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アドバンズ物語第四話

/アドバンズ物語第四話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第四話 ソウイチの秘められた力! ルリリ救出大作戦! 前編


「起きろおおおお!! 朝だぞおおおお!!!」
翌朝、相変わらず爆音であるドゴームの目覚ましでソウヤ達は目を覚ました。
二日目とはいえ、まだまだ頭に響いている様子。
三人が痛みで頭を押さえている中、相変わらず爆睡中のソウイチ。

「また寝てるよ・・・。どうする・・・? 昨日はあんな事になったし、ほっとく?」
ソウヤは十万ボルトの事件を思い出してモリゾーに聞いた。
一度ならず二度までも強力な電撃を浴びせれば、きっとソウイチは手がつけられないことになりそうな予感がしたのだ。

「それはかわいそうだよ・・・。でも、どうやって起こそうかなあ・・・」
さすがにこのままにしておくのは気が引けるゴロスケだが、他にこれといってよさそうな考えも思い浮かばない。
そんな中、モリゾーはある考えを思いつき二人に提案。
二人も面白そうだということで大賛成し、早速実行する運びとなった。

「それじゃあいくよ? せ~の!」
なんと、三人はソウイチの体をいっせいにくすぐり始めたのだ。
ソウイチはばっと跳ね起き、こそばい感覚に体をよじらせている。

「うひゃひゃひゃひゃ!! やめてくれ~!! 苦しい~!!」
必死になって訴えるも、三人はちっともやめる気配がない。
完全に体が起きるまでくすぐってやろうという腹だったのだ。
それから数分後、ようやく完璧に起きたと認識して、ソウヤ達はくすぐるのをやめた。
くすぐられた本人は、あまりの苦しさにぜえぜえと荒い息をしている。

「よし! 次から起こす時はこれでいこう」
ソウヤの提案に他の二人もうなずくが、ソウイチはあわてて猛反対。
毎朝毎朝こんなことをされては、自分の体が持たないと主張する。
だが、その意見はソウヤの一言であえなく一蹴されてしまった。

「だったら目覚ましで早く起きることだね」
非の打ち所のない言葉に、ソウイチは悔しそうに黙り込むしかなかった。
起きる時間に起きない自分が悪いのだ、誰がどう見ても、百パーセントソウイチの負けだ。

「そうだ! こんな事してる場合じゃないよ! 朝礼朝礼!!」
モリゾーの一言ではっと我に返り、四人は中央の部屋へと急いだ。
合言葉を述べて朝礼は終わったものの、相変わらず何をしていいのか分からない。
彼らが途方にくれていると・・・。

「お前達、またうろうろしてるな。こっちに来なさい」
その様子を見かねてか、ペラップが声をかけてきた。
昨日と同じく、四人はペラップの後についていくのだが、目的の場所に着いたところで、どこか感じる違和感。
そう、昨日は階段から見て右側の掲示板の依頼をしたのだが、今日はなぜか左側だ。
一体どこに違いがあるというのだろう。
それをペラップに聞くと、ペラップは掲示板をよく見るよう指示。
じっと見ると、かなりの枚数のポケモンの絵が貼ってある。
数の多さに驚きつつ、モリゾーとゴロスケは絵に目を輝かせていた。
有名な探検隊だと思っているようだ。

(憧れるのは分かるけど、そこまで夢中になるもんなのか?)
絵に釘付けの二人を見て、ソウイチは心の中でため息を漏らした。
どうにもあこがれる感覚というのは理解できない。

「ねえ、ペラップ。彼らは何なの?」

「ここにあるのは、全員おたずねもの。みんな悪事を働いて指名手配されている奴らだ」
おたずねものという言葉に、質問したゴロスケはもちろん、他の三人も飛び上がった。
ペラップによると、指名手配ゆえに賞金がかけられており、捕まえれば報酬としてお金がもらえるのだが、凶悪な部類が多く手を焼いているのだとか。

「お、おたずねものって犯罪者のことだよな!?」

「あ、当たり前でしょ! 悪いことしてるんだから!!」
あまりに当然の質問に、ソウヤはむっとした。
いちいち他人に聞かなくても、それぐらい分かるだろうという気持ちなのだ。

