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アドバンズ物語第三十五話

/アドバンズ物語第三十五話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第三十五話 エレキへいげんの罠! 対決ラクライ一族! 前編


「じゅるる・・・」
今にもよだれが垂れ落ちそうなソウイチとシリウス。
何しろ二人の目の前にあるのは、大好物のオレンとオボンの山。
早く食べたくてうずうずしているのだ。
というのも、セカイイチを持ち帰った後、今から帰るのでは夜通し歩くことになるので、シリウスとコンも晩御飯に同席させてもらうことに。
ペラップはすんなり許可し、今はいただきますの挨拶を待っているところなのだ。
そしていよいよ、その時が来た。

「いっただっきま~・・・」

「みんな! ちょっと待った!」
一同が今にもリンゴや木の実に手を伸ばそうとした矢先に、ペラップは大声で彼らの動きを止めた。
急にそんなことを言われたため、ソウイチとシリウスは勢い余ってテーブルに頭をぶつけてしまったほどだ。

「え~。今日は夕飯を食べる前に、みんなに伝えたいことがある」
その言葉を聞いた途端、周囲からは一斉にブーイングが巻き起こる。
ソウイチやシリウスもたんこぶを押さえながら野次を飛ばすが、他の四人は口に出さず、険しい表情でペラップを見詰めていた。
表情は時に、言葉よりもその人の気持ちを伝えることができる。

「静粛に! 静粛に!!」
ぺラップは大声を出し、ようやく一同を鎮めた。
それを見計らい話すことには、なんと、またときのはぐるまが盗まれたというのだ。
先ほどまでの怒りはどこへやら、一同は驚愕の表情を浮かべてざわつく。
前回に続きこれで二つ目なのだ、さすがに驚きを隠せないのだろう。

「それってもしかして・・・、きりのみずうみの・・・?」

「いや、違う。今回盗まれたのは別の場所のものだ。きりのみずうみのものではない」
ペラップの返事を聞いて、ほっと胸をなでおろすビッパ。
しかし、盗まれたはぐるまは計二つ、これ以上盗まれることがあってはならない。
彼らは真剣に、ペラップの話に耳を傾けていた。

「みんなのことは信用しているが・・・、でも念を押しておく。遠征でみんなが見たことについては、絶対誰にも言わないように!」
これにはその場にいた全員が烈火のごとく怒った。
信用しているといいながら、明らかに疑っていると思えたからだ。
ソウイチとシリウスはもちろん、今度はソウヤ達も一緒になって罵詈荘厳を浴びせる。
ただでさえ腹が減っている一同をなだめるのは大変で、ペラップはどうにか騒ぎを沈静させた。

「それでは・・・、お待たせしたな。改めて・・・」

「いっただっきま~す!!」
もう邪魔をするものは何もない。
彼らは目の前の食事を心行くまで堪能し、終わった後は膨れたお腹を満足そうにさすっていた。
ペラップも、話す順序を考えていれば、皆の怒りの度合いも少しは変わっていたかもしれない。
だが、部屋に帰ってからのソウイチ達は、まだはぐるまを盗まれたショックが抜け切らないようだ。

「はあ~・・・。しかしまた盗まれるなんて・・・」

「誰が盗んでるのか分からないけど、ときのはぐるまをどうするつもりなんだろう・・・」
モリゾーとゴロスケはため息をつきながらも、盗人の正体と思惑に考えをめぐらせている。
しかし、そんなことは、今の誰にもわかることではなかった。
直接あって話すわけでもなし、そういうものは本人にしか分かることではないのだ。

(分からねえことは分からねえけど、なんで湖で初めてときのはぐるまを見たときに、あんなにドキドキしたんだ・・・?)」

(考えすぎなのかな・・・。それに、その胸騒ぎと盗まれたことは、あまりにも接点がないし・・・。)
ふと、ソウイチとソウヤはお互いの顔を見詰める。
その表情からも、二人が同じことを考えていたのは一目瞭然だった。

「ですけど、湖に遠征に行ったことが、すごく昔のように感じますね」

「だな。いろいろあったけど、なんだかんだで楽しかったもんな」
コンとシリウスは感慨深そうにつぶやく。
途中で予定されていた進路がふさがっていたり、伝説のポケモンの幻影と戦ったりはしたものの、結局は、それもいい思い出なのだ。
何より、あの湖での幻想的な光景は、一瞬にして彼らの心を奪っていったのだから。

