ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第六十三話 ほしのていしの真実! ソウイチ兄弟の過去 後編
「グルルルルルルルルルル・・・。」
「ディアルガ様。あのものたちを捕らえる手はずはすべて整っております。そして時がきたら、ディアルガ様のお力も必要になるかと・・・。」
ヨノワールはディアルガに向かって言った。
「グルルルルルルルルルル・・・。」
「・・・かしこまりました。では、予定通りに・・・。」
ディアルガから何か聞き取ると、ヨノワールはその場を離れた。
そして、リーフを追いかけて合流したソウイチ達は、とある森のような場所へ到着した。
家の近所にあるような雑木林だが、ソウイチとソウヤは何かを感じた。
「(・・・なんだ・・・?今の感覚は・・・?)」
「(前にも感じたような・・・。)」
どうやら以前にも感じたことがあるようだ。
「ねえリーフ、ここはどこなの?」
モリゾーとゴロスケは聞いた。
「ここはくろのもり。絶えず黒い霧がかかっているのでそう呼ばれる。」
確かに、入り口を少し入っただけでも、かなり見通しが悪そうだ。
黒の森とは、現実世界でのドイツにあるシュヴァルツヴァルトを意味するが、ここの森は特にもみやぶなではできていないようだ。
「そして、この森の奥深くにセレビィがいるはずだ。」
「そういやさっきも言ってたけど、セレビィって何だ?」
ソウイチはリーフに聞いた。
「セレビィは伝説のときわたりポケモンであり、時間を超える力を使う。まあ・・・、ちょっと変わったやつではあるがな・・・。」
リーフは困ったように頭をかいた。
「変わったやつって・・・、大丈夫なの・・・?」
ソウヤは心配そうに聞いた。
「ああ、その辺は心配するな。とにかく、オレが過去の世界へいけたのも、セレビィの力を借りたからなんだ。」
「じゃあ、そのセレビィに会えば、オイラ達も元の世界へ帰れるってこと?」
モリゾーはリーフに聞いた。
「ああ、帰れる。ただし・・・。」
リーフはそこで口をつぐんだ。
その後に続く言葉を言うのをためらっているようだ。
「ただし・・・、何?」
今度はゴロスケが聞いた。
「セレビィはオレを過去に送ったポケモンだ。つまり、セレビィも歴史を変えることに協力したことになる。」
みんなはそれを聞いて顔色がさっと変わった。
歴史を変えることに協力したとなると、『やみのディアルガ』やヨノワールに狙われているということだ。
「ぐずぐずしている時間はない。準備ができ次第、すぐに出発するぞ。」
リーフはみんなに言った。
みんなは道具を整理するためにガルーラ像の方へ走っていった。
そしてリーフは、ところどころ頭に浮かぶことがあった。
「父さん、オイラも、いつか父さんみたいな探険家になって見せるよ!ゴロスケと一緒にね!」
「そうか。それは今から楽しみだ。強くなれよ、モリゾー。」
「うん!オイラがんばるよ!」
「(またか・・・。時々出てくるモリゾー、そして父さんという名前・・・。)」
そしてリーフは、ふとモリゾーのほうを見た。
以前に、モリゾーが自分のことを父さんと言っていたことを思い出したからだ。
「(オレは、本当はもしかして・・・。・・・いや、その可能性はないな。)」
リーフは頭に浮かぶ考えを打ち消した。
確かにあのキモリはモリゾーという名前だが、自分にはモリゾーの父親だった記憶はない。
記憶を失っているだけかもしれないが、それなら、なぜモリゾーに対してあまり親近感がわかないのか、それがどうしてもわからなかった。
どちらかというと、ソウイチやソウヤのほうに親近感があった。
「(オレはいったい何者なんだ・・・。記憶を失う前のオレは、いったい誰だったんだ・・・。)」
