作・雪猫 ?
世界観は現在の地球そのままです。
登場人物についてはポケモンになってしまった訳だが - 登場人物をご覧ください。
「ふぁ~~~~~あ……もう朝か……」
俺の朝は何時もこうだった。
朝目が覚めて、
歯を磨き顔を洗い、
寝癖を直すついでにシャワーを浴びて、
朝食をとりつつテレビでニュースを見て、
時間に余裕があったらネットをして、
大学に行く。
今はとある理由でそれが出来ない。
「やっぱり夢……じゃなかったか……」
とりあえず、喉が渇いたから台所に行って水を飲む。ひねるタイプの蛇口じゃないから水を出すのは問題ない。
ついでに頭から水をかぶって顔を洗う。意外と気持良い。こういうのも悪くないな。
「腹減ったな」
そういえば冷蔵庫にコンビニのおにぎりがあったような無かったような気がする。冷蔵庫見てみるか。
「あ、あれ?開かない?」
前足で開けようとしても冷蔵庫の扉は頑なに閉じている。おかしいな、昨日はすんなり開けれたのに。
あぁ、これはよくあるアレだ。思いっきり力入れないと開かなくなるアレ。何て言うのか分らないけど。
どうしよう……。これじゃ飯にありつけん!
「かくなるうえは!」
冷蔵庫の本体と扉の間に牙を入れ扉にかじりつき、思いっきり引いてみる。
くそう、冷蔵庫も開けまいと必死な様だ!早く開いてくれないと顎のHPが0になってしまう!
勢いよく扉が開いた。顎のHPが0になる前に開いてよかったよかった。……顎が痛い。
「おにぎりおにぎりっと。あった!」
尻尾で冷蔵庫の扉を閉めつつベッドの上に向かう。そして包装を取ってツナマヨを食べる。今思えば自分でもびっくりな位器用に包装を取れたと思う。そんな自分を褒めてあげたい。
今は体が小さいのでおにぎり1個でお腹が膨れてしまった。食費がかからないのはいいかもなぁ。
牛乳も飲みたかったけど、こんな体じゃまともに飲めないだろうな。下手にこぼして部屋中牛乳臭くするのは御免だ。
そういえば、テレビはやってるのだろうか?
NHK「ザーーーーーーーーーーーーーー」
日テレ「ザーーーーーー(以下略」
TBS「ザーーー(以下」
フジテレビ「ザーー(略」
テレ朝「ザ(ry」
テレ東「(ry」
「どこもやってないのかよ……」
テレビ局も大変な事になってるのかな。
外はまだ見てなかった……外行ってみるか。
……で、玄関まで来た訳だが、鍵どうやって開けよう。ジャンプして届いても今のこの前足じゃ絶対開けれないだろうな。
鍵開けても扉開けれるか……?レバー下げながら押さないと開けないし。
色々考えてたら色々面倒臭くなってきたからヤメ。
「あいつが来るまでもっかい寝よう……」
寝ながら自分なりに色々考えてみる事にした。
何でこんな事になってしまったんだろうか?
これは夢なのか現実なのか?
何故俺はブラッキーになってしまったのか?
答えは出そうにない。
––遡る事1日と半日前––
普段通り5限目が終わり、帰りにスーパーで買い物をし、家に帰る。
スーパーで買った惣菜で夕食を済ませてすぐにPCの電源をON!
ネトゲですよネトゲ。
今や俺はネトゲの為に大学に行ってると言っても過言ではない!……嘘ですごめんなさい。
19時頃にログインして、普段通り画面の向こうの見ず知らずの相手と冒険に出かける。
そして22時を回ったあたりで急に眠たくなって……。
「ふぁ~~~~ぁ……あ……PC点けっ放しで寝ちゃったか……」
朝の6時か。また『寝落ち』をやらかしてしまった。
PC点けたまま寝ると電気代がやばいんだよね。先月なんか1万円超えたし。
ま、やってしまった事は仕方ないよな。うん。
腹減ったし、とりあえず顔を洗って……ん?
何かおかしいな。
妙に視点が低い様な。
というか、体が軽い?
