ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第六十話 ヨノワールの裏切り!アドバンズ未来世界へ! 前編
次の早朝、シリウスは枕元にひとつの手紙がおいてあることに気付いた。
救助隊連盟の印がついているから、向こうのペリッパーが運んできたのだろう。
ご苦労なことだと思いながら、シリウスは手紙の封を切って読んでみた。
すると・・・。
「えええええええ!?なんだとおおおおお!?」
シリウスは突然大声を上げた。
みんなびっくりして飛び上がった。
「ったく・・・。なんなんだよ!せっかく気持ちよく寝てたのに・・・。」
ソウイチはシリウスに文句を言った。
「あんまり大声を出さないでよ・・・。」
ゴロスケも不満たらたらだ。
だが、シリウスはそんなことはお構いなしでなにやら準備をしている。
「おい、なにやっとんや?」
カメキチは不思議そうにたずねた。
「救助隊連盟から警告が来たんだよ!!早く基地に戻って依頼を受けないと、救助隊のランク下げるって!!」
「ああ~・・・。」
どおりであわてているわけだ。
シリウスにとって、救助隊のランクを下げられることは耐え難い屈辱なのだ。
「コン!おいコン!」
「ほにゃ・・・?」
「寝ぼけてる場合か!!さっさと帰るぞ!!」
シリウスは事情が分からないコンを引っ張って急いで部屋を出ていった。
みんなもわれに帰ったように後を追いかける。
入り口まで来たところで、ようやく二人に追いついた。
「お~い!!シリウス!!待てって!!」
ソウイチはシリウスに向って叫んだ。
「なんだよ!?この忙しいときに!!」
シリウスはソウイチをにらみつけた。
「見送りぐらいさせろよ。次いつ会えるかわかんないんだし。」
「ったく、しょうがねえなあ・・・。そんなに長い間会えないわけないだろ?」
シリウスはあきれた顔でソウイチを見た。
「そうだとしても、やっぱり見送るのが礼儀ってモンだろ?」
ソウイチから礼儀という言葉が出るのは珍しいが、友達として、しっかり見送っておきたいのだ。
「わかったよ。まあ、当分は戻ってこれないかもしれねえけど、依頼が片付いたらまた遊びに来るぜ!」
「皆さんもお元気で!」
二人はみんなに手をふって階段に向って駆け出した。
「うん!二人とも頑張ってね!」
「また遊びに来てくださいね!」
みんなも二人に手をふりかえした。
だが、ソウイチ、ソウヤ、ソウマにとって、これが最後の別れになるとは、まだ誰も知らなかった。
そして朝礼を終えた後で、ぺラップはリーフの捕獲情報についてみんなに話した。
「え~、リーフ捕獲についてだが・・・、リーフがつかまったという知らせは今だきていない。」
ぺラップは暗い顔でそう告げた。
「みんなやきもきしていると思うが・・・、ここは我慢して一生懸命仕事に・・・。」
ぺラップがそこまで言うと、急にけたたましくサイレンが鳴り響いた。
どうやらコイルからのようだ。
「ジバコイルホアンカンヨリレンラクデス!コノタビジュプトルヲ、ツイニツカマエルコトガデキマシタ!!」
みんなその言葉を聞いて歓声を上げた。
ときのはぐるまを盗む極悪人が捕まったとなれば、喜ばないはずがないだろう。
特に、ソウヤとゴロスケはかなり喜んでおり、ライナ達もほっとしているようだった。
しかし、ソウイチ、モリゾー、ソウマはとても喜ぶ気にはなれなかった。
ソウイチとモリゾーは、リーフが本当は記憶を失ったグラスだと思って疑わなかったからだ。
そしてソウマも、手配書でリーフの顔を見てから何かを感じていた。
ことばでは表すことのできない漠然とした何かを。
「ソレデ・・・、ジュプトルヲトラエタヨノワールサンハ・・・、ジュプトルヲツレテミライヘカエッテイクソウデス。」
コイルは残念そうに言った。
それはみんなも同じだった。
あれほど尊敬していたヨノワールが帰ってしまうとなれば、悲しまないものはいない。
だが、そこである疑問が浮上してきた。
ヨノワールは、どうやって未来に帰るのだろうか。
「ソレハ、ワタシモヨクワカラナインデスガ・・・。ナンデモ、ジクウホールトイウトンネルヲクグッテイクソウデス。」
「じくうホール?」
みんなはコイルに聞いた。