今までは使命感ですっかり忘れていたが、リーフの頭には再びその疑問が浮かんだ。
記憶はないが、断片的によみがえるワンシーン、それが気になって仕方なかった。
「(・・・いまさらオレは何を考えているんだ・・・。ほしのていしを防ぐのに、以前の記憶なんかどうでもいいはずだ・・・。いかんな、オレとしたことが・・・。)」
リーフはまた浮かんだことを打ち消すと、ふっと笑った。
そして、ちょうどソウイチ達も整理を終えて帰ってきたところだった。
「終わったようだな。それじゃあ出発するぞ。」
「あ、ちょっと待って!」
リーフは歩き出そうとしたが、ゴロスケとソウヤが引き止めた。
「どうした?」
「もし、僕達が元の世界に戻れたら、リーフはやっぱり前のように・・・、ときのはぐるまを盗むの・・・?」
ゴロスケはそれが気になってしょうがないようだ。
「・・・ああ、そうだ。そうしないとほしのていしは止められない。」
リーフはゴロスケを見ずに答えた。
「ぼ、僕は!!僕はまだ、リーフのこと完全に信用してるわけじゃないからね!元の世界に帰りたいから一緒に行動してるだけで・・・。」
「お前まだそんなこといってんのかよ!!」
ソウイチはゴロスケの頭をおもいっきりはたいた。
ゴロスケは頭を抱えてうずくまった。
「僕もゴロスケと同じだよ。もしときのはぐるまを盗むことがほしのていしと関係なく、やっぱりリーフが間違ってるようだったら、僕は全力で止めるよ!」
「ちょ、ちょっとソウヤ!」
モリゾーはあわてた。
またしても険悪なムードになりそうだと思ったからだ。
「・・・フン。好きにしろ。だが、今一番大事なのは、お互い無事にまた過去へ行けるかどうかだけだ。だったら今は、それだけに集中しろ。行くぞ。」
リーフは冷淡に言い放つと先へ歩き始めた。
ソウイチは音がしないようにソウヤの頭を殴った。
「(毎度毎度雰囲気を険悪にしやがって・・・!!)」
ソウイチは二人をにらみつけてそんなことを思っていた。
モリゾーはただおろおろしているだけだった。
「(だけど・・・、やっぱりなんか感じるな・・・。)」
「(確か以前にもこんなことがあったような・・・。)」
二人は少し考え、そしてようやく思い出した。
この感覚は、きりのみずうみで感じたのとまったく同じ感覚なのだ。
なぜなのかはわからないが、二人はこの場所を知っていたのだ。
「(でも・・・、なんで・・・。)」
「おい、何やってるんだ!早くしろ!」
二人が考えていると、遠くからリーフの声がした。
「二人とも早く行こう。」
モリゾーとゴロスケは二人を促し、みんなはあわててリーフのところへ走った。
しかし、木の陰から誰かが監視していることには、誰も気付かなかった。
森の中に入ってから、ソウイチ達はリーフの実力に目を見張った。
相性が不利なガーメイルやワタッコをいとも簡単に倒していたからだ。
モリゾーはそこに、グラスの姿を重ねていた。
グラスもまた、相性が不利な相手に対してもいろいろと戦略を練って確実にしとめていたからだ。
そして、覚えている技もグラスとほぼ同じだった。
違うところといえば、つばめがえしではなくあなをほるを覚えているところだろうか。
「だけど、あいつ結構やるな。」
ソウイチはモリゾーに向かって言った。
「うん。本当に父さんそっくりだよ。」
そういうモリゾーの顔は、どこかうれしそうでさびしそうだった。
容姿や言動がそっくりなリーフと一緒にいることがうれしいが、やはり記憶を失っているということで今ひとつ感じが違うのだろう。
可能性を捨てたわけではないが、やはりさっきの話を聞いて、少しあきらめかけている部分もあった。
「モリゾー、お前さっきの話聞いて可能性がなくなったとか思ってないよな?」
ソウイチは突然モリゾーに聞いた。
