ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第五話 ソウイチの秘められた力! ルリリ救出大作戦! 後編
マリルからルリリの救助依頼を受け、アドバンズはトゲトゲやまの頂上を目指しひたすら歩いていた。
先ほど近くで見た以上に標高は高く、終点まではまだまだかかりそうだ。
「しっかし高い山だな~・・・。一体何メートルあるんだよ・・・」
あまりの標高に、ソウイチはモリゾーに愚痴をこぼした。
一体さっきまでの怒りはどこへやら。
もちろん、モリゾーも分からないとしか言いようがない。
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょ!? こうしてる間にもルリリがひどい目に遭わされてたらどうするのさ!」
いつもなら、怒りをぶちまけるのはソウイチの役目だが、今日は珍しくソウヤの方がいらいらしている。
やはりスリープを善人と勘違いしていた自分が腹立たしいのだろうか。
「んなこと分かってるよ!!」
ソウイチはむっとしてソウヤをにらみ返す。
元々、ソウヤ達が最初から信じていれば未然に防げたかもしれないとソウイチは思っていた。
それをいまさら八つ当たり気味に言われることに腹が立ったのだ。
「だったら無駄話なんかしないで急ぐ! あいつめ・・・! 何が何でも絶対に倒してやる!」
そんなソウイチの思いなど微塵もわかるはずはなく、ソウヤは先頭に立って歩みを進める。
いまさら遅いと、ソウイチは心の中で舌を出しながら思った。
そして山の中腹ぐらいに差し掛かると、今までより格段に、落ちている道具の数が増加。
急ぎながらも、四人はしっかりと道具を集めていく。
「今までのダンジョンに比べて、ずいぶん落ちてるんだな~」
モリゾーは道具を次々とバッグにしまいながらつぶやいた。
ソウヤとゴロスケも、その豊富さに目を見張っている。
「お? おおお!! あったあ!!」
突然、ソウイチが歓喜の声を上げた。
あまりに大きな声だったので、三人は思わずその場で硬直する。
「ちょ、ちょっと! びっくりするから大きな声出さないでよ!」
ゴロスケは軽くソウイチをにらんだ。
だが、ソウイチは意に介す様子もなく満面の笑顔を浮かべている。
その両手には、あふれんばかりのオレンの実が抱えられていた。
「よくこれだけ集めたね・・・」
ソウヤは呆れると同時に、量の多さに驚いていた。
いくら落ちている数が多いとはいえ、両手に抱えるほど見つかるとは思わなかったのだ。
「へへへ。あの辺に固まって落ちてたから、全部持ってきてたのさ!」
ソウイチは自慢げに鼻から息を出す。
しかし、固まって落ちていたという部分に、ソウヤは違和感を覚えた。
ソウヤだけでなく、ゴロスケとモリゾーも何かおかしいと感じている。
「そうか? たまたまじゃねえのか?」
「いや、いくらたまたまでもこんなにあるはずは・・・。ま、まさか・・・!!」
のんきそうに構えるソウイチに対し、モリゾーの顔からは血の気が引いていった。
ある、とてつもなく恐ろしい状況を思い浮かべてしまったのだ。
その状況とは・・・。
「見つけたぞ! 木の実を返せ!!」
そう、ダンジョンに生息しているポケモンが集めた食料という可能性だ。
モリゾーの悪い予感は見事に的中してしまった。
「もう~!! これだからソウイチは!!」
「いてっ!!」
それ見たことかと、ソウヤはソウイチの頭を力任せにはたいた。
ただでさえ先を急がなければならないのに、ソウイチが余計なことをしたせいでさらに時間を食うことになったのだ。
いらいらはさらに増幅し、こうでもしなければ収まらない。
「ど、どうしよう・・・。こんなに大勢じゃ勝ち目ないよ・・・」
「逃げた方がいいよ・・・」
モリゾーとゴロスケはあまりの大群に恐れをなし、すっかり弱腰になっていた。
自分達の何倍もいる相手と戦うなど、無謀にもほどがある。
ソウヤも、今はルリリを助けることを優先しようとソウイチに提案しようとしたが・・・。
「上等だ! お前ら全員、まとめて相手してやるぜ!」
「えええええ!?」
あまりのむちゃくちゃな発言に、三人はあいた口がふさがらなかった。
いくらなんでも、これほどの敵を相手にするなど正気ではない。
勝てる確率をちゃんと考えているのかと突っ込みたくなるほどだ。
「たった四人で勝てると思ってるのか?」
「数で勝てるほど勝負は甘くねえんだよ! 返り討ちにしてくれるぜ!!」
