ポケモン小説wiki
アドバンズ物語第五十三話

/アドバンズ物語第五十三話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
まとめページはこちら


第五十三話 探検隊大集合! 訓練という名のバトル大会! 後編


いよいよ二回戦の最終試合、ソウイチVSレク、シリウスVSオオスバメのバトルが始まった。
しかし、シリウスのほうはかなり盛り上がったものの、ソウイチのほうはあまり面白くはなかった。
一方的に勝負がついてしまったのだ。
レクはふしぎなまもりで弱点以外の技は効かないが、ソウイチがかえんほうしゃを放ったとたん、レクはそのままひっくり返ってしまったのだ。
ほのお・いわ・ひこう・ゴースト・あくが弱点なだけに、あまりにもあっさり勝負がついてしまったのだ。
勝ったには勝ったものの、ソウイチはなんだか拍子抜けしてしまった。

シリウスのほうはというと、相手がオオスバメだったのであなほり戦法は使わず、かげぶんしんとこうそくいどうのコンボでオオスバメを翻弄し、オオスバメのひこう技をかわしまくっていた。
つばめがえしを受けたときは、相手がぶつかった瞬間を逃さずに飛びつき、強力な十万ボルトを超至近距離から放った。
しかしオオスバメもなかなかしぶとく、でんこうせっかとこうそくいどうでシリウスを翻弄した。
シリウスは攻撃を受けてもなお、必死でオオスバメにしがみつき十万ボルトを浴びせた。
効果抜群の技を何度も浴びせられ、さすがのオオスバメも飛んでいるのが困難になり、そのままじめんに墜落し気を失ってしまった。
ソウイチとは対照的に、シリウスは観客から喝采を浴びた。
そして二回戦は終了し、Bブロック準決勝戦が始まろうとしていた。
試合が残りわずかなので、Aブロックの試合は一時中断、Bブロックの試合をみんなが見られるよう配慮し、ここから先は同じフィールドで一試合ずつ行われることになった。

まずはローチとマグマラシの試合。
ローチはマグニチュードで確実に相手の弱点を突いていった。
みずあそびも併用して相手の技の威力をとことんまで下げていく。
しかしマグマラシも負けてはいない。
でんこうせっかで揺れの弱いところへ飛び移り、ローチが見失っているすきに攻撃して態勢を崩す。
そのままの勢いでかえんぐるまの後にかえんほうしゃをおみまいし、みずあそびの効果を徐々に弱めていく。
試合時間がさっきより長いため、両者ともかなりのスピードで体力を消耗していった。
しかし、相性面が不利なこともあり、マグマラシにはさらに疲れが見え始めた。
ローチはその瞬間を見逃さず、あまごいとみずあそびのコンボでほのお技をとことん封じ、最大パワーでマグニチュードを放った。
これにはマグマラシも打つ手がなく、じめんに突っ伏してしまい、もうそれ以上は戦えなかった。

「勝負あり!ローチの勝ち!」
カクレオンの声とともに、会場からは大歓声が沸き起こった。
ソウイチ達もローチの決勝戦進出を心から喜んだ。
ローチはマグマラシに声をかけようとしたが、マグマラシは悔しそうな顔でローチを一瞥すると、そのままどこかへ走り去ってしまった。

続いて、チェリーとミナトの試合が始まった。
チェリーはやはり気が引けるのか、いつもよりは技の威力が弱めだった。
それでも、ミナトにはかなり効いているようだった。
ミナトはでんこうせっかで攻めようとしたが、しりょくじまんのチェリーが見逃すはずもなく、難なく攻撃をかわした。
それからのチェリーはあまり攻撃技を使わず、まもるなどの防御系の技を中心に使った。
本気で攻撃することがどうしてもためらわれてしまうのだ。
穏やかな性格ゆえの弊害だろう。

ところが、チェリーが防御系の技しか使わないので、カクレオンから攻撃技を使うよう警告された。
チェリーはどうすればいいか迷ったが、ミナトに本気でやってかまわないと言われたので、心を鬼にして本気で攻撃することにした。
はっぱカッターを力を込めて放つに連れて、その葉っぱの色は変化していった。
はっぱカッターからマジカルリーフへと変化したのだ。
ミナトはでんこうせっかで第一波を避けたが、第二波はよけ切れなかった。
それが決め手となり、勝負はチェリーが勝った。

「ミナトさん、大丈夫ですか・・・?」
チェリーは心配そうに声をかけた。

「だ、大丈夫だよ・・・。だけど、チェリーは強いね。僕ももっともっと頑張ってシリウスさんみたいにならなくっちゃ!」
ミナトは多少悔しそうだったが、その顔は晴れやかで、後悔している様子はなかった。
二人はお互いの健闘をたたえて、しっかりと握手を交わした。

そしてその後の決勝戦は、ローチVSチェリーのガチンコ勝負。
チェリーもさっきのような戸惑いはなく、マジカルリーフとまもるをうまく使ってローチを攻める。
ローチのほうも、マグニチュードとみずでっぽうを使って果敢にチェリーに挑んでいく。
時間が経っても勝負はなかなかつかず、観客ははらはらしながらその様子を食い入るように見つめていた。

ピィィィィィィィ!!!

