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テオナナカトル(12):喧嘩祭り・上

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喧嘩祭り 


『さて、リムファクシが帰ってきてから5日か。勉強の成果を忘れていないかと心配になったが、リムファクシはきちんと覚えているようで安心した。
 リムファクシは子供なだけあってか見る見るうちに言語を吸収していくし……今までは短い読み物ばっかりだったけれどそろそろ結構長い物語を読ませても良い頃合いだろうか。
 しかし、なんだ……ローラも海の民の言語が分かるんだし、こんなに可愛いリムファクシなんだからもっと勉強教えたりとか付き合えばいいのに、もったいない。そんなんじゃ本番の子育ての時にあたふたしちまうぞ』

テオナナカトルの構成員、ロイの手記より。神権歴3年、1月14日
***
「『そうして、三人の戦士は街の英雄となりました……』と」
 リムファクシは陸の民の言葉をまるで知らない。そのためにユミルから譲り受けたスモーククォーツ。言語を超えて会話が出来るアグノムの力が込められた神器を使用している。しかしながら、文字も読めず神器越しでないと会話が出来ないと言うのは言うまでもなく不便である。
 ロイとローラは平然と、歌姫は片言ながら海の民の言語を話せるので、教育役は必然的にこの三人に任せることとなったのだ。しかしながら、いつも一緒にいるのはロイ。3人の教育役という役割もあってないようなもので、ロイがたった一人でリムファクシとの勉強会を行っているのであった。
 ロイは、長男であり面倒見も良い。貴族であるおかげで4人兄弟の全員に個別の教育係がいるとはいえ兄弟同士の触れ合いの中での勉強は少なからず行ってきたしリーバーに対して文字の読み書きを教えたのもロイだ。そのおかげかリムファクシに対して勉強を教えることも対して苦も無く行っていて、むしろ楽しそうだ。
 経験が多いせいか教えるのも上手いので、今では誰かがリムファクシの教育を買って出ることも無くなってしまった。

 ロイは、まず言葉や文字を覚えるための媒体として、童話を選んだ。童話は子供に読んで聞かせるのに最適だし、文法も内容も非常に簡単である。
 言葉を訳すの言葉選びには苦労するものの、勉強であるか否かを関係無しに物語自体を楽しんでくれるリムファクシもとても可愛らしく、勉強を教えていて苦にならない。
 教師に優しい教え子なのでる、リムファクシは。
「おー……今のお話おもしれーなー」
「だろう? 俺も小さい頃は何度も教育役にこのお話を何度もせがんだんだ。いやぁ、物を持って戦うポケモンってのが羨ましくってねぇ」
 昔を懐かしむようにロイは言う。ロイの読んでいるお話は、カモネギとガラガラとフタチマル、つまるところ常に武器を携帯するポケモン達が織り成す物語である。紆余曲折を経て出会った頼りない三人が、努力と知恵で街を救い英雄となるお話である。話の構成は単純明快な勧善懲悪で、悪役を倒してスカッとする話が子供に受け入れやすい。
 また、武器を持っているという事を上手く活かしたそれぞれの知恵を凝らした作戦は、子供に分かりやすいというのに説得力もリアリティもある使い方であり、そう言った子供騙しではない構成力がある。さらに、主人公達の勇猛果敢な戦いとその戦いに掛ける信念は手に汗握るもので、ロイにとっては大人になった今でも名作と言い切れる作品である。
「……武器かぁ。俺も使ってみてーな」
 そして、そのお話を見た感想がこれだ。何やら不穏なリムファクシの言動に、ロイは苦笑する。
「無理だ無理だ。カモネギの翼なんかは物を掴めるように特異な形状をしているけれど、ルギアは物を掴むのに適した構造はしていないからな。ボールみたいな物を持ったりするのには事欠かないだろうけれど、お前が剣なんて振るおうものならすっぽ抜けてどこに飛ぶかわかったもんじゃないさ」

「むー……」
 笑って対応するロイの言動に、リムファクシはふくれっ面。
「なんだってんだよー俺が格好いい格好したらいけねぇってのかこのヤロ―?」
「そ、そうは言っていないって。でも、無理じゃないかな? ナナみたいに器用じゃないだろお前? 大丈夫、お前には翼があるじゃないか……ナナがどう頑張っても真似できない空を飛ぶことだってお前は自由に出来るんだぞ? 適材適所って言葉もあるだろ?」
「う~ん……でもやっぱり俺、武器を振るってみたいなぁ」
 駄々をこねないだけまだマシなのだが、リムファクシの子供らしいわがままが始まってしまったなとロイは苦笑する。
「サイコキネシスで包丁を投げたりするのはダメなのか? ナナは投げ付けるって悪タイプの技でタイプ一致だけれど、お前も念力でタイプ一致に出来るし結構痛いと思うぞ」
「いや、そういうんじゃなくってなー……こう、自らの肉体を頼りに武器を振るうってのがロマンじゃねーか。この構えた時の挿絵もすげー様になっているしさ」
 と、指し示したリムファクシの指先。傷だらけになりながらも街を守るフタチマルの雄姿は確かに雄々しい物がある。しかし、ロイはこれでも自分が街を守った英雄であるし、リムファクシ自身すでに英雄なのではないかと、心の中で突っ込みを入れる。
(そう言えば俺……傷ついても相手を倒すなんてことした事がなかったなー……ティオルの事も案外余裕で倒してしまったし……何気に強いんだよな、俺……)
 などと、自己犠牲精神を格好良く感じるリムファクシに対して自分があまり格好良く思われていない原因を考察したが、だからと言ってわざわざ傷ついてまで格好良く見せようという発想はロイにはない。何故って、ロイは痛い事が嫌いだからである。
(全く仕方ないな……言って聞かせるよりも分からせた方が早いよな……)
「仕方ないな……」
 思わせぶりにロイは切りだす。
「給料まだ大して使ってないだろリムファクシ? 金物屋に行って、包丁でも剣でも槍でも振るってみろ。俺は軍にいた頃から武器を扱うポケモンなら何度も見て来たから、武器は扱えないけれど見立ててやるくらいなら出来る。俺も一緒に行ってやるから」
「おー、そうこなくっちゃ。ロイ太っ腹ぁ」
 リムファクシはその巨大な翼でロイの背中をバンバンと叩く。その衝撃に目を白黒させながら、ロイは微笑ましさと鬱陶しさを綯い交ぜにした溜め息をついた。


「シャンデラデラデラデーラデラー……どうもー、シャンデラ印の高火力金物鍛冶屋へよーこそ―」
 いきなりの個性的な歓迎を受けて、ロイは苦笑する。
「おっとっとー……これは街の英雄のロイさんに海の神様リムファクシさん……ウチの義弟がお世話になっておりますー。酒場を止めてしまったのは残念ですが本日はどうされました? ルギアが成長する前に、彼の胃袋に合わせた大鍋の調達でしょうかぁ? マンムー用のいいのがありますのですよー」
 妙な抑揚のあるシャンデラは、ユミルの姉(メタモンだが、男性と結婚しているので便宜上)の夫である。酒場をやっていた頃は、ナナの紹介で包丁修理の行きつけとなっていた店であり、非常に腕のいい職人であった。頭頂部から炎を噴き出す本体から伸びる腕は、指が二本しかない割には非常に器用である。その器用さに加えて、彼はいかなる炎にも肉体に損傷を負わない体を持っており、それゆえに熱く焼けた金属を手づかみ出来るのがいい物を作る秘訣なのだとか。
 酒場を畳んでからはめっきり会う機会が減ったとはいえ、顔を覚えてもらっている店に行く時の妙な嬉しさが心地よい。酒場の常連さんにもこう言った高揚感があるのだろうとロイは思っている。
「いや、違うんだよシャインさん。こいつ、さっき読み聞かせた『落ちこぼれの意地』っていう童話に影響されて……何やら武器を持って振るってみたいとかいうもんでな」
「おやおやおや、子供に刃物を持たせては危ないのですがーねぇ。その童話なら知っておりますよ、えぇ知っていますとも。特に薪割りと火焚きを行う奴隷出身で立身出世したフタチマルの格好良さに、幼いころ痺れたのを覚えておりまするー。本など買えなかったので、口頭で語られるのみでしたので、本を用意してもらえるとはまた羨ましい限りでございまする」
「まあ……ね。酒場の常連さんの絵画職人のドーブルがわざわざ挿絵まで描いてくれたものだよ。警備隊の看板とかを描く時にも協力してくれてね」
「ほほう、有名人とは役得が多いですねぇ。さてぇ」
 常におどけたような動きのシャインと呼ばれたシャンデラは、くねくねとした動きをしながらリムファクシを見る。
「なるほどぉ、ルギアのための武器でございますかぁ……これは史上初のお仕事になるやもしれませんねぇ、興奮いたします」
「おーい、このお店って俺に使えそうな武器ってあるのかー?」
「ある事にはありますがねー。お客さんの場合、飛行タイプですから飛ぶことに邪魔になるような重い武器やかさばる武器は適しませんし、何より念力や飛行技と言ったアイデンティティもあるわけですし、必要ないとは思うのですがねー。今のままでも貴方は十分に強くなりそうだ」
「はは、言われちまったな。武器ってのは使えるポケモンが持って初めて武器になるんだ。お前じゃ武器に振り回されちまうぞ?」
「むー……」
 二人掛かりでリムファクシの事を笑うと、リムファクシは見る見るうちに不機嫌な顔になる。
「それに、ルギアとは非常に珍しい種族。貴方用の武器を作るとオーダーメイドになってしまいますから必然的に高くなりますし、それに貴方は、まだ成長の途中だ。体に着用して体辺りなどの威力を底上げする武器を作ってあげても、すぐにサイズが合わなくなる光景が目に見えるよーだ」
「う……それは確かに」
「ですが、サイコキネシスを利用した刃物や鈍器の武器もたくさん取り揃えておりまするよー。投擲楊のナイフも、棘鉄球も、千本*1風の火箸も、チャクラムも取り揃えていますからねー。
 武器など選り取りみどりの、ウッハウハでございますですよー、はい。当店無駄すぎるほどの品揃えが自慢でございましてねー」
 挙動不審な動きをしながら、シャインが勧めるが、リムファクシの表情は難色を示している。
「う~ん……ロイにも言われたけれど、やっぱり男のロマンってのがなぁ……」
 また、子供らしいと言うよりは餓鬼っぽいことを言ってリムファクシはため息をついた。
「そういう武器が気に入らないなら、やっぱりリムファクシは普通に戦った方が強いってば。分かったら、エアロブラストの練習でもしようぜ? あの技は十分格好良いからさ」
「あれ、やり過ぎると胸とか頭が痛くなるんだよなー……あー……結局無駄足かよー」
「ん……? エアロブラストですとな? 聞いた事の無い技ですが、どのような技なんで? エアロというからには空気を操る技なのでしょうねぇ、炉の火力を上げるのにも役立ちそうですねぇ、えぇ役立ちそうですとも」
 リムファクシが諦めて愚痴を漏らし始めると、何かに興味をもったシャインは、リムファクシにぬっと顔を寄せる。常に辺りを灯す炎の熱気が触れる位置まで近づいて、冬でも熱くて迷惑な距離だ。

