ポケモン小説wiki
アドバンズ物語第六十四話

/アドバンズ物語第六十四話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
まとめページはこちら


第六十四話 よみがえった記憶! 夜明けの思い


「(ううう・・・。ここは・・・、どこだ・・・?)」
ソウイチは意識を取り戻した。ずいぶん長い間気を失っていたらしい。
目を開けると、目の前に広がっていたのは大海原だった。
そう、ソウイチ達は無事にもとの世界へ帰ってきていたのだ。

「(そうだ!アニキ達は!?)」
ソウイチは辺りを見回し、みんなが気を失っていることに気付いた。

「おい!アニキ!みんな!しっかりしろ!」
あわててみんなをゆすって回るソウイチ。
みんなはすぐに意識を取り戻し、きょろきょろと辺りを見回した。

「こ・・・、ここは・・・?」
ゴロスケは自分がどこにいるのかまだわかっていない。

「前に、オイラ達とソウイチ達が出会った浜辺のような・・・。」
モリゾーはそこまでつぶやくとはっと顔を上げた。

「ってことは・・・、やったあ!オイラ達もとの世界に帰ってこれたんだ!」
嬉しさのあまり飛び上がるモリゾー。

「ほんと!?やったあ!!」
ゴロスケも同じく飛び上がって喜ぶ。

「何とか帰ってこれたみたいだね・・・。」
ソウヤもため息をついて一安心。

「ああ。そうみたいだな。」
ソウマも海を眺めながらしみじみと言った。

「(帰って・・・、これたのか・・・?)」
リーフは目の前に広がる大海原を見つめていた。
すると、またしても頭痛が襲ってきたのだ。
今度のはさっきよりも痛みがひどく、リーフはうめき声をあげその場にうずくまった。

「ど、どうしたリーフ!?」
ソウマはリーフの異変に気付き声をかける。
だが、リーフは頭を押さえたまま返事をしない。

「おい!しっかりしろ!」

「リーフ!しっかりして!」
ソウイチやモリゾーもリーフのそばに駆け寄る。

「うああああ・・・!ぐああああああああ!!!」
リーフは叫び声を上げ、目をかっと見開いた。
頭の中では、失われていた記憶がパズルのピースをそろえるように、かちりかちりと埋め込まれていく。
その状態が何分続いただろうか、リーフの叫び声がやみ、かわりに荒い息遣いが聞こえてきた。

「だ、大丈夫・・・?」
モリゾーは恐る恐るリーフにたずねた。
しかし、リーフの目線はモリゾーに注がれ、まったく言葉を発しない。
すると・・・。

「モリゾー・・・?モリゾーなのか?」

「え・・・?」
突然リーフの口からモリゾーと言う言葉が。
みんなはそれを聞いてぽかんとした。

「モリゾー!オレだ!わからないのか!?」
リーフは突然モリゾーの肩をつかんでゆすった。
とっさのことでモリゾーはわけがわからない。

「・・・オレのことを覚えてないのか・・・?」
覚えていないも何も、モリゾーがリーフのことを知るはずがない。
しかし、モリゾーはリーフの目を見て何かに気付いた。
そして・・・。

「と、父さん・・・?」
モリゾーの口から知らず知らずのうちにその言葉が飛び出していた。

「よかった・・・。思い出してくれたみたいだな・・・。」
リーフはほっとため息をついた。

「思い出してくれたなって・・・、急にどうしたの?今までは、オイラのこと知らないっていってたじゃない・・・。」

「それは、昔の記憶を失っていてお前のことが本当にわからなかったんだ。だが、ときのかいろうを通った影響で今までの記憶がよみがえったんだ。」
それを聞いてモリゾーははっとなった。

「じゃ、じゃあ・・・。」

「ああ。住んでた場所、チームの仲間、家族、友達、みんな思い出した。もちろん、お前のこともな。」
そこにいたのは、リーフであってリーフではなかった。
そう、それは紛れもなく、モリゾーの父、グラスだった。