笛が鳴り、試合は終了した。
結果は、ローチの逆転優勢勝ち。
結果を告げた瞬間、会場からは割れんばかりの歓声が起こった。
ローチにもチェリーにも、二人をねぎらう温かい言葉が降り注いだ。
どちらも、すごく嬉しそうな顔をしていた。

そして今度はAブロック、フレイムVSコン、カメキチVSソウイチ、ソウマVSバクフーン、シリウスVSリングマの順で試合進行することになった。

まずはフレイムとコンの試合。
コンはスピードスターでシャドーボールをコーティングし、シャドーボールの命中率を高めた。
フレイムはかえんぐるまとだいもんじでガンガンと攻めていく。
フレイムのほうは技のかわし方や出すタイミングも完璧で、コンはなかなかよけることができなかった。
しかし、コンは命中率を極限まで上げたため、フレイムにはダメージこそあまりないものの、的確に体力を削っていった。
そして試合は終了し、結果はフレイムの判定勝ちとなった。
やっぱり経験と体力の差が出たようだ。

「やっぱりフレイムさんは強いです・・・。私もまだまだ頑張らないとな・・・。」
コンはちょっと残念そうな顔だった。

「いやいや、シャドーボールをスピードスターでコーティングするのはなかなかできることじゃないさ。技をかわすときの身のこなしもなかなかだったぜ。」
フレイムはコンの頭をなでながらほめた。
コンはまんざらでもない笑みを浮かべていた。

そして次はカメキチとソウイチの試合。
この試合はかなり熱狂的なものになった。
いわばソウイチのほのおと、カメキチのみずの真っ向勝負、どっちも引かない熱いバトルとなった。

「おらおら~!!ガンガン行くぜ!!」
ソウイチはばくれつパンチでカメキチの体制を崩しつつ、その間にかえんほうしゃを丸めてフレイムボールを放つ。

「このまま波に乗ってくで~!!」
対するカメキチは得意のなみのりでソウイチを飲み込み、飲み込んだ直後にれいとうビームを放ってソウイチを氷漬けにする。
そこへハイドロポンプを浴びせて氷を砕き、大ダメージを与えている。

「ひいいいい!!寒っ!!」
ソウイチは寒さに弱いので、氷付けにされた直後は震えるばかりでとても戦える状況ではなかった。
カメキチがみずでっぽうを打ってきて、かえんぐるまではじき返してようやく体が温まった。

「行くぜ!こっからがオレの本領発揮だ!!」
ソウイチはたいあたりで突っ込み、ばくれつパンチでカメキチをひっくり返した。

「ぬぐうううう!!くそお!!」
ひっくり返ったカメキチは、なかなか起き上がることができずじたばたしている。
ひっくり返ったら起き上がるのに時間がかかる、これがゼニガメ系列の弱点ともいえるだろう。
ソウイチはその間にかえんぐるまでカメキチの周りをぐるぐると回転し始めた。
バーニングストームの段階に入ったのだ。
カメキチはようやく起き上がり、渦の外に出ようとしたものの炎にはじき返されて出ることができなかった。

「これで決めるぜ!!バーニングストーーーーーム!!!」
じめんから巨大なほのおの渦が立ち上り、すごい勢いで回転を始めた。
炎の中にはカメキチの影が写っていたが、外側からではどんな様子なのか全く分からない。
渦が収まると、地面には目を回したカメキチがひっくり返っていた。

「よっしゃああああああ!!!」
ソウイチはガッツポーズをしながら飛び上がった。
よほど嬉しかったのだろう。
観客席も総立ちだ。

「あだだだ・・・。こりゃオレの完敗やな・・・。なかなかやりよるな、ソウイチ。準決勝、しっかり勝ってきいや!」
カメキチは素直に負けを認め、ソウイチに手を差し出した。

