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SKY LOVE 2 陽 雷 氷のソルジャー

/SKY LOVE 2 陽 雷 氷のソルジャー

 桜花

      SKY LOVE 2 陽・雷・氷のソルジャー




 あらすじ
 自由に旅を行っていた空色の瞳のエーフィの少年・エレナ=セトラは、自身が住む西国・ファレム王国の首都・フルムーンで行われた武闘大会にて優勝を果たすが、それによりファレム王国の軍隊・ファレム軍の勧誘を受けてしまった。
 その夜、エレナは悩んで海岸に来た時、フルムと名乗る美しいブラッキーに出会い、フルムの言葉を受け、軍に入る事を決意する。

 ※            ※

 エレナは、ファレム王国の王・アルムとの話を終えた後、一度ホテルに行き荷物を持って、もう一度城に行きファレム軍の大将・ギルガに連れられ、事務室の様な所で待機していた。その部屋に入る際ギルガから・・・
 『君の上官に当たる軍団長を呼んでくる、此処で待機しておくように』
と言われ、エレナは此処で待機していた。すると・・・

 カチャ・・・

 「!」
 扉が開き、部屋に入ってきたのは、赤いスカーフを首に巻き、黄色に赤線二本を引き、星が二つあるバッチを着けた。エレナと同じ歳くらいのリーフィアだった。エレナは少々卑猥ながらも、胸の膨らみから。リーフィアが牝性である事が確認出来た。そしてスカーフの階級バッチから、ファレムの軍人と前日戦ったレイラ達と同じ階級であるとも確認出来た。リーフィアはエレナに気づき、エレナの前に歩いてきた。
 「君がエレナだよね? 僕はリノア! 年齢は18歳で、君が所属する第四軍の軍団長だよ!」
と、リノアと名乗ったリーフィアは、笑顔でエレナに話しかけたが、エレナは様々な事で驚いた。
 「『僕少女!? しかも僕と同じ歳で軍団長か・・・』はい、エレナ=セトラです! 宜しくお願いします!」
 エレナは驚きを隠しながら、リノアに挨拶をした。するとリノアはクスクスと笑って言った。
 「そんなに畏まらなくても良いよ♪ それより付いて来て! 四軍の兵舎の君の部屋に案内するから♪」
 リノアに言われ、エレナは荷物を持ってリノアに付いて行った。城を出て少しすると、幾つかの建物が見えてきた。
 「あれはファレム軍の全兵舎、ファレムの軍の兵士の人は、三人一部屋であそこに住むんだ・・・と言っても僕や元からファレムに住んでいる軍人や一部の軍人・・・主に少尉以上の階級の人は、ファレムの市街地に自宅を持ってるんだけどね」
 「そうなんですか・・・」
 更に少し行くと、リノアは一つの兵舎に入って行った。
 「此処が我が第四軍の兵舎!」
 そう言って進むリノアに続き、エレナも続いて入って行く。暫くすると一つの扉の前で止まった。
 「此処が君の部屋ね! それと先にこの部屋には二人居るから、仲良くしてね♪ あと僕は君のスカーフと階級バッチを取ってくるから♪」
 そう言うとリノアは、エレナを残して去っていった。
 「・・・よし」
 エレナは緊張しつつも、前肢を四肢用のドアノブに掛けた。

 カチャ・・・

 「は、初めまして・・・」
と、エレナは緊張気味に言いながら、扉を開けた。
 「んっ? 何だ?」
 「何方ですか?」
 二種類の声がし、その声の主達を見ると、其れはエレナと同じイーブイの進化系である、サンダースとグレイシアだった。二人は二つあるダブルベットの下に腰かけている。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 三人は言葉を交わさなかった。何故なら・・・
 「・・・・・エレナ? エレナだよな!?」
 「嘘!?・・・・エレナ!?」
 サンダースはエレナの顔を見て、驚いた口調でエレナの名前を言った。そしてグレイシアも殆ど同じ反応を見せた。
 「ライガ!? それにナギサも!?」
 ライガというサンダースとナギサというグレイシアの名前を呼んで、エレナも驚いた。
 「な、何で二人が此処に居るの?」
 「それはこっちの台詞だ! お前だって旅に出たんじゃないのか!?」
 「いやそれが・・・」
 エレナは荷物を置いて、事の粗筋を述べた。
 「昨日の大会の優勝者、牡のエーフィだって聞いてたけど、あれお前だったのか」
と、ライガは納得した口調で言う。
 「賞金目当てで出たら、こんな事にまで発展しちゃって・・・・(苦笑)」
 「エレナって、昔から何か行うと、凄い事が起こるよね・・・」
 苦笑い気味にエレナが言うと、ナギサが溜息混じりに言う。するとライガが、何かを思い出した様に、エレナに聞いた。
 「金と言えばエレナ・・・ずっと気になってたんだが、中1の時のバイトで、お前2、3回カズミさんに言われて、何か個室に行ってたけど、あの時何やってたんだ? そん時だけバイト料多かったけど?」
 ライガが聞いた途端、エレナは顔を真っ赤にして言った。
 「ななななな何でもばいよ!(焦) ってかライガ、折角再会出来たのに、変な事聞かないでよ!」
と、大慌てでエレナは言い放った。
 「・・・そんなにデカい声で言う事ねえじゃねえか・・・」
 呆れ口調でライガは言う。

 コンコン

 「やっほー♪ 皆居る?」
 扉をノックされたと思うと、ノックの返答を待たずに、リノアが入ってきた。
 「ってまだ何にも返事してないだろ!」
 ライガはリノアが上官にも関わらず、タメ口で怒った。
 「ってライガ! この人僕達と同じ歳だけど、軍団長だよ!」
と、慌ててエレナは言うが、リノアは笑いながら言った。
 「あ、それ大丈夫! 僕がライガとナギサにそうしてって言ったんだ! だから君もライガ達みたいに、タメ口で構わないよ♪」
 「・・・じゃ、じゃあそうする」
 とびっきりのスマイルでリノアに言われ、エレナはやや戸惑い気味に了承する。
 「んっ?」
 その時エレナは、ナギサが顔を赤くしながら、リノアから目を逸らすように下を向いているのに気付いた。
 「はい、エレナ!」
 リノアに呼ばれ、エレナはナギサからリノアの方を見た。するとリノアは、青いスカーフと階級バッチを差し出していた。
 「此れが君のスカーフと階級バッチ、君の階級は一等兵だからね! それじゃ僕はこれで♪」
 エレナにスカーフとバッチを手渡すと、リノアは部屋を出ていった。エレナは首のカバンを外し、渡されたスカーフにバッチを着けて首に巻いた。
 「これで僕も、ファレム軍の一員か」
 そう言ってエレナは、自身の荷物を出そうとした。その時・・・
 「ごめん間違えた!」
 先程出て行ったリノアが、再び入ってきた。
 「一等兵じゃないや! こっちのバッチ!」
 そう言ってリノアが差し出したのは、前日に戦ったマグマラシのカミューが着けていた、兵長のバッチだった。
 「エレナ、大会で好成績を出したから、階級は兵長なんだ」
 そうリノアに言われて、エレナは驚きながらも、一度着けたバッチを外し、リノアが持つ兵長のバッチと交換して、再び装着した。
 「じゃあ僕帰るね♪ それじゃ♪」
と言うとリノアは、扉を閉めて帰っていった。
 「何て言うか・・・元気な仔だね、ナギサ!」
と、エレナは振り向きながら、ナギサに尋ねた。
 「えっ! な、何故私に?」
 明らかに自分に振られた事に動揺を表すナギサ。
 「何故って・・・ナギサはリノアの事が好きなんでしょ?」
 「!!!!!」
 エレナに指摘された途端、ナギサの顔は真紅に染まった。
 「やっぱエレナもそう思うだろ?」
 ライガがベットの下段に寝転がりながら言う。
 「ナギサ隠すの下手すぎだろ、小学生でももっと上手く隠すぞ!」
 「そんな事・・・言われたって・・・・」
 俯きながら、ナギサは呟く。
 「リノアのどんな所に、ナギサは惹かれたの?」
 エレナが訪ねた。
 「だってそれは・・・凄く可愛くて、明るくて活発な性格がとても素敵で・・・」
 「おまけに巨乳だしな♪」
 ナギサが説明している最中、ライガが茶々を入れる。
 「ちょ!・・・巨乳は関係ないでしょ!」
と、ナギサが顔を赤くして反論した。それから3人は様々な話をした。主な内容だったのは、やはり3人で行動をしていなかった時の話であった。ライガとナギサが此処に来たのは、エレナが旅に出てから少し後であり、エレナ同様卒業を待たずに此処に来た。その後ファレム軍の一般の採用試験を受け、リノア率いる第4軍の一等兵として活動していたのだ。
 「そういえばエレナ!」
と、突然ナギサがエレナに質問してきた。ちなみにライガはペットボトルの水を飲んでいる。
 「うん? 何?」
 「何でエレナは、ファレムに入ったの? まあ理由は『英雄になる』という理由だと思うんだけど・・・」
 「う~ん・・・実は昨日、武闘大会に勝った後、ある牝性に会ったんだ。その人と言葉を受けて、軍に入る事を決意したんだ」
 「ふ~ん、どんな人ですか?」
 「フルムっていう、僕達と同じイーブイの進化系の一つ、ブラッキーの人だったよ」
 エレナがそう言うと、突然ナギサが真剣な表情になった。
 「・・・エレナ・・・もしかして、その人って・・・月と太陽のペンダントしていなかった?」
 「えっ? うんしてたけど、何でそれを・・・」