「じゃあ・・・、本当に・・・、本当に父さんなんだね・・・?」
モリゾーの目に、みるみる涙がたまっていった。

「ああ。モリゾー、立派になったな。すっかり探検隊らしくなって・・・。さすがオレの息子だ。」
グラスは目を細めてモリゾーの頭をなでた。
それでモリゾーは、自分の気持ちをこらえきれなくなった。

「父さん・・・。とうさあああん!!」
モリゾーはグラスの胸に飛び込み泣き出した。
その涙は、尊敬する、愛する父に再び出会えた感動の涙。

「モリゾー、長い間寂しい思いをさせてすまなかったな・・・。また会えて、本当によかった・・・。」
グラスも、泣きじゃくるモリゾーをぎゅっと抱きしめた。
いまここに、父と子は再開を果たすことができたのだ。
二人はしばらくそのまま抱き合い、お互いの存在を確かめていた。

「あのさあ、感動の再会してるとこ悪いんだけど、何がどうなってるわけ・・・?」
ソウイチは遠慮がちに口を挟んだ。
みんなもその辺が理解できていないので、グラスは自分に起こったことをみんなに説明した。

「じゃあ・・・、本当におじさんなの・・・?」
ゴロスケはまだ自分の目が信じられなかった。
なにしろ、あの時自分達をかばって犠牲になったグラスが目の前にいるのだ。
信じられないのも無理はない。

「本当だ。しかし、ゴロスケも大きくなったな。バーニーもきっと喜んでいるだろう。」
リーフは笑顔になった。
ゴロスケはそれを見て、さっきまでのリーフとどこかが違うと感じた。
言葉では言い表せないが、自分がいつも見ていたグラスと感覚がまったく同じなのだ。
ゴロスケも、それでようやくリーフとグラスが同一人物だと認識した。

「ほんとだ・・・。やっぱりおじさんだ!」
ゴロスケはグラスに抱きついた。
モリゾーの父親とはいえ、あえてうれしくないはずがない。
グラスは、そんなゴロスケの気持ちを察して頭をなでた。

しかし、それでもみんなには疑問点があった。
グラスはどうして未来の世界へ行き、リーフと名を変えて生きていたのか。
そして、ソウマはなぜ会ったこともないグラスやセレビィのことを知っているのかということだ。
みんなそれが気になって仕方がない。

「それについてはオレが話すよ。」
ソウマが言った。

「実は、お前達を追いかけてじくうホールへ飛び込んで未来の世界へきたら、なぜだかわかんねえけど、人間のときの記憶を思い出したんだ。」

「えええ!?ほ、ほんと!?」
みんなびっくりだ。
まさかグラスだけでなく、ソウマまで人間のときの記憶を取り戻すとは思わなかった。

「ああ。なにもかもな。ここじゃあなんだし、細かいことはギルドへ行って話したほうがいいな。みんなも心配してるだろうし、聞いてもらったほうがいいからな。」
ソウマは立ち上がるとギルドのほうへいこうとしたが、グラスはソウマを引き止めた。

「それはまずい。この世界ではオレはおたずねものになっている。今ギルドに行けば、みんなはオレをまた捕まえようとするだろう。」
グラスの言うことはもっともだ。

「でも、わけを話せばみんなわかってくれるんじゃ・・・。」

「いや、それも無理だ。オレは死んだことになっているし、今まで盗みを働いていたやつのいうことを信じるとも思えない。」
グラスはモリゾーに言った。
確かに、自分がリーフと同一人物だといっても、罪を免れるための言い訳ととられ誰も信用しないだろう。

「じゃあどうしよう・・・。他に行く当てはないし・・・。」
モリゾーは頭を抱えた。

「そうだ!いい場所があるよ!」
突然ゴロスケが叫んだ。

「いい場所?」

「ほら、あそこだよ。僕たちが前に住んでた・・・。」

「あ!あそこなら大丈夫だね!」
モリゾーも何か思い出したようだ。

「でもちょっと待って。あそこへ行くには、トレジャータウンを通らないといけないよ?」
モリゾーはゴロスケに言った。

「そういえば・・・。どうやって行こう・・・。」
気落ちして頭を抱えるゴロスケ。

「それなら、見つからないように隠れながら通れば大丈夫だ。二人とも、案内してくれるか?」
グラスは二人に言った。
そうすれば、わざわざ目立つところを通らなくても目的の場所へ行くことができる。

