ぶしかできなかった。

「今度こそ止めだ……! バンギラス! 破壊光線……」
「ハヤテ! インファイトだ!」

 今一度ゲンの指示を聞いて破壊光線の姿勢に入ったバンギラスの懐に観客を飛び越えて青いポケモンが飛び込み、そのまま間髪入れずに凄まじいラッシュを叩き込んだ。
 苛烈な打撃の連続でバンギラスは遂に姿勢を維持することができず、後ろへと倒れこむ。

「誰だ!? 俺のバンギラスに……!?」

 突然現れた第三者に勝利を確信していたゲンは苛立ちを顕にしていたが、視線の先にいた人物を見てすぐに顔色を青くした。

「騒がしいから急いで来てみれば……。ゲン。お前は自分が何をしたのか分かっているのか?」
「ト、トオル……!? なんでお前がここに居るんだ!?」

 ユウイチとの勝負に割って入ったのは他でもないトオルだった。
 バンギラスを打ちのめしたポケモン、ルカリオのハヤテはすぐさまトオルの横へと戻って、戦闘態勢をとる。

「俺は修業中だから暫くは町に戻らない……。確かにそう言ったがユウイチに出会ったからキリのいい所で一旦切り上げてきただけだ。……まさかそのおかげでこんな事態になっているとは気が付かなかったがな」
「こ、これは……ほら……ちょっとした冗談というか……」
「ちょっとした冗談。でトレーナー諸共破壊光線で吹き飛ばすつもりだったのか? 今回の件、言い逃れ出来ると思うなよ?」

 怒りを抑えているもののその表情は目に見えて怒っており、語気を荒くしない事が精一杯だった。
 するとゲンはひっと小さく叫び声を上げるとすぐさまその場から逃げ出した。

「アイツ……またポケモンを置いて逃げ出しやがった……。ユウイチ! 無事か!」

 ぐったりとしたバンギラスと慌てふためくヘルガーはトレーナーが何処かへと行ってしまい、ただその場でオロオロとし続けるしかなくなっていた。
 そんな様子のポケモンを見てトオルはがっくりと肩を落としたが、今はそれどころではないことを思い出してユウイチへと駆け寄る。

「ト、トオルなのか!? どうしよう! ミューがぐったりして……このままじゃ……」
「……大丈夫だ。技の影響でもうこれ以上は戦えないってだけだ。すぐにポケモンセンターに連れて行けば元気になる」
「ほ、本当なのか!? 大丈夫なのか?」
「安心しろ。ポケモンは人間よりも丈夫だ。その程度じゃ死なない。ただ放置するのは良くないからすぐに連れて行こう」




 動揺するユウイチを落ち着かせてすぐさま近くのポケモンセンターへと連れて行った。
 トオルの言った通りミューは預けてすぐに元気になったが、寧ろもっと危険な状態だったのはユウイチの方だ。
 幾ら服越しとはいえポケモンの噛み付きをまともに喰らったユウイチの腕は骨にヒビが入っており、悪の波動の影響かかなり長い間眠り続けていたらしい。
 結局トオルとユウイチの再会を祝うのはユウイチの怪我が治ってからにすることとなり、暫くは安静にするように言い渡された。
 その間にトオルはこれまでずっとゲンの悪行をポケモンリーグ委員会等に言い上げていたが、親の影響で全て有耶無耶にされていた事を今回の事件の終始を録画していた一般人の情報を元に動かぬ証拠として突きつけた。
 ポケモンバトルにおいてトレーナーへの直接攻撃は全面的に禁止されている事もあり、これは例えどれだけ金を積まれようとも刑事沙汰にすると脅した事でなんとかゲンを委員会から追放することに成功した。
 とはいえ結局、この周辺ではエリートトレーナーではなくなっただけで、また別の場所へでも行けばトレーナーを名乗れてしまうが、これでゲンも少しは大人しくなるだろう。

