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パペット・パペット2

/パペット・パペット2

書いた人 ウロ
なぁにこれぇな表現があるから注意してください。


まるで意味が分からん主な登場人物紹介
ミサンガ(サーナイト♀)
意味☆不明
ドール(ジュペッタ♂)
自給、上げてほしいですorz


「紙芝居の次のお話どうしよう……」
「ネタにつまっただろお前……」
翌朝、僕は何も考えられなくなった。というと大袈裟かもしれないけど、何だか紙芝居の次の話をどうしようかと考えることよりも、ミサンガさんが何をしてくるのかが恐くて、一晩中ドール君にくっついてがくがく震えていた。
その所為で、どんな話にしようか完全に頭の中から抜け去った。人の所為にするのはよくないと思うけど、どうしても続きが浮かばない……ほかのことを考えれば考えるほど、そんなことしか思い浮かばなくなって、子供達が楽しみにしているのに、僕はなんて仕事ができないポケモンだろうと思ってしまう……
どうしようか、なんて悩んでいたら、朝早くからタイショーが訪ねてきて、思わずそんな言葉をいって泣きついてしまった。どうしようもないということは分かっているんだけれど、今人形の手入れをしているドール君には聞かれたくなくって、自分の個室に呼んでしまったことも何だか馬鹿らしくなってきた。
今まで自然と浮かんできたお話が、急に浮かばなくなってきてしまったのもそうだが、皆に早く見せないといけないという使命感が勝手に頭の中を先行してしまっている。こんなことでは面白いお話が浮かぶはずも泣く、くしゃくしゃになった紙束の中で、今現在沈黙している姿を見て、タイショーはなんて思うだろうか……
やっぱりこういうことは人に相談しちゃ駄目だと改めて思う、人に相談したからどうにかなるというより、自分で一頻り考えてから、誰かに助言をもらったほうが効果的だと思うのは、間違いじゃないし、違いもない。
「しかし、どうしてそんなことを俺に相談するんだ?」
「いやぁ、どうしてでしょう……僕にもよく分かりません……その、タイショーは子供のころから一緒にいたから、話し易いし、優しいし……」
「でも助言ができるほど俺は頭よくないし、そもそも劇だってそんなに見たわけじゃないから……だからあまり力になれるとは思えない……」
「うぅ、でもやっぱり、タイショーに話すと安心するんだけど、なぜかな?」
「そんなの俺が知るわけないだろう」
やっぱり、いつもどおりの答えが返ってきて、若干安心した。そんなの知るわけないだろう。確かにその通り、タイショーが知ってたら凄いと思うし、知ってるなら的確に言葉を返してくれる。だから今のは完全に僕の言葉選びのミス。
テンションがおかしいというのはまさにこのことか、これ以上意味のわからない悶着を続けてもしょうがないので、どうしようと唸ることだけはやめた。
「分かってるんだけど、やっぱり昨日のことが気になって……」
右の頭と左の頭も同じような顔をしていることに気がついた。頭が三つあると、自分がどんな顔をするかなんて一目瞭然に分かるからすごい嫌だ。
「昨日のことが気になるなら、そのことをあまり考えないほうがいい。気になると思っているから、気になるんだ。だからあまり考えるな」
「分かってるけど…………やっぱり、ミサンガさんの云う通り、ここを諦めたほうがいいのかなぁ……」
少しだけ、心の中で渦巻いていた言葉を口にした。タイショーの顔に皺がよって、何を言ってるんだというような顔になった。
確かにそんな顔をするのは今の発言が悪いかもしれなかったかもしれないけれど、今の僕には嘘をつくことなんて難しいから、せめてタイショーには自分の気持ちを伝えておこうと思った。
「いや、そんな風に思うくらいに切羽詰ってるわけじゃないけれど、やっぱりこんなぼろぼろのお人形屋さん潰して、新しいお店を立てたほうがいいのかなって思って…………」
「お前がそう思うなら、そうしろ……それに口出しする権利は俺にはない」
「え?」
「俺の店じゃないからだ……俺に関係ないから、俺は何も出来ない」
えらくあっさりした返答がかえってきて、少なからず困惑した。タイショーならきっとそんなことはするなって怒ってくれるかと思っていた。いや、僕が勝手にそんな風に期待したのかもしれない……だからこそ、そんな風にい言ったけれど、昔はとっても頼りになったタイショー、もしかしたら、大人になって、変わってしまったのかな?
「だから、この問題はお前の問題だ、最終的にどうするかは、お前が決めろ……俺も、アクロも、イリスも、ハミングも、サンマも、バッカスも、関係ない……お前だけの問題だから関係ない。だから、そんな問題は知らない」
「…………そうだね……ごめん」
「いや、こんな風にしか言えなかった俺も悪い……」
タイショーも頭を下げて謝った、昔から悪いと思ったらすぐに謝るのは変わってない。
そんなタイショーだからこそ、きっと何かいい案をくれるかもしれないと勝手に期待していた僕のせいだと思った。駄目だ、僕がこんな風だから、タイショーはこんなことしかいえないんだ……
僕が悪いから、僕のせいだから、何でもかんでも自分のせいにするなと昔タイショーに言われたけど、僕のせいだと思ったらほんとに僕のせいだから……だから自分の所為にするな、というか自分の所為だから。
「けどな、パペット……」
「え?」
「おまえ自身が本当はどう思っているんだ?本当にここを潰して、わけの分からん店を建ててほしいと願っているのなら、それでいいかもしれんがな、本当にそう思っているのなら、それがいい、だが、違うって思ってるんだったら……自分の思いをちゃんと相手に伝えろ」
「…………」
「わけのわからんまま、店を壊されて後味がいいわけがないだろう」
「うん…………」
頷けるなら、まだ考えられる余地があるだろうといって、タイショーは笑った。タイショーの云う通り、まだ考えないといけないかもしれない。もしかしたら、これも人の意見に流されるということかもしれない。自分の気持ちがうろうろしていて、すぐに人に意見を求めたがる性格、僕の悪い癖だった。
自覚があるならまだいいとみんなは言っているけど、自覚があっても、すぐにそんな風になってしまうようでは、いいとは言いがたい。
僕にはすぐに人に頼りがちな弱い思考が働く所為か、性格も引っ込み思案で、どうしても他人と接触を図るのが長い間苦手だったけど、少しずつ克服していって、今ではみんなの前で人形劇ができるくらいになったほどだった。
だけどそれでもやっぱりまだ足りない。もう少しだけ、あとちょっとだけ、ほんの少しでもいいから……と、欲を出す。
これ以上のものをどうやって手に入れればいいのだろうか?それとも、手に入れられるまで意固地になって頑張り続けるのだろうか……
「ほんとに大丈夫か?顔がやばいぞ?」
「え?」
「右の顔、左の顔、お前の顔……どれもばらばらの表情してるからな……」
「…………」
「すぐに顔に出る癖があるのもお前の悪い癖かもしれないな……」
「癖のあるポケモンでいいと思うんだけど、なんていってたら屁理屈だもんね……」
「そうだなぁ……そう思えるのなら大丈夫だとは思うが、俺の言ったことは多分間違ってないと思う。自分が正しいなら、それを貫いたほうが。後で後悔しないからな……」
タイショーはそれだけいって、立ち上がった。特に密談をしていたわけでもなく、ただただ僕が泣きついただけだったのに……それでもタイショーは僕の話を聞いてくれた。
昔からそんな感じで、今でも変わらないタイショーの強さ……優しさもあって、やっぱりタイショーは凄いと思う。凄いだけじゃないし、尊敬もしている。言葉に出せないけど、凄いっていう気持ちはある……
「凄いなぁ、憧れるよ。タイショー……」
「俺に憧れてどうするんだよ……」
憧れる対象が違うだろなどといって入るけれど、身近に尊敬する目標のようなポケモンがいれば、自然とそのポケモンが憧れの対象になるに決まっている。それが自然になるというものだろう……
「うぅん、だって、タイショーはかっこいいし、皆と対等にお話できるし……僕の幼馴染としてはもったいないと思うくらいの存在感だから……」
「もったいない幼馴染なんてもったら、幼馴染って言わないだろ、そりゃ有名人だ」
尊敬の言葉に対して問答で返すのもタイショーらしさだった。言葉返しに質問を繰り出すのも何だか新鮮な感じがした。