鼻で笑うイシツブテに対し、ソウイチはやけに自信満々だ。
何か秘策でも用意してるのだろうか。
「ちょっとソウイチ! いったい何考えてるのさ!!」
「心配すんなよ。いざって時にはオレン食えばいいだろ?」
爆弾発言にあたふたするソウヤに、ソウイチはしれっと答えた。
それはそうだが、今問題なのは体力回復のことではない。
「そういう問題じゃなくて!!」
「まあ、いいからいから。とにかく、こいつらを叩きのめすぞ!」
ソウヤがすかさず突っ込みを入れるも、ソウイチは全く相手にしない。
終いには三人とも諦めてしまい、どうなってもソウイチの責任だと腹をくくった。
「さ~てお前ら。覚悟はできてんだろうな?」
「フン、それはこっちのセリフだ!」
まず先に動いたのはイシツブテ。
ソウイチめがけてまっしぐらにたいあたりするつもりだ。
「よ~し。ゴロスケ、モリゾー! イシツブテは頼んだぞ!」
「え!? な、なんで!?」
ソウイチが相手をすると思っていただけに、まさか自分達に勝負を投げられるとは夢にも思わなかった。
「お前らの得意分野だろうが! しっかりやっとけよ!」
そう言うや否や、ソウイチはイシツブテ以外の敵を倒しに行ってしまう。
あまりにも自分勝手な行動に、モリゾーとゴロスケは呆れると同時に腹立たしかった。
「まったく・・・。自分から勝負を受けといて何さ・・・」
モリゾーはソウイチの背中を恨めしそうににらみつける。
しかし、ソウイチのことに気をとられている場合ではなかった。
「あ! モリゾー後ろ!!」
「え?」
ゴロスケが叫んだ時には、すでにイシツブテがたいあたりで突っ込んでくるところだった。
気づくのが遅れたため、モリゾーは攻撃をもろに食らい吹っ飛んだ。
叩きつけられたときの岩壁はまさに凶器、モリゾーは壁からはがれる紙のように崩れ落ちた。
「モリゾー! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫・・・。これぐらいまだまだだよ!」
モリゾーは痛みを我慢して立ち上がり、まだちゃんと戦える意志を示した。
それを見て、ゴロスケもとりあえず一安心。
「よし、がんばってあいつを倒そう!」
「うん!」
二人は互いにうなずき、早速イシツブテに突撃していく。
一方その頃、ソウヤは四~五匹の敵にぐるりと囲まれ、全く身動きが取れなくなっていた。
倒しやすそうだというくだらない理由で、ここまで標的になってしまったのだ。
もちろん、雑魚扱いされたと思いソウヤは激怒。
「僕はそこまで弱くないぞ!!」
「それじゃあ、オレ達の攻撃に耐えられるかな!?」
そしてニドラン♂を含む敵は、一斉にソウヤに襲い掛かる。
辺りにもうもうと土煙が立ち昇り、一切の視界がさえぎられた。
それが晴れれば、地面にはぼろぼろになったソウヤが横たわっている、敵はそれを信じて疑わず、今か今かとその時を待つ。
しかし、その予測はあまりにも甘すぎたのだ。
視界が晴れても、ソウヤは平然と地面の上に立っており、鋭い視線で敵をにらみつけている。
電気を腕に帯電させ、それで敵の攻撃を防御していたのだ。
「な、なんだと!?」
これにはさすがの敵も予想外で、次にとるべき行動がすぐには思い浮かばなかった。
なにしろ、完全に勝ったつもりでいたのだから。
「僕は弱くなんかないぞ~!!」
ソウヤはありったけの力を込めて十万ボルトを連発。
効果は普通とはいえ、これほどまで連射されてはたまったものではない。
たちまち地面は気絶したポケモン達で埋め尽くされてしまった。
そしてソウイチの方はというと、不利なイシツブテを三匹も相手にしていた。
最初のイシツブテこそ、モリゾーとゴロスケに丸投げし他のポケモンを倒しに行ったものの、結局この三匹が残ってしまったのだ。
オレンの実もすっかり食べつくし、ダメージは追加されていく一方、勝ち目などあるはずがなかった。
「く、くそお・・・! 何でよりによって不利な奴らが残るんだよ・・・!」
ソウイチは悔しそうに奥歯を噛み締める。
初めて、自分の予測が甘かったと悟ったのだ。
だが、いまさら後悔しても状況は変えられない。
「今がチャンスだ! 一気にたたみかけるぞ!」
イシツブテ達は一斉にいわおとしを繰り出し、ソウイチを生き埋めにしようとする。
抵抗するまもなく、ソウイチは大量の岩を受け力なく倒れこんだ。
「これでとどめだ!!」
勝負を決めるべく、イシツブテは渾身の力でソウイチにたいあたりで向かってくる。
もうだめだ思ったその時、自分の頭上をみずでっぽうが通過し、イシツブテ達を遠ざけた。
