ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第七十一話 救われた世界 さようなら、永遠の親友
(・・・ううっ・・・、こ、ここは・・・?)
いったいどれぐらい気絶していたのだろうか。
ソウイチがうっすらと目を開けると、横ではソウヤ達が同じように気を失っていた。
(まだ生きてるみたいだけど・・・、あれからどうなったんだ・・・?)
ソウイチが様子を確認していると、ソウヤ達もようやく意識が戻った。
やはり自分のおかれた状況が分からず、きょろきょろと辺りを見回している。
「ここは、じげんのとうだ」
突然後ろから声がし、四人が振り返ると、そこに立っていたのはなんとディアルガ。
息を吹き返したと思い、彼らはあわてて身構えたが、向こうが襲ってくる気配はない。
「心配はいらない。正気は取り戻した」
さっきとは打って変わり、威厳のある冷静な口調で話すディアルガ。
四人は半信半疑でディアルガを見たが、先ほどのような闇を連想させる漆黒のオーラは出ていない。
体の色も、暗青色にオレンジ色のラインから、マリンブルーに水色のラインへと変化していた。正気に戻った証だ。
「本当に大丈夫なのか?」
疑惑のまなざしを向けるソウイチ。
やはり急に大丈夫と断言されても、鵜呑みにするわけにはいかない。
「ああ。じげんのとうも大分崩れてしまったが、何とか持ちこたえてくれた。これを見てくれ」
ディアルガがすっと目を閉じると、ソウイチ達の目の前にじげんのとうとは別の風景が広がる。
どうやら、テレパシーのようなもので直接映像を送り込んでいるようだ。
最初に見えてきたのはキザキのもり。
だが、以前に見た時とどこか様子が違う。
死んだように静まり返っていた森は、木の枝や草が風に揺れ、葉っぱについた水滴も一滴ずつ滑り落ちている。
そう、時が戻ったことにより、再び命が吹き込まれたのだ。
次に映ったのはトレジャータウン。
いつも通りの活気ある町の姿が映っており、実に平和な雰囲気をかもし出している。
世界の危機などまるでなかったかのようだ。
そして、最後に映ったのはじげんのとう。
大分崩れたり、ひびが入ったりしてはいるものの、何とか崩れ落ちずにしっかりと存在している。
「じげんのとうは残り、時が戻ったことにより、止まっていた各地の時間もまた動き始めた。じげんのとうの破壊が止められたことで、ほしのていしを免れたのだ。世界の平和は・・・、保たれたのだ」
ディアルガの言葉を聞いて、みるみるうちに彼らの顔に笑顔が広がる。
四人はお互いに抱き合い、使命を果たすことができた喜びを分かち合った。
「礼を言わせてくれ。よくぞまぼろしのだいちまで到達し、暴走する私を恐れず、じげんのとうの破壊を食い止めてくれた。ありがとう。すべてはお前達のおかげだ」
ディアルガは彼らに深々と頭を下げた。
時を司る神に礼を言われるのは、どこかくすぐったく照れくさい。
だが、お礼を言われて別段悪い気はせず、四人はどこか誇らしかった。
「さて・・・。これからじげんのとうを修復しなくてはな。まぼろしのだいちもかなり荒れてしまったが、にじのいしぶねはまだ動くはずだ」
ディアルガは崩壊した数々の柱を見つめた。
そこで、モリゾーはあることを思い出す。
「そういえば、どうやってここを降りようか・・・。また敵に遭遇するのはやっかいだし・・・」
確かに、もと来た道を戻ればボーマンダなどが待ち構えており、必要のない戦いを強いられることになる。
疲れ果てている自分達の身を考えれば、それだけはどうしても避けたい。
「それなら大丈夫だ。先ほど、この塔にいるポケモン達に、お前達には手を出さないよう伝えたところだ。安心して帰るがいい」
すでに根回しをしていたようで、これなら途中で襲われる心配もない。
彼らはディアルガに礼を言い、帰路に着いた。
カメキチ達を待たせているので、あまりのんびりもしていられないのだ。
最下層の出口を抜け、四人はにじのいしぶねのある場所へとひたすら歩く。
最初はソウイチとソウヤが先陣を切って歩いていたが、徐々にモリゾーとゴロスケに遅れをとるようになった。
「どうしたの二人とも? 大丈夫」
モリゾーとゴロスケは心配そうに二人を見つめる。
「き、気にすんな。ちょっと疲れが出てきただけだ」
