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アドバンズ物語第七十二話

/アドバンズ物語第七十二話

ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語
作者 火車風
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第七十二話 冒険は終わらない ずっとずっとアドバンズ! 


世界に平和が訪れて数ヶ月、大分事件のほとぼりも冷め、モリゾー達も今まで通りの生活に戻った。
最初こそ沈み込むことが多かったが、日を追うごとに元気を取り戻していく。
このまま嘆いていても四人は帰ってこないと言い聞かせ、自分を奮い立たせたのだ。
さらに、ソウイチ達の形見を身につけることで、彼らがいつも自分のそばについていると思えるようにもなった。
心配していたギルドメンバーも、今ではすっかりアドバンズが落ち着いたと安心している。
そんなある日、忙しさから解放されたモリゾーとゴロスケは、夕方の海岸へ散歩に行くことに。
海岸ではいつもどおりクラブが泡を吹いており、その泡が夕日に映え実に美しい光景だった。
二人は立ち尽くしたままその風景に見とれていたが、そこである疑問が頭を掠める。

「あれ・・・? そういえば、前に見たのっていつだっけ?」
二人は記憶の糸を手繰り寄せ、一つの結論に達する。
最後に見たのは、ソウイチとソウヤに出会ったあの日だった。

「あの時はほんと驚いたよね。ポケモンの姿なのに自分が人間だって言い張るもの」

「そうそう。でも今思えば、そこからオイラ達の冒険が始まったんだよね」
二人はその場に座り、思い出を語り始めた。

自分の探検隊に対する情熱を話し、断られるのを前提で頼み、OKしてもらったパートナー。
一緒にがんばろうと、ソウイチとソウヤの手を取って喜びに満ちていた。
ギルドに入ってからは賃金の安さに驚いたり、簡単な依頼の続出に腹を立てたりしたが、それでも依頼者の笑顔のため一生懸命に仕事をこなす。
スリープからルリリを助けるのに必死で、お腹がすいていたことさえも忘れ、連鎖反応で大きな音を立てたことは今でも思い出し笑いをしそうになる。
ソウマと出会った時の衝撃はすさまじく、一時はどうなることかと思ったが、合体特例ということに落ち着き、新たな仲間ができたことに喜んだ。
たきつぼのどうくつを初めて探検した時には、ソウイチの言葉に勇気付けられ、滝を突破することができた。
ドクローズにいいように手玉に取られ、プクリンのいる前で恥をかかされたのは、今でも頭に来る部分があるが、最後には悪人でも最初から悪いわけではないということを知る。

遠征では分かれたばっかりに別の道を進んでしまったり、ツノやまが通れなかったりとさまざまなトラブルに見舞われたが、なんとかベースキャンプへたどり着くことに成功。
グラードンの幻を打ち負かし、アドバンズ全員で見たきりのみずうみでの光の演出は今でも忘れられない。
ときのはぐるまを探す時も、ソウイチとソウヤのおかげで道なき道を進み、盗まれるのを必死で阻止した。
未来世界での逃亡生活、孤独感に苦しみくじけそうになったが、ソウイチの励ましで希望を再び持てたのだ。
じげんのとうへ乗り込むときも、ソウイチとソウヤがいることで頂上まで上り詰め、時の破壊を防ぐことができた。

二人の話はとどまるところを知らず、ソウイチ達と過ごした思い出をひたすら語り合った。
今でも、言葉、行動、姿の一つ一つが鮮明に脳裏に浮かぶ。
ソウイチ達がいたことがどれほどかけがえのない思い出か、改めて思い知らされたのだ。
だが、もうソウイチ達はどこにもいない。
面影を感じるバンダナとハチマキはあるが、今、彼らはここにいないのだ。

「・・・ソウイチ・・・」

「・・・ソウヤ・・・」
語れば語るほど、二人の頭の中はソウイチ達のことでいっぱいになった。
まぼろしのだいちから帰ってきてからは、忙しさに飲み込まれそんなことを考える暇もなかったが、ゆっくりとした時間ができたことで、再び思いが募ってきたのだ。
踏ん切りをつけたのに、もう二人は帰ってこないと言い聞かせたのに、それでも、悲しみを根本から消し去ることはできなかった。
押さえつけていたものがじわじわとあふれ出し、二人の心を埋め尽くしていく。
頬を伝い落ちる涙は、砂浜さえも悲しい青に染めてしまいそうだ。

