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リーちゃんの憂鬱な1日

/リーちゃんの憂鬱な1日

設定的にはイフの災難な1日と同じものを使ってます。青浪




・・・・
痛いっ。なんで?
なんであの人は私を殴ったの?
痛いっ!あ・・・血が・・・
血で身体が赤く染まっていく・・・

ぃたぃっ!頭を固いもので殴られたっ・・・
もうダメ・・・

ん?

誰か来た・・・私を殺すの?
わぁ・・・抱いてくれた。でももうどうなってもいい。
温かい・・・こんなやさしい気分になれたのは初めて・・・

ごしゅじん?
・・・・

「ん・・・」
まただ・・・またあの夢を見た。もう見ることはないと思ってたのに・・・
そう思うと急に悲しくなる。結局過去からは逃げられないのか・・・って
「ふぇっ・・・ぇっ・・・ぇぐっ・・・ふぇっ・・・ぇっ・・・」
だめ・・・涙が止まらない。前足で目をこするけど、どうやっても止めるすべが見つからない。

コンコン
「ふぁっ!」
「リーちゃん?入っていい?」
そうだ昨日の晩はご主人のお誘いを断って一人で寝てたんだ・・・だからかな・・・こんな夢を見るのは・・・
「どぉじょ・・・えぐっ・・・」
「リーちゃん?」
キィという音とともにドアが開くとご主人があわてた声を出して近づいてくる。私はご主人と逆のほうを見る。ご主人はすぐに私の顔の前に来た。
「リーちゃん、どうしたの?」
「ごじゅじん・・・ごじゅじん~・・・ぇっぇっぇっぇっぇっ・・・」
はちきれんばかりの涙が出る。もう完全に決壊した。
ご主人はベッドに座って私を優しく抱くと膝の上に乗せてくれた。ご主人は私が泣いてる時は何も言わない。
でもずっとそばにいる。そばで私が泣きやむのをじっと待つ。ご主人は前に私に言ってくれた。
「リーちゃん、リーちゃんの気持ちはわからない。でも泣いてる時くらいはそばにいてもいいよね?」
私・・・私の気持ちは・・・ご主人は人の気持ちを理解するのが苦手だともいう。
「ごじゅじん~ごじゅじん~、えぐっえぐっ・・・ふぇぇぇぇん・・・・ふぇぇぇぇ・・・」
「・・・・」
でも、ご主人はわかってるんだよね。私の心がどうしようもない悲しみに覆われてるっていうことを。その悲しみは時たまに暴れまわるっていうことも。
私の涙は枯れない。全然。でもこの涙は安心の代償。ご主人が命がけで私を守ってくれてる安心の代償。
泣きながら記憶を辿れば辛くない。そんな気がする。
私は・・・捨てられた。叩かれて、時には道具を使われて・・・でもその主人は私のほうを最後まで見なかった。
血まみれになって死ぬのを待っていた私をご主人は病院に連れて行ってくれて・・・・

