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ルギアの心第2話 - 地中の大迷宮

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ルギアの心第2話 - 地中の大迷宮 


作・雪猫 ?

執筆中
09/10/15 - 2-6更新

前・ルギアの心第1話 - ようこそセント・クリストへ!
登場人物についてはルギアの心・設定資料 ?をご覧ください。


Lugia's Heart - 2nd - 地中の大迷宮
2-1

物心ついた時からアスカはフレインにこう教えられていた。グラン=クオーツ鉱山には誰も入れてはならない、と。
初めてポケモンを貰った時にはこう言われた。鉱山の中にはまだクリスタルがあるから、それを狙っている悪い奴らがいるからお前が守りなさい、と。
それがアスカに課せられた使命だ、と。

アスカにはフレインの言っている事がよく分からなかった。

ある日フシギダネのフォーラ、ヒトカゲのレックス、ゼニガメのアリアスと一緒に鉱山入口まで来ていた。
入口はフェンスで固く閉じられ、隙間からその先を覗くが真っ暗で10m先も見えない。

アスカの興味は鉱山の中にあった。
きっと奇麗なクリスタルがあるんだろう、と、フェンスを掴んでは無理やり開けようとした。
フォーラがやめた方がいいよとアスカを止めるがアスカは止めなかった。
レックスも一緒にフェンスを掴んではがしがしと揺さぶっていたが、まだレベルの低いレックスにはどうする事も出来なかった。
当然十一歳の女の子の力では開く筈も無く、肩を落としながら歩いていると、何者かがアスカの前にやってきた。

その男は工具がはみ出た大きなバッグを持っていて、腰には数個のモンスターボールを付けていた。
アスカは慌てて草陰に隠れる。
フォーラ、レックス、アリアスもアスカに続いて草むらに飛び込んだ。

その男はフェンスの前に立つと、徐に工具を取り出し何やらし始めた。
風も吹いていない鉱山の入口はとても静かで、がちゃがちゃと何か作業している音が響いていた。

アスカは暫く男を見ていた。
男がフェンスを開け、工具をバッグにしまうと、中に入ろうとした。

アスカはそこでフレインの言葉を思い出した。

―――グラン=クォーツ鉱山には誰も入れてはならない
―――鉱山の中にはまだクリスタルがあるから、それを狙っている悪い奴らがいるからお前が守りなさい

アスカは草むらから飛び出すと、おいと叫び男を呼び止めた。
男は鉱山に入ろうとした足を止め、視線をアスカの方へ向けた。

ここにはだれも入っちゃいけないってお父さんが言ってた―――
クリスタルをぬすもうとしている悪い人がいるからまもりなさいってお父さんが言ってた―――
だからこうざんには入らないで―――

男に向かってアスカは叫んだ。

男はアスカの方へ近づいて行く。
近づきながら腰のモンスターボールに手をやり、その中の一つを手に取る。
そしてモンスターボールを空中に投げつけると、中からボーマンダが出てきた。

男の予想外の行動にアスカは驚いていた。ああ言えば直ぐに帰ってくれると思っていたから。
でも男は笑いながらアスカへと詰め寄って来る。
フォーラ、レックス、アリアスがアスカの前に出てアスカを守ろうとするが、三匹共まだレベルは低いし戦闘経験も殆ど無かったため、あっさりとボーマンダにやられてしまった。

さらに男が詰め寄る。男は不敵な笑みを浮かべている。
ボーマンダが『ドラゴンクロー』をアスカに向けて放とうとしていた。

アスカはもう自分は死ぬんだと思った。
目の前には見たことのない怖いポケモンがいて、そのポケモンが今自分に向けて何かしようとしている。
怖くなって目を閉じた。

暫く目を閉じていたが、何も起こらなかった。
どうしたのだろうか?
そういえば急に風が強くなったような。

不思議に思って目を開くとそこには、見たことも無い白い大きなポケモンがアスカを守る様に飛んでいた。

「子供よ……怪我はないか?」

その白い大きなポケモンはアスカに話しかけてきた。
こどもじゃない。アスカって名前があるもん。
アスカがそう言うと、その白い大きなポケモンは

「アスカ……お前が新たな守り人(まもりびと)か……」

と言った。

アスカには守り人の意味が分からなかった。白い大きなポケモンはアスカの事を分かっている様だった。

アスカには、その白い大きなポケモンは自分の味方をしてくれる良いポケモンに見えた。
だから怖くなかった。

気がつけば男はいなくなっていた。
どこに行ったかきょろきょろしていると、その白い大きなポケモンは自分が追い出したと言った。



アスカは聞いた。

「あなたのお名前は?」

白い大きなポケモンは言った。

「私の名は……ルギア」



その日、アスカとルギアは出会った。


2-2

「……カ…………スカ…………アス……」

誰かの自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
その声が徐々に大きくなっていく。
その声の主の方へと意識を持って行く。

「アスカ!」

アスカは目を覚ました。
夢を見ていた様な気がするが、目の前の三匹を見てその事を忘れてしまった。

「フォーラ、レックス、アリアス!」

その三匹を見てアスカは思わず抱きついた。
三匹は少し照れている様だったが暫くはそのままでいた。

フシギソウのフォーラ
リザードのレックス
カメールのアリアス

三匹はアスカがここにいると、病院でティオから聞いて飛んできたのだ。
ここに到着すると、アリアスは突然フォーラとレックスに小声で話しかけた。

「アスカがあそこにいる」

三匹は草むらに隠れて窺った。
アスカの両隣りには白装束を纏った変な奴約二名が、アスカを見張るように立っている。
アスカはロープで縛られており、寝ている様に見えた。

アリアスはフォーラとレックスの耳元で何やら囁くと、二匹はアリアスを見てうなずいた。

がさがさと茂みで何やら音がする。
一人の変な奴が音がする茂みへと近づくと、後ろから悲鳴が聞こえてきた。
変な奴が後ろを見ると、アスカの隣にいた仲間がフシギソウとカメールによって気絶させられていた。

アリアスの作戦はこう。
  先ず、レックスが茂みに隠れて音を出す。
  そうすると、どちらか一人が不審がって必ずやってくるから、その間にフォーラと僕でアスカの隣にいる奴を倒す。
  フォーラは『つるのむち』でアスカの横にいる男を縛って。僕はその男に『ロケットずつき』を当てて気絶させるから。
  多分男は悲鳴あげると思う。そうすれば茂みに向かった男は何があったと振り返るはず。背中を見せたらレックスは『きりさく』だ。
  それじゃ行くよ!

