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アドバンズ物語第五十四話

/アドバンズ物語第五十四話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第五十四話 ソウマとライナの大喧嘩 心に秘める想い 前編


「・・・・・・。」
バトル大会が終わった日の晩、ソウマはなかなか寝付けずにいた。
その原因は・・・。

「むにゃむにゃ・・・、次に戦うときは絶対勝つぞぉ~!!むにゃ・・・。」
ソウイチが寝言を言いながらうでをはみはみしてくるという意味のわからない行動だった。
さっきから何度も何度も遠ざけているが、ソウイチはごろごろと転がってきてはうでをはみはみしているのだ。
そのせいでソウマは一向に眠れない。
殴って起こそうかとも考えたが、それは大人気ないので我慢することにした。
結局、ソウイチの意味不明な行動は朝まで続き、ソウマは一睡もできなかった。

朝礼のときでさえも、ソウマはすごく不機嫌そうな顔をしていた。
当然ほかのみんなは理由がわかるはずもなく、ただただ困惑するだけだった。
理由を作った張本人ソウイチは、朝から気分すっきりですごく元気だった。
昨日の夜に何をやったかも知らないで。
それから、ソウイチ達は依頼に出かけ、ソウマ達は出かける準備をしていた。
といっても、まだ出発までにはだいぶ時間があった。

「ねえソウマ、さっきからずっと不機嫌そうだけどどうしたの・・・?」

「うっせえな!なんでもねえよ!向こう行ってろ!」
心配するライナに対して、ソウマはライナを邪険に扱った。
ライナはうなだれ、悲しそうに部屋を出て行った。

「おいソウマ、なんぼなんでもああゆう言い方はないんやないか?ライナがかわいそうやろ。」
カメキチは眉をひそめた。

「こっちは眠れなくてイラついてんだよ!!あ~、くっそお!!」
ソウマは乱暴にマントをつかんで立ち上がると、部屋を出て行ってしまった。
残されたカメキチとドンペイはため息をついた。

「しかたのないやつやな~・・・。なんであそこまでいらいらせなあかんのや・・・。」

「先輩って、寝不足のときはいつもああなんですか?」

「いや、いつもはちょっといらいらしとる感じで、あからさまに怒鳴ったり行動に出したりはせんのやけど・・・。今日は珍しいな・・・。」

「そうなんですか~・・・。」
カメキチの話を聞いてドンペイはうなずいた。
寝不足でいらいらするのは普通だが、今回はソウイチの意味不明な行動が加わったため、いらいらが極度に高まっているのだろう。
しかし、ソウイチが原因であることをみんなは知らない。

「何でソウマはあんなに怒ってるのかしら・・・。寝不足なのは分かるけど、いつもはあそこまで怒鳴ったりしないのに・・・。」
ライナはそんなことを考えながら調理場に立っていた。
今日作っているのは、ライカから教えてもらったきのみのパイ。
前に里帰りしたときに、ソウマがうまいうまいと言っていたので自分も作ってみたくなったのだ。
それに、ソウマもこれを食べればきっと気分が落ちつくだろうと思ったのだ。
甘いものには、高ぶったりいらいらしたりする気持ちを静める効果もある。
パイを食べれば、多少はイライラが落ち着くと思って、ライカから受け取ったレシピを元に頑張って作っているのだ。

「よ~し!これであとは隠し味を入れれば完成ね。」
ライナが隠し味を入れようとしたところ・・・。

「お~い、ライナ~!ちょっと来てくれないか?」
ペラップがライナを呼んだ。

「は~い!」
ライナは返事をすると、調理場を出て行った。
それから数分後、忘れ物を取りに来たソウイチが調理場に入ってきた。
おいしそうなにおいをかぎつけてつい足を踏み入れたのだ。

「おお~!まだできてないけどうまそう~!」
ソウイチは目を輝かせて材料を眺めた。
ちょうど目の前にあった木の実をとってみると、それはとってもいいにおいがした。

「おお~!いいにおいだ!きっとこれをたくさん入れるんだろうな。」
ソウイチはそう勝手に判断し、木の実をすりつぶして勝手にたくさん入れてしまった。
それがものすごく渋いシーヤの実だとも知らないで。
さらにソウイチは、材料を全部入れたと思い込み、余った木の実を持っていってしまったのだ。
勝手な思い込みもいいところだが、実際、ソウイチが木の実を入れたことで完成していたのだ。
入れすぎてしまったのは事実だが。
それから数分後、ライナはまた調理場に戻ってきた。