「ふぇぇぇぇん・・・・えぐっえぐっえぐっ・・・ふぇぇぇぇぇぇ・・・」
ご主人は温かい。泣いても泣いても私に同じだけ愛情を注いでくれる。
病院でもご主人は私にずっと付き添ってくれた。でも最初は、もう安楽死させられるのかな・・・とかそんなことばかり考えてくれた。
入院して数日経ったとき、ご主人はイフを連れてきた。イフもご主人を映したような性格で私はイフを通してご主人を知ることができたんだ。
今じゃすっかりイフを尻に敷いてるけど、本当は結構感謝してる。困ってる顔が結構かわいいし。
・・・
「落ち着いた?」
「ふぇっ?」
気がついたら涙は止まっていた。落ち着いたみたい。ご主人のシャツに大きなしみをつけてしまった。
「うん・・・ごしゅじんありがと・・・」
落ち着いたと見えるとご主人はいきなり後ろ脚をつかんだ。
「さて、今日は病院だよ。」
いやだ、いやだやだやだやだやだやだやだ!私はとっさに逃げようとするけどご主人は脚をつかんでいる。
「逃げそうだから足つかんだんだよ。」
「やだ。どうしても逃げるよ。私。」
私はご主人の弱点を知ってる。ご主人の顔に私は顔を近づける。
ペロリ
耳をなめてやった。
「ひゃっ!こら!リーちゃん!」
私はそのすきに逃げる。ご主人もすぐそのあとを追ってくる。私はリビングに逃げ込む。
机の周りを走ってると目の前にイフが寝ていた。
「イフ!邪魔だって!」
私は跳んでイフを避ける。ご主人もイフを見つける。
「イフちょっと・・・よっこらしょ。」
ご主人はイフを抱いたまま私を追いかけてくる。イフはようやく起きた。
「ん・・・?ごしゅじん?何やってるんですか?」
「わーうるさいっ!リーちゃんを捕まえないと。ちょっと協力して。」
ご主人はイフを放し、私を追わせる。
「あっ!」
「もう・・・リーフィア・・・僕を使わないで・・・眠いんだよ。」
イフはそういうと加減して私のほうに跳んでくる。私はそれより高く飛んでイフを完全に抑え込む。
「むぎゅう・・・」
「はい捕まえた。」
そう言うと突然私の前足の脇を温かい感触が捕まえる。
「わっ!ごしゅじん!」
「ふっふっふっ、イフがかなわないことを利用して隙ができるタイミングを計ったんだよ。」
「ふぎゅう~。」
イフは私にまだ踏まれている。ご主人は私を抱える。
「ねっ、病院行くぞ!」
「やだ・・・」
「じゃあ無理にでも連れていく。」
「・・・・・・うん・・・」
はあ・・・捕まっちゃった。ご主人は私を抱えたまま朝ごはんの準備をしている。
「ごしゅじん~。いい加減放してよ・・・」
「だめ~。逃げるから。それにこうしてたら楽しいじゃん。」
「ぶぁっ!何言ってんの!」
私はご主人の一言で顔が真っ赤になる。
「リーちゃんもそっちのほうがいいでしょ~?」
「・・・・う・・・うん。」
ご主人は完全に私で遊んでいる。というか私の反応を面白がってる。
「リーちゃん、はい!」
ご主人は私にリンゴをくれた。
「あまい・・・」
「でしょ?高かったんだよ。リーちゃんの病院行きたくないっていう気持ちを紛らわしたくてね。」
「・・・ごしゅじん・・・」
私はご主人の気持ちがうれしかった。おとなしく病院へ行こうっていう気分になる。
「イフ、朝ごはんできたよ。」
イフはうれしそうに寄ってくる。
「リーちゃんのはこっち。」
ご主人はさっきのリンゴが入ったライスサラダをくれる。
「なんでリーフィアのほうにはリンゴ入ってるの?」
イフは聞いてくる。
「リーちゃんは今日大変な気苦労をするからね・・・その前お詫び。」
「何それ・・・僕も朝大変だったのに。」
イフはあきらめて朝ごはんにがっつく。
「イフはちゃんと晩御飯いいものあげるから。」

朝ごはんを食べ終わった私たちはリビングで少しくつろぐ。
「え~、今日の予定を言います。」
ご主人が唐突に発言する。
「イフはパルの所に行ってね?パルには迎えに来てもらうように言ってるから。」
「えぇぇぇぇぇ!いやだ・・・」
「大丈夫だって、死にゃしないよ。」
イフの顔は完全に色を失った。
「リーちゃんは僕と一緒に病院に行きます。」
ご主人は笑顔で私を見る。その目はすごい優しかった。

ぴんぽーん!
チャイムが鳴った。ご主人はあわててドアを開ける。そこには綺麗な色白の女性とパルと呼ばれるヘルガーがいる。
「こんにちは、イフ。」
「こんちは!」
イフが元気になる。
「今日はよろしくお願いします。」
「はい、お任せください。」
女性じゃなくてパルが言った。
「そちらのリーフィア・・・かわいいですね。」
綺麗な女性は私に言った。
「リーちゃんがそんな可愛いだなんて・・・そんなことは百も承知ですよ。」
ご主人は言った。何の自信だよ。
「じゃあイフ、5時くらいには迎えに行けるから、おとなしくしとくんだぞ。」
「ごしゅじん、わかった。」
イフはすっかりおとなしくなり、女性とパルはイフを連れて女性の家に帰って行った。

「あの女のひと・・・」
「そうだよ、パルのご主人さん。身体が強くないからあんまり外に出たらいけないんだけどね。」
「そうなんだ・・・」
私はちょっと憐れみを感じた。

