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サーナイトとエーフィのデート実演講座

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SOSIA?

サーナイトとエーフィのデート実演講座 

Written by March Hare

注意:R18表現があります。
反転ネタバレ:少しだけ百合(♀×♀)の表現があります。
SOSIAと火遊びと水遊びの繋ぎのお話です。


◇キャラクター紹介◇

○セルネーゼ:グレイシア
 ランナベールの王リカルディの護衛。シオンの新人教育係も務める。

○シオン:エーフィ
 ランナベール軍総指揮官となるべく修行中。

○孔雀:サーナイト
 王女フィオーナの護衛の任を解かれ、シオンの付き人となった。
 シオンとは義姉弟の関係。

○ライズ:ニンフィア
 セルネーゼの婚約者。セーラリュートの学生。


1 


 季節はいよいよ春。秋から黒塔に入ったシオンも一通り仕事を覚えて、セルネーゼが教えることもほとんどなくなっていた。
「はぁ……」
 そんな中、セルネーゼは大きな悩みを抱えていた。というのも、少しの休暇を貰ってジルベールの実家に帰った折、この春休みに婚約者のライズと顔を合わせておけとのお達しがあったのだ。
「ため息なんかついて、どうしたんですか?」
「いえ……何でもありませんわ」
 シオンに心配されてしまったが、年下の後輩に相談するのは気が引ける。
 ライズとどう接していいのかわからない、なんて。
 純粋だった子供の頃ならともかく、今やセルネーゼは立派な大人だし、ライズだってもう十六だ。聞けばニンフィアに進化して、それは美しく成長しているのだという。全く同じように接するわけにはいかないということだけはわかっている。
 だからこその顔合わせではあるのだが。
 ライズが卒業して婚姻を結ぶ前に、互いの親睦を改めて深めておけと。母からは、七つも年上なのだからしっかりとリードしてあげなさいときつく言われている。
「なんでもないのにため息なんかつかないでしょ? 僕で良かったら相談に乗りますよ?」
 思えば、シオンも年下の男の子ではないか。接し方、という点では近いものがあるのではないか。相談。そう、結婚するとなれば、生涯の伴侶だ。年下だからって、悩みを打ち明けることを躊躇してどうする。
「実は……」
 シオンに言ってしまったら、学生時代から抱き続けたこの淡い想いに決別することになる。
 でも、シオンにはフィオーナがいる。いつまでも引き摺ったままではライズに合わせる顔もない。それに、セルネーゼがどんな態度に出たところでシオンとフィオーナの関係はこの先永遠に揺るがない。それはわかりきっている。
 ようやく訪れた機会だ。変わらないものに執着したっていたずらに時間が過ぎるだけ。
「わたくしには婚約者がいますの」
 言ってしまった。これでシオンとはきっぱり、先輩と後輩以上の関係を断ち切ることになる。
「前にハイアットさんに聞きましたよ。まだセーラリュートの学生なんですって?」
 って。
「ご存知でしたの!?」
 なんということだ。あのジジイめ。セルネーゼとシオンの関係を面白おかしく眺めているのにも腹を立てていたのに、余計なことまで吹き込んで。
「少し前にちらっと聞いただけなんですけど」
「あああ……わたくしの勇気とは一体……あまりに莫迦莫迦しいですわ!」
「は?」
「こちらの話ですわ!」
 もうこうなったらヤケだ。今更細かいことを気にして何になる。正直に相談してしまおう。同年代の友人などいないのだから。約一匹、ライズに手を出そうとしたショタコンマフォクシーのことが脳裏をよぎったが、役に立たないどころか嘘を教えて邪魔をしてきそうなので思い浮かべて二秒で却下した。
「悩みって婚約者のことですか?」
「ええ。そろそろ学園の春休みでしょう? そこで一度彼に会って、親睦を深めておけと……又従弟にあたる子ですから、幼少の砌には交友はあったのですが……」
「大人になってからは会っていないんですね。それで、どう接したものかと悩んでいる……といったところでしょうか」
 シオンは小憎らしくも冷静で、このときばかりはまるで年下には思えなかった。恋愛や結婚に関して言えばセルネーゼよりも先輩なのだから当たり前だが。
「でも、さすがに僕には相談できないこともありますよね……」
 シオンは少し恥ずかしそうに目を逸らした。
 セルネーゼとて、わかっている。リードしてあげなさいと言っていたときの母の妖しい微笑み。親睦を深めろというのは、そういうことなのだ。
「お姉ちゃ……孔雀さんか、鈴さんかなあ。そういうコトに詳しくて、喜んで協力してくれそうなひとって」
 鈴とはほとんど話したことがないが、孔雀なら。真面目に答えてくれるかどうかはともかく、断りはしないだろう。思えば彼女とは同い年だ。気軽に話せる同性の知り合いの中では、実はかなり優秀なポケモンなのでは。
「それは是非、孔雀さんにお願いしたいですわ!」
「わかりました。伝えておきます」
 妙な風向きになってきたが、ライズの前で醜態を晒すわけにはいかないのだ。今は恥もプライドも捨てて、先人の教えを請う時。
 ミルディフレイン家とクレスターニ家、それにセルネーゼ自身とライズの将来の安泰のため。
 わたくしは何だって身につけてみせますわ。