「……ということで。なんだかユウイチを利用するような形になったけど、ゲンももうこれでこの辺りではでかい顔は出来なくなったよ」
「そうか……悪いな。俺のせいで色々と迷惑を掛けた」
「なんでお前が謝るんだよ? 悪いのはゲンとアイツをずっと野放しにしてたリーグ委員会と親だ。とりあえずこれで俺も一つ肩の荷が下りたよ」

 事の顛末をトオルから聞き、二人揃って深く溜め息を吐いた後、ユウイチはすぐに顔を上げた。

「まあその件は分かった。た! だ! なんでこの二匹が俺の目の前に並んでるんですか?」

 ユウイチはそう言いながら、目の前でちょこんと行儀良く座っているヘルガーとバンギラスを指差した。

「そりゃあアイツが置いていったから俺が一緒にポケモンセンターまで連れてきたんだよ」
「じゃあ返しに行けよ!! 人のポケモン取ったらドロボーなんだろ!?」
「仕方ないだろ! アイツはバトルに負けるといつもこうだ。負けたポケモンのせいにして全部その場に放置していく……。だからもうこいつらは誰のポケモンでもないんだよ」
「じゃあ自然に返してやれよ!! なんで連れてくる必要があるんだよ!!」

 トオルの言葉を聞いてユウイチはいちいちツッコミを入れていたが、最後の言葉を聞いてにやけたまま話していた表情を止めた。

「ユウイチ。ポケモンってのはなんだと思う?」
「めっちゃ怖い生き物」
「即答するのを止めろ」

 ユウイチの質問に対して至極真面目に、若干食い気味にユウイチは返答したが、トオルは冷静にそう言い、一つ深く溜め息を吐いた。

「ただまあその通りだ。ポケモンってのは生き物であって道具ではない」
「正直道具の方が絶対に好き勝手動かない分信頼できる」
「いいから最後まで黙って聞け。こいつらはな、道具同然の扱いを受けてたんだよ」

 ゲンに限らず、一部のトレーナーはポケモンを自らの強さを測る道具のように扱う者がいる。
 こういったトレーナーはポケモンの特性である、人間の指示に従おうとする性質を悪用する。
 激しい体罰によってポケモンの心を恐怖で支配し、如何なる指示にも不服従にならないようにする。

「話を聞いてすぐにピンときたよ。あくタイプのポケモンであるヘルガーがたかだか人間に数回殴られただけで普通は戦意を喪失したりしない。あくタイプってのは特にな」
「そうなのか」
「高い凶暴性を誇るあくタイプはトレーナーを見定めることすらある。トレーナーが主人として不足していると感じれば襲われることもあるほどだ。そんなあくタイプのポケモンがあれほどまでに怯えるってのは尋常じゃない。俺達の知らない所でこいつらはどれだけ酷い暴力を受けていたのか……とてもじゃないけど想像も付かないよ」

 そう言ってトオルは目の前で大人しくしている二匹の方へまた視線を送る。
 ユウイチもそれまで可能な限り視線を合わせないようにしていたが、何度か深呼吸をしてからチラリとヘルガーの方へと視線を向ける。

「撫でてみな。すぐに俺の言っていた意味が分かる」
「そんなご無体な」
「これは真面目な話だ」

 トオルが決して冗談やユウイチに克服させようとしているために言っていないことが分かり、意を決してヘルガーの頭に手を伸ばす。
 すると先程まで静かにユウイチの目を見ていたヘルガーが首を窄ませ、目をしっかりと閉じていた。
 まるでユウイチがそうしていたかのようにヘルガーもユウイチの手から可能な限り離れようとしているように見える。
 その瞬間、ユウイチにはトオルが言っていた通り、意味が理解できた。
 今までただ恐怖の対象でしかなかったヘルガーが必死に人間を避けようとしているのに、その場からは決して逃げ出そうとしない。
 自然と恐怖は消えていた。
 そっと優しく触れるようにヘルガーの額に触れるとビクンと身体が一際大きく動き、その後触れた手には常に振動が伝わってきた。
 それほどまでにヘルガーにとって、人間の手とは恐ろしい存在なのだ。

