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トコヤミ 序章“時を越えた男” 中編

/トコヤミ 序章“時を越えた男” 中編

このお話は『トコヤミ 序章“時を越えた男”』の中編となります。
まだ前編を読み終えていない方は、先にこちらをお読み下さい。




トコヤミ
序章 “時を越えた男” 中編








「お隣、座ってもよろしいですか?」
 バタフリーは再び私に訪ねてきた。そうだ、返事をしないと。
「ええ、どうぞ」
「ありがとう」
 そう言うと、バタフリーは私の隣の椅子にちょこんと腰を下ろした。

 ……彼女の目を見た時、私の意識はすっかりその中へと吸い込まれてしまった。
 淡い銀色のその瞳は、とても綺麗で、どこか優しさに溢れていて、だけどとても切な気で。
 何だか良く分からない。分からないけど、ただ、私の胸はひたすら苦しかった。

「化石、お好きなんですね」
 悶々としていると、隣に座ったバタフリーが私に話しかけてきた。
 そういえばさっきも同じことを言っていたけど、何で知っているのだろう?
 私の表情から察したのだろうか、バタフリーは笑いながら答えた。
「独り言、喋ってましたよ」
 ボッ! 私の顔は一瞬にして真っ赤に染まった。
 しまった、自分の昔からの癖をすっかり失念していた。
 何かに夢中になると、考えていることがつい口に出てしまうのだ。

「私の旧い友人も化石が好きだったんです」
 続けてバタフリーは話す。
「彼女は毎日のように、近所の博物館へと通っていました。私もたまに付き合わされたんですけどね。
 彼女は決まって、ある古代人の化石の前に座り込むのです。
 そして、自分の夢や周囲の境遇、時には私のことまでひたすら語って過ごすのです。
 周りの人はみんな白い目で彼女を見ましたが、彼女は幸せそうでした。
 しばらくして、彼女は旅に出てしまったんですけど」
 最初は特に気にすることもなく聞いていたが、話が進む内に、何だか恐ろしくなってきた。“彼女”と私、まるでそっくりではないか。
 私はどうしても気になり、思わず聞いてしまった。

「……彼女は今、どうしているんですか?」
 するとバタフリーは、寂しそうにこう返すのだった。
「旅先で亡くなったと聞いています。ずっと昔の話ですけどね」
 ……答えは何となく予想していたのだけど、まさにその通りだった。
 自分のことではないけど、やはりいい気分ではない。

「すみません、こんな話をするべきではありませんでしたね。
 あなたを見ていると、どうも彼女のことを思い出してしまって、つい。失礼しました」
 こちらの気分を害したのを察してか、バタフリーは私に謝ってきた。
 いや、このバタフリーに罪はないだろう。彼女は私のことなど知らないのだ。
 私は首を横に振っておいた。

「ところで今回の“遺産”について、あなたは何かご存じですか?」
 話題を変えようとしてか、バタフリーが訪ねてきた。
 そういえば、“遺産”についての情報は殆ど出回っていないように思える。
 私が知っていることと言えば、同時に大量の化石が発掘されたことくらいだった。
「詳しいことはあまり……あなた……えっと、お名前、聞いてませんでしたね」
 バタフリーは微笑みながら答えてくれた。
「プキといいます。ファミリーネームはありませんが、覚えやすくていい名前でしょう」
 また、胸がズキンと痛んだ。一体何だというのだろうか。
「私もそれほど知っているわけではないのですが……古代の歴史を知る上で、非常に重要な物だと聞きました。
 今までの“遺産”とは訳の違う代物だとか」
 どうやら今回の発見はすごいものらしい。
 情報が曖昧すぎて、まだそれがどんな物かは分からないが、大学をサボってまで来た価値はありそうである。








「おや、あと5分ほどで開演ですね」
 確かに、会場の壁にかけられた時計を見ると、指針は9時55分を指していた。
 −−その時だった。

 ゴゴオォォォォン!

