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あかいろあおいろ、しろとくろ After

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あかいろあおいろ、しろとくろ After
Written by 夏雪草

目次
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栗の木の爆ぜる灯りで [#1BLSGLx] 



 パチパチと木材が弾ける音がする。俺たちの前にはプクリンと呼ばれるポケモンを模した造形のテントのような建物が鎮座し、その両脇にある松明が辺りを照らしている。

「弟子入りする、とは言ったけど……やっぱり不気味だよね……」

 リクがぼそりと呟く。なまじ建物が大きいだけに松明が下から照らしてるからか、確かに不気味だ。
 他の建物もポケモンを模した見た目だったが、やけにこの建物だけが奇妙に見えるのはやはりここがこの付近で一番立派な建物だからだろう。


 俺がこの街にやって来て三日が経った。
 一日目に出会ってすぐにお互いを好き合った俺たちだが、早朝の海岸で粘液塗れの砂塗れ、流石にそのままどこかに行ける訳もなく、早朝の澄んだ空気に忍びつつリクの住処へと向かった。一見ただの崖だったのだが、なんと内部には空洞があり、湧き水さえあるのだから住み着くには最適だったのだろう。
 そしてリクは初め、ここを俺に任せるつもりだったという。と言うのも、リクは探検隊とやらになりたいらしく、そのためにギルドという所に弟子入りしたいとも言っていた。そして弟子入りともなると住み込みとなるため、ここは空けることになる。だから俺に管理を任せる、と、そのつもりだったとか。
 俺としてはそれでも良いかなと一瞬思ったのだが、しかし記憶喪失の元人間である俺が右も左も分からぬまま俺一人……一匹になるのか? 兎に角、俺だけで生活できる気がしなかった。だからいっそ俺も付いて行ってリクを支えてやるのも悪くないなと、そう考えたのだ。

 ……それに、少しでも長くリクと一緒にいたいし。
 依存している自覚はあるが自制も自律も出来そうにない。しょうがないよな、好きなんだから。

 まあ兎も角、俺はリクと一緒にギルドに弟子入りすることに決めたと言う訳だ。
 しかしその日は身体が本調子でなく、日を改めようと言うことでリクの家にお世話になったのだが。不調の原因は……まぁ、あれだよな。セックス。腰も痛いし、まだ膣に違和感がある。見た目はぴったり閉じているのだが……中の方は拡張されたままらしい。リクのモノの形を覚えたということかな……などと変態的で被虐的なことも考えてみる。所有感も優越だが、被所有感も、これはこれで心地いい。
 結局二日目はリクの住処で殆ど寝たきりで過ごし、三日目にようやっと楽になって違和感なく身体が動かせるようになったので、朝昼と買い物をいくらかし、住居の戸締まりをして、満を持してギルドに臨んでいると言う訳だ。


「……で、どうやったら中に入れるんだ? 閉まってるみたいだが」
「んっとね……そこに格子があるでしょ? そこに乗ったら、足型とか色とかから種族が特定されて、怪しく無かったら開けてもらえる、んだと思うんだけど……それもまた中々不気味でさ……」
「……ふぅん?」

 足型だけで個人の特定までされるのか。ポケモンの能力の高さの賜物か? そんなんで怪しい怪しくないが分かるのかは疑問だが、百聞は一見に如かず。とりあえず乗ってみることにした。格子穴はそこそこ大きく、四本すべての脚が乗った。つーかこれ足型見えてんのかね?

「あっ……ろ、ロサってやっぱり勇気あるね……」
「そうか? ……ま、もし怪しい奴って言われたら匿ってくれよな。頼りにしてるぜ?」
「うわ、プレッシャー……」

 そんな軽口(リクにとってはどうか分からんが)を叩いていると、足元からいくつかのやり取りが聞こえてきた。何とはなしに耳をそばだててみる。

「ポケモン発見! ポケモン発見!」
「誰の足型? 誰の足型?」
「足型は……足型はー……ロコン? かな? うん、たぶんロコン! たぶん……」
「多分だぁ!? しっかりしろ!」
「は、はいっ、すいません! ……あの、失礼ですが、ロコンさんで合ってますでしょうか?」
「聞いてんじゃねぇ!」

 随分コミカルな内容だった。仮にも見張りがこんなんで大丈夫なのか?
 ……これでも大丈夫なくらいこの辺りが平和ってことなんだろうか。個人的な感覚からするとあり得ないくらい不用心というか、心許ないんだが。

「あー……取り敢えず、合ってる。俺はロコンだぜ」

 兎にも角にも、尋ねられたからには答えるしかない。自分のことをロコンだと自称するのにまだ少し抵抗があるが、まぁ直に慣れるだろうと今は思っておく。
 人間から雌のロコンになったんだぜ、と笑って言えれば楽になるだろうか――とまで考えて、ふと、この格子穴に乗っている状況を思い返してみた。
 恐らくこの下に誰かがいて、真下から足型を見ているのだろうが……これ……脚が見えるならもっと別のも見えそうだよな。
 例えば、股間とか。

「あ、ありがとうございます。……足型はロコンで確定!」
「お前って奴は……呆れて声も出んわ!」
「えぇっ!?」

 ……嫌なことを考えてしまった。もう退いていいかなぁ。
 一度意識してしまうともう気になって気になって仕方ないんだが。俺の“ココ”はリクの物だぞ。

「……なぁ、もういいか?」
「……まあ、今の所お尋ね者にロコンはいない。いいだろう。もう一匹いるな? そいつも乗れ」

 大きな声から許可を貰ったのでそそくさと退かせてもらう。
 もう一匹、と指名されたリクは肩を震わせたが、俺が頷くと恐る恐る格子に歩み乗った。

「ポケモン発見! ポケモン発見!」
「誰の足型? 誰の足型?」
「足型は……リオル! 間違いありません!」
「ひぇ……落ち着かない……」

 俺と同じ理由でか、はたまた彼の性格によるものか、リクもそわそわとしながら下の会話を聞いている。
 今回は冗長なやり取りをすることもなくすんなりと終わった。

「ふむ……どちらも怪しい者ではないな。よし、開門! かいもーん!」

 大きな声がそう言うと、ごごご、と鈍い音を立てて建物の入り口が開かれた。
 ……入っていいんかね?

