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郵便配達員は二度少女に出会う の変更点


#author("2023-10-08T09:31:47+00:00","","")
※この作品は「プロットスワップ」企画への参加作品です。
※他の作者様のプロットをベースに執筆しています。
※企画のルール上全年齢対象にはしてますが戦闘描写濃いめです


written by [[慧斗]]

#hr

プロット原題:街で出会った、郵便配達員さん


*郵便配達員は二度少女に出会う [#d156ed4e]




7月19日
 今日は図書室で「ニンゲン」という生き物の登場する本を借りて読みました。
 ニンゲンというのは体が平均的なポケモンの大きさなのに力が弱く、木の葉の一枚も自力では出せないコイキングよりも弱い生き物ですが、とても頭が良くて手先も器用なのでその惑星では他の生き物よりも強い力を持っていたそうです。
 その本の中ではニンゲンは自らの手で起こしてしまったあらゆる問題を解決するために惑星ごと「だいばくはつ」を使って解決するという変な終わり方でしたが、ポケモンのような力もないのに私たちの住む世界みたいな高度な文化を構築できたのは素直にすごいと思いました。


「でもこの本じゃ宿題の読書感想文書きづらそうだし、明日別の本借りて来ようかな?」
 ここまで日記を書き終えてオリーニョは日記帳を棚に戻した。
 彼女の名はレビーナ、絵を描くのが好きなオリーニョで小さな田舎の村にある学校に通っている。
 通っているとは言っても明後日から夏休みなので、彼女の頭の中は9割夏休みに関することで埋め尽くされているのは言うまでもない。
「よし、明日は終業式だからそろそろ寝なきゃ!」
 ベッドサイドのランプを消すと、窓から星明かりがうっすらと差し込んでいた。


「行ってきます!」
 レビーナが登校すると登校中のみんなは夏休み前で浮かれ気分だった。
 校門を通り過ぎたレビーナにチュリネが話しかけて来る。
「レビーナ、夏休みはどこか行く予定あるの?」
「今のところ旅行の予定はないかな、オリーアはどこか行くの?」
「私は裏山へ一週間のキャンプに行くんだ!」
「それいいね!でもオリーアの家って裏山の近くじゃなかった?」
「お父さんケチだから庭にテント出すだけなんだよね…」
「あはは…」
 クラスメイトのオリーアは彼女なりに苦労しているらしい。
「でも夏休みらしいことできるだけいいんじゃないかな?私も夏休みらしいことしてみたいな…」
「旅行行ったらいいんじゃない?やっぱり休みが多い時に行くのが一番だから…」
 チャイムがなり始めたので会話を終わろうとすると校門手前の下り坂を大慌てのヌメラが必死に向かってくる。
「あーあ、オーリオは今日も遅刻か…」
 諦めた様子のオリーアを横目にゴロンダが校門を閉め始める。
「ガワラオニ先生が校門閉めるまでに入れないと遅刻扱いで放課後掃除ラリーに、ってレビーナどうしたの?」
「オーリオ、そこの大きな葉っぱを一枚取って上に乗って!」
「レビーナ、何するの?」
「そんなことしてたら間に合わないよ!」
「いいから早く!」
 レビーナの真剣な様子を見たオーリオは半信半疑で葉っぱを一枚取ってその上に乗る。
「よーし、今だ!」
 レビーナが技を使うと坂に草が生い茂り、坂の途中で葉っぱに乗っていたオーリオは葉っぱのソリで勢い良く滑り降り、閉まりかけた校門をくぐり抜けて校庭で止まった。

「やった、遅刻せずに間に合った!」
「グラスフィールドで坂に芝生を作ってソリすべりで間に合わせるなんて、流石優等生は違うわね」
「私バトル苦手だから優等生じゃないけど、とにかくオーリオが間に合って良かった!」
「本当にありがとう、この前も宿題の“てだすけ”してくれたりレビーナにはいつも助けてもらってばかりだね…」
「気にしないで、それより早く教室行こう!」