 会場内にけたたましい爆音が鳴り響く。
 何が起きたか分からぬまま、会場がざわめいていると、今度は会場の照明が全て落ちた。
 窓のない閉め切られた空間は、一瞬にして暗黒に支配される。
 そして次の瞬間、決定的な一声が会場をこだました。

「賊が入ったぞーー! ブツを盗られた!」

 どよめく会場。
 私は、突然のことに一体何が起きたのか、頭の中で整理するのに手一杯だった。
 ゾク? トられた? ブツを?
 ブツ……ぶつ……物……
 そして合点がいく。盗まれたのだ。“訳の違う代物”を。

「……っっざけんならァァァァァッ!!」
 私は即座に立ち上がり、会場の出口へと駆け抜ける。
 あっ、ちょっと、と後ろで声がしたが、私は構わなかった。
 警備員はどうした。世紀の大発見かもしれないのに……みすみす盗まれてどうする!
 抑え切れない怒りを体中に滾らせながらも、会場を抜け薄暗い廊下へ出た。
 大勢の警備員が、賊はどこだ、まだ近くにいるはずだ、と大騒ぎしながら右往左往している。
 ここの警備員は役立たずと決めつけた私は、少し落ち着いて考えてみることにした。

 相手はなかなかのやり手だ。
 これだけの警備員の目をかいくぐり、警備が最も厳重だったと思われる“遺産”を見事盗み出した。
 去り際に照明を切ったということは、持ち出して逃げる際に見つかることを想定していたのだろう、複数犯の可能性が高い。
 とにかく相当な前準備と計画性をもって望んだことは確かだった。
 そして、おそらくここまでの事態は犯人の思惑通りである。

 照明を切る……しかし、私はここに引っ掛かっていた。
 暗くしたところで今は日中、廊下なら多少光が入ってしまうし、ホールを出ても確実に逃げ遂せられるとは思えない。
 もしそれが、会場の混乱を狙ったものだとしたら……
「まだ近くに潜伏している……?」
 ホールの間取りについて全く知識を持ち合わせていないのが辛い所だが、まだホールのどこかにいると考えるのが妥当だろう。
 私が犯人だとしたら……当然、犯人はできる限り人の来ない場所へと隠れたいはずだ。

 とにかく、今は足を動かすしかない。何としても“遺産”を取り返さなくては!
 私は人気の無い方、比較的静かな左の廊下へと走っていった。








 行き着いたのは、どうやら会場の舞台裏のようだった。
 今は私以外に誰もいないが、先ほどまで開演直前の準備をしていたのだろう、テーブルの上には散乱したメモ用紙や、発掘された化石のサンプルと思われるものが数点、無造作に置かれている。
 そして、入って右手奥の壁にはひときわ大きな穴が開いていた。
 先ほどの爆音の発信源はここだろう。この部屋に“遺産”が置かれていたのだ。
 その穴の向こうは先ほどと同じような廊下へと繋がっていた。
 どうやら、基本的に会場とその舞台裏を囲むようにしてロの字型に廊下が作られているようだった。
 位置的に考えると、裏口があるのならそこから逃走した可能性が考えられる。
 しかし、それだったらわざわざ照明を落として会場を混乱させる必要性も薄いだろう。
 恐らく、このホールに裏口はないか、あるいは何らかの都合で犯人は正面から“遺産”を運び出す必要があるのだ。

 ここではそれ以上の手掛かりは見つけられそうになかった。
 ここに来るまでの廊下の脇に、細い通路がいくつかあったのが気になる。
 そこを当たってみよう……と振り返り、舞台裏を出た、その時。

 何かがいた。
 脇の通路から、それは辺りを伺うように廊下を見回し。
 そして、私と目が合う。
 沈黙。

 それは一瞬固まり、やがてわなわなと震えだしたかと思うと、消え入りそうな声でこう呟くのだった。
「ご、ごめんなさい……」
 貴様が。
 私が後ろ足を踏み込むのと、それが私に背を向けたのはほぼ同時だった。

 −−マーシェルの だいもんじ!




