ポケモン小説wiki
はじめてのおつかい・・・

/はじめてのおつかい・・・

はじめてのおつかい・・・ 

ちょこっと思いつきシリーズ青浪
いいタイトルをなかなか思いつかなくて、そろそろ誰かとカブるんじゃないか・・・



なんでこんなに素直になれないのかな・・・


太陽がまだ地平線からその姿を完全にあらわさない東雲・・・空は緩やかに茜に染まり。暖かいような陽光・・・でも一番の冷え込み時だ。
1匹のライチュウがバシャバシャと水音をたてて台所でお皿を洗っている。
「寒い!」
なんで私がこんな早朝から・・・って、昨日は疲れててほっといて寝ちゃってたんだっけ。ぼやいていると、つんつん、と足を突っつかれた気がしたので私は振りかえってみる。
小さなオレンジと黒の虎柄のかわいらしいガーディが私を見てた。
「ちぃちゃん・・・まだ朝早いよ。」
「おてつだいすることある?」
ちぃちゃん・・・と私がそう呼んだガーディ・・・ご主人がつけた本当の名前はちひろなんだけど、いつのまにかちぃちゃんって呼んでる。
ちっちゃくてかわいい・・・だけじゃなくて、気遣いもできるし、よく手伝ってくれるし・・・2足で歩くポケモンだったら絶対酷使してたな。
「いいんだよ、ちぃちゃんは寝てても。」
私はそう言ってちぃちゃんの頭の黄色がかったもふもふの毛を何度も撫でる。暖かい・・・撫でるたびちぃちゃんは嬉しそうに目を細めてた。
あ、そうそう・・・私の名前はヒカリ。安直なご主人が・・・ご主人の名前もマモルっていう何のひねりもない名前だけどね。電気タイプだからヒカリ、そこで説明は終わり。
「そうだ。そろそろマモルが帰ってくるから、ちぃちゃんは私のすぐわかるとこにいててね。」
マモル・・・私はご主人のことを呼び捨てでそう言うんだけど、これはご主人の指示。ご主人って言われるのが嫌なんだって。
ご主人は朝も早くから起きて、日の出を今日は撮りに行ったんだってさ。そんなことしなくても早起きすれば毎朝見れるのにね。
「わかった、おねえちゃん!」
ちぃちゃんはにこっと笑ってつぶらな瞳で私をじっと見る。
うぁぁぁぁ・・・だ、ダメだ・・・この笑顔・・・興奮して鼻血出そう・・・
「私はちぃちゃんのお姉ちゃんじゃないって。」
私はそうあしらうも、心の中は極めて複雑。
すこししょんぼりしたちぃちゃんはリビングに駆け出していった。悪いことしちゃったなあ・・・そう思っても、私はどうしていいか、素直に受け入れられなくて。
ちぃちゃんは産まれてすぐ、この家に来たからね・・・ショウもうれしそうだったけど・・・あ、ショウっていうのはデンリュウで、私の幼馴染。
ご主人は最初っからメリープのショウとピチューの私をパートナーに選んだ。電気タイプばっか。で、ご主人は実家のウィンディに頼み込んでちぃちゃんをウチに連れて来たらしい。
ちぃちゃんが物心ついたときから私はちぃちゃんにお姉ちゃん、呼ばわりされてる。まぁ、確かに年上で、♀だけど・・・
ジャブジャブとお皿を洗って乾燥台に立てると私は壁に寄り掛かってふぅっと一息ついた。眠たい・・・

「ヒカリ!起きなさい。」
「わぁぁぁっ!」
びっくりして目を開けるとご主人がちぃちゃんを抱いてた。すっかり陽も登ってたみたい。つまり、早朝に皿洗いをしてから寝てたっていうことよね。
「なんでちぃちゃんに留守番させてるの?鍵開いてたし。」
「マモル!ごめん!」
謝る私にしかたないなぁ、とそんな表情をご主人は浮かべた。
「ちぃちゃんに謝んなよ。俺が帰ってくるまでずっと起きてたみたいだから。」
そう言ってご主人は私の目の前にちぃちゃんの両脇を抱えて差し出す。
ちぃちゃんはガーディの特徴であるお腹の薄い黄色の毛を私に見えるような格好でだらりと垂らしてぷらぷら浮いてる。そのつぶらな瞳はじっとわたしを捉えてた。
私がごめんなさい、と謝ると、ちぃちゃんはいいよぉ、と言ってくれた。そのちぃちゃんからはご主人が山でつけてきたものらしき、緑のいい匂いがしてた。
「こんなんだったら次からはショウじゃなくて、ヒカリを連れて行ったほうがいいかな・・・」
「ごめんなさい・・・」
やっぱりご主人は少し私に怒ってるみたい。むすっとした顔のままちぃちゃんを連れてご主人は自分の部屋に入っていった。
「どしたの?ヒカリ?」
能天気な声とともに、洗面所からとことこと足音が聞こえてきた。私は落ち込んだまま音の聞こえるほうに振り向く。
「ショウ・・・マモルが怒っちゃった・・・」
「あーあ・・・どうせ鍵開けっぱなしでちひろほったらかしで寝てたんだろ?」
うぅっ・・・見抜かれてる・・・ってよく考えたらショウは知ってるか。ご主人と一緒に帰ってきたんだもんね。
「知ってたでしょ?」
「当たり前です。あれでもマモルは落ち着いたほうなんだから。家帰って来た時は手がつけられないくらい怒ってたぞ。」
「そうなんだ・・・」
私は少しショックだった。ご主人が怒ることなんてそうめったにないし、いっつもなら私がショウに怒ってご主人がたしなめるっていうパターンが多いからね。
瞬間理不尽発生器、なんてあだ名もショウから頂戴するほど、よく怒ってショウにでんじはを浴びせてるんだよね。
「ま、ちひろのことは当分ヒカリには任せられないって言ってたけどな。」
「ちぃちゃん・・・」
留守番失格だね・・・私はその言葉をかみしめてた。ご主人はまだ小さいちぃちゃんが心配でしょうがないみたい。
ちぃちゃんは感情をよく表に出すところもあるし、逆に思慮深い一面もあるから、ご主人はちょっと気を遣いすぎだ、ってずっと言ってる。
少年期特有の天真爛漫さを感じないっていうか・・・妙に冷めてるところもあるから、ちぃちゃんは心理的ショックを受けやすい、そうともご主人は言ってた。
ショウは冷蔵庫からオレンジジュースを出すとコップに入れてリビングの椅子に座った。
「ちゃんと謝ったほうがいいかな?」
「多分ね。」
私が真剣な表情で言ったのにショウはのんきにオレンジジュースを飲みながら答えてる・・・むかつくなぁ・・・私はそっと手をショウに向ける。
「でんじは!」
「うぎゃぁ・・・ひ・・・ひかり・・・お・・・おれ・・・なにも・・・」
でんじはを浴びせられたショウはマヒしたらしく口からオレンジ色の液体をこぼしている。
「あとちゃんと片付けといてよ!」
「ちょっ・・・まっ・・・まて・・・」
マヒしているショウを放置して、私はご主人の部屋に向かった。木造のこの家はコテージ、という言葉がぴったり似合うような作りなんだよね。
木張りの廊下を渡って階段をどしどし登っていく。

コンコン・・・コンコン・・・何度か私はご主人の部屋の扉をノックするけど、返事がない。
「おかしいなぁ・・・起きてるはずなのに。」
でも、この家の中でショウ以外に誰かいる気配はないし・・・この部屋以外。かといって外に行った形跡もないしねぇ・・・
ギィィ・・・私はゆっくりとドアを開ける。
「マモル~?いるの?」
ドアを開けるとご主人が普段使ってる勉強机が目に入った。次第に視野を左右に動かすとベッドの上の毛布に何やら人型がついてる・・・
「マモル?」
バッと毛布を引っぺがすと案の定、ご主人が・・・ちぃちゃんを顔の近くで向き合うように抱いてる・・・ちぃちゃんもうれしそうに寝てるし。
「マモル!」
「ふぁ?」
私が叫ぶとご主人はびっくりしたように飛び起きた。
「何寝てるの?」
「いや・・・その気持ちよかったから・・・」
ご主人も少し後ろめたい気持ちがあるのか、私の問いにはぐらかすように答えた。そこで私はふっと手をかざすようにご主人に向ける。
「ひっ・・・”でんじは”はやめろよなぁ・・・こっちにはちぃちゃんもいるんだぞ。」
さっき私を怒ったときの表情とは違って、ご主人はすっごくおびえてる。寝てるちぃちゃんを持ち上げて犬質に取ってるし。
冗談半分だと思うけど・・・せこいなぁ・・・ご主人。
「そんなにやってほしいの?」
「やめろよなぁ!」
にやっと笑ってご主人を見る私。ご主人も洒落にならないと、そういう感じで顔をそむけてる。
「ちぃちゃんを盾にしたからダメ。」
「いやいやいやいや・・・ほんとにダメだって!」
あわてるご主人は2つの意味でちぃちゃんを盾にしたことを後悔してるんだろう。
1つは、私がでんじはを浴びせることが決定的になった、という点で。もう1つは、自分が愛してるちぃちゃんを自分の身代りにした、という点。
「ふにゃ・・・」
ちぃちゃんは違和感を感じたのか、目を覚ましたみたいだ。
「ちぃちゃん・・・おはよう。」
「おねえちゃん。おはよぉ・・・」
いつもの優しいちぃちゃんだ。私は違和感を覚えつつちぃちゃんと挨拶を交わす。
「私はちぃちゃんのお姉ちゃんじゃないって。いい加減私の名前覚えてくれないかなぁ・・・」
「こら!ヒカリ!そんなこと言うんじゃない!」
ご主人はよっぽど腹が立ったのか、自分の置かれてる状況を顧みず、私を怒鳴る。
「ちぃちゃん、私の名前はヒカリだよ。お腹すかない?ご飯食べよっか?」
「うん!」
そう言うとちぃちゃんはご主人の腕をするりと抜けると私の足元によってきた。
「じゃ!マモル。お元気で。でんじは!」
「ぎゃぁぁっ!」
私のでんじはで悲鳴を上げるご主人をよそに私はちぃちゃんを抱きかかえると、リビングまで降りていく。
ちぃちゃんは私によくなついてるねぇ・・・ホント。ご主人よりもなついてるんじゃないかな。私が抱いてるとちぃちゃんすっごくうれしそうだもんなぁ・・・
「まもるはどうしたの?」
「え?ああ・・・」
リビングに来てもまだ少しご主人の悲鳴が響く。ちぃちゃんはさすがにおかしいと思ったのか、私に聞いてきた。ちぃちゃんはご主人のことはちゃんと名前で、呼び捨てで呼ぶんだよね。
私は適当にはぐらかすと、台所でシクシク泣いてるショウに声をかける。
「ショウ?なんで泣いてるの?」
「・・・」
何も答えないので再び・・・手を・・・
「やめて・・・言うから・・・」
ショウは重い口を開く。
「おまえのでんじは食らったからトイレ間に合わなかっただろ!」
「え?」
たしかにさっきショウの座ってたところの周辺を見ると、床には雑巾が敷き詰めてあった。
まだでんじはのしびれが取れないのかショウはカクカクと不自由そうに動く。そして何よりすっごく涙目だ。多分相当泣いたんだろうっていうくらい。
「あのジュース飲む前にトイレ言ったらよかったんじゃない?」
私はへらへら茶化して言ってやった。ショウはその真っ赤な目を私のほうにむけると再び床に伏せて泣きだした。
「さ、ちぃちゃん。ご飯食べよっか。」
ちぃちゃんを台所の床に降ろすと、私はフライパンを手に軽ーく朝ご飯を作り始める。なんでかって?まだ朝の7時だからね。