「お~い!!」
遠くの方から、二人を呼ぶ声が聞こえる。
モリゾーとゴロスケが顔を上げると、カメキチ達がこっちへ走ってくるのが見えた。
帰りが遅いので、心配して様子を見に来たのだ。
だが、二人が悲痛な表情で涙を流しているのを見て、三人は驚く。
そして、カメキチ達の姿を見た瞬間、こらえていた思いが、一気に噴き出した。
モリゾーとゴロスケはカメキチに抱きつくと、我を忘れて慟哭する。

「わ! ちょ、ちょ! 一体どないしたんや!?」
突然抱きつかれて焦るカメキチだが、二人はひたすら声を上げて泣くばかり。
しかし、ある程度泣いている理由の想像はついたので、カメキチは優しく二人を抱き寄せ、二人の意のままにさせた。
ライナとドンペイは、泣きじゃくるモリゾーとゴロスケを悲痛な面持ちで見つめている。
カメキチも、二人が泣いているのを見るのは非常に心が痛む。
またしても、アドバンズは悲しみの渦に巻き込まれたのだ。

そのころじげんのとうでは、ディアルガが悲しみに包まれたアドバンズの様子を見ていた。
平和と引き換えに犠牲になったのは、ソウイチ達だけではない。
モリゾー達も、最愛の者を失った犠牲者なのだ。
ディアルガは、ある決断を下した。

「お前達が今も願うなら、そしてソウイチ達もそれを望むなら、私はそれを受け入れよう。お前達アドバンズは、この世界にとってなくてはならない存在だ」
ディアルガはいったん目を閉じ、そしてかっと見開く。

「だからこそ、お前達に未来を託そう! これは私からの礼だ! 受け取るがいい!」
ディアルガは天にまで届きそうな鳴き声をあげた。
どこか哀愁を含む力強い咆哮は、あたり一面にこだまする。

最初よりは大分落ち着いてきたモリゾーとゴロスケだが、それでも泣き止むことはできなかった。
心に突き刺さったとげは、想像以上に深く、大きい。
カメキチは二人を促し、ライナとドンペイとともにギルドへ戻ろうとする。
すると、ドンペイが突然声を上げた。

「あ・・・、あれを見てください!!」
何のことか分からず、彼らはドンペイの指差す方向を見る。
次の瞬間、その目はみるみる見開かれていった。
天から地に舞い降りた光の塊が、徐々に輝きを失いつつ、ある動物を形作っていく。
彼らが見慣れた、ヒノアラシと、ピカチュウというポケモンを。
モリゾー達はもちろん驚いたが、一番驚いていたのは、再びここへ戻ってこられたソウイチとソウヤだった。
お互いの姿を見るなり、胸は喜びにあふれ、先ほどとは異なる涙が頬を伝う。
モリゾーとゴロスケはまっしぐらに二人の元へ駆け出し、思いっきり二人に抱きつき、その存在を確かめるかのように何度も何度も名前を呼んだ。

「会いたかった・・・! 会いたかったよソウイチ・・・!!」

「寂しかったよ・・・! ソウヤ・・・!!」
二人は感動で言葉が浮かばない中、ようやく思いを口にすることができた。

「オレもだぜ・・・。モリゾー、ただいま・・・!」

「ゴロスケ、つらい思いをさせてごめんね・・・!」
ソウイチとソウヤも思ったように話せなかったが、うれしさに満ち溢れていることは誰が見ても明確。
四人はしばらく抱き合い、お互いの温もりを肌で感じ取っていた。