「レビーナ、美術のアンディ先生が呼んでるから放課後美術室に行ってくれるか?」
 ガワラオニ先生に言われ、終業式が終わってすぐに美術室のドアを開けた。
 キャンバスを立てかけたイーゼルに向かって一匹のドーブルが尻尾を振るっていた。
「アンディ先生、どうかしたんですか?」
「レビーナさん、貴方にお伝えするいいニュースがあったんですよ」
 そう言ってアンディ先生はイーゼルの傍の机に置いてあった封筒をレビーナに渡す。
「先生、これは?」
「招待状ですよ、貴方の絵が飾られるアデルパ美術館の」
「私の絵が、一体どういうことですか⁉」
「簡単な話です。この前の授業で貴方が描いた絵がアデルパジュニアコンクールで最優秀賞を獲得したので、夏休みの期間中記念に展示されるんです」
「本当に⁉私の絵がアデルパジュニアコンクールで最優秀賞を⁉」
「ええ、ここにご両親の分も合わせて3枚の招待券が来ています。夏季休暇の間に行ってみてはどうですか?」
「ありがとうございます、先生!」
「こちらこそおめでとうございます、よい休暇を!」
 封筒を大事に抱きかかえてレビーナは家路を急いだ。


「なるほど、レビーナをアデルパジュニアコンクールで最優秀賞を取ったのか!」
「レビーナは本当に絵が上手だものね!」
 夕食のテーブルで2匹のオリーヴァがレビーナに渡された封筒の中身を読んでいた。

「ファルガ父さんもアルベキーナ母さんも三匹揃って晩御飯なんて久しぶりで嬉しい!でもアデルパにある美術館だからちょっと遠いよね…」
「確かに飛行機を使っても行って帰って来るには4~5日はかかるだろうからな」
「レビーナに一匹で行ってらっしゃいと言うのも心配だし…」
「だよね、二匹とも遅くまで仕事で忙しいよね…」

「だから夏季休暇に家族みんなでアデルパへ旅行しよう!」
「えっ本当に⁉」
「正直父さんたちも働きづめでリフレッシュしたくてな、旅行に行くことも検討してたんだ」
「そこにレビーナが最優秀賞を取ったって聞いたからちょうど良かったの」
「そんな訳で父さんと母さんは明日色々と予約してくるからレビーナは早めに荷造り始めておくんだぞ!」
「うん!」


7月20日
 今日は私の絵がアデルパジュニアコンクールで最優秀賞を取ったとアンディ先生から聞きました!
 アデルパは飛行機で何時間もかかるほど遠い街ですが、父さんと母さんの都合もあって行くことができるようになりました!
 初めてのアデルパに初めての大きな都会、そして私の絵が飾られた美術館…!
 今からエキサイトして心が踊っています!
 日記はアデルパでも書くつもりですが、時差があったら日付はどうしよう?



 それから数日後、ついにレビーナは高鳴る心が導く場所、アデルパに到着していた。
「ついにアデルパに来たんだ!早速美術館に行かなきゃ!」
「レビーナ、気持ちは分かるけど空港から美術館までは結構あるのよ?」
「そうだな、時間はたっぷりあるしまずはホテルに荷物置いてから考えような」
「うん、美術館が一番だけどホテルも楽しみ…!」
 入国審査を終えて荷物を受け取った一家はホテルに向かうため、空港のタクシー乗り場に歩いて行った。


「すまんレビーナ、こんな遅くになってしまった…」
「私たちとしたことがアデルパのお金に換金するのを忘れてタクシーに乗っちゃうなんて…」
「イキリンコのドライバーさん大声でせかしてくるから怖かったよ…」
 アデルパの通貨への換金を忘れたままタクシーに乗ってしまい、ホテルまで来て料金を支払う時になって初めてそのことに気づいたのだった。
 幸いホテルの近くに換金サービスのある銀行があって助かったが、換金できる場所を探して走り回ったファルガもタクシーの中でイキリンコにせかされていたアルベキーナとレビーナも、全員ホテルのベッドにダイブしてそのまま動けなくなってしまった。