後ろを向いた変な奴は背中からレックスの『きりさく』を受けて、その場に倒れた。
三匹は変な奴二人を近くにあったロープで縛り、猿轡を噛ませる。

作戦は首尾よくいった。



三匹の話を聞いてアスカは驚いている様だった。
仲が良いとは思っていたが、ここまで連携プレーを取れるとは思っていなかった。
三匹を順番にみてアスカは思った。この子たちも成長しているんだなと。

「それはそうと、なにがあったの?」
アリアスが心配そうに聞いてきた。
アスカは今までの事を三匹に話した。

「アスカが無事でよかった……」
フォーラはアスカの身を案じていた。
鉱山入口でアスカを見かけたときは、直ぐにでも駆け寄ってあげたかったのだ。
作戦が成功すると、まっ先にアスカに抱きついていた。

「そのランジュってやつがアスカと親父をボコボコにしたのか!」
レックスは何時も通りというべきか、頭に血を上らせていた。
悪戯好きで何時もアスカを困らせているレックスだが、アスカのやフレインの事となるとまるで自分の事のように怒り出す。
そこがレックスのいいところなのだが。

「悪しき心……か」
アリアスはアスカの事よりも別の方に興味がある様だった。
そんなアリアスを見て、アスカは少し寂しくなったか「アリアスだものね」と、笑って誤魔化した。
アリアスは眉間にしわを寄せて何やら考え事をしていた。

「さてと、これからどうします?」
フォーラが切り出した。

時刻は深夜。
夜明けにはまだ早い。
それでも眠くはなかった。

アスカはフレインやティオの事も気になっていた。
そういえば……と、三匹に聞いてみた。
アリアスが言った。フレインとティオの所にはティアがいるので心配いらないと。
ドクターに依れば、ティオは比較的傷が浅かったのですぐに退院できるらしい。

アスカはそれを聞いて安心した。

暫く静寂が包みこむ。
よく晴れた夜空には星が輝いていた。

「これから鉱山の中に入るよ」

アスカはフォーラ、レックス、アリアスに向かって言った。
フォーラ、レックス、アリアスはお互いに見つめあうと、アスカの方を向いて頷いた。
その三匹は、以前とは比べ物にならないほど頼りになっていた。


一人と三匹は、グラン=クォーツ鉱山へと入って行った。


2-3

百年前にクリスタルの鉱脈が見つかってからと言うものの、採掘はものすごいスピードで進んでいった。
初めは真っ直ぐ掘って行った。それだけでも沢山のクリスタルが出てきた。
そのまま進んでいくと硬い岩盤にぶち当たる。そこから左右にわかれてさらに掘り進む。

洞窟の中ほどから少し掘ってみると、またクリスタルが現れたので更に掘り進めていく。
掘り進めた先で新たな鉱脈を見つけると、右に左に、上へ下へ穴を掘って行く。

そうやって掘られていったグラン=クォーツ鉱山は、計画性も何も無く作業員の気分で掘られていったので、内部は複雑に枝分かれしている。
採掘し始めた頃はまだ何とかなったが、十年もすると毎日採掘している作業員ですら道に迷って出られなくなる。
そんな調子で四十年間も掘られたのだから、現在の鉱山内部はきっと恐ろしい事になっているのだろう。

何度か鉱山内部の状況を地図にしようという話があって、洞窟内を測量した事があったらしいが、一月もすれば新たに洞窟が何本も掘られ地図の意味が無くなって来る。
その度に新たに地図を作っていたそうだが、とうとう追いつかなくなってやめたそうだ。

最後に測量されたのが閉山する十年前。
その当時の地図は図書・歴史博物館の地下金庫に入れられていたが、フレインが襲われた時は盗まれていなかったと、捜査に当たっていた警察官が病院で言っていた。
恐らくランジュもそこに十年前の地図があるとは思ってもいなかったのだろう。

と言う事は、あいつらもこの鉱山で絶対に迷っているはずだ!とアリアスは言った。

「で、かれこれ三十分は歩いてると思うんだけど、それっぽい場所には着かないわね。……と言うより道はこっちで合ってるのかしら?」
鉱山内部は当然明かりはないので、レックスが先頭になり右手に持った即席の松明と、尻尾の炎で辺りを照らしながら歩いて行く。
右に曲がり左に曲がり、上ったり下ったり。分かれ道が見えれば右に曲がり左に曲がり、直進したり行き止まりで戻ったり。
時々石に躓いて転びそうになったりもした。

「うわー、これじゃ先進めないな」
レックスが足を止める。レックスの視線の先には瓦礫の山があり、天井から崩れていた。

「どうする?どかしてみるか?」
「いや、やめた方がいい。下手に攻撃して更に崩れちゃ大変だ。生き埋めになっちゃうかもしれない」
アリアスが瓦礫の山を見ながら言った。

「そうね、無理に通る必要はないと思うわ」
「この先が目的の場所で無いこと祈ろう」
長い間放置されていたので洞窟の天井が陥落していて先に進めない場所もあったり、天井に穴が開いていると思ったら上を通る洞窟と繋がっていたりと、この鉱山も六十年で随分様変わりしているのだろう。

「野生のポケモンが出ないだけマシだよね」
「こんな狭い所で出てもらっても困るけどね」
フォーラとアリアスで仲良く話している。
鉱山はずっと入口は閉じられていたので、野生のポケモンも住んではいない。

兎にも角にも進んでみて、行き止まりだったら来た道を戻って他の道へ行き、また分かれ道が現れたら何と無く気が向いた方の道へ行き……。
右に曲がり左に曲がり上ったり下ったり。分かれ道が見えれば右に曲がり左に曲がり、直進したり行き止まりで戻ったり。

「はぁ……ちょっと疲れた……ここで休憩ー」
少し広い場所に出たので休むことにした。
ここには椅子の様な四角い石が何個か並べられていた。恐らく鉱山で働いていた人たちの為の、休憩所みたいな様なものだろう。

「流石に歩きっぱなしは疲れるね……もう足ぱんぱんだよ」
フォーラはその場にへたり込んでしまった。

「俺はまだまだ行けるぜ!」
「レックスが大丈夫でも皆はきついんだよ……」
「お前らだらしないなぁ、もう少し鍛えてこいよ~、付いてくるのが遅いんだよ」
「レックスさ……張り切るのは良いけど、もう少し皆のペースに合わせていこうよ。一人勝手に進むと付いて行くのが大変なんだよ」
「はいはい、分りました分りました」
「「はい」と「分りました」は一回でいいよ一回で」
レックスはアリアスの話を真面目には聞いていないみたいだ。

「よし、そろそろ出発しようか」
十分程休憩して歩き始める。

「また分かれ道か……」
レックスが溜息を吐きながら止まる。これで何度目か、十字に道が分かれていた。
レックスがさてどちらに行こうかと、それぞれの道を見渡していたのでアスカ達も立ち止まって考えるが、急に左の道へと一匹進んでいった。
急にレックスが進みだしたので慌てて後ろを追いかける。

