ポケモン小説wiki
アドバンズ物語第三十六話

/アドバンズ物語第三十六話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
まとめページはこちら


第三十六話 エレキへいげんの罠! 対決ラクライ一族! 後編


いよいよ戦いの始まりである。
しかし、両者はにらみ合ったままいっこうに動かない。
あらゆる方向からの攻撃に備えるため、ソウイチは背中をつきあわせて円形になるよう耳打ちした。

「お前ら、準備はいいか?」
ソウイチはメンバーを見回し、準備ができたかどうかをうかがう。
ソウヤ達は目で大丈夫だということを伝え、再び敵とにらみ合った。
一歩でも出遅れれば確実にやられる、息を殺して、技を仕掛けるタイミングを探る。
次の瞬間、静寂を破ってラクライの一人がでんこうせっかで先手攻撃。
それを合図に他のラクライ達も動き出す。

「いいか? 絶対動くんじゃねえぞ! ぎりぎりまで相手を引きつけろ!」
ソウイチはソウヤ達の方を振り返って言う。
向こうが先に動いたからには、こっちから先に動いては分が悪い。
距離をできるだけ縮めて、命中率をなるべくあげようというのだ。
その意思を汲み、五人はうなずいて目線を元に戻す。
着々とラクライとの距離が近づき、いよいよあと数メートルでぶつかろうというその時・・・。

「今だ!! いっけえ!!」
ソウイチの合図で一斉に攻撃を開始。
だいもんじ、タネマシンガン、シャドーボール、れいとうビームと様々な技が飛び交う。
ゴロスケのれいとうビームは覚えたてのせいか、いまいち威力が発揮されていないようだ。
ソウヤやルル達は、でんきやはがね系統の技がつかえないので、ノーマルタイプの技で応戦する。
シリウスはもちろん得意のあなほり戦法、ソウイチたちが敵の気をひいている間に、地面をぐるっと掘ってしまおうという考えだ。
敵の妨害を受けつつも、なんとか円形に穴を掘ることに成功。
そして敵が円の中心に集まるのを見計らい、ソウヤがアイアンテールで地面に亀裂を入れた。

「な、なんだ!?」
不意を突かれたラクライ達は、その場で悲鳴を上げる間もなく穴の中へ真っ逆さま。
シリウスによると、かなりの深さまで穴を掘ったらしく、そう簡単にはい上がってこられないとか。
しかも落ちた衝撃でさらにダメージを受けることから、戦いはさらに有利になる。
ほかのメンバーに褒められ、さも当然という風に調子に乗るシリウスだったが、その豪快な笑いは一瞬にして消え去った。

「え・・・?」
鈍い衝撃の後、体から完全に重みが消える。
見る見るうちに仲間の姿が遠のいていくのが分かった。
気を緩めたのがあだとなり、ラクライに体当たりされてシリウスは穴底へ真っ逆さま。
悲鳴が暗闇にこだまし、やがてあたりを静寂がつつんだ。

「バカ・・・」

「もう・・・」
ソウイチとコンは額に手を当ててため息をつく。
ほかのメンバーも呆れた表情は浮かべているものの、あまりのバカさ加減に言葉が出てこない。

「キサマら・・・。よくも仲間を・・・!!」
振り返ると、目の前にはラクライ数人とライボルトがいた。
間一髪落とし穴攻撃を回避し、気配を悟られぬよう岩陰に身をひそめていたのだ。
気配を察するのも得意なら、その逆もしかりということ。

「くそお・・・! まだ残ってたか!!」

「みんな落ちたと思ったのに!」
彼らはあわてて攻撃態勢を整えるが、数秒のタイムラグが命取りとなった。
ライボルトは怒りを込めてチャージビームを放ち、それは見事ソウヤに名中。
背後にいたモリゾーとミナトまで巻き沿いを食い、三人は暗い空間に飲み込まれていく。
彼らの名前を叫ぶものの、それはむなしく壁に反響するだけ。

「これ以上痛い目にあいたくなかったら、今すぐここから立ち去れ!!」
ラクライ達はソウイチ達に向かって叫ぶ。
しかし、その声はもはやソウイチたちには届いていない。
ソウヤ達を穴に突き落とされた怒りが体中に渦巻き、鬼のような形相で敵をにらみつけている。
ライボルトはまだまだ体力余裕があり、すでにチャージビームの準備を始めていた。

