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パペット・パペット

/パペット・パペット

書いた人 ウロ
よくわからない表現ありかもです。注意してくださいorz


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五秒かかっても分かるわけない主な登場人物紹介
タイショー(オノノクス♂)
暴☆力☆賛☆成

パペット(サザンドラ♀)
僕っ娘

アクロ(ボーマンダ♂)
MA☆TTE!!これは事故(ry

イリス(フライゴン♀)
説明姉さん

ハミング(チルタリス♀)
大袈裟ちゃん

サンマ(ガブリアス♀)
HA☆NA☆SE

バッカス(クリムガン♂)
顔芸担当


大きな大きな渓谷の、奥の奥の奥にある、小さな小さな家の中……
糸を紡ぐ音、針を刺す音、布を鋏で切る音。
いろんな音がくるくると交わって、不思議なコーラスになる。
僕がお気に入りなのは、じょきじょきという、鋏で切る音。切っていると、何だか耳が癒されるような気がする……
皆は面白い耳をしているとか、相変わらず変な音が好きなんだねとか言うけど、それはそれ、これはこれ。
聞いていて面白いとか、面白くないとかは、僕自身が決めること……僕はこの音が好き。
お人形さんを作るときに、この音を聞くと落ち着く……今、自分が何かをつくっているって言うことが実感できる。
食べることも好きだけど、作ることはもっと好きだ。
さあ、今度はどんなポケモンのお人形を作ろうかな――??


☆☆☆


渓谷の奥のほうには、村がある。村というか、村落と言った感じだろうか?……俺自身、そもそもこの渓谷に村があるとか、そのほかの町の人がここを村というのかは微妙だった……
だが、ここには普通にポケモンがいて、家が建っていて、仲良く暮らしている。それが村だというのなら、村だろう。他の人がどう思うかは分からないけど、俺は少なくとも村だと信じて疑っていない。
この村には、神聖な生き物しか住んでいないとか何とか……他の町にいるポケモン達はそういっているやつが多い……いわゆる、竜というやつだ。
ドラゴンタイプしかいないこの町には、殆どのポケモンが観光か面白半分でやってくる。気に入ったやつはここに住むポケモンもいる。そういうやつはたいてい物好きとか何とか言われるが……この村に昔から住んでいる俺たちも物好きということになるんじゃないだろうか?
神聖な生き物、触れることのできない存在。そんな風に言われていた俺達ドラゴンだが、ポケモンだし、怒ったり泣いたり笑ったりする。神聖なポケモンだったらそんな風に取り乱したりするものだろうかって思うことはある……
そんなことを考えて、谷の上の空を見上げる。晴れのち曇り、午後から雨。この村の天気を予報するポケモンはそういっていた。
ドラゴンだらけのこの渓谷は、いつの日か、竜の渓谷と呼ばれていた……なかなかかっこいい名前で、皆は気に入っているようだが、俺はあまり好きじゃない。
ドラゴン以外にも、いっぱいいるじゃないか、ポケモンは……だからこそ、ひとくくりに竜の渓谷というのは、あまりにも単純すぎではないだろうか?そんな風に思っていたが、段々とどうでもよくなってくるのも事実だった。
「おーい、タイショー!!」
不意に、後ろから声がした。正確には、後ろの空から声がした。
強靭な四肢、大きな体躯にまさしくドラゴンといったような、大きな翼。ポケモンというか、怪獣図鑑に載ってそうな姿を髣髴させるドラゴンポケモン。生物名称はボーマンダ。でも名前は違う。
「おぅ、アクロ」
名前はアクロ、何でも遠い土地からこの渓谷にやってきたそうだとかなんだとか。遠い土地というのはどんなところだろう?想像もつかないし、きっといろいろなものがあるんだろうというイメージくらいしかわかない。
アクロには翼があるが。俺にはない。ドラゴンにもいろいろな種族に分かれている。陸地で暮らしている奴、水の中にいる奴、空飛んでる奴……アクロは、空飛んでる奴だ。
「タイショー、今日はどうしたの。こんな時間にうろつくなんて珍しいじゃないかな??」
ニコニコしながらアクロは地上に降りて、俺の隣に寄り添う。なかなか人懐っこいポケモンだと思うが、これは性格だろう。
「あー、そうだな……ちょっと人形をとりに行くんだ。あいつがもうすぐ出来るって言ってたからな」
「おー、お人形さん……可愛いよね、お人形」
「そうだな、癒し系だ」
この村には娯楽というものがないというか、殆どそんなものを見たことがない。ドラゴンというのは、ただただ強さを求めるというポケモンが多い。俺自身も、結構昔にそんな風な時代があった。
だけど、強さだけじゃなくて、心の安らぎやら何やらも、必要なんだということがわかった。戦ってばかりでは、確かに身も心もぼろぼろになってしまうだろう。
「可愛い人形がいっぱい家にあると、イリスが喜ぶんだ……パペットさんの作るお人形さんは、可愛いのばっかりだよね」
「そのうち動きそうな人形作りそうで怖いけどな……」
あいつのことだ、また部屋に閉じこもって、人形を作りまくっているに違いない……
人形を作るために生まれてきたような奴だと、心のそこから思っている。人気もあるし、何より人形の売り上げが物凄い。可愛くて、ちっちゃくて、他の町から注文する奴もいるくらいだ。
この渓谷を出て行って、もっと大きな町で人形を売り込めば、きっといい商売になると思うんだけどなぁと思っても、あいつは笑うだけだ……
「あ、でもこの時間だと、もしかしたら人形劇やってるかもね……ねえタイショー……見に行ってみない?人形劇」
「ヘェ、パペットって、人形劇もやってたんだ」
「そうそう、バイトのドール君に頼んで、人形を動かしてもらってね……」
聞けば聞くほどリアルな人形劇を想像してしまう。人形が動いたらそれはそれは恐いだろう。まぁ、人形に呪がうつったポケモンがいるから、もう動いてるんだけど……
「あいつ、自分で台本書いてるのかよ?」
「そうらしいね、なんか女の子には人気だよ」
「可愛いからな」
あいつの作る人形は可愛い。俺もそう思うし、アクロだってそう思っている……どういうつくりなのかは知らない。俺は人形を作ったことがない……
だが、パペットは人形を誰よりも愛しているし、思いを込めている。人形を作るということは、ポケモン達の性格をよく知ってるということだ……
このポケモンはどんな人形がほしいのか、このポケモンはこういう人形が似合うだろう。そういうことが、パペットにはなぜかわかったのだ。どうしてすぐにそんなことが分かるのか、俺にはさっぱりわからない。
だがパペットにはそれが分かる。これが特殊能力の有り無しの差なんだろうか?などと思ってしまう。
「俺にはわからないな……あいつの不思議な力というか、ポケモンを見る目というか……うぅん、とにかく、その他もろもろ」
首を振って、ため息をついた。めんどくさいとかじゃなくて、ため息が出るのはそう。何かの合図みたいな感じだろう。危険というよりは、面倒ごとがやってきそうな感じがした。
「タイショー、ため息が出るほどいやなの?」
「いやいや、人形を作ってほしいっていったのは俺だ、何でいやだなんて思わなきゃいけないんだ?」
「自慢の顎が錆付いているみたいな感じがしたから……」
どういう発想からそんな風になるのか、相変わらず不思議な頭の中をしている。アクロの脳内はどうなっているんだろう、ちょっとだけでもいいから覗いてみたいという気持ちになる。
そんなことを考えていると、空から大きな声が聞こえる。
「アクロ!!タイショー!!こんなところにいたのね!!」
「あ、イリス!!」
「お?アクロの追っかけ……」
「誰が追っかけよ!!」
遠目から見ると、虫の複眼みたいな感じの赤い瞳だが、実際は違う、レンズのようになっていて、本当の瞳は結構小さめで、不思議な色をしている。時折耳につく振動のような音は、二枚の羽から発せられている。
なかなか面白いポケモンだ。この当たりでは見ないドラゴンタイプのポケモン。生物名称はフライゴン。名前はイリス。どこかの国の言葉で、虹を意味する言葉らしい。
面白いくらいに怒ったり笑ったりするイリスの性格は、まさしく七色で虹と呼ぶに相応しいものがある。俺には正直に言うと五月蝿い限りだが、どういうわけかアクロとイリスは仲がいい。これまた不思議な話だ。
「イリス、どうしたの?」
「え、ああそうそう。タイショー。パペットが呼んでたわよ。さあ、今すぐに来て!!」
読んでいたという理由もいわないとはどういうことだ。と食い下がろうとしたが、そういえばイリスは説明をしだすと止まらない饒舌な舌の持ち主だったということを思い出して、頭を抱えそうになった。
「今すぐにって、お前は俺を何だと思ってるんだ?オノノクスは空飛べないんだぞ?……今すぐにって、お前と違って空を飛べるわけじゃないからちょっと遅れる――っておぉうっ!?」
そんな風に言葉を発している最中に、体が浮き上がる。不思議な感触と、びゅうびゅうと吹く風の音が、頭の中を真っ白にする。
見ると、イリスが俺の脇の下に手を突っ込んで、凄まじい力で持ち上げて浮いていた。足が地に着かない感触と、どんどん離れていく地上を見て、俺は素っ頓狂な声を上げた。
「ば、馬鹿!!やめろ!!高い!!恐い!!揺れる!!おっかない!!オイ、ちょっと、こら、や、やめ――」
「なぁにタイショーだらしないわね……それ、行くわよ!!」
「らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇえええええ!!!!」
高所恐怖症である俺は、高いところが苦手である。それを知っているくせに、イリスは俺を空から輸送する。
ああ、こいつとはあまり仲良くなれそうにないと、今まで思ってきたが改めてそう思った瞬間だった――