「当たり前だぜ!準決勝なんか通り越して優勝してみせるぜ!!」
ソウイチも腕を出し、二人はしっかり握手した。
またも会場は大いに沸き、二人の熱いバトルを賞賛した。

そして次は、いよいよソウマとライナを破ったあのバクフーンとの対決だ。
ソウマがフィールドに出ると、バクフーンはすでに準備が終わっていた。

「ようやくお相手願えるね、ソウマ。」
ソウマはその声を聞いて、このバクフーンが誰なのかを思い出した。

「お前・・・、フータか!?」
ソウマは驚愕の面持ちでバクフーンを見つめた。

「そうだよ。ようやく思い出したみたいだね。」
フータはじっとソウマを見つめていた。

「で、でもどうして?もう一度お前の家へ行こうとしたら、すでに誰もいなかった・・・。いったい今まで何をしてたんだ?」
フータは以前、ようがんだいちという場所に住んでいたのだが、ソウマが訪れたときには誰もいなく、その数日後、そこは大地震と大量のマグマの流出に襲われ、住人は誰もいなくなったのだ。
ソウマは必死にフータの行方を探したが、結局今まで消息がつかめず、あきらめかけていたのだ。

「もちろん人目につかないところで特訓してたのさ。君との決着をつけるためにね。」
フータは相変わらず目線をそらさない。

「決着?」

「あの時は弟達のせいで邪魔されたけど、今度こそ君を倒して見せるよ。僕のほうが実力が上だってことを証明するためにね。」
フータは不気味な笑いを浮かべた。

「な、何言ってんだ・・・?邪魔されたって・・・。」

「あの時は弟達がいたから友達になったように振舞っただけさ。君の依頼者が僕のうちに来たのも単なる偶然。探検隊を尊敬してるとか、困ってる人を放っておけないとか、あんなの全部うそだから。」
その言葉に、ソウマの怒りは燃え上がった。

「てめえ・・・、今までオレをだましてたのか!?」
ソウマはものすごい形相でフータをにらみつけた。

「簡単に言えばそうなるね。あんなうそを本気で信じるなんて、君も相当のバカだね。ハハハハハ!」
心から信頼していただけに、ソウマは深く傷つき、そして怒り狂った。

「ライナを必要以上に傷つけたのもそのためか!?」

「ああそうさ。君と一緒にいるところを見れば、君の大事に人だってことぐらいすぐ分かったよ。それにしても、あんなにあっさり負けるなんて、ほんと役に立たないパートナーだね。」
その言葉でソウマは完全に切れた。

「てめえ・・・!!ただで済むと思うなよ!?その腐った性根とふざけた脳天叩きなおしてやる!!」
ソウマはマントを脱いで投げ捨てると、通常の倍ぐらいの炎を出した。
親友と思っていた相手にだまされた挙句、ライナを痛めつけられたと思うと激怒せずにはいられなかった。

「あいにく、僕は負けるつもりはないよ。」
フータも炎を出して戦う構えに入った。
そして笛が鳴り、試合が始まった。

ソウマは全力でダッシュし、フータを投げ飛ばそうと胸倉をつかんだが、フータはソウマの腹にきりさき攻撃をおみまいし遠ざけ、かえんほうしゃの中にスピードスターを仕込み、ソウマをフィールドぎりぎりのラインまで吹っ飛ばした。

「(ば、バカな!?オレが初めて出会ったときは、オレと同じぐらいか、もう少し下ぐらいのはずだったのに・・・!)」
ソウマはフータの成長ぶりに驚いていた。
あの時も本格的な戦いにならなかっただけで、お互いの実力を確かめることだけはできたのだった。
それが、ここ数年でここまでの実力をつけるとは驚きを隠せなかった。

「さあ!君の実力はその程度かい!?」
フータはすでにソーラービームのチャージを終えており、ソウマに向かって放っていた。
ソウマは気付くのが遅れ、真正面からソーラービームを受けた。
くさタイプの技で効果は今ひとつだが、それでも威力は途方もなかった。

「くそお・・・!!」

「なんだ。君も実際はその程度か。探検隊を気取ってる割には、案外弱いんだね。」
フータは容赦なくソウマに暴言を浴びせてくる。

「てめえ!!!」

「こらそこ!!これ以上の侮辱行為は失格とみなしますよ!!」
とうとうカクレオンからフータは警告を受けた。
会場はブーイングの嵐が巻き起こっており、誰もがフータを非難していた。

「さ~て、この勝負をさっさと終わらせるか。」

「それはこっちのセリフだ!!」
再び両者のぶつかりあいが始まった。
かえんほうしゃとスピードスター、柔道技ときりさくが激しくぶつかり合う。
ソウマは怒りに身を任せているが、フータは先ほどの余裕かつ嫌味な表情とは違い、真剣な面持ちで勝負をしていた。
何かを感じ取ったのだろうか。