「それをオイラ達が捕まえろって言うの・・・?」

「そんなの絶対無理だよ!! 危険すぎるよ!!」
モリゾーとゴロスケはすっかり青ざめて震えていた。
さっきまでの平静はどこへやら、すっかり臆病風に吹かれている。

「ハハハハハハ♪冗談だよ、冗談♪悪いポケモンって言っても、世紀の極悪人もいれば、スリや置き引きなんかのちょっとしたこそ泥もいるから、さまざまなんだよ」
ペラップは笑いながら言うが、さっきの語り口調で、どこをどうやったら冗談と取れるのだろうか。
まじめな話の中に入れてほしくないと切実に思う四人であった。

「世紀の極悪人を捕まえてこいなんて、新米のお前たちに頼めるわけないじゃないか♪ハハハハハ♪まあ、この中から弱そうなやつを選んでこらしめてくれ♪」
新米という言葉に若干抵抗があるものの、口に出しては言わなかった。
だが弱いやつを選べと言われても、やはり悪者を相手にするのだから、恐怖は多少なり残っている。
でも、ペラップは仕事のうちと言ってまともに取り合う気配はない。

「しかし、戦うにはそれなりの準備が必要だね・・・。誰かに施設を案内させるとしようか・・・」
ペラップは大声でポケモンの名前を叫ぶ。
すると声がして、階段のほうから足音が聞こえ、息を切らせてビッパが上がってきた。

「ハア、ハア・・・。お、お呼びでしょうか?」
全力疾走してきたのか、かなり疲れているようだ。

「おお、ビッパ♪こいつらのことはもう知ってるな? 最近入った新入りだ」
ペラップは無礼にもソウイチ達の方を指差す。
いちいちむっとする行為に反感を覚えるソウイチとソウヤ。
周りに聞こえないように、ぶつぶつと文句を言っている。

「ん? 何か言ったか?」
聞こえてか聞こえずか、ペラップが不意に二人の方を向く。

「へ? べ、別に何も言ってねえぜ?」

「そ、そうだよ。気のせいだよ」
二人は慌ててごまかした。
お小言を食らうのだけは嫌なのだ。

「・・・ならいいが・・・。で、ビッパ、広場にこいつらを案内してやってくれ」
どこか腑に落ちない様子だったが、ペラップは再びビッパの方に向き直った。

「はい~っ! 了解でゲス!」
ビッパは二つ返事で承諾、彼も弟子の一人なのだ。
ちゃんと言うことを聞いて行動するよう注意すると、ペラップはどこかへと行ってしまった。
その途端、ビッパの目が見る見る涙でいっぱいになっていく。
四人は何が起きたのかと心配するが、悲しいわけで泣いているのではなかった。

「後輩ができたんで感動してるんでゲス・・・。君達がここに来る前は、自分が一番の新入りだったでゲスよ・・・」
どうやら、初めての後輩がとても嬉しかったようだ。
会社や学校でも、自分の後輩が入ってくるということは、少なからず心が躍るものである。

「じゃあ、施設を案内するでゲスから、しっかりついてくるでゲスよ」
涙を拭いて、ビッパは先頭に立って歩き出す。
ソウイチ達もその後について行き、ギルド各階ごとの役割について細かく説明を受けた。
今まで新入りというのが信じられないほど、ビッパの説明は要点がしっかりとまとまっている。
ずいぶんと勉強しているんだなあと、ひそかに尊敬の念を抱くソウイチ達であった。
内部の説明が終わり、一行はいよいよ町へ出向くことに。
長い階段を降り、水飲み場のある交差点を左へ曲がると、そこには実ににぎやかな光景が広がっていた。

「ここがポケモン達の広場、トレジャータウンでゲス」
ビッパの言う通り、いろいろなポケモン達が買い物をしたり、世間話をしたりしていてとても活気が感じられる。
ソウイチとソウヤは物珍しさにきょろきょろと辺りを見回していた。
何もかも初めて見るものばかりだ。
しかし、モリゾーとゴロスケは来たことがあるのか、そこまで目新しさは感じていない。
弟子入りする前も、普段から利用していたそうだ。