 知らなかったのだ。とっさの判断だったのである。
 あまりにも怪しすぎる身なりだったから。
 ごめんなさい、とか言い出すから。
 かと思えば、逃げ出そうとしたから。

「ラック、悪りーな、便所待たせて。……って」
 同じ通路から続いて出てきたのは、ライボルトの男だった。ん? 便所?
「うおぉっ! 何燃えてんだお前! いくらお前、そこまで体はって情熱を表現しなくとも……」
「あつっ、アツっ、み、水、水っー!」
「水か! よし、ちょっと待ってろ! 今便所から汲んでくるから……」
「い、嫌ー! 熱っ、ふ、普通の水ーっ!」
「分ーったよ、しょうがねぇなぁ。あとチーゴの実もいるだろ」

 ひとしきり話すと、彼は一瞬私に目を向けたが、すぐにものすごい速さでホールの入り口へと駆けていった。
 思わぬ2人目の登場にすっかり惚けていた私は、そこでようやく我に帰る。
 急いで火だるまになっているそれの元に走り寄ると、それが背に担いでいた怪しい袋を取り上げた……いや、取り上げようとした、のだが。
「い、痛い、痛い! し、シッポ引っ張んないでー!」
 火だるまが叫ぶ。……尻尾?
 もう訳が分からない。犯人は誰なのか? 私は今何をしているのか? ここはどこなのか?

 その時、確かに言えたことといえば、袋の口からポッキー数箱にペロペロキャンディー、ポテトチップス徳用サイズが見えたこと。
 ホールの入り口の方から、火事だー、水タイプの方はご助力願いますー、というあのライボルトの声が聞こえてきたこと。
 そしてもう一つ挙げるとするならば、私がデリバードという種族について全くの無知だったということだろう。








 その後のことついては、もう思い出したくもなかった。
 全てにおいて、身から出たサビとしか言い様がないからだ。
 私は、バカである。いくら学業の成績は良くても、もっと根源的な部分においてバカなのである。
 もう、詳しく話す気力もおきない。よって、かいつまんでの説明を許して欲しい。

 あれから、騒動はますます拡大した。当然である。強盗に放火、傷害事件までもが重なったのだ。
 そして結局、真犯人は捕まらず終い。私の起こした騒動に便乗して逃げたとの話もある。

 ラックと呼ばれたデリバードは病院に運ばれ、全身大やけど、全治1ヶ月の入院との診断を受けたそうだ。
 彼は氷タイプで、炎にはめっぽう弱いのだとか。
 ラックとライボルトの彼、ヒイラギという名前らしい、彼らはあるギルドの日雇い警備員だったらしいが、騒ぎが起きたあの時、丁度トイレに入っていて気付かなかったらしい。
 あの爆音に照明まで落ちれば気付かない方がおかしいと思うのだが……まぁ私もどうこう言える立場ではないので言及は控えよう。
 ラックが私の姿を見て謝ったのも非常に謎だったのだが、どうも私の顔がとても恐ろしくて思わず謝ってしまったらしい。
 そんなに酷い顔してたかな……。

 そして、私はどうなったかというと。
 まず警察署へ連行され、取り調べを受けた。
 ラヴェスタ大学の生徒だと話しただけでたいそう驚かれたけど、本名のマーシェル=プリビスティオを名乗ったらさらに驚かれた。
 私は死ぬべきなのではないかと本気で思った。
 幸い、ラックが命を落とすこともなく、彼の紛らわしい行動についても認められたため、きちんと反省の意を表わした私はしばらく様子見ということになった。
 そして夕方になり、疲れ果てながらも学寮の自室へと戻ると、郵便受けに詰め込まれていたのは大学からの分厚い封筒。手の早いことである。
 主旨を要約すると、1ヶ月間の謹慎処分、そして原稿用紙30枚分の反省文を提出するように、とのことだった。

 シャワーを浴び終えた私はどうしようか考えたが、今日の所はもう寝ることにした。
 とにかく今は眠たくてしょうががない。本当に今日は色んなことがあって、心も体もすっかりくたびれてしまった。
 −−それに明日、私は行かなければならない場所がある。




