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あかいろあおいろ、しろとくろ

/あかいろあおいろ、しろとくろ

作者 → 夏雪草

Notice:この小説には官能表現が含まれます。また、性転換♂→♀、それに伴う精神的BLの要素を含んでいます。苦手な方はご注意下さい。

最後に、この小説は「ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊」を基にしたお話となっています。原作をプレイしておられない方はネタバレにご注意下さい。







 
 もし神なるものがいるなら、そいつは相当性格が悪いか、あるいは致命的なドジっ子なんだろう。


 俺は男だ。人間の。至って普通の……かどうかは記憶に靄がかかっててよく覚えてないが、少なくとも人間であったことは間違いないし、男でもあった、はずだ。
 それなのに、どうして俺は赤い毛のポケモン、ロコンになって、見知らぬ砂浜で体を検める羽目になっているんだろうか。
 その上どうして、その結果股間にあるべきはずの突起物が無く、代わりに一筋の割れ目が入っていることに気付いてしまったんだろうか。
 記憶がはっきりしないことより、見知らぬ場所で目が覚めたことより、それら何よりも俺は神とやらに文句を言いたい。

 なんで! 俺は! 雌のロコンになってんだよぉ!!





 叫んだところで状況は変わらない。俺は依然としてロコンのままだし、男のシンボルが生えてくることもない。
 あまりに信じられなくて、もしやこれは爬虫類なんかに見られるスリットというやつなんじゃねぇかと、つまり俺の相棒にして愛棒は体内にすっぽり収まっているだけなんじゃないかと疑ったのだが、どうにか覗き込んで見たところその“穴”はどうも奥まで続いているらしく、しかもその割れ目の上部にはとても男性器とはかけ離れた小さな突起があるとなれば、もう認めるしかないだろう。
 割れ目に穴が二つ目視できることも確認してしまった。つまり尿道がその突起にはなく……やめておこう。今それを考えると埒が明かないし、何の解決にも繋がらなさそうだ。
 ……雌の体ってこうなってんだなぁ、とちょっとドキドキ。


 女の身体になったことは一旦置いておこう。後で絶対に掘り返すが、とりあえず今は別のことも考えよう。

 ロコンになったことだが、なんとか歩行することはできた。何故ロコンになっているのかは全く分からないし、目覚めてから数時間、未だに慣れはしないものの、ぎこちなくとも走ることくらいはできそうだった。
 ただ尻尾が六本もあるとどうしても重心が後ろに引かれがちで、なるほどこれを重力に任せて自然に垂らしていたら動きづらい。記憶にあるようなないようなロコンの立ち姿は常に尻尾を立てていたが、そういう理由だったのだろうかと一人結論付けた。問題解決になんの影響ももたらさない結論だった。くそぅ。

 次に記憶が曖昧なことだ。俗に言う記憶喪失ってやつだろうか。
 どうして人間の男だったことは覚えているのか不思議ではあるが、逆に一切の記憶を失う方が記憶喪失には珍しいと『知っている』。つまり、歩き方や一般的な物の名前など、生活に根ざした記憶は失われづらいという「知識」はある。逆に「思い出」は忘れられやすいのではないだろうか。
 今の俺は、経験した「思い出」は忘れてしまったものの、体に染み付いた基本的な知識は失われていない、という状態だろう。
 そしてその知識は人間の男として得たものなので……つまりはまあ、今の俺にとってあまりにも違和感のあるものなので、その部分だけは辛うじて思い出せた、ということではないだろうか。と、一応の結論を出しておく。
 これもまた現状の整理だけで問題解決にも環境向上にも役立たなかった。チクショウ。

 最後に見知らぬ場所で目を覚ましたことについて。これについてはあまり考えずとも答えが出そうだ。
 ここは砂浜。大方、船に乗るか海沿いの崖に登るかしていたところ、海に転落し、ここまで流されて来たのだろう。そのどこで人間からロコンに変化してしまったのかは定かではないし、その原理も理由も分かったもんじゃない。
 そして地理なんか見ただけで分かるはずもなく、そもそも地図を覚えてなどいない。これまたなんの役にも立たない考察だった。くそったれめ。


 いい加減実入りのある結論がほしい。建設的なことを考えよう。すなわち、これからどうするか。

 最終的には記憶を取り戻して男に戻りたい。欲を言えば人間にも戻りたいが、最悪ロコンのままでもいいから雄になりたい。股間に何もないのは落ち着かないし、胸も多少膨らんでいる……気がするのが癪だ。つーかこれふくにゅ……いや、やめておこう。
 体の記憶と実際の身体の乖離はストレスだが、心と身体の乖離も著しくストレスだ。むしろそっちの方が精神衛生上キツい。
 だから思い出せるだけ思い出して、元の姿に戻りたい。

 そのためにはまず生活をどうにかしないといけない。この辺りの文明度も気になるし、ロコンというポケモンが注目される度合いも気になる。
 それを知るためにはまず原住民にあたる人間かポケモンかと話がしたいのだが……いきなりそれをするのはリスキーだろうか。
 初対面の相手を善人だと思い込むのはちょっと難しい。だからしばらくは遠くから見るだけにしたいのだが……いつまでそうすればいいんだ?
 自分と話していない相手が自分にとって善人だと? どうやって判断する? いつまで様子を窺う?
 そもそもこの辺りに俺以外の生物はいるのか――?

 ……駄目だ。考えすぎて頭が痛い。もしかしたらストレスで頭痛が起きてるのかもしれないが、とにかく痛い。
 眠気もやってきた。不用心だが、少し、寝てしまおうか……。
 起きたら……元に戻ってたり……しねぇかなぁ……。



「ねぇ、起きて……起きてったら」

 誰かの声で目を覚した。聞きなれない声だ。
 ぼんやりとする頭を動かしながら、声の主を仰ぎ見た。
 青と黒の体毛、二足歩行のそいつは……リオル。
 ……リオルが喋ってる?