「え?い、いや・・・、別にそんなことないよ・・・。」
モリゾーはソウイチと目をあわせようとしなかった。
どうやら図星のようだ。
「記憶取り戻すまでわかんねえだろうが。あきらめるのはまだ早いんじゃねえか?」
「うん・・・。そうだよね・・・。」
ソウイチにいわれ、モリゾーも少し元気が出た。
「お~い!二人とも何やってるの?」
「早くしないとヤミラミたちが追いついちゃうよ!」
ソウヤとゴロスケが遠くから二人を呼んだ。
どうやら話しているうちに歩くペースが落ちていたようだ。
「あ、わりいわりい!」
「今行くよ!」
二人は返事をして走り始めた。
しかし、モリゾーは石につまづいておもいっきりころんでしまった。
「おい!何やってんだよ!」
ソウイチは振り返りながら怒鳴った。
「いたたたた・・・。」
モリゾーがぶつけたところをさすりながら立ち上がったそのとき・・・。
「モリゾー!!危ない!!」
突然リーフが叫んだ。
振り返ると、ガバイトがシャドークローを振り下ろすところだった。
「うわあああ!!!」
モリゾーはやられると思い目をつぶった。
しかし、ガバイトの腕が振り下ろされることはなかった。
なんと、リーフがリーフブレードでガバイトと応戦していたのだ。
「り、リーフ!!」
「オレの息子に・・・、手を出すんじゃねえ!!」
その言葉を聞いた瞬間、みんなは息を呑んだ。
一番驚いたのはモリゾーだ。
リーフの口からそんな言葉が飛び出してくるとはおもっても見なかったのだ。
リーフはガバイトを遠ざけると、エナジーボールを腹に打ち込み、再びリーフブレードでガバイトを吹き飛ばした。
ガバイトは木に頭をぶつけて気を失ってしまった。
「モリゾー、けがはないか?」
「う・・・、うん・・・。」
モリゾーは唖然とリーフを見つめていた。
モリゾーの目に映っていたのは、父、グラスの姿だった。
「よし。とにかく、先を急ぐぞ。」
リーフは再び歩き始めた。
モリゾーはしばらく後姿を眺めていたが、やがて意を決したようにリーフを呼んだ。
「ぐ・・・、グラス父さん・・・!」
モリゾーは、リーフが返事をしてくれることを期待したが、予想は外れた。
「だから・・・、オレはお前の父親じゃないといっただろう。オレはこの世界で育ち、お前は過去の世界で育った。どうして親子のつながりがあるんだ?」
リーフはモリゾーを軽くにらんだ。
しかし、みんなはさっきの言葉を聞いていたのでリーフに反論した。
「ちょっと待てよ!さっき息子に手を出すなとか言ってたじゃねえか!あれは何なんだよ!?」
ソウイチはリーフに怒鳴った。
「息子・・・?」
リーフは自分の言ったことに対して自覚がなかった。
記憶の糸をたどろうとした瞬間、突然リーフの視界が揺らぎ、その場にひざをついた。
激しい頭痛が襲ってきたのだ。
「ぐおおおおお・・・!」
「お、おい!どうしたんだよ!?」
「しっかりして!」
みんなはリーフにあわてて駆け寄った。
リーフの頭の中には、ある映像が映し出されていた。
「バーニー・・・、お前は二人を連れて早く逃げろ・・・!オレのことはいいから、早く逃げるんだ!!」
「そんな!大事な親友をほっていけるわけないじゃないか!!」
「バカ野郎!!このまま第二波がきたらみんな埋もれちまうんだぞ!?」
「・・・わかった・・・!」
「いやだ!!父さん!!とうさあああああん!!」
「モリゾー・・・。強くなれよ・・・。」
そこで映像は終わった。
それと同時に頭痛も治まった。
「(な、なんだ・・・?今のは・・・?)」
リーフはきょろきょろと辺りを見回し、そしてモリゾーとゴロスケを見た。
「(さっきの映像・・・、小さかったがこの二人がいた・・・。そして、モリゾーがオレを見て叫んでいた父さんという言葉・・・。いったいどうなってるんだ・・・。)」
