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アドバンズ物語第六十八話

/アドバンズ物語第六十八話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第六十八話 ヨノワールとの最終決戦! 乗っ取られたソウマ!


ソウイチ達がまぼろしのだいちへ向けて旅立ったころ、ギルドではみんなが心配そうな面持ちでたたずんでいた。
プクリンがペラップの手当てをしているのだが、かなり時間が立っているのにまだ部屋から出てこない。
やきもきしながら待っていると、ようやくプクリンが部屋から出てきた。

「あ、親方様!」

「ペラップさんは大丈夫なんですか?」
みんなは口々にペラップの容態を尋ねた。

「うん♪一晩寝れば、明日には元気になると思うよ♪」
プクリンはにこっと笑った。
それを見て他のみんなも一安心。

「親方様」
 
「なあに? キマワリ」
プクリンはキマワリの方を向いた。

「親方様は昔、ペラップに助けてもらったっておっしゃってましたよね?」

「うん。あの時は・・・」
プクリンはそのときの出来事を話し始めた。
プクリンとペラップは二人でいそのどうくつへ行き、そこでカブトプス達と遭遇。
だが、不意を突かれたために攻撃することができず、そんなプクリンをかばいペラップはやられてしまったのだ。

「その後カブトプス達は追い払ったんだけど、僕は倒れたペラップをどうすることもできなかった・・・。ペラップを助けられず途方に暮れてた時に、ラスティとステラが現れたんだ」

「ラスティとステラ?」
キマワリは聞いた。

「うん。ラプラスのラスティとステラ。二人はペラップを助けてくれたんだ」
プクリンは言った。
そのころ、海の上でも同じような話が展開されていたのだ。

「へえ~、お前ってそんな風にしてプクリンと出会ったんだ」
ソウイチは言った。

「はい。本当は姿を見せるつもりはなかったんです。でも、傷ついたペラップさんを見た瞬間、助けずにはいられませんでした」

「そしてその後で、私達はプクリンさんとある約束をしたのです」
ラスティーとステラは言った。

「約束?」
ソウマは聞いた。
そしてギルドでも、同じような話しがされている。

「ヘイ! その約束ってなんだい?」
ヘイガニは聞いた。

「二人は僕達を見て、すぐに探検隊だって分かったらしい。そしてこう言ったんだ」
プクリンはみんなに話した。

[あなた達が野心に満ちた盗賊か、あるいは正義の心を持った探検隊かは分からない。でも、世界の平和のために、不思議な模様だけは探求しないでくれ・・・]

そして舞台は海に戻る。

「それで、プクリンはなんて答えたの?」
ライナはステラに聞いた。

「プクリンさんは、快く約束してくれました。ペラップさんを助けてくれたお礼もあるし、この件からは手を引くと・・・」

「そうやったんか・・・。そやけど、なんで探求したらあかんのや?」
カメキチは聞いた。

「まぼろしのだいちには、ディアルガのいるじげんのとうがあります。ディアルガは、時間を司るこの塔に、いろいろな者が訪れるのを恐れました」

「そして、ディアルガはじげんのとうを守るため、まぼろしのだいちをときのはざまに隠したのです」
ラスティとステラは言った。

「ときのはざま?」
みんなは思わず聞き返した。
そんな言葉は誰も聞いたことがなかったのだ。

「はい。説明が難しいのですが・・・、時と時のほんの隙間の部分、とでも申しましょうか・・・」

「なるほどな・・・。どうりで見つからなかったわけだ。ときのはざまなんて、そんなところには誰も行けないからな」
ステラの説明を聞いて、グラスは大分納得したようだ。
しかし、ラスティは違うという風に首を振った。

「いえ。ディアルガは、まぼろしのだいちに入る資格を一つだけ設けました。それがいせきのかけらです」
ラスティは、モリゾーのぶら下げたいせきのかけらを見ながら言った。
そして再びここはギルド。

「コータス長老の話、そしてモリゾーのいせきのかけらを見て、僕はピンと来たんだ。あの不思議な模様こそが、まぼろしのだいちに通じるものだと」
プクリンはみんなに言った。