「……行くか」
「そ、そうだね……ふぅ……」

 リクはやけに疲れたような声で同意した。気になって向き直って見るとほんのり足が震えている。どうにも精神的に負担があったらしい。
 ……そんなに怖かったかな、とも思ったが、元々リクニスというリオルは気弱な性質だ。むしろよく我慢して頑張ったと言うべきだろう。もしかしたら俺の前だから我慢したのかもしれないな、などと多少驕った考えもしてみる。
 ……少しっくらいご褒美やってもいいかな。

「よく我慢したな、それでこそ俺のリクだ。……格好良かったぜ」

 そう言いながら頬に一つ口付け。
 顔を離すと、リクはしばし固まって、頬を赤く染めて恥じらい、そっぽを向いて小さく溢した。

「……僕、これくらいで褒められるほど子供じゃないんだけど」
「そりゃ頼もしい。もっと格好良かったらもっといろいろしてやるぜ」
「っ! ……もう! 行くよ!」

 ニヤニヤ笑いながらそう言ってやると、一層顔を赤くして足早にギルドへ入っていってしまった。……愛い奴め。
 俺ものんびりその後を追ったのだった。



「うわぁ……あんなの聞いて良かったんでしょうか……」
「どうした!? 何か言ったか!?」
「い、いえっ! 何でもないですっ!」




 その後俺たちは無事弟子入りが認められて(特に苦労があった訳でもなかったから拍子抜けと言えばそうだが)、住み込みの為の自室に案内された。部屋の扉には鍵が無く、ベッドも藁を集めて形どったものが粗雑に二つ並んでいるだけだったが、俺からすると屋根があるだけマシというか。
 今更俺とリクの間柄に衝立なんぞ使わないが、何となく配慮が足りないというか、プライバシーはそんなに無いな、とは思う。

 そしてその日の夜。月明かりが窓から差して部屋の中央ではとても寝られたもんじゃないので、二人して部屋の隅に固まってベッドを並べて寝そべった。存外に寝心地は悪くない。

「はーっ……ほんとに僕、弟子入りしたんだね……」
「なんだよ、悲願が叶ったみたいな口ぶりで。まだスタート地点に立ったばっかだろ?」
「それでも僕からしてみたらずっと足踏みしてたのが一歩前に進んだもん。これは大きな一歩なの」
「はは、そっかそっか」

 したり顔でそう言うリクが愛しくて笑みが溢れる。こんな他愛もない話をしているのが余りにも楽しいのは愛ゆえだろうか。
 もしそうならば、この湧き出る加虐心もまた、愛ゆえなんだろうなぁ……。

 こちらに背を向け横になり完全に寝る体勢になっているリクとの間を大きく詰める。リクはそれに気付いたらしく、それとなくこちらの様子を窺っている。
 その待ちの姿勢が命取り。俺は更に距離を詰め、リクに後ろから抱きついた。

「っ……何してるの?」

 他の弟子たちに配慮してか、詰問の声は小さい。もっと大きくリアクションされた方がこっちとしては楽しいんだがな。

「何って、頑張って一歩前進したご褒美だよ」
「こっ……これくらいじゃ褒めなくていいって」
「ほんとかぁ? こっちは期待してるのに?」

 軽くリクの股間を撫でてやると、確認はしてなかったが思ったとおり、リクのモノは屹立していた。まだ完全ではないものの、少しずつ鼓動が早くなっているのが分かる。
 まあそりゃあ胸を押し付けられたら健全な男子は皆勃起するだろうよ。ましてや、俺の身体に気を遣って、初日に致して以降同棲はしているのに行為はしてこなかったのだから。深夜寝床を抜け出してどっかに行っていたのは知ってる。だがやっぱり一人でするのと他人にされるのは違うだろう?

「う……それでも明日に響くし……扉は閉めてても声聞かれちゃうかもしれないし……」
「俺は別に聞かれててもいいけどな。なんなら公衆の面前でやってもいいぞ?」
「そういうニッチなのはしないよ! 変態みたいじゃんか!」
「男は皆変態だろー? このロコンは自分のだって見せつけてやれよ。俺はリクだけのものになりたいんだがなぁ」
「うぐぐ……駄目ったら駄目! 確かにロサは誰にも渡さないし、僕だけのロサだけど……今日は本当に、しないよ。まだ初日なんだし……」
「……分かったよ。そこまで言うなら今日はしない」

 じゃあまた今度ならするのかな、と思ったが口には出さないでおく。リクがそこまで嫌がるなら今日はやめておこう。
 返事ついでに首筋にキスを落とすと、それはそれでちょっと名残惜しかったのか寝返りを打ってリクはこちらに向き直った。

「ん……ちゅ……」
「はむ……んぅ……」

 おやすみと言う代わりに俺たちは深く深くキスをした。まるでこれから情事に及ぶような、ねっとりとした口付けだ。こんな濃い接吻をしてこれから眠れるのか、と少し心配になるが、これがなかなか心地よくて安心するのだ。

 長いキスを終え、俺たちはどちらからともなく抱き合い、お互いの温もりに埋もれながら瞼を閉じた。
 明日もいい日になりますように……。




「起きろおぉぉお! 朝だ……ぞ……」

 次の日の朝。どこかで聞いた大声が直撃し、俺たちは眠い目を擦ることとなった。
 寝起きでぼんやりとした視線をそちらに向けると、大きな口が特徴のポケモン、ドゴームが更にその口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。

「……あー……朝礼があるから身支度整えて来いよな。うん。邪魔したな」

 そう言い残してそそくさとそいつは去っていった。……何だったんだ?
 リクと顔を見合わせると、リクはちょっと赤らめたバツの悪い顔をしていた。

「あちゃー……気を遣わせちゃったな……」
「……うん?」
「そりゃ雄雌が抱き合って寝てたらそう思うよね……いや実際そんな関係なんだけど」
「…………うん?」

 まだ俺が理解していないのを察したのか、リクは更に言葉を重ねた。

「んー……なんて言ったらいいかな。雄雌が愛し合ってる……睦み合ってるって言うのかな? そんなところに出くわしたら気まずいでしょ」
「……そうか?」
「そうなの。ましてや自分が邪魔したかもって思ったらもっと決まりが悪いでしょ」

 それはそうかもしれない。リクとの時間を邪魔されるのはちょっと癪だし、自分が邪魔する側になるのは申し訳ないかもしれない。
 そうか、それであいつはあんなに足早に去っていったのか。多分あいつが朝に起床を促す役割なんだろう。あいつが起こしやすいように扉には鍵が付いてないし、だからこそプライバシーがあまり守られていない、と。
 ……いや、それはこの制度が悪いと思うが。

「こうなるから我慢したんだけどな……と、そんなこと言ってる場合じゃないや! 呼ばれてるんだし行かなきゃ!」
「ああ、そういえばそうだったな。弟子入りしたんだから……朝礼って言ってたな」
「うん! ほら、急いで!」

 リクが俺を急かして揺さぶる。
 俺はのんびりと伸びをして(女豹のポーズってやつだがポケモンたちの文化にはいまいちこれに欲情をしないらしい。健全だ)、ドアを乱暴に開けるリクの背中を追った。


ムーブ・クライシス [#2RxbXgS] 



「そういえば、やっぱり技は使えないの?」
「そうなんだよなぁ……こう、自分の口から火が出るってのが想像できねぇんだよ」

 それは俺たちがある程度実力を認められ、お尋ね者の逮捕も任され始めた頃のことだ。
 これまでは飛び道具や不思議玉、加工してもらった近接用の銀の針なんかで誤魔化し誤魔化しやってきたのだが、やはり指名手配されるほどの悪党と戦うとなると技は使えるようになった方がいいだろう、と思い始めたのだ。

 しかし、いくら試しても俺の口から炎は、それどころか火の粉すら出ることはなく、どうしたものかと思い悩む羽目になっている。
 いやでも、考えてもみてほしい。ある日いきなり、はい、あなたは今日から火を吹けます、なんて言われたってどうしようもなくないか? いくらそういう器官があろうと、今まで無かった物の使い方なんて分かるはずもない。