「ちょっと、レックス先に行かないでよ!」
「迷ってる暇は無いんだから、どっちでもいいから兎に角行こう……うわぁぁぁぁぁ」
「レックス!?」
どうやら、前をちゃんと見ずに歩いてたので穴に落ちてしまったようだ。
レックスが持っていた松明の火が落ちた衝撃で消えてしまったが、辛うじて下にいるレックスの尻尾の炎が見える。

「おーい、レックス、大丈夫かー?」
「あいたたた……大丈夫だ」
レックスは無事な様だ。
しかし、穴は深くて上って来れそうにもない。

「レックスを『つるのむち』で引き上げましょうか」
フォーラがアスカに聞いた。
アスカはどうしようか考え、徐に穴を覗き込むとレックスに向かって聞いた。

「レックス、先に進めそう?」
「進めそうだ」
「……よし」
アスカはフォーラとアリアスに向かって言った。

「降りてみようか。今までこういう穴は無視してきたけど、先に続いてるみたいだし。フォーラ、お願いね」
「分りました」
フォーラが『つるのむち』を二本出し輪を作ると、アリアスがブランコに乗るように座り、落ちないように両手でつるを掴む。
徐々に『つるのむち』を伸ばしていき、アリアスを下に届ける。

「おっけー。着いたよ」
アリアスが下に着くとフォーラは『つるのむち』をいったん戻し、アスカの方を見る。

「さて、私はどうやって降りようか」
「先ず私が先に降りますので、後から『つるのむち』でアスカを下から持ち上げながら降ろしますね」
「よろしく頼むわよ!」
フォーラは飛び出た岩に『つるのむち』を固定すると、壁を後ろ向きに歩くように下へと降りて行った。
下に着くと固定していた『つるのむち』を解き、アスカの体へと巻きつけるとゆっくりと下ろしていった。

「何とか降りられたわね。フォーラ、ありがとう」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
アスカがフォーラの頭を撫でると、フォーラはまるで子供の様に嬉しそうに笑った。

「フォーラ、アスカ重かっただろ~」
「だから余計なことは言うなと……」
相変わらずのレックスの発言にアリアスはいつも通のツッコミを入れる。

「レックス?女性に向かって体重の事言うのは犯罪行為に等しいのよ?」
アスカ笑っていない笑顔を見せながらレックスを睨んだ。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ……ごめんなさい……」
目を合わせないようにしながらレックスは謝った。

暫く歩いていると、段々と洞窟内が明るくなっていく。

「おい、アスカ!これ見てみろよ!」
「え?何?何か見つけた?」
「これは……」
「奇麗……」
そこには洞窟の壁中からクリスタルが顔を覗かせていた。
小さいものは石ころサイズから、大きいものはフォーラの背中の蕾ほどもあった。
クリスタルは白く発光していて、その明るさは松明が無くても辺りを十分見渡せるほどだった。

「クリスタルって稀少だったはずだよね……。まだこれだけ沢山有ったなんて……」
アスカは昔聞いた話を思い出した。
クリスタルは向こう百二十年は採掘可能だった。
でも掘り尽くされたから四十年で閉山してしまった。

―――掘り尽くされた?

もしかして、それは嘘だったのではないか?
大人たちが何かを隠す為に吐いた嘘……。
『悪しき心』が関係してるのかしら。
やっぱりこの鉱山には何か秘密があるみたいだ。

アスカは腕を組んで考えていた。

「アスカ!」
「は、はい!?」
フォーラに呼びかけられ、思わず声を裏返して返事をしてしまった。

「先に進みましょう」
「あぁ、ごめんごめん」
アスカ達は白く光るクリスタルの中を歩き始めた。


2-4

ふと、人影が見えてきた。
恐る恐る近付くと、白装束を纏った男がいた。

「ん、お前は……」
それはホワイトノーズの団員だった。

「アスカ、こいつは……」
「ええ、そう」
「お前らが『悪しき心』を狙っている連中か」
レックスが団員を睨みつけながら言った。

「お前は……どうやって抜け出した」
「この子達が助けてくれたの」
「見張りがやられたか……まぁいい。ここから先は行かせん」
「ってことはあのオバサンはこの先にいるのね。教えてくれてありがとう」
「なっ……ランジュ様をオバサンなんて呼ぶと殺され……いや今はそんな事どうでもいい」
どうでもいいのか……とアスカと三匹は思った。

「もう一度捕まって貰おうか」
団員はモンスターボールを取り出し、投げた。

「行け!メタグロス!」
「え……メタグロス……?」
何でそこでメタグロスを出すのかアスカには分らなかった。何故なら……

「うわっ、メタグロス!どうした!」
「マスター……体がつっかえて動けません……」
「しまったぁぁ!」
「何やってんの……」
アリアスはその間抜けな光景を見て呆れていた。洞窟が狭すぎてメタグロスが収まりきらなかったのである。
その巨体は洞窟の壁や天井にめり込み、見える部分は顔のみとなっていた。
更に、団員はメタグロスを自分の前に出したので、メタグロスのせいでアスカ達が見えなくなってしまった。

「レックス、確かメタグロスって炎が弱点だったわよね?」
「だな」
「よし、『かえんほうしゃ』GO」
「ほい」
「マ、マスター、早く戻して……うわぁぁぁ!」
「メ、メタグロスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
メタグロスは文字通り手も足も出せずに焼かれていった。

「く、くそっ、よくも俺のメタグロスを……」
「自業自得でしょ」
「くっ」
団員は返す言葉がなかった。

「邪魔だから早く戻しなさい」
「はい」
そう言うと団員はメタグロスをモンスターボールに戻した。

「ふっ、次こそはお前らを捕まえてやる」
「それはまともに戦えるポケモンを出してから言いなさい」
「五月蠅い!出てこい、ライチュウ」
目の前にライチュウが現れる。

「レックス、もう一度お願いね」
「まかせとけ!」
レックスとライチュウが睨みあう。
お互い牽制し合って動こうとはしない。
と、先にレックスが攻撃を仕掛けた。
レックスは勢いよく走り出すと、ライチュウに向かって『きりさく』を繰り出した。
ライチュウはそれをわざとギリギリで避けると、『きあいパンチ』をレックスの顔目がけて放った。
レックスはもろに攻撃を受けて、地面を転がって行った。