「ドアホが! 散々心配かけよってからに!」
カメキチはうっすらと涙を浮かべ、ソウイチとソウヤの頭を小突き回す。
これは彼なりの愛情表現の一つなのだ。

「本当に・・・、本当によかったです・・・!!」
ドンペイも心からの笑顔を浮かべた。

「そうだ! はい、これ!」
モリゾーとゴロスケははっと思い出し、自分の首と頭に巻いていたバンダナとハチマキを二人に渡す。
二人は今まで持っていてくれたことに礼を言い、自分の頭に巻きつけた。

「うん! やっぱり二人はそれが一番似合ってるよ!」

「ソウイチとソウヤはこうでなくっちゃね!」
モリゾーとゴロスケはにっこり笑った。
ソウイチとソウヤも嬉しそうだったが、どこか照れくさいような表情を浮かべている。
その場にいた全員が幸せに満ちていた、かと思ったが、ただ一人だけは腑に落ちない顔をしていたのだ。
それは他でもない、ライナだった。

「ソウマは・・・? ソウマはどこなの・・・?」

「え・・・?」
辺りを見回したが、ソウマはおろか、グラスの姿も見えない。
帰ってこれたのは、この二人だけ。
やはり、未来世界に帰ってしまった二人には、ディアルガの咆哮は届かなかったのだろうか。

「どうして・・・? どうして帰ってこないの・・・? ソウイチとソウヤは帰ってきたのに・・・、どうしてソウマは帰ってこないの・・・」
ライナは力なく座り込み、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。
慟哭することはなかったが、それよりも、みんなの心に重く悲しみがのしかかる。
大声を上げて泣くより、すすり泣くほうがかえってつらさと悲しさが強調されるのだ。

「ライナ・・・」

「お願い・・・。一人にしておいて・・・」
このままギルドに帰れそうな気分ではないライナ。
何か言いたそうなソウイチとソウヤを制し、カメキチは彼らを連れてその場を後にする。
オレンジ色の海岸に残されたのは、孤独と悲愴感に包まれたライチュウだけ。
どれほど泣いていただろう、ふと、ライナの周りに影ができた。

「おいおい。そんなに泣いたら、せっかくのかわいい顔が台無しだぜ?」
聞き覚えのある声に、ライナははっと顔を上げる。
その目の前には、会いたくて会いたくてたまらなかった、おでこに星型傷をつけたバクフーンが立っていた。

「ライナ・・・。寂しい思いをさせてごめんな。オレは、ちゃんと帰ってきたぜ」
ソウマは温かみのある、優しい声でライナに語りかけた。
ライナの目からは、さっきとは比べ物にならない涙が溢れ出す。

「ソウマ・・・。ソウマああああああ!!」
ライナはソウマの胸に飛び込み、顔をうずめて泣きじゃくった。
そんなライナを、ソウマは幼い子供をあやすように何度も何度も頭をなでる。
自分でも、自然と涙がこみ上げてくるのが分かるソウマ。
改めて、自分はライナのことが、心から好きなのだと実感した。
しばらく抱き合っていると、ライナもようやく落ち着きを取り戻す。

「お帰りなさい・・・、ソウマ」

「ただいま、ライナ」
二人はしばらく、お互いの顔を見つめ合っていた。
どこか夫婦のような、実に微笑ましい光景だ。
と、ソウマは何かを思い出し、ライナから少し距離をとる。

「ライナ。あの時、もしかしたら聞こえなかったかもしれねえから、もう一度言うぜ。あ、聞こえてたら別にいいんだけどよ」
ソウマは少し顔を赤らめた。
一度ならまだしも、二度も同じ告白をするのはやはり恥ずかしい。
ライナは少しぽかんとしたが、すぐに自分の顔が火照ってくるのが分かった。

「え・・・? あ、ああ・・・。じゃあ、お願いできる?」
それを聞いて、ソウマはこくっとうなずく。
本当は一字一句逃さず聞こえていたのだが、今この場で、もう一度聞いてみたかったのだ。
ソウマが長年秘めていた、本当の気持ちを。

「ライナ。オレは、森で出会ってからずっと、お前のことが好きでたまらなかった。オレと、付き合ってくれるか?」
直後、ライナの顔はトマトのように真っ赤になった。
しばらくぼうっとしていたが、やがて自分も口を開く。

