ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第三十話 ライナとソウマのバレンタインデー
現実世界の2月14日、誰もが知っているバレンタインデーである。
現実世界と日付がリンクしているのかどうかは知らないが、トレジャータウンでもそんな感じのムードが漂っていた。
ポケダンの世界では、チョコを送る代わりに、グミを何種類か組み合わせ、溶かしたものをいろいろな形にして相手に贈るのだそうだ。
しかし、それは女性から男性へ贈ることに限らず、男同士、女同士など、さまざまだ。
それに、ここでは好きな相手に贈るという週間はなかったのだ。
もちろん、そのムードはアドバンズも例外ではなかった。
カクレオン商店の前には、長蛇の列ができていた。
もちろん目的は、グミを買うためだ。
その列の中にはライナ、カメキチ、ドンペイの姿もあった。
なぜ三人が並んでいるのかというと、それは今朝のことだった。
「グミを送る日?」
ソウイチとソウヤがライナに聞いた。
「そうよ。今日は相手に感謝の気持ちなんかを込めて自分で形を作ったグミを送るの。」
ライナは二人に説明した。
実際、この日はギルドも特別に仕事が休みなのだ。
「へえ~、なんだかバレンタインデーみたいだな。」
「バレンタインデーって何?」
ソウイチが言ったことに、モリゾーとゴロスケが食いついた。
「俺達の世界では、女が好きな男にチョコを贈る日なんだ。一部ではプロポーズの意味合いもあるらしいぜ。」
「好きな男の人に!?」
その言葉に、ライナはものすごく反応した。
そして、ある考えを思いついたのだ。
ソウマに、ソウマの好きなグミを組み合わせたものを贈ろうというのだ。
そして、そのタイミングを見計らって告白しようという狙いだったのだ。
「カメキチ!ドンペイ!ちょっと一緒に来て!!」
そう言うと、ライナは全速力で外へ飛び出していった。
「うえ!?あ、おい!!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ~!」
二人はあわてて後を追いかけた。
「待てよ!!バレンタインデーは・・・。あ~・・・、行っちゃったか~・・・。」
ソウイチは重要なことを言うのを忘れていてライナに伝えようとしたが、伝える前に飛び出してしまったので言うことができなかったのだ。
そして、現在に至る。
「なかなか進まないわね~・・・。こんなに人がいるなんて・・・。」
ライナは予想外の人手に驚いていた。
「まあ、今日はグミ贈りの日やけんな。こんだけおっても不自然やないわ。」
30分も並んでいると、ようやくライナたちは前のほうへ来た。
しかし、残りが後2、3人になったところで売り切れになってしまった。
予想はしていたものの、ライナはすごくがっかりした。
「しゃあないわな。グミなんてダンジョン行ったらぎょうさんあるわ。オレも一緒にいったるけん元気だしや。」
カメキチはしょんぼりしているライナを元気付けた。
「そうよね・・・。落ち込んでる暇なんかないわ!」
ライナは元気を取り戻すと、さっそくグミ集めに出発した。
ソウマの好きな色はオレンジなので、混ぜるとオレンジ色になるあかいグミときいろグミを探すことにした。
幸い二つとも、しめったいわばで手に入れることができるので、3人はそこへ行くことにした。
「う~ん、なかなかないわね~・・・。」
かれこれ2時間、ライナたちは未だにグミを見つけられずにいた。
「おっかしいな~・・・。このダンジョンにあるはずなんやけどな~・・・。」
カメキチもきょろきょろとあたりを見回す。
「もしかして誰かに拾われちゃったんでしょうか?」
ドンペイが不安そうに聞いた。
「いや、それはないやろ。ここは一部にぎょうさんグミが落ちとることで有名や。全部拾えるほど少ないわけないわ。」
カメキチは一度、大量にグミのあるフロアを見たことがあるのだ。
「じゃあ、そこへ行けばあるのね?」
「ランダムやけど可能性は0やない。ちなみに、グミは何個ぐらいいるんや?」
「え~っと・・・。あかときいろ、両方とも3個ずつよ。」
「よっしゃ!ほんなら先進もで。」
カメキチに促されみんなは次のフロアを目指した。
その途中で、ライナは水の中にきいろグミがあるのを見つけた。
「あ!あった~!これで残り5個ね♪」
ライナは水の中へ入りグミを拾おうとしたが・・・。
手が届こうとした瞬間、ものすごい悲鳴が上がった。
「な、なんや!?どした!?」
「きゃああああ!!痛い痛い痛い!!いたああああい!!!」