「今日は美術館行く時間ないけど街を観光したりとか、する…?」
「zzz…」
「いっておいで、すゃぁ…」
「こんな時ぐらいゆっくり寝たいよね、ちょっと観光に出かけてきます」
 風邪をひかないようにシーツをかけてあげてから、レビーナはそっと部屋を出てエレベーターのボタンを押した。


「これがアデルパの街なんだ!写真で見たよりも建物がいっぱいで夢みたい…!」
 タクシーの中ではじっくり見ている余裕なんてなかったが、ホテルの周りは旅行のパンフレットで見たような建物がずらりと並んだ街並みになっていた。
「すごい、どの建物も同じような見た目に見える…!」
 思わず建物を見ながらアデルパの街並みを歩いて行く。
アデルパで暮らすポケモンにとっては建物一つ一つの違いもある程度は区別できるが、レビーナの目には同じような建物に見えている。
そんな状態でレビーナは楽しくなって街並みを走っていると、
「あれ、ここはどこ?」
 …迷子になるのは言うまでもない。

「ホテルはどっちだろう?名前は覚えてるけど場所までは覚えてないから…」
 ホテルの場所も帰り道も分からず、下手に動けばもっと迷子になりそうな状況。
「電話やお金もないから連絡を取ったりタクシーも乗れないし、地面にグラスフィールドは使えるけど今使ってもどうにもならないし、どうしよう…」
 困り果てて建物の上に広がるダークグレーの空を見上げていると、近くから蹄の音が聞えて来た。

 ダンジョンの調査団員のような大きなカバンを斜めにかけて、一匹の年老いたゴーゴートが歩いてきた。
(今頼れるのはこのポケモンしかいない…!)
「あの…!」
「わざわざ呼び止めてなんだ?」
 すがる思いで声をかけたレビーナだったが、ゴーゴートは素っ気なく返して来た。
「この辺りにPAMOSANってホテルありませんか?」
「“いつも床の隙間まで汚れてないかwatch”ってキャッチコピーの一流ホテルだな、確かにアデルパにはあるが、わざわざ聞くほどのことか?」
 “時間の無駄だ”とでも言いたげな表情でゴーゴートは立ち去ろうとしている。
「…私迷子になってしまって、そのホテルに帰りたいんです」
「なるほどな、気の毒だが迷子の配達はやってないんだ」
「そんな…」
「だが、大サービスで道順ぐらいは教えてやるから1回でよく聞くんだ」
 そう言ってゴーゴートは蹄でレビーナの背中側に続く道をさす。
「その道をしばらく進んで二つ目の交差点を右、そのまま直進して左側に赤いポストが見えたら左、そこを真っ直ぐ行くと交番がある」
「…交番?道案内してくれるんじゃ…?」
「警官のいる建物だが知らんのか?とりあえず交番まできたらT字路になってるからそこを左の突き当りにホテルがある」
「…ありがとうございます!」
 警察に聞けと言われたような気がして困惑したレビーナだったが、ゴーゴートはホテルまでの道順を伝えて行ってしまった。

「…なんだか不思議なゴーゴートだったけど、教えてくれた道順で行ってみようかな?」
 教えてもらった通りに二つ目の交差点を右に曲がってしばらく進むと左側に赤いポストのある建物があった。その角の左側の道を覗き込むと本当に交番らしき建物が立っている。
「不思議なゴーゴートだったけど、悪いポケモンじゃないのかも?」
交番のあるT字路をレビーナは左に曲がって走り出した

「ちょっと気難しい感じのゴーゴート?それはクシコスさんかな」
 ようやく戻って来られたホテルのロビーでスタッフのイエッサンにゴーゴートのことを聞いてみると色々教えてくれた。
・郵便配達員をしているおじいさん
・郵便配達員はみんなの大切な手紙や荷物を配達、運搬する仕事
・ずっと昔から配達員をしているけどおじいさんになった今でも現役で配達している
 簡単にまとめるとこんな感じのことを、話してくれた。

