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アドバンズ物語第十六話

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ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第十六話 わがままな依頼者


そして翌朝、怒りなどはだいぶ収まってはいたものの、みんなは沈んだ気持ちで朝礼をしていた。
おなかもすいていたので、朝礼の最中も鳴りっぱなしだった。
そして朝礼の最後に、ぺラップが重大発表をした。
なんと、近々遠征メンバーの発表が行われるとのことだ。
みんなペラップの言葉にわくわくした。
今まで自分たちがメンバーに選ばれようと必死でがんばってきたからだ。

「いよいよ最後のアピールだ。メンバーに選ばれるようしっかり仕事をしてくれ。」
ペラップはそう締めくくり、朝礼は終わった。

「はあ~、腹減ったなあ・・・。」
ソウイチはお腹をさすった。

「発表があるのはわくわくするけど、なんだか気分が乗らないな~・・・。」
ソウヤも浮かない顔だ。
すると、ぺラップが唐突にソウイチ達を呼んだ。
みんなはまた嫌みを言われるのではないかと心配していたが、それは嫌みよりもっと残酷なことだった。

「今日は依頼の仕事をしてくれ。それから、残念だが、お前達が遠征のメンバーに選ばれるのはあきらめたほうがいい。」
ぺラップはいいにくそうな感じもなく、さらっと言った。

「なにい!?」

「そ、そんなあ!!なんでなのさ!?」
みんなショックを受けた。
いきなりそんなことを言われるとは夢にも思わなかったのだ。

「やはり昨日の失敗が大きいのだ。親方様も、あのように一見何を考えているのか分からないが、内心はすごく怒っているのだ。たぶんお前たちを遠征メンバーに選ぶことはないだろう。だからメンバー発表の時はあまり期待しないでいてくれよな。」
そう言うと、ペラップはどこかへ行ってしまった。
みんなは力が抜けてその場に座り込んだ。

「ううう・・・。ただでさえお腹がすきすぎて力が出ないのに、朝からあんなこと言われたんじゃもうやる気が起こらないよ・・・。」
モリゾーとゴロスケは完全に沈みきっていた。
もう声のかけようがないほどだった。

「はあ・・・。もうばかばかしくてやってらんねえ!いっそ仕事サボるか?」
もうソウイチはどうでもよくなりすぎて、楽なほうへと思考回路が流れ始めていた。

「みんな!確かに昨日は大失敗だったけど、だからって全部が全部だめになるとは限らないじゃないか!!」
ソウヤはみんなに言った。
みんなは、ソウヤがこんなことを言うとは思ってもみなかった。

