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アドバンズ物語第六十九話

/アドバンズ物語第六十九話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第六十九話 涙の別れ! ソウマの想い グラスの想い


ヨノワールは唐突にかえんほうしゃを放った。
頬をかすったものの、三人は何とかよける。
ソウマを元に戻すためには、体力を削って相手を追い出すことが一番有効だ。
だが、ライナ達は必要以上にソウマを傷つけたくなかったので、どう相手を追い出すか悩んでいた。
元に戻したい思いと、傷つけなくない思いの板ばさみだ。
そしてソウイチ達の方はと言うと、グラスが加わったとはいえ、体力が限界に近いのでかなり押されている。
かなしばりに遭わないようにするのが精一杯で、正確に攻撃が当てられているのはグラスしかいない。

「これが作戦というものだ! キサマ達は、どんな手を使ってでも未来へ連れて行く!」
ヨノワールは一度にたくさんのおにびを作り、あっという間にソウイチ達を燃やす。
最初にソウヤがひざをつき、続いてモリゾー、ゴロスケと動けなくなっていく。

「お前らがんばれ!! このままじゃアニキを元に戻せねえぞ!!」
ソウイチは必死に根性で堪え、倒れていく仲間を励ました。

「そうだ! ここで倒れれば、今までやってきたことがすべて無駄になってしまうぞ!」
グラスも振り返って言う。

「しゃべっている暇があるとは余裕だな」
ヨノワールは容赦なくシャドーパンチで二人を吹き飛ばす。
グラスはぎりぎり態勢を立て直したが、ソウイチはライナ達の方まで吹っ飛んでしまった。

「ソウイチ!!」
カメキチは一瞬だけ気を取られてしまった。

「食らえ!!」
ヨノワールはかえんぐるまでカメキチを弾き飛ばし、岩壁に押し付けた後で腹に蹴りを入れた。

「うぐっ・・・!」
カメキチは気が遠くなりそうだったが、すんでのところで踏みとどまっている。
そしてヨノワールは顔面を殴りつけ、さらにはみぞおちを殴り気絶させようとしていた。

「やめろおおおおお!!」
ドンペイはつばめがえしでヨノワールの足元をすくい、体勢を崩す。
カメキチから遠ざけるため必死にかわらわりで頭を攻撃し、ヨノワールは衝撃でふらつく。
さらにライナのアイアンテールが決まるかと思ったが・・・。

「おのれ・・・! 調子に乗るな!!」
ヨノワールは白刃取りで尻尾を受け止め、つかんだまま地面へと叩きつける。
そして馬乗りになり、至近距離でかえんほうしゃを浴びせようとした。

「ライナ!!」
カメキチは助けに行こうとしたが、体がめり込んで抜け出せない。
ドンペイはまたかわらわりをお見舞いして引き離そうとしたが、振り返りざまに殴られ地面に転がった。

「まずは・・・、キサマから見せしめに倒してやる! 私に逆らうとどうなるか、体の芯まで思い知れ!!」
とうとうほのおをため終わってしまったヨノワール。
ライナはとっさに目をつぶった。
だが、いつまで経ってもかえんほうしゃは来ない。
どうしたものかとうっすら目を明けると、ヨノワールが苦しみながら体をのけぞらせていたのだ。

「ぐあああ!! お、おのれ!!」
ヨノワールは再びかえんほうしゃの準備に取り掛かるが、炎は途中で消えてしまう。
次の瞬間、ライナの耳に聞こえてきたのはヨノワールの声ではなかった。

「ら、ライナ・・・」

「そ、ソウマ!?」
なんと、ヨノワールの魂を押さえつけ、ソウマの魂が表面に出てきたのだ。

「ライナ・・・、遠慮せずにオレを倒せ・・・!」

「そ、そんな! ソウマの体を傷つけるなんて・・・、私にはできないわ!」
ライナは激しく首を振った。
のっとられているとはいえ、やはり大事なソウマを傷つけたくなかったのだ。