「気難しいけど仕事熱心で地元のポケモンからは信頼されてるんです。まぁ昔は気難しくはなかったらしいんですが過去に色々あったとか…」
「そうなんですか…」
「お客様、そろそろディナーの開始時刻なので良かったらご家族の方と合流してどうぞ。今日はビュッフェにパエリアも並ぶんですよ!」
 ちょうどエレベーターが開いてガルーラの親子が降りてきた。レビーナもそのエレベーターに乗って両親を起こして夕食を取ることにした。


7月23日
 今日は不思議なゴーゴートのおじいさんに出会いました。
 クシコスという名前の郵便配達員さんで、迷子になってしまった私にホテルまでの道を教えてくれました。
 ちゃんとお礼を言えなかったけど、アデルパにいるうちに会ってお礼を言いたいです。
 幸い紙と画材もあります、明日までに間に合うかな…


7月24日
 ついに美術館に行くことできました!
 「ゴースのキマワリ」の中の一枚や教科書でも見かけた「ピカチュウのミカルゲ」などの名画の間に並んで私の絵が飾られているなんて本当に夢みたいでした!
 パンフレットも特別に私の絵を紹介してくれていたし幸せいっぱいでした!

 クシコスさんは今日は見かけていません。今日はお休みかもしれないので明日探してみます。


7月25日
 今日は隣のルブーテシティまで足を伸ばしてオリーブ収穫祭を見てきました。
 大きなオリーブを転がしてカゴに入れるサッカーやラグビーみたいなスポーツの試合も白熱して楽しかったです。

 クシコスさんには今日も会えていません。普段はこの辺りで配達していないのかもしれません。


7月26日
 今日も観光しながら探していましたがクシコスさんには会えませんでした。
 明後日には帰ってしまうのでそれまでにお礼を言いたいな…




 念願の美術館を訪れて、数々の名画の中に自分の絵が並んでいるという喜びを噛み締めたり、家族そろってのアデルパ観光を楽しんでいたのだが、レビーナはクシコスに出会うことが出来なかった。

 そして、ついに最終日の前日になってしまった。


 レビーナは朝から日に日にテンションが下がって来ているのを感じていた。
 カフェで朝ごはんを食べながらぼんやり眺める街の景色もあるべきものがそこにないような物足りなさを感じてしまう。

(来てすぐの頃はこんなじゃなかったのに…)

「レビーナ、レビーナ!」
「…はい!どうしたの?」
「このところずっとぼんやりしてるけど大丈夫か?」
「ちょっと疲れてるならホテルで休む?」
「別に疲れてはないけど…」
 ホテルで休んでいたらそれこそクシコスさんを探し出すことができなくなる。
 ここはポケ捜し中だとバレないようにしながら観光するしかない。

「ちょっと奥さん、あのニュース聞いた?」
「そうなのよ、この辺りで悪質ないたずらが立て続けに起こってて何匹か病院送りになったんですってね」
「怖いわよね。でも、主に狙われてるのは年老いたポケモンばかりらしいわよ?」
「だったら私たちまだまだ大丈夫ね!」
 そろそろおばあさんに差し掛かろうとしている見た目でどう見ても他ポケ事じゃなさそうなニドクインとミルタンクが隣の席で談笑している。
 アデルパにもこんなおばさんはいるのかと思いつつも、その話題が不穏すぎてぼんやりした頭は潤滑油を指されたように回り始める。

・アデルパに病院送りになるレベルの悪質ないたずらを繰り返すポケモンがいる
・そのポケモンが主なターゲットにするのは年老いたポケモン

「クシコスさんが危ない!」
 レビーナは思わず叫んで立ち上がっていた。
「ちょっとホテルで休んでるから二匹はアデルパ観光続けてて!」
 返事も待たずにホテルの方に走り出す。
 会えないかもしれなくても杞憂かもしれなくても、レビーナはクシコスを探すため走らずにはいられなかった。