「僕たちのことはいいから、先に行ってて」
二人はどことなくソウイチとソウヤの言葉に不自然なところを感じたが、あまりしつこく心配するのもはばかられるので先へ行くことに。
実はこのときから、ソウイチとソウヤの体に異変が起こっていたのだ。
体全体が金属のように重く、一歩前へ踏み出すだけでもつらい。
「ソウイチ・・・」
「ああ・・・」
短い言葉を交わしただけだったが、二人にはもう分かっていた。
自分達の消滅の時が、目前まで迫っていることを。
それはいよいよ、二人の体に目に見えて現れ始めた。
「そ、ソウイチ!!」
突然声を上げるソウヤ。
ソウイチが何事かと思って振り返ると、その目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
なんと、ソウヤの体から光の泡が発生しているのだ。
ちょうど、強酸に入れられた金属が気泡を発生して溶けるかのように。
「ど、どうしたんだよソウヤ!? 体が光ってるぞ!?」
「それはソウイチもだよ!!」
まさかと思って自分の手足を見ると、ソウヤと同じように光の泡がゆらゆらと立ち昇っていた。
それを見て、二人はすべてを悟ったのだ。
「ここまでなのか・・・。せめて、トレジャータウンに帰るまでは消えたくなかったのによ・・・」
「もっと・・・、二人と一緒にいられたらよかったのに・・・」
だが、そんなはかない願いは自然の摂理の前には無力に過ぎない。
歴史を変えた以上、もう時間を引き伸ばすことはできないのだ。
その現実が、二人に重くのしかかった。
「お~い! ソウイチ~! ソウヤ~!」
二人がはっと顔を上げると、モリゾーとゴロスケがこっちへ駆けて来るのが見えた。
なかなか追いついてこないので、やはり心配になって引き返してきたのだ。
「あれ? 二人ともどうしたの・・・? その体・・・」
二人は、光の泡が立ち昇るソウイチとソウヤを食い入るように見つめる。
「悪いな・・・、二人とも・・・。ずっと言おうと思ってたんだけど言えなくてよ・・・」
「どうやら、僕達はここでお別れみたいなんだ」
ソウイチとソウヤの表情はどこか穏やかだった。
消滅を覚悟し、逆に気分が落ち着いているのだろうか。
「ええっ!? お、お別れ!?」
「ちょっと待ってよ! お別れってどういうことなの!?」
二人の口から飛び出した言葉に、モリゾーとゴロスケは混乱した。
唐突にお別れなどと言われても、すぐに理解できるはずがない。
「ヨノワールのやつが言ってやがったんだよ・・・。歴史を変えたら、未来のポケモンは全部消えるってな」
「だから・・・、僕達兄弟も消える運命なんだ。グラスは未来で生まれたわけじゃないけど、未来世界の消滅で、アニキと共に消滅する可能性が高い」
尋常じゃない話をしているはずなのに、二人の口調は恐ろしく冷静だった。
そのせいか、さっきまではちっとも頭に入ってこなかった話が、モリゾーとゴロスケの頭を次々と侵食していく。
そして、頭がソウイチ達の消滅という事実で埋め尽くされていくにつれ、二人の目は潤み始めた。
「オレ達がいなくなっても、アドバンズのことは頼んだぜ。お前らならきっと大丈夫だ」
ソウイチはモリゾーとゴロスケを励ましたが、今の二人にとって、ソウイチとソウヤはかけがえのない存在。
いなくなった後のことを想像するなんて、とても考えられなかった。
「どうして・・・。どうしてそんなこと言えるのさ!! オイラ達は、ソウイチとソウヤがいたからここまで頑張れたんだよ!?」
「そうだよ!! 二人がいなくなったら・・・、僕達・・・、もうどうしていいのか分かんないよ!!」
弟子入りしてからここまで、四人は一丸となって、どんな困難にも負けず頑張ってきた。
そして、最初は臆病だった二人を支えたのは、紛れもなくソウイチとソウヤ。
パートナーであり、親友であるソウイチとソウヤを失うのは、人生の道しるべを失うのと同じことだと今の二人は考えていたのだ。
ところが、その言葉を聞いた瞬間、急にソウイチの表情が険しくなった。
「バカ野郎!! 甘ったれんじゃねえ!!」
ソウイチに怒鳴りつけられ、モリゾーとゴロスケは言葉を失った。
励まされるならまだしも、激怒されるとは思っていなかったのだ。