☆☆☆


「そのとき、大きな鳥が現れました!!おお、あれぞ、伝説のポケモン!!レシラム!!」
小さな小さな人形たちが、作り物の世界で縦横無尽に動き回る。そんな景色を幾度と無く見てきたこの人形劇。私はこの人形劇が大好きだ。
小さな白いドラゴン人形が、空中にふわふわと浮いている。人形劇を見ている子供達は、はらはらドキドキ、生唾を飲んで固唾を見守っている。
「レシラムは言いました。伝説の夜明けを見つめるものたちよ、いざ進むがよい、その目で、己が理想を捜し求めるのだ!!おお、何と言う喚起の声!!ポケモン達はざわめき立って、レシラムの飛び去った後をいつまでも見つめていました」
人形達はせせこましく動いて、レシラムが何処かへ行くところを皆で見つめている。相変わらず場面展開が速いのが気になるけど、子どもに見せるお話ではこういう疾走感溢れるものの方が受け入れられるということを如実に表している。とても良いお話だと思った。
「リーダーのリザードンはいいました。このままでいいはずがない。レシラムの言葉を信じて、行こう!!世界の平和を取り戻すんだ!!おおーっ!!」
おおーっ!!と、子ども達も声を上げる、本当に子どもの心をよく掴んでいる。パペットはもしかしたら洗脳攻撃でもできるんじゃないだろうかと疑ってしまう。その横には、せせこましく人形を動かしているジュペッタの姿も見える。
「さあ、リザードンたちはどうなるんでしょう!?果たして世界はどうなってしまうんでしょうーー!!……ええと、これで御仕舞いでーす。見てくれてありがとうございました」
こてん、と人形たちが沈黙して、紫色の布がかけられる。盛大な拍手と、惜しみない期待のまなざし。子どもに好かれて嬉しいのか、パペットは可愛らしくはにかんだ。
「パペットおねぇちゃん!!次はいつ?」
キバゴの男の子がワクワクしながら続きの催促。パペットはにこやかに頭を撫でてあげると、いつものように告げる。
「続きは来週だよ。また見てねー!!」
にこやかに元気よく愛想の良い顔をして、パペットは帰っていく子ども達に手を振った。可愛いというか、面白いというか、見ていて飽きないというか……
「ごめんね、いつもお人形さんを操ってもらって」
全員帰ったあとに、パペットはジュペッタに申し訳なさそうな顔をしたが、ジュペッタは特に気にしていない様子だった。
「大丈夫ですよ、これもアルバイトの宿命ですからね……」
「うぅ、けなげなアルバイトを持って、僕幸せ……」
「まぁまぁ、幸せと思うなら時給をあと200ポケほど上げてほしいのですが……」
「……さあ!!お片付けしようかドール君!!!」
話をはぐらかして、パペットはいそいそと片づけをはじめる。いつものことだと思っているのか、ドールと呼ばれたジュペッタはやれやれといって片づけを手伝った。
もちろん、私は見ているだけだけじゃない。二匹の姿を見ているからこそ、助けようかなぁとおもって手伝いに行く。
「手伝うよ」
「あ、ありがとうハミングさん」
「うふふ、いいのいいの……」
片づけをすることは好きだ。部屋が綺麗だと落ち着くし、可愛いものを置くスペースが増える。
何よりも私の部屋の可愛いものの十割は、紙芝居のお姉さん……パペットがつくってくれているんだから。
六つの翼、黒い胴体に、青い顔、凶悪そうに見える顔つきでも、優しい光を宿した瞳。両手というか、三つの首。
サザンドラと呼ばれるそのポケモンは、凶悪な見た目の通り、性格も凶悪、一度追い詰めた相手は食い殺して、全てを破壊してしまうといわれているサザンドラ……
だが、それはあくまで先入観、見た目の勝手な想像だ。パペットはサザンドラだけど、お人形さんが好きで、おっとりしていて、でもちょっとだけおっちょこちょいで――
「うひゃあっ!!」
「ぎゃんっ!!」
おっちょこちょいで片付けている最中で、お人形達のステージをがたがたとドール君の頭に落としてしまう。ドール君はかえるが潰れたような声を出して、両手に抱えた人形を取り落とす。
「パペットさん、痛いです」
「ああ、ごめんなさいドール君!!」
二匹でコントをしているみたいで面白かったけど、さすがにいい加減手伝おうと思って、落ちた人形を拾い上げる。
「それにしても新しい人形が出てくるなんて、相変わらず手先が器用だし、可愛い人形作るのとくいだよね……」
「えへへ、それしかとりえがないんだ……僕は、お人形が好きだからね……」
好きこその物の上手なれ、それが職業だからこそ、そういえる。言葉に含まれる含蓄、心の底から尊敬できる。大切な友達だ。
「ハミングさんみたいに、お茶の栽培でもお勉強すればよかったかなぁって思ってるんだけどなぁ……あはは、僕は不器用だから、そういうことはできそうにないからね」
職業を交換したいというパペットの言葉に私は首を捻った。お茶の栽培のどこがいいのだろうかと思ったことはあったが、やりだすと人形作りと同じくらいのめりこんだのは事実だった。やりすぎて自分の家がハーブのジャングルになりかけたことがあった。それでも、やっぱり首を捻る。
お人形を作るほうが器用と思うのは私の勘違いなんだろうか?私の体はもこもこした綿毛のようなものに覆われているから、針とか糸とかそういうものが入ってしまってそういうことが出来ないから、そういうことができるパペットは凄いと思うし、尊敬もできる。
「私はパペットのほうが凄いと思うんだけど……」
「ええ、でも、僕はハミングさんみたいに、もこもこした人形を作ろうとしたんだけど……やっぱり再現するのは無理だったよぅ……」
それは私がチルタリスだからだろうか?
チルタリス――もこもこした体毛と、不思議な声を持つポケモン、鳥みたいだけど、ドラゴンだ。見た目からドラゴンぽくないといわれて、けっこうショックだ。
でも生物学上では竜という種族に入っている。入っているからドラゴンだ。ふわふわのもこもこで、不思議な羽をしているといわれて、パペットが私の羽を凄く気に入ってくれた。
私は喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか微妙だった。この綿のような気は自分の唯一の特徴であり、あまり好きではない羽ということでもあった。ドラゴンに生まれたのだから強靭な羽がほしいということがあった。
空は飛べる、特に問題はない。でも、それ以上のものがほしい……そんな風に考える私は我侭で、空を飛べないタイショー達に言わせれば欲張りだというのだろうか……