 ホテルの周りを探し、教えてもらった道順を逆にたどりながら探してもクシコスは見つからない。
 出会ってから何度か探した場所だったけど、心当たりはここぐらいしかなかった。
「今日は星占いもラッキーだったんだし、神様お願い、クシコスさんに会わせて…!」

 初めて出会ったあの日のように屋根よりも斜め上の空を見上げるようにレビーナは走り続けた。


「上り坂?こんなところあったっけ?」
 息を整えながら坂の上を見上げたレビーナの視界にいつか見たポケモンの姿が写る。
「クシコスさん!」
 その姿を見つけてレビーナは坂を駆けあがる。
「君は確か…」
 やや警戒気味だったクシコスもレビーナの様子を見て警戒をやや緩める。

「そうです、この前道を教えてもらった時のお礼が…」
 ドゴオオオン!
 二匹の近くの家の前に置かれていたタルが突然爆発した。

「これは何かのサプライズか?」
「いやそんなこと私が、きゃあっ!」
 立て続けに家の壁や坂道の一部が爆発を繰り返している。

「いやぁ、だれかぁ!」
 爆発を繰り返す中、妙に低いしゃがれ声で誰かが助けを求めている。
「坂の上でおばあさんが爆発に巻き込まれてるのかも、私見てきます!」
「待て、あの声は…」
 クシコスの制止も聞かずにレビーナが坂の上まで行くと、爆発で建物の壁が崩れてがれきが散らばっていたが、肝心のおばあさんの姿がない。
「お嬢ちゃん、探し物かい?」
 後ろから声をかけられてレビーナが振り返ると、いつの間にかゲンガーが笑っていた。
「さっきこの辺りでおばあさんの声がしたんですが、見ませんでしたか?」
「おばあさんなんて見てないねぇ、ところでこのオレンジを下のおじいさんに渡してくれるかい?」
 そう言ってレビーナに大きなオレンジを手渡す。
「クシコスさんにですか、分かりました!」
「あぁ、頼んだよ」

「クシコスさん!おばあさんはいませんでしたがゲンガーさんがオレンジをくれるそうです!」
 レビーナが無事に出てきたことに安堵した様子のクシコスだったが、オレンジを持っているのを見て表情が固くなる。

「ゲンガーとやら、折角のところ悪いがオレンジは苦手なんで食べてくれないか?」
「いつもお世話になってるクシコスさんにと思ったんですがそうですかぁ、じゃあお嬢ちゃんが食べてくれたら…」
「どうした、お前は食べないのか?」
「いやぁ、家にいっぱいありますから…」
「いいから食べてみろ、食べたくないなら皮をむいてみろ」
「いやぁ、そのぉ…」

「クシコスさん?」
 明らかに様子のおかしいクシコスにレビーナも困惑を隠せない。
「食べられないオレンジを差し入れにくれるつもりだったのか?それとも、そのオレンジは時計じかけの爆弾入りオレンジだったのか?」
「い、いやだなぁ…」
「君、早くそのオレンジを遠くに投げ捨てるんだ!」
「は、はい!」
 困惑した様子のレビーナが近くの空き地にオレンジを放り投げると…

 ボガアアアン!

「きゃああっ⁉」
 さっきのタルと同じような爆発が起こった。

「そんな、あのオレンジには…うわぁっ⁉」
「くそぉ、このジジイ気づきやがったか!」
 オレンジが爆発した直後ゲンガーは様子が一変、レビーナを突き飛ばしてクシコスを睨む。
 幸いレビーナはクシコスがキャッチして無事だったが驚きとショックを隠し切れない。

「長いこと郵便配達員をやっているが、この辺りにしゃがれ声のおばあさんなんて住んでないんでな」
「だからそれがどうした!」
「そしてそんな低い声じゃ演技もバレバレだな、大方老ポケモンにいたずらして次々に病院送りにしているのもお前だろう?」
「じゃあ、まさか…!」
「そもそもお前のような低い声のババアがいるか、おばあさんのフリして騙すならしゃがれ声で騙すよりその声の低さをどうにかするべきだったな」