「ご飯出来たよ。」
そう言ってちぃちゃんの前にご飯の盛ってあるお皿を置くけど、ちぃちゃんは私が食べるのを待ってるのか食べ始めない。
「食べていいんだよ?」
「おねえちゃんがたべるまで、たべれないよ。」
「なんで?」
私は母親が自分の赤ちゃんに聞くみたいに優しい口ぶりでちぃちゃんに聞いた。ちぃちゃんも赤ちゃんみたいなもんだけどね。
「ぇぇとねぇ・・・いっしょにたべたほうがたのしぃ・・・からかな・・・」
「ちぃちゃ~ん・・・」
その言葉が嬉しくて、褒めるのも、頭を撫でるのも忘れて、私は自分の分のご飯をあわてて作るにかかる。私の分っていうことはご主人の分でもあるし、ショウの分でもある。
せっせとご飯を茶碗に盛って、お茶を淹れて、味噌汁も・・・
「はぁっ・・・はぁっ・・・こんだけあわててご飯作るのも久しぶりかな・・・」
お盆に味噌汁の入った器とお茶碗と、湯呑みを載せると、ずっとお座りのまま待ってるちぃちゃんのもとに向かった。
「ちぃちゃん。お待たせ。」
ちぃちゃんはぱぁっと明るい笑顔を私にしてくれたので、お待たせ、食べていいよ、と私は言う。
私の言葉を聞くとちぃちゃんはうれしそうにご飯をがつがつと食べ始めたので安堵した私も箸を取ってご飯を食べる。
「おいしい?」
「ぉいしぃ。」
多少拙い感じがするけど、ちぃちゃんは一生懸命に私と喋ってくれる・・・その事実は私が何をするにもその燃料になっていることに、私は後で気づいた。
ショウとかご主人はご飯作っても感謝もロクにしないし、塩辛いとか、味薄いとかケチつけて来ることが最初あったからね・・・
でもちぃちゃんは聞いても聞かなくてもちゃんとご飯の感想教えてくれるし・・・最初は違和感あったけどね。こんな小さい仔から教えてもらうってことに。
「う~ん・・・今日の味噌汁は・・・塩辛い・・・まぁいいや。食べさせちゃえ。」
こんなふうに些細なことでもちゃんと感謝してくれないとお互い雑になっていくからね。
ちぃちゃんはよくできた仔だよねぇ・・・食べちゃいたいくらいかわいい仔だよねぇ・・・ジュル・・・いけない。本当によだれが・・・
「ごちそぅさま。」
「ちぃちゃん、ごちそうさま。」
「ぉぃしかった。またつくってね。」
「そうかぁ~~・・・」
私は箸を置いてちぃちゃんの頭と首を挟むように優しく撫でた。
こんな風にちぃちゃんが言ってくれるから、ご飯を作るモチベーションも維持できてるってもんね。
どうやってやってるのか知らないけどちぃちゃんはいつの間にか使ったお皿を自分より高い位置にあるキッチンの流しに浸けてるんだよねぇ・・・跳んでるのかな?
お皿を咥えたちぃちゃんの後を私も食べ終わったお皿を持ってこそっとつけると流しの前で何やら悪戦苦闘してるみたい。
「うにゃぁっ!」
「ふにゃぁっ!」
何回も跳んで、流しに乗ろうとしてるみたいだけど・・・高さが届いてない。ちぃちゃんはまだまだ小さいから・・・成長しきった私に比べると全然小さいよね。
ってよく考えたらいつもは私が調理時間の間疲れるからキッチンに椅子持ち込んでるんだった。今日は急いでたから・・・椅子持ち込んでないんだ。
「わぅぅ・・・・・・おねえちゃん?」
そっと、私は両手を出してちぃちゃんの後ろから両脇を抱える。驚いたのか小さな身体をぴくっと震わせると私のほうを見た。ちぃちゃんは見られてたのが恥ずかしいのか顔をうつむける。
「ごめんね。いっつも椅子あったでしょ?今日急いでたから椅子持ってきてないんだ。いっつもありがとう。」
そう言ってちぃちゃんを流しの上に乗せて咥えていたお皿をぼちゃん、と水を張った桶に浸けさせる。
「おねえちゃん・・・ありがと。」
「何言ってんの。感謝しないといけないのはこっちだょ。」
流しの上で私に上目づかいをしてるちぃちゃんを再び抱えて、くつろぎにリビングに戻る。私の腕はちぃちゃんの体温で温かい・・・ちぃちゃんを抱いてると心まで温かくなりそう。
床でうつ伏せに泣いてるショウを軽く蹴ってご飯を食べるように促すと、ショウは目を真っ赤に腫れさせて、キッチンにとぼとぼ歩いて行った。
ちぃちゃんは絨毯の上でうつ伏せになって眠そうにあくびしたり、ぱたぱたと四肢をうれしそうに動かしている。

私はショウの漏らしたあとの雑巾を全て片付けて、何度も綺麗な雑巾で拭くと、その床の上にできた、残った染みを見せつけるかのように放置する。
雑巾を洗濯機横の風呂場で綺麗にしようと、持っていくとそこにはパンツだけ穿いてるご主人がいた。
「マモル?」
ご主人はさっきのちぃちゃんとは比較にならないくらい大きくびくっと身体を震えさせて声の源である私のほうを振り返った。
「ひ・・・ひかり・・・」
「なんで洗濯機の前でぼーっと突っ立ってんの?」
「いや・・・洗濯機の使い方を・・・」
私はハッとしてご主人のパンツを見た。
「漏らしたの?」
「・・・」
「漏らしたのかって。」
答えないご主人に少しいらっとした私は語気を強める。
「ひ・・・ヒカリが悪いんだぞっ・・・でんじは使うから・・・でんじはを俺に使うから!」
ああ・・・認めちゃった。本日2匹目・・・1匹と1人だけど。
はぁっ、とため息をつくと私はご主人に言う。
「布団は?」
「・・・」
「黄色い染み付いたの?」
「うん・・・」
「マモル・・・洗うからさっさとご飯食べてきなさい。」
すまないような表情を私に見せて、ご主人はリビングのほうに向かっていった。もちろん、パンツ一丁で。
我ながらでんじはの威力はすばらしいなぁ・・・と思う。っていってもパワーをコントロールできてないけどね。
ご主人はショウみたいに泣きはしてないけど、明らかにがっくりしてた。私は大きなしみのついたパンツとトランクスと長そでTシャツを洗濯機に投げ入れる。
「洗濯機、お~ん。」
恥ずかしげもなく、私は決め台詞を言って洗濯機を動かした。洗濯機が動いてる間、私はせっせと雑巾を洗剤に浸けてごしごし洗う。
「まだ終わらないんだよ~。」
そう自分に言い聞かせるように布団乾燥機引っ張り出してご主人の部屋の布団に強引に突っ込む。
冬だと、日光で乾燥しそうにないからね。私はでんじはが使えるくらい強いってご主人によく言われるのに、戦うことが少なくて・・・
「それにしても、漏らすのかなぁ・・・」
ふと疑問に思って呟いた。ん~、まぁいけない興味だから別に気にしなくていっか。
ぽちっと乾燥機のタイマーをセットすると一仕事終わり。
私はご主人の部屋を離れてまた洗濯機の前に立つ。
「あっ・・・もう終ってる。」
脱水の終わった洗濯機から洗濯物を出すと、さっき洗った雑巾と一緒に外に干す。
「冷たい・・・」
ほんとにこの季節は指先に来る。痛いのが。ご主人のパンツとトランクス2枚・・・と雑巾。竿に洗濯物を下げると私は家の中に入った。寒い寒い。
リビングでストーブの温風に背を丸めて当たってると、背中がむずむずする。定期的に。ふっと振り返った。
「ちぃちゃん・・・」
ちぃちゃんが何度も私の背中に頭のもふもふを当ててる。私が見てるのに気付くとちぃちゃんはにこっと笑って身体を起こした。
「あったかくなった?」
その言葉にあたりまえでしょ、と私が返すと嬉しそうに目を細めてちぃちゃんは仰向けになって頭を何度も前肢ですりすりとすりつけていた。
かわいいなぁ・・・ほんとにたべちゃいたいな・・・じゅる・・・あ・・・またよだれが・・・
「きゃぅぅっ・・・」
私は両手でちぃちゃんのわき腹を捕まえると、ちぃちゃんのお腹にストーブが当たるようにお腹の上に乗せた。
「あったかい?」
ちぃちゃんに私は聞き返す。ちぃちゃんの背中の温かみはストーブより効果あるかも。ちぃちゃんはどう思ってるのかな?
「ぅん・・・ぁったかぃ・・・」
よく周りを見るとご主人も、ショウもみんな私のほうを見てる。こいつらにでんじは撃ってもいいけどね・・・でも、ちぃちゃんもうとうとしてるし、私もすごく眠くなった。
「ふぁぁ・・・」