「あ、あ、あぁ……エアロブラストってのはよー……こう、大きく息を吸って勢いよく吐く技だぜー」
 と、リムファクシは正解のようなそうでないような非常にアバウトな説明をするので、ロイは苦笑して説明を次ぐ。
「まともに食らうと、2・30メートル離れた位置から、俺はもちろんドダイトスだろうと吹っ飛ばす技さ。吹っ飛ぶ小石はロックブラスト、木の葉はグラスミキサー、砂塵は砂嵐、吹っ飛んで叩きつけられる自分はサイコキネシスをまともに食らうのに等しい。
 暴風なんて技があるけれど……それとは比べ物にならないルギアの専用技にして必殺技だね。と言ってもまぁ、こいつはまだ未熟だから至近距離でようやくそれくらいの威力だけれど、それにしたって強い技さ。炉の炎なんて空気を送るどころか一発で消えるよ」
「おやおやぁ、それは残念無念。鍛冶屋のアシスタントにいかがかなとも思いましたが、やはり神をこき使おうだなんて畏れ多いわけですねー」
 肩を広げて、シャインは苦笑する。
「はは、俺もちょっと歯車が食い違っていたら酒場で神をこき使うつもりだったから……畏れ多くなんて無いさ」
「おいおいおい、おめーら俺をこき使うとか神をなんだと思ってるんだー?」
「神である前にお前は子供だろ?」
 リムファクシに尋ねられて、ロイはきっぱりと即答・断言する。
「剣をふるってみたくなるのは子供の癖というか宿命だよ。俺も昔そうだったしな……当時4歳だったけれどね」
 ロイはそう言って微笑んだ。リムファクシはというと、頭から湯気でも出そうなほど怒っているが、ロイと戦っても確実に勝てないために飛びかかる事は耐えている。
「ふむー。息を吸って吐く技ですかー。これは盲点でしたねー……ルギアは海底に適応しているだけあって肺活量は相当な物なのですねー。それなら、ウチの武器にいい物がありましたですよーはい。貴方に似合う武器でございまするー」
「おーあるのかー?」
 リムファクシの顔が笑顔でほころんだ。まるで天使のような満面の笑みに、思わずシャインは笑顔になる。
「えぇ、こちらでございますよ」
 フヨフヨと先導し、リムファクシは首を前に伸ばし翼を後ろに伸ばすという、流行る気持ちを抑えきれない前傾姿勢でついて行く。
「それでは、こちらの武器の説明をさせていただきます。こちらは、吹き矢と申しましてこの細長い筒を咥えて息を吹き込む事で、遠くの的に棘を当てる事が出来る武器でございます。
 構えて様になると言う貴方の要望にも叶うよう、豪華な装飾で銀色のボディを彩っておりまする。白銀色の貴方が使えばさぞかし絵になると思いますですねぇはい」
「あぁ……そう言えばそれがあったな。だが、それって狩猟や暗殺や奇襲用の武器であって剣や槍とは趣が違うんじゃないか?」
 ロイが首をかしげる。
「確かに、カモネギのザクスのような格好良さはありませんが……でもま、エアロブラストが貴方のおっしゃるほどの威力ならば、多分パルシェンのトゲキャノンくらいの力はあるでしょうし。何事も物は試しという奴ですますですはい。
 それではではでは、こちらの武器をお試しで実演してみますので、庭の方にご案内いたしまするー」
「おー、お前いい奴だなー」
「お褒めに預かり光栄極まりないですなぁ。神様に褒めてもらえる機会なぞ、この先あるような気がしなくもないとは思えないですからねぇ」
「結局どっちだよ……ついていけないなこのテンション」
 リムファクシがお決まりのセリフを言って笑う。それに答えるシャインの事も含めて、ロイはやれやれと肩をすくめた。
「じゃ、ローズ。お客さんの相手してくるから店番お願いですねはい」
「はいは~い。大体店員なんて二人も必要なほどお客さんが来るわけじゃないでやんすからね。どうぞごゆっくり」
 ローズはゴチルゼルの姿に変身して、会計用のカウンターに座っている。サーナイトの姿を好んでいるユミルと比べると好対照な変身姿だが、喋り方や性格はとても弟に似ていた。

 そして、庭へとたどり着くとシャインは吹き矢を構えて見せた。
「よーしよし。それではここで試し切りや試し撃ちを存分に試しなさいなーはい。神様にウチの商品を使ってもらえるなんて光栄極まれりですからね、ホント。全く光栄ですよねぇ、えぇホント。では、このように狙いを付けて、ふっと息を吹き込む……」
 シャインは咥えた筒に息を吹き込み、吹き矢に封入した弾頭を押し出す。息で吹きだされた弾頭は巻き藁で作られた案山子(かかし)の心臓近くに当たる。血抜きのしにくいそこに毒の塗られた矢が当たれば、致命傷とはいかなくとも毒のダメージを与えるには有効そうだ。
「おー、以外と格好良いじゃねーか。俺にも貸してくれよ―」
「はいはい、神様一人ご案内ぃ。それでは、弾を込めましたのでどうぞお吹きくださいませ」
 言いながらリムファクシにそれを手渡す。
「オッケー。いくぞー」
「始めは狙った所に当たらないかもしれませんが、お気になさらず―」
 ダンッ!!

 轟音によって、ロイの視界は星に包まれた。ハイパーボイスを近距離でまともに食らった時のような感覚がして、ロイは本能的に立てた耳を寝かせて塞いだ。シャインもまた、二股に分かれた腕で耳を塞いでいる。
 さて、この音の正体であるが、圧縮された空気で吹き矢本体の先端が弾け飛んだ音である。
「わわわ……私の吹き矢が……」
 この店は、鍋やフライパン、包丁のような調理器具をメインで取り扱っているが、包丁以外の刃物や武具まで無駄に幅広く取り扱っている。日常使用する武具以外は趣味でやっているので、殆どは販促用の飾りのようなもので制作ペースも非常に遅いが、店内の装飾用の建前に反して実用性は非常に高い。
 リムファクシに勧めたそれも、唐草模様が彫り込んであったりと装飾も一流なのだが、一方の先端が竹槍状になっているため近距離では棒術にも対応できるという謎の機能性を誇っている。装飾自体もただの伊達や酔狂ではなく、太い骨を持ったガラガラのボーンラッシュをフルで受けとめても折れる事はない事をうたい文句にされるなど、決して侮れない性能を持っている。
 王都に行けば非常にもてはやされたであろうこの男の商品は、交易商人が虎視眈々と狙い雪解け人の季節には競りすら行われるという。王都でオーダーメイドを受けるよりも、ここで競りをやった方が楽に儲かるし、ゆったりと武器を作りたいというのが彼ののんびりスローライフの醍醐味らしい。
 言いかえれば、それだけゆっくり丁寧に作られた武器が作られているわけである。その内の一つである吹き矢を、一吹きで破壊したリムファクシの肺活量は推して量るべしと言ったところであろう。
「あ、ご、ごめん……軽くやったつもりだけれど……結構もろいんだなー」
(か、軽く!? アレでかよ……)
 そんな店の事情など知る由もないリムファクシだが、流石にこの吹き矢が価値のあるものであるという事はなんとなく分かっている様子。そうでなくとも、壊してしまったら謝るのが筋。誰に言われるでもなく鎌首を思い切り前へ倒しての謝罪となった。
「ど、どうなってんだよアレ……吹き矢って言うか……むしろドラゴンの竜星群かウィンの投げ付ける攻撃じゃないか……」
 ロイは謝るよりも先に呆然とする。吹き矢の威力の程は、弾頭の幅よりも遥かに恰幅の良い案山子を真っ二つに引き裂いて後ろの壁に飛び、砕いている。丈夫な木で出来ているはずのその弾丸は、土の壁をやすやすと貫いてクレーターを形成して土のなかに掘りだすのも苦労しそうな深さまで埋まっていた。その威力は、スパーリングの際に見せ付けられた速攻性だが弱毒の液体を口に含むことで根性の特性を発動させて戦うウィンの攻撃の威力を彷彿とさせたが、それ以上かもしれない。
 ふと見てみれば、シャインはフルフルと震えながらうつむいていた。丹精込めて作った武器を一瞬で破壊されたのだから、そのショックも仕方がないと思ったのだが。