「そうだ!!ハミングさん、僕のお店によっていく?……ハミングさんが育ててくれたハーブで、お茶を飲もうよ!!」
自虐的なことを考えて人形を綿の中に入れていたら、パペットは何とも魅力的な提案をしてくれた。私自身、自分のつくったお茶の葉を他人に使ってもらえるのは嬉しいし、それを飲むのも好きだった。果てしなくどうでもいいかもしれないが、お茶菓子も好きだ。
「ええ?でもいいの?……パペットのお店って、お人形屋さんでしょ?お茶を飲むスペースなんてあったっけ?」
私の疑問には、しっかりとドール君が答えてくれた。
「お茶を飲むスペースくらいはありますよ。人形もガラスケースに飾ってありますし、何よりも、ハミングさんがきたら人形たちが喜びます。貴方は人形をとても大事にしてくれていますからね……僕には人形の気持ちがわかります、皆貴方のことが好きですよ……」
「え……へへへ……そ、そう?ありがとうドール君……じゃあ、その、御呼ばれしちゃおうかな……」
「ぜひ来てね、新しい人形も作ったから見てほしいんだ」
人形を拾い集めて、劇のセットを全て片付けて、私は心から楽しみにしていたら、凄まじい飛行音が耳を掠める。悲鳴と思しき声も聞こえる。
「おろせぇぇぇぇぇええええええ!!!」
「今おろすわよ!!そぅれ!!!」
大きな声が空から聞こえて、私達の間に黒い影をつくる。凄まじい音と、大きな悲鳴……もしかして、何かが落ちてくるということだろうか?
「おわぁあああああああああああっ!!!パペット!!どいてくれぇえええええぇぇぇ!!」
「え?えええ!?」
「パペットさん、危ない!!」
空から大きな影が降ってくる、私はとにかくドール君の手を掴んで、数メートルほど離れる。パペットはおたおたしながらもその場から飛んで離れた。
着地と一緒に強力な爆音、というか轟音……けたたましい音が周囲に響いて、草木がざわめく。
着地点には、一匹のポケモンが伸びていた。巨体が高速で高いところから落ちたので、もちろん地面が無事なわけはなく、若干へこんで、周りの土が抉れていた。
「ちょ、ちょっとちょっと、なにが起こったのかなぁ?」
私は困惑しながらおちてきたポケモンを見る。肉眼で捉えたその体は、黄金色の身体というか、くすんだ黄色というか、泥がついていてどっちだか判別しづらい。それに口の両側についている大きな斧のようなもの。
大体見間違えるわけがないので、呆れながらも手を差し伸べる。
「タイショー、何やってるの?」
「あ、ハミング…………いや、その、イリスが……」
めこ、という音と一緒にタイショーは立ち上がる、外傷は一切ない。まぁ、ドラゴンは硬い外皮に覆われているポケモンが殆どだ、外相なんてあるわけがない。
私のような姿をしているドラゴンは本当に稀有な存在なんだと改めて思う。やはり硬い外皮、竜のような身体はほしかった。見てくれで竜と判別できるような、力強くて、かっこいい――
「可愛い姿でいいと思いますけど……」
「うひゃあ!?ドール君、私の心の中覗いたでしょ!?」
「ん、すみません、プライベートにはあまり干渉しないようにといわれたのですが、その、ハミングさんが憂いをおびた表情をしていたので、ついつい気になっていしまって……」
「何を言っているんだドール君。ハミングのどこに憂いをおびた表情があるっているんだい?……まぁ、どっちかというと可愛いよりじゃないかな?」
「ひとが気にしてることをずけずけ言うなぁー!!」
相変わらずストレートにものを言うタイショーはあまり好きになれない。そこがタイショーのいいところであり、悪いところでもある。
はっきりとした物言い、言葉を飾らずに、気持ちだけを素直に伝える、伝わる相手には希望を伝えるかもしれないが、伝わらない相手には難しい言葉を飾らずに突っ走るような言葉ははっきり言って不快感を感じる時だってある。
私自身がちょっとだけ嫌な顔になったのをタイショーは見ると、こめかみをぽりぽりと掻いて、口をもごもごさせた。
「あ、あぁ……と、その、何だ……ええとだな…………じゃ、若干、竜っぽくないけど、その、何だ……ハミングは竜だよ。誰がどう見ても竜だから、いいと思うそれで……」
口下手な人が発する言葉みたいで、自分の顔が緩むのが分かる、普通に竜だからいいじゃないって言えばすむことだけど、タイショーの気遣いは本当にずれてて面白い、でも、そこがタイショーの魅力だから、やっぱりタイショーは好きだ。
相手の顔を見て、自分が悪いということが素直に認められる人は、この世界では貴重だと私は思っている。
「ありがとうタイショー。もういいよ……でも、空から降ってくるなんて珍しいね」
「言っておくぞハミング、俺は落とされたんだ。イリスが思い切り脇を掴んで高速で飛びやがって、一回戻しかけた……うぇっ」
「なによー、タイショーが軟弱なだけじゃない……空を飛んだくらいでがたがた抜かさないの!!」
「馬鹿野郎この野郎!!俺はお前らと違って羽がないの!!分かる?この意味わかるねえ?わ――どぅへ!!」
「五月蝿いなぁ!!空から落ちる訓練でもしてれば酔わないわよ!!」
空から落ちるという一言で、降りてきたボーマンダの顔がびくりと震えた。私の知っている顔、でもなんでそんなにびっくりしているんだろう?
「どうしたの?アクロ??」
「いや、ちょっとめまいが……」
頭を押さえてイリスの顔を見るアクロの顔は、気分が悪そうだった。空を飛んでいるのに気分が悪いなんて珍しい。
私は空を飛んでいると気分がいいものだから、そんな気分になるのは不思議なのかな?
「あ、そうだ……タイショー僕に作ってほしい人形があったっていってたよね?……それできたから、タイショーもアクロ君も、イリスさんも一緒においでよ」
「お、わるいな……じゃあ、どこに行くか知らんがついていくか」
「お人形の館ですよ、タイショーさん」
「わ、パペットのお店?楽しみだなぁ……」
「僕たちがお邪魔しちゃって迷惑じゃないかなぁ……ほら、ドラゴンって結構大きいし……」
「だいじょーぶだよ。僕たちが入ってもまだまだ大きいくらいのおうちだからね……さぁて、人形たちが待ってるから、早く帰ろうか!!」
パペットの一際大きな声に、私達も続けて声を出す、強い風が吹いて、落ち葉を巻き上げる……
今日は、風の強い日だ……午後から雨が降る……
今照っている太陽も、すぐに曇りそうなくらい、雲の多い日だった。