リーフは混乱した。
今までにまったく覚えのない映像がよみがえってきたからだ。
「ねえ・・・、大丈夫・・・?」
ソウヤが心配そうに声をかけた。
「あ・・・、ああ。大丈夫だ・・・。行くぞ。」
リーフは立ち上がると、再び歩き始めた。
みんなは少し心配だったが、本人が大丈夫だというのでそれ以上はしつこく聞かなかった。
「(オレは・・・、あいつの父親なんだろうか・・・。)」
リーフは、そのことが頭から離れなかった。
そしてみんなは森を抜け、セレビィがいるというくろのもりの奥地へやってきた。
「ここに、セレビィがいるの・・・?」
ゴロスケが聞いた。
「ああ。前に出会ったのも、確かこのあたりだった。」
リーフはあたりを見回した。
「もし『やみのディアルガ』にこの場所を知られていたら、セレビィはもうここから逃げているだろうが・・・、まだ知られてないようなら、セレビィはまだいるに違いない。」
リーフはみんなに言った。
「お~い!セレビィ!オレだ!リーフだ!いるなら姿を現してくれ!」
リーフは大声で叫んだが、あたりはしんと静まり返っていた。
誰の気配もしない。
「でてこないね・・・。もう逃げちゃったのかな・・・。」
モリゾーは不安そうだ。
「まさかつかまったりしてねえだろうな・・・。」
「つかまるですって?」
ソウイチがつぶやくと突然あたりから声がした。
みんなはキョロキョロと見回したが、誰かがいる気配はしなかった。
「気のせい・・・、かな・・・?」
「ウフフ!気のせいじゃないわ!」
みんながそう思ったとたん、また声がした。
「私がつかまるですって?失礼ね!私がつかまるなんて、絶対ありえないわ!ウフフ!」
すると、みんなの目の前にピンク色のポケモンが姿を現した。
「お久しぶりです。リーフさん。」
「ああ。久しぶりだな、セレビィ。」
二人はお互いに挨拶を交わした。
「ええええええ!?こ、これがセレビィ!?」
みんなは二人の会話を聞いて驚いた。
このピンク色のポケモンこそがセレビィだったからだ。
「ちょっと~、あなた達ね~。私あなた達にこれ呼ばわりされる筋合いはないんだけど・・・?」
セレビィはむっとしていった。
「あ・・・、ご、ごめんなさい・・・。」
「時間を超える力を持ってるっつうからすっげえの想像しててさ・・・。」
四人は素直に謝った。
「失礼ね。見た目で判断するのはよくないわよ。」
セレビィはそっぽを向いた。
みんながまた謝ろうとすると、急にセレビィはウフフと笑った。
「でも、許してあげる。だってそれって、私が思いのほかかわいくて、特別ってことでしょ?」
「え・・・。」
みんなはセレビィの言うことに唖然とした。
そんな解釈をするとは本当に予想外だったのだ。
そして、ナルシスト成分が含まれる返答にどう答えていいか分からなかったのだ。
「(こいつでほんとに大丈夫なのか・・・?)」
「(なんか心配になってきた・・・。)」
ソウイチとソウヤはセレビィに聞こえないようにひそひそと話した。
「セレビィ、また力を貸してほしいんだ。」
リーフは浮かれているセレビィに向かって言った。
「わかってます。こうやってリーフさんがまたやってきたってことは、過去の世界で失敗したから戻ってきたんでしょ?」
「うぐ・・・。まあ、それはそうだが・・・。」
リーフは痛いところをつかれて顔をゆがめた。
「しっかりしてくださいよね。私もう嫌ですから。こんな暗い世界で生きていくのは、もう・・・。」
セレビィは少し暗い顔になった。
「悪いが無駄口を叩いている時間はないんだ。ヤミラミに追われている。早く行かないとここにも迷惑をかけてしまう。」
「ウフフ!大丈夫ですよ。心配しないで。私、ヤミラミが来たってどうってことないですから。」