「ハイ。ソシテソノジクウホールヲ、トレジャータウンノヒロバニヒライタソウデス。ヨノワールサンハ、カエルマエニ、ミナサンニオワカレヲシタイトオッシャッテマス。デスノデ、ゼヒトレジャータウンノヒロバニキテホシイトノコトデス。」
そしてコイルは広場へと戻っていった。
「こうしちゃいられないよ!僕達も急ごう!」
ソウヤとゴロスケは先陣を切って走り出した。
ソウイチとモリゾーも、しぶしぶながら二人の後を追った。
みんなが広場に着くと、ヨノワールはまだ到着しておらず、広場の奥に変な穴のようなものが開いていた。
「なんだこりゃ?」
「コレハジクウホールデス。」
ジバコイルはみんなに言った。
初めて見るが、かなり妙な形をしている。
「この中に入ると未来にいけるんでゲスかね?」
ビッパは興味本位でホールに近づいたが、すぐさまジバコイルにとめられた。
未来へ飛ばされてしまっては大事だからだ。
すると、階段のほうからアグノムたちが現れた。
どうやらリーフには襲われず無事だったようだ。
みんなもその様子を見てほっと胸をなでおろした。
「それで、作戦は成功したの?」
ゴロスケは三匹に聞いた。
「うん。さすがヨノワールさんだ。完璧だったよ。」
アグノムはゴロスケに言った。
「それに、あいつに盗まれたときのはぐるまも全部奪い返したよ。」
その言葉を聞いてみんなは歓声を上げた。
とうとうリーフを完全に負かしたからだ。
「やった!よかった!」
「だね!」
ソウヤとゴロスケは嬉しそうだ。
それに引き換え、相変わらずソウイチ達三人は複雑そうな顔をしていた。
すると、広場の入り口のほうから歓声が上がった。
ヨノワールがリーフを捕らえて帰ってきたようだ。
「ヨノワールさんだ~!!」
「ヨノワールさんが来ましたよ~!!」
ヒメグマとカクが大きな声を出した。
「みんな!道をあけろ~!!」
ドゴームが群集に向かって怒鳴った。
群集は両側に分かれ真ん中をあけ、そこをヨノワールと二匹のヤミラミが、リーフを引っ張って通ってきた。
リーフは、縄でぐるぐる巻きにされ口をふさがれており、逃げ出すことはおろか、しゃべることもできなかった。
「あ、あれが・・・、リーフでゲスか・・・。」
「いかにも悪そうなやつだな。」
「へっ、つかまってよかったぜ。あいつのせいで、この世界が停止するところだったんだからな。」
みんな口々にリーフの悪口を言った。
その中で、モリゾーは悲痛な面持ちでリーフを見つめていた。
「どうした?モリゾー。」
ソウイチは小声でたずねたが、モリゾーはひどい有様のリーフを見つめるばかりだった。
モリゾーは、リーフの姿がグラスと重なってしまい、自分の父がひどいことをされているように見えてすごくつらいのだ。
事情を知らないほかのポケモンからすれば、リーフは大悪党に間違いないのだが、記憶を失っていることを聞いたモリゾーからすれば、父親である可能性が最も高い人物なのだ。
モリゾーは、やはりリーフをグラスだと思わずにはいられなかったのだ。
ソウイチはそれを察し、モリゾーの肩に黙って手を置いた。
ソウマはじっとリーフを見つめ、頭に引っかかっている何かを探っていた。
「みなさん!今日はみなさんにいい報告があります。」
ヨノワールが言うと、みんなはいっせいに静かになった。
「このたび・・・、ようやくリーフを・・・、つかまえることができました!」
それを聞いて、みんなは歓声を上げて飛び上がった。
「これもみなさんが協力してくれたおかげです!ありがとうございました!」
パチパチといっせいに拍手が沸き起こり、ヨノワールは一礼した。
「リーフは見ての通り凶悪なポケモンです。みなさんの世界の平和も、これで守られるでしょう。」
すると、リーフはその言葉を聞いて、急に血相を変えて何かを言おうともがいたが、口を縛られていて言葉を発することはできなかった。
「ひどい・・・。あれじゃ何もしゃべれないのに・・・。」
モリゾーは辛そうに言った。
「(口を縛ってるってことは、何も聞かせたくないのか、それとも、聞かれてはいけないことでもあるのか・・・。)」
ソウイチは腕を組んで考えた。
普通、悪党の戯言に他のポケモンが耳を傾けるとは考えがたい。