「さ~て、そろそろ仕上げを・・・。あれ・・・?木の実がなくなってる・・・。」
ライナは調理場を見渡して唖然とした。

「いったい誰が持っていったのかしら・・・。まあいいわ。木の実のエキスはとってあるし。」
ライナは近くにおいてあった小瓶のエキスを材料に注いだ。
隠し味でそこまで使う予定がないので、もったいないから前もって小瓶に入れておいたのだ。
そして数十分後、ようやくパイが完成した。
いろいろな木の実のおいしそうな香りが漂っている。

「これならきっとソウマも喜んでくれるわ。」
ライナはうきうきしながらパイを部屋に持っていった。

「ソウマ~。ちょっといい?」

「ああ?今までどこ行ってたんだよ!早いとこ依頼にいかねえとどやされるぞ!」
ソウマは不機嫌そうな顔をライナに向けた。

「すぐだから。ほら、これ食べてみて。私が作ったの。」

「ん~?」
ソウマはパイをしげしげと眺めた。

「これ食べたら、きっといらいらもおさまるわよ。ね?」

「ったく・・・。」
ソウマはそんな気分じゃなかったが、断る理由もないのでパイを一口食べた。

「どう?」
ライナはソウマの様子をうかがった。
ソウマはしばらくもぐもぐと口を動かしていたが、急に顔が真っ赤になり、そして真っ青になってあたりをのた打ち回った。

「ど、どうしたのソウマ!?」
ライナはソウマの様子が急変したのでひどく驚いた。
ソウマは意味不明の言葉を発しながら、全速力で部屋を飛び出すと水飲み場へ向かった。
ライナもあわてて後を追いかける。
ソウマは水の実場で口をすすぎ、何度も何度もうがいをしていた。

「ソウマ、いったいどうしたの?」
心配そうにたずねるライナをよそに、ソウマはライナの横をすり抜け憤然とした足取りで部屋へと戻っていった。
ライナはまたあとを追いかける。
ライナが部屋に戻ると、ソウマは部屋の中央にたたずんでいた。

「ソウマ、本当にどうしたの・・・?」
ライナはソウマにおずおずと尋ねた。
そして、ソウマの口から出てきたのはあまりにも予想外の言葉だった。

「てめえ・・・。オレを殺す気かよ!!!」

「え・・・?」
ライナは一瞬何を言われたのか理解できなかった。

「なんなんだあのパイは!!渋い以外に何の味もしねえじゃねえか!!どういうつもりであんなもん食わせたんだ!?」
ソウマはものすごい剣幕でライナに怒鳴り散らした。

「そ、そんなはずないわよ!私はちゃんと手順どおりに作ったわ!」
ライナは驚きを隠しえなかった。

「手順どおりだろうがなんだろうが渋いもんは渋いんだよ!!よくもこんなもん食わしてくれたな!!」

「渋いって言っても、隠し味程度にしか入れてないわ!それに、1滴ぐらいでそこまで渋さを感じたりはしないのよ?」
ライナは言い返した。
ソウイチが大量に入れたことを知らないので、隠し味でしか入れていないとおもっているのだ。

「大体、オレは渋いのが大嫌いだって言ってあっただろうが!!それをわざわざ大量に入れやがって・・・、オレに何か恨みでもあんのかよ!!」
ソウマはさらにまくし立てた。

「ちょっと待ってよ!渋いのが苦手だなんて一言も・・・。」

「お前が聞いてないだけでオレは言ったんだよ!!まったく・・・、ぜんぜん眠れねえわ、こんなまずいもん食わされるわ、いったいどれだけオレをイラつかせたら気が済むんだよ!!」
ソウマはライナの言うことをさえぎって怒鳴った。
ソウマのいらいらは絶頂に達し、もう冷静な判断すらできなくなっていた。

「そんな・・・。私はソウマに喜んでほしくて・・・。」

「こんなもん食わされて喜べるか!!ふざけるのも大概にしやがれ!!二度とてめえの料理なんか食うか!!」
ソウマはそう言い捨てて部屋を出て行った。
ライナはしばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。
やがて、悲しみと同時に怒りが湧き上がってきた。

「せっかく・・・、せっかく一生懸命作ったのに・・・。ひどいわ・・・。」
ライナはぺたんとその場に座り込んだ。
ソウマに言われたことが相当ショックだったのだろう。
そして、しばらくしてドンペイとカメキチが買い物から帰ってきた。
二人はライナの様子を見て驚いた。