「わかった。みんなついてきて。」
二人は先頭に立って歩き出し、みんなはその後をついていく。
交差点の近くまで来ると、みんなはトレジャータウンの横にある森の中を通り、二人の言う場所までくることができた。
そこはがけになっており、すぐ先はどこまでも大海原が広がっている。

「このがけはサメハダいわって呼ばれてるんだ。」
モリゾーはみんなに言った。

「サメハダいわ?」
みんなは聞き返した。

「うん。岩の形が、サメハダーっていうポケモンに似てるからそう呼ばれてるんだ。」
そういって周りを調べ始めるモリゾー。
どこも変化がないのを確認すると、モリゾーとゴロスケは上にかぶせてあった木の葉や木の枝をどけた。
すると、そこには下のほうへ通じる階段があるではないか。

「この下だよ。僕達、独り立ちしてからはここに住んでたんだ。さあ、中に入って。」
ゴロスケは一足先に中に入り、みんなもその後に続く。
中は思ったより広く、大人数でも十分だった。
海とをさえぎる壁はないが、上のほうが突き出していて雨はほとんど入らないようになっている。
シリウスがいれば、穴を掘って奥のほうに部屋を作ることも可能だろう。

「なるほど・・・。中にこんな空洞が・・・。」
グラスは興味深そうに辺りを観察した。

「どうやら誰にも荒らされてないみたいだね。よかった。」
モリゾーも以前と変わらない様子を見てほっとしたようだ。

「しばらくはここにいたほうがよさそうだな。めだたないから見つかる可能性は低い。」
ソウマはみんなに言った。
みんなもソウマの意見に賛成し、しばらくここにいることに。
そして、落ち着ける場所が見つかったところで、ソウマとグラスは、取り戻した自分達の記憶をみんなに話すことにした。

「オレはあの時、モリゾー達が離れていくのをみているうちに意識を失った。そして、気がつくと不思議な空間を漂っていた。」
最初はグラスがみんなに話しをする。

「不思議な空間?」
ゴロスケが聞いた。

「ああ。たぶんあれは、じくうホールだったんだ。何が原因かは分からないが、突然あの場所に出現して、オレは未来の世界へ飛ばされた。そして、今はくろのもりと呼ばれているところでソウマと出会ったんだ。」
グラスの遺体が見つからなかったのはそれが原因だったのだ。
未来の世界へ飛ばされてしまえば、何も残らないのは当然である。

「じくうホールの影響で記憶を失っていたオレは、自分が誰で、どこから来たのかも分からなかった。ソウマは、そんなオレを家までつれて帰ってくれたんだ。まだ小さいのに、無理してオレを背負ってさ。」

「当たり前だろ?困ってるやつをほっとくわけにはいかないからな。」
ソウマはグラスに笑ってみせた。

「そしてソウマは、オレにリーフという名前をつけて家においてくれた。それからは、ソウイチやソウヤと一緒に仲良く暮らしていたんだ。」
グラスはソウイチとソウヤの顔を見た。
二人は実感がわかないのか、きょとんとしている。

「二人ともオレのことを気に入ってくれたが、特にソウイチは、オレのことを本当の兄弟みたいに思ってたな。」

「オレが?」
ソウイチは思わず聞き返した。

「そうだ。しょっちゅう、特訓に行くとか言ってオレを連れ出していたな。」
そう言われてソウイチも、グラスに倒され気を失っているときに見た夢のことを思い出した。
ふと、そこである疑問が頭を掠める。
あの夢では、ソウマはどこかへいった後で、ソウヤは何かの調べものをしていた。
記憶がないので、今のソウイチにはそれがなんなのか分からない。