リーフが言うと、セレビィは元の表情に戻った。
「それに、もしほしのていしを食い止めることができて、この暗黒の世界が変わるなら・・・、私も、命をかけてリーフさんに協力します。」
セレビィは真剣な表情でさらに言った。
「(命を・・・、かけて・・・?)」
「(どういうことだ・・・?)」
ソウイチとソウヤはそこが妙に引っかかった。
まるで、自分が消えてしまうような風に取れたからだ。
「それで・・・、ときのかいろうは?」
「はい。近くにあります。この森を越えた高台の上に、ときのかいろうはあります。」
「よかった。早く案内してくれ。」
リーフはほっとしたようだ。
「はい!今回ときのかいろうを渡るのは、この五匹ですか?」
「ああ。そうだ。」
セレビィに聞かれ、リーフはうなずいた。
すると、セレビィは不意に、ソウイチとソウヤのほうをじっと見つめた。
「(え・・・?)」
「(な、なんだ・・・?)」
二人はいきなり見つめられてとまどった。
「いえ・・・、まさかね・・・。」
セレビィは意味ありげなセリフをつぶやいた。
「どうしたんだ?セレビィ。」
リーフが聞いた。
「ううん。なんでもないです。ではみなさん。いきましょう、ときのかいろうへ。」
セレビィの先導で、みんなはときのかいろうへ向かって歩き始めた。
モリゾーは、リーフに気になったことをたずねた。
「ねえリーフ、ときのかいろうってなんなの?」
「ときのかいろうは、セレビィのときわたりに使われる回廊で、時空を超えることができる秘密の道だ。」
「小さなときわたりだけだったら、私でもいけるんだけど、時代を大きく超えるようなときわたりは・・・、ときのかいろうを使わないといけないの。」
リーフとセレビィはみんなに説明した。
「じゃ、じゃあ、僕たちもその回廊を通れば・・・。」
ゴロスケの目が輝いた。
「ああ。過去へ戻ることができる。」
みんなはそれを聞いて元気が出てきた。
ようやく一筋の光が見えてきたからだ。
「あ!見えてきました!」
突然セレビィが叫んだ。
ようやく入り口が見えてきたようだ。
「あそこが高台に通じる入り口です。ときのかいろうはあそこの上にあります。」
セレビィは上を指差していった。
よく見ると、入り口の近くにはアーチ型の看板が倒れており、看板には、「緑地公園」とかかれてあった。
前はどうやら公園だったようだが、今ではすっかり不思議のダンジョンに侵食されているせいか、公園の面影は全くない。
ソウイチ達は道具の整理を終えると、すぐに高台に向けて出発した。
こんどはセレビィも加わったからか、かなり楽に進むことができ、予定の時間よりも早く上に到達することができた。
「あ!見えてきました!あそこです!」
セレビィは前のほうを指差した。
なにやらアーチ型のものが見えている。
「あれがときのかいろうか?」
ソウイチが聞いた。
「そうだ。あれがときのかいろうだ。あそこを通ってオレは過去に行ったんだ。」
リーフは言った。
いよいよ過去の世界にもどる時が来た。
「ときのかいろうの扉をあけられるのはセレビィだけだ。早速扉を開けてくれ。」
リーフはセレビィに言った。
「はい。」
セレビィが扉を開けようと回廊に近寄ろうとしたそのとき・・・。
「待て!そこまでだ!!」
突然声がした。
「こ、この声は・・・。」
「まさか・・・!!」
みんなの予想は的中した。
ときのかいろうへの進路を阻むかのようにヨノワールがたっていたのだ。
「お前たち、久しぶりだな。」
「よ、ヨノワール!」
リーフは目を見張った。
「ヨノワールさん・・・。」
ソウヤとゴロスケは複雑な顔をした。
「ようやく悪党のお出ましってわけか!」
ソウイチは腕をぽきぽき鳴らした。
モリゾーは無言でその場にたたずんでいる。
