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アドバンズ物語第五十話

/アドバンズ物語第五十話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第五十話 ソウイチとソウイチ!? 怪盗メタモンの罠! 後編


そのころ、ソウイチはカクレオン達にぐるっと囲まれていた。
もう逃げ場はどこにもない。

「やっと見つけましたよ!!ソウイチさん!!」

「さあ、なんでこんなことをしたのか話してもらおうか!!」

「いったいなんで町を破壊したりしたんだ!!オレ達に何のうらみがあるんだよ!!」
みんなかんかんだ。

「・・・ハハハハハハ・・・。」
突然ソウイチは笑いだした。
みんなは一瞬びっくりしたが、すぐにまたソウイチを見据えた。

「な、何がおかしいんですか!!」
カクレオン弟が言った。

「おかしくもなるさ・・・。今までずっとギルドで寝てたのに、お前らやソウヤ達にまで疑われて・・・。オレってそんなに普段から信用ねえか・・・?なあ、どうなんだよ!!!」
ソウイチはとうとうたまっていた思いを爆発させた。
目は心なしか潤んでいた。

「ふざけたこと言うんじゃねえ!!お前以外に、マグマラシのような目をして、頭に青いバンダナを巻いてるヒノアラシがどこにいる!!」
エレキブルが額に青筋を立てて怒鳴った。

「そうかよ・・・。じゃあ、好きにしろよ・・・。もう、どうでもいいや・・・。」
そう言うとソウイチは、みんなの前に寝転がった。
精神的に追い詰められ、変な部分が吹っ切れたのだろう。

「よし、じゃあ早速ジバコイル保安官のところへ・・・。」
リングマがソウイチを縛りあげようとすると・・・。

「お前ら!何やってんだ!!」
みんなが振り返ると、そこにはソウマがいた。
薬草を取ってきた帰りにこの騒ぎを聞きつけたせいか、手には薬草を握っていた。

「あ、ソウマさん・・・。」
カクレオン兄弟はばつの悪そうな顔をした。

「オレの弟に何しようとしてんだ!!」
ソウマはみんなを押しのけてソウイチをかばいに入った。
しかし、みんなの目線は冷ややかだった。

「こいつが町を破壊したうえに、品物やお金を盗んで逃げたから問い詰めてたんだよ。さっき観念したところさ。」
リングマが説明した。

「ソウイチが・・・?そんなバカな!!オレの弟に限って、そんなことするわけねえだろ!!」
ソウマは猛反発した。

「でも、あれは確かにソウイチさんでしたよ・・・。こんな特徴のあるヒノアラシなんてソウイチさん以外にいます?」
カクレオン兄弟が声をそろえて言った。

「ソウイチ、どうなんだ?本当にお前がやったのか?」
ソウマはソウイチに聞いた。

「別にどうでもいいよ・・・。どうせ誰もオレのことなんか信じちゃくれねえ・・・。」
ソウイチはうつろな目でソウマを見た。

「お前・・・、何言ってんだ!!そんなわけあるか!!」
ソウマは信じられなかった。
普段のソウイチならば言わないようなことを、今は平気で口にしている。
明らかに尋常ではない。

「アニキだって、心のどっかではオレがやったんじゃないかって思ってんだろ・・・?」
その言葉を聞いた瞬間、ソウマはソウイチの胸倉をつかんだ。

「そ、ソウマさん!!」
ヨマワルはやめさせようとしたが、ソウマの目を見ると何も言えなくなった。
ソウマの目は、怒りと悲しみに満ちていた。

「お前・・・!自分が何言ってるかわかってんのか!?」
ソウマはソウイチを真っ向からにらみつけた。

「十分わかってるよ。どいつもこいつもオレの存在が邪魔なんだよ・・・。町のみんなも、ソウヤ達も・・・。」
ソウイチは相変わらず感情のこもらない声で言った。

「ふざけてんじゃねえ!!いったいどうしたんだよ!!」

「いったいどうしただ?見てわかんねえのかよ!!町のみんなから信用失って、ソウヤたちからも拒絶されて!!これ以上どうしろってんだよ・・・。」
ソウイチは感情を爆発させた。
目にたまった涙は、今にもこぼれ落ちそうだった。