「だから僕は、みんながいそのどうくつへ行く前に出かけたんだ。再びラスティたちに会うために・・・」
プクリンがあの時戻ってこなかったのはそのためだったのだ。
プクリンは、二人に、各地の時が止まり始め、この世界が危機にあること。
そして一刻も早く、じげんのとうにときのはぐるまを納めねばならないことを話した。
その時に、まぼろしのだいちへ行く方法を教えてほしいと頼んだのだ。

「それで・・・、どうなったんですか?」
キマワリが聞いた。

「二人は教えてくれたよ。まぼろしのだいちに行く者は、いせきのかけらが選ぶんだって」

「いせきのかけらが!?」

「選ぶんですか!?」
みんなびっくりだ。
あのかけらにそんな力があるとは思っても見なかった。

「うん、そうらしいよ。そして、いせきのかけらはアドバンズを選んだ」

「でも、どうしてアドバンズの皆さんが選ばれたんですか?」
ディグダは不思議そうに聞いた。

「僕もよく分からないけど・・・、たぶんディアルガは、悪しき者をじげんのとうには入れたくないと思うんだ。だから大切なのは心。いせきのかけらは、アドバンズの心に共鳴したんじゃないかな」
プクリンはそう結論付け、さらに付け加えた。

「とにかく、僕達ができるものここまで。後はソウイチやモリゾー達、アドバンズに全てを託そう。まぼろしのだいちへ行き、時の破壊を食い止めるのを・・・」
プクリンはそう言って、窓の外を眺めた。
まぼろしのだいちへと続く、広大な青い世界を。
それから数時間が経ち、橙に染まっていた海も、いつもの色を取り戻していた。
みんなもラスティ達の背中でぐっすりと眠り、気分は爽快。

「ラスティさん、ステラさん。二人はずっと寝ないで泳いでますけど、大丈夫ですか?」
ドンペイは二人に声をかけた。
どうくつを出発してからかなり時間が経っており、疲労しているのではないかと心配なのだ。
それは他のメンバーも同じだった。

「僕達なら大丈夫ですよ。それより、もう少しで着きますよ」
ラスティは海の先を見つめて言った。
しかし着いたとはいえ、それらしいものはどこにも見当たらない。

「ほら! 見えてきましたよ!」
みんなが目を凝らして見ると、なにやら普通の海とは違う部分が見えてきた。

「な、なんだありゃ!?」
ソウイチは奇妙な光景に目を見張った。
波の形が周辺より突き出しているのだ。

「あそこは、ときのはざまの境目です。あそこを通って、まぼろしのだいちへ行きます。」
ステラはみんなに説明した。
その直後、二人は一気にスピードを上げ始める。

「さあ、行きますよ!」
二人はさらにスピードを上げ、ある時点から波を切る音がしなくなった。
みんなが不思議に思って下を見ると、なんと、二人の体が浮いているではないか。

「と、飛んでる!?」

「いや、違う! これは・・・、ときのうみを渡っているんだ!」
グラスは叫んだ。
海はあっという間に見えなくなり、代わりに、島が空中に浮いているような場所が見えてきた。

「ひいっ!! 何で雷がこんなにすごいんだよ!!」
ソウイチは雷鳴がとどろく度に体を縮こまらせていた。

「今は雷を怖がってる場合じゃないよ!! しっかりしなって!!」
モリゾーはソウイチの背中をバンと叩いた。
大事な使命を果たしに行くのに雷などで怖がっている場合ではない。

「ラスティ、ステラ! あれがまぼろしのだいちなのか!?」
ソウマは二人に聞いた。

「そうです! まぼろしのだいちです! 突入しますからしっかりつかまっていてください!!」
その途端、雷の振動による横揺れがみんなを襲う。
みんなは振り落とされないようしっかりつかまり、ラスティとステラはその中を果敢に進んでいく。
揺れが収まった頃には、みんなはすでにまぼろしのだいちへ足を踏み入れていた。