 そんな炎の出せないロコンな俺は、どうにかならないかとギルドによく来るフレイムという探検隊チームに助力を願ったり、電気で脳を刺激して活性化させるというエレキブルの元に出向いたりもしてみた。
 だが、いくら教えてもらっても、あるいは実際に受けてみても(身体だけは立派なロコンな俺はきっちり“貰い火”の特性を有しているらしく、不思議と熱くはなかった)、そして電気を流してもらっても(こっちは結構痛かった)、炎技が使えるようにはならなかった。

「うーん……技が使えなくてもロサは可愛いんだけど……」
「それは嬉しいし俺もリクのこと大好きなんだけどさ。もうちっとくらい役に立ちてぇんだよな……」

 買い物をしながらそうリクと話していると、周りから舌打ちのような音がいくらか聞こえてくる。リクの惚気は素で何の他意もないが、俺の方は牽制の意味もある。こいつは俺のもんだし俺はこいつのもんだから邪魔すんなよ、ってことだ。
 とにかく、どうにか技が使えるようにならないかと悩んでいると、冒険に役立つ道具を売っているカクレオンの店の前でリクがあ、と小さく声を漏らした。

「……今までどうにか火が出せるように、って言ってたけどさ。別にロコンが使える技って炎タイプの技だけじゃないよね」
「ん、そりゃそうだが……いやでも、俺は炎以外の技も使えないぞ?」
「一回技が出せれば感覚も掴めると思うんだよね。僕が小さい時もそうだったし」

 今も小さいぞ、と雄に言うのはあまりに残酷だろうか。黙っておいてやろう。モノは小さくないからな。……え、関係ない?
 一度技が出せたら、というのは確かに一理はあるが……いやでもどうやって最初の一回を成功させるんだ?

「それは……ほら! あれ!」

 リクが指差したのは件のカクレオンの店、弟のカクレオンの方。確か不思議玉と……技マシンを売ってるんだったか。
 ……なるほど。試して見る価値はあるかもな。

「……でも技マシンってやたら高くなかったか?」
「それはまぁ……物によるよね」

 そう、技マシンは高価なもの。6,000から9,000くらいとお値段が張るものだ。弟子入りした当初は金銭感覚が無くて困った俺だが、今ではきっちり財布を任されるようになっている。そして俺たちの貯蓄から考えると……まあ、安いものなら買えなくもない。
 ただ、なまじっか金銭感覚が身についたせいで、自分に金を掛けるのにちょっと抵抗があるんだよなぁ……。

「んー……まあ、買うほどでもないかな」
「そう? 先行投資って意味でも買う価値はあると思うよ?」
「いや、いいさ。それに……ま、ヒントにはなったし」

 一応値段を確認しようと商品を見て、ふとある考えがよぎった。これならわざわざ高値で買わなくてもいい。
 多分あいつなら協力してくれるだろ。ぽやぽやしてるけど一応俺たちの親方なんだし。
 俺の視線の先には、メロメロの技マシンが陳列されていた。




「そっか、そういうことなら任せてよ! ロサは僕の大事な弟子だからね!」

 そう言って俺の手……前脚か? を取るのは、俺とリクが弟子入りしたギルドの親方、プクリンのグローボだ。濁音まみれの厳つさ溢れる名前とは対象的に、愛嬌のある顔と美しさまで覚える毛並み、そして名声に違わぬ実力を備えており、雄としてはまあリクの次くらいには魅力的……おっと。
 危ない危ない、さっそく“呑まれる”ところだった。

 男から雌に変わって分かったことに、やはり性差に関することがある。男だった時より嗅覚が鋭くなったり(……そんな気がするだけかもしれないが)、細かいところに気が付くようになったり。
 特に、雌を見ても欲情しないのに雄は魅力的に見える、というのが大きい。まあ俺にはリクがいるので他所の雄にホイホイ絆されたりはしないのだが、やはり第一印象は大きく変わって感じる。

 そして――これはポケモンになったことも大きく関わっているのだが、ある一部のポケモンと接していると無意識のうちにそいつを美化して見てしまうのだ。例えばエネコロロとか。ピクシーとか。あるいはプクリンとか。
 そいつらの“雄”についつい視線が向いてしまう……つまり“呑まれる”というのが彼らに共通する特性、メロメロボディの厄介なところだ。
 メロメロボディを持つポケモンは体臭にフェロモンか何かが多く含まれており、直接触れたりするとそいつが鼻孔に届き、メロメロ状態になってしまう。もし敵対しているなら遠距離攻撃で仕留めるか、あるいは同性に交代してもらうのが吉だろう。
 もっとも、親方レベルの強者になるとかなり遠くまでメロメロの香りを飛ばせるようなので、あまり油断はしてはいけないのだが。

 ……ここだけの話、以前俺をメロメロにしようとした雄のミミロップがいてだな。リクに交代して戦ってもらったら、そのミミロップの目が爛々と輝いて……その、俺を見る目よりもリクを見る目の方が厭らしかった、ということがあってな……。リク自身は気付いていなかったようだが、それ以来俺はメロメロボディ持ちに軽いトラウマが……うん。

 もっとも、今回は目的があるのでメロメロボディにでも何でも触れてやる、という所存。
 金の節約のため、ひいてはリクの役に立つためだ。やってやるさ。

「それじゃあ早速始めるよ?」
「ああ、頼む」

 一つ前置きしてから、親方は俺をゆっくりと抱きしめた。メロメロボディ特有の甘く誘われるような香りが俺を包む。
 鼻孔を擽るような柔らかい刺激に身を攀じるが、どこへ逃げようと絶え間なく甘美な香りに晒され、次第に思考が緩慢になっていく。蜘蛛の巣に絡めとられたように身体が言うことを聞かない。そして今ここで呼吸をするだけで下腹部が疼く。全身でこの恍惚感を味わいたい……もっと嗅いでいたい……もっと感じたい……。
 もっと……もっとぉ……。

「――ロサ」
「……っ……ああ……」

 俺を抱きしめたまま親方が俺の頬を叩く。目覚ましビンタというその技は非常に手心を加えられてはいたが、その効果らしいものを如実に発揮していた。意識が一気に引き上げられる。
 ……これやばい……我慢が出来ないレベルの濃い香りだ。流石親方と言うべきか……別に抗うつもりでもなかったがあまりに呆気なく俺は堕ちていた。
 情けないとも思うが……いや、でももうちょっとあのままでいたかったような……ううむ。

「あはは、そんなに切ない顔しないで。これはきみがメロメロを使えるようにするための特訓なんだよ?」
「分かってっけどさ……いや、親方すげぇよ。俺これに勝てる気しねぇわ」

 マジで親方がいるだけでその付近の雌は戦えなくなると思う。そのくらいこのメロメロボディによる香りは強烈で、甘美で、耽美で、戦意が失せる。羽化登仙の心地とはこのことだろうか。まるで麻薬みたいだ。

 親方が俺から離れる。温もりがなくなって少し口惜しい気分になるが、それを悟ったのか親方が俺の頭をぽんぽんと叩いてくれた。
 いかん、また“呑まれ”かけてたみたいだ。正直股間の熱は冷めていないのだが、今は何とか忘れよう。

「これがメロメロ状態。そしてこの香りを意識して放つのがメロメロって技なんだ。冗談みたいだけど侮れないでしょ?」
「ああ、身をもって体感した。これが使えれば俺ももっと戦えそうだ」
「それじゃあコツを教えるね。まず……」