「くそっ……」
レックスは立ち上がると、ライチュウを睨みつけた。

今度はライチュウが仕掛けてくる。
『こうそくいどう』でレックスまでの距離を縮めると、その勢いを利用し体を回転させながらジャンプし、『アイアンテール』を繰り出す。
レックスは避けようとしたが、反応に若干遅れ完全には避けきれず、『アイアンテール』は頬をかすめていった。
レックスはジャンプによって隙が出来てたライチュウに向って『ドラゴンクロー』を放つ。
『ドラゴンクロー』はライチュウに直撃し、ライチュウは壁に打ちつけられた。

レックスはやられた分は返したぞ、という目でライチュウを見ていた。

ライチュウが再びスピードをつけて『アイアンテール』を放つ。
負けじとレックスも『アイアンテール』を放つ。
力が互角な為、互いに跳ね返されてしまう。

「ライチュウ『10まんボルト』で止めだ」
「レックス、『ほのおのうず』で決めるわよ」
団員がライチュウに指示を出す。
アスカもレックスに指示を出す。
互いに力を溜める。
そしてそれを放つ。
ライチュウの『10まんボルト』とレックスの『ほのおのうず』がぶつかり合い、大爆発が起きた。
その衝撃と、メタグロスが開けた穴のせいで地面が崩れ落ち、アスカ達は下の洞窟へと落ちて行った。

「みんな大丈夫?」
広い空間に落ちてしまったようだ。休憩所の様に見える。

「何とか大丈夫です。まさか下に空洞があるなんて思いませんでした……いてて」
「僕も大丈夫だけど……レックスは?」
アスカはレックスを探す。
砂埃が視界を邪魔していたが、徐々に晴れていく。
そこに映っていたのは、倒れたライチュウとそれを見るレックスだった。
僅かな力の差でレックスが勝利した。

「くそっ、ライチュウ……」
「あなたの負けの様ね」
「チィッ、今回はこの辺で見逃してやるっ」
「それ、私のセリフです」
「五月蠅いっ」
そういうと、団員はライチュウをモンスターボールに戻して逃げようとした。

「アスカ、あいつから何か情報聞き出すんだ。フォーラ、よろしく」
「任せておいて!」
そうは問屋が卸さないと、フォーラが『つるのむち』で団員を捕まえる。
団員はずるずると引き摺られ、アスカの目の前へと連れてこられた。
団員を一人と三匹で囲む。

「四対一とは……卑怯な」
「何が卑怯よ。貴方達だって何度も背後狙って攻撃してきてるじゃない。お相子よお相子」
アスカは入口で後頭部を殴られた事を、未だに根に持っているみたいだ。

「さてと、知ってる事でも吐いてもらおうかしら……」
「そう易々と話す訳にはいかないな。秘密を喋るという事は裏切り行為だ」
「あらそう、そう簡単には話してくれないわよね……フォーラ……」
アスカはフォーラを呼ぶ。
フォーラは自分に何をさせたいのか大体分かったので、どうすればいいか聞かなかった。

「すみません、仕方ないんです。……御免なさいね」
「ふふふ……覚悟なさい……」
アスカのドス黒い笑みと共に、フォーラの『つるのむち』数本が団員へと伸びる。

「な、何をするつもりうわやめろうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



静寂が支配する洞窟内に、悲鳴という名の笑い声がこだましていた。



「アスカ、こいつ結構しぶといよ。どうしよう」
「ふふ……簡単に吐かれたらつまらないものね。まだまだこれからよ……これからが本番……」
「最早当初の目的なんてどうでも良くなってるね……」
アスカの頭の中は、団員から情報を聞くより拷問する方に天秤が傾いている。
色々と晴らしたい恨み辛みをこの団員に向けているのであるが、既に目的と手段が逆になっている。
アリアスはやれやれとみているが、巻き込まれたくないので遠くで見物していた。

「はぁはぁ……まだ何か……するつも……り……か」
「ふふふふふふふ……レックス、行くわよ……」
「ま、まさか……あれをやるのか……最終兵器を……」
「えぇ、出来るだけ使いたくなかったけどね……」
アスカは悪魔のように笑い、団員へと近づいて行った。レックスは少々乗り気ではなかった。
フォーラとアリアスはこれから何が起きるのか分っていたので、見ないようにと後ろを向いた。

「うわ何をす……や、やめ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



洞窟内に言葉では言い表せない様な悲鳴が響き渡った。



「ふっ、やっと吐いたわね」
団員は既に、ここではないどこかへ意識が飛んで行ってる様で、だらしなく口から涎をたらし目は明後日の方向を向いていた。
その姿はご愁傷様としか言いようがなかった。
アスカに楯突くとは何て命知らずなんだろうと、アリアスは団員に向かって合掌しながら思った。

「さて、情報も聞き出せたことだし、さっきの悲鳴を聞いて仲間が来るかも知れないから早めに移動しよう」
アスカ達は広くなった空間を出ると、団員から聞き出した情報を元に歩き出した。


2-5

「うーん、道はこっちであってるはずなんだけどな……道が無い……」
洞窟を進んで行き広がった空間に出ると、アリアスが立ち止まりどうしたものかと腕を組み声を唸らせる。
団員から聞いた通り目印に沿って洞窟を歩いてきたのだが、目の前にはクリスタルの壁があって先には進めない。

つまり行き止まり。

「もしかして偽の情報掴まされちゃった?」
「いや、それは無いと思うよ? 嘘ついたら……って脅したから」
「流石に“最終兵器”の二回目は食らいたくないから、嘘はつかないよね……。じゃあどこかで道間違えたのかしら?」
それはないとアリアスが言う。確かに目印はここまで続いているのだから間違いない。
それに、あの“最終兵器”を二度も食らいたいと思う人間はこの世に誰も居ないだろうから、団員が嘘をつく事も考えにくい。それまでに恐ろしいのだ。“最終兵器”は。

「ここは……今までの休憩所とは少し違うみたいだね。まるで初めからあったみたいだ」
確かにこの部屋はレンガのようなもので出来た壁に、床は石が敷き詰められていて明らかに人の手が加えられている。
今までの休憩所はただ穴が掘ってあっただけなので、壁は土がむき出しで床もデコボコであった。
それに、この部屋へ続く洞窟は部屋に対して斜めに掘られているし、部屋より少し低い位置にある。
洞窟を掘ってから部屋を作ったのであればこの様な造りにはならないはずだ。
『洞窟を掘っているときに偶然空間が現れた』様に見える。

「なんだか怪しいね。少し調べたいけど……疲れた……」
部屋の奥の不自然にあるクリスタルの壁を見て、フォーラが深くため息を吐きながら座ると、それにつられてアリアスとレックスも地面に座った。
流石のレックスも戦いの疲れが溜まっていた様で、いつもの元気が無い。
普段なら「お前らもっと鍛えて来いよ!」等と言ってアリアスと口喧嘩になるのだが、そんな余裕も無い様だ。
それに昨日から殆ど寝ていないので、かなり疲れが溜まってきている。