「お前・・・!! よくもソウヤを!!」
ゴロスケはよく狙いを定めずれいとうビームを連射。
もちろんそんないい加減なものが当たるはずもなく、ライボルトは軽々とそれをよけチャージビームを放つ。
ゴロスケはでんき技でかなりのダメージを受けただけでなく、まひしてその場に膝をついた。
ソウイチ達が気を取られている隙に、ラクライ二人がルルとコンをたいあたりで岩壁にたたきつける。
コンはまだ動けそうだったが、ルルはすでに気を失っていた。
実戦を経験するにはまだ早かったのか。

「どうだ? これでもまだやるつもりか?」
ライボルトは形勢が有利になったためか、余裕の笑いを浮かべている。
ソウイチは顔を俯けていて表情は見えないが、激怒していることは確実。
ぎゅっと握りしめたこぶしはぶるぶると震え、彼はゆっくりと顔を上げる。

「てめえ・・・。オレの仲間に手ぇ出して・・・、ただですむと思ってんのか・・・?」
完全に切れたことを、いつもと違う形の目が象徴している。
背中から吹き出す炎は通常の三倍ほどあり、彼の怒りの度合いを物語っていた。

「そっちが進入してきたのがすべての原因!! キサマもここで終わりだ!!」
一人のラクライがとどめを刺そうと突っ込む。
ソウイチはコンが叫んでも全く動く気配がない。
勝負ありと誰もが思った瞬間、ラクライの動きが止まった。

「え・・・?」

「な、なんだと!?」
ゴロスケ達だけでなく、ラクライやライボルトまでもが唖然とした。
なんと、ソウイチは素手でラクライをつかんでいたのだ。
ラクライは逃れようとじたばたするが、ソウイチはその都度力を強め放そうとしない。
野球ボールのごとくラクライを投げつけ、ほかのラクライも一緒に岩壁へ叩きつける。
あまりの勢いに岩壁に深くめり込み、気絶するものや身動きが取れないものが続出。

「き・・・、キサマああああ!!」
ライボルトはソウイチに目線を合わせたが、その顔を見て一気に戦う気力が失せてしまった。
顔はなまはげのごとく変化し、見たものをその場に硬直させ莫大な恐怖を生んでいる。
危険を感じライボルトは下がろうとしたが、筋肉が縮みきって顔をそむけることすらできない。
突然ソウイチは猛ダッシュし、ライボルトにずつきを食らわせる。
他のラクライ達と同じように岩壁めり込ませ、動けなくしてから容赦なくほのお技を浴びせた。
激しく叫び声をあげるライボルトなどお構いなしで、ソウイチは必要以上に攻撃を加え続ける。
ついには気絶しているラクライにまでも手を挙げ、いくら倒すためとはいえ見るに堪えない。

「ソウイチさん!! もうやめてください!!」
あわててコンがソウイチの肩をつかんで止めようとするが、ソウイチは回し蹴りでコンを引き離し、しっぽをつかんで振り回す。
最初はコンも冷静にソウイチを止めようと奮闘するが、あまりの攻撃にとうとう彼女までも切れてしまった。

「てめえ・・・。いい加減にしろっつってんだろうが!!」
巨大なシャドーボールをソウイチの腹に打ち込み、スピードスターやずつきで応戦する。
それでもソウイチはコンを敵だと思っているのか、一向に攻撃を緩めない。
頭に血が上ってしまい、もはやその区別もつかなくなってしまっているのだ。

「ど、どうしよう・・・。なんとかしなきゃ・・・! このままじゃ・・・、このままじゃ二人とも大変なことになっちゃうよ・・・!!」
ゴロスケは二人を止めようとしたが、足をひねっているのか力が入らない。
いくら動けと念じても、その指令が足へ届くことはなかった。
それが腹立たしく、そして仲間同士で傷つけあう様子がつらく、ゴロスケの目には涙が滲む。
すると、いきなり後ろからでんげきはが飛んできた。
ゴロスケはとっさにその場に伏せたが、でんげきははコンとソウイチを直撃。
そのおかげで、今までもみ合っていたソウイチとコンはその場に座り込み、コンは冷静さを取り戻した。