「有名人でも何でもいいと思う、タイショーはタイショーだから」
「確かに、その言葉に対しては否定しない」
誰かが有名になったり、注目を浴びても、そのポケモンの本質が変わるわけじゃない。それだけは僕だって知っている。だからこそ、タイショーはタイショーのままだから……
タイショーはそういってくれると分かっているからこそ、こういう話をしたのかもしれない。口ではそっけないフリをして、でもやっぱり手伝ってくれるタイショーの姿は、僕にはとっても大きく見えるから。
そんなタイショーの話を聞いて、僕は自分自身をもう一度見つめなおせるような気がした。もう一回考え直して、何が正しいのか、自分が後悔しない道を選ぼうかと思った。
そうしないと、一生後悔しそうだったから……
「だいじょーぶみたいだな……」
「うん、多分ね」
タイショーはそのまま踵を返して、ドアを開ける、ゆっくりとした動きで、外に行ってしまった……
「……ふぅ、頑張らないと……」
残された僕はとりあえず……人形劇のストーリーを考えることにした……
どんなお話がみんなの心を動かすのか、今の僕じゃわからないような気がする、だけど、もしかしたら、今までよりも凄いお話ができそうな気がする。
そんな気がしたから、その気持ちが冷めないうちに、紙を引っつかんでペンをとる。
頑張るとか頑張らないとかじゃなくて、やるかやらないか。それが一番大事だということがわかったから……
「お話は終わりました?」
「あ、ドール君」
やる気を出そうと思ったときに、開けっ放しのドアからドール君が現れた。そういえばすっかり忘れていたけれど、ドール君も手伝ってくれているんだった、自分から雇ったバイトのことを忘れるお粗末な脳味噌に若干辟易しながら、にっこりと微笑んだ。
「ごめん、忘れてたよ、大丈夫だから、お話を作ろう」
「分かりました……では……そうですね、ここのお話の続きなんですけど――」
小さな部屋から話し声がし始める。ドール君の声を聞きながら、僕は自然とお話の製作に夢中になっていった……


☆☆☆


「タイショー」
ふと、呼ばれたような気がして、そちらを振り向いた。誰もいないと思ったら、空から声が聞こえたようだ。
アクロだとわかったとき、隣にイリスもいて、相変わらず仲睦まじいことだと心から思った。周りの目線から見れば二人は付き合っているという風に言われている、本人たちは違うと否定はしていたが、そんな風にいつも一緒にいれば付き合っているという風に取られるのも仕方がないだろう。
「おう、鴛鴦夫婦」
「だっ!?」
「お、おしっ……!!」
鴛鴦夫婦という言葉に反応したアクロとイリス、面白い反応をするのは相変わらずだ。その所為か翼を動かす運動が遅れて、そのままゆっくりと地面に下りていく、ぐちゅ、という音がしたと思ったが、昨日の雨で地面がぬかるんでいるということを忘れていた。昨日はイライラしすぎた所為か、何もやってない。洗濯物を完膚なきまでに犠牲にしてしまったことだけ、ちょっと後悔した。
昨日の雨が嘘と思えるくらい、今日は晴れていた。何でこんなに晴れるのかは分からないけど台風一過という言葉がある、雨が降った後は、結構晴れるもんだということだろう。
「鴛鴦夫婦ってどういう意味よ!?」
「ぼ、僕とイリスは、その、そういう関係じゃないよ?」
「…………じゃあ何でそんなにむきになってるんだよ。顔赤いぞお前ら……」
そんな指摘をしてやれば、すぐに黙って、お互いがお互いに顔をそむけ合う。心の中が手にとるようにわかるというのはとても面白いものだ。あまりいい趣味をしているとは思えないが、なかなか楽しい。
俺もさすがに人の困るところを見て楽しむような悪趣味な性格ではないため、冗談を解こうと言葉を吐いた、このままほうっておくとほんとに誤解されそうだ……
「冗談だ……で、何のようだ?」
「そんなたちの悪い冗談聞いたことないんですけど…………」
「うぅ……バッカスさんが読んでるんだ。パペットさんには内緒でって言ってたから……」
「え?内緒の話??」
バッカスがそういう話を持ちかけること事態稀だったために、俺は非常に疑り深い視線をアクロ達に流した。別にアクロ達の所為ではないが、どうしてもそういう言葉を発したポケモンにそういうことをするしかないのだ……
俺の視線を受けたアクロは少しだけたじろいだが、イリスはわかっているとでも言わんばかりの顔をしていた。よく人を見る性格をしているということがなんとなく分かった。
「そんな顔をするってことくらいなんとなく分かったわよ……とりあえずいってみましょう、そうじゃないと分からない……」
「そりゃそうだが、何かひどい言い方だな……」
「最初に私達をからかったのはタイショーじゃない」
最初の言葉をきっちりと忘れてないあたり凄く執念深い、しつこいのか、物覚えがいいのか分からない。
イリスはふふんと勝ち誇ったような顔をした。最初に言ったのは確かに俺自身であったために、下手に言い返すとさらに何かをいわれそうだったのでやめた、言い合いでイリスに勝てるとは到底思わない。
「わかった、俺が悪かった……」
「じゃあ、バッカスのところに行きましょう……私達に話したいこと……それが何なのかを確かめないとね」
全くもってその通りだった。バッカスは何のために俺たちを呼び出したのか、その真意が分からないために、いまいち事情が分からないこともあるが。唐突に人を呼び出すのはよくあることだ。事情も説明しないでめんどくさいことをやらされるのもしょっちゅうである。だから基本的に何とも思わない。
それにしても、と俺はアクロとイリスの後をゆっくりと歩きながら、バッカスの言葉を話したアクロの言葉に対して不思議なことを考えていた。
パペットに内緒にして欲しいとは珍しい……あいつはいつもパペットの店にいっては人形をものほしそうに見ていたし、パペットとも友好関係は良好だ。特に秘密にすることもなければ、仲良しこよしだからこそ、そんな風にすることが珍しいと思う。
パペットに内緒にして欲しいということは、パペット本人に知られるとまずいことでも話すのだろうか?だったら、どうして俺たちに話すのだろう……他人に話すということは、パペットに話すとまずいことというよりも、パペットを知らないままにしておきたいという気持ちが強いかもしれない。
なんにせよ、話を聞かなければ何にも分からない。
「そういえば、昨日来たあのサーナイト……」
ふと、歩きながらイリスが口走ったことは、昨日の出来事。思い出しただけで胃が痛くなりそうな顔をしたのをアクロが見て、心配そうな顔をした。
「何でパペットの家を破壊したがるのかしらね?」
「さあ?お偉いさんの考えることはわかんねぇ……っていうか、ただ単に適した土地があそこだっただけの話じゃないのか?」
「うん、そう思うんだけどさ、ここ以外の土地探せばいいじゃないって話になるじゃない……パペットの家にこだわるってことは、あそこに何かあるに違いないって」
「……そうかなぁ?」
俺はそこまで考えることはしないというか、単に考えるのが苦手というか、考えたくないというか……深く考えすぎて、その考えが外れたら普通に恥ずかしいから、考えたくないというのが一番の理由だった。
恥ずかしいという感情は誰にでもあるし、失敗したくないという感情も普通にあるだろう。それらをはじき出して、他人に便乗して何かを怪しむということをしたくないのが俺だった。
逆にイリスのようなタイプは、説明したり、考えたりするのが好きなんだろう。必ず考えて、これだ、という考えを相手に見せる。そして相手の意見を聞いて、自分の考えが肯定的にとられるか否定的にとられるかを見るのだろう。そういう思考ルーチンが働いているやつは基本的に失敗が多いが、その分成長する。
そして俺は考えないから失敗しない代わりに、成長なんてしない。別段困らないので構わない。
確かに考えることで頭が成長するとか、活性化するとか言われているために、考えることは素晴らしいが、どうしても考えると頭が痛くなる……単細胞と呼ぶべきなのか、考えるのが嫌なポケモンというべきなのか……
絶対そうだよというイリスの声が聞こえると、考えてその考えに至ったということで、そのあたりは尊敬するべきだなぁと思ってしまうのだった……
考えるというのは想像以上に難しいものだ、考えていることと実際の出来事が微妙に拗れてしまうと、そこから考えを改めて、一から捻りなおさなければいけないという場面も多々あるだろう、推理とか、人の考えていることを、自分が知っている情報から当てようと思ったら、そんな感じだ……