 ブゥーーーーー!!!!

 『何でそれを』と言いかけた途端、水を飲んでいたライガが水を吹き出し、その水はエレナの顔面に命中した。
 「・・・何すんだよ(怒)」
と、エレナが怒りを抑えた口調で、ライガに尋ねた。
 「ゲホッゲホッ! エレナお前、それが誰だか知っているのか?」
 「えっ? 只の街の人じゃないの?」
 エレナが平然と言うと、今度はナギサが言った。
 「街の人じゃないですよ! その人は・・・」
 「その人は?」
 エレナが尋ねると、ライガとナギサは口を揃えて言った。
 『このファレム王国の王・アルム=イリスの娘、フルム=イリス王女(皇女)だよ!』
 そう二人が叫ぶと、部屋の中は静寂に包まれた。
 「・・・・・・・・嘘?」
 一分後、漸くエレナがそう呟いた。

 ※       ※

 同時刻、フルムーンの城・シャインルナから少し離れた所に大きな屋敷があった。それは現ファレムの国王・アルム=イリスとその家族、そして使用人達が暮らす住居であった。その屋敷の一室、ファレム王国王女・フルムの部屋では、天蓋付きのキングサイズのベットの上で、仰向けで寝転がりながら、携帯で話す首から月と太陽のペンダントを下げた牝性のブラッキー・フルムがいた。
 「へぇ~、リノアの軍に所属したんだ」
 『そっ! 僕も驚いちゃった! まさかエレナまでも僕の軍団に入るなんて!』
 フルムが電話で話しているのは、第4軍軍団長のリノアだ。
 『でも僕を見ても、5年前の事に関連する事は何も言わなかったから・・・やっぱり忘れてるみたいだね』
 「仕方ないよ、三人はイケメン・・・いや、一人イケメンで二人美少年だから、それなりにモテていたみたいだから、たった1日しか会っていない、私達の事なんて、忘れちゃったんだよ!」
 『・・・それもそうだね!』
と、リノアが納得した様に言う。

 コンコン

と、突然フルムの部屋の扉が叩かれた。
 「フルム様、ご入浴の用意が出来ました・・・」
 「分かったわ!」
 フルムは侍女の報告に返答し、再び携帯越しのリノアに話しかけた。
 「マリアがお風呂の準備が出来たって来たから、電話切るね!」
 『うん分かった! あ、そうだ! 明日良かったら、兵舎に来てみる?』
 「う~ん・・・うん行くよ! じゃあシノンにも宜しくね! おやすみ~♪」
 『おやすみ~♪』
 そうフルムは電話を切り、ペンダントを外して、部屋から出て行った。

 ※          ※

 再び第4軍の兵舎では、先程の会話の続きが行われていた。
 「つ-かさ、王女だって気が付かなかったのか?」
 呆れ顔でライガが、エレナに尋ねる。
 「・・・綺麗な人とは思っていたけど・・・まさか王女様だったなんて・・・」
と、エレナは俯き加減で言った。するとライガが、驚いた顔をしながらこう言った。
 「へ~驚いた! お前がレイカさん以外で気になる人が居たなんて!」
 それを言った途端、エレナの顔が赤く染まった。
 「な、何でレイカさんの事が出てくるの!? レイカさん関係ないじゃん!」
 「あれ? だってエレナ、レイカさんの事が好きなんじゃ?・・・」
と、ナギサがエレナに言った。どうやら先程の仕返しらしい。エレナは其れに対する言葉を発せず、黙りこくってしまった。
 「あっ、そうだエレナ!」
と、突然ライガが何かを思い出した様に、ベットの下から鞄を取り出した。
 「ほら、お前の携帯!」
と、ライガがエレナに携帯を投げてきた。エレナはそれを受け取った。
 「お前、旅に出た時忘れてったろ? 何時かお前に会えるだろうからって、お前のお袋から預かってきた! あとその首のスカーフの内側に、ポケットがあるから、其処にでも入れとけ!」
 「ありがとう、ライガ」
 そう言い、エレナはスカーフに携帯を入れた。するとエレナのお腹が鳴った。するとその音を聴き、3人は大笑いした。
 「そういえば、お腹減ったね!(笑)」
 エレナが言った。
 「ああ、そうだな!(笑)」
 ライガが言った。
 「ご飯、食べに行きましょう!(笑)」
 ナギサが言った。
 「よし、じゃあ食堂行こうぜ! エレナも初めてだから付いて来いよ!」
 「O・K♪」
 「行きましょう!」
 三人は夕食を取る為、部屋から出て行った。

 ※        ※

 同時刻、ファレム第四軍兵舎から少し離れた所にある兵舎、ファレム第二軍兵舎の一階に、赤いスカーフに黄色地に星が二つ並んだ中佐の階級バッジを付けた、穏やかな表情で妖艶な牝性のキュウコンが歩いていた。そのキュウコンは軍人であり、今日の仕事が終わったので、これから帰宅する所であった。その時・・・
 「なあ、知っているか? 今日何軍かにエーフィが配属されたらしいぜ! 何でも超美人らしい!」
 「ば~か! そのエーフィは牝じゃなくて牡だよ! おまけに空色の目をしているらしいぜ!」
 「!」
 外に出ようとした瞬間、キュウコンの耳に、その会話が飛び込み、不意にその会話の方を向くと、二体の兵士が会話をしていた。
 「其処の二人」
 落ち着いた口調で、キュウコンは兵士達に話しかけた。
 「あ、レ、レイカ中佐! 何でしょうか!」
 いきなり話しかけられたので、兵士の一人は動揺した口調で、レイカというキュウコンに返事をした。
 「今の会話のエーフィ・・・どうゆう者なのだ?」
 「あ、はい・・・先日行われた武闘大会で優勝した者らしくて、王からの推薦で我が軍に入って、リノア中尉の第四軍に配属されたみたいで、特徴的なのはそのエーフィ、目が空色って噂が・・・」
 「そうか・・・ありがとう」
 兵士から説明を受けると、レイカは礼を言い、兵舎から出て行った。
 「あ~驚いた。しっかしレイカ中佐って、ほっんと美人だよな!」
 「ああ! あれで未だ独身ってのが信じられないよな!」
 「知らないのかよ!? レイカ中佐に交際を求めるのは、凄い多いみたいだけど、レイカ中佐は全て断ってるらしいぜ!」
 「ほんとかよ!? フルム様に負けず劣らずの美貌の持ち主なのに、勿体ねぇー・・・」
と、そんな会話をしている兵士達であった。一方既に日の暮れた外に出ていたレイカは、一枚の写真を見ていた。
 「そうか・・・お前も此処に来たのか・・・」
と、優しい笑みを浮かべて、レイカが見ていた写真には、空色の瞳をした幼さを残したエーフィが写されていた。