「お前がオレを傷つけるのがつらいことは分かってる。だが、本当に・・・、本当にオレのことを想ってくれてるなら、一思いにやってくれ! それしか、こいつをオレの体から出す方法はねえんだ!」
ライナにつらい思いをさせることは分かっていた。
だが、ライナのことが好きだから、信頼していたから、あえて自分を本気で攻撃するよう頼んだのだ。それしか道はない。

「オレが押さえつけておくうちに・・・、早く!!」
ライナはしばらく悩んでいたが、ようやく顔を上げる。
その目にはもう、迷いはなかった。

「ソウマから・・・、ソウマから出て行って!!」
ライナは渾身の力で十万ボルトを浴びせる。
再びヨノワールの魂が表面に出てきたときは、すでにソウマの体力は半分を割り切っていた。

「ぐああああああ!! や、やめろおおおおお!!」
ヨノワールは再びもだえ苦しみ、叫び声をあげた。
だが、ライナは躊躇することなく十万ボルトを浴びせ続ける。
そして、とうとう力尽きてその場に倒れた。

「くそっ!!」
ソウマに入っていた魂は、慌ててソウマの体から抜け出し本体と融合。
それを確認し、ライナはすぐさまソウマの介抱に当たる。
ヨノワールは再び攻撃する準備を整えていたが、その隙をソウイチとモリゾーは見逃さなかった。

「これ以上お前の好き勝手にはさせない!! オイラ達の本気を見せてやる!!」
そして今度は、モリゾーから緑のオーラが立ち昇る。
周りを木の葉が舞い始め、やがて緑の嵐に包まれた。

「この技を使えるのは父さんだけじゃない! オイラだって使いこなせるんだ!!」
モリゾーが腕を降ると、リーフストームはヨノワールに突進し、あっという間に包み込んでしまった。
強引に出ようとしたが、シャドーパンチでもあと少しのところで壁を破れない。

「これでけりをつけてやるぜ!!」
ソウイチの体は炎で包まれ、そして勢いよく回り始める。
そこへドンペイのひのこ、ソウヤの十万ボルトが加わり、ソウイチの周りはがっちりと固められた。

「終わりだ!! バーニングストーーーーム!!!」
ソウイチが嵐の周りを回り始めると、次々と葉っぱに引火。ヨノワールは正義の業火に包まれた。
嵐が消滅すると、ヨノワールはすっかり傷だらけになっていた。
それでも、しぶとく倒れずにいる。

「チッ、まだかよ!」
ソウイチはいらついて舌打ちした。

「私は・・・、私は負けん・・・!! うおおおおお!!」
突然ヨノワールは雄たけびを上げる。
すると、突然腹の辺りにある口のようなものがぱっかりと開いた。

「な、何あれ!?」
ソウヤは目を見張った。

「まさか、あの口から何か仕掛けてくるんじゃ・・・!!」
モリゾーとゴロスケは警戒した。
だが、仕掛けてくるという言葉を聞いて、ソウイチは一か八かの作戦を思いつき、ソウヤ達に話す。

「ええええ!? お腹の内側に技をぶち込む!?」
四人は唖然となった。
そんなことができるのか? そう言いたげでもある。

「もう時間も体力も残ってねえ!! 信じてくれ、みんな!!」
ソウイチは必死に訴えた。
みんなは迷ったが、ソウイチの言葉に賭けてみることに。

「くらえええええええ!!!」

「いっけえええええ!!!」
ヨノワールが口から光線を吐き出した直後、五人は持ち前の技をありったけの力で放った。
技は光線を打ち破り、見事ヨノワールの口へと直撃。

「ぐおっ・・・! ぐおああああああああ!!!」
ヨノワールは断末魔の叫び声を上げ、どさりとその場へ崩れ落ちた。

「やった・・・。ついに・・・、ついにヨノワールを倒したぞ!!」

「やったああああああ!!!」
グラスの言葉が引き金となり、みんなは手を取り合って喜ぶ。
強い思いと絆が、悪を打ち破ったのだ。
ようやく起き上がったヤミラミ達は、ヨノワールが倒されたのを知ると、尻尾を巻いてじくうホールの中へと逃げ込んでいった。
残ったのは、ぼろぼろになったヨノワールのみ。