「大分逃げ回ったようだが、残念ながらもうおしまいだ。」
ヨノワールがみんなに近づくと、それを合図のようにヤミラミたちが周りを取り囲んだ。
もう逃げることはできない。
「フン。そういうことか、ヨノワール。オレ達をわざと泳がせて、セレビィまでとらえたかったってことか・・・。」
リーフはヨノワールの目を見据えていった。
「ええええ!?ってことは、僕達ずっとあとをつけられてたってこと!?」
ソウヤはびっくりした。
そんな気配はまったくなかったからだ。
「フン。こんなことになるとはな・・・。悪いな、セレビィ。」
リーフはセレビィに謝った。
「あら?謝るなんてリーフさんらしくないですよ。それに、私が捕まると思います?ウフフ!」
セレビィはまったく気にしていないようだ。
「お前達!戦う準備はできてるか!?」
リーフは四人のほうを向いた。
「え!?あ、も、もちろん!」
「いつでもバトれるぜ!」
みんなは戦闘態勢に入った。
「ここは強行突破するぞ!あいつらを蹴散らし、ときのかいろうに飛び込む!」
リーフもリーフブレードを構えた。
しかし、ヨノワールは余裕の笑みを浮かべていた。
「フッ、抵抗するのか?無駄なことはやめろ。お前達に勝ち目はない。」
ヨノワールは冷徹に言い放った。
「そんなこと、やってみなければわからない!ヨノワール!お前が相手だろうがな!」
リーフは一歩も引かなかった。
すると、ヨノワールは急に真顔になった。
「リーフ。ここに来たのは私だけだと思っているのか?」
「な、何!?」
「ディアルガ様。」
ヨノワールがその名を呼ぶと、急にあたりが暗くなった。
そして・・・。
グオオオオオオォォォォォーーーーーーッ!
突然あたり一面に不気味な鳴き声が響き渡った。
そして、山の高台に姿を現したのは、普通とは色の違う、やみのディアルガだった。
「でえええええ!?」
「わあああああ!!」
「あ、あれは!!」
みんなびっくりだ。
まさか親玉のディアルガが降臨するとは予想すらしていなかったのだ。
「リーフ!あれはいったいなんなの!?」
モリゾーはリーフに聞いた。
「あれは・・・、やみの・・・、ディアルガだ・・・。」
「えええええ!?」
みんなはリーフの発言でさらに衝撃を受けた。
「あ、あれが・・・。」
「オレ達を捕まえようとしてる親玉かよ・・・。」
あまりの威圧感と存在感に、みんなの士気は大方吹き飛んでしまった。
「どうした?リーフ。さっきの威勢のよさは?」
ヨノワールはリーフに言った。
「ぐっ・・・。」
リーフの顔にはあせりの表情が浮かんでいた。
「リーフさん・・・。」
セレビィも心配そうだ。
「・・・くそお・・・。もはやここまでか・・・。」
リーフの口から始めて弱音が漏れた。
すでにあきらめに表情も広がり始めていた。
「な、何言ってんだよ!!戦うんじゃなかったのかよ!?」
ソウイチはリーフに向かって怒鳴った。
「む、無理だ・・・。ヨノワールだけならともかく、ディアルガが相手ではとてもかなわない・・・。お前達もよくがんばってきたが・・・、すまないな・・・。ここでおしまいだ。」
リーフは完全にあきらめてしまっていた。
ディアルガを目の当たりにして怖気づいてしまったのだろうか。
「じょ、冗談じゃないよ!!」
「ふざけんじゃねえ!!こんなところで終わってたまるか!!」
みんなは猛反発したが、リーフの気持ちが変わることはなかった。
「降参だ、ヨノワール。好きにしろ。」
リーフは両腕を高く上げて降参の意を示した。
「お、おい!!」
「リーフさん!」
みんなはリーフらしからぬ行動に戸惑うばかりだった。
「どうしたリーフ。お前にしてはやけに諦めが早いな。」
ヨノワールは言った。