「まず、僕達の後ろにあるのがヨマワル銀行。お金が預けられるんだ」
振り返ってみると、どこか幽霊のようなポケモンがお金の出し入れをしているのが見える。
金庫のようなものもたくさんあり、いかにも銀行という感じだ。
ただ、金庫を路上においているのは、セキュリティー面で不安が残るのは否めないが。

「次が、エレキブル連結店。技の連結ができるんだけど、今日はエレキブルが来てないみたいだね・・・」
モリゾーの指差す店を見ると、確かにがらんとしていて誰もいなかった。
今日はたまたま休業日だったのだろうか。

「ねえ、技の連結って何なの?」
ポケモンのゲームをソウヤは知っているものの、連結という言葉には聞き覚えがなかった。
新作で追加された新しい要素かもしれないが、ルビーサファイアの時代でもそんなものはない。

「連結っていうのは、違う技を同時に使うことができるんだよ。例えばソウヤなら、十万ボルトとでんこうせっかを連結したら、その二つを一緒に使うことができるんだ」
モリゾーの分かりやすい例えで、ソウヤも納得したようだ。
一度に二つの効果を出せるのは、強敵を相手にする時などは重宝する。
だが、片方の技のPPがなくなると、連結が強制的に解除されてしまうので、そこは注意しておかなければならないらしい。

「そして川の向こうにあるのが、カクレオン商店とガルーラの倉庫。カクレオンのお店では道具を売り買いできて、ガルーラの倉庫には道具を預けたり引き出したりできるんだ」

「ちなみに、ガルーラの倉庫に預けた道具は絶対になくならないんだ。大切な道具があったら預けてから出かける、探検隊の基本だよね」
二人の指差す店にはかなりの客が詰め掛けており、どこか他の店より繁盛しているようにも受け取れる。
特に、預けたら絶対無くならないという部分に、ソウイチとソウヤは感銘を受けていた。
よほどしっかりしていなければ、そこまで宣言することはできないだろう。

「なかなか詳しいでゲスね。それなら安心でゲス。じゃあ、一通り準備ができたらあっしに声をかけるでゲス。そうしたら、あっしもおたずね者を選ぶの手伝うでゲスよ」
モリゾーとゴロスケの説明に安心したのか、ビッパは町での行動を四人に任せることに。
本当に親切でやさしい人物だということが四人には分かったのだ。
そのことをソウヤがほめると、彼は恥ずかしそうに顔を赤くする。
そして、ビッパは一足先にギルドへと戻っていった。

「さ~て、これからどうするんだ?」

「とりあえず、どんな道具があるのか見たいから、カクレオンのお店に行こうよ」
ソウイチが三人に聞くと、ゴロスケが提案した。
他の三人も賛成し、まずはそこへ行くことに。

「いらっしゃ~い! ようこそカクレオン商店へ!」
元気な挨拶とともに、二人のカクレオンが出迎えた。
店の陳列棚には、さまざまな商品が所狭しと置かれている。
その品揃えの多さに、ソウイチとソウヤは驚かざるをえなかった。
まずは、食料と回復の道具を買うことに。

「それってどんな道具があるんだ?」
まだそれに関する知識がなかったので、ソウイチはモリゾーに聞いた。

「まずはリンゴ。お腹がすいたときにこれを食べれば、お腹が満たされて行き倒れになることはないんだ。そして木の実には、それごとにいろいろな効果があるんだ」
腹が減っては戦ができぬということだろう。
どの世界でも、食べ物は大事なのだ。

「木の実にはどんなものがあるの?」
これもまだ詳しく知らないので、ソウヤはゴロスケに質問する。

「木の実には、オレン、オボン、モモン、クラボ、チーゴ、カゴっていう六つの種類があるんだ。」
そして、オレンとオボンは体力回復、モモンはどく、クラボはまひ、チーゴはやけど、カゴはねむりの各状態異常を回復するとモリゾーは説明。
あまりの知識の多さに、ソウイチとソウヤは感心していた。
二人とも、探検隊になるために独自にいろいろ知識を仕入れていたのだ。
まずは、リンゴを八個と、オレンとモモンを四個ずつ買うことに。
お金と引き替えに商品を受け取り、モリゾーはそれをバッグにしまう。