四つん這いになってる?
てか立てないんですけど?
うわっ、何か手が猫みたくなってる!
なんだこれは!
これじゃ物持てないじゃないか!
肉球……ぷにぷに……
「はっ、いかんいかん」
今俺はどうなってるんだ?
「鏡……鏡……あった!」
まさか、「朝起きたら猫になってましたー!」とかそういうやつ?
まぁ、猫は好きだからいいんだけど。
でも黒猫って縁起が悪いらしいね。よく分からないけど。
兎に角鏡覗いてみよう。
「おい……嘘……だろ?」
これは猫なんかじゃない。
いや、この地球上に存在しないはずだ。
だってそれはアニメやゲームに出てくる架空の生き物だから。
「ブ……ブラッキー……?」
ポケモンをやった事があるから分かる。
前後の足と尻尾とおでこのあたりにある黄色い模様。
げっこうポケモンの『ブラッキー』
おいおいおいおいマジですか。
俺ポケモンになっちゃいましたか。
って事はあれですか、ポケモンマスター目指して旅に出るんですか。
誰とだよ。
いや、これは夢だ。
昨日寝落ちして、まだ眠ってるんだ。きっとそうだ。
これは悪い……訳でもないけど夢なんだ!
じゃないと説明つかないしな。
もう一回寝て、目が覚めれば元の人間に戻ってるはずだ。
きっとそうだ。
目が覚めれば人間に……
「戻ってねぇぇぇぇぇぇ!」
12時間も寝たのに戻っていないとは……。
本当にポケモンになってしまったのか?
あぁ、きっと俺は悪い病気にかかったんだろう……。
幻覚か何かかな……。今度病院行ってみるか……。
っと、携帯が鳴った様だ。誰だろ。
あぁ、
電話に出たいのは山々なんですが通話ボタンが中々押せないのでしばらく待ちやがれ。
あ、切れた。
用事があったらまた向こうから掛けてくるだろう。っと、また掛かってきた。
今度は爪を立てて慎重に押す。巧く通話が押せたようだ。
俺は床に置いてある携帯のスピーカーに耳を近づけた。傍から見れば「あいつ何やってんだ?」って思われるだろうな。
『おーい、
『おう、聞こえてるぞー。どうした?』
『実は俺凄い事になってんだよ今』
『何だよ凄い事って……』
凄い事ね……。
今ポケモンになってる俺以上に凄い事ってあるのかねぇ。世界中の人に聞いてみたい。
『実はな……俺……朝起きたらマグマラシになってたんだぜ!』
『はぁ……マグマラシにねぇ……ええぇぇぇ!?』
嘘だろ?
『マグマラシって、ポケモンのだよな?』
『そうだけど?それがどうした?それよりもさー、俺すんごいもっふもふ。やばいってこれは。』
俺以外にもポケモンになった奴がいる?
『なぁなぁ、俺んち来てみろよー。マジな話だから。あ、どうせお前信じて無いんだろ?言っとくけど幻覚なんか見てないからな?病気でもないからな?』
『いや、信じるも何もだなぁ……』
『どした?』
『俺も……ポケモンに……ブラッキーになってるみたいなんだよ』
『うおっ、それ本当か!俺以外にもなった奴居たのか……何かショックだ……』
翔はどうやら自分だけがなってしまったと思ってたらしい。
『なんでだよ……そこは普通喜ぶところじゃないのか?自分一人だけってのは逆に辛いぞ?』
『そうだな……。んー、じゃ、他にもなった奴居ないか電話してみるわ。出てくれるかわからんけど。』
『わかった』
『明日おまえの家行っていい?』
玄関の扉を見る。うん。これ開けれる気がしない。
『来ても入れるかどうかわからんぞ?』
『火炎放射でブッ壊『おいやめろ』』
『冗談だって。じゃ明日行くから。んじゃ』
どうやら他にもポケモンになった奴は居るようだ。俺も、自分だけがなったと思ってたし。
明日……明日、起きたら全てが元に戻ってる……訳無いか。今日寝てもダメだったし。
今日は色々ありすぎた。
ご飯食べて寝よう。
朝から何も食べてなかった。
明日からどうしようかな。
[ピーンポーン]
……誰だよこんな朝早くから。まだ7時半だぞ?
