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ブラック会社に勤めて……ないが、もう俺は限界かもしれない

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やせいのエロ小説(予定)が とびだしてきた!
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Boy meets girl,and fall in love!!!XDDDDDD


導入部 

 透けるほど白い紙に乗せた、夜の闇をすくいとってきた私の黒い手。
 ただでさえ相反するに色をことさらに際立たせる濃厚な光が瞳をのぞき込んでくると、何もかもが濃い夏がついにやってきた、と私は痛感するのだ。もっとも、夏は好きじゃないけど。
  経理部はいつだってにぎやかだ。
 一時だって、書類の舞う音、キーボードを叩く音、電話のなる音が止まることはないし、コピー機の前にはいつも誰かが直立不動の構えをしている。
 ……それが今日は私だった。
 細まったひとみにブラインドが掛かるのを阻止しながら紙をはさんで青いボタンを押すと、機会は大きく一度うめいて、ピーとかガーとかわめきながら紙を吐き出し始める。
 長い耳を持つ私にはちょっと音が大きすぎるんだけど、仕事だからと思って我慢する。
 ああ、楽ってある種罪だわ。眠気のおもりがまぶたをずりおろす。するとそこは全くの騒音の世界で、鋭い聴力にそれは少し堪えた。
 突然バーンと盛大に机を殴る音がして背筋がぴりっとし、間髪入れずここの部長のエネコロロが部下をどやし立てる低く大きな声がまき散らされた。
 すごくやかましいのだけど、でもコピーはまだ始まったばかりだ。
 そして――ああ、悪魔よ、願わくばあそこにいるお局ピカチュウさまのところへいってもらえませんか? 無理?
 食堂へ言って帰ってすぐ、あの食事にはねむりごなでも仕込まれていたのではないかと疑い始めた。
 いや、それ以前にうちの上司が悪い。ブラッキーって夜行性じゃないんですよ。
 月の光を浴びたからこうなっただけで、私は一度だって貫徹・朝寝の逆転生活なんて送ったことはない。
 誓いましょうとも――
 ――


「あっ、シードルちゃん!」
「ひ、ふぁいっ?!」
 突然名前を呼ばれて意識が闇の中を急浮上する。
 うたた寝していたみたいで、エネコロロの逆鱗に触れる前に起こしてくれたのはとても有り難かった。
 驚愕に乱した息を整えている途中、顎の方までよだれが伝っているのに気付いて、慌てて手で拭う。
 ぼやけた目をぱちくりさせると目の前にフローゼルが立っているのを認めることができた。
 紺碧の目は私の動作をじっと見つめていたらしくて、顔がほてるのを感じた。
 名前を知っているということは先輩だろうけど、残念ながら私は相手のことをみじんも知らない。
「ああ、ああああ、ああ、こんにちはっ」
「ん。それで、今コピー中?」
「えっ、あっ、使いますか?えっと」
 顔しか見ていなかった自分に呆れつつ視線を降ろす。フローゼルは胸元に紙束を抱えていた。ちらとコピー機のほうを見やる。
 遠目に黒く見える印刷済みの紙の山は薄く、恐らく予定数の数分の一にも満たないだろう。私は顎に手をやった。
「あ、はい。あと何分かかか」
「よかった!じゃあこれ、頼むわ」
「ふぇ?」
「大丈夫、部数はメモに書いてあるから!」
 何言ってるんですか、なんて、たとえ私がしゃっきりしていても口に出すほどの間もなかっただろう。
 デスクの上に書類が投げ出される。
 ――えっ。
「じゃあよろしくっ」
「ちょっと待っ……!えええっ!!んな殺生な――」
 声は金属が噛み合う音と重なった。ドアのすき間で二本の尻尾が翻ったのがかろうじて見えた。
 抗議の声も虚しく先輩は既にドアを隔てて向こうの世界、冷たい扉の背が跳ね返した自分の言葉に、いささか落胆する。
 思わず溜息が歯のすき間からこぼれた。
 花柄のかわいらしいメモは残酷にも、私が本来印刷するのに使う紙の枚数、その二倍を軽く超える数字を私に突きつけた。
 はあ、ともう一度青息を吐く。耳が垂れて私の頬を軽く擦る。