「ん?」
私の目が覚めると、仰向けでさっきと同じ感じでちぃちゃんをお腹の上で抱いたままだし、いつの間にか誰かが毛布をかけてくれてる・・・ご主人かな?ショウなわけないか・・・
「ぅぅん・・・すやすや・・・すやすや・・・」
寝てるちぃちゃんを起こすと悪いなぁ、と思って私はそのままちぃちゃんが起きるまでずっとボーっとしてた。なんか母親になった気分・・・
ちぃちゃんのオレンジと茶色と薄い黄色の毛は見てくれよりも立派で、ふさふさしてる。いっつも見てるはずなのに・・・気付かないなんてね。
そういやお風呂だってずっとご主人と入ってるのか・・・私はずっとショウとだもんなぁ・・・ショウは変態だから何してくるかすぐ読めるからいいんだけど。
ちぃちゃんは匂いも、いいシャンプー使ってるのか、いい匂いだもん・・・
私のお腹の白い毛のとちぃちゃんのオレンジの毛が入り混じって綺麗なグラデーションを織りなしている。ちぃちゃんが起きるまでしばし見入ることに・・・
「ん?」
ふと目を上にやるとご主人が熱心に何か黒い小さな機械をいじってた。
「・・・ん~ん~・・・ぅぅん・・・むにゃむにゃ・・・」
私が目線を動かして何か悪いことでもしたのか急にちぃちゃんがすこし小さな声を出したのでびっくりして視線を天井に戻す。
ちぃちゃんは私が少し身体を動かしたから、寝ててもそれにびっくりしたのかな・・・
「私はちぃちゃんにとってどんなお姉ちゃんなのかな・・・」
お姉ちゃん、そう呼ばれることには心理的な抵抗がある。私が、っていうのもあるけどちぃちゃんがどこまで私を受け入れてくれるか、っていうのもね・・・。
ずっと仲良く出来たらいいんだけど・・・そうも言ってられないし・・・私をこういう状況に貶めてる原因は・・・ひとえに不安かな・・・
「ん・・・ふぁぁ・・・ん~おねえちゃん?」
ちぃちゃんが目を覚ましたみたい。そして私のお腹の上に自分がいるのにも気がついたみたい。
「起きた?」
「んっ・・・」
声にならない返事をちぃちゃんはする。私はお腹の上のちぃちゃんを落とさないように片手でちぃちゃんを支えて、もう片一方の手でちぃちゃんの首の両側を挟んで撫でる。
私はちぃちゃんのもふもふが当たって気持ちいいけど、ちぃちゃんは気持ちいいのかな・・・ああ、ダメだ。また不安が・・・
「降りる?」
お腹の上でもぞもぞするちぃちゃんに直接聞いた。
「ちがぅ・・・もぅふ・・・きもちいぃから・・・」
確かにちぃちゃんはかぶってる毛布を四肢でぱたぱた動かしてその感触を楽しんでるようにも見える。
「布団から出よっか?」
「ぅん・・・」
私はそう言うと、覆いかぶさってた毛布を片手でバッとはがして身体を起こす。ちぃちゃんはきゃっきゃとはしゃいで、水平に寝ていた身体が垂直に起きる感覚を楽しんでた。
身体を起こしたものの、ボーっとしてるとご主人がゆっくり私たちのほうに歩いてくる。
「もうお昼だよ。」
「えっ?」
ご主人が手に持ってる時計を見ると、たしかに時計の短針は11と12の間にあった。
「んじゃ、お昼作りますか。」
ちぃちゃんをどうしようかな・・・なんて悩んでると、ご主人が抱きたそうだったのでご主人に預ける。
とぼとぼとキッチンまで歩いてエプロンをつけると、朝のご飯の残りでチャーハンを作ろうと思った。
「タマゴ・・・とネギ。」
冷蔵庫を開けると、卵ももうほとんどない。ねぎはまだまだある。
「マモル?タマゴもうないよ。」
「本当?ああ・・・買ってこないとなぁ。」
ご主人にほとんど空のタマゴのパックを見せると、ちぃちゃんを抱いてるご主人も納得した。
さっさと、まさしく華麗に片手間で私はチャーハンを作った。そして必要な数の分お皿に分けると、リビングに持っていく。
ちぃちゃんにも食べれるように味付けをしたつもりなので、小皿に分けてちぃちゃんに出す。・・・ご主人と、ショウに対する気づかいは・・・別にいいよね。
「じゃあ、さっさと食べる!」
私が叱りつけるようにみんなに言う。みんなはぶいぶい言いながら食べ始める。

「あの・・・」
私たちが食べているとご主人がいきなり口を開く。
「どしたの?マモル。」
「今思ったんだけどね・・・タマゴ・・・ちぃちゃんにおつかいに行かせるってのは・・・ダメかな?」
ご主人もどうやら自信が無いらしく、ぼそぼそ呟くように言った。私は少し考えた。ちぃちゃんにおつかい?大丈夫かなぁ・・・
「ダメか・・・」
「俺は行かせてもいいと思うぞ。」
ショウがいきなり喋る。
「へ?」
「ただし、監視付きで。」
「それだったらお使いにならないじゃん。」
「そっか・・・」
ショウの提案は私の一言で消し飛んだ。私はちぃちゃんを見ると、ちぃちゃんは事態を理解してなかったみたいでおいしそうにご飯を食べている。
「ま、また考えるから。」
そう言うとご主人は再び黙り込んでもぐもぐ食べている。少し変なムードのまま、昼ごはんは終わった。

昼ごはんが終って、朝と昼の食器がたまっている洗い場に立つと私はストレスを発散するように、手を動かす。
ご飯粒のついたお皿を石鹸のスポンジでごしごしこすると、泡がたつ。その泡を一気に水で・・・とはいかず。同じように泡だらけのお皿を何枚か積み重ねた。
つんつん・・・まただ・・・朝と同じ展開。私は振り返る。やっぱりちぃちゃんだ。
「おてつだいすることある?」
「うーん・・・無い。」
少し考えて、ちぃちゃんの協力・・・というよりお願いを断る。ちぃちゃんはやっぱり、という具合に朝より大きく落ち込んで私から離れていった。
はぁ・・・私ってダメだなぁ・・・どれだけ頑張ってもちぃちゃんのお姉ちゃん役なんて出来ないよ。
私もがっくり、肩を落とす。お皿を洗うペースはどんどん落ちていく。っていっても量は多くなかったから、別に問題無かったけど。

「おーい、全員集合!」
お皿も洗って、リビングでさみしくくつろいでた私・・・窓から外をみるとちぃちゃんがショウと楽しそうにボールで遊んでる・・・
さみしぃ・・・私。
「おーい!全員集まれって!」
ご主人の怒りにも似た叫びが家を包む。私はびくっと身体を起こす。外で遊んでたショウもあわててちぃちゃんを抱っこするとご主人の部屋に向かう。

「聞こえなかった?最初の声。」
「全然。」
少し怒ってたご主人がショウの悪気のない答えを聞くと、がっくり肩を落とした。
「さっきね、さっきの話だけどね。ちぃちゃんをおつかいに・・・って話。」
それでもご主人は話を始めた。
「で、ちぃちゃんに、豆腐と、タマゴ1パック、買ってきてもらいます。」
「えええ!マモル!ダメでしょ!」
なーんか嫌な予感がする私は強硬に反対した。今度は話が理解できたらしく、ちぃちゃんのオレンジの顔は少し青ざめてる。
「大丈夫。そのために対策を講じるから。さ、さ、ショウもちぃちゃんも出た出た。」
ご主人はそう言ってちぃちゃんとショウを部屋から追い出した。