「もちろんです! わたしが今この真珠を頭に乗せられているのもロサさんとリクニスさんのおかげ! 是非ご協力させてください!」

 そう言いながら飛び跳ねるのは、俺とリクが初めて依頼を受けた時の依頼者、バネブーのペルラだ。頭に乗せた真珠がチャームポイントで、トレジャータウンに住んでいるらしくたまに出会っては挨拶する仲である。
 良い奴なんだが……常に飛び跳ねているので顔を合わせようとすると首がちょっと疲れるかな。まぁバネブーという種族は飛び跳ねることで心臓を動かしているらしいので止めろとも言えないのだが。
 今俺は彼と二匹で町の郊外にある森へ来ている。


 親方の教え方が上手かったのか、はたまた自分でメロメロ状態を体験したのがよかったのか、メロメロは技として一応形になる程度に体得できた。あとは練習あるのみだよ、とは親方の言。
 そしてその時、親方に別の技も使ってみないかと進められたのだ。確かに使える技は多い方が良いだろうし、一度技を使ってみると何となく技を出す感覚も掴めてきたので試す価値はありそうだ。
 ……まあ、未だに炎タイプの技は使えないのだが。

 そうして考えた結果、メロメロ状態と重複できる混乱状態にする怪しい光がいいのではないかと思い当たったのだ。
 残念ながらギルドには誰も使い手がいなかったため街に出て誰かいい奴がいないか探し、このペルラに目を付けたということだ。

「わたしも使いこなしている訳ではないのですが……やり方やちょっとしたコツなんかはお伝えできると思います! ロサさんなら簡単にできるはずですよ!」
「ああ、頼むよ。まずはどうすればいい?」

 早速そう尋ねると、ペルラは少し悩んでから話しだした。

「そうですね……わたしなんかはこの真珠を通して光を出すのですが、ロサさんは……目か、尻尾ですかね? そこから光を出すイメージでやってみましょう」
「分かった」

 実際にやってみますね、と言い、彼は近くの木に向かって光を放った。ふわふわと予測が難しい軌道を描いて幹に当たり、そのまま光は弾けて消えた。
 恐らくあれに当たると目の裏側まで光が回り込んでくるのだろう。単純に混乱状態を引き起こすだけでなく、軽い目潰しにもなりそうだ。

「……とまあ、こんな感じです。コツは周囲の光を集めて凝縮させるイメージですかね……あ、それと、少し言い辛いのですが」
「……うん?」

 急に言葉を濁し始めるペルラ。ちょっと嫌な予感がする。
 六本の尻尾が生えてからというもの、嫌な予感は軒並み当たってきたんだが……。

「その、ですね。わたしもそうだったんですが……この技の目的はどのように相手を惑わせるか、ということでして。それを理解するには、自分も混乱してみるのが一番手っ取り早いので……」
「……ああ、うんなるほど。分かったよ」

 つまりメロメロに続いて混乱状態にもなれ、と。こんなんばっかだな。
 まあ、確か鞄の中に悪性状態を回復してくれる癒やしの種も入っているし、ペルラは親方ほど実力が高い訳でもないのだから、命の危険は殆ど無いだろう。そもそも混乱による自傷で倒れることって殆ど無いし。
 それでも怖いもんは怖いが……さっさと終わらせてやろう。

「……いいですか?」
「お手柔らかに頼むよ……あ、俺がやばそうだったらこいつを食わせてくれよな」
「ああ、癒やしの種ですね? 分かりました。では……いきますよ?」

 ペルラの水晶に光が集まり、放出される。
 それを真っ向から受けた俺はあまりの眩しさに目を固く結び――。



 目の前にリクがいる。いつもと変わらないあどけない表情で笑いかけてくるその姿を見ると思わずこちらも頬が緩む。
 何も言わず彼は腕を広げて抱きついてくる。その温もりが微笑ましく、衝動的にこちらも抱き返す。

「へへ……リクぅ……」

 こちらが強く抱きしめるとそれに呼応するようにリクも強く抱きしめてくる。
 ここ最近の幸せな時間だ。最近はセックスもご無沙汰だったから……疼くなぁ。それでもリクが頑なに拒否するので無理強いはできないんだが……。
 ……キスしたいな。本番自粛中の今、一番リクを感じられるのがキスをしてる時だから……。

 切なさに口が開く。息が荒くなって、視界がぼやけて――


「――むぐっ」

 突如何かが口に飛び込んできた。咄嗟のことだったので思わず飲み込むと、次第に思考と視界が鮮明になっていくのを感じた。
 目の前にリクはいない。ここは街の郊外の森、目の前には頬を赤くしながら目を逸らすバネブー、食べたものは癒やしの種。
 あー……混乱って、そういう……?

「……わりぃ、見苦しいもん見せたか?」
「い、いえ、幻覚が見えるというのはよくあることですので……いやはや、リクニスさんには嫉妬してしまいますね」
「……忘れてくれると助かる」

 幻覚を見ている俺がどんな様子だったのかは口にしないペルラだが、幻覚の内容から考えるにあられもない姿だったのは想像に難くない。
 流石に世間知らず常識知らずの俺だってしばらくここで生活していたら羞恥心も覚える。雄の前でだらしなく蕩けた顔を晒したのは生き恥の一つに追加された。

「……とりあえず練習してみましょうか」
「あ、ああ……」

 この羞恥心が集中を産んだのか、案外あっさり怪しい光を体得することができた。
 しかし俺はもう二度と他人に技を習うまいと、強く決心したのだった。




「……ってなことがあってな」
「なるほど、それで技が使えるようになったんだね」
「まぁ未だに炎は出せないんだがな……」

 しばらくして。俺たちはギルドの面々に力を認められ始め、初めて探検らしい探検を任されることとなった。その時のリクのはしゃぎようったらなかったが、やはり探検というのは大変なもので、目的地の滝へ行くにも三日はかかる。
 その道すがら、辺りを木々に囲まれた広間で、俺たちは野営をしながらここ最近のあらましを話していた。
 ……当然、親方のメロメロで発情して後でこっそり発散したことや、幻覚のリクがいくらか美化されていたことは秘密だ。重ねて言うが、俺にも羞恥心は芽生えている。

「で、親方にもペルラにも後は練習あるのみって言われたんだけどさ。やっぱ実戦だとなかなかタイミングってないもんだな」
「まあ、この辺の敵ってあんまり強くないしね」

 そう。後は練習あるのみ、なのだが、その練習相手がいないのだ。なるたけ意識して使うようにはしているのだが、咄嗟に出るのはやっぱり道具だし、動きを止める前にもうリクが倒し終えたりもする。どうすっかなぁ、これ。
 と、俺がため息をつきながら悩んでいると、リクは少し躊躇いながらおずおずとこう言った。