[ピーンポーン……ピーンポーン]
あぁ、五月蠅い。
今俺はここに居ない。さっさと帰ってくれ。
[ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン]
「だーっ!五月蠅いな!誰だよ……ったく……」
[ドンドンドンドンドン]
「おーい、
「その声は……
「そうだよ。昨日行くって電話しただろー」
あぁ、そう言えばそうだった。色々考えてたのもあったし、眠くてすっかり忘れてた。こんなに早く来るとは思って無かったし。
玄関まで来たものの、どうやってドア開けるかな。
「すまん、ドア開けるの手こずりそうだ。ちょっと待っててくれ」
「ほーい」
さてどうしようか。この距離じゃ……前足伸ばしてもぎりぎり届かないな。
台の様な物があれば……。段ボールは先週の資源ごみの日に全部出してしまって無いし。
「おーい、早くしないとドア壊すよー?フヒヒ」
こいつならやりかねないな。早くなんとかしないと。
ま、やったらやったでやり返すけど。2倍にして。いや、あいつの部屋吹き飛ばしてやろうか。
アニメやゲームのグッズが色々あるから、全部壊れた日には自殺しそうだな。
そんな事はどうでもいい。もうこうなったら教科書山積みにして土台作ってやる。
「よし、出来た……」
5分ほど掛って、やっとこさ前足が届く高さまで本を積み上げた。
ずっと本を噛んでいたので口の中が何とも言えない感覚に。てか、顎疲れた。
[ガチャリ]
よし!第一の関門突破!
後は扉をあけるだけ……って勝手に開いたぞ?
「おーっす、雄介!」
一匹のマグマラシがニコニコしながら入ってきた。
その後ろには何故かピジョン・エーフィ・ベイリーフ・サーナイトが居た。
「翔……だよな。後ろの誰?」
「あー、そうだったそうだった。まぁ立ち話もなんだし、とりあえず部屋に入って話そうぜ」
それはお前が言う台詞じゃないだろう。常識的に考えて。
「お邪魔しまーす。邪魔だと思うなら帰ってくださーい。なんちて」
「邪魔するぜー」
「お邪魔しますね」
「お……男の人の部屋って初めて……お邪魔……します」
「おーここが雄介の部屋かー、案外広いね!」
そして「どうぞ」も言ってないのにぞろぞろ入ってくんな。
別にいいけど。
皆が部屋の中心に円になって座る。最後に来た俺は翔の隣に座る。こいつ……熱い……。
「じゃあ改めて……。俺は翔。見ての通り、マグマラシになってしまった。しかーし、俺はこのもふもふを気に入っている。はっきり言ってヤバイ!このもふもふはヤバイ!この世の物とは思えないくらいもふもふだ!俺はこのもふもふを愛している!ありがとう!もふもふ!!」
こいつ、頭大丈夫か?
