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サマーバケーション! ~遥か遠き追憶の遺跡 前編~

/サマーバケーション! ~遥か遠き追憶の遺跡 前編~

writer is 双牙連刃

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遺跡、それは、遥かな過去の思いを残す場所。青年によって、その扉は開かれる……。



 きっかけは昨日来た一本の電話。その電話があって、俺達は駅前にてある物を待っている。
まぁ確定してたとはいえ、本当に研究中の遺跡への招待なんてされるとはな。巡り合わせっていうのは不思議なものだ。

「いやー昨日シロナさんから電話来た時はびっくりしたよな! あなた達を招待出来そうよーなんて!」
「それだけ調査が進んだって事なんだろ。夏休みギリギリだったけどな」
「でも、遺跡とは聞きましたけどどんな所かは分かってないですよね? 大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫じゃなかったら呼ばれない筈だ。どんな所かは、見てからのお楽しみって事でな」

 ん、一台のライトバンが俺達の前に止まった。迎えに行くって事でここに居たんだが、もしかして、か。
バンの扉が開いて降りてきた人はやっぱりあの人だった。が、今回は二人ともだ。

「皆、お久しぶりね」
「やぁ。ん? その子は?」
「あぁそうか、ゲンさんには紹介してませんでしたね。俺の親戚の心紅って言います」

 心紅はぺこりと礼をしてみせた。まぁ、最初にシロナさんに会った時に話せないって事にしたからな。
話もそこそこにして、俺達もバンに乗り込んだ。車の中でも話は出来るし。あ、運転してきたのは遺跡の探索スタッフの方らしい。

「でも嬉しいッスよ! まだ他の誰も入った事無い遺跡に入れるなんて!」
「喜んでくれると、招待した甲斐もあるわ。……ところで零次君、その子は……」
「あぁ、昨日の夜からこんな調子で……」

 何のことかと言うと、俺の膝の上に座ってるリオルの事なんだがな。朝からずっと元気無いし俯き気味なんだよ。
原因は分かってるんだが、こればっかりはどうしようもないしな。

「探索が終わるまでは一緒に、な?」
「ルゥ……」
「これは、零次君に任せるしかないようね」
「す、すいません……」

 そう、この探索が終わったら、リオルはシロナさんの手持ちに戻る。前みたいに嫌がらないって事は、受け入れてはいるんだろうな。
でも、やっぱり寂しいんだろう。それは俺もだけど、それを言ってたらシロナさんに迷惑が掛かる。その時は、なんとか説得しないといけない。

「そう言えば零次君、どうやらリオルのボール以外にボールを持っていたようだけど、君はトレーナーじゃなかったんじゃ?」
「あ、はい。この夏休みの間に色々あって二匹ほど。と言っても、トレーナー登録はしてないんですけど」
「それはまたどうして?」
「付き合い方がトレーナーじゃないと言うか……バトルなんかをする気も無いので、寧ろ無い方が気が楽かと思いまして」
「なるほど、確かにトレーナーとして登録してしまうと、申し込まれたバトルを避け難くなるからね。そういう事なら、その選択も必要かもしれない」

 アクアボールは海歌が居るから手放せないにしても、レジェンドボールは置いてこようかと思ったんだけどな。万が一に備えて持ってきたんだ。
それにボールの加護は所持してないと心紅にも俺にも発動しないらしいから、そういう意味でも持ってきたって事さ。ゲンさんよく見えたな?
そんな話をしてる内に、バンは町を出た。この町の近くらしいけど、どれ位掛かるんだろうな?

「こっからその遺跡までってどの位掛かるんすか?」
「40分ほどよ。途中揺れるから、それだけ気をつけてね」
「了解っす」

 車は町の近くの林へと入っていく。ふむ、この辺りには俺も来た事が無いな。確か、危険だから入るなって言われた事がある気がする。
む、確かに揺れるな。シートベルトしてる俺とかは大丈夫だけど、リオルの事はしっかり押さえてないと危なそうだ。
そのまましばらくは揺られたまま、司郎がシロナさんとゲンさんに色々話してるのを聞き続ける事になった。

