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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです(9)

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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです 

(9)解放 


 ウインディがアブソルに使った大技は山火事を引き起こした。キュウコンとウインディがボロボロになった体を休めている間、木々が燃え、火花が散り、灰が舞った。炎タイプの二人にとってはそれは大した問題ではなく、むしろ火が灯っている間はよからぬ輩の接近を阻んで、二人が回復するのを手助けしていた。幸いにも雨によって、大規模な延焼は防がれた。
 キュウコンはウインディを守るためにずっと起きていようとしたが、いつの間にか眠りこけてしまっていた。ウインディの比べると肉体的なダメージは小さかったが、精神的なストレスはウインディよりも強く受けていた。彼女ら炎タイプにとっては心地良い木々の燃え盛る音を子守唄にして、ウインディを毛布の代わりにして、眠りに就いていた。
 雨はそのうちに止んでいた。
 曇天が重苦しく空を覆っていた。
 キュウコンは、太陽が灰色に沈殿する雲の層の向こうに昇って、うっすらと当たりが白み始める頃合いに目が覚めた。彼女が起きた頃には、彼女の周囲の森は焼け落ちて、殺伐とした荒野が広がっていた。不幸にも、彼らの天幕一式と、最低限必要な道具たちも燃え尽きていた。大した値段のものではないが、また調達する必要があるだろう。
 ウインディの生命力は無尽蔵で、傷の多くはすでに塞がっていた。雨によって血はほとんど流されていたが、乾いた泥が彼の体毛を汚していた。何か嫌な夢でも見ているのか、顔をしかめて唸っている。
 「父さん」
 キュウコンは、父を呼んだ。深い眠りに落ちているウインディは、それだけでは起きなかった。胴体を揺さぶって、ようやくウインディは意識を取り戻した。
 「キュウコン」
 ウインディは体を起こそうとして、痛そうな声を上げた。彼の傷は流血が止まっただけで完治したわけではない。キュウコンはウインディを抑えて、そのままでいさせた。
 「どうなったんだ、結局……」
 ウインディは状況を飲み込めずにいた。あの世に片足を突っ込んだせいか前後の記憶があやふやらしい。キュウコンは簡潔に伝えた。
 「あいつは帰ったわ。私も父さんも、まだ生きてる」
 「生きてる?」
 ウインディは、脳震盪を起こして意識不鮮明な中でも死を覚悟したのだろう。キュウコンの言うことをすぐには理解できないようだった。
 「勝ったのか、キュウコン」
 「ううん」
 「じゃあ、何故」
 「わかんない」
 キュウコンはそう答えた。釈然としない様子のウインディの傍らに伏せて、キュウコンは父の額に自らの額をくっつけた。
 「なんでもいいでしょ」
 キュウコンが言うと、ウインディの表情がこわばった。
 「あいつは危険だ」
 前触れなくウインディを殺そうとするような輩だ。しかもウインディとキュウコンを同時に相手してその両方を倒せる実力者だ。救助隊として、彼を放っておくわけにはいかなかった。
 「あいつは、もう大丈夫よ」
 「何故」
 キュウコンの言にウインディが(たず)ねる。キュウコンは頭を横に振って、答えるのを拒否した。
 「危険でも、私達だって手が出せないでしょ」
 「それは……」
 雨が降って炎タイプに不利な環境だったとは言え、本当なら二人とも殺されるところだったのだ。
 「それに、あなたは休まないと駄目よ」
 キュウコンの言う通りだった。アブソルがウインディの横っ腹にあけた創傷は深く、表面だけ塞がっても、その内側にある傷ついた筋肉まで回復しているわけではない。爪は肺にまで達したので、軽度の気胸も発症していた。無理ができる状態ではなかった。
 「それに……」
 キュウコンが付け加えた。
 「ちょっと、疲れちゃった」
 キュウコンは瞼を閉じた。彼女は外傷こそ少なかったが、今までで最も死に近づいたことで、彼女の心は戦闘に立ち向かう勇気を失っていた。何より、ウインディまでもがやられかけたことは、彼女の拠り所を大きくぐらつかせていた。彼女にも療養が必要だった。
 ウインディとて、あの戦いの中で一切の恐れがなかったわけではない。彼女の様子を見て、ウインディは折れた。