「まあな。確かにオレはあきらめたが、しかし・・・、まだ希望はある。セレビィも知っていると思うが、あの時、ほしのていしを食い止めるために過去に行ったのはオレだけじゃない。もう二人いる。」
「ええええ!?僕達の世界に行ったのはリーフだけじゃなかったの!?」
モリゾーとゴロスケは飛び上がった。
「そうだ。オレには相棒がいた。オレはそいつらと一緒に過去へ向かったんだ。」
みんなはただただ驚くしかなかった。
リーフ以外に、もう二人別の人物がいたとは思わなかったのだ。
「ただ、ときのかいろうを通っているときにトラブルがあり、オレ達は互いにはぐれてしまった。あいつらは、まだ過去の世界にいるはずだ。だから、たとえオレがいなくなっても、あいつらがきっと、オレのかわりに使命を・・・、ほしのていしを食い止めてくれるに違いない。」
みんなはリーフの話しを黙って聞いていた。
すると、突然ヨノワールが笑い始めた。
「な、何がおかしい!?」
リーフはヨノワールをにらみつけた。
「フッ、お前のほかにも過去に行ったやつらがいると言うが、ちなみにそいつらの名前は?そいつらの名前を言ってみろ。」
ヨノワールは挑発的に言った。
「聞いてどうするんだ?」
「なんだ、いえぬのか?」
ヨノワールはニヤニヤ笑うばかりだ。
「そんなことはない。名前は・・・、ソウイチとソウヤ。オレの親友だ。」
「な、なんだって!?」
みんな仰天した。
リーフの口から二人の名前が出てくるとは予想外だったのだ。
「リーフ!ソウイチとソウヤって言った!?ここにいるヒノアラシとピカチュウがソウイチとソウヤだよ!!」
モリゾーとゴロスケは言った。
「なんだと!?・・・お前達が・・・、ソウイチと、ソウヤ・・・?」
一番衝撃を受けたのはリーフだ。
まさか今まで行動をともにしていたのが、過去へ行ったとばかり思っていた相棒だからだ。
「・・・いや、違う。オレの知っているソウイチとソウヤは人間だ。ポケモンじゃない。」
「えええええ!?」
またしてもみんなは驚いた。
「ワハハハハハハハ!そのとおりだ!リーフよ!そこにいるのはソウイチとソウヤで間違いない!」
「なにい!?」
「そいつはもともと人間だったのだ!」
「な、なんだと・・・!?」
今度はヨノワールに言われてリーフが驚く番だった。
本当に、この二人が自分の知っているソウイチとソウヤだったからだ。
それからヨノワールは、ディアルガが過去に行ったソウイチ達を消すこと、ソウイチのじくうの叫びのこと、記憶がないことを聞いて、追いかけていた二人だと言うことを確信したと言うことを話した。
記憶がないのはちょうどよく、信用させておくことでいつでも未来へ連れて行くことができたのだ。
ヨノワールは、最初から四人を利用していただけだったのだ。
「(そうか・・・。オレがこいつに感じてた嫌な予感はこのことだったのか・・・!やっぱり直感も捨てたもんじゃねえな・・・!)」
ソウイチはヨノワールの話を聞きながらそんなことを考えていた。
「(僕とソウイチが、リーフとともにほしのていしを食い止めるために、過去の世界に行った相棒・・・?)」
逆に、ソウヤはヨノワールの言うことが信じられなかった。
記憶がないのだから、仕方ないといえば仕方ないのだろう。
「リーフ、ソウイチ、ソウヤの三匹は今ここにいる。お前達を倒せばすべてが終わる。リーフ、お前のはかない希望も含めてな!ハハハハハハハ!!」
ヨノワールは高らかに笑った。
自分の勝利を確信するかのように。
「ううう・・・、ヨノワールさん・・・。いや・・・、ヨノワール!!」
「よくも僕達をだましたな!!」
ソウヤとゴロスケも、ヨノワールに怒りの目を向けた。
ようやく吹っ切れたようだ。
「覚悟はできているようだな・・・。消えるがよい!これが・・・、お前達の最後だ!!」
