〇注意
・この小説は、駄文作家こと多比ネ才氏が書いたものです。文字通り駄文ですので、まずそれをご了承下さい。
・これは作者が息抜きに書いたものです。なので、クオリティの低さは見過ごしてやって下さい。
・元々、登場人物を全て人間で書いていたものをポケモン風に変換しただけです。つまり、ポケモンで書く必要性が感じられn(ry
・非エロで、そして一応恋愛ものです。
・以上を理解した上で、先にお進み下さい。
「早く死になさいよ」
君が開口一番に発する言葉は、今日もいつもと変わらなかった。
「一体いつまで生きてるつもりなのよ。そんなにボロボロの体のくせに、どうして死のうと思わないの」
殺風景な病室の中に響く言葉はいつも通りの悪態。いつも通りの嫌そうな顔。単語やタイミングは違えど、そのニュアンスだけは変わらない。
あんたなんか、死ねばいいのに。
それが、君が毎日伝えてくるメッセージ。
「それは、君が好きだからだよ」
「そんな言葉は聞き飽きたわ」
これも、普段通りのやり取り。だから僕は、いつもと同じように そう。とだけ答える。
ベッドの上で上体だけを起こしている僕は、毛布の上に置いていたハードカバーの小説に前脚をかけた。
「……その台詞も、聞き飽きたのよ」
小さい声で、ポツリ。
栞を挟んでいたページを開いて小説の世界に入り浸ろうとしたら、今日はいつもとは違う言葉が付け足された。小物がほとんど置いてない一人部屋の病室には、その言葉を遮る音は響かない。
だから。
聞こえないフリは、出来ない。
「あんたが死んでくれれば、私はあんたの世話をしなくて済むのに。あんたがいなくなってくれれば、私はこんなに胸くそ悪くならないで済むのに」
こんな言葉は、聞こえないフリが出来たら一番楽なのに。
「……僕は別に、世話なんかされなくても大丈夫だよ。看護婦さんが何もかも全部してくれるし、それに」
君がしたくないと思うのなら、しなくてもいいじゃないか。
僕が仕方なくそう言った瞬間、君の顔は悪態を吐く時に比べて悲しげに歪んだ。
「私だって、それが許されるならそうしてるわよ。……でも、あんたが今入院してるのは!」
「それについての話は止めようよ。あれは、君のせいじゃないんだから。この事は何度話したって不毛なだけでしょ」
わざとらしいため息を吐いて僕は本を閉じる。こんな気分じゃ、楽しい本も楽しくなんか読めやしない。
「でも、私はそんな風に思えないわよ! だから、だから。いつまでもあの事に苛まれて、罪滅ぼしをしなきゃいけなくて!! ……もう、いっそ死にたいわよ……」
「……なら、死ねばいいじゃないか。僕としては、好きな人が死ぬのは非常に居たたまれないけどね。君が死にたいと願うなら、僕には止める権利は」
「死ねるわけ無いでしょ!?」
僕の言葉を遮った怒鳴り声が、部屋の空気に波を起こす。ふと視界に入った窓際では、小ぶりの花瓶に入った百合の花がその柱頭を彼女に向けていた。
「あんたが生きてる間は、死ねるわけ無いじゃない! あんた、私が、一体どれだけ苦しんでいるのか分かるの!? あんたを見る度に胸が痛む私の、気持ちも何も知らない癖に!!」
だから、お願いだから。……なんて、涙目で懇願されたら。
「早く……早く、死になさいよっ!」
僕は、どうしたって死ぬわけにはいかなくなるのに。
「……君が僕が死んでからじゃなきゃ死ねないって言うなら、尚更死ぬわけにはいかないよ」
「なん、で」
「だって」
君には生きていて欲しいから。
変な罪悪感に囚われて欲しくないから。
「僕が生きていれば、君を死なせる事は無いでしょ? 僕は、好きな人には死なないで欲しいからね」
「……っ!」
一瞬、君の目が泳いだ。
……そう。一瞬、だ。
でも、君は、その一瞬が意味する事を自覚しているのだろうか。
「……私は、あんたなんか嫌いよ」
君らしくない、小さな声。
それは、まるで自分自身に言い聞かせているかのような言い方で。
体が、小刻みに震えていた。
ベッドの上にいる僕と話をしやすいようにと、看護婦さんが持ってきてくれていた丸椅子の上に立ちながら。君は体を震えさせている。
君は、それに気づいているのだろうか。
「あんたを見てると、体の調子がおかしくなる。あんたと同じ部屋にいると、気分が悪くなる。……だから、本当はこんなところに居たくないのに!」
「そんなに僕が嫌いなんだったら、さっさと此処を出て行けばいいじゃないか。僕は君が――」