「実は私も、ソウマにずっと言おうと思って言えなかったことがあるの。でも、今ならはっきりと言えるわ」

「言えなかったこと?」
今度はソウマがきょとんとする番だった。
何を言うつもりなのかと、まじまじとライナの顔を見つめる。

「私も森で出会ってから、ずっとソウマのことが大好きだった。もちろん、喜んで付き合うわ」
カメキチからライナの気持ちを聞いていたとは言え、本人の口から、その想いを聞くことには勝らない。
ソウマは、ライナがとてもいとおしい存在に思えた。

「ライナ・・・」

「ソウマ・・・」
二人はまたお互いを見つめ、やがて、顔をゆっくりと近づけていく。
唇が重なった瞬間、二人は完全に一つとなった。
夕日が照らす海岸でのキス、なんとロマンチックな光景だろう。
そしてキスが終わると、ライナはとんでもないことを口にした。

「本当は、結婚しようって言ってほしかったんだけどなあ・・・」

「な、何言ってんだ!! 未成年の結婚は親の同意が必要だし、それに、成人してないのに結婚するなんてふしだらな真似は・・・」
ソウマはこの上ない慌てようでライナの言葉を否定した。
今すぐにとはいかないが、将来的にそうなったらいいなと考えていたからだ。
すると、ライナはくすくすと笑い始めた。
ソウマは狐につままれたような顔でライナを見ている。

「冗談よ、冗談。ちょっとからかってみただけ」
ライナはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。

「なんだ・・・。おどかすなよ・・・」
ソウマはほっと胸をなでおろしたが、少し寂しいような気もした。
ライナが自分のことを好きなのは分かったが、今後の人生を支えあって生きていくつもりはないのだろうか、そう思えたからだ。
しかし、その後のライナの言葉で、それは間違いだったと気付かされる。

「でも、結婚したいなあって思ったのは本当よ? ソウマとなら、一緒に歩んで行けそうな気がする」

「ほんとか!? ・・・まいったなあ・・・」
ソウマの顔はぱっと輝いたが、すぐにいつもの顔に戻ると、照れくさそうに頭をかいた。
露骨に喜んだ顔をするのは、さすがに男としてみっともないというプライドがあるのだろう。
そして、ライナはマントを脱ぐとソウマに差し出した。
羽織っていると、常にソウマが近くにいるような、一緒になれたような気がしていたのだ。
だが、ソウマが戻ってきた今となっては、持ち主に返すべきと判断した。

「ずっと持っててくれたのか・・・。ありがとう」
ソウマは立ち上がり、バサッとマントを羽織る。
ライナの目には、今までで一番かっこよく、そして頼もしい存在に見えた。

「じゃあ、帰ろうぜ」

「うん」
お互いにっこり笑うと、二人は手をつないでギルドに向かって歩き始める。
今という瞬間は、二人にとってこれ以上にない満ち足りた時間。
その相思相愛の姿を、沈みかけて赤くなった夕日と、どこまでも広がる海が見つめていたのだった。


「はい! まいどあり~!」

「ありがとうございます~」
コンは、カクレオン商店で食料や木の実などを買い揃えていた。

「コンさん。シリウスさん、まだ立ち直ってないんですか?」
カクレオン達は心配そうに尋ねる。
というのも、あの手紙が来て以来、シリウスは全く依頼を受けようとしなくなってしまった。
ソウイチ達を失ったことがあまりにショックで、仕事に対するやる気がおきないのだ。
すべてをコンに丸投げして、今も基地で引きこもって寝ている。

「はい・・・。ソウイチさん達のことで、まだ立ち直れてないんだと思います・・・」

「そうですか~・・・。早く元気になってもらわないと、こっちまで気分が萎えちゃいますよ・・・」
コンの言うことに、カクレオン兄弟はがっくりと肩を落とした。
シリウスのむちゃくちゃな元気は、町の人にも活力を与えていたのだ。
それがすっかりなくなり、どこか心に隙間が開いたように感じる今日この頃。
一刻も早く、元気になってほしいと願うばかりだ。
コンはカクレオン商店を後にし、橋を半分ほど渡ったところで立ち止まる。