「そ、ソウヤ・・・。」

「今からだって、昨日の失敗を取り戻せるようなことをすれば大丈夫だよ!」
ソウヤはみんなを励ました。

「遅れを取り戻すって・・・、どうやればそんなことできるの?」
ゴロスケはソウヤを見上げた。
その目は半開きであきらめが渦巻いていた。

「そ、それは・・・。」
ソウヤも返す言葉がなかった。
結局、具体的にどうすればいいのか誰にも分からなかった。

「ねえ。ちょっと~。」
どこからか声が聞こえてきた。
みんなは辺りを見回したが、誰の声なのかさっぱり分からなかった。

「こっちこっち。こっちでゲスよ~。」
みんなが食堂へ行く通路の方を見ると、ビッパ、キマワリ、チリーンがいた。

「お、ビッパ!どうしたんだ?何か用事か?」

「し~っ!もっと小さい声ではなすでゲス。」
ビッパはソウイチに注意した。

「おっととと・・・。わりいわりい・・・。」
ソウイチもあわてて口を押さえた。

「四人ともこっちへ来るでゲスよ。」
ビッパはそう言うと、ソウイチ達の部屋の方へと駆け出した。
四人も後に続く。

「はあ、はあ・・・。グレッグルの他には誰にも見られていないでゲスね・・・。」
部屋につくと、そこにはシリウスとコンもいた。

「どうしたの?呼び出したりして?」
モリゾーはみんなに聞いた。

「はい。どうぞ。」
キマワリは一人一人にリンゴを手渡した。

「こ、これどうしたんだよ!?」

「腹減ってんだろ?みんなで昨日の晩飯を少しずつ残しておいたのさ。」
シリウスがソウイチたちに説明した。

「ここにはいないけど、ヘイガニやドゴームもあなたたちのことを心配していましたよ。」
チリーンが言った。
みんな昨日はあんな感じだったが、本当はソウイチたちのことを心配していたのだった。

「さあ、早く食べるでゲスよ!」
ビッパはみんなをうながした。

「い、いっただっきま~す!!」
みんな夢中で食べ始めた。
とてもお腹がすいていたので、みんなが持ってきた食料はあっという間になくなった。

「ぷは~、ごちそうさま~!」
みんなお腹いっぱいになって幸せそうだ。

「よかった~!」

「困ったときはお互い様です!」

「がんばってみんなで遠征メンバーに選ばれるでゲスよ。」
みんな口々にソウイチたちを励ました。

「ううっ・・・。みんなありがとう・・・。」
感激のあまり、モリゾーとゴロスケは泣いてしまった。

「な、泣くんじゃねえよみっともねえ!ん?なんか目の前がぼやけてきやがった・・・。雨か?」

「涙の雨だな。」
シリウスがソウイチに突っ込むと、みんな大笑いした。
ソウイチ達も思わず泣き笑いしていた。

「でも、遠征についてはさっきペラップが期待するなって・・・。」
せっかく笑顔になったゴロスケも、また沈んだ顔になってしまった。

「そんなの!そんなことまだわかんないでゲス!」

「まだメンバーは決まっていませんわ!」
みんなはまた励ました。
四人はビッパ達の心遣いがとてもうれしかった。

「みんな・・・。ありがとう・・・。でも、みんなも遠征に行きたいんでしょ?」

「仮に僕たちが選ばれたら・・・、かわりにこの中の誰かが落ちるかもしれないんだよ?それでもいいの?」
感激したとはいえ、モリゾーとゴロスケはまだ立ち直れていないようだった。

「よくないですわ。」

「もちろん、誰かが選ばれれば、誰かが落ちることになるんですけど・・・。でもその時はその時!」

「今度は選ばれた方を応援すればいいと思いますわ!」
キマワリとチリーンは交互に言った。

「みんな一緒に遠征に行きたいんでゲスよ。」
そしてビッパが最後を締めくくった。

「お、お前ら・・・。へっ・・・。いいこと言うじゃねえかよ・・・。」
ソウイチは目にたまっていた涙を拭いた。

「わかった。僕たちも遠征メンバーに選ばれるように最後までがんばるよ!」
モリゾーもゴロスケもようやく自信を取り戻した。

「その意気だよ!今からでもがんばれば大丈夫さ!」
ソウヤも笑顔になった。

「その勢いだぜ!」

「元気出していきましょう!みんなで一緒に行けるようにがんばりましょう!」
シリウスとコンも元気づけた。

「おう!ありがとな!」
さっきまでさぼる方向に流れていたソウイチも、ようやくいつも通りに戻った。
みんなにようやく笑顔が戻ってきた。
シリウスたちは別の仕事があるのでそっちへ向い、ソウイチ達は依頼の掲示板へ向った。
そこではなんと、ソウマ達が帰ってきて依頼を選んでいるところだった。