  ※          ※

 大勢の兵士で賑わう食堂の片隅で、エレナとライガが空席一つ残した状態で、向き合う様に座っていた。机には皿が三枚とフォークが置かれていた。
 「もう! 此処に来るまで、7回もナンパされたよ!」
 「お前が色気振り撒き過ぎなんだよ! 少しは自重しろよ!?」
 不満気に言うエレナに、ライガが呆れた様に言う。と其処に、大皿に大盛りのパスタを乗せた台車を押したナギサがやって来た。
 「はい、パスタ持ってきたよ!」
 「お疲れ!」
 ナギサが持ってきたパスタを取りながら、エレナが言った。どうやらナギサは三人で食べるパスタを取りに行っていた様だ。ナギサは台車を邪魔にならない所に置くと、唯一空いていた椅子に座った。
 「何の話をしていたの?」
 ナギサが訪ねた。
 「此処に来るまで、僕は何回もナンパされたでしょ? その話をしていたの!」
と言いながら、エレナは大皿のパスタを少量取った。
 「ああなるほど! 私もエレナ程じゃないけど、結構ナンパされましたよ!」
と言いながら、ナギサは大皿のパスタを少量取った。
 「ったく、お前らは俺と違ってイケメンじゃなくて、美少年だからそうなるんだよ!」
と言いながら、ライガは大皿のパスタを全て取・・・・・ろうとしたが、持ち上げた時、皿にある根本のパスタをエレナとナギサに、フォークで抑えられた。
 「じゃあイケメンのライガ君に尋ねましょうか!? どうやってナンパされずに済むか!?」
 「ええ! 実に気になりますね!?」
と、パスタをフォークで抑え込んだまま、強気な笑みを浮かべて、エレナとナギサは、ライガを見ながら言った。
 「それは・・・自分で・・・考えろよ!」
 ライガは途切れ途切れに呟くと、一旦取ったパスタを根本のパスタまで戻した。その瞬間一瞬だけエレナとナギサはフォークを抜き、その隙にライガはパスタを全て奪い取った。
 「どうせ2.3日したら、最低でも4軍では治まるだろ? それまで辛抱してろよ!」
 そう言ってライガは、獲得したパスタを食べ始めた。その光景を見て、エレナとナギサは苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
 15分後夕食は終わり、3人は食堂を出た。
 「あ、そうだエレナ!」
 ライガが話しかけてきた。
 「何?」
 「シンパチ覚えてるか? 中学ん時の!?」
 「シンパチ・・・ああ! あのシンパチか! 覚えてるよ!」
 ライガの言った『シンパチ』という名のポケモンに、エレナは聞き覚えがある様だ。
 「実はあいつ、今9軍に居るらしいんだ! 行ってみようぜ!」
 「ホント!? でも行っても大丈夫なの?」
 エレナの質問に対しては、ナギサが答えた。
 「少し前にリノアさんが、『別に他の軍の所に行っても大丈夫だよ♪』って行ってたよ!」
 「そっか・・・じゃあ行ってみよっか!」
 「よし! じゃあ9軍の兵舎まで案内するぜ!」
 ライガの案内で、エレナとナギサは9軍の兵舎まで向かった。

 ※           ※

 9軍の兵舎に近づくにつれて、エレナ達はある種類のポケモンを多く見るようになった。其れは鳥ポケモンであった。
 「ファレム軍には2軍の飛行部隊があるけど、9軍がそうだったんだ…」
 既に日の落ちた空を飛んでいる鳥ポケモン達を見ながらエレナは呟いた。その時…
 「私か~ら 貴方に~ この歌~を 届けよう~♪」
と、何処からか朗らかの音楽と歌が聞こえてきた。
 「…このちわやか…じゃなくて爽やかな歌は…」
 エレナはその歌が聞こえる方に向かった。すると兵舎から離れた所にある、古い物置の様な建物の屋根に、メガネを掛け首に青いスカーフにライガとナギサと同じ階級バッチを着けたペラップが居た。そのペラップの傍らには古いラジカセが置かれており、そのラジカセから音楽が流れ、そのペラップは音楽に合わせて歌っていた。
 「シンパチ!」
 エレナはそのペラップ・シンパチに向かって叫んだが、歌に夢中になっている為か、反応は全く無かった。
 「オイ! シンパチ!」
 今度はライガが叫んだが、これまた無反応だった。
 「チッ…あのダメガネ!」
 ライガは舌打ちをすると、小屋に向かって歩き出した。

 ビリビリビリ!!!


 そして近づいた途端、シンパチに向かって強力な電撃を与えた。10万ボルトだ。
 「ギャアアアア!!!」
 不意打ちで10万ボルトで喰らったシンパチは、絶叫を上げながら感電した。ライガは5秒程電撃を与えると、攻撃を止めた。
 「ちょっとぉぉぉ!!! 何するんだぁぁぁ!!!」
 真っ黒焦げになりながらも、攻撃をしてきたライガにツッコミを入れる。
 「ぎゃあぎゃあ騒ぐなメガネ! 俺らが呼んでんのにシカトしたから攻撃したんだよ!」
 シンパチのツッコミを受けながらも、ライガは怯む事なく反論する。
 「だからって攻撃を…ってエレナ!?」
 「今頃かよ! 俺にツッコム前に気づけよ! 読者もそうツッコミを入れてるぞ多分!」
 ライガと一緒に居るエレナに気づいたシンパチに、ライガがツッコミを入れる。シンパチはラジカセを止めて、エレナ達の前に飛んで降りてきた。
 「久しぶりだね、エレナ!」
 「相変わらず、日本の歌を歌ってるんだ」
 降りてきてエレナの目の前を飛んで挨拶をするシンパチに、エレナは笑いながら言った。
 「僕の代名詞みたいなもんだからね。そういえばエレナ、何時からこのファレムに?」
 エレナはシンパチに、現在までの事を話した。
 「ええっ!? 王女様がエレナを誘ったの!?」
 「いやまあ…その時は、お姫様だって知らなかったんだけどね…」
 驚くシンパチに、エレナは苦笑いしながら言った。
 「ところでシンパチは、今は9軍に所属しているの?」
 「そうなんだ! まあ僕もまだ入軍したばかりだけどね」
 「オイ、シンパチ! 何やってんだ?」
 エレナとシンパチが会話をしていると、その上空から高い声がしてきた。エレナ達が上を見上げると、其処には赤いスカーフに黄色地に真ん中だけ少し太い三本の細い赤線に星が一つ付いた階級バッチを着けたムクホークが居た。ムクホークはシンパチの隣に着地してきた。
 「シンパチ、この人は?」
 エレナが訪ねた。
 「この人はハヤト オオニシ少佐。僕の所属している9軍の軍団長なんだ」
 「何だシンパチ、こいつ等お前のダチか?」
 シンパチが説明を終えると、今度はハヤトというムクホークから質問を受けた。
 「あ、ハイ。今日から第4軍に配属された、エレナ=セトラ兵長です。」
と、エレナは畏まりながら言った。
 「? 空色の瞳のエーフィ?…」
 エレナの瞳を見ながら、ハヤトが何やら呟いた。
 「そうか。確か昨日6軍のレイラ、7軍のガリオンを倒したエーフィって、お前の事か!?」
 「はい、其れで僕は軍の上層部の方から推薦され、軍に入る事にしました。
 そうエレナは説明したが、流石に王女から言葉を受け軍に入る事は言わなかった。一国の王女が只の平民に言ったという話は、恐らく信じないからである。
 「結構上階級の奴らには話題になってるぜ! 我が軍の猛者を倒す挑戦者が現れたってな! まっ頑張れよ! じゃあ俺は街に飲みに行くから、シンパチ早く兵舎に戻れよ!」
 そう言い残すとハヤトは、大空に翼を羽ばたかせて飛んで行った。
 「あの兄ちゃん大丈夫なのか? 二日酔いになったら明日やばいんじゃないか?」
と、ライガが何気なく言うと、何故かシンパチが驚いた様な顔をした。
 「ってライガ! ハヤトさんはあんな口調でも牝性だよ!」
  シンパチの言葉に、エレナは驚いた。
 「あの人牝性なんだ…俺口調だから完全に牡性かと思ったよ…」
 「お前は他人が見たら、完全に牝性だろ…」

 バシッ!