(一体、シリウスはどうすれば元気になってくれるんでしょうか・・・。大好物のオボンも全然口にしないし・・・)
コンはコンなりに、シリウスがどうすればいつもの状態に戻るか、頭を悩ませていた。
だが、これといって具体的な考えも浮かばず、ただただ時間が過ぎていくだけ。
コンにとって、それは非常につらい時間だった。
半ば落ち込んだ状態で基地に帰ってくると、連絡所のほうからペリッパーが飛んでくるのが見える。

「コンさん、速達ですよ~」

「あ、ご苦労様です」
ペリッパーはコンに手紙を渡すと、また連絡所へと戻っていった。
一体誰からだろうと差出人を見ると、なんとアドバンズからではないか。
出した日付は昨日になっており、かなり急を要するようだ。

「一体どうしたんでしょう・・・。とりあえずシリウスに渡さないと・・・」
宛先はシリウスになっていたので、勝手に封を切るのは気が引けた。
基地の中に入ると、シリウスは相変わらず、ごろんと横になって寝ている。

「シリウス。あなた宛に手紙が来てますよ」

「・・・どっかその辺に置いといてくれ・・・。後で読むから・・・」
シリウスは面倒くさそうに手を振った。
後で読むといっておきながら、今までそのとおりになった例がない。
コンは無理やり手紙を渡し、今すぐ読むように言う。

「なんなんだよまったく・・・」
シリウスはぶつくさ文句を言ったが、しぶしぶ封を切って文面に目を通す。
すると、最初は死んだ魚のような目が徐々に光を取り戻し、顔にも生気がみなぎってきた。
こんなシリウスを見るのは久しぶりで、コンはその劇的な変化に驚いている。

「コン! 今すぐ出かけるぞ! オレは先に行ってるから、急いで準備しろよ!!」
シリウスはバンダナを巻き、手短に準備を済ませるとあっという間に外へ飛び出していく。
引き止める暇もなく、コンは呆然とその場に立ち尽くしていた。

「一体何なんですか・・・。もう・・・」
コンはむっとしながら手紙を拾い、自分も読んでみる。
そして読めば読むほど、なぜシリウスが突然元気になったかを理解できた。
それはソウイチ本人が書いた、自分達の帰還を知らせる手紙だったのだ。
コンは遅れを取るまいと慌てて身支度を始め、すぐにシリウスの後を追いかける。

「遅えぞ! 早く行かねえと日が暮れちまう! 少しでも早く行って、散々心配かけやがったあいつを一発ぐらい殴ってやる!」
乱暴な言葉の割りに、シリウスの顔はうれしさで満ち溢れていた。
コンにも、その喜びがひしひしと伝わってくる。

「じゃあ行きましょうか。でも、あんまりやりすぎちゃだめですよ?」

「分かってるって! じゃあ出発だ!!」
念を押すコンに軽い調子で答えると、シリウスはギルドへ向かう道を駆け出す。
コンも、元気になって本当によかったと思いながら、遅れないようにその後をついて行くのだった。


それから数日後、夕方の海岸にはアドバンズの全員と、マスタースパーク、フレイム、バーニーが姿を見せていた。
今日はグラスが未来世界から帰ってくる日なので、メンバー総出で出迎えようというのだ。

あの後、ヨノワールとともに未来へ帰ったソウマとグラスは、ソウイチ達が歴史を変えるまでの間に、やみのディアルガを倒そうとしていた。
無論勝とうという気はなく、影響が出始めるまでの間に、やみのディアルガの力が及ばないよう時間稼ぎをするつもりだったのだ。
それを邪魔をしようとするヨノワールだったが、過去での失敗によりディアルガから見放され、自らも追われる身となってしまう。
代わりに、新しい刺客が過去へ送られ、再びソウイチ達を消しにかかるとのこと。
そんなことをさせるわけには行かず、二人はヨノワールと組み、追いかけるヤミラミ達を振り切りながらじげんのとうを目指す。
何とか頂上へたどり着いたが、そこはすでにもぬけの殻で、三人の胸を嫌な予感が駆け抜けた。
ヨノワールの予測の元セレビィがいるであろう場所へ行くと、再びヤミラミ達に取り囲まれてしまう。
倒したヤミラミから引き出した情報によると、ディアルガはセレビィを追ってひょうかいのしまへ行ったらしい。
三人はすぐさまそこへ向かい、途中に出てくるこおりタイプのポケモンを倒しながら後を追った。