「あ、アニキ!」

「帰ってきてたんだ!」
ソウイチとソウヤは声をかけた。

「おお、お前らか。」
向こうもソウイチ達に気付いたようだ。

「オレ達がいない間に結構大変だったみたいだな。」
どうやらソウマ達は、ペラップからソウイチ達の失敗を聞いていたようだ。

「ああ・・・、まあな・・・。でももう気にしてねえよ。」

「失敗した分をかんばって取り戻さないとね!」
ソウイチとソウヤは明るく言った。
モリゾーとゴロスケも後ろでうなずく。

「その意気だ。よし、今日は全員でひとつの場所に行くか。」
ソウマは笑顔で言った。

「お!そりゃいいや!」

「じゃあ早速依頼を選ぼうか。」
みんなも賛成のようだった。
そして、みんなは依頼をどれにするか選んでいたが、ふと、したのほうに小さな紙切れのようなものを見つけた。

「なんだ・・・?この依頼は・・・?」
ソウイチ達は掲示板の前で唖然としていた。

「『お母さんのところまで連れて行ってください。』だって・・・。」
正式な依頼の紙ではなく、普通の紙に書いたようなもので、お礼の内容や細かいことはまったく書かれていなかった。

「どうする・・・?」
モリゾーはソウイチに聞いた。

「オレに聞かれたってしらねえよ・・・。」
ソウイチは困ったという顔でソウマを見た。

「目でものを言わなくてもわかるって・・・。行くだけ行ってみればいいんじゃねえか?」

「それもそうだね・・・。じゃあ、行ってみようか。」
みんなは不思議な感覚に包まれたまま、依頼の場所へ向かった。
依頼の場所はがんせきどうくつという場所で、あたりからはとがった岩が飛び出し、かなりすごそうなところだった。

「さ~て、ようやくついたぜ。」
ソウイチは首をぐるぐる回した。
何かの準備運動だろうか。

「見渡す限り岩だらけだね~・・・。いわタイプとかじめんタイプが多いのかな・・・?」
ソウヤは少し不安だった。
アイアンテールが使えるとはいえ、じめんやいわタイプの技をうければかなりのダメージを負ってしまうからだ。

「私もちょっと危ないわね・・・。アイアンテール使えればな~・・・。」

「メタルクローで対処できるかな・・・。」
ライナとドンペイの顔にも不安の色が浮かんでいた。

「ったく、情けねえなあ。うだうだ言う前に行動してみろよ。」
ソウイチは上から目線で言った。

「なにい!?どこが情けないんだよ!」

「そうよ!大体あなただってほのおタイプでしょ!?」

「そうですよ!どうやって対処するつもりなんですか!」
ソウイチは三人から猛反発を受けた。
どう考えてもソウイチが一方的に悪い。

「だから、不安になる要素がどこにあるんだよ?やる気と気合があれば相性なんて別に関係ねえよ。」
ソウイチは自分の意見を曲げようとはしなかった。

「気合で何とかなる問題じゃないよ!!」
ソウヤはだんだん腹が立ってきた。

「まあまあ。なんかあったらオレがしっかりサポートしたるがな。」
このままではけんかになりかねないので、カメキチは仲裁に入った。

「僕たちも相性はいいよ。まあ、かなうかどうかは分からないけど・・・。」
ゴロスケも多少は自信がないようだ。

「とにかく、今は依頼を解決することが先だ。そういや、依頼者はどこにいるんだ?」
ソウマは揉め事をそっちのけで依頼者を探していた。

「そういえば見当たらないね。どこにいるんだろう・・・。」
モリゾーも辺りを見回したが、それらしき影はどこにも見えなかった。

「あの~・・・、探検隊の人たちですか・・・?」
突然声がしたので、みんなはびっくりした。
何しろ姿が見えないので、どこにいるのかさっぱり分からないのだ。

「もしかして、依頼を受けに来てくれたんですか?」
岩陰から出てきたのは、ヨーギラスの子供だった。

「君がこの依頼を書いたのかい?」
ソウヤはヨーギラスに聞いた。

「そうです。僕たちの力だけじゃ会いにいけないんです・・・。だから、連れて行ってもらえますか?」

「そのためにオレ達は来たんだ。もちろん連れて行くよ。」
ソウマはヨーギラスの頭をなでた。

「あ、ありがとうございます!お~いみんな~!連れて行ってくれるって~!」
ヨーギラスはさっき隠れていた岩のあたりに向かって叫んだ。
すると、三匹のヨーギラスが顔を出した。
どうやら兄弟のようだ。