「そういえば、ユクシーはどうしてるかな?」
ふと、ゴロスケはユクシーのことを思い出す。
彼女は自分達の誠意を理解してくれ、湖へと導いてくれたのだ。
自分達を悪人でないと信じてくれた彼女のためにも、あそこのはぐるまだけは盗まれないでほしいとゴロスケは思う。
他の五人も彼と同じく、窓の外の星空に思いを馳せていた。
だが、その切なる願いとは裏腹に、きりのみずうみでは危機が訪れていたのだ。
なんと、あれだけ大勢で相手をしたグラードンを、一人で軽々と倒し、奥まで進入してきたものがいた。

「・・・やっぱり、やっぱり信用するべきではなかったのですね・・・。こんなにも早く、別のポケモンがやってくるとは・・・。しかも今度は、本当に盗みに来るとは!!」
ユクシーは失望と怒りを滲ませている。
やはり記憶を消しておくべきだったと、彼女は深く後悔もしていた。

「何のことか分からんが、違うな。オレは誰かに聞いてこの場所に来たわけじゃない。オレは、ここにときのはぐるまがあることを前から知っていたのだ」

「な、なんですって!?」
謎のポケモンの言うことを聞いて、ユクシーは驚愕の表情を浮かべる。
誰も知らないはずの情報を、以前から知っていたというのはどういうことなのだろうか。

「悪いがもらっていくぞ・・・。三つ目の・・・、ときのはぐるまを!!」
しかし、謎のポケモンは答えることなく、ユクシーへと挑みかかっていくのだった。


そんなことは露知らず、翌朝はいつもにも増して寝起きが悪いソウイチ。
おまけにシリウスまで寝坊し、二人とも早速ぺラップにどやされ不機嫌だった。
元に戻ることは分かっていたものの、寝起きで頭がボーっとしてる状態のときに説教をされるのはいいものではない。
彼らは何もしゃべらないが、全身からは話しかけると危険なオーラがもわもわと漂っている。
一体どう対処すればいいのかソウヤ達が頭を悩ませていると、不意にドゴームが声をかけてきた。

「ああ!?」
ソウイチとシリウスはぞっとするような目つきでドゴームを睨みつける。
あまりの目つきに、ドゴームは思わず後ずさりしそうになった。

「お、お客さんだぞ・・・。入り口で待ってる・・・」
そう言うなり、ドゴームは慌ててその場から逃げ出した。
これ以上とどまっていては何をされるか分からなかったのだ。

「チッ・・・。誰だよこんな時に!!」
二人はいっそう不機嫌な顔で階段を昇っていく。
他のメンバーも恐る恐るその後をついていった。
ところが、その来客を見て二人のいらいらは一瞬で吹っ飛んだ。
そのお客とは、マリルとルリリだった。

「どうしたんだ? 二人そろって」
二人がじきじきに尋ねてくるのは珍しいことだったので、ソウイチは理由を聞いた。
どうやら彼らは、アドバンズにみずのフロートを取ってきてほしいと頼みに来たようだ。

「みずのフロート?」
しかし、シリウスとコンは全く事情を知らないので、何のことやらさっぱり。
それを見て、早速ソウヤが二人に説明すると、二人とも納得した。
だが、海岸に落ちていると言っていたのに、なぜ今更取ってきてほしいと頼みに来たのだろうか。

「はい。それで早速行ってみたのですが・・・、そしたら代わりにこんなものが・・・」
マリルはおずおずと一枚の紙を差し出した。
ソウイチが紙を手に取ると、他のメンバーも何が書いてあるのかとその紙を覗き込む。

[海岸にあったみずのフロートは我々が預かった。取り返したければエレキへいげんの奥まで来い。しかし力の弱いお前達に、果たしてそこまで来ることができるかな? ククククッ。無理ならせいぜい、頼もしい仲間にでも頼むこったな。クククウッ]

最後まで読み終わると、ソウイチ達は飛び上がった。
なんと、それは脅迫状だったのだ。
しかし、幼い兄弟相手に脅迫状をよこすとは、なんとも大人気なくみっともないやつだろう。

「ぜ、絶対に行っちゃだめだよ!? 何かの罠かもしれないし!」
モリゾーは慌てて二人に念を押す。
だが、みずのフロートは彼らにとって大切なもの、何が何でも取り返したいのだそうだ。