「こ、ここが・・・」

「まぼろしのだいち・・・」
みんなは珍しそうにあたりをキョロキョロと見回す。

「みなさん、正面を見てください」
ステラはみんなに言った。
そして正面を見ると、みんなの目に飛び込んできたのは、赤い雲が上空に渦巻く塔。
衝撃の光景に、みんなは声を出すことすら忘れている。
だが、みんなの思っていることは同じだった。

「そうです。あれがじげんのとうです」
みんなの表情を察して、ラスティは言った。

「あそこに、ディアルガが・・・。あそこへ行って、ときのはぐるまを納めれば!」
グラスの顔には、再びやる気に満ちてきた。
しかし、みんなの頭には一つの疑問が。
あの空中に浮かんでいるところへ、いったいどうやって行けばいいのだろうか。

「さすがに空を飛んでいくわけにはいかねえし・・・」
ソウイチは途方にくれてため息をついた。

「その必要はありません。にじのいしぶねに乗るのです」
ラスティは言った。

「にじのいしぶね?」

「はい。この先をずっと行くと、古代の遺跡があります。そこに古代の船、にじのいしぶねが眠っているのです。それに乗れば、じげんのとうまで行けるでしょう」
聞き返すみんなに、ラスティは細かく説明した。

「ありがとな! ラスティ、ステラ!」
ソウマは二人に礼を言った。

「私たちができるのもここまでです。あとは、じげんのとうを目指して頑張ってください!」

「きっとあなた達ならできますよ。勇気を持って!」
二人はみんなに精一杯の励ましを送った。

「よし! 行こうぜ! こっからが正念場だ!」
ソウイチはみんなに向かって言った。
その励ましを糧とし、みんなは遺跡へ向けて歩き出す。

だが、その道のりは決して楽なものではなかった。敵のレベルが尋常ではないのだ。
しかもよりによってモンスターハウスに出くわしてしまい、大乱闘になってしまった。
厄介なタイプを併せ持つポケモンも多く、なかなか数が減らない。
このままではまずいと思い、カメキチはみんなに、自分の後ろへ回り込むよう指示。
そして敵が襲い掛かってくるのを見計らい、なみのりで一網打尽にする。
ひこうタイプを持つトロピウスやカイリューは、ドンペイとソウイチ、ゴロスケが波の隙間から攻撃。
飛び上がったはいいが、波に気を取られていたせいでよけることができず、二人はそのまま地面へ激突。
またしても飲み込まれ、波が引くころにはすっかり目を回していた。
他の敵も、なみのりの効果と壁に叩きつけられた影響で立ち上がることはできない。

「これ以上相手をしている暇はない! 先を急ぐぞ!」
グラスはみんなに向かって言った。
こんなことをしている間にも、時はどんどん止まっていく。
少ない労力と時間で、いかにこのダンジョンを突破できるかが鍵なのだ。
強い敵と無数のわなに苦戦しつつも、みんなはようやくまぼろしのだいちを突破した。

「はあ・・・、はあ・・・。やっと抜けたわね・・・」
ライナはあえぎながら言った。
かなり急いだせいか、他のみんなもかなり疲れているようだ。

「とりあえず、オレンを食べておこう」
ソウマはバッグからオレンを取り出しみんなに渡す。
これで体力もすっかり回復し、小休止の後、みんなは遺跡を目指して再び出発。
そして遺跡に着くと、みんなはその神秘さに見入った。
数々の伝説のポケモンが描かれており、その美しさは見事なものだ。

「ラスティさん達の言ってたとおり、ここは古代の遺跡みたいですね・・・」
ドンペイは壁画を見上げながらつぶやいた。

「だとしたら、ここにあるはずだよ。にじのいしぶねが」

「そうだな。とりあえず行ってみよう」
ゴロスケの言うことにグラスはうなずき、みんなは壁画を順繰りにたどっていく。
そしてアーチのようなものをくぐると、目の前には高い階段がそびえ立っていた。