「よし、じゃ次は俺な。俺は
「お前……ピジョンになったのか」
「ああ。自由に空を飛べるって便利だぜー。ちょっと練習必要だったけどね」
鳥ポケモンか……いいなぁ。俺も空を飛んでみたいよ。今度背中に乗せてもらおうか。
でも空を飛べる代わりに手が使えなくなった様だな。その辺は少し不便か。
「次は私ね」
ん?この声は……。
「私は
うおう、南はエーフィになってしまったか。何か勿体無いなー。人間の時は結構……いや、かなり美人で、大学では男子どもの目線を釘付けにしていたものだったが。
あー、でもエーフィはエーフィでいいかも。艶やか……って言うのかな。どことなく大人の雰囲気を醸し出してるというか何というか、俺は何を考えてるんだ。
「え、えと、次は私ですね。私は
「あぁ、千春さんか!全然分らなかったよ」
このおっとりした感じ、まさしく千春さんだよな。南と一緒にいる所は見たことあるけど、余り話したことは無いんだよな。
千春さんはベイリーフか……。ベイリーフって活発なイメージがあるからちょっと意外。
「はーいはーい、最後私ね!」
五月蠅いのが聞こえてきた。
このテンションの高さ、間違いなく
「わたしはねー」
「綾でしょ?」
「ちょっと、雄介先に言わないでよ!」
「そのテンションの高さですぐ分かったわ」
「う~……そうでーす。私は綾でーす」
先に言われたからってテンション下げすぎだろう……
綾はサーナイトか。このなかで1人だけ人の形をしている。このメンバーで一番被害が少ないだろうな。羨ましい。
「さてさて……自己紹介も終わったし、これからの事について考えてみようと思う」
珍しく翔が真面目な話をしだした。今日は雪でも降るかな。
「とりあえず……だ。俺達ここに泊っていい?」
前言撤回。何を言い出すんだこいつは。
「はい?ここに泊まる?」
「そそ」
「何でだよ……」
ただでさえこいつの五月蠅さは大学でうんざりしているというのに、更にここに泊まるとなると俺の休息する時間が無くなるだろうが。
「いやだってさ、さっきのドアもそうだっけど、この体で1人って色々きついぜ? 協力し合った方がいいと思うんだ」
う、言われてみればそうだな。
この部屋……と言うかこの世界の殆どは人間用に作られてるし、俺みたいな4足歩行ポケモンにはきついな。
「んーそれもそうだが、何で俺の部屋なんだよ。お前の部屋だっていいだろ?」
「広いから」
「そうですか……」
確かに広いって言われれば広いかも。大学に入る時にアパート捜すの遅れて、もうこの部屋しか残ってなかったんだよな。
家賃高かったけど。
「それに俺の部屋焼けちゃったし」
「ちょ、何やってんだよ」
「もふもふがうれしくってついつい興奮しちゃってさ、そしたら頭と背中から炎噴き出しちゃってベッドに引火した。いやー焦った焦った。俺の自慢のコレクションが炭になるところだったぜ」
炭になればよかったのに。
てか、そんな状態でここに居られても困る。俺の部屋も焼かれたらまったもんじゃない。
すぐにでもお引き取り願いたいものだ。
「よし!決まりだな!、俺達は雄介の部屋で泊って南達は南の部屋に泊まるということで。何かするときはここに集合な」
「よろしくな、雄介」
「わかったわ」
「あ、南さん……これからよろしくおねがいします……」
「りょーかい!」
おーい、また勝手に決めるんですか。俺に決定権は無いんですかそうですか。
でもまぁ、1人で苦労するよりはマシかな。
「じゃ、何か食おうぜ!俺腹減った!」
お前は少し黙れ。
「雄介、何か食べ物ある?」
南が近づいてきた。近くで見ると、遠くから見てた時とはまた違った何かが……おっと、いかんいかん。
何か食べれるもの……あったっけ?
「ちょっと冷蔵庫見てみる」
何かあればいいけど……。
あー、マズイなこれ。
「ゆーすけー、何かあるー?」
ポケモンになる前の日、1週間分買い溜めしようとして結局しなかったんだった。
「どうした?雄介」
翔が冷蔵庫を覗きにくる。冷蔵庫の中身を見て凍りつく。
「どうしよう……食べるもの無い……有るのは牛乳だけだ」
「……俺んちにも無いぞ?基本コンビニ便弁当と学食だし」
そこに直哉、南、千春、綾がやってきた。
「俺も無いな。この間無くなったばっかりだ」
「私も無いわね。買い物行こうと思ったらこの姿になってたから」
「すみません……私も無いです……南さんと同じです……」
「私もないよー。普段学食とバイト先で食べてるからねー」
全員黙ってしまった。
これは一大事だ。
「こちらアルファ、準備はいいか」
「こちらベータ、問題ない」
「よし、作戦決行は
「了解!」
何やってんだよこいつらは。特に
てか、アルファとかベータとか、もっといいネーミングは無かったのかよ。
暗号名使う様な敵なんかいないし、普通に話せるこの距離でテレパシー使うとかもっと意味わからん。
そしてこの妙な一体感はなんだ。
ああもう、ツッコミが間に合わない。
兎に角、普通に話せよ普通に……テレパシーだから『念じろ』か。
……エスパーがいるって便利だよな。
そもそも何でこんな事に……って、食べるもの無いからか。
生きるためには仕方ないとはいえ、非常に面倒臭い。
「時間か……よし、突入だ!」
もう、帰っていいですか?