となると、やはり聞かれてはいけないことがあるのではないかとソウイチは考えた。
「しかし同時に、悲しいお知らせもあります・・・。それは、私も未来へ帰らねばならないことです。みなさんとは、ここでお別れです・・・。」
それを聞いて、群集の間にどよめきが起こった。
帰ることを知らなかったものも大勢いたようだ。
「やっぱりそうなのかあ・・・。ヘイヘイ・・・。」
ヘイガニは悲しそうな顔になった。
「か・・・、悲しいでゲス・・・。もっといろいろ教わりたかったでゲス・・・。」
ビッパは目に涙を浮かべていた。
心から別れを惜しんでいた。
「ユクシーさん、エムリットさん、アグノムさん・・・。後のことはお任せしました。」
ヨノワールは三匹に向かって言った。
「うん。」
「わかってるわ。」
「取り返したときのはぐるまは、私達三匹が手分けして、必ずもとの場所に戻します。」
三匹は力強く言った。
「よろしくお願いします。」
ヨノワールは三匹に頭を下げた。
「イロイロトアリガトウゴザイマシタ。オカゲデタスカリマシタ。」
ジバコイルも礼を言った。
「いやいや。こちらこそ本当にお世話になりました。これからも、平和のためにがんばってください。」
ヨノワールはジバコイルを激励した。
「ハイ! マカセテクダサイ!」
ジバコイルははっきりと答えた。
「では、そろそろ・・・。」
ヨノワールはヤミラミに目配せした。
ヤミラミは、リーフをホールの前まで連れて行き、ホールの中へ蹴り飛ばすと自分達も後に続いていった。
「それではみなさん・・・。名残惜しいですが・・・。」
とうとう別れのときが来た。
「ううう・・・。さみしいですわ・・・。」
「うう・・・。また会いたいです・・・。」
キマワリとディグダはすでに泣きそうだった。
「うわああああん!ヨノワールさあああん!うわあああああん!」
ぺラップはなぜか一人だけ号泣していた。
ソウイチはしらけた感じでその様子を見ていた。
ヨノワールに対して明らかに不信感を抱いていたからだ。
そして、ヨノワールはじくうホールへ入ろうとしたが、ふと何かを思い出したように立ち止まった。
「そうだ・・・。最後に、ぜひ挨拶したい方が・・・。ソウイチさん、ソウヤさん、モリゾーさん、ゴロスケさん。」
ヨノワールは四人の名前を呼んだ。
「ソウイチ、僕達だよ。行こう。」
ソウヤは目に涙を浮かべていた。
ゴロスケも同じだった。
ソウイチとモリゾーは嫌な予感がしたが、断る理由がないので前に出た。
「これでお別れだね・・・。ヨノワールさん・・・。」
「今まで、本当にありがとう・・・。うう・・・。」
二人の頬を一筋の涙が伝った。
「・・・これで・・・、お別れ・・・、か・・・。」
ヨノワールはそこでことばを切ると、急ににやっと笑った。
「それは・・・、どうかな?」
「え・・・?」
四人とも何のことかさっぱりだったが、ソウイチは急に身の毛がよだった。
だが、もう遅かった。
「別れるのは、まだ早い!!」
するとヨノワールは、両手で四人をつかむと、じくうホールのほうへと引きずっていった。
みんなは逃れようとしたが、ヨノワールの握力は想像以上で、とても逃げ出すことは不可能だった。
「お前達も・・・、お前達も一緒にくるんだ!!」
「うわあああああああああ!!!」
そしてソウイチ達は、みんなが驚いている中、ヨノワールと一緒にじくうホールの中へと消えていった。
「ソウイチ!!ソウヤ!!」
ソウマはとっさに体を動かし、じくうホールが消える寸前で、何とか中に飛び込んだ。
ソウマが飛び込んだ直後、じくうホールは跡形もなく消え去った。
「い、今のは・・・。」
「いったい・・・、なにがどうなっとんや・・・?」
ライナ達は、ただ呆然と、その場に立っているだけだった。
どこかの穴が開いている場所に、ヨノワールは立っていた。
「お待たせいたしました。ディアルガ様・・・。少し苦労はしましたが、ようやく・・・、捕まえることができました。」
ヨノワールは穴の中に向って言った。
すると、穴の中から、グルルルルルルルという不気味な声がした。
「・・・・・・。心得ております。歴史を変えようとするものは・・・、消すのみ。すぐに排除します。」