「だが、平和な日々もそう長くは続かなかった。」
今度はソウマが話し始めた。

「ある日、オレは徐々に各地で時が止まり始めているということを知った。このまま進行すれば、世界は暗黒化してしまう。その解決策を探しに、オレは過去へ旅立ったんだ。」
それを聞いて、ソウイチははっと顔を上げた。
ソウマと最初に出会ったときに見た映像、それがまさにソウマの語る状況と同じなのだ。

「セレビィと知り合ったのもそのときで、オレはあいつの力を借りて過去へいったんだ。」
ソウイチ達は納得した。
それならセレビィを知っていてもおかしくない。

「(そうか・・・。あの時は、アニキが過去へ旅立つときだったんだ・・・。)」
ソウイチは心の中でつぶやいた。
これでひとつ疑問は解消。

「リーフを連れて行かなかったのは、ソウイチとソウヤがまだ小さくて、オレ自信が不安だったからなんだ。まあ、そのせいでオレは記憶を失って、ポケモンになって探検隊をやることになるんだけどな。」
ソウマはふっと笑った。

「それから何年たってもソウマが帰ってこなくて、いてもたってもいられなくなり、ソウイチが自分も過去に行くと言い出したんだ。」
今度はグラスが説明を始めた。

「お、オレが!?」

「ああ。ソウマのことが心配だし、何より、すでにほしのていしを迎えてしまっていたからな。それで、ソウイチが行くのなら自分もと、ソウヤもついていくことにしたんだ。」
リーフはソウイチとソウヤに向かって言った。
しかし、二人ともその記憶がないのでやはり実感がわかない。

「そして、オレ達はあるだけの資料をかき集めてほしのていしについて調べた。それでも、やはりどうしても分からないこともあった。そのとき役立ったのが、ソウイチの持っていたじくうのさけびだ。」

「そのじくうのさけびなんだけど、どうしてソウイチだけが持っているの?」
ソウヤはそれがかなり気になっていた。
本来ならば、ソウマや自分にも備わっているはずだからだ。

「それはなんともいえない・・・。だが、あえていうなら、ソウイチにはその力を授かる資格があったということだろうな。」
グラスにも細かいことは分からないようだ。
ソウヤはちょっと不満そうだったが、ソウイチならそういうこともありえるかもしれないと考え直した。

「だが、そのじくうのさけびにも問題があった。じくうのさけびは、信頼できるパートナーがいないと発動しない。だから、オレはソウイチと一緒に行動した。ソウヤを一人にするのは気が引けたが、これもほしのていしを防ぐためだったからな。」
グラスは言った。

「(そうか・・・。あの夢でソウヤが調べてたのはほしのていしのことだったのか・・・。これでなぞは解けたな。)」
ソウイチは一人うなずく。

「じくうのさけびは、ときのはぐるまが存在する場所に反応して起こる。オレ達は、過去の世界でのときのはぐるまがどこにあるのかを探るために、じくうのさけびを使ったんだ。」

「ちょ、ちょっと待って父さん!」
モリゾーはグラスにストップをかけた。

「どうした?モリゾー。」
グラスはモリゾーにたずねる。

「信頼できるパートナーが必要だっていってたけど、オイラとソウイチが出会ったころからじくうのさけびは起こってたよ?」
そう、信頼関係のかけらもない出会って間もないころから、ソウイチのじくうのさけびは起こっていたのだ。

「それはきっと、お前たちが初めから信頼しあっていたということじゃないのか?」

「そ、そうなの!?でも・・・、そんなにストレートにいわれるとなんか恥ずかしいな・・・。」
モリゾーはグラスに言われて赤くなった。
お互い信じあっていると言われて嬉しかったからだ。