 「……そうだな」
 ウインディは、傷だらけの前脚でキュウコンを抱き寄せた。それで、彼女が青藍の宝玉を首から下げているのに気付いた。アブソルが持っていたものだということを、ウインディは記憶していた。アブソルより更に前には、キュウコンの母の持ち物だったということも知っていた。
 「キュウコン、それは?」
 「もらった」
 「もらった?」
 ウインディは気味の悪いものを見るような目つきになった。キュウコン自身が自覚していないにも関わらず、実母の形見が巡り巡って戻ってくるというのは、運命のようにも呪怨のようにも思われた。
 「父さんの言うとおりよね」
 ウインディの様子に構わず、キュウコンは語り始めた。
 「私たちは、この仕事をする限り、いつまで生きられるかわかったものじゃない」
 今こうして生きているのも、奇跡的な偶然によるものだ。
 「だからね、自分の思ったこととか、溜め込んでる余裕なんかないんだなって、実感したわ」
 「ずいぶん達観したな」
 キュウコンはいささか思い詰める性分に変化していた。
 「ウインディ」
 だから、彼女は、彼女が抱えていた最大の関心事を解決しようとしたのだった。
 「なんだ、急に。父さんって呼びなよ」
 脈絡なく種族名で呼ばれたことにウインディははにかんだ。彼女なりの冗談だと思っているのだろう。
 「どうしても、『父さん』じゃないとだめ?」
 「どうしてもって……」
 ウインディはキュウコンが何を言いたいか理解していないようだった。
 「本当なら、ウインディって呼ぶべきなんだし、私自身そうしたいの」
 ウインディの笑みが消えていく。
 「何を言って、」
 「きっとあなたは、私のことを考えて、ずっと『父さん』って呼ばせてたんだと思う」
 キュウコンが続けた。
 「そうするのが一番良かったと思うし、私だってそのことが間違っていたとか言うつもりは全然ない」
 「キュウコン」
 ウインディが切迫した声で言った。キュウコンが暴こうとしているのは、ウインディが一番隠しておきたい嘘だった。
 「ウインディ」
 これ以上言ってくれるな、と無言で訴えるウインディに対して、キュウコンは無慈悲に伝えた。
 「あなたは、本当は父さんじゃないよね」
 ウインディはキュウコンを抱き寄せるのに使っていた前脚を額にやった。曇り空を仰いだ。絶望の色を顔に浮かべた。この世の終わりと言わんばかりの態度だった。
 彼は、孤児だ。両親を殺されて失った孤児だ。彼が父親を演じていたのは、同じ苦しみをキュウコンに味わわせまいとしてのことだった。その努力が茶番に過ぎなかったことなど、決して知りたくなかった。
 「い……いつから気づいていた」
 ウインディは、せめて茶番の時期が短いことを祈ったのだった。
 「いつからかなぁ」
 「うっ」
 時期がはっきりわからないほど前から気付いていたということだ。ウインディは余計打ちひしがれながら、キュウコンに(たず)ねた。
 「なんで今?」
 ウインディは激闘を乗り越えて死の淵から蘇ったばかりだった。多少は休ませて欲しいというのが本音だろう。
 「それは言えない」
 キュウコンには今こそこの話をすべきだとする根拠があったが、それを明かしはしなかった。
 「はは」
 ウインディは笑うしかなかった。全ての目論見が露見した密偵のような、(かえ)って清々しい物言いでウインディは話した。
 「わざわざ付き合ってくれていたのか、親子ごっこ」
 「……言い出せなかったわ」
 「それもそうか」
 ウインディは、痛む体をずらしてキュウコンから離れた。キュウコンがウインディを見る。
 「何にも関係ない男が、べたべたして悪かったな」
 「は?」
 キュウコンは明らかに怒気を含む声でそう言った。
 「なんでそうなるの」
 「なんでって、お前」
 ウインディは突然キュウコンが怒りだしたので、困惑して()いた。キュウコンはまくしたてる。
 「私はあなたが本当は父じゃないって知りながら、でも本当の親子のように接してきたのよ。今更嫌なわけないでしょ」
 「そ……それも、そうだな」
 普通の親子の範疇を超える接触もつい最近あったが、そのことは言及しなかった。
 「血が繋がってるから、親子だから仕方なく、あなたとべたべたしてきてやったんだと、そう思ってるってこと」
 「いや、そうじゃないが」
 ウインディはたじたじになっていた。ここまでキュウコンが赤裸々に想いを伝えているにも関わらず、ウインディはまだ彼女の怒りが解せないようだった。キュウコンは冷たい視線をウインディに向けながら言った。