「な、なんだこれは・・・?」
みんなはしばらくその場にたたずんだ。
さっきの壁画と同じく、神秘的な雰囲気ではあるが、どことなく厳かなものを感じる。

「おそらく・・・、遺跡の神殿か何かだとは思うが・・・」
グラスは階段を見てつぶやいた。

「とにかく、昇ってみよや」
カメキチに言われ、みんなは早速階段を昇って頂上へ。
そして頂上には、いせきのかけらと同じ模様が、またしても描かれていたのだ。
真ん中には、何かがはまっていたような窪みがある。

「ん? なんだあれは?」
ソウマは端のほうに石碑のようなものを見つけた。
何か文字のようなものが刻んであるが、こんな文字は見たことがない。

「これは・・・、アンノーン文字だな・・・。古代の言葉で書かれている・・・」
みんなが首をひねる中、グラスはつぶやいた。

「父さん、読めるの?」

「ああ。このために、未来でいろいろ調べてきたからな」
モリゾーの問いにグラスはうなずいた。

「おお! じゃあ早く読んでくれよ!」

「そうせかすな。ちょっと待ってろ・・・」
はやるソウイチを押さえ、グラスはメモ帳を取り出すと早速解読を始めた。
みんなはその様子を息を殺して見守っている。

「・・・わかったぞ。どうやらここ自体が、にじのいしぶねになっているらしい」
グラスは手帳を閉じて言った。

「えええ!? こ、ここ自体が!?」
みんなは口をあんぐりとあけた。

「そうだ。そして、真ん中にある窪み・・・。ここに、モリゾーの持っているかけらをはめこめば、にじのいしぶねが起動し、それに乗ってじげんのとうへいける。あの石盤にはそう書いてあった」
グラスは窪みを指差して言った。

「ほんとか!? じゃあ早いとこ試してみようぜ!」

「そうだね! じゃあ早速はめてみるよ」
ソウイチに言われ、モリゾーが窪みにかけらをはめようとしたその時だった。

「そこまでだ!!」
突然声がした。聞き覚えのあるあの声が。
声の主を言う前に、みんなは大勢のヤミラミ達に囲まれていた。
人数はざっと、みらいせかいでの四倍はいるだろうか。
そして、声の主は不敵な笑みを浮かべながら悠々と階段を昇ってきた。

「よ、ヨノワール!!」
みんなの顔に驚愕の色が浮かぶ。

「な、なぜお前がここにいる!?」
ソウマは真正面からヨノワールをにらみつけた。

「フッ・・・、簡単なことだ。ディアルガ様に、ここへ直接飛ばしてもらったのだ。お前達は必ずここにやってくると思っていたよ。ここで待っていたほうが、探す手間も省けるからな」
ヨノワールは嘗め回すような目線でみんなを見た。

「くっそお! なんもかもお見通しかい!」
カメキチは悔しそうに奥歯をかみ締めた。
最後の最後で敵のわなにはまるとは、なんとうかつだっただろう。

「フフフフ・・・。悪いが、また未来まで来てもらうぞ」
ヨノワールの言葉は、死刑宣告に相当するものだった。
このまま未来へ送還されてしまえば、もう二度と、世界を救うチャンスはない。

「ヤミラミ達! こいつらをじくうホールまで連れて行け!」

「ウイイイーーーーーーーーーッ!」
ヨノワールの命を受け、ヤミラミ達は寄ってたかってソウイチ達を捕まえると、強引に階段を引き摺り下ろした。
その先に待っていたのは、地獄への入り口。

「ヤミラミ達よ! こいつらを放り込んでしまえ!!」
ヤミラミ達はつめを研ぎ澄まし、みんなを追い込む準備を整えた。
だが、そんなことであきらめるアドバンズではない。
互いに目配せをすると、ヤミラミ達が腕を振り上げた瞬間を狙い、通常攻撃で背後へ回り込んだ。

「ほう。この期に及んでまだ抵抗するとは・・・」
ヨノワールは珍しいものでも見ているかのようだ。

「ざけんじゃねえ!! そう易々と連れて行かれてたまるか!!」

「そうだ! これ以上お前の好きになんかさせるもんか!!」
ソウイチとソウヤは怒鳴った。
もう相手に対して引けはとらない。

「ならば仕方がない。この場でお前達を倒してから、未来へ運んでも同じこと。この圧倒的に不利な状況で、お前達がどのくらい抵抗できるか、見せてもらおう!!」
ヨノワールのほうも戦闘態勢に入った。
本気で行く前触れか、体中から黒いオーラが出ている。