「素晴らしい!!」
(そ、そうきたか!?)
 耳が十分働くようになってから歓喜の声を上げるシャインに、ロイは絶句した。
「なんという威力……吹き矢でこれほどの威力が出せるとは、長い事鍛冶屋をしていても知らなんだ。これはこれは、これが神の肺活量のなせる業か、あぁとっても興味をそそられる」
「あー……何だかよくわからないけれど、弁償するからさー……」
「とんでもない!!」
「えぇ!?」
「んー?」
 これには、ロイもリムファクシも聞き返さずには居られない。
「このような素晴らしき武器の使い手に金など必要ありませんですはい。手に私の人生を掛けた一振り、珠玉の吹き矢をタダで作って差しあげましょう」
「おー、お前いい奴だなー」
「いやいやいや、まてまてまてリムファクシ。この吹き矢でさえいくらすると思っているんだリムファクシ……一ヶ月の食費(なげう)っても足りないんだぞ? ましてやそれの強化版だなんて目が飛び出るような……」
「マジ?」
 ロイの突っ込みにリムファクシは思わず聞き返す。マジだと答えようと思ったその矢先。
「いえいえ、確かにその通りですが構いませんとも。私の好意で作らせていただきますのでーはい。さてさて、今回の数倍の強度で、成長しても使いやすいように筒の内径を太くしたのをおつくりいたしましょうかねぇ。
 貴方のために武器を作られるというのであれば、私お代はいりませんとも。ですので、完成品を卸した暁には是非そのお姿を拝見させてくださいませ」
「ちょ、ちょっと貴方!!」
 耳をつんざく轟音を聞いて駆けつけていたローズがたまらず夫の好意を止めに入る。ゴチルゼルの体では威圧感が足りないのか、旦那に圧倒的優位に立てるヘルガ―に変身しているあたり心得ている。
「また私に弟へ金の無心させる気ですかっ」
(ユ、ユミルって姉に金を渡す事が出来るほど裕福なんだよなー……そういえば)
「なに、問題ありませんですね、これが」
「ありますって、もう……はぁ、分かりましたよ……」
 呆れながらもローズは折れた。ロイはこの家庭の事情はよく知らないが、とりあえず後でユミルにお金を渡しておいた方がよさそうだなと悟る。
「では、一ヶ月ほどで作って差し上げますので、それまで長い首をさらに長ーくしてお待ちくださいませ」
「おー、待ってるぞー。楽しみにしてっからなー」
 意気揚々と目を輝かせるリムファクシの隣、意気消沈のロイは溜め息をつく。好対照の二人が挨拶を終えて帰る時、ロイはローズから『ユミルにお金を渡しておいてください』との事。
(全く、リムファクシが駄々こねるから来てやっただけなのに変なことになってしまったなぁ)

 ◇

「とまぁ、それで一ヶ月間……リムファクシはわくわくしてたって話だよ」
 ロイは苦笑する。
「あぁ、あれね。思い出したわ……ユミルも災難よね……」
 笑って、ナナは葡萄酒を口に含んだ。
「義兄からお金の無心をされるのはいつものことだから取り立てて言うまでもないって感じだったけれどね。俺が金を渡しておいたら、ユミルは『ありがとうでやんす』って言ってくれたよ」
 と、言ってロイは笑う。
 酒場を畳んだとはいえ、まだこの建物の地下室には大量の酒が保管されている。日常生活の話を肴に二人は酒を飲み交わし、語り合うのは今でも日課の一つである。いつも通り、変わらぬ夜。幻影で隠されてはいるが、体毛の生えていない火傷跡が残るナナの左半身を寒さから守るように、ロイはナナの左側の席を陣取っている。
「その件については代わりにジャネットが愚痴を漏らしていたけれどね……うん、思い出したわ。いくら裏の仕事でお金が余っているからって横暴だって言ってたわね。で……お話の続き。リムファクシが本気で撃ったらどうなったのかしら?」
「そ、そこまで話を飛ばすのか……? ゆっくり語ろうぜ」
「あ、まぁ……詳しく話したいならばそれでもいいけれどね」
「と言ってもまぁ、間の出来事は特に話す事もないしね……そうだね、リムファクシの奴は太くて剛健な吹き矢を見て、まず最初に『すげー』って感嘆の声を漏らしていたね。
 可愛い顔でさ、早速撃ってみたいって感じでぺたぺた足踏みしてやがんの。肝心の吹き矢は構造自体が前と変わっていて……さっきリムファクシが見せびらかしたように、息を吹き込む部分は極太の六角柱になっていたな……で、六角柱に丸い孔を開けたそこから、以前の吹き矢よりも数倍は肉厚なパイプが伸びていて、全体的には大体リムファクシの身長と同じくらいだったかな?
 奥さんがわざわざリムファクシに変身してどうすれば扱いやすくなるかの研究のために協力したらしくってね……すごい出来だよ。ごくたまにオーダーメイドを作る時にはいつもそうして使い心地を判断するんだってさ」
「それはすごい気合いの入れようで……」
「で、水銀を利用して内部にもきちんと金メッキを張ってあるから全く錆びないし……反動を軽減させるために先端に箱状のアタッチメントがついていたなぁ……あと、分解してコンパクトに収納できるし……もはや吹き矢じゃなかった。それで、いざ撃って見た時の威力と言ったらもう無いんだ」
 もったいつけながらロイが笑う。
「どうなったのかしら?」

 言いながらナナは葡萄酒を口に含む。
「厚さが俺の身長3つ分はありそうな土の壁を貫いて……後ろの漆喰の壁にヒビを入れてたな。耳を塞いでも耳が痛い。成長したら、きっとあいつ隣の家の壁まで貫くぞ。しかも、鉄の弾丸で威力がそれだったけれど……重量を増させて威力を上げたり悪・ゴースト対策にわざわざ銀の弾丸まで用意したりなんかしてるし……」
「あらら……それであの子は一体何を撃とうというのかしらね? っていうかそれ鉄の弾丸でも当たったゴーストタイプ死なないかしら?」
「さ、さぁ……? 撃ってもあの威力ならホウオウでも撃ち落とせそうな気がするけれど……ただし、5発撃ったら頭痛がするって言っていたけれどね……だが、戦争だったらその5発も後ろの奴らにもで貫通しまくって20人くらいは殺せると思うのが怖いが……今後リムファクシと遠距離戦するのは止めておくよ。
 ま、一応一人で撃つことも可能っちゃ可能とはいえ、狙いを付けるのと発射するリムファクシとで必中させるためには最低でも2人必要な超兵器だから大丈夫かもしれないけれどさ……」
「ふふ。喧嘩祭りでホウオウを相手にすることになったら撃ち落としてもらいましょうかね」
「ぶ、物騒だなおい……だが、それはそれで面白そうだ……ホウオウやゼクロムならデカイ的だから一人でも狙えるだろうし……なるほど、その手があったか」
「あら、何か物騒なこと考えていないかしら?」
 一人納得するロイに、ナナが流し眼で尋ねる。
「いや……お祭りも後一ヶ月だし、ホウオウと戦うことになったらそういうのもありかなって思っただけ」
「そうね、喧嘩祭りに備えてのスパーリングも力が入るわ……今度こそ貴方の毒液を全てかわしてみたいものだわ……今のままの私の実力じゃ優勝も心配だし」
 しみじみと言いながら葡萄酒の香りを楽しむナナをロイは笑う。
「相変わらず何言っているんだお前は……そういう風に自信が無いっていいながらお前は優勝しちまうんだろ?」
 どうしようもないと言った風にロイは力なく笑う。
「俺とサシ*2で戦っても3回に1回はお前が勝つんだ、お前なら女性の部は完全制覇は確実だろうよ……だからまずは俺の心配をしてくれよ。
 あのウィンやマンヅだってトーナメントに出場するとか息まいていやがるらしいんだ。尻や手をついたら負けというルールで、ガチ勝負じゃないんだから俺がいつ不覚をとってもおかしくないぜ?」
 ロイが泣き言を漏らすと、ナナは目隠しをするようにロイの顔を撫で、不意打ち気味にキスをする。葡萄酒を口に含んでのキスは、ナナの唾液と混ざって後味の良い香りを孕んでいた。
「本音言うと、私は信じてるわ……強敵に挑む豊穣の兄妹を再現するのは、私と貴方だって。だって、愛の力は偉大だって言うじゃない?」
「はいはい。一応頑張って見るよ……」
 ロイはおどけて笑って見せ、お返しとばかりにナナの頬にキスをする。ナナははにかみながらロイの体をそっと抱いた。寒い日だけに、左半身がとても温かく感じてナナはそのぬくもりにうっとりと心を預けた。