「なので、僕一人でエレキへいげんに挑んでみたのですが・・・」
マリルの顔には、徐々に悲しみが現れ始めた。
行ってみたはいいものの、そこは不利とするでんきタイプのポケモンが多く、何度行ってもすぐに倒されてしまうのだ。
まだ幼く、体力や攻撃力も不十分なところも関係しているだろう。

「だからルリリも一緒に行くって言ったんだ!」

「だめだよ・・・。お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない。でも、僕一人でもどうしようもない・・・。僕は・・・、僕は弱い自分が悔しい・・・」
マリルはルリリの頭をなでていたが、やがてその目には涙が浮かび、徐々に頬を伝い始める。
あまりにも気の毒で、どう声をかけていいか誰も分からなかった。

「許せねえ・・・!」

「えっ?」
突然、ソウイチは手に持っていた紙を粉々に破り捨てた。
さっきの不機嫌そうな顔とは比べ物にならないほど、その顔は怒りに満ちている。
その身の毛もよだつほどの怒り具合に、ソウヤ達は思わず後ずさり。

「脅迫状だと・・・? 小さい子供相手になめたまねしやがって・・・。こんな最低なやつは・・・、オレが全力で叩き潰す!!」
ソウイチの相手を殴り飛ばす仕草は、その怒りの深さを象徴していた。
今までこんな仕草をしたことはなく、よほど腹に据えかねているのだろう。

「ああ、もちろんだぜ! こんな悪事は許しちゃおけねえ!!」
その様子を見て、シリウスも賛同する。
幼い子供を脅迫する相手など、このままのさばらせておくわけにはいかない。

「お前ら! みずのフロートは、オレ達が責任持って取り返してやる!!」

「ほ、ほんとですか!?」
ソウイチが胸をドンと叩くと、二人の顔がぱっと輝いた。

「まかしとけ! だからもう泣くんじゃねえぞ?」
シリウスも同じように胸を叩くと、二人の頭を優しくなでた。

「はい! ありがとうございます!」
今度はあまりの嬉しさに涙をこぼすマリル。
彼らの胸のうちには、絶対にみずのフロートを取り返すという決意がしっかり固まった。

「よっしゃあ!! それじゃあエレキへいげんに向かって出発だぜ!!」

「おう!!」
ソウイチが腕を突き上げるのにあわせ、五人も同じように腕を突き上げる。

(言葉尻で、誰が犯人かは大体目星がついてる・・・。今度こそ・・・、覚悟しろよ!!)
ソウイチは上を見上げ、心の中でその相手に向かって怒鳴る。
準備を終えると、六人は早速エレキへいげんに向けて出発。
数時間ほどで、一向は目的の場所へとたどり着いた。
晴れ渡っていた青空はどこへやら、いつの間にか空には暗雲が立ち込め、ごろごろと腹のそこに響く音がしている。
時々、遠くのほうで雷が落ちるのが見えるが、それは、この先の険しさを物語っているようだ。

「どんなやつかしらねえけど・・・、あんな小さい子供達を脅すなんて絶対許せねえ!」

「もちろんです! 何が何でも取り返しましょう!」
シリウスとコンはもちろん、他のメンバーも気合十分。
いざ乗り込もうとすると、ソウヤは何かおかしいことに気付いた。
いつも先陣を切って乗り込むはずのソウイチがいないのだ。
辺りを見回すと、早速岩陰で震えているソウイチを発見。
まさかとは思ったが、やはりソウイチは一人だけ雷におびえていたのだ。

「ソウイチ・・・?」

「うううう・・・」
五人が見詰める中でも、ソウイチは包み隠さずおびえた様子をしていた。
その直後、ソウイチの真後ろに轟音とともに雷が落ちる。
ソウイチは絶叫して飛び上がり、そのままエレキへいげんの中へと走って行ってしまった。
誰の目にも、ソウイチの雷嫌いは一目瞭然。

「おいおい・・・。こんなんで大丈夫かよ・・・」

「僕のかみなりは平気なくせに・・・」
ソウヤとシリウスはあきれた顔でソウイチの後姿を眺めていた。
彼曰く、人口と自然の雷は違うらしいのだが、根本に違いがあるとは思えない。
さすがに一人にはしておけないので、彼らも急いで後を追いかける。
しかしダンジョンに突入した途端、ソウイチの雷嫌いは吹き飛んでいた。

「おらあ!! どけどけえええ!!」
さっきまでのへたれ具合はどこへやら、シリウスと一緒になって進路を妨害する敵を蹴散らしていく。
相手がどんな技を出してこようが、猪突猛進する二人はお構いなし。
その勢いに恐れをなし、多くのポケモンは自ら道を譲った。
中には無鉄砲なものも居り、彼らの目の前に飛び出していくが・・・。