「あっ、目が覚めた? よかったー……もしや死んじゃってるんじゃないかって心配しちゃった」
「あんたは……」

 自然と会話しようとして、リオルの話している言葉が理解できることに驚き、そこでやっと自分が今どうなっているかを思い出した。そうだった、俺、雌のロコンになってるんだった。
 起きても何も変わっていなかったことに落ち込む俺を気にした様子もなく、リオルは話し続けた。

「僕? 僕はリクニス。リクって呼んで。君は?」
「俺は……」
「……おれ?」

 リクニスというらしいリオルが首を傾げるが、俺は言葉を続けられなかった。名前を思い出せないのだ。
 っかしーなぁ……俺、そんなに自分の名前に頓着なかったのかな……。

「……ちょっといろいろあって、思い出せないんだ。名前」
「えっ……と……教えてくれない、って訳じゃないんだよね?」
「ああ、正真正銘思い出せないんだ。多分記憶喪失ってやつだと思う」
「それ、大変じゃないか! よく落ち着いてるね!?」
「落ち着いてるっつーか、もう取り乱した後っつーか……」

 ……話してる限りじゃ、このリオルはそんなに悪いやつじゃあなさそうだと思う。少なくとも、悪意を持って俺を起こした訳じゃなさそうだ。
 つーかなんであんなに原住民に警戒してたのに無防備に寝こけてたんだよ俺! よっぽどパニックだったのか、それともストレスが天元突破してたのか。

「……とりあえず、名前がないと不便だよね?」
「ああ、そうだな……何か適当に付けてくれるか?」
「僕が? 自分で考えなくていいの?」
「ちょっと俺も混乱してるから碌な案が出てこない……」

 半分嘘だ。確かに混乱はしてるし、碌な案も出てこないが、こいつに任せれば目立たないこの辺り風の名前になるだろう。
 あと……多分記憶を失う前の俺にはネーミングセンスっつーもんが無さそうだし。

 しかし俺は一つ失念していたのだ。例え俺は俺自身が男だと知っていても、初対面のこのリオルにとっては俺は雌のロコンであることを。

「うーん……じゃあ、ロサ。ロサでどう?」

 ロサ、ロサか……。

「……随分可愛らしい名前だな」
「駄目だった? 女の子らしい名前だと思ったんだけど……」

 そう。こいつは、名前を忘れた憐れな「雌のロコン」の名前を考えていたのだ。
 そしてそれにまつわる複雑な事情を伝えるには悪目立ちしすぎるし、信憑性もないだろうから……。

「いや、今はそれでいいよ。改めて、俺はロサ。よろしくな、リク」

 今は頷くことにした。
 ……ま、悪い名前でもないだろうし。リオル――リクの純真な満面の笑みを見ると、それくらい我慢してもいいだろうと、自然とそう思えた。




 リクには色んなことを聞いた。記憶喪失ということは伝えていたから、そこまで違和感は持たれずに済んだと思う。

 この辺りに人間は住んでいないようだった。驚くべきことにポケモンが人間のように街を築いて生活しているらしい。
 自分の記憶では人間はそんなに希少種ではなかったような気がするのだが、ロコンに変身するなんていう不可解な現象が起こっている以上、もうよっぽどのことでは驚かなくなってきた。

 そして彼らの生活の一部として探検隊という職業が存在すること、その探検隊は不思議のダンジョンと呼ばれる迷宮を冒険するものであることも聞けた。
 そしてリクはその探検隊に憧れているらしい。目を輝かせてそう語ってくれた。
 しかしどうも彼はちょっとばかり臆病者らしく、その探検隊になるための弟子入りに踏ん切りがつかないと言う。まあ、彼らの感覚がどうかは分からないが、人生を大きく左右する決断に迷うのは当たり前なんじゃないか、とも思う。

「じっくり考えてもいいんじゃないのか?」
「いや、その……なりたいのは山々なんだけど、その弟子入り先がちょっと不気味というか……得体が知れないんだよね」
「そんな所に弟子入りするのか?」
「だって……プクリンのギルドは超一流って有名だし……」
「ふぅん……ま、リクが心から弟子入りしたいって思うなら応援するぜ」
「ありがとう……ロサと話してると欲しい言葉ばっかり出てくるや」

 へへ、とリクは笑った。
 身分を偽ってる……というか本当の事を言ってないだけだけど、それでも隠してる罪悪感があって、俺は曖昧に笑って視線を逸した。


 ふと、視界の端に何か動くものを見かけた。ニヤニヤと口を歪めてやってくるのは……ズバットとドガース?

「なあ、あいつらはリクの知り合いか?」
「え? あいつらって――のわっ!」
「うわっ」

 リクがちょうど振り返ったその時、そいつらは明らかにわざとリクにぶつかった。いっそそれは体当たりと言っても差し支えないだろう。
 リクはつんのめって俺も巻き込んで倒れ込む。俺を下敷きにする形で二人とも押し倒されたのだ。くそ、支え切れなかった。
 あの様子ではどうも悪意がありそうだ。現にリクは押された拍子に何か落としたみたいだし、そいつらはそれを器用にも拾い上げた。

「……何のつもりだ?」
「へへっ……見りゃ分かるだろ? 落とし物を拾っただけさ」
「ま、誰のか分かんねぇからオレたちが貰うけどな」

 ……小悪党だ。いっそ珍しいほどの小悪党っぷりに感嘆する。もちろん皮肉だ。
 俺としては恩人のリクに手を出したこいつらをぶん殴ってやりたいんだが、それは不慣れな四足歩行の身体と上に乗ったままのリクが許してくれない。
 小悪党二人組は逃げ足早くそのまま海岸沿いの洞窟へ消えていってしまった。

「……おい、リク!」
「やわ……え、あ、何!?」
「お前のもの、あの二人に盗まれちまったぞ!」
「えぇっ……あ、無い! そんな! どうしよう!?」

 リクはおろおろするばかりで立ち尽くしている。
 ……なるほど、ちょっとばかり臆病者だってのは本当らしい。
 色々教えてもらった恩もあるし、それっくらいは手助けしてやるか。

「もちろんあいつらから取り返すんだよ! ……俺も手伝うから、行こう!」
「……う、うん! ちょっと怖いけど、頑張る!」
「よく言った!」

 勇気を出したリクの手を引いて、俺たちは海岸沿いの洞窟へと向かった。
 これが俺たちの初めての冒険だった。



 慣れない身体での冒険は非常にストレスで、ポケモンの技など使い方が分かる訳も勿論無く、正直なところ俺の存在はどちらかといえば足手まといだったと思う。
 特にこの洞窟――海岸の洞窟というダンジョンには水タイプや岩タイプのポケモンが多く、何故か襲い掛かってくるポケモンから身を守るのにも一苦労だった。その度にリクが前に出て庇ってくれたり追い払ってくれたりして、さっきまで狼狽えるばかりだった姿とは打って変わって頼もしい一面が伺えた。
 それでいて何も言わないリクの存在が、申し訳なくもありがたいとひしひし感じた。