 ◇

 そうして、ゆったりと月日は流れて祭りの開催日が本格的に近付いてきた。
 旅を続けてたどり着いたヴィオシーズ盆地は、夏は暑くて冬は寒い。水はけも悪くなりがちで氾濫も起きやすいという最悪の環境である。しかも、そこは僻地故に街との交易がまともに行われない。不便さはもちろんのこと、その土地の環境の悪さを嫌ってその地を出て行く者も多かった。さらに、異教徒の住まう土地という事で神龍信仰の介入を恐れた者達も他の土地へと流出している。
 それらがヴィオシーズ盆地から人が消えていった最たる理由である。祭りも行われなくなってから久しく、暇を持て余した神は恋愛にうつつを抜かしているとも言われている。
 この地を旅立った者達の中にも、テオナナカトルやシードのように信仰を守り広げるために旅立った者もいるが、それらは自然に消滅してしまったのがほとんどだ。しかしテオナナカトルは消滅すること無く信仰を守り続け、いつしかジャネットが祭りの復活を目論んだ。その想いが共感できる者を集わせ、やがて運命が導いたかのように奇跡とも呼べる程の勧誘を繰り返し、祭りを行うだけの頭数をそろえた。
 再びこの祭りを行えるなどと、誰も思ってはいなかったであろう偉業を成し遂げたテオナナカトルを迎えるだけに、歓迎ムードが漂っていたのは当然と言えただろう。
 街には春を迎える忙しい時期だというのに人だかりが出来ていた。その中には、この国やその周辺では奴隷扱いされている虫タイプのポケモンも3人ほど顔を覗かせていて、『黒白神教に奴隷はない』という言葉を半信半疑だった者もそれを認める光景だ。
「おい、お嬢。ついたぞ」
「……疲れた」
 まだ体の完成していないクリスティーナは、疲れ果ててウィンに荷物を持ってもらいながらの到着である。他の者は体力に自信があるのか、大量の荷物を背負うジャネット以外は殆ど手伝いを必要とする者はいなかった。
 そして、相変わらずリムファクシは足並みをそろえるのが苦手で、焼却の平原の時のようにつかず離れず空を飛んでついてきている。
 ナナ、ユミル、ジャネット、歌姫、ロイ、ローラ、ワンダ、クラヴィス、クリスティーナ、ウィン、リムファクシ、フリージア、クララ、セフィリアと、ウィンはシャーマンではないとはいえ、並べてみれば壮観だ。信仰する神も種族も全く違うから傍目には何のための集団なのかと思ってしまう。

 春分を三日後に控えた、雪解け水のあとに生じる雪解け人の季節。図らずも雪解け人となったテオナナカトルと、それらが勧誘したシャーマンや神子の一行を、まずこの集落群のお偉いさんと思われるサーナイトが出迎えた。顔にはしわが刻まれている初老のサーナイトといった様子で、若葉色の髪も萎れた草のようだ。目の端には笑いじわが出来ていて、それがこのサーナイトの性格を感じさせた。傍らにはユミルがよく変身しているサーナイトの姿があって、ユミル見比べてみると本物の方は一回り年をとっていた。ユミルはいつまでも彼の若い姿に変身し続けているようである。
 そのサーナイトの姿を見たユミルは苦笑して別の姿に変身した。二足歩行のポケモンの方が作業しやすいのか、サーナイトの変身を解いて再度変えた姿はジュカインであった。
「手紙を受け取ってから今までの間、心待ちにしておりました。ようこそ皆さん。ヴィオシーズ盆地へ」
 ユミルが変身し終わったところを見計らって初老のサーナイトがそう言った。
「お久しぶりです、レット長老。テオナナカトル一同及び、外部から勧誘してきたシャーマンは規定の数に達しております。これで祭りが行えますね」
 ナナはレットと呼んだサーナイトに傅き、ひざまずいて微笑む。
「かしこまらなくてもいい」
 ナナが胸にあてた手を取って、レットはナナを立ちあがるように促すが、ナナは立ちあがろうとしない。
「お前達は最早絶えて久しい祭りを復活させる偉人となる予定の者だ。英雄と言っては大袈裟かもしれないが、こんな集落でくすぶっていた私よりは立派な事をしたのは間違いない。それに、私達とお前らテオナナカトルの仲ではないか。顔を上げよ」
「かしこまり」

 跪いた際に髪の先端に付いた土ぼこりを払うようにナナは頭を振って立ち上がる。
「このような歓迎を承り、テオナナカトルの代表として感謝致します」
 ナナが笑顔を見せ、再び会釈をする。テオナナカトルに属する残りのメンバーもナナに倣って頭を下げた。
「では、順番に紹介します。私達以外に、黒白神教の流れを汲む者がそちらの……」
 ナナはキングラーとゴルダックを指し示す。
「俺がクラヴィスでこっちがワンダだ」
 ナナに促されて、クラヴィスが自己紹介。きっちりとローラの隣をキープしているワンダが、クラヴィスに促されて頭を下げる。キングラーであるクラヴィスは、ゴルダックであるワンダのように頭を下げられるような体の構造をしておらず、地面に大きなハサミを置くことでその代わりとした。
「つぎは、ヒーラーのお二人さん」
 ナナはライボルトとアブソルを指し示す。
「クララや。黒白神教やないがウチのことよろしくな」
「セフィリアだ。私も同じく、カビの生えたような古い信仰を信じている……。今回は、我らが神ホウオウ様の我儘を聞いて下さって……感謝致します」
「ふむ、私達は異国の神も歓迎いたしますゆえ……こちらこそよろしくお願いします」
 特徴的な笑いじわを深めて、レットは頭を下げる。
「そして、次はこちらのお嬢さん……神龍信仰の一員ですが、我らテオナナカトルをよく理解し、保護してくれる話の分かる女性です」
「神龍信仰の事……あまり良く思ってはいないと思われますが、よろしくお願いします」
 フリージアがペコリと頭を下げる
「いえいえ、こちらこそ。この方々を保護していただいているというのなら、話は別ですよ」
 レットはそう言って会釈した。
「そして最後に……神憑きの子のお嬢さんです。お連れのリングマは護衛ですが、気さくな良い方です」
「129……146……」
「おっと、お嬢は木の葉の数を数えているようだな」
 いつも通りのクリスティーナにウィンは苦笑する。
「この状態では挨拶できそうにないから。俺から代わりに自己紹介をしておく。俺はウィン。あっちのお嬢はクリスティーナだ。見ての通り変わった子だが、悪い子じゃないからよろしくな」
 ナナに紹介されたウィンは苦笑して肩をすくめた。

「これで全員ですか……本当に壮観だ。これだけの人数のシャーマンが揃うなんてな」
 心地よさそうにレットは鼻息を荒くする。
「では、予定通り三日後にお祭りを行います。すでに準備の一部が始まっておりますが、残りの準備もこの集落の者がやりますので、それまでどうかごゆるりと御静養を。皆さまの宿場となる場所は各所に用意してございます。本当はひとまとめにしたかったのですが、なんせ空き家がまばらなものでして」
 申し訳なさそうに苦笑して、レットは頭を下げる。
「それではご案内いたします。私はエルレイドのハロルドと申します。大所帯のテオナナカトルさんはこちらへどうぞ」
 と、テオナナカトルの一行はハロルドと名乗るエルレイドに案内される。どうやらジャネットと顔見知りであるらしいハロルドは、視線だけのやり取りであったが、微笑みあったりなどして仲がよさそうな風である。長老とやらがサーナイトである事を考えると、由緒正しいシャーマンか何かなのであろう。と、この盆地に始めた訪れたロイやローラはそんな風に考えていた。
 無邪気なリムファクシはそんな事はどこ吹く風で、目を輝かせながら周囲の景色に目を配っている。今回リムファクシの眼に映ったのは、家に使われる真っ白な壁だ。

「なぁなぁ、ハロルドのおっちゃん。どうしてここらの家はこんな壁になっているんだ?」
 海辺では石、イェンガルドでは木材で出来た家が多かったりと、それぞれの土地で家の素材には違いがある。先んじて行われた焼却の平原への道中でもいろんな家を見たが、こんな壁を使った家はみた事がなく、リムファクシはそれに興味を示す。
「あぁ、家の壁の素材ですか? そちらではどんな素材を使っておられるのでしょうか?」
 案内役のハロルドは笑って尋ね返す。
「おー……俺達の街では主に木の建物と石の建物だなー大体半分くらいだぞー」
「そうですか。建物の壁というのはですね、環境にいかに適応できるかが変わってくるのです。石の場合は燃えませんし、虫に対して丈夫ではあります。しかしながら、石というのは呼吸をしないのです」
「んー……じゃあ、木やあの白い壁は呼吸すんのかー? とてもそうには見えねーぞ?」
 ふふ、と笑ってナナがリムファクシの頭を撫でる。
「いいかしら? 濡れている跡が見えていなくっても、物というのは少なからず湿っていたり乾燥していたりするもの。燃えやすい薪と燃えにくい薪は、乾燥しているか否かが大きいのよ。木は、周りの環境に会わせて湿気を吸いとったり出したり……そういうことを、喩え話で呼吸しているとハロルドさんは言ったのよ。
 ここの家に使われている壁は、石と木の両方の性質を持っているのよ……珪藻土って言ってね。太古の昔の藻が泥のように変化したものを固めて壁にしたの。寒さにも湿気にも対応できる、有能な建築素材なのよ。ですよね、ハロルドさん?」
「はは、そう言う事。やっぱりナナさんは賢いね。まったく、よそ者に自分の村のことを詳しく語られちゃあ立場がありませんよ」
 ハロルドはそう言って苦笑した。
「すげーなナナ。お前やっぱり賢い奴だなー」
「大したことじゃないわ」
 リムファクシが大口を開けて目を輝かせる。その無邪気な仕草にナナは母親のような微笑みを見せた。
「他にも、あの家にはイェンガルドには無い様々な知恵が施されているわ。この盆地の過酷な極端な環境でも快適に暮らせるような知恵と創意工夫がね。でも、夏に涼しく暮らすためには知恵だけではどうにもならない特徴があるわ。なんだと思う?」
 リムファクシの首をぽんと叩いて、ナナはリムファクシの思考を促した。