「大体アニキはどうなんだよ・・・?信じられんのか?オレのこと信じられんのかよ!!」
すると、ソウマは乱暴にソウイチを突き放した。

「オレがお前を信じてないと思うか!?見損なうんじゃねえ!!」
ソウマはソウイチに怒鳴った。
ソウイチはそのまま呆然となった。
すると、ソウマはソウイチに近づいていった。
みんなはどうなることかとはらはらしていたが、ソウマの行動は予想だにしないものだった。
なんと、ソウイチをぎゅっと抱きしめたのだ。

「弟のことが信用できねえでどうするんだよ。確かに、羽目をはずしたりふざけたりするところもあるけど、仲間に心から悪口を言ったり、誰かを傷つけたりはしねえ。それはオレが一番よく知ってる。誰がなんと言おうと、オレはお前のことを信じる。」
ソウマは力強く、ソウイチの目を見ながら言った。
すると、とうとうソウイチの目から涙がこぼれた。
大勢の人の前では絶対に泣かなかったソウイチだが、今は悲しみをこらえ切れないのだろう。

「つらかったんだな。へんな疑いかけられて。」
ソウマは優しくソウイチの頭をなでた。

「う・・・、うう・・・、うわあああああああ!!!」
ソウイチはソウマの体に顔をうずめると泣き出した。

「思いっきり泣け。泣いて全部洗い流しちまえ。」
ソウマはソウイチの頭をなで続けた。
その間、ソウイチはずっと胸に顔をうずめて泣き続けた。
しばらくして、ようやくソウイチは泣きやんだ。
心の中のもやもやをすべて吐き出したようだった。

「でもソウマさん、誰がどう見てもあれはソウイチさんでした。ソウイチさんじゃないってどう説明するんです?」
カクレオン兄が聞いた。

「世の中には、何人か似てるやつだっている。そっくりなやつがまったくいないわけじゃないだろ?」
ソウマは言った。
しかし、それはあくまでも人間の世界でのこと。
ソウイチ以外に、あれほど特徴を持ったヒノアラシなど、この世界に存在するのだろうか。

「確かにそうですけど・・・。」
カクレオンが口ごもったそのとき・・・。

「お~い!!ソウイチを捕まえたぞ~!!」

「えええええ!?」
みんな飛び上がった。
何せソウイチはここにいるのに、またソウイチがつかまったと聞いたら誰だって驚くだろう。

「ほら、さっさとこい!!」
ザングースは首根っこをつかんでそいつを引きずっていた。

「放せ!!放せてめえ!!!」
誰もが唖然とした。
それはどこからどう見てもソウイチそのものだったからだ。
ソウヤのマントを羽織っているかいないかが唯一の違いだろう。

「ん?」

「え?」
二人のソウイチは顔を見合わせた。
一方は本物、もう一方は怪盗メタモンの化けた偽者なのだ。

「お、オレがもう一人いる・・・?」
本物のソウイチはびっくりした。
ここまでそっくりなら誰だって見間違えるはずだ。
まさにクローンだ。

「おい、お前らが見たソウイチっていうのはこいつじゃねえのか!?」
ソウマはみんなに聞いた。

「ここまで似てたら区別がつかねえよ・・・。どっちが本物なんだ・・・?」
リングマは頭をひねっていた。

「確か、右のほうだったような・・・。」

「いやいや、きっと左ですよ。」
みんな記憶があやふやでどっちがどっちかわからない。

「オレが本物だ!!」
と、偽者。

「嘘つけ!!お前のほうが偽だろうが!!」
と、本物。

「だいたい、マント羽織ってねえお前が何で本物なんだよ!?」

「そっちがオレから奪ったからだろうが!!この偽者!!」

「なんだと!?」

「やるか!?」
二人は真っ向からお互いをにらみつけた。
すると・・・。

ぎゅううううう!!!