「さっ、病院行くよ。」
ご主人は私を抱えたまま家を出た。
「もっ、もしかしてこのまま電車乗るの?」
「そうだよ?なんか恥ずかしい?」
「そそそ、そりゃそうにきまってるでしょ!」
「そんなに喜ばなくてもいいのに。」
「喜んでない!」
私は恥ずかしさで顔が紅潮する。
ご主人の荷物、私の病院のカード、財布、タオル・・・と至って少ないけど、結構役に立つ。
ご主人は私が人間がダメだっていうことで人のあまりいない土地の、人の職員の少ない病院を選んでくれた。
そういう努力も私は知ってる。だってご主人、隠す割に結構間が抜けてるんだよね。病院のパンフレット自分の机の上に出しっぱなしだったし。
それにご主人は私が悪夢を見ることも・・・それに頭を悩ませて私に自分の落ち着ける空間をくれたんだけど・・・まだご主人は悩んでるかなあ・・・

本当に私はご主人に抱えられたまま駅に着いた。
「すいません大人1枚こども1枚・・・」
「え?」
駅員はびっくりしていた。子供なんていないから・・・ただ抱えられたリーフィア一匹。
「ポケモンは連れて乗る場合は2匹で大人料金と同額となりますが・・・」
「いいの、自分の子供みたいなもんだし。」
私はうれしくて顔がほころんだ。私みたいなサイズのポケモンだと1匹連れているだけでは料金はいらないの。
なのにご主人はいつもこども料金で私を乗せる。お金の無駄だよ、って言ったけど、ご主人は自分が思う価値を支払ってるだけで無駄じゃない。って言い張る。
価値って?って聞いたら、自分にとってリーちゃんの存在の大きさっていうことかな?・・・だって。
ちょっと赤面モノよね~。うれしいし恥ずかしいし。ま、ご主人らしいけどね。

電車はまだ来てない。駅のほかの客はずっと私のほうを見てる。変な目っていうわけじゃないけどご機嫌な私と普通なご主人のコンビが変なんだろう。
しかも抱えられてるし。でも私はすっごいうれしい。
「リーちゃん電車来たよ。」
ご主人は私を抱えたまま電車に乗り込む。けど電車の中はほとんど乗客がいない。
「ほんとに人いないよね。」
「この電車は病院行くために使う人が多いからね。しかもひと駅だけだし。さっもう着くよ。」
ご主人は私を抱えたまま駅を出て病院に向かって歩く。

病院は結構昔からあるらしく、そこまで外装は綺麗じゃない。でもお医者さんの腕はいいらしい。
受付にいるが誰も来ない。
「こんにちは~。」
ご主人が誰か呼ぶ。
ずてーん・・・
「おい、誰かこけたぞ・・・」
ご主人が心配そうに言う。
「え・・・ああ・・・そうね・・・」
たったったっと誰かが走ってきた。
「ゼイゼイ・・・あ、どうもごめんなさい。予約入ってましたね・・・」
看護師のラッキーだった。かわいらしい身体がこけたせいで汚れてる。看護師の帽子も落としてるし。
「もうすぐしたら呼びますから少し待っててください。」
看護師はまたあわてて受付から走り去って行った。

ご主人は待合室の長イスに座って眠そうにしている。
「ふぁぁぁ・・・・」
「ごしゅじん~、眠いの?」
「いやね、退屈だから・・・リーちゃんは眠くないの?」
「・・・すごく眠いです。朝から泣き疲れました。」
「はあ・・・・」
「はあ・・・・」
ご主人と私は同時にため息をついた。眠い・・・もう上の瞼と下の瞼さんがチョー仲良しですー。ん?なんかヒソヒソ話が聞こえる。
”マリルの においを かいだら ぞうきん みたいな においがしたの ちょっと ショックよねー”
・・・
がくっ・・・

ゆっさゆっさ・・・ゆっさゆっさ・・・
「おきてくださーい・・・おきてくださーい・・・」
んあ・・・
目の前にいつも見てもらってる女医さんがいた。
ご主人もふらふらしてる。
「あー、リーちゃん。呼ばれたんだけどね、起きなかったからそのまま連れて来たよ。」

女医さんはカルテを取りペンで何やら書いている。
「では最近のリーフィアちゃんの様子はどうですか?」
「そうですね、ちょっと出不精ですね・・・」
デブ症?
「そんな太ってないでしょ~?」
私がそう言うと、女医さんはポカーンとしてご主人は笑い始めた。
「リーちゃん、デブの病気じゃなくて、家から出ない不精・・・だから出不精なんだって。」
「ちょぉっ、知ってたよぉ・・・そんなに笑わなくてもいいじゃん・・・」
私は顔を真っ赤にしてご主人に知ってたふりをする。でもご主人は終始ニヤニヤしている。