「く、くそお・・・!!」
ヨノワールの心は悔しさで埋め尽くされていた。

「これが・・・、オレ達の実力だ・・・! オレ達の信頼と絆は、どんなものにだって負けやしない!」
ライナに支えられながら、ソウマはヨノワールに近づいて言った。

「そうだぜ! なめんなよ!」
ソウイチも自信たっぷりに言う。

「モリゾー、ゴロスケ」
グラスは二人に声をかけた。

「神殿の頂上へ行って、そこの窪みに、いせきのかけらを入れてみてくれ。にじのいしぶねが動くかどうか、試してほしいんだ。オレとソウイチ達は、ここでヨノワールを見張ってる」
さすがに動けないとはいえ、ほったらかしにすると何が起こるかわからないのだ。

「わかった。じゃあ行ってくるよ」
二人は急いで階段を駆け上がっていく。

「あ、私達も行くわ!」
二人だけでは心配なのか、ライナ達三人も一緒についていくことに。
結局、見張りで残ったのはソウイチ兄弟とグラスだった。

「あれが動けば、じげんのとうへ行ける。うまく起動できりゃいいんだけど・・・」
ソウマは五人の後姿を眺めながら言った。
わずかながらオレンが残っていたので、支えが要らない程度までは体力を回復。

「うぐぐっ・・・」

「動くな!!」
ヨノワールが不審な動き方をしたので、グラスはリーフブレードを目の前に突きつけた。

「うぐぐ・・・。お、お前たち・・・、本当にこれでいいのか・・・? もし、歴史を変えたら・・・、私達未来のポケモンは、消滅してしまうんだぞ・・・?」

「えええ!? しょ、消滅!?」
ソウイチとソウヤは衝撃を受けた。

「そうだ・・・。私だけじゃなく、未来から来たお前達三人も消えることになる・・・」
三人とは、ソウイチ兄弟のことだろう。
グラスは歴史を変える事に協力したとはいえ、もともとはこの世界の生まれ。
消えることはないはずだ。

「ほ、ほんとなのかよ!?」

「どうなの!? アニキ、グラス!?」
ソウイチとソウヤは二人に詰め寄った。
だが、ソウマとグラスは表情一つ変えない。
いや、どこか寂しそうで、悲しげな表情だった。

「ああ・・・、その通りだ・・・。歴史を変えれば、オレ達は消える・・・」
ソウマは重々しく告げた。
過去を変えてしまえば、変える前の未来はなくなり、変わった後の未来が訪れる。
変える前の出来事はなかったことになり、そこに存在していたものもなくなってしまうのだ。
ゲームデータの上書きと同じ、やってしまえば、前のデータは残らず、存在自体が消える。

「オレは記憶をなくして、歴史を変えることに協力したが、この世界での生まれに変わりはない。だが、お前達三人は未来で生まれ育った・・・」
グラスはとても言いにくそうだった。
未来で共に過ごしておきながら、自分だけは消えることがないのだから、その苦しみは計り知れない。

「だが・・・、それでいいんだ・・・。歴史を変えることで、時が動き、全てが平和になるなら。オレ達は、そのために今までやってきたんだ」
悲しそうな表情から一転、ソウマの顔には、決意がよみがえってきた。

「またセレビィも、消えるのが分かっている上で協力してくれたんだ」

「セレビィも!?」
グラスの言葉にまたしてもショックを受ける二人。
だが、最初に出会ったあの時、彼女は確かにこう言っていたのだ。

[それに、もしほしのていしを食い止めることができて、この暗黒の世界が変わるなら・・・、私も、命をかけてリーフさんに協力します]

あの時すでに、彼女は自分自身が消えることを悟っていた。
命を懸けるとは、そういうことだったのだ。

「ソウイチ、ソウヤ。それはお前達も、オレも、グラスも同じだった。その覚悟で、オレ達四人は未来から来た」
ソウマは淡々と言った。
だが、いきなりそんなことを言われても、当時の記憶がない二人にとっては戸惑うばかり。