ソウマが二人の鼻をおもいっきりねじり上げたのだ。
ねじれた様子は綱引きの綱のようだ。

「ぎゃあああああ!!!痛い痛い痛い!!!!」
反応もまるで同じだった。
二人は痛みから解放されようと激しく身をよじった。

「ややこしくなるからけんかするんじゃねえ!!どっちが本物かはオレが決める!!カクレオン!!」
ソウマは突然カクレオン兄に向き直った。

「は、はい!!なんですか・・・?」
カクレオンはおずおずと聞いた。

「クラボの実を二つ持ってきてくれ。」
ソウマは言った。

「いったいそれで何を・・・。」

「いいから持ってこい!!!」
カクレオン兄が言い終わらないうちにソウマはすごい剣幕で怒鳴った。

「ひえええ・・・。わ、わかりました・・・。あるかどうかわからないけど・・・。」
カクレオン兄は足早にクラボの実を取りに行った。
あんなに怖い顔のソウマはみたことがなかった。
そして数分後、カクレオン兄はクラボの実を持って帰ってきた。

「ありがとな。これで本物か偽者かはっきりする。」
すると、ソウマはいきなり、クラボを二人の口の中へ投げ入れた。

「こんなもん食わせて何しようってんだよ?ほんとにわかるのか?」
右のソウイチは平然としている。

「むぐぐぐ・・・・・・!!!ぶほおおおおおおおお!!!」
左のソウイチはひっくり返ってしまった。
そう、クラボの実は辛いのだ。

「今ので本物が分かった。本物は・・・、左だ!!偽者は右のほうだ!!」
ソウマはびしっと右のソウイチを指差した。

「な、なんでそんなことで分かるんだよ!!」
右のソウイチは反発した。

「知らねえのか?ソウイチは辛いものが苦手なんだよ!!だからクラボの実は、どうしてもって時以外は食べないのさ!!」
ソウマは自信たっぷりに言った。

「そ、そうだったのか・・・。」
偽者は思わずつぶやいた。

「そうだったのか・・・?」
みんないっせいに繰り返した。

「し、しまった!!」
自ら墓穴を掘ってしまった偽者、いや、怪盗メタモンだった。

「どうやら今のではっきりしたようだな。まんまとオレの弟そっくりに化けたつもりだったみたいだが、好みまでは分からなかったみたいだな!」
ソウマはメタモンににじりよる。

「オレの弟をひどい目にあわせて・・・、ただで済むと思うなよ・・・?」
ソウマの目は怒りに燃えていた。
声は恐ろしく低く、どすが利いていた。

「私たちの店を壊したこと!!」

「ルリリを傷つけたこと!!」

「品物を盗んだこと!!」

「今この場で償ってもらう!!」
みんなはメタモンを取り囲み、いっせいに殴りかかろうとしたが・・・。

「みんな!ちょっと待ってくれ!!」
なんと、みんなを止めたのはソウイチだった。
みんなびっくりしてソウイチのほうを見た。

「これはオレとこいつの問題だ。みんなは手を出すな。」
ソウイチはみんなを見回して言った。

「だ、だけど・・・!!」
他のみんなは不服そうだ。
ようやく犯人をやっつけられるというのに、それを邪魔されたからだ。

「みんながこいつをぼこりたい気持ちは分かる。だけど、それじゃあオレの気がすまねえんだ。こいつが化けたのはオレだ。落とし前は、オレがつける!!」
ソウイチの言葉に、みんなは何も言えなかった。
みんな以上に、一番つらい思いをしたのはソウイチだ。
それが分かっていたのだ。