「あの電撃は・・・」
ゴロスケが後ろを向くと、そこには壁から抜け出してきた三人のラクライが。
必要以上に傷つけられた仲間を目の当たりにし、怒りのボルテージはソウイチ以上に高まっている。
もはや言葉すら浮かばないのか、ラクライ達は二人にとびかかり、目にもとまらぬ速さで地面になぎ倒した。
背中から押さえつけられているために攻撃することもできず、もがけばもがくほどラクライは体重をかけてのしかかる。

「やめろ!! 二人に手を出すな!!」
動けない体にムチ打って、ゴロスケはれいとうビームをラクライ達に向かって放つ。
だが素早さでわずかに及ばず、援護は味方への追い打ちとなってしまう。
ゴロスケ自身もラクライのでんげきはで吹っ飛び、もはや頭を持ち上げることすらできなかった。
それを見届け、ラクライ達はソウイチ達にとどめを刺そうと踵を返す。

「やめろ!! やめてえええええええ!!!」
ゴロスケの叫びもむなしく、二人はソウイチ達にとびかかった。
ゴロスケが思わず目をつぶったその時。

「待てこらああああああ!!」
怒号と同時にラクライ達が吹っ飛び、ゴロスケは目を見開いてその様子を見ていた。
一体何が起こったというのだろう。

「オレをほったらかしにしてんじゃねえよ!!」

「オレ達でしょ?」
そこには、穴に落ちたはずのシリウス達がいるではないか。
彼らは穴の底に落ちた後、例によってシリウスの穴掘りで地上までトンネルを掘り帰ってきたのだ。
その証拠に、ふらつきながらも穴の底に落ちたラクライ達がトンネルから出てきている。

「み、みんな・・・!!」

「ゴロスケ、大丈夫?」
ソウヤは傷だらけになっているゴロスケを気遣う。
だが、ゴロスケは自分のことよりもソウイチの方が心配でたまらない。
ソウイチが無差別に敵を攻撃する姿は、リンゴのもりでソウヤがニドキングにしていたことを髣髴とさせる。
あの時は、噛まれようが殴られようが自分を止めようとしたソウイチ。
それが今はあの時の自分と同じような状況に陥っている、ソウヤにはそれが信じられなかった。

「たぶん・・・、ソウヤと同じ理由だと思う・・・。今回はソウヤだけじゃなくて、他のみんなもひどくやられたから、それで・・・」
ゴロスケは嗚咽を漏らしながら涙ながらに話す。
だれもが絶句していたが、そんな中シリウスは忌々しそうに吐き捨てた。

「あいつは本当のバカかよ!? 万が一のために、穴の底に安全地帯作ってあったっていうのに!!」
実はシリウス、偶然か必然か掘った土を利用して穴の底にクッションを作っていたのだ。
ラクライ達もその上に落ちていて、ダメージはあまり受けていないものの平衡感覚の狂いからふらついていたらしい。
ゴロスケはソウイチの姿をこれ以上見たくなく、またぼろぼろと涙をこぼす。
その涙を見て、何を思ったのかソウヤはソウイチに近づこうとしたのだ。

「バカ!! どうするともりだよ!?」
シリウスはあわててソウヤの肩をつかみ引き戻す。
しかし、ソウヤはその腕を振り払ってはっきりと告げた。

「あの時ソウイチは、僕のことを体を張って元に戻そうとしてくれた。レクのおかげでもあるけど、ソウイチがいなかったら、きっと一筋縄じゃいかなかった。だから今度は、僕がソウイチを正気に戻す!」
ソウヤの目は揺らぎない決意であふれていた。
シリウスはそれを感じ取り、のど元まで上がってきた言葉を飲み込む。
ソウヤは一目散にソウイチのもとへ駆け寄り、ソウイチの暴行をやめさせようとした。

「ソウイチ!! もうやめて!! こんなことするなんていつものソウイチらしくないよ!!」
ソウヤはソウイチの肩をがっちりつかんで動きを封じようとする。
ソウイチはかえんぐるまで逃げ出し、上空からソウヤを押しつぶした。
十万ボルトを背中に集中させて隙間は作ったものの、長くはもたない。
アイアンテールで弾き飛ばし、今度はかみなりで直接攻撃を仕掛ける。
戦いたくはないが、こうでもしない限りは自分が先に倒れてしまう。
板挟み状態などお構いなしに、ソウイチはソウヤを振り切ってラクライ達を痛めつけようとした。
その都度ソウヤは羽交い絞めにし、ソウイチを引き離してダメージを与える作業を繰り返す。