「(このままじゃさすがにまずいな・・・。一気に決めるか!)」
ソウマはフータといったん距離をとり、すぐに全速力でフータのところへ駆け出した。
走っているうちにソウマは炎に包まれ、かえんぐるまの状態が出来上がっていた。
かえんぐるまの炎は次第に大きくなり、岩ほどの大きさになった。
そしてソウマはフータの周りをものすごいスピードで回り始め、フータを炎で包み込んだ。

「な、なんだこれは!?」
フータは出来上がっていく炎の渦を驚きの表情で見つめていた。
外に出ようときりさくを使ったが、炎の厚さではじき返されてしまった。

「まずい!このままじゃ・・・。」
フータは何とか出ようとしたが、もう遅かった。

「燃え上がれ・・・、怒りと正義のほのお・・・!バーニングストーーーーーーム!!!」
ソウイチのときとは比べ物にならないほどの回転数と大きさで炎が回転し、とてつもない熱がフータを襲った。

「オレをだましたこと、ライナを傷つけたことをたっぷり償ってもらう!!うおおおおおおおおお!!!」
ソウマはさらに速度を増して回転した。

「ば、バカな!?どうやったらこんなことが!?うわああああああああ!!!」
渦の中からフータの叫び声が聞こえてきたが、ソウマは手を緩めることなく渦の周りを回り続けた。
そしてソウマが回るのをやめると、渦は上から消え去っていき、真ん中にはかろうじて立っているフータがいた。

「ううう・・・。ガフッ・・・。」
フータは息も絶え絶えだ。
あんな攻撃を受ければどんなポケモンでもただではすまないだろう。

「どうだ?まだやる気か?やるんだったらとことん相手になるぜ?」
そういうソウマも肩で息をしていた。
バーニングストームは多大な体力を消費するため、ソウマの負担もかなりのものだった。

「・・・ふふふ・・・。アハハハハハ!!」
突然フータは大きな声で笑い始めた。
ソウマはもちろん、会場はみんな唖然としていた。

「アハハハ!やっぱりソウマは強いや。僕なんかじゃとても太刀打ちできないって事がよく分かったよ。」
ソウマはフータが何を言っているのかさっぱり分からなかった。

「さっきのは全部芝居さ。君に本気を出させるためにわざとやったんだよ。」

「し、芝居・・・?」
ソウマは目を見張った。
あれが芝居なら賞を取れそうなほどだ。

「だけど、なんでオレに本気を出させたかったんだ?」

「ただ単に、ソウマと本気でバトルしてみたかったんだ。ソウマが本気を出すのは、仲間を傷つけられたときと、信じていた人に裏切られたときでしょ?」

「ああ・・・。」

「だから、芝居を打ってあえてああいう状況を作ったんだ。」
確かに、ソウマが本気を出すのはよっぽどのことなのだ。
それに、味方に対して本気を出すことはなく、例え大会でもいつも以上の力は出さないのだ。
だから、フータはあえてソウマを怒らせるようなことをしたのだ。

「でも、だましたりして悪かったよ。ごめんね・・・。」

「そういう事情があったんなら仕方ねえよ。でも、本気のオレと戦いたいなんて、お前も物好きだな。」
フータはすまなそうに謝ったが、ソウマは事情が分かったので許した。

「そういえばお前、今はどこに住んでるんだ?」

「今はいわやまかざんって言うところに住んでるんだ。あそこの環境はようがんだいちとほとんど同じだし、場所もここから近いんだ。もちろん、今も困った人の手助けはしてるよ。」
ソウマとフータは大会の最中だということも忘れて話し込んでいる。

「それを聞いて安心したぜ。じゃあ、ライナ達のことも知らなかったのか?」

「うん。ああいうことを言ったのも、ソウマを本気にさせるためだったんだ。本当はソウマのパートナーだなんて全然知らなくて、試合で君とカメールが駆けつけたときに分かったんだ。ソウマと戦うんだって思ってたら、いつの間にか熱が入りすぎちゃって、うっかりソーラービームを出しちゃったんだ・・・。謝ろうと思ったけど、近くにいたカメールがすごい顔でにらんでたから謝りにいけなくて・・・。」
あの時、フータがすぐに姿を消したのはそのためだったのだ。
それに、今の計画もそのときに思いついたのだった。

「そうか~・・・。確かに、前に会った時はカメキチ達がいなかったものな~・・・。」
前にフータ達と会ったときは、ソウマ一人だけだったのだ。
知らないのも当然だろう。