「わかった・・・。お前の好きなようにしろ。」
ソウマはソウイチに言った。

「ありがとな。あ、それと、これ預かっててくれねえか?戦ってるときに破いたりしたらソウヤに悪いからな。」
ソウイチはマントを脱ぐとソウマに手渡した。

「わかった。でも、絶対負けんなよ!!」

「ああ!こんなやつ、軽くひねりつぶしてやるぜ!!」
ソウイチはしっかりと答えた。

「かかってきなよ。その弱った体でどこまで戦えるかみものだぜ。」
メタモンは余裕たっぷりに言い放った。

「てめえみたいな悪人に、オレは絶対に負けねえ!!」
ソウイチはメタモンをにらみつけた。
いよいよ、一騎打ちが始まる。


「二人とも急いで!!早くみんなに知らせなくっちゃ!!」
ソウヤ達はギルドを飛び出し、ひたすら海岸を目指して走っていた。

「どうしよう・・・。もっと早く気付いてれば・・・。」
ソウヤはまだ真っ青だった。
他の二人もすごく不安そうだ。
自分達のせいで、ソウイチを深く傷つけてしまったのだから。
走りに走ると、ようやく海岸が見えてきた。

「あ!みんな集まってるよ!」
モリゾーが言った。
みんなは気付かれないようにこっそりと後ろに回った。
何人かは気付いたみたいだが、ソウヤは指を口に当てて黙っているように合図した。
あんなことがあったから、ソウイチに顔を見せたくないのだろう。
三人は隙間からこっそり顔を出した。

「見て!ソウイチがいる!しかも二人・・・。」
ソウヤは二人に言った。

「どっちが本物なんだろう・・・。」
二人とも顔を見合わせるばかりで結論が出ない。
ソウヤは二人をじっと観察して、左が本物だと思った。
出会ったソウイチが偽者だとすると、本物のソウイチは風邪を引いている。
左は右より多少顔が赤く、息づかいが荒い。
隠してはいるものの、よく観察すれば分かることだ。

「ああ、その通りだ。本物のソウイチは左だよ。」
エレキブルがこっそり耳打ちした。
ソウヤの観察眼はかなりのものだ。

「さ~て、それじゃあさっさと決着を・・・。」
いきなりソウイチは吹っ飛び、砂浜に叩きつけられた。
メタモンが不意打でとび蹴りをかましたのだ。

「ああ!卑怯だぞ!!」

「正々堂々戦え!!」
一斉に周辺から野次が飛んだ。

「勝負っていうのは勝つか負けるか。勝ったものが全てだ。」
メタモンは群集をにらみつけて飄々と言い放った。
しかし、そのすきを突いてソウイチもパンチをお見舞いし、メタモンは海の中へ吹っ飛んだ。

「勝ったものが全てなんだろ?これでおあいこだな。」
しかし、いつものソウイチよりは切れがいまいちだった。
威力も弱めだった。

「て、てめえ!!」
メタモンは逆上してソウイチにとびかかった。
ソウイチはさっとよけたが、風邪のせいでメタモンよりはすばやさが劣っていた。
すぐにメタモンの回し蹴りをくらい、そのまま吹っ飛ぶ。
メタモンは間髪をいれずソウイチの腹を踏みつけて動けなくした。

「うがああああああ!!」

「おらおら!さっきまでの威勢はどうした?本物さんよ!!」
メタモンは執拗にソウイチの腹をぐりぐりと踏み続ける。
ソウイチは痛みでもがいたが、思ったように体に力が入らない。

「ソウイチどうしたの!?やられちゃうよ!!」
モリゾーは叫んだ。

「まさか・・・、風邪のせいで力が出ないんじゃ・・・。」
ゴロスケは顔面蒼白になった。
しかし、いつまでもやられているわけにはいかない。
ソウイチは力を振り絞って両足でメタモンを蹴った。
メタモンはもんどりうって転がり、ソウイチはそこにだいもんじを浴びせる。
しかし・・・。