するとまた、グルルルという声がした。
「わかりました。必ず・・・。では。」
「・・・ねえ・・・、ソウイチ・・・。ソウヤ・・・。」
ソウイチとソウヤは、頭上で誰かの声がするのを聞いた。
「おきて!二人ともおきてよ!」
どうやら呼びかけているのはモリゾーとゴロスケのようだ。
「うううう・・・。」
「こ、ここは・・・。」
二人はむくりと起き上がった。
「気がついた!よかった~!」
モリゾーとゴロスケはほっと胸をなでおろした。
「おい、ここはいったいどこなんだよ?」
「なんだかすごく暗い場所だけど・・・。」
ソウイチとソウヤは二人に聞いた。
「ここはどうやら・・・、牢屋みたいだよ・・・。」
「ろ、牢屋!?」
二人はモリゾー達の言うことを聞いて飛び上がった。
辺りを見回してみると、確かに四角い部屋の中にソウイチ達はいた。
牢屋というよりも、刑務所に近いような部屋だ。
「オイラ達もさっき起きたばっかりでよくわかんないけど、あの扉を開けようとしたけどしまったままなんだ・・・。」
モリゾーは、部屋の入り口らしき鉄格子の扉を指差した。
「窓とかもないし、出口はあれだけみたいだよ・・・。僕達、閉じ込められちゃったみたい・・・。」
ゴロスケはうつむいていった。
「おいおいマジかよ・・・。オレ達がいったい何したってんだよ・・・。」
ソウイチはぶつぶつ言うと、扉を調べにいった。
「そもそも、僕達はどうしてこうなっちゃったんだろう・・・。確か、ヨノワールさんにつかまれて、そのままじくうホールへ引きずられて・・・。」
ソウヤは考え始めた。
そこで三人とも、重大な事実に気付いたようだ。
「まさか・・・、ここは、未来の世界なの!?」
「で、でも信じられないよ!だって未来だよ!?何でオイラ達そんなところに・・・。」
モリゾーとゴロスケは動揺した。
まさか自分達がそんなところへつれてこられたとは夢にも思わなかったのだ。
「どうやら未来世界っての本当らしいぜ。」
いつの間に調べ終わったのか、ソウイチはみんなに言った。
「さっきの扉、もとの時代にはなかった仕組みだ・・・。おまけに、電子ロック装置の残骸までついてやがった・・・。」
ソウイチは深刻そうに言った。
「電子ロック!?で、でも待ってよ!それって普通は、人間の牢屋に使うものでしょ!?なんで・・・。」
ソウヤはそこまで言ってはっと気付いた。
考えられる理由は一つしかない。
ここがもともとは人間が使っていたもので、人間が使わなくなり、ポケモンが独自の方法で牢屋として使っているのだろう。
「そ、そんな・・・。オイラ達、本当に未来に来ちゃったんだ・・・。」
「ここが未来だとしたら・・・、どうやってもとの世界に帰ればいいんだろう・・・。」
モリゾーとゴロスケはしょんぼりとなった。
こうなってしまってはもうなすすべがない。
すると、突然牢屋の戸が大きな音を立てて開いた。
そのほうを見ると、大勢のヤミラミがこっちを見ていた。
「おきてたのか。ちょうどいい。おい、てっとりばやくやるぞ。」
リーダーらしきヤミラミは、ほかのヤミラミに命令した。
すると、ソウイチ達の目の前が突然真っ暗になった。
「な!?なんだ!?」
「うわあ!目隠しされた!!」
どうやらみんな目隠しをされたようだ。
「こっちにくるんだ。」
ヤミラミ達は四人をどこかへ連れて行った。
「いててて!バカ!乱暴に押すんじゃねえよ!!」
ソウイチは悪態をついた。
しかし、ヤミラミ達はお構いなしでどんどん押してくる。
「目隠しされてるからわかんないけど、いったいどこへ連れて行かれるんだろう・・・。」
みんなの心の中にあるのは、不安ただ一つだった。
そして、目的の場所に着いたのか目隠しがはずされた。
ところが、四人は縄でぐるぐる巻きにされ、柱にはりつけにされていたのだ。
自分の部分だけ光が当てられ、ほかは真っ暗で何も見えなかった。
「お、おい!?どうなってんだよ!?」
「何ではりつけにされてるの!?」
ソウイチとソウヤは自分の状況に混乱した。
ふと隣を見ると、モリゾーとゴロスケも同じようにはりつけにされていた。
「も、モリゾー!!」
「ゴロスケ!!」
二人はますますびっくりした。
「よかった・・・。二人とも無事だったんだね。」