 目をあけると、俺はまた暗闇の中にいるのだった。

 しかし、今度はすぐに気付く。
 単に辺りが薄暗いだけだ。木目の入った天井がかろうじて見える。
 どうやら俺は、ベッドに仰向けに寝かされているらしい。
 部屋を見渡すと、そこは木造の簡易的な小屋のようだった。
 窓がベッドの脇に1つあるが、分厚いカーテンで閉ざされており外の光は入らない。
 耳を澄ますと、微かに波音が聞こえる。海が近いのだろうか。

 慣れない体を何とか起こそうとすると、窓と反対側の脇にあるテーブルと椅子に、誰かが座っているのが見えた。
 相手も、こちらが目を覚ましたことに気付いたようである。
「おはよう、やっと起きてくれたね。……まだ無理して動かなくてもいいよ」
 部屋は相変わらず薄暗くて、その姿はよく分からなかった。しかし。
「体の調子はどう? どこか悪い所はない?」
 声の主は語りかける。少し体にけだるさは残っていたが、特におかしな所はなかった。

「……ここは?」
 最初に気になったことを聞いてみた。声を出すのも随分と久しぶりで、最初の“こ”はひどい掠れ声になってしまった。
「ここはね……ごめん、その前に聞かないといけないんだけど、君はどこまで覚えているの?」
 そう聞き返される。どこまで、と言われても、何と答えればよいのかピンとこない。
「君が命を落とした、その時のことを教えてくれないかな」
 そう付け加えてくれた。死ぬ真際の記憶、か。
 俺は、脳裏に残された記憶を少しずつ掘り返していった。
「……最期は海だったな。確か、海の獲物がずいぶんと少なくなったんだ。
 仲間はみんな進化して陸へと上がっていったのに、俺だけが進化し損ねて……ん?」
 そこで、俺は自分の体を改めて見回してみる。
 先ほどまで全く違和感が無かったのに、今になって突然、体の変化に驚いた。
「な、何で進化してるんだ!? 俺は確かに、あの時……」

「そっか」
 俺の言葉は、その一言に遮られた。何が何だか分からない。
「……ここはね、ラヴェスタっていう港町のずーっと北。誰も人が来ない所」
 たまらなく寂しそうな声で、そんな答えが返ってきた。
「君は、しばらくここにいるといい。
 そこの本棚にあるもの、全部読んでみてよ……この世界について、大体分かると思うから。
 食料も、5日分はそこの戸棚にしまってある。
 頃合を見て、さっき言ったラヴェスタに行くんだ。海岸沿いに南下すれば半日で着くと思う。そしたら……」
 そこで声が一瞬止む。テーブルから紙切れをカサッと取り上げる音が聞こえた。
「ここに書いてある場所に、マーシェル=プリビスティオっていうキュウコンの女の子がいるはず。
 一緒にいてあげて。……それと」
 そこに一呼吸あった。
「君の名前は、テバス。カブトプスのテバス。必ず覚えておいて」

 俺は終始無言で聞いていた。
 世界、ラヴェスタ、キュウコンの女の子……与えられた情報は、死ぬ前の生活とはあまりにもかけ離れていて、うまく整理がつかない。
 やがて椅子から立ち上がる音が聞こえた。
 小屋の入り口へと歩いているらしい、少しずつ足音が遠ざかる。
「ごめんね……君の目も覚めたし、私はそろそろ行かなければならないの。
 あとは君の手で、頑張って」
 カチャ、とドアノブに手をかける音がした。

「ち、ちょっと待ってくれ」
 このまま行かせてしまってはいけない気がする。まだ知りたいこともあるし、それに……
 相手はまだ出て行かない。こちらの言葉を待ってくれていた。