そして追いついた先で見たものは、ミカルゲに捉えられているセレビィ。
助けようと近づく二人だったが、それは、ヨノワールが仕組んだ策略の一部。
新しい刺客など存在せず、すべてはヨノワールとヤミラミの演技だったのだ。
自分の魂を分割し二人の体に注入することで、再び過去へ行きソウイチ達を葬ろうという計画だった。
絶体絶命の状況の中、二人はなんと、ヨノワールの良心を信じると言い出したのだ。
どの道消えてしまう今となっては、ディアルガに忠誠を尽くす意味などない、もっと生きる意味を考えろ、そう二人は訴えた。
しかし、ヨノワールは表情一つ変えず、黙って二人を見つめるばかり。
説得に失敗し、いよいよ魂が抜かれ、自分の命が終わるであろうと思ったその時、奇跡は起こった。

ヨノワールが自らの手で、二人を助けたのだ。自分の生き方に、ようやく疑問を感じたから。
だがその直後、突如として現れたディアルガによって、ヨノワールはその場に蹴倒される。
その様子に恐れをなし、ミカルゲはセレビィのかなしばりを解き逃げ出した。
怒り狂ったディアルガになすがままにされるヨノワールを助けようと、セレビィが攻撃しようとした瞬間、辺りが白い光に包まれ、上空に七色のカーテンが出現する。
極寒の地にのみ現れるという、オーロラだった。
それこそ、ソウイチ達が歴史を変えた瞬間。
それを見たディアルガは一声鳴くと、どこかへと姿をくらます。
ヨノワールによれば、暴走の極限に達したディアルガはときのかいろうへ行き、そこを破壊する可能性があるとのこと。
そうなってしまえば、未来過去に関係なく、すべての世界が崩壊する恐れがあるのだ。
ディアルガの暴走を食い止めるため、四人は一致団結し直接対決に挑む。
ときのかいろうにたどり着いたところで、ディアルガを含め、急に四人の体から光が発せられる。
こちらも歴史が変わったことで、消滅の時が近いのだ。
四人は命を懸けてディアルガと戦い、ぼろぼろになりながらも勝利を掴み取ることができた。
しかし、それがタイムリミットであるかのように、ディアルガ、ヨノワールから始まり、次々とポケモンたちが消滅していく。
昇る朝日を見ながら、グラス、ソウマ、セレビィの三人は満足げに目を閉じた。
これで世界は救われた、自分の使命は果たされたと思いながら・・・。

だが、目を開けた先に待っていたのは、あの世などではなかった。
その場所にいたは、ソウマ、グラス、セレビィ、ヨノワール、そして、暗青色にオレンジ色のラインから、マリンブルーに水色のラインへと変化したディアルガ。
誰も、消滅することはなかったのだ。
ディアルガは自分の責任を感じ、新たな世界を支えることを誓った。
そして、テレパシーで未来世界の映像を四人に見せる。
木々が新芽を育み、花が咲き乱れ、澄んだ水が流れる川を取り戻した、本来あるべき姿を。
なぜ誰も消滅することがなかったのか、その原因はディアルガにも分からなかった。
一つ言えるのは、ディアルガよりも格上の、この世界を創った神による啓示なのかも知れないということだ。
消えることなく、これからを生きろと。
そのおかげで、ソウマもグラスも生き残ることができたのだ。

セレビィとヨノワールは、復興した未来世界を支えるつもりだったが、ソウマとグラスはやはり仲間の元へ戻りたかった。
二人の想いを汲み、セレビィはときのかいろうでソウマを過去の世界へと戻したのだ。
その時グラスは、やり残したことがあると言って一緒には来なかった。
だから、あの時ソウマだけ現れるタイミングが遅く、グラスはその場にいなかったというわけだ。
そして今、彼らはその到着を待っている。