「んで、零次がそのロボに突っ込んでいってぶっ壊したんですよ!」
「その事件なら新聞で読んだけど、撃退した青年って零次君の事だったのね。また無茶をしたものね」
「あれは流石に無茶でした。その時は、頭に血が昇っててなんにも考えてなかったですけど」
「しかし、血が昇ってるだけでどうにか出来る物でもない。……君の内には、それだけの力があるってことなんだろうね」
「そんな大袈裟なものじゃないと思いますよ。ただの火事場力って奴です」

 それに、使う度にぶっ倒れる力なんてあまり使いたいとも思わない。体に負担が掛かり過ぎだ。

『でも、あの時の零次からは人っていうより、ポケモン寄りの力みたいのを感じたかな? 気のせいかもしれないけど』

 そうなのか? まぁ、もう一度やれって言われても出来る事じゃないし、確認のしようも無いか。
おっと、林の開けた部分に出たぞ。どうやらここが目的地らしい。
目の前にはそびえ立つ崖。だが、バンを降りた俺達の前にだけは、ぽっかりと口を開けた洞窟がある。ここが遺跡、なのか?

「遺跡っていうか……洞窟、すよね?」
「確かに。でも、中を進んでいくと明らかに人工的に作られたと思われる空間があるんだ」
「恐らく、長い年月の中で埋まってしまったその場所への道が、最近になってまた開かれたんじゃないかしら」
「惜しむらくは、その場所にも奥へ続く階段のような物があるんだけど、それが崩れてしまっていて完全に進めなくなっている事だね」

 なるほど、俺達が行けるのはそこまでって事か。いや、それでも十分だな。過去に埋もれた遺跡か……。
もう司郎は行きたくて仕方ないみたいだし、少し準備をしてから出発する事になった。途中に出るポケモンは二人に任せる事になるみたいだ。

「ふぅ、喋らないでいるっていうのも大変ですね」
「はは、それだけ心紅も話すのに慣れたって証拠だろ。後でシロナさんに挨拶すればもう喋っても大丈夫じゃないか?」
「そうですね、そうします」

 心紅も最初に会った時が嘘みたいだよな、もう慣れちゃって違和感無く喋ってたけど。
しかし、やっぱりまだ調査研究中みたいだ。テントが数箇所に設置されてて、その中で何やら機械が動いてるのが見える。研究員の方達からは歓迎されてるみたいだけど。
……だからって色々なところに入っていくな司郎よ。まったく、引っ張って戻すこっちの身にもなれっての。

「お待たせ。それじゃあ行きましょうか」
「俺達から離れずについて来るんだよ。中には、時々分岐もあるから」
「分かりました」
「了解でっす!」
「あ、あの……その前に……」

 心紅が自分でシロナさんとゲンさんに挨拶した。うん、これで心紅も喋れるな。
っと、流石に洞窟の中で肩車は危ないからリオルは降ろすか。ん? 手を繋いできた。……ま、こうして歩くのも悪くないか。
中にも電灯なんかは入ってるみたいだが、一応って事で懐中電灯を渡された。よし、いよいよ探索の始まりだな。



「おー、雰囲気あるっすね」
「雰囲気も何も洞窟なんだから当たり前だろ。足元、気をつけろよ」
「でも思ったより荒れてる感じはしませんね」
「研究の為にある程度は道の整理はしたから、そこまで慎重にならなくても平気よ」

 中は人が8人くらいなら悠々進めるくらいに広かった。壁はまるっきり岩盤だな。
が、ここもどうやら自然に出来た場所じゃないらしい。そもそもこんな広さの場所が自然に出来るっていうのも不自然だな。ポケモンが掘ったって考えるのが妥当か。
中でも研究の真っ最中の人達が忙しなく動いてる。どれ位前に出来た洞窟なのか調べてるそうだ。
おっと、どうやら分岐とやらに出たらしい。進める先が二つ程ある。

「! ル~……」
「ん、どうしたリオル?」
「リォ!」

 下がれっていうのか? 特に何もな……いや、あった。
俺が進もうとした先に、何か降ってきた。石、か? いや動いた。どうやらポケモンだったみたいだな。

「!? イシツブテか!」
「リッォォ!」

 ゲンさんがモンスターボールを構える前に、リオルの一撃がイシツブテを捉えて、そのまま倒したみたいだ。一目散に鳴きもせずに逃げていった。

「ふぅ、サンキュ、助かった」
「ル~♪」
「驚いたわね。その子、少し怖がりなところがあって、あまり戦いたがらなかったんだけど……」

 そうなのか? そんな素振り見せた事なかった……というか、戦わせた事無かったな、そういえば。
でも、川で組み手した時も積極的だったし、怖がりなようには見えなかったが。