「うーん……なら、僕に使ってみる?」
「……いいのか?」

 必要でもないのにリクに技を向けるのはちょっぴり抵抗あるんだがな。
 だが、それ以外に使用機会もないし……ううむ。


 結局、「まあすぐに危険になるものでもないし」というリクの言葉に後押しされ、俺たちは焚き火に照らされながら対峙することになったのだった。

「……うまくできなくても文句言わないでくれよ?」
「癒やしの種もあるし大丈夫だって」

 リクが見覚えのある種を手に握り、先日の俺と同じことを言っている。その種を食うまでがきついんだぞ……とは思いつつ、何故か本人がやる気なのだから俺としてもやるしかない。
 まずは比較的使いこなせている怪しい光から。俺が怪しい光を放つと、そいつはリクの顔面へ吸い込まれていき、ぽわんと弾けて消えた。

「……どうだ?」
「うーん……何ともない……かな?」

 もう少し様子を見てみるが、リクの受け答えに乱れたところはないし、立ち姿もしっかりしている。
 これは……失敗かな。

「まあ、こういうこともあるよね」
「分かっちゃいたが……やっぱ難しいな。んじゃ、次はメロメロの方だが……」

 メロメロ……先日の痴態が思い起こされるが、今はあくまでも真面目に技の練習をしているのだ。俺は頭を振って集中し、メロメロを放つ。
 自分でも分かるような甘い香りが漂い、リクまで届いて……リクの目が据わった。お、これは上手くいったかな。

 俺はリクがその手の種を口に運ぶのを待っていたのだが、リクはじっとして動かない。
 呼びかけても反応がないので、これはもうメロメロが上手く嵌まりすぎたのだろうと思って、俺が種を口に入れてやろうと近付いた。

 その瞬間、リクが種を握り潰した。
 ……何事?

「へへ……ロサ……ろさぁ……」
「お、おい、リク?」

 返事がなかった先ほどとは打って変わって、リクは恍惚とした表情でオレに抱きついてきた。躊躇なく肌を合わせてくるのが子供っぽくて可愛らしさも感じるが、いや、今こいつはメロメロ状態でこうなっているのだし……早く治してやらないと。
 ……だから、できれば離れてほしいんだがな?

「おい、リク……癒やしの種に手が届かないんだが」
「へへへ……ちゅー」
「んむっ」

 唐突な接吻。しかも深い方。ぬるりとした感覚が口内を蹂躙する。
 ……これだけで身体が疼いてスイッチが入っちまうんだから、俺もすっかりリクに染められているらしい。
 十中八九メロメロに加えて混乱にも遅れて掛かってるっぽいんだが、結構しっかり抱きしめられているのでもうどうしようもない。別に開き直ったわけじゃないが……うん、最近リクと肌を重ねてなかったので恋しくなってはいた。
 だからってこうして事故で行為に至るのも、別に本意ではないが……嫌でもない。んだけど……。
 どうすっかなぁ、これ。多分このままセックスしたら、俺は気にしないけどリクは気にしそうだよなぁ。俺もリクが好きなのであって、リクの身体もそりゃ好きだけど、やっぱりこれは何か違う気がする。
 ラッキースケベならぬラッキーセックスは……まあ、悪かないけどお預けかな。

「んはっ……リク」
「えへへー……」
「んっ……おい、リク」
「へへへー……んちゅ」

 リクはキスに満足したのか口を離し、今度は俺の胸を弄る。しまいにゃ吸い付いてくる。やめろよ、ちょっと感じちゃうだろ。
 胸を吸われると母性本能が働いてどうしても気にせざるを得なくなる、みたいな話もあったが、あれは多分間違ってないと思う。だって俺の胸に一生懸命むしゃぶりついてるリクがこんなに愛しく見えるんだから。
 別に母乳が出てる訳でもないのに必死に吸って、舌で刺激までして、くすぐったさと気持ちよさが同拒して変な気分になる。たまにゃこういうのも悪くない。

 ……うん、でもまぁ、こういうのはもっと愛し合いながらやりたいかな。
 俺は胸に顔を埋めるリクの後頭部目掛けて前脚を振り下ろした。

「んぐっ!? ……んんっ!?」
「お、正気に戻ったか?」

 見ると目に光が戻っている。どうやら正気には戻ったようだ。
 視界一面の胸部に目を見開いて驚き離れようとするが、それは俺が許さない。後頭部を軽く殴ったそのままに俺はリクの頭を抱え込んでむしろ押し当てていた。俺は転んでもただでは起きない男なのだ。今は雌だけど。
 意趣返しにもならない何かだが、リクには十分な驚きを提供できたようだ。

 しばらくその反応を楽しんでいたのだが、リクが苦しいと言わんばかりに俺の前脚を何度も叩くので、名残惜しくもオレはリクの頭を開放した。

「ぷはっ……な、何!? 何なの!?」
「何って……んー……まあ、愛情の発散かな」

 ちょっと想定外ではあったが、俺は恋しさを満たすことができたし。……リクは溜まってるみたいだけどな。
 ま、たまにはこういうのも良かったかもしれないな。技の練習はまた別の機会にしよう。
 今日は……このまま寝ちまおうかね。

「さ、寝るぞ。おやすみ」
「待って待って! 僕どうなってたの!? なんで抱きしめてるの!?」
「うるせぇ抱き枕だなぁ。ほら、リクも寝ろよ」
「ちょっと……もう、なんなのさ…‥」

 正気じゃないリクも可愛かったなぁ……。この冒険が終わったらセックス解禁してくんねぇかな?
 ……ま、こうして抱きしめてるだけでも、暖かくていいけど、な。
 俺はリクをぎゅっと抱きしめたまま想いを寄せつつ瞼を閉じた。


朝日とアサヒとルティオハと [#7Ukm7Ux] 



「よっ。元気?」
「……本当に、アサヒなんだな」
「記憶も面影もないから別人みたいなもんだけどね。名前も覚えてねぇし。……ま、あんたの言うアサヒって人間が、色々変なものが見えて、おまけにネーミングセンスのない人間の男なら、多分俺だな」

 今俺の前には、少し前までは敵対し、未来世界では助けてもらって、今は旅路を共にしているジュプトル――ルティオハがいる。
 まあ敵対してた時からこいつのことはどうにも憎めなかったから、俺は割とあっさり打ち解けたけど。リクなんかは始めかなり反発していたな。
 ……まあ、あれは未来世界っていう特殊すぎる環境が影響してたかもしれねぇけど。


 俺たちは実に色々なことを経験した。時の歯車っつーとんでもない代物を見つけたり、あるいはそれを狙う悪党――や、実は悪党ってわけでもなかったんだけど――を追いかけたり。
 信じていたヨノワールのトゥンバが俺たちを未来世界へ連れ去って始末しようとしたり。実は俺が未来世界の住人だったってことが判明したり。
 ルティオハが時の歯車を盗んでいたのは実は世界を救うためで、俺とこいつとで歴史を変えるために過去の世界へ来ていたのだと知ったときは流石に耳を疑った。多分ルティオハの方もパートナーだった人間の男がロコンの雌になってると知ったときは度肝を抜いたんじゃねぇかなぁ……。しかもそいつ、過去世界で記憶を無くして伴侶作ってるし。


 で、いろいろあって。いろいろありすぎて疲れてきたところで、命からがら、何とか過去世界へ戻ってくることができた。
 今はリクの以前の住処、サメハダ岩の崖下の空洞でルティオハと共に身を隠しているといったところだ。
リクがベッドを用意したり片付けをしたりしている間、ルティオハが一人海を眺めていたので声をかけたという次第。
 しばらくお互い沈黙した後、何となく気になって俺はルティオハに尋ねた。