「みんな。このまま一度に全員を相手にするのはリスクが高い。ヨノワールを倒す組と、ヤミラミを倒す組に分かれたほうがいい」
ソウマは小声でみんなにささやいた。
こっちが九人に対し、向こうは三十人を越える人数、ヨノワールの戦力を加えればさらに何人か増えるだろう。

「で、どう分かれるんだよ?」
ソウイチは聞いた。

「ヤミラミはとにかく人数が多い。広範囲に攻撃できる技が使えるほうがいいな」
あくタイプとゴーストタイプを併せ持つので、大ダメージを与えることは不可能、いちいち一人ずつに攻撃している余裕はない。
広範囲に及ぶ技なら、威力が低くても回数を節約できるので大勢を相手にするにはもってこいなのだ。
相談の結果、広範囲技が使えるソウマ、ゴロスケ、ライナ、カメキチ、グラスがヤミラミを相手に、残りはヨノワールを中心に相手をすることになった。

「こいつらは私一人で十分だ! お前達はさっさとソウマ達を片付けてしまえ!!」
ヨノワールはヤミラミ達に命令し、ヤミラミ達は一斉にソウマ達のほうへ目を向けた。
大勢でかかれば、いくらソウマやグラスがいるとはいえ、あっという間に片がつくと思ったのだろう。
しかし、その考えは後々覆されることになるとは、まだヨノワールは知らない。

まずは相手の体力を削り、隙ができたところで一気に攻め込む作戦で行くことに。
モリゾーがタネマシンガンでヨノワールをひきつけているうちに、ソウヤが背後に回りアイアンテールで前方へ吹き飛ばす。
そこへ狙いを定め、ソウイチとドンペイがかえんほうしゃとひのこで追い討ちをかける。
だが、ヨノワールのほうもただやられているだけではない。
かなしばりでみんなの動きを封じた後、シャドーパンチを連続で繰り出し集中的にダメージを与えた。
そしてかなしばりを解いた直後におにびを無数に作り出し襲わせる。
ソウイチとドンペイは平気だったが、ソウヤとモリゾーは右半身と左半身にやけどを負ってしまった。
さらに、なぜか体力の消耗がいつもより激しい。
わずかな時間しか戦っていないにも関わらず、これだけの技を受けただけですでに息が上がっている。
ヨノワールのとくせいはかなり威力を発揮しているようだ。

ソウイチ達が苦戦する一方、ソウマ達のほうはヤミラミ達を一網打尽にするべく着々と相手の体力を削っていた。
さすがにこれ以上はこちらも負担が大きいため、思い切って作戦を実行に移すことに。

「まずはオレから行くぞ!」
グラスは腕を十字にクロスさせ目を閉じる。
すると、全身から緑色のオーラが発生し、風が巻き起こると同時に木の葉が舞い始めた。
木の葉は数と回転の勢いを増し、味方さえも巻き込んでしまいそうだ。
あまりの大きさに、ヤミラミたちも尻込みし始めている。

「舞い散れ! 新緑の嵐! リーフストーーーム!!」
グラスはかっと目を見開き、腕を思いっきり前方へ振った。
身長の三倍はある嵐は、抵抗する間もなくヤミラミ達を飲み込む。
ぐるぐると回るヤミラミ達は、体を切り裂く葉にもがき苦しんでいた。

「次はオレの番だ! まだまだ終わりじゃねえぜ!!」
ソウマは最大パワーでかえんほうしゃを吐き出し、嵐に沿わせる。
木の葉は真っ赤に燃え上がり、嵐の中の温度は異常に上昇した。

「ぎゃああああ!! あぢぢぢぢぢ!!」
ヤミラミ達はさらに叫び声をあげ嵐から逃れようとする。
だが、赤い木の葉の壁は厚く、手を触れただけではじき返されてしまった。