帰ってもいいよね?
てか帰りたい。
俺頑張ったし、いいよね?
今から一時間前―――――――――
「さて、早速ピンチな訳だが……どうする?」
冷蔵庫から戻った俺たちは、自己紹介のときと同じように円になって座る。
しばらく沈黙が続いていたが、耐えきれなかったので俺から切り出した。
「これだけ集まって全員食糧無いとは思わなかった……」
直哉がぼそりと言った。
他の皆は暗い顔をしている。そりゃそうか。食べるもの無いんだもんな。
「コンビニとか開いてないのかしら?」
コンビニか……24時間やってるし開いてるだろうな。弁当とか沢山置いてそうだし。
「いやコンビニは無理だ」
「えー?何で?」
「南の家に行く途中にコンビニ寄ったんだが、既に荒らされてたよ」
「まじかー」
俺の家に来る前に見てきてたのか。
まぁ、こんな事になってるんだし仕方ないのかな。
「そうだ、いい事思いついた」
翔が何かひらめいた様だ。
きっとロクな事じゃないだろう。
「スーパーにこっそり侵入しちゃおうぜ」
ほらね。予想的中。
こいつは何時も斜め上の事しかしないからな。
「それって……泥棒じゃ……」
千春がボソリという。
そうだな。それじゃ不法侵入に窃盗だ。
まだ二十歳になったばかりなのに、人生に汚点を残したくない。
あーでも、これって止めないと共犯扱いになるんだっけ。
ま、警察に聞かれたら翔が勝手にやりましたって言えばいいか。
「でも、生きるためには仕方ないだろ?」
直哉は賛成の様だな。
てか、さっきから俺が会話に入っていない様な気がするんだが。
「そうだけどさ……」
綾は反対派の様だ。
「お金置いておけばいいんじゃない?」
南は別にどっちでもいいってスタンスなんだろうか。皆が行くなら私も行くみたいな?
空気にならない様に、この辺で会話に入っておくか。
「で、どこに行くんだ?」
とりあえず聞いてみる。
「うみねこスーパー。大学の前の」
確かにあそこは品揃え豊富で盗むのには持ってこい……って、何納得してるんだ俺。
「よし!決定だな!我々の目標はスーパーマーケット『うみねこ』!持てる分だけ食糧持ち出すぞ!」
嗚呼、今回も俺を無視して勝手に話が進んで行きました。
俺は空気ですか。
「おー!」
そして何故か、反対していた綾と千春さんもやる気満々だった。
――――――――――――――
「はぁ……いいのかなぁ……こんな事して……」
これで俺の人生に汚点を残す事になるのか……。
「何か楽しくなってきたー!」
綾は相変わらずだった。
とりあえず黙ろうか。ばれたら元も子も無いだろうに。
「こういう経験って……滅多にできませんよね……」
おいおい、千春さんまで……
滅多にというか、まともな人間……もとい、まともなポケモンはこんなことしません。
「雄介、何ぼさっとしてるの。行くわよ」
南はそう言うと、念力で鍵を内側から開けた。
さてと……入ってしまったし、今更引き返せないか。
それなら思いっきりやってやる。
サーナイトの綾はカートに籠を入れて商品を入れながら歩いている。
ベイリーフの千春さんはつるのむちを出して籠を持っている。
南はその籠に次々と商品を入れていく。
なんとまぁ手際の良い……。
直哉はくちばしで籠を持ちながら商品を入れている。
さすがに重いのは持てないのか、軽い物しか入れてないようだ。
で、翔は何やってんだ。
「お前……なにやってんの?」
「お……雄介か……ちょっと……手伝ってくれ……」
翔は10kg入りの『新潟産コシヒカリ』を背中に乗せて運んでいた。
流石にこの体じゃ無理だろうな。欲張って2つも乗せてるせいだ。