「はあ・・・、はあ・・・」
でも、そんな一時しのぎがいつまでも使えるはずはなく、とうとうソウヤのPPが尽きてしまう。
ソウイチは邪魔者を排除するため、かえんぐるまでソウヤに突っ込んだ。
モリゾー達が逃げるよう叫ぶが、ソウヤは覚悟を決めてその場から頑として動かない。
攻撃がヒットしたように誰もが思った。
ところが、よく見てみるとソウヤがソウイチを抱きしめているではないか。
燃え盛る炎の中に手を突っ込み、やけども気にせずぎゅっと抱きしめている。

「もうやめてソウイチ!! これ以上傷つけないで!! なんでだよ・・・、この間は僕を一生懸命止めてくれたのに、なんで自分が暴走しちゃうのさ!?」
ソウヤの目には涙がたまり、今にも零れ落ちそうだった。
かえんぐるまの炎は消える気配がない。

「ソウイチが暴走するとこなんか見たくない・・・!! いつもの、自分勝手で、能天気で、底抜けに明るいソウイチはどこにいっちゃったのさ・・・。お願い・・・、これ以上僕たちを悲しませないで・・・、元のソウイチに戻って・・・!」
すすり上げる声が嗚咽に変わり、ソウヤの涙はソウイチの顔や腕を濡らす。
元に戻ってほしい、その一心で、ソウヤはひたすら涙を流し続けた。
どれほど時間が経っただろう、ふと気が付くと、ソウイチとソウヤを包んでいた紅蓮の炎は消え去っているではないか。

「そ・・・・・・、ソウヤ・・・?」

「え・・・?」
そこにいたのはいつもと同じ目をしたソウイチ。
狂気じみていた目つきは、いつの間にかどこかへ消えてしまっていた。
ほかのメンバーもその様子が分かり、ほっと胸をなでおろす。

「ソウヤ・・・。オレ・・・、今まで何して・・・」
ソウイチの言葉が言い終わる前に、ソウヤのきつい平手打ちが飛ぶ。
乾いた音が平原に響き渡り、突然のソウヤの行動にだれもが息をのんだ。
一番驚いているのは、訳が分からないまま頬を張られたソウイチ。
それもつかの間、理不尽な行為への怒りが込み上げてきた。

「いって・・・! てめえいきなりなにしやが・・・」

「バカ!!!」
あまりの大声に、ソウイチは思わず吐き出そうとしていた文句が引っ込んだ。
はっとしてソウヤの顔を見ると、彼は両目からあふれる涙を止めようともせずソウイチを見ていた。
怒っているようで、どこか安心している複雑な顔をして。

「バカ・・・! バカ!! 自分を見失ったら終わりとか偉そうなこと言って!! 僕がどれだけ心配したか分かってるの!? みんなにも散々迷惑かけて!! 僕が、僕が・・・!!」
言葉がまとまらず、とうとうソウヤは口をへの字に結んで黙り込んでしまった。
その様子を見て、さすがのソウイチも二の句がつげずにいる。

「ソウイチの・・・、ソウイチのバカあ!!」
感情が頂点に達し、とうとうソウヤはソウイチの胸に飛び込んで泣き出した。
激しく泣きじゃくるソウヤと、壁にめり込んだり倒れて呻いているラクライ達を見て、ソウイチは自分が何をしたのかようやく理解。
リーダーである自分が正気を失い、仲間のために戦ったことが結局仲間に負担をかけてしまった。
その事実は、ソウイチに重くのしかかる。

「ソウイチ、この間言ったよね? 自分を見失ったらそれで終わりだ。相手を必要以上に傷つけるか、自分までも危険にさらすことになるって」
ゴロスケはソウイチの目を見てゆっくりと話す。
ただならぬゴロスケの口調に、ソウイチは真剣に耳を傾けた。

「自分を見失ったら、相手だけじゃなく、仲間まで傷つけることになるんだよ? 体だけじゃなく、その心も。わかるよね?」
怒っている風でも、責める風でもなく、言い聞かせるように話すゴロスケ。
あの時のソウヤと同じように、ソウイチにはゴロスケの言葉が深く突き刺さった。