「怖かったんだな……」

 触れることさえ恐ろしかったポケモンが、自分と同じように人間を恐れて震えている。
 その事実はユウイチの心を動かすには十分だった。
 気が付けばそっとヘルガーの身体を抱きしめていた。
 全身が硬直し、触れ合っている場所全てを通して恐怖が伝わってくる。

「大丈夫だ……。もうお前をそんな目に遭わせる奴はいない。大丈夫だ……」

 言い聞かせるように囁き、ヘルガーの震えが収まるまでずっと抱きしめ続けた。
 続いてバンギラスの方も同じように撫でようとしたが、こちらは自分から頭を下ろしているのに震えていた。
 そうするようにずっと暴力を振るわれ続けたのだろう。
 それから何時間ほどそうしていたのか分からないが、その二匹の震えが取れるまでずっと優しく撫で続けていた。

「ユウイチ。やっぱりお前にはトレーナーの才能が有る。お前がゲンのせいでポケモンが嫌いになったのは知っているが、それでもきっとお前ならいいトレーナーになれる」
「鳴き声と尻尾を振ると体当たりしか知らなくてもか?」
「知識なんてのは幾らでも勉強すれば手に入る。……だが、ポケモンの心を理解してやれる気持ちは勉強では得難い」
「……いや。俺はポケモントレーナーにはなれない」
「冗談で言っているわけじゃ……」
「真面目な話だ」

 ユウイチをトレーナーとして推すトオルの言葉を遮るように、ユウイチは真剣な表情でそう答えた。

「ミューがぐったりしたのを見て、トオルはすぐに大丈夫だと言った」
「ああ、あの程度なら命にも別状が無いのがすぐに分かったからな」
「俺はあのままミューが死ぬんじゃないかって……ポケモンセンターに連れて行って、元気になったミューを見ても、まだずっと手が震えていたんだ」
「ユウイチ……」
「今だってそうだ。こいつらは今、必死に恐怖に立ち向かおうとしてる。本当は俺の手を払い除けて逃げ出したいはずだ。……そんな奴等を、例えどんな理由があったとしてもまた恐ろしい目に遭わせたくない。バトルだってそうだ。俺は昔もポケモンを直接殴ったりしてたから分かる。痛いし怖いんだ。お互いにな。きっと戦って高め合うのが好きな奴だっている。でも俺やこいつらは……そうだとは思えないんだ」

 ユウイチの言葉を聞いて、トオルはそれ以上言葉を返すことはなかった。
 それがユウイチの本心であり、トオルには見えていなかった世界だからこそ、無理強いをするべきではないと分かっていたからだ。

「なら、一つだけお願いがある」
「どうせこいつらを連れて行けって言うんだろ?」
「お見通しか……。こいつらは見ての通り、人間によって心を恐怖で支配されてしまっている。こうなったポケモンは厳しい自然では生きていけない」
「そうだな。せめてこいつらが自然で生きていけるようになるまでの間だったら……俺が面倒見てやってもいいかな?」
「ありがとう。……それと悪かった」
「いいよ。多分、お前の言う通り、あんな過去がなけりゃ俺もお前と切磋琢磨するようなトレーナーになってたかもしれないからな」

 そう言って二人はこれ以上、トレーナーに関する事は話さないようにした。
 漸く元々の予定通り、これまでの二人の事を話しながら、夜は静かに更けていった。


ロケット団のゆううつ 下


あとがき [#8HTWYAs] 

ということで私でした。
こちらは正直全く隠すつもりもなく、ただただ書きたいものを書いたのでちゃんと最後まで書ききれて良かったです。
ミュウってすごく手触り良さそうだよね
けもを

以下大会コメント返し
>>よかったです

ありがとうございます。

>>ポケモンが苦手な青年が、小さなきっかけから苦手を克服していき、何時しか好きと言えるようになるまでの過程が美しいです。

ありがとうございます。
人生はどんなきっかけでどう転ぶか分からないので、是非そうありたいですね。

>>スクロールする手が止まりませんでした
  素敵な作品でした

そう言って頂けたならありがたい限りです。
あまり一般作品を書かないので今後とも一般作品で唸らせたいですね。

それではまたどこかで。


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Last-modified: 2023-01-16 (月) 00:50:42
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