そこまで言いかけたところで、僕の言葉は右頬に生じた痛みに飲み込まれる。
「……ブイゼルの馬鹿……っ!」
君は泣きながら、僕の名前を捨て台詞にして病室を飛び出した。
「……ミミロル。君は、何も分かってないよ」
どうして左手で僕の頬を叩いたのか。
どうして僕の事が嫌いなのか。
どうして涙が流れたのか。
それを、分かって無い。
不器用な君には、分かりようもないのだろうけど。
「その方が、僕には好都合だけどね」
ミミロル。君は、分からなくていい。
自分の気持ちの正体に気づかなくていい。
自分の心に嘘を吐いたままでいい。
自分自身に騙されたままでいればいい。
「僕は、君を悲劇のヒロインにはしたくないんだよ」
僕には、ロミオの役よりもドン・キホーテの役が似合う。そして、それよりも似合うのがシンデレラの父親の役だ。
だから、君はジュリエットになってはいけない。あくまでも、シンデレラであって欲しい。
僕の死に嘆き悲しむ事があっても、その後を追っては欲しくない。
だから。
「僕の事が嫌いなんだ、って。もっと、強く思い込んでくれないかな」
行き場を無くした僕の懇願は、百合の花を僅かに動かした。
僕は、夢を見ていた。
いや、現在進行形で見ている。と言った方が適切なのだろうか。
どちらにしろ、毎日見ている夢だから大した違いは無いのだけれど。
「海に行くわよ!」
君が、そんな突飛な事を言い出すタイミングは変わらない。海岸線に沈む夕陽が見たいんだと言って、僕の腕を引っ付かんで歩き出すのも変わらない。その内、雲行きが怪しくなるのも変わらない。それでも君が歩み続けるのも変わらない。
何度も見ている夢である故に、その先に何が待ち構えているかは分かっている。しかし、思考を隔絶された過去の自分はそれを知らない。
もうすぐ海岸に着くというところで夕立が降り、近くの防風林で雨宿り。木々が成す傘は不完全で、しかしすぐに止んだおかげでそれ程濡れずに済む。
何度も経験したその流れを、僕は見守る事しか出来ない。
「わぁ! すごい!!」
雨のカーテンが取り払われたその先に広がる水平線。そこに沈みゆく朱い玉。見晴らしのいい崖の向こうは太陽ですべてが塗り潰され、綺麗なコントラストに息を呑む。
しかし、そんな煌めく海面の美しさに見取れていたせいで、反応が遅れた。いや、遅れている。
気づくと君は崖に向かって走っていて――きっと、もっと海岸の近くで夕陽を見ようとしたのだろう――僕がそれを注意しようとして口を開いた瞬間。君は、僕の視界からいなくなる。
記憶通りのタイミングで崩れる崖。海に向かって墜ちていく君。飽きるほど見たその光景に取り乱す事は無くなったが、夢の中の僕は違う。君が泳げないのを知っていたが為に、体力の無い脆弱な体に鞭を打って海に飛び込む。あの時の……いや、この場面での僕は、多分どうかしていたに違いない。
海の中でもがく君を抱きかかえ、浮き袋を膨らませて沈まないようにし、ゆっくりと岸に上がれる所まで移動する。そんな事を僕は考えていたのだったか。
しかし、そう簡単にいくわけがなかった。
「ぶい、ぜ……っ……!」
海は想像以上に大荒れで、押し寄せる波が体を揺さぶる。岸壁近くにいるせいで何度も岩に体が接触しそうになる。そして実際、一段と大きな波が来たときに。
「――っ、は……!」
左半身が岩肌に強く打ちつけられたところで、今日も夢から目が覚める。
じっとりとした肌の感触とズキズキと疼く左半身の痛み。体の傷は病院から支給される甚平を羽織っているから分かり難いが、左頬に貼られたガーゼは隠しようも無かった。そしてきっと、その色は膿で黄色に染まっている。
元々病弱で体力も免疫力も無かった僕は、小さな傷でも大事になることが少なくなかった。そんな僕が大怪我を負ったのだから、入院が長引くのは目に見えていた。
骨折箇所は6。皮膚移植が必要な箇所は2。それ以外の部分にも傷は残るし、そもそも左足はもう動かない。それに加えて持病の悪化と傷口から入った細菌による病気の併発。痛みは薬で無理やりに押さえ込んでいるが、それでも本当は息をすることすら辛い状態だった。
僕の担当医がとても手を尽くしてくれているのは手に取るように分かり、そしてそれ以上に患者を不安にさせないように多くの気遣いをしていることも如実に伝わってくる。でも、日に日に増える薬の数やそれでも抑えられない体の痛みを前にしては、その気遣いは意味がなかった。