「約束してくれる? もう、自分を見失ったりしない。仲間を悲しませたりしないって。ソウヤも、僕も、仲間同士で傷つけあうのは見たくないんだ・・・。だから、お願い」
ソウイチはしばらく言葉が出なかった。
今までの自分の行為を思い返し、それが本当にベストだったのか自問自答する。
答えはノー、仲間を自分の手で傷つけることが最善のはずがない。
ソウイチはゴロスケに向かってゆっくりとうなずき、わかったという意思を伝える。
そして、まだ泣いているソウヤの頭を優しくなでながらぎゅっと抱きしめた。

「ごめんな・・・。偉そうなこと言って自分がなってたら世話ねえよな・・・。心配かけてごめんな・・・、ソウヤ・・・」
名前を呼ぶ頃には、ソウイチ自身もいつの間にか泣いていた。
情けないのと、ソウヤの優しさ、仲間の優しさが心から嬉しかったのだ。
まだまだ、本当のリーダーに、かっこいいと思われる男にはなれていない、彼はそう思っていた。
しばらく抱き合っていると、二人とも泣き止みお互いに笑顔を見せる。
その暖かい空気を切り裂くかのように、突然二人をでんげきはが襲う。

「感動の時間はそこまでだ。仲間たちを傷つけて、もはやここから返すわけにはいかん! キサマらにはここで消えてもらう!!」
備蓄していたオレンを使い、彼らはすっかり体力を回復。
ぐるりと周りを取り囲まれ、もはや絶体絶命。
もはや荒らしに来たわけではないという弁解が通用するレベルではない。
彼らは一点にかみなりを集中し、巨大な電気の球を作る。
ライボルトの合図で球が放たれ、ソウイチ達に襲い掛かった。
覚悟を決めて目をつぶったその時、目の前にだれかが立ちふさがる気配が。

「待て! この者達に偽りはない! この者達はここを荒らしに来たのではない!」
なんと、そこにいたのはヨノワール。
電気玉を見事粉砕し、ぎりぎりソウイチ達をかばうことに成功したようだ。
突然の助っ人に、だれもが驚きを隠せなかった。

「キサマ! 何者だ!? 名を名乗れ!!」

「私はヨノワール! 探検家だ! ライボルト! あなたたちの怒りはもっともだ! 特に、以前ここであなた方が受けた仕打ちを考えれば、無断で進入するものに対して攻撃的になるのは当然だ!」
ヨノワールは自分の誠意を伝えようと必死でライボルトに訴える。
最初はうなり声をあげていたライボルトだが、彼の話を聞くうちに徐々に敵意が消えていく。

「また、この地があなた方に安らぎを与えていることも、私は理解しているつもりだ! この者達があなた方の縄張りを侵したのはわびよう! しかし、それは決してあなた方に危害を加えるためではない! 用が終わり次第我々はすぐにここから立ち去る! 信じてくれ!!」
ライボルトはしばらく考えていたが、やがてひとつ吠えると、仲間を連れて奥の方へと歩き始める。
少しだけ時間をやる、その間に立ち去れ、ライボルトはそう言い残し、その場から姿を消した。
ヨノワールの必死の説得は功を奏し、ことは穏便に済んだようだ。
ソウイチ達は安心したのか、その場に座り込みため息をつく。
そしてそろってヨノワールに礼を言った。

「あのラクライ達はいったい何だったんでしょう・・・」

「彼らはライボルトとラクライの一族です。彼らはいつも、過ごしやすい地域を求めて、絶えず移動して生活してるんです」
コンの疑問に答えるヨノワール。
人間界でいうところの、ベドウィンなどの遊牧民に多少似ているといったところか。
この時期は雷が多く、彼らはここで暮らすという。
しかし、以前何者かの襲撃を受けて以来、ここを訪れる者に対して過敏になっているのだ。
やられる前にやる、それがいつしか彼らの掟となった。
それでアドバンズ達に奇襲をかけたというわけだ。

「だけどよお、顔みりゃわかるだろ・・・。オレがそんな悪人面に見えるか?」

「見えるな」
ソウイチの問いににやけながら即答するシリウス。
殴りかかろうとするソウイチをソウヤ達が必死で止めたのは言うまでもない。
そんなことをしている場合ではないと、モリゾーを先頭にみずのフロートを拾いに行く。
手に取りヨノワールに確認してもらったところ、これで間違いないようだ。

「よっしゃあ!」

「やったあ!」
依頼をやり遂げ、ソウイチ達にようやく笑顔が戻った。
早くまりる達に届けようとするが、そこである疑問が彼らの頭をかすめる。
一体誰がみずのフロートをここまで持ってきたのかということだ。