モリゾーとゴロスケはソウイチとソウヤの姿を見て安心したようだ。
「フン!これからどうなるかもわからないのに、ずいぶんとのんきなやつらだな。」
突然、ソウイチとソウヤの逆隣から声がした。
だが、そこは真っ暗で誰がいるのかまったくわからない。
すると、そこに明かりが当てられ、一匹のポケモンが姿を現した。
みんなそれを見てさらに驚いた。
「ええええええええええ!?り、リーフ!?」
そう、なんと、リーフまではりつけにされていたのだ。
「お、お前こんなとこで何やってんだよ!?」
「知るか、そんなこと。それより、ここがどこだか知ってるのか?」
ソウイチの問いにそっけなく答え、リーフは逆に質問してきた。
「知るわけないよ!突然つれてこられたのに!どこだっていうのさ!?」
ソウヤはリーフをにらんで怒鳴った。
「ここは・・・、処刑場だ。」
「えええええええ!?しょ、処刑場だってええええええええ!?」
いったい何回驚けばいいのだろう。
それでも、みんなには驚くことしかできなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!リーフが処刑されるのはわかるよ?でも、何で僕たちまで処刑されなきゃいけないの!?僕たち悪いことなんかしてないよ!!」
ゴロスケは言った。
「フン!そんなのオレの知ったことか!どうせろくでもないことやっちまったんじゃないのか?」
「なんだと!?僕達は悪いことなんかしてないよ!!」
「お前みたいな悪党と一緒にするな!!」
ソウヤとゴロスケは顔を真っ赤にして怒った。
リーフに侮辱されたと思ったのだろう。
「二人とも落ち着いて!けんかしてる場合じゃないよ!」
モリゾーは何とか三人をなだめようとしたが、三人はお互いににらみあったままだ。
「そんなこと言ってる間に・・・、ほら・・・、お出ましだ。」
リーフは急に視線をそらし、暗闇の先を見つめた。
すると、一気にあたりが明るくなり、遠くからヤミラミ達がやってきた。
「な、何だあいつらは!?」
「やつらは処刑場の執行人であり、そして・・・、ヨノワールの手下だ。」
リーフはソウイチに言った。
「えええ!?ヨノワールさんの!?」
ゴロスケとソウヤは信じられないといった顔をした。
すると、その張本人であるヨノワールも姿を現した。
「ヨノワール様、五匹をはしらに縛り上げました。」
「よろしい。」
ヤミラミの報告にヨノワールはうなずいた。
「ヨノワールさん!僕だよ!ゴロスケだよ!!」
「いったいどうしちゃったのさ!?」
ソウヤとゴロスケは必死で訴えるが、ヨノワールは気にも留めず処刑の準備を進めている。
「バカ!あんなやつに何言ってもわかるわけねえだろうが!!」
ソウイチは二人を叱り飛ばした。
「で、でも・・・!!」
「とにかく何を言っても無駄だ!それより、ここからはあいつらに聞かれないように小さな声で話せ。」
まだ何か言いたげなソウヤとゴロスケに、リーフは言った。
みんなはリーフに従い、小声で話し始めた。
「お前達、もしお前達も生き残りたかったら・・・、オレに協力するんだ。」
リーフは意外なことを言った。
「きょ、協力!?」
みんな唖然とした。
「迷っている暇はない。このままだと、ここでくたばるだけだぞ。」
リーフの口調には有無を言わせないものがあった。
どっちにせよ、このままでは全員処刑されてしまう。
そうなるよりは、リーフの言葉を信じたほうがいいとソウイチは思った。
「おい!そこのヒノアラシ!」
「気安く呼ぶんじゃねえよ!つーか名前で呼べ!なんだよ!?」
ソウイチはリーフをにらんだ。
名前を呼べといわれても、ソウイチの名前を知らないのだから呼べるはずがない。
「教えてくれ!お前は今、何が使える!?」
「は?何が使えるってどういうことだよ・・・?」
ソウイチは困惑した。
「(え~と、使えるといえば・・・。技、道具、攻撃・・・。これぐらいしかねえぞ・・・。)」
ソウイチは心の中で指折り数えた。
「道具はどうだ?」
「違う!道具じゃだめだ・・・!オレ達は縛られてて身動きが取れない!」
リーフはソウイチの意見を却下した。
「じゃあ技はどうだ?オレのかえんほうしゃなら・・・。」