「ふふっ、これもあなたの影響かしら?」
「じゃないと思うんですけど……そうだったらすいません」
「いいえ、悪い兆候ではないわ。それじゃあ、先へ進みましょうか」

 ふむ、どうやらリオルには出てくるポケモンの気配が分かるみたいだな。その後も、何かある前に俺を制止する。それを見て、シロナさんとゲンさんが出てくるポケモンを迎撃してくれてる。

「これは……驚いたな」
「えぇ、明らかにリオルの持つ波紋を見る力よりも、ルカリオの波動を感じる力に近い物が発揮されてるわね」
「ん? リオルがしてる事って凄い事なんすか?」
「簡単に言うと、進化していないのに進化後の力の片鱗を扱ってるんだ。そういったポケモンは、極稀にしか発見されない」
「でも、その子にここまでの力があるのに私は気付かなかったわ。いえ、気付けなかったのではなく、引き出せなかったという方が正しいかしら」
「へぇ……俺も何もしてないって事は、リオルが自然と使えるようになったって事か?」
「ル?」

 当事者にも自覚は無いみたいだな。まぁ、便利なんだからいいか。
ともかく、リオルのお陰でかなりスムーズに進めてるみたいだ。ゴローンやガントルって名前のポケモンが出てきてるけど、二人のパートナー達の方が遥かに強いから蹴散らしてくれてるし。
見たところ岩タイプが多いみたいだし、海歌で一掃していく事も出来そうだな。まぁ、わざわざ俺が手を出す事も無いだろうけど。

「着いた、ここだよ」
「おぉ!」
「確かにここは石造りの壁って感じですね。掘ったんじゃなく切り出したみたいだ」
「それに、壁や床に何か彫られてますね。文字……なんでしょうか?」
「調査してるのだけど、まだなんとも言えない状況なの。何かしらの意味はあると思うのだけど……」

 辿り着いた場所は確かな部屋の形をしていた。広さは、人なら10人くらい入れる程度かな。
あぁ、確かに崩れた通路、というより階段らしきものもあるな。まだ先があるのは間違い無さそうだ。

「ちぇ~、こっから先には行けそうにないか~」
「瓦礫をどければ通れるけど、崩れてるのを考慮すると慎重にならざるをえない状況ってところですか」
「その通りよ。……ただ、少し気になる報告が上がっているのだけどね」
「と、言いますと?」
「どうもこの階段、風化によって周りの壁が壊れたんじゃなくて、意図的にこうされた可能性があるようなの」

 なんだって? ……いや、考えてみると確かにおかしいな。この部屋には割れ目どころか、傷みすらそんなに入ってないのにこの通路だけが極端に壊れてる。これは一体?
折角作った通路を壊さなきゃならないなんて、余程の事が無い限りしない筈だ。考えうるに、これ以上何かを入れないように……もしくは出さないようにする為、くらいだよな。

「……今日、あなた達を招待したのには、ここについての意見を聞いてみたいと言うのもあったの。正直、この部屋については手詰まりになっているのよ」
「うーん、意見って言われても、先に進めないんならどうにもならないんじゃないっすか?」
「もしかしたら、この洞窟以外にちゃんとしたここへの入り口があって、ここは危ないから塞いだんじゃないですか?」
「なるほど、心紅ちゃんの言う可能性もあるわね……」
「他の入り口か……あるとしても、この先がどの程度の大きさなのかが分かるまでは、捜索は難しいか」

 各々に考えてる事は違ったけど、やっぱり現状ではどうしようもないって言うのが結論だな。
せめて、壁や床の模様が何か分かれば違うんだろうが、これも分からないんじゃ手が出せないか。
壁にも床にも、円を描くように彫られてる模様……ん? 床の中心にある大きな模様が光った? 気のせいか?

「ん? どったの零次?」
「いや、ここが一瞬光ったような……」

――お前も、力を求める者か?

「! なんだ!?」
「零次さん? どうかしました?」

 今の声は、俺にしか聞こえてないのか? 中央の模様に触れた途端に聞こえてきたが……。

――我が問いに答えよ。汝、守りたいものはあるか?