「ど、どないしたんやライナ?」
カメキチはライナにたずねたが、ライナは何の反応も示さない。

「いったい何があったんでしょう・・・。」

「さあ・・・。さっきすれちゃうたときに、ソウマすごく怒っとったけど・・・、どないしたんやろう・・・。」
カメキチとドンペイは首を傾げるばかりだった。
カメキチはふと、ライナの近くにおいてあるパイに目が留まった。

「あれ・・・?ライナ、このパイどないしたんや?食べかけみたいやけど・・・。」
カメキチはライナに聞いた。

「ああ、これ?ソウマのために作ったの。でも・・・、ソウマはこれが渋いって・・・。隠し味で入れただけなのに・・・。」
ライナはパイをカメキチの前に差し出した。
その顔はすごく悲しそうだった。

「ホンマか?ええ匂いもするねんし、見た目もよさそうなのに、何でソウマはそないなことを・・・。ちーとばかし食べてみてもええか?」

「ええ、いいわよ。」

「ほんなら・・・。」
ライナに許可をもらって、カメキチはパイを一切れ口に放り込んだ。
しばらくもぐもぐとしていると、カメキチは急にひっくり返った。
顔はすでに真っ青だ。

「ど、どうしたのカメキチ!?しっかりして!!」
ライナはカメキチをゆすった。
カメキチは何とかしてパイを飲み込むと、ぜいぜいと荒い息をした。

「なんなんやこれは・・・。隠し味どころか、渋い味しかせえへんわ・・・。」

「そんな!カメキチまでソウマの肩を持つの!?」
ライナはこらえきれなくなってカメキチにつかみかかった。

「ちゃうちゃう!ええからお前も食べてみい!」
カメキチはライナおしとどめ、残りのパイを差し出した。
ライナはそれを受け取り、口に放り込んだ。
その数秒後、ライナは口の中が爆発したような感覚に襲われ激しくむせた。

「ゲホッ、ゲホッ!!な、なんなのこれ・・・!?」
ライナは驚愕の色を浮かべていた。
確かに強烈に渋い味以外には何の味もしなかった。
あまりにも渋すぎて他の味が全部消えてしまったのだ。
これなら、ソウマがあそこまで激しい剣幕で起こるのも納得がいく。

「そんな・・・。でも、私ちゃんと一滴しか入れてないのに・・・。」
ライナは本当にショックを受けていた。

「本当に一滴しかいれてないんか?」
カメキチはライナに聞いた。

「ええ、間違いないわ。」
ライナはしっかりうなずいた。

「せやけど妙やな・・・。お前がこないなミスをするはずもないし・・・。」
確かに、普段のライナなら分量を間違えたりすることはない。
それはみんなも承知のことだった。

「そういえば、私がペラップに呼ばれてしばらく調理場を抜けて、帰ってきたら木の実が全部なくなってたわ・・・。」
ライナはふと思い出したように言った。

「もしかしたら、そのときに誰かが木の実を間違って入れたんやないんか?」

「きっとそうよ。あの瓶に入れたエキスは減ってなかったし、余ってた木の実を入れたとしか思えないわ。でも、いったい誰が・・・。」
ライナは木の実を入れた相手の心当たりがまったくなかった。
なにしろ、誰も目撃者がいないのだ。

「それやったとしたら、お前のせいやないわ。木の実を入れたんはお前以外の誰かなんやし、気にすることないで。」
カメキチはライナに言った。

「だけど・・・、私が味見をしていればこんなことには・・・。私、ソウマに謝ってくる・・・。」
ライナは立ち上がり、ソウマを探しに出た。
さっきは覚えのないことを言われて頭に来ていたが、冷静に考えてみれば、最初に味見をしていなかった自分がいけないのだ。
ソウマは、依頼の掲示板のところで依頼を選んでいた。
やっぱりまだいらいらしてるようだ。

「あ、そ、ソウマ・・・。」
ライナはおずおずと話しかけた。
ソウマは知らん顔をしている。

「さっきはごめんなさい・・・。私が味見をしてれば、きっとあんなことにはならなかったわ。でも、渋いのが苦手だっていうのは本当に知らなかったのよ。それに、渋いエキスを入れたのも・・・。」
しかし、ソウマは舌打ちするとまたライナの横を通り抜けていった。