「それじゃあ冷やしてあげるよ!!」
今度はゴロスケが木の葉の渦の中へ水を吐き出し、大きなうずしおを作った。
木の葉は消火したものの、渦の回転数は徐々に上がり、ヤミラミ達はすっかり目を回している。
敵も大分体力を消耗してきたようだ。

「このまま勢いに乗ってくで~!!」
カメキチはみんなを巻き込まないよう波に乗せ、そのまま渦へなみのりで突進。
波はそのまま渦へ覆いかぶさり、あたり一面が水しぶきで見えなくなった。
ようやく視界が晴れると、ヤミラミ達は地面にひっくり返ったままになっている。
何人かは手をついて、よろけながらも立ち上がろうとしていた。

「いよいよ最後の仕上げだ! 頼むぞライナ!」
ソウマはライナの肩を叩いた。

「まかせて! ここまで来たら、もう失敗なんてできないんだから!」
ライナはバチバチと頬から電気を流した。
いよいよ作戦も大詰めだ。

「くそお・・・。これ以上やられてたまるか・・・!!」
何とか立ち上がったヤミラミ達は、最後の力を振り絞ってシャドークローを繰り出してきた。
だが、そんなものは無意味に過ぎない。

「これで終わりよ!! ほうでええええん!!」
ライナの体中から閃光が走り、地面を黄色い線が駆け抜ける。
みんなは思いっきりジャンプし、滞空時間を稼ぐ。
地面とヤミラミ達はさっきのうずしおとなみのりでずぶ濡れ、こういう時にこそでんき技は真の威力を発揮するのだ。

「ば、ばかな!? ぎゃあああああああ!!!」
ヤミラミ達は体をのけぞらせ全身を震わせていた。
ライナは力を緩めることなく、必死で電気を流し続ける。
ソウマ達が地面に足をつける前には、もうヤミラミ達のうめき声すらしなかった。
その代わり、約一名断末魔の声を上げているやつがいた。

「あべばばばばばば!!!」
カメキチだけ一足先に着地してしまい、もろに電撃を受けてしまったのだ。
幸いものの数秒だけだったので、その場に座り込むだけですんだのだが。

「か、カメキチ!! 大丈夫!?」
ライナはあわててカメキチのそばに駆け寄る。

「し、心配せんでもええって・・・。ちょっとビリってきただけやし・・・」
カメキチはライナを心配させまいと笑顔を作った。
本当は卒倒しそうなほど電気を浴びたとは絶対に言えない。

「ほんとに大丈夫か? まだふらついてるぞ?」
ソウマも不安そうな表情をしている。

「平気平気! ほれ見てみい!」
カメキチはその場をぴょんぴょん飛び回り、みんなに大丈夫なことをアピールした。

「分かった分かった。その様子じゃあ大丈夫そうだな」
ソウマはおかしそうに笑った。
ほかのみんなもつられて笑ったが、それと同時に安心したのだ。
そしてその頃、ソウイチ達の方は苦戦を続けていた。
じょじょにかなしばりから逃れられなくなり、ヨノワールのなすがままにされていたのだ。
プレッシャーでいつもより体力の消耗が激しく、技をぶつけるだけで精一杯だった。

「最初の威勢はどうした? もう終わりか!?」
ヨノワールは形成を盛り返したことを自覚し、積極的に技を放つ。
かなしばりで思うように動けない中、ソウイチ達は必死で技をよけていた。
それでもよけられるのは数えるほど。

(くそお・・・!! このままじゃまずい!!)
ソウイチは必死で策を練ったが、どれもこれも今の状況では使えないものばかり。
他の三人は息も絶え絶えだ。

「フハハハハハ!! これで私の勝ちは決まりだ!! ハハハハハハ!!」
ヨノワールはすっかり有頂天になり、その場で笑い始めた。
だが、その一瞬が仇となる。

「お前に勝たせなどしない!!」
突然横からリーフブレードが飛んできて、ヨノワールを吹き飛ばす。

「ぐはあっ!! な、何事だ!?」
ヨノワールはリーフブレードが飛んできた方向を見た。
目に映ったのは、地面に伏し、ぴくりとも動かないヤミラミ達を尻目に、ソウイチ達の援護に加わろうとするソウマ達の姿。
ヨノワールは、そこで初めて自分の置かれた状況を理解したのだ。
だが時すでに遅し、ヨノワールはアドバンズ全員に囲まれていた。