          *

 印刷が終わったのはそれから三十分ほどした頃で、それまでに私は紙を二回ほど追加しなければならなかった。
 その間ずっと睡魔と健闘した私の剣はぼろぼろで、しかしそれでもなお相手は断続的に私に飛びかかるほどの体力を持っている。
「何これ」
 自分の分を右腕、フローゼル先輩に押し付けられた分を左腕に抱えて自分の部署に帰ると私の机の上にメモが置いてあった。
 その上に硬貨も置いてある。拾い上げると大きくて丸い文字がそこに踊っていた。
「なーにが『缶コーヒ-おねがい(はあと』なんだか……」
 文字の形と文体からして犯人はピア――私の隣の席で同僚で親友で腐れ縁のロコン――だろう。
 隣の机の上に視線を走らせると書類が山積みになっていて今にも雪崩を起こしそうだ。
 本人は不在で、だから私が拒否の意を示すことはできない。
 あいつは仕事中何考えてるんだ、とか思ったりするけれど、あいつは私の性格を知り尽くしている。
 それに単なる使いっ走りとは違うし……尻尾を一回ふるった。小銭入れに硬貨を滑り込ませ、メモをハンドバッグの中へしまい込む。
 片付いた机の上に右腕の書類を投げ置いた。フローゼルのところへ書類を置いてくるついでに自動販売機にでも行けばいいだろう。
 さて、どこへ届けるんだったか。私は紙束を両手に広げてメモを黒い指先で払った。
 ……もし近くを通ったひとがいたなら、私の瞳孔がきゅっと締まったのを見たに違いない。
 ――問題がいつも偶発的にあらわれるのはなぜですか。
 慌てて端をステープラーでまとめた書類をめくった。
 でもめくれどめくれど統計資料と明朝体、本文に目を通しても部署の特徴すら把握することができない。
 もちろんどこかに所属が書いてあるわけではなかった。
 嵌められたんじゃないんでないかい、という思念が私の頭にからみつく。
 怒りに任せて机に叩き付けてやろうかとも思ったけどすんでのところで人目をはばかった。
 よかったわね、この場に新米社員がいて。ハンドバッグを振り上げて肩に絡ませ、女性にあるまじき歩幅で机の谷間を突き進む。

 経理部――正しくはその向こう、フローゼルの背中を見たところ――へ向かって歩いていると、「おい」と確かに太い声がした。
 振り返ってみるとブーピッグがいぶかしげに私を見ていた。高らかに足音を立てて歩いていたのが目にとまったらしい。
 ああ、私ったら。少し恥じて耳を伏した。
 ブーピッグ、私の上司は、丁度食事を終えたところらしく小粋につまようじなんかを歯に挟んでいた。
 おべんとうついてますよ、と心の中で突っ込むだけの余裕があることに自分自身驚いた。
「どうしたんだ?そんな息せき切って、コピーは?それ?」
「あああ、そっちは終わりました、こっちのコピーは届け物です。フローゼルさんに頼まれたんですけどどこの所属だか知りません?」
「ああ、彼女か。まったく、いっつもいつも、さぼってていかんなあ」
 笑ってないで早くしてください。私の毛が逆立っていることに気付いたか屈託のない笑いが少し控えめになる。
「えっとだな、んと、あ、そうそう、開発部だ、そうだそうだ」
「行ってきます!」
 これ以上付き合っているとここで怒りを吐き出してしまいそうだ。踵を翻して足音立てず駆け出そうとする――
「ああ、開発部いくんだったら、給湯室近いでしょ、ついでにお茶頼むわ」
 背中を叩いた言葉に、できることならどくどくを吐きかけてやりたい。