「う~……あ、わかった!」
「あら、なにかしら?」
「風がとっても良く通るだろここ? 夏に、イェンガルド見たく家が密集していると暑くてたまんねーだろ? イェンガルドに比べると家が10分の1くらい少ないから少し寂しいなって感じだけれどよー、夏に暑くないならこう言うのもありだと思うぜ。それに、屋根の素材とかもなんだか涼しそうでいいな。あれはなんだ? 葦か何かかー?」
「そうよ。あれは通気性に優れているけれど、断熱性にも優れていてね……夏は涼しく冬は暖かい。そういう理想の建築素材。まだ雪が残っているから分かると思うけれど、見なさい。屋根の素材以外に何か屋根にも特徴があるわ?」
「角度が急だよなー。雪かきが楽そうだなー」
 ナナが屋根を指さすと、リムファクシが間髪いれずに気が付いた。
「ほう、パッと見て気が付きましたか。ただ、雪かきはあれくらい急な角度でも楽ってことは無いんですけれどね。角度が急だから私たち自身落ちる可能性もありますし……いやいや、痛いんですよねあれ。
 他にも、あの急勾配は雨漏りがしないようにする効果もあるんです。ま、雨漏りしやすいという点については建材において重大な欠陥ですね。そこら辺は石や木の家が羨ましく思います」
 案内役のハロルドは自慢げに故郷の家に付いて説明を交わした。
「そうなのかー。しっかしよー、草って木に比べたら燃えやすいだろ? 大丈夫なのかー?」
「はは、それが駄目なんですよね」
 ハロルドが苦笑する。
「俺達の街のように、家屋が密集する所であんな建築をするとすぐに燃え広がって街中を巻き込む火事になってしまう。だから、家屋が密集する街では石の建物が好まれるんだよ、リムファクシ」
 ハロルドの説明をロイが継いだ。
「そっかー……こんな家の造り方もあるんだなー草と土の家かー」
 感心したような口調でリムファクシが視線をあっちこっちに泳がせる。
「海では、砂を掘るかサンゴや岩礁を家と言い張るのが精いっぱいですものね。リムファクシさんがが家に興味を持つのはそう言う理由ですか?」
 ローラが尋ねるとリムファクシはうんと頷いた。
「陸では家を持つってことが人生の目標の一つだったりもするんだもんなー。そりゃ、海でも縄張り争いみたいなものはあるけれどさー。時の運一つで奪ったり奪われたり。帰る場所も定まらないことが多い海のもんにとっちゃあ、陸の家ってのは未知のもんだぜー。
 でも、憧れるのも分かるぜー。なんてったって一軒家が最高だーありゃ男のロマンだよなー、うん」
「おやおや、リムファクシはアッシら集合住宅じゃダメでやんすかー?」
「えー、ユミルの家もあれはあれでいいと思うぞー」
「ふう、それなら良かった、アッシが甲斐性無しだと思われていたのかと思ったでやんすからねぇ」
「そんなことねーぞおめー。ユミルはきちんと子育ても出来ている良い親じゃねーか」
「それは光栄でやんすね」
 ユミルは針葉樹のような尻尾を揺らして笑う。そうして一行は家の談義で盛り上がりながら、案内された空家へと向かって行った。

 ◇

 案内された空家は、あくまで荷物を置いたり寝起きしたりという場所で、家具らしい家具もないため荷物を置いて小休止した後は各々思い思いの場所で暇を潰すことになる。
「やはり、ここはキノコには事欠かんのう。切れ掛けの薬の材料がゴロゴロじゃ」
「しっかし、物凄い腐葉土の匂いでやんすねぇ……材料採集ってのは近場の森よりずっと濃くって、新鮮な香りがするでやんす。しかし、良いでやんすか? 行きの二の舞になりやすよ?」
 ユミルとジャネット夫妻は、ヴィオシーズ盆地で採集できる薬の材料集め。逆に、ヴィオシーズ盆地に住む人々のためにイェンガルド周辺でしか手に入らないものや行商から入手したものをわざわざ届けるなどしたために、サンダーソン夫婦は荷物が極端に重くなってしまった。
 交流のためとはいえ行きも帰りも息切れを起こすような重量を背負ってきたわけだが、ジャネットが耐えきれなくなったら今度はユミルがケンタロスに変身して妻の分まで荷物を持つなどしてこの土地まで歩いてきたわけである。
「もうワシ知ったことでは無いわ。ワシらの仲の良さに嫉妬させればよいのじゃ」
 その様子は茶化されるに足る物で、道中では特にリムファクシとナナという素敵な冷やかしタッグに好奇の目で見られる事となった。それに照れてしまって強がろうにも、ジャネットの体力の関係で大量の荷物を背負う事が出来ずに、結局ユミルに荷物持ちを任せてはさらに茶化される。
「そんなものでやんすかねー。ま、リムファクシは茶化すよりもむしろ憧れというか純粋な目で見ておった気がするでやんすがね。むしろ茶化しているように見えたならそれは……
 ……ナナのせいでやんすね」
「……ナナのせいじゃな」
 『ナナのせい』という言葉を完璧なタイミングでハモらせて、二人は仲良く笑いあった。
「なるべく軽いもんを選ぼう」
「というか、お主が最初から最後までケンタロスの姿に変身しておれば済むことじゃろうが。サーナイトの姿が気に入っておるのは分かるがのう」
「はいはい。アッシ、帰りは始終ケンタロスでやんすね……荷物多くなりそうでやんすねぇ、はぁ」


 歌姫とナナは舞台となる場所を視察に来ていた。祭りでは一人が複数の役回りに付くことも珍しくなく(神子がシャーマンの役回りを持てるのはそのためだが)歌姫はシャーマンの一人としてだけではなく歌い手としても活躍する――ということだ。ナナもまた同様に踊り手としての務めを果たす重要な役割である。
 視察といっても、舞台の間近まで行くというような事はせず、高い所に見下ろすと言った感じだが。
「へぇ、中々広い舞台ね」
 左手を脇に挟むような風変りな腕組みをしながらナナが呟く。
「お店と違ってのびのび歌えそう……」
 準備に勤しんでいるこの地の住民に迷惑を掛けないための配慮だとナナは言うが、実際は高い所からこの街を見下ろしたいだけ。高いところから見下ろすと、舞台や燭台など儀式に必要なものの他に、ゼクロムが好む葡萄酒が大量に用意されていた。
「海の歌謡祭ではもっと人が多かったんですけれどねぇ……あの時は緊張したけれど、ここは集めても500人が限度ですから、緊張しなくって済みそうだなぁ」
「緊張しても準優勝をするような貴方が言うセリフではないような気がするわ」
 ナナは口を押さえてクスクス笑う。
「ナナさんだって、街の舞踊祭で何気に優勝していたじゃないですか。今回の舞い手としての責務も余裕で果たせますって」
 ナナは歌姫の頭を撫でて笑う。
「ま、どちらも危なげなく出来るでしょうね。だから重要なのは、その前よ……サーズダイン様を呼び、その力を揺らぐこと無き体に分けることでこの地にいらない悪影響を残さないようにするお仕事。
 処女であり童貞であり、もしくはロイとローラのように相性の良い二人で一つの存在とみなされるか。ともかくそう言う存在の私達だからこそ神子も出来るの。これまで、何のために処女を守ってきたかってこのお祭りのためなんだから。
 踊るよりも歌うよりも喧嘩するよりも。何よりこれまで保ってきた純潔に意味を持たせたいじゃない。神様の姿を絶対に拝んでやりましょう」
「テオナナカトルに入った時は、半信半疑というか……伝説のポケモンに会うなんて夢物語と思っていましたが……なんだかんだ言って、私はマナフィやルギアを見た事がありますし……ジャネットさんやリムファクシさんは……ホウオウを見たというじゃないですか。
 純潔を守れと言われた時、復讐のために仕方なく従いましたが……今は伝説のポケモンに会うのも現実味のある事のように思えてきました。……今まで純潔を保ってきてよかったと言えるように頑張りたいものですね」
「おばちゃんになる前に、結婚できそうね」
 歌姫が口元を押さえて笑う。
「今まで茶化す側でしたが……一週間後には茶化される側になっちゃいそうですね、ロイさんとの関係。今どれくらい進んでいるんですか?」
「処女でいなければいけないって言う決まりでもなければ、もうとっくに結婚していたかもね。っていうか、私……このお祭りが終わったら、結婚するんだ」
「つまり、処女がどうのこうのって制約がなければロイと本番やっちゃってたと?」
「やだっ、ストレートね。っていうか、本番無しならもう何回もやってるわよ……うん。結婚したらやり放題でしょうね……うん」
 ナナは照れかくしに笑う。
「それ……気持ちいんですか?」
 歌姫は子供のような好奇心で、ナナに尋ねた。
「うん、ロイが結構頑張ってくれるからね。歌姫だって本番無しならしちゃっても構わないんだから、もっと早く済ませちゃえばよかったのに。実際に本番をやったことのあるジャネットとか、聞く勇気があるならサーズダインさまにでも聞いてみたら」
「いや……ジャネットさんはともかくサーズダイン様に聞くのは無理です、恐れ多いですってば。なんと言うか、色々怖いのですよぉ……初めては痛いって皆が脅しますし」
「うふふ……だから本番なしなら痛くはないでしょうって。まずはゆっくり慣らせば良いじゃない」
 と、笑ってナナは歌姫の頭を撫でる。
「ま、全てはこのお祭りが終わってからね。その時は初体験の感想を教えてあげてもいいわ」
「期待してますよ。ナナさんのらぶえっちなんて、何だかすごそうですし」