「えええ!?こ、こんなにいるのか!?」

「すごいな・・・。四兄弟だったとは・・・。」
ソウイチもソウマもびっくりだ。

「どうか、よろしくお願いします!」
長男と長女のヨーギラスは丁寧に頭を下げたが、次男と三男はそっぽを向いていた。
かなり生意気のようだ。

「あ、ああ・・・。しかし、これだけ大勢だと、半分に分かれたほうが身動きが取れやすいな・・・。」
普段のソウイチらしからぬまともな意見だった。
一緒に行動する予定は、どうやら取り消しになりそうだ。

「そうだな。とりあえず、半分に分かれてくれ。」
ソウマが四匹に言うと、長男次男、長女三男のコンビに別れた。

「で、どっちがどっちの面倒見るの?」
ソウヤがみんなに聞いた。

「とりあえず、ソウイチ達は長男達のほうをお願いするわ。」

「大丈夫か?みたとこ、あの次男が一番ワガママそうやけど・・・。」
ライナの意見に、カメキチは賛成できなかった。

「礼儀正しい長男と一緒だから、まだ大丈夫だろ。それに、あの三男は長女の言うことに反発して聞かない可能性もある。そう考えたら、オレ達が面倒を見たほうがいいだろ?」
ソウマは冷静な判断をした。
反対意見が見つからないので、カメキチはしぶしぶ承知した。
しかし、この後でとんでもないことになってしまうとは、ソウマでさえ予想できなかった。
どうくつに入ってしばらくもしないうちに、早速トラブルが持ち上がったのだ。

「な~、腹減ったよ~。」
次男はソウイチ達の周りにまとわりついて食べ物を催促した。

「がまんしなよ。さっき食べたばかりだろ?」

「減ったもんは減ったんだよ!腹減った~!」
次男は長男の言うことを全く聞く気配がない。
ものすごく駄々をこねていた。

「男だったら少しぐらいがまんしろ!ぎゃーぎゃーわめくな!!」
とうとうソウイチの雷が落ちた。
何度も何度も腹減ったと言われてうんざりしていたのだ。

「う・・・、ううう・・・。うわあああああん!!」
すると、次男の目に見る見るうちに涙がたまり、大声で泣き出した。

「ぐああああ!!やめろ~!!耳が壊れる~!」
ソウイチはあまりの大音響に耳をふさいだ。

「ドゴーム以上だよこれは!!」
ソウヤも必死で耳を押さえていたが、とてもふさぎきれているとは思わなかった。

「びええええええええ!!」
泣き声はどんどん大きくなり、あたりの壁がガラガラと音を立てて崩れ始めた。

「わわわわ!!わかった、わかったよ!オイラの分のリンゴあげるから泣かないで!」
とうとうモリゾーは耐え切れなくなって、自分の分のリンゴを次男にあげた。
そのとたん、次男はぴたっと泣き止み、りんごをパクパク食べると満足した顔になった。

「ったく、とんでもねえワガママ小僧だぜ・・・。長男と一緒にいるから大丈夫って言ったのは誰だよ・・・。」
ソウイチはぼやいた。

「へ、へっくし!!なんだ?かぜか?」
ソウマは大きなくしゃみをした。
実は、ソウマのほうも三男に手を焼いていたのだ。
この三男はちょっと目を離すと勝手にどこへでも行ってしまうため、みんなで探し回らなければならなかった。

「どうだ?いたか?」

「だめです・・・。見つかりません・・・。」
ドンペイは走り回って疲れたのか座り込んでしまった。

「もう、しょうがないんだから~・・・。」
長女もすっかり呆れていた。

「お~い!おったぞ~!はよきてくれ~!!」
どうやらカメキチが三男を見つけたようだ。
みんなは急いで現場に向かった。
すると、なんと三男は今にも足場が崩れそうな橋を渡っているではないか。
その下は、とがった岩が何本も生えている深い谷だった。