2 


 孔雀が指定した待ち合わせ場所は、黒塔からも屋敷からも離れたランナベール南端の港公園だった。知り合いに会わないようにとの配慮だろうか。
 昼時の港公園は、市場の露店で買った食べ物を手にランチタイムを過ごすポケモンたちで賑わっていた。
「あ、来たみたいよ」
 東方の衣の形をしたサーナイトが、ぶんぶんと手を振っている――のはいいのだが。
「お姉ちゃん、恥ずかしいからやめようよ? ほら、みんな見てるし……」
 どうしてシオンがその隣にいるのか。
「ご機嫌よう、孔雀さん……それにシオンさん。どうして貴方まで?」
「や、なんかお姉ちゃんがさ……」
「セルネーゼさんは実戦経験がお有りでないとのことでしたので、今回はシオンくんと仮のカップルとしてデートしていただこうかと思いまして」
「恥ずかしながら仰有(おっしゃ)る通りで……は?」
 カップル? デート? 誰と?
 セルネーゼは孔雀とシオンの顔を順番に見て、聞き間違いでないことを確認した。
「わ、わたくしがシオンさんとデート……!?」
「シオンくんはこう見えて女性経験は豊富なのですよ」
「問題はそこではありませんわ!」
 よりによって何故シオンなのか。吹っ切ってしまいたい相手なのに。
「今日はセルネーゼさんを婚約者だと思って接するように努力しますから……それとも、僕じゃ不満ですか?」
「ふ、不満などありませんわ! シオンさんがこのような形で協力してくださるなんて……わたくしには勿体無いくらいですわ」
「んー。セルネーゼさん、お相手の方の呼び名がいまいちですねー。年上なのですから、『さん』付けはどうかと」
 早々に孔雀がダメ出しをしてきた。
 なるほど。シオンとデートしながら、改善点を一つ一つ修正してゆく。この方法なら、ただ話を聞くよりもずっとイメージが湧くし、身につけられることも多いだろう。
「そ、そうですわね……では……シオンちゃん、と呼ばせていただいても?」
「はい、セルネーゼさん」
 シオンはにっこりと微笑んで、セルネーゼに擦り寄ってきた。
「す、少し距離が近いのでは」
「これでも遠慮してるつもりなんですけど……本当の恋人同士なら、もっと近いですよ」
「っ……その通りですわ……」
 ここまで緊張するとは思っていなかった。しかしこの年になって男の子に慣れていないなんて、間違ってもライズには悟られたくない。ここで慣れておけば昔のようにお姉さんとして振る舞えるはずだ。そのために孔雀に相談したのだから。
「でも僕、こうして普通にデートした経験ってないんだよね……きちんとお付き合いしたのってフィオーナが一匹目だし」
「そ、そうなのですか? では経験が豊富、とは」
「……もう、お姉ちゃんが余計なこと言うからっ」
「ごめんなさい。別にシオンくんが遊び人というわけではないのですよ、セルネーゼさん。やむを得ぬ事情を抱えていたと言いますか」
 学生時代のシオンは妙に大人びていたけれど、それは女遊びをしている風ではなかった。琥珀色のその瞳に、今のようなキラキラした輝きが感じられなくて、冷めた目で周囲を見ていたからだ。
「込み入った事情まではお聞きしませんわ。しかしシオンちゃんもデートは初めてということで……よ、よろしいのですか? フィオーナ様に悪いような……」
「孔雀さんもいることですし、本当に二匹でデートするわけではありませんから……」
「そ、そうでしたわね。これはあくまで練習、練習ですのよ……」
 意識しすぎないように、自分に言い聞かせた。わたくしの本命の相手は彼ではないのだ。あくまで学生時代の淡い初恋、気の迷い。いつまでも引きずっているわけにはいかない。
「い、行きましょうか、シオンちゃん……」