 そして今、洞窟の最奥部にて、例の二人組が目の前に倒れ伏している。もちろん俺も手助けしたが、主に戦ったのはリクだ。
 多分こいつは最初の一歩を踏み出せないだけで、本当は勇気があるヤツなんだろうな、と思う。

「さ、さあ、負けたんだから大人しく返してくれるよね」
「ケッ……こんなもんくれてやるよ」
「何か珍しいもんかと思えば、ただの石っころだったしな……いてて」

 好き勝手なことを言ってリクに何かを投げ渡し、そいつらは逃げ去って行った。へへ、いい気味だ。
 リクは取り戻したそれを念入りにチェックして、ほっと一息ついた。

「よかったぁ……どこも壊れてないや」
「よかったなぁ、ちゃんと取り戻せて」
「それもこれもロサのお陰だよ! ほんっとうにありがとう!」
「いや、俺は何もしてないだろ。頑張ったのはリクだ」
「んーん。ロサに連れてきてもらってなかったら、僕絶対にまだ海岸で落ち込んでたよ」

 そうだろうか? 一度踏ん切りをつけたらリクは一人でも立ち上がったとは思うが……。
 そこまで言ってもらえるなら、まあ受け取っておくかな……。


 一応ここも危険なダンジョンの中だから早く出よう、と言うので、満足げなリクと共に洞窟から脱出する。
 ……なりゆきで手伝っちゃったけど、感謝されて悪い気はしないから、まあ、いいか。
 それより自分はこれからどうしようかな……。日が沈みかけた砂浜を歩きながら考える。いつの間にか四足歩行にもすっかり慣れちまったなぁ……。

「ふぅ……結構長く潜ってたね。僕、不思議のダンジョンに入ったの初めてだったからドキドキしたよ……」
「俺だって……つーか、なーんも覚えてないからある意味初めてだらけなんだよな、俺」
「確かに……やっぱり不安?」
「まあそこそこな……でも、リクが助けてくれてるから、今はそんなに不安ってことでもないぜ」

 実際戦ってたのはほとんどリクだったし。そんな後ろめたさもあってそう伝えると、リクはちょっと驚いた様子でしばらく固まった。
 ……何故?

「あ、あー……うん、あんまりそういうことって言わない方がいいかもね……?」
「……うん?」
「何でもない! ……ロサは凄いね。雄の僕よりよっぽど勇気があるし」

 雄。……雄の僕より。
 リクが何気ないように言った言葉が改めて俺に現実を思い出させる。そういや俺、雌になったんだった……。すっかり忘れてリクと話し込んでたなぁ。

 ……リクになら、本当のこと、教えてもいいかなぁ。今日一日一緒にいたけど、こいつ良い奴っぽいし、信用できそうだしな……。

「……あの、さ。そのことなんだけど」
「なぁに?」

 俺はちょっと深刻な顔をしていたらしい。小首をかしげて心配そうにこちらを見るリクに、どう伝えようかちょっと迷う。

「その、俺。一つだけ覚えてることがあってさ」
「そうなの!? なんにも覚えてないって言ってたのに」
「いやぁ、ちょっと言いづらくて、さ」

 いざ言おうと思うと難しいな……。
 あー、もっと早く言えばよかった……長引くと余計言いづらくなるよな。
 ちょっと深呼吸……。

 ……よし。

「俺、多分、人間の男だったはずなんだよ」
「……うん?」
「いやだから、人間の、男。ロコンじゃなく、もっと言えば雌でもなかった、と思う」
「ちょ、ちょっと待って……え?」

 目を瞬かせてリクは戸惑った様子を見せる。
 まあそうだよな、俺だって未だに信じられねーもん。

 どう収集付けっかなぁ……。
 空を仰ぎ見て、ピィピィ鳴きながら飛ぶキャモメの群れを見ながら、ポケモンになってもあの声は聞き取れねぇんだなぁ、なんて取り留めのないことを考えた。




「え、えーっと……結局ロサは……雄の、ヒトだった、ってこと……?」
「うん。俺だって実感ねーけど、今の俺は……雌のロコン、だよな?」
「うん、どっからどう見ても可愛いロコンの女の子だよ」
「そうだよなぁ……確かに身体も雌のもんになってんだよな……でも、確かに俺は人間で、男だったはずなんだよ。……やっぱ信じられねぇよな?」

 しばらくしてリクは硬直から復帰したものの、やはり信じられない様子だ。そりゃそうだ。
 あーくそ、やっぱ言わねー方がよかったかな……。ちょっと後悔してきた。
 多分人間だったときもこんな風に後悔してばっかだったんだろうな……。

 そもそも本当に俺、人間だったのかな……。確かそうだったと思うんだけど、ここにきて自分がいまいち信じられなくなってきた……。
 変な妄言を吐いてるって思われたかな……。心臓の鼓動が早くなる。目眩もしてきた……。

「わ、悪ぃ。やっぱ忘れて……」
「……ううん、信じるよ」
「……ぇ」

 リクが俺の手を取る。
 自分の体温より冷たいのに、何故か暖かく感じる。

「ロサは僕を励ましてくれたよね。そのお陰で僕、勇気付けられたし、落ち着いて……こう、安心できたんだ。……今度は僕の番だよね」
「リク……」
「そりゃ驚いたけどさ。別にロサがヒトでもロコンでも、雄でも雌でも、僕を助けてくれたことには変わりないし。……つまりまあ、気にしないから、そんな不安そうな顔しないで。ね?」
「……俺、そんな変な顔してるか?」
「正直ここだけ見たら雄だって言われても説得力ないぐらいには」

 そう言いながらリクは俺の目尻を拭った。濡れているらしい。
 こんな程度で涙を流すなんて女々しい、とも思うが、どうにも抑えきれなかった。

「……反則だろ。そういうのはちゃんとした雌とかにしてやれよ……」
「いーの。どーせ僕に女友達なんていないし……それに、今はロサを励ましてあげたい気分なの」
「へへ……ありがと、な」
「いえいえ」