「待てよ?ってことは、グマゾウやマグトたちも来てるのか?」

「うん。この大会にも参加してるんだ。グマゾウは初戦で、マグトは準決勝で負けちゃったけどね。」
ソウマの問いに対し、フータは少し恥ずかしそうな顔で答えた。

「いやいや、あの年でそこまでやれるのはたいしたもんだぜ。さすがお前の弟って感じだな。」

「いやあ~・・・。普段からやんちゃなのが幸いしてるんだよ。」
フータは弟をほめられて謙遜した。

「まあ、それも一理あるな。ハハハハ!」
ソウマはおかしそうに笑った。
フータもそれにつられて一緒になって笑った。
観客とカクレオンは二人の会話についていけずぽか~んとしていた。

「あ・・・、あの・・・。試合のほうは・・・。」
ようやくカクレオンがおずおずと口を挟んだ。

「そうだったね。僕はギブアップするよ。これ以上戦っても、ソウマと僕じゃ実力が違いすぎる。」
フータはあっさりと負けを認めた。
それに、これ以上はどう考えても戦える体ではなかった。

「いいのか?せっかくここまで・・・。」

「かまわないよ。ソウマと本気で戦えただけで僕は満足さ。ソウマ、君の実力ならきっと決勝に進める。がんばってね!」
フータはソウマの言葉をさえぎり、手を差し出した。

「分かった・・・!お前の分までしっかり頑張ってくるぜ!」
ソウマも手を差し出して、しっかり握手をかわした。

「わかりました。では、この試合はソウマ選手の勝ちとします!」
会場は多少ざわざわしていたものの、その判定を聞いて歓声が上がった。
その歓声が、ソウマの勝利を祝うものか、二人の戦いをねぎらうものかは誰にもわからなかった。

そして準々決勝最終試合、シリウスVSリングマの戦いが始まった。
この試合は言うまでもなく、シリウスの圧勝だった。
かげぶんしんとこうそくいどうでリングマの注意を引いておき、お得意のあなほり戦法でリングマをノックアウトした。
リングマも地面の下までは配慮が行かず、まっさかさまに落ちて気を失ってしまったのだ。
試合開始からものの四分でこんな芸当をやってのけてしまうのだから、シリウスも相当のやり手だろう。
しかし、さすがに威力が強力すぎたためか、次の試合からはあなほりの使用は禁止になってしまった。
シリウスは不満そうに口を尖らせたが、審判に逆らうこともできないのでしぶしぶ受け入れた。
準決勝までには30分の休憩時間があったので、ソウマはフータ達をみんなに紹介した。

「さっきは本当にすみません・・・。バトルに夢中になりすぎちゃって・・・。」
フータはライナに頭を下げて謝った。

「もう気にしなくていいわよ。バトルはいつでも真剣勝負なんだから。」
ライナは快くフータを許した。

「せやけど、お前がソウマの知り合いやったとはな~。」
カメキチは三人を見て驚いていた。

「話そうかとも思ったんだけど、なんとなく秘密にしておきたくてさ。」
ソウマは照れくさそうに頭をかいた。
いわゆる秘密の友達というのがなんとなくよかったのだろう。

「だけどさあ、二人とも結構強かったよな。ローチたちを相手によく戦ったぜ。」

「そうそう。明らかに年齢差があるのに、本当によく頑張ったよね。」
ソウイチ達ははマグトとグマゾウをほめた。
もちろんお世辞ではなく本心だ。

「へへ~ん!あれぐらい軽いぜ!」

「そうそう!あんまり弱かったら話にならねえしな!」
二人はニシシと笑いながら言った。
小さいくせにいっぱしの事をいうやつらだとみんなは心の中で思った。

「こら!そういうことは言うもんじゃないぞ!」
フータは二人を叱った。

「へ~んだ!女に手を出す男は最低なんだぞ~!」

「そうだそうだ!」
二人はライナと戦ったときにことを言っているようだ。
フータはライナに許してもらったものの、まだ気にしていたので二人に思いっきりげんこつをおみまいした。

「いだだだだ・・・。」

「いでででで・・・。」
二人は頭を押さえてうずくまった。

「ったく!いちいち人のことをからかうなって何回言わせりゃ気が済むんだ!!」
フータはさらに二人に怒鳴った。

「まあまあ。おさえておさえて。」
カメキチはフータを何とかなだめた。

「だけどお前らも相変わらずにぎやかだな。」
ソウマは笑いをこらえながら言った。

「にぎやかと言うより、騒がしいだけなんだけどな。」
フータは恥ずかしそうに笑った。

「騒がしいって何だよ!元気があふれてるって言えよ!」

「これぐらいの元気があるほうがいいって前にソウマも言ってたじゃねえか!」
二人は口を尖らせて反論した。

「その結果がこれだろうが!」
フータは軽く二人の頭をはたいた。
二人はたんこぶがまだ痛かったのか、ひゃう!と情けない声を出して首を縮めた。
その様子がおかしかったのか、みんなは大笑いした。
かくして、フータたちとソウイチ達はあっというまに友達になった。
これからもいろいろと、マグトとグマゾウのやんちゃぶりに付き合わされることになるだろう。