「ソウイチは記憶をなくしていたし、頼るものがいなくてお前に出会った。それで、ソウイチの信頼はいっそう深くなったのかもな。」
グラスはさらに言った。

「ソウイチとモリゾーだけじゃない。ソウヤとゴロスケも、同じような信頼関係で結ばれているはずだ。そうだろう?」
グラスは二人に聞いた。

「うん。最初は感じ悪いなって思ったけど、一緒にいるうちにすごく大事な存在に思えてきたんだ。」

「僕も同じだよ。今では、ソウヤはかけがえのない僕のパートナーで、親友だもの。」
ソウヤとゴロスケはそう言うと、お互いに顔を見合わせて笑った。

「オレも同じだぜ。いきなり不審者扱いするからむかつくなって思ったけど、モリゾーと一緒にいると、なんていうか・・・、すごく楽しいんだよな。」

「それはオイラもだよ。たまにけんかするときだってあるけど、ソウイチはオイラの大事な親友だよ。」
ソウイチとモリゾーも言った。
この四人は、やはり深い信頼と絆で結ばれている。
グラスはそれを見て満足そうに微笑んだ。

「ひょっとしたら、ソウイチの信頼は、オレ達が親子だからっていうのもあるかもな。」

「親子だから?」
モリゾーはグラスの言った意味が分からなかった。

「ソウイチは記憶もない、初めて出会ったオレを信頼していた。それと同じように、記憶をなくしたソウイチは初めて出会ったお前を信頼した。それは、ソウイチがオレ達に共通して感じる何かがあったから・・・。その可能性もあるってことさ。」
そういわれて、モリゾーはようやく意味が分かった。
モリゾーとグラスは、姿かたちは違えども、ソウイチの心から信頼のおけるパートナーということなのだ。

「あ、そういえばまだ分からないことが!」
今度はゴロスケが手を上げた。

「どうした?」

「じくうのさけびは、ときのはぐるまに反応して起こるの?」
ゴロスケはグラスに聞いた。

「そうだ。逆に、ときのはぐるまのない場所では、じくうのさけびは発動しない。」
グラスはゴロスケに説明した。
だが、グラスの説明には矛盾がある。

「でも、ときのはぐるまのことを知る前から、じくうのさけびは起こってたよ。スリープのときとか、初めての探検のときとかさ。」
ソウヤはグラスに言った。
そう、ときのはぐるまのことを知らないうちから、ソウイチのじくうのさけびは起こっている。

「明らかに関係ない場所でも、じくうのさけびが聞こえてたよね?」
ソウヤがソウイチのほうを向くと、ソウイチはこくっとうなずいた。

「そうなのか・・・。しかし、未来ではそんなことはなかったな・・・。となると、未来とここではじくうのさけびの性質が違うのかもな。」
グラスはつぶやいた。

「(そうか・・・。それであのとき、水しぶきに触っても何にも見えなかったのか。グラスの言うとおり、未来とここじゃどっかが違うのかもな。)」
ソウイチは心の中でそう思った。

「とにかく、オレ達はほしのていしについて調査を続け、この世界にあるときのはぐるまの場所を、じくうのさけびを使って探し出したんだ。そうして場所を突き止めた後、オレ達はときのかいろうで未来からこの世界へ向かった。だが・・・。」
グラスは言葉を切った。
何かいいにくそうな表情をしている。

「だが・・・、なんだよ?」
ソウイチは聞いた。

「タイムスリップ中の事故で、オレとソウイチ、ソウヤは離れ離れになってしまった。その後、オレはひがしのもりへついた。ソウイチとソウヤの着いた場所とは、かなり離れてしまっていたがな・・・。」

「そうか~・・・。それで、ソウイチとソウヤはあの海岸に倒れていたんだ。」
モリゾーとゴロスケは納得した。

「ソウイチとソウヤが記憶を失いポケモンになってしまったのは、おそらく、その事故が原因だろう。ソウマの時はわからないが、もしかしたら原因は同じかもしれない。」

「なるほど・・・。それなら、オレが記憶をなくしてマグマラシになってたのも納得できるな。」
ソウマはグラスの話を聞いてうなずいた。

「でも、いまいち実感がわかないよ・・・。ほしのていしを食い止めるために未来からやってきたなんて・・・。」

「だな・・・。そんな重大な使命を負ってたなんて思えないぜ。」
これだけ二人の話を聞いても、やはりソウイチとソウヤはいまいちぴんとこないようだ。

「まあ、それは記憶のせいでもあるから仕方がないさ。だが、姿が変わって、記憶をなくしていたとしても、お前達はオレの親友だ。また会えて、本当によかった。」
グラスは心からその言葉を言った。
ソウイチとソウヤは照れくさいのか、少し赤くなって頭をかいた。