「ちょ……雄介……どこ……助……」
あぁ、こいつは無視だ。
「雄介ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
断末魔の叫びが聞こえてきたような気がするが、多分気のせいだろう。
さて、俺も何か持ち出すかな。
暫く見て回って戻ってくると、レジの後ろの台に皆が集まっていた。
俺はそんなに持てなかったけど、みんなは結構持ってきたな。女性陣が持ってきた物が8割を占めている。
翔はまだ『新潟産コシヒカリ』に潰されてるのか。どうでもいいけど。
「おー、結構集まったね!これで暫くは暮らせるねー!」
綾はそう言いながら袋に詰めていた。
結構な量だなぁ……実際に買うとなればいくらするんだろうか。
「袋詰め完了っ!」
商品を袋に詰め終わった。
後は家に帰るだけか。
「よし、撤収だ!」
翔……いつの間に来たんだ。結局お前は何もしてないだろ。
まぁいいや、突っ込むのも面倒だ。お腹すいたし早く帰ろう。
「おい!お前たち、ここで何している!」
あ……やばい……見つかったか……
そこにはサイドンがいた。
「お前たち……泥棒か」
あぁ、俺の人生終わった。
「す、すみません……どうしても……食料が必要……だったんです」
千春さんが必死(?)に謝るが、サイドンはまだ尚睨み続けている。
……と南が首をかしげながら話しだした。
「あの……もしかして……店長ですか?」
「ん……その声は……南さんか」
「ええ、お久しぶりです」
お?この人はこの店の店長で、南の知り合いなのか?
何にせよ、事態は好転しそうだ。
サイドンと南は笑いながら何やら話している。
「成程……そういう事か……それなら今回は特別に見逃してあげよう」
「すみません、店長。ありがとうございます。お金はちゃんと払いますので」
「いやいや、礼には及ばんよ。まさか南さんだったとはねぇー。はっはっはっはっは」
サイドンはお金を受け取ると、何処かへ行ってしまった。
「私ここでアルバイトしてるのよ。しかも店長のお気に入り。だから許してくれたんだと思うわ。私はそんな気無いけど」
あっさりと店長を切り捨てた南。
それにしても良かった……。これで汚点を残さずに済んだようだ。
「何とかなったし、帰ろうぜー」
「そうだな、帰ろうか」
今日は今までで一番疲れた。精神的に。
早く帰って何か食べたい……
「おう」
「そうね。私もお腹すいたわ」
「今日は……豚肉とキャベツの……野菜炒め……」
「料理は任せておいてー!」
俺たちは家に帰った。
「よーし、何か作るよ!」
料理は手が使える綾が担当することになった。
因みに助手は千春さん。
[カチッ……チチチチチチチチチチチ]
[カチッ……チチチチチチチチチチチ]
「あれー?」
[カチッ……チチチチチチチチチチチ]
「ねー、ゆーすけ、ガスつかないよ?」
「え?」
[カチッ……チチチチチチチチチチチ]
「ね?火がつかないよー」
本当だ……元栓は締めた覚えは無いな。
電池はまだ大丈夫なはずだし。
まさか……いや、気のせいであってくれ……
蛇口のレバーをお湯にして流せばお湯が……出ない。
何時まで経っても水しか出ない。
ボイラーも動いてないな。
あー、最悪だ。
「ん?どうした雄介?」
翔が近づいてくる。
「ガス……止まってる……」
「な、なんだってー!」
「俺……もう疲れた……」
「私も……」
「一応……冷凍食品もありますし……今日はそれで……我慢しましょうか……」
「終わりだー!この世の終わりだー!」
皆が落胆する中、千春さんだけが冷静だった。