僕はもう、死ぬんだろう。
それを先生に直接訊いた時ははぐらかされてしまったけど、自分の状態は自分が一番分かっていた。
「ミミロル……」
ぽつり。
呟いたとたん、昨日の右頬の痛みが蘇る。
彼女が自分を責めるのは仕方のない事ではあった。自分を助けようとした幼なじみが、自分を庇って怪我をしたのだ。気に病んで当然ではある。
だから、彼女は今日も来るのだろう。
嫌いな僕を、助けようとして。
「……で、君はいつまでそこに立ってるつもりなんだい?」
入口の方に顔を向けて言葉を放つ。その向こうに人がいることも、それが誰なのかも、大分前から気づいてはいたのだけれど。あまりにも入ってくる気配がないから、思わず声に出してしまった。
からり。味気の無い音をたててドアが開く。
「……なんで、気づいてんだよ」
促されて病室のドアを開けて入ってきたのは、僕とミミロルの幼なじみであるコジョフーだった。
「動けないから、自ずと感覚が鋭敏になるんだよ。……次からは、僕が苦しんでるみたいでも入ってきて構わないから。寝てても、気にしないでいいから」
「いや、流石にそれは」
「僕がいいって言うんだからいいんだよ」
枕下に置いていた本を取り出し、栞を挟んでいたページを開こうとする。が、うまくいかない。手に力が入らず、紙が捲れない。そして、
「あっ」
ばさり。
震える指から抜け出した本は、膝とベッドの上を跳ねてから床へと墜落した。
まるで、僕の行く末を暗示するかのように。
「……あは」
思わず、乾いた笑いが零れる。
とうとう上半身の自由が効かなくなってきたか。唯一の暇つぶしである読書すら出来ないなんて、もう、僕は本当に駄目かもな。
「お、おい、お前大丈――」
コジョフーの言葉を、僕は最後まで聞きとることができなかった。喉からせり上がってくる激痛と痒みに思わず咳をし、それはすぐに連続してなかなか止まらなくなる。血が混じったそれは口を抑えた僕の右手から漏れ出し、甚平やベッドを赤く染める。
「おい! ブイゼル!?」
駆け寄るコジョフーを視線で制し、ティッシュを取ってくれるように促した。それで口の周りを綺麗に拭き取り、手も同じように拭う。布に付いた血は拭いても意味がないから放っておいた。
「ナースコールは……」
「別にいいよ。こんなの、よくある事だから」
嘘だ。以前に違う原因で入院していた時は確かに毎日のように吐血していたが、今回はこれが初めてだ。
「僕の事を気にかけるぐらいなら、早くミミロルを落としてくれないかな」
何ともないように放った僕の一言で、コジョフーの体は動きを止める。
「……何回も言ってるけど、俺はミミロルの事を好きな訳じゃ」
「ダウト。残念だけど、君たちは僕に嘘を吐くのが下手過ぎるよ」
ふと窓際を見ると、そこに差してある百合は煌めいていて、まるで僕とは正反対だった。
その花言葉を彼等は知っているのだろうか。
“あなたは私を騙せない”
確か、以前読んだ雑誌にはそう書いてあったはずだ。
「僕の事なんか気にしないで、早くミミロルをものにしてよ。じゃなきゃ、僕が死んだ時に彼女は後を追おうとするかもしれないんだから」
「……でも、ミミロルはお前の事が」
「それが分かってるからこそ、僕は君に頼んでるんだよ」
まだミミロルが自覚を持つ前に、コジョフーに。
「……そんなの、無理だ」
「無理じゃないよ。だって、君はミミロルが好きなんでしょ?」
「それを言うなら、お前だって!」
声を荒げたコジョフーは、今にも泣き出しそうな顔で言った。
「お前らだって、両想いじゃないのかよ……!!」
病室の空気が、揺れる。
同時に、コジョフーの目も揺れる。
「なんで、俺なんだよ、
なんで、俺が、そんなに重たい役をしなきゃいけないんだよ!!」
涙をこぼしながらそう叫んだコジョフーは、病室を勢いよく飛び出していった。
その様子を、デジャヴだな。なんて、呑気に考えている自分がいて。
全部分かっている。
自分が、どれだけ二人を苦しめているかを。
自分が、どれだけ二人の想いを踏みにじっているかを。
分かっているから。
「早く、エンディングを迎えさせてよね。神様」
ああ。いっそこのまま、秘密を残したまま消えていきたい。
そう思っては、いけないのだろうか。
――Fin.――
(つづかない)
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