「だけど、オイラはソウイチの親友で、父さんもソウイチの親友なんて、なんだかちょっと変だね。」

「ま、それも親子だからなしえるってことだ。ハハハハ!」
グラスは明るく笑った。
それにつられてほかのみんなも笑った。

「さて、これからのことだが・・・。」
グラスは笑うのをやめ、急に真顔になった。

「オレは前にも言ったとおり、またときのはぐるまを集めに行く。お前達はどうするんだ?」
グラスはみんなに聞いた。

「そうだな~・・・。念のために聞くけど、はぐるまとったらときが止まるのは一時的なことなんだよな?」
ソウイチはグラスに念を押した。

「そうだ。じげんのとうにときのはぐるまをおさめさえすれば、また元に戻る。」

「だったら、オイラ達も父さんと一緒にいくよ!」
モリゾーはグラスの言葉を聞いて意見を固めた。

「そこに住んでるポケモンたちには迷惑をかけちゃうかもしれないけど、ほしのていしを食い止めることには変えられない!だよね?」
ゴロスケはソウイチとソウヤのほうを振り向いた。

「もちろん!」

「何が何でも阻止してやろうじゃねえか!」
二人も行く気満々だ。

「そうだな。まずは、ときのはぐるまを集めておいたほうがいいかもな。」
ソウマもその意見に賛成のようだ。

「わかった。じゃあ、みんなでいくことにしよう。とりあえず、今まで逃げっぱなしで疲れているから、今日はここで休んで、明日出発することにしよう。」

「だな。じゃあ、ゆっくりするついでに、覚えてるオレ達の話でもするか。」

「それはいいな。いろいろみんなの知らないこともあるだろうしな。」
そして、ソウマとグラスは二人の思い出話を始めた。
過ごした思い出、ちょっと笑えるような話、感動する話など、話のネタは一向に尽きない。
ソウイチ達は話を聞くたびに、笑い転げたり、真剣に聞き入ったりと、飽きることがなかった。
ただし、笑えるような話でネタにされた本人はあまりいい気はしなかったが。
特に、歌に関してはソウヤはむっとしっぱなしだった。

「向こうにいたころははよく歌を歌ってたな。そういやリーフ・・・、あ、わりい・・・。グラスだったよな。」
ソウマはあわて訂正した。

「気にするな。どっちもオレの名前に間違いはないんだからな。」
グラスは笑って言った。

「そうか。で、リーフは結構歌がうまかったよな。低い音から高い音まで自在に出せてたし。」

「そういうお前も結構うまかったじゃないか。気分が乗ってくるとたまに踊りの振り付けまでしてさ。」

「おい!そのことは言わない約束だろ?」

「おっと、すまんすまん。ハハハ!」
二人はすっかり話に夢中になっていた。
さすがに長年一緒にいただけのことはある。
しかし、みんなが興味津々なのに、ソウヤだけはつまらなそうな顔をしていた。