 「ってえ!」
 エレナが言った後に、ライガがエレナに聞こえない程度に呟いたが、エレナに聞こえていたらしく、ライガの横面にエレナの尻尾が命中した。
 「聞こえていないかと思ったら、大間違いだよライガ」
 冷静な口調で言うエレナに、今の事に関与していなかったナギサとシンパチは苦笑いするしかなかった。
 「じゃあ僕は兵舎に帰るから」
 「うん、じゃあね」
 シンパチはラジカセを持って、9軍の兵舎へと帰っていった。シンパチを見送ると、エレナはライガとナギサに振り返る。
 「じゃあ僕達も帰ろうか」
 「そうだな」
 「うん」
 エレナ達は来た道を戻り、自軍の兵舎へと戻っていった。

 10分後

 「もう! 二人で買いに行く事はないのに」
と、文句を言いながら、エレナは兵舎への道を一人で歩いていた。
 ライガとナギサはというと、あれから数分と経たない内に、「折角会えたんだし、ちょっと町まで何か食い物買ってくるから」と言い、エレナだけ先に帰らせて行ってしまったのだ。
 「…文句言っても悪いか…何か買ってくれるんだし、兵舎で待ってよう」
 そう呟きエレナは、兵舎に向かおうとした。その時…
 「あっ…」
 エレナの前方から、一人のポケモンが歩いてくるのが見えた。
 其れは金色の柔らかそうな体毛に、その体毛に包まれた妖艶な動きをした九尾。見てしまった者を全て魅了してしまいそうな真紅の瞳をしたキュウコンだった。そのキュウコンは赤いスカーフに黄色地に二つの星が付いたバッチを着けていた。
 そのキュウコンは、エレナの前で立ち止まった。
 「レイカ…さん…」
 そのキュウコン・レイカの名前をエレナは静かに呟いた。キュウコンは優しそうな笑みを浮かべながら、エレナに話しかけた。
 「久しぶりだな…エレナ…」
 どうやらこの二人は知り合いの様だ。

 ※         ※

 「あの…お元気でしたか?」
 「ああ、お前も元気そうだな」
 二人は近くにあるベンチに座りながら話していた。
 「お前が我が軍に来ているという話を聞いた時は、正直驚いたぞ」
 「! 知ってたのですか」
 エレナはレイカが、自分がファレム軍に入った事を知っていた事にとても驚いた。
 「部下が話しているのを聞いたのでな、空色の瞳のエーフィなど、お前くらいだから直ぐにお前だと分かった…所でお前は何軍に配属になったのだ?」
 「第4軍です」
 「リノア中尉の軍か…階級は?」
 「先日の大会で好成績を出したので、僕の階級は兵長です」
 エレナは少々照れながら言うと、レイカは少々残念そうな表情をしながら言った。
 「そうか…私は第2軍の中佐…そして軍団長だ」
 「! 凄い! 第2軍ってファレム軍の中で第1軍に次いで精鋭部隊で、首都防衛や国境防衛を賄っている軍でもあるんですよね!? 中佐の階級も確か、ファレムの女性兵士の中では、最も高い階級。しかもその軍の軍団長だなんて…」
と、エレナは尊敬の眼差しで、レイカを見つめた。するとレイカは、少し照れた様な笑みを浮かべながら言った。
 「お前にそう言ってもらえると私も嬉しいが、正直なところ私はお前に、私の軍に来てほしかった。お前はとても優秀だから、私の手元に居れば大いに助かるのだが?」
 「! あ、ありがとうございます…」
 エレナは顔を赤くして、俯き加減にそう言った。その時エレナの肩に、ふわふわとした柔らかい物が当たった。其れはレイカの尻尾であった。エレナは身を固くしたが、レイカは構わずエレナを自分の方に抱き寄せ、紅い瞳でエレナを見つめながら、口をエレナの耳に近寄らせて、熱い息と共にこう呟いた。
 「…どうだ?…今からでも、私の所に来ないか?…」
 レイカがあまりに妖艶な喋り方の為、エレナは心臓を高鳴らせて、ゴクッと生唾を飲み込んだが…
 「お、お気持ちはありがたいですが…第4軍には仲の良い友人も居ますし、第4軍の軍団長に悪いですし…」
 「…‥」
 エレナが其処まで言うと、レイカは何も言わずにエレナを尻尾から解放し、ベンチから降りて歩き出した。
 「すまない…お前の性格上そう言うと分かっていたが、少しからかいたかったのでな」
 レイカはエレナの方を振り向き、冷静な笑みを浮かべながら言った。
 「だがお前が望むのなら、私は何時でもお前を受け入れよう…部下として…そして部下として以外でもな…」
と、最後に意味深な言葉を残すと、レイカは何処かへと去って行った。
 「ハア…ハア…」
 レイカが去った後も、エレナは胸の高まりを抑える為荒い息を吐きながら、暫くベンチに座っていた。

 ※          ※

 「んだよ! キスぐらいしろよ!」
と、少し離れた草むらから、エレナ達の動向を伺っていたライガが悔しげに呟いた。
 「エレナは未だに、レイカさんの事が好きなのですかね?」
 その隣に居たナギサが呟いた。
 二人は街で食べ物等を買った後、兵舎に向かっていたが、その途中にエレナがレイカと話しているのを見かけ、こうして覗き見をしていたのだ。
 「そりゃそうに決まってるだろ! アイツは年上好きだからな。おまけにレイカは超がつく程の美人だ!」
 ナギサの言葉にライガが答えた。
 「けどエレナは…何で告白しないのだろう…」
 漸く落ち着いたのかエレナは、ベンチから降りて歩いて行った。

※          ※

 兵舎へ向かう道を歩きながら、エレナは先程の事を考えていた。
 数年前にある事で知り合ったレイカ、エレナはその頃からレイカに異性として好意を持っていた。先程レイカが誘った時、本心ではレイカの元に行きたいという気持ちはあったが、やはり配属されて直ぐに変わるのは、リノアに対して悪いと思っていた。何より再会出来た親友と別れるのも嫌であった。
「すみません…レイカさん…」
 エレナはこの場に居ないレイカに対して、静かに謝罪をした。

 ザッ!