「邪魔すんじゃねえ!!」

「雑魚を相手にしてる暇はねえんだよ!!」
殴る蹴る投げ飛ばすなどの通常攻撃で、あっという間にノックアウト。
その無双振りを見て恐れおののかないポケモンはいなかった。
ソウヤ達はただただ、二人の後ろを一生懸命についていくのみ。
何しろ、先頭を行くソウイチとシリウスが全て敵を倒してしまっているため、やることが全くないのだから。

「あの二人が組んだら向かうとこ敵なしだね・・・」

「人間のときに不良をぶっ飛ばしてただけのことはあるな~・・・」
モリゾーもゴロスケも唖然とするばかり。
彼らを含め、四人ともソウイチとシリウスの過去を聞いていたので不思議ではない。
しかし、その底知れぬ実力に驚きつつも、どこか呆れてしまう部分もあった。
二人の活躍のおかげで順調に進むことができ、ちょうど半分ぐらいのところまで到達。
ソウイチとシリウスはなおも、その腕っ節で快調に敵を倒していく。
ソウヤ達の出番は、全くといっていいほどない。
すると、どこからか叫び声のようなものが声が聞こえてきた。

「ん? 何だこの声は?」
二人はふと歩みを止め、どこから声が聞こえてくるのか耳を済ませる。
しかし・・・。

「うわあ!! どいてどいて~!!」
前を行く二人が急に止まったので、追いかけていたソウヤ達は止まれずに大激突。
あっという間にポケモンの山ができてしまった。

「あだだだだ・・・。早くどけよ!!」

「そっちが急に止まるから悪いんじゃないか!!」
ソウイチを睨むソウヤに対し、ソウヤも負けじと言い返す。
更に二人の下にいるシリウスまでけんかに加わり、ますますどくどころの話ではない。

「けんかしてないで早くどいてよ~!!」
とうとうモリゾーとゴロスケまで口をそろえて不満を言い始める。
一番下にモリゾーとゴロスケ、その上にソウイチとシリウス、そしてソウヤとコンが乗っかっていたのだ。
全体重が加わっている彼らが不満を言うのも当然だ。
と、今度はさっきよりも大きな悲鳴が聞こえてきた。
先ほどとは違い、はっきりと二人の耳の中に飛び込んでくる。

「おい! また聞こえたぞ!」

「あの様子じゃあ、なんかやばそうだな・・・。行ってみるぞ!」
ソウイチとシリウスは上に乗っていた二人を跳ね飛ばし、急いで悲鳴のした方へ駆け出す。
その二人は程なくして、モリゾーとゴロスケの上に落下。

「ぐえっ!!」

「きゃあ!!」
高い場所から落ちた分、その衝撃は大きい。
口にこそ出さなかったが、駆けて行く二人の後姿を、四人は恨みのこもった目で睨む。
そのころとある場所では、プラスルとマイナンの兄弟が、エレキッド、エレブー、メガヤンマのごろつきに取り囲まれていた。
マイナンが持っている特大リンゴを狙っているのだ。
だが、二人で見つけた大事な食料を取られるわけにはいかない。

「る、ルーにぃ・・・」

「ミナト、お前は隠れてろ・・・!」

「で、でも・・・。」

「いいから! お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない! それに、せっかく見つけた食料を取られてたまるか!」
おびえる弟のミナトをかばい、兄のルルは敵の前に立ちふさがる。
弟を守らなければと必死だが、自分達よりもはるかに大きな敵を目の前にして、その恐怖は計り知れなかった。

「ほお。威勢のいいチビどもだな。よ~し、それなら一思いにかたをつけてやろう」
エレブーは手に電気を集め、二人に容赦なくかみなりパンチを振り下ろす。
もうだめだと二人が目をつぶったその時。

「何やってんだこらあ!!」

「弱いものいじめしてんじゃねえ!!」
怒号と共にエレブーは真横に吹き飛び、ぶつかった勢いで頭が壁に埋まってしまった。
二人が恐る恐る目を開けると、その前にいたのはエレブーではなく、見慣れないヒノアラシとピカチュウ。
ルルとミナトはその二人を見つめているが、その二人の関心は吹っ飛んだエレブーの方に向けられている。