少ない情報で、不必要なまで掘り下げて考える奴の意見の大半は自分の考えと妄想に埋まっている、そこから、何が正しくてなにが間違いなのかを捻り出すのも、考えるということだろう。
「だってそうじゃないと説明がつかないと思うの……どうしてパペットの家を取り壊したいのか……壊したいというか、あの土地に何かがあると思ってるから、あんなふうに言うのかもしれないでしょ?」
「そうかもしれないね……でもどうだろう、こんな風に考えられないかな?」
イリスの言葉に対して、暫く黙っていたアクロも口を開き始めた。考えるということは嫌いだが、人の考えに対しての言葉を返すくらいなら何とかできそうだから、静かに二匹の言葉に耳を傾けることにした。ここからは心の中で自分の考えをまとめようと思った。それは口に出していちいち確認するように言葉を反芻するよりも楽だからに決まっている。
「こんな風に考えることができるっていうのはさ、逆に考えるってのはどう?……たとえばさ、たとえ話としてもしかしたらあのミサンガって言うポケモンさんはもしかしたら、パペットさんを狙ってるのかもしれないよ。もしかしたらの話」
「その話、どうしてそう思うの?」
アクロの言葉にイリスは反応する。自分の考えを否定されて怒るというわけではない、新しい考えを取り込もうと詳しく聞きたいだけだろう。
イリスの反応を見たアクロは、どういう風に話したらいいのか分かりかねるような顔をしていたが、やがて口を開いた。
「たとえばの話、土地を貰うって言うのはもしかしたら嘘かもっていう話……優秀な人材がほしい、人を掌握するみたいな話も結構あるから、多分違うと思うけど」
「なるほどね……確かに土地を貰うって言う名目で、パペットを狙う可能性も否定できないわ」
「そうそう、もしかしたらって言う可能性しかないと思うけど、あの時パペットさんにやたら話しかけてたから、もしかして心理的に追い詰めて、疲弊したところをって言う考え……結構パペットさんまいってたし……」
「その可能性も入るとしたら、もしかして違う意見も出てくるわね、パペットを狙うとしたら、あの最終警告って言うのも嘘っぱちかもしれない、精神的に追い詰めるために再度訪れるとか、そういう考えも出来るってことね」
「うん、そう……何度も会われたらさすがに疲れちゃうでしょ、話しているだけで皆疲れてたんだもん……」
二匹の会話を聞く限り、もしかしたら別の目的があるという風に思っているらしい。
その考えに俺は何を挟もうか……自分自身で考えるのがめんどくさいといっておきながら、なぜ考えはじめるのだろうか。
ミサンガは言った。最終警告だと……最終警告とは、文字通り最後の警告だ。最後の警告とは、これ以上待てないという意味でも取れないだろうか?それは、パペットに対してではない。自分自身の対象にも当てはめられるのではないだろうか?
対になって考えてみるとおかしな話だ、ミサンガの立場から見て、別に何か困っているわけでもない、嫌がらせというわけでもない。あいつのことだ、すべては己の私利私欲のために動いているに違いない……だからこそ、前者の考え方は全て違う。
では後者の考え方をしてみようかと無い頭を働かせた。私利私欲のため、つまりは自分のためになることだ。パペットを追い出すことが自分のためになっているとは言いがたい、むしろ自分の身体に多大なストレスをかけているのかもしれない。
ということは、どういうことになるのだろうか?自分で考えておいてよく分かってない。それでも考えるのは、パペットが心配だからだろう……なんで心配なのかは分からない、無意識に友達を心配する気持ちだろう。
イリスが先程言っていた言葉、家に何かある、その案を頭の中で紐解いてみた。その家にあるもの、特にパペットは大切にしているものが無いし、金目のものも無いはずだった。さすがに人形を作るものをとられたら激昂しそうだが、その可能性はゼロだ、なぜならミサンガはあそこに複数回来ているが、人形が嫌いだからだ。
人形を憎憎しげに見ているミサンガが、自分の個室に人形を置いているとは思えない。パペットの人形を憎憎しげに見つめるのは、恐らくパペットの家の人形達が結構売れて、自分の計画に支障が来ているからかもしれない。それなら当てはまる。
だったら、家の中ではなく、もしかしたら、その場所に用があるという風に考えるのが妥当かもしれない。場所といえば何処か曖昧だが、家の中ではなく、家の中心、家の周り、家の後ろ、絞ろうと思えばいくらでも絞れる。
そこにある、もしかしたら、あるかもしれない"何か"を探すためにパペットを追い出すのかもしれない。新しい建物を建てるという話が出ているようだが、そんな話をミサンガ本人が口にしたかどうかは分からない。
「うぅん……駄目だな……」
少なくともそんな風に頭の中で考えていたが、やはり考えが合っているのか間違っているのか分からない。だからこそ、考えてもものを言わないのかもしれない。そんな風に唸っている俺を見ていた二匹は、お互いに顔を合わせて訝しげに俺を見ていた。
「タイショー、どうしたの?」
「何か考え事かしら?」
「いや、俺は言っただろう?……その、考えるのが苦手なんだ、アクロやイリスみたいに、そんな風に深く考えることや、正しい方向へ解釈する力がないんだ……」
そういって笑うと、二匹は、そう、などといってまた歩き出す……
実際のところ、考えが分からないわけではない、考えていないわけじゃない……。
もしかしたら間違っているというわけでもないのかもしれない。でもやっぱり間違えるかもしれないという気持ちのほうが大きい。
だからこそ、今からバッカスのところに赴いて、話を聞くこと。そこから自分の考えがどんな風に絡まるのか、確かめたい。
自分の考えを話すのは、そこからだ……


☆☆☆


「よっす!!アクロ、イリス、タイショー!!皆来てくれたんだな」
俺は挨拶がてら、片手を上げた。諸手を挙げて喜ばないのは、久しぶりに会ったわけではないから。久しぶりに会う友人だったら諸手を挙げて喜びそうだが……生憎竜の渓谷にしか友達はいなかった。
「どーも、先に来てるよ」
俺の後ろでお茶の葉っぱを茶漉しの袋に突っ込んでいたハミングは笑いながら、三匹の来訪に答えた。
先に来ているというか、俺が呼んだ。
お茶を注ぐポットに、茶漉しの袋を入れて、沸いていたお湯をとってから、ゆっくりと注いだ。ポットにお湯が注がれて、少しだけ色が変色した、ハーブの香りが漂い始めた頃に、皆が座って待っていた。
「お茶の葉が出るまで、ちょっと待っててね」
ハミングの言葉に、全員が頷いた。
「さて、バッカス、何で俺たちを呼んだんだ?」
「もしかして、何かあった?」
「僕達ができることなら、力になりたいけど……」
三者三様の違う声が響いた。力になりたいという気持ちがあるなら、きっと分かってくれるのだろうか?……そんなことを思いながら、俺は言葉を吐いた。
「そうだなぁ……あんまり気乗りはしないかもしれないし、聞くと滅入るかもしれない、でも聞いてほしい。俺とサンマの考えを……」
「考え?」
言葉に対しての疑問、と言うやつだ。誰でも持っている不思議じゃない感情、それが一番面に出ているのはイリスかもしれない、だからこそ俺の言葉に反応したのかもしれないし、違うのかもしれない。
言葉に反応したのはイリスだけじゃない。アクロは滅入るという言葉に対して何か恐ろしいものを感じ取ったかのような顔をしたし、タイショーは考えという言葉に対して探るような視線を俺に向けていた。
これは腹の内の探りあいではないが、どうしてもそんな風に感じてしまうのかもしれない、緊迫したような感触に、頭の後ろがぴりぴりした。時間がたつにつれて、お茶が出来ていく、ハーブの香りがどんどん小さな部屋に充満した。
サンマはこちらを向いて、クス、と笑うと、またそっぽを向いてしまった。向こうを向いてしまう前に、小さく口が動いたのを、俺は見ていた。何が言いたいのか、分かるように……
信じてるよ……
そんな風に動いた。読唇術とかは全然出来ないために、口の動きからそんな風に自動解釈しただけだが、昨日の話を考えると、きっとそんな風に言っているんだろうなということがなんとなくだけど分かったからだ。
「そう、俺とサンマは昨日思ったんだ。どうしてミサンガはあの場所からパペットを退けたいのかって言うことをさ……」
「!?」
「え?」
「……成程」
「…………なんでそんな反応するんだよ……」