とその時エレナの前に、一人のポケモンが現れた。そのポケモンは首に青いスカーフを巻いた二肢歩行で、ピンっと立った耳を頭部に生やし、犬の様な顔をした青色がメインのポケモン・波動ポケモンのルカリオだった。
 エレナは一瞬、ファレムの軍人かと思ったが、そのルカリオのスカーフには、階級バッチが着けられておらず、代わりに別のバッチが着けられていた。
 ルカリオはエレナの存在に気付くと、近付いて来て尋ねてきた。
「其処の御嬢さん。この近くでフ…いえ、月と太陽のペンダントを付けたブラッキーを見ませんでしたか?」
と、エレナの性別を間違えながら、ルカリオが探しているブラッキー。エレナにはその人物が前日に会い、エレナをファレムに入れる決心を突かせたこの国の王女・フルム=イリスしか思い浮かばなかった。しかしエレナはこの近くで、王女処かブラッキー種すら見ていなかった。
「いえ、そんな人は見ませんでしたが」
「そうですか…では私はこれで…」
 エレナが答えると、ルカリオは若干落ち込んだ様な顔をした。しかし直ぐに冷静な表所になると、素早い動きでその場を去って行った。
「王女様が…この近くに居るのかな?…」
 そう呟き歩き出そうとした。
「こんばんは」
「!」
と、突然背後から声を掛けられ、エレナは慌てて体の向きを其方に向けた。すると其処にはルカリオが探していた、月と太陽のペンダントを付けたブラッキー・フルムの姿があった。
「マサミは何処かに行ったみたいね」
 フルムは先程のルカリオが去って行った方を見つめて呟いた。ルカリオの名前はマサミという様だ。
「お、王女様…?」
 突然現れたフルムに、エレナは戸惑いを隠せない。それと同時にエレナには、先程マサミが来た時、何故波動で見つけられなかったのだろうという疑問も生まれた。
「王女様…こんばんはです」
「あら? 私に対しての名称が昨日と違うという事は、昨日は私が王女とは気づいていなかったのですね?」
「も、申し訳ありません」
 エレナは謝罪をした。兎に角エレナは、冷静にフルムに対応する事にした。
「エレナさん…でしたよね? こんな時間にどうなさったのですか?」
「第9軍に昔の友人が居たので、其方からの帰りなんです」
「そう…其れは楽しかったでしょう」
 フルムはそう静かに返した。王族なのだろうかフルムの雰囲気は、普通の牝性のポケモンとは違う雰囲気を晒していた。前日に会ったエレナは、最初にその雰囲気に気が付かなかった自分が恥ずかしかった。
「あの王女様…先程ルカリオが王女様らしきブラッキーを、お探しになっていましたが」
「ええ、彼は私の住む屋敷の警護のポケモンです。無断で屋敷から出てきたので、慌てて探しに来たのでしょう。だから少し隠れていました。」
と、冷静な口調でフルムは言ったが、エレナは驚いていた。一国の王女様が大胆にも無断外出をしたからだ。しかしエレナは其れよりも別の質問をした。
「しかし相手はルカリオです。ルカリオの波動を察知する能力なら、如何に上手く隠れても意味を成さない筈です」
「あら? 随分戦術的な事を言うのですね? やはり軍人ですからかしら?」
「す、すみません…」
とフルムに言われて、エレナは頭を下げてしまう。しかしフルムは気にせずに言った。
「確かにルカリオの波動を察知する能力なら、兵士以外のポケモンなら簡単に見つかってしまうでしょう。しかし兵士のポケモンなら、其れを察知されない様に気配や波動を消す訓練もしているでしょう?」
「!」
 此れに対してもエレナは驚いた。確かにエレナが居た兵士(ソルジャー)養成学校(スクール)での、戦闘科目での授業では、敵に自分の気配や波動を察知されない為に、其れらを消す訓練はしていた。当然ながらエレナも其れが出来た。しかし其れが戦とはほぼ無関係な王女であるフルムが出来るとは思わなかった。
「お、王女様…ご詳しいですね」
 エレナが驚きながら言うと、フルムはクスクスと笑いながら言う。
「王女とはいえ、私も兵法や戦術等を学びますよ。しかし…やはり兵士である貴方には劣るでしょうが…」
「きょ、恐縮です…」
 エレナはフルムの褒め言葉なのか嫌味なのか分からない言葉に、恥ずかしげに俯いた。フルムはそんなエレナの反応が面白いのか、再びクスクスと笑い、エレナの顔を見つめた。牝性な顔立ちと空色の瞳の顔を…
「綺麗…」
「…顔?」
 フルムが突然言った言葉に、エレナは何故かからかいたい気持ちになり、つい冗談を言った。
「フフ…瞳」
 フルムもそんなエレナの言葉が面白かったらしく、楽しそうに笑った。エレナは得意げな口調で言った。
「生まれつきなんです。僕がまだイーブイの頃から、今のエーフィになってからもずっと…」
「綺麗な瞳ですね…まるで空を瞳に宿しているみたい…」
 フルムはエレナの瞳をもっと近くで見たくて、エレナの顔に近付いてきた。
「お、王女様…」
 エレナは戸惑うが、フルムはエレナの顔に触れるか触れないかの距離で、エレナの瞳を覗き込んだ。
エレナは間近でフルムの顔を見た。漆黒のビロードで覆われ、美しい金色の月の輪の模様がある顔。エレナは今までの人生で幾人かの牝性の顔を見たことがあるが、此処まで間近で牝性の顔を見るのは初めてであった。
「お美しい…」
 無意識の内に出たエレナの言葉、フルムはキョトンとした顔でエレナを見つめた。エレナは慌てて言葉を探す。
「えっとあの…ぺ、ペンダントがお美しいです!」
 エレナはフルムの首に下がっている、月のペンダントと太陽のペンダントを称賛した事にした。フルムはペンダントを前肢で触りながら言う。
「此れは幼い頃、父と母から貰いましたの…私の御守りですね」
「アルム様とお妃様からですか」
「ええ…母は幼い頃亡くなりましたが、亡くなる前に此れを下さったのです」
 フルムは太陽のペンダントを前肢に乗せながら言った。エレナはその時ハッとした。
 エレナがまだ幼かった頃、今の王であるアルム=イリスの妃・リルム=イリスは、病で亡くなったというのを、成長した後に知ったのだ。
「あの王女様、すみません…」
 エレナは謝るが、フルムは明るい口調で言う。
「ご気になさらないで下さい。もう昔の事ですから…エレナさん」
「は、はい」
 突然フルムが真剣な口調になったので、エレナは気を張り詰める。
「昔…私と会った事…覚えてますか?」
「えっ?…」
と、一瞬エレナはフルムの言った言葉が分からなかった。
「『僕が王女様に会った…!? 覚えてない…何時会ったんだ…』すみません…僕は王女様にお会いしたのは、昨日が初めてかと…」
「…やはり覚えてませんか…」
と、フルムは落ち込んだ様に呟いた後、エレナの顔を見ながら言う。
「私がエレナさんとお会いしたのは、今から5年前…私が通っていた学校と貴方の学校との交流会の時です…」
「交流会…?」
 エレナはその時の事を思い出してみた。
「あっ…あの時…」
 何かを思い出し、エレナは声を上げた。
「確かあの交流会で、僕は友人二人と共に歌を歌いました…その後確か、交流先の学校の牝生徒3人が声を掛けてきました…シャワーズ…リーフィア…そしてブラッキー…まさか…」
「ええ、そのブラッキーは私ですよ」
 フルムは笑みを浮かべながらエレナに言った。

※            ※

 エレナとフルム。二人の会話を茂みから見ている者が居た。
「あのエーフィは…」
 そう呟いたのは、先程フルムを探してエレナに尋ねていたルカリオ・マサミであった。
「…そうだ確か…5年前にお嬢様の警護に付いた時、空色の瞳のエーフィと会った…あの仔はあの時のエーフィか…」
 実はマサミは先程エレナと会った時、エレナの事を何処かで見た気がしていたのだ。しかしフルムを探す事に集中していた為、その事について思い出せなかったのだ。
「あのエーフィに悪い波動は感じない…暫く様子を見よう…」
 マサミはそう呟いた。

※            ※

「申し訳ありません! 一国の王女である貴方様が僕の事を覚えて下さったのに、僕の方は全く覚えていませんで!」
 エレナは頭を下げながら必死に謝罪をした。
「別に気にしていませんよ。普通一日しか会っていない人の顔を覚えているなんて難しい話ですから…其れに貴方程の美貌の持ち主なら、声を掛けてくる牝性の人も多いでしょう? そうしたら私の事なんて忘れてしまうでしょう」
「……」
 フルムが言った言葉に、エレナは図星を感じてしまった。
「『確かに僕は色々な人から声を掛けられたけど…でもこんな綺麗な人を忘れるなんて…』」
 エレナは自分の不甲斐なさを恥じた。
「其れにあの時私は、本当に少しだけ声を掛けただけでしたから…そんなに気になさらないで下さい」
 フルムは優しい口調で言うが、エレナは何としても何か思い出そうとした。その時…
「…あの…あの時僕体育館で歌を歌っていましたが、フルム様其処にいらっしゃいまいしたか?」
「ええ、私が貴方を最初に見たのは、其処で歌っている時でしたから」
「では…あの時体育館の観客席は椅子でしたが、もしかして立って僕の事を見ていましたか?」
「そうですよ…覚えていて下さったのですね!」
 フルムは歓喜の声を上げる。
「確か立って僕の歌を聴いているブラッキーが居たので、もしかしたら王女様かと…」
「嬉しい! 覚えていてくれたなんて」
と、フルムは嬉しそうな笑顔をした。そんなフルムにエレナは驚いていた。
「『覚えていただけで、そんなに嬉しいのかな…?』」
 エレナは心の中で呟いた。ふとエレナは現在の時刻が気になり、首のスカーフから懐中時計を取り出し、蓋を開けて時刻を確認した。
「あの王女様…そろそろ屋敷にお戻りになった方が…」
 確認した時刻は十時過ぎであり、一国の王女がそんな時間に外に居るのは危険と判断し、エレナは帰宅を進めた。
「そうですね…少し長話をし過ぎました」
「屋敷まで僕がお送りましょうか…?」
「いえ其れは結構…ではエレナさん、お休みなさい…」
「お、お休みなさいませ!」
 エレナは頭を下げて、フルムの帰る姿を見送った。