「た、大変!早く連れ戻さないと橋ごと落ちちゃうわ!!」
ライナと長女はおろおろしたが、どうすればいいか分からなかった。

「しかたねえ・・・。無理やりにでも連れ戻すぞ!!」
ソウマは猛ダッシュで三男のところへ行った。
ソウマが橋を渡り始めると、橋げたがガラガラと音を立て始めた。

「急げソウマ!崩れよるぞ!!」
カメキチはソウマに向かって叫んだ。
ソウマはどんどんと走るスピードを上げ、あっという間に三男に追いついた。
そして、三男を抱きかかえるとシャトルランのようにすぐ折り返し、全力で戻り始めた。
三男は戻るのが嫌だったのかソウマの腕の中で暴れた。
その間にも橋はどんどんと崩れていた。

「先輩!早く早く!!」

「あと少し、あと少しだ・・・!」
さすがに、ヨーギラスを抱きかかえての全力疾走は厳しかった。
何しろ小柄な割に体重が重いのだ。
ソウマのスピードはだんだんと落ち、橋の崩れるスピードはどんどん加速した。

「急げソウマ!!」

「うおおおおおお!!」
最後の力を振り絞って、ソウマはようやく橋を渡りきった。
その直後橋が全て崩壊し、谷へと崩れ去っていった。

「ぜえ、ぜえ・・・。あ、危なかったぜ・・・。」
ソウマは苦しくて息も絶え絶えだった。
体力はあるものの、さすがに100キロを超えるヨーギラスを抱えて全力疾走したのは疲れたようだ。

「もう!勝手にどこにでも行かないでって何回も言ってるでしょ!!」
長女は三男を叱ったが、三男は全く聞く気配を見せなかった。

「ゆうても聞かんやつに説教してもむだやわ・・・。はよ連れていこ・・・。」
カメキチはとてもうんざりしていた。
一方ソウイチの方はと言うと、また次男のワガママが始まっていた。

「ね~、疲れた~。おんぶ~。」
またしても駄々をこねていた。

「いい加減にしなよ!探検隊の人たちに迷惑だろ!」

「おんぶったらおんぶ~!!」
長男が怒ると、次男はさらに駄々をこねた。

「しかたねえ。もうほっといていくぞ。」
いい加減我慢が限界に来たのか、ソウイチは冷たく言い放った。

「い、いいの!?」
みんなソウイチの言うことが信じられなかった。

「ヨーギラスを背負うにはオレ達じゃどう考えたって小さすぎるだろうが。それにこいつらは体の割に重いんだぜ?」
ソウイチの言うことももっともだった。
それでも、みんなは次男を置いていくことに躊躇した。

「本当にすみません・・・。弟は僕がおんぶします・・・。」
長男は恐縮しきっていた。
わがままな弟を持つのは大変なのものだ。
そしてソウマの方は、またしても三男がいなくなっていた。

「あれだけ注意したのに!もう!」
長女はすっかり怒っていた。

「怒ってても仕方ないわ。とにかく探しましょう。」
ライナは長女をなだめた。
それで幾分かは長女も落ち着き、再び三男を捜し始めた。
そして数十分ほど探し回ると、ようやく三男を見つけた。
しかし、三男が歩いている先は崖になっていてとても危険だった。
三男はそれを知らずに歩いていたのだ。

「ああ!そっちは危ないから行っちゃだめ~!!」
長女は必死で弟の後を追いかけた
そして間一髪間に合い、三男は落ちなかった。
しかし、そのせいでバランスを崩してしまい、長女の体は大きく傾いた。

「え、いや・・・。きゃあああああああ!!!」

「あぶな~い!!」

ガシッ!