3 [#3CRXVTN] 


 それからレストランに入り、市場を歩き、公園で座ってお話しをしたりなんかして、随所で孔雀からの助言をもらって、日が暮れる頃には一通りの流れは掴むことができた。最後に海に沈む夕陽を眺めながら、一日を振り返っている。
 セルネーゼの想像していたものと大差なく、少し拍子抜けしたけれど、シオンと一日を過ごせたことは一生に残る思い出に――
「って、わたくしが教えていただきたかったのはこのようなことではありませんわ!」
「セルネーゼさん……?」
「いえ、シオンちゃんとのデートは楽しめましたわ。……ですが! これでは学生と変わりませんわ。わたくしは大人の女としてもっと……」
「ご安心くださいませ。わたしはきちんと最後まで考えております!」
 いつの間にかシオンの背後に回り込んでいた孔雀が、彼の首に手刀を振り下ろした。
「……れ?」
「おやすみなさい、シオンくん」
 シオンがセルネーゼに寄りかかるように倒れてきたので、その体を横から支えた。意識を失っている。エスパーの力が弱いと聞いていたが、こんな催眠術のかけ方もあるのか。
「ここからは女同士のお話ということで。セルネーゼさん、わたしに聞きたかったことというのはずばり、殿方の悦ばせ方ですよね?」
「なっ、そそそそのような大きな声で……っ」
 臆面もなく言われると恥ずかしくなってきた。
 が、母からのお達しだ。ライズときちんと関係を結んで、子供時代に別れを告げ、二匹の男女、婚約者としての絆を深めるためにと。
「いえいえ良いのですよ。お相手の方の種族は?」
「……ニンフィア……だそうですわ……進化してからは会っていないのですが……」
「ほう! リュートの学生でニンフィアというと、もしやライズくんだったり?」
 孔雀の口からライズの名が出てくるのは意外だった。
「……どうして彼の名を?」
「いえ、フィオーナさま達と今年の学園祭に視察に行ったのですよ。そこでお会いしまして……それはもうシオンくんもかくやと言うほどのそれは美しい少年でしたねー。セルネーゼさんったらシオンさまだけでなく、次々と美少年ばかりを食い物に……」
「わたくしはシオンちゃんには何もしていませんわ! ただ少し気になる相手だったというだけで……何も……」
「おや。良いのですか? 日も暮れてきたこれからが本番……実は今夜は人目につかぬ穴場の宿を予約してありまして」
「は? それはどういう……」
 話の展開が早すぎてついてゆけない。
 孔雀は気絶したシオンの頭を撫でながら、満面の笑顔を見せた。
「何事も実践あるのみ、ですよ? エーフィとニンフィアなら同じイーブイの進化系ですし、良い経験になるかと」
 まさか、そんなこと。
 できるわけがない。シオンを相手に? 適うはずのない願望。違う。許されない。いくらなんでもそこまでは。練習では済まない。
 それなのにどうして。シオンを抱き上げて歩き出した孔雀の後ろに、わたくしは黙ってついて行くのか。
「……待っ」
「良いのですか? 最初で最後のチャンスですよ?」
 ああ。まるで悪魔の囁き。
 逆らえない。シオンに素直に気持ちを伝えられず。再会したときには遅く、決して取り返せないところに行ってしまった彼を――