「身動きが取れないといってるだろう!一瞬の隙に使えるものはないのか!?派手なものではなく、もっと基本的な・・・。」
リーフはまたしてもソウイチの意見を否定した。
「だああああ!!だったら通常攻撃以外に何があるってんだよ!!」
ソウイチはいらいらして半分切れかかっていた。
「それだ!それでいい!」
「へ?」
ソウイチは急に意見が通ったのでぽかんとした顔になった。
「攻撃なら僕もできるよ!」
「オイラも!」
「僕だって!」
みんなも攻撃はできるようだ。
すると、ちょうど向こうも処刑の準備が整ったようだ。
「処刑の準備ができました!」
「よろしい。しかし最後まで油断するんじゃないぞ。特にリーフにはな。」
「ウイーーーーーーーーーッ!」
「では・・・、始めろ!」
「ウイーーーーーーーーーッ!」
ヤミラミは声を上げると、ソウイチ達の方に近づいてきた。
「わわっ!!こっちにきたよ!」
みんなはあわてた。
「よく聞いてくれ。ヤミラミ達は処刑の時、じゃあくなつめを使う。」
「ひええ!なんだかこわそう!」
ゴロスケはぶるっと震えた。
「ただ、そこに突破口がある!ヤミラミは、みだれひっかきを無差別に繰り出す。しかしそのとき、その攻撃がひとつでもオレ達を縛っているロープにヒットすれば・・・。」
「そうか!ロープが緩む可能性があるんだ!」
ソウヤの顔が輝いた。
「そうだ!そしてその瞬間、攻撃を繰り出して脱出する!」
「で、でも・・・。もしみだれひっかきがロープにヒットしなかったら・・・。それよりも、もしヤミラミたちが、みだれひっかきを使ってこなかったら・・・?」
モリゾーの顔が青ざめた。
「そんときは、もう助からねえってことだろ!!」
ソウイチはみんなに怒鳴った。
そして、ヤミラミ達は処刑を始めた。
「うぐう・・・。」
「いって・・・。」
ソウイチ達は必死で痛みを我慢した。
「た、耐えるんだ・・・!チャンスが来るまで!」
リーフはみんなに言った。
「でも、このままじゃチャンスが来る前にやられちゃうよ・・・!」
モリゾーは苦しそうにうめいた。
だが、苦しむのもそこまでだった。
一本、また一本とロープに亀裂が入っていった。
「あ、ロープが!」
みんなもそれに気付いたようだ。
「いまだ!攻撃を繰り出すんだ!」
リーフはみんなに合図した。
「いっけえええええ!!!」
「おらああああああ!!!」
みんなは一丸となってヤミラミたちに攻撃した。
ヤミラミは不意を突かれたため、反撃することもできなかった。
「な、何事だ!?」
ヨノワールは動揺した。
「それっ!!」
するとリーフは、何か球のようなものを取り出すと地面に向かって投げた。
たまが割れた瞬間、あたり一面はまぶしい光に包まれた。
「うわあああああ!ま、まぶしい!!」
ヤミラミ達は目を覆った。
「うろたえるな!ただのひかりのたまだ!すぐに元に戻る!!」
ヨノワールはヤミラミたちに怒鳴った。
程なくして、光は収束し元の明るさに戻った。
だが、そこにソウイチ達の姿はなかった。
「し、しまった!リーフめ!ひかりのたまのフラッシュのみを利用してこの場から逃げたな!」
ヨノワールは悔しそうに手を握り締めた。
「逃がすものか!いくぞ!」
「ウイイイーーーーーーーーーッ!」
ヨノワールはヤミラミたちを引き連れて処刑場を出て行った。
それからどれほど経っただろうか、不意に、ソウイチ達が地面から現れた。
「げほっ!げほっ!」
「くっそ~!また土が口ん中入りやがった!」
みんな地面にもぐった勢いで土が中に入ってしまったようだ。
「とりあえず助かったみてえだな・・・。しっかし驚いたぜ、穴を掘るが使えるとはな。」
ソウイチはリーフを見上げて言った。
「とりあえずはしのいだが・・・、危険が去ったわけではない。早くここを脱出しよう。」
リーフに言われ、みんなは急いで処刑場を後にした。
みんな全力で走ったが、リーフの足の速さはかなりのものだった。
唯一ついていけているのはソウイチぐらいのものだ。
「おい!もっと全力で走れ!」
「あいつらに見つかるぞ!!」
リーフとソウイチは三人に命令した。
「これでも全力だよ!!」
ゴロスケは怒鳴った。
「いちいち命令しないで!!」
ソウヤはリーフをにらみつけた。