「な、人間だった時の俺ってどんな奴だった?」
「俺の知るアサヒは……頼れる相棒だった。いつも勇敢で、俺を引っ張ってくれていた。まるで親が子に安全を知らせるように、率先して行動していたな」
「……はは、それを聞く限り俺じゃねぇかもしれねぇな」
「いや。リクニスを見ていれば分かる。……あいつは、あまり気が強くないだろう。だからよく怯えるし、その裏返しで過剰に敵対したりもする」
「そこまで分かるもんかい? そうさ。あいつは探検隊に憧れるくせに、最初の一歩が踏み出せない奴だったんだよ」
「だろうな。……俺も昔はそうだったから分かるさ」

 くしゅんと部屋の奥からくしゃみの音が聞こえた。埃でも舞ったのだろうが、あまりのタイミングの良さに思わず俺たちは顔を見合わせて笑った。

「ふふ……でも、意外だな。お前が臆病だったって? 今じゃ恨まれてでも世界を救おうとまでしてるってのに」
「俺の背を押してくれたのは……俺を変えてくれたのは、お前なんだよ」

 揶揄うつもりだったのに、予想だにしない返事が返ってきて思わず固まった。

「……俺?」
「ああ。いい加減暗黒の世界にうんざりしていた俺たちは、どうにか歴史を変えられないかと仲間を集めて立ち上がった。だが俺は、トゥンバ率いる闇のディアルガの軍勢に抵抗する踏ん切りが付かなくてな――」

 その後もルティオハの語りは続いた。その端々から“アサヒ”に対する信頼と友情が感じられて、くすぐったいやら恥ずかしいやら。
 俺は時々相槌を打つくらいにして、リクの立てるドタバタという音をBGMに静かに彼の話を聞いていた。

「……だから、その、なんだ。お前が記憶を失ったのは辛いが……それでも、前と同じように誰かを支えてやってるんだと思うと……記憶を失ってもお前はお前なんだと思うと、少し嬉しい」
「……そっか」
「……また会えてよかった」
「うん」

 空模様が怪しくなって、雨がぽつぽつと降り始めた。雲の様子から見るに今晩までには上がりそうだが、やっぱり雨はあまり好きじゃないな。
 ……しかし、“アサヒ”か。

「名前を聞いても、記憶っつーのは戻らねぇもんなんだなぁ……」
「やはりそうか……」
「うん……やっぱり俺はロサなんだよな……ちょっと申し訳ねぇけど」
「いや、どんな名前でも、どれだけ変わろうと、お前はお前だよ。生きていてくれただけで嬉しい。ましてや、また一緒に居られるのだから……いや、悪いな。一匹でいる時はずっとアサヒのことを考えていたから……」
「……よく頑張ったな」

 頭を撫でてやる。記憶は無いが俺が掛けた心配だ。俺が後始末をしてやるのが筋だろうし……ルティオハへの詫びだろう。
 ルティオハは少しむず痒そうにしていたが、結局は大人しく撫でられていた。
 しとしとと降り続ける雨の音が、まあ、いつもよりは心地よかったかな。




「お待たせー……って……」
「ああ、任せっきりで悪かったな」
「いや、それはいいんだけど……随分仲良さそうだね?」
「……何でもない。忘れろ」
「何だよ、照れてんのか? もっと甘えてくれてもいいんだぜ?」

 俺に甘えているところをリクに見られたのが恥ずかしかったのか、ルティオハは俺から数歩分の距離を取ってしまった。子供が反抗期に入ったような寂しさがある。
リクはリクで、ルティオハとは打ち解けたはずなのに先程までより幾ばくか敵意の滲む顔で俺とルティオハの間に立った。……これは。

「くふふ……リク」
「なに、ロサ――んむっ」

 険しい顔に振り向きざまに口付けした。軽く、だが見せつけるように、あるいは教えこむようにねっとりと。
 リクもルティオハも目を見開いて俺を見ている。正直ルティオハに、というか他人にキスを見られるのは慣れるもんじゃないが、まあ愛しい旦那の独占欲を満たしてやるためだ。これくらいはいいだろう。

「――ふぅ……あんまり妬くなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
「……そういうのは僕が言う台詞だと思うんだけど」
「実際リクの顔は可愛いんだから仕方ねぇよな。……俺はちゃんとお前のもんだから心配すんなって」
「……うん」

 リクは照れ隠しにそっぽを向いてしまった。そういう反応も可愛くて愛しいんだよなぁ。
 俺は口元を拭いながら今度はルティオハの方へ向き直った。

「や、悪いね。うちのが目ぇ緑にしちまって」
「……いや……それはいいが」
「さっきの話の続きだけどさ。俺にゃアサヒなんて立派な名前は似合わねぇよ。夜の終わりも教えられねぇし、明るく照らすこともできねぇからさ」
「……同じようなことは前にも言っていた」
「そうだったのか? ま、何はともあれ……今の俺はロサなんでね。多分お前の期待にゃ応え続けられねぇと思うよ」
「……それは」

 やはり話を聞くに俺のこととは思えなかったし、それを今の俺に期待されちゃ困るってのは十分にある。
 ただ、それ以上に……ま、俺個人の感傷として、かな。

「だから、さ。その立派で、力強い、多分俺以外が考えたんだろう名前はさ。俺になんかじゃなくて……あんたの中で輝かせてやってくれねぇかな」

 多分、それがアサヒだった男への手向けで、慰みで、救いだと思うから。
 俺がそう伝えると、ルティオハはしばし瞑目して、それから一つ息を吐いた。

「……分かった。……やっぱり変わらないな」
「ま、そう言ってくれると俺の中でも報われた気になるからありがたいね。……さあ、折角リクが片付けてくれたんだし、ここじゃ雨が掛かっちまう。中で飯にでもしよう」

 俺は二匹を押し込むようにして中へ促した。
 尻目に見える空はまだ暗いが、きっと明日の朝は晴れてるだろう。そしたら綺麗な朝日が拝めるだろうさ。
 その時にまたアサヒのことを思い出してやるのもいいかもしれない。
 あるいは、俺は寝たふり知らんぷりでいてやった方がいいかもしれないな。……邪魔しちまうかもしれねぇし。


呑んで呑まれて尾を絡め 



 ああ、神様。僕のパートナーの笑顔がちょっと怖いです。
 以前より人生を謳歌しているのはいいことだと思うけどね……。

「……それで、なーんで親方たちがここにいるんだい?」
「あー……えっと……」

 落ちた穴の先ではギルドの仲間たちが僕らを待ち構えていた。状況はよく分からないけど……さっきまで鬱蒼とした森にうんざりしていたロサが、今はなんだかとっても楽しそう。

「それともあれか? あんたらは俺たちの知ってる奴らじゃねぇのかな? そうだよなぁ、俺たちの仲間だったらギルドで待ってるはずだもんなぁ」
「そ、そう、僕は悪の大魔王。親方なんて知らないよ?」
「ほーん。あんたらも?」
「そ、そうだ! ワタシたちは大魔王の子分! ……って、無理があるけど」
「いーや? ……実際子分っつか弟子だしな」

 僕の知ってるススロってポケモンに似たペラップが何かごにょごにょ言ってる。声も姿もススロ本人だと思うんだけど……これ、どういう状況なの?