一体どこから飛んできたのかと不思議そうに辺りを見回す。
「危ないところだったね。ソウイチ」
「まったく、自分がけんか売っておいてやられてたら世話ないよ!」
「あんまり一人で突っ走らないでよね」
ゴロスケを筆頭に、ソウヤとモリゾーが援護に駆けつけたのだ。
三人が相手にしていた敵はすでに倒しており、残るはこのイシツブテ三匹のみだった。
「やられてる? 冗談じゃねえぜ! これからちょうど反撃するところだよ!」
肩に痛みを感じながらも、ソウイチは強がりを言った。
どう見ても一方的にやられていたが、それを認めてはリーダーであり、長男である自分のメンツは丸つぶれなのだ。
「じゃあ早いとこやっつけよう! いつまでもここで足止め食ってられないよ!」
それが分かったのか、ソウヤはにっと笑いかける。
ソウイチも同じように笑い返し、再び四人は一致団結した。
「くそお、みんなかかれえ!!」
このままではまずいと直感したイシツブテは、四人が動かないうちに先制。
集団たいあたりでボーリングのピンを蹴散らそうとする。
「いくぜ! おらあ!!」
ソウイチは持てる力の全てをもってかえんほうしゃを吐き出す。
するとそれは、直線状から大の字の形へと変化していった。
そう、ほのおタイプの技の中でもかえんほうしゃより強力な技、だいもんじだ。
普通ヒノアラシはだいもんじをレベルアップでは覚えないのだが、元々が人間ゆえ、やはり特別なのだろうか。
「こっちもうかうかしてられない・・・!」
ソウヤはでんこうせっかで一気に加速するが、遅れをとるまいとすることに夢中になって、ノーマル技がいわタイプにあまり効かないのを忘れていた。
おまけに飛び出していた石につまづき、ソウヤの体は大きく跳ね上がる。
イシツブテはすかさず袋叩きにしようとソウヤを待ち構えたが、次の瞬間には目から火花が散った。
イシツブテの頭上にヒットしていたのは、ソウヤから伸びる鋼鉄の尾、アイアンテール。
はがねタイプの技を受けてはひとたまりもなく、イシツブテは目を回してその場にひっくり返る。
「す、すごい・・・」
二人の新たな技にモリゾーとゴロスケは驚き、負けじと残ったイシツブテに向かっていく。
ゴロスケはみずでっぽう、モリゾーはタネマシンガンで交互に攻撃し、イシツブテに反撃の隙を与えない。
それを何回か繰り返しているうちに、とうとう最後のイシツブテは白旗を揚げた。
「どうだ! 恐れいったか!」
「よく言うよ。さっきまでやられる寸前だったくせに」
あまりにも調子がいいので、ソウヤはすかさず突っ込みを入れる。
ソウイチが急場を救われたのは、あくまでもソウヤ達が援護に駆けつけたから。
あのまま放っておいたらきっとやられていただろう。
「う、うっせえ! 次いくぞ次!」
ソウイチは痛いところを突かれ、三人に背を向けて歩き始める。
本当は助けてもらったことを感謝しているのだが、やはり自分がリーダーであるという自覚から、どうしても格好をつけずにはいられなかったのだ。
もちろんそんなことがソウヤ達に分かるはずもなく、自分勝手だとか、少しは感謝してほしいとぶつぶつ文句を言っている。
一方その頃、ルリリとスリープはすでに頂上へ到達していた。
スリープは、ルリリを小さな穴の前へと連れて来るが、ルリリは行き止まりであることを不思議に思う。
「ねえ、スリープさん。落とし物は? 落とし物はどこあるの?」
「ごめんな。落とし物はここにはないんだよ」
スリープの言葉の意味が、ルリリはすぐに理解できなかった。
だが、妙な胸騒ぎを覚え、あわてて兄であるマリルの姿を探す。
そんなルリリを見て、スリープは黒い笑いを浮かべた。
「いや、お兄ちゃんも来ないんだ。実は、お前のことをだましてたのさ」
「ええっ!?」
親切だと思っていたスリープにだまされたと知り、ルリリはショックを受けた。
胸騒ぎは不安へと変わり、自分でも恐怖がじわじわと忍び寄ってくるのが分かる。
「それより、ちょっと頼みがあるんだ。お前の真後ろに小さな穴があるだろ?」
スリープの指差すほうには、ちょうどルリリ一人が入れるほどの小さな穴があった。
彼によると、あの穴の奥にはある盗賊団が財宝を隠したのではないかという噂があるらしい。
ただ、スリープの体では大きすぎてあの中には入れないので、小さなルリリを連れて来たということなのだ。
「えええ~!?」
「大丈夫さ。言うことさえ聞いてくれればちゃんと帰してやるからよ」