☆☆☆


どうして俺はパペットの屋敷に向かっているんだろう、ドールハウスと呼ばれるそこはそれはそれは人形ばかり置いてあって、背筋が寒くなるという奴もいる。もしかしたら人形が襲い掛かってくるんじゃないかとか、ガラスケースに入っている人形たちが一斉に睨みつけてくるとか、いろいろなうわさが立っているが、俺はそんなことを気にしたことはない。
俺が気にしているのは、どちらかというと、暇になるとどうしてもそのドールハウスに足を運んでしまうということだった。買いもしないのに、いっつも行ってばかりではパペットの店の営業妨害になりかねん、しかし、パペットはそんなことを気にするなといっている。
「いっつも来てくれるってことは、品定めしてくれてるの?えへへ、バッカス君が好きそうなお人形を作っておくよ!!だから、きっと買ってね!!」
なぁんていって笑うだけ。俺は生まれてこの方人形なんて見たこともないし、触ったことも、ましてや遊んだこともない、だから知らないものに興味があったというのが一番大きいのかもしれない。
人形とはなかなか可愛らしいと聞いた、それを見てみたら、なるほどそのとおりだった。可愛いし、癒される。
そう思って、地面の水溜りを見た。鮫だか鰐だか分からないような赤い顔に、青色の身体、この小さな翼で、空は飛べるのか?……飛べないけど……
とても凶悪な顔つき、悪いがこれはひどい……生まれてきた不幸を呪うしかない。やばいって、この顔はマジでやばいって……ドラゴンっていうか、豚といったほうがいいかもしれない。って言うかそれだと豚ポケモンに失礼だ……
とにかく、何で俺はクリムガンに生まれたのかその意味が知りたい。いや別に知りたいというわけでもないが、どうしてこんな凶悪で微妙な顔に生まれてきたのか若干気になる……
親を恨むことはない。そういう種族だからしょうがない。恨むのは本当は俺自身、こんなことを考えて、そんな風に自分自身を虐め続けている俺自身が許せなかった。見ていてイライラするし、吐き気もした。
パペットは、そんな俺にも長所があるといってくれた。力だけしかなかったのだが、その力もタイショーやサンマ達が進化して、力すらも全て取られてしまったようだったが、それでも皆結構謙遜している、俺のほうが力が強い、俺のほうがずっといいものをもっている……
その言葉を確かめるように、毎日パペットの人形屋に行くのだろうか?それとも、ただ単に自分を慰めてもらいたいだけなのか、真意も分からずに、パペットのところへ歩を進めるだけ……
「さっきから、ひとりごとがおおいですー……もしかして、わたしのかおになにか、ついてますかー?」
隣からのんびりしたような声が聞こえた。さっきから俺の隣についてきているポケモン、長身で、爪が尖ってて、高速で空を飛ぶといわれているが、いまだに空を飛んだところを見たことがない、こいつ――ガブリアスのサンマは、いつまでたっても穴をほって移動したり、大地をどかどか走ったり。
とにかく、飛べるのに飛ぼうとしない奴だった。
「いやぁ、聞こえてたとは恥ずかしい……はっはっは、悪いな、へんな奴だろ、俺?」
「じゃあ、わたしもへんなやつですね……」
「そんなことはない」
そう、そんなことはありえない。俺が変なやつは俺自身が一番よく知っているから、独り言が多い、頭が悪い、馬鹿みたいに力があるだけ……
変な奴だ、自分自身でそう思えるくらいの変な奴。
「ふふ、こっちむいて、バッカス」
「んあ?――ブハッ!!!」
名前を呼ばれて、サンマのほうを向いたらむいたで、いきなり顔芸をしてきた。それはそれは原型をとどめないくらいの顔で、面白すぎて吹いてしまった。知らないうちに笑い声が大きくなる。
「ぶひゃひゃひゃひゃ!!何だお前!!変態か!?あーはっはっはっはっはっはっは!!!」
「そうそう、へんたい……ね、おかしいやつでしょ?わたし」
「ああ、ほんとにおかしい奴だよ、女の子が普通顔芸なんてするかよ!!参った参った!!にらめっこは俺よりお前のほうが分があったな!!」
「……ね?バッカス……君はそんな奴じゃないでしょ?」
口調が変わった、のほほんとしていた顔はうっすらと微笑を浮かべた、大人の女性のそれに変わる。果たしてこれは二重人格なのか、それとも顔を作っているのかはわからなかった……でも、いつものことだから、何度も見ていた光景だから、慣れているといえばなれている、慣れてないといえば、確かに慣れない。
言葉を変えたサンマの言葉は、不思議な魅力と確信を突く。その発言に、俺の心は何度も揺り動かされた……
「君は自分のことが嫌いらしいけど、私は君のことが好き……変な意味でも何でもないよ……君は十分に魅力的、とっても面白くって、とっても頼りになる……パペットも、君が好きだから邪険に扱わないんだよ?そうじゃないけどね、好き、嫌い、いやだからこいつはだめ……そんな勝手な個人の物差しで計るようなやつは、この辺りにはいないでしょ?」
「……あ、ああ……」
「だから。きっとみんなバッカスがだいすきなんだよー」
いつものポワポワした口調に戻って、ニコニコしながらサンマは俺の後をついていく……
いやだから突っぱねる、確かにそんな奴はここには存在しない……俺の考えすぎではないが、少なくともそう言われて気持ちが若干安らいだ。
「ああ、そうだな…………んじゃまぁ、パペットのところに急ごうぜ!!」
「そうだねー、バッカス、こんどはちゃんとかってあげなよ……パペットもよろこぶとおもうよー?」
「はは、まだ品定め中」
足取りが軽くなる、ゆっくりと、大きく足を踏み入れて、進む。
風が吹いて、雲がゆっくりと動いて、太陽を隠す……
俺の心の中で、不思議なざわつきが蠢いた。言いようのない不安が急に押し寄せてきて、どうしてだろう、どうしてこんなことになるんだろうと胸に手を当てる……
何かを忘れているような気もした……なんだろうと右腕で頭を叩いて思い出す……姿がハッキリしない不安が形をつくっていき、回転した頭が、一匹のポケモンの姿を映し出した。
そうだ、思い出した……人のことを物差しで図る奴がこの渓谷には定期的にやってくるじゃないか――!!
「サンマ……いたぜ……他人を物差しで計る、馬鹿野郎が…………!!」
「え――?」
俺の声に反応したのは、思い出したから。サンマは顔をゆがめて、視線を泳がせた。
どう反応していいのか分からなくて、言葉をつまらせて、喉の奥にしまいこむ。ごくり、という喉を鳴らす音がやけに大きく聞こえて、頭が痛くなる。口からは違う言葉を出そうかと考えたけど、結局、喉の奥にしまいこんだ言葉を吐き出した。
「あいつ、今日来るのかな……」
「きっと、かんげいはされないよ……ばかなひとだから……」
馬鹿な人、そうだ。馬鹿なポケモンだ……あいつがきたら、パペットはどんな顔をするんだろうか、客として迎え入れるのだろうか?
それとも…………
敵として、牙を剥くのだろうか――?