4 


 路地裏を通り、裏口から入ったホテルは、港町の中心から離れている割に内装が綺麗で、正に穴場だった。
 オーナーと思しきマラカッチは孔雀からチップを受け取ると、黙って非常階段へと通してくれた。
「いちばん上の四階を貸し切っておりますので、誰にも見られる心配はありませんよ」
 頼りなさそうに見えて、抜かりのない女だ。
 辿り着いた四階の一室は、クイーンサイズのベッドが置かれた、なかなかに高級感のある部屋だった。
 孔雀はベッドにシオンを寝かせ、その縁に腰掛けた。
「さて。緊張しておられるようですね?」
「このわたくしが緊張などしているはずがないではありませんか」
 まるで台詞を棒読みしているかのような変な声が出た。
 孔雀は慣れた手つきでシオンの耳の下の飾り毛を梳きながら、ふふ、と微笑んだ。
「ご経験がお有りでないのですから無理もありませんね。まずはわたしがお手本を、ということで」
 孔雀がシオンに顔を近づけて、何をするのかと思いきや、目を閉じてキスをした。止める間もない早業だった。
「な、な、な、な……」
 言葉が出てこない。頬にキスならともかく、口。口と口ではありませんの。
「起きて、シオンくん?」
 王子様を目覚めさせると噂の乙女のキス? それならまだ、許される?
「セルネーゼさんったら。これからもっともっと刺激的なコトをするのに、これくらいで顔を赤くしていてはいけませんよ?」
「そ、そそそうですわね……」
「ん……」
 ベッドに横たわったシオンが、ゆっくりと目を開けた。
「セルネーゼさん……? ここは……えっ?」
 シオンはホテルの一室に連れ込まれたことに気づいて、セルネーゼに驚きの目を向けてきた。孔雀はいつの間にかシオンの後に回り込んで、死角から悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「いえ、その、こ、これはですね……わ、わたくしはそのようなつもりではありませんのよ! 孔雀さんのお誘いで……」
「ふふふ。おはようございます、シオンくん」
 孔雀は頭をぽんぽんと軽く叩いて、シオンを振り向かせた。
「お姉ちゃん……まさか、本気で……」
「子供みたいなデートのままで終わったら恥を忍んで相談してくれたセルネーゼさんに失礼でしょう? ここからは、大人のレッスンなの」
「や、そんなところまで、頼まれてないよ……」
「セルネーゼさんには頼まれましたし……ねぇ、セルネーゼさん」
 シオンもそこまで嫌がってはいないし、だいいち孔雀のことを嫌っていたら義姉弟になんてなっていないはずだ。でも、セルネーゼのことはどう思っているのだろう。
「シオンちゃん……わたくしは……」
「ほら、セルネーゼさんはシオンくんのことが好きなのですよ。シオンくんはどうなの? 最後に一夜の思い出くらい作ってあげてもいいとは思わない?」
 孔雀がシオンのお腹を撫でながら、囁きかける。
「ぁぅ……僕は、セルネーゼさんのこと……ひぁん、お腹触るのやめてよっ」
「あら。気持ち良さそうにしているのに?」
「まともに話せなくなるからっ……」
 孔雀に言われてしまったけれど、セルネーゼは今も、シオンに好意を抱いている。この炎はいくら消そうと思っても消えはしない。
 シオンの気持ちが聞きたい。シオンがセルネーゼを拒絶するなら、これまでだ。彼の本意に沿わないことはしたくない。
「……セルネーゼさん」
「は、はい」
「僕もセルネーゼさんのことは嫌いじゃないです。好きか嫌いかって言うと好きです。でも、こんなことをするのは……や、やぁんっ……お姉ちゃんっ!」
 孔雀はシオンにその先を言わせまいと、また脇腹を撫でた。孔雀の手はシオンのお腹を這うように下へと滑ってゆき、ついに腿の付け根まで到達した。
「ぁぁ、や、やめ……はぁう……」
 シオンがびくんと体を震わせて、孔雀にしがみつこうとする。
「セルネーゼさん、どうぞこちらへ来て」
 その様子を食い入るように見つめていたら、孔雀に手招きされた。見て覚えるなら、近くで。そうですわね。
 セルネーゼが歩み寄ると、孔雀はシオンの股をまさぐる右手をそのままに、自身もベッドに寝転がって左手でシオンの体を抱いた。
「シオンくん……気分はどう? お姉ちゃんに悪戯されてるところ、セルネーゼさんに見られるのは」
「お姉ちゃんっ……こんなの、おかしいよぉ……ぁ、んぅ……」
「我慢しなくていいのよ? お姉ちゃんに甘えて、もっと可愛い声で鳴いて」
 全く経験のないセルネーゼの目から見ても、孔雀は相当な床上手だ。抵抗の意思を見せようとしたシオンが瞬く間に骨抜きにされて、目を潤ませながら孔雀に身を任せている。孔雀がシオンをぎゅっと抱きしめた。