「カクレオンさ~ん!」
すると、向こうから青い色のポケモンがやってきた。
丸くてかわいい外観の、マリルとルリリだ。
親しげに話すカクレオン達の態度からも、ここの常連であることが伺える。
二人はリンゴを買いに来たようだ。

「カクレオンさん、ありがとう!」
リンゴを受け取り、マリルは二人にお礼を言った。

「まいど~! いつもえらいね~」
緑のカクレオンはニコニコしている。
周りから見ても、実に微笑ましい光景だ。
二人が店を後にしてから、ソウイチはカクレオン兄弟にルリリ達のことを尋ねた。

「いやね。あの二人兄弟なんですけど、最近お母さんの具合が悪いんで、変わりにああやって買い物してるんですよ」
緑のカクレオンの言葉を聞いて、四人は感心した。
病気の母親の変わりに買い物をするとは、なんとも親孝行ではないか。
幼いのに本当に立派だと、カクレオンたちも相槌を打つ。

「カクレオンさ~ん!!」
と、橋の向こうから大慌てでさっきの二人がやってくるのが見えた。
いったい何が起こったのかと紫のカクレオンが聞くと、どうやらリンゴが買った数より多いらしい。
それでわざわざ、余分な一つを返しに来たのだ。

「ああ、それは私からのおまけだよ。二人で仲良く分けて食べるんだよ」
どうやら緑のカクレオンの心遣いだったようだ。
二人は笑顔でお礼を言うと、うきうきとしながら自分達の家へと帰ろうとした。
だが・・・。

「わあっ!!」
なんと、ルリリが目の前で派手に転んでしまったのだ。
持っていたリンゴの一つが、ソウイチの足元へころころと転がる。

「おい、大丈夫か?」

「はい。す、すみません。ありがとうございます」
ソウイチがリンゴを拾って手渡すと、ルリリは丁寧に頭を下げる。
これぐらい大したことないと言おうとしたその時、ソウイチは突然、体が揺らぐような不思議な感覚に襲われた。
めまいの一種かと思い、倒れないように踏ん張っている中、どこからともなく声が聞こえる。

[た・・・、助けて!!]

緊迫感を帯びたその声が聞こえなくなると、さっきまでのめまいは嘘のように治まっていた。

(今の声は・・・? 誰かが助けを求めていたような・・・)
そして、ソウイチはふと、目の前にいるルリリを見つめる。
さっきの声とルリリの声、どことなく響きが似ているような気がしたのだ。
あまりにもじっと見つめたせいか、ルリリは怪訝そうな面持ちでソウイチを見上げている。

「お~い、ルリリ~! どうしたんだ? 早く来いよ~!」

「うん! 今行くよ!」
マリルが呼んでいるのが聞こえ、ルリリはもう一度礼を述べると、兄の元へと走っていく。
それから二人は、手を繋いで橋を渡って行った。

「フフフ。かわいいね、あの二人」
ゴロスケは去っていく二人を見て微笑んだ。
モリゾーとソウヤも、仲のいい兄弟だなあと温かい気持ちになる。
だが、ソウイチがずっと二人の後姿を見ていることに気付き、モリゾーは気になって声をかけた。

「なあ、今叫び声が聞こえなかったか?『助けて!!』ってさ」
ソウイチは三人に聞いたが、誰もそんな声は聞こえなかったという。
カクレオン達も、聞こえなかったと口をそろえるばかりだ。

「二人も聞こえなかったみたいだし、ソウイチの空耳じゃないの?」

「そんなはずねえよ! 確かにオレは聞いたんだよ!」
今も耳に残っているあの声、確かにソウイチははっきりと聞いたのだ。
しかし、誰もソウイチの言うことを信じようとはしなかった。
気のせいではないかとモリゾーもなだめるが、やはり、空耳だと信じることはできないソウイチ。
あの声は確かに、ルリリのものと全く同じだったのだから。

「ソウイチ、何ぼーっとしてるのさ。早く行こう!」
考えを巡らせていると、モリゾーがぽんぽんと肩を叩く。
さすがにこれ以上自分の意見を押し通すわけにもいかず、ソウイチは腑に落ちないまま三人とカクレオン商店を後にした。
そして、次にやってきたのはガルーラの倉庫。