☆☆☆


パペットの家の前に、なぜだか知らないがバッカスとサンマがいた。
「あれ?バッカス君、サンマさん……」
パペットも予想外だったのか、不思議そうな顔をした。
「ん、ああ、すまない。連絡もしないで来てしまって…………」
「ごめんねー」
二匹の言葉は短く簡潔だが、伝わったようで、パペットは微笑んだ。俺から見たら三つの顔が同じように笑うという奇妙なものを見せられて、何ともいえないような感じもした。
「かおがみっつ、うふふ……パペット、うれしい?」
「そうだね、僕たち、こんな風に会えるときが来ること事態、結構珍しいかも……」
会えることが珍しい。そんな風に聞いたが、そうだ、こんな風に俺たちが集まることが珍しい。
会える日はいっつもばらばらで、そんなに話すこともない、共通する点といえば、パペットの人形屋に磁石のように吸い寄せられることだろう……どうしてそんなに皆人形が好きなのか。
そこじゃないと思った。何よりも、皆はパペットが好きなんだろうということだ……人形に惹かれるというよりも、パペットの不思議な心に惹かれて、皆は集まる。
「さて、お茶の準備準備……さあ皆、いらっしゃい!!」
カランカランという音とともに、扉が開かれる。鈴をつけた扉が開いて、中の様子が視界に飛び込む。
天井まで届きそうな高い高い木で出来た戸棚のようなもの。中央の部分がくりぬかれたようにスカスカで、その隙間にずらりと並べられた人形達、それだけじゃなくて、会計を済ませるカウンターの前にもガラスケースがあり、その中にはちょっと高価な人形なども置いてある。
いろいろな人形たちがこちらを見ているような気もしたが、そんなことはなかった。人形達は作ったときの顔を固定されたまま、その方向を一点見続けている……
そんな人形達の中に、一匹の影がゆらつく。
顔を見た瞬間に、パペットの顔は悲しみに変わる。サンマもバッカスも、なにが来たのかわからなかったが、それはそれは分かりやすい敵意の顔をむき出しにした。
アクロもイリスもまるで何か別の世界の生き物を見ているような顔をした。何かを見ているというわけでもなく、それが生き物かどうかすら怪しんでいるような顔、非常に失礼な感じはするが、俺もそれに同感した。
今目の前にいるポケモンは、正直に言ってしまえば、ここにいる全員の敵だ。そういっても過言ではない。
言葉を発することもなくたっているポケモンに対して、ハミングが静かな声で話しかけた。
「あなたがここにいる理由がありません、出て行ってください!!」
あまりにも痛烈な言葉だったが、相手はその言葉をまるで風のように受け流した。
「相も変わらず、口汚いですね……パペットさんのお友達は、チンピラしかいないようです……」
「!?……」
「抑えろハミング……相手の言葉に自分の怒りをぶつけて、自分の惨めさをさらけ出すつもりか?」
「…………っ!!」
俺の言葉に対して、ハミングは口を噤んだ。何か言いたそうな表情はしていたが、これ以上自分の安易な言葉をぶつけても、焼け石に水状態だと思ったのだろう、一歩後ろに下がった。
その間に、パペットはランプを持って、ふわふわと浮き上がると、天井に吊るされた大きなランプに火をともす。
ゆるゆると部屋が明るくなって、オレンジ色の灯りに浮き上がったポケモンの姿を、全員で凝視した。それはそれは静かに、物静かに佇んでいた。緑色の髪の毛のようなものに、胸に紅い突起……種族名は、サーナイト……
「なんのようですかー?まじょさん」
サンマの言葉は的確かもしれない。魔女、といわれて、その言葉を嬉しそうに、聞きほれるように受け取るそのサーナイトの顔は、まさに魔女。こいつだけは頭が狂っているとしか思えない、どうしてそんな風に笑えるんだ?どうしてそんな風に、人のことを見下したような目をするんだ?
「うふふ、最終警告に来ましたよ。おばかさん方……」
「おばかさんは……あーなーたー」
サンマは相変わらずだ。何を言われても、自分の言葉は崩さない。バッカスはそれに便乗しているように、あとに続けて言葉を吐いた。
「あんた、何回その最終警告をしに来たんだよ。くだらねぇ、冷やかしなら帰れよ、迷惑だし、誰もよろこばねぇだろ!!」
「あらあら、貴方はここで何も買っていないというのに、そんな下らない言葉で濁すのですか?呆れますね……貴方のような方が、"お人形さん"遊びですか?」
「っ!!」
「押さえて、バッカスさん!!人形たちが、悲しむよ!!!」
顔を真っ赤にして殴りかかろうとしたバッカスを、アクロが凄まじい力で押さえつける。筋力では勝てなかったのか、バッカスは次第に力を抜いて、悪態をついた。
「野蛮ですねぇ……パペットさん、友達はもう少し選んだほうがいいのではないですか?」
散々な言葉をかけて、ハミングもバッカスも真っ赤になってぎりぎりと歯軋りをする。今日は何を言われても黙っているつもりだったが、俺も体中が熱くなるのを感じていた。
ああ、殴りたい……思い切り殴り飛ばしてやりたい……こいつだけはどうしても顔面に一発くらい叩き込まないときがすまない……
「誰と友達になるかは、僕自身が決めることです……ミサンガさんがどうこう言うことではないです……今日は何をしに来たのでしょうか?冷やかしなら、今すぐに帰っていただけるとありがたいのですが……」
「私は言いましたよ?最終警告だと……さっさとこのぼろぼろの屋敷を取り壊したいのでね……早めに土地を売ってほしいといっているのですが……全く聞きもしない貴方の耳には驚きましたよ……」
「僕はその前に言ったはずです。この土地は僕の名義で貰っています、このお屋敷も、立てたときからいろいろな想いがつまっています……それを簡単に壊すなんていわないでください。何度言われてもお断りします……用件がそれだけなら、もう帰っていただきたい……僕は貴方と話しているほど、暇じゃない」
「おやおや、私はこれでも穏やかに話したいと思っていましたがねぇ……あなたがそんなに意固地では、私の好意も無駄になるというものでしょう……穏やかに言っているうちに、私の言うことに従ってほしいのですが――」
ミサンガと呼ばれたサーナイトがくすくすと微笑んでいた瞬間、パペットの後ろから巨大な裁縫針がサーナイトの顔面に突き出される、それを知っていたかのように、サーナイトは特に驚くことも取り乱すこともなく、裁縫針を突きつけたドールを見ていた、いや、見下していた。
「…………バイトの躾が……なってないですねぇ」