間一髪で、ライナが長女の腕をつかんだ。
後数秒遅れていたら、長女は谷底へ真っ逆さまだっただろう。
しかし、ライナの力では100キロを超えるヨーギラスを持ち上げる事は不可能だった。
長い時間は持ちそうになかった。

「誰か!!誰か来て~!!」
長女は必死で叫んだ。

「うううう・・・。」
ライナは必死で長女を上へ引っ張り上げようとした。
しかし、いつまでも支えていることはできず、ライナはずるずると引っ張られた。
後数cmで落ちそうになったそのとき・・・。

「ライナ!しっかりしろ!」

「今引っ張り上げたるけんな!」
間一髪ソウマとカメキチが駆けつけ、何とか二人を引っ張りあげた。

「大丈夫だった?」
自分も落ちそうになったにもかかわらず、ライナは長女を気遣った。

「は、はい・・・。大丈夫です・・・。」
長女は涙目になっていた。
とても怖かったのだろう。
そんな姉の様子を見ても、三男はそっぽを向いていた。
すると、突然ソウマは三男の胸ぐらをつかみあげた。

「いいかげんにしろ!!お前のせいで、お前の姉さんがどれほど迷惑してるのかわかんねえのか!!オレ達に迷惑をかけるのは別にかまわねえ。でも、身内や姉弟に迷惑をかけるようなことだけはするんじゃねえ!!わかったか!?」
ソウマは完全に怒っていた。
目は三男をしっかり見据え、その声は周りにいるものでさえ恐怖を感じるほどだった。

「・・・ごめんなさい・・・。」
唐突に三男が謝った。
その目は、心の底から反省した目だった。

「もう勝手にいなくなるなよ、いいな?」
ソウマはいつもの目に戻ると念を押した。
三男は分かったというようにこっくりうなずいた。

「よし、分かったんならもういいよ。」
ソウマは笑顔になって三男の頭をなでると、また洞窟の奥を目指して出発した。

「お姉ちゃん・・・。ごめんね・・・。」
三男はこっそり長女に謝った。

「もういいわよ。早くお母さんのところへ行きましょ。」
長女も、さっきの様子を見て弟を許したようだ。
そしてとうとう洞窟の奥についた。
ソウマ達が母親を捜していると、ソウイチたちも後から合流した。

「アニキ!よくもだましたな!!」
ソウイチは早速いらいらをソウマにぶつけた。

「は?なんのことだよ?」
ソウマにはさっぱり心当たりがなかった。

「長男がいるからって全然大丈夫じゃなかったよ~・・・。とても苦労したんだからね・・・。」
ソウヤも愚痴をこぼした。
その次男は、長男に背負われたままぐっすり眠っていた。

「そんなことは言うもんじゃねえぞ。例えどんな相手でも、依頼を成し遂げるのが探検隊ってもんだろ?」
ソウマの言うことはもっともだった。
相手を選んでいては依頼は成り立たない、どんなに気に入らない相手でも、しっかり依頼をこなすことが本当の探検隊だということなのだ。
二人は恥ずかしくなったのか、顔を赤くして黙ってしまった。

「さああと少しだ。行こうぜ。」
ソウマにうながされ、みんなはさらに奥へと入っていった。
そして奥についてみると、そこは家のような構造になっていた。
ドアをたたくと、バンギラスが顔を出した。