「まだかよ・・・。遅えなあ・・・」
ソウイチは貧乏ゆすりをしながらグラスが現れるのを今か今かと待っていた。
すでにここに来て十五分は経っている。

「もう・・・。ちょっとぐらい辛抱しなよ」
ソウヤは見かねて注意するが、ソウイチは逆に腹が立った。

「お前は空飛んでんだから退屈しねえだろうが! 降りてきてから言え!」
ソウイチはソウヤを思いっきりにらむ。
というのも、ソウヤはようやく新しいマントを作り終えて、空が飛べるかどうか試していたのだ。
実際ソウイチが怒っているのも、やきもちが大半を占めている。

「おいおい、アニキが弟にやきもちやいていいのかよ?」
シリウスはニヤニヤしながらソウイチの脇をつつく。
親友だけあって、胸の内は完全にお見通しのようだ。
ソウイチが何か言い返そうとした時、突如天から光が舞い降りてきた。
そして光の塊は輝きを失い、徐々にポケモンを形作っていく。

「父さ~ん!!」
その姿を見るなり、モリゾーはグラスに飛びついた。
グラスはただいまと言いながら、モリゾーをぎゅっと抱きしめる。

「モリゾー、何度も何度もつらい思いをさせてすまなかったな。でも、これからはずっと一緒だ。もうどこにも行ったりはしない」

「父さん・・・。戻ってきて、本当によかった・・・!」
モリゾーの目にはうっすらと涙が浮かぶが、もう泣いたりはしない。
そんなことよりも、自分の父とまた会えたことが、何よりも嬉しかった。

「おじさん! お帰りなさい!」

「戻ってきて本当によかったです!」
ゴロスケとドンペイも満面の笑顔だ。
そして何よりも嬉しそうなのは、何年ぶりかの再会を果たした、バーニーとフレイムだった。

「グラス・・・。また会えるなんて、夢にも思ってなかったよ」

「散々心配かけやがって。でも、よく戻ってきてくれたな」
二人はグラスの手を握って言った。
グラスも、少し力を込めてその手を握り返す。

「すまなかったな・・・。オレのせいで、二人にはいろいろな気苦労を負わせちまった・・・」
グラスはすまなそうに謝ったが、その本人達はそんなことを気にしている様子はなかった。
気苦労など、再会できた喜びに比べればどうということはない。
チームGBFは、数年の時を経て復活したのだ。

「ところで、やり残したことがある言うてたけど、それは何なんや?」
さっきから気になっていたのだが、雰囲気を壊すといけないので黙っていたカメキチ。
他のメンバーも、グラスのやり残したことというのが気にかかっていた。

「ああ。やり残したというよりは、忘れ物を取ってきたって言った方がよかったな」
グラスはバッグの中から、見たこともない機械と三本足の道具を取り出す。
何に利用するのかさっぱりわからなかったが、その場にいた全員は興味津々。
もちろん、元が人間であるソウイチ達四人はすぐに正体が分かった。

「何ですかこれ?」
コンは前足で三本足のものをちょんちょんと触ってみる。
木や石とは違う、今までにない感触だ。
モリゾーとカメキチは、真ん中に丸い穴のようなものがある機械を手にとって眺め回している。

「これはカメラっていう写真を撮る道具、こっちは三脚で、そのカメラを固定する道具なんだ」
ソウマは交互に指差しながら説明した。
だが、三脚の用途は分かるものの、写真と口頭で言われても、見たことのない者にとってはイメージがわかない。

「実際に撮ってみた方が早いかもしれねえな。ソウイチ、ソウヤ、シリウス。ちょっとそこに並んでくれ」
ソウマは二人を呼ぶと、海を背景に三人を立たせる。
夕日が海と重なり、それとあいまってクラブの泡がきらきらと輝き、写真を撮るには最高の風景だ。
ソウマがシャッターを押すと、カメラの下についている口のようなものから写真が出てきた。
そこには仲良く並んだ三人が写っており、彼らは歓声を上げて、現実の風景をその紙の中に切り取ったものを見つめる。