「なんだ・・・。本物の実力もたいしたことないな。」
メタモンは平気な顔をしてその場に立った。
ほのお同士で効果はいまひとつ、その上普段以上に力が出ていなけば、ダメージが少ないのも当然だ。

「くそお・・・。やっぱりきかねえか・・・。」
ソウイチはギリリと奥歯をかんだ

「今度はこっちの番だ!かえんぐるま!!」
メタモンは目にも止まらぬ速さでかえんぐるまを繰り出した。
ソウイチはよけられずかえんぐるまはクリーンヒット。
風邪のせいでダメージは通常より高い。

「(ソウイチ・・・、勝てるのか・・・?)」
ソウマは真剣そうにソウイチを見つめていた。
余裕なメタモンに対して、ソウイチはほとんどふらふら。

「くっそお・・・!調子乗ってんじゃねえぞてめえ!!」
ソウイチはたいあたりでフェイントをかけて、メタモンの背後からだいもんじを食らわせた。
それでもやはり効果は薄いのか、メタモンはちっともダメージを受けたそぶりを見せない。
しばらく両者のほのお技同士の応酬が続いた。
当ててはやり返し当ててはやり返しの繰り返しだ。

「おいおい!さっさと勝負つけるんじゃなかったのか?」
メタモンはばくれつパンチでソウイチを殴り飛ばした。
かろうじて踏みとどまったが、これ以上体が持つ保証はない。

「(やべえ・・・。風邪なんて引いてなけりゃ、こんな悪党即KOなのに・・・。)」
ソウイチはあせっていた。
ほのお系列の技は相手に効果がない、そして通常攻撃ではすばやさが劣る。
それに、相手もほのお技の応酬で体力はかなり削られた。
できることは、一つしか残っていなかった。

「(オレの本当の実力を、てめえに思い知らせてやるよ!!)」
ソウイチはすぐさま大きくジャンプした。

「空中から攻撃する気か?無駄なことだ!!」
メタモンもすぐさまジャンプした。
しかも距離はソウイチより高い。

「ソウイチ!!危ない!!」
ソウヤ達が叫んだ。
しかし、ソウイチはあわてる様子もなく、メタモンをじっと見続けている。

「焼きが回ったようだな!!これでとどめだ!!」
メタモンは、かえんほうしゃで再びソウイチを攻撃した。
しかし、ソウイチはそれに臆することなく一直線にメタモンに飛び掛った。

「これが、オレの実力だ!!」
ソウイチはメタモンの腹に力いっぱいばくれつパンチを叩き込んだ。

「ど、どこにこんな力が!?ぐえああああああ!!」
メタモンはそのまま吹っ飛び、地面に嫌というほどたたきつけられた。

「もらったあああああ!!!」
ソウイチは落下速度を利用して、メタモンの背にもう一発ばくれつパンチを打ち込んだ。
メタモンはうめき声を上げ、そのまま気を失ってしまった。
落下速度とばくれつパンチをあわせた挙句、首の辺りを狙われては致命傷だろう。

「偽者の実力も、たいしたことねえな!」
その瞬間、周りからいっせいに歓喜の声が上がった。
みんな口々にソウイチを褒め称えた。
その中でソウイチは、表情を崩さず、威風堂々とした面持ちでいた。
そして、マリルとルリリがジバコイル保安官を呼びに行き、メタモンはその場で御用となった。

「ソウイチさん、疑ったりしてごめんなさい・・・。」

「私たちがあんたのこともっと信じてやればよかったんだね・・・。」

「本当に悪かったよ・・・。」
みんなは口々に謝った。

「もういいよ。全部偽者のやったことだし、オレは気にしてねえよ。」
ソウイチは快くみんなを許した。
みんなはそれでも謝り足りなかったが、ソウイチがもう気にしないというので、町を元通りにするために海岸から引き上げていった。
後に残ったのはソウイチとソウマ、そしてソウヤ達だけだった。
ソウヤ達はソウイチの元に行きたかったが、やはりさっきのことがあるせいか話しかけづらかった。