「卒業試験?」
「ああ、お前たちは世界を救ったのだからな! このギルドを卒業する機会を与えようと親方様がおっしゃったのだ」

 それは今朝のこと。
 ロサが戻ってきてくれて、散々泣きはらして、それから……うん。色々して。すっかり夜になってからギルドの皆とも抱き合って喜んで、騒ぎに騒いで、それから泥みたいに眠って。

 起き抜けに僕とロサはススロに呼び止められて、そんなことを言われた。
 あくまでも機会だって言うけど、ロサと一緒なら何だって成功する気がしていたから、深く考えずにロサとハイタッチして喜んだ。
 まさかこんなことになるとは思ってなかったけどね……。


「……湿気が」
「霧も凄いね……ロサ、大丈夫?」
「あんま元気じゃねぇかな……鬼火も碌に点かねぇし」

 森って言うくらいだから草タイプや虫タイプが多いだろうな、とは思っていたけど……こんなに湿度が高いと炎タイプのロサには辛いかもしれない。最近ようやく鬼火くらいなら使えるようになったのに、それも上手く使えないのは堪えるだろうし。
 それに、土も湿ってるし、妙に敵も賢いし……泥を掛けてこっちの脚を止めてくることも何度かあった。
 さらに道具まで使われるし……ロサが不幸の種を口に突っ込まれて怒った時の台詞が「俺に突っ込んでいいのはリクだけだ!」だったのはちょっと怒鳴り声としては不適格じゃないかなあ?

 そんなこんなで苦労と我慢の末ようやくダンジョンを踏破して、宝物があるという泉まであと一歩……というところで地面に大きな落とし穴があって、僕とロサはそこへ真っ逆さまに落ちてしまった。その後蓋でもされたのか急に真っ暗になって、ロサが咄嗟に鬼火で照らしたら……枯れ草でできていたのか、蓋があっさり燃え尽きてしまった。
 そしたらいつの間にかギルドの皆に囲まれてるし……地上と違って空気が乾いてるからか、ちょっと元気になってきたロサが六本の尻尾のそれぞれに鬼火を灯し直してくつくつと笑った。

 そうして先程の問答に戻る、ということなんだけど……元気になったロサは、それはそれは楽しそうに笑っている。
 その笑顔が、なんか、こわい。

「さぁて、リク……どうする? 俺たちの目的は泉の宝物とやらだから、逃げてもいいかもしれないぜ?」
「いやぁ……流石に僕でも、これが本当の試験なんだってことは分かるよ」
「ま、そうだよな。ギルドの皆……もとい、悪の大魔王一味を倒さねぇとな」

 皆は僕たちが逃げる話をしだしてからちょっと焦っていたけど、やっぱり倒すって言ったら露骨にほっとしている。
 逃げたらどうなるかちょっと気になるし、僕一匹だったら皆に勝てるわけないからすぐに逃げてたと思うんだけど……うん、僕にはロサがいるから。大丈夫、やれる。
 ロサの方を見てみると……うん、やる気いっぱいだね……うん。

「リク」
「うん? なに――もがっ」

 ロサが僕の口に何か突き出してきて、思わず咀嚼してしまう。ロサ自身も食べてるこれは……俊足の種?

「相手が大人数でズルしてるんだ。こっちだってズルして然るべきだよなぁ?」
「そ、そう……だね?」

 身体が軽くなっていくのを感じる。
 ロサはいつもの天使みたいな笑顔で僕ににっこり笑いかけて言った。

「んじゃ、あのプクリンは任せたぜ」
「え゛」

 そう言うや否やロサは跳躍し、弟子――えっと、子分、の一体一体に状態異常を仕掛けに突っ込んで行った。
 うーんと……プクリンは任せたって言ってた? それってつまり?

「……僕一匹で親方に勝てってこと?」
「あーはっは! 燃えろ燃えろ!」
「うわ、こら、いきなり……ぎゃっ」
「卑怯なんて言わねぇよなぁ!? 大魔王の子分にゃ手加減しねぇぜ! 安心しな! 後でこの俺が手厚く看病してやっからよ!」
「きゃー! きゃー! きゃー!?」

 とても身内に対する戦術とは思えないやり方で手下たちを消耗させていくロサ。鬼火に、怪しい光に、メロメロに、封印にと、きつねポケモンの面目躍如な戦い方だ。森の中と違って思う存分暴れられるからか何だか楽しそう。
 というか、念願の炎タイプの技だからか、鬼火を使う時のロサはちょっとハイになる。それはそれで魅力的なんだけどね……。
 唯一親方様……じゃなかった、悪の大魔王にだけは近付かないんだけど……何で?

「ふっふっふ……よそ見してていいのかな?」
「わわっ」

 その悪の大魔王……いちいち面倒だなぁ……プクリンはいつの間にか僕に往復ビンタを仕掛けてきていた。俊足の種を食べたおかげでギリギリ躱せたけど……僕一匹で勝てるのかなぁ……?

「……お、お手柔らかにお願いします」
「いくよっ! たあぁぁぁぁ!」



「卒業、おめでとー!」

 室内に鳴り響くクラッカーの音。
 鳴らしているギルドのメンバーの笑顔に対して、紙吹雪に晒されている僕らは微妙な顔をしていた。……実感が湧かないなぁ。

 悪の大魔王一味を何とか撃退して(親方様はだいぶ手加減してくれてたけど)泉に辿り着いた僕たちは、そこに不自然に設置してあった宝箱から宝物……セカイイチを回収して、ギルドに帰還した。
 泉は本当ならポケモンが進化できるところらしいんだけど、僕やロサはできないみたい。何でだろうね?

 で、それを持ち帰って親方様に渡すと(他の皆はちょっと煤けてたけど親方様だけは元気そうだった。ちょっと悔しい)、ギルドの中はお祭りムードでいっぱいになった。
 いつの間に用意していたのか、いつもよりずっと豪華な料理や飾り付けられた食堂。気がつけばギルドの仲間たち以外にもトレジャータウンの皆もやってきては僕たちに祝福の言葉を掛けていく。

「……用意周到だな」
「だね」

 多分僕が試練の前に合格するって確信してたみたいに、皆も僕らが合格するって思ってたんじゃないかな。じゃなきゃこんな急にパーティーみたいなことできないもんね。

 大体皆にお祝いされた後、ロサは弟子の皆一匹一匹にチーゴの実とオレンの実を渡しに行っていた。……やりすぎたって自覚はあったみたい。最後には笑って話してたから、気まずくなることもないんじゃないかな。
 もっとも、皆だってロサの悪癖は知ってたし……そもそも普段がお淑やかじゃない子だから、ロサと戦うってなった時点で覚悟はしてたと思うけどね。
 ……あの性格は元々人間の男の子だったから、っていうのを皆は知らない。僕だけが知ってるロサの秘密だったりする。ちょっと優越感ね。