 それからもうしばらくだけリクの胸に顔を埋めて、ようやく落ち着いた。
 どうやら俺は無意識のうちに過剰なほど怖がっていたらしい。今思うとちょっと動揺しすぎだったかなーとも思う。
 そして恐らくここが、俺のリクへの依存の始まりだったんだと思う。




 リクに事情を打ち明けてからしばらくして。

「じゃあ、雄の子だと思って話した方がいいのかな?」
「そうしてくれると助かる。……あと、できれば他言無用で」
「多分話しても信じてもらえなさそうだけどねー……もちろん秘密にしとくよ」

 砂浜に座りながらそんな話をしていると、海岸にシャボン玉のような泡がいくつも飛んでいった。
 付近に住むクラブたちが泡を飛ばしているらしく、それはそれは綺麗で……見惚れる風景となっていた。

「……ここ、いいな」
「でしょ? 僕のお気に入りの場所なんだ」
「……うん、いい。凄く……いい」

 日の沈む水平線がやけに綺麗に見えて、思わずまたうるっときたが、今度は何とか抑える。流石にこれ以上ぼろぼろ泣くのも恥ずかしいし。

 そしてその風景も移ろい、次第に泡の数が減っていく。クラブが住処に戻っていくのだろう。
 太陽もほとんど沈みきり、あたりは薄暗くなってきた。

 びゅう、と少し冷たい風が吹いた。
 少し体が震え……そこで、今まですっかり忘れていた感覚を思い出した。
 ……思い出して、しまった。

「……あ、あの、さ。すっげー変なこと聞くけど……さ」
「うん?」
「……ポケモンって、トイレ、どうしてんの?」
「……え?」

 そうだよな、ポケモンも生き物だもんな……出すもん出すよな。特に俺、さっきダンジョンの水飲んだし……。
 うわ、意識したら急に尿意が増してきた。股間を締めて尿意に耐える。

「その、漏れそうだから……」
「えっと……と、とりあえずそっちの茂みで!」

 ……いわく、基本的には住処としている家にトイレ的なスペースがあるらしいが、ちょっと我慢できそうにない時は茂みなりなんなりで済ませるらしい。オブラートに包まず言うと野ションだな。
 海岸の木々が繁茂しているところへ急いで行って、よかった間に合いそうだと一息ついて、ふと気付く。

「り、リクーっ!」
「今度は何!?」
「その……雌ってどうやって出すか、分かるか……!?」
「……なっ」

 そう。雌の、つまり女のトイレの仕方なんて分かるはずもなく、ましてや四足歩行の種族のそれなどやり方が分かる訳もない。
 尿意はもはや限界なのに、出し方が分からない……!?

「そ、そんなこと聞かないでよ! 知らないよ!」
「じゃあフォーム! フォームは!?」
「フォーム!? 姿勢ってこと!? ええと……す、座って……?」
「座るってどう!?」
「ああああああもう!!」

 サクサクとリクがこっちにくる音が聞こえる。
 やがて俺のいる茂みに分け入ってくると、俺の腰を押して地面に下げた。
 ……ぁ。

「た、多分、こう! ……あれ」
「……」
「……その、えっと」
「……ありがとう。よーく分かった。出し方もよく分かった。知ってたか? 雄って力を入れてションベンするだろ? 雌は力を抜いて出すらしいぜ。たった今身を持って理解した」
「……」
「……」

 ……………………。

「あー……まあ……漏らしは……しなかった……から……」

 立ち込める独特な匂い。
 饒舌に話して誤魔化してた水音はもうしていない。
 発散による開放感と、それを塗りつぶす羞恥心。

「……」
「……」

 ……しにたい。




 まあ、つとめて客観的に、俺の主観と感情を一切省いて言うなら、俺は放尿を見られた、と、そういう訳で。……ああ、増々死にたくなってきた。
 で、俺がどう考えたかといえば、気にしないように、つまりは、どういうことにすれば気にならない、何でもないことにできるか、ということで。
 このまま気まずいのもよろしくないので、気を遣って後ろを向いてるリクに声をかける。

「そのー……次からは上手くやるよ……な?」
「そ、そう、だね」
「まあ……男友達……雄友達? だし……? ……つまり、俺も気にしないようにするから、そっちも忘れてくれると嬉しい、かな」
「わ、分かった」

 どうも生返事のリクに近づくと、リクは露骨にびくりと肩を震わせ、身体も視線も逸らす。
 ……き、気まずい。

「えっと……それで……」
「そ、その、さ! とりあえず、海岸の方に戻らない……?」
「そ、そうだな! そうしよう!」

 リクに促されるまま、さっきまで風景を眺めていたところへ戻る。
 漂っていたアンモニア臭は薄れ、潮の香りと、嗅いだことのないほんのりナマっぽい臭いがする。
 俺が意識をそらすために嗅覚に集中している間も、リクはずっと俺から顔と体を背けていた。

「……そんなに顔背けられると話しづらいんだけど」
「い、いや、別に、嫌いになったとかそういう訳じゃなくて……」
「じゃあ何で……?」

 純粋な疑問で尋ねてみると、リクは至極言いたくなさそうに逡巡し、言い淀みに言い淀みを重ねた末に、慎重に言葉を連ねた。

「あの、ね。ロサが雄だったって前提で話すけどね」
「ああ」
「その、雄なら分かってくれると思うんだけど……」

 尚も言いづらそうにするリク。そしてゆっくりとこちらに振り向く。
 ……股間を手で隠しつつ。

 ……あー。あれだ。暴れん棒の聞かん棒。どうやらリクの相棒がこんにちはしているらしい。微かにするナマっぽい臭いってもしかしてこれか?
 そっかー。そうだよな。ポケモンのナニも勃起するよな。んでもちろんそんなの制御できるわけねーよな。うん。
 しっかし、リクが勃起してる原因は……まあ、うん。俺だよな。

 つまり、リクは男の放尿で興奮する性質だ、と。

「違うから! ロサ、今自分が雌だって忘れてない!? 雌がおしっこしてるとこ見せられて興奮しない雄がいるとでも!?」
「お、おう……すまん?」

 あまりの剣幕に思わず謝ってしまった。
 しっかし、人間の感覚からすると流石に全ての男が小便で興奮するとは思えないんだが……と考えて、そういえばポケモンの尿には性フェロモンが多く含まれていたような……と思い当たる。