「ちょ、ちょっと!」
ライナはまたソウマを追いかけた。

「ちょっと待ってよソウマ!私の話を聞いてったら!」

「これ以上何を話すんだよ!?てめえにあんなもん食わされて、こっちは頭に来てんだ!!いちいち気に障ることすんな!!」
ソウマはライナをにらみつけて怒鳴った。

「あれは本当に私じゃないわ!それに渋いのが苦手だっていうのも初耳よ!」

「お前以外に誰があんなことできるんだよ!!それに、オレははっきりと渋いのは苦手だって言ったぞ!!それをてめえが忘れてるだけだろうが!!」

「本当に知らないわよ!!ソウマが言った気になってるだけでしょ!!」
とうとうライナも頭に来て怒鳴り返した。

「なんだよ?今度は逆切れか!?」

「そっちこそ眠れなかったからって八つ当たりしないでよ!!人の気も知らないで・・・、ソウマなんか最低!!」

「な、なんだとおおおおお!?」
ソウマはさらに逆上した。

「もういい!!てめえの顔見てるといらいらがおさまらねえぜ!!二度とオレにその面見せるな!!」

「それはこっちのセリフよ!!もうソウマとは絶好よ!!」

「上等だ!!てめえとなんか口利きたかねえや!!」
とうとう大喧嘩に発展してしまい、二人の仲は断裂してしまった。
依頼に出かけるときも、二人の機嫌は直らず始終顔を背けていた。

「おいソウマ、ライナに謝れや。いくらなんでもあそこまで言うことないやろ?」

「ライナ先輩も意地張らないで・・・。」

「うるせえ!!部外者は引っ込んでろ!!」

「別に張ってなんかないわよ!関係ないんだから黙ってて!」
カメキチとドンペイが何とか仲直りさせようとしても、逆に怒りをあおる結果となり、ますます険悪なムードになってしまった。
今回の依頼は、カルストやまの救助依頼が三件とおたずねもの一件だった。
そのおたずねもの、、ストライクとカイロスの二人組みを追いかけているときにトラブルが発生したのだ。

「それえええええええ!!!」
ライナは何度も何度もカイロスに十万ボルトを放った。
まるでソウマへの怒りを電気に混ぜて発散しているかのようだ。
しかし、怒りに任せているためかちっとも当たらない。

「なにやってんだよ!!はずしてばっかじゃねえか!!」
ソウマが怒鳴った。

「うるさいわね!!そっちこそ当たってないじゃない!!」
ソウマのほうも、いつも以上に技の威力が高い。きっとイライラが原因だろう。
その反面、命中率は低く、なかなか攻撃が当たらなかった。

「お前らいつまでけんかしとんや!!依頼のときぐらい集中せい!!」
カメキチが二人に喝を入れた。
二人とは違い、カメキチは正確にれいとうビームを当てて相手を弱らせている。
ドンペイも同じだった。
数分の後、ようやくカイロスは捕まえたものの、ストライクを逃がしてしまった。
みんなは必死で追いかけたが、相手はなかなかすばしっこい。
なかなかつかまえられないもので、ソウマはまたいらいらし始めた。

「あのやろう!!ちょろちょろ逃げやがって!!」

「落ち着けソウマ!冷静にならんかったら失敗するで!」

「いちいちうるせえな!文句言ってる暇があったらつかまえろよ!!」
ソウマはぴしゃっとカメキチに言った。
カメキチは大分ソウマに腹が立ってきた。
ライナのこともあるし、どう考えても眠れなかったことの八つ当たりにしか思えないのだ。
そして、不意にストライクが立ち止まりこっちに向かってきた。

「ようやく倒せるぜ!!お縄につきやがれ!!」
ソウマはかえんほうしゃを放とうとしたが、敵を倒すことばかりに執着していたためか、他の敵がいることに気がつかなかった。
その敵のサイドンは、ソウマにはかいこうせんを放つ準備をしていた。
ソウマはストライクと戦っていたため全然気付かなかった。

「ソウマ!危ない!!」
ライナはとっさにソウマに体当たりした。
そのかわりに、ライナはストライクのかまいたちをうけてしまい、いわに叩きつけられた。
怒っているはずだが、やはり心のどこかではソウマのことを気にかけていたのだ。

「いった~・・・。」
ライナは腕を押さえて立ち上がった。
すると、目の前にはソウマが立っていた。
ものすごい目でこっちをにらんでいる。

「どういうつもりだ・・・?」

「え・・・?」

「なんでオレの邪魔をしたんだ!!おたずねものが逃げちまったじゃねえか!!」
ソウマはライナに怒鳴った。

「ち、違うわよ!!向こうに敵がいてソウマを狙ってたから・・・。」

「どこにいるんだよ!?ええ!?」

「どこってそこに・・・。」
ライナはそこまで言って口をつぐんだ。
サイドンはばれたと思って攻撃をやめ、とっくにどこかへ行ってしまい、ストライクも姿を消してしまっていたのだ。