イリスは凄い驚いた顔をした。アクロももう一度聞きたそうな顔をしていた。タイショーはまるで分かってましたといわんばかりの顔をした。
もしかしたら、俺の考えることはもう皆考えていたのかもしれない。やっぱり二番煎じになる気がして、一気に言いづらくなった。
「いや、さっき私達もそういう話してたから」
「バッカスさんがそんな話してきて、ちょっとさっきのことを思い出しちゃって……」
「ちなみに言っておくけど、俺は全くそんな話はできないぞ……聞く側に回るだけだからな」
やっぱりというかなんと言うか、俺はいつもそんな感じだった。がっくりするが、そんなことではいけない。気を取り直して、一応自分の考えを伝えることにした。
話そうとしたときに、ハミングがゆっくりと立ち上がる。何事かと思ったら、そういえばお茶の事をすっかり忘れていた。
「お茶ができたよ、ちょっと待っててね」
そういうとハミングはゆったりとした動きで、台所に赴いて、暫くたって、ゆったりとした動きで戻ってきた。ふかふかの羽毛でしっかり支えている、お盆に載った六つのティーカップ付きで。
それをゆったりした動きでそれぞれに配っていく。ハーブのいい香りが鼻をくすぐって、ハミングは笑った。
「お話の腰を折ってごめん。でも結構いいお茶だから、どうぞ」
「どうも、いただきます」
「ありがとうございます」
「ん、どーも」
タイショーたちはそれぞれのお礼を言うと、ティーカップを両手で持って、ゆっくりと飲みだしていた。
「わたしももらうね」
「う、じゃあ俺も一応……」
置かれたティーカップに意識をもっていかれそうだったが、何とか平静を保ちながら、ゆっくりとお茶を喉の奥に流し込む。
多少お茶を出す時間を要していたとはいえ、やはり熱かった。それでもハーブのいい香りと、ちょうどいいくらいの濃さが、乾燥した喉を潤してくれた。
全員が全員、ハミングのお茶を飲んで一息ついていた。何ともいえない時間だけが、この家の中で進んでいるような感じがして、変な感じだった……
「ねぇねぇ、飲みながらでいいから聞いてほしいんだけど……」
そういったのは、ハミングだった……
「聞いてほしい?」
その言葉に反応するのは、アクロ。お茶を飲みながら、落ち着きがないのかきょろきょろと視線を動かしている。体中がざわざわしているのだろうか、何処かが痒いのだろうか?そうじゃない。
緊張のある言葉を聞いて、体がこわばっているんだ。静かに落ち着いたような声を聞くと、どうしても体がむず痒くなると、以前アクロは言っていたことがあった。多分それだろう。
お茶を半分くらい飲んでから、ハミングはゆっくりと息を吐いた。ハーブの香りが吐き出された息と一緒に空気の中に混ざって、匂いがいろいろなところに香った。不思議な匂いだ、嗅いでいるだけでお腹が減る様な感じがして、俺は思わずお腹を押さえた。
「うん、私ね……昨日の出来事をいろいろ考察してみたんだ……もしかしたら、バッカス君も同じようなこと言おうとしてるかもしれないんだけど、何だか切り出しが悪そうだったから、私が先にっても言いかなぁっておもって……」
「う、ごめん、ハミング」
切り出しが悪いという言葉、胸をえぐるような感触がして、思わず俯いて謝る。
どんな風に話せばいいのか分からずに悶着していたために、あまりにももどかしいと思われても仕方ないと思っていた。だが、ハミングは全然そんな風には思っていないかのような顔をしていた。
「別に謝らなくてもいいと思うよ。もしかしたら結構深刻な話かもしれないってことくらい、私にも分かる位だから……だからバッカス君が何を話したかったのか、それを聞かなきゃいけないってことは分かるんだけど、もしかしたらっていう可能性、じゃなくて、もしかしなくても重要な話を話し出すと思ったからね、重要な話とか、話しにくい話って、どんな風に切り出すのか分からないときがあるから……」
ごもっともだった、なんといえばいいのか分からないときや、どうすればいいのか分からないとき、そんなときに喉に言葉が詰まってしまって、うまく出てこない。頭では分かっていると思っているつもりでも、絶対に言葉にして出そうと思っても全然でないのが現実だった。
そんな風でいいのかと思ったら、勿論重要な話の分、気にしないで済まされるわけではなく、早く言わないと、事態がどんどん進んでいってしまう可能性もある。
「まぁまぁバッカスさん……それで、ハミングさんは何を話そうとしたんですか?」
アクロはお茶を両手で持ちながら、ハミングに話の内容を聞いた。何を話そうとしていたのか。
そこはやはり気になるところだった、もしかしたら俺の話とかぶっているかもしれないが、ということは、ハミングも気がついているのだろうか……
「そうだねー、もしかしたらきがついてるかも」
いきなりサンマが心を呼んだかのような言葉を小声で話してきて、思い切り目を見開いて驚愕した。
サンマのことだから、きっと自然とそんな風に思ったんだろうと思ったに違いない。
人の顔をよく見たり、笑ったり泣いたり怒ったり、そんな感情をよく読み取るのがサンマだった。特技というか、この谷では結構感情表現が大袈裟なやつが多い、だから、顔に出やすい。俺もその一匹である。
「人の思っていることを読むな!」
「え?そんなことかんがえてたの?」
やっぱり何も考えてないけど、無意識にそんな風に思ったんだろう。他人の表情からそんなことを読み取るとは、空恐ろしい奴だと思った。
「いいから、黙ってろってば……ほら、ハミングが話し出すぞ……」
顔を間近にして嬉しそうに笑っているサンマをぐいっと押し返して、改めてハミングのほうへ向き直る。
ハミングは全員が全員、自分の方向を向いているということを確認して、ゆっくりと息を吸う。何やら思い空気のようなものが漂っているような感じがして、首の後ろがむず痒くなった。
またこれだ、と思っても、どうしても感じてしまう。ぴりぴりとした空気、長い沈黙、この感覚だけは好きになることが出来ない。体中がざわざわして、言い換えることの出来ない怖気が走る。
こりこりと首の後ろを掻いて、息を吐いた。耳を傾けて、ハミングを見る。大事なときに何をやってるんだと自分が嫌になった。
ハミングは暫く動かなかったが、やがてもこもこした羽毛の中から、小さな石を取り出した。
「?これは何?」
アクロは知らないものを見るような目で、物珍しそうにその石を見ていた。不思議な色をしている、それだけじゃない、何か変な感じがした。
「何だか、石っぽくないわね」
イリスは率直な意見を言った。ひょいっと手にとって見て、ゆっくりと力を込めると、くにゃりと曲がって、イリスは目を見開いた。
「うええ!?ま、曲がった!?」
「…………金属反応が出るかどうかが微妙なところだな……」
タイショーは俺達が考えていることの更に上をいっていた。考えることが苦手といっておきながら、今目の前に出されたものを瞬時に判断して、何よりも妖しいと思ったところを指摘したような一言だった。
それぞれの言葉を聞きながら、俺はどうしても次に言葉に出すハミングの一言がなんとなく分かってしまった。
「この金属、珍しいでしょ……非金属っぽくて、変に柔らかい……気になってこの石調べてみたんだけど……これ、とっても貴重な金属なんだって、高値で取引されて、とっても高価な石……取れる場所も少なくって、この間偶然拾ったんだ、この欠片……」
その次にいった言葉のおかげで、全員が同じようなことを考えたのだろうか、真相は分からないが、俺は少なくとも、自分の考えていることがあながち妄想で終わらないということが分かった……
「これね、パペットの家の後ろで見つけたんだ、掃除手伝ってたときに……」
その言葉の意味の、難しいところ、分かりにくいところ、全てひっくるめて、皆が驚愕したが――
――タイショーだけは、静かに息を吐いてその石を見つめていた。考えることがめんどくさいといっていたオノノクスのタイショーが呟いた言葉を、しっかりと聞き取ってしまった。
……やっぱりな。


☆☆☆


「いらっしゃいませー!!」
「パペットさん、私が注文した人形出来ましたか?」
「はぁい、大丈夫ですよー!!」
ぎりぎりと糸紡ぎの音が聞こえるかと思ったら、お客さんの声が聞こえたりして、せわしなくこの店は回っている。パペットさんもいろんなところをいったり来たり、せわしなく動き回っている、見ているとパペットさんがせわしなくやっている人形劇の人形のようにくるくると踊るように動いている。