「俺は何か……大切なことを忘れてしまっている。それだけでも、何となくだが分かった……と思う。
 だからその……す、すまん」
 なにか、とても悪いことをしてしまったような気がしたのだ。どうしても謝りたかった。
 それにしても、我ながら口下手である。自分の頭をどつきたい気分だった。
 そんな俺に、暗闇からふふ、と笑い声が返る。
「テバスは優しいんだね。いいんだよ、ゆっくり思い出せば」
 そして言葉は続けられた。
「君をこの世界に目覚めさせたのは、私。それが私の“約束”だったから。
 ……今度は“君たち”の番」
 ドアが大きく開け放たれる。
 瞬間、外から大量の光が射し込み、その姿は逆光に包まれた。
 俺は思わず目を窄める。
「“約束の時”は近いからね。……ちゃんと彼女を守ってあげなよ」
 しばらくして視界が戻った時、そこにはただ開け放たれたドアがなびいているだけだった。

 しかし。先ほどまでの真っ暗な小屋の中でも、それはすぐに分かった。
 闇の中でも光り輝く、銀色の瞳を持つ人物を、俺は初めて見た。




「この辺りの筈なんだけど……」
 翌日、私は1枚の地図を前足に括りつけ、ラヴェスタの外れへと来ていた。
 48番街道に出て、1つ目の大きな坂を登ったら……
「……あの道かな?」
 それは道、というよりは獣道と言った方が近い気がする。
 街道を逸れて、周辺の雑木林へと入り込む1本の荒れた道が見えた。

「ラック君にはご両親がいないんだよ」
 昨日、警察署での取り調べでそう聞いた時、最初は何を言っているのかよく分からなかった。
「今は、ギルドが彼の親代わりであり、家となっている。一度、謝りに行っておきなさい」
 そう言って、インクペンで道のりが書き込まれた1枚の地図を渡されたのだ。

 林を抜けると、切り立った崖のふちに佇む一件の大きな建物が見えた。
 途中、色とりどりの野菜畑を通った気もするが、今はあまり気にしないことにする。
 崖の上からはラヴェスタを一望できるようだった。海には、大小様々な交易船が浮かんでいるのが見える。
 さらに崖を見下ろすと、先ほど私が通ってきた坂道を歩く人々の姿も見えた。

 トン、トン。
「ご、ごめん下さい」
 おそるおそる入り口の扉を叩き、声をかける。返事は無い。

 私は、どうやって話を切り出そうかと頭の中で考えながら、扉を開いた。
 この建物はログハウスのようで、特有の心地よい木の香りがそこら中からする。
 玄関も広々としており、それは不思議と居心地が良くて、緊張も少し和らいだ。

「……お姉ちゃん、誰?」
 しかしそれもつかの間、突然声をかけられ、一瞬にして緊張が舞い戻る。
 見てみると、玄関を入って右側に小さなテーブルと座布団が1枚敷かれており、その上でノコッチの女の子が丸まり寝転がっていた。
「……お仕事の話?」
 そう聞かれる。
 勿論仕事とは関係ないのだが、では何と話せば良いのか、動揺した私の頭はなかなか言葉を紡ぎ出してくれない。
 先ほどまで考えていた切り出し文句も、既に記憶の海に泡と消えてしまっていた。
「ラ、ラック君のことで……」
 全部、正直に話せばいい。自分にそう言い聞かせる。
 この子もきっとギルドの人だ、話せば分かるはず、と口を開いた、その矢先。

「ハイハイ、ドウモ遅レテスミマセーン! ゴ用件ヲオ伺イシマショッカー!」
 玄関奥の右手にある部屋から、突然何かが飛び出す。
「全ク……スペッカチャン、ココニ居ルンダッタラオ客サンノ相手シテッテ、イツモ言ッテルジャン!」
 随分と珍しい種族だったが、私はそれを知っていた。今話しているのは、確かポリゴンZという種族である。
「き、聞いたよぉ……ラック君のことだって……」
 スペッカと呼ばれたノコッチの少女がそう答える。
 すると、そのポリゴンZはこちらに振り向いた。そして俄に叫ぶ。
「ウオー! モシカシテマーシェル=プリビスティオ!? ヤッター、私ガ行ク手間省ケタジャンコレ!」
 一人でそう捲し立てると、さっき来た部屋へとすごい勢いで戻っていった。