「ここはお前の会社じゃない。何でもお前の云う通りにはならない。分からないなら、さっさと帰って、会社で思う存分命令しろ……それが出来ないなら、下らない妄言を喚き散らすな……ここは竜の渓谷……神聖なる生き物の逆鱗に触れないうちに……さっさと消えろ!!」
ドールの言葉には激しく同意した。こいつと交わす言葉すら嫌だったが、話したくないが……俺は話した。
「今日は帰れミサンガ……これ以上俺たちを怒らせるつもりか…………」
「やれやれ……ここの竜たちは、本当に頭の悪いポケモンばかり……」
ミサンガはそれだけ言うと、一枚の紙切れをパペットの前にほうった。拾えということらしい。どこまで人を馬鹿にするんだろう……こいつはどこまで根性が腐っているんだろう。それでもパペットが拾うのは、そいつをまだ客だと思っているからだろうか?それとも拾い上げることで、相手の機嫌をとろうとしているのだろうか……
「これは?」
「この間の三倍の額です。さっさと売り払うように、最終警告ですよ……くっく……」
「……早く帰ってください……」
「本当はわかっているのでしょう?貴方は人形を作る才能がある、その才能をこんなぼろい屋敷に閉じ込めて、貴方は自分自身を潰している」
「帰ってください……お願いだから帰って……」
「本当は貴方の周りにいる愚鈍で間抜けなポケモン達に嫌気がさしているのではないのですか?……貴方ほどの知能あるポケモンが……こんな馬鹿なポケモン達にそんなことをして――」
「帰って!!もう帰ってよ!!!」
「…………ふっ」
ミサンガは笑うと、テレポートでどこかへと消えていった。
いなくなったのを確認して、パペットはその場にへなへなとへたり込んだ。ため息とも取れないような弱い息を漏らして、無理やり笑ってみせる。その顔が、俺の胸を締め付ける、まただ、どうしてこんな顔をしたパペットを何度も見なければいけないのか……
「ご、ごめん皆、お茶どころじゃなくなっちゃったね……ぼ、僕のせいで……」
お前の所為じゃない、そういいたいところだったが、俺はそれを言う資格がない。
同じように、ミサンガの言葉をあおってしまった要因を作ったのは俺だ、違ったとしても、俺もその中に入っている……誰かが許してくれても、俺は俺を許さない。
暫く沈黙が続いていたら、イリスが怒ったような口調で荒々しく言葉を紡いだ。吐き出すような暴言も、先程の声と比べれば可愛いものであろう。
「あのサーナイト……一体何なのよ!?意味わかんないわ!!同じサーナイトでも、ルーン先生と比べたら月のラッタの糞の差があるわ!!!」
「あのサーナイト、凄く邪悪な感じがした。言葉に出来ないくらい気持ち悪いよ……あれ、何しにきたの?」
イリスの言うルーン先生というポケモンがどんな存在かわからなかったが、少なくともミサンガよりはマシだろう。というよりも、あの魔女と比べてはいけないだろう。アクロはもはやあれ扱いをしていた、だがそれでいいんだ。あいつにはあれという文字すらおこがましいものがある。
「あいつは…………ミサンガって言ってな……なんかでかい会社の社長らしいが……新しい店を開こうとして、この土地が一番適してるから、パペットを追い出そうとしてるんだよ……」
「自身の勝手な理由かぁ……そりゃ、パペットさんも迷惑するわけだね…………僕、あのサーナイトを、絶対に好きになれそうにないなぁ……」
「好きになる必要性はないと思います……ミサンガは、この渓谷にくることが一番厄介なポケモンといわれますから……」
アクロは優しすぎる……誰とでも仲良くしようと考えている素晴らしい思考の持ち主だが、自分が苦手である相手であっても、仲良くやっていきたいという心も持っているために、どうしてもそんな風に葛藤を心に抱えてしまうという欠陥のようなものを持ち合わせている。
それに対しての返答は、ドール君がすばやく適応してくれた。さすがドール君、好き嫌いが激しい性格をしているが、それをもってしてもどんな人物が好かれるのか、そしてどんな奴が嫌われるのかを見極めることはしっかりと出来ている。最も、そんなことは一人ひとりの個人差であり、そんなものを見極めろといわれても難しいことこの上ない。他人も自分も一緒の思考というわけではないからだ。
「うん、僕はあのポケモンを好きになれない……多分、何かきっと体の血が嫌がってるんだと思う。あのポケモンは危険だって……そんな風に警告しているような気もする……」
「たしかに、いやなかんじはするね……わたしもきらいだよ、ああいうポケモン……」
サンマが瞳を細めてアクロの意見に肯定を促した。バッカスはなにやらばつの悪そうな顔をしていたし、イリスも他にも何か言いたげな顔をして両腕をいじっていたが、結局二匹共何も言うことはなかった。
この場所で言いたくなかったのだろう。これ以上集団で集まってフラストレーションを溜めてもしょうがないと思っているんだろう……何よりも、店の中でこんなことを話したくないというのが一番の大きな要因かもしれない。
結局、お茶をするという目的も全て霧散して、俺達はそれぞれのねぐらに帰っていった。
もやもやした気持ちが頭の中で渦巻く、嫌な予感しかしない。そう思ったが、いくらなんでも他人をいじくるほど暇な人生をミサンガが送ってきたわけではないと祈りつつも、頭ではほんの少しの不安と違和感を抱えたまま、うっすらと暗くなっていく空を見上げながら、大地を蹴る。
雨が降る、それだけはわかっていたと思っていた。
空気が重くなって、胃の中がどろどろする。今日のお昼ご飯は何を食べただろうか?忘れてしまったが、脂っこいものを食べたかもしれない……
口の中がベトベトして、気持ち悪くなった……吐きそうな気分を押さえて、家に急ぐ。洗濯物を干しっぱなしだということを途中で思い出して、若干急ぎ足になる……
「ちっ……」
知らないうちに重々しい舌打ち、何かイライラする……それが何か分からないから余計にイライラする……
頭を掻いて、疾走……体が若干濡れ始めた。
雨が降り始めるのと、家路に着くのは殆ど同じくらいだったと思った……
木製のドアを乱暴に開けて、そのまま勢いよくしめる。灯りをともすこともなく……そのまま寝床に倒れこんだ。
イライラする気持ちが抑えられない。どうしてこんな気分になるんだろう?そんなことを少し考えたが、すぐにやめた。考えるだけ無意味だった……
洗濯物を干していたのに……だがもう取り込む気すらない。
「寝よう」
ゆっくりと瞳を閉じて、何も考えないようにした。考えるだけ無意味、考えても何も浮かばない。だったらどうするのか?それは簡単、単純明快……何も考えることなく――
――ただ、ゆっくりと眠ればいいのだ……