「さ、ヒカリには仕事があるよ。ほれ。」
そういうとご主人は私に黒い小さな機械を渡した。
「これ?」
「これはビデオカメラだよ。まぁちぃちゃんを監視して、無事に帰ってくるところまでちゃんと記録すること。いい?」
「いい?とか言われても困るんですけど。」
困惑する私にご主人はたたみかける。
「ヒカリ・・・あのさ・・・ヒカリはちぃちゃんがお姉ちゃんって呼んでくれることをどう思ってるの?」
「え?・・・」
この質問は正直想定外だった。やっぱり見抜かれてたのかな・・・私が戸惑ってるってこと。
「えと・・・私はちぃちゃんのお姉ちゃんにはなれない・・・」
「いい?お姉ちゃんになるならないっていうのは、後天的な要素で決まることじゃないから。血縁関係の場合はね。」
うーん・・・ご主人がやたらに知的な話をしてくるから困惑の度合いは深まるばっかりなんだけど・・・
「それで・・・ちぃちゃんはよっぽどのことが無い限り、ヒカリのことをお姉ちゃん、って呼び続けると思うよ。」
「よっぽどのこと?」
なんだろう・・・よっぽどのことって。
「たとえば・・・ひどく失望させるとか・・・」
失望・・・その言葉に私は胸を貫かれるような思いがした。
「とにかく。いまのままだったらどっちつかずだよ。いい意味にも悪い意味にも。」
「どっちつかず・・・」
「そう・・・ちぃちゃんの気持ちに背いて、自分の素直な気持ちにも背くか。」
ひょっとして私、ご主人に諭されてるわけ?そんなに思いつめてたのかな・・・私。
「少なくともちぃちゃん・・・ちひろはヒカリにお姉ちゃんとしての影を見てる。」
「私に・・・そんな大役・・・」
ぱしっ・・・痛っ・・・私はご主人に軽く頬を叩かれた。
「役じゃないんだよ。いい?ヒカリがいいお姉ちゃんになるか、どうか。そこ、だから。」
わからない・・・ご主人の話が全くわからない・・・
「じゃ、後よろしく。そうそう、ショウを呼んで。はい。お金、と買い物の内容の紙。」
そう言うとご主人は私に少しのお金と大きな字で、たまご、とうふ、と書いてある紙を渡した。それとビデオカメラを持ってリビングに向かう。
リビングでは不安そうな面持ちのちぃちゃんと、あくびをしてるショウがすわってた。
「ショウ?マモルが呼んでたよ。」
「ほんと?」
「うん。」
だるそうにショウは立ちあがってご主人の部屋に向かって行った。
ちぃちゃんはよっぽど不安なのか、うつむいたままだ。
「ちぃちゃん!」
「・・・」
はぁ・・・重症だこれは。
「ちぃ・ちゃん!」
「おねぇちゃん・・・ふぇぇ・・・」
あーりゃりゃ・・・泣いちゃった。ガーディっていう種族らしくないなぁ。とにかく励ますか・・・
「大丈夫だって。」
「ほんとにぃ?」
「うん。」
私はちぃちゃんを慰めてるうちにご主人と交わした会話を少し思い出してた。いいお姉ちゃんになるか、どうか・・・か。
「大丈夫?」
「うん。」
やっぱり不安だ・・・私はさっきご主人から貰ったお金と紙を渡す。ちぃちゃんは小さなポーチを首から提げて、家を出ようとする。
「ほんとに大丈夫?不安だったら・・・」
「おねえちゃん・・・ぼく、がんばる。」
そう言うとちぃちゃんは笑顔で私を見た。私も自然と笑みがこぼれる。さっきの励ましは効果あったかな?
ちぃちゃんを見送ると、私は持ってないのに気付いてあわててビデオカメラをリビングに取りに戻った。

気付かれないかな・・・私は黒キャップをかぶって・・・というか頭に載せてちぃちゃんの尾行を始めた。
ご主人の家は辺りに自然が少しだけ残ってて、ちょっと離れると小さな住宅街が広がってるという極めて中途半端な場所に位置してる。
そして、その住宅街の中にいつも私が買い物に行く、精肉店と豆腐屋はある。ちぃちゃんには地図渡したし、ちぃちゃんは地図読めるから、問題ないと思うんだけどな・・・
一応、ご主人もそこは知ってる。でも何か起きそうなんだよね~ぇ・・・
住宅街へのあぜ道をちぃちゃんはとことことゆっくり進んでいる。私はその間、見つからないようにじっと草むらの中を進まないといけない・・・最悪。
野生のポケモンが出たら・・・って目の前にアーボがいるわ・・・
「でんじは!」
ぎゃっ!という声をあげて、アーボは気絶した。私ってすごくない?・・・おっと主題から離れるところだった。
・・・ちぃちゃんはアーボの悲鳴に気付かなかったみたいで、最初と同じようにトコトコ進んでいる。
ん?ちぃちゃんの前に見たことのあるポチエナが・・・
「ちひろ!サッカーしようぜ!」
ぁぁ・・・思い出した。いつもちぃちゃんと遊んでくれてるポチエナのユウだ。ユウのご主人とは私も知り合いなんだよね。
にしてもこのタイミングで、サッカーとは。ちぃちゃんはボール使うスポーツ大好きだからなぁ・・・
「ごめん・・・ゆう・・・いまぉつかいなんだ・・・」
ありゃ・・・断った。ちぃちゃん偉いぞぉ・・・ユウもちぃちゃんにとってはかなりいい年上の友達みたいだし・・・ユウも怒るかなぁ・・・
「そっか・・・おつかい?えらいなぁ・・・おれ、まだおつかいとかしたことないから・・・じゃな!」
「うん!」
ありゃりゃ・・・ユウもやけにあっさり・・・
ちぃちゃんはユウにすこし謝ると、またトコトコ進みだした。
ユウと別れて少しすると、私の、ちぃちゃんの前に住宅街が広がる。
今までのあぜ道が終わると私は草むらを抜け、ちぃちゃんに見つからないよう橋の欄干の影とか、交通標識の影に隠れる。なんだ?私は忍者なの?
さっきからずっとカメラまわしてるけど・・・私の・・・独り言とか入ってないかな・・・入ってなきゃいいけど。

ん?またもちぃちゃんの前に見たことのあるグラエナとヘルガーが・・・
「ちひろっ!おいしい水いっぱいあるんだけど・・・いる?」
なんだこの誘惑地獄。そんなの私がほしいわ。そうそう、このグラエナとヘルガーもさっきのユウとご主人は同じ。
ちぃちゃんはお茶の次においしい水がすきだからなぁ・・・いっつもご主人と私とおいしい水分け合ってるからなぁ・・・
「ごめんなさい・・・ぃまおつかぃで・・・」
ありゃりゃ?ちぃちゃん絶好調だね。私だったら最初のサッカーの時点でダメなのになぁ・・・
やっぱり・・・誰か仕込んでるのか?このタイミングは・・・ホントに。
「そうか・・・残念だな。ま、いいや。いつでも分けてあげるから。いつでもおいで?」
「うん!」
おお・・・しっかしけなげよね・・・ちぃちゃんは。私がちぃちゃんのほうを見るとまたトコトコ地図を見つつ進んでるし。
さすがに迷うかな?でもちぃちゃんは迷いなく進んでいくねぇ。もうすぐ精肉店の前だし。

ちぃちゃんが精肉店の前につくといつも私がお世話になってる精肉店の主人が出迎えた。
ん?なんかちぃちゃんがこまってるし、精肉店の主人さんもかなり困った表情をしてるぞ?どうしよう・・・近づくわけにもいかないし。
「あ・・・そうだこのカメラ、たしか音声のズーム機能あったよね。」
そのことに気付いた私はカメラをいじいじして、ちぃちゃん達の会話を盗み聞きすることにした。
「ぇぇと・・・こすぅ?」
「そう。卵がほしいのがわかっても何個かっていうのがわからないと・・・」
ああ!そう言えばあの紙には確かに個数までかいてなかったなぁ・・・でも確か渡された金額だと6個パックしか買えないよね。
どうしよう・・・どうする私?ここでなにか手を差し伸べねば・・・
ふと私の目の前に、いちまいの折り紙が目に入る。その持ち主のサーナイトが何やら折りヅルの練習をしてた。
「はい!」
そのサーナイトは突然私に折り紙を1枚くれた。
「え?いいの?」
私は戸惑って言う。
「ええ・・・だって困ってそうだったから・・・」
「じゃ・・・もうひとつお願いが・・・」
笑顔でくれたサーナイトに私は厚かましいお願いだと思ったけど、もうひとつお願いをしてペンを借りることに成功した。
そこに大きく”6個パック、ライチュウ”と書いてあの精肉店に飛ばすってわけよ。
「ありがとう。」
「じゃ、がんばってください。」
「うん。またあったら折りヅルなら教えられるから。」
「楽しみにしてます。」
そう言うとサーナイトと私は別れた。サーナイトから貰った折り紙を紙飛行機にして・・・ってこりゃ無理かな・・・風が。
「ようし。でんじふゆう!」
でんじふゆうは本来じめんタイプの敵から身を守るのに使うけど、逆に使えば、風の影響をほぼ、受けることなく相手にこの紙飛行機を飛ばせるってわけ。
私はでんじふゆうを使って貰った紅い紙飛行機をレールガンのごとくその精肉店に飛ばす。
「おお!うまく飛んでる!」
その紙飛行機は私の期待以上に、うまく飛んでくれた。見事、精肉店の主人さんの手に止まったみたい。
私は再びカメラのズーム機能に聞き耳を立てる。
「じゃあ!6個な。お金あるかい?」
「うん・・・これでたりますか?」
「十分だよ!まいど!」
おお・・・うまくいった。こりゃ私の面目躍如だねぇ。ご主人!ちぃちゃんは見事、精肉店を突破しましたよ~!

私はさっきの反省を生かして、もうちょっとちぃちゃんに近づくことにしてみた。
また何か見たことあるエンテイが・・・
「おお・・・ちひろ・・・少し休んでいかないか?寒いだろ。」
ああ・・・なんか私が寒いよ。こんなことしてて。このエンテイ・・・たしかこの町のマスコットだったような。
ちぃちゃんはこのエンテイが好きらしいけど。私?私はサンダー様一択よ。って、そんなことはどうでもいいの。
寒いの嫌いだったかなぁ・・・ちぃちゃんは。まぁ私が休みたいだけかな。がんばれちぃちゃん!
「ごめんなさぃ・・・ぇぇと・・・ぃまおつかぃで・・・」
「え?」
うわぁ~うざいエンテイだ。十万ボ・・・
「ああ・・・なら仕方ないな。いつでも公民館おいで。待ってるから。」
「ありがとござぃます。」
おお・・・ちぃちゃん・・・デキる仔だねぇ・・・ちぃちゃんはうざいエンテイに別れを告げるとまた豆腐屋への道をトコトコと歩み出した。
ここまできて私は次第にご主人の言ったセリフの意味がわかってきた気がする。