「オイ、オメーラ! マーシェル=プリビスティオガヤッテ来タゾー!」
「うるっせーぞ、サンディ! キーキーがなり立てるな!」
「もう連れてきたのか?」
「イヤイヤ、ナント自分カラ! イヤー、コレデ私ノ今日ノ仕事、オシマイダネ!」
「そうか、自分から来てくれたのか。それは気の毒なことをしたのう……ヒイラギ、オズを起こしてきてくれんか」
「ああ、分かった。ったく、こういう時は世話が焼けるんだよな、マスター」

 私はただただ、そこに立ちつくすしかなかった。
「……客間にお通しします」
 受付のノコッチが、大きく伸びをしながらそう呟いた。








「言いたいことはそれだけか?」
 そう告げられる。その目はこちらを鋭く睨みつけており、正直とても怖い。
 一通り、私が起こした事件の経緯について話した。
 そして、ラックに攻撃してしまったことについても、きちんと謝ったつもりだった。
 なのに、ようやく開いた相手の口から発せられた第一声がこれである。

「オズ! 少しは態度を慎まんか! 相手はまだ若い女子じゃぞ!」
 すぐ隣に居るドダイトスが、オズと呼ばれたヨルノズクをそう嗜める。
「すまんのぉ、嬢ちゃん。寝起きはいつもこんな調子なんじゃ」

 客間には、ギルド員と思しき面々が一同に集まっていた。
 テーブルを挟んで私の正面にいるのがギルドマスターだというヨルノズク、そのすぐ隣にドダイトスが身をかがめて座っている。
 右手にある客間の入り口のすぐ脇には、マグカップを握ったスリーパーが壁にもたれかかっており、静かに話を聞いていた。
 そして、左側には先ほどのポリゴンZと、この前会ったライボルトのヒイラギが並んで座っている。
 受付にいたノコッチはというと、ドダイトスの背の上でのんびりと寝そべっていた。

「もう、いいでしょう」
 ここまで沈黙を守っていたスリーパーが、ヨルノズクにそう話し掛ける。
「自らここに謝りに来てくれたのですから。
 ラックの件だって、昨日の時点で、貴方はもう彼女を許していたはずです」
「ソーソー。マ、条件付キダケドネー」
 退屈そうにそっぽを向いていたポリゴンZが、ここぞとばかりに喋る。

「条件?」
 少し不安になり、思わず聞き返した。
 とんでもない条件を突き出されたら……私は一体どうすればよいのだろう。
「そこからは、俺が話そう」
 すると、今度はヒイラギが話し始めた。
「うちのギルドは、ご覧の通り少数精鋭。昨日までは、ラックを含めて7人の構成だったんだ。
 それが、1人でも欠けたらどうなる? そりゃあ当然、すぐに経営は回らなくなるよな。
 ……言いたいこと、分かるか?」
 ああ、なるほど。うすうす勘付いた。

「お前が大学から1ヶ月間の謹慎処分を受けたことは、こちらも確認している。
 つまりだ、ラックを焼き鳥にした罪、償いたくば……」
「1ヶ月、タダ働キシロッテェコト!」


後編に続く




あとがき

 こんにちは、のらいもです。
 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

 前回、“後編に続く”と堂々と書いておいてアレなんですが、前編の区切りがあまりにも酷くて誤解を招きそうだったので、
急遽中編と称して続きを投稿させていただきました。
 特に、物語本編のメインキャラクターを誤解させるのはまずいかなぁと思いまして、
今回はメインキャラクターが全員出揃う所でのブツ切りとなっております(いいのか……?)。
 ちなみに、主人公は化石ポケモンの彼です。そしてマーシェルがヒロインとなります。

 中編は、前回に比べてそこそこ勢いに乗れた文が書けたかな、と思います。
 キャラクターのセリフを考えるのが楽しいですね。前編にはこれが足りなかった……!

 よろしければ、ご意見ご感想お聞かせ下さい。

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Last-modified: 2010-03-10 (水) 00:00:00
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