「さっき・・・、そこにサイドンが・・・。」

「そうかよ。よくわかった。」
急にソウマは冷静な口調になった。
そして・・・。

「オレの足引っ張るんなら、金輪際依頼に参加すんじゃねえ!!いちいち邪魔なんだよ!!」
その言葉にライナは凍りついた。
そして、目の前が真っ暗になっていき、頭に邪魔という言葉だけが反響した。

「おいソウマ!!お前いくらなんでも言い過ぎやぞ!!サイドンがお前をねらっとったんは本当じゃ!!」

「そんな証拠がどこにあるんだよ!!ライナが邪魔しなけりゃ、ストライクを逃がさずにすんだんだ!!今朝といい今といいほんと余計なことばっかりしやがって!!」

「ライナはお前のためをおもうて一生懸命やりよるんやろが!!それがわからんのか!?」

「その一生懸命がうっとおしくてたまんねえんだよ!!」

「なんやて!?もう許せん!!」
ソウマの暴言にカメキチはとうとう切れた。
猛然とソウマにつかみかかり、壁際に押し付けた。

「なんだよ?やる気か!?」
ソウマはカメキチを突き飛ばした。

「おう!!やったろうやないか!!」
カメキチはソウマの顔をおもいっきり殴った。
ソウマも殴り返し、そこからは殴り合いのけんかになってしまった。

「二人ともやめてください!けんかしてる場合じゃないですよ!」
ドンペイは必死で止めたが、体格が違いすぎてとても対処できなかった。
けんかはエスカレートし、二人の顔はかなり腫れあがっていた。

「やめて・・・。二人ともやめて!!」
あたりにライナの大声が響き渡り、ソウマとカメキチは殴るのをやめた。
ライナはソウマにつかつかと歩み寄ると、思いっきりソウマの頬を張った。

「っつ・・・!」

「最低・・・。あんたなんか最低よ!!」
ライナはそれだけ言うと先へ進み始めた。
ソウマはしばらく呆然とその場でたたずんでいた。
ライナに平手打ちを食らわされるとは予想もしていなかったのだ。

「チッ・・・。」
ソウマは忌々しそうに舌打ちすると歩き出した。
カメキチとドンペイも一瞬何が起こったのかわからなかったが、二人が歩き出したのを見て後を追いかけた。
残りの救助依頼は何事もなく解決できたものの、ライナとソウマの間の溝は開くばかりだった。
二人の険悪な空気を感じて、依頼者も少しおびえているように見えた。
そして、ギルドに帰ってきてからもまだまだ悪い出来事は続いた。

「まったく!おたずねものを取り逃がすなんていったい何をやっているんだい!!」
帰ってきたソウマ達を目ざとく見つけてぺラップは怒鳴った。
どうやらストライクを取り逃がしたことが耳に入っていたようだ。

「オレのせいじゃねえよ!ライナがオレの邪魔したから逃がしたんだ!」

「何よ!?自分の失敗は棚に上げて!全部ソウマのせいじゃない!!」
またしても口げんかが始まってしまった。

「うるさああああああああああい!!」
ぺラップはとうとう耐え切れなくなって怒鳴った。
二人はぺラップがいきなり大声を出したのでけんかをやめてしまった。

「お互いに責任の擦り付け合いをするんじゃないよ!!お前達四人は明日1日謹慎処分だ!!少しは頭を冷やして反省しろ!!」
ぺラップは大声でそう言うとプクリンの部屋に入っていってしまった。

「くそお!何で謹慎なんだよ!!」
ソウマはペラップの背後に怒鳴った。

「仕方ないやろ!お前のせいやろうが!」
カメキチは横目でソウマをにらんだ。

「んだと!?」

「だからやめてくださいって!」
またけんかになりそうだったので、ドンペイはあわててとめに入った。
ライナはずっと下を向いており、そんなことには関心がなさそうだった。
部屋に帰ってからも、会話などは一切なく、重々しい雰囲気だった。