モリゾーは不満を言うことなく必死で走っていた。
そしてゴロスケは、ある疑問をリーフに投げかけた。
「それよりリーフ!」
「なんだ?」
「ここは・・・、もしかして未来の世界なの?」
ゴロスケは、リーフが違うと言ってくれることを期待したが、その期待はもろく崩れ去った。
「そうだ。よくわかってるじゃないか。」
「うう・・・。やっぱりそうなんだ・・・。僕たち、元の世界に帰れるのかな・・・。」
やはりここは未来の世界だった。
ゴロスケの不安はますます大きくなった。
「さあな。それより今は逃げることだ!つかまったら元の世界も何もない!もっと早く走れ!」
リーフは三人に厳しく言った。
「そ、そんなこと言ったって・・・。もうこれ以上無理だよ・・・。」
ゴロスケは途切れ途切れ言葉を返した。
走っているというよりは、ジョギングをしているぐらいのスピードにまで落ちていた。
「泣き言言ってる場合か!また連れ戻されてもいいのかよ!?」
ソウイチはゴロスケに怒鳴った。
「よくないよ!でもこれで精一杯なんだから!」
ゴロスケは文句を言いながらも、またスピードを上げ始めた。
「もう少しだ!ほら、出口が見えてきたぞ!」
リーフの指差すほうを見ると、確かに明かりが見えた。
みんなは力を振り絞って走り、ようやく出口にたどり着いた。
「や、やっと外だ~・・・。」
「疲れた~・・・。」
みんなはその場に立ち止まって息を整えた。
しかしその直後、みんなは見てはいけないようなものを見てしまった。
「こ、これは・・・!?」
目の前に広がる光景は、陥没した道路、宙に浮く家財、標識、植物。
そして、廃墟と化した家の数々だった。
「ここが・・・、ここが未来の世界なの・・・?」
「いろんなものが浮いて手不思議な感じだけど・・・。」
モリゾーとゴロスケは、目を見開いてその光景を見ていた。
こんな光景は今まで見たことがない。
「それに、外に出たって割には暗いな・・・。」
「うん・・・。それに、風も全然吹かないし、何の音もしない・・・。」
ソウイチとソウヤも驚きを隠せない。
「まるで・・・、全ての動きが止まっているような・・・。え・・・?」
ソウイチとソウヤは、お互いに口にしたことを聞いて顔を上げた。
二人とも全く同じことを言ったのだ。
「その通りだ。」
リーフは二人に言った。
「え?それってどういう・・・。」
ソウヤは理由を聞こうとしたが・・・。
「ウイイーーッ!」
すでにヤミラミたちが追ってきているようだ。
「うわあああ!きたあああ!!」
「早く逃げるぞ!」
みんなはあわててその場から逃げ出した。
しかし、さっきかなり走ったせいか、思ったようにペースが上がらない。
「はあ・・・、はあ・・・。ねえリーフ・・・、僕もう疲れたよ・・・。」
ゴロスケは弱弱しく言った。
「だめだ!休んでる暇はない!つかまったらおしまいだ!死ぬ気で走れ!」
「そ、そんなこと言ったって・・・。」
ゴロスケはすでによろよろしていた。
「お前またさっきみたいな目にあいたいのかよ!?」
ソウイチはゴロスケをしかりつけた。
「無理なもんは無理だよ・・・。ちょ、ちょっと休ませて・・・。」
ゴロスケはとうとう立ち止まってしまった。
本当にこれ以上は無理なようだ。
「しかたがないな・・・。」
リーフはやれやれといった感じで立ち止まった。
そして、岩陰を見つけるとみんなはそこに隠れて休んだ。
「ここは岩陰になっている。ここだとやつらも発見しにくいだろう。少し休んだら出発するぞ。」
リーフはみんなに言った。
「そうだね。いつ追いついてくるか分からないし・・・。」
モリゾーはうなずいた。
「ちょ、ちょっと待ってモリゾー!まさか、この先もリーフと一緒に行く気なの!?」
ゴロスケは信じられないといった顔でモリゾーを見た。
「何言ってんだよ?当然だろ?」
ソウイチは当たり前といわんばかりだ。
「ぼ、僕は嫌だよ!処刑場から脱出するときは仕方なく協力したけど、でも、そのあとも一緒に行くなんか一言も言ってないよ!」
「ゴロスケの言うとおりだよ!こんなやつと一緒に行くなんて何考えてるのさ!?」
ソウヤとゴロスケは二人の意見に猛反発した。