そしていよいよ、ソウマVSフレイム、ソウイチVSシリウスの準決勝戦が始まった。
まずはソウマとフレイム。
先輩と後輩の力のぶつかりあいだ。

「お父さ~ん!!がんばって~!!」

「ソウマもがんばってね~!!」
ドンペイとライナから声援が飛ぶ。
二人とも真剣な目つきでお互いを見つめている。
笛がなると同時に、二人はだいもんじを放った。
大きさは両者ともほぼ互角だが、若干フレイムのほうが大きく見えたような気がした。
さすがに経験をつんでいるだけのことはある。
そして二人は通常攻撃を交えつつ、お互いのほのお技をぶつけ合った。
フレイムは先輩としての誇りにかけて、ソウマはチームの元リーダーの誇りにかけて激しいバトルを繰り広げていた。
時間は刻一刻と過ぎていき、あっという間に残り時間は二分を切った。
両者ともかなり技を使い、PPもそろそろ切れるあたりだった。
時間が長くなるということは、技の使いどころを見極めたり、体力をどれほど温存するかということも考えなければならないのだ。

「ソウマ・・・、なかなかやるな・・・。」

「先輩こそ・・・。」
二人は話しこそしているが、すでに肩で息をしていた。
技をかなり出したために、体力の消耗も激しかったのだ。
残り時間はわずか、ちょっとのミスが明暗を分けることになるだろう。

「残りわずかだ。悔いのないよう全力で行くぜ!」

「こっちもそろそろ本気で行かせてもらいますよ!」
そして、フレイムはほのおのうず、ソウマはかえんぐるまで最後の勝負に出た。
フレイムのほのおのうずは、通常とは比べ物にならない大きさだ。
竜巻のような渦がソウマに襲い掛かった。
対するソウマはほのおに身を包み、逆回転で渦の周りを回った。
フレイムのほのおのうずをバーニングストームに利用するつもりなのだ。
しかし、そうはさせまいとフレイムはかえんほうしゃで渦の回転力を高める。
ソウマも負けじと渦の周りを全力で回る。
渦は右へ回り左へ周り、なかなか一定方向に回転しなかった。
観客がはらはらしながらその成り行きを見つめていると・・・。

ピィィィィィィィィ!!

試合の終了を告げる笛が鳴った。
フレイムとソウマは荒い息遣いでその場にたたずんでいた。
二人は判定を待ったが、またしてもなかなか結果が出ない。
観客はざわざわしながら判定を待った。
そしてようやく結果が公表された。

結果は・・・、なんと引き分けだった。
その判定が出た瞬間、ざわめきはいっそう大きくなった。
ソウマとフレイムも唖然とした表情でその判定を聞いていた。

「え~、審判員全員の協議の結果、今回の試合は両者ともに甲乙つけがたいものだったので、引き分けという判定になりました。なお、その都合により両者とも二位確定とし、次の試合が決勝戦ということになります。」
これまでにない異例の決定に会場からはいろんな声が上がった。
二人とも決勝に進出させろだの、日を改めて勝負をやり直せだの、はたまた次の試合で勝ったものと同じ扱いにしろという意見が飛び交った。
だんだんと収拾がつかなくなり、とうとうカクレオンは大きく笛を吹き鳴らした。

「皆さんどうかお静かに!!では、皆さんの意見を参考にもう一度協議してまいります!!」
カクレオンは早口でそう告げると、審判員のいるところへ飛んでいった。

「いったいどうなるんだろうな・・・?」

「さあ・・・。」
ソウマもフレイムも結果がどうなるのか全く予想できなかった。
そして数分の後、カクレオンは戻ってきた。

「え~、再度協議しました結果、両者を引き分けとし、ともに優勝とします。なお、次に行われる試合の勝者も、二人と同じく優勝にしたいとおもいます。」
つまりは、順位を定めず三人の一番を決めるということだ。
よほど勝敗をつけられなかったのだろう。
寛大というか、優柔不断というか。
だが、観客はさほど不満は感じていないようで、拍手と歓声で二人をねぎらった。