「はい。じゃあ身体を見るんで・・・」
女医さんは優しく私に言うけど私が一番嫌な検査だ。なにせ体中あちこち触られる。私はご主人の後ろに逃げようとする。
「うわぁん。裏切ったなぁっ・・・」
ご主人にあっけなく持ち上げられて女医さんの前に差し出された。
「リーちゃん、これをしてもらうためにいつも来てるんだから・・・嫌がったらだめだよ。」
「・・・ぅん・・・」

女医さんは私の頭を丁寧にみている。
「ふ~・・・後頭部の傷もほとんど見えなくなってる。毛も生えてるしほとんど見えないね。」
「いゃぁん・・・耳触らないでぇっ・・・」
「リーちゃん・・・触らないと検査できないでしょ。」
変な声を出しちゃった私をご主人がたしなめる。
女医さんは機械的にてきぱきと耳の表、裏をペンライトを使って右、左、と調べていく。けど私にはくすぐったくて仕方がない。
「じゃあ次は目を調べるのであまりライトの光を見ないでね。焼きつくから。」
女医さんはリーフィアの特徴でもあるつぶらな瞳を凝視している。私はいつも緊張してしまう。
本当だったらエスパータイプのポケモンがこういうことをするらしいんだけど・・・私にはそれを受けるのはちょっと無理かな・・・
「じゃあ口をあけて?」
私は口をあける。
「もっと大きく!」
「ひゃい。」
ご主人はニヤニヤして私を見てる。よっぽど変に映るのだろうか。
「ふ~。異常はないね。じゃ、次、身体を診るからベッドに横になって。」
「ちょっと僕、外に出ますね。リーちゃんが嫌がりそうだから。」
ご主人は謙遜して出て行ったけど・・・別に嫌じゃないけど・・・どうせ、いつもお風呂一緒に入ってるのに。
ごろっ
私は真っ白なベッドにうつ伏せに横になる。女医さんは背中と尾から触って診ている。
「傷の痕はなかなか消えないから・・・」
女医さんは背中の傷を丹念に触っている。
「ひっ、くすぐったぃです・・・」
「あ、ごめんごめん。傷の痕に変化がないか診てるんだけど、一応前よりは目立たなくはなってると思う。完全には消えないけどね。」
私は病院に運ばれた時、背中、お腹、頭から血を流してて、命が危なかった、そう前に女医さんに聞いた。ご主人はそんな私を助けてくれた。
「ごしゅじん・・・」
「次、さいごお腹診るから仰向けになって。」
「はぃ・・・」
私はお腹を上に向けて寝てる。私と向かい合うように女医さんは胸のほうからさっきと同じように手で直接触って傷痕を見てる。
「ひぁっ・・・」
私はくすぐったくて我慢できなくなった。
「ごめん・・・もうすぐ終わるから。」
女医さんは最後に下腹部を丁寧に触っていく。
ガラガラ・・・ドアが開いた。
「あ、おわり・・・」
ガッ!
「痛っ!」
私はなぜかご主人にボールペンを投げて命中させてしまった。
ご主人だった。私はドアの方向にお尻と尻尾を向けてたので今のご主人には恥ずかしい部分もすべて見えてる。
「リーちゃん、痛いよ。」
「ご、ごしゅじん・・・ごめんなさい。」
「い、いやこっちも悪いんだけど。なぜ投げるかなあ・・・」
ご主人は苦笑いしながら結局終わるまでうつむいてドアのそばで立っていた。
「よし、もう終りだよ。お疲れ様。ご主人さんもこういうことのないようにね。」
なぜかご主人は女医さんに怒られる。

「リーちゃん、お腹すいた?」
「うん・・・」
私は申し訳なさそうにご主人と距離をとってついていく。
「リーちゃん、僕は気にしてないよ。」
「でも・・・・」
「僕が気にしてないのにリーちゃんは気にしてる。」
「え?」
その言葉に私は嫌な過去を思い出す。とたんにめまいがして気分が悪くなる。
「ぅぅっ・・・」
「リーちゃん?リーちゃん!」
「ご・・・しゅじん・・・」
ご主人の必死の呼び掛けに答えようとするけど・・・うまく声が出せない・・・目の前が白く・・・・