「ふぁ……お姉ちゃん……」
 シオンはもう抵抗しない。これが抱擁ポケモンと呼ばれるサーナイトの力なのか。シオンは心地良さそうな声を出して、孔雀に抱きついた。
「シオンくん……」
 孔雀は目を閉じて、またキスをした。今度はさっきとは違う、舌と舌が絡み合うディープなキスだ。
「んぁ……むゅ……お姉ちゃん(ほえぇひゃん)……っ」
 顔が熱くなるのが自分でもわかった。見ているだけでも犯罪的だ。シオンのこんな姿を。孔雀が犯してゆく光景を。
 二匹の荒い息遣いが。ぱたぱたと跳ねるシオンの尻尾が。その付け根を撫でる孔雀の手が。どうしようもなくセルネーゼを興奮させて、胸の奥を、お腹の底を、不思議な熱で満たしていく。
「ん、ちゅ……はふぅ。わたしの方が蕩けてしまいそう……」
 孔雀の顔も紅潮していて、いよいよ場の雰囲気も熱を帯びてきた。見ているだけの自分がもどかしい。入りたい。否、代わってほしい。孔雀が羨ましい。
「お姉ちゃん、だめぇ……僕、もう……何も、考えられなくなっちゃいそう……」 
「いいのよ……わたしに身を任せて……」
 孔雀はシオンを仰向けに寝かせて、細やかな毛並みに覆われた胸を撫でている。
「孔雀……さん」
 気がつくと、前足が伸びていた。
「……あら? セルネーゼさんもその気になっちゃいました……?」
 孔雀の目はとろんとしていて、すでに正気ではない。
「っ――」
 伸ばした前足を掴まれて、強い力で引っ張られた。
「ひぁっ、冷たっ!?」
 シオンが悲鳴を上げる。
「は……?」
 硬いような弾力があるような、短い棒状の何かに肉球が触れている。
 孔雀が引っ張ったセルネーゼの前足は、シオンの股の間に――
「な、な、な、なななななななななななな」
「あらあら。刺激が強すぎたみたいですねー」
「ななな、何をしますか貴女はっ! それも、いきなりこんな、こんな……」
「うふふ。ごめんなさい。ではこのあたりから」
 孔雀は掴んだままのセルネーゼの前足を、シオンのお腹に移動させた。
「ほら、こうして、優しく撫でてあげて……」
「ま、全く……貴女というひとはっ……」
 しかしこの程度で躊躇していては、ライズをリードすることなんてできない。
 あまりに突然のことで驚いたが、深呼吸をして、心を落ち着かせた。
「お姉ちゃんっ……セ、セルネーゼさんに……そんな、こと……はうぅ……」
 エーフィは毛足は短いのにきめ細やかで、ビロードのような肌触りだとよく形容される。
「綺麗な毛並みですね……」
 話に聞くのと実際に触れるのとではぜんぜん違う。毛の下の肌の温もりや弾力まで伝わってきて、ビロードの生地なんかよりずっと触り心地が良い。
 と、いうよりは。
「あぁ……」
 シオンとこんな行為をしていることに、喜びを感じている自分がいる。
「セルネーゼさんっ……、つ、つめた……ぁっ、んっ……!」
 シオンは男の子だからわかりにくいけれど、触ってみると、毛の下にちゃんと乳頭があるのがわかる。そこに触れるたびに、シオンが押し殺したような喘ぎ声を上げた。
「シオンちゃん……可愛いですわ……」
「んふふ。キス、してみます?」
「えっ……き、キス、ですか……?」
「上手にすると、頭の奥からふわぁっと耳に突き抜けるような快感が走って、体の力が抜けて……ね、シオンくん♡」
 孔雀は胸の角を触りながら、シオンに妖艶な微笑みを向けた。感情を受信できるサーナイトには、そこまでわかってしまうのか。
「お姉ちゃんったら、もう……いい加減、こんなことっ」
 孔雀と話していたら、シオンが体を起こして孔雀を軽く頭で押した。
「っと――油断してしまったわね」
 孔雀は一度は体勢を崩しかけたが踏みとどまり、逆にシオンの方がベッドから転げ落ちそうに――
「危ないですわ!」
 シオンが落ちないように抱き留めようとしたが、勢い余ってベッドにまた押し倒す格好になってしまって。
「わぁっ、セルネーゼさ……」
「ご、ごめんなさい、シオンちゃん……ぁっ」
 自分の体が仰向けになったシオンの上に乗っていた。おまけに顔がすぐ近くにあって、頭が沸騰しそうになったけれど、こんんなことで何もできないようではいけない。
「……目を閉じなさい」
「え……?」
「目を閉じなさいと言っているのです!」
「は、はい……」
 孔雀が後ろでくすくすと笑っているが、気にならなかった。いや、気にしなかった。
 目を閉じたシオンに、鼻が邪魔にならないよう、角度をつけて口を近づける。横から咥え込むみたいにして。
「ん、んんっ……!」
「ん……こう、ですか……? これで……ん、はぁ……シオンちゃんと……んっ……」