「オレ達がいなくなったらどうすりゃいいか分かんねえだ? ふざけんな!! 少しはたくましくなったかと思ったけど、全然変わってねえな!! 昔の、臆病で弱虫のまんまじゃねえかよ!!」
「ちょっとソウイチ!! こんな時に何言い出すのさ!!」
ソウヤはあわててソウイチの暴言をとめようとしたが、ソウイチはだまれの一言で一蹴した。
「今までの冒険はなんだったんだよ!? 今まで、どんだけつらいことや苦しいこと乗り越えてきたと思ってんだ!! それができたのに、オレ達との別れが我慢できねえのは、完全に甘えじゃねえか!!」
ソウイチの口からは機関銃のように次々と言葉が飛び出す。
二人の心には、ソウイチの思いやりのない言葉がナイフのように突き刺さった。
「今のお前達なら、オレ達がいなくたって十分やってけんだよ!! それが分かんねえのか!!」
ソウイチは怒りに満ちた目で二人をにらみつける。
しかし、いくらそんなことを言われても、別れを我慢することなどできるはずがない。
「でも・・・、でも・・・!」
二人の顔はゆがみ、大粒の涙がこぼれ始める。
ソウイチはそれに対しても、また大声で怒鳴りつけた。
「バカ!! 男がめそめそ泣くんじゃねえよ!! 男だったら、ぐっとこらえろ・・・! お前らが泣いたら・・・、お前らが泣いたら・・・!」
最初こそ大声だったものの、言葉尻になるとソウイチの声は震えていた。
三人がソウイチの顔を見ると、ソウイチの目には徐々に涙がたまり、今にもあふれ出しそうになっていたのだ。
「お前らが泣いたら・・・、オレまで・・・、オレまで泣けてきちまうじゃねえかよ!!」
するとソウイチは、突然モリゾーを抱きしめると大声をあげて泣き始めた。
あまりの意外な行動に、三人はぽかんと口をあけてソウイチが泣く様子を見つめている。
だがしばらく時間を置くと、なぜソウイチがあそこまでモリゾーとゴロスケにひどいことを言ったのかようやく理解できた。
この別れを一番悲しんでいたのは、紛れもなくソウイチ。
そして、みんながいる手前大げさに泣くことはできないと考え、悲しみを押し殺すためにわざと怒りを爆発させたのだ。
怒っている間は悲しみを忘れられ、泣きそうにならないですむ、彼はそう考えていた。
しかし怒っていられるのにも限度があり、二人のこぼれる涙を見て、とうとう自分もこらえきれなくなってしまったのだ。
それが分かり、三人にも一気に悲しみがあふれてきた。
「ソウイチ・・・。ソウイチ・・・!」
モリゾーはソウイチをぎゅっと抱きしめ、自分も大声で泣いた。
ソウヤとゴロスケもお互い抱き合い、最後には全員で抱きしめあって泣いたのだ。
「オレだって・・・、オレだってお前らと別れたくねえんだよ・・・!!」
「もっと、もっと二人と一緒にいたいんだ・・・!!」
ソウイチとソウヤは泣きじゃくりながら本心をあらわにする。
それに応えるように、モリゾーとゴロスケはさらに二人を抱きしめた。
どれほどそうしていただろうか、不意に、二人の体から発せられる光が強さを増したのだ。
これ以上、この世界にとどまることは許されない。
「モリゾー、ゴロスケ。最後にお願いがあるんだけど、聞いてくれるか?」
「え・・・?」
ソウイチのお願いという言葉に、二人は意外そうな顔をした。
頼みというものは何回も聞いたが、お願いなどという改まった言い方をしたのは初めてだ。
「ここで起こった出来事を、なるべく大勢のポケモンに伝えてくれ」
「あんな未来にならないように・・・、二度と僕達みたいな人が出ないように」
ソウイチとソウヤはゆっくり、そして二人に言い聞かせるように話した。
「分かった・・・。ちゃんと伝える・・・。ちゃんと伝えるから、まだ行かないでよ・・・。行っちゃ、行っちゃ嫌だ・・・!」
二人はまだ、ソウイチとソウヤの手をぎゅっと握り締めたままだ。
手を離した瞬間、二人が消えてしまいそうで怖かった。
でも、ソウイチとソウヤはゆっくりと首を横に振る。
「モリゾー。オレはお前と出会えて本当によかった。たまにバカやったり、けんかしたりしたけど・・・、一緒にいられてすごく楽しかったぜ」
「僕もだよゴロスケ。一緒に修行して、一緒に冒険して・・・。二人といたことは、僕達の大事な思い出だよ」
ソウイチとソウヤは、涙を拭いて最後の思いを伝えた。
四人は、本当に心から深い絆と信頼で結ばれていたのだ。