「アリアス~、喉乾いた~『みずでっぽう』か『ハイドロポンプ』で水出して~」
「嫌。無理。断る。第一どうやって飲むんだよ。口移しとか言わないでよね。それに、僕の口から出した水を君の口に入れるなんて気持ち悪いこと出来ないね。考えただけでも鳥肌が立つよ。まだ相手が女の子だったら……考えるかもしれないけど。と言う訳で、諦めて大人しく我慢しなさい。皆我慢してるんだから」
「そこまで言わなくてもいいじゃん……。別に減るもんじゃ無いし。それにフォーラには時々水浴びって事で水をかけてあげてるじゃん……」
「それはそれ、これはこれ。君は何も減らないと思うけど、僕は減るの。そりゃあ色々とね。こんな事で大事な何かを失いたくないの。だから却下。不可。以後異論は認めない」
「ケチ……」
「ケチって言われるのは心外だな。僕だって歩きっぱなしで疲れてるんだから技出したくないんだよ。それに僕だって喉乾いてるの。そんな状況で『みずでっぽう』や『ハイドロポンプ』出したら干上がっちゃうよ。まぁ、出せないことも無いけど、これからの戦闘の為には幾分でも力は残しておきたいからね」
「まぁまぁ、レックスもアリアスも少し落ち着こうよ。余計疲れるよ?」

このまま聞いてたら自分まで疲れてきそうなので、フォーラが二匹を止めに入る。
何時もなら食い下がるレックスも今回ばかりは諦めたようだ。

「そういえば昔、まだ進化する前にも同じことやってたね」
アスカがレックスとアリアスを見ながら、思い出したように言った。

「ほら、皆で一度街の外れまで行ったときに道に迷って家に帰れなくてさ、疲れて休んでる時にレックスがアリアスに「水飲ませろー」って。アリアスはさっきみたいに「無理。嫌だ。絶対に断る」って言って、レックスが「ケチケチ」って。今思うとやっぱりあんたたち全然変わってなかったわね」
思い出し笑いをしながら昔の思い出を話し始めた。
洞窟の前で助けてもらった時はもう子供じゃないと思っていたけど、やっぱり変わらない部分もあるんだな……と改めて思っていた。

「何その過去形。さっきまで変ったと思ってたって事だよね?」
「うん。助けに来てくれた時はアリアス達も随分変わったなぁ……って思ったよ?」
不満そうな顔をしてアリアスが言うと、アスカは「一応」フォローを入れる。

「じゃあ変ってるんだろ? それでいいじゃん」
「でも今のやり取り見てると変わってないな……って。貴方達もまだまだおこちゃまですねー」
レックスが言い返すと、アスカは馬鹿にするような口調で言った。

「なっ、俺は子供じゃねぇ!」
「私も、流石に子供って言われるのは心外です……」
「そういうアスカだってまだまだ子供でしょうに」
「私はもう大人よ……」
「大人なら“最終兵器”とか言って、あんな事しないと思うよ?」
「うぐっ……」
アリアスに“最終兵器”の事を言われて返す言葉が無かったようだ。
そんなやり取りも疲れたのか、全員無口になる。

「少しここで休憩ね」
アスカがそう言うと、賑やかだった洞窟内は静寂に包まれ、冷たい空気が流れる。
思い思いに休んでいる三匹を見て、アスカは三匹と出会った頃の事を思い出していた。

「ふふっ……」(そんな事もあったなぁ……)

急に笑い出すアスカを見て、レックスが不思議そうに顔を覗き込む。

「何笑ってるんだ? 気持ち悪いぞ?」
「だから、そう言う余計な事をだな……」
「気持ち悪いですって……?」
レックスはやっぱり何時も通りのレックスで、ある意味期待を裏切らない事を言う。
期待を裏切らないレックスを見て、アリアスはもういい加減突っ込み入れるのが面倒になってきていた。

「何か考え事でもしてたんですか?」
「ちょっとね、出会った時の事思い出しちゃって」
「あー、アスカが早とちりして私達を三匹とも連れて来た事ですね」

ロマリア地方では、十歳になるとポケモントレーナーになることが出来る。
新たにポケモントレーナーとなる者にはフシギダネ・ヒトカゲ・ゼニガメの内、どれか一匹をパートナーとして貰う事が出来る。
アスカも例によって十歳の頃に、大学にある博士の研究所へパートナーとなるポケモンを貰いに行ったのである。

「アスカ君ですね。これからポケモントレーナーとなる貴女にポケモン図鑑とパートナーになるポケモンをお渡しします」
アスカは目をキラキラと輝かせて早く早くと博士を急かしながら、これから自分と一緒に過す事になるポケモンはどんなポケモンなのだろうとか、何ていう名前にしようとか色々考えていた。

「アスカ君は元気ですね。……はい、これがポケモン図鑑です。無くさないで下さいね」
「おお、これが夢にまで見たポケモン図鑑……ありがとう、博士!」
アスカはポケモン図鑑を貰うと、新しくゲームを買って貰った子供の様にはしゃぎながら図鑑を弄りだした。

「さて、お待ちかねのポケモンです」
博士がそう言うと、アスカの前にある机の上に箱に入れられた真新しいモンスターボールを三つ、左から順に置いた。
アスカは図鑑をいじるのをやめて、机にかぶりついた。

「この三つのモンスターボールには左から、草タイプの『フシギダネ』炎タイプの『ヒトカゲ』水タイプの『ゼニガメ』が入っています。どのポケモンも初心者には育てやすいポケモンです」
博士が中に入っているポケモンについて説明し始めると、アスカは話を聞いてか聞かずか机に置いてあるモンスターボールを三つとも取って両腕に抱えた。そして、

「え!? 三匹もくれるの!? ワーイ! ありがとう!」
と満面の笑みで言いながら、走り出して部屋を出て行った。

「この三匹の中から一匹をですね……って……え? ちょ……話はまだ……おーい」
アスカは話を聞いてか聞かずか、ポケモンを三匹とも貰えるのだと勘違いしてそのままダッシュで家に帰って行ってしまった。
そんな嵐の如く走り去っていくアスカの後ろ姿を博士は、ただただ茫然としながら見つめていた。

一時間くらいして、フレインがアスカと共に博士の元に謝罪にやってきた。アスカの足元には、ボールから出されたフシギダネとヒトカゲとゼニガメが居た。
フレインが家に帰ると、アスカはポケモンを貰ってきてはいたが何故か三匹もいたので、「どうしたんだ?」と聞くと「博士が三匹ともくれた」とアスカが言ったのだ。
当然フレインは三匹の内一匹しか貰えないという事を知っていたので、アスカにその事をちゃんと説明すると博士に返しに行こうと言い出した。