「んなもんあのふざけた脅迫状を書いたやつに決まってんだろ! オレ達とライボルトを衝突させようって魂胆だろうぜ!」
呆れと怒りを交えてソウイチは怒鳴る。
そして振り返ると、巨大な岩に向かって大声で叫んだ。

「隠れてねえでいい加減出てきやがれ!! そこにいんのはわかってんだからな!!」

「え?」
メンバーもソウイチにつられて振り返ったが、しんと静まり返って何も起こらない。
かと思いきや、岩陰から三人のポケモンが姿を現した。
かつて辛酸をなめさせられた奴らが。

「お、お前らは!?」

「やっぱりな!!」
驚きの表情を見せるソウヤ達に対し、ソウイチは初めから犯人の正体が分かっている風だった。
そう、今回の事件の犯人はドクローズ。
アドバンズに仕返しするために仕組んだ策略だったのだ。
卑怯かつ姑息なやり方にソウイチ達は大激怒。
今にもバトルに突入しそうな勢いだが、ドクローズは余裕綽々だ。

「ケッ。お前らがライボルト達にズタボロにされた後を狙って、さらにオレ達が痛めつけてやろうと思ったのによお・・・」

「へへっ。計算違いだぜ! とんだ邪魔がはいっちまったよ」
余裕もいいところだが、今回ソウイチ達に引き下がるつもりは全くない。
以前と違い、血気盛んなシリウスに加え、誰もがもてはやすヨノワールもいる。
負ける要素はほとんどない。

「ククククッ。アドバンズだけなら当然そのつもりだったが、かの有名なヨノワール様が相手となっちゃあ、話は違うわなあ」
すると、スカタンクは突然回れ右をし、全速力でその場から遠ざかっていく。
他の二人もそれを見計らい猛スピードで姿を消した。
奴らの理論、逃げるが勝ちということだろう。

「あ! 待てこらあ! まだ勝負はついてねえぞ!!」
今回こそはぼこぼこにしてやらないと気が済まなかったのか、ソウイチとシリウスはあわてて奴らを追いかける。
だが、どう考えても足の速さはけた違い、しばらく行くとあきらめて戻ってきた。
それでも怒りは収まらないのか、その辺に転がっている小石や岩にこれでもかと蹴りを入れている。
ソウヤ達も普段は口にしないような言葉を吐いており、その怒りの度合いがうかがいしれた。

「なかなか逃げ足が速いですね。まあ、今から追っても仕方がないですし・・・、ともかく今は、みずのフロートをあの兄弟達に届けましょう」

「だな。さっさとこの雷だらけの場所から退散しようぜ」
ヨノワールに促され、ソウイチはぶるっと身震いする。
雷が嫌いで仕方なく、一刻も早くトレジャータウンに帰りたいのが本音。
大事そうにみずのフロートを抱えるモリゾー達を引き連れ、彼らはエレキへいげんを後にした。
トレジャータウンに戻ると、待っていた二人にモリゾーはみずのフロートを渡す。
大事な宝物が戻ってきて二人とも大喜びだ。
マリルは感激のあまり、お礼を述べている最中で泣きそうになってしまうほど。

「そんなあ、気にしなくていいよ。それに、お礼だったらヨノワールさんに言ってよ」

「ヨノワールさんがライボルト達を説得してくれなかったらやられてたよ」
ソウヤとゴロスケはヨノワールの方を振り返って言う。
ソウイチは自分の腕っぷしを自慢しようとしたが、反省の意味を込めてソウヤに鼻を引っ張られやめた。

「本当にありがとうございました!」

「ありがとう!ヨノワールさん!」
マリルとルリリは笑顔でお礼を言う。
その笑顔を見てヨノワールは嬉しそうだ。

「いや~、さすがはヨノワールさんって感じですよね!」

「でも、私アドバンズもすばらしいと思いますよ~! 今回も依頼をしっかり成功させましたし、ルリリちゃんを助けた時だって、すぐに場所を突き止めていち早く駆けつけましたし」
カクレオン兄弟はヨノワールとアドバンズを褒めちぎる。
ソウイチは調子に乗ってふんぞり返るが、またしてもソウヤのしっぽ突込みが飛んだ。
はたかれた部分をさすりつつソウヤをにらむが、彼は完全に知らん顔。