「ケッ、バレてるなら話は容赦しないぜ、そこの嬢ちゃんもろとも野焼きになっちまいな!」
 クシコスに図星を突かれたゲンガーは怒りに任せて大量のゴムボールを坂の上から落として来る。

「クシコスさん逃げて!あのボールの中身もきっと…」
「君こそ早くここから逃げ…」
 レビーナとクシコスは互いの身を案じて逃げるように言うが、その体は固定されたように動けなくなっていた。
「しまった、くろいまなざしか…!」
「ヘッ、むざむざ逃がすかよ!」
 くろいまなざしで動きを封じられた間にも、爆弾ゴムボールは坂道でランダムに跳ねてぶつかった先で爆発、坂道にできたくぼみは直撃したら無事じゃ済まないことを示していた。

「今度は外すかよ!」
 ゲンガーはシャドーボールを溜めつつ次の爆弾ゴムボールを落とし始める。

 爆発の度におびえるレビーナと奇声を発してボールを投げるゲンガーの間に、クシコスが守るように入り込む。

「クシコスさん⁉」
「あのゲンガーの狙いは老ポケモン、老いぼれの体でも少しは君の盾になれるはずだ」
「そんな…!」
(折角クシコスさんに会えたのに、どうしてこんな事になっちゃうの…?)

「くらえええっ!」
 シャドーボールの勢いも重なった大量の爆弾ゴムボールが一斉に飛び掛かってくる。
 爆発に備えてレビーナは思わず目をつぶると瞼の裏に緑色の残光が残る。

(綺麗な色、これはクシコスさんの背中の色だ… もしかしたら?)
「お願い、どうか…!」
 レビーナが行動するのと爆弾ゴムボールが着弾するのがどっちが速かったかなんて考える余裕もないまま、二匹は熱と光に吞み込まれた。


「ヒャッハー!書き切ったぞ!」
 ゲンガーの狂笑だけが火薬の爆煙たちこめる空に響き渡っていた。










「困るなぁ、郵便配達員でも爆発するような危険物の配達は承っていないんだが」
 だが、爆煙が消えるとそこには無事なままのクシコスとレビーナがいた。
「君には大きな借りができてしまったね」
「クシコスさんも無事で良かった…!」
「この借りは君を無事にご家族のもとへ配達することで返すとしようか」
 クシコスは背後のレビーナと話した後、ゲンガーに向き直る。
「お前ら、一体どうやってあの爆発から…!?」
「くさのけがわだ、足元見てもまだ気づかないのか?」
「ゲッ、お前らの足元に草が…!」
「この草は彼女が生やした対戦ではお馴染みのグラスフィールドだ、そしてくさのけがわとグラスフィールドが合わさると何が起こる?」
「ケッ、なぞなぞなんて興味ねーよ!」
「知らんのか」
「グラスフィールドのとき防御力が上がる」

「はぁ⁉」
「お前ののろわれボディよりもマイナーだが、これでも立派な特性なんでね」
 驚きを隠せないゲンガーに対してクシコスは語って聞かせるようにゆっくりと答える。
「だがな、ノーダメージとは行かないだろ⁉」
「確かに老いぼれの体にはそこそこダメージも入ったが、それもちょうど癒えた」
「なにっ⁉」
「グラスフィールドの回復効果だ、こうしてゆっくりとおしゃべりしている間に体力を回復させていたのさ。日頃から色んなポケモンと話すだけあって郵便配達員のおしゃべりも悪くないだろう?」
「このジジイコケにしやがって…!」
 怒り心頭のゲンガーはさらに爆弾ゴムボールを取り出してシャドーボールの勢いを上乗せして投げつける。
「させるか!」
 だが着弾する前にクシコスが前足でがれきを弾いてゴムボールを爆発させて迎撃する。

「チィッ…!」
「悪いが背に乗ってしがみついていてくれ、この距離が一番守りやすいんだ」
「はい…!」
 クシコスに言われた通りに背に乗ってしがみつくと、頑丈な毛皮から若葉のような匂いがした。
「そこのゲンガーも速達で送ってやるとしよう。ただし、刑務所宛てでな」
 そうつぶやくとクシコスは坂を一気に駆け上がった。