「ん?」
視界がはっきりした。ベットに私は横たわっている。もぞもぞと四肢を動かす。
「リーちゃん!」
ご主人が声を掛ける。
「ごしゅじん・・・私どうしたの・・・かな?」
「リーちゃんは急に倒れたんだよ。病室を出てすぐ。」
そうだ・・・立っていられなくて・・・倒れたんだ。
「ごしゅじん、私ね・・・」
「無理して喋らなくていいよ。」
「違うの。ごしゅじんにだけ聞いてほしいの。」
「え?」
ご主人は近くに誰もいないことを慎重に確認した後、私の話に耳を傾けてくれた。
「私ね・・・ごしゅじんと出会う前・・・前のごしゅじんに殴られたり蹴られたりしてたの・・・」
ご主人は悲痛な面持ちで聞き入っている。
「それで・・・あの日、ごしゅじんに助けられた日。ごしゅじんに会う前の私、もう忘れてたと思ってた。でも・・・」
「リーちゃん!」
「え?」
「もういいよ・・・リーちゃんにどんな過去があっても僕はリーちゃんを見捨てたりは絶対しない。だからその先は・・・」
「ごしゅじん・・・」
「その先はリーちゃんが話しても辛くない時に話して。」
「うん・・・」
ドアが開いて女医さんが入ってきた。
「大丈夫?」
「大丈夫です・・・」
「本当に?」
「はい・・・」
「じゃあ大丈夫ね。」
ご主人が笑顔を浮かべて私を見る。
「帰る?」
「うん!」
私も笑顔で答えた。
「はい、じゃあ、背中にどぞ。」
「え?おんぶしてくれるの。」
「うん。」
私はかがんだご主人の背中におぶさる。
「どうよ?うれしい?」
周りを見た私は急に恥ずかしくなる。
「わわわ、私は早く降りたいな・・・」
「そう?じゃあ帰るまでやってあげる。」
「ばかぁ、恥ずかしいじゃん。」
「そのわりにすごくうれしそうだけど。」
「・・・・。」
女医さんは甘えさせてもらいなさいと言った表情で私を見る。私は素直に甘えることにした。
病院の中庭をご主人は歩く。おぶられてる私にはドクドクといった音が背中からよく聞こえてる。
「ごしゅじんの心臓の音が聞こえる・・・」
「へ?なんか気分を害した?」
「ぜんぜん・・・ただ気持ちが落ち着くの・・・」
ご主人が照れていた。
「ご!ご飯食べない?」
「ごしゅじん、裏声出てるよ。」
「そそんなことないって。ご飯食べよう。もうお昼を結構すぎたし。」
「え?そうなの?」
私は中庭の時計を見た。え・・・もう2時だ・・・
「ごしゅじん私を待っててくれたんだ。」
「当たり前でしょ。そりゃ。」
「ごしゅじん~~」
私は前肢でご主人をギュッと抱いた。
「ぐぇ!入ってる・・・」
「え!あ!ごしゅじん、ごめ~ん。」
ご主人は後ろに回した手で私の背中をゆっくりと撫でる。その動きは私を眠りに誘うほど気持ちが良かった。

病院の食堂でおいしいスープを飲んだ私はそのあとずっとご主人の背中で寝ていたみたい。

「おはよっ!」
ご主人?あれ?家かなここ?自分の部屋?リビングにイフがいる・・・
「リーちゃん、もう6時だよ。」
「え・・・・えぇえぇ!」
「リーちゃんはお昼食べてからずっと寝てたんだよ。僕の背中で。電車の中も。」
「ぶぁっ!なんで起こしてくれないの!」
「あまりにも気持ちよさそうだったからね。」
「そ、そんなこと・・・だよね・・・すごい安心してたから・・・」
私は恥ずかしさよりもご主人の優しさを改めて感じた。

「ご飯出来たよ。」
私はご主人の所に行く。イフはもうついていた。イフがこっちを見てる。・・・威嚇してやる。
「何見てんの?」
「なんでもない・・・なんでもないよぉ・・・」
相変わらずすぐこうなる。弱いって言うんじゃなくて、なんか・・・かわいいな。

私はゆっくりご飯を食べる。ご主人は料理が上手いなあ・・・もはや私の旦那さんみたいなことしてる。
「ごちそうさま!」
「ありがと~。」
ご主人は私の頭をなでてくれた。