ご迷惑お掛けしてすみません……と、フレインが頭を下げ、アスカも自分が早とちりしたと素直に謝った。
いえいえ、大丈夫ですよ……と、博士が笑いながら言った。

「それよりも少し問題が……」
博士はモンスターボールを見ながら何やら考え事をしていた。
三匹の内どれか二匹を返そうとしたのだが、モンスターボールには既に所有者としてアスカの名前が記録されており、更にはニックネームを付けていてそれも正式に登録されていたので、返すに返せない状態になっているのである。

「って事は、もうこの三匹はアスカのポケモンになっているのですか……」
「そうですね。……まぁ、今回ばかりは仕方がないでしょう。それに三匹ともアスカ君に懐いているようですしね。ここまで懐いているのにここで引き離すのも酷でしょうし……」
フレインと博士がアスカの方を見ると、フシギダネとヒトカゲとゼニガメはアスカにべったりで離れようとしない。
アスカはアスカで、どれか二匹を返さなければいけないと思ってはいたが、内心は折角友達になれたのに返すなんて事はしたくなかった。
博士が足もとにいる三匹とアスカを交互に見ながら腕を組み、「ふぅ」と溜息をつくとアスカに目線を合わせるようにしゃがみ、言った。

「三匹を育てるのは大変だと思いますが、この子達をアスカ君にお願いしてもいいですか?」
「……いいの?」
「ちゃんと育てると約束してくださいね」
博士はアスカの目を見て、念を押すように言う。
「はい!」
満面の笑みでそれに反すと、アスカは三匹を抱きしめた。
「これからよろしくね!」

……という事があってこの三匹はアスカの元にいるのである。

「そう言えばそんな事あったね。あの時は誰が一番最初に選ばれるか競争してたんだよね。……僕は一番初めに選ばれる自信はあったよ」
「ですね。もしバラバラになってもどこかで会おうね……って約束したんですよね。……私だって負けてなかったと思いますよ?」
「そうだな。まさか三匹共持っていくとは思わなかったがな。……俺だって負けてなかったぜ!」

暫く思い出話に花が咲いていたが、フォーラが突然会話を止める。

「ちょっと静かに……声が聞こえる……」
耳を澄ますと、クリスタルの壁の向こう側から僅かに声が聞こえてくる。
そして、クリスタルの隙間から風が吹いてきている。よく見ると、向こう側に通路の様なものが見える。

「ここ……行き止まりじゃないみたいです」
「でも、どうやったら先に進めるのかしら?」
「何か方法があるんじゃないか? 探してみようぜ」
スイッチのようなものでもあるかと部屋の隅々をよく探してみる……が、何も変わった所はない。

「んー。何も無いわね。どうしたものか……」
「押したり引いたりしたら開いたりしてね。ドアみたいに」
「そんなわけないでしょ」
「ですよねー」
アスカとアリアスが冗談交じりで会話していると、突然クリスタルの壁が重々しく動き出した。

「な、何? どうしたの?」
突然の事にアスカとアリアスは少々驚いている。
そんな二人を見ながらレックスが苦笑いをし、
「い、いやぁ……「押したり引いたりしたら開いたりして」って言うもんだから押してみたら……開いた……」
と何故か申し訳なさそうに言った。

しばらく沈黙が続いた。まさかこんな単純な仕掛けでは無いだろうと、もっと複雑な何かがあるものだろうと思っていたのだから、予想を裏切るその単純な構造に一人と三匹はただただ口を開けてるしかなかった。

「何か良く分からないけど……がっかり……つまんない」
アリアスは残念そうに扉を見ていた。
自分の知識を総動員して、謎解きをしようと意気込んでいた矢先の出来事だったので、消化不良にも似た感覚に陥っていた。

「兎にも角にも、道は開けた。先に進むよ!」
そう言うと、長い回廊を歩き出す。

「まるで神殿みたいね……」
黙々と歩いていると二体のポケモンの像が見えてくる。それぞれ回廊の右側と左側に飾られていて門番のように見えた。
右には銀色のルギアの像が、左には金色の……見たことのない鳥の様なポケモンの像があった。

そこを抜けると巨大な地下空間が現れる。十階建てのビルがすっぽりと入る位のその空間には、壁一面にクリスタルが敷き詰められていて、白く幻想的に輝いている。
回廊の出口は少し高い位置にあり、そこから部屋全体が見渡せた。

部屋ではホワイトノーズの団員が何やらやっていたようだが、アスカは団員よりも部屋の中心にいたランジュに視線を向ける。

部屋の中心には台座の様なものがあり、その上に大きく透明な宝玉があった。
その宝玉の中には更に、禍々しく紫色に光る小さな宝玉が入っていた。

「ふふふ、やっと見つけた……『悪しき心』……」

ランジュはそう呟くと、宝玉を手に取った。


2-6

「あれ……何かしら……」
「あれが『悪しき心』じゃないですか?」
「何か……邪悪な感じがするよ……」
「あれを取られる前にさっさとやっちまおうぜ?」
アスカ達はこそこそと小さい声で話していた。

「こそこそしてないで出てきたらどう? 守り人さん……」
ランジュが振り向いて入口の方を向く。地獄耳と言うか鋭いというか、よくこの距離で気が付いたなとアスカは関心してしまった。

「貴方もしつこいわね。黙って捕まっていればいいものを。しつこい女は嫌われるのよ? 知ってた?」
「ご忠告ありがとうございます。でも心配なさらなくても大丈夫ですよ、オバサン。私は貴方と違ってまだまだ若いですから」
アスカも負けじと切り返す。こういう女性には『オバサン』という言葉が絶大なダメージになると、分析しての発言だ。
人を怒らせるにはその人が一番気にしていそうなことを言う……。
この二人の間には目に見えない火花がバチバチと飛び散っている。

「お、おば……誰のことを言ってるのかしらね……」
「あら?自覚症状が無いなんて可哀そうですね。化粧で塗りたくってるその面の皮を引っぺがしてやりたいですね。そして鏡でも見なさい」
「ふ……ふふふ……貴方に目上の相手に対する礼儀っていう物を教えてあげる……」
ランジュの顔は引きつっていた。女性に年齢のことを言うのはタブーだというが、まさにその通りの事が起こっている。
声を震わせ、青筋を立ててアスカの事を睨んでいた。