 「あなたこそ、私がべたべたしたら嫌だからそんなこと言うの」
 「そんなこと言ってないだろ」
 心外だと言うように、ウインディが声を荒げた。キュウコンはそれに鋭く言い放つ。
 「腹立つでしょ? 私の気持ちわかった?」
 ウインディに反論の余地はなかった。やっとキュウコンの怒った訳がわかって、ウインディはしゅんとなっていた。キュウコンはウインディが理解したのを見て、トーンを抑えて、彼に諭した。
 「親子じゃなくったって、家族になることはできるでしょ」
 直接血のつながらない家族といえば、夫婦ぐらいしかない。ウインディは一昨日キュウコンが自らに施した、夫婦の営みを思い起こして、こう漏らした。
 「お前、一昨日のアレ、本気も本気だったのか」
 「ばっ、」
 キュウコンが飛び上がった。彼女は烈火のごとく、ウインディの胴を蹴り上げた。まだアブソルにつけられた刺傷が治りきっていない部位だ。ウインディは悲痛に声をあげた。
 「いだだだ痛い痛い!」
 「アレ本当愛想尽かしたんだから! どれだけ私に恥かかせたと思ってるのよ! にぶいとかにぶくないとか以前の問題でしょ! ほんっとありえない!」
 二発目。
 「わかった悪かった! 俺が悪かったからやめてくれ!」
 ウインディが許しを乞う。キュウコンは不憫なウインディの姿を見て、非難する気力も失ったようだった。嘆かわしいと言わんばかりに長い溜息を吐いて、ウインディに寄り添う。
 ウインディの傷はもう命に関わるようなものではなかったが、それと痛みとは別問題である。ウインディはしくしく鼻をすすっていた。
 「お前……ここまでやることないだろ……」
 アブソルと戦っていた時のウインディとは大違いだ。キュウコンは淡々と返した。
 「人の気持ち踏みにじった罰だと思って」
 「うう……」
 ウインディはその言葉で、胴体を蹴られたことについてはもう抗議しないことにしたようだった。しかし、ウインディにはまだ解決していないことがあった。
 「なあ……俺の気持ちは聞いてくれないのか」
 ここまでキュウコンは好き放題にウインディに気持ちをぶつけてきたが、ウインディは常に受け手だった。
 キュウコンはウインディに無言で返した。
 「……言うぞ?」
 キュウコンが黙り込むので、ウインディは前置きをした。
 「お前には悪いけど、抵抗があるよ。血の繋がりがなくったって……お前は大事な俺の娘だ。いつまでも幸せになってほしい」
 「私も、血が繋がってなくったって、私の父さんはあなただと思ってる」
 アブソルと出会った後でもキュウコンはそう言えた。ウインディは安堵して笑みを浮かべた。
 「ありがとう……だったら、娘を汚したくない父親の気持ち、わかるか」
 「あなたはそういう人よね」
 ウインディは真面目を絵に描いたような人物だった。
 「だから諦めろっていうの」
 「……」
 ウインディはそれに答えられなかった。遊郭でキュウコンと濃密にキスを交わした時、肉欲を(たぎ)らせた事実は偽りようがなかった。
 「『お前なんか大嫌いだ』って言ってくれる?」
 「何を言ってる」
 「あなたに嫌われてるなら、私だって諦められるもの」
 ウインディは顔を陰らせた。たとえ方便とは言え、キュウコンを嫌いだと言うことができるようではなかった。ウインディが逡巡する間に、キュウコンが()いた。
 「ねぇ。また、キスしてくれる?」
 「なんでまた急に」
 「いいから」
 体を横たえているウインディにキュウコンが口づけをした。ウインディは拒まなかった。キュウコンはおずおずと舌を差し出すと、ウインディはそれに応えるように舌を返す。長く苦楽を共にした二人は、戦いの後にあって互いを(いたわ)るように舌同士の愛撫を楽しんだ。粘膜と粘膜を押し付けあって、体液を交換し、口腔を介して一つになることに、二人とも強く(よろこ)びを感じていた。
 キュウコンの方から繋がりを解くと、ウインディは名残惜しそうな目を返した。キュウコンが鼻を鳴らした。
 「いざいい雰囲気になると、正直になるのね」
 「ふ、ふふ」
 致命的な指摘をされたウインディが奇妙な笑みを浮かべた。と、直後に猛烈な自己否定の色を見せた。
 「俺は……何がしたいんだろうな。言ってることとやってることがバラバラじゃないか」
 「言うことの方をやることの方に合わせればいいんじゃない?」
 「長年育てた愛娘を滅茶苦茶に穢したい、とか? ははは」
 ウインディは笑いながら笑っていなかった。
 「とんだ変態だな。『お尋ね者』も目じゃないな」