「そうそう。実は他の写真もあるんだ」
グラスはバッグの中に手を突っ込み、何枚か取り出す。
それは、ソウイチ達の住んでいた家から持ってきたものの一部だった。
記念に持ってきたのだろう。
人間の頃のソウイチ達の写真を見て、彼らはまたまた興奮。
当の本人達は恥ずかしくて赤い顔をしていたが、過去を思い出す貴重な宝物だ。

「でも、これがあるなら、わざわざカメラは持ってこなくてもよかったんじゃないのかい?」
バーニーはグラスの意図が分からなかった。
思い出を持ってきたのは分かるが、その道具まで一緒というのはどうも変だ。

「あ、オレ分かった! ここでも思い出をつくろうってことじゃねえの?」
シリウスは手を上げて自信満々に答えた。
しかし、他のメンバーはシリウスの言った意味が理解できずにいる。

「要するに、みんなで写真を撮りたいからカメラも持ってきた、ってことだよね?」
ソウヤがグラスを見ると、彼はその通りだとうなずいた。
改めて言い直されたシリウスはむすっと口をへの字に曲げる。

「なるほど。これだったら、ずっと先もこの風景を残せるし、いいアイディアだな」

「全員もそろったわけだし、ちょうどいいぜ!」
フレイムとソウイチは真っ先に賛成し、他のメンバーも記念写真を撮る方向で意見がまとまった。
彼らは夕日の海を背に、全員がカメラに収まるよう並んだ。
ソウマはピントを合わせると、シャッターのタイマーをセットし、すぐさま集団の中へ加わる。
数十秒後、シャッター音とともに写真がカメラから滑り落ちた。
誰もが個性的なポーズで、これならきっと皆のいい宝物になるだろう。
そして彼らは、その宝物を手にギルドへと戻って行った。
誰もが、幸せに満ち溢れた笑顔を浮かべて。

こうして、ソウイチ達の時を巡る冒険は幕を閉じた。
だが、彼らの冒険がこれですべて終わったわけではない。
明日という日が来れば、彼らはまた、新たな地へとロマンを求めて旅立つ。
その先にどんな出来事が待っているのか、それは誰にも分からない。
それでも、彼らは止まることなく進み続けるのだ。輝く、未来に向かって。




ここまで読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。

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  • タイトルからして最終話みたいですけど一応きいておきますね。
    クリア後の話は書くんですか?
    ―― 2011-05-25 (水) 03:38:51
  • コメントありがとうございます。
    率直に申しますと、エンディング後の話を書く予定はありません。
    ゲームをすでにプレイしている方からすれば、多少のオリジナルを織り交ぜても展開が読めてしまいつまらないと判断したからです。
    ですので、クリア後の話は書きません。
    ――火車風 2011-05-25 (水) 20:14:53
  • お久しぶりです。まずは、アドバンス物語の完結おめでとうございます。そして、コメントで読ましていただきましたが、番外編や短編など他の種類で書いてみてはいかがですか?
    僕は最後のシーンのライナとソウマの恋はどうなるか?や、アドバンズのソウイチとシリウスの本気に対決をしてどちらが勝利するのか?など、あまりに多くの疑問が残っていると僕は思います。
    しかし、火車風さんの作品なので、あまり僕が言えないのですが……
    とりあえず、今後の作品の執筆も頑張ってください!
    ――ポロ 2011-05-25 (水) 21:19:19
  • コメントありがとうございます。今日を持ってようやく完結することができました。
    番外編と短編は構想もあったりはするのですが、やはり今のところ書く予定はありません。
    ちなみに、ソウマとライナの恋はあのシーンで完全に実ったことになります。お互いの気持ちを伝えてキスまでしていますので。(笑
    ソウイチとシリウスの対決はまだ実現していませんが、そのうち、お互いの価値観の違いから対立する場面も見られると思います。続編があればの話ですが・・・。
    今後も精進して楽しんでいただける作品を書いていきますので、どうぞよろしくです。
    ――火車風 2011-05-26 (木) 02:05:49
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Last-modified: 2011-05-24 (火) 00:00:00
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