 僕が料理に舌鼓を打っている間にロサの方はお詫び周りを終えたらしく、他の探検隊と談話しながら料理に手を付け始めたみたいだ。かく言う僕も先輩探検家の話を聞いたり、ギルドの弟子の皆と別れを惜しんだりしている。
 その流れで何度かお酒を進められたんだけど……あんまり好きじゃないんだよね。すぐに気持ち悪くなっちゃうから。
 今も半ば押し付けられたカクテルみたいなのをどうしようか悩んでるんだけど……誰かにあげようかなぁ。

「――りーくー」
「おわ、っと……ロサ?」
「へへへー……りくー」

 後ろから衝撃。いつの間にか戻ってきたロサが僕にもたれ掛かってきたみたいなんだけど……何か様子がおかしい。
 ひとまずグラスをテーブルに置いて、改めてロサを受け止めると、ロサはその赤い毛の顔をなお紅く染めてへらへら笑っている。どうも酔っ払っているみたいだ。
 そういえばロサがお酒を飲んでるところは見たことなかったけど……下戸だったんだね。

「りくー、飲んでるかぁ?」
「飲んでないよ」
「おれはなー、飲んでるぞー」
「見れば分かるよ」
「だろー」

 酔っ払い方が厄介なおじさんのそれなんだけど、ロサがニコニコして楽しそうだから、まあ、いっか。
 何気なく頭の毛から耳にかけて撫でてみると、気持ちよさそうに目を細めて、もっと撫でろと言わんばかりに進んで押し付けてくる。僕も進化してないとそんなに大きくないけど、今のロサには小動物的な可愛さがある。ビロードみたいなサラサラの毛並みが僕にも心地良い。
 周りの皆はロサのあまりの豹変に驚いてるけど、いつもと違うロサの一面を発見できたのは収穫だったかなぁ。


 宴もたけなわ。
 そろそろお開きかな、といったところで、ススロが連絡をしてきた。
 なんでも、ギルドを卒業する、ということだから、どこか別の拠点があった方がいいということ。どこか宛はあるかと聞かれて、サメハダ岩の僕の家がいいかなってことになった。ロサとは話し合ってない(というかロサが碌に会話できる状態じゃない)けど、彼女が行ったことのある場所はつまり僕も行ったことがある場所なので、多分異論も出ないかなと思う。それでも一応後で確認はするけどね。

 で、もう今晩から移住することになって、今はすっかり潰れたロサを背負ってサメハダ岩までやってきたところだ。未だ三つ用意してあるベッドを見て、この前まで一緒にいたルティオハの姿を想起してちょっと寂しくなっちゃった。
 ここも久しぶりなようで案外頻繁に使ってるなぁ……。

「りくー?」
「……ん。何でもないよ」
「へへ、そっかそっか」

 背中のロサは猫撫で声を出し僕に身体を全部預けてきている。……そうだ、ロサが戻ってきてくれたんだから、ルティオハや未来の皆も生きてるはずだよね。
 案外時渡りで遊びに来てくれたりするかもしれないし……寂しがってる場合じゃないね。その時過去世界が期待外れにならないように明日からも頑張らなきゃ。

「……さて。ちょっと片付けちゃうから先に寝てて」

 僕は決意を新たにしながらロサを下ろした。んだけど、ロサから反応がない。
 寝ちゃったかな、と思って振り返ると……急にロサは僕をベッドに押し倒した。

「ちょ、ちょっと……」
「へへ……二人っきりだぞーりくー」

 先程よりいくらか色を含んだ声で囁かれ、抵抗の余地なく下半身に血が集まっていくのを感じる。
 ……そりゃ僕だって雄だし! 好きな雌にこんな甘い声でこんなこと言われたら意識するよ! 興奮するとも! 特に今のロサはとろんと蕩けた表情だし、酔ってるからかいつもより甘えてくるし……率直に言ってすごく色っぽい。エロい。
 でも、だからって、暖簾分けされて独立した当日に盛るのは……いくらなんでも節操がないと言うか……。

「いいじゃんかよぉ、折角俺と俺の勇者さまがいっぱしの探検隊だって認められたんだぜ? 身内祝いもあって然るべきだよなぁ?」

 子供みたいに頭を擦り付けて甘えるロサ。マーキングするかのように僕の胸板を堪能すると、次は僕の顔をのぞき込んでそのまま口を近付けてきた。
 もう何度も繰り返した口づけ。いくらやっても飽きないのは……やっぱり大好きだからなのかな?

「ん……ふへ……」
「む……ん……?」

 キスの最中にロサの口角が上がった。ご満悦っていうより……照れてるみたい?
 それにキスしてもあんまりアルコール臭がしなかったし……これは……もしかして?

「……ねぇ」
「んー? なんだぁ?」
「ホントに酔ってる?」
「……酔ってるぜ?」

 ダウト。ちょっと間があったし。それに視線を逸した。ロサが嘘をつくときはいつも視線を逸らすんだ。根がいい子だから罪悪感があるのか、ロサは嘘をつくのが下手だし。
 じっとりとした目で顔を覗き込んでやると、ロサは気まずそうに目を伏せた。

「……最初は本当に酔ってたんだぞ?」
「いつから醒めてたの?」
「パーティが終わったあたり……かな」

 そこまでして僕に甘えたかった、というのが何ともいじらしくて、呆れるより先に愛しさが出てきた。ロサの額にそっとキスしてあげると、それも恥ずかしかったのか顔を赤く染めてまた目を逸らしてしまった。
 ……僕の嫁が可愛い。

「別に酔ってなくたって甘えてくれていいんだよ?」
「そりゃあ……ちっと恥ずかしいっつうか、照れるしな……?」
「照れてるロサも可愛いからいくらでも見たいんだけど」
「こいつめ」

 恥ずかし紛れに脇腹が小突かれる。くすぐったさに身をよじると、それが面白かったのか続けて何度も小突いてくる。勘弁して。
 しばらく続けているとやがてロサが照れ笑いからいたずらっぽい笑いになった。うん、やっぱりロサはこっちの方が似合ってるなぁ。

「……ほんとにいくらでも甘えてくれていいからね」
「……そうさせてもらうよ。俺の勇者さま」

 僕らは穏やかな顔で微笑み合って、どちらからともなく軽い口づけをして、今夜はこのまま抱き合って寝ることにした。片付けはまた明日、だね。
 ……あ、そうだ。

「できれば、甘えるのは二匹だけの時にしてね」

 可愛いロサは僕だけのものにしときたいし。
 そういうとロサは一瞬呆気にとられたような顔をして、何やら唸り声のようなものを上げて、一層強く抱きついてきた。

「うー……そういうとこだぞ、リク!」
「え、何?」
「うるせぇ! こっちは嬉しいやら恥ずかしいやらで困ってんだよ! あとそういうのはちんこ鎮めてから言え!」
「ひあっ!?」

 ロサの尻尾が僕のモノを擦った。……そういえば元気になったままだった! 締まらないなぁ……。
 ロサはツンとした顔でもう目を閉じてしまった。……けど、僕の太ももに触れてる“そこ”が少しずつ湿ってきていて……うん。

「……やっぱりもうちょっと起きとく?」
「……ふん」

 肯定はなかったけど、ロサは顔を背けたまま身体を委ねてきた。六本の尻尾が僕の身体に絡められる。
 ……そういう素直じゃない所も好きだよ、ロサ。


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Last-modified: 2020-10-10 (土) 22:05:39
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