☆☆☆


頭が痛くなるというか、先程のことが気になって、どうしても起きてしまった。他にも起きた理由はあるかもしれないが、僕には眠れなくて起きるというよりも、考え事をしていて眠れなかったというよりも、外の激しい雨の音でおきたというほうが正しいかもしれない。
「頭痛い……」
口に出して言ってみた言葉で、隣で眠っているイリスが目を覚ました。のそのそと身を起こして、外を見た。雷が鳴っている、それだけではなく、雨の音も激しかったのか、カーテンを閉めて、もう一度眠りについてしまった。
「お休み」
「お休み」
短く、そして千切れたような挨拶。イリスは僕から背を向けると、穏やかな寝息をたて始めた……
「やれやれ」
よく食べて、よく眠る。それが一番いいかもしれないが、隣で眠っているドラゴンはちょっと寝すぎじゃないかな?なぁんて思ってしまうこともあった……
「うふふ、こうしてみてみると、あのときのことを思い出しそうだなぁ……」
寝顔を見ると思い出す。僕がはじめて空を飛んだとき、彼女はいつも傍にいてくれた……
彼女の心を知ったときに、僕はどれだけ嬉しかったのだろうか?どのくらい嬉しいのか分からないくらい嬉しいということだけは分かった。
昔の幼稚な自分、今の考えられるようになった自分、どこまで繋がっているんだろうか?駄目な自分と今の自分は、考えると、ずきりと頭の奥が痛む。
そんな風に考えるのは、昔の自分が嫌だったから、以前まで、自分自身が空を飛べるような存在ではなかったということ、そして、そのためにやれることをやったこと、そして、自分の愚かさを知り、駄目な自分が嫌になり、自暴自棄になって死のうとしたときもあった。
そんな自分を止めてくれたのは誰だったのか、それはほかでもない、横で眠っているイリスのこと。
僕は本当はとても臆病で、とっても軟弱、ドラゴンタイプではないと思えるくらいに、ヘタレだった。
へっぴり腰で、弱々しくって、それでも体だけは丈夫で……そんな僕でも、イリスは見ていてくれた、好きな部分も嫌な部分も全部ひっくるめて、僕を見ていてくれた。
「あの時はほんとにごめんね…………」
「何のこと?」
「あ、ごめん、起こしちゃった……」
「うぅん、別に…………」
おでこに口をぶつけて、小さく囁いたと思ったら、知らないうちに起きてしまった。ごめんなさいと思いながらも、やっぱり一緒に起きてくれて嬉しいというか、迷惑かけてすみませんというか、頭の仲がくるくる回って、うまく伝わらない。
さて、起こしてしまった手前、もう一回寝かしつけたほうがいいんだろうかと思って、何かしようと思った。子供をあやすみたいでイリスは怒りそうだったけど、僕はそんなこと気にしない、僕がしたいからするってことを、イリスはわかっているから……
「でもやっぱり寝ないと、身体に悪いよ?ほら、子守唄歌ってあげる!!」
「うん、ありがとう」
ゆっくりと瞳を閉じて、僕のほうへ顔を傾ける。子守唄はパペットさんに教えてもらったものしか分からなかったけど、とりあえず歌ってみた。
息を少し吸って、大きく吐く。そして大きく吸う。ゆっくりと瞳を閉じて、静かに、緩やかに音をつむぎ出す……
星空の中、見える光、勇気と、希望と、真実と、理想……私の思いは、どこに向かうの?貴方と一緒にいれる時間が、私の幸せ――
私は貴方のように、強くなれないかも知れないけれど、精一杯生きていく、生きる中で、貴方を追います。追いかけて、追いついたときに、肩を並べて、歩いてもいい?
私は貴方のそばにいる、資格はきっとないと思うけど、貴方を思う、この気持ちは本物……
だから私は、強くなる……ずっとずっと、強くなる……
「~♪~~~♪♪…………あれ?」
子守唄を歌っている最中に、穏やかな寝息が聞こえてきたと思ったら、イリスは静かに息を吐いて、眠っていた。
僕の歌い方がうまいのかな?なぁんて自信過剰に思ってみた。あってたら嬉しいし、あってなくても子守唄で眠ってくれたら嬉しい。
子守唄はポケモンを眠らせるための歌だから……寝顔を見ていると、何だか僕も眠くなってきた……
「ふぁ……」
軽く欠伸をして、ゆっくりと瞳を閉じた、そのままこてんと横になって、自分の体中の力が抜ける感触がするのは……きっと体中が眠ろうというサインを出しているから……
「ぐぅ……」
そのまま意識がふっとなくなる。眠くなるということは、僕の体がよっぽど疲れているに違いない。
このまま起きていてもしょうがないので、ゆっくりと眠ることにした……体を休めて、明日また起きたら、また明日の一日を生きていこう。
そういえば、と完全に眠る前に思った。
今日であったあのサーナイト、何かたくらんでいるんじゃないだろうか?