「ったく! 小さいやつらを大の大人が取り囲みやがって!!」

「見過ごすわけにはいかねえな! 覚悟しろてめえら!!」

「このねずみどもが・・・! よくもやりやがったな!!」
エレキッドとメガヤンマに助け出され、エレブーはようやく壁から抜け出した。
恥をかかされ、頬はすっかり紅潮している。

「ああ・・・? 誰がねずみだ・・・?」

「どうやら、徹底的にやらねえとこりねえみたいだなあ・・・?」
ねずみという言葉で二人の額に青筋が浮き、目にもとまらぬ速さで三匹の元へ飛び込んだ。
不良退治をしていただけのことはあり、技を使わず、殴る蹴るだけで相手に挑みかかっていく。
技を使えばどうということはないのだが、二人の通常攻撃が想像以上に強力なため彼らはすっかり肝をつぶしてしまった。
完膚なきまでに叩きのめされ、三匹は残った力を振り絞ってその場から逃げ出す。
ソウイチ達はやり足りないようだったが、これでひとまずは安心だ。

「お前ら、けがとかしてねえか?」

「あ・・・、はい。僕達は大丈夫です。危ないところを助けていただいて、ありがとうございました」
唐突にソウイチに話しかけられ返事が遅れたものの、ルルは丁寧に礼を述べた。
それに倣って、ミナトも一緒に頭を下げる。

「な~に、たいしたことじゃねえよ! それより、何であいつらに囲まれてたんだ?」
シリウスは得意げにVサインをしてみせる。
そのあとで、早速襲われていたわけを尋ねた。
ルルの話によると、彼らは二人の持っていた特大リンゴを狙っていたという。
滅多に手に入らず、なおかつ味も普通のリンゴより格上なので奪われそうになることが多いのだ。

「なるほどな~・・・。でもよお、食料ならここじゃなくても、他のエリアに行けばあるんじゃねえのか?」
ソウイチのいうことは最もだ。
わざわざ環境のきびしそうなこの場所にこだわらなくても、リンゴのもりや他のダンジョンへいけば収穫がゼロということはない。

「そうなんですが、このあたりのでんきタイプのポケモンは乱暴だってうわさが流れてて、他のエリアに行っても食料を分けてもらえないんです・・・」
ルルの表情はだんだんと悲しそうになっていく。
確かに多いことは多いのだが、全部が全部そのはずもない。
よく確かめもしないで、くだらないうわさを真に受けているポケモンが多かったのだろう。

「で、リンゴを見つけたところをごろつきに囲まれたってわけか・・・。お前らも結構苦労してるんだな・・・」
シリウスは心から二人に同情し、それぞれの顔を見た。
と、ある記憶がシリウスの脳裏に浮かび上がる。

「なあ。ちょっと聞くけど、お前ら前に、でんじはのどうくつってところに住んでなかったか?」

「え・・・? 何で知ってるんですか?」
シリウスに言われ、二人はかなり驚いた。
何しろ、そこに住んでいたなど一言もしゃべっていないのだから。

「やっぱりそうか! オレだよオレ! 覚えてねえか?」
シリウスはバンダナをはずすと、頭のかみなり模様を指差す。
二人は少しの沈黙していたが、やがてあっと声を上げた。

「も、もしかして・・・、シリウスさんですか・・・?」

「ああ! 久々だなあお前ら! 最初会ったときよりずいぶん大きくなったじゃねえか!」
シリウスは嬉しそうに頭をなでる。
どうやら以前から二人と面識があったようだ。

「前にこの二人から依頼を受けて、救助に行ったことがあったのさ。その時に仲間に入れてくれって頼まれたんだけど、あの時は二人ともまだ小さかったからオレの方から断ったんだ」
一人ぽかんとしているソウイチに、シリウスは詳しく話して聞かせる。
そして、今度会う時があれば、絶対に仲間にすると約束していたのだ。
それを聞いてソウイチも納得した。
だが、ここから遠く離れた場所に住んでいた二人が、なぜ今この場所にいるのだろうか。

「最近、あの近辺で食料が不足し始めて・・・。これ以上あそこにいられなくて、それで、この地域に移住してきたんです」

「そっか~・・・。道理で依頼がほとんどいないわけだぜ・・・」
実は、シリウスも以前気になって訪れてみたのだが、最初とは打って変わり、どこにも生命の息吹が感じられなくなっていた。
なんでも、地下水の流れが変わり、周辺の水場が干上がって植物が枯れ果ててしまったのだ。
それで食料や住処がなくなり、ポケモン達は各地へと散らばって行った。
住民や訪れるポケモンがいなければ、依頼が送られてこないのも当たり前。