「じゃあ、オレ達も帰ろうぜ。」
ソウマはソウイチに笑いかけた。

「だな。じゃあかえろ・・・。」
ソウイチのことばは途中で途切れ、いきなりその場に崩れ落ちた。

「そ、ソウイチ!!」
ソウマはソウイチを抱きかかえて愕然とした。
ものすごい高熱だったのだ。
その様子を見て、ソウヤ達もあわてて駆け寄ってきた。

「お、お前ら!なんでここに!?」
ソウマはソウヤ達を見てびっくりした。

「理由は後で話すよ!それより、ソウイチどうしたの?」
モリゾーはソウマに聞いた。

「熱があるんだ!朝よりかなり高くなってやがる・・・。」

「えええええ!?」
みんなびっくりした。
そして、また自責の念がふつふつと湧き上がってきた。

「お前!どうして言わなかったんだ!!こんなになるまでほっとくやつがあるか!!」
ソウマはソウイチを叱った。

「だってよ・・・。落とし前は、どうしても自分でつけたかったんだ・・・。」
ソウイチは苦しそうに言った。
あの時はちっとも苦しそうなそぶりは見せておらず、ほとんど元気そうだった。
だが、それとは裏腹に、風邪の症状はどんどんひどさを増してきていたのだ。
他のみんなに気付かれれば、メタモンと勝負ができなくなる。
例え限界を超えても、ソウイチは自分のてでメタモンを倒したかった。
そのために、みんなの前では風邪がぶり返していないように振舞うしかなかったのだ。

「ソウイチ・・・。このバカ・・・。」
ソウマはソウイチを抱きかかえたまま、全速力でギルドへ戻った。
ソウヤ達もすぐに後を追いかけた。
ギルドにはすでにカメキチ達やシリウス達が帰っていた。

「ど、どうしたのソウマ!?」
ライナはソウマの緊迫した顔を見て驚いた。
ソウマはソウイチを丁寧に寝かせると、すごい勢いで薬を作り始めた。

「どうしたんだよ・・・?なにがあったんだ?」
シリウスはソウマに聞いたが、ソウマは薬を作るのに必死で何も答えない。
みんなは黙ってただただその様子を見ているしかなかった。
部屋に聞こえるのは、ソウイチの苦しそうなあえぎ声と、ソウマが薬を作る音だけだった。

「先輩、いったい何がどうなってるんですか・・・?」

「風邪がぶり返したんだよ・・・。しかも、朝のときよりひどい状態だ・・・。」
ドンペイの問いにソウマは答えた。
薬がようやく完成したようだ。

「ぶり返したって・・・、いったいなんで?」
カメキチはソウマに聞いた。
ソウマは今までのことをみんなに話した。

「ってことは、ソウイチはメタモンとさしで勝負して、そのせいで風邪をこじらせたっていうのか?」
シリウスが聞いた。

「ああ。それが大きな原因だ。だけど、それ以外にもソウイチの風邪をこじらせる原因になったものがある。」

「それ以外の原因?」
みんなはソウマに聞いた。

「町のみんなや、ソウヤ達から信用を失って見放され、あらぬ疑いをかけられて精神的に深く傷ついたんだ。」
みんなはソウマの言葉を聞いて息を呑んだ。

「相当つらかったんだろうな・・・。人前であいつが泣くなんてよっぽどだ。」
ソウマは薬を飲ませながらつぶやいた。

「でも、あいつらはソウイチの仲間で、兄弟で、友達だろ!?それなのに疑うなんて・・・!!」
シリウスはひどく怒っていた。
自分の親友が、兄弟や仲間によって心に深い傷を負わされたことが相当頭にきたのだろう。
そこへ、ちょうどソウヤ達が部屋に入ってきた。
ぺラップに事情を説明していて遅くなったのだ。