「……もしかして、ポケモンってみんなしょんべんで興奮する?」
「当たり前でしょ! 悪い!? 雌の濃い匂いに興奮しちゃ悪い!?」
「いや、悪ぃ悪ぃ。人間はしょんべんじゃ興奮しねぇ……あーいや、する奴も多分いるだろうけど、少なくとも俺はしねぇ質だったからさ」
「人間はどうだか知らないけどさ! 目の前でマーキングするのは交尾に誘ってるのと同じだから!」
「そっかそっか、悪かったな」
「ほんとだよ、もう!」

 リクは再び背中を向けて座り込んでしまった。さっきからお互い気まずい思いをしていたが、俺が単純に粗相して申し訳なかったのに対し、リクは見た目だけでも異性の奴にエロい誘惑されて困惑していたらしい。
 それにしても悪いことしたな。無意識とはいえ、人間で例えると善意100%の少年に胸を押し付けたり股間チラ見せしたりするようなことをしてたってことなんだろうし。
 どうすっかなー……。俺のせいで禁欲させんのも可哀想だよなぁ。同じ男だ、その辛さは分かるしなぁ……。

 もぞもぞと落ち着かないリク。海が凪いで潮風が収まり、より濃く感じられるナマの匂い……まあつまり、リクの男根の匂い。
 別にいい香りだとは微塵も思わねぇけど……ま、ポケモンがどんな風に“する”のか、ちょっくら興味はあるわな。

 ……ま、別に減るもんでもねぇし。

「なあ、手伝ってやろうか」
「なっ、はぁっ!?」

 俺はリクの背中に飛び乗り、素っ頓狂な声も気にせず後ろから彼のモノに触れた。




「おっ、結構立派なもん持ってんじゃねぇか」
「ひぅっ……放してよっ」
「まーまー、俺に任せとけって」

 くにくにとリクのモノを弄ぶ。多分何度も自分のを扱いているはずなのに予想以上に熱く感じるのは何でなんだろうな。
 人間のより長く、太さも中々だし、ガッチガチに固まってる。この根本の膨らんでるのが亀頭球って奴だろうか。先端が三角形になっていて、見方によれば剣みたいにも見える。柄があって、柄頭に睾丸、鍔が亀頭球でそこから剣身、みたいな。この剣身の部分が全部亀頭なんだっけか? 確かに体毛から露出して肉の色してるもんな。
 それにどうやら骨も通っているらしい。こんな風に勃起する前に雌に挿入できるように、だったか。
 ……なんでそんなこと知ってるんだろう、俺。人間だった時にそんな研究でもしてたんかね?
 ま、リクの男根を扱うのに役立ってるからどうだっていいけどな。

「いい、いいから!」
「俺が原因でそうなってんだろ? 責任取って処理してやるよ」
「処理って……くぁっ……ちょっ、それだめ……んんっ」
「はは、女みたいな声出してら」

 優しく、されどリズミカルに。
 ピクピクしてるし、リクも感じてくれてるみたいだし、いい感じかね。

 リクはぐったりとしてもう抵抗もしなさそうなので、正面に移動して直接そのご立派様を拝む。思った以上に人間の性器と違っててちょっと面白いな。
 すっかり息を荒げて顔を紅潮させたリクと、再び触られるのを今か今かと待ち望みヒクヒクするそのムスコ。
 上目遣い気味にリクがこちらを見やる。その目は先程の恥じらいばかりの色ではない。
 ……男に扱かれてちゃ嫌かな、とか一瞬考えたんだけどな。なんだ、結構乗り気じゃねぇか。

「……っ」
「我慢しなくていいからな。思う存分楽しめよ。良かったな、男の技術持ってる女に扱かれるなんてまず無ぇ経験だぞ?」

 そう軽口を叩きながら、俺は改めてリクのモノを眺めた。先端に先走り液がぷくりと主張し、今か今かと吐精の瞬間を待ち望んでいる。
 ……ま、減るもんじゃねぇし。あまりに人間のと見た目が違いすぎて逆にちょっと抵抗あっけど……今更だよな。
 俺はそっとリクの陰茎を口に含んだ。

「うあぁ……それやばい……」

 へへ……俺、ポケモンになってポケモンのちんこ舐めてら。
 こっちは口いっぱいにモノを咥えているので喋れないのだが、気持ちよさそうにしてくれているので、まあ覚悟を決めた甲斐はあったかな。
 先端からは濃い男の……雄の匂いがするし、ちょっとしょっぱいかな、とは思うが、一度口に含んでしまえばさして抵抗感も生まれなかった。むしろ興奮してドキドキと胸が高鳴っている。至近距離で雄の匂いを嗅いでいるからだろうか? 股間がさっきの尿以外で濡れてきているのを感じる。
 疼く“そこ”を内股になって刺激しつつ、リクへの口淫は止めない。舌で全体的に絡めるように、あるいは締め付けるように。時折口を離して、入り切らなかった根元付近も舐めてやる。

 大きく舐め上げて陰茎が一つ跳ね上がったのを切っ掛けに再び口に含む。すっかり楽しんで……というよりは愉しんでいるが、あくまでこれはリクを悦ばせるためである。あくまで俺の愉悦は後回しだ。
 ……そう、後回しにしているとはいえ、俺は確かに愉悦を感じている。男性器を口に咥える行為もまるで抵抗がなくなってしまっていた。雌になった故の思考の変化だろうか?
 もしかしたら、リクが俺の尿で欲情したように、俺もリクの性器の匂いで発情させられているのかもしれない。

 すっかり頭がクラクラしてきた所で、いい加減息苦しくもなっていたので小休止がてら大きく息継ぎをした。
 股間と下腹部の疼きは増々大きくなっている。ちらりと見てみれば、俺の股間は謎の液体でぐっしょりと湿り、その発生源をくっきりと浮き上がらせていた。考えるまでもなく愛液だろう。もはや小便など薄れ、流れきっていた。脚に伝う水滴に、ああ、俺は本当に雌なんだな、と今更ながら実感する。