 守りたいもの? それはあるが、ってなんなんだこの声は?
うぉ!? 触れていた模様が、光り出した! どうなってるんだ?

「な、なんだなんだ!?」
「部屋の模様が、光ってます!」
「これは一体……」
「まさか、零次君!?」
「多分、原因は俺っぽいです」

 この中央に向かって、壁の模様から放たれた光が渦を巻きながら集まってくる。これは、非常に不味いかもしれない。
逃げ……れない。手が模様から外れない。

「零次!」
「来るな! 巻き込まれるぞ!」
「でも、それじゃあ零次さんが!」
「……心配するな。多分、なんとかなる」

 いや全然説得力は無いな。まぁでもこうなったら腹を括るしかない。
手が床から離れたと思ったら、今度は体が宙に浮く。くっ、もう眩しくて目が開けてられない。
誰かがこっちに向かって何か叫んでるのは聞こえるけど、その音ももう聞き取れない。
浮力がどんどん増していく。光が、弾ける……。



「零次ぃぃぃぃぃ!」

 ……俺の叫びが、零次に聞こえたかは分からない。でも、物凄い光が消えた後に……零次の姿は、そこに無かった。
零次が居た場所には、ポツンとアクアボールだけが残ってた。なんでこれだけがここに?

「零次さんが……消え、ちゃった……」
「一体何が起こったんだ!? この部屋をくまなく調べた時には、こんな事は起こらなかったのに……」
「……何かしらの条件によって発動する装置だったようね、この部屋自体が。それに偶然にも零次君が当てはまってしまった、そう考えるしかないわね」

 アクアボールを拾い上げて、とりあえず海歌が無事か確認しよう。零次と一緒に、あの光の中に居たんだ。何か分かるかもしれないし。
うん、ちゃんとボールは使えるみたいだ。海歌も……眩しそうにしてるけど大丈夫っぽい。

『うぅ、目が……』
「だいじょぶか、海歌?」
『あぁ……って、零次じゃなくて司郎? 零次は何処に?』
「それが、分かんないんだ」

 むぅ~、海歌も何が起こったか分かってないみたいだな。軽く言っとこ。
俺も触ってみたけど、真ん中の模様に変化無し。うんともすんとも言わない。

「零次、さん……」

 ん? うぉあ!? 心紅の目から洪水警報発令中!?

「ちょちょ、心紅だいじょぶか!?」
「ふぐっ、うぅ……うぁぁぁぁん……零次さんがぁ……」
「ちょいちょい落ち着けってばね。んーと、とりあえずシロナさん、外に戻りません?」
「え? えぇ、そうね。まずは、一旦戻ったほうが良さそうね」
『えっと、とりあえず私はこのままで帰るのを手伝うよ』

 オッケー、そんなら俺は心紅をおんぶするか。……普段から浮いてるラティアスをおんぶって、なんか変な感じかね?
あーあー、こりゃあしばらく泣き止まないな。リオルは放心しちゃってるし、俺はしっかりせねば。

「リオルー、まずは外に戻るぞぃ。来た時みたいに案内よろしくぅ!」
「リ、ルゥ……」

 よし強い子だ、泣かないで歩き出した。まぁ、無理してるっぽいから、後で泣くんだろうけど。
来た時と同じように、シロナさんとゲンさんで前を固めてもらって、何かあったらリオルが俺のズボンを軽く引っ張ってくれる感じで移動中。っていうか、空気読んで襲ってくるなよゴローンちゃんよ。
ま、海歌の水撃で全部撃破されてんだけど。シロナさんもゲンさんも心ここに在らず~な感じになっちゃってるし、海歌が頼りだな。
おぉう、研究してる人達がめっさ心配そうにこっち見てる。いやまぁ、こんな通夜が来たみたいなテンションの集団が戻ってくればびっくりするか。俺だけ笑い掛けとこ。
ふぅ、なんとか外に到着~。お天道様の光は気持ち良いやねぇ。
っと、待ってましたと言わんばかりに外の研究スタッフの人がシロナさんとゲンさんに話しかけてる。あっちはシロナさん達に任せるしかないっぽいな。