こういう動きをきりきり舞いというらしいが、僕にはどうしてもてんてこ舞いの舞い舞いと思える。よく分からない表現方法が頭の中に瞬時に浮かんで、自分の頭は大丈夫だろうかと思い、心配になって頭を叩いてみた。変な音がしたので、多分大丈夫ではないと思った。
結構大きな店なので、二匹でまわすのは相当きついと思ってはいるが、二匹いれば十分まわるとパペットさん本人が言っているために、特に誰かを増やすという予定はなさそうだった……
ぼけっとしながら人形のほつれを直していたら、お客さんであるミミロップが話しかけてきた、とても透き通るようなアルトの声、正直に言うと僕の声は優雅さの欠片もないだみ声のような声なので応対するのは些か気が引けた。
「はぁい、こんにちは」
「どうも、こんにちは」
暗い挨拶だった、一応にこりと笑ってはいるが、こちらの笑顔は相手に対して不気味な印象を与えるような気がしてならなかった。ゴーストタイプというのはいつもこんな感じだろう。
恐いとか、恐ろしいとかおっかないとか、そういう言葉を全て凝縮したような感じになる。笑顔は人に幸せを与えるといわれているが、僕の笑顔が与えるものといえば不気味と、恐怖と絶望くらいじゃないだろうかと思っている。そこまで君の悪い顔をしていると自分で自覚はある。
「どうしたの?いつもだったらもう少し明るい声で応対してくれると思うんだけど……」
「す、すみませんでした」
僕のことを見ているお客さんがいるということがびっくりして、思わず裁縫針を自分の右手に突き刺してしまった。いくら人形に怨念が宿ったポケモンとはいえ、痛覚はある、痛い。
だけど、その痛みが生きている証という奴なのだろうか?自分は生きているが、そんな風に感じることは出来ない。痛いものは痛い、根性焼きというらしいが、そんなものは打たれて喜ぶ人しか受け入れられないだろう。
「っ!!」
遅れたような痛みが脳まで届いた、びっくりして裁縫中の人形を取り落としてしまった。地面にぺたりと落ちた人形は、暫く放置されていたが、やがてミミロップが拾ってくれた。
「落としたよ」
「すみません……」
ミミロップの顔をあまり見たくなかった、非常に眩しい顔をしていた。自分とは対照的で、何とも扇情的というか、魅力的というか、情熱的というか、何か言葉にすると馬鹿らしくなるため、やめた。
「大丈夫?ちょっと見せて……」
「大丈夫ですよ、血も出ません、痛いだけです……」
そう、ただ痛いだけだから、きっと大丈夫。そう思っていても、ミミロップは心配そうな顔をして、小脇に抱えていたバックから絆創膏を取り出した。こんな便利な医療道具も最近ではあまり見なくなってきた。何でも、貼り付けると直りが遅くなるそうだ……
「これで大丈夫だよ、ごめんね、私が話しかけちゃった所為だね……」
「大丈夫ですよ、構いません、日常茶飯事ですから」
「そっか、それじゃあ、また」
「ありがとうございました、またのご来店を……」
軽い挨拶を終えてから、ミミロップが置いていったほつれた人形を手にとって、裁縫を始める。先程パペットさんと話していたお客さんも、いつの間にか会計を済ませて帰って言ったらしい、静かな空間に、糸紡ぎの機械の音だけがぎりぎりと鳴り響く。
人形を繕いながらちら、と目線をパペットさんに合わせた、お会計を済ませて、お金を整えた後に引き出しにしまって、そのまま一息つくと、店内の掃除を始める……無駄のない行動だ。お客さんが来たらまた同じように振舞うということを、僕はよく知っている。バイトだからだ。
どうして僕はこの人形屋さんでバイトを始めたのか忘れていたが、そういえば、この渓谷に来たのは昔だったなぁと思い出した。
昔々、というほど昔でもなかったが、最初にこの谷に来たときの目的が、糸を買うことだった。まだそのときは寒さが続く冬の朝、寒さも感じているときに両手を擦り合わせながらこの渓谷に来たのを覚えている。糸を買うのなら別にどこでもよかったのだが、ここの渓谷で売っている糸は妙に安い割には質が高く、作ったものが重宝するのでいつもここで買っていた。
朝市で市場を見に行くことも珍しくない。ここの渓谷、竜の渓谷は店というものが少なく、正直に言ってしまえば、出店のような状態で物の売買が行われている。そういった雰囲気が好きな人にとっては楽しめる場所ではある。
僕自身はそういう類の売り買いは好きだったし、見ていて活気付いている場所と認識できて面白い。出店のようなわいわい騒ぐところは好きだった。そのあたりに来ると、僕の顔を知っているポケモン達は皆笑顔になる。友好的で、気さくなポケモン達ばかり。
「おう、坊主、また来たのか?」
「今日こそは俺たちのところで何か買っていってくれよ!!」
なんて言葉を交わすくらいだ。勿論軽い会話もするし、最近の調子はどうだとか、めっぽう風当たりが強くなったとか、そういう政治的な話もしないわけでもない。ただ、このちょっと社会から外れたような古臭い渓谷では、浮世離れというのか、あまりそういう話は似合わないような気がした。
この渓谷が遅れているのではなくて、現実的な柵から離れた、不思議な空間といったほうがいいのかもしれなかった。現実に疲れてしまったポケモン、世間の風から吹き飛ばされてしまったポケモン……
そんなポケモン達は、この渓谷に集まる。そしてここを気に入ったポケモン達はここに住居を構えるのだそうな……特に珍しいとも思わない。ここが聖域のように感じるポケモンもいれば、ここに住むことは特に別の場所で寝泊りするのと変わらないと思うポケモン達もいるだろう。
他人の意見がいろいろ混ざってはいるが、僕の意見としては後者を強く思っている、住めば都という言葉があるが、別にここは都ではない、面白いところだと思っているし、何よりも不便だとは思っていない。いいところだと思うし、何よりも気さくだ。そこがいいんだろう。
本来の目的を忘れそうなくらい思いに耽っていたのが、考えれば一瞬に思えるほど、集中していて周りの景色が白くなるくらいだろう、何分、何秒、何時間……考えるのをやめて、市場の屋台をどんどんと中に進んでいく。そこの一番奥の、小さな青色の布が張られた売り場に着く。
そこにいたサザンドラは、にこやかに微笑んだ。
「あ、いらっしゃい、またきてくれたんですね」
「ハイ、たまにしかここに来ませんが、今日は貴方に会えました……毛糸をください。青と、黄色と、それから、緑……あとは――」
「ふふ、ありがとうございます。いつもごめんなさい、こんな辺鄙なところまで来させてしまって……」
「僕は構いませんよ。こんな辺鄙なところにしかない物がある、それだけで十分ここは魅力的な場所だと思います。そう思うのは、変ですか?」
「なかなか希少的な意見だと僕は思うかな?」
このサザンドラは本当に面白いことをいうポケモンだったと思った、初対面の印象というのはそんな感じだ。
話していて飽きないという感じだろう、多分これは趣味が合うとか、思考がシンクロしているのかもしれない。そう思いながら毛糸を選んでいると、サザンドラのほうから話しかけてきた。
「ところで、どうして僕のところで毛糸を買ってくれるのかな?君の町でも毛糸は買えると思うんだけど……」
「確かに毛糸はどこでも買える凡庸性のあるものですが、ここの毛糸はほかにはないものをもっています……そう、質です」
「質の良さってことかな?」
サザンドラの言葉に頷くと、サザンドラはとても嬉しそうな顔をした。
「ありがとう、お客さんにそういってもらえると嬉しいよ……」
「言え、本当のことですから、最初は普通に僕の町で買っていたんですがね、どうにも貴方の店の毛糸を使い始めると、それしか使えなくなってしまいまして……使いやすいし、編みやすい」
「重ね重ねどうも、でもこんなところをよく発見したよね。僕が言うのもなんだけど、ここはとても見つけにくいところだし、何よりも僕はそんなにここに足を運ばないから、全然毛糸なんて売れないと思っていたんだけどね……」
はは、と乾いた笑いが聞こえた、何よりも自分自身がそう思っていたからこそ、僕という不思議な客が買いに来たというのがびっくりしたのだろう。そんなに売れないのだろうかと思ったが、本人がそういっているのだから売れないのだろう。
「でもまぁ、冬なら売れるよ……多少」
「でもそんなに店を出さないということは、やっぱり売れないからでしょうか?」
そういう問いかけに対して、サザンドラはくすくすと笑って首を横に振った。どうやら違うらしい。