 そしてその実感とともに、ひくひくと小刻みに痙攣する“そこ”への好奇心も湧いてきたのだ。

「……んっ」

 “そこ”――恥丘へそっと前脚を伸ばすと、思った以上に敏感になっているようで、少し触れただけで頭に電撃が走ったような快感が生まれた。
 男の快楽とはまた違ったベクトルの、濃密で直接的な快感。
 まるで穢れを知らないピンクなのは……そりゃそうだ。排泄すらさっき初めて行ったばかりなのに、ましてやその付近を弄るなど、刺激が強いに決まっている。
 しかし尚、この快楽には抗いがたい……前脚がくちゅくちゅと水音をあげる。

 そしてその淫らな音に混じり、ごくり、と音が聞こえた。
 はっと顔を上げると、そこには目を怖いほど据え、変わらず紅潮した顔でこちらを見つめるリクの姿があった。しまった、リクそっちのけで自分だけ愉しんでしまった。
 リクは俺の肩に触れると、そっと俺を仰向けに倒す。

「リク……?」
「ここまでしといて、寸止めなんて酷いよ……」
「わ、わり……んっ」

 謝ろうとした口が塞がれる。リクの青と黒の顔が視界を埋め尽くす。
 突然のことで理解が遅れた。リクは俺に唇を重ねてきたのだ。
 ただのフレンチキスだが、俺の思考を止め、そしてお互いの箍を外すには十分だった。数秒の口づけの後、俺たちは示し合わせたように再び口付けた。

「はむ……んっ……」
「ふ……ちゅ……んくっ……」

 今度はフレンチキスに留まらない。そんなもので満足できない。お互いにお互いの口中へ舌を潜り込ませる。リクの唾液。リクの味。リクも同じように俺を味わっているのだろうか?
 俺がむしゃぶるように舌を絡ませるのに対抗するようにリクは口中を舐ってくる。脳髄に直接届く水音が酷く淫らで、俺たちはお互いを求め合うように抱き合った。
 腕が、胸が、鼻が、口が、舌が、身体が、そして精神が触れ合っているのが、酷く心地よかった。

「んっ……ぷはっ」
「ふあっ……はぁ……はぁ……」

 もうどれだけそうしていただろう。かなり長い間だったようにも、ほんの数秒だったようにも思える。舌も疲れ、息も限界になったあたりでようやく俺たちは接吻を終えた。
 すっかり辺りは暗くなってきたが、人間だった頃より夜目が利くのか、リクの姿はくっきりと見えていた。

 息は荒く、目はどことなく虚ろで、しかし考えていることはその視線と勇ましく屹立した男根が如実に表現している。見えているのに、期待しているのか、身体が金縛りにあったかのように動かない。
 リクのその手が、すっかり濡れそぼった俺の股間に、伸びる。

「……ひぁっ!」

 甲高い声が聞こえた。否、俺の口から甲高い声が漏れたのだ。
 自分で触った時よりずっと強い快感。絶えず供給される、操作できない快感に、思わず身をよじる。しかしその程度では誤魔化しえない。身体が固まり、腰が浮く。
 リクは片手で俺を抑え、もう片手で俺の恥丘を弄る。なぞり、撫で、開く。すぅ、と風の通る感覚が鮮烈に伝わる。
 もはや抗う気も堪える余地も恥じらう気持ちもなく、俺は脚を大きく開いてリクにすべてを委ねていた。

「んっ……あぁっ……っんうぅ!」
「ロサっ……いいよね……!」
「いいっ、いいよっ、リクっ」

 ようやく愛撫の手が止まる。これまでの刺激で理性は薄れ、ほとんど本能のままリクを呼ぶ。
 喘ぎ続けていた口から涎が垂れるが気にしてなどいられなかった。
 リクのモノが、もう我慢ならないと先走り液を砂浜に滴らせ、そして俺の秘部に添えられた。熱い。そして愛おしい。

 リクが確認するように見つめてきたので、俺は小さく頷いた。

「……いくよ」
「ああ……んっ……」

 お互いの最も敏感な部分が触れる。リクは自らの男根に俺の愛液を擦り付けるように一つ往復させた。
 それから秘所をかき分け、“そこ”に先端を合わせ、そして一呼吸おいてから、ゆっくりと、腰を沈めた。

「んぐ……ぅ……ロサの中、ヌルヌルしてて気持ちいいよ……」
「はぁっ……はぁっ……」

 熱い。熱い。
 煮えたぎるような、それでいて心地の良い熱棒が、じゅぷじゅぷといやらしい水音を立てながら蜜と肉を穿って入ってくる。
 強い異物感は興奮で打ち消される。じんわりとした快感がとめどなく流れる。
 そして、ゆっくりと亀頭球が押し込まれ、ぬるりと包み込んだところで、丁度モノの先端が奥まで達し、リクの進行が止まった。お互いの腹と腹が密着する。
 苦しさはほとんどなく、むしろ欠けたものがぴったりと収まったようで、言い表しようのない喜びのようなものが俺の脳内を満たす。


「はっ……はっ……」
「ロサ……きつくない? 大丈夫?」
「大丈夫……むしろ、嬉しいんだよ……リクと繋がれて」
「僕もだよ……」
「んっ……」

 互いに顔を見合わせて、示し合わせた訳でもないが、どちらからともなく再び唇を重ねた。上でも下でも繋がって、身体も絡めて、今本当に一つになっているという実感に感動すら覚える。

 少しするとリクの方から口を離す。息も鼓動も荒くなる一方で、頭が沸騰したように考えが纏らない。

「……動くよ」
「ああ……好きに動いていいぜ……あんっ」

 いい加減我慢の限界なのか、リクは切なそうな顔で言い、俺が返すやいなや腰を大きく振り始める。その必死な様子が愛おしい。

 リクが腰を引くたび、亀頭球が引っかかって強い刺激を生む。
 リクが腰を入れるたび、ナカと擦れて、抉られて、奥に当たって、強い快感を生む。
 男だった時は想像もできなかった快感に、思わず声が漏れ、腰が浮く。

