作・雪猫 ?
Lugia's Heart - Prologue
「おい、ここが例のクリスタルがある鉱山か?」
「あぁ、そうだ。今は発掘が条約で禁止されてるせいで稀少だからな。盗めば高く売れるぜ」
暗闇に包まれた旧グラン=クォーツ鉱山。その入口で、男二人が何やら話している。
入口といってもそこはフェンスで堅く閉じられていて、一般人は入ることができない。
「60年前に閉山したままらしいからな。まだ何か残ってるかもしれない」
「もし見つかったら一生遊んで暮せるぜ!」
鉱山荒らしの様だ。二人とも背中には自分の背中よりも大きいリュックを背負っている。
片方の男がリュックから何やら工具を取り出している。その工具でフェンスを壊し、中に入ろうとしている。
男二人がフェンスへ近づいたそのとき、突然目の前に“マントをかぶった誰か”が現れた。
「お前達そこで何している。ここは立ち入り禁止だ。直ぐに立ち去りなさい」
“マントをかぶった誰か”は男二人に警告した。
しかし、男たちは帰る素振りを見せない。
「うるせぇなぁ、このガキが、邪魔なんだよ。そこをどけ」
“マントをかぶった誰か”はまだ背が小さく、子供の様に見えた。しかし、屈強な男二人相手にひるむ様子もない。
それどころか男達を睨んでいるようにも見える。
「ここから先は何人たりとも入れる訳にはいかない」
「なら、力づくでも退いてもらおうか……行け!サイドン」
1人の男がサイドンを出した。
鉱山で穴を掘らせる為に持ってきたそのサイドンのツノは酷く傷ついていた。
「今ならお前を助けてやってもいいぜ?どうするよ?」
男は脅せば直ぐに逃げ出すだろうと思っていた。相手がまだ子供だと油断していたからだ。
しかし、“マントをかぶった誰か”は逃げ出すどころか男を憐れむような眼で見ていた。
「仕方ない……おいで……ルギア……」
そう言うと突然、白い何かが舞い降りてきた。
それは伝説のポケモンと呼ばれ、普段は決して目にすることのないポケモン。
ルギアが現れた。
急に空が荒れだした。
横殴りの雨が降ってくる。
「おい、何だあれは……そんなのありかよ……」
「あいつ、ルギアを持ってるのかよっ!」
雨足は尚も強くなってゆく。
まるでここだけ台風が来たかの様に。
「やばいって!逃げようぜ!」
「何言ってるんだ!折角ここまで来たんだ、引き下がれるかっ!」
「俺は……俺は……死にたくない!」
片方の男はルギアを見て逃げ出してしまった。
「くそっ、逃げやがって!腰抜けがっ」
ルギアが男を睨みつける。
男は一瞬たじろいだが、直ぐに持ち直しサイドンに指示をする。
男はもうヤケクソだった。
「ここまで来て今更逃げられるか!サイドン、つのドリルだ!」
「ルギア、エアロブラスト」
サイドンがつのドリルを仕掛ける。が、ルギアのエアロブラストの方が若干早かった。
エアロブラストが直撃し、サイドンは吹き飛ばされて気絶した。
「おい、サイドン!しっかりしろ!」
男がサイドンをモンスターボールに戻す。
“マントをかぶった誰か”が男に近づいていく。
男はあまりの恐怖に腰を抜かしてしまった。
「早くここから立ち去りなさい……。そして二度と近付くな!」
マントから覗かせるその冷たい眼差しは、ハブネークのへびにらみに匹敵するものがあった。
「ひ、ひ、ひぃぃぃ!誰か助けてくれぇぇぇぇ!」
男は情けない声を出して逃げて行った。
「帰ろう……ルギア……」
“マントをかぶった誰か”はルギアと共に闇に消えていった。
辺りは何事も無かったかのように静寂に包まれた。
今日は満月だった。