ちぃちゃんは豆腐屋の前に到着すると、豆腐屋の主人さんがちぃちゃんの頭を数回撫でた・・・で、またなんか迷ってるな・・・
私は豆腐屋の正面の家の影に隠れると聴力をフルに活用して会話を盗み聞きする。
「で、絹ごし?木綿?」
「ぇえと・・・わかんないよぉ・・・おねぇちゃん・・・ぇっぇっ・・・」
まただ・・・あのク×ご主人。いや×ソご主人。ちゃんと書いとけやぁ!・・・どうしよう・・・もう紙もペンもないし・・・
ほっといたらまたちぃちゃん泣いちゃうし・・・豆腐くらいなら1丁で十分だっていうのは主人さんでもわかりそうだけど・・・どうしよ。
ここで出て出て行ったらここまでちぃちゃんにやらせたことのすべてがパァになっちゃうし~・・・ん?壁?家の壁・・・
そうだ・・・この壁、白いから雷で黒く伝えたいことを書けばいいんだ。・・・もうどうにでもなれ~・・・
たしかご主人は絹ごしが好きだったから・・・
「かみなり!」
雲ひとつない晴れた空をつんざく閃光・・・は誰かさんの民家の壁に直撃しましたよ~
でっかく”き ぬ ご し”って書いたから十分よね?私は豆腐屋に再び目をやると、主人さんは雷からちぃちゃんを守ろうとしてちぃちゃんを庇うように抱きついてた。
「ありゃ・・・見てないし。」
はぁ・・・失敗だ・・・どうしよう・・・
その後も主人さんは目の前の壁のでっかいきぬごしっていう文字には気付かず、えんえん、ちぃちゃんと単調な問答を繰り広げている。
「絹ごし、木綿で使う料理は変わってくるから・・・」
「わかんなぃ・・・おねぇちゃん・・・」
あ~あ~私の名前を出してる~・・・うーんもう一回やってみるか。さっきはでっかく書きすぎたな。
「かみなり出力3%ばーじょん!」
今度はカメラのフラッシュみたいな感じかな・・・
「小さく書きすぎた・・・これじゃ読めない・・・」
さすがに出力を抑えすぎてさっきの5%くらいの大きさの文字しか出てないし・・・
でも主人さんは気付いてくれたのか、絹ごしの豆腐を1丁、包んでくれた。さっきの卵と豆腐と、ふらふらになりながらちぃちゃんは一生懸命に首から提げてる。
私も少し安心して、距離をとって撮影し続ける。

ちぃちゃんは一生懸命に住宅街を抜けて家までの道をトコトコと進んでる。
私は最後だから、と少し気を抜いて100mくらい距離を取ってた。家には洗濯物を取り込む振りして入って行ったらいいか、と思ってる。
「さぁさぁがんばれちぃちゃん!」
意図的にカメラに私の声を吹き込む。安心しきっていた。
ちぃちゃん・・・ん?ちぃちゃんの前になんか変な3匹いるし・・・いやな奴だな・・・私は警戒して草むらをダッシュしてちぃちゃんのすぐ横に陣取る。
陣取ってちぃちゃんを見た。
「ぼうや?にいちゃんたちと来ない?」
絡まれてるし・・・絡んでるのはカメックス、ラッタとマルマイン・・・ちぃちゃんの苦手なタイプいるし、レベル差が違いすぎるし・・・
「ほらぁ・・・来いよ・・・」
まだ私が動くわけにはいかない。いま動いたら、ちぃちゃんの努力が・・・
「ぃやだ!」
ちぃちゃんは私にも聞かせたことのないくらいの大声で断る。3匹は案の定小さなちぃちゃんに詰め寄る。
「ぁぁん?」
カメックスは悪態をついた。ちぃちゃんは必死に耐えてる。ラッタがちぃちゃんの荷物に手を出す。
「さゎるな!」
「ふぅん?触ったらどうなるかなぁ?」
荷物を触ろうとちぃちゃんの身体を抑えるカメックス。私はマリアナ海溝よりも深い殺意をその3匹に抱いた。
明るい光が見えた・・・ちぃちゃんはラッタにひのこを使ったみたい。私が知る限り、ちぃちゃんは初めて戦いで技を使った。完全に油断してたラッタは少しひるんだ。
「あちっ!てめぇ!」
激こうして詰め寄る3匹。私は逃げて・・・と祈ることしかできなかった。
「ふぅん・・・ぼうやは火のポケモンだったね・・・じゃあそれなりの扱いをしないとな・・・」
ばしゃぁっ!
「つめたぁい!」
ちぃちゃんにハイドロポンプを浴びせたカメックスは余裕の笑みを浮かべている。
水をまともにかぶったちぃちゃんは毛を逆立てて身体をぶるぶるふるわせるけど、その身体をカメックスに抑えられてるから、防御もできない。私は怒りのエネルギーを貯める。
ちぃちゃんに水をバシャバシャかけ続けるカメックス。もう抵抗もちぃちゃんは出来ないみたい。身体を這いつくばらせて、水の冷たさに身体をびくびく震わせてる。
「やめてょ!」
カメックスは動けないちぃちゃんの足を掴むと宙に浮かせた。
「ほれほれ~。」
「ゃぁっ!ゃっ!」
カメックスはぽいっとちぃちゃんを砂利道に投げるとちぃちゃんは荷物をクッションにするように首から砂利と土の地面にドサッと突っ込んだ。水にぬれてたちぃちゃんはたちまちドロドロになった。
「・・・ねぇちゃ・・・ぃだぃ・・・おねぇちゃ・・・ん・・・ぃだぃ・・・」
どろどろになってもちぃちゃんは・・・私を?ちぃちゃんは力なく四肢を動く限りで動かしてる。でも泥をかき上げるような動きしかできてない。
ちぃちゃんの声なき声で私は気付いた。家族っていうのは家族という役割を負うんじゃなくて、自分から率先して犠牲になるっていうことだってことに。
「ぜったい生きては帰さない・・・」
怒りにみなぎった私はまず草むらから飛び出る。
「なんだてめ!」
「ああん?うちの弟によくも手ぇ出してくれたなぁ?おとしまえつけっぞ!」
あまりにも荒い口調の私に3匹はびっくりして戦闘態勢を取る。
「遅い!十万ボルト!」
その一撃でラッタは憤死。ザコい。
「つ・・・つえぇ・・・」
「さぁ・・・つぎはどいつから行く?そこのマヌケなカメか?」
私は自分でもわからないくらいの怒りと、ちぃちゃんへの想いに突き動かされてた。身体もスイスイ動いてくれる。
「うるせぇぇ!おれはマヌケじゃねぇ!」
「そう言うからマヌケは嫌いなんだよ!さよなら!十万ボルト!」
「うぎゃぁぁぁぁ!」
水タイプに電気タイプをぶつけることはすなわち勝つ上では最も基本的な戦略。カメックスにはラッタよりも良く効いたみたい。っていってもカメックスには本気出したけどね。
カメックスは私の本気の十万ボルトを浴びて、しばらくはびくんびくん痙攣してたけど今は屍みたいに動かない・・・動けないんじゃないかな?
「お・・・やめろよ!お前どれだけ強いんだよ・・・」
マルマインはその丸い身体をびくびく震わせてる。
「これくらいかな・・・」
私は這いつくばって動いてたラッタに片手間ででんじはを浴びせた。ラッタは断末魔の悲鳴を上げると、完全に動かなくなった。
「さて、マヌケなカメさんも虫の息だし、あとはあなただよね~。」
マルマインはソニックブームをしたり、スピードスターをぶつけてくるが、今の私には痛くもかゆくもない。ちぃちゃんにさせたことを思えば・・・ね。
「くそっ!転がる!」
そう言うとマルマインは・・・
「ちぃちゃん!」
「ぇ・・・」
「近づくな!こいつと一緒にだいばくはつ起こすぞ!」
動こうとして力なく泥を掻いてるちぃちゃんをマルマインは盾にしたわけだ・・・
「卑怯だ!」
「るさいっ!ここまでレベル差見せられたら逃げるしかないだろ!」
「逃がすと思う?仮に転がってどこまで行ってもかみなりを当て続けるから。ちぃちゃんを解放して、おとなしく死になさい。」
「そんな条件飲めるか!」
マルマインはどっちに転んでも無傷では済まない。しかもちぃちゃんを盾にする時間が長ければ長いほど、自分が負う予定の傷は大きくなる。
だいばくはつをすれば相手は傷つくが自分はそれ以上の大けがをする。私はどっちを取ればいいか迷っていた。
「ちぃちゃん・・・」
ちぃちゃんはよっぽどカメックスから浴びたダメージが大きかったのか、いまだにお腹をどろどろの地面に浸けて四肢を動かすけど、四肢は泥で滑り、立てない。
うわごとのように、お姉ちゃん、と痛いっていうことと、冷たいっていうことを言ってた。見てるのも辛い。
「こうなったらお前の弟もろともだいばくはつしてやる!」
「だめっ!」
マルマインが動くより早く私は動けた・・・けれど、ちぃちゃんまでの距離をかんがえると1か8か・・・
「ちぃぃちゃぁん!」
ガッとちぃちゃんを地面から拾った刹那・・・私の視野は閃光がつつむと、白くもやがかかったように・・・

ん・・・
気がついたみたいで・・・私はゆっくりと目を開ける。
「うっ・・・いだだだだ・・・」
目が覚めたけど・・・どこ?家かな?身体が痛くて・・・見なれた天井だ・・・やっぱり家まで帰ってこれたのかな・・・
「おい!大丈夫か?」
ショウの声が聞こえると、ショウは目を潤ませて私を見てきた。
「ちぃちゃんは?ちぃちゃんは?」
「大丈夫か?さっきからうわごとみたいに言ってるけど・・・」
「質問に答えてよ・・・ちぃちゃんは?」
ショウはすこし明るい顔をした。
「大丈夫だよ。いま眠ってるけど、うわごとみたいにおねえちゃんおねえちゃん、って言ってるから。」
「そっか・・・」
私はそれを聞いて安心できた。
「目、覚めたからマモル呼んでくる。さっきからずっと救急箱抱えて待ってるから。」
「そうなんだ。」
ご主人・・・私はさっきの戦闘でご主人の言葉の意味を完全に理解していた・・・と思う。
「ちゃんと動けるようになったら、マモルのところに報告に行くんだぞ。」
「ありがと。」
出来る限り最低限の、といった口ぶりでショウは私の手当てをしてくれたみたい。