「切り刻んでおやりなさい」
そう言うと、ランジュはストライクとハッサムとアブソルを出してきた。

「フォーラ、レックス、アリアス、行くよ!」
アスカがそう言うと、待ってましたと言わんばかりに三匹は出て行った。
フォーラ・レックス・アリアスはそれぞれストライク・ハッサム・アブソルと睨みあう。

「どう? ポケモンへの指示は一切なしってのは。その方が何かと楽しめるでしょ」
「そうね……いいわよ。三対三だと指示はまともに出せないでしょうしね……」
「決まりね」

ランジュの提案を受け入れると、アスカは三匹の方を向いた。

「皆……がんばってね……」

「分りました! 精一杯頑張りますよ!」
「任せとけ! めっためたのぎったぎたのけちょんけちょんにしてやるんだぜ!」
「流石に三対三は大変だな……ダブルバトルもまともにしたことないのに……」

お互いに三匹のポケモンを前に出す。

  フォーラはストライクと
  レックスはハッサムと
  アリアスはアブソルと

それぞれ対峙する。

(これは……一対一の戦いじゃない……三対三……それをどう有利に使うか……)
アリアスは脳をフル回転させて作戦を考える。一対一じゃどうにもならなくても、二対一・三対一に持ち込めば有利に戦えるはず……と冷静に考えていた。

互いに牽制し合っていたが、止まっていた時間が動き出したかのように一斉に動き出す。

まずぶつかったのはアリアスとアブソル。
アブソルは戦闘が楽しいのか、笑いながら『かまいたち』を頭の刃から勢いよく放つ。
アリアスは『かまいたち』を避けながらアブソルに近付くと、『からにこもる』を使い『こうそくスピン』を当てる。
亀の甲羅はとても固い為、『からにこも』った『こうそくスピン』はかなり威力が高い。
当たるまい……とアブソルが攻撃を避けようとするが、変則的に動くため動きが予測できず、上手く避けきれずにアブソルの脇腹に当たる。

「僕の得意技さ……結構痛いだろ?」
「ふふ……君なかなかやるね……僕も負けてられないなぁ」
そう言うと、アブソルが『かまいたち』を放ちながら『でんこうせっか』でアリアスとの距離を詰める。
アリアスは『かまいたち』を避けるのに気を取られ、『でんこうせっか』が直撃してしまう。
体勢を立て直すも少しふらついたアリアスに向かって、アブソルがニヤリと不気味に笑いながら『きりさく』を向ける。
後ずさりしていたアリアスに『きりさく』が当たる……瞬間、とっさに首を引っ込めて『きりさく』を避けた。

「なっ……そんなのアリ?」
まさかの行動にアブソルがうろたえると、その隙にアリアスは『アクアテール』を勢いよく当てた。
アブソルは勢いよく飛ばされた。

「久し振りの戦闘だ……腕が鳴るぜ……」
そう言うとストライクが『でんこうせっか』を使い、その勢いを殺さずに『きりさく』をフォーラに向ける。
そのスピードに全くついて行けずフォーラに直撃すると、後ろに勢いよく飛ばされたがフォーラは何とか体勢を立て直す。

「そうでなくてはな……いきなり死んでもらってもつまらん」
「悪あがきさせていただきますよ……」
フォーラが『つるのむち』でストライクを捕まえようとする。が、ストライクは避けると『つばさでうつ』で反撃してくる。
それを避け、間髪入れずに『はっぱカッター』を放つが、『れんぞくぎり』によってすべて弾かれてしまった。
そして再び『こうそくいどう』で近づいてくる。
ストライクが鎌を大きく振り上げると、フォーラに向かって振り下ろす。フォーラはギリギリのところでそれを避け、高く跳躍してストライクの頭上を通り過ぎる。
地面にストライクの鎌が突き刺さり深く抉れると、フォーラはストライクの背後に着地する。

「クソッ」
ストライクは「しまった」という顔をしながら振り向くが防御が間に合わず、フォーラの『エナジーボール』を腹部に直に食らうと口から少し血を吐きながら吹き飛ばされていった。

レックスは『ひっかく』で、ハッサムは『メタルクロー』でお互いの攻撃を受け合っている。攻撃が当たる度に火花のようなものが飛び散っている。
押しつ押されつの状況で、互いに少しの隙も見せない。隙を見せたら殺られる……、そんな緊迫した状況。
このままでは埒が明かないと、レックスの攻撃の一瞬の隙をついてハッサムが『バレットパンチ』を放つ。

「拳と拳のぶつかり合いなら負けないぜ!」
レックスがそう言うと『バレットパンチ』を最低限の動作で避けて、『きあいパンチ』をハッサムに向ける。

「それはどうかな」
ハッサムが『きあいパンチ』を受け止めると、『アイアンヘッド』をレックスの頭めがけて放った。

「痛っぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
レックスは涙目になり両手でおでこを抑え始める。そして涙目でハッサムを睨みつけると『アイアンテール』を腹部めがけて放つ。
ハッサムがそれを避けるが、足元の小石に躓いて若干体勢を崩したのをレックスは見逃さなかった。
待ってましたとその隙を狙って、『ほのおのキバ』でハッサムの左腕に噛みつく。

「ァァァァァァァッ」
ハッサムが声にならない悲鳴を上げる。
レックスは怯んだ隙に『ドラゴンクロー』を当てると、ハッサムは吹き飛ばされた。

フォーラが吹き飛ばしたストライクと、レックスが吹き飛ばしたハッサムは互いに背中合わせにぶつかった。
そこにアリアスが飛ばしたアブソルもやってくる。アブソルはは何とか体勢を立て直すが、三匹とも背中合わせになりフォーラ・レックス・アリアスに囲まれてしまった。
三匹はストライク・ハッサム・アブソルを三角形に囲う様に立っている。

フォーラが『ソーラービーム』を、レックスが『かえんほうしゃ』を、アリアスが『ハイドロポンプ』を同時に放つ
三角の中心で技がぶつかると、地面を揺らすほどの大爆発が起きる。
ストライクとハッサムとアブソルは避けるように高くジャンプすると、アブソルはフォーラの方へ、ストライクはレックスの方へ、ハッサムはアリアスの方へ行った。

「避けられたか」
「避けられちゃいましたね」
「避けやがったか」

三匹が「チッ」と舌打ちしながら同時に言った。

  フォーラはアブソルと
  レックスはストライクと
  アリアスはハッサムと

再び三匹と三匹は対峙する。

アリアスがレックスに視線を送る。
それにレックスが気がつくと、相手に気が付かれない様に軽く首を縦に振り視線を戻す。

「ぼーっとしてんなよ!」
ハッサムがそう叫ぶと、アリアスに『メタルクロー』で攻撃を仕掛けた。
アリアスはハッサムの攻撃を『からにこもる』で守ると『こうそくスピン』を使い、勢いよくハッサムの腹部めがけて突進する。
ハッサムは避けようとするが、その変則的な動きに惑わされてしまい、攻撃が腹部に直撃する。
ハッサムは後方に勢いよく飛ばされてしまった。