「覚悟の記憶がなくて、戸惑う事は分かってる。でも、もう選択肢は残されてない・・・。このまま放って置けば、時は破壊され、やがてほしのていしを迎えてしまう・・・」
ソウマの言葉は、二人の胸に深く突き刺さった。
そんな重い覚悟で、歴史を変えることに臨んでいたなんて・・・。

「世界を平和にするためには、オレ達は消えるしかない・・・。つらいだろうが、分かってくれ・・・」
そこまで言って、ソウマは目を閉じた。
自分でも、事実を伝えることは胸が張り裂けそうなのだ。

「オレ達・・・、そんな覚悟で来てたのか・・・」
ソウイチはポツリとつぶやいた。

「でも・・・、僕達が消えることでほしのていしが防げるなら、やるしかないよ」
ソウヤは再び覚悟を決めたようだ。

「ちょ、ちょっと待てよ!! オレ達はその覚悟できたかも知れねえけど、モリゾーやゴロスケはどうなるんだよ!? ライナは!? ドンペイは!? カメキチは!?」
ソウイチはソウヤの言葉に猛反発。
自分達がいなくなれば、みんなは耐えがたい悲しみを味わうことになる。
そんなこと、させられるはずがなかった。

「そうだ。オレ達は元々、失うものが何もない状態でこの世界へ来た。だが、オレはこの世界の住人であることが分かったし、お前達三人にも、大事な仲間であり、友達ができた」
グラスは若干うつむいて言った。

「みんな、オレ達のことを慕っている・・・。もしいなくなることが分かれば、みんなの悲しみは量りかねない・・・」
ソウマも、この上なくつらそうだ。
パートナーだけでなく、恋愛の関係になったライナ、一生に一度出会うか出会わないかの親友カメキチ、自分のことを親のようにしたってくれたドンペイ。
三人を残して、消えることなどできるわけがない。
それでも、歴史を変えるために、自分たちは消えなくてはならないのだ。
友を、仲間を残してでも・・・。

「未来が変わり、オレ達が消えたとき、あいつらは・・・。あいつらは・・・」
その先は、もう言葉が続かなかった。
それっきり、ソウマもグラスも黙り込んだ。

「モリゾー・・・」

「ゴロスケ・・・」
ソウイチとソウヤは、頂上にいるであろう二人のことを思い浮かべる。
二人の笑顔が、頭から消えることはなかった。
突然、聞いたことないような不思議な音が響き始める。

「な、何だこの音!?」

「この音は・・・。間違いない! にじのいしぶねが起動したんだ!」
グラスは三人に向かって言う。
だが、その音に気をとられたのがまずかった。

「ぐおっ・・・。ぐおおおおおおおお!!!」
突然ヨノワールが起き上がり、四人を突き飛ばしたのだ。

「歴史は・・・、歴史は変えさせんっ!!」
ヨノワールはシャドーパンチで四人に襲い掛かる。
だが、その攻撃は全員には届かなかった。

「うぐっ・・・!!」
グラスは三人をかばい、攻撃を受けその場へひざをついた。

「ぐ、グラス!!」

「グラスめ! 三人をかばったな! 今の攻撃で大分ダメージを負ったはず! ちょうどいい! この場で始末してやる!!」
ヨノワールは再び腕を振り上げる。
グラスは一瞬迷った表情を見せたが、すぐさまその顔は真剣な表情に変わった。