※          ※

「お嬢様!」
 エレナと別れてから少しした後、繁みからマサミが現れて、フルムに声を掛けた。
「お話は済んだのでしょうか?」
「マサミ、貴方近くにいたのね?」
 フルムは不機嫌そうにマサミに尋ねた。
「はい…ですがお嬢様とあのエーフィが、あまりにも楽しそうに話しておらっしゃったので、声をお掛けするのは無粋と思い、気配を消して近くの茂みに隠れておりました」
「…まあ良いわ。けどそんなに心配しなくても、私は大丈夫よ」
「いえ、お嬢様をお守りするのが、アルム様より下された私の役目。たとえどう思われようと、私はお嬢様をお守りします」
と、マサミはフルムへの護衛の意思の強さを伝えた。
「…マサミ。貴方に頼みがあるの」
「何でしょうか?」
「あのエーフィ…エレナ=セトラの事を調べてほしいの」
「エレナ=セトラ…確か前日の武闘大会でガリオン中尉やレイラ中尉を破ったというエーフィ…彼女がそんなに強いとは…」
 マサミは驚いた声を漏らしたが、其れに対してフルムは、クスッと笑ってマサミにある事を告げた。
「マサミ。エレナは牡性だけど?」
「えっ!? そんな…あんなに美しい方が牡性?…」
信じられない様な顔をするマサミに、更にフルムは尋ねた。
「あら? では私とエレナ…どちらが綺麗かしら?」
「えっ!? それは勿論フルム様です!」
と、マサミは慌ててフルムに伝える。
「フフッ…まあ良いわ。兎に角調査を宜しくね」
「か、畏まりました…では何を調べますか?」
「彼の経歴と友人関係…そんな所で良いわ」
「畏まりました!」
 マサミはフルムの前に立ち、お腹に手を当てながら礼をした。

※          ※

 フルムと別れた後漸くエレナは、第4軍の兵舎へと辿り着くことが出来た。
「そういえば王女様は、何で脱走なんてしたんだろう…?」
 エレナはその事を考えながら、自室へと向かった。
 自室に入ると、既にライガとナギサが戻ってきていた。
「よぉ! 遅かったな」
と、ニヤニヤしながらライガが尋ねてきた。
「まあ色々あってね…」
 自分のベッドに腰を座りながら、エレナは言った。
「…レイカさんと話してたんじゃないか?」
「にゃ!」
 見透かした様に言ったライガの言葉に、エレナは驚いて声を上げた。
「な、何で知ってるんだ!」
「そりゃな…食い物買った帰りに、俺とナギサがお前がレイカさんと話してるの見たんだよ」
 ライガの言葉にエレナは、顔を赤くしながら俯いた。
「つーかさエレナ…あそこまでくっついたなら、キスの一つくらいしろよ!」
「な、何を言ってるんだ! レイカさんとはそんな仲じゃないよ!」
 呆れた様にライガが言うと、エレナは必死に反論した。
「おまけに遅くなったのは、レイカさんに会っただけじゃないよ!」
「? そういえば確かに。レイカさんに会っただけにしては、帰ってくるの遅かったですね。誰かと会ってたのですか?」
 ナギサが疑問を告げた。
「実は…」
 エレナはライガとナギサに、先程までフルムと会っていた事を話した。
「おいおい、普通一般兵が二日連続で王女様に会うか?」
「たまたまだよ! たまたま!」
と、エレナは平然と答えた。
「もしかして王女様、エレナに会うつもりだったのでは?」
 ナギサが言った。
「…そんな訳ないでしょう。相手は王女様で僕は只の兵士。一介の家臣に過ぎない僕に意図的に会う訳ないよ」
 エレナはそう言ったが、内心では自分も同じ様な事を考えて居た為、本心では否定出来なかった。
「ふぁ~…ねみぃ…そういえば俺ら、まだ風呂に入ってなかったな…」
ライガが欠伸をしながら呟いた。確かにエレナ達は夕食の後シンパチに会いに行っていたので、未だに入浴を済まして居なかった。
「そういえばそうだね」
「この兵舎の外れの方に共同浴場が在るから、今から行こうぜ!」
「でもこんな時間に大丈夫なの?」
 ライガの言葉にエレナは時計を見ながら呟いた。現在の時刻は一一時近くであり、ホテルだったら、とっくに入浴出来ない時間帯であった。
「何だよエレナ知らないのか? このファレム王国の首都・フルムーンには温泉が湧いてるんだぜ! だから二四時間入りたい時には、何時でも入れるんだ!」
と、ライガが言った。
「ああ、そういえば昔、社会の授業で聞いた事ある様な…」
 エレナが思い出した様に呟いた。
「でもそれなら大丈夫だね。早速其処に行こう!」
 エレナ達は入浴準備をすると、部屋を出て浴場へと向かった。

※            ※

 その頃第6軍の兵舎では、体を火照らせた紺とクリーム色の(丸まったら)毛玉の様なポケモン・マグマラシのカミュ―が歩いていた。カミュ―は風呂上りであり、就寝の為に自室へと向かっていた。
「ふ~…良いお湯だった」
 スカーフの代りにタオルを首に巻いて、カミュ―は上機嫌で歩いて行く。その時…
「あっ…」
 角を曲がった時、カミュ―はある人物と出会った。其れは赤い体に両手に鋏を備えたポケモン。第6軍軍団長のハッサムのレイラだった。
「マグマラシ兵長…何をやっている」
 レイラは冷たい目つきで、カミュ―を睨む様に見ながら尋ねた。
「あ、その…先程入浴を終えて、部屋に戻る処です…」
と、カミュ―は少し怯えた様な声で言った。
「…ならば早く寝ろ! 明日も訓練を行うからな…」
 それだけ言うと、レイラはカミュ―の脇を通っていった。そんなレイラを見送りながら、カミュ―はぽつりと呟く。
「レイラ中尉…何で僕だけ名前じゃないんだろう…」
 寂しそうに言うカミュ―。レイラは他の兵士の事は名前で呼んだりするが、何故かカミュ―だけは種族名で呼んでいるのだ。カミュ―は自分はレイラから嫌われてると思っているが、カミュ―はレイラの事は嫌いではなかった。
「レイラ中尉…僕は…レイラ中尉の事…」
 カミュ―は何かを言い掛けたが止めて、踵を返して自室へと向かった。

※          ※

「まだ少し居るな…」
 スカーフ等装飾品を外す脱衣所と、その奥にある浴場に居る兵士達を見ながらライガが呟いた。
「こんな時間になっても、お風呂入りに来る人は居るんだ」
「遅くまで仕事をしていたり、もう一回入りに来る人は居ますからね」
 エレナとナギサもライガと同じ様に見ながら呟いた。
 3人が人を気にしているのは、先程ライガがエレナの事を気にしたからである。
 一見牝性の様なエレナが牡性の浴場に来ると、其処に居る牡性の兵士達は驚いてしまう…3人は過去に同じ様な体験をしている為、その事が心配だったのである。今現在実際に脱衣所に居る兵士の殆どが、エレナの事を驚いた表情で見ていた。
「まあ仕方ないよ…其れより入ろう」
 そう言うとエレナは、壁際にある棚の脱衣籠に、スカーフと肢輪を外して入れた。ライガとナギサも同じ様にスカーフを外して、籠の中に放り込んだ。
「それじゃ入ろう」
 エレナは浴場の四肢歩行用の取っ手の付いた引き戸を引いて開けた。