「いらっしゃ~い! 何か用かい?」
元気な声とともに、奥からガルーラが姿を現した。
見るからに快活そうな性格をしている。

「あ、道具を預けたいんです」

「何を預けるんだい?」
ガルーラに聞かれ、ゴロスケは早速要らない道具を次々と並べ始める。
その手際のよさは慣れていないとできるものではない。

「これを預けるんだね? 間違いないかい?」

「はい、それでお願いします」
念を押されてゴロスケはうなずき、ガルーラは早速倉庫へ道具をしまおうとした。
ところが、突然ソウヤが大声で叫び待ったをかける。
あまりにも突然だったのでその場にいた全員が驚いた。

「びっくりした~・・・。いきなりなんなんだよ!」
ソウイチはソウヤを怒鳴りつけるが、ソウヤはもじもじして答えない。
さらに詰め寄ると、ソウヤはようやく白状した。

「いや、モモンの実が預けられそうになったから・・・」

「バカ!! モモンは毒を回復するだけだから二つでいいんだよ!! オレンの方が体力を回復するからたくさんいるんだろうが!! おやつで食べるんなら帰ってからにしろ!!」
ソウイチはソウヤの言葉をさえぎって叱りつけた。
そんなくだらないことで驚かされて腹が立ったのだ。

「なんだよ・・・。ソウイチだってオレンが好きだから、本当はおやつ代わりに食べようと思ってるんでしょ!!」

「ギクッ・・・。そ、そんなわけないだろうが!!」
最後の言葉で墓穴を掘り、ソウイチはまんまとソウヤに逆襲された。
図星の中の図星である。

「どう考えてもそうとしか考えられないよ!!」

「なんだと!? お前の方が先にやろうとしたくせに!!」
そしてまたしても兄弟げんかが勃発。
モリゾーとゴロスケは慣れてしまったのか、かかわらずに距離を取って成り行きを見守っている。
それに対し、何とかけんかをやめさせようとするガルーラだったが、エスカレートする一方なのでとうとう堪忍袋の緒が切れた。

「あんた達・・・! いい加減にしなさい!!」
空気がビリビリと震える大声で、ガルーラはソウイチとソウヤに雷を落とした。
直接起こられてはいないモリゾーとゴロスケでさえ、思わず体をびくっと縮めたほどだ。

「で、結局預けるの? 預けないの!?」
ソウイチとソウヤの顔を交互に見ながら、ガルーラは低い声を出す。
先ほどの笑顔とは打って変わったその形相に、二人の足はがくがくと震えていた。

「あ、預けます・・・」
ようやく消え入りそうな声でつぶやき、ガルーラは道具を倉庫へしまいに行った。
温厚な人とはいえ、本気で怒らせてしまうと鬼のようになるということを、ソウイチ達は改めて学んだ。
そしてまだ恐怖を引きずりながらも、四人はトレジャータウンへ帰ることに。
いつまでもビッパを待たせてしまってはいけないと思い、急いで元来た道を歩き始める。
すると、銀行の近くにマリルとルリリがいるのを見つけた。
遠くからでも、あふれんばかりの笑顔であることが分かる。
そばには、上が黄色、下が茶色のポケモンがいた。

「どうしたの?」
四人は気になって早速声をかけた。
向こうも、四人のことに気付いたようだ。
事情を聞くと、二人は以前に大切なものを落としてしまい、それをずっと探していたがなかなか見つからなかった。
そこへこのスリープが、それならどこかで見たことがあるかもしれないと、一緒に探してくれることになったのだ。
それでとても嬉しそうにしていたのだという。

「そっか! それはよかったね!」
無くし物が見つかるのはうれしいこと、ソウヤ達も自然と笑顔になる。

「ありがとう! スリープさん!」
ルリリは再びスリープに礼を述べた。

「いやいや、君達みたいな幼い子が困ってるのを見たらほっとけないですよ。早く探しに行きましょう!」

「うん!」
マリルとルリリは同時にうなずいた。
誰がどう見ても、このスリープは立派としか思えない。
落し物を探す手伝いなど、そう簡単に引き受けられることではない。
そして三人が落し物を探しに行こうとすると、スリープの肩とソウイチの肩がぶつかった。

「おっと、これは失礼」
スリープは少し頭を下げて謝ると、ルリリ達と広場から出て行く。
どことなく粗雑な謝罪にソウイチが不満を漏らそうとしたその時、またしてもさっきのめまいが始まった。

(うおっ・・・! ま、また来るのかよ・・・!?)