「うおおおおおおおおお!!!」

「な、何をする!?」
なんとグラスは、自らヨノワールにとびかかり、じくうホールの方へ押し戻そうとしているのだ。
だが、グラスの行動はそれで終わりではなかった。

「ヨノワール・・・!! このまま・・・、このままキサマと共に未来へ帰るんだ!!」

「な・・・!」

「なにい!?」
その場にいた全員に衝撃が走った。
グラスは二度とヨノワールが邪魔をしないよう、体を張って未来へ行こうというのだ。

「三人とも! 後は任せた!!」
グラスは首に提げていた袋を後ろに放った。
中からは、からからと音を立ててときのはぐるまが転げだす。

「みんな~! いしぶね動いたで~!」

「早くじげんのとうに行こう!」
このタイミングで、なんとみんなが戻ってきてしまった。
みんなはグラスの行為を見て目を見張った。

「と、父さん!?」

「おじさん!! 何やってるの!? 早く戻って!!」
モリゾーとゴロスケは叫んだ。

「オレは、ヨノワールを道連れにして未来へ帰る!!」
グラスは五人に向かって怒鳴った。

「な、なんですって!?」

「アホ!! 早まったらアカン!!」
ライナとカメキチはあわてて止めようとしたが、そんなことでグラスの意志は変わらない。

「もう、ここへは二度と戻って来れないだろう。モリゾー、ゴロスケ、ソウイチとソウヤのことは頼んだぞ!」

「そ、そんな!! できないよ!!」

「僕達におじさんの代わりなんてできるわけないじゃないか!!」
二人の目にはうっすらと光るものがあった。

「いいや、お前達ならできる!! お前達は、オレとバーニーの息子だろ!?」
グラスは心を鬼にして二人に怒鳴った。
二人は返す言葉を失い、ぽろぽろと涙をこぼすだけ。

「お前達は最高のチームだ。二人なら、きっとできるはずだ!」
グラスはさらに付け加える。

「ぐおっ! 放せ!! 放すんだ!!」
ヨノワールはグラスの腕から逃れようと必死でもがいた。

「こら!! 暴れるな!!」
グラスは急のことで力が緩み、ヨノワールはチャンス到来とばかりにさらに暴れる。

(まずい・・・! ここで逃げられたら!)
焦るグラスだが、もう体力は残されていない。
あと少しで逃してしまうところで、別の手がヨノワールの肩をつかんだ。

「!!」
ヨノワールとグラスが手の主を見ると、なんとそれはソウマ。

「一人でかっこつけんじゃねえよ! どうせ消えるんだったら、ここで消えても、未来で消えても同じだ!」

「バカ!! 何を言い出すんだ!! お前には大事なものが・・・」

「てめえだって大事なものあるじゃねえか!! なのに未来へ帰ろうとしてんだから同じだろうが!!」
ソウマを巻き込むまいとするグラスだったが、ソウマの気持ちは固まっていた。
このままではヨノワールが逃げてしまう。
グラスだけでは危険なので、二人で連れ帰れば安心ということなのだろう。

「ソウマ!! お前まで何やっとんや!!」

「そうだよアニキ!! これ以上アニキまで行くことねえよ!!」
カメキチとソウイチは必死でソウマを引き止めた。
だが、ソウマは頑として首を縦に振らない。

「このままじゃ、いずれヨノワールに逃げられちまう! オレも一緒じゃなきゃだめなんだ!」

「だったら、僕達だって・・・」

「バカ野郎!! じゃあ誰がじげんのとうまで行くんだよ!? お前達は、最後までモリゾーとゴロスケのそばにいるべきなんだよ!!」
ソウマは激しく二人を叱り付けた。
これ以上の犠牲は、もういらない。

「だったら・・・、ソウマも最後までそばにいてよ!! どうして・・・、どうして未来へ行っちゃうのよ!?」

「そうですよ!! お願いですからやめてください!!」
二人はソウマを責めた。
こんなところで別れたくはない。

「すまねえ・・・、ライナ、ドンペイ・・・。オレだって、本当はみんなを残していきたくねえ・・・。でも、ここまでの頑張りが水の泡になるのはもっと嫌なんだ!!」
ソウマの表情を見て、ライナは二の句が告げなかった。
もう、誰もソウマを止められない。