「痛いって・・・沁みる。」
「ヒカリ、我慢しなきゃ。」
ご主人は私が怪我したところに消毒と、軟膏を塗ってくれてる。気付けば私の身体はドロドロな上に、やけどと擦り傷を負っていた。
「マモル・・・あのね・・・」
全て洗いざらい、私はご主人に話す。ご主人も何度もうんうん、とうなずいてくれた。
「私はちぃちゃんを結局守り切れなかった・・・」
「ヒカリ。俺はそうは思わないけどね。」
落ち込む私にご主人はそう言うと優しく頭を撫でてくれた。嬉しくて目を細める。
「ヒカリはちぃちゃんを庇うようにして家の前で倒れてたんだよ。」
「え?」
「ちぃちゃんも、ヒカリも綺麗な身体がドロドロになって・・・ヒカリたちによっぽどのことがあったんだなって。ちぃちゃんは薄れゆく意識の中で、ずっとヒカリを見てたんだよ。」
「マモル・・・」
ご主人はまだ少しショックな私に諭すように優しく話しかける。その顔からはご主人の優しさがあふれ出てた。
「ショウが必死にヒカリのことを介抱してくれてたし、俺はちぃちゃんのそばにいたけどね。ところで、ビデオカメラは?」
「え!?」
やばい・・・忘れてた・・・確かにそばにはカメラだったものらしきものがある。
「いや~・・・このありさまです。」
私はあちこち凹んだカメラっぽかったものをご主人に差し出す。
「うわ!結構高かったのに!」
「いやぁ・・・多分壊れる30秒くらい前までの記憶ならあるんだけどねぇ・・・壊れたときの記憶が無くて・・・」
すこしおどけて言う私に、頭を抱えたままご主人はがくっと肩を落とした。
「そうそう、ちぃちゃんは?」
「動けるならいつでも連れて行けるんだけど。」
「大丈夫。」
心配そうに言うご主人に私は心配しないで、という具合の顔をした。ご主人もほっとしたのか私をリビングから、ご主人の部屋に連れていく。
「起きてるかはわからないよ。」
「うん・・・」
ギィ・・・とご主人の部屋のドアを開けると、すぐ白のタオルの上に横たわってるちぃちゃんが目に入った。
ちぃちゃんの綺麗だった身体は、顔の先から尻尾まで泥で汚らしく汚され、特徴のうすく黄色がかったもふもふも泥がついて少し固まってた。
すっかり疲れ切ったみたいで、ちぃちゃんはくぅくぅ、と小さな寝息をついて寝ている。こんなに汚れてても、私には可愛い弟であり、天使、みたいに見えた。
「ちぃちゃん・・・ごめん・・・」
「今はそばにいてあげなよ。」
ちぃちゃんのそばにはさっき首から提げていた・・・でも今は泥がついてぐしゃぐしゃにされたポーチとちぃちゃんが買ったはずの袋が泥まみれにぐしゃっと潰されて置いてあった。
私は悔しくて、身体が震える・・・・もっと速く動けば・・・って。
「卵も豆腐も見事に潰れてた。でも、豆腐はまだ使えるよ。」
ご主人は寝てるちぃちゃんを起こさないように小さな声で話す。
「どうやって使うの?」
「麻婆豆腐ぐらいなら、俺でも作れるよ。」
ぼそっと呟くご主人に私は、ご主人が一番料理うまかったんだっけ、と思い出す。私が料理を作り始めたのは、ご主人が手を怪我したからだった。
初めて作ったのは塩そのもの、みたいな辛い味噌汁だったっけ。みんな高血圧になるよ、と言われて、そこから熱心に料理を勉強してたんだ・・・
「私だって・・・作れるよ?」
「だよね。でも、今日は俺が作るよ。」
「え?」
少しびっくりした。ご主人が自分から料理を作る、だなんて言うことがほとんどなかったから。
「ヒカリ?ヒカリはちぃちゃんをお風呂に入れてあげて。」
ご主人からまたもびっくりな発言が飛び出した。
「え?いいの?」
「ヒカリはお姉ちゃんになるんだろ?」
「少し違うかな。」
予想外の答えが返ってきたらしく、ご主人はえ?と私のほうに顔を向ける。
「私はちぃちゃんのお姉ちゃんなんだから。なる、とかならない、とかじゃないの。」
誇らしい顔で私は言う。ご主人も納得したような顔をしてくれた。

「で、なんで卵と豆腐っていう潰れやすいものをチョイスしたの?」
私が疑問をぶつけるとご主人の顔がぴくっと震える。
「いや・・・それはね?・・・落ち着けよ。」
ふっ、と私はご主人に手をかざす。
「やめろよ・・・本当に。」
「やらないよ。今回からはポイント制にしたの。」
「ポイント制?」
ご主人はすっかり青ざめた顔を私に見せる。
「そう。1ポイントで3時間のマヒ効果のあるでんじはをプレゼントしようって。2ポイントで4時間、以降1ポイント増えるたびにプラス1時間。・・・ご主人?」
「いやだ・・・それって余計ダメだろ。怖いって。」
「ちゃんと私の言ったことに答えてくれたら、減点してあげる。ちなみに今ので2ポイントです。」
私はさらに自分の計画を言う。ご主人の顔からは血の気が無くなっている。よっぽど漏らしたことがショックだったんだ?
「5ポイントたまればもれなく10万ボルトと交換です!」
「よくないって。ちぃちゃんは?」
「ちぃちゃんは、反抗期になったら考えます。」
この世の終わり、みたいな顔をしてご主人は私をじっと見てる。
「目が覚めて、傷がないみたいだったら、ちぃちゃんをお風呂に入れてあげてね。」
ご主人は気を取り直して、私にそう言う。
「あい。」
適当な返事で私は返す。すこしむっとしたのかご主人はこつん、と私の背中を小突いた。そして部屋のドアが閉まる音が聞こえる。どうにも、ご主人が部屋から出て行ったみたい。

「ん・・・にゃぅぅ・・・ぅぅん・・・」
ちぃちゃんがうなされてる・・・もぞもぞ動くうつ伏せのちぃちゃん。動くたびにぱらぱらと毛についてる乾いた泥が落ちる。
オレンジの毛も薄い黄色がかった毛も茶色い泥が固めていて、お湯で落とさないとかなり痛そう。
私は部屋に入ってきてからちぃちゃんのそばにずっと座ってる。いつ起きてくれるかな、って。
「ちぃちゃんはこんな小さな身体で自分の何倍もある敵に立ち向かったんだよね・・・それだけで十分すごいよ。」
ふと呟いた。あの3匹も、ちぃちゃんなら簡単に言うことを聞くとか思ってたのかな。私が思ってたよりもちぃちゃんは立派だね・・・
「・・・ぉねぇ・・・ちゃん・・・ぅぅん・・・」
寝言とはいえ結構はっきり聞こえるね。ちぃちゃんが寝言を言ったときって、安心してる時か、悪夢を見てるかの2パターンみたい。
お姉ちゃんか・・・そう呼ばれることにすこし憧れてた。でもこんなに可愛い弟だったら、素直に受け入れられないなぁ~・・・
「ふぁ・・・へくちゅ!」
あ・・・起きたかな?ちぃちゃんは何回かくしゃみをするとしっかり目を見開いて私を見た。へくちゅ!とちぃちゃんが可愛いくしゃみをするたびに、小さな粉塵が舞う。
「ちぃちゃん?おはよう。」
「おねえちゃん・・・おはよぉ・・・へくちゅ!」
寒いのかな?風邪かな?冬場に水ぶっかけられたら、普通に風邪ひいちゃうよね。
「寒い?」
「ぅうん・・・はながむずむずするの。へくちゅ!」
よくちぃちゃんの鼻をみてみると、ごく小さな泥のかけらが、それと同じくらいの大きさのちぃちゃんの小さな鼻の穴を出たり入ったりしてる。
くしゃみも可愛いなぁ・・・食べちゃいたい・・・ジュル・・・いけない、またよだれが・・・
「痛いところある?正直に言ってよ?」
優しく問いかけると、ちぃちゃんはふるふると首を横に振った。痛いところとかないのかな?
「ぉつかい・・・できなかった・・・」
「大丈夫だって。マモルもショウも、私もそんなこと思ってないから!」
起きると周りを確認して少し落ち込んでるちぃちゃんを私は励ます。
「こ・・・これぇ・・・」
ちぃちゃんはぐしゃぐしゃになったポーチを見つけたみたいで、少し泣きそう。
「だ、大丈夫だって。お姉ちゃんがちゃんと洗ってあげるから。」
自分がお姉ちゃんだって言うことはもう私にとっては恥ずかしいことじゃない。ちぃちゃんは私の言葉を聞くと嬉しそうに目を輝かせる。
「痛いところ無いんだったら私とお風呂入ろうよ?」
「ぇ?ぃぃの?」
少し遠慮がちに言うちぃちゃん。私はここぞと決め台詞を言う。
「当たり前でしょ?私の可愛い弟なんだから。」
決まったかな?私は気になってちぃちゃんを見た。ちぃちゃんは少し照れてるみたいで、顔を紅くしてうつむいてる。
「ちぃちゃんが照れてどうするの?私はちぃちゃんのお姉ちゃんだよ?」
「おねえちゃん!」
「あっちょっと待って!」
今にも跳びついてきそうなちぃちゃんを制する。動くとちぃちゃんの身体から泥がぱらぱら落ちて、ご主人の部屋を汚してしまいそうだったから。
ちぃちゃんは嬉しそうな顔をしてタオルの上でおとなしくお座りをしてる。
「じゃ、お風呂場行くから。動かないで。」
「うん・・・きゃぅっ・・・」
そう言うと私はちぃちゃんが下にして寝てたタオルごとちぃちゃんを抱える。ちぃちゃんの背中と尻尾に付いた固まった泥が私のお腹に当たって少しくすぐったい。
私たちが脱衣所に着くまで嬉しそうにちぃちゃんは私の胸に頭のもふもふ・・・少し細かい泥がついてるけど、をすりすりとすりつけてくれてた。