ヨノワールはヤミラミたちに指示を送り、攻撃の態勢に入った。
「くそお・・・!!」
ソウイチは奥歯をかみ締めた。
「みんな!あきらちゃだめだ!!」
「まだ全部終わったわけじゃないよ!!」
モリゾーとゴロスケはみんなに言った。
まだ希望を捨てたわけではない。
「くっ・・・、あきらめるなというが、この状況をどうしろというんだ!?」
リーフは打つ手なしといった感じで言った。
「そ、それは・・・。」
「おいおい。作戦が思いつかないなんて、お前らしくないな。」
二人が返答に詰まったそのとき、ふいに声がした。
「だ、誰だ!?」
ヨノワールは辺りを見回した。
「過去の世界へ行ったのは、ソウイチとソウヤだけじゃねえ。そう、このオレもその一人だ!」
その声の主は岩陰から姿を現した。
それは、なんとソウマだった。
「あ、アニキ!?」
「そ、ソウマ!?」
ソウイチ達はびっくりした。
まさかソウマが現れるとは思ってもいなかったのだ。
「ヨノワール、オレを忘れてもらっちゃ困るな。」
ソウマはヨノワールに向かって言った。
ヨノワールのことにはソウマに話していないはずなのに、なぜソウマはヨノワールのことを知っているのだろうか。
「(そ、ソウマだと・・・!?だが・・・、ソウマは6年前に行方不明になっていたはず・・・。まさか、ソウイチ達と同じようなことに・・・。くっ!私としたことが、やはり始末しておくべきだったか!)」
「(ソウマ!?しかしソウマは、6年前に過去の世界へ行ったまま行方不明に・・・。まさか、ソウイチ達と同じように、記憶を失ってポケモンの姿になったまま生きていたのか!?)」
ソウマの登場は、リーフにも、ヨノワールにさえも予想できていなかったのだ。
ソウマは悠々とこっちへ歩いてきて、ヤミラミを押しのけソウイチ達に合流した。
「な、何でアニキがここにいるんだよ!?」
ソウイチはそれが気になってしょうがなかった。
「理由は後だ!それよりセレビィ、ときわたりでときのかいろうに飛び込むことはできるか!?」
ソウマはセレビィに聞いた。
「ディ、ディアルガがいるから難しいわ・・・。ディアルガはじかんポケモン、ときわたりを使ってもすぐ破られてしまう・・・。」
セレビィは見ず知らずのバクフーンに聞かれとまどったが、すぐに返事をした。
「ちょっとの間で大丈夫だ!少しの間でも時間が稼げればいい!早く!」
「わかったわ!ときわたり!」
セレビィはソウマにせかされときわたりを使った。
ほかのみんなはわけがわからないままその場から消えた。
「き・・・、消えた!?ディアルガ様!!」
ヨノワールはディアルガのほうを仰いだ。
ディアルガは鳴き声を上げ、すぐさまときわたりをやぶった。
「チッ・・・。予想より早かったか・・・!」
ソウマは舌打ちした。
「あそこだ!捕まえろ!!」
ヨノワールの号令でヤミラミ達が走ってきた。
「今飛び込めば間に合うわ!さあ!早く!」
セレビィはみんなに向かって言った。
「せ、セレビィはどうするの!?」
ソウヤとゴロスケは聞いた。
「私なら大丈夫!絶対につかまらないって言ったでしょ!?」
セレビィはヤミラミたちのほうに向き直り、そして言った。
「必ずほしのていしを・・・、歴史を変えてね!」
「すまない!」
「ありがとな!セレビィ!!」
みんなはセレビィに礼を言うと、急いでときのかいろうに飛び込んだ。
ヤミラミ達がもう少しで届くというそのときに、ときのかいろうは閉じた。
そしてみんなは、不思議な空間の中を落ちていった。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。
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