「それで・・・、あの・・・」

「ん?」
ミナトは言いにくそうにもじもじしている。
シリウスが見つめれば見つめるほど、彼の言おうとしていることは奥へと引っ込んでしまった。
だが、シリウスはとっくに、彼の言いたいことは分かっていたのだ。

「分かってるよ。約束はきちんと守るさ。今日から改めてよろしくな!」
シリウスはにっと笑うと、二人の前に手を差し出した。
とっさのことで意味がわからなかった二人だが、シリウスの顔を見て、ようやく意味を理解。
自分達も手を差し出し、お互いに握手を交わす。
だが、次にシリウスの口から衝撃的な言葉が飛び出した。
なんと、しばらくはソウイチ達アドバンズにいなければならないというのだ。

「ええ!? な、なんでですか!?」
仲間になってそうそう、シリウス達と一緒に行けないというのはどういうことなのか。
二人は驚きと不満を隠しきれなかった。

「実はさあ・・・、遠距離の救助依頼が結構あって、それにはコンしか連れて行けねえんだよ・・・。だから、戻ってくるまでソウイチ達のところにしばらくいてもらえねえか?」
他にも仲間がいることはいるのだが、その二人はここ半年、依頼に出かけて帰ってきていないのだ。
そのメンバーがいれば安心なのだが、さすがに二人きりで留守番させるわけにはいかない。

「そうですか・・・。わかりました。でも、きっとまた来てくださいね」
ルルとミナトは寂しそうな顔をしたものの、すぐ笑顔に戻った。
わがままを言って困らせてはいけないのは分かっている。

「ああ! ま、こいつはオレの子分みたいなもんだ。心配すんなよ!」

「誰が子分だよ!!」
頭をぽんぽん叩くシリウスに対し、ソウイチは邪険にその腕を払う。
もちろん、当の本人は何度払われてもしつこく頭を叩いているが。

「お~い!!」
どこからか声が聞こえてくる。
振り返ると、ちょうどソウヤ達が追いついてきたところだった。

「遅えぞお前ら!!」

「そっちが無茶苦茶するから動けなかったんじゃないか!!」

「そうだよ!!」
今回は珍しく、ソウヤよりも先にもりぞーとゴロスケが怒りをぶちまける。
これにはソウヤも怒ることを忘れ、いつもとは違う責められ方にソウイチも思わずたじろぐ。

「もういいじゃないですか。ソウイチさんも反省してることですし」
コンはソウイチに詰め寄る二人をなだめ、それでようやく怒りは収まったようだ。
そして、彼らはルルとミナトのことに気づき、二人から早速事情を聞く。

「二人ともずいぶん大きくなりましたね。また会えて嬉しいです」
コンはにっこり笑って二人の頭をなでた。
その様子は、久しぶりに顔を合わせた母親と息子のようにも取れる。

「で、オレ達がいない間はソウイチ達に面倒を見てもらうことにしたんだ。別にいいだろ?」

「ええ。二人だけでお留守番してもらうより、ソウイチさん達と一緒にいた方が安心ですからね」
シリウスの意見にコンは全面的に賛成し、話はまとまったようだ。
そこでまたシリウスがなれなれしく頭を叩くと、今度はソウイチも火を吐いて怒った。
二人が追いかけっこをする様子がおかしかったのか、本人は不機嫌をよそにみんな大笑い。
ルルとミナトも、固い表情はすっかり崩れ、ソウヤ達と同じように笑っている。

そしてそのころ、トレジャータウンではマリル達がカクレオン兄弟と話をしていた。
マリル達からソウイチ達が向かっていることを聞き、二人にも安堵の色が浮かぶ。
なんだかんだと言っても、彼らの信用はとても大きいのだ。

「みなさん、どうしたのですか?」

「あっ!ヨノワールさん!」
と、そこへヨノワールが声をかけてきた。
カクレオン達はちょうどいいとばかりに、さっき二人から聞いた話を伝える。

「なるほど・・・、そんなことが・・・。誰がどういう目的でそんな事をするのか分かりませんが、悪質な奴らですね」

「でしょ!? こんな幼い子を相手に意地悪するなんて許せませんよ!!」
ヨノワールの顔は冷静だったが、ところどころに怒りが見え隠れしている。
カクレオン達のほうは、今すぐにでも犯人をとっちめてやりたい気分だ。