「マモル?お風呂入るけど。」
「ああ・・・今湯船にお湯張ってないから、自由に使っていいよ。あんまり泥残さないでね。」
リビングにいたご主人は私がちぃちゃんとお風呂に入る、と言うとすこし嬉しそうな声で忠告をくれた。
「ありがと。」
ちぃちゃんを包んでるタオルは真っ白だったのに、泥で汚れて茶色っぽくなってる。
脱衣所につくとちぃちゃんをタオルごと浴室に入れて、私はシャワーの温度を確かめてる。
「あ、そうそう!ちぃちゃんのシャンプーはその赤い容器ね!」
ご主人の声らしき大きな声が脱衣所から響く。私はありがと!と大きな声で返事をしてみた。私の声にびっくりして身体をびくっと震わせるちぃちゃん。
「ちぃちゃん、ごめん。」
「いいよぉ。」
謝る私はシャワーで濡れた手で、ちぃちゃんの頭を撫でる。
ちぃちゃんは嬉しそうに目を細めるけど、撫でたところに着いた水は泥で茶色に変色してちぃちゃんの頭の毛に吸収されていった。私の手も泥で少し茶色い。
もう、浴槽にお湯少しだけ張って、そこでちぃちゃんをころころころがして、泥を落としたほうがいいかなぁ。楽だし、そうするか。
「きゃぅっ・・・」
私がちぃちゃんを両手で抱えると、濡れた私の手が冷たかったのかちぃちゃんは少しぴくっと震えた。慎重に私はちぃちゃんを浴槽に置くと浴槽に栓をする。
「な、なにするの?」
ちぃちゃんはおびえた目で私を見た。私はシャワーを取った手を一度シャワーから離して、ちぃちゃんを安心させようとする。
「大丈夫。ちぃちゃんの身体に泥がついてるから、落としやすくするためにお湯を少しためるだけだよ。」
優しく言うけど、ちぃちゃんの目はおびえたまま。効果無かったみたい。私が入ればいいかな?どうせ私も泥まみれだし。
ちぃちゃんがおびえてるのに、私だけ浴槽の外にいるのはちょっとね・・・そう思って私はちぃちゃんがお座りをしている浴槽に入った。
そしてシャワーを手にとって、温かいお湯が出るのを確認してから、ちぃちゃんに少しだけかかるようにシャワーを出す。
「きゃん!・・・なにするの?」
「泥を落とすだけだから。」
ちぃちゃんはシャワーが当たるたびくすぐったそうに這いつくばって身体をごろごろ動かす。
「あんまり這いつくばってると、溺れるよ?」
「うん・・・」
シャワーはその間にもどんどんお湯を湯船に入れていく。ちぃちゃんもお湯の高さに合わせて身体を起こした。
湯船のお湯の色は私とちぃちゃんの身体についてた泥でどんどん濁って汚れていく。
ちぃちゃんの身体も少しずつ綺麗になって、元のオレンジ・・・とまではいかないけど、それでもそこそこは綺麗になった。
気がつくと、お湯の高さがちぃちゃんの四肢の根元近くまで来ていたので、私はあわててお湯を止める。
「さ、泥落とすから。」
私がそう言っても、ちぃちゃんは今日の水に対する恐怖からか、なかなか私の近くに来てくれない。
無理やり引っ張るのはさすがに可哀想だったから、私はちぃちゃんの意思を尊重する・・・ちぃちゃんが自分から私に近づいてくれるのを期待することにした。
「怖い?」
「・・・ぅん・・・」
やっぱりね・・・どうしよう・・・私が身体を下にしたらどうかな・・・
「ちぃちゃん?じゃあ私のお腹にちぃちゃんの頭をのせてもらってもいい?」
「ぇ?」
「どう?」
「・・・ぅん。」
やった。上手くいった。ちぃちゃんはじゃぶじゃぶと水を掻いて私の目の前に来た。私は湯船に腰をおろして、脚を前に投げ出す。
「じゃあ、ちぃちゃんの頭を私のお腹の上にのせて?」
ちぃちゃんは私のその言葉を聞くと、うつ伏せの姿勢で私のお腹の上に顔を乗せた。どろどろのちぃちゃんを後ろ脚からゆっくりと泥を落とすように手を動かす。
「きゃぅぅっ・・・」
ぴくぴくとちぃちゃんが身体を震わせて、まだ♀のものとも♂のものともつかない甘い声を出した。
「くすぐったい?」
「うん。」
「我慢して。」
私は我慢するように言うけど、ちぃちゃんはお構いなしに、きゃんきゃん可愛い声を出すし、身体もぴくぴく震わせてる。
「じゃあ次は前肢、やるから。」
すこしちぃちゃんも落ち着いたのか、前肢をもむように動かしても、何も言わない。
「ん~、ちぃちゃん。どうしたの?」
ちぃちゃんはずっと上目遣いで私を見てる。本当に可愛い・・・鼻血でそうなくらい。
泥が落ちてくると、ちぃちゃんのその身体は朱の墨を吸った筆のように柔らかく、でもそれよりもずっと温かみのある色へと変わっていった。
「じゃあ、仰向けになって?」
「ぁおむけって?」
「あ~・・・ええと、天井を見るような、そうそうお腹を上にして?」
「うん。」
私はちぃちゃんが仰向けになるのを待ってるけど、なかなか上手くいかない。
「えいっ。」
「きゃん!」
無理やりちぃちゃんの身体をひっくり返すと、仰向けになったちぃちゃんは恨めしそうに私を見る。
「怒った?」
「ぅうん。」
でもちぃちゃんの顔はすこし怒ってる。私はお構いなく、水を吸ってさらにどろどろになったお腹をもむように泥を落とす。
「きゃぅっ・・・きゃぅん!」
「ごめん。」
「ちがぅ・・・くすぐったくて・・・」
お腹は敏感なのかなぁ・・・私がお腹を上から下へもんでいくと、ちぃちゃんのまだ未熟な”飾り”が目に入った。どうしよ・・・気にせずやるかな・・・もういいや。
私は泥がついて汚くなったちぃちゃんの♂の飾りをゆっくりともむ。
「きゃぅん!・・・」
「痛い?」
♀の私はこればっかりはなんとも言えなくて・・・ふにふに。
「ちがぅの・・・きゃぅっ!きゃぅん!」
これ以上気にするとらちが明かないな・・・と思って一気にもみしだいた。ちぃちゃんはやっぱり敏感だったみたいで、信じられないくらい身体をびくびく震えさせた。
一応泥は全て落ちたみたいで・・・尻尾は泥水に染まってるけど、泥自体は落とせた。
「じゃ、一回お湯抜いて、泥流すから。」
私はそう言ってちぃちゃんを浴槽の外へ置いた。ちょっと寒いのか身体をぷるぷる震えさせてるちぃちゃん。
「これ使って。」
桶にお湯を張って、ちぃちゃんをその中に入れた。ちぃちゃんは桶の中のお湯をバシャバシャ身体に浴びせて、嬉しそうにしている。
その間に私は浴槽のお湯を抜いて、泥を洗い流してた。