「ひぅっ、はぅっ、んぅっ」
「ふっ……くっ……ロサ……可愛い……」
「んんっ……あ、あんまっ、そんなことっ、言うなよぉ……」

 強がってみせるが、あられもない嬌声を聞かれ続けていると思うと急激に恥ずかしくなってくる。感じている時の顔も隠したいくらいなのだが、そんなことをするとリクの愛しい顔が見えない。
 ……まさかリクも、自分も可愛らしい声を出しながら心底気持ちよさそうな淫らな顔をしているとは思うまい。
 これまで誰にも見せたことのないだろう、恍惚に満ちたこのリクの顔は、出会って一日にも満たない俺だけのものだ。そう考えると誇らしいし、もっと独占したくなる。

 快楽の波がじわじわと上がっていく。男だったときは一瞬で過ぎた快感が、女だとずっと残って消えない。蓄積され続けていつまでも気持ちいい。

 そしてもう幾度目か分からないぐらいリクが腰を沈めた時、リクのモノが一度大きくぴくりと跳ねた。限界が近いらしい。

「くぅっ……ロサ、僕、もうっ……!」
「いいぞ……思う存分……んんっ!」

 リクの腰の動きが一層大きくなる。もちろんそれによって生み出される快感は相当なもので、一瞬頭が真っ白になった。
 俺の脇腹、骨盤にあたる部分を支えにして、最後にリクは今までで一番大きく腰を突き出した。

「ロサっ……ロサっ!」
「うぁっ……」

 俺のナカの奥深くで、リクの鼓動に合わせてモノが規則的に跳ね、そしてその先端から熱い液体が放出されるのを感じる。リクは目をぎゅっと閉じ、全神経を動員して吐精していた。その欲望を受け止めるのが、ひどく心地よい。
 ああ……俺、本当に『女』になっちまったんだな……。

 自分で自身の下腹部を擦ってみる。内蔵だらけで柔らかい腹だったが、股間から中央にかけてはリクのモノが入っているのが分かる硬さだった。びくびくと痙攣し、存分に精を放っている。

 と、恍惚と愉悦に浸っていたのだが、ふと違和感を覚えた。びゅくびゅくと吐精され、しばらくするとまたびゅくびゅくと精が吐かれる。もう数十秒にもなろうに、射精が終わる様子はない。
 ……長くね? しかも多くね?

「リ、リク……?」
「ふぅぅ……なぁに?」
「まだ出るのか……?」
「出るよ? ……あれ、もしかしてニンゲンと違う? 僕の仲間って大体こんな感じだと思うけど……」

 ……マジで?
 いや、そうか。リオルとか、ガーディなんかのポケモンは一分前後射精するんだっけか。それから別の分泌液も出すみたいなことも言ってた気がするし……。

「……ちなみに、後どれくらい?」
「えー……言うのもちょっと恥ずかしいんだけど……一匹で済ませた時は二十分くらいだったかな」
「にじゅっぷん」

 ……多分それはかなり長い方だと思うぞ!
 今でも十分大量に出してるのに? これをあと二十分?

 ……無理無理無理無理! 溢れる! 裂ける!
 確かに今この瞬間はこれ以上なく幸せを感じてるけど! これを二十分は死ぬって!

「さて……」
「ひゃうっ!? な、何やってんだよ!?」

 俺が必死にどうやって逃れようか考えだした辺りで、リクが唐突に俺の胸部を弄り始めた。くすぐったさと仄かな快感で変な声を上げてしまったのが恥ずかしい。

「ずっとこうしてるだけってのも暇じゃない。せっかくだし、ロサももうちょっと愉しまない?」
「い、いや、もう十分……んんんっ!」

 しかもこいつ腰の動きまで再開しやがった。射精しながらピストンとか、こいつのちんこどうなってんだよ!
 的確に俺がよがるところを刺激してくる。少し収まっていた火照りが急に復活し、快楽の波が押し寄せる。

「んぁ……ふっ……んんっ……あんっ」
「あー……これやばい……出してるのにまた出そう」

 じゃあやめろよぉ!!
 抗議の視線を送るもリクはどこ吹く風。助けてやった恩を忘れたか! とつまらないことばかり考えるが、気持ちいいのは事実。
 別のこと考えないと気持ちよすぎて頭トびそう……。抗いきれない快感がじりじりと迫ってくる。

「ふぁ……あああっ!?」

 一際強い快感に視界がぱちぱちする。何が起こったのか分からず呆然としたが、どうやらリクが俺の股間……もっと言えば陰核、クリトリスをつついたらしかった。
 強すぎる快感に大声を出した俺をリクがこれまた呆然とした様子で見て……その口角が上がるのを確かに俺は見た。

「まっ、待て、それやばいんだって、マジで……」
「ふーん……気持ちいいの?」
「……気持ちいい。でも気持ちよすぎて怖いんだよぉ……」

 ここで強がると碌なことにならない予感がしたので素直に頷いておく。
 するとリクはさっきより純粋に笑って、俺の下腹部をぽん、と軽く撫でた。

「ごめんごめん。気持ちよさそうなロサが可愛いからさ」
「可愛いっつったって嬉しくねぇんだよなぁ……俺が男だってこと、忘れてないか?」
「今はロコンの雌でしょ。それに……この気持ちはロサが雄でも雌でも変わらないよ」
「……はぁぁ。ずりぃよ、それ」

 そういうこと何で真顔で言えっかなぁ……。
 そんなこと言われたらさぁ……嬉しくない訳ねぇじゃんかよ……文句も言えねぇよ……。

「……散々して、しかも出してる途中に言うのもほんとナンだと思うけどさ……好きだよ」
「……まーじでちんこビクビクさせながら言う言葉じゃねぇよな、それ……会って一日の奴に軽々とそんなこと言うなよなぁ」
「先に手ぇ出してきたのはロサだかんね」
「そうだっけか」
「そうだよ」

 そう言われて今日の出来事を思い返してみる。
 そういや俺がリクのモノを扱き始めたのが始まりだっけ……いや、その前にリクが勃起してたから……俺が半ば漏らしたみたいになった小便で。
 ……あー。嫌なこと思い出しちまった。あれは男だろうが女だろうが忘れたい出来事だったよなぁ……。今更ながら恥ずかしくなってきた。