「売れないからっていうんじゃなくて、殆ど仕事に使っちゃうから、余らないんだ……だから、余ったら売るってわけでもないよ、毛糸作るのは楽しいけど、毛糸だけじゃご飯は食べれないからね……僕の本業は、ほら、これさ」
そういってサザンドラは、地面においてあったものを取り出した。とても精巧に作られてはいるが、全部毛糸だった。毛糸で出来た、リザードン。小さくて、触るとふかふかしそうだった。
「さわってもいいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
いきなり何を言い出したのか分からなかった。でも確かに今の言葉は僕の口から出た言葉……触らせてもらってもいいですか?その言葉は勿論サザンドラに言ったわけではなく、人形に言った言葉……
何でそんなことを言ったのか自分自身が分からなかった。でも確かに言った、触らせてほしい、人形に……
どうしても触りたかった、恐る恐るサザンドラから人形を受け取った。別に壊れ物でもないというのに、手に持って、ゆっくりと力を入れると、ふっかりと柔らかく、ずっしりとする感触……
とてもかわいらしい人形で、とっても強い願いが込められている……呪いがうつった人形がポケモンになった、ジュペッタである僕は人形の気持ちがわかる、ふかふかしたリザードンから、道具の持ち主であるサザンドラの強い思いが伝わってくる。
どうかどうか、このお人形を大事にしてくれますように……作った持ち主の願いがこもっている、温かいもの、ずっしりと伝わる気持ち。
知らないうちに人形を持って、涙を流していた自分を、サザンドラは驚いたような顔をしていた。数秒くらいだっただろうか、驚いた顔は、すぐに心配そうな顔に変わっていった……
「大丈夫?急に泣き出すなんて……もしかして、何処か悪いところがあるのかな?」
「い、いえ、御気になさらずに、人形の気持ちを読み取って、私も涙を流したのは初めてで……その、お恥ずかしいところを見せて、すみませんでした」
「ええー?人形の気持ちがわかる!?」
サザンドラは驚いていた。このあたりではジュペッタというポケモンを見ないのでやはり珍しいのか、その驚きは一入だった。
「ほんとに?凄い凄い!!」
「あなたは、信じるんですか?」
逆にこっちが驚いた、涙を拭いて、ハッキリした視界から覗いたサザンドラは、凄く楽しそうな顔をしていた。ワクワクしているような、そわそわしているような、言葉にするのはちょっと難しそうな顔を右、左、そして本体でくるくると変えながらこちらの言葉を待っていた。
そんな顔をされて、なんと返せばいいのか分からずに言葉をつまらせていたら、サザンドラは積極的に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、そのお人形は、何て言ってたの?」
「ええと、そのですね……何だか言うのは恥ずかしいです……」
「ええー?お願い、なんていってるのか教えてほしいなぁ……」
そんな風に瞳を潤ませると何とも嫌とはいえない雰囲気になってしまうのがいただけないとは思っていたが、別段大声で喋ることではないので、ゆっくりと口を開いて、小さな声で囁くような言葉を紡いだ。
「つくってくれてありがとう、大好きですご主人様……です」
「!?…………そ、そんな、僕、う、嬉しいなぁ……ただ作ることが楽しかったのに、そんな風に言ってもらえるなんて、う、嘘じゃないんだよね?」
「嘘でこんなことはいいません……」
「え、えへへっ……ありがとう、僕のお人形さん……ありがとう、ええと」
「ドールです」
「ありがとうドール君。……ねぇねぇ、じゃあさ、このお人形たちはなんていってるかな?」
「え?」
そう言ってサザンドラが取り出したのは。どこにおいてあったのか分からないくらいの、大量の人形、エネコにシードラ、バチュルにドンカラス……いろんな種類の人形が大量に現れて、思わず腰を抜かしてしまった。どれもこれも可愛くデフォルメされていて、それでいて細部まで細かく作られている。思い切り飛び込みたくなるようなぬいぐるみの山だった。
「う、うわぁっ!?」
「ねぇねぇ、このお人形さんたちはなんていってる!?ドール君!?どう!?どう!?ねえねえ!?なんていってる???」
「ちょ、お、おお、落ち着いてください……ええと、その」
「あ、ごめんなさい。名前、言ってなかったね……僕の名前は……パペットって言うんだ!!!」
そういって、嬉しそうにパペットさんは微笑んだ。そのときからだっただろうか?僕がパペットさんと一緒に働いたことが、ちょっと後の出来事で、二匹でいろいろなことをしていった……
いろいろなものを見たり、新しい方法で人形を作ってみたり、それはそれは楽しい時間だった。半年という時間があっという間に過ぎて言ったような気がした。時間を忘れさせるくらいの楽しさが、僕の頭を埋めていった……
楽しい時間、好きなことをできる空間、僕とパペットさんの時間と空間は、殆ど同じように平衡していったと思っている。そのくらい趣味も合ったのだろう。気がつけば、一緒にいることが多くなっていたのも事実。
そんな楽しい時間が、今の僕たちはいつまで続けられるのだろうか?最近はそう思い始めてきた。
それもそのはず、楽しい時間というのは、いつか終わりを告げるものだと僕は思っているし、誰でもそう思うに違いない。そう思えば思うほど、楽しい時間というものが恋しくなるということだろう。
そして、今僕が思っている楽しい時間の終わりを促進させているポケモン、ミサンガ……
何を思っているのか、何を考えているのか、そんなことを知りたくはないが、とにかく嫌だった。この時間をあんな奴に壊されるのは本意でもないし、迷惑だった。
「…………」
「ドール君、どうしたの?」
「え?」
「恐い顔してるじゃない……」
「あ、すみません……」
昔の思い出に耽っていたら、パペットさんが話しかけてきていた。はっとして、裁縫作業を再開させる……
お客さんは特に来ていない。壁にかけられた時計に目をやると、さっきよりも十五分くらい進んでいた。その間に、パペットさんは掃除を終わらせて、新しい人形を作っていた。
作っているのは、タイショーさんにそっくりの、オノノクスの人形。小さくなっていること意外は、なかなかの出来で、そしてそんな人形を作っているパペットさんは、何処かうっとりしたような顔をしていた。
人形を作るだけで、ここまでうっとりと陶酔出来るほど夢中になっているといえば聞こえはいいかもしれないが、頭の片隅で絶対に違うという気持ちが湧き上がる。なぜなら、パペットさんは今までに同じような人形を三個以上作っているが、オノノクスの人形に至っては、百個以上作っているからだ……
「またオノノクスの人形を作ってるんですか?」
「え?……あれ?何で僕オノノクスの人形を作ってるんだろ……ニョロトノを作ろうと思ったのに……」
色合いが同じというだけでも、特に彩色の違いはあったが、知らないうちにオノノクス色の毛糸を取って作っていたのだろう、一途な思いというのは凄いというが、この思いは凄いを通り越して、驚愕するに値するかもしれない……
恋愛ごとに関しては自分はそこまで関心がないと思っている。確かに性別はあるかもしれないが、人形がどんな恋を抱こうというのだろうか。そもそも恋と言うものは、一途な思いが届いて成就するものであり、僕自身そんな人物にめぐり合うことはなかった。前者のたとえは完全に片思いが成就するタイプだったが、お互いに思いあっていたりする場合もある。しかしそれは稀かもしれない。
そんなポケモンを、見たことがない。
ゆえに、今現在パペットさんは、きっと片思いなのだろう。無意識に誰かを思っていると、行動にそれが現れてしまうというが、これはいくらなんでも異常だった。
いくら恋愛ごとに疎いと思っている僕でもわかるような、この頭の中を如実に表した行動、失礼だが、見ていて恥ずかしくなった。
「タイショーさんのことを考えていたんですか?」
「え?……う、うぅん、どうなんだろう?僕はわからないなぁ……」
「…………相変わらず、左右の顔は正直ですね」
「え?」
分からないなどというお茶を濁す言葉を吐いても、腕として使っている右と左の顔の頬が桃色に染まっていた。図星を突かれて赤くなったのだろう。脳味噌を持たないとしていても、やはり本能では生きている首、図星を突かれるとほっぺが赤くなるのだろう。
「わわっ!!」
左右の顔を見て、恥ずかしそうにパペットさんの顔が赤くなっていく、見ていて面白い反応をするポケモンだと本当に思う。