「らぶえっちねぇ……確かに私たちラブラブだもんね。今年に入ってからロイとリムファクシに毎日お弁当を作っていたのは私だし……こう言っちゃなんだけれど、早く抱きしめたいなぁ、ロイ」
 歌姫が微笑む。
「はぁ~……ホントにラブラブなんですね。耳が溶けてしまいそうなくらい」
「うん、否定できないわ。耳が腐ってしまったらごめんね」
 語尾に音符マークでも付きそうな程ご機嫌な様子でナナは歌姫の冷やかしを真正面から受け止める。
「……本当はもっと時間がかかると思ったんだけれどね。世の中の動きの速さが私達に追い風を吹かせてくれたおかげでこうまで早く祭りを開く事が出来た。本当にフリージンガメンには感謝しなくっちゃ」
「ロイさんとローラさん。思えば私やナナさんもフリージンガメンに導かれてテオナナカトルに入ったんですよね」
「うん……一度、こいつが信じられなくなって捨てようかとも思ったけれど……ティオルの件の時にね」
 ナナは胸元に下がるフリージンガメンを指で撫でる。
「今度は捨てるんじゃなくって卒業しなきゃね……」
「もう必要ないから……ですか?」
 うん、とナナが頷く。
「一度祭りで重要な役職に就いた者は、もうその役職に就けない。だから、祭りは世代交代に合わせて15年から20年ごとに行われる。つまり、それからは焦ってシャーマンを勧誘することに意味はなくなるからゆっくり勧誘していけばいい。
 それに、フリージンガメンに宿る豊穣の女神は恋愛に関する願いを聞いてくれるけれど……もう必要ないでしょ? 私達はすでに何回も体を重ねているし、これからこの関係が崩れるなんて……今更私達を分かつ手段なんて死しかないわ。
 嫉妬するなら殺してみろってことね」
 誇らしげにナナは笑う。
「フリージンガメンは、元はと言えば台風の日に風で飛んできた物を拾っただけ。だから、台風の日にでも風に任せて飛ばすとするわ……恋の願いは、新しい誰かの分をかなえてあげれば良いの」
「あの……」
「何かしら?」
「私、まだ恋人とか見つけていないし好きな人もいないの好きって言うのがどういう感覚か分からないですけれど……頑張ってくださいね」
 照れながら、意気込むように歌姫が激励を送る。握った拳には、真剣にナナの幸福を願う意志が込められているようであった。
「うふふふ。あんた恋すらした事無いのに、セックスの気持ちよさなんて聞いてきたの? 気が早いわよ」
 ナナはこれまでになく嬉しそうに、歌姫の頭を乱暴に撫でる。おどけて嫌がって見せる歌姫を、ナナはしつこくいじり続けた。
「好きな子くらい見つけようと思えばいくらでも見つかるわよ。だから頑張って」
「は、はい!! 私の事も応援してくださいね」
「貴方が応援した分、私もするわ……だから歌姫。結婚でパーティ開く時は……祝福してよね」
「もっちろんですよ。いやがっても祝福するつもりですからね!!」
 結婚を目の前にしたナナを、羨ましく思いながら、歌姫はナナに元気よく答える。周りの全てが自分を後押ししてくれるように感じて、ナナは心が温かくなるのを感じていた。


 もう一方のラブラブなカップルは盆地の中ほどにある貯水池の一つで水浴びに興じていた。ワンダもローラも共に浅い部分で水と戯れている真っ最中である。
「『ワンダさん……なんというかお祭りに参加していただいて本当にありがとうございますね。どんなお祭りなのか本当にやってみないと分からないことですけれど……でも、とにかくすごいことに関わっているわけですし』。
『ふん、乙女が真剣に頼む事を断ったらヒーローの名に傷が付くってもんさ』」
 と、ワンダは相変わらず得意げに意味不明な事を言って見せる。
「『ヒーローとかそういうのはワンダー仮面の時だけで良いですよ。今の貴方はワンダー仮面ではなくワンダさん。違います?』
 ワンダに肩寄せて、ローラは無意識に異性に対しての匂い付け(マーキング)を行う。された側は頬を上気させて照れた表情を振りまいている。
『それにしても……素朴な疑問なんだけれど、ローラさん寒くないの? 無茶苦茶震えているし……まだ春開けて間もないってのに……』
『いや、結構寒いですね……でも、ずっと水浴びしていなかったのでたまには良いかなって思って』
『無理するなって』」
 クスクスと笑って、ワンダがローラの体を抱き寄せる。
「『こうするためだろ?』」
 ローラの尻尾がピンと逆立つ。
「『あらあら……兄さまが見ていますよ』ってローラにバレてるし……」
 豆粒ほどにも見えないくらい離れた位置から見守っているロイは思わずリムファクシの後ろに見を隠す。
「ってゆーか、ロイ。おめー口の動きだけでよくまぁ言っていることが分かるなー。すげーなおめー」
「……どうでもいいんだが、ばれた原因の半分はお前と並ぶと白と黒で目立つからだと思う」
「盗み聞きはよくねーってことじゃないのかー? にしても、二人とも熱々カップルだなー。俺も水浴びしたいけれど別の池探すかなー」
 と、リムファクシは別の場所を見た。こいつさえいなければばれなかったかと思うと、冷やかしがうざったい。
「どっちにしろ、おめー、妹を大事にするのもいいけれど、妹離れはきちんとしとけよー。俺みたいに早い段階から親離れしておくと違うぞー」
「てめぇ……言うようになったな」
 ロイは溜め息をついて、宿に向かって歩き出す。
「俺はもう帰る……」
(ローラはまぁ、安心と考えていいだろう……ワンダに任せても安心……と、はぁ)
「おー……怒られて帰るって、何だか子供みてー」
「お前いっぺん俺に噛まれてみるか?」
 リムファクシは肩をすくめて苦笑する。
「俺、あっちで水浴びしてくるー」
「……ったく。怒られて逃げるのはお前じゃないか」
 一目散に逃げて行ったリムファクシに、ロイは舌打ちする。

***
『ローラは……もう家族に依存することも無いみたいね。父親や兄弟のこともどこか諦めている節があるし……。あーあ、父さんにロキにロニ……皆にもこのお祭り見せてあげたかったなぁ。
 それはともかくとして、双眼鏡を持ってきてよかった。ここは景色が良いし、皆の挙動を見ていると面白い。流石に場所を変えて草むらに紛れたらローラには気づかれていなかったみたいだしな。

 ユミルとジャネットは仲が良くて微笑ましくなる。帰りの荷物のことを気にしていたけれど大丈夫だろうか?

 ナナと歌姫はあまり見ていないから分からないけれど仲よさそうだったな。

 フリージアは黒白神教のことをより深く知ろうと努力をしているようだった。信仰していてよかったと思えることや、信仰に対する誇りについてを事細かに聞き出して、教えを守れていない自分達神龍信仰を少しばかり恥じているような感じだ。
 異教徒の祭りに参加することに対しては色々思うところもあるのだろう、これからも神龍信仰を貫き続けるのであれば、時代を担えるような思慮深い一員になって欲しい物だ。

 クリスティーナは相変わらず木の葉の数を数えているし、それに付き合ってあげているウィンも偉い。退屈そうなのに、たまに笑顔を見せてはゆっくりと時を過ごしている……なんだかんだ言ってウィンさんは子供好きだよな……リムファクシとも異様に仲いいし。
 クララとセフィリアはクリスティーナのおてんばぶりに手を焼いているようだな。クリスティーナは人の話を聞こうって態度が全くなっていないし……それゆえの神憑きの子なんだけれどさ。
 来年、焼却の平原とやらを完全な放物線にするためのスカウト出来るといいけれど、どうなる事やら?

 えーと……クラヴィスさんは何と言うか。一人身で寂しいなぁ。結婚していないのだろうかあの人は? 湖とはいえ港町に住んでいるんだしキングラーなら嫁さがしもそう難しくないと思うのだけれど。

 そう言えば、ここには南西の大陸(虫の楽園)から連れてこられた虫タイプのポケモンが普通に受け入れられているのには驚いた。……あのハッサム、マンヅもきちんと受け入れられているようだし。なんというかまぁ、美しい光景だと思ってしまった俺はなんだかんだ言って虫タイプのポケモンは奴隷であるという認識をしてしまっているらしい。
 全く、虫ポケモンだろうがなんだろうが皆仲良くすればいいのに

 皆と同じ所にとまっているせいか、流石にナナとは何も無いけれど……楽しい会話は何度もした。ただし、あえて祭りを終えてからのお話は避けておこうという感じが見て取れた。全てはお祭りが終わってからね……って言いたいのかな?
 お祭りを行ったら。その後どうすっかなぁ……今までと変わらない生活をするけれど、街にいるシャーマン候補を育てていくのも良いかもしれない』
テオナナカトルの構成員、ロイの手記より。神権歴3年、3月21日
***

「太陽の下で巡る命。死して草となり、我らの腹を満たすは生まれ変わりの力によるもの。その力を与えてくださった我らが神、ホウオウに感謝いたします」
 クララとセフィリアが、声を合わせてお祈りを済ませる。ロイはまだ手を付けられない。
 祭りの当日、シャーマン達全員が祭儀場にほど近い集落の一室に集められ、料理を振る舞われる――のはいいのだが。