なんと、ライナの尻尾にアノプスがくっついていたのだ。しかも5匹も。
まるで魚釣りでもしているような光景である。
あのはさみのようなもので挟まれたらかなり痛いだろう。
「うええええ!?なんでそんなに!?」
カメキチは一瞬固まった。
「知らないわよ!!もう~!!離れなさああああい!!!」
ライナは頭にきて十万ボルトを連発した。
アノプスはもちろん十万ボルトを浴びたが、床画湿っていたので、カメキチやドンペイまで感電してしまった。
「ひいいいいいいいい!!!」
「おげげげげげげげげ!!!」
二人はあまりの電気の強さにひっくり返ってしまった。
ドンペイはまだましだが、カメキチは水タイプなのでかなりダメージを受けた。
「アホ!!少しは考えて技使え!!」
電気でしびれたカメキチはライナに腹を立てた。
「ご、ごめんなさい・・・。痛かったから、つい・・・。」
ライナはしゅんとなった。
「ったく・・・。グミ拾いに夢中になるんはええけど、少しは回りのことも考えよ?」
若干怒りは収まったものの、カメキチの言い方にはとげがあった。
「うん・・・。本当にごめんなさい・・・。」
ライナはすっかりしょげ返ってしまった。
「もうええよ。これぐらいやったらまだ大丈夫や。はよ残り探そで。」
実際すさまじい威力だったが、ライナを気遣ってカメキチは元気そうな様子を見せた。
「うん・・・。」
まだ気にしてはいたが、カメキチの言葉で若干気が楽になったライナであった。
そして、とうとうフロアを全部クリアし、最下層まで到達してしまった。
「やっぱりグミいっぱいのフロアはなかったわね・・・。」
結局、あの時拾ったきいろ一個しかグミを手に入れられなかったのだ。
あれ以来見事にどのフロアにも落ちていなかった。
「あのフロアはランダムやけんな・・・。今回は出てこんかったか・・・。ごめんな・・・、変な期待さして・・・。」
カメキチはちょっと悔しそうだ。
ライナの役に立てなかったというのがその理由だろうか。
「いいわよ・・・。これで何とか作ってみるわ。一緒に来てくれてありがとう。」
ライナはちょっと残念そうだったが、カメキチににこっと笑って見せた。
その笑顔を見て、カメキチも照れくさそうに笑った。
「せんぱ~い!!!ちょっとこっちきてください!!早く早く!!」
ドンペイが奥にある小さな滝のところで叫んでいた。
何事かと思い二人は急いで駆けつけた。
「みてください、すごいですよ!」
ドンペイが滝の下の池を指差すと、その中にはなんと、色とりどりのグミが大量に落ちていたのだ。
あかいグミやきいろグミもたくさんあった。
「うわ~!すごい!」
「ここやったとはな~・・・。こんだけあったら何人分でも作れそうやわ!」
ライナとカメキチはすごく驚いていた。
そして、カメキチは池に飛び込むと、あか3個、きいろ2個を拾って戻ってきた。
「これで全部やな。よ~し、ほんならはよ帰ろで。」
「あ、待って!最後に、あおいグミを3個持ってきてくれる?」
帰ろうとするカメキチにライナは頼んだ。
「あおいグミ?なんでや?」
オレンジのグミを作るのに、青色は関係ないと思ったのだ。
「隠し味よ。ちょっとオレンジに関係ないものを混ぜてみるのもいいでしょ?」
「ふ~ん・・・。ま、ええわ。」
カメキチは再び池に潜ると、あおいグミを抱えて戻ってきた。
「これで完璧!さ、戻りましょ。早く帰って作らなきゃ!」
ライナはすごくうきうきしていた。
ギルドに帰ると、ライナは調理場を借りてグミを溶かし、ハート型に固めた。
ひとつはオレンジ色のソウマにあげるもの、もうひとつは青色のものだった。
「これでよし!あとはラッピングすればOKね。」
ライナは箱にグミを詰めてリボンで飾った。
そして、ソウマをつれて海岸へ行った。
大事なことをするときはどうやら海岸が多いようだ。
「ねえ、ソウマ。今日何の日か知ってる?」
お約束のフレーズでソウマに聞く。
「え?う~ん・・・。誕生日はまだまだ先だし、クリスマスも全然関係ないし・・・。」
全く心当たりがないようだ。
「あのね、今日は相手に感謝の気持ちを込めて、自分で形を作ったグミを送る日なの。だから、ソウマにもプレゼントしようと思って。」
ライナはちょっと照れながら言った。
「グミ?オレにか?」
ソウマは予想していない答えだったのでびっくりした。
「うん。それに、人間の世界ではバレンタインでーって言う日なんでしょ?だから、その意味も込めて、これをプレゼントしようと思って。」
ライナはそう言うと、後ろから箱を出した。
「いつも本当にありがとう。ソウマ。」
ライナは精一杯の気持ちを込めてソウマに差し出した。