「グラス、お前はオレの最初のパートナーだ。最後ぐらい、一緒にいてもいいだろ?」
ソウマは急に穏やかな表情になってグラスを見つめた。

「ソウマ・・・」
グラスは、ソウマの意志の固さを思い知り、それ以上何も言わなかった。

「それとライナ! こんな時に言うのもなんだけど・・・、オレは、お前にずっと伝えたいことがあった!」

「え・・・?」
あまりにも突然で、ライナは訳が分からなかった。

「ライナ・・・、オレは、あの時出会ってからずっと・・・、ずっとお前のことが好きだああああああ!!」
とうとうソウマは、長年抱いていた自分の想いを言葉にすることができた。
だが、それを口にするのは、あまりにも遅すぎたのだ。

「別れんのはつらいけど・・・、後は頼んだぜ!! うおおおおおおおおお!!!」
告白を終えた瞬間、ソウマはヨノワールを力いっぱい押し始めた。
それにあわせて、グラスも力を込める。

「行かないで・・・。行かないでソウマ!!」

「ライナ!! 行ったらアカン!!」
カメキチはライナの腕をつかんで止めたが、ライナはそれを振りほどき、ソウマの元へと全力疾走した。
離れたくない、まだ一緒にいたい、その想いがライナを突き動かす。
そして、ライナは何とかソウマのマントをつかんだ。

(間に合った!)
だが、その想いもむなしく、マントはソウマからするりと脱げ落ち、ライナはそのまま地面に倒れこんだ。
起き上がったときには、すでにソウマとグラスの姿はなかった。
後に残ったのは、ヨノワールの叫び声と、ソウマの温かく、優しい匂いのするマントだけ。

「どうして・・・? どうしていなくなっちゃうの・・・? 私はまだ・・・、自分の想いを伝えていないのに・・・」
ライナの目から、だんだんと大粒の涙がこぼれ始める。

「ソウマ・・・。ソウマあああああああ!!!」
辺りには、ライナの重く深く、切ない心の声が響き渡った。
直後、ライナはマントに顔をうずめて号泣し始める。
悲しみはとどまることを知らず、次から次へと涙となってあふれ出した。

「ライナ・・・」
カメキチはゆっくりとライナに近づいたが、かける言葉が出てこなかった。
代わりに出てきたのは、ライナのむせび泣く姿に対する、哀れみの涙。
カメキチはしゃがむと、あやすようにライナの背中をなでる。
今の自分にはこれしかできない、そう思うと、実に歯がゆく、悔しかった。

(ドアホ・・・! ソウマのドアホ!! 何でライナ残したまま行ってまうんや!! 何で、何でこんなつらい目にあわせなアカンのや・・・!!)
声にこそ出さなかったが、カメキチは今すぐにでも叫びだしたかった。
だが、ライナがいる手前、さらに悲しみを助長するようなことは言えない。
カメキチは、ひたすらライナの背中をなでるしかなかった。

「・・・・・・」
ドンペイは涙を流すのも忘れ、完全な放心状態になっていた。
目の前の現実を受け入れようとしても、ちっとも頭の中に入らない。
しかし、ソウマがもうここにいないことだけは、魂が抜けたようになっていても分かっている。
その様子は、周りから見れば実にいたたまれないものだった。
そして、悲しみはライナ達を通して、徐々にみんなへと広がる。

「父さん・・・。せっかく・・・、せっかくまた会えたのに・・・。ううう・・・、うあああああ・・・!!」
モリゾーはあふれる涙を止めることができなかった。
愛する父を再び失った悲しみは計り知れない。

「ううう・・・。うあああ・・・!」
ゴロスケの方は、ただただ嗚咽を漏らすのみ。
言葉など、浮かぶはずがなかった。

「アニキ・・・、アニキ・・・!」
ソウヤは何度も何度も、アニキという言葉を繰り返している。
今までずっと一緒にいた、大好きで尊敬していた兄を失った。
その事実が、ソウヤには重くのしかかっていたのだ。