「おー、このキノコうまそうだなー」
「いや、リムファクシ……どう見てもこれ毒キノコだぞこれ……」
 興味深々なリムファクシを諌めるようにロイが引いた表情をする。どうやら、レット長老とやらの家であるらしいここでは祭りに望む前の準備をするらしいのだが、出された料理というのが酷い。
 マンヅをここに押し付ける時に、迷惑料代わりとして送った香辛料などがふんだんに使われたシチューに美味しいキノコが入っている――美味しいのだが、毒なのだ。
「あら、ベニテングタケはテオナナカトルと同じく幻覚作用のあるキノコよ。栽培はテオナナカトルの方が簡単だけれど……美味しさで言えばこっちの方が断然上よ。私も大好き」
 といって、ナナは嬉しそうにスプーンで掬う。真っ白なシチューに派手な赤で彩るベニテングタケ。ニンジンや山菜の緑と共にクリーム色のルーを彩る様子は見るからに美味しそうというリムファクシの美的感覚は間違いではないし、実際に美味しいことには間違いがない。
 しかし、毒キノコだ。それを平然と食べるナナはどこかがおかしいとロイは突っ込みを入れずには居られないのだが、意外にも皆は普通に食べることにしている。
「……みんな平気そうだね」
「兄さんは常識にとらわれすぎですよ。たしかにまぁ、毒ですけれど……そこら辺は色々なんとかしてくれるでしょう。ほら、この草は腹痛に効きますし」
 と、言ってローラは食事に手を付ける。こう言う時の女性の思い切りの良さはロイには理解できない。
「そう言う事よ、ロイ」
 ロイの思い切りの悪さを笑いながらナナは言った。
「美味いから食えよー。ロイー」
 そうだぞ、と追従する声がそこかしこから聞こえる。
「わ、分かった……」
 戸惑いを隠せないままにロイはそのキノコを食べる。
「美味いし……」
「でしょ? これの前にはトリュフだって問題にならないわ。問題は貴方の言うとおり毒があることだけれど……それはまぁ、気合いと薬草で相殺してなんとかしましょう」
「信用ならねぇ……」
 はぁ、とロイがうなだれれば、後ろからの声が。
「いざとなったら……癒しの鈴もできますし」
「ウチらの聖なる灰もあるでー」
 歌姫とクララがロイを後押しする。
「いいねー。俺もアロマセラピー出来るぜ」
 と、この盆地に住むロズレイドのシャーマンが囃し立てる。
「皆自信あり過ぎだよ全く……」
 ロイはやけくそになって、よく噛んで食べる。いつもより念入りに咀嚼したそのキノコは美味しかった。


 が、案の定一時間ほどした所で全員が吐き気に襲われる。ナナやローラの言うとおり、薬草がかなり入れられているので症状はかなり軽いとはいえ、きついことに変わりはない。
 普段の状態ですでに幻覚症状をはるかに超越した力の持ち主であるクリスティーナは、特に幻覚剤を服用する意味もないため、異常を起こさない程度のごく少量しか食べていない。そのためブイズ兄妹に毒状態をシンクロされないように外へ避難している最中である。
「テオナナカトルよりも辛くないかこれ……ナナ?」
「う~ん……確かに。美味しいけれど症状がテオナナカトルよりも酷いのが珠に傷なのよねー」
 唇に中指を当てて、ナナは笑う。ついさっき、皆でキノコを吐いた後(クリスティーナ以外)だというのにナナは案外余裕綽々のようで、いけしゃあしゃあとそんなことを言ってのける。
「でも、たまには幻覚見るのも良いじゃない? 昼間っからこんなに綺麗なお星様が見える経験なんてそうそうないわよ? ほら貴方は何が見える? 見える世界は色鮮やかなはずよ」
「お前は星が見えるのか……俺は黒い流れ星が見えるよ」
 ロイが見ているのは、瑪瑙やヒスイのように波紋のような模様が見える黒と青の流れ星が黄色い背景の上を放射状に飛び交う光景。現実の景色もきちんと見えているのだが、視界を惑わす極彩色の模様は平衡感覚を容赦なく侵し、頭が上手く働かない。
「うふ、流れ星なら願い事叶うかもしれないわよ? 縁起が良いじゃない」
 なんてことを言いながらナナはロイの頭を撫でる程慣れ切っている様子。年の功である。見渡してみると明らかにトリップの経験のないローラやリムファクシは幻覚の見える状態に翻弄されているらしく、ローラは壁に寄り掛かって荒く息をつき、リムファクシは軽くジャネットに寄り掛かってふらふらとしている。
 鋼タイプの者は幻覚ばかり効いて、毒の効果はほとんど通じないらしい。この集落で最年長であるというドータクンのネイサンと、ハッサムであるマンヅは幻覚を見つつも普通にしっかりと立っているようだ。
(俺も数回しかトリップしたこと無いしなぁ……ナナみたいにうまくはいかないか)
 酒を初めて飲んだ時の情けない気分を思い出しながら、ロイはふらふらと立ちあがる。
「もう立っても大丈夫なの?」
「あぁ……とりあえず」
 ナナは一応ロイを心配するそぶりをみせる。大丈夫との声を受けると、ナナはそっけない表情で髪を掻きあげた。
「あんまり無理しないでね」
「そうする」
 ロイがふらふらと歩みを進めた場所は、家の外。気分を変えようとクリスティーナの様子でも見ようと思って訪れると、どうやら先客がいたようだ。ウィンは保護者だからある程度当然として、もう一人はユミル。
 どうにもユミルはクリスティーナに入れ込んでいるらしい。というよりは、クリスティーナがユミルに入れ込んでいるというべきか。ユミルにまとわりつく数字が一定でない所が気に入った理由の一つであるとのことで、常人には理解しがたい魅力なのだが。
(ユミルとジャネットが付き合い始めたきっかけも、ジャネットが押して押して押しまくったらしいし……案外俺が押していたらあいつは女になったんじゃなかろうか? ま、良いか……どうせ浮気しているわけじゃないだろうし、見届ける必要もないだろう)
 なんて愉快な想像をしながら、ロイは二人のやり取りを見守るのも野暮だと考えて退散する。
(祭りが始まるまで何をしてようか……)
 と、考えながら結局ボーッと移り変わる風景を観察しているうちに、いつの間にか時間は過ぎて祭りの時間が到来する。結局幻覚を見ている間は何もできなかった事を、なんとなくもったいないと思いながら、ロイは祭儀場へと歩き出した。


 集落で生活している者の中で祭りを見た事があるのは、先程毒による吐き気を感じていなかったネイサンくらいなもので、他は集落の者ほぼ全員が見物する事も含めて祭りを初体験であると語る。ドータクンであるネイサンは非常に長生きらしい。
 シャーマン達はもちろん、観客も殆ど全員が祭りを知らない。
(こりゃ弱音は吐けないな……)
 だからなのだろう。集落群のほぼ全員である532名(クリスティーナカウント)が見守っている祭儀場に集まる視線は期待に満ちている。誰も祭りを見たことがないだけに細かい失敗は分からないだろうが、もしも神が現れなければ酷い落胆を覚えられる事だろう。ホウオウがゼクロム云々と言っていた以上、来ないなんてことは考えられないが、万が一という事もある。
 緊張に押しつぶされないよう、息をゆっくり吐いてロイは心を落ち着かせる。舞台への入場が始まると、まずは全員で所定の位置に立つ。
 正方形に整えられた木組みの台座に分厚い絨毯を敷いた舞台に、最初に今回語り手を務めるネイサンが中央を陣取る。次いで、正三角形の点の上にシャーマンの力が格上の者を置く。最も高いクリスティーナは太陽を正面に臨める北に。残る二人はナナと、色々問題を引き起こしたハッサムのマンヅ。やはり、彼はシャーマンとしての力は相当な物であったということらしい。
(まともに戦えば強かったろうに……俺の汚いやり方で簡単にやられちゃったけれどね)
 そして、ロイ達その他大勢が陣取るのは、舞台に描かれた円の模様の上。7人一塊になって東西南北の円周上に立っているという構図だ。北東、南東、南西、北西にはそれぞれ隙間があり、ネイサンが中心からそこを通って中心から正方形の端へ行く事が出来る。
 最初、ロイ達はそれを見守っていればよいとのこと。クリスティーナは趣旨を理解しているかどうか微妙な所であったが、協調性が著しく低い彼女でも海の歌謡祭では歌を真面目に聞いていたというから、ユミルやワンダは規律を乱す可能性を大して心配していなかった。
 その様子を見て、ロイもまた安心することにした。

「……時は来たれり」
 語り手のネイサン以外の全員が固唾をのんで見守る中、厳かな口調で以ってネイサンが呟く。意外と声が高く、女性のような印象を受ける透き通った声だ。祭儀場にはよく響いた事だろう。頭頂部から垂れ下がる腕のような部分は、風を受け止めるように広がっている。
「この世界を支える神々に、感謝の意をささげる時が来た。此度の祭りに招くのは、日々雨の恵みを空より降らせたるあまねく雷雲の祖にして雷雲の母親。黒雲の化身にして、世界の(かげ)を司る者。理想を求める者に力を貸し、豊かさと繁栄を象徴する黒き色の統率者。
 その二つ名を、黒陰ポケモン。名をゼクロム」
 ネイサンはそこまで言うと、一度言葉を切って浮かせていた胴体を舞台に叩きつけて音を鳴らす。重厚なドータクンの体が床を叩く衝撃で鳴り響いた音が、否が応無しにシャーマン達の心を引き締めさせる。
 音を鳴らしたネイサンは再度浮き上がり、ゆったりとした足取りで以って正方形における北西の頂点へと歩みを進める。
 一つの頂点には一つ燭台が置かれており、目覚めるパワーらしき技で一つの燭台に火を燈すと、隣の燭台へと時計回りで移動し、また燈す。全ての燭台に火を燈し終えると、最後にネイサンはもう一度舞台の真ん中に戻り、胴体で床を叩いた。