しかし、ソウマはどこかふに落ちないような顔をしていた。
「どうしたの?もしかして、いらなかった・・・?」
ライナは悲しそうな顔で聞いた。
「いや、そうじゃなくて・・・。バレンタインデーのことなんで知ってるのかしらねえけど、バレンタインデーは来週だぜ?」
「え・・・。」
ライナは絶句した。まさか日付を間違えているなんて思いもしなかったのだ。
さっきソウイチが言おうとしたことはこれだったのだ。
「こっちではそうかもしれないけど、人間の世界ではまだだったと思うぜ?」
その言葉を聞いて、ライナの顔はか~っと真っ赤になった。
ものすごく恥ずかしかったのだ。
「(ああ~・・・。まだだったなんて・・・。もう~、私のバカ~・・・。)」
ライナは泣きたい気持ちになった。
ソウマの前でこんな失態をさらしてしまっては、もうどうすればいいか分からなかったのだ。
すると、ソウマはライナの箱を黙って受け取ったのだ。
「そ、ソウマ・・・?」
「バレンタインデーは確かに来週だけど、こっちでは今日がその日なんだろ?だったら別に気にしなくたっていいさ。お前の気持ちは日付なんか関係ないだろ?」
ソウマはにこっと笑った。
ライナの沈んだ顔を見て、気持ちを察したのだ。
「え・・・?あ・・・、うん・・・。」
「だったらいいさ。ライナ、早速食べてみてもいいか?」
「え・・・?い、いいわよ。」
ライナはちょっとボーっとしていたので返事が遅れてしまった。
ソウマは箱を丁寧に開けると、グミを手にとって眺めた。
「いい感じのオレンジ色だぜ。オレ好みの色だ。香りもすごくいい。」
ソウマの言葉を聞いて、ライナの顔が輝いた。
ちょうどの色合いを作ることができたのだから。
そして、ソウマはグミを少しだけ食べた。
ライナがどきどきしながら見守っていると・・・。
「・・・うまい・・・。これすごくうまいよ!」
「ほ、ほんと!?」
「ああ!オレのために、本当に一生懸命作ってくれたんだな。ありがとう、ライナ。お前の気持ち、すっごく伝わったぜ!」
ソウマは心からの笑顔を見せた。本当に嬉しかったのだろう。
自分が想っている相手からもらえることは、本当に嬉しいのだ。
ライナも、ソウマがとても喜んでくれてこの上ない幸せだった。
そして、今こそ告白するチャンスだと思った。
「あ、あの・・・、ソウマ・・・。」
「ん?なんだ?」
「実は、前から言おうと思ってたんだけど・・・、私ソウマのことが好・・・。」
ライナがそこまで言うと・・・。
「お~い!!ソウマ~!!親方様がお呼びだから、すぐ戻ってきてくれ~!!」
遠くからぺラップがソウマを呼んだ。
「おう!すぐ行く!!悪いな、ライナ。待たせるとぺラップの機嫌が悪くなるから、また今度な。グミ、ほんとにありがとう。」
そう言うと、ソウマは足早にギルドへ戻っていった。
「あ・・・。あ~あ・・・。また言えなかった・・・。」
ライナはその場にたたずんでいた。
「・・・でも、これでチャンスがなくなったわけじゃない・・・。次こそ、ちゃんと告白して見せるわ・・・!」
新たな決意を固めるライナだった。そして、あることを思い出した。
「あ、そうだ!まだやることがあったんだわ!」
ライナも急いでギルドの調理場へ戻った。
調理場にはまだ、青リボンの箱が残っていた。
ライナは箱を持ってカメキチを探しに行った。
カメキチはちょうど、部屋の奥でつり道具を整理していた。
「カメキチ、ちょっといい?」
「ん?なんや?」
カメキチが振り返ると、ライナはさっきの箱を差し出した。
「あけてみて。」
ライナのいうとおり箱を開けると、中にはハート型のあおいグミがあった。
「こ、これどしたん!?」
「カメキチ、今日私に付き合ってグミを探してくれたでしょ?そのお礼。それに、あのときのお礼、まだしてなかったし・・・。」
あの時とは、ライナがカメキチにソウマが好きだということを打ち明けたときのことだ。
「ほ、ほんまにええのん?」
カメキチは信じられなかった。
普通渡すとすればソウマだけのはずなのに、自分までもらえるとは思ってもみなかったのだ。
「ええ。今日は本当にありがとう。」
ライナはにこっと笑顔を見せると、そのまま部屋を出て行った。
カメキチはしばらく箱を眺めていたが、やがてグミを出すと、ぱくっと口に入れた。
「・・・うまいわ・・・。ありがとな。」
誰に言うわけでもなく、カメキチはつぶやいた。
どこか寂しげであったが、どこかものすごく嬉しそうだった。
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