スリープは相変わらず笑いを浮かべており、その不気味さは一概に言葉では表せない。
ルリリの恐怖は絶頂に達し、足はがくがくと震えた。
「さあ行くんだ! あの中に入って、財宝を取って来い!!」
突如スリープの顔から笑いが消え、冷酷な表情が現れる。
それが引き金となり、ルリリは全速力で、泣きながらその場から逃げ出した。
しかしスリープの方が一足早く、ルリリの逃げ道を塞いでしまう。
「全く! ちゃんと帰してやるって言ってるだろ! 言うことを聞かないと、痛い目に遭わせるぞ!!」
「た・・・、助けてええええ!!」
スリープの恐怖に耐え切れなくなり、ルリリは大声で助けを求めた。
そんなことをしても、この場所には誰も来るはずがない、スリープが高をくくっていたその時・・・。
「まちやがれえええええ!!」
突然怒鳴り声がし、何事かと思いスリープは後ろを振り返る。
すると、ソウイチが全力疾走で自分の方へ突っ込んでくるのが見えた。
「この誘拐犯がああああ!!」
ソウイチはスリープにたいあたりしようとしたが、スリープは冷静にさっとかわし、特攻もむなしくそのまま岩壁に激突してしまった。
鼻をいやというほどぶつけた痛みで、ソウイチはごろごろと地面を転げまわる。
「バカ! 普通誰だってよけるでしょうが! すこしは考えたらどうなのさ!?」
後から追いついてきたソウヤはすかさずソウイチの頭をはたく。
一体どれほどむちゃくちゃなことをやれば気が済むのかという思いだった。
そのやり取りにスリープが唖然としている中、ようやくモリゾーとゴロスケも二人に追いつく。
「おたずねものスリープ! もう逃がさないぞ!」
「僕達は探検隊アドバンズだ! 悪いやつは許さない!」
モリゾーとゴロスケはお約束のセリフをスリープに突きつける。
スリープは場所を知られたことに驚き、探検隊と聞いて恐怖が募ってきた。
このままでは自分は捕まってしまうと思いおろおろしていたが、モリゾーとゴロスケの様子を見て動きを止めるスリープ。
一体どうしたものかと思い、二人がモリゾーとゴロスケの方を見ると、なんと、携帯電話のマナーモードのごとくぶるぶると震えていた。
何しろおたずねものを相手にするのは今回が初めて、いざ啖呵を切ったはいいものの、急に怖くなってしまったのだ。
「ははあ。そうかわかったぞ。お前た達探検隊といってもまだ新米なんだな?」
スリープはニヤニヤとした目つきで四人を見る。
自分よりソウイチ達の方が格下だと分かり、余裕を取り戻したようだ。
「バカ! お前らのせいで軽く見られたじゃねえか!!」
「そ、そんなこと言われたって・・・」
相手になめられたことに腹が立ち、ソウイチはモリゾーとゴロスケを怒鳴りつける。
しかし、二人はますます体を小さくするばかりで、戦う意思は全く見受けられない。
すっかり臆病風に吹かれてしまったようだ。
「フハハハハ! 今までいろんな探検隊に追われてきたが、こんな弱そうな探検隊は初めて見たよ!」
「なんだとお!?」
スリープに冷笑され、ソウイチの額には青筋が浮く。
ソウヤは挑発に乗らないよう必死でなだめるが、腕をつかんでいないとすぐにでも飛び掛って行きそうだった。
「フッ、確かにオレはおたずねものだよ。でも、お前達にできるかな? そのおたずねものを、捕まえることが! 今ここで試してもらおう!!」
スリープの目つきが変わり、戦闘態勢に入ったのが見て取れた。
「それはこっちのセリフだ!! お前ら、準備はいいか!?」
ソウイチは三人を振り返る。
「もちろん! 絶対に倒してやる!!」
「負けない・・・。負けるもんか!!」
ソウヤは気合十分、モリゾーとゴロスケも、恐怖を必死で押し込め自ら闘志をかきたてる。
しばらくは両者ともにらみ合いが続き、なかなか攻撃を仕掛けない。
「来ないならこっちから行くぜ!!」
じれたソウイチは、動く気配のないスリープにかえんほうしゃを仕掛ける。
だが、それはスリープの策略だった。
あえて膠着状態を作り、好戦的なソウイチをじらすことで優位に事を運ぶ算段だ。
スリープは手にちからを込め、ねんりきでかえんほうしゃを意図も簡単に跳ね返してしまった。
跳ね返されたかえんほうしゃはモリゾーを襲い、彼はそのまま岩壁へと叩きつけられる。
「モリゾー!! よくもやりやがったな!!」
パートナーを傷つけられたことでソウイチは逆上し、だいもんじを溜め始める。
だが、スリープの方が一足先に技を仕掛けていた。
「か、体が動かねえ!!」
かなしばりでソウイチの体は硬直し、全く身動きが取れなくなってしまった。