やはり前のこともあるからか、リーフのことを完全に悪者だと決め付けていた。
「僕は、お前みたいな悪いやつは信用できない!」
「ゴロスケ!前にも言ったじゃないか!リーフは記憶を失って・・・。」
「モリゾー!まだそんなこといってるの!?記憶を失ってたって、犯罪を犯したことに変わりはないじゃないか!いい加減目を覚ましなよ!!」
「どうしてそうやって決め付けるのさ!このわからずや!!」
「なんだとお!?」
二人はとうとう言い合いを始めてしまった。
このままではけんかになりかねないので、ソウイチとソウヤは二人を引き離した。
それを見計らって、リーフはソウヤとゴロスケにとってぐさりとくることを言った。
「フン!オレが悪人であのヨノワールが善人だというのか?じゃあ聞くが、さっきのあいつの行動はなんだ?」
リーフは二人を見下ろした。
二人は言葉につまり、何も言い返せなかった。
「オレと一緒に、お前たちまで消そうとしたじゃないか!?それなのにあいつのことが信用できるというのか!?」
リーフの一言一言は、ソウヤとゴロスケの胸に深く突き刺さった。
確かに、リーフだけを消すのなら、ヨノワールがあんなことをするはずはない。
しかし、現にこうして自分達を消そうとしている、それは紛れもない事実だ。
「でも・・・、かといってリーフを信用する気には・・・。」
ソウヤとゴロスケは、これだけ言われてもまだリーフのことを信じる気になれないようだ。
「そうか・・・。どうやら信用してもらうのは難しそうだな・・・。」
リーフは残念そうに言った。
「仲間は少しでも多いほうがいいと思ったが、信用がなければ一緒にいてもしょうがない。ここで別れるしかないだろう。オレは先を急ぐ。お前たちも、なるべく早くここを出ることだな。じゃあな。」
リーフは洞窟のほうに歩いていった。
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ!」
今度はモリゾーが引き止めた。
「ん?なんだ?」
「今動くのは危ないんじゃない?暗くて見通しも悪いし、朝になるのを待ったほうが・・・。」
モリゾーはリーフのことを心配して言った。
「残念ながら、朝は・・・、朝は来ないんだ・・・。」
その言葉には、少し悲しい響きが含まれていた。
「朝が来ないって・・・、どういうことだよ?」
ソウイチは気になって聞いた。
「この未来は、暗黒の世界・・・。日が上ることもなく、したがって朝がくることもない・・・。ずっと暗いままだ。」
「だから!何でそうなるのかって聞いてんだよ!」
ソウイチはいらいらしながら言った。
「それは・・・、星が停止しているからだ。」
「星が・・・、停止・・・?」
みんなはその言葉を口にして、前にヨノワールが言っていたことを思い出した。
「まさか・・・、うそでしょ・・・?」
「未来では、星が停止してただと・・・?」
みんな頭を殴られたような衝撃を受けた。
「オレの話を信じるかどうかはお前たちの自由だ。とにかく、ここからは早く出ることだ。じゃあな、ヤミラミたちに捕まるなよ。」
リーフはそう言うと、足早に洞窟の中へと姿を消した。
みんなは、しばらく呆然とたたずんでいたが、やがてゴロスケがポツリと言った。
「ねえ・・・、ソウイチ・・・。僕、よく分からなくなってきた・・・。」
「え?」
「星の停止は、ときのはぐるまがなくなることで起きる・・・。それで、僕たちはリーフが盗むのを防いだわけでしょ?」
「ああ・・・。」
「取り返したはぐるまは元に戻すって言ってたし、停止は防いだはずなのに・・・、どうして・・・。」
ゴロスケはうつむいた。
頭の中では、どうしてという言葉だけが渦巻いていた。
「それに、ヨノワールさんのさっきの行動・・・。もう何がどうなってるの・・・?」
ソウヤは頭を抱えた。
いつもの冷静なソウヤとは違い、考えがさっぱりまとまらないようだ。
「ウイイーーーッ!」
「って!ごちゃごちゃしてる間に来たぞ!とにかく、今は逃げるのが先決だ!!」
「そうだよ!早く逃げよう!」
ソウイチとモリゾーは二人を促し、急いでその場を離れた。
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