「アニキ!ソウイチは!?」
ソウヤは開口一番真っ先にソウイチの容態を聞いた。

「かなり危険だ・・・。特効薬を飲ませたけど、直るかどうか・・・。」
ソウマは深刻そうな表情を浮かべていた。

「そんな・・・。」
モリゾーとゴロスケは真っ青になった。

「僕のせいだ・・・。僕があんなひどいこと言わなかったら・・・。」
ソウヤは事態の深刻さにぶるぶる震えだした。

「ソウヤ、モリゾー、ゴロスケ。オレ達が出かけてる間に何があったのか詳しく説明しろ。」
ソウマは三人を見て言った。
ソウヤ達は、買い物の帰りや、海岸で自分達がソウイチにしてしまったことを話した。
それを話している間のソウヤ達はすごくつらそうだった。

「何で信じてやらなかった・・・。」

「え・・・?」

「何でソウイチのことを信じてやらなかったんだ!!!」
不意にシリウスが怒鳴った。
今まで聞いたことないような声に、ソウヤ達の背筋は凍りついた。
シリウスは怒りを抑えきれず、ソウヤとモリゾーにつかつかと歩みよると首根っこをつかんで壁に押し付けた。

「確かにあいつは普段からバカなことやってるさ!でも、誰かを心からバカにするようなことしたか!?誰かを裏切るようなまねをしたかのかよ!!」

「シリウス、落ち着いて!!」
ゴロスケはシリウスをとめようとしたが、いとも感嘆にはね飛ばされてしまった。

「仲間を、兄弟を信じられなくてどうするんだよ!!それでもお前ら探検隊か!!!」
シリウスはさらに大きな声を出した。

「あいつは、一番信頼してたり、大事に思う人から裏切られたり、心からひどいことを言われたらすごく深く傷つくんだ!!全部・・・、全部てめえらのせいだ!!!」
シリウスはなおもソウヤとモリゾーを責め続けた。
シリウスの目にはみるみるうちに涙がたまっていった。

「あいつが・・・、あいつがもし死んだら・・・!!」

「もういい。やめろ、シリウス。」
ソウマは静かに言った。

「で、でも!!」

「やめろって言ってるんだ。」
それは有無を言わさない響きがあった。

「チッ・・・!」
シリウスは乱暴に二人を突き放した。
二人は苦しかったのか激しくむせた。

「ソウヤ、モリゾー、ゴロスケ。ソウイチは、お前らに自分のことを信じてほしかったんだ。心から信頼を寄せるお前らにな。たとえお前らが無実の罪を着せられても、ソウイチはお前らじゃないって言うだろうぜ。それがあいつだ。」
ソウマの言葉は、三人の胸に深く突き刺さった。
そして、目から大粒の涙がこぼれ始めた。

「どうしよう・・・。取り返しのつかないことしちゃった・・・。」

「オイラが・・・、オイラがあんなこと言わなければ・・・。」

「ごめんね・・・。ソウイチ、ほんとにごめんね・・・。」
三人はその場に泣き崩れた。
本当に自分達が悪かったと心から思っているのだろう。

「僕達・・・、どうしたらいいんだろう・・・。」

「それは自分達で考えろ。どうすればソウイチがお前たちのことを許してくれるか、じっくり考えるんだな。」
ソウマはそれだけ言うと、再びソウイチの看病に戻った。
部屋には、重く悲しい雰囲気が漂っていた。
そして、みんなはそのまま床に就いた。