「まだいたずらも不十分なのにこんなところで捕まるかよ!」
 追いかけていたゲンガーは近くの影に潜り込んで姿を消した。

「クシコスさん、このままじゃ…!」
「案ずるな、あのゲンガーの行き先ぐらいは想像できる。こっちだ」
 レビーナの不安にクシコスは軽く返して細道を駆け抜ける。
 おじいさんとは思えない速度で駆け抜けたさきには賑わう広場があった。

「ここって、アデルパの観光名所になってる広場…?」
「その通り、動きからしてあのゲンガーはここの広場を通って行方をくらますつもりだろう。だが街中で郵便配達員から逃げ切ろうなんて100年早かったようだな」
 建物の影で覆われた道の方を見るとのっそりと何かが顔を出してこっちに向かってきている。

「ここまで来ればあいつらも…」
「待ち伏せぐらいしてるさ、だがお望み通り鬼ごっこもここで終わりだ」
 完全に出て来ようとした進行ルートに蹄を打ち下ろしてそれを遮る。
「このジジイ、なんで回り道もしたのに行動を読んでるんだ⁉」
「郵便物を逆探知するより楽な作業だ、そろそろ速達の集配時間と行くか」
 クシコスにとってゲンガーは苦戦する相手ですらないらしい。
 背中にしがみついているレビーナにもなんとなくそれが分かった。

「周りにはバレるが捕まるよりマシだ、影分身!」
 決死の叫びと共にゲンガーの姿が大量に現れる。
「ゲンガーは影分身なんて覚えるの…?」
「一部の地方で生まれた個体は覚えるらしい、だが問題はない」



「行くぜ野郎ども!」
「「「「「「「「「「「ヒャッハー!!!」」」」」」」」」」

 大量のゲンガーがジャンプしながら大量の爆弾ゴムボール投げつけて来る。

「ああは言っても本体以外は全てこけおどし、少し身を低くしているんだ!」
「はい!」
 クシコスは一気に力を溜めて大量の葉を解き放つ。


「あ!」
「あろ!」
「うわらば」
「ふげ…」
「ほえ~!」
「ぷぴゃん」
「おぼあ!」
「あび!」
「うえおえ…」
「たわば!」


 クシコスは何の躊躇もなくリーフストームでゲンガーの分身と爆弾ゴムボールを一掃した。

「すごい…!」
「なんてジジイだ、何の躊躇もなく分身を一瞬で…」
「分身は所詮命を持たない幻、一掃しても全日帯で放送できるレベルだ」
 レビーナとゲンガーの反応は違ってもクシコスの実力に驚きを隠せないのは同じだった。

(次のカウンターで決める、しっかりしがみついているんだ!)
(分かりました!)

「どうした紫デブ、悪あがきする気力も失せたか?」
「た、頼む!もうイタズラはしないから見逃してくれ!」
「ダメだな、一度出した手紙は二度と取り消せないようにお前の悪事も取り消せない。しっかり刑務所で罪を償ってくるといい」
 安い挑発に帰ってきた安直な許し請いを一蹴してクシコスは低く構える。


「野郎、お前さえいなければ…!!」
「ウッドホーン!」
 自棄になったゲンガーの突進に対して、クシコスは大樹のような角を低く構えてカウンターの構えを取る。


「なんてひで」
「今だ!!」
 しっかり角で受け止めて、いつもよりも強くなった力でゲンガーを吹っ飛ばした。

「ぶうぅぅぅッ!!!」
 ウッドホーンに吹っ飛ばされたゲンガーは強烈に壁に叩きつけられグロッキーになって地面に落ちた。



「クシコスさん、大丈夫か⁉」
「あのゲンガーは一体…?」
「みんな、あいつが例のイタズラ犯だ。警察を読んでこの子を保護してくれ」
 そう端的に告げるとレビーナを降ろして地面に落ちたゲンガーの方に走っていく。