          *

「あああああもおおお、~~~っ」
 マグマが煮立ち、溶岩が溢れ出るのを積層した岩石が食い止めようとする。が、焼け石に水。
 炎がごうごうと出口を求めて這いまわる。
 溶けて真っ赤になった鉱物がとぐろを巻いて泡を立て、私は水分が蒸発して胸の中でもやもやとするのに、尚更腹を立てた。
 なんで。なんでこんなことしてるんだ私は。
 思い出したくもないのに書類が手元を逃げてぼてぼてと床に跳ねる様が回想されるたび、地団駄踏まずにはいられなくなった。
 力任せに足で床を蹴ると湯が飛び散って更なる惨事を招いた。
 急須を傾けると立ち上る水蒸気に顔の黒い毛が湿る。
 大量の書類を落とすわ、給湯室ではポットの中に湯がないわ、それに自販機の前を通り過ぎたのに缶コーヒーを買い忘れるわ、まったくどうして嫌なことって連鎖するんだろう?
 私は何も悪いことしてない。ほんとうに。充分寝てないのは罪じゃない。罪だとしても私の罪じゃ――
 かくん、と頭が落ちて、拍子に茶がカップから溢れた。
「あつっ」
 もう溜息も出ない。タオルを手に取りカップを丁寧に拭く。
 ハネッコがプリントされた可愛らしいカップ、と言うより少女趣味の儚げなカップは、何故だかは知らないけれど上司のものだった。
 他のは普通の湯のみやマグで、これだけが際立っている。
 底の濁った美しい翠色をのぞき込んで、いっそのことリーフィアになればよかった、とふざけて考えた。
 多分これが紅茶だったらブースターになりたいと考えたに違いない。ああ、バカバカしい。でも眠いっ。
 小さなニス塗りのお盆にカップを乗せ運び、廊下を摺り足で渡って、今度こそこぼしはすまいと慎重に扉を開けた。
 ブラインドを背にしてブーピッグのシルエットが浮かび上がる。ペンを握った手をせわしなく動かしていた。
 お盆の上のカップと、きりっとした顔で書面を睨む上司が堪らなく不似合いで、思わず怒りが緩んだ。ふ、と何故か唇がほころぶ。
 なぜだか分からないけど可笑しかった。きっとやけになっているんだろう。
 感情が高ぶると、悲しみが怒りに、怒りが笑いに状態変化することなんてままあることだ。
 そうだ、お茶を届けたら缶コーヒーを二本買おう。
 ふと、私は前方にうずたかくそびえる白い巨塔を見つける――ピアと一緒に飲もうかな。そしてくだを巻いてやるんだ。
 あと数歩の距離に近づいても上司は文字の羅列しか目に入っていないようだった。
 しかし緊急、というほどでは無さげで、その顔のしわに余裕が現れている。
 こういうときはむしろ声をかけたほうが気遣いとしては上だろう。
「お茶で――」
 判断し、口を開きかけた時だった。
 がつん。と頭に走る衝撃。揺らいで、崩れゆく均衡。
 シードルは めのまえが まっくらに なった!
 ――魔物が、睡魔が、渾身の力で私を殴り倒した。眠気がこれほどまでの威力を持つとは知らなかった。
 意識が瞬間、真っ黒いところへ飛び、身体が宙を傾いて行く空気を掴む感触に、意識が覚醒する。
 嫌な予感が背筋を冷たく駆ける。
 したたかに床を叩く音と痛み――続いて鋭利な音が鼓膜を短く突き刺した。
 手を滑ったお盆は床の上で跳ねて背を晒し、カップは幾重もの三角に割れ砕けていた。
 半分に欠けたハネッコの笑いが私を見上げた。それは嘲りか同情か、瞳のない黄色い片目が真っ赤な虹彩の際に反射する。
 転倒した私は反射的に上司の顔に――音に驚いて口をあんぐり開けたブーピッグの顔に――視線を送った。
 嗚呼。カップ。お茶。
 これまでの怒りが化学反応を起こして空虚が体の中で固形化した。
 そこからむくむくと溶け出すように申し訳なさがこみ上げる。
 そうだ。早く塵取りと箒と代わりのお茶を出さなければならない。その前に全力で謝らねば。どこかに冷静な自分を見つける。
 ぼうっとしてる時間なんてない。手に力を入れて立ち上がろうとした。

 そのせなに、トドメと落ちをつけるように、白い紙が崩れ落ちてくる。

 書類が、ノートが、伝票が、音を立てて私の黒い体を打つ。白が周りに飛び散る。
 隣席の馬鹿の物臭が、私の心を完全に打ちのめした。
 雪崩れた紙束、目の前に破砕したカップ、湯気を昇らす染み。
 ……なんて茶番だ。信じられない。虚しさが一気に融点を通り越して激しく沸騰して、憤りという名前の気体に昇華する。

「私は、そこまで、完璧じゃないんだあああああああああ!!!」



ブラック会社に勤めて……ないが、もう俺は限界かもしれない by28×1


つぶやき
方針を170度ほど転換してみました。

コメント 

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • すげぇ……とまず一言です。言葉に偏りがなく、多様な語句がディスプレイを舞いました……。
    続き、頑張って下さい。応援してます。 -- もろ ? 2009-08-11 (火) 22:55:45
  • エロ小説は読むの苦手だったりする。
    あまりこのWikiでは見かけない現代日本に近いような世界観、これからどんな展開が待っているのか楽しみにしてます。 -- 三月兎(マーチヘア) 2009-08-11 (火) 23:19:51
  • 上原ぁ!・・・・・・じゃなくて、以前似たようなタイトルのスレを見たことがあるので衝動的にクリックしてしまいました。
    これからどうなるのか楽しみです。執筆頑張ってください。 -- 2009-08-12 (水) 00:00:02
  • 読んでたら眠くなるんだぜ。くそ、ブラッキーの特性かなにかか

    整備士だから関係ないね。 -- 漫画家 ? 2009-08-12 (水) 08:54:30
  • タイトルにホイホイ釣られて。

    なるほど確かにブラッキーって夜行性ですからね、こんなことがあっても不思議じゃないですよね。
    語彙ももちろん、でも一番評価されるべきなのは発想ですよね←
    今まで無かった方向性がもう流石としかいえません←

    とりあえず、お疲れ様でした。おいしくいただけましたー。 -- Taku ? 2009-08-19 (水) 20:41:41
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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