 舌と舌が絡み合うだけでなく、尖った犬歯や歯茎の感触が想像とは違って新鮮で、未知の体験だった。
 でもそれ以上に、シオンの体の温もりを感じることとか。
 苦しくなって息継ぎをしたら、シオンも同じように息が荒くて、通じ合っていることを実感したり。
 とにかく、体験して初めてわかることだらけで、頭で考えていた自分が莫迦(ばか)らしく思えてきた。
「んむ……はっ……ふぅ……シオンちゃん……」
「ぁ、んん……はぅ、ふぁぁっ……」
 あまりに必死で、息が上がってしまうまで気がつかなかった。
「……ふぁっ……はぁ、はぁ……苦しい、ですわ……」
 離れると体が驚くほど熱く、胸の鼓動は心臓が飛び出しそうなくらい高まっていた。
「あらあら。わたしよりずっと激しいキスね」
「セルネーゼ、さん……ふぇぇ……」
 シオンは頬を紅潮させて息を弾ませている。
「はぁ、はぁ……これで……良いのかしら……」
「バッチリです! 見ているわたしも興奮しちゃいました……シオンくんもちゃんと満足してくれたみたいですし」
 孔雀はシオンの頭を撫でながら、うっとりとした溜め息をついた。
「さぁ、これからが本番ですよ……」
「お姉ちゃん……っ」
 シオンはもう抵抗しなかった。というより、できないのかもしれない。セルネーゼも、気持ちは昂ぶっているのに全身の力が抜けたみたいな感覚に襲われて、動けないでいた。
 孔雀はベッドの脇に中腰になって、迷うことなくシオンの下半身へと口を近づけてゆく。
「シオンくんにこうやってしてあげるのは、久しぶりね……」
 久しぶり、とはどういうことなのか。シオンと孔雀はすでにそういう関係だったというのか。
 そんな考えが巡るけれど、すぐにどうでも良くなってしまう。
「……はむ……っ、ん……」
「ふぁ、ぁ、ひぁっ……」
 孔雀が少し大きくなったピンク色の突起を咥え込むと、シオンはびくんと体を震わせ、尻尾をぱたつかせた。
 エーフィのような種族では、普段は毛の間に隠れて見えないくらい小さくなっている、らしい。まじまじと観察したことなんてないけど、もちろん知識はある。でもちゃんと見たのは初めてだし、それを口で咥えているところなんて。
「ぁ……ふぁっ、んにゃっ……ぁ、んん……!」
 孔雀は右手をシオンのものに添えて、左腕で抱きかかえるように体を抑えている。尻尾や耳がぱたぱたと動いて、押し殺したみたいな、声にならない声が上がる。そんな様子を、セルネーゼはしっかり観察していた。
「ん……大丈夫よ……力抜いて……はふ……お姉ちゃんに、任せて……」
 孔雀はともすれば甘えた声にも聞こえるような、色っぽい声色でシオンに語りかける。口を離した孔雀とシオンのものとの間に透明な糸が引いている様子はあまりにも艶めかしい。
「あらぁ……物欲しそうな目しちゃってぇ……」
 その情欲的な、孔雀の紅い瞳が、こちらに向けられた。
「い、いえっ、わたくしは……きゃっ……!」
 何が起こったのか理解したときには手遅れだった。
 そんなに俊敏な動作には見えなかったのに、気がつくと孔雀に抱き上げられていて――
「うふふ……」
「ちょっと孔――んんっ!!?」
 ――キスされた。もはや孔雀の行動原理が全くわからなかった。
 口の中だけじゃなくて、頭の中がかき回される感覚に襲われて、抵抗することもできなかった。というより、正確には抵抗しようという意志を削ぎ取られてしまったみたいだ。全身の力は抜けて、ただ自分の舌で孔雀の動きを追うことで精一杯だった。
「ん、ふぅ……おすそ分け、です♡」
「……は……?」
 孔雀が笑顔でそんなことを言って、セルネーゼの体を離した。
「ひゃっ――!」
 すとん、と落ちたところはベッドの上。隣にはシオンがいる。
「――な」
 まだ力が上手く入らない体で、孔雀を見上げた。
「何をしますかっ! わ、わたくしがどうしてあ、貴女なんかと……」
「間接キス……的な? ふふ。セルネーゼさんが可愛らしかったもので、つい」
 まさか自分が、しかも同じ女性である孔雀に一瞬で骨抜きにされてしまうなんて、あまりに屈辱的だ。何が間接キスだというのか。間接――?
「あ……わ、わたくし、シオンちゃんの……」
「そうですよー。ついでにキスのレッスンも兼ねて、ね?」
 孔雀は完全に情欲モードに入っていて、目つきも声もかなり妖しい。セルネーゼの首に手を回してきたかと思いきや、シオンの()()にぐっと顔を近づけさせられた。
「っ……」
 初めて間近で目にして、唾を飲み込んだ。孔雀の行為の成果か、シオンのものは大きく張り詰めていた。
「お姉ちゃん……途中でやめないでよぉ……」