「それで、アドバンズは今どこに行っているのですか?」
エレキへいげんに行ったことをマリル達が伝えると、急にヨノワールの顔色が変わった。
なにやらぶつぶつとつぶやいたかと思うと、全速力でその場から立ち去っていくヨノワール。
あまりの慌てぶりに、その場にいた一同は訳が分からず、ぽかんと口をあけてその後姿を眺めていた。
そしてソウイチ達はというと・・・。

「な、なんだ? この階段・・・」
ようやく上へ行く階段を見つけ、早速昇ろうとした矢先、突如として別の階段が目の前に現れたのだ。
見比べてみても、色や材質が普通の階段と違うことは一目瞭然。
なんとも奇妙な階段である。

「これ・・・、どこに通じてるのかな・・・?」

「わあああ!! ダメだよソウヤ!!」
興味本位で昇ってみようとするソウヤを、ゴロスケはしっぽをつかんで引き止める。
もし妙なところへ通じていたらと想像するだけで不気味だ。

「いたたたた!! ちょっと!! しっぽ引っ張らないでよ!!」

「ご、ごめん・・・」
つい力が入りすぎたのか、ソウヤは痛みのあまり叫んだ。
思いっきり睨まれたゴロスケは、目のやり場に困りすっかり縮こまってしまった。

「で、どうする・・・?」
モリゾーはソウイチの方を見るが、彼も行くべきか行かざるべきか悩んでいる。
しばらく考え込んでいたものの、結局試しに行ってみようという結論に。
ゴロスケは相変わらず反対だったが、モリゾーとソウヤの説得と、ソウイチのげんこつで渋々行くことにした。
そして上ってみてびっくり、なんと、そこは通常のフロアとは違う空間だったのだ。
誰もが驚き、特にソウイチとシリウスは口をあんぐりと開けて驚いている。
こんなフロアは今まで見たことがない。

「こんにちは。よく見つけましたね。ここはひみつのバザーです。いろいろな施設があるので、どうぞお役に立ててください」
ここの案内役であろうキルリアはそう言うと、再び元の位置に戻る。
先に探検隊をやっているシリウス達でさえ聞いたことがないのだから、もちろんソウイチたちも名前を聞くのは初めて。
その新鮮さに圧倒され尻込み気味のソウヤとモリゾーだったが、ソウイチの提案で一通り施設を巡回してみることに。

まず最初は、マネネの運営する施設。
ここでは体力回復に加え、お腹も回復できるようだ。
それも全員でたったの百Pとなればかなりお得、バトル前かつ、ルルとミナトもお腹が減っているようだったので、ソウイチはマネネに頼む。
あっという間に体力もお腹も回復、士気も高まりすっかり元気になった。
他にも施設があるのだが、ヌケニンの運営する抜け穴を探す場所、ベロベルトの道具洗車場と、今は特に用がないものばかり。
ベロベルトに至っては、ねばねばを取るためにべろべろ道具をなめ回すのではないかという妄想が、彼らの頭をよぎったのは言うまでもない。
もう用はなさそうなので上へ続く階段を上ろうとしたとき、最後の施設がソウイチの目にとまった。
最後の施設はマルノームの施設で、なんと福袋がもらえるらしい。
人間の世界では年末の在庫処理などに使われる縁起物の福袋だが、まさかこんなところでも出回っているとは。

「へえ~! なんかおもしろそうだな!」
なんとも単純な理由だが、彼にとってはおもしろさが第一なので細かいことはどうでもいい。
早速一袋買って、わくわくしながら中をのぞき込んでみるのだが、最初はキラキラしていた目つきが徐々に険しいものへと変わっていく。
終いには顔を真っ赤にして怒り出す始末。

「なんなんだよこれは!? ふざけてんのかてめえ!!」
一体何にそれほど腹を立てているのか気になり、ソウイチ達はシリウスの福袋をのぞいてみる。
中に入っていたのはオレンの実が十個ほど、ソウイチなら目を光らせるか、よだれを垂らすかして飛びつく代物。
体力回復効果もあり、決して粗末な品物ではないのだが、なぜかシリウスは彼らが思う以上に腹を立てている。

「なんだよ? お前オレンじゃ嫌なのか? うまいんだぞ~これ」
ソウイチはオレンを手に取り、そのすばらしさをシリウスにアピールする。
が、効果はマイナス、ますます彼を激怒させるだけだった。