『零次は一体どうなったんだ? 私は、眩しくて見えなかったんだ』
「ぶっちゃけると、光と一緒に消えちった。でも海歌が無事だったんだから、攻撃でアボーンしたって訳じゃないっぽいっしょ」
『そうか、確かに。となると、消えたって事は……』
「どっかにテレポった、そう考えるのが妥当かねぇ?」

 光の消え方も、なんかケーシィのテレポートっぽかったし、絶対とは言えないけどそうだろうと思う。
問題は何処に行ったか、だよなぁ。相当な力が集まってたみたいだし、かなり強力なテレポートだったのは間違い無い。
それを考えるのも大事だけど、まずは心紅をなんとかせにゃならんか。が! 俺は零次の代わりなんて出来ナッスィングなので悪しからず!

「心紅~、とりあえず落ち着こうぜ。な?」
「どうじででずか! 零次ざんがいなぐなっじゃだのに!」
「……とりあえず鼻かもうな。ほい」

 持っててよかったポケットティッシュ~。いや、駅前で配ってたのを何故か二個貰っちゃっただけなんだけどさ。
静かに鼻はかんだけど、涙の方は止まらなさそうだなぁ。と思ってたらリオルも泣き出しちった。わ~おカオス。
救いは海歌が冷静なのかなぁ。ま、多分理由は俺と同じだろうけど。

「司郎君、ちょっといい?」
「うぃっす! ……海歌、ちょっとだけ心紅とリオルの事頼むわ」
『任されたよ。ちょっと歌うけど、いいよな?』

 ビシッとサムズアップをかましてシロナさんの後に続いた。海歌の安らぎの歌を聴いてれば、ちっとは効果あるかもだしな。
んで、一つのテントの中に案内されましたっと。うぉぉ、なんか凄そうな装置がいっぱい。

「ごめんなさいね。……心紅ちゃんの様子は?」
「ん~なんとか宥めてるところっす。宥めなきゃならないのが一匹増えてるっすけど」
「あの子ね……お任せしても?」
「もちっすよ!」
「ありがとう。それで、零次君の事なんだけど」

 一つのモニターをシロナさんが指差してる。なんかのグラフ、みたいだな。

「これは、遺跡周辺のエネルギーの推移を観測した物なんだけど、ここを見て欲しいんだ」
「うぉぉ、一箇所だけ天元突破してる」
「恐らく、零次君が消える瞬間ね。その後、収束していたエネルギーは瞬間的に消えてしまってるわ」
「って事は、どういう事なんすか?」
「零次君は強力なエネルギーと共に何処かに移動した可能性が高いって事さ」

 やっぱり。となると、無事である可能性がかなり高くなったんじゃね?

「で、それが何処に行ったかは……」
「分かる筈よ。でも、それにはエネルギーが移動した形跡を見つけないとならないから、時間が掛かってしまうのは否めないわね」
「これから俺は、あの部屋に戻って同じ現象を起こせないか試しに行く。君達は、このベースキャンプで待っていてくれ」

 なるほど、とりあえず零次が無事な可能性があるって事を伝えてくれたのね。あれと同じ事……出来たとしても、今度はゲンさんがヤバイんじゃないのか?
でも、なんかあの部屋の感じ、やる事やったぜ、真っ白に……燃え尽きたよ……って感じだったよな。多分出来ないんじゃね?

「もし今日でなんとか出来なかったら、私達に任せてもらって、一旦家まで送るという事になるんだけど……」
「うんにゃ、ここで待ちますよ。多分、そんなにしないで帰ってくると思いますし」
「……それは、どうして?」
「零次が、多分なんとかなるって言ったからっす。そんじゃ、俺は心紅達の様子見てきますね~」

 このテントの中で俺が出来る事なんか無いし、今は皆のところに居た方がいいよな。
おっ、海歌の周りに人だかりが……研究スタッフ仕事しろし。

「すんませ~ん、通して下さいー」

 俺が声掛けたらびっくりして皆散ってったな。おろ、海歌にもたれ掛かるようにしてリオルと心紅が……寝てる?