「二人のことは、ここで消えても絶対に忘れない。だって二人は、自分達の・・・、かけがえのない親友だから」
ソウイチとソウヤは、二人に向かってにっこりと微笑んだ。
その笑顔は、実に穏やかで、自然なものだった。
「ありがとう」
その言葉が言い終わると同時に、二人の体はまばゆい光に包まれ、天へと消えていった。
モリゾーとゴロスケはしばらくその場に立ち尽くしたが、やがて、言いようのない悲しみが二人を襲う。
どうしても、パートナーの名前を叫ばずにはいられなかった。
「ソウイチいいいいいいい!!!」
「ソウヤああああああああ!!!」
悲痛で切ない叫び声は、辺りに虚しくこだまするだけだった。
二人はその場に泣き崩れ、言葉にならない思いを、涙や嗚咽と一緒に吐き出す。
目の前には、ソウイチの青いバンダナと、ソウヤの緑のハチマキが残っていた。
二人が、今の今まで存在していたことを実感させる、唯一の証であるかのように・・・。
それからしばらく経ち、二人はようやく泣くのをやめた。
目の前にあるソウイチとソウヤの面影を拾い、再びにじのいしぶねに向かって歩き始める。
だが、足取りはおぼつかず、涙を拭くことさえも忘れていた。
頭にあるのはただ一つ、生きて帰り、起こった出来事をなるべく多くのポケモンに伝えること。
ソウイチとソウヤの最後の願いをかなえるまで、歩みを止めるわけにはいかない。
にじのいしぶねに乗り込むと、船はすぐさまじげんのとうを離れ始めた。
「じげんのとうが・・・、遠くなっていく・・・。ソウイチとソウヤが・・・、離れていく・・・」
二人は船に乗っている間中、見えなくなるまでじげんのとうを見つめていた。
まだ目に涙を浮かべて、ソウイチとソウヤの形見を握り締めて。
そのころ、カメキチ達はなかなか帰ってこない四人を今か今かと待っていた。
あれからかなり時間が経ち、様子がどうなっているのか全く分からなければ、不安はつのる一方だ。
「遅いわね・・・。ソウイチ達・・・」
「そやな・・・。あいつら、うまいことやったんやろか・・・」
ライナとカメキチはお互いに顔を見合わせ、再び神殿の頂上に目を移した。
すると、遠くに豆粒のような影が現れ、だんだんとこっちへ近づいてきている。
それがにじのいしぶねだと分かると、二人はまだショックを受けて座り込んでいたドンペイを引っ張り、すぐさま頂上へと駆け上がった。
だが、そこにいたのはモリゾーとゴロスケだけ。
ソウイチとソウヤの姿は、どこにも見当たらなかった。
「お、おい・・・。ソウイチとソウヤはどないしたんや? 時の破壊はどうなったんや?」
カメキチは早速二人に質問し、二人はじげんのとうで起こった出来事を話して聞かせる。
最後のほうになると、別れた時のことが鮮明によみがえるのか、また涙がこみ上げてきた。
「そんな・・・。嘘でしょ・・・?」
ライナは信じられないという風に首を横に振る。
歴史を変えたことでソウイチ達が消滅したと言われても、簡単に受け入れられるはずがない。
「必ず・・・、戻って来い言うたのに・・・!」
カメキチは拳にぐっと力をこめた。
やりきれない思いが、カメキチの全身を駆け巡る。
「どうしてですか・・・」
突然ドンペイが言葉を発し、彼らはびっくりしてその方を見る。
すると、今まで無表情だったドンペイの顔が見る見るうちにゆがみ、両目は涙でいっぱいになった。
「どうして・・・、どうしてですか!! ソウイチさんも、ソウヤさんも、先輩も、グラスおじさんも、この世界を救うために必死で戦ったのに・・・! 消えるなんて・・・、僕達の前からいなくなるなんて・・・」
ドンペイは最後で感極まり、言葉を詰まらせた。
そして・・・。
「そんなの・・・、そんなのあんまりすぎますよ!!!」
今まで溜め込んでいた悲しみを吐き出すかのように、ドンペイは泣き叫び、その場へ座り込んだ。
ソウマとグラスが未来へ行く時に泣けなかった分、その悲しみは計り知れないもの。
そんなドンペイの様子を見て、カメキチは天を思いっきりにらみつけた。
(神様・・・。ほんまにあんたがおるんやったら、あんたは大ボケのドアホや!! なんで・・・、なんで世界の平和と引き換えに、あいつらが犠牲にならなあかんのや・・・!! そんなん、そんなんおかしいわ!!)