「観念しろ! お前の負けだ!」
グラスは腕をヨノワールの喉元に突きつけた。
だが、ヨノワールは気味の悪い笑いを浮かべている。

「私の負けだと・・・? まだ、策はある!」
すると、ヨノワールはかなしばりでグラスを動けなくし、全員から少し距離をとる。
次の瞬間、ヨノワールの口から黒いものが飛び出し、まっしぐらにソウマを目指した。

「あれは・・・。まずい! ソウマ気をつけろ!!」
グラスは叫んだが、もう遅かった。
黒いものは、あっという間のソウマの口の中へと飛び込んだのだ。

「うおっ・・・! ぐあああああ!!」
ソウマは突然苦しみ始め、その場をのた打ち回った。
みんなは何が起こったのかわからずおろおろするばかり。
そして、ようやくソウマは静かになった。

「・・・・・・」

「ソウマ・・・?」
立ち上がったソウマにライナは近づいたが、どうも様子が変だ。

「ライナ!! 今すぐ離れろ!! そいつはソウマじゃない!!」
グラスは走りざまライナに叫んだ。
しかし、グラスがたどり着く前に、ライナは殴り飛ばされていた。

「きゃあああああ!!」
ライナはじくうホールのある岩壁に叩きつけられ、そのままずるずると座り込んだ。

「ら、ライナ!!」

「ライナ先輩!!」
カメキチとドンペイはライナのほうを振り返り、あわてて助け起こしに行く。
そしてその直後に信じられないものを耳にした。

「ほう・・・。これがソウマの体か。なかなか使いやすそうだな」
なんと、ソウマの口から出てきたのは、紛れもなくヨノワールの声。
みんなはますますわけが分からない。

「てめえ!! アニキに何しやがった!!」
ソウイチはヨノワールの本体に向かって怒鳴った。

「フフフフフ。私の魂を分割して、半分をソウマの体に乗り移らせたのだ。これでソウマは、私の意のままに動く!」
なんと、ヨノワールは他人を乗っ取ることができるだけでなく、本体を動かしたまま、もう一人に乗り移ることもできたのだ。
グラスは黒いものがヨノワールの魂だと見抜き、警告しようとしたが間に合わなかった。

「果たしてお前達に、味方であるソウマを倒すことができるかな?」
挑発的な口調でヨノワールの本体は言った。
なんと卑怯極まりない作戦だろう。
みんなの怒りはあっという間に頂点に達した。

「ソウマはオレらに任せ。お前らは、あのボケナスを徹底的に叩きのめしたれ! 分かったな?」
カメキチはソウイチ達に言った。
本当はソウマを元に戻すほうに加わりたかったが、それではヨノワールを相手にするものがほとんどいなくなってしまう。
それに、カメキチやライナの目を見て、自分の意見を言えなくなってしまった。
パートナーであり、仲間である自分達がソウマを戻すという意志が、はっきりと感じ取れたからだ。
ソウイチ達より長い時間を過ごした分、その思いには特別なものがあった。

「ああ。アニキのことは頼んだぜ!」
ソウイチはうなずき、ソウヤ達とグラスを連れてヨノワールの本体を倒しに行った。
そしてカメキチ達は、ソウマの姿をしたヨノワールに向き直る。

「フン。キサマ達だけで戻せるのか?」
ヨノワールは冷酷な目つきになった。

「よくも先輩を・・・!!」

「許さない・・・。ソウマの体を弄ぶなんて・・・、絶対に許さない!!」

「なめんなよ化けもんが!!」
三人はいっせいにヨノワールをにらみつけた。

「いいだろう。かかってこい!」
ソウマの姿をした悪魔は、戦う構えに入る。
仲間を賭けた、第二ラウンドのスタートだ。

 


アドバンズ物語第六十九話



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Last-modified: 2011-05-21 (土) 00:00:00
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