 シオンがついに自分から求めてきた。快楽とはこんなにポケモンを変えてしまうものなのか。
 いや。もう自分だけが冷静だなんて思うのも間違っている。だって、もう自分を抑えることすらできないでいるのだから。
「安心してシオンくん。続きはセルネーゼさんがしてくれるから……」
「えっ……わたくしが……?」
「自分に正直になって……あんなに物欲しそうに見つめていたではありませんか」
「……そ、そうですわ。練習するために、ここへ来たのですから……」
「まだそんなコト言って。シオンくん、可愛いでしょう? めちゃくちゃに犯したくなっちゃうでしょう? シオンくんが自分から求めてくるなんて、珍しいですよ? ほら、早く楽にしてあげましょう? セルネーゼさんも、ほら……」
 それ以上、孔雀に言い返す気にはならなかった。もう自分の欲望に忠実になる意外の選択肢なんて無駄にしか思えなかった。
 ぴんと伸びたシオンのピンクの突起を、そっと口に咥えた。
「ぁん……っ……」
 見た目ほど硬くはなくて、かといって柔らかいわけでもなく、不思議な感触だった。弾力はあるけど、少し強く刺激したら傷つけてしまいそうで。
「……あまり力が弱すぎるとくすぐったいみたいですから、少しだけ……そう……」
 孔雀がセルネーゼの首に手を回したまま、耳元から助言してくれる。いよいよまともなレッスンらしくなってきたけど、正直なところ邪魔だと思わなくもない。
 欲を言えばシオンと二匹きりでこんなことがしたかった。
「ぁ、ん、ぁ、ぁ、ぁっ……はぁっ……セ、セルネーゼさん……っ、ぁふ、ひゃうん……!」
 でもこの機会を作ってくれたのは孔雀だ。今も孔雀に言われた通り、シオンが気持ち良くなってくれるように、躍起になっている。
 わたくしにはこれで十分ですわね。
「ん、っ……シオンちゃん……っ、気持ち、良い……ですか……? ん……」
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁっ、ふ……だ、だめっ、ぁ、ん、ひぁ、ぁ、ぁあ~……っ!」
「ん、ふぁ、んぁっ!?」
 シオンが一際大きく体を震わせたとき、どくん、とシオンのものが脈動して、口の中に熱いものが広がった。驚いて口を開けてしまって、白い液体が勢い良く顔に浴びせられる。
「うふふ。よくできました♪」
 孔雀は嬉しそうにセルネーゼの頭を撫でて、やっと体を離してくれた。
「に、苦い……ですわ……ああ、しかも、こんなにベトベトしているのね……」
 苦くて、ほんの少し甘いような、変な味だった。でも、シオンの体から出てきたものだと思えば、悪い心地はしない。吐き出すのはシオンに失礼な気がして、口の中の精液を飲み下した。
「ごめんなさい……」
 シオンはまだぐったりしているが、申し訳なさそうな視線をこちらに向けて謝った。
「あ、謝るのはわたくしの方ですわ……シオンちゃんに、このような……」
 顔や飾り毛についた白濁を前足で拭って、どうしようかと戸惑っていたら、孔雀に前足を取られて、
「ぱくり」
「なっ」
 綺麗に舐め取られてしまった。
「セルネーゼさんだけ良いところ持って行くなんて、ずるいです。わたしも長い間ご無沙汰ですのに……」
 などと言いながら、孔雀は舌なめずりをして、シオンの後足やお腹の上に落ちた白濁を手の衣で拭き取った。
「お、お姉ちゃんっ」
「はぁ。初めてにしては上出来ですけど、こんなにこぼしちゃって、もったいないですねー」
 孔雀は僅かに手についたものまで、惜しむように舐めている。
 ああ、孔雀は本当にこういうことが好きなんだって、納得した。シオンのものだから、飲むのが嫌だとは思わなかったけれど、味は好きにはなれそうもない。
「んー。やっぱり、いいわね」
 孔雀は満足そうに微笑むと、シオンを抱き上げた。
「シオンくん。今度はわたしとふたりで、いいコトしようね」
「そういうのは冗談だけにしてよ……今日だって本当は僕、こんなつもりじゃ……」
 シオンが冷静さを少しずつ取り戻していて、つられるようにセルネーゼも落ち着いてきた。
「あらぁ。今日は泣かなかったし、シオンくんも結構楽しんでたでしょ?」
「あ、あのときだって……な、泣いてないもんっ」
 この二匹の間にはやっぱり入れそうにない。
 学生時代からシオンのことは好きだったけれど、所詮、諦めがつく程度の気持ちだったのだ。
 孔雀に(そそのか)されて淫らな行為をしてしまったことに後悔している自分がいる。
「シオンちゃん……ごめ……いいえ。ありがとうございます。ですが、今日のことは……忘れてください」
 答えを待たず、セルネーゼは部屋を後にした。