「確かにカクレオンのいうとおりだったらかっこいいんだけど、でもちょっと違うんだよね~・・・」

「あの時は場所を突き止めたっていうよりは、ソウイチが夢を見たからなんだよ」
モリゾーとゴロスケはカクレオン達に本当のことを話した。
ソウイチはどことなく気まり悪そうだったが、それが事実なのだから仕方がない。
しかし、そこで興味を持ったのがなんとヨノワール。
それで、ゴロスケはソウイチの現象が分かるかどうかヨノワールに聞いてみることに。
ものに触ってめまいが起き、過去や未来が見える現象などそうそうないが・・・。

「それは、じくうのさけびではないでしょうか?」
その瞬間、その場にいた全員がヨノワールの言葉に食いついた。
どうやら彼には心当たりがあるようだ。

「そうだ! ソウイチ、ソウヤ! あのこと聞いてみようよ!」
モリゾーが提案したのは、ソウイチとソウヤの失われた過去について聞こうというもの。
最初はぴんと来なかったようだが、二人とも合点がいったようだ。
ここでは人が多すぎるので、とりあえず静かな海岸で話をしようと、ソウイチ達はヨノワールを海岸へと連れて行く。
シリウスとコンは話の邪魔になると悪いので、一足先にギルドへ帰ることに。
しかしこの相談が、後々の出来事に大きくかかわろうとは夢にも思わなかった。

「なるほど・・・。ここに倒れれたわけですか・・・」
ソウイチ達が倒れていた場所に案内され、ヨノワールは現場検証のようなものを始める。
今でもはっきり覚えているのか、モリゾーとゴロスケの示した場所は的確。
よほどあの出会いが印象に残っているのだろう。
そしてヨノワールも、ソウイチ達が元人間だったということに非常に驚いた。
どこからどう見てもポケモンにしか見えないのだから、驚くのが普通である。
ヨノワールはしばらく考え込むと、ふと名前を尋ねた。

「じくうのさけびをもつ人間・・・。あなたは・・・、あなた方は自分の名前は覚えているとおっしゃってましたよね? して・・・、その名前とは・・・?」
ソウイチとソウヤは自分の名前を教える。
すると、ヨノワールの顔色がわずかに変わったように見えた。
でも、モリゾーとゴロスケが分かったかどうか聞いても、残念ながらわからなかったと言うだけ。

(ん・・・? なんだ今のは・・・?)
ソウイチはヨノワールの表情に違和感を感じた。
なんだか少し笑ったような気がしたのだ。
もちろんすぐにその表情は見えなくなったので確証はない。
だが、もともとヨノワールに対して良い印象を持っていなかったソウイチ、不信感はだんだんと増していった。

「お役に立てず申し訳ないです・・・。でも、ソウイチさんの持つ能力については知っています」
これまたソウイチ以外の三人はいっせいに食いつく。
物に触れることで未来や過去が見える能力、それはじくうのさけびと呼ばれているものである、とヨノワールはみんなに説明した。
もちろん、その単語を聞いただけではぴんとこない様子。
どのようなきっかけかは不明だが、物やポケモンを通して時空を超えた映像が、夢となって現れる、ヨノワールはそう付け加える。

(じくうの・・・、さけび・・・。オレにそんな能力が・・・)
なんとなく自分がすごい能力を持っていることは、ヨノワールの話からしても分かった。
ところが、その単語を思い浮かべるたびに、なんだかすごく嫌な感じがするのだ。
失っているはずの記憶が、思い出すなと警告しているような、そんな感じが。
ソウイチの考えなど露知らず、ヨノワールはソウイチとソウヤがポケモンになった謎を解くのに協力すると言い出した。
モリゾーとゴロスケは目を輝かせ、彼の厚意を喜んだ

「まあ正直申しますと、私に分からない物事があるのは悔しい! というのが本音なんですがね。ハハハハハ!」
なんとも探究心の強い本音だろう。
ソウイチはすっかりしらけきっていたが、ほかの三人は目をキラキラと輝かせている。
ヨノワールが助っ人になってくれれば、百人力で心強いと思ったのだ。
その集団をつまらなそうに眺めていたソウイチは、ふと空を見上げる。
すると、不思議なことに大勢のペリッパーが空を埋め尽くしているのだ。
普段では見られない様子を、彼らが不思議そうに眺めていると、向こうからビッパが息を切らしてかけてきた。