ストライクがレックスに向かって『れんぞくぎり』を放つ。レックスの顔面すれすれをストライクの鎌が通り過ぎていく。
「避けてばかりじゃ何も出来ないぜ!」
ストライクはそう言いながら、レックスに攻撃させまいと更に『れんぞくぎり』を使ってくる。
(まだだ……もう少し……もう少し……今だっ!)
レックスはタイミングを計ってストライクに『かえんほうしゃ』を放つ。
「そんな攻撃当たるか!」
ストライクは『かえんほうしゃ』を避けるが、その後ろにアリアスに吹き飛ばされたハッサムがいる事に気がついた。
「何っ!?」
(残念だが、俺の狙いはお前じゃなくハッサムだ!)
ストライクの真横を『かえんほうしゃ』が通り過ぎ、ハッサムに直撃した。
『かえんほうしゃ』はハッサムに効果は抜群で、それを直に喰らったハッサムは気絶してしまった。

「クソッ……」
「余所見してると怪我するよ?」
ハッサムに気を取られていたストライクにフォーラがそう言うと、『つるのむち』を当てストライクを縛る。

「君も余所見してると危ないよ?」
アブソルが頭の刃を大きく振り、フォーラに向かって後ろから『かまいたち』を放つ。
フォーラが、ストライクから『つるのむち』を解いて避けると、『はっぱカッター』で応戦する。
二つの技がぶつかり合って軽く爆発が起きる。

「けほっけほっ……」
辺りに砂埃が立ち込める。辺りを見回すといつの間にかストライクが居なくなっていた。

「だから余所見は危ないって……」
どこからともなく声が聞こえてくる。フォーラはその声がする方を見ると、自分の頭上にアブソルがいた。
アブソルは爆発が起きた時に高くジャンプしていた。そしてそのまま落下の勢いを利用して、フォーラに『かみつく』。

(まずい……っ)
『かみつく』をぎりぎりの所で、バックステップをして避ける。そして隙を見せないようにしながら、『つるのむち』でアブソルを縛る。
フォーラがアブソルを引っ張る。アブソルもさせまいと引っ張られなように耐える。

(ここでこいつを投げ飛ばして、レックスかアリアスに攻撃してもらえば……)
「ふふ……僕と力比べでもするつもり?」
アブソルはニヤリと笑うと、体を勢いよく引いた。フォーラは踏んばるが、耐え切れなくなり引っ張られる。
その勢いを使い、アブソルがフォーラを思いっきり振り回そうとする。
フォーラは投げ飛ばされる前に『つるのむち』を解こうとするが、アブソルが『つるのむち』を強く噛み逃がすまいとしていた。
勢いよく投げ飛ばされ空中で身動きが取れないフォーラに、ストライクが背中から『きりさく』を当てると、フォーラは地面に向かって勢いよく落ちる。
勢いよく地面に叩きつけられたフォーラはそのまま気絶してしまった。

「これで二対二、Evenだね……次はこちらから行くよ」

アリアスに向かってストライクが『こうそくいどう』で近づいてくる。そして、『きりさく』を放とうとする。
『ハイドロポンプ』でストライクを攻撃し後ろに押し戻そうとするが、その後ろから隠れていたアブソルが出てきてストライクを踏み台にして高く舞うと、アリアスに向って『シャドークロー』を放つ。

「しまっ……!」
アリアスは手足を引っ込めようとしたが間に合わず、攻撃を諸に喰らってしまう。

「今度はそう簡単に行かないよ……」
アブソルが不気味に笑いながらアリアスに止めを刺そうとすると、後ろから何やら声が聞こえてくる。

「俺を忘れてもらっちゃ困るんだよ!」
ストライクが何だ何だと後ろを振り返ろうとしたとき、レックスがストライクの頭を踏み台にして大きく跳躍し、アブソルに向かって力いっぱいの『メタルクロー』をぶつける。
アブソルは横へと吹き飛ばされると、地面に倒れた。

「へっ……大したこと無いな」
「レックス、後ろ!」
「え?」
倒したと思っていたアブソルがレックスに向かって『かまいたち』を放った。
アリアスは咄嗟にレックスを庇う様に押し倒す。『かまいたち』がアリアスに直撃すると、アリアスは気絶してしまった。

「ア、アリアスッ」
アブソルももう力は残っておらず、気絶してしまったようだ。

「ふ、一瞬の油断が招いた結果だな……お前のせいで仲間一人がやられたぞ?」
「うるさいっ」
レックスとストライクが睨み合う。

「フォーラやアリアスの為にも負けるわけにはいかないんだっ!」
レックスが『ひのこ』を放ちながらストライクに近づく。ストライクは『ひのこ』を避けると、近づいてきたレックスに『れんぞくぎり』をする。
レックスが右へ左へと避ける。尚もストライクは『れんぞくぎり』を出す

レックスが自分の爪でストライクの攻撃を受ける

「怒りだけで闘っては、己の身を滅ぼすことになるぞ……」
「それでも負けるわけにはいかないっ」

お互い睨みあうと後ろに跳躍して距離をとった

「まぁいい……今度はこちらから行くぞ……」
ストライクが『こうそくいどう』からの『シザークロス』で、レックスに攻撃を仕掛ける。
レックスは『シザークロス』を避けると、『ほのおのキバ』でストライクに噛みつく

「クッ……やるな……しかし、もうこれで終わりだ……」
そう言うと、ストライクは『かまいたち』を放つ。

「そんなもの、当たらないぜ!」
そう言うと、『かまいたち』を巧みに避けながらストライクに近づいて行く。

「これで終わりにしてやるっ」
レックスは力一杯『かえんほうしゃ』を放つ。『かえんほうしゃ』はストライクに直撃した。
しかし、直撃したのにもかかわらず、ストライクはまだ尚立ち続けている。

「なにっ!?」
「また油断したな」
そこにストライクの姿は無かった。
ストライクが『かげぶんしん』を使って偽物をレックスの前に出していたのだ。

「残念だったな……」
そう言うと、レックスの背後から『きりさく』を当てる。

レックスは気絶してしまった。


ここまで


戦闘シーン自信ないです。
時間軸に矛盾は……無いよね?
技とかも……。

後付け設定
技は一度覚えたら忘れないことにします。
技マシンの技も覚えられることに。

次で第二話も終わりです。


感想・誤字脱字・意味不明な表現などありましたらどうぞ。

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Last-modified: 2013-01-22 (火) 00:00:00
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