5 


 きっぱりと諦めるつもりだった。
 こんなことになるなんて想像もしていなかった。
 夜の街を駆けていると、体がまだ火照っているせいか、いつもより風が冷たく感じる。
 一体何を知りたかったというのか。
 冷静に考えれば、孔雀に相談したのが間違いだった。
 ライズに会ったときに失敗したくなかったから。具体的な助言なんて本当は求めてはいなくて、ただ経験者の話を聞くことで安心したかっただけ。
 でも、シオンとは、触れ合って、キスもして、一線を越えるような行為までして、最後にいい思い出ができた。これだけの経験をしたのだから、ライズと再会しても戸惑うことはないはずだ。
 弟みたいに可愛がっていたライズとはもう十年近く会っていない。
 ライズの方もセルネーゼに懐いていて、子供の絵空事かもしれないけれど、結婚したいなんて言われるほど好かれていた。
 あのとき自分は何と返事をしたのだったか。十年後に現実になるなんて思っていなかったから、適当にはぐらかしたかもしれない。
 シオンはセルネーゼにとって、心の隙間を埋めてくれる存在だった。
 今日のことは最後のシオンとの思い出として、大切にしまっておくことにしよう。
 これでようやく、今度こそ気持ちの整理がついた。

「……ふふ。ライズに会うのが楽しみですわ」
 
 -Fin-

あとがき 

今回のお話はセルネーゼの“練習”ということでソフトに(
部屋に残ったシオンと孔雀のその後はご想像にお任せします(*´▽`*)


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Last-modified: 2016-02-07 (日) 14:01:20
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