 湯煙がたち込める浴場。正面右には縁を整えられた石囲まれた大きな風呂があり、正面左には体を洗う洗浄場があり、シャンプーやボディーソープが置かれていた。

 エレナ達は湯に入る前に、体を洗う為に洗浄場に向かった。
「おいおい、牝(おんな)が入って来たぞ!」
「あれどう見たって牝だよな!?」
 エレナの姿を見た外見年齢エレナ達と対して違わない兵士達が、口々に呟いてきた。しかしエレナはそんな事を気にせずに、洗浄場へと辿り着いた。
「さてと、先ずは体を水で濡らせないと」
 そう言うとエレナは、洗浄場に備えられているシャワーの四足歩行専用のカランを回し、ノズルから出てきたお湯を体に浴びた。
「う~ん…」
 気持ち良さそうにお湯を浴びるエレナ。エーフィ特有のエレナの薄紫の体毛はお湯により体に張り付き、エレナを見ていた兵士達は好奇と卑猥な目でエレナを見続けた。
「あ~あ…お前完璧、牝と間違われてるな…」
と、同じ様に湯を浴びて、サンダース特有の全身の針の様な毛が湯のより伏せてしまったライガが、呆れた様な顔と口調で兵士達を見ながら呟いた。
「仕方ないよ、エレナは見た目は牝の仔ですからね」
と、ナギサがお湯を浴びながら呟いた。しかしナギサはグレイシアの為、エーフィであるエレナ、サンダースであるライガと違って、体毛が体に付く事はなかった。
「そういえばナギサは、炎系の攻撃は苦手だけど、お風呂とかのお湯は大丈夫だったね」
と、余裕でお湯を浴び続けるナギサを見ながら、エレナは呟いた。
 エレナは首のタオルを外すと、傍にあるボディーソープをタオルに付けて、そのタオルで体を洗い始めた。
「……」
 ライガは体を洗っているエレナの下半部を見つめていた。
「何見てんの?」
 怪訝な目でライガを見つめながら、エレナは尋ねた。
「いやな…ソレが無かったたらお前…完璧な牝だよなって思って…」
「ソレ…って!?」
 其処まで聞いてエレナは理解した。ライガが言っている「ソレ」とは、エレナの一物だった。
「まあお前のは小さいから、殆ど分かんねーか」
「な、何言ってるんだライガ! 別に大きいだろうが小さいだろうが関係ないでしょ!」
と、エレナはムキになって反論する。
 やがて体を洗い終わりお湯で体の泡を流すと、水分を含んだ体毛を体に張り付かせて、3人は湯船に入った。
「!」
 その時エレナは、他の兵士達が未だに自分を好奇の目で見ているのに気付いた。
「『はぁ~…さっきの会話は、僕の胸だと思ってるな…世話が焼けるよ…』…ライガ!」
「あ?」
 横で気持ち良さそうに湯に浸かっていたライガを呼んだ。
 エレナは横目で他の兵士達を見て示した。エレナの視線の先の兵士達を見てライガは納得した。
「…それにしてもお前は凄いよな!」
と、突然ライガが大声で話し出した。
「何せ誰がどう見ても牝なのに牡なんだからな!」
 ライガは態々「牝と牡」の部分だけ拡張しながらエレナに言った。
「!?」
 ライガの大声を聞いた兵士達は、目を白黒させながらエレナを見つめた。
「そうなんだよね…僕が牝のイメージの強いエーフィだからかな?」
 エレナはライガにウィンクをしながら言った。
「だったら私も間違われますね。私も牝のイメージの強いグレイシアですし♪」
 ナギサも二人のやり取りの意味を理解したらしく、会話に参加をしてきた。
「けど普通は牝と牡を間違えないよな?」
 最後にライガは、兵士達の方を見ながら得意げに言った。

※        ※

 其れから少しして、3人は浴場を出て自室に向かっていた。
「見たかよあいつ等顔!? マジで面白かった!」
と、体から湯気を放ちながら、首にスカーフを巻き直した大笑いのライガがエレナ達に言った。
「けどちょっと言い過ぎじゃないか?」
 同じく湯気を放ちながら、首にスカーフを巻き、更に肢に肢輪を嵌め直した
エレナが言った。
「ライガは人をからかうのが好きですからね」
 同じく湯気を放ち、首にスカーフを巻いたナギサが言った。
 ちなみにライガとナギサの体毛は殆ど乾いているが、エレナの毛だけはまだ少し濡れていた。
「良いんだよ! 性別を間違えるバカには、あれ位の事言ったって構わねえよ!」
と、得意げに言うライガに、エレナとナギサは呆れる表情をした。
 やがて部屋の近くまで来た時、ライガが欠伸をしながら言った。
「ふぁ~…ねみぃ…部屋戻ったらもう少し話してけど、もう寝ようぜ」
「そうだね。明日からは僕も兵士として、頑張らないとイケないからね」
 エレナが言った。
「多分訓練かその他の簡単な用事だと思いますよ。最近は私達もそんなのばかりですから」
 ナギサがエレナを見て言った。
「じゃあ寝ようか! 明日頑張ろうね!」
「おう!」
「はい!」
 エレナが二人を見ながら言うと、ライガとナギサは力強く返事をした。そして3人は自室に入って行き、其々のベッドに入って毛布を被ると、グッスリと眠りについた。

※         ※

 その頃ファレム王国の城下の町にある、ある一軒の大勢の客で賑わう和風の居酒屋のカウンター席では、白い体に赤い模様のあるザングース・エイトが酒を飲んでいた。
「あいつ等遅ぇな…」
と、焼酎の入ったコップを机に置きながらエイトは呟いた。どうやら誰かを待っているらしく、エイトの隣四席は空席のままであった。すると…

 バサバサ…

「悪ぃ! 遅くなった!」
という牡口調だが高い声がエイトの頭上から聞こえ、エイトが上を向くと其処には、天井に空けられた穴から入って来た、灰色と主体とし胸からお腹に掛けて白く、灰色で先端が赤い鶏冠を持つムクホーク・ハヤトが居た。
 天井に穴が開いている理由は、彼女の様な空を飛ぶ様な物でも入ってこられる様に配慮しているからだ。
「何や? 鳥目で道にでも迷ったんか?」
「んな訳ねぇだろ!? 俺様もファレムの軍人だぜ? そのファレムの軍人が道に迷うかよ!」
と、エイトの隣に降りながら、ハヤトはエイトの皮肉に反論する。
「つーかオメェも良く階級が上の俺に、そういう話し方が出来るな? 普通なら敬語で話すぜ…親父、焼酎一杯!」
「へっ! 俺はダチには敬語は使わないんや!」
「ダチね…その割には自衛隊時代には、一度も会わなかったけどな?」
「当たりめ~やろ! 俺は中部方面隊の陸上自衛隊! オメェは東部方面隊の航空自衛隊! 演習は勿論の事、有事でもなんなきゃ会う事なんやで!」
「まあそうだよな…けどまさか、同じ日本人で自衛隊出身者に異国で会うなんてな…」
 其処まで会話をすると、ハヤトは先程頼んだ焼酎の入ったコップを、翼で器用に持ちながら飲んだ。
「そういえば、今日はお前の連れが居ねえな?」
 ハヤトはエイトと行動している、サンドパンのキョウとストライクのカズハの事を尋ねた。
「ああ、あいつ等は「明日も仕事だからパス」やって」
「オメェも仕事だろ? 俺は非番だけどよ」
「俺はガキの事から、親父の酒盗み飲みしてたからな、其処ら辺の野郎とはちゃうで!」
と、エイトは得意げな口調で言った。