「ソウヤ・・・。ソウヤ・・・。なんでだ?なんでオレを見捨てたんだ・・・?オレが、オレがそんなに憎いのか?」

「違う!!違うよ!!」

「でも、お前はオレを兄弟じゃないと言った・・・。オレは、生きてる必要なんかないんだな・・・。」

「そんなことあるわけないじゃないか!!ひどいことを言ったのは本当に悪かったよ・・・。でも、それはあれが偽者だなんて知らなかったんだ!!」

「マントを羽織ってなかったのにか・・・?結局、お前らはオレのことが嫌いなんだよな・・・。オレは、この世界から消えればいいんだよな・・・。」

「だからそうじゃないってば!!お願いだからそんな恨みのこもった目で僕を見ないでよ!!」
そこでソウヤは目を覚ました。
全身は汗でぐっしょりぬれていた。
悪夢を見ていたのだ。
改めて部屋を見回すと、ソウイチの姿がどこにもなかった。

「どこに行ったんだろう・・・。」
いなくなっているということは、元気になったか、嫌気がさして出て行ったかのどちらかだった。
ソウヤはモリゾーとゴロスケを起こし、ソウイチを探しに出かけた。
自分達が悪かった、ひどいことを言って傷つけてしまったことを許してほしい、そう謝るためだった。
ソウイチは、交差点の近くのお気に入りの木の上にいた。
その目はどこかをじっと見つめていた。

「ソウイチ?」
ソウヤは声をかけたが、ソウイチは聞こえていないのか反応しなかった。

「ソウイチ、昨日はひどいこと言って本当にごめん・・・。最初に出会ったのが偽者だなんて知らなくて・・・。でも、ソウイチのことを信じてあげていれば、あんなひどい事言わなくてすんだんだよね・・・。兄弟じゃないなんて言って、すごく後悔してる・・・。許してもらえないかもしれないけど、本当にごめんね・・・、ソウイチ・・・。ごめんね・・・。う・・・うあああ・・・!」
ソウヤはとうとう我慢できなくなり、泣き出してしまった。
さっきの夢のことや、昨日シリウスやソウマに言われたことがすごく心に残っていたのだ。

「ソウイチ、オイラが間違ってた・・・。今までずっと一緒にパートナー組んできたのに、ソウイチのこと信じてあげられなかった・・・。ごめんよ・・・。ごめんよソウイチ・・・。」

「取り消したくても取り消せないかもしれないけど、絶交だなんて言うんじゃなかった・・・。ごめんね、ソウイチ・・・。友達じゃないなんて言ってごめんよ・・・。」
モリゾーもゴロスケも涙を流して謝った。
ソウイチはそれでも、木の上に登ったままだった。

「・・・見ろよ・・・。」
不意にソウイチがみんなを見た。

「え・・・?」
三人が顔を上げると、ちょうど朝日が昇ってくるところだった。

「きれい・・・。」
三人とも感動していた。
こんなきれいな朝日を見たのは久しぶりだった。
すると、ソウイチは木から降りて、みんなの肩をたたいた。

「すんだこと気にしてもしょうがねえよ。偽者のやったことなんだからさ。オレはもうなんとも思ってねえよ。お前らは、オレの大切な仲間で、兄弟だもんな。」
ソウイチは笑顔で言った。

「ソウイチ・・・。ありがとう・・・。」
ゴロスケは涙を拭いて言った。
ソウヤとモリゾーは言葉が出てこなかったが、感謝しているのは確かだった。
そしてみんなは、しばらく昇ってくる朝日を見つめていた。
悲しそうな顔はとっくに消え去り、そこにあるのは、いつもどおりの元気そうな顔だった。

「オレ達の絆は、誰にも壊せねえのさ!!」
ソウイチは自信たっぷりに言った。
その言葉に、みんなもしっかりうなずいた。


アドバンズ物語第五十一話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。

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  • 初めまして、調査団と言います!
    ソウイチの気持ちになって考えたら、もう涙が止まりませんでした。
    すごく良い作品です!! -- 調査団 ?
お名前:

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Last-modified: 2011-05-03 (火) 00:00:00
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