「いや~!今日もよく働いたぜ~!」
部屋の入り口から陽気な声が聞こえてきた。
ソウイチ達も帰ってきたようだ。

「よく言うよ。モリゾーとゴロスケが一番頑張って、ソウイチはサポートしてただけじゃないか。」

「仕方ねえだろ!おたずねものがじめんタイプだったんだから!」

「それでも僕は頑張って戦いました!」
早速ソウヤの突込みから兄弟げんかが始まる。

「まあまあ、おたずねものはみんなつかまえたんだからいいじゃない。ね?」

「そうそう。結果オーライだよ。」
モリゾーとゴロスケが二人をなだめた。

「ったく・・・。あれ?みんなどうしたんだよ?そんな暗い顔して。」
事情を全く知らないソウイチは明るく声をかけた。
ソウマはそれが気に障ったのか、立ち上がると部屋を出て行ってしまった。
ライナもその後を追うように出て行き、隣の部屋へ行ってしまった。

「どうしたんだろ・・・?」

「いつもと全然様子が違うな・・・。」
ゴロスケとシリウスは不思議がった。

「ねえ、何があったの?」
ソウヤはカメキチに聞いた。

「ああ、実はな・・・。」
カメキチは今までのいきさつを話し始めた。

「えええ!?あのソウマがそんなことを?」

「信じらんねえ・・・。」
みんなカメキチの話を信じることができなかった。
いつもの冷静でやさしいソウマがそんな風に豹変することには想像が及ばなかったのだ。

「いくら寝不足でも、あそこまで八つ当たりすることはないやろ・・・。ライナがかわいそうやわ・・・。」

「ライナさんも大変ですね・・・。」
カメキチのいうことにコンは深くうなずいた。

「でもおかしいな~・・・。アニキが渋いのが嫌いなんて一言も聞いてないのに・・・。」
ソウヤはつぶやいた。

「何!?それは確かか!?」
カメキチは急に大きな声を出した。

「え?う、うん・・・。ねえ、ソウイチ?」

「ああ。オレも初耳だぜ?」
どうやら、本当にソウマは渋いのが苦手だと言うことを誰にもいってなかったようだ。

「やっぱりな~・・・。ライナがソウマの好み忘れるはずないわ。」
カメキチはしきりにうなずいた。

「だけど、何でそのパイはそんなに渋くなってたのかな?」
ソウヤがカメキチに聞いた。

「そこが一番のなぞや。誰かが入れん限り、あんなには渋ならんはずやのに・・・。」

「なあ、ちょっと聞くけど、そのシーヤっていい香りがするやつか?」
ソウイチはカメキチに聞いた。

「ああ。あの木の実はいい香りに惑わされて大量に入れて渋かったってことが、素人の間でよくあるんや。ライナはシーヤの特性はよくしっとったし・・・。」
カメキチはまた考え込んだ。

「それ、もしかしたらオレかも。」

「えええええええええ!?」
ソウイチの意外な発言にみんなが飛び上がった。

「いや・・・、あまりにもいい香りだからうまい木の実なんだろうな~って、余ってたそのシーヤってやつ全部入れちまったんだ・・・。」
ソウイチはばつが悪そうな顔で言った。

「お前か原因は!!毎度毎度面倒起こしよってからに!!」

「わわわわ!勝手に入れたりシーヤ以外の木の実持って行ったりしたのは悪かったって!!」
ソウイチはカメキチの形相に驚いて思わず土下座した。
土下座でもしないと凍らされそうな予感がしたのだ。

「・・・まあええわ。やけど、問題はどうやってソウマとライナを仲直りさせるかやな・・・。」
カメキチは手を引っ込めると考え込んだ。

「確かにそうですよね~・・・。二人ともすごく怒ってましたし、一筋縄ではいきませんよ・・・。」
ドンペイも浮かない顔だ。

「う~ん・・・。」
ほかのみんなも首をひねって考えたが、いい考えは浮かんでこなかった。

「しゃあないな・・・。とりあえず、明日対策考えよ。」
みんなはカメキチの言うことにうなずいた。
これ以上考えても、いいアイディアは出てきそうにない。
寝る時間になってもソウマとライナは相変わらず口を利かず、ライナはこっちの部屋で、ソウマは隣の部屋で寝た。
みんなはその様子を見てため息をついた。

「(ライナがやったんやないっていうことはこれではっきりした。そやけど、よっぽどのことがないと仲直りできんやろな・・・。どないしたらええんやろ・・・。)」
カメキチは心から二人に仲直りしてほしいと思っていた。
二人が幸せでいることが、自分にとっての幸せでもあるからだ。
相思相愛である二人が、けんかしたままなのはとてもつらいのだ。
それでも、考えれば考えるほどいい考えは遠のいていくような気がした。


アドバンズ物語第五十五話



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Last-modified: 2011-05-09 (月) 00:00:00
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