 ガラガラ

「いらっしゃい!」
 すると新たに店内に誰かは入って来た。店に居た客の牡性の客は、今入って来た客に釘づけになった。何故なら…
「すまない、遅くなった」
と、冷静ながら妖艶な口調で喋るのは、金色の体毛に九本の長い尾のキュウコン・レイカであった。
「お前、色気撒き散らし過ぎだろ」
 焼酎を片翼で持ちながら、ハヤトは言った。
「お前だって、上の階級の奴にタメ口やん!」
 呆れた表情でエイトがハヤトに言った。
 此処で三人の階級を纏めると、エイトが中尉であり、ハヤトが少佐であり、レイカが中佐である。
 レイカはハヤトの隣の椅子に座り、日本酒を注文した。
「しかし珍しいな? 親しい仲の者が居るお前達が、私を飲みに誘うなんて」
「偶には牝の日本人同士で飲もうと思ってな…確かアンタの親父は日本人やろ?」
 エイトが酒のつまみを食べながらレイカに言った。
「ああ…だが母は北国の者…だから私はハーフだが?」
「固い事言うなよ♪ 日本人の血が流れていれば、ソイツも日本人だろ?」
と、もう既に酒が回っているのか、顔を赤く染めたハヤトが言った。
「ヒック…あとレイだけだな? 何やってるんだよアイツは…ヒック…」
 コップに入っていた酒を飲み干しながらハヤトは言う。どうやらまだ誰か、この集まりに来る様だ。

 ガラガラ

 するとまた誰か入って来た。
「おっ? おせぇぞレイ!」
 ハヤトが入って来た客を見て言い放った。その客は赤い鎧の様な体に、両手に目の様な模様のある赤い鋏を持ったハッサム・レイラだった。
「遅くなっちゃって、ごめんね!」
と、明るい口調でレイラはエイト達に言った。
「レイおせぇぞ~…な~にやってたんだよ~」
 ハヤトが酔った口調でレイラに尋ねる。
「オオニシ小佐、もう酔ってるんですか?」
「ああ~? 酔ってね~よ…ていうか、俺の事は名前で呼べよ~俺は構わねぇよ」
「……」
 明らかに酔っている口調でハヤトは言った。レイラはハヤトに聞こえない程度の溜息を吐いて、空いていた最後の椅子に座った。
「なあレイ、一つ聞いてもええか?」
「ん? 何?」
 椅子に座った途端、エイトがレイラに話しかけてきた。
「何でお前、仕事の時はあんな無口なん? しかも何か冷たいし…キョウやカズハは二重人格やないかと思っとるで!」
「…それはさ…私が軍団長をしている第6軍は、別名・暗殺部隊と呼ばれている部隊でしょ? 暗殺や奇襲をというのを得意とした軍の団長が、明るい性格なんて変でしょ? だから私は、仕事ではああいう風に振舞ってるんだ…」
 レイラの説明を、酒を飲みながら聞いているエイトだが、更に質問をぶつけた。
「じゃあアレは? 部下のマグマラシのガキ、苛めてんのは?」
「!!!…」
 レイラは顔を強張らせた。そして顔を俯かせると呟き始めた。
「…苛めたい訳じゃないんだ! あの子の事嫌いじゃないんだけど、何故か私は彼に冷たくしちゃうんだ…」
「…其れは…お前はそのマグマラシが好きなのではないか?」
 話を黙って聞いていたレイカが、レイラに対して言った。レイカの言葉を聞いたレイラは、赤い顔を更に赤くしながら言い放った。
「な、何言ってるの!? 相手は子供なんだよ? その子を好きになるなんて…」
「好きな奴に意地悪したくなんのは、一種の照れ隠しやで~♪」
と、エイトが茶々を入れる様に言った。
「…第一私は、日本の京都の舞妓の家元の娘…そう簡単に誰かを好きに許されないの…」
「ああそっか…確かお前の家そうやったな…確か家出して西国に来てファレム軍に入ったんやったな」
 エイトは何かを思い出した様に呟いた。
「だから家にバレんように、『レイラ』なんて偽名使ってるんやったな…本名は確か…キサラギ レイやったな…単に『レイ』の後に『ラ』を付けただけやないか」
 呆れ口調で言うエイトに、レイラ…もといレイはムッとした顔を言い返す。
「何よ!? エイトだって本名は…」
「言うなや!!!」
と、急にエイトは取り乱した様に、レイの言葉を遮った。
「何だよ~…レイの本名をバラしたのによ~…おめぇだけバラさねぇのはよ~…アンフェアだろ~ヒック…」
「お前は黙っとれや! アル中雌鶏!」
 呂律の回らないハヤトにエイトが怒鳴る。
「エイトの本名は、オカ ハチロだったわね?」
 レイはどさくさに紛れて、エイトの本名を暴露した。するとエイトはレイの頭を叩いて叫んだ。
「おまっ! 何でバラすんや! 何の為に俺が今まで、偽名使ってたんやと思っとるんや!」
「え、いやあの…牡っぽいから?」
 レイはしどろもどろしながら答えた。
「そうや! 俺のアホ親父が牝の俺に、こんな名前付けたから隠しといたんや! ってか誰から聞いたんや!」
「え~と…キョウとカズハ」
 レイはエイトの友人、2名を名前を上げた。
「あんのぉ、砂鼠と羽虫ぃぃぃ!!! ゼッテェ後でボコッてやる!」
と、エイトは憤慨の言葉を発した。
「何故隠すのだ? 名前は親から持った大切な物、其れを隠す理由があるのか?」
 レイカが冷静な口調で言う。
「牡みたいだから嫌なんや! 俺は此れからもエイトで良いからな、桜花!!!」
「誰に言ってるんだ…」
 エイトの言葉に、レイカは呆れた様な言葉を漏らす。
するとエイトがレイカを見て言った。
「そういやレイカ、お前が持っていた写真に『空色の瞳のエーフィ』が写っていたよな? アレって今日入って来たエレナ=セトラっていうエーフィだよな?」
「……」
 レイカは無言で首のスカーフから、一冊の手帳を開きながら取り出した。其処には一枚の写真が在り、其れにはエレナが写っていた。
「んぅ~? 此れさっきシンパチと話してたエーフィじゃ~ん…何だレイカ? お前知り合いだったのかよ~?」
 酔った口調でハヤトが尋ねた。
「五年程前にパーピュアローズという町で知り合ったんだ。エレナの故郷だ」
「レイカ中佐詳しいですね…そんなに仲が良かったのですか?」
 レイが尋ねた。
「ああ…優しくて頭の良いエーフィだ…出来れば私の手元に置きたい…」
とレイカが言った。その表情は何処か嬉しそうだ。すると…
「エロ狐め~口では綺麗言言ってるけど…要するにあのエーフィが好きだから欲しいんだな~?」
 ハヤトが厭らしそうな目で、レイカを見ながら言った。レイカは顔を赤くしながら反論する。
「ッッ!!! べ、別にそういう訳では無い! エレナは優秀だから、今後兵士としての活躍を期待出来そうだから、私が軍団長を務める第2軍に欲しいという意味だ!」
「まあ戦闘の実力は、かなりあるわね」
 先日の武道会で戦ったレイが言った。しかし…
「でもレイカ中佐は…やっぱり部下というより、異性として見てるんじゃ…?」
と、付け足しを言った。
「くっ…私は先に帰るぞ! 明日も忙しいからな!」
 レイカは顔を赤くしたまま席を立ち、金色の九尾を振りながら店を出て行った。
「あ~あ…ありゃ図星やな…俺もそろそろ帰るかな…」
 エイトが席を立ち上がる。
「私も帰ろう」
 レイも立ち上がる。
「おいハヤト! お前はどうするんや?」
 エイトがハヤトに話しかける。
「グ~…グ~…」
 ハヤトは酔って寝ていた。
「親父、勘定はコイツが払うわ!」
 エイトはそう吐き捨てると、レイと共に店を出て行った。
 一方先に帰ったレイカは自宅への帰り道の途中、満月のある夜空を見上げながら呟いた。
「エレナ…私はお前が好きだ…私はお前が欲しい…フフッ…此れではハヤトの言うとおりではないか…」
 エレナへの思いを呟き、自虐気味に笑ったレイカは、金色の尾を揺らしながら夜のファレムの街へと消えて行った。

※            ※

「すー…すー…」
 月の光が差し込むエレナ達の部屋では、レイカが想いを寄せているエレナが、布団に包まりながら、静かに寝息をたてて眠りに就いていた。

              SKY LOVE 2 陽 雷 氷のソルジャー 完


 あとがき
 「漸くSKYの2話目を終了しました。最後まで見て下さった皆様、本当にありがとうございます。それでは♪」





 何かコメントが有ればどうぞ。それでは♪








 


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Last-modified: 2013-02-08 (金) 00:00:00
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