『あ、戻ってきたか』
「どしたんそれ?」
『私の歌を聞いてる内に、泣き疲れたんだと思う』
「そういう事か」

 ん~、下も汚くないし、俺も一緒に座っちゃうかな。俺は海歌の甲羅を背にさせてもらおう。

『……なんで、そんなに司郎は落ち着いてるんだ? 零次の事が心配じゃないのか?』
「別に心配じゃないかなぁ。海歌は?」
『心配だよ。でも、帰ってくるって、信じてる』
「ははっ、零次も良い奴をパートナーにしたよなぁ。心紅もそうだし」

 ちょっと前までは、俺と母さん達くらいしかポケモンの知り合い居なかったのに、今はもう自分のパートナーとして二匹も居るんだもんなぁ。ちょっと寂しいかも。
なんて冗談は置いといて、心配じゃない理由を言えって海歌から無言のプレッシャーを受けてるから答えとくか。

「……零次ってさ、ガチでヤバイ時にはいつも言うんだよ、多分なんとかなるって」
『じゃあ、零次も危険だと』
「思ってはいたんだろうな。だから、俺達に近付くなって言ったんだろうさ」

 自分がヤバくても絶対に他の奴は巻き込まない。でも、誰かがヤバイ時は必ず助けに来る。……ほんと、損な性格だよなぁ零次って。

「でもさ、零次がそう言った時って、必ずなんとかするんだよ、あいつ」
『自分で、か?』
「そ。そんで、笑いながらこう言うんだ」

 な? 何とかなっただろ、てさ。それが本当にムカつくくらいカッコ良くてさ、あぁ、適わないなぁって思っちゃう訳。
だから、今回もきっと大丈夫。零次なら、どんな事でもなんとか出来る。

『……羨ましいな。やっぱり、司郎は零次の一番傍に居るんだ』
「およ? どうしてそうなるん?」
『だって、今司郎と零次の姿が重なって見えたもん。零次を凄く信じてるって分かった』
「よせやい、俺は零次みたいに凄くないって」
『ううん、凄いよ。そうやって誰かの事を信じぬけるっていうのも、強さだと私は思う』

 そ、そんなにヨイショされたら照れちまうじゃないの。海歌も口が上手いぜよ。
……うん、俺は、何があっても零次を信じてる。絶対に、何とかしてくれるってさ。

『絶対、帰ってくるよな』
「当ったり前っしょ。だから、ゆっくり待ってようぜ」
『あぁ、そうしよう』

 俺達はここで待ってるからな、零次……絶対の、絶対に!



後書き~

零次失踪&司郎ちょっぴりイケメン回でございました。零次の失踪に伴い視点が少々移動しておりますがご了承ください。ゲンさんのキャラが掴みきれないぜ…。
今回は短めになりましたが、次回は長ーくなる予定です。(海編ほどじゃないだろうけど)少々時間が掛かってしまうかもしれませんが、お付き合い頂ければ幸いです。

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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • ついに遺跡に行きましたね まさかの零次失踪とは......
    でも何故海歌は零次と一緒に失踪しなかったのか 続きが気になります
    頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-09-23 (日) 14:06:28
  • こんにちは♪優気です。今回も更新が早いですね♪(*≧∀≦*)サマーバケーションもいよいよラストスパート!消えた零次の行方は?そして零次は無事に変えれるのか?次回作も頑張って下さい(*≧∀≦*)
    ――優気 ? 2012-09-23 (日) 17:14:07
  • >>ポケモン小説さん
    現在主人公失踪中というとんでもない事態ですが、全ては後編にて語られます。もう少々お待ち下さいませ!

    >>優気さん
    残すところ二話なんで、本当にラストスパートですね。零次、最後の一踏ん張りです。
    なるべく早く更新出来るように、頑張りますよー!
    ――双牙連刃 2012-09-23 (日) 23:25:29
  • ついに遺跡か•••
    いろいろ伏線はられてて先の展開がたのしみです~(^^)

    応援してます(^o^)/
    ――星の渡り手 2012-09-24 (月) 18:40:26
  • >>星の渡り手さん
    色々仕込んでますんで、それを零次がどう拾っていくかをお楽しみ頂ければ幸いです!
    応援に答えられるよう、頑張りますよー!
    ――双牙連刃 2012-09-25 (火) 18:26:37
  • 誤字修正でーす♪
    司郎と海歌の会話の中の、司郎の[あぁ、適わないなぁ]って、[あぁ、敵わないなぁ]の間違いじゃないですか?
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-09-29 (日) 10:16:14
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Last-modified: 2012-09-23 (日) 00:00:00
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