 ウインディはキュウコンを見ていなかった。まるで、自分が欲望を吐き出すことそれ自体を罰しているかのようだった。キュウコンが彼をどう思っているかは、実際のところ、彼にとって懸案ではなかった。彼は、自分の信じる正しさを崩したくないがために、キュウコンを受け入れられないのであった。
 だからこそ、彼は今、キュウコンを見ることができていなかったのだった。
 「そうね。犯罪級の変態だわ」
 キュウコンはウインディを見ていた。彼女はウインディが目を()らし続けるのに構わず言った。
 「それでお尋ね者になったのなら、私が匿ってあげる」
 彼女はウインディを求めていた。その過去も、未来も、心も体も、長所も短所も全てを欲していた。
 「どれだけあなたが辛い境遇にあったとしても、私だけはずっと側にいる」
 ウインディはその昔、この世で一人きりになっている。この上キュウコンまで失ってしまうことは彼にとって最大の恐怖だった。彼が悪しきに手をつけないのは、元々の性状もそうだったが、キュウコンに対して恥ずかしくない人物であろうとしていたのもあった。
 「だから、そんなに思いつめなくて、大丈夫よ」
 故に、キュウコンが、永遠にウインディの味方であると告げるのは、ウインディにとって究極の救いになった。
 ウインディはキュウコンの言葉を聞いて、動けなくなっていた。やがて、自分の中に溜め込まれた汚濁を吐き出すように、フーッと息を吐いた。
 「かなわないな……お前には」
 ウインディはキュウコンを見た。
 「ロコン」
 ウインディは、数日前まで呼んでいたように彼女を呼んだ。
 「最後に、父さんの胸の中に来なさい」
 キュウコンは父の言葉に従った。彼女が成長した体をウインディの胴体に収まらせると、ウインディは娘の腹を両手でわしわし撫で回した。
 「かわいいなぁ、お前は」
 「やだ、もう」
 キュウコンは、まだあどけなさの残る笑顔を浮かべて父親の愛撫を受けた。彼らがずっと続けてきた、父と娘としての関係を、最も象徴する行為だった。二人の関係がまるっきり変わってしまう直前の、最後の親子の対話だった。
 ウインディがキュウコンを撫でる手を止めた。
 キュウコンは先ほどの望みをまた伝えた。
 「ウインディ。私にあなたを、ウインディって呼ばせてください」
 「……なんだか、慣れないな」
 ウインディは決まりが悪そうに言った。
 「その内でいいわ」
 キュウコンはウインディと向き合って、彼の鼻にキスをした。ウインディは破顔して、彼女の鼻にキスを返した。親子であり、親子でなく、恋人でもある。そんな彼女らの関係を表す言葉は存在しなかった。しかし言葉に頼るまでもなく、彼らの心は結ばれていた。
 キュウコンは、ウインディの匂いを嗅いで、不意に思い出した。
 「そういえば、出発する前に言ってたよね」
 「何を?」
 「ここは危険とかなんとか……」
 ウインディも思い出した。敢えて夜間に森の中で野営してでも出発を急いだのは、そもそもウインディが「ここは危険だ」などと言って、街を急いで離れるようにしたからだ。
 「『危険』ってアブソルのことなのかと思ったけど、もしそうなら素直に街に泊まっていればよかったもんね」
 キュウコンの言うとおりだった。例えばアブソルが街を襲撃してきたとしても、森の中二人きりで出会うよりは遥かにマシである。
 「あの『危険』って何のこと?」
 「そ、それは……」
 あそこに泊まるのが危険だったのは、コジョンドが夕方来訪するはずだったからで、コジョンドが危険なのは、コジョンドがウインディの尻にエンテイ(生殖器のみ)を突っ込もうとするからで。
 だから、それを避けるために無理を押して出発したわけで。
 そうしていなければ、日没後森に留まることもなく、アブソルと出会うこともなく、アブソルに叩きのめされることもなかったわけで。
 端的に言えば、ウインディの尻を守ったがために、彼女らは半殺しの憂き目を見たのだった。
 「何?」
 キュウコンは目を泳がせているウインディに心配そうな視線を向けた。
 今しがた生涯を賭した虚構を暴かれたウインディは、肉球にじわりと脂汗をかきながら、この窮地を脱し得る新たな虚構のために脳味噌をフル回転させていた。


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Last-modified: 2019-07-10 (水) 23:23:41
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