そしていよいよ最終試合、ソウイチVSシリウスの対決だ。
二人が会場に入ってくると、さすがに最後の試合だけにひときわ大きい歓声が二人を包んだ。

「今こそ、あのときにつけ損なった決着をつけるときだな!」

「ああ!途中でへたばるんじゃねえぜ?」
二人はお互いをまっすぐ見つめて言った。
つけ損なった決着とは、二人がトゲトゲやまで戦ったあのときのことを言っているのだ。
そして笛が鳴り、いよいよ最終決戦が始まった。

「さあ!お互い本気で行こうぜ!!」

「今日こそどっちが強いか証明してやらあ!!」
ソウイチはばくれつパンチ、シリウスはアイアンテールでぶつかり合った。

「ぬぐぐぐぐ・・・。」
両者ともしばらくその場にとどまり、お互いに力をこめて押し合いへし合い、なかなか技が決まらない。
と、不意にシリウスは力を緩めてソウイチのバランスを崩した。

「もらったあ!!」

「おわああ!!」
そしてアイアンテールで足を払い、超至近距離で十万ボルトを浴びせた。

「おべべべべべべべ!!」
ソウイチは盆踊りみたいな格好になってしびれていた。
敵対して初めて相手の力が分かるものなのだ。

「どうしたどうした!お前の実力はそんなもんか!?」
シリウスはソウイチから距離をとって言った。

「じょ、冗談じゃねえよ!まだまだこれからだぜ!!」
ソウイチはまだ多少しびれていたが、すぐにかえんほうしゃをお見舞いする。
シリウスはこうそくいどうで華麗にかわし、そのスピードを利用して頭から突っ込み、ソウイチを吹っ飛ばした。
ソウイチは何とか踏みとどまり、かえんぐるまでシリウスに突撃する。
さすがに今度はシリウスもよけられず、真正面から攻撃を食らった。

「あちちちちっ!!やりやがったな!!」

「余裕こいてるからだぜ!おらおらああああ!!」
ソウイチはさっきの間にフレイムボールの準備をしており、5連弾を放った。

「ぶぼぼぼ!!」
シリウスに全弾が命中し、シリウスはその場にひっくり返った。

「どうだ!!オレの本気はあんなもんじゃねえぜ!!」
ソウイチはさらにばくれつパンチでシリウスにとびかかった。
シリウスはアイアンテールを使う暇がなく、素手でソウイチのこぶしを受け止めた。

「な、なにい!?」

「へへっ!伊達にお前と不良ぶっ飛ばしてたわけじゃねえぜ!!」
さすがはケンカ慣れしているだけのことはある。
パンチやキックの受け止め方は結構知っているようだ。
ソウイチはすぐにシリウスから飛びのき、大文字でダメージを与えようとした。
ところが・・・。

「な・・・。体が・・・、動かねえ・・・!」
ソウイチの体に突然しびれが走り、技が出せなくなったのだ。
そう、3割の確率で発生するせいでんきでまひしてしまったのだ。

「(くっそお!!こんなときに限ってまひするなんて・・・。とくせいにもう少し注意しときゃよかった・・・!)」

「どうやら天はオレに味方したみたいだな!遠慮なく決めさせてもらうぜ!!」
いまさら後悔しても遅かった。
シリウスは十万ボルトをまとってこうそくいどうでソウイチに突っ込んだ。
ボルテッカーを受けたソウイチはそのまま場外に吹っ飛び、木の根元に叩きつけられた。

「ガ・・・、ゲフッ・・・。」
ソウイチは一瞬息が止まったが、すぐに場内に戻ろうとした。
だが、遅かった。

ピィィィィィィィ!!

「フィールドアウトにより試合終了!!この試合は、シリウスの勝ちとします!!」
カクレオンの判定を聞いた瞬間、ソウイチは目の前が暗くなったように思えた。
ここまで来てまさかの敗北、ソウイチにはその現実がなかなか受け入れられなかった。

一人喜んではしゃいでいるシリウスを見て、ソウイチは奥歯をぎりりとかんだ。
シリウスに負けたこと、そして、自分が油断して調子に乗っていたことに腹が立った。
せいでんきのことを頭に入れていれば、こんな無様な負けはなかった、そんな思いが頭を渦巻いていた。
何より、リーダーなのに負けたという事実が一番ソウイチのプライドを傷つけた。
知らないうちに、ソウイチの両目からは涙がこぼれていた。
声は出なかったが、顔はだんだんと悔しそうにゆがみ、次第にうつむいていった。

「(ちきしょう・・・。ちきしょう・・・!!)」
次から次へと悔しさがこみ上げてきた。
情けなくて立ち上がることすらできなかった。
すると、急に目の前に影ができた。
見上げると、シリウスが真剣そうな顔で立っていた。