「どうしたのソウヤ?さっきからむすっとしてるけど・・・。」
ゴロスケは気になってソウヤにたずねたが、ソウヤは顔をしかめるばかりで何も言わない。

「ああ。実は・・・。」

「ああああ!!いっちゃだめえええ!!」
ソウヤはあわててソウマの口元を押さえたが、すでにグラスが話してしまった。

「実は、ソウヤは歌が下手なんだ・・・。だから、あまり歌のことを話題にされると嫌なんだろう。」
グラスは馬鹿にした風ではなく、ソウヤを気遣うように言った。

「ぼ、僕だけじゃないよ!ソウイチだって、確か歌が下手だったはずだよ!」
ソウヤはソウイチを指差した。

「なんだと!?オレはお前みたいに音痴じゃねえよ!」
ソウイチはソウヤをにらみつけた。
いきなりこんなことを言われれば怒るのは当たり前だ。

「じゃあ歌ってみてよ!どれほどうまいかみせてみてよ!」

「ああいいぜ!やってやろうじゃねえか!」
ソウイチはソウヤの挑発に乗り、自分が覚えているお気に入りの歌を歌った。
みんなはソウイチが歌ってる間一言も声を発しなかった。
なぜなら、ソウイチの歌声はレクに匹敵するほどうまかったのだ。
リズムもほぼ完璧、音程にいたっては思わず聞きほれるほど。

「どうだ?これでも音痴か?」
ソウイチはニヤニヤしながらソウヤを見た。

「ソウイチ!絶対ドーピングして歌が上達したでしょ!!」
ソウヤは悔し紛れにいやみを言った。

「はあ!?薬飲んで歌がうまくなるかよ!これがオレの実力だよ!じ・つ・りょ・く!」

「うぐぐぐ・・・。」
ソウイチに反撃され、ソウヤはぐうの音も出ない。

「ねえ、ソウヤも歌ってみたら?昔は下手だけど、今はうまくなってるかもしれないじゃない。」
ゴロスケはソウヤに言った。
気休めかもしれないが、ソウヤを元気付けたかったのだ。
最初は嫌がったものの、ソウヤはしぶしぶ歌うことに。
だが、その歌はひどいものだった。
リズムはところどころ早くなったり遅くなったり、音程は一つも二つも違っており、到底歌と呼べるものではなかった。

「その・・・、なんていうか・・・。」

「うん・・・。」
みんなはどう感想を言っていいのか困っていた。

「もう!だから歌うのは嫌だったんだよ!」
ソウヤはふてくされてそっぽを向いた。

「ま、ソウヤもオレを見習って練習すれば、少しはうまくなるんじゃねえの?」
ソウイチはニヤニヤしながらソウヤに言った。
これが余計な一言だとも知らずに。

「誰が・・・、誰がソウイチなんか見習うかあああああ!!!」
ソウヤは電撃をソウイチに向けて何度も放って追い掛け回した。

「おわあああ!!落ち着けって!!」
ソウイチが何を言っても、ソウヤはまったく聞く耳を持たない。
しばらくの追いかけっこの後、ソウイチは鼻を、ソウヤは耳をねじられてソウマに説教される結果となった。
そんな風に過ごしているうちに、あっという間に夜になってしまい、みんなは明日に備えて寝ることに。
明け方近くで、グラスはふと目を覚ました。

「ん?モリゾーとゴロスケがいないな・・・。外にいるのか?」
グラスは寝ているソウイチ達を起こさないよう、静かに階段を上る。
外では、ゴロスケとモリゾーが海のほうを見つめていた。

「どうしたんだ?眠れないのか?」
グラスは二人に声をかけた。

「あ、おじさん。」

「うん・・・。なんとなく寝付けないんだ。」
二人は答えた。

「ヨノワールのことでも考えてたのか?」

「ううん。裏切られたのはショックだったけど・・・、おじさんやソウマの話を聞いて、あいつが言ってたことは本当なんだなって・・・。」
ゴロスケは少し悲しそうな顔をしたが、すぐにもとの表情に戻った。

「そして、ソウイチ達はオイラ達とは違う世界から来たんだなって、なんとなく考えてたんだ。」
モリゾーも言う。
すると、遠くのほうが明るくなり始めた。

「あ!見て!朝日だよ!」
モリゾーは朝日を指差していった。
みんなは昇る朝日を見つめる。

「きれいだね・・・。」

「ああ・・・。」
簡単な言葉だったが、その言葉の奥には言い表せない感動があった。

「今までずっと未来にいたせいか、夜明けがこんなに新鮮に感じるなんて思わなかったよ。」

「日が昇って、そして沈む・・・。とても当たり前のことだけど、その当たり前のことが、実はものすごく大事なんだよね。」
モリゾーとゴロスケは感慨深そうに言った。

「そうだな。オレがこの世界にいたときは、こんなことは当たり前のことだと思っていた。だが、記憶を失って、未来からこの世界に来たときに、改めてその大切さを感じた。」
グラスもしみじみと言った。