「ざけんじゃねえよ・・・。最後までいなきゃいけねえのはアニキ達だって同じだろうが・・・! なのに・・・、何で未来へ行く必要があるんだよ・・・!! バカ野郎・・・、アニキとグラスの大バカやろおおおおお!!!」
最初は涙をこらえていたソウイチだったが、ひざをついて叫んだ時には、もう抑えておけなかった。
その場に突っ伏して、声だけは聞こえないように泣いている。
それが、リーダーとしてのせめてものプライドだったのだ。
みんなはそのまま、しばらく感情のままに身を任せた。
すると、頂上からさっきよりも大きな音が聞こえてくる。

「にじのいしぶねの起動音が・・・」

「大きくなってきた・・・」
みんなは泣くのをやめ、頂上のほうを見た。
と、モリゾーとゴロスケは不意に立ち上がり、じくうホールがあったところに転がっているときのはぐるまを集め始める。

「父さん、ソウマ・・・! きっと・・・、きっと時の破壊を食い止めてみせる・・・!」

「未来をいい世界に変えてみせるよ・・・! 明るい、希望ある世界に!」
二人の涙は乾き、表情にはゆるぎない決意がみなぎっていた。

(だけど・・・、未来を変えると、グラスはともかく、アニキは消えてしまう・・・)

(そして、ソウイチと僕も・・・)
はぐるまを拾う二人の姿を見て、ソウイチとソウヤはそんなことを考えていた。
希望のある世界と引き換えに、自分達は消えてしまうのだから。

「ねえ・・・、ソウイチ、ソウヤ・・・」
二人が振り返ると、いつはぐるまを拾い終えたのか、モリゾーとゴロスケが立っていた。

「ソウマが最後の言った、別れるのがつらいって言葉・・・。ソウマはずっとライナ達と一緒にいて、そしてソウイチやソウヤとも再会できた・・・」

「父さんだって、昔のパートナーの二人や、オイラ達とまた出会えた・・・。でも、二人は別れなきゃいけなかった・・・。きっと、それがつらかったんだね・・・」
二人はソウイチとソウヤに言った。

(それもあるかもしれねえ・・・。でも二人は、オレ達と、モリゾーとゴロスケのことを言ったんだ。いずれ来る、オレ達とモリゾー達との別れを案じて・・・)

(歴史を変えたときに、僕達は消滅する・・・。二人と一緒にいられるのも、この冒険が最後なんだ・・・)
二人はモリゾーとゴロスケを見て思った。
そして、もう泣いている場合ではないということを改めて自覚する。

「行こう! じげんのとうへ! ソウマのためにも、父さんのためにも!」

「ああ!」

「うん!」
モリゾーの言うことに、二人はうなずいた。
悲しみは、時に大きな力へと姿を変える。
そして、いしぶねに乗るためにカメキチ達を呼びに行く。
だが、返ってきた言葉は、みんなの期待を裏切るものだった。

「すまん・・・。行くんは、お前らだけで行ってくれ」
カメキチはライナの背中をなでながら言った。

「な、なんでだよ!? どうせ何だからみんな一緒に・・・」

「ドンペイかてあの調子やし・・・、ライナも当分立ち直れん・・・。このままついて行っても、足手まといになるだけや。そやけん、お前らだけで行きいや」
なんとしても連れて行こうとするソウイチを、カメキチは静かな声で諭した。

「そやけど、行くからには、絶対時の破壊止めて帰ってきいや! 必ず、必ず戻って来いよ!」
そして、力強くみんなに言った。
四人はその思いをしかと受け止め、頂上への階段を昇り始める。
頂上に着いた時には、すでに起動音が最大まで大きくなっていた。
あわてて船の上に乗ると、いしぶねはそれを見計らったかのように静かに動き出す。
下を見ると、カメキチ達の姿が徐々に小さくなっていった。
そして、最後の目的地である、じげんのとうが大きくなり始める。
兄弟、親、そして仲間の複雑な思いを胸に抱き、ソウイチ達は終点を目指して進み始めた。
最後の冒険へと向けて・・・。

 


アドバンズ物語第七十話



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Last-modified: 2011-05-21 (土) 00:00:00
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