「こ、ここにいたんでゲスね・・・」
全速力で走ってきたのか、彼はすっかり息を切らしている。
ただ事ではない様子を感じ、ソウイチは何があったのか尋ねた。

「招集がかかってるでゲス! 弟子達全員すぐにギルド集まるようにと!」
やはり何か緊急事態が起こっているようだ。
すぐさま、全員ギルドに向かって走り出す。
ところが、一番後ろにいたソウイチは急にモリゾーを呼び止めた。

「どうしたのさソウイチ? 早く行かないと!」

「実は、ちょっとお前に話すことがあるんだ。あいつについて感じたことなんだけどよお・・・」
ソウイチはモリゾーに胸の内を語った。
話を聞けば聞くほど、モリゾーの驚き具合は上昇。
そんなバカな話があるはずないと、モリゾーはソウイチの言葉を否定。
が、ソウイチがかすかにヨノワールが笑っていたことを伝えると、急に神妙な顔つきになった。

「え・・・? ソウイチもそう思ったの・・・?」

「ってことは・・・、まさかお前もか?」
ソウヤとゴロスケは気づいていないようだが、たまたま二人とも彼の隠れた表情を見ていたらしい。
ヨノワールのことはあまり信用しないよう、ソウイチはモリゾーにくぎを刺した。
スリープと同類の可能性があると、彼の第六感は警鐘を鳴らしているというのだ。

「でも・・・、全国的に有名な探険家だよ? そんな人が悪人だなんて・・・」

「肩書きぐらいどうにでもなるだろうが! 知識が多いのは本当かも知れねえけど、敵か味方かなんてのはわかんねえだろ?」
モリゾーはまだ信じられないようだが、ソウイチの言うことは最もだ。
全国的に有名だとはいえ、裏で何かしている可能性がゼロということはない。
モリゾーは何も言い返せなかった。

「それに、あの感じは今までに感じたことないようないや~な感じだった・・・。あいつ、絶対何か知ってやがる・・・」
いつもに例を見ないソウイチの真剣な表情に、モリゾーは少し考え込んだ。
そして、モリゾーはソウイチの目を見て自分の正直な気持ちを伝えた。

「・・・わかった。ソウイチがそこまで言うなら、オイラはソウイチのことを信じる。だけど、間違いって場合もあるからね? 一応オイラも気をつけてはみるけど、そのことも念頭に置いておくよ」
モリゾー自身も、やはりヨノワールの気味の悪い笑いが引っ掛かっていた。
ソウイチは確かに無茶苦茶なことを言うときだってあるが、まじめな表情の時に的外れなことはそうそう言わない。
それがモリゾーには分かっており、だからソウイチの言うことを信じることにしたのだ。
だからといって、ヨノワールを完全に悪者と決めつけることはしない。
情報を少しずつ取り入れて、時間をおいて判断するのが妥当ではあるだろう。

「ありがとな。確かに間違いってこともあるかも知れねえ。とりあえず今は様子見だ」
にっと笑ってモリゾーに礼を言うと、ソウイチは歩き出そうとする。
がしかし、あることを言い忘れていたので急に立ち止まった。

「それと、このことはソウヤとゴロスケには内緒だぜ? あいつらに話したら混乱するかも知れねえし、あいつのこと尊敬のまなざしで見てるしよ」
あくまでも、ソウヤとゴロスケはヨノワールの笑いを見ていない。
そんな彼らに悪人だと伝えても信じるはずがないのだ。
余計な混乱を招くことは目に見えている。

「うん、わかったよ。約束する」
ソウイチの真意を理解し、モリゾーはしっかりとうなずいた。
すると、いつまでたっても来ない二人を心配し、ソウヤが遠くの方から声を張り上げる。

「うっせ~な!! 今いくってんだよ!!」
ソウヤに怒鳴り返すと、ソウイチはモリゾーとともに走り出した。
走りながらソウイチは、この出来事はソウマに話さないほうがいいと結論を出す。
そのうちばれるかもしれないが、話すことで変に警戒心を出してしまう可能性がある。
それであの時、ソウイチは彼にそのことを言わなかったのだ。
誰かが言い出さないかと内心ひやひやしていたのもそのため。
この選択が正しかったのかどうかは、まだ彼は知るはずもなかった。


アドバンズ物語第三十七話



ここまで読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。

コメントはありません。 Comments/アドバンズ物語第三十六話 ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2011-04-23 (土) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.