「な・・・、なんだよ・・・?」
ソウイチは涙にぬれた顔でシリウスをにらんだ。

「言っとくけど、オレはあれで勝負がついたなんて思ってねえからな。」
シリウスは真顔でそう告げた。

「気休めはよしてくれ・・・。オレがお前に負けたのは事実だ・・・。オレが、オレが油断しなければ・・・。」
ソウイチは顔を背け、なおも奥歯をかみしめていた。

「あのなあ・・・。オレがわざわざ気休めなんか言いにくると思うか?オレはそこまでお人好しじゃねえよ。」
シリウスは顔をしかめた。

「じゃあ何で来たんだよ!冷やかしか!?」
ソウイチはシリウスを真っ向からにらみつけた。
ソウイチのプライドからして、勝ったライバルにそういうことを言われるのは無性に腹が立つのだ。

「だから違うっていってんだろ?オレはなあ、あんなの本当の勝負だなんておもっちゃいねえんだよ。あれはあくまでも形式上のバトルだ。」

「形式上・・・?」

「そうだ。勝負っていうのは、フィールドから外に出たぐらいで決まるようなもんじゃねえ。自分の力を限界まで引き出して、倒れるぐらいまで全力で戦う、それがほんとの勝負だろ?それはお前が一番分かってるはずだ。だから、オレに負けたなんて思うな。決着は次の機会までお預けだ。」
シリウスは別にソウイチに気を使ったわけではなかった。
ただ、シリウスの勝負に対するこだわりがそうだったというだけなのだ。
ソウイチはしばらく無言のままだった。
そして、ようやく口を開いた。

「・・・何かっこつけてんだよ・・・、バーカ・・・。」
ソウイチは悪態をついたが、その目は笑っていた。
シリウスもそれが分かっていたのか、にっと笑った。

「今度勝負するときは、自分の体力の限界までとことんやろうぜ!」

「ああ!今度こそ決着つけてやらあ!」
二人はまたいつもの調子に戻った。
そして、閉会式と表彰式が始まるため、二人は急いで中央広場へとかけていった。
そして表彰式では、ソウマ、フレイム、シリウスがぺラップに賞状とトロフィーを渡されていた。
そのなかで、シリウスはひときわうれしそうな顔をしていた。

「(シリウスはああ言ったけど、やっぱりオレはまだ力不足だ。今度あいつと戦うときのためにも、オレは、もっともっと強くなる!絶対に・・・!)」
シリウスの笑顔を見ながら、ソウイチは新たな決意を固めていた。
リーダーとして、ライバルとして、もっと上を行くために・・・。


アドバンズ物語第五十四話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • いきなり出てきたけれど、フータって誰ですか? wiki内検索して見ても見つからんし、唐突な新キャラはよした方がいいと思います。
    ―― 2011-05-08 (日) 15:02:21
  • この五十三話をよく読めば書いてありますよ。説明付きで。マグトとグマゾウはどっちがどっちかは解りませんが。
    ―― 2011-05-08 (日) 15:41:47
  • あ、いえ……雑談になってしまうとよくないですが、補足します。
    フータの説明は読みましたが、だからこその疑問なのです。

    このお話で唐突に出てきた登場人物フータと、それに関わる過去のお話(ようがんだいちに住んでいて、探検隊に憧れていた云々の(くだり))が唐突過ぎて全く感情移入できなかったといいたいわけです。

    そのおかげで、仲間や自分を侮辱されたことに対する怒りは理解できても、騙されたというソウマの怒りは全く共感・感情移入できず、読者がおいてけぼりになってしまっている感じがありました。

    フータはこの53話に至るまで名前すら出てきておらず、出会いのお話もありませんしこのお話でなぜフータがソウマの本気を出して欲しかったのかという理由も分かりませんし……すべてが唐突過ぎるのです。

    感情移入させるだけが小説のすべてじゃないですが、その配慮は欲しかったなと思って、上記のコメントをいたしました
    ――15:02:21の名無し 2011-05-08 (日) 17:31:43
  • そうだったのですか…
    確かにそれはありますね。
    おせっかいをすみませんでした。
    ―― 2011-05-08 (日) 18:16:50
  • コメントありがとうございます。キャラ更新の方は遅れてしまって申し訳ありません。
    さっそく追加情報を載せたいと思います。
    唐突というのは、やはり今まで出ていなかったのでそう思われるかもしれません。
    細かい説明はキャラ紹介に乗せようと思っていたのが悪かったようですね・・・。
    その辺も含めて過去の話を挿入していればよかったと反省しております。
    以後はそのようなことがないよう気を付けたいと思います。
    ――火車風 2011-05-08 (日) 21:35:40
お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2011-05-06 (金) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.