「でもおじさん。記憶が戻ったのに、どうしてそこまで一生懸命にするの?おじさんはもともとこの世界のポケモンなのに、未来のことを必死で変えようとしてさ。」
ゴロスケはそこがいまいち理解できなかった。

「記憶が戻ったからこそ、あの暗黒の未来を変えないといけないと強く思ったんだ。家族、親友、そしてお前達がいるこの世界を守るために・・・。」
そう、未来か過去かは関係ない。
ただひたすら、あの暗黒の未来が訪れるのを防ぎたいのだ。
自分の体験したあの未来を、自分の家族や親友に味わわせないために。

「そういえばモリゾー、ゴロスケ。お前達に聞きたいことがある。」
グラスは突然二人に質問した。

「え?何?」

「未来でディアルガたちに囲まれ、絶体絶命の状況だったあの時、どうしてお前達は最後まであきらめなかったんだ?オレでさえあきらめかけたというのに・・・、どうしてだ?」
グラスは、モリゾー達よりも経験のある自分より、モリゾー達のほうが自信を持てていたことが不思議でならなかった。
しかし、考えてみてもその理由はまったく分からないのだ。

「う~ん・・・。自分でもよくわからないけど、ソウイチとソウヤが近くにいたからだと思う。」
ゴロスケは言った。

「ソウイチとソウヤが?」
グラスは最初驚いたが、二人の答えを聞いて納得した。
あそこまでお互いを信頼しあっているなら、そういう答えが出る。

「それに、父さんの持ってたいせきのかけら。あれのなぞをがんばって解こうとして、ギルドに弟子入りしようとしたけど、結局は怖くて入ることができなかった・・・。」
モリゾーはグラスにかけらを見せた。

「そんなときにソウイチとソウヤに出会ったんだ。あの二人は、いつもオイラ達を励ましてくれた。たまにきついことやむっとくることだって言うこともあるけど、その言葉を聞くと、不思議と勇気がわいてくるんだ。」

「二人と一緒にいれば、どんな困難だって乗り越えていける。いつしかそんな風に思えるようになったんだ。だからあの時も、最後まであきらめずにがんばれたのかも。」
二人の言うことは自信に満ちていた。

「なるほどな。確かに、あの二人にはそう思わせる何かがある。オレがあの二人を大切に思っていたように、やはりお前達も、あの二人のことを大切に思っているんだな。」
グラスは二人の言うことを聞いて、うれしそうな表情をした。

「あの二人は幸せだな。いや、ソウマもだ。三人とも、かけがえのない大事な親友や仲間がいる。それが、一番幸せなことなのかもな。」
グラスは朝日を見ながら言った。
モリゾーとゴロスケも、その言葉に深くうなずく。

「さあ、そろそろ出発だ。みんなを起こしに行こう。」
グラスは腰を上げた。

「そうだね。だけどソウイチは起こすのが大変そうだな~・・・。なかなかおきないし、無理やり起こすと機嫌悪いし・・・。」
モリゾーは少し嫌な顔をした。

「ハハハハ。あいつは小さいころから寝起きが悪いからな。」
グラスは笑いながら言った。
人間のときの短所を完全に引き継いでいるようだ。

「まあ、いざとなったらオレが起こすよ。あいつを起こすのには慣れてるからな。」

「そのほうがいいかもね。下手するといろいろ危ないし。」
本人のいないところで、散々な言われようのソウイチであった。 


アドバンズ物語第六十五話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。

コメントはありません。 Comments/アドバンズ物語第六十四話 ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2011-05-15 (日) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.