「あら?何か御用?」

「あ、実は・・・。」
ソウマが説明しようとすると・・・。

「おかあさ~ん!!」
姉弟達はみんなバンギラスに飛びついた。

「あんたたち!いつまでも帰ってこないから心配してたのよ!無事でよかったわ~。」
バンギラスはみんなにほおずりした。

「あなたたちが送ってくださったんですか?」

「ええ。依頼を受けたんでここまで連れてきたわけですよ。」
ソウマはバンギラスに説明した。

「でもさあ、ダンジョンの割には敵が全然いなかったよな?」
ソウイチは思い出したように言った。

「それはそうですよ。何たってこの洞くつは私たちの家ですから。」

「ええええええ!?」
みんなびっくりだ。
どおりで敵が一切いなかったわけだ。

「な、なんでこんな構造に・・・?」
ゴロスケがおそるおそる聞いた。

「防犯対策なのよ~。最近物騒でしょ?こうしておけばめったやたらに怪しいやつも入って来れないし。」
バンギラスは恥ずかしそうに笑った。

「(防犯ってレベルじゃない!!)」
誰もが同じ事を心の中で思った。
もちろんお礼は受け取らず、みんなはつかれきった気分でもと来た道を引き返した。
依頼者にも、依頼場所にも疲れさせられた一日だった。
帰ってくるとすでに晩御飯の時間で、みんなは早速席に着いた。
もうはらぺこでおなかがしきりに催促している。

「いっただっきま~・・・。」
みんなが食べようとすると・・・。

「みんな!ちょっとまった~!!」
ペラップが、晩ご飯を口に入れる寸前でみんなを止めた。

「え~、今日は晩ご飯を食べる前に、みんなに聞いてほしいことがある。」
ペラップがそう言うと、あたりからはブーイングの嵐。
みんな腹が減ってしょうがないのだ。

「静粛に!静粛に!!」
ペラップは慌ててみんなをなだめた。

「え~、みんなも気になる遠征メンバーだが、親方様は先ほど決断されたようだ♪」
その言葉を聞いてみんなの目が輝いた。

「メンバーの発表は明日の朝礼で行う。楽しみにしていてくれ♪それではみんな、お待たせして悪かったな。あらためて・・・。」

「いっただっきま~す!!」
みんなものすごい勢いで食べ始めた。
さっきの話を聞いて食欲も倍増したようだ。

「明日はいよいよメンバーの発表だね。なんかドキドキしてきたよ。」
モリゾーとゴロスケはうれしそうだった。

「まあ、ペラップが言ってたように望みは薄いかもしれないけど・・・。」
朝言われたことを思い出し、ゴロスケはまた暗い顔になった。

「でも、その後僕たちがんばってきたじゃない!きっと大丈夫だよ!」
ソウヤはゴロスケを励ました。

「できることはすべてやったんだ。後は結果を天に祈るだけさ。」
ソウイチもゴロスケを元気づけた。

「・・・そうだよね。二人の言うとおりだよ。例え落ちたとしても、もう気にしない。」
ゴロスケはいつもの顔に戻って言った。

「その意気だよ、ゴロスケ!」
モリゾーもうれしそうだった。

「明日は早くなりそうだし、今日はもう寝ようぜ。」

「そうだね。じゃあ、お休み~。」
みんなは早めに眠りについた。
その中で、ソウイチは一人考えていた。

「(悔いはないって言ってたけど、やっぱり落ちたらがっかりするだろうな~・・・。もし、オレとソウヤがダメでも、あいつらだけは行かせてやりたい。いや、きっとみんなで行ける!今まで努力してきたんだ。落とせるものなら落としてみやがれってんだ!)」
そんなことを思っているうちに、ソウイチも眠りに引き込まれていった。

「みんなで・・・、行けるといいな・・・。」
意識が遠のく間際に、ソウイチはそうつぶやいた。



そして翌朝、みんなはいつもの目覚ましで起きた。
いよいよメンバーの発表だ。
知らず知らずのうちに、みんな緊張していた。

「え~、それでは。これより遠征メンバーの発表を行う。親方様、メモを。」
ペラップはプクリンからメモを受け取った。
みんな顔に緊張の色が浮かんでいた。
そして、いよいよ名前が呼ばれるときが来た。
名前を呼ばれたのは、ドゴーム、ヘイガニ、ビッパ、キマワリ、チリーン、そして、ソウマ達4人だった。
ソウイチたちが名前を呼ばれることはなかった。