☆☆☆


これ異常ないくらいの憤りを感じた。あいつは一体何をしようとしているのだろう?それがどうしても気になって、悶々とした感情が頭の中を支配した。
「くっ……ええい……」
頭を掻いて、ベッドの上に胡坐を掻く姿を見て、何だこれはと思ってしまうくらいの状態異常。そんな俺の姿を見たサンマは何ともいえないような顔をして、こちらを見ているだけだった。
「いったいあのひと、なにをしようとしているのかな?」
「んあ?何かつくろうとするために、パペットの店壊そうとしてるだけだろ?はた迷惑もいいところだ……」
そうだね、といってサンマは何かを考える仕草をし始める。右の爪でこめかみを掻いて、いい案でも思い浮かぶのか、ただただ俯いていた。
「考えても始まらんと思うぞ……どっちかというとああいうタイプは実力行使のほうがいいと思うぜ?
「実力行使じゃあ……駄目だよ多分……それだと理性のないポケモンって思われるじゃないか……確かに一番手っ取り早いかもしれないけどさ、それだと負けだと思わない?」
負け、というか口調が変わったということは、何かを思い当たるに至ったのだろうか?それでも、頭が大して回らない俺にとっては、実力行使以外にも何か方法があるとは思えないのが悲しいところではあった。
「バッカスの云う通りかもしれないけど、実力行使なんてしたら、パペットに迷惑がかかるじゃないか……」
「確かにそうだけど、それ以外にいい方法ってあったっけ?」
これ以上無いというくらいの飛び切りの解決策は、まだない。だからこそどうしようかと思っているのが現状だ。
ミサンガは最終警告と言った。まぁ、今までも再三警告はしてきたやつだが、最終警告なんてかっこつけてきたのは今回が初めてだった。
相手もこれ以上は待ってられないというのだろうか?どうしてそこまでしてこの渓谷にこだわるのだろうか?
「もしかしたら、まだ鉱石が残っているって思ってるのか?」
ふと、そんなことを口にしたら、サンマがぎょっとしたような顔をした。まるで思っても見なかったような言葉を聞いたような顔をして、いきなり俺の肩を掴んだ。
「それ、どんな考え?ちょっとだけでいいから聞かせて!?」
「おわっ!?いたた、いやだから、このあたりの土地って結構利用できる鉱石がいっぱい残ってたじゃないか……まだ鉱石が残っているところがあるとすれば……」
「パペットの店の、後ろ側!!」
「そう、そこ……もしかしたらだと思ってさ、この間金属探知機使って、危ないもの撤去してたときにパペットの家がやたら反応しただろ?あれって金具とか貴金属みたいなのがあったからかなぁっておもってたけど、何か違うような気がしたんだよ……」
と、そこまでいっておいて、いったん言葉を切ると、首をゆっくり左右に振る。どこまでが正しくて、どこまでが間違いだなんて、俺には分からないし、サンマにも分かるわけがない。
しかしサンマは信じてくれているのか、目を瞬かせていた。言葉の意味を慎重に探るというか、やはり考えることが必要というか……何ともいえない顔になっているということだけは確かだった。
「そのお話が本当だとしたら……もしかして新しいお店を作るって言うのは、嘘?」
「多分そうじゃないかなぁって思ってるだけだ。ただの虚言かもしれないし、もしかしたら相手は知らないかもしれない、それよりも、ほんとにパペットの店の後ろの下に、鉱石が眠ってるなんて誰も信じないし、そんなものいらないと思うから、これはあくまで仮定の話……違ったら行き過ぎた妄想だな」
「でも、十分有力な説ではあると思うけど……私達が子供のころ、ここって非金属反応の金属とか、変なものが出てたときがあったし、もしかしたら、もしかするって言うこともあるんじゃないかな?」
もしかしたらもしかすると言う考えも今は持たないほうが言いと俺は思う。もしもの時のためにとっておいたほうがいいからだ。だが、相手もそれを知っていたら、もしかしたらは、やっぱりになるかもしれない……
あんまり考えないほうがいいと思うけど、どうしてもそういう風に考えてしまうのは使用なんだろうか……
「一応頭の片隅には入れておいたほうがいいと思うけどなぁ…………こういう話」
「まぁ、そのあたりは明日あたりタイショー達に相談したほうがいいと思うけどな……どう転ぶかなんて分からないし、どう転んだとして、パペットの店を壊されないようにするのが最優先事項だから……」
そうだね、などといってサンマは笑った。これ以上何かが壊されたり、この渓谷がいろいろ変わっていく姿を見るのは嫌だった。
ここは竜の渓谷、これ以上変な奴らに荒らされたくない……
俺ひとりがそう思ったところで何も変わりはしないが、仲間がいるということほど、頼もしいことはないと思う。これ異常ないというくらいに、心強い味方になってくれるだろう……
「ふぅ、いろいろ考えてたら疲れた……わりぃ、もう寝るわ……お休み」
「あれ、そうなんだ……うん。じゃあわたしもねる」
「じゃあって何だじゃあって…………まぁいいか」
よくある光景だと割り切って、俺はゆっくりと瞳を閉じた……
頭の中でよくない光景が目に映る……もしかしたら、もしかするかもしれないという恐怖が、考えるのをやめよう。
考えてもいい方向には進まないのだから…………


☆☆☆


調査の結果、やはりあそこには大量の非金属反応の金属があるということが分かりました。
そうですか、下がっていいでしょう。
分かりました。では……
くっく……もうすぐですね、もうすぐ……もうすぐ私の手の中に金の卵が手に入ります……
まさかあんなところにあるとは以外でしたが……ですがそんなことはどうでもいいのです。
私がこれを見つけた。これは私のもの…………
あそこで頑張ってる人形やなんて、どうでもいいのです。あそこの下にあるものが、私は欲しい。
そのためならどんなことでもしてみせましょう……私のために……私のためだけに!!!
全てが!!動き!!味方する!!!
くっく…………あはははっ!!!
あははははははははははははははははははは!!!!
………………
…………
……


パペット・パペット2へ続く



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Last-modified: 2011-03-29 (火) 00:00:00 
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