「刑務所宛ての速達便、消印を押しておくか」
 額に痕が残るほど強く蹄を叩きつけられて、アデルパを騒がせたイタズラ犯は戦闘不能になった。



「すまないな、君を面倒ごとに巻き込んでしまって」
「いえ、クシコスさんも無事で良かった…」
 あれからゲンガーは素早く現行犯逮捕され、クシコスとレビーナも念のため事情聴取を受けていた。
 警官のマフィティフからは「やりすぎ」とは言われたものの、クシコスへの信頼やレビーナの証言もあって特にお咎めなしで、現在クシコスはレビーナと待合室で紅茶を飲んでいる。
「そういえば君の名前をまだ聞いてなかったな、クシコスって名前はもう知ってくれていたみたいだが…」
「レビーナって言います、あなたの名前はホテルのスタッフから…」
「なるほど、PAMOSANも郵便配達のルートだからな…」
 妙に納得した様子でクシコスは紅茶を飲む。
「そうだ、これを渡そうと思って…!」
「これは、絵か?」
「そうです、ありがとうございました!」
 レビーナに渡された紙を広げると、お礼のことばと綺麗な絵が書かれていた。
 アデルパの街並みの風景画の中に小さく緑のポケモンが描かれた絵には、どこか優しさやぬくもりを感じさせられた。
「素敵な絵だ、絵はがきにしたいぐらいだな」
「良かった…!」


「それと一つ聞きたかったんだが、どうしてレビーナはあのタイミングでグラスフィールドを使おうと思ったんだ?名前はまだしも特性は誰かに教えた事がないんだが…」
「クシコスさんが私を庇おうとしてくれた時、緑に生い茂る背中を見えて、くさのけがわだと思ったんです!」
「なるほど…」
「まぁ、てだすけと同じで一か八かだったんで上手く行って良かったです!」
「いや、あれは助かった。そして手助けなんていつ使ったんだ?」
「ウッドホーンを使ったタイミングに、その方が強くなりますから!」
「…そうか、君は本当に色々なことをよく視ているんだな。絵が上手いのもその観察眼や優しさによるものかもしれない」
 そうつぶやくとクシコスはレビーナに頭を下げる。
「むしろ君に助けられたのかもしれない、どうもありがとう」

「それじゃあまだ配達があるのでこれで」
 くさのけがわを持った郵便配達員は颯爽と配達の続きに走り出した。


7月27日
 ついにクシコスさんに会ってお礼を言うことが出来ました!
 途中でイタズラ犯のゲンガーに襲われたりして大変だったけど、どうにかお礼を言って絵を渡すことができました。
 喜んでくれたみたいで本当に良かった…!

 でも明日は飛行機に乗って帰る日です。せっかくクシコスさんと仲良くなれたのにな…




「そうか、今日が観光の最終日なのか」
「そうなんです、折角仲良くなれたと思ったのに…」
「そんな時でも友情を繋ぐことができる素敵なものがあるだろう?賢い君なら分かるはずだ」
「それは、手紙?」
「大正解、ささやかだがこれは餞別だ。受け取ってほしい」
 クシコスはレビーナに紙袋を手渡す。

「この絵はがき、私が描いた絵だ…!」
「折角なんで作ってみたんだ、一番上の絵はがきには私の住所を書いてあるからそれを使えば文通ができるはずだ」
「ありがとうございます、嬉しい…!」
「ちょうど君のご両親も呼んでいるらしい、それでは良い旅を!」
「ありがとうございました!」

 レビーナはクシコスに手を振ると、郵便配達員は元気に走り出した。




7月28日
 飛行機に乗っている間は寂しかったけど、今こうして私の部屋の机で日記を書きながら絵はがきを見ていると、またクシコスさんに会えるような気がします。
 日記にこの旅行のことを書いていくとキリがないけれど、絵はがきに書いて送る内容は決まりました。
 色々なことが起こった旅行だったけど、とても良い出会いができて胸がいっぱいです!


 郵便配達員は二度少女に出会う  FIN

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