「チッ・・・。やっぱり響いたか・・・。」

「せっかく大手柄も立てたのにね・・・。」

「やっぱり残念だよ・・・。」
みんながっくり肩を落とした。
向こうでは、ドクローズがざまあみろとばかりに笑っていた。
そして、シリウスとコンは残念そうにソウイチたちを見ていた。

「しかたねえよ。オレ達全員が選ばれたのが偶然なのさ。去年はオレとライナだけだったしな。」

「きっと次があるわよ。」

「そうやそうや。今度は絶対選ばれるって。」

「気を落とさないでくださいね。」
ソウマ達はソウイチたちを優しく励ました。
それでも、ソウイチたちはやっぱり残念でならなかった。

「遠征メンバーは・・・、え~と・・・、あれ?」
ペラップがメモの下の方を見ると、そこにも名前が書いていた。

「(なんでこんな端っこに・・・。親方様ったら字が汚いんだから読みにくいったらないよ・・・。)」
本当はそう言いたいのを、ペラップはぐっとこらえた。
そんなことを口走れば、後でどんな目にあうか分かっていたからだ。

「え~、遠征メンバーだけどまだ続きが・・・。他には、ダグドリオ、ソウヤ、ディグダ、モリゾー、グレッグル、そして、ソウイチにゴロスケ。以上。」
ペラップがメモを読み終えると、みんな唖然とした。
なんと、メンバー全員が選ばれていたのだ。

「って!えええ~~~~!?親方様、これってもしかしてギルドのメンバー全員じゃないですか!?」
ペラップは慌てて確認した。

「うん!そうだよ!」
プクリンは笑顔で言った。

「そんなあ~!それじゃあ選んだ意味が・・・。だいたいそんなことしたらここに誰もいなくなっちゃうじゃないですか!!」
ペラップは抗議した。

「大丈夫だよ。ちゃんと戸締まりしていくから♪」
プクリンは全然意見を変える気はなかった。

「親方様、私も心配です。遠征に行くには少し人数が多すぎでは?それに、全員で行く意味なんてあるのですか?無能なものまで一緒では、帰って足手まといになると思いますが。」
ここでしゃしゃり出てきたのはスカタンク。
むろん、ソウイチたちのことをいっているのは言うまでもない。

「う~ん、友達にそう言われると困るけど・・・。う~ん・・・。」
プクリンはしばらく悩んでいたが、いい理由を思いついたようだ。

「だって、全員で行った方が楽しいもの!」

「ひえ!?」
予想外の返答にスカタンクはたじろいだ。

「みんなでわいわい行くんだよ?そう考えたらさ、僕わくわくして夜も眠れなかったよ♪」

「ひえええええ!」
スカタンクはさらにたじろいだ。
そんなことはまったく考えていなかったからだ。

「というわけでみんな!これから楽しい遠征だよ♪がんばろうね!」

「おお~!!」
スカタンク達をのぞいて、みんな気合いを入れた。
これから始まる遠征がとても楽しみなのだ。

ペラップがこれからの予定について説明し、行動チームを分けたところで解散となった。
ソウイチたちはビッパ、ソウマ達はシリウス達と行動することになった。

「よかったな!土壇場で選ばれて!!」
うれしさのあまり、シリウスはソウイチの肩をばんばんたたいた。

「いたたたた!土壇場って言うなよ!」
そう言うソウイチの顔も、うれしさでいっぱいだった。

「モリゾーさんも一緒に行けてよかったです!」

「ありがとう。オイラもうれしいよ!」
コンもモリゾーもうれしそうだ。

「一時はどうなることかと思ったけど、みんな一緒でよかった!」
ソウヤもゴロスケも笑顔があふれていた。
みんなとても幸せそうだ。

「よっしゃあ~!いよいよ遠征だぜ!みんな、がんばっていこうぜ~!!」

「おお~!!」
ソウイチのかけ声にみんなは答えた。
いよいよ、待ちに待った遠征のスタートだ。


アドバンズ物語第十七話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
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Last-modified: 2010-11-27 (土) 00:00:00
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