今俺は、世にも珍しい光景を見ている。シュールと言うか何と言うか。
多分人間の状態なら一生見れなかっただろうその光景を、何かの記念と言うことで写真に撮っておくか。
「
「は、はいっ!?……なななななんでしょうか」
声を裏返すほど驚かなくてもいいだろうに……。
「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「な……なんでしょうか……?」
「携帯のカメラでアレ撮って欲しいんだけど。ほら、俺手使えないから」
「え?……いいんですか?勝手に撮って……」
「大丈夫大丈夫、減るもんじゃ無いし。面白いし」
「……分りました」
[ピピピッ……カシャ]
「ありがとう」
「いえ……」
千春さんが器用に『つるのむち』でカメラ操作している。
いい感じに撮れてるな。
これブログに貼ったら閲覧数伸びそうだな。
「
「ん、これこれ。面白いから撮ってもらった」
「ちょ、何撮ってんの」
「俺も。俺も撮る。千春さん、お願い」
「は、はい」
[ピピピッ……カシャ]
「これ待ち受けにするわ」
直哉はニヤニヤしながら携帯を嘴でいじっていた。
で、今何が起こっているのかと言うと……
「
「お、おう」
「うん、いい感じいい感じ」
今翔は床に仰向けに寝ている。
そして口から『かえんほうしゃ(弱火)』を出している。
その上で
ガスが止まってコンロが使えないので、火を扱える翔に白羽の矢が立ったのだ。
「あー、今度は火が弱い!もうちょっと強く~」
「へいへい」
「あちちちっ、火強すぎ!私まで一緒に焼く気!?」
「あーごめんごめん」
そんなやり取りが繰り広げられていた。
「みんなー、出来たよ~」
綾が『ねんりき』で器用に皿を浮かべてながらやってきた。
綾がまた『ねんりき』を使って、料理を小皿に分けて皆の前に置く。
これで何回目かわからないが……エスパーって便利だなぁ……。
「手を使わずに食べるって変な感じだな」
「そうね。でも私は箸使うこと出来るから余り変わらないわ」
南はねんりきで箸を器用に動かして食べている。
綾は人形だから普通に手を使って食べれるか。
他は犬食いか……言い方は悪いが、こればっかりは仕方ないよね。手が使えないんだし。
ご飯を食べ終えた。ここで少し気になってた事を話題にしてみよう。
「ところで、外はどうなってるんだろうか?」
今までずっと家に居たし、外に出たのはスーパーに行った時だけだからな。
どうなってるのか見てみたい。
「偵察してみるか。俺は空を飛べるし、一人くらいなら背中に乗せれるぜ。それに何だか空を飛びたい気分だ」
直哉は外に出たいようで、羽をばたつかせてる。抜けた羽を掃除するの面倒だから落ち着いてくれ。
やっぱり鳥は鳥かごにいるより外にいる方がいいのだろうか。
狭い空間に押し込められて飛べない鳥が飛び立とうとしてる……みたいな。よくわからん。
「はいはいはい!俺一緒に行きたいんだぜ」
「俺も行きたいな」
立候補したのは俺と翔か。
流石に綾と千春さんは無理だろうな。二人も自分は無理だと分ってるみたいだ。
「二人は流石に無理じゃないか?」
「脚で掴めば二人行けない事も無いと思うけど、疲れたら落としちゃうかもな」
「南はどうする?」
「私は家に戻ってシャワー浴びたいから、翔か雄介が行ってきて」
翔が行きたそうな眼をしていたが、無視することにした。
俺も行きたいし。
空を飛ぶなんて滅多に経験できないからな。
直哉に頼めばいつでも行けそうだけど……。
と言う訳で、翔すまん。今回だけはお前に譲るわけにはいかないんだ。俺の我が儘を許せ!