「歓迎の準備は整った。我らが礼を尽くしたい()の者は、雷雲の祖にして雷雲の母。黒雲の化身にして、世界の陰を司る者。猛々しき容貌を持つ黒きその神の名は何だ?」
 ネイサンが手を振り上げ、一拍置いて舞台の上に上がったシャーマン達から声が上がる。

「ゼクロム!!」
 名を叫んでから、瞬きせずに耐えられるまでの間に見る見るうちに入道雲が形成されていく。それは徐々にだが確実に厚みを増して盆地を闇で覆う。
 瞬く間に全天を覆い尽くした雷雲は、すでに抑えきれない力を主張するかのように雷光を放ち始めた。大地を震わせるような低い唸り声が光に遅れて上空から鳴り響き、さらに雨も降ってきて燭台の炎が徐々に頼りなくなっていく。心臓の鼓動が嫌でも高鳴ってゆく。
 皆、ゼクロムが何を思っているのかこそ分からなかったものの、とりあえず呼び出すことに成功した事だけはなんとなくわかった。いつゼクロムが降りるのかと思うと、楽しみな半面非常に怖い。特に、神の力が暴走しないようにその身に神の力を封じ込める必要のある神子と呼ばれる役職の者は不安が深刻だ。
 ロイはローラの隣に。ジャネットも今回ばかりはユミルの隣ではなくハロルド……ユキメノコと対になるというエルレイドの青年と肩を寄せている。ゼクロムが降りてきたら、普通のシャーマンはその場から退去し、神子だけが舞台の上にはとどまる事を許される。そして、神子はゼクロムの力を受け止めなければならないという。
 喧嘩祭りという乱暴な祭りである都合上、喧嘩の最中に神の力が暴走して世界にいらない影響を与えない配慮が必要である。神を呼ぶまでがシャーマンの仕事であり、ここから先は神子の仕事。強大な神の力を神子たちに分散しなければならない。
 神の力を受け入れる体は男でも女でもない中性的な穢れなき存在でなければならず、そのため処女か童貞か、それとも性別が無いか、一心同体とも言える異性のパートナーと一緒になるかしなければならない。そんな理由で、ロイはローラと一緒に神子をやらされ、ジャネットもまたハロルドと共に身この役職をやっている。
(正直不安でならないな……)

 上空から現れた現れたゼクロムは、雄々しい外見に反して優雅であった。巨体ゆえか翼で羽ばたくスピードはゆっくりめで、小さな豆粒のようだったその体を徐々に大きく見せながら接近する様は思わず息を飲む。時折光らせる尻尾の蒼い光は轟く音が雷そのもので、距離が近くなってくるごとに空気が震えているようだ。
「あれがゼクロムの本物かよ……」
 ロイが思わずつぶやく。腕と一体化した翼も、背中に生えた翼も、大木を余裕でなぎ倒しそうに太い。円錐状の尻尾は叩きつければ岩を粉砕しかねない質量がありそうで、岩石のような顎は噛み付かれれば骨を砕くのも容易だろう。黒光りするその肉体は、見れば見るほど石膏像のモデルに最適な立体感がある。
 見とれている間に、いつの間にか目の前まで近づいてきたゼクロムの威圧感にロイはたじろぐ。帯電した体から感じる神の力はリムファクシと比べると非常に強く、神器無しでは十人がかりでもまともな戦闘にはならないであろう。
 今からその神の力を受け取らなければならない。そんなことできるのかと不安になる。
「良くぞお越しくださいました……ゼクロム……サーズダイン様」
「お久しぶり」
 野太い声。だが、落ち着いた雰囲気のある声で、雷のような荒々しさを感じさせない。シャーマンたちの祈りによって呼び出されたゼクロム――サーズダインは、かつてを懐かしむように目を閉じ、何十年も行われなかった祭りの再来に万感の思いを味わっている。
「本当に久しぶりね、皆さん」
 たくましい見た目に反して、サーズダインはきわめて普通の女性口調を操る女性であった。優雅とさえ思えるようなゆったりとした動きで彼女は全体を見渡すと、ナナに目を向ける。
「貴方が、ナナね? 貴方と、もう一人……こちらの、ジャネットさんのおかげでこの祭りが開催されたと聞いたわ。ありがとう」
 見つめられて硬直していたナナがひざまずこうとしたところを、サーズダインは首を横に振る。
「今日は久しぶりのお祭りですし、かたっ苦しい事は無しで行きませんか?」
「……かしこまりました」
 言いながら頷いたナナに対して微笑を浮かべ、サーズダインは腰をかがめる。
「さぁ、それでは私に口付けを」
 ナナが突き出されたサーズダインの大顎に唇を触れさせる。ナナの唇が触れた瞬間、サーズダインの体から満ち溢れる神の力が溶けるようにナナに吸収されていく。
 こうやって男女の別なし口付けを交わすことで、神の力を分散させていく。これが神子の仕事だ。同性とキスをするという事でローラは難色を示していたが、ゼクロムという種族の神々しさを目の当たりにすると、その抵抗も薄れたのか順番が回ってくると抵抗なく口付けを交わした。
 口を通じて神の力が自身に内包されると、空腹が満たされた時のような充足感が何万倍にもなって体が駆け巡るのを感じる。しかしその感覚は一瞬。不意にいつも通りの感覚に戻るころには、サーズダインはまだ終えていない者と口付けを交わしていた。夢心地の間に、意外とと時間が進んでいたらしい。
 一回口付けを交わすごとに、預けられ減少していった神の力は、その口付けが全て終わるころには先程までの強大な力を無くし、最後にフリージアが口付けを終えると、全くと言っていいほど神の力を感じないほどになっていた。
(とはいえ、神の力が無くなったと言ってもその巨躯に秘められた力は並大抵の事で崩せるものではないな……神と人間の一対一で人間の勝率が低いのも頷ける……)
 そんな思いを抱きながらロイが見上げていると、スクツと立ちあがったサーズダインが笑みを浮かべて見下ろした。

「さて、改めて久しぶりですね、地上のみなさん……私の名はサーズダイン。種族は、皆様がたの良く知る所……ゼクロムでございます」
 溜め息を挟みつつ、サーズダインは続ける。
「思えば下に来るのも久しぶり過ぎて、私の顔を知る者ももうとっくにいなくなってしまいましたね……」
 この場にいる誰も出せないような低い声でゼクロムが言う。目を細めながら昔を懐かしむような遠い目、感慨深さを伺わせるその表情と声の中には、僅かながら涙声が混ざっているように聞こえた。
(感慨深そうな口調や、字面から察する……いつだったかにナナが言っていたように、祭りを待ち望んでいたのはこちら側人間だけでなく、神も……ってことか)
「ですが、顔見知りがいないのならば、また再び皆様がたの顔を覚えておけばいいという話ですね。今日は、たくさん楽しんで皆様の顔を覚えさせてもらいます……協力してくれますね?」
 語り手を務めるネイサンに向けてサーズダインが問いかける。
「どうぞ、貴方のための祭りをご堪能ください」
 語り手を務めるネイサンは、そう言って体を傾けた。傅く際は、ドータクンである彼は体ごと預けないとどうにもならないようである。
「何を言いますか……貴方達が楽しまずに誰が楽しむというのですか? この祭りは私だけのためではない、かたっ苦しい事は無しと言ったではありませんか。今日は、神が人間と同じ存在に成り下がる日。神子達に力を預けた私は貴方達と同じ。神と殴り合う為のお祭りなのですから、礼儀もへったくれもいりませんよ。
 ですから……難しい事抜きにそろそろ高らかに宣言してください。私も、お祭りの開催をしたくってうずうずしている所なんですからっ」
 下から掬いあげるような手つきでネイサンの尻と思われる部分を小突き、サーズダインは司会進行を促した。
「かしこまりました……」
 神に役目を与えられて嬉しいのか、ネイサンはにかみながら腕を広げ宣言する。
「さぁ、日頃からの鬱憤をぶちまけ、その戦いで流れた血を大地にささげましょう。イライラを吹き飛ばし、その活力で以ってこの地の豊穣を祝いましょう。そして、その過程で決まるこの集落一喧嘩が強い奴は、豊穣の神の兄妹の化身として強敵に挑む権利が与えられるのです。さぁ、今からこの集落の者すべてが家族。
 行われるのは他愛もない兄弟喧嘩に家族喧嘩。殴り合っても笑顔で許しあうルールと、そのためのマナーさえ守れば遠慮はいりません……一世代に一度のヴィオシーズ盆地、喧嘩祭り……開催だ。それでは、神の雄たけびに続け!!」
 手をかざしてネイサンがサーズダインを促す。サーズダインはというと、心が洗われそうなほど美しく透き通る蒼い光を尻尾と角の先端から放ち、翼と一体化した拳を振り上げる。
「生きること、それは即ち戦いです……では皆様、叫びましょう」
 サーズダインが翼の裏にある拳を握りしめ、振り上げる。
「戦えぇっ!!」
「オォーー!!」
 最後の一言をいわゆる金切り声に近い感覚で言い終えると、低い声から高い声まで鼓舞する声が一気に会場へ伝播した。そこかしこで腕が振りあげられ、会場全体を揺らすような異様な歓声が集落を支配した。

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*1 針状の投擲用武器。軽いため致命傷を与えるのは難しいが、携帯性に優れる
*2 1対1の事

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Last-modified: 2010-11-19 (金) 00:00:00
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