「スリープって親切なポケモンだよね。感心しちゃうなあ」

「世の中悪いポケモンが増えてるっていうのに、なかなかああいうことはできないよね」
モリゾーとゴロスケはしきりにスリープの行動に感心していた。
だがその間も、ソウイチのめまいが止むことはない。
そして今度は声だけでなく、映像も一緒になって映し出された。

[言うことを聞かないと、痛い目にあわせるぞ!!]

[た、助けてっ!!]

声だけのときとは違い、まぶたにはっきりとその光景が浮かび上がった。
スリープが、ルリリを脅迫している光景が。
それがあまりにも一瞬だったため、ソウイチは自分の見間違いではないかと我を疑う。
でも、それは紛れもなく鮮明に自分の脳裏に焼きついていた。

「落とし物早く見つかるといいよね。あれ? ソウイチ、どうかしたの?」

「あ、いや、ちょっとな・・・」
不意にゴロスケに声をかけられ、ソウイチは困惑する。
ソウヤとモリゾーも心配そうに顔を覗き込むので、さっきの映像のことを話さないわけにはいかなくなった。
さすがに大勢に聞かれてはまずいと思い、ソウイチは三人を交差点付近へと連れて行く。
そこで、さっき自分が体験したことについて洗いざらい話した。
このままではルリリが危ない、早速助けに行かねばと息巻くソウイチだったが、三人はどうも乗り気ではない。

「ソウイチのこと信用してない訳じゃないけど・・・やっぱり僕信じられないよ・・・。だってスリープはすごく親切そうなポケモンだったよ?」

「そうだよ。あそこまで他人のためにしてあげるポケモンが悪者だなんて思えないよ・・・」
モリゾーとゴロスケは、あくまでもスリープを悪者ではないと言い張った。

「見かけだけで判断してどうするんだよ!! 上辺はいいやつでも、実はものすごく腹黒いやつなんてごろごろいるんだぞ!?」
ソウイチは本気でルリリのことを心配していたので、のんきすぎる二人にいらいらしていた。
しかし、二人は勢いに気圧されつつも、スリープが悪者ではないという意見を変えない。
あろうことか、ソウイチが疲れているせいで変な夢を見たのではないかと言い出す始末。
これにはソウイチも躍起になって反論するが、またしてもソウヤの一言で黙らざるを得なかった。

「とにかく、ソウイチ以外はそんなもの見てもないし、聞いてもないんだから信用できないよ。大体どんなところだって寝れるんだから、起きたまま夢を見たっておかしくないよ」
そう、あくまでもさっきの映像は、ソウイチの脳裏に映し出されたもの。
証拠としては成立するはずもなく、ましてや昨日の様に話の最中に寝たとあれば、誰も信じてくれるはずがなかった。

「それに、オイラ達は修行の身だから、勝手なことはできないよ。確かにちょっと気になるけど、とにかく今はギルドの仕事をしないと」

「とりあえず、準備をしてビッパのところに行こうよ。確か地下一階にいたと思うよ」
モリゾーとゴロスケの言うとおり、与えられた仕事を放置して別のことをやるわけにはいかない。
これ以上、ソウイチに反論する余地はなかった。

「・・・わかったよ・・・」
しぶしぶと意見を飲み、ソウイチは納得がいかない気持ちのまま三人とギルドへ戻ることに。
地下では、ビッパが四人が戻ってくるのを待っていた。
早速依頼を選ぼうとするが、何しろ四人は全くの素人、どれを受ければいいのか見当がつかない。

「コホン。じゃあ、ここは先輩としてあっしが選んであげるでゲス」
その様子を見かねてか、ビッパが助け舟を出す。
怖そうなものは選んでほしくないモリゾーとゴロスケだったが、怖くない悪人などいるはずがない。
それを察してか気付かずか、ビッパは分かっていると依頼を選び始める。
しかし、突然ブザーのような警告音が響き渡った。

「情報を更新します! 情報を更新します! 危ないですので下がってください! 危ないですので下がってください!」
どこからか声が響いてくる。
四人はとっさのことで何が起こっているのかさっぱり分からない。
ビッパの説明によると、これは情報の入れ替え作業なのだそうだ。
その言葉の意味を認識する前に、掲示板がひっくり返ってしまった。

「こ、これってどういうこと・・・?」

「おたずねものポスターや掲示板は、このように壁が回転式になってるんでゲス。それで壁をひっくり返している間に、ダグトリオというポケモンが情報を書き換えているんでゲス」
困惑するばかりの四人に、ビッパは丁寧に説明する。
ダグトリオはトンネルを掘ってギルドまで進み、壁を回転させて新しい情報に書き換える役目を持っているのだ。
地味ではあるが重要な仕事で、彼もこの仕事に誇りを持っているのだとか。
そして、四人が感心しているうちに、情報の更新は終わったようだ。
いざ新しく選ぼうとした時、ソウイチはふと、上の右端にある依頼が目に留まった。
その依頼を見れば見るほど、自分でも顔が紅潮していくのが分かる。

「あれ・・・? どうしたんでゲスか? そんなに真っ赤な顔をして・・・」
ビッパは心配そうにソウイチを見つめる。
他の三人も、急にどうしたのかと気になった。
だが、ソウイチは無言でその依頼をにらみつけるばかり。
お互いに顔を見合わせるだけだが、ソウヤ達もその依頼を見て愕然とした。
なんと、スリープがおたずねものとして手配されていたのだ。
しかも他の情報よりもかなり危険度が高い。

「あの野郎!! やっぱり極悪人だったじゃねえか!!」
ソウイチは今まで信じようとしなかった三人を振り返って怒鳴った。
三人は事の重大さを認識し、すでに顔面蒼白。
やはり、あの親切さには裏があったのだ。

「だから見かけで判断するなっつっただろうが!! とにかく行くぞ!!」
ソウイチはさっと身を翻し、あっという間に階段を駆け上がって見えなくなってしまった。

「ああ! ま、待ってよ~!!」
呆然としていたゴロスケ達はあわててソウイチの後を追う。
その場には、全く事情が飲み込めていないビッパだけが取り残された。
ソウイチは全速力で階段を駆け下り、スリープ達が歩いていった方へ向かおうとする。
と、交差点でマリルが右往左往しているのを見つけ、ソウイチは呼び止めた。

「マリル、どうした!? ルリリやスリープは!?」

「それが・・・。あの後三人で落とし物を捜していたんですが、気がついたらスリープさんがルリリをどこかに連れて行っちゃって・・・。呼んでも戻って来ないし、不安になって・・・」
マリルはすっかり動揺しきって、今にも泣きそうだ。
その表情を見て、ソウイチの拳はぶるぶると震えた。
幼い子供を騙して誘拐するなど、絶対に許せない行為。
今までにないほど、はらわたが煮えくり返っていた。

「はあ・・・、はあ・・・。やっと追いついた・・・」
そんな中、ようやくソウヤ達もソウイチに追いついた。
すかさずソウイチは遅いと一喝し、またマリルに向き直ると、スリープとルリリがどこへ行ったかを尋ねる。
マリルは四人を先導し、高くそびえ立つ岩山へと連れてきた。

「ここなの? 二人が入っていった場所は?」

「そうです! どうかルリリを助けてください!」
ソウヤが聞くと、マリルは目に涙をためて懇願する。
だが、懇願される前から、絶対に助けるという確固たる意志は出来上がっていた。

「もちろんだよ! ね? ソウイチ!」

「ああ! 悪事を働くとどうなるか思い知らせてやるぜ!」
モリゾーとソウイチは互いにうなずき合った。

「悪人と分かったからには、許すわけには行かないよ!」

「僕達が責任を持って、必ずルリリを助ける!」
ソウヤとゴロスケも、すっかり使命感に燃えている。
マリルには、ソウイチ達が今までで一番頼もしく見えた。

「っしゃあ! じゃあ行くぜ!!」

「おう!!」
ソウイチの掛け声に応え、一同は山の頂上を目指し始めた。
目指すは、打倒スリープ。
いよいよ、ルリリ救出作戦の開始だ。


アドバンズ物語第五話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
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Last-modified: 2010-11-16 (火) 00:00:00
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