「ふざけんな!! こんな意味のわかんねえまっずい木の実なんか食えるか!!」

「なにい!? オレンがまずいってのかよ!?」
自分の好きな木の実をまずいと真っ向から否定され、今度はソウイチまでも怒り出してしまう。
その後はシリウスが好きなオボンの方がうまいとか、高級だからってうまいわけではないとか、延々と独自の木の実論を議論。
あまりにも大声で筒抜けなので、バザーの人達も何事かと思ってこっちを見ている。
もうソウヤ達は恥ずかしくて恥ずかしくて穴があったら入りたいほど。
放っておいてもおさまる気配がないので、とうとうモリゾーとコンが強制的に引きはがし、なだめて痴話げんかは終了となった。

「じゃあ、いらないんならオレによこせ。まずいの無理して食うことはねえからな」
ソウイチはシリウスの前に手を出した。
またしてもけんかになりそうなことを平気で口走るが、いい加減議論に飽きたのか、シリウスは嫌そうな顔をしただけでけんかにはならず。
さっき回復したばかりなのに、ソウイチは受け取るなりすべてのオレンをその場で食べてしまった。
シリウスに対する当てつけのようにも見えたが、実際は本当に食べたいだけ。
もちろん誰もが呆れるばかり。

「よ~し! 見るもん全部見たし、はやいとこみずのフロートを取ってこようぜ!」

「お、おう!」
相変わらずのマイペースなテンションに気後れしながらも、彼らは部屋の隅にある階段を上り、ひたすら奥を目指した。
そして、とうとう最奥部までたどり着いたのだが、そこは至るところから腹の底に重くのしかかるような音が響いている。
雷が落ちることなど普通であるかのような環境に、雷嫌いのソウイチはすっかり縮こまっていた。

「だらしないな~・・・。リーダーなんだからしっかりしなよ」
呆れた目でソウイチを見るソウヤだが、怖いものは怖いと完全に開き直っている。
この開き直りぐらいなら足手まといにはならないと判断し、ソウヤはそれ以上言葉のトゲを刺すことをやめた。
ひやひやしながら成り行きを見守っていると、不意にゴロスケが声を上げる。
彼の指さす方を見ると、なにやらきらきら光るものが落ちていた。

「あれ・・・、みずのフロートじゃねえか?」

「やった! ついに見つけたぞ! 早く持って帰ろう!」
見つけたうれしさのあまり足早に駆け寄るモリゾーとゴロスケだが、手に取ろうとした瞬間、急に辺りが暗くなった。
このパターンは以前にも経験がある。
直感的に誰かいると悟ったソウイチは、仲間達に岩陰に隠れるよう指示。
しかし敵にとってそんなものはこけおどしにすらならなかった。

「フフフ。それで隠れたつもりか? 我々に取っては裸も同然、潔く降伏したらどうだ? そうすれば命だけは助けてやろう」
相手の上から目線の言葉に、ソウイチはいつものごとく我慢がならなかった。
岩陰から飛び出して特攻しようとするのを、ソウヤは必死に腕をつかんで行かせまいとする。

「放せソウヤ!! このまんまじゃどっちにしろやられるぞ! だったら、こっちから出て行った方がまだましだろうが!!」
それでも、ソウヤはやはり安全を考え首を縦に振ろうとしない。
何もしないでやられるより、先手を打ってからやられるほうがましだと、必死で訴えるソウイチ。
さすがのソウヤも、一時的な怒りの感情でないことが彼の目から判断できたのか、ようやくうなずいた。
他のメンバーもそれを見て覚悟を決め、思い切って岩陰から飛び出す。

「てめえは誰だ! そっちこそ隠れてないで出てきやがれ!!」
ソウイチは見えない相手に向かって怒号を発する。
と、急に生暖かく気持ち悪い風が吹き、不気味な笑い声が響いてきた。

「私の名はライボルト。そして、我らがラクライ一族だ!!」
視界が急に晴れると、彼らの周りはすでに大勢のラクライ、そしてリーダーのライボルトに完全に包囲されていた。
モリゾーとゴロスケはびっくりして飛び上がり、ルルとミナトはお互いに抱き合ってぶるぶる震えている。
その反面、ソウイチ、シリウスは戦う気満々。
それゆえ空回りしないことを祈るが、ソウヤとコンがある程度ブレーキをかけないとすぐ自滅することは見え見え。
こうして、両者の戦いの火ぶたが、今切って落とされようとしていた。


アドバンズ物語第三十六話



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Last-modified: 2011-04-23 (土) 00:00:00
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