と、格好よく振る舞ってみる。
「早い者勝ちって事で、直哉、行こうぜ」
「よし、じゃ行くか」
「あ、ちょ……雄介のバカヤロー!」
何か聞こえたような気がしたが気のせいだ。うん。
外に出ると待ってましたと言わんばかりに直哉は張り切っていた。
このままだと俺を置いて飛び立っていきそうだな。
念のため、連絡が取れるように携帯電話を持ってきた。ネックストラップが付いた携帯を首から下げる。
ストラップはスーパーで見つけて、便利そうだったから買ってきておいたのだ。ストラップは綾に付けてもらった。
飛んでる時には一々携帯開いて……とか出来ないので、マイクとイヤホン*1を右耳にセットする。
所謂「ハンズフリー」というものだが、ここで役に立つとは思わなかったな。持っててよかった。
「準備はいいか?」
「何時でもいいぞ」
「よし、飛び立つ時落ちるなよ」
「わかった……所で重くないか?」
「……たぶん大丈夫。……多分」
ピジョンとブラッキーはそれほど体格差が無いので、落ちないか心配だ。
「いくぞ!」
直哉が羽を大きく広げると、羽ばたき始めた。そして体は徐々に浮いていく。
飛び立つ瞬間落ちそうになったが、なんとか首元にしがみ付いて耐えた。
「すげぇ……俺飛んでるのか……」
「まだまだ低いけどな。ここじゃ電線が邪魔で高く飛べないよ」
今俺は飛んでいる。まだまだ低いが、確かに飛んでいるのだ。
体に当たる風が心地よい。狭い路地を抜けて大きな道へ出る。
「よし、もっと高度を上げるぞ」
そう言うと、直哉は空に向かって更に羽ばたき始めた。
落ちそうになったので、首を絞めない程度にしがみつく。
今日は雲一つ無い晴天。
太陽の光が眩しいな……。
「どこまで行こうか」
「ん~、余り遠いと大変だろ?」
「そうだな。帰りも遅くなるし、何より俺の体力が持たん」
「それなら先ずは街の中心部にある駅まで行ってみないか?この辺じゃ一番でかいし。無駄に。それに駅前なら誰か一人くらいはいるだろう」
「おっけ!よし、じゃあ掴まってろよ!」
勢いよく羽を動かすとスピードはどんどん上がっていき、眼下に広がる住宅はすぐに通り過ぎていく。
こういうの疾走感……ていうのかな?
背中に乗っているだけなのだが、まるで自分が空を飛んでいるかのような錯覚に陥る。
「やっぱり電車は動いていない様だな……」
「車も一台も動いてないな」
そう言えば、さっきから線路の上を飛んでいるが、列車とは全くすれ違わないな。
「電車は止まってる……か。流石にポケモンの姿じゃ運転できないよな」
「出来るとしたら、綾みたいな人形ポケモン位だろうな」
そんな雑談をしながら南下していく。
二十分程飛んでいると、徐々に都会が姿を見せてきた。
中心部に近づくにつれて建物は高くなっていき、高層マンションやビルなどが見えてきた。
「そろそろ駅前に着くぞ」
「予想通り、結構いるな」
駅前には沢山のポケモンが見える。店は閉まっている様だ。
テレビのカメラが見えるな。テレビ局も漸く放送再開したのだろうか。
「降りてみよう」
「おう」
俺と直哉は駅の入口に降りた。
次・ポケモンになってしまった訳だが - その2
新新wikiに行ける様になったので修正したものを載せました。
お詫び
関東以外にお住まいの皆さん、分かり難くてごめんなさい。
5話できました。
見切り発車で書いたこの話も対に5話ですね!今回は平和な感じに仕上がったと思います。
この先どうしようかな……
と言う訳でちょっとしたリクエスト企画。
このポケモンをこんなキャラで出し欲しい!というのがありましたら、登場人物紹介ページの方にコメントお願いします。
詳しい事はそちらの方に書いてあります。
ネタ切れ早いとか思ったら負けですorz
全部が全部出せるか分りませんが、それをネタに何か書いてみようかな的なノリです。
リクエストあった順から書いてみようと思います。伝説・色違い・伝説では無いけど珍しいポケモンはNGの方向で。
ポケモンが重複したら早い者勝ちって事で。
次から一話完結にした方が色々楽そうだ。
※雄介以外が一斉に喋っている部分は基本的に上から翔、直哉、南、千春、綾の順番です。
できるだけ分かりやすくするつもりですが、分かりにくかったらすみませんm(_ _)m
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