叫びだしそうなのをこらえ、カメキチは心の中で神を罵った。
だが、たとえ神といえども、自然の摂理には逆らえないのかもしれない。
そうでなければ、きっと、ソウイチ達は消えずに、笑顔を見せてこの場にいただろう。
オレ達は、世界に平和を取り戻すことができたんだ! とでも言いながら。
彼らは沈みきった気持ちでまぼろしのだいちを後にし、再びラスティとステラに乗って大海原へと帰ってきた。
悲痛な面持ちで黙りきった彼らを気遣い、二人は悲しそうな表情を浮かべるものの、一言も声をかけることはしない。
トレジャータウンへ無事たどり着いた彼らは、ギルドや町のポケモンたちを始め、各地のポケモンに今回のことを話して伝えた。
じげんのとうでのこと、まぼろしのだいちでのこと、そして、ソウイチ達が消滅を覚悟してまで、世界の平和を守ったことを。
彼らは大陸の果てまでも出向き、必死でこの出来事を伝えて回った。
世界の平和を願い、未来への平和を祈るように、ポケモン達の心へ訴えたのだ。
ポケモン達は、平和と引き換えに消えていった勇者達に、尽きることのない祈りと、感謝を捧げた。
ありがとう、ご苦労様と、精一杯の敬意を表し、大陸中が悲しみに染まっていく。
そして、シリウスとコンの方でも・・・。
「シリウス~。ちょうどオボンの実が入荷していたんで買ってきましたよ~」
コンは基地の隅っこにいるシリウスに声をかけた。
だが、シリウスはピクリとも反応しない。
いつもならオボンという単語を聞いただけですっ飛んでくるのだが、今日はいつになく静かだ。
「シリウス・・・?」
さすがのコンも不審に思い、ゆっくりとシリウスに近づく。
そこで、コンは息を呑んで立ち止まった。
シリウスは手紙らしきものを握り締め、体を小刻みに震わせていたのだ。
この位置ではよく見えないが、目元が光っているようにも感じられる。
「シリウス、どうしたんですか・・・?」
コンが再び声をかけると、シリウスは振り返らず、乱暴に手紙を突き出した。
いつもと明らかに違う様子に戸惑いながら、コンは手紙に目を通す。
読み進めていくうちに、コンにも衝撃が走った。
その手紙はアドバンズからで、ソウイチ達がじげんのとうで消滅したという知らせ。
「そんな・・・。ソウイチさん達が・・・」
コンはショックで言葉を失った。
救助隊連盟に警告を受けギルドで別れた時が、二人の見た、ソウイチ達四人の最後の姿だったのだ。
突然、シリウスは目の前の壁を思いっきり殴りつけた。
コンはびくっとして、思わず手紙を落としてしまう。
「何で・・・、何でだよ・・・! オレだって・・・、オレだってお前らと同じ未来の生まれじゃねえかよ・・・。なのに、何でオレだけ生き残って、お前らは消えちまったんだよ・・・! ふざけんな・・・! ふざけんなああああああ!!」
直後、シリウスはその場に崩れ落ちるようにして座り込み、コンがいるというのに大声で泣き始める。
コンは、シリウスが人目を気にせず、ここまで号泣するのを見たことがなかった。
普段は生意気な態度がほとんどであるシリウスだが、ソウイチの偽者が現れた時のように、本当は仲間想いで、友達想いだったのだ。
バカにされたり、傷つけられたりすることは非常に堪えがたく、ましてや消滅したと聞いては、それこそ断腸の思いだっただろう。
大声を上げて泣き続けるシリウスを、コンはそばに座って背中をさすってやることしかできなかった。
そうしなければ自分も、ソウイチ達を失った悲しみで、胸が張り裂けそうだったから・・・。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
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