「……それで、ロサは?」

 はにかみながらそう尋ねてくるリク。こいつは俺のことが好き。俺は……。
 決まっている。決まっているが……終始こいつの思う通りにされるのも癪だ。だから……。

「……言わせたいなら、俺を最後まで愉しませてくれよ。身体預けてやるから、さ」

 強がってそう嘯いてやった。恥ずかしさに顔が紅潮するのが分かって、何となくそっぽを向く。
 視界の端に映るリクの顔は、にへら、と笑っていた。

「ロサはいじっぱりだねぇ」
「うっせ。お前も雌になったら分かるぞ」

 何せずっと股間にモノを挿れられ続けてるからな。被征服感が強くて、強がってないと一気に服従しそうになる。
 それはそれでリクを信頼しているからいい気もするが、今はまだその時じゃあない。
 リクは不思議そうな顔をしていたが、そういうものなのかな、と呟いて俺を満足させることに集中することにしたらしい。

「じゃあ……いくよ?」
「ああ……んっ」

 リクは初めは小さく、そして次第に大きく腰を動かし始めた。更にさっきと同じように胸も刺激してきた。陰核は俺が懇願したからか触らないらしい。
 ゆっくり、じっくりモノが移動する。かと思えば不意に大きく動いて奥を小突かれる。時折射精のためびくんと跳ねる。気持ちよくない訳がない。
 しかもリクはおもむろに胸へ顔を寄せ、矯めつ眇めつ見つめていたかと思えば、なんとその先端に口をつけ赤子の様に吸い付いてきたのだ。
 股間からは抗えない大海のような快感。胸からはピリピリとした擽ったさも覚える快感。
 あー……頭が白くなってきた。

「ひぁ……ああっ……あんっ!」
「ちゅ……んっ……ロサ……」
「ああっ、リクっ、リクぅっ!」

 快楽のボルテージが上がり続ける。腹の奥底から何かがこみ上げてくるのが分かる。
 とどめとばかりにリクが腰の動きを早め、奥を何度も何度も突いたのをきっかけに、その何かが急に上り詰めてきて、脚と手の自由を奪っていく。脳に電撃が走ったような、纏まった大きな快楽が押し寄せてくる。

「あっ、ふあぁっ! 好きっ! リクっ! すきぃっ!」
「ロサっ、僕も大好きだよっ!」
「すきっ! だいすきっ! りくぅっ!」

 気付けば口が勝手に動いていた。腕と脚とでぎゅっとリクを抱え込む。その時、いきなり奔流に巻き込まれたような、溜まっていた快楽が弾け飛んできたような、これまでで一番大きい快感が俺を襲った。
 俺は目も固く閉じ顔も縮こまらせてこの悦楽の爆発を耐えきった。
 視界がパチパチして焦点が定まらない。脳に霧が掛かったようにうまく思考できない。
 ただぼんやりと、ああ、俺は女として絶頂したのだな、と思った。

「ロサ……大丈夫?」
「ふぁ……は……」

 目の前に愛しい顔がある。
 俺はほとんど何も考えずそいつに口づけをした。
 そいつも……リクも、何も言わず俺のキスに応じた。
 もう何度目かも分からない接吻をしながら、俺の瞼は閉じていったのだった。




 目の裏を照らすような光と波打つ砂浜の音が俺の意識を引き上げた。
 身体中に違和感を覚えながら目を開ける。光に違わぬ日の出の時刻、音に違わぬ砂浜、隣でまどろむリオル……と、彼を視界に入れてようやく昨日の出来事を思い出した。
 ああ……俺は、雌のロコンになって、リオルのリクに助けてもらって、そしてリクと……。

 激しい情事を思い出して赤面しながら何気なく身体を見てみると、元より白みがかっていた腹部の体毛に数カ所殊更白い部分が目に入った。朱色の体毛も一部白く染められている。具体的には股間から腹部、それから内股。
 何で染められているかは……言うまでもないだろうが。抜けた後もまだ出したのが掛かったのか、はたまた俺の股間から溢れだしたのか。

 隣で可愛らしい寝息をたてる青と黒のポケモンを見て、俺は何とも言いづらいが、温かい、面映い、温かい、面映ゆい、それでいて心地よい感情にすっかり包まれる。
 きっとこれを愛だとか恋だとか言うのだろう。……散々やることやった後なのでちょっと清々しさとはかけ離れているが。



 この時はまさか彼と一緒に世界を巡る冒険をするとは思ってもみなかった。
 探検隊を結成し、未開の地へ探索に出かけたり……。
 ポケモンたちを助け、感謝されて嬉しかったり……。
 暗黒の世界で、お互いに支え合ったり……。
 消滅の危機に瀕して、最後の最後まで泣いて別れを惜しんだり。
 再会できて、一層愛を育んだり。

 観光地かと思えば過酷な山登りだったりもしたし、凍える島で氷漬けになりかけもした。
 海の底で卵を見つけて育てたりした時は、自分たちの卵だったら、なんて考えたっけ。

 それから、それから……すべての元凶を倒して。
 ほんのちょっとだけ、俺をこの姿にしたあいつに感謝もしたりして。
 それからしばらくして……俺は探検隊を休業することになる。
 何故かって? あの時の妄想が実現する日が来たからだ。産休だよ産休!
 むしろよく今までできなかったなと思うが、いやはや授かりものと言うべきか、世界が平和になった途端にぽろっとできやがった。当時は自分が卵を産むという現実にちょっとだけ打ちのめされたりもしたが、今は俺の腹から出てくるのを今か今かと待ち望む日々だ。そんできっと、卵から孵ってくれる時も同じように待ち望むんだろう。その時のことを考えると、今からでもわくわくする。


 俺は、覚えている中でも、そしてきっと忘れてしまった記憶を含めても、一番幸せな気持ちで、もう一つの命が宿った腹を撫でるのだった。




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  • はじめまして。
    まず大会優勝おめでとうございます。
    所謂性転換ものですが、意識は人間の男のままというギャップはとても良かったです。
    ロサとリクの関係も円満なようでいつ彼? 彼女? が母性に目覚めるのか今後の展開も想像できて、最後の最後まで楽しめました。
    これからも是非執筆を頑張ってください。 -- COM
  • >COM様
    反応が遅れて申し訳ありません! 見落としておりました。コメントありがとうございます、励みになります。
    当方の性癖を詰め込んだような作品でしたが、お楽しみいただけたなら幸いです。
    これからもどうぞお付き合いくださいね。 -- 夏雪草
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Last-modified: 2020-06-03 (水) 03:30:10
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