「…………気になるんですか?」
「…………う、うん」
ばれてしまうとすぐに白状する正直な性格だからこそ、顔を背けて喋るのだろう、こちらの視線に合わせようとはしないパペットさんは、やはり女性ということを思い知らせてくれる。
もじもじしながら、小さく声を出すパペットさんの姿は、人見知りが激しいポケモンみたいな印象も受けた。
「ずっと子供のころから大好きだったんだ……友達としてって言うのが一番大きいかもしれない、でもやっぱり大きくなると、異性としてみちゃうんだね……僕、ホントはそんな風に思いたくなかったんだ」
「何故でしょうか?」
「僕ね、こんな風に思っていることを知られて、タイショーに嫌われたくなかったんだ。ほら、タイショーって、面倒くさいこと嫌いだし、大雑把な性格してるからさ……恋愛なんて感情持った僕が、タイショーに付きまとったりしたら、それこそ面倒なことだよ。大好きだから、そんな風に思われたくないんだ」
「一途ですね、でも、ちゃんと伝えれば分かってくれると僕は思ってますが……」
「駄目だよ。僕にはそんな気持ちを伝えるのも出来ない。臆病で、頭が悪くって……すぐにタイショーに頼っちゃう、弱虫の僕なんて、分かってくれるはずないよ……」
だから、ミサンガさんとのごたごたも、自分で解決できなくて、タイショーに話しちゃった。などと重大なことを口にして、パペットさんはため息をついた。
これは分かっていっているのか、それとも天然なのか、わからなかったので、僕はわかりやすいため息をついた。大きく吸い込んで、ゆっくり吐いた息が、周りの空気と混ざり合う。
「本当にタイショーさんがそう思っているのなら、パペットさんは今頃一人ぼっちですよ」
「え?」
「本心でめんどくさいなんていう人は稀ですよ。本当にめんどくさいと思っているなら、口からじゃないです、行動で現れます。嫌な顔をしたり、動きが緩慢だったり……まぁいろいろですね」
「…………」
「口でめんどくさいなんていってる人ほど、やろうと思ったことに対して、全力で取り組む人もいます。タイショーさんも、めんどくさいって言いながら、パペットさんのことを助けてくれるじゃないですか。お店が大変なときにやってきて掃除を手伝ってくれたりしたことありましたよね?」
「ああ!!確かに、そんな時もタイショーめんどくさいって言ってた!!」
「でしょ?本当にめんどくさいと思ってるのなら、まずこのお店に来たり、手伝ってくれたりしませんから。タイショーさんは心のなかではパペットさんのことを誰よりも見ているんですけど、意地っ張りだからきっと恥ずかしくてすぐに皮肉を言ってしまうんでしょう」
「そ、そうなのかなぁ……僕、わからないや……」
「分からないなら、聞いてみてはいかがでしょうか?……今日、タイショーさん達がバッカスさんの家に行ってましたから」
そういって、二匹を掛け合わせようとするが、こちらも奥手なのか、もじもじして何だか気まずそうな顔をしていた。
「ええ、でも、その、お人形さんとどけなくちゃいけないし……」
「いいですよ、それは僕がやっておきます、行ってみたらどうでしょうか?」
「……ええ、でも……」
全く、どこまで人の心配をするポケモンだろう、こちらが背中を押してあげないと、行動を起こしてくれない。ため息と一緒に、呆れたような声がもれたのは、聞かれたくなかった。
「いいから行ってくださいってば!!ほらほら、気になったら行ってみることが一番いいんですから!!」
「う、わかったぁ……」
パペットさんは何度も何度もお辞儀をすると、ゆっくりと扉を開けて、そのまま飛翔していった。
「やれやれ、疲れた」
ため息と一緒に、疲労がどっと押し寄せる。
奥手なのも結構だが、もう少し位押しが強くてもいい気がして、人形を届けるリストを手にしながら、人形を整理する。
心の中で、僕は自分を雇ってくれた店長の一途な思いが成就することを願うのだった……


☆☆☆


「この石ころは、あいつにとってはきっと金を生むんだろうな……」
「まぁ、その場所が分かれば、それはそれで欲しくなりそうだけど」
「やっぱり、あのひとのやること……まちがってるよ」
「このことをパペットに知られたら多分えらいことになるんじゃないのか?」
「大騒ぎどころじゃなくなるね……」
いろいろな声が錯綜する中で、ハーブのいい匂いだけが無駄にたちこめる中、私は何を考えていたんだろうか……
みんなはきっと違うと思っているのかもしれない、この石を持ち出したのは私、変な話に持ち込まないようにしたつもりだったけど、やっぱりこれが原因だったんだと改めて思った。
「ねえ皆」
きっとこのまま黙っていたら、みんなはいろんなことを考えるだろう、ミサンガをどうするとか、パペットを守るために何をするのかとか、タイショーやアクロ、サンマはきっと穏やかな方法を考えてくれると思うけど。
バッカスやイリスはきっとすごいことを考えるに違いない……悪いことというか、多分暴力的なことで解決しようとするに違いない。そんなことをしたらパペットはきっと悲しむだろう……
「ん?どうしたんだ?」
「何かあったの?」
バッカスもイリスも、これから話すことをあまり聞きそうにないような浮ついた声でこちらの言葉に反応した、どうやら殆ど頭を次の段階にもっていってしまっているらしい……
「多分パペットのお店を潰す理由とか、そういうものが大きくなったときに、皆こう思ってるんじゃないかな?……暴力的な行動で解決しよう、とかさ……」
「え?ま、まさかそんな……」
「ば、馬鹿いうなよハミング……そんなことするわけ、な、ないだろ?」
二匹は動揺したような声を出したということは、そういうことを本当に考えていたのかもしれない、これは危ない。
タイショーは静かに首を横に振った。アクロはお茶を飲んで、違うとはっきり言い切った。サンマはにっこり笑って左手を左右に振った。どうやらそういうことは考えていないらしい。
「俺が考えるなら、もう少し平和的に追い出す方法だな」
「僕もそう思う、知能ある生き物って、何でもすぐに手を上げるべきじゃないと思う……」
「わたしもそうおもうかな?ちからならだれでももってるよ、だって、ここにいるのはドラゴンばかりだからね……」
三匹の意見はまさしくその通り、力があるだけなら誰でも相手を屈服させることはできる。だから、そんなことをしないほうがいいというのが一番いいのだろう。
三匹はそれをよく分かっている。バッカスもイリスも、何だかしゅんとしてしまった。
「う、うぅ……ごめん」
「悪かった」
「すぐに謝れるなら、まだ大丈夫だ……」
タイショーのナイスフォローでその場の事態は収束した。その後の長い沈黙と、耐えられないような静寂が続いて、ふと、バッカスは口を開いた。
「だったらさ、どんな方法が効果的だと思うんだ?」
「それは、まだわからない」
「俺も、ちょっとそういう類のものはお手上げだな」
「僕もまだ考えてない、ごめんね……」
「ハミングはどうなんだ?」
アクロも、サンマもタイショーも同じような答えを出した。そうなると当然、私も勿論考えているはずがない。
「私もそこまでは考えてないかな……ごめんバッカス」
「あ、謝るなよ……」
バッカスはばつが悪そうに顔をぽりぽりと掻いた。そこまでやらせるつもりはなかったかのような顔をして、誰かに考えさせるのはいけないと思ったのだろう、次に開いた口から出た言葉は、考えるようにといわされているような感じがした。
「だったらさ、これ以上こんな問答しても意味ないと思うから、また考えてから話そうぜ……時間はあまりないけど、皆で考えればなんか思いつくだろ?」
「そうかもしれないね……私はそれに賛成!!」
イリスの声は、必ず何か考えるよ、きっと、とあとで付け足したくらいに、何かを考えようという気持ちがあった。
「分かった、今日はこれで解散しよう……」
タイショーは静かにそういっただけで、何かを考えてくるようなそぶりは見せなかった。
「うん、わかった。わたし、とっておきのほうほうかんがえてくるね!」
サンマは明るい声を出した。何よりも笑っていたほうがいい考えがうかぶという持論があるサンマのことだ、きっと笑えるような考えでもひねり出してくれるに違いない。
「僕も何かできることをやるよ……そうしないといけないんじゃなくて、そうしようって言う気持ちが大事だからね」
アクロは力強く頷く。遠い何かをみている様な感じはしたが、それが何なのかまではハッキリと読み取ることができなかった。
