当作品は、ユキザサさんの作品「昨日の敵は」を前提としメイン二人のその後を妄想しました三次創作です。独自解釈が含まれます。
この度掲載許可を下さりましたユキザサさんに、この場をお借りして感謝を述べさせて頂きます。誠にありがとうございました。
こう、お二人、いいものです。
・追記
ユキザサさんにより、「昨日の敵は」の直系の続編である「魔法のメロディ」が公開されました。
この物語はそちらを汲んではおりませんが、時系列的にはそちらの更に後のお話となります。
木陰から盗み見る先には、二つの後ろ姿が、並び、歩いている。
心中穏やかではなかった。
一つは、アシレーヌさん。私の敬愛するポケモン。尾先の鰭を地面に立てて、前鰭と合わせた三足で歩いている。束ねられた綺麗な髪が、歩む動きと共に揺れ動き、視線を引く。
もう一つは、それより幾回りか小さい姿。チルタリスさん。羽毛の翼は畳んだまま、小さな二本足で歩いている。長い冠羽を後ろに流し、歩む動きと共に宙で靡かせている。
青と白を基調とする二つの姿は、遠目に見る分には、親子のように見えもするかもしれない。
何を言っているのかは聞き取れないけれど、二人で会話していて、楽しそうにしている。
木々の隙間へと隠れてしまう前に、私は、その後を静かに
これは、悪いこと。
ほんのり、そう思いながらも、静まらない感情が私を囃し続ける。
あの二人の接点は、歌唱大会の有力者、ということ。
チルタリスさんは、この森では非常によく知られている。私も古くから知っている。
一年に一度の音楽祭、その中の歌唱大会で例年優勝を飾っているポケモン。
音楽祭に興味のないポケモンでさえ、殆どが、青い身体と綿毛の翼を持ったその姿を認識しているほどである。
対するアシレーヌさんは、彼は、ほんの数年前から突如姿を現すようになって、歌唱大会で上位に食い込むようになった。
謎はあるし、チルタリスさんほど誰もが知っているわけでもないけれど、音楽祭に関心のあるポケモンの殆どは彼も認識しているし、目に見える人気具合で言えば、寧ろ彼女を上回っていてもおかしくなさそう。――そう、世間的には、アシレーヌさんはチルタリスさんの好敵手。
広く親しまれるチルタリスさんの歌に対して、アシレーヌさんの歌は、局所的に熱狂を巻き起こすもの。私も、それに飲まれたひとり。
そして、十八番とする歌の調子はそれほど似ていないはずなのだけれど、前回の歌唱大会では、どういった経緯があったのか、そんな二人がペアを組み優勝を飾っている。
――チルタリスさんが得意とする歌で。
興味深いけれど、それに関しては素直に喜べない私がいる。
チルタリスさんのことも嫌いではない……はずなんだけれど、それでも私は、アシレーヌさんのファン。一目見た時から彼を愛してやまない身。
彼女が彼を利用したんじゃないか、とか、そんなことも考えはする。
うん、その時の歌は本当に素敵なものだったけれど、だけど。
――仕方のない嫉妬。
そう分かってはいるのだけれど、私の受け入れられない部分が、その行く先を静かに追い続けた。
小高い丘まで来て、木々のない開けた場所で、二人が歩みを止めた。
風が吹く。さらさらと木々の葉っぱが声を上げる中、アシレーヌさんの髪とチルタリスさんの冠羽が軽く絡まる。
チルタリスさんは、少しだけ、周囲へと視線を散らした。周囲の様子を伺った。
私には気付いていなかった。
これから何かを歌おうとしていることは何となく察しがついた。あまり聞かれたくないのだろう。練習中の歌なのかもしれない。
でもチルタリスさんの透き通った歌声は、よく通るから、近くに誰もいなかったとしても、森じゅうに響き渡る。言ってやりたい――その警戒は、無意味だよ、って。
あるいは、アシレーヌさんもそう思ったのかもしれない。そんな様子を彼が横目で見つめたまま、小さく口を開き、何かを呟くと、チルタリスさんは露骨に"肩を落と"す。でも、数瞬後には姿勢を正して――多分、覚悟を決めた。
周囲の葉っぱ達が揺れ、さざめいて、落ち着く。空気が僅かに震えて、だけど、心地よさそうに静まり返る。
漂うのは、この森でとても親しまれる綺麗な歌声。少し憎く、それでも認めざるをえないし、私だってよく親しんでいる歌声。
だけど、いつものチルタリスさんの歌より、ずっと俗っぽい歌。アシレーヌさんの歌によく似た調子の、相手を絞ったもの。
まるで、アシレーヌさんの気を引くかのような――ううん、"かのような"ではない、違う。これは明らかに、アシレーヌさん一人に向けられたもの。
こんな歌も歌えるんだ。さすが。
そして、アシレーヌさんのかっこいい姿と綺麗な声を称えるものとしては、違和感がある。
明るい調子の端々に、感情を覆い隠して誤魔化すかのような、婉曲的なものが少しずつ付随している。
相手のちっぽけな姿を言い表す歌。自らの弱々しい姿を曝け出す歌。ともすれば、寂しさに飲み込まれてしまいそうなもの。
互いの存在を確認し合うかのようなもの。
これを声にできるチルタリスさんは――何だろう? アシレーヌさんの――何?
好敵手?
相方?
多分、今日のために作った歌。まるで、恋歌。
……恋人?
……何、これって、もしかして、デート?
歌の相談ごととか、そういうのでなくて?
――歌が終わっても、森の中には何の音も出てこなかった。
思い出したかのように、唐突に風が吹き、葉っぱが揺れる。普段通りの森が戻ってくるのは暫く経った後のこと。
チルタリスさんが、隣の彼を見上げて、小さく呟いて、そして、視線を逸らすかのように頭を落とす。
――バカじゃないの。
たまに見るチルタリスさんの姿は、もっと堂々としている印象があった。だけど、あれは――まるで子供みたいな――。
アシレーヌさんの片鰭が、その頭に乗せられる。軽く、撫でている。チルタリスさんを宥めるかのように。
そして、そのまま、もう片方の鰭も――こっちは彼女の後ろ首に添えて――軽く、軽くだけれど、抱き締めている?
――そっか。
アシレーヌさんが、チルタリスさんを撫でながら、口を開く。何かを呟いている。
もう見ていられない。……少なくとも気持ちの整理が必要。
私は視線を背け、身を翻し、歩みを進める。戻ろう。
うん、まさか私如きが彼に敵うか、なんて、思ってもいない。そういう意味では、チルタリスさんは、あなたは、すごく、お似合いだよ。
ただ確かなのは、彼の本意なら応援したいし――今度の歌唱大会でどんな歌が飛び出すのか、彼だけじゃない、彼女も、すごく、楽しみだな、って。
――なんだか、雨に降られたい気分。
木漏れ日の差す森の上は、殆ど雲のない快晴で、だから、きっと、彼らにとっては素敵なことだよ。
複雑な心持ちだけれど、これも、まぁ、悪くはない……かもね。
・後書きとして
本編中で、二人が勝負以外で一緒に歌う、というのは、アシレーヌさんがチルタリスさんに追いついた時、と言及されています。それは果たしてどのような光景になるのでしょうか、妄想するに、とても素敵なものですし、何ならそこまでの過程も素敵なものに違いありません。見てみたいです。そんな一幕の発露でした。
しかし、何より、チルタリスさんとアシレーヌさんの関係が眩しくて尊くて素敵です。素敵です!!
このような素敵なペアをお生みしてくださったユキザサさんありがとうございました!!!!!!!!!!
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