お風呂までゆっくりすることにした私だけど・・・本当はいろいろなことをしたいんだけど・・・元気がない・・・ちょっとまだしんどい。
「ひゃっ!」
私の額に手が当たる。
「あ、ごめん驚かしちゃった?」
「ごしゅじん・・・」
「なんかすごいしんどそうだから・・・お風呂入れる?」
もう早く入ってしまおうかな。
「・・・入る。」
「早く入って早く寝よっか。ごめんね。今日はいろいろ振り回しちゃって。」
「ごしゅじんが謝ることじゃないよ・・・ひゃっ!」
ご主人は私を抱えるとイフを風呂場に追いこみ服を脱いでいる。
「はぁ・・・」
「リーちゃん、本当に無理しなくていいよ。」
「・・・だいじょうぶ。」
イフはうれしそうに湯船につかっている。ご主人は服を脱ぐと私を抱えて軽く背中を流すと湯船に浸かった。
ご主人は湯船でも私のほうをずっと見てる。
「リーちゃん、イフ身体洗うよ。リーちゃんから洗うから。」
私を抱えて湯船から上げたご主人は石鹸を泡立ててる。私は泡をボーっと見てる。なんでこんなにしんどいんだろうね・・・
「ひゃんっ!」
泡が当たってちょっとびっくりした。
「あ、リーちゃん、身体洗っていい?」
「ごめん・・・いいよ。」
「じゃあ遠慮なく。」
「ひゃぅぅ・・・ん・・・何?」
ご主人はよく見るといつもみたいにタオルに石鹸をつけて泡立てるのではなく、泡立ててから私にその泡を塗っている。
「泡が足りないなぁ・・・」
「ごしゅじん、なんなの?」
「ん~とね、いつもリーちゃんが機嫌悪いと泡だらけにするの。すると知らないけど喜んでくれるんだよね。」
「へ~。」
自分のことなのに私は感心してる。ご主人は私のためにせっせと泡を立ててる。ちょっとおかしな光景よね。
「んにゅあぁぁっ・・・尻尾はやめてよぉ・・・」
「もう終るから待って。」
ご主人は手を休めることなくせっせと私を真っ白にしてる。鏡を見ると曇ってる鏡にうっすらと泡だらけになって真っ白になった私が見えた。
「にゃっ・・・んにゅぅ・・・」
こそばいのを必死に我慢してるとご主人は手を止めた。そしてシャワーに手を出すと鏡の曇りを流す。
「わぁ・・・すごぉぃ・・・」
そこには顔のまわり以外真っ白になって泡だらけになった私がはっきりと映った。
「ど・・・どや!」
「ごしゅじん・・・ありがと・・・」
私はご主人の脚にすり寄り、泡をこすりつける。ご主人もとても笑顔だ。この鏡みたいに私の心はすっきりと晴れた。
「流す?」
「もうちょっとまって・・・」
「いいよ。その間にイフを洗うから。イフ!」
ご主人はイフを私から遠ざけてせっせと洗っている。ご主人はすごいなぁ・・・えへへ。私はちょっと誇らしい気分になった。あれだけ人が嫌だったのに。
「イフはもう上がったよ?もうちょっと待つけど。」
「じゃあ、もうちょっと~。」
「おっけー。僕も湯船でゆっくりするから。」
私はご主人のほうを見る。
「ごしゅじんはほかの人を喜ばせるのが好きなの?」
「ん~。実はそうでもない。・・・ただ、どんなものでも笑顔って素敵だから。リーちゃんを見ててそう思った。」
「ごしゅじん・・・」
あったかくて・・・ちょっと眠たくなってきたな。
「ねむそうだね、洗い流して風呂から出る?」
「うにゅぅ・・・」
ご主人はシャワーを取って私の周りの泡を流し始めた。みるみる白い泡は渦を描くようにして排水溝に吸い込まれていく。
「さっ。出るよ。」
ご主人は私を抱えてふろ場から出る。そして眠そうな私を真っ先にタオルで拭いてくれる。
「にぇむぃ・・・・」
「今日は僕の部屋でイフと寝ますか?」
「・・・うん。」
もうそこには恥ずかしさはなかった。ただ、最高のご主人に守られてる、その思いしかない。
ご主人は私が乾いたのを丁寧に確認して、私をご主人の寝室まで抱っこして運んでくれた。
「ごしゅじん・・・上の服着ないと風邪ひくよ・・・」
「うん・・・でももうちょっとこうしていたいから。」
ベッドに寝かされた私はすぐ目を閉じる。
「ごしゅじん、おやすみ。」
「リーちゃん、お休み。」

・・・くぅくぅ

おしまい


・誤字、脱字等に気付いたらお願いします!!


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Last-modified: 2010-06-09 (水) 00:00:00
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