「これ以上考えるのは頭が破裂しそうだからやめよう……ごめんな皆、俺が呼んどいて結局、あんまり進展しなかったな……」
バッカスは申し訳なさそうな顔をした、勿論彼の所為ではないし、誰かをそんな風に思うという気持ちを尊いと私は思う。
そんなバッカスを気遣ったのか、タイショーはおどけて笑って見せた。
「何言ってんだよ、お前が呼んでも俺が呼んでも殆ど同じだろ。寝たらいい感じに頭が冷めていい考えが浮かぶかもしれないぞー」
多分これはタイショーなりに気を使ったんだろう、バッカスはむっとしたような顔はしたけど、怒ることはなかった。
「そうかもしれないなぁ……んじゃ、もう寝る。早いけど、寝る」
「おう、じゃあなバッカス」
「また明日ねー」
「それじゃあ、さようなら」
「みんな、ばいばいー」
サンマが手を振って全員を見送る、忘れがちだが、バッカスとサンマは同じ寝床で寝ているのだった。これはただ単に二匹で住んだほうがコストがいいという理由だったような気がしたが、真相のほどは不明だった。
「んー……じゃあ、私とアクロはちょっと用事があるから帰るわね……さっきの石のこと、ちょっと気になったから、いろいろ調べてみようかなー」
「僕たちは大丈夫、きっと何か掴んでくるよ……」
「そうか、じゃあな」
「バイバイ、お二人さん」
二匹は手を振って飛んでいく、遠くなっていく姿を見て、タイショーは静かに息を吐いた。
私と二人きりになることは珍しいと思っていたら、タイショーは静かに歩き出した、私もそれに遅れないように低速で飛んでついていく……
「ハミング」
「ん?」
「その石、どこで買った?」
「…………ばれてたの?」
「原石にしてはやけに小奇麗だと思ったからな。加工途中の石だろそれ」
タイショーはやっぱりよく物を見ている、肝心のことは絶対に逃がさない、めんどくさがりやだけど、そういうところはしっかりしている。
「どうしてわかったのかって言うのは、あんまり聞かないようにするけど……まぁ確かに買ったものだよ、ちょっと遠出してね……原石を買って加工して見たの。凄い法外な値段で売れてたからね、おかげで今月の稼ぎは八割くらい吹っ飛んだかな?」
「何でその石を買ったのかが、気になるがな……今回の騒動は、その石が関係してるとは思えないだろ?」
鋭いところをつくのも相変わらずだった、そういう意見をもっと他の人に言えばいいと思うけど、きっとめんどくさいからという一言ですぐに片付けられてしまうだろう。
「じゃあ聞くけど、あのサーナイトがただ単に嫌がらせのためにパペットを虐めてると思う?」
「NOだ」
私の問いに即答するということは、ある程度頭の中でなにが原因かは分かってると思い、話を続けた。
「それなら話は早いかなぁ……この石、凄い値段がかかったけど、加工してみると、いろんなことに使えるってわかったの、加工も簡単だし、素人でもできるくらいね……多分これは――」
「レアメタルの一種だな」
「そうだね、貴金属、非金属のどっちにも分類されない不思議な金属。希少金属って言うほうが正しいのかも……」
「それで?それだけわかったとしてもパペットの店とは何の関係もないだろ?」
「そうそう、そこなんだよね、でもさ、この金属の成分に、ドラゴンの骨粉が混じってたんだ……昨日これを買ったときにさ、何でこんなものが入ってるんだろうって思ったよ。ドラゴンは別にどこにでも生息してるから大して珍しいことでもないと思うし、何よりも、それだけじゃ足りないと思ったんだ」
「……で?結局のところ、繋がる関連性は?」
「綿花」
「は?」
「綿花の根っこが、混じってたの」
いったん話を切って、空を見る。いい天気で、風が気持ちいい。
「いい風だね」
「ああ、そうだな、若干強い気もするけど、こういう天気も好きだ」
話を切っても合わせてくれるのは、気分を害させないためだということも分かっている、久しぶりに多くを話して、何だか疲れたような気もしたけど、それだけで納得するタイショーじゃないのは分かっていた。
咳払いをして、首を左右に振る。深呼吸してから、もう一度話し出す。
「続きを話そうか……綿花って、このあたりだと全然取れないんじゃない?っていうか、綿なんてほかの大陸から輸入すればいい話だからね……でも、このあたりで綿花畑がいっぱいあるって言うじゃない?」
「パペットの畑か」
「そう、パペットって、物を大事にするじゃない?お父さんの畑を大事に引き継いで、こんどは自分のお仕事のために使った。綿花を作るために……私にもいろいろ聞いてきたよ」
「なるほど、確かパペットおじさんは、冬の野菜を育ててたな」
「そうそう、それを完全に綿花畑にして、お店の裏側に作ったじゃない。凄い大事に育てたんだろうね、綿花は凄く元気で、雨にも負けず、風にも負けず……」
「夏の暑さにも、厳しい冬の寒さにも耐え切ったな……」
「凄いと思うよ、分からないのを知っているからこそ、自分ができる最低限のことをやって育てきったんだから、努力の賜物って奴だよね」
「で、その綿花畑のしたが……」
「鉱石の鉱脈になってるのかもしれないって思う。それくらいしかないと思うからね、正直に言うと、ミサンガさんは多分あの綿花畑を燃やしたら何もしないんじゃないかなって思ったよ」
「恐らくな、だけどそんなことしてみろ。俺達があいつを五体満足で返すかどうか分からんぞ?」
「パペットじゃないのね」
「あいつは多分一晩中泣き続ける……暴力が嫌いだからな」
「でしょうね……でまぁ、確信に変わったの。近場で買ってきたんだけど、どうやってこの石を手に入れたのかって聞いたのよ……そしたら、綿花畑の近くで拾ったってさ」
「不法侵入じゃねぇか!!」
タイショーは瞳を開いてあんぐりと口をあけた。確かに。そういわれればそうだが、この話には続きがあるといったら、タイショーはまた黙りこくった。
「どこのって聞いたらね、まぁ、予想通り、パペットの後ろの畑だってさ、不法侵入って聞いたら、パペットにも了承してもらったんだって、なんでも金属探知機を片手に持って、血眼で捜してたそうな……」
「あ、っそ……確定的だな、そいつの行動」
「そうそう、多分調べて、この石がここの付近にあるって思ってたんでしょ。でもさすがに綿花畑を掘り返すわけには行かないと思ったから」
「落ちてたものを拾ったと、運いいなそいつ」
「確かにね……で、まぁ、ちょっと強引な気もするけど、ミサンガさんはきっとこの鉱石のことをずっと前から知ってたんだよ。機能性のあるものは高価で取引されるって言うことも多分知ってる、社長の情報力って凄いねー」
「家庭内害虫みたいなしぶとさもあるような気がするけどな……」
「その辺の想像は、人それぞれってことで……タイショー……私はね、このこと、パペットには伝えることにしたの」
「は!?何でだよ!!」
一頻りの会話をして、お互いの胸のうちにある推測はほぼ同じだということを感じたら、私はそういった。タイショーは勿論食いつくと思っていたけど、ここまで食いつくと面白い。
「何でって、分からないの?タイショーと、パペットのためだよ」
「な、何で俺のためなんだよ……」
「それを言ったらだめでしょ、考えてみてね……じゃ、私はお邪魔そうだからそろそろいくね」
「お邪魔?一体何――」
何だよという前に、綿のような羽を上空に上げて、顎で空をさす。緩やかな風と一緒に、おっかなびっくりしながら飛んでくる、一つの影……
「ぱ、パペット!?」
「そういうことだから……じゃあね、タイショー」
「…………??」
本当に分からないのか、分かってているのか、はたまためんどくさいのか……
「パペットのこと、ちゃんと見てあげたほうがいいよー」
「何言ってんだよ……俺はいつも見てるぞ!!」
大空へ羽ばたいて、最後にもう一度地上を見下ろしたときに、タイショーの口が少しだけ動いた。
めんどくさいけど……
そんな風に聞こえて、笑った。
「素直じゃないなぁ、全く……」
そう思って、パペットとは逆方向へ飛んでいく。
何を狙っているのかは知らないけど、きっととめてみせる……
あの二匹のためにも――


パペット・パペット3へ続く



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Last-modified: 2010-11-27 (土) 00:00:00 
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