「さ、シャンプーつけるから。」
「うん。」
ちぃちゃんは桶から出ると、シャンプーを持ってる私に近づいてきた。私はシャンプーを何度か出して、手につけると、手始めにちぃちゃんの背中から泡を立ててもむように洗う。
風呂場のマットにうつ伏せに気持ちよく寝そべるちぃちゃんに、私はどんどんシャンプーをつけて泡だらけにしていく。
シャワーでシャンプーを洗い流すのが面倒だな~、と思った私は再び、蛇口をひねって浴槽にお湯を張る。
「きゃうん!」
「ごめん、ちぃちゃんも♂なんだよね。」
またちぃちゃんの♂のお飾りにぶつかった。
気付けばちぃちゃんの身体は全て真っ白になる。私は顔を洗ってあげようと思うと、仰向けのちぃちゃんに声をかける。
「顔洗うからさ、目、閉じて?」
「うん。」
ちぃちゃんの幼い顔をゆっくりと私は洗っていく。泥は一通り落ちたみたいで、シャンプーをつけても顔だけは、すぐに洗い流した。
だいたい洗い終わったみたいで、浴槽に入れていたお湯の蛇口を閉めると、気持ちよさそうなちぃちゃんを再び抱える。
「じゃあ洗い流すから。」
「ぇ・・・しゃわーじゃないの?」
「うん。」
ちぃちゃんのわき腹を両手で持って浴槽の上に・・・と思ったら、つるっと手が滑って、ちぃちゃんが私の手から落ちた。
バシャン!という大きな水音と、ゴン、という鈍い音が聞こえた。浴槽の底でもすべったらしいちぃちゃんは、溺れそうになってる。
「ちぃちゃん!ごめん!」
私はあわててちぃちゃんを水面に引き上げる。ちぃちゃんは目を潤ませて、私を見た。
「いたぃ・・・いたぃよぉ・・・」
「ごめん・・・」
ちぃちゃんが泣きそうなので、とにかく止めないと。
「泣きそう?」
私が聞くと、ちぃちゃんは身体をバッと起こして、私を見た。
「なかなぃよ。」
「えらいぞ!」
そう言って私はちぃちゃんの頭を何度も撫でる。撫でようとするとちぃちゃんから私の手のほうに近づいてきた。
横着はいけないな、と思って結局私はちぃちゃんを浴槽から出して、また浴槽にたまったお湯を抜く。
ちぃちゃんの身体の泡をシャワーでながしていくと、綺麗なオレンジと黒の虎がらと、薄く黄色がかった毛が見えてきた。
そのオレンジの毛は、毛筆のように・・・でも毛筆よりも上質で、艶と温かみのある色を醸し出している。
「さ、終わったよ。私も身体洗いたいから、ちょっと待っててね。」
「うん!」
ちぃちゃんは綺麗になった身体の水気を早く飛ばしたいのかブルブル身体を震わせては、息を切らしている。
申し訳ないな、と思ったから、私はさっさと身体を洗って、ちぃちゃんが飽きないうちに風呂場から出ることにした。
濡れてるちぃちゃんを抱くと、風呂場のドアを開けて脱衣場の床にちぃちゃんを降ろす。
手早くタオルを取ると私は、ちぃちゃんを真っ白のタオルで覆う。
「きゃん!」
急のことでびっくりしたのかちぃちゃんは声を出す。私はごめんね、と謝ると、ちぃちゃんもごめん、と言った。
私はタオルの上から可愛い弟をごしごしと、時に優しくふにふにと身体が乾くように拭きとっていく。
「ミートグラインダー・・・ふにふに。」
そう言って私はちぃちゃんの前肢の脇をふにふにとかるくもむ。
「きゃううん!やめてょ・・・」
やっぱりちぃちゃんはこういうのに弱いみたい。
「ごめん、退屈かな?と思って。」
「ぅぅん。たいくつじゃないょ。きもちぃぃの。」
ちぃちゃんの言葉を聞いて、嬉しくなった私はぎゅっとタオルの上からちぃちゃんを強く抱く。
すこし時間がたってて、乾いたかな・・・と思って何度かちぃちゃんの身体を触るけど、まだ少し湿ってたからタオルを換えた。
今度はもふもふのタオルでちぃちゃんの身体を拭く。しばらくするとぴょこっとちぃちゃんがタオルから首を出した。
「息苦しい?」
「ぅぅん。おねえちゃんがみたかったから。」
ちぃちゃんの一言一句が嬉しかったけど私は少し口をとがらせてちぃちゃんに言う。
「そんなこと言うとチューしちゃうぞ。」
「えへへ・・・」
ちぃちゃんは私に初めて無邪気な子供の笑顔を見せてくれた気がする。いままでほとんど気付かなかったな・・・ちぃちゃんがどんなふうに笑ってるかって。
「さ、乾いたよ。ちぃちゃん?リビングに行ってて。」
「おねえちゃん、なにするの?」
寂しそうな顔でちぃちゃんは私に聞く。
「私は、タオル片付けなきゃ。」
「ぼくもてつだう・・・」
私はどうしようかな・・・と、ぽりぽり頭を掻いて、ちぃちゃんをじっと見た。
「じゃあさ、タオルを洗濯物のカゴに入れてくれない?」
「わかった!」
ちぃちゃんはそう言うとうれしそうにタオルを前肢でかき集めて、洗濯かごの前まで咥えて行く。
私は風呂場に放置したままのドロドロのタオルを拾うと、洗濯機に放り込む。
「あれ?ちぃちゃん?」
さっきまでいたはずのちぃちゃんがいない。周りをきょろきょろと見まわすけど・・・
「ぉねぇちゃん・・・」
か細い声がどこからともなく聞こえた。
「どこ!?ちぃちゃん!」
「ここぉ・・・」
よくよく声を聞くと、洗濯かごのほうから聞こえた。もしやと思って、洗濯かごを覗くと洗濯物の中に見事に頭からダイブしてるちぃちゃんが目に入った。
「うりゃ・・・」
ちぃちゃんの下半身を引っ張ると、ずぼずぼっと洗濯物の中から顔が出てきた。
「大丈夫?」
「うん!」
息を切らせながらも、嬉しそうな返事で私をじっと見てくれるちぃちゃん。私はちぃちゃんを抱いて、リビングに戻った。

「終わったか?」
「終わったよ。」
ご主人がほっとひと段落、といった具合に私を見てくる。私は大丈夫だって、という具合にご主人を見返す。
リビングの机の上には、麻婆豆腐がすでにたーんと盛られてた。
「ちぃちゃんも・・・麻婆豆腐?」
「ちぃちゃんのは甘く味付けしてあるから、ほとんど辛くないと思うけど。」
「そうなんだ。やるねぇ、ご主人。」
にこっとほほ笑んで私はご主人を褒める。ご主人も鼻高々、という感じで、ちょっと可愛い。
「さ、さ、食べなよ。」
ご主人に急かされて、私たちは麻婆豆腐を食べる。辛さのバランスがちょうどよくて、ご飯も進む。
「どうよ?」
「おいしいよ。辛さのバランスもいいし。」
「ちぃちゃんは?」
「ふぇっ・・・えっ・・・」
泣いてる?私はあわててちぃちゃんを見ると、ちぃちゃんは目から涙を流してる。
「辛いの?」
「ぅぅん・・・ちがぅ・・・ぇっぇっ・・・」
なんでだろうな~と思って、ちぃちゃんをじっと見ると、鼻の頭に何やら赤いものが・・・
「マモル?ウェットティッシュ貸して。」
「はいはい。」
私はご主人からウェットティッシュを受け取ると、一枚出して、ちぃちゃんの鼻を拭く。広げるとやっぱり赤いものが・・・
「うーんスパイスがついてる。」
「ありゃ・・・そりゃだれでも泣くわな。ごめんちぃちゃん。」
「ぃいよぉ・・・」
ちぃちゃんは4足だからうまく取れないんだね。ご飯が終わると、ご主人が食器洗いをしていたので、私はちぃちゃんと歯を磨くと、ちぃちゃんを寝かしつけに行く。
タオルを敷いて、その上にちぃちゃんを横たえる。ちぃちゃんは少し眠そうだけど、なかなか寝ない。
「眠れない?」
「ううん・・・そにゃことなぃ・・・ふぁぁ・・・きゃぅっ!」
眠そうな振りをしてるだけのちぃちゃんの横に寝そべると、ちぃちゃんの両脇を抱えて、お腹の上に乗っける。
「眠くないでしょ?」
「うん・・・おねえちゃん・・・これからもあそんでくれる?」
「当たり前でしょ。ちぃちゃんは可愛い弟なんだから。それ・・・ミートグラインダー・・・ふにふに・・・」
そう言ってまたちぃちゃんの前肢の脇をふにふにと軽くもむ。ちぃちゃんはきゃぅん!と悶えたあと身体をぴくぴく動かす。
「くすぐったいよぉ・・・」
「ごめんごめん・・・眠れそう?」
「うん。」
顔もかなり眠そうになったから、ちぃちゃんをタオルに降ろして、私はそのちぃちゃんのそばで少し話をする。
「それでね・・・」
「くぅくぅ・・・」
寝ちゃった。もう1枚タオルをちぃちゃんにかけると私はこそっと起きて、洗面所へ向かう。ちぃちゃんのポーチを洗うために。
リビングではショウがなにやら本を広げてニヤニヤしてる。
「ショウ?早く寝なさいよ。」
「るさいなぁ・・・俺くらい起きてたって・・・」
「でんじは!」
「なんでぇ!・・・ぎゃぁ・・・ひ・・・ひかり・・・」
ショウをでんじはで沈黙させると、私は洗面所でポーチを洗う。ドロドロのポーチはちぃちゃんが今日受けたダメージの大きさを物語ってた。
洗っても洗っても、奥に泥が入ってるので、なかなか落とせない。形も少し崩れてるし・・・少し苦戦しながら、ようやく泥を落とせた。
ポーチを干し忘れないように洗濯機のそばに置くと、ご主人の部屋へ向かう。

ぎぃ・・・
「ひっ!ヒカリ・・・」
「さ、覚悟はいいかな?」
私はふっ、とご主人に手をかざす。
「2ポイントだからね~・・・今からだったら起きたら1時かな?さ、お元気で。」
「や、やめて・・・」
「でんじは!」
1日の終りにでんじはを使うと、明日起きるのがしんどいからね・・・でも、それはそれ。これはこれ。
私はリビングにちぃちゃんのいる寝室に再び戻る。
「ちぃちゃん・・・寝てなかったの?」
寝室に入ると、ちぃちゃんがおすわり、の格好でボーっとしてた。
「ぅぅん・・・起きちゃった・・・」
「そっか・・・」
ちぃちゃんが寝れないのは不安だからかな・・・私はちぃちゃんのそばに行って、またお話をしようとする。
「おねえちゃん・・・いっしょにねようよぉ・・・」
え?いいの?私は正直そう思った。ちぃちゃんから求められてるなら・・・私は自分のタオルを持ってちぃちゃんのタオルのそばに敷く。
「寝相悪いよ?潰すかもしれないし。」
謙遜気味に言うけど、真実。あまり触れられたくない。でもちぃちゃんには・・・知っててほしい。こんな私だけどって。
「うん・・・」
「いいの?」
「うん。」
ちぃちゃんの目に迷いはないみたい。私はちぃちゃんを再び横たえると、そばに横たわる。
「おねえちゃん・・・」
「なに?」
ちぃちゃんは眠そうな声で私を呼んだ。何かな・・・私も結構眠い・・・こっち向いてるし。
「・・・ちゅー、して?」
「え?してほしいの?」
寝ぼけてるのかな・・・
「ぅん・・・」
寝ぼけてるみたい・・・寝ぼけてるならいいや・・・と私はちぃちゃんの口元に私の口をくっつける。
「ん・・・ん・・・」
「もういい?」
「・・・ぅん・・・すやすや・・・」
私が口を離すとちぃちゃんはすでに寝てた。・・・やっぱり寝ぼけてたみたい。
ファーストキス奪っちゃった!と意気揚々に私もタオルを深くかぶって眠った・・・この世で最も可愛い弟のそばで・・・


可愛い妹の次はかわいい弟や!という意気込みで書いてみたけど、伝わりましたでしょうか。
伝わってくれれば幸いです。ちょっと間延びしたかな・・・と思いますけれど。
@10/07/16


誤字脱字指摘コメント等あればお願いします。

コメントはありません。 Comments/はじめてのおつかい・・・ ?

お名前:

トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2010-07-16 (金) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.