これでは技を出すことすらできない。
「ギギギギギ・・・!」
体を締め付ける力はだんだんと強くなり、体中が悲鳴を上げている。
このままでは、数分のうちに自分がばらばらになってしまいそうな気がした。
「相手はお前だけじゃないぞ!!」
スリープがソウイチばかりに目を向けているすきに、ゴロスケが背後からみずでっぽうで援護。
そして振り返ったスリープの頭上からモリゾーがはたくで追加攻撃。
スリープの集中力は途切れ、ソウイチはようやく苦しみから解放された。
敵も背後にまでは気が回らなかったようだ。
それに乗じて、ソウイチは次々と技を繰り出しスリープを猛攻。
モリゾーとゴロスケもソウイチに続き、三人で交代しながらスリープを追い詰めていく。
一瞬のうちに形勢を逆転され、スリープはかなり焦っていたが、すでに次の策を思いついていた。
「このままでは終わらん!」
スリープは手の中に、黒を基調とする怪しげに渦巻く球を作り、ソウイチ達に向かって打ち込む。
それはさいみんじゅつを念波で球体にしたもので、眠らせる要素も凝縮されていたのだ。
ソウヤはしっぽをバット代わりにして跳ね返したものの、スリープに近づきすぎていたソウイチ達三人はあっという間に球に飲み込まれてしまった。
「みんな!!」
「フフフ・・・。どうする? まだオレとやる気か?」
眠らされてしまった三人を見て動揺するソウヤに対し、スリープはまた余裕の笑みを浮かべている。
「当たり前だ! 敵前逃亡なんて絶対にするもんか!!」
ソウヤはキッとスリープに向き直り、でんこうせっかで飛び掛る。
だが、そのパターンがスリープに通用するはずもなく、再びかなしばりの餌食となってしまった。
「ぐうう・・・!」
「ハハハハ!! もっと苦しめ!!」
苦痛に顔をゆがめるソウヤ。
スリープはさらに力を強め、これでもかとソウヤの体を締め上げる。
意識が飛びそうになる中、ソウヤは何とか逆転できないかと必死で頭を働かせた。
そして、ようやく一つの作戦を思いつく。
だが、成功する確率は宝くじが当たることに等しい、一か八かの賭けだった。
「これで終わりだ!!」
止めを刺すために、スリープは最大まで力を溜めようとする。
そのせいで力が緩んだ一瞬の隙を、ソウヤは見逃さなかった。
「今だ! いけえ!!」
ソウヤは渾身の力で十万ボルトを放った。
黄色い閃光は尖った岩を直撃、折れた岩は他の岩を巻き沿いにしながらなだれとなってスリープに降って来る。
「な、なんだと!? うわあああ!!」
スリープは慌ててねんりきで岩をそらそうとしたが、膨大な数には対処し切れない。
あえなく岩は頭上に降り注ぎ、周囲は土煙で何も見えなくなった。
ソウヤは土煙を凝視して、スリープがどうなっているかを伺う。
しばらくして視界が晴れると、そこには大量の岩に紛れ、スリープが地面に突っ伏しているのが見えた。
やはりあの大量の岩には敵わなかったようだ。
「ふう~・・・。危なかった~・・・」
ソウヤは安心して気が抜けたのか、ペタンとその場に腰を下ろした。
そして、敵を倒したという達成感と、体力を消費したことによる疲労感が押し寄せてくる。
「ふわあああ・・・」
そうこうしているうちに、ソウイチ達の方もさいみんじゅつの効果が切れたのか、ようやく目を覚ました。
そして、スリープが倒れているのをみて大いに驚く。
「ソウヤ、お前がやったのか・・・?」
ソウイチは信じられないという面持ちでソウヤに尋ねた。
あれほどまで苦戦した敵を、たった一人でやっつけてしまうとは思えなかったのだ。
「そうだよ。みんなが寝てる間にやっつけちゃった」
ソウヤは鼻高々だった。
四人がかりでなかなか倒せなかった敵を自分一人で倒したのだ。
自慢したくなるのも当然といえば当然である。
もちろん、ゴロスケとモリゾーはどうやって倒したのかを知りたがった。
「んなことよりルリリの方が先だろ? 行くぞ」
自慢話はうんざりだし、このままだと長くなりそうなので、ソウイチはソウヤが話し出す前に先手を打つ。
ソウヤはしかめっ面をしたが、特に何も言わずソウイチの後をついて行く。
そして、あれほどの戦いを目の当たりにしたせいか、ルリリは岩陰に隠れてすっかりおびえていた。
「大丈夫かい? 助けに来たよ」
「怪我とかはないかい?」
モリゾーとゴロスケはルリリに優しく話しかける。
まだおびえてはいたものの、ルリリは大丈夫ですとはっきり答えた。
「よかった~、ほっとしたよ! お兄ちゃんが待ってるから早く帰ろう!」
「は、はい!」
ソウヤはにっこりと笑いかけ、それにつられてルリリもようやく笑顔を見せた。
そして気絶しているスリープをロープで縛り上げ、ソウイチ達はバッジを使って麓へと降りる。
交差点に帰ってくると、マリルと、マリルから連絡を受けたジバコイルが待機していた。
「ワタシハジバコイル。コノチイキノホアンカンデス」
体が磁石のせいか、話し方もどこか機械のように思える。
疑問に思いソウヤに話題を振るソウイチだったが、細かい部分に突っ込むなとあえなく一蹴。
先ほど話をさえぎられた腹いせだろうか。
「マア、ソレハオイトイテ・・・。コノタビハ、オカゲサマデオタズネモノヲタイホスルコトガデキマシタ。ゴキョウリョクカンシャイタシマス!」
ジバコイルは丁寧に礼を述べた。
おたずねものをつかまえた賞金は、すでにギルドへ送っているとのことだ。
「大したことはしてねえよ。やるべき事をやっただけさ」
鼻の頭をかきながら、特に威張った様子もなくソウイチは言った。
「サア、クルンダ!!」
「トホホホ・・・」
スリープはがっくりと肩を落とし、縄につながれジバコイルとコイルに連行されていった。
いつの世界にも、悪が栄えたためしはないのだ。
一時は繁栄しても、いつかは正義の前に崩れ去る。
「ルリリ、大丈夫か? 怪我はないのか?」
マリルはルリリの体をあちこち調べた。
どこか傷でもできていたらと気が気ではない。
「大丈夫。どこも怪我はしてないよ」
「ほんと!? よかった・・・。本当によかった・・・!」
ゴロスケの笑顔を見て、マリルもようやく安心。
そのせいか、ルリリを抱きしめたまま、目に自然と涙があふれてきた。
ルリリの方は兄の胸に顔をうずめ、恐怖を吐き出すかのように泣きじゃくっている。
大惨事にならず、本当によかったと、心から思う四人であった。
「これもアドバンズの皆さんのおかげです。このご恩は忘れません。ありがとうございました」
「助けてくれてありがとうございました!」
マリルとルリリは深く頭を下げ、丁寧に礼を述べた。
やはり面と向かって感謝されるのはまだ慣れていないのか、少し照れくさそうにする四人。
「気にすんなよ。またなんかあったら、オレ達が力になるぜ。じゃあな!」
ソウイチはにっと笑い二人に別れを告げると、ソウヤ達と共に意気揚々とギルドへ引き上げていく。
ギルドではペラップが待っており、報告を受けたのか、飛び切りの笑顔だった。
「ジバコイル保安官からおたずねものの賞金を頂いた。お前達、よくやったな」
「ヘヘヘ。あれぐらいたいしたことねえよ」
ペラップにほめられ、ソウイチは照れて頭をかいた。
だが、ソウヤはむすっとした顔でソウイチを見ている。
スリープを倒したのは自分なのに、それをいかにもソウイチが倒したかのような態度なので、その図々しさに呆れていたのだ。
にらまれているのにようやく気付き、ソウイチは慌てて態度を改める。
また何かをされてはたまったものではない。
「これは今回の仕事の報酬だ。取っておいてくれ」
と、ペラップは報酬の全てを渡すかと思いきや、やはり今回も、昨日と同じ十分の一しかもらえなかった。
これにはモリゾーとゴロスケも落胆と怒りを隠せず、すぐさま抗議する。
「こ、これだけしかもらえないの!? オイラ達あんなにがんばったのに!!」
「そうだよ! もう少しもらったっていいじゃない!」
ルリリを助けるために体を張ったのに、これではただ働きも同然。
不公平にもほどがあると二人は思った。
そんな中、人間のときと金銭の価値が違うせいか、やはりソウイチとソウヤは多い少ないという基準が理解できずにいる。
「当たり前だ。これが修行というものさ。明日からまたがんばるんだよ。ハハハッ♪」
この程度の苦情には慣れているのか、ペラップはさらりと受け流し、下の階へと消えていった。
二人はすっかりしょげ返り、言葉を話す元気もなくなっている。
「で、でもいいじゃない。ルリリを助けることができたんだからさ」
「それもこれも、ゴロスケ達の協力があったからだぜ? ほんとありがとな」
このままではまずいと思い、ソウイチとソウヤは無理やり笑顔を作った。
辛気臭い雰囲気はあまりいいものではない。
「でも、ソウイチが見た夢のおかげでルリリを早く助けることができたんだよ? ほとんどソウイチのおかげみたいなもんだよ」
(そういや・・・、最初に聞いたルリリの叫び・・・。そしてあの後見た夢・・・。あの時見たものは、どれも未来に起こる出来事だった・・・。なんでそんなものが見えたんだ・・・?)
モリゾーに言われて、ソウイチははっとそのことを思い出した。
だが、なぜあんなものが見えたのか、いまだに自分の中では解決策を出しかねている。
うなりながら考えていると、急にソウイチのお腹が大きな音を立てた。
「ぷ・・・。アハハハハハハハ!!」
あまりの大きな音に、三人は大爆笑。
今まで聞いたことないような音に笑わずにはいられなかった。
「な、何だよ!! 何がおかしいんだよ!?」
「だってだって・・・! アハハハハハ!!」
ソウイチはバカにされたと思い怒鳴りつけたが、それでも三人は笑うのをやめない。
ソウヤとモリゾーはあまりのおかしさに笑い転げている。
「てめえら!! いい加減にしやがれ!!」
とうとう額に青筋が浮き、ソウイチは三人に殴りかかろうとする。
しかしその時、なんと、ソウヤ達のお腹も同時に大きな音を出して鳴ったのだ。
ソウイチの時よりも一際大きな音は、あたり一面に響き渡った。
これには他のメンバーも吹き出し、いたるところでくすくすと笑い声が聞こえる。
まさか自分のお腹が鳴るとは思ってなかっただけに、三人の顔は見る見る真っ赤に染まっていった。
「アハハハハ!! なんだよ、お前らもでかい音出してるじゃねえか!! アハハハハハ!!」
もちろんソウイチは先ほどの三人に負けないほど大爆笑。
笑いすぎて腹筋が痛くなり、目には涙が滲んでいた。
最初は恥ずかしそうにしているソウヤ達も、やがてソウイチの笑い声につられるように笑い始める。
しばらくして、ようやく笑いは収まった。
「アハハハ・・・。ルリリを助けるのに必死だったから、お腹が減ってるのに気がつかなかったんだね」
「なんだか、気がついたらますますお腹がすいちゃったね。早くご飯食べに行こう!」
モリゾーとゴロスケは涙を拭きながら言った。
そして四人は、空腹を満たすために食堂へと駆け込んでいく。
今晩は昨日以上によく食べたと誰もが思っていた。
「ふう~、食った食った!」
部屋に帰って、ソウイチはぽこっとでたお腹をさすっている。
こんな小さい体に、よくもここまで詰め込めるものだ。
「しかしソウイチもよく食べるね。あそこに置いてあった食料全部食べ尽くすかと思っちゃったよ」
「いくら何でもそんな大人げないことしねえよ・・・」
モリゾーに素直な感想を言われ、ソウイチはへそを曲げてそっぽを向いた。
「でも、ソウイチ自身子供っぽいところがあるしね~」
ソウヤはニヤニヤしながらソウイチのお腹をぽんぽんと叩く。
「なにい!?」
「やめなよ。お腹いっぱい食べれたんだからいいじゃない」
またけんかになりそうだったので、ゴロスケは慌ててその場をとりなす。
さすがにこう言われてはけんかするわけにもいかず、ソウイチはしぶしぶ引き下がった。
その途端、目がくらむような閃光が走り、腹のそこに響くような音がとどろく。
どうやら近くに大きな雷が落ちたようだ。
あまりにも不意だったので、四人の心臓は一気に跳ね上がる。
外はいつの間にか、大荒れの天気になっていた。
「うわあ~・・・。すごい雷だったね~・・・」
「今夜は嵐になりそうだね・・・」
モリゾーとゴロスケはまだ、自分の心臓がドキドキしているのが分かった。
あれほどまで大きな雷を体験したのはいつ以来だろうか。
ふと三人は、今までその場にいたソウイチがいなくなっていることに気付く。
一体どこへ行ってしまったのかと思っていると、ソウイチは部屋の隅でガタガタと震えていた。
何を隠そう、ソウイチは小さい頃から雷が大の苦手で、一行に克服できていないのだ。
「ソウイチ・・・。もしかして、雷が怖いの・・・?」
「バ、バカ!! 誰が怖いって言ったよ!!」
図星だったので、ソウイチは慌ててモリゾーの言うことを否定。
だが、否定すればするほど雷が嫌いであることは一目瞭然だった。
こんな性格で雷が嫌いというのも、珍しいものだ。
「そういえば、僕らとソウイチ達が出会った前の晩も、こんな嵐だったんだ。その次の日に、ソウイチ達が海岸に倒れていたんだよ」
モリゾーはふと思い出し、二人に言った。
「どう? 倒れたときの記憶とか、何か思い出せそう?」
ゴロスケは気になって聞いてみるが、やはり二人の頭には何も浮かばない。
なぜポケモンになり、海岸に倒れていたのか、疑問ばかりが頭の中を駆け巡る。
「やっぱり難しいのかな・・・。でも、すこしずつ思い出していけばいいよ」
モリゾーは少しくらい顔になったが、すぐ笑顔になって二人を励ました。
記憶というのは無理に思い出そうとすればするほど遠のくもの。
ここは時間が解決するのを待ったほうがよさそうだ。
明日も早く、ちょうど眠気も出てきたので、今日のところはもう寝ることにした。
「ねえ、ソウイチ・・・。起きてる?」
「ああ、起きてるぜ・・・」
また眠れないのか、モリゾーはソウイチに声をかける。
起きているようだったが、他の二人は寝てしまったようだ。
「オイラあれから思ったんだけどさ、ソウイチが見た不思議な夢って、ソウイチ自身のことと深く関わってるんじゃないのかな?」
「夢と、オレが?」
「なんとなくだけどさ。でも、未来の夢を見るヒノアラシなんてオイラ知らないし、人間が突然ポケモンになっちゃったていうのも、オイラ聞いたことないんだ。だからこそ、その二つが大きく関わってる、そんな気がしてならないんだ」
人間の時にそういう能力が備わっていたとしたら、記憶を失っているとはいえ、ポケモンになってからも使えるはず。
ソウイチの記憶をたどる鍵が、あの時見た夢の中にあるのだろうか。
仮にそうだとしても、一体それがどう関わっているのか、ソウイチには分からない。
「人間の時のソウイチがどんなだったかは知らないけど、でも、オイラ絶対いい人だと思うよ。だって、ソウイチのおかげで悪者退治をすることができたんだもの」
「あれは、ソウヤが大半をやったようなもんだ。オレは何もしちゃいねえよ。そういやさっき、ペラップが悪い奴らが増えたのは時が狂い始めた影響だって言ってたよな?」
ふと思い出し、ソウイチはモリゾーに聞いた。
世界各地で少しずつではあるが時が狂い始めており、その原因は不明らしい。
ポケモン達が言うには、ときのはぐるまが何かしら影響しているのではないかと言われている。
森の中、湖や鍾乳洞、火山の中という秘境のような場所に点在し、その中央にあるものがときのはぐるまと呼ばれ、それがあることでその地域の時間が守られているとモリゾーは説明した。
だが、そこで一つの疑問がソウイチの頭に浮かぶ。
もし、それを誰かが取ったとしたら、一体どうなるのだろうか。
「う~ん、どうなんだろう・・・。多分、その地域の時間も止まっちゃうんじゃないかな? とにかく大変なことになっちゃうと思うから、どんな悪いポケモンでも触らないんだ」
悪者すら盗もうとしないというのはかなりのものだ。
それほど、そのときのはぐるまというのは誰からも畏れられている存在なのだろう。
よく分かったような、分からないような気分のソウイチだった。
「ふぁぁぁぁ・・・。なんだか眠くなってきたし、そろそろ寝ようぜ・・・」
「だね・・・。じゃあお休み、ソウイチ・・・」
「ああ、お休み・・・」
二人は挨拶を交わすと、すぐさま夢の世界へと引きずり込まれていく。
その頃、ある一匹のポケモンが、森の一本道を駆け抜けていた。
森の最奥部に到着すると、そこには、ふしぎな光を放つはぐるまが埋め込まれている。
そのポケモンは何のためらいもなく、そのはぐるまを抜き取り、周囲を確認するとすぐさまその場から立ち去っていった。
そのポケモンの正体は何